脈管の疾患を処置するための方法
本明細書において含まれる組成物および方法は、アテローム性動脈硬化症ならびに他の脈管疾患(例えば、血栓症、血管形成術および/またはステントの後の再狭窄、ならびにバイパス手術後の静脈移植片疾患)の、toll様レセプター4(TLR4)および/または骨髄性分化因子88(MyD88)の発現または生物学的活性の阻害による処置を記載する。TLR4細胞シグナル伝達は、少なくとも部分的に、アテローム性動脈硬化症および他の形態の脈管疾患の発現、継続、および/または悪化の原因である。本発明は、TLR4レセプターおよび/またはMyD88の生物学的活性に影響を及ぼすことによってこのシグナル伝達経路を阻害するために用いる、いくつかの手段を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の権利)
本明細書において記載される発明は、国立保健研究所とDr.Moshe Arditi(Devision of Pediatric Infectious Diseases、Cedars−Sinai Medical Center)との間の助成金第HL−51087号および同第AI−50699号の経過において生じたか、またはそれらの下で生じた。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、シグナル伝達経路に関する。より詳細には、本発明は、toll様レセプター(toll−like receptor)4(TLR4)のアンタゴニストおよび骨髄性分化因子(myeliod differentiation factor)88(MyD88)の機能のアンタゴニストに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
心臓疾患は、依然として世界的に主要な死亡の原因であり、年間総死亡数の30%近く(すなわち、およそ1,500万人)の原因である。心臓および脈管の疾患は、毎年さらに多くの個体を衰弱させる。多数にとって、アテローム性動脈硬化症は、終生続く過程である;アテローム性動脈硬化症は、幼年期に初期段階を有し得、中年または中年以降まで臨床的な発現がないことがあり得る。アテローム性動脈硬化症の発症は、不健康な生活習慣(例えば、タバコの使用、バランスの悪い食事、および身体的不活動)に繰り返し関連付けられてきた。心臓および脈管の疾患の種々の形態の検出および処置には、大きな進歩がもたらされてきたが、予防的手段および組み合わされた処置レジメンは、通常、内在する疾患状態を休止させることもまたは治癒させることも出来ない。
【0004】
アテローム性動脈硬化症は、現在、アテローム発生性リポタンパク質(atherogenic lipoprotein)、細胞外マトリックス、新脈管(neovessel)、カルシウム、および炎症細胞の内皮下での蓄積によって特徴付けられる慢性炎症性疾患であると見なされる。脈管壁における炎症遺伝子の活性化、ならびにその後の炎症細胞および免疫細胞(例えば、単球およびT細胞)の接着、化学誘引、内皮下遊走、残留、および活性化は、アテローム性動脈硬化症の開始、進行、および不安定化において重要な役割を果たすと考えられる(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。先天免疫系の感染性因子および感染性成分がアテローム性動脈硬化症の原因としての潜在的な役割に焦点を当てた関心が高まっている(非特許文献7)。しかし、抗生物質による心臓血管疾患の処置を調査する臨床試験は、矛盾する結果をもたらしている(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10)。これは、おそらくは、差異を検出する能力が不十分であることに起因するか、または他の短所に起因する(非特許文献11)。
【0005】
臨床学的な失望にも関わらず、理解が深まると共に、抗生物質および/または免疫による心臓血管疾患の処置が将来的に実現することを示唆する、実験的な証拠が蓄積している(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)。特に、動物研究からの興味深いデータは、アテローム性動脈硬化症に基づく病理学における、toll様レセプター(TLR)および先天性免疫系の他の重要な成分の潜在的な重要性を示唆する(非特許文献15;非特許文献16)。TLRは、細菌性病原体または病原体関連分子パターンに応答して炎症促進性(proinflammatory)シグナル伝達経路を活性化するレセプターのファミリーである。TLRへのリガンド結合は、このレセプターのtoll/IL−1レセプタードメインへの、アダプター分子である骨髄性分化因子88(MyD88)の漸増をもたらす。シグナルの細胞内伝播は、転写因子であるNF−κBの活性化をもたらし、それによって、炎症応答に影響を及ぼす(非特許文献17)。さらに、研究は、MyD88を介してシグナル伝達するTLRが、多くの細菌性病原体に対する炎症促進性サイトカイン応答において必須であることを示した(非特許文献18)。MyD88は、種々の細胞レセプターによる生化学的シグナル伝達のために必要なアダプタータンパク質であり、そのような細胞レセプターとして、例えば、TLR4のようなTLR、ならびにインターロイキン−1(IL−1)およびインターロイキン−18(IL−18)が挙げられる。
【0006】
研究は、ヒトおよびマウスの脂質が豊富なアテローム性動脈硬化症のプラークがTLR4を発現すること、ならびに、マクロファージにおけるTLR4の発現が、酸化された低比重リポタンパク質(LDL)によってアップレギュレートされるが、ネイティブのLDLによってはアップレギュレートされないことを示した(非特許文献19;非特許文献20)。インビトロの研究は、炎症促進性かつアテローム発生促進性(proatherogenic)のリポタンパク質である最小限に改変されたLDL(minimally modified LDL:MM−LDL)が、マクロファージ上のTLR4およびそのコレセプター(coreceptor)であるCD14によって認識されること、ならびに、このリポタンパク質の結合がアクチン重合およびマクロファージの拡散をもたらすことを実証した(非特許文献21)。ヒトの内皮細胞(EC)において、TLR4によるMM−LDLの認識は、単球の遊出および脈管壁での残留において重要なケモカインであるIL−8の分泌をもたらす(非特許文献22)。しかし、MM−LDLのこの作用は、CD14非依存的である。TLR4遺伝子の多型を発現する患者は、リポポリサッカリド(LPS)低応答性を発現し、頚動脈のアテローム性動脈硬化症および急性の冠状動脈のイベントから保護され(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26)、そしてスタチンを用いての危険性低減からより高い利益を引き出す(非特許文献27)。まとめると、これらの知見は、TLRシグナル伝達が、アテローム性動脈硬化症のプラークの発達において役割を果たし得ることを示唆する。
【非特許文献1】Ross,R.「N.Engl.J.Med.」、1999年、第340巻、p.115−126
【非特許文献2】Glass,C.K.およびWitztum,J.L.「Cell」、2001年、第104巻、p.503−516
【非特許文献3】Shah,P.K.「J.Am.Coll.Cardiol.」、2003年、第41巻、p.15S−22S
【非特許文献4】Libby,P.「Nature」、2002年、第420巻、p.868−874
【非特許文献5】Hansson,G.K.ら、「Circ.Res.」、2002年、第91巻、p.281−291
【非特許文献6】Binder,C.J.ら、「Nat.Med.」、2002年、第8巻、p.1218−1226
【非特許文献7】Kol,A.およびLibby,P.「Trends Cardiovasc.Med.」、1998年、第8巻、p.191−199
【非特許文献8】Sander,D.ら、「Circulation」、2004年、第109巻、p.1010−1015
【非特許文献9】Zahn,R.ら、「Circulation」、2003年、第107巻、p.1253−1259
【非特許文献10】Sander,D.ら、「Circulation」、2002年、第106巻、p.2428−2433
【非特許文献11】Grayston,J.T.「Circulation」、2003年、第107巻、p.1228−1230
【非特許文献12】Fredrikson,G.N.ら、「Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.」、2003年、第23巻、p.879−884
【非特許文献13】Binder,C.J.ら、「Nat.Med.」、2003年、第9巻、p.736−743
【非特許文献14】Hansson,G.K.「Circulation」、2002年、第106巻、p.1599−1601
【非特許文献15】Michelsen,K.S.ら「J.Immunol.」、2004年、第173巻、p.5901−5907
【非特許文献16】de Kleijn,D.およびPasterkamp,G.「Cardiovasc.Res.」、2003年、第60巻、p.58−67
【非特許文献17】Zhang,G.およびGhosh,S.「J.Clin.Invest.」、2001年、第107巻、p.13−19
【非特許文献18】Del Rio,L.ら「J Immunol.」、2004年、第172巻、p.6954−60
【非特許文献19】Xu,X.H.ら「Circulation」、2001年、第104巻、p.3103−3108
【非特許文献20】Edfeldt,K.ら「Circulation」、2002年、第105巻、p.1158−1161
【非特許文献21】Miller,Y.I.ら「J.Biol.Chem.」、2003年、第278巻、p.1561−1568
【非特許文献22】Walton,K.A.ら「J.Biol.Chem.」、2003年、第278巻、p.29661−29666
【非特許文献23】Arbour,N.C.ら「Nat.Genet.」、2000年、第25巻、p.187−191
【非特許文献24】Kiechl,S.ら「N.Engl.J.Med.」、2002年、第347巻、p.185−192
【非特許文献25】Kiechl,S.ら「Ann.Med.」、2003年、第35巻、p.164−171
【非特許文献26】Ameziane,N.ら「Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.」、2003年、第23巻、p.61−64
【非特許文献27】Boekholdt,S.M.ら「Circulation」、2003年、第107巻、p.2416−2421
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脈管の疾患のための従来の処置は、実質的な欠点を有する:多くは部分的にしか有効でなく、関連する状態の本当の治癒を提供するものはほとんどない。この分野において、アテローム性動脈硬化症を含む脈管の疾患を、予防、処置、および治癒するための方法の明確な必要性が存在したままである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願を通して参照される全ての文献の開示は、本明細書において参考として援用される。
【0009】
上記の関連技術の例、およびそれらの例に関連する限定は、例示的であることを意図されており、排他的であることを意図されない。関連技術の他の限定は、本明細書を読み図面をよく見れば当業者に明らかとなる。
【0010】
(発明の要旨)
以下の実施形態およびそれらの局面は、組成物および方法と組み合わせて記載され例証される。それらの組成物および方法は、例示的かつ例証的であることを意味され、範囲の限定となることを意味されない。種々の実施形態において、一つ以上の上記の問題が、低減されるかまたは取り除かれており、一方、他の実施形態は、他の改善を目的とする。
【0011】
toll様レセプター4(TLR4)および骨髄性分化因子88(MyD88)は、種々の疾患状態に関するシグナル伝達経路に関与することが公知である。そのような疾患状態としては、例えば、アテローム性動脈硬化症が挙げられる。種々の実施形態において、TLR4の機能およびMyD88シグナル伝達経路をTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターを投与することによって阻害するための組成物および方法が、開示される。
【0012】
非限定的な例による実施形態として、toll様レセプター4(「TLR4」)および/または骨髄性分化因子88(MyD88)の生物学的活性を阻害するための方法(例えば、それらの発現またはシグナル伝達を阻害することによる方法)が挙げられる。さらに、非限定的な例による実施形態は、疾患を処置する方法を提供し、その方法において、TLR4および/またはMyD88の阻害が有益な効果を有する。そのような疾患としては、例えば、アテローム性動脈硬化症および血栓症のような脈管疾患、血管形成および/またはステント(stenting)後の再狭窄、および、バイパス手術後の静脈−移植片疾患(vein−graft disease)が挙げられる。
【0013】
非限定的な例による別の実施形態としては、種々のペプチド模倣物(mimetics)を使用してMyD88細胞シグナル伝達経路を阻害する方法が挙げられる。この方法は、TLR4レセプターに結合する低分子のペプチド(すなわち、およそ10〜20アミノ酸のペプチド)の導入を伴い、それによってTLR4レセプターがMyD88に結合することもMyD88シグナルカスケードを誘発することも妨げる。この様式において、TLR4レセプターがMyD88に正しく結合し得ないので、MyD88シグナル伝達が遮断される。
【0014】
同様に、非限定的な例による別の実施形態としては、種々のペプチド模倣物(mimetics)を使用してTLR4細胞シグナル伝達経路を阻害する方法が挙げられる。この方法は、内因性MyD88に結合する低分子のペプチド(すなわち、およそ10〜20アミノ酸のペプチド)の導入を伴い、それによって内因性MyD88がTLR4に結合することもTLR4シグナルカスケードを誘発することも妨げる。この様式において、利用可能なTLR4模倣物が利用可能な内因性MyD88について競合するので、TLR4シグナル伝達が遮断される。
【0015】
非限定的な例による別の実施形態としては、抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体の導入を介してTLR4および/またはMyD88の発現を阻害する方法が挙げられる。そのような抗体は、任意の従来の機構を介して、哺乳動物においてTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための有効量で、哺乳動物に送達され得る。
【0016】
上記の例示的な局面および実施形態に加えて、図面の参照および以下の詳細な説明をよく読むことによって、さらなる局面および実施形態が明らかになる。
【0017】
例示的実施形態は、参照される図面において示される。本明細書において開示されるこれらの実施形態および図は、制限的であるよりむしろ例証的であるとみなされることが意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(詳細な説明)
本明細書において考察される実施形態は、toll様レセプター4(TLR4)および骨髄性分化因子88(MyD88)の活性および発現を阻害するための組成物および方法に基づく。種々の実施形態において、これらの方法は、TLR4および/またはMyD88の活性の阻害が患者に対して有益な効果(例えば、疾患の改善、その疾患の合併症の重篤度の緩和、その疾患の顕在化の予防、その疾患の再発の予防、単にその疾患の悪化の予防、または上述のいずれかに影響するための治療努力(たとえそのような治療努力が最終的に不首尾であるとしても))を有する任意の疾患を処置するために、使用され得る。TLR4および/またはMyD88の活性が、その疾患を含む病理学的状態の開始、悪化、または維持において役割を果たすことが公知であるかまたは推測されている疾患が、当該分野において公知である。アテローム性動脈硬化症、再狭窄、炎症、および他の脈管疾患が、例である。本発明の方法は、これらの疾患のいずれかを処置するために使用され得る。
【0019】
蓄積している証拠が、免疫系とアテローム性動脈硬化症との間の根本的な関連を示すが、これまでのところ、この証拠は主として間接的であった。本明細書において実証されるように、MyD88またはTLR4のいずれかの遺伝子欠損は、ApoE欠損マウスにおいて、大動脈アテローム性動脈硬化症を軽減した。さらに、MyD88またはTLR4の欠損は、より強い構造的安定性を示唆するプラーク組成の変化と関連していた。このことは、脂質およびマクロファージ内容物の減少、および炎症促進性酵素であるCOX−2の発現の著しい減少によって証拠付けられる。遺伝的MyD88欠損を有するマウスまたはこの欠損を有さないマウスに由来する内皮細胞(EC)を用いた細胞培養研究は、遺伝的なMyD88の欠損によって、白血球−EC接着が著しく妨げられることを示した。最後に、MyD88欠損またはTLR4欠損のアテローム保護的(atheroprotective)効果は、血清のコレステロールまたはリポタンパク質の変化に起因する二次的なものではないことが示された。なおさらに、循環する炎症促進性サイトカインIL−12および単球化学誘導タンパク質1(MCP−1)の減少の知見は、MyD88欠損およびTLR4欠損のアテローム保護的効果が、部分的には、全身性炎症の低減からもたらされ得ることを示唆する。集合的に、これらの結果は、直接的に、先天免疫シグナル伝達が、全身性効果および局所性効果の両方を有することを示す。これらの効果は、共に、アテローム性動脈硬化症の発症を著しく阻害し、より安定なプラーク表現型を促進する。
【0020】
MyD88は、全てのTLR(TLR3を除く)、ならびにIL−1レセプターおよびIL−18レセプターのシグナルを伝達すると考えられている。ApoE−/−の背景のIL−1β欠損マウスを使用した先行の研究(Kirii,H.ら(2003)Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.23,656−660)は、アテローム性動脈硬化症の程度の、穏かな30%の軽減を見出した。これは、MyD88およびApoEの両方を欠損したマウスに関して本明細書において考察される結果(図1)において観察された60%近くの軽減より、かなり小さい。この知見は、MyD88シグナルが、インタクトなIL−1βシグナル伝達に依存する効果に加えて、下流のアテローム発生促進性効果を媒介することを示唆する。インタクトなIL−1βシグナル伝達を備えるApoE−/−/TLR4−/−マウスを用いた結果は、この解釈と一致した。ApoE−/−/MyD88−/−マウスと比較して、ApoE−/−/TLR4−/−マウスは、より穏かだが有意なアテローム性動脈硬化症の病変の縮小(それぞれ、57%対24%)を示し、そして、マクロファージ浸潤およびMCP−1血清濃度の持続性の減少を示した。しかし、この穏かな縮小は、予測されていなかったわけではない。アテローム性動脈硬化症は、多要因性(multifactorial)であり、動的であり、脈管構造内において時間的および位置的に可変性が高い。多くの重要な寄与物が存在するので、この疾患の罹患率または範囲のいずれかにおける絶大な可変性の原因である、単独の原因は存在しない。本明細書において考察されるこれらの結果は、これらの見解と一致し、TLR4シグナル伝達およびMyd88シグナル伝達は、一つの原因であることを示すが、また、インタクトな免疫機構が、この疾患に二次的に関連しているというよりもむしろ、この疾患の病因の重要な寄与物であることを、直接的に示す。加えて、MyD88を使用する他のTLRもまた、アテローム発生に関与し得る。近年、数種の細菌性またはウイルス性の微生物が、アテローム発生に関与しているとみなされており、これらの微生物は、例えば、TLR2に対するリガンドを含有する(Binder,C.J.ら(2002)Nat.Med.8,1218−1226;Libby,P.,Ridker,P.M.およびMaseri,A.(2002)Circulation 105,1135−1143;Muhlestein,J.B.およびAnderson,J.L.(2003)Cardiol.Clin.21,333−362)。
【0021】
MyD88欠損は、2型Tヘルパー応答への転換と関連している(Schnare,M.ら(2001)Nat.Immunol.2,947−950;Muraille,E.ら(2003)J.Immunol.170,4237−4241;Kaisho,T.ら(2002)Int.Immunol.14,695−700)。この概念に従って、MyD88欠損が、IL−12p40の血清濃度の低下に関連するという観察がなされた。COX−2、IL−12、およびMCP−1もまた、試験された。なぜならば、これらの全てがアテローム発生に関与しており、TLR4シグナル伝達およびMyD88シグナル伝達の下流の標的であるからである(Alexopoulou,L.ら(2001)Nature 413,732−738;Rhee,S.H.およびHwang,D.(2000)J.Biol.Chem.275,34035−34040;Kawai、T.ら(2001)J.Immunol.167,5887−5894)。IL−12は、マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の進行に直接的に関連するので、MyD88欠損マウスにおいて観察されるがTLR4欠損マウスにおいては観察されないIL−12p40のレベルの低下は、部分的に、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて観察されるアテローム性動脈硬化症のさらなる減少の原因であり得る(Lee,T.S.ら(1999)Arterioscler.Thomb.Vasc.Biol.19,734−742;Davenport,P.およびTipping,P.G.(2003)Am.J.Pathol.163,1117−1125)。TLR4欠損もしくはMyD88欠損はまた、重要なアテローム発生促進性ケモカインであるMCP−1の循環するレベルの著しい低下と関連していた(Boring,L.ら(1998)Nature 394,894−897;Gu,L.ら(1998)Mol.Cell 2,275−281)。MCP−1欠損はまた、ApoE−/−/MyD88−/−マウスおよびApoE−/−/TLR4−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の軽減に寄与した可能性がある。なぜならば、近年の研究によって、MCP−1(またはそのレセプターCCR2)の遺伝子欠損が、ApoEレセプター欠損マウスまたはLDLレセプター欠損マウスにおける、マクロファージの浸潤の減少、およびアテローム性動脈硬化症の軽減に関連していることが示されたからである(Boring,L.ら(1998)Nature 394,894−897;Gu,L.ら(1998)Mol.Cell 2,275−281)。さらに、近年の研究によって、不安定狭心症および急性心筋梗塞が、循環する単球におけるhTLR4の下流での発現の増強とシグナル伝達事象の増強に関連していることが示され、このことは、hTLR4の活性化が、免疫によって媒介されるアテローム性動脈硬化症の進行における、シグナル伝達機構であることを示唆する(Methe,H.ら(2005)Circulation)。
【0022】
アテローム性動脈硬化症病変におけるCOX−2の発現の増加は、薬理学的および直接的な遺伝子的証拠と合わせて、COX−2がアテローム性動脈硬化症病変形性を促進することを示唆する(Schonbeck,U.ら(1999)Am.J.Pathol.155,1281−1291;Burleigh,M.E.ら(2002)Circulation 105,1816−1823;Rott,D.ら(2003)J.Am.Coll.Cardiol.41,1812−1819;Belton,O.A.ら(2003)Circulation 108,3017−3023;Olesen,M.ら(2002)Scand.Cardiovasc.J.36,362−367;Verma,S.ら(2001)Circulation 104,2879−2882)。これらのデータと一致して、MyD88欠損が、アテローム性動脈硬化症のプラークにおけるCOX−2免疫反応性の著しい減少をもたらすことが見出された。この結果は、少なくとも部分的に、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて観察されるアテローム性動脈硬化症の阻害の原因であり得る。
【0023】
アテローム発生の経過の重要な初期事象の一つは、白血球−EC接着の増強である。MyD88欠損ECは、MM−LDL刺激に応答して白血球接着を支持する能力の損傷を示すが、TNF−α刺激に応答して白血球接着を支持する能力には損傷を示さないことが見出された。先行のデータ(Shi,W.ら(2000)Circ.Res.86,1078−1084)は、C57BL/6Jマウス由来のECが、MM−LDLに応答して炎症促進性分子の実質的な誘導を示し、一方、C3H/HeJマウス由来のECは、このような誘導を示さないことを示唆した。共に、これらのデータは、MyD88が、EC上、単核性の食細胞上、またはこれらの両方の、細胞接着分子の発現および/または機能を調節し得ることを示唆する。しかし、MyD88および/またはTLR4が、単球からマクロファージへの転換、または動脈壁内での単球性食細胞の生存もしくは残留のような過程にも影響を及ぼし得る可能性は、除外することが出来ない。
【0024】
アテローム性動脈硬化症の発症におけるNF−κBの関与についての証拠は、実質的である(Collins,T.およびCybulsky,M.I.(2001)J.Clin.Invest.107,255−264)。近年の研究は、NF−κB経路のマクロファージ特異的な阻害が、おそらくはマクロファージによるIL−10の産生の減少に起因して、マウスにおいてより重篤なアテローム性動脈硬化症をもたらすことを報告した(Kanters,E.ら(2003)J.Clin.Invest.112,1176−1185)。しかし、本明細書において考察されるように、同腹子コントロールと比較して、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいてIL−10の発現に差異は存在しなかった。より近年に、アテローム発生促進性LDLレセプターがヌルであるレシピエントマウスへのp50欠損ドナーマウスの骨髄移植は、アテローム性動脈硬化症の軽減をもたらすことが、報告された(Kanters,E.ら(2004)Blood 103,934−940)。立証されるように、アテローム性動脈硬化症におけるNF−κBの関与は、完全には明らかにされていない。
【0025】
本明細書において考察される結果は、ApoE−/−マウスおよびApoE−/−/lpsdマウスの間で、アテローム性動脈硬化症の程度に差異が存在しないことを示唆した先の報告(Wright,S.D.ら(2000)J.Exp.Med.191,1437−1442)と対照的である(ApoE−/−/lpsdマウスは、ApoE−/−とLPS低応答性株であるC57BL/10ScNとの戻し交配によってもたらされた株である)。しかし、本明細書において考察される結果は、アテローム性動脈硬化症を直接的に測定しているが、一方、記述される研究(Wright,S.D.ら(2000)J.Exp.Med.191,1437−1442)は、全大動脈中のコレステリルエステル含有量から、アテローム性動脈硬化症の負荷を概算した。加えて、ApoE−/−/lpsdマウスは、部分的にのみ、TLR4−/−遺伝子型を反映する。なぜならば、ApoE−/−/lpsdマウスはまた、機能が未知である2個のさらなる遺伝子も欠失しているからである(Qureshi,S.T.ら(1999)J.Exp.Med.189,615−625)。さらに、偶発突然変異に起因する非機能的TLR4を有する異なるLPS低応答性株であるC3H/HeJ(Poltorak,A.ら(1998)Science 282,2085−2088)は、アテローム性動脈硬化症の発症に対して耐性である(Shi,W.ら(2000)Circ.Res.86,1078−1084)。この知見は、本明細書において考察される結果と一致している。
【0026】
要約すると、本明細書において考察されるこれらの種々の実施形態は、アテローム性動脈硬化症易発性の高コレステロール血症(hypercholesterolemic)マウスであるApoE−/−(このマウスはまた、アダプター分子であるMyD88またはその上流のレセプターであるTLR4のいずれかにヌル変異を保有する)が、循環コレステロールレベルまたはリポタンパク質プロフィールを有意に変化させることなく、大動脈アテローム性動脈硬化症の軽減、プラークの脂質内容物の減少、プラークのマクロファージファージ浸潤の減少、およびシクロオキシゲナーゼ(COX)−2免疫応答性の低下を示すことを実証することによって、先行技術の所見を発展させる。証拠は、MyD88欠損が、循環する炎症促進性分子であるIL−12p40および/またはMCP−1のレベルの低下、ならびにMM−LDLに応答しての白血球−EC接着(これは、MyD88欠損のアテローム保護的効果に寄与し得る)の低下をもたらすことを示唆する。これらの結果は、TLR4およびMyD88によって媒介されるシグナル伝達を、高コレステロール血症と、炎症と、アテローム性動脈硬化症との間の中心的繋がりとして関連付け、そして、アテローム性動脈硬化症の予防及び治療のための革新的な治療標的の開発のための基礎を提供する(Michelsen,K.S.ら(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101,10679−10684)。そのようなものとして、TLR4および/またはMyD88を阻害することが公知である利用可能な化合物は、ヒトの疾患および傷害の処置において使用され得る。
【0027】
従って、本明細書において考察される実施形態は、TLR4−/−の動物およびMyD88−/−の動物が、それらの冠循環において、野性型TLR4の動物および野性型MyD88の動物より、実質的により少ないアテローム性動脈硬化症のプラークを生じるという、驚くべき知見に基づく。本明細書において考察される例示的局面は、種々の疾患状態の処置のためにTLR4およびMyD88の機能を阻害する治療的組成物および治療方法に関する。種々の実施形態はまた、ヒトまたは動物の医薬における使用のために意図される薬学的組成物中でのこれらの使用に関する。
【0028】
種々の実施形態において、多様なTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターが、TLR4および/またはMyD88の生物学的活性を阻害するために使用される。本発明に従うこれらのTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターは、任意の疾患状態を処置するために使用され得る。「疾患状態」は、動物(これは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む)の任意の不健康状態を含み、そのような疾患状態としては、炎症性の病気(illness)または疾患(disease)の種々の形態(例えば、アテローム性動脈硬化症、移植性アテローム性動脈硬化症(transplant atherosclerosis)、静脈移植片アテローム性動脈硬化症(vein−graft atherosclerosis)、ステント後再狭窄(stent restenosis)、および血管形成術後再狭窄(angioplasty restenosis)、ならびにアテローム性動脈硬化症が引き起こす他の心臓血管疾患(本明細書の以下において「脈管疾患」))が挙げられる。「脈管疾患」は、動物(これは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む)の任意の不健康状態をさらに含み、このような脈管疾患としては、以下が挙げられる:狭心症およびそのサブタイプ(例えば、不安定狭心症、および異型狭心症);脳、心臓、骨、および腸管のような器官を冒す虚血、および虚血と関連する状態(例えば、脳卒中、一過性脳虚血発作、心臓発作、骨壊死、結腸炎、腎機能不全(poor kidney function)、および鬱血性心不全);体肢への血液循環の減少、および血液循環の減少の合併症(例えば、遅い創傷治癒、感染、および間欠性跛行);アテローム性動脈硬化症自体(アテローム性動脈硬化症病変の血管形成術後またはステント植え込み術後の再狭窄を含む);バイパス手術後の静脈移植片アテローム性動脈硬化症;移植性アテローム性動脈硬化症;ならびに、アテローム性動脈硬化症によって引き起こされるか、アテローム性動脈硬化症と関連する他の疾患。他の適用は、当業者によって認識され、従って、本明細書において包含される。哺乳動物において疾患状態を「処置する」または哺乳動物における疾患状態の「処置」としては、以下が挙げられる:(1)その疾患にかかりやすくなっているがその疾患をまだ経験しないかもしくはその疾患の症状を示さない哺乳動物において、その疾患が起こることを予防すること;(2)その疾患を阻害すること、すなわち、その疾患の発症を止めること;(3)その疾患を軽減すること、すなわち、その疾患の退行を引き起こすこと、または(4)被験体にとって有益な任意の効果を提供すること。
【0029】
種々の実施形態において、これらのインヒビターは、哺乳動物に、種々の次の実施形態において示される手段のような任意の適切な手段によって投与され得る。そのようなインヒビターとしては、TLR4および/またはMyD88の生物学的活性の阻害をもたらす任意の化合物、薬学的組成物または他の組成物が挙げられ得る。
【0030】
種々の実施形態において、本発明に従うこれらのTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターは、治療有効量において投与され得る。「治療有効量」とは、疾患を処置するために哺乳動物に投与された場合に、その疾患のためのそのような処置をもたらすために十分な量を意味する。「有益な効果」とは、本明細書において使用される場合、患者における任意の効果を指し、そのような効果としては、例えば、以下が挙げられる:疾患の緩和、その疾患の合併症の重篤度の低減、その疾患の発現の予防、その疾患の再発の予防、単なるその疾患の悪化の予防、または、上述のいずれかに影響するための治療努力(たとえそのような治療努力が最終的に不首尾であるとしても)。
【0031】
種々の実施形態において、本明細書において考察される組成物および方法は、既に存在するアテローム性動脈硬化症の軽減、まだ形成されていないアテローム性動脈硬化症の阻害、または存在するアテローム性動脈硬化症の軽減および新しいアテローム性動脈硬化症の阻害の両方から利益を受け得る、任意の患者において使用され得る。上で考察される治療指標において、これらの組成物は、等業者にとって公知の他の治療的介入と組み合わせて、有益に使用され得る。併用治療によって脈管疾患を処置するための、本発明の種々の実施形態において記載されるインヒビターの使用はまた、一般的な抗炎症薬、サイトカイン、または免疫モジュレーターと組み合わせての、哺乳動物への本発明の化合物の投与を包含する。
【0032】
種々の実施形態において、種々のペプチド模倣物を使用してTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための方法が、提供される。一実施形態において、この方法は、TLR4レセプターに結合しそれによってこれらのレセプターがMyD88に結合することを妨げる低分子ペプチド(すなわち、およそ10〜20アミノ酸のペプチド)の導入を包含する。別の実施形態において、この方法は、内因性MyD88に結合する低分子ペプチドの導入を包含する。短い、TLR4および/またはMyD88の重複するセグメント(segment)(例えば、長さがおよそ10〜20アミノ酸)が、分離され得、どの個々のセグメントがMyD88分子への結合によって(TLR4模倣物の場合)、またはTLR4レセプターへの結合(MyD88模倣物の場合)によって、TLR4および/またはMyD88の細胞シグナル伝達をもたらすかが試験され得る。分離に続いて、これらのセグメントは、複製されて、そのセグメントが、少なくとも、TLR4レセプターに結合するMyD88の一部、またはMyD88に結合するTLR4レセプターの一部を含むか否かを決定するために試験される。本明細書において考察される方法に従う使用に適したセグメントは、TLR4レセプターに結合するMyD88の少なくとも一部、またはMyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部を含み、それによって、このセグメントの個々の複製物の十分量の投与は、TLR4および/またはMyD88のシグナル伝達を妨げる。投与されると、セグメントは、好ましくは、TLR4レセプターのMyD88結合部位に結合するか、または内因性MyD88に結合し、それによってTLR4レセプターがMyD88の対応部位に結合することを妨げるか、または内因性MyD88がTLR4レセプターの対応部位に結合することを妨げる。このことは、TLR4および/またはMyD88の細胞シグナル伝達を、有意に妨げる。
【0033】
本発明の方法に従うと、TLR4レセプターに結合するMyD88の少なくとも一部を実際に含むセグメントが、疾患状態の処置のために患者に投与され得る。種々の実施形態において、このMyD88の一部は、このTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメインに結合し得る。同様に、本明細書において考察される別の方法に従うと、内因性MyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部を実際に含むセグメントが、疾患状態の処置のために患者に投与され得る。種々の実施形態において、このTLR4レセプターの一部は、このTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメインに対応し得る。さらに、TLR4および/またはMyD88のペプチド模倣物は、多様な薬学的組成物中に処方され得、それらのいずれか一つが、本発明の方法に従う使用に適し得ることが、当業者によって容易に理解される。
【0034】
投与は、任意の適切な手段によって行われ得、そのような手段として、以下を介する手段が挙げられる:経口形態(例えば、カプセル剤、錠剤、液剤、もしくは懸濁剤);静脈内形態;注射可能形態;移植可能形態(例えば、ステント被覆、徐放機構、もしくは生分解性ポリマーユニット);または、それによって活性因子もしくは治療因子が患者に送達され得る、任意の他の適切な機構。その投薬量は、投与の選択される形態に従って同様に決定され、その投薬量のレベルは、最も適切な投与手段が過度の実験なしに容易に確認され得るように、過度の実験なしに容易に確認され得る。
【0035】
種々の実施形態において考察されるようなペプチド模倣物とは、TLR4レセプターおよび/またはMyD88分子の、任意の構造アナログを指す。適切なペプチド模倣物の例としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:CRX−675(Corixa;Seattle,WAより入手可能)、RP105(Divanovic,S.ら(2005)Nature Immunology)、ST2エフェクター分子(Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)、種々のワクシニアウイルスORF類(例えば、A46RおよびA52R:Bowie,A.ら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,10162−10167)、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン(Bartfai,T.ら(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100,7971−7976)。他のペプチド模倣物は、当業者によって容易に認識される。
【0036】
種々の実施形態において、抗MyD88抗体の導入を介してMyD88の発現を阻害する方法が提供される。他の実施形態において、抗TLR4抗体の導入を介してTLR4の発現を阻害する方法が提供される。任意の適切な抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体は、本発明のこの局面と組み合わせて使用され得、以下を含むが、決してそれらに限定されない:抗TLR4抗体および/もしくは抗MyD88抗体、ならびにそれらの任意の適切な誘導体、それらの等価物、または抗TLR4抗体および/もしくは抗MyD88抗体と同様の様式で機能する活性部位を有する化合物(これらの化合物は、天然に存在する化合物であるか、または合成化合物である);(これらの全ては、本明細書の以下において句「抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体」内に含まれる)。種々の実施形態において、これらの抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体は、TLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメイン、またはTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメインに結合するMyD88の一部を標的化し得る。
【0037】
抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体の、本発明の方法を達成するために必要な適当量、ならびに、その抗体を哺乳動物に送達する最も便利な経路は、当業者によって、過度の実験なしに決定され得る。さらに、抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体が、種々の薬学的組成物中に処方され得、それらのいずれか一つが本発明の方法に従う使用に適切であり得ることが、当業者によって容易に理解される。
【0038】
そのような抗体は、任意の従来の機構を介して、哺乳動物におけるTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための治療有効量において、哺乳動物に送達され得る;この送達の機構およびTLR4および/またはMyD88の発現を阻害するために必要な抗体の量の両方は、過度の実験なしに容易に確認される。
【0039】
適切な抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体の例としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:抗TLR4抗体製品番号ab8376、ab2891、ab6563、ab6726、ab6728、ab6729、ab6785、ab6788、ab7002、ab7018、およびHTA125(Abcam;Cambridge,UKより入手可能);MTS510(Monosan;Netherlandsより入手可能);抗MyD88抗体製品番号ab2064およびab2068(Abcamより入手可能);抗MyD88抗体カタログ番号2125(ProSci Incorporated;Poway,CAより入手可能);抗MyD88抗体製品番号M9934(Sigma;St.Louis,MOより入手可能)。他の抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体は、当業者によって容易に認識される。
【0040】
種々の実施形態において、本発明の抗体は、スクリーニングされ得、TLR4および/またはMyD88の標的領域への結合におけるそれらの抗体の有効性を決定され得る。適切である抗血清をスクリーニングするための技術は、当該分野において公知である(Sambrook,J.& D.W.Russel、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2巻、第3版、A14.50−14.51(2001))。例えば、一般的な技術としては、抗血清と目的のタンパク質との反応性について、ウェスタンブロット分析、免疫沈降アッセイ、または放射免疫アッセイを行うことが挙げられる。
【0041】
低分子アンタゴニストの出現によって、アテローム性動脈硬化症に基づく病因の処置におけるTLRシグナル伝達の治療的阻害の効力を評価することが可能となり得る。低分子アンタゴニストは、当該分野において公知である(Bartfai,T.ら(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100,7971−7976)。特に、NF−κBを活性化しないtoll−インターロイキン1レセプター(TIR)スーパーファミリーの分子は、TLR4シグナル伝達を負に調節することが示されている(Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)。さらに、種々の組成物が、NF−κBを遮断し、TLRシグナル伝達を負に調節することが、当該分野において公知である(O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403;O’Neill,L.(2004)Trends in Immunology 25,687−693;Liew,F.Y.ら(2005)Immunol Lett.96,27−31)。他の組成物およびインヒビターは、当業者によって認識され、従って、本明細書において包含される。なおさらに、シグナル伝達経路に拮抗させるために使用されるレセプターリガンドおよび抗体のアナログの例は、当該分野において公知である。例えば、特異的なケモカインに対する中和抗体、および、レセプターを活性化して機能的応答を惹起することなく特異的なケモカインと結合ドメインについて競合する、レセプターリガンドのアンタゴニストが、当該分野において議論される(Howardら(1996)Trend Biotechnol 14,46−51)。具体的には、抗ケモカイン抗体の使用は、多数の動物モデルにおいて炎症を抑えることが示されている(例えば、ブレオマイシン誘導性肺線維症における抗MIP−1α(Smithら(1994)Leukocyte Biol 57,782−787);再灌流傷害における抗IL−8(Sekidoら(1995)Nature 365,654−657)、および、糸球体腎炎のラットモデルにおける抗MCP−1(Wadaら(1996)FASEB J 10,1418−1425))。さらに、ケモカインレセプターの機能の数種の低分子アンタゴニストが、科学文献および特許文献において報告されている(White,J.(1998)Biol Chem 273,10095−10098;Hesselgesser,J.(1998)Biol Chem 273,15687−15692;Brightら(1998)BioorgMed Chem Lett 8,771−774;Lapierre,26th Natl Med Chem Symposium、6月14日〜18日、Richmond(Va.)、USA(1998);Forbesら(2000)Bioorg Med Chem Lett 10,1803−18064;Katoら、WO 97/24325;Shiotaら、WO 97/44329;Nayaら、WO 98/04554;Schwenderら、WO 98/02151;Hagmannら、WO 98/27815;Connorら、WO 98/06703;Wellingtonら、米国特許第6,288,103号)。
【0042】
本発明によって企図される一つのそのような代替的実施形態としては、種々のスタチンを使用してTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための方法(Methe,H.ら(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.25,1−7)が挙げられる。アトロバスタチン(Atorvastatin:Pfizer;Ann Arbor,MIから入手可能)およびシンバスタチン(Merck;West Point,PAから入手可能)が、例である。任意の適切なスタチンが、本発明のこの局面と組み合わせて使用され得、そのようなスタチンとしては、以下が挙げられるが、それらに決して限定されない:TLR4シグナル伝達経路および/もしくはMyD88シグナル伝達経路に作用することが現在公知であるかまたは将来において発見されるスタチン、およびそれらの任意の適切な誘導体、それらの等価物、またはスタチンと同様の様式で機能する活性部位を有する化合物(これらの化合物は、天然に存在する化合物であるか、もしくは合成化合物である);(これらの全てが、本明細書の以下において句「スタチン」の内に含まれる)。TLR4シグナル伝達経路および/もしくはMyD88シグナル伝達経路のなお他のインヒビターが、本発明に含まれ、例えば、以下が挙げられるが、それらに限定されない:ST2エフェクター分子(Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)、抗アポトーシス性(anti−apoptotic)タンパク質A20(Arvelo,M.B.ら(2002)Hepatology 35,535−543)、可溶性TLR4、作用性の脂質A(agonistic lipid A)およびそのアナログ(O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403)、I−κB−2のインヒビター(Epinat,J.C.ら(1999)Oncogene 18,6896−6909;Haefner,B.(2002)Drug Discov Today 7,653−663)、サリチル酸塩およびパルテノライド(parthenolide)(Koop,E.ら(1994)Science 265,956−959;Almawi,W.Y.ら(2002)J Mol Endocrinol 28,69−78)、PS−1145(Epinat,J.C.ら(1999)Oncogene 18,6896−6909)、p38およびJNKのインヒビター(Boehm,C.J.ら(2000)Expert Opin Ther Pat 10,25−37;English,J.M.ら(2002)Trends Pharmacol Sci 23,40−45)、IL−1レセプター関連キナーゼ4のインヒビターおよびTGF−βによって活性化されるキナーゼ(TGF−β activated kinase)1のインヒビター。他の組成物およびインヒビターは、当業者によって認識され、従って、本明細書において包含される。
【0043】
スタチンおよび上述のインヒビターの、本発明の方法をもたらすために必要な適当量、およびこれらのスタチンおよびインヒビターを哺乳動物に送達する最も便利な経路は、当業者によって、過度の実験なしに決定され得る(Methe,H.ら(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.25,1−7;O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403;Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)。さらに、スタチンが、種々の薬学的組成物中に処方され得、それらのいずれか一つが、本発明の方法に従う使用に適切であり得ることは、当業者によって容易に理解される。
【0044】
そのようなスタチンおよび上述のインヒビターは、任意の従来の機構を介して、哺乳動物においてTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための治療有効量において、哺乳動物に送達され得る;この送達の機構、ならびにTLR4および/またはMyD88の発現を阻害するために必要なスタチンの量の両方は、余分の実験なしに、容易に確認され得る(Methe,H.ら(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.25,1−7;O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403;Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)。
【0045】
種々の実施形態において、本発明は、薬学的に受容可能な賦形剤と、本明細書において考察される例示的局面と関連して使用される少なくとも一種のインヒビターの治療有効量とを含有する、薬学的組成物を提供する。「薬学的に受容可能な賦形剤」とは、薬学的組成物の調製において有用な賦形剤を意味し、一般に安全であり、非毒性であり、そして望ましく、さらに、動物への使用のために、ならびにヒトの薬学的使用のために受容可能である賦形剤を含む。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体であり得るか、またはエアロゾル組成物の場合においては、気体であり得る。
【0046】
種々の実施形態において、本発明に従う薬学的組成物は、任意の投与経路を介する送達のために処方され得る。「投与経路」とは、当該分野において公知の任意の投与経路を指し得、そのような投与経路としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:エアロゾル投与経路、鼻投与経路、経口投与経路、経粘膜投与経路、経皮投与経路、または非経口投与経路。「非経口」とは、一般に注射に関連する投与経路を指し、そのような投与経路としては、以下が挙げられる:眼窩内投与経路、注入投与経路、動脈内投与経路、関節内(intracapsular)投与経路、心臓内投与経路、皮内投与経路、筋肉内投与経路、腹腔内投与経路、肺内投与経路、脊髄内投与経路、胸骨内(intrasternal)投与経路、くも膜内投与経路、子宮内投与経路、静脈内投与経路、くも膜下投与経路、被膜下(subcapsular)投与経路、皮下投与経路、経粘膜投与経路、または経気管投与経路。非経口経路を介する場合、この組成物は、注入もしくは注射のためには、液剤もしくは懸濁剤の形態であり得るか、または、凍結乾燥された散剤の形態としてあり得る。
【0047】
本発明に従う薬学的組成物はまた、任意の薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。「薬学的に受容可能なキャリア」とは、本明細書において使用される場合、一つの組織、器官、または身体の部分から、別の組織、別の器官、または身体の別の部分への、目的の化合物の運搬または輸送に関与する、薬学的に受容可能な物質、組成物、またはビヒクルを指す。例えば、このキャリアは、液体または固体の、充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、もしくはカプセル化物質、またはそれらの組み合わせであり得る。このキャリアの各々の成分は、この処方物の他の成分と適合性でなければならないという点において、「薬学的に受容可能」でなければならない。また、このキャリアの各々の成分は、接触し得る任意の組織または器官に接触する使用に適していなければならない。このことは、このキャリアの各々の成分が、毒性、刺激、アレルギー性応答、免疫原性、またはその治療上の利点を過剰に上回る任意の他の合併症の危険性を有してはならないことを意味する。
【0048】
本発明に従う薬学的組成物はまた、カプセル化され得るか、錠剤化され得るか、または経口投与のために乳濁剤またはシロップ剤に調製され得る。薬学的に受容可能な固体もしくは液体のキャリアが、この組成物を強化もしくは安定化するために、またはこの組成物の調製を容易にするために、添加され得る。液体のキャリアとしては、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、グリセリン、食塩水、アルコール、および水が挙げられる。固体のキャリアとしては、デンプン、乳糖、硫酸カルシウム、脱水剤(diydrate)、石膏、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸、滑石、ペクチン、アラビアゴム、寒天、またはゼラチンが挙げられる。また、キャリアとしては、徐放物質(例えば、単独または蝋と共に、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレート)が挙げられ得る。
【0049】
薬学的調製物は、調剤の従来の技術に従って作製され、そのような技術は、以下の工程を包含する:錠剤形態のためには、粉砕(milling)、混合、造粒、および必要な場合は、圧縮の工程;または、硬質ゼラチンカプセル形態のためには、粉砕、混合、および充填の工程。液体のキャリアが使用される場合、この調製物は、シロップ剤、エリキシル剤、乳濁剤、または水性もしくは非水性の懸濁剤の形態であり得る。このような液体処方物は、直接的に経口で、または柔らかいゼラチンカプセル中に充填されて、投与され得る。
【0050】
本発明に従う薬学的組成物は、治療有効量で送達され得る。正確な治療有効量とは、所与の被験体において、処置の効力に関して、最も有効な結果を生じるその組成物の量である。この量は、種々の要因に依存して変化し、そのような要因として、以下が挙げられるが、それらに限定されない:その治療化合物の特徴(活性、薬学動態学、薬力学、バイオアベイラビリティを含む)、その被験体の生理学的状態(年齢、性別、疾患の型および段階、一般的な身体状態、所与の投薬量に対する応答性、および医薬の型を含む)、その処方物中の一種または拭く数種の薬学的に受容可能なキャリアの性質、および投与経路。臨床学および薬学の分野の当業者は、慣用的な実験を介して(例えば、化合物の投与に対する被験体の応答をモニタリングし、それに従って投薬量を調整することによって)治療有効量を決定し得る。さらなる手引きについては、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro編、第20版、Williams & Wilkins PA,USA)(2000)を参照されたい。
【実施例】
【0051】
(実施例1:ApoE/MyD88のダブルノックアウトマウスおよびApoE/TLR4のダブルノックアウトマウスの作製)
ApoE欠損C57BL/6マウスを、The Jackson Laboratoryから入手した。MyD88−/−マウスおよびTLR4−/−マウスを、S.Akira(Osaka University,Osaka)の好意によって入手した。両方の株を、4世代にわたってC57BL/6株中に戻し交配した。MyD88−/−マウスおよびTLR4−/−マウスを、ApoE−/−のC57BL/6マウスと交配した。ヘテロ接合体のマウスを、交雑(intercross)し、MyD88+/+、+/−、−/−のマウス、ならびにTLR4+/+および−/−のマウスの組み合わせを有する、ホモ接合体のApoE−/−マウスを作製した。このプロセスは、合計5世代のC57BL/6背景への戻し交配を生じる。雄および雌のマウスに、高(0.15%)コレステロール食(Harlan Teklad,Madison,WI)を、6ヶ月間にわたり与えた。
【0052】
(実施例2:大動脈および大動脈洞におけるアテローム性動脈硬化症の評価)
大動脈を切除し、付着した(外膜性の)脂肪を取り除いて、次いでHistoCHOICE(Amrecso;Solon,OHより入手した)中で固定した。全大動脈を、大動脈弓から大動脈分岐まで縦方向に切開し、正面向きで標本にし、脂質をOil red Oで染色した。心臓を、OCTコンパウンド(Tissue Tek,Sakura;Torrance,CAより入手した)に包埋し、大動脈洞の横断切片をOil red Oで染色した。病変領域を、IMAGEPRO PLUS(Media Cybernetics;Silver Spring,MDより入手した)で定量した。画像解析を、これらのマウスの遺伝子型に対してマスクされた(blinded)訓練された観察者によって行った。アテローム性動脈硬化症のプラーク内へのマクロファージの浸潤を評価するために、大動脈洞の凍結切片を固定し、3%の過酸化水素と共にインキュベートし、透過処理(permeabilize)した。これらの切片を、マクロファージ特異的抗体であるMOMA−2、またはコントロールIgG抗体(Serotec;Raleigh,NCより入手した)と共にインキュベートした。可視化のために、3−アミノ−9−エチルーカルバゾル色原体(DAKO;Carpinteria,CAより入手した)を、基質として使用した(Fredrikson,G.N.ら(2003)Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.23,879−884)。MOMA−2マクロファージ免疫陽性領域を、IMAGEPRO PLUSで定量した。
【0053】
(実施例3:COX−2染色)
切片を、0.1MのTris・HCl/0.15MのNaCl/0.5%のブロッキング試薬(TNBブロッキング緩衝剤)中でブロッキングし、TNBブロッキング緩衝剤中で希釈したCOX−2一次抗体またはコントロールのIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz,CAより入手した)と共に、4℃で一晩インキュベートし(1:5,000希釈)、その後、ストレプトアビジン−西洋ワサビペロキシダーゼ複合体と共にインキュベートした。シグナルを、チラミド(tyramide)シグナル増幅キット(NEN Life Science Products;Boston,MAより入手した)を、製造者の推奨に従って使用することによって増幅し、切片を、100nMのSYTOXグリーン(Molecular Probes;Eugene,ORより入手した)で、核について対比染色した。
【0054】
(実施例4:脂質プロフィール)
マウスから、一晩の絶食の後で、屠殺時に血清を得た。総コレステロール濃度を、比色分析アッセイ(infinity cholesterol reagent、Sigma Diagnostics;St.Louis,MOより入手した)を使用して、二連で決定した。トリグリセリド濃度を、L型トリグリセリドHアッセイを製造者の指示書(Wako Chemicals USA;Richmond,VAより入手した)に従って使用することによって決定した。リポタンパク質プロフィールを、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用することによって決定した。
【0055】
(実施例5:単離されたマウス大動脈内皮細胞(Ec)における機能研究)
MyD88−/−マウスおよびMyD88+/+マウス由来の胸大動脈を、洗浄し、長さ3mmの環に切断した。これらのセグメントを、裏返しにし、I型コラーゲン(BD Biosciences;Bedford,MAより入手した)でコーティングした組織培養皿中に置き、20%のFBS(Omega Scientific;Tarzana,CAより入手した)、1%の抗生物質/抗真菌性物質の溶液(Invitrogen;Carlsbad,CAより入手した)、1単位/mlのヘパリン(Sigmaより入手した)、および60μg/mlのEC増殖補給剤(Upstate;Charlottesville,VAより入手した)で補充されたMCDB131(Invitrogenより入手した)中でインキュベートした。脈管の環を、細胞の発生物が観察されたらすぐに取り除いた。細胞の同一性を、フォン・ヴィレブランド因子(DAKOより入手した)での染色によって、および1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニン(tetramethylindocarbocyanine)−アセチル化LDL(Molecular Probesより入手した)取り込み実験によって、確認した(ECの純度>95%)。接着アッセイのために、ECをコンフルエンシーまで増殖させた。これらの細胞を、1%のリポタンパク質除去血清を含有する培養培地中で6時間にわたって、MM−LDL、ネイティブなLDL、LPS、または腫瘍壊死因子(TNF)−αで刺激した。インキュベーション後に、細胞を血清を含まない培地で洗浄し、5μMの2’,7’−ビス−(2−カルボキシエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセイン(carboxyfluorescein)、アセトキシメチルエステル(Molecular Probesより入手した)で標識したヒト末梢血液単核細胞と共に1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、0.5NのNaOHで溶解した。蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダー(fluorescence microplate reader)において測定した(励起、485nm;発光(emmission)、528nm)。
【0056】
(実施例6:サイトカインおよびケモカインの血清レベル)
IL−10、IL−12p40、MCP−1、およびケモカインであるKCの、マウスの血清中の濃度を、ELISAによって、製造者の指示書(IL−10、IL−12p40、およびMCP−1についてはBD Biosciencesより入手し、KCについてはR & D Systemsより入手した)に従って、測定した。
【0057】
(実施例7:統計学的解析)
データを、平均値±SDとして表した。統計学的有意を、ボンフェローニ補正を用いた一要素(one−factor)ANOVA、およびスチューデントt検定によって決定した。P<0.05を、統計学的に有意と見なした。
【0058】
(実施例8:MyD88欠損は、ApoE−/−マウスにおける循環コレステロールプロフィールまたは循環リポタンパク質プロフィールを変化させない)
アテローム性動脈硬化症の発症についてのMyD88の役割を研究するために、ApoE−/−マウスとMyD88−/−マウスとを交雑し、類遺伝子性(congenicity)を増強し、分散の二次的な原因を減少させるために、C57BL/6株に少なくとも5世代にわたって戻し交配することによって、ダブルノックアウトマウスを作製した。ApoE−/−/MyD88−/−ならびに同腹仔コントロール(ApoE−/−/MyD88+/−およびApoE−/−/MyD88+/+)に、高コレステロール食を与え、6ヶ月で屠殺した。血漿脂質濃度に対するMyD88の効果を評価するために、全血清コレステロール濃度を測定した。これらの遺伝子型の間で、24週齢で、全コレステロール濃度または血漿トリグリセリド濃度に有意差は見出されなかった(データは示さず)。リポタンパク質プロフィールに対するMyD88欠損の有意な効果は存在しなかった(データは示さず)。
【0059】
(実施例9:MyD88欠損は、ApoE−/−マウスにおける大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を軽減する)
アテローム発生性の食餌を与えられたApoE−/−マウスは、ヒトにおいて見られる形態学的特徴と類似の形態学的特徴を有する、アテローム性動脈硬化症の病変を発症する(Breslow,J.L.(1996)Science 272,685−688)。大動脈アテローム性動脈硬化症の程度に対するMyD88欠損の効果を評価するために、総病変領域を、大動脈の正面向きの標本、および脂質についてのOil red O染色を使用することによって測定した(図1A)。コンピューターによって補助される定量的組織形態計測分析は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の程度の57%の減少を明らかにした。ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の程度は、ApoE−/−/MyD88=+/+マウスにおいて観察されるアテローム性動脈硬化症の程度と、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の程度において観察されるアテローム性動脈硬化症の程度の間の中間であった。このことは、遺伝子の用量−応答効果と一致している(図1B、左)。MyD88欠損のアテローム保護的効果は、オスのマウスにおいてもメスのマウスにおいても観察された。
【0060】
(実施例10:MyD88欠損は、プラークの脂質含有量の低下、マクロファージの浸潤の減少、およびCOX−2免疫応答性の低下に関連する)
アテローム性動脈硬化症のプラークの組成に対するMyD88欠損の効果を試験するために、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈洞のプラークにおいて、脂質含有量をOil red O組織化学染色で試験し、マクロファージの浸潤の程度をMOMA−2免疫染色で試験した。ApoE−/−/MyD88−/−マウスの大動脈洞のプラークは、ApoE−/−/MyD88+/+マウスのプラークより、有意により少ない脂質およびマクロファージ蓄積(各々、69%および75%の減少)を示した。中間のレベルが、ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおいて観察された(図2A、左、およびB、およびC)。このことは、繰り返し、遺伝子の用量−応答の関係と一致した。大動脈洞のプラークの病変の大きさの定量は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて、ApoE−/−/MyD88+/+マウスと比較して、病変の大きさの有意な減少を明らかにした(P<0.05、データは示さず)。ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈洞のプラークにおいて、COX−2の免疫染色を評価し、MyD88欠損によってもたらされるアテローム性動脈硬化症の程度の軽減が、炎症促進性酵素であるCOX−2の発現の減少を伴っているか否かを決定した。ApoE−/−/MyD88+/+マウス由来の病変は、広範囲のCOX−2免疫染色を示した。COX−2免疫染色は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて著しく少なかった(図2D)。中間のレベルのCOX−2免疫反応性が、ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおいて観察された(図2D)。
【0061】
(実施例11:MyD88欠損は、炎症性サイトカインであるIL−12およびMCP−1の循環レベルの低下と関連する)
一般的な抗炎症性機構によるアテローム発生の阻害におけるMyD88欠損の効果を試験した。MyD88欠損は、ApoE−/−マウスにおいて、重要な炎症促進性のサイトカインおよびケモカイン(Tヘルパー1サイトカインであるIL−12およびMCP−1)の循環濃度を変化させた。ApoE−/−/MyD88−/−マウスは、ApoE−/−/MyD88+/+マウスと比較して、著しく低下したIL−12p40およびMCP−1の血清レベルを有した(図3Aおよび図3B)。ApoE−/−/MyD88+/−マウスのIL−12p40血清濃度は、野生型ApoE−/−/MyD88+/+マウスの血清濃度に匹敵した。ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおけるMCP−1の血清濃度は、野生型ApoE−/−/MyD88+/+マウスのMCP−1の血清濃度に匹敵した。MyD88欠損は、抗炎症性サイトカインIL−10またはケモカインKCの循環濃度の有意変化とは、全く関連しなかった(データは示さず)。これらの結果は、ApoE欠損およびMyD88欠損の両方を有するマウスにおいて観察されるアテローム発生の抑制の少なくとも一部は、アテローム発生促進性の炎症性分子の循環レベルの一般的な低下によって媒介され得るという解釈と、最もよく一致するようであった。
【0062】
(実施例12:MyD88欠損は、MM−LDLによる刺激の際の白血球のECへの接着の低下と関連する)
増強された白血球−EC接着は、アテローム性動脈硬化症のプラークの発達における中心的な初期事象の一つを構成する。白血球−EC接着に対するMyD88欠損の効果を決定するために、MyD88−/−マウスおよびMyD88+/+マウスから、大動脈のECを単離し、それらと白血球(ヒト末梢血液の単核細胞)との相互作用を、MM−LDLによる刺激の際に評価した。MyD88+/+マウスの大動脈由来のECは、MM−LDLによって刺激された場合、用量依存性の白血球接着の増大を示したが、未改変のネイティブLDLによって刺激された場合は、白血球接着の増大は示さなかった(図4)。対照的に、MyD88欠損マウス由来のECへの白血球接着は、MM−LDLまたはLDLのいずれかによる刺激に応答して増大しなかった。しかし、TNF−α誘導性の白血球のECへの接着は、MyD88−/−のECにおいては低下しておらず、MyD88+/+のECへの白血球接着と異ならなかった。これらの結果は、MM−LDLによって刺激されたMyD88−/−のECへの白血球の接着の低下は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスの発達中のプラークへの単核食細胞の浸潤の減少をもたらし得ることを示唆する。
【0063】
(実施例13:TLR4欠損は、ApoE−/−マウスにおける大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を低減する)
さらに、アテローム性動脈硬化症の発症に対するMyD88および上流のレセプターの役割を明らかにするために、ApoE−/−マウスとTLR4−/−マウスとを交雑して、ダブルノックアウトマウスを作製した。ApoE−/−/TLR4−/−および同腹仔のコントロール(ApoE−/−/TLR4+/+)に、高コレステロール食を与え、6ヶ月で屠殺した。総血清コレステロール濃度および総血清トリグリセリド濃度を計測し、そして、ApoEおよびMyD88の両方を欠損しているマウスを用いる場合、これらの遺伝子型の間で、総コレステロール濃度または総血漿トリグリセリド濃度に有意差は見出されなかった(データは示さず)。全大動脈の総病変領域を、Oil red O染色の後で計測した。定量分析は、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおいて、アテローム性動脈硬化症の程度の24%の減少を明らかにした(ApoE−/−/TLR4−/−についてはn=12、およびApoE−/−/TLR4+/+についてはn=8、P<0.01;図1B、右)。
【0064】
(実施例14:TLR4欠損は、プラークの脂質含有量の減少、マクロファージの浸潤の低下、およびMCP−1の血清濃度の低下に関連する)
さらに、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の特徴を研究するために、脂質含有量およびマクロファージ浸潤を、大動脈洞のプラークにおいて定量した(図2Aの右のパネル、および図5A)。大動脈洞のプラークの脂質含有量は、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおいて有意に減少した(55%減少)。ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおけるマクロファージ浸潤もまた、コントロールマウスと比較して、有意に65%減少した。さらに、MCP−1血清濃度は、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおいて優位に低下した(図5B)。ApoE−/−/MyD88−/−マウスと対照的に、ApoE−/−/TLR4−/−マウスとApoE−/−/TLR4+/+マウスとの間で、IL−12p40の血清濃度に有意差は存在しなかった(データは示さず)。
【0065】
上の記載は、本発明の特定の実施形態に言及するが、一方、本発明の精神から逸脱することなく多くの改変がなされ得ることが理解される。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲および精神の中へ含まれるような改変を含むように意図される。ここで開示される実施形態は、従って、あらゆる点で、例示的であるものとしてみなされるべきであり、制限的であるものとしてみなされるべきではなく、本発明の範囲は、上記の明細書よりもむしろ、付属の特許請求の範囲によって示され、そして、これらの特許請求の範囲の意味または特許請求の範囲の等価の範囲に起こる全ての変更は、従って、その明細書において含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1A】図1は、本発明の実施形態に従うと、MyD88欠損およびTLR4欠損が、大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を軽減することを示す。図1Aは、高コレステロール食を6ヶ月間与えられたApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈の一連の顕微鏡写真を表す。大動脈は単離され、脂質蓄積物についてOil red Oで染色された。3群からの代表的な標本が示される。
【図1B】図1は、本発明の実施形態に従うと、MyD88欠損およびTLR4欠損が、大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を軽減することを示す。図1Bは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス(左)、およびApoE−/−/TLR4−/−マウス(右)における全大動脈中のプラーク面積の定量を示す。ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/+マウス、ApoE−/−/TLR4−/−マウス、およびApoE−/−/TLR4+/+マウスの大動脈は、脂質蓄積物についてOil red Oで染色された。プラーク面積の平均値およびSD(ApoE−/−/MyD88−/−、ApoE−/−/MyD88+/−、ApoE−/−/MyD88+/+についてはn=13;ApoE−/−/TLR4+/+についてはn=8;そして、ApoE−/−/TLR4−/−についてはn=12)が示される。MyD88−/−またはTLR4−/−における総プラーク面積は、対応する野生型マウスと比較して有意に減少した(*,P<0.01)。
【図2A】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Aは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウス(左)、ならびに、ApoE−/−/TLR4−/−マウス、およびApoE−/−/TLR4+/+マウス(右)に由来する大動脈プラークの脂質含有量の定量を示す。示されるのは、総プラーク面積に相対的な脂質含有量のパーセンテージの平均値およびSDである(ApoE−/−/MyD88−/−、ApoE−/−/MyD88+/−、およびApoE−/−/MyD88+/+についてはn=10;ApoE−/−/TLR4+/+についてはn=7;そして、ApoE−/−/TLR4−/−についてはn=8)。ApoE−/−/MyD88−/−またはApoE−/−/TLR4−/−における相対的脂質含有量は、対応する野生型マウスと比較して、有意に減少する(**,P<0.01;*,P<0.05)。
【図2B】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Bは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスに由来する大動脈洞のプラークの代表的なMOMA−2染色の一連の顕微鏡写真を表す。
【図2C】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Cは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈洞のプラークにおけるマクロファージ免疫反応性の定量分析を示し、総プラーク面積の比率として表される(各群において、n=10)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【図2D】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Dは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの強膜のプラークにおけるCOX−2免疫蛍光染色の定量分析を示す(各群において、n=7)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【図3A】図3は、本発明の実施形態に従うと、IL−12p40および単球の化学誘引タンパク質1(MCP−1)の血清濃度が、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて減少することを示す。図3Aは、高コレステロール食を6ヶ月与えられたApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウス(各群において、n=19)のIL−12p40血清濃度を示す。
【図3B】図3は、本発明の実施形態に従うと、IL−12p40および単球の化学誘引物質1(MCP−1)の血清濃度が、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて減少することを示す。図3Bは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウス(各群において、n=24)のMCP−1血清濃度を示す。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【図4】図4は、本発明の実施形態に従うと、MyD88欠損マウス由来の内皮細胞(Ec)が、MM−LDL誘導性の白血球の接着の低下を示すことを示す。MM−LDL、LDL、またはTNF−αで刺激されたMyD88−/−マウスまたはMyD88+/+マウスの大動脈に由来するマウス大動脈ECへの、ヒト末梢血液の単核細胞の接着。同様の結果を有する3回の代表的な実験の一つからのデータが、バックグラウンドに対する白血球接着の増大の倍数として表される(*,P<0.05)。
【図5A】図5は、本発明の実施形態に従うと、TLR4欠損が、マクロファージの浸潤およびMCP−1分泌の程度を低下させることを示す。図5Aは、ApoE−/−/TLR4−/−マウスおよびApoE−/−/TLR4+/+マウスの大動脈洞のプラークにおける、マクロファージ免疫反応性の定量分析を示し、総プラーク面積の比率として表される(各群ごとに、n=7)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)
【図5B】図5は、本発明の実施形態に従うと、TLR4欠損が、マクロファージの浸潤およびMCP−1分泌の程度を低下させることを示す。図5Bは、、ApoE−/−/TLR4−/−マウスおよびApoE−/−/TLR4+/+マウスのMCP−1血清濃度を示す(ApoE−/−/TLR4+/+についてはn=8、そしてApoE−/−/TLR4−/−についてはn=14)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【技術分野】
【0001】
(政府の権利)
本明細書において記載される発明は、国立保健研究所とDr.Moshe Arditi(Devision of Pediatric Infectious Diseases、Cedars−Sinai Medical Center)との間の助成金第HL−51087号および同第AI−50699号の経過において生じたか、またはそれらの下で生じた。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、シグナル伝達経路に関する。より詳細には、本発明は、toll様レセプター(toll−like receptor)4(TLR4)のアンタゴニストおよび骨髄性分化因子(myeliod differentiation factor)88(MyD88)の機能のアンタゴニストに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
心臓疾患は、依然として世界的に主要な死亡の原因であり、年間総死亡数の30%近く(すなわち、およそ1,500万人)の原因である。心臓および脈管の疾患は、毎年さらに多くの個体を衰弱させる。多数にとって、アテローム性動脈硬化症は、終生続く過程である;アテローム性動脈硬化症は、幼年期に初期段階を有し得、中年または中年以降まで臨床的な発現がないことがあり得る。アテローム性動脈硬化症の発症は、不健康な生活習慣(例えば、タバコの使用、バランスの悪い食事、および身体的不活動)に繰り返し関連付けられてきた。心臓および脈管の疾患の種々の形態の検出および処置には、大きな進歩がもたらされてきたが、予防的手段および組み合わされた処置レジメンは、通常、内在する疾患状態を休止させることもまたは治癒させることも出来ない。
【0004】
アテローム性動脈硬化症は、現在、アテローム発生性リポタンパク質(atherogenic lipoprotein)、細胞外マトリックス、新脈管(neovessel)、カルシウム、および炎症細胞の内皮下での蓄積によって特徴付けられる慢性炎症性疾患であると見なされる。脈管壁における炎症遺伝子の活性化、ならびにその後の炎症細胞および免疫細胞(例えば、単球およびT細胞)の接着、化学誘引、内皮下遊走、残留、および活性化は、アテローム性動脈硬化症の開始、進行、および不安定化において重要な役割を果たすと考えられる(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。先天免疫系の感染性因子および感染性成分がアテローム性動脈硬化症の原因としての潜在的な役割に焦点を当てた関心が高まっている(非特許文献7)。しかし、抗生物質による心臓血管疾患の処置を調査する臨床試験は、矛盾する結果をもたらしている(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10)。これは、おそらくは、差異を検出する能力が不十分であることに起因するか、または他の短所に起因する(非特許文献11)。
【0005】
臨床学的な失望にも関わらず、理解が深まると共に、抗生物質および/または免疫による心臓血管疾患の処置が将来的に実現することを示唆する、実験的な証拠が蓄積している(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)。特に、動物研究からの興味深いデータは、アテローム性動脈硬化症に基づく病理学における、toll様レセプター(TLR)および先天性免疫系の他の重要な成分の潜在的な重要性を示唆する(非特許文献15;非特許文献16)。TLRは、細菌性病原体または病原体関連分子パターンに応答して炎症促進性(proinflammatory)シグナル伝達経路を活性化するレセプターのファミリーである。TLRへのリガンド結合は、このレセプターのtoll/IL−1レセプタードメインへの、アダプター分子である骨髄性分化因子88(MyD88)の漸増をもたらす。シグナルの細胞内伝播は、転写因子であるNF−κBの活性化をもたらし、それによって、炎症応答に影響を及ぼす(非特許文献17)。さらに、研究は、MyD88を介してシグナル伝達するTLRが、多くの細菌性病原体に対する炎症促進性サイトカイン応答において必須であることを示した(非特許文献18)。MyD88は、種々の細胞レセプターによる生化学的シグナル伝達のために必要なアダプタータンパク質であり、そのような細胞レセプターとして、例えば、TLR4のようなTLR、ならびにインターロイキン−1(IL−1)およびインターロイキン−18(IL−18)が挙げられる。
【0006】
研究は、ヒトおよびマウスの脂質が豊富なアテローム性動脈硬化症のプラークがTLR4を発現すること、ならびに、マクロファージにおけるTLR4の発現が、酸化された低比重リポタンパク質(LDL)によってアップレギュレートされるが、ネイティブのLDLによってはアップレギュレートされないことを示した(非特許文献19;非特許文献20)。インビトロの研究は、炎症促進性かつアテローム発生促進性(proatherogenic)のリポタンパク質である最小限に改変されたLDL(minimally modified LDL:MM−LDL)が、マクロファージ上のTLR4およびそのコレセプター(coreceptor)であるCD14によって認識されること、ならびに、このリポタンパク質の結合がアクチン重合およびマクロファージの拡散をもたらすことを実証した(非特許文献21)。ヒトの内皮細胞(EC)において、TLR4によるMM−LDLの認識は、単球の遊出および脈管壁での残留において重要なケモカインであるIL−8の分泌をもたらす(非特許文献22)。しかし、MM−LDLのこの作用は、CD14非依存的である。TLR4遺伝子の多型を発現する患者は、リポポリサッカリド(LPS)低応答性を発現し、頚動脈のアテローム性動脈硬化症および急性の冠状動脈のイベントから保護され(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26)、そしてスタチンを用いての危険性低減からより高い利益を引き出す(非特許文献27)。まとめると、これらの知見は、TLRシグナル伝達が、アテローム性動脈硬化症のプラークの発達において役割を果たし得ることを示唆する。
【非特許文献1】Ross,R.「N.Engl.J.Med.」、1999年、第340巻、p.115−126
【非特許文献2】Glass,C.K.およびWitztum,J.L.「Cell」、2001年、第104巻、p.503−516
【非特許文献3】Shah,P.K.「J.Am.Coll.Cardiol.」、2003年、第41巻、p.15S−22S
【非特許文献4】Libby,P.「Nature」、2002年、第420巻、p.868−874
【非特許文献5】Hansson,G.K.ら、「Circ.Res.」、2002年、第91巻、p.281−291
【非特許文献6】Binder,C.J.ら、「Nat.Med.」、2002年、第8巻、p.1218−1226
【非特許文献7】Kol,A.およびLibby,P.「Trends Cardiovasc.Med.」、1998年、第8巻、p.191−199
【非特許文献8】Sander,D.ら、「Circulation」、2004年、第109巻、p.1010−1015
【非特許文献9】Zahn,R.ら、「Circulation」、2003年、第107巻、p.1253−1259
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【非特許文献12】Fredrikson,G.N.ら、「Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.」、2003年、第23巻、p.879−884
【非特許文献13】Binder,C.J.ら、「Nat.Med.」、2003年、第9巻、p.736−743
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【非特許文献15】Michelsen,K.S.ら「J.Immunol.」、2004年、第173巻、p.5901−5907
【非特許文献16】de Kleijn,D.およびPasterkamp,G.「Cardiovasc.Res.」、2003年、第60巻、p.58−67
【非特許文献17】Zhang,G.およびGhosh,S.「J.Clin.Invest.」、2001年、第107巻、p.13−19
【非特許文献18】Del Rio,L.ら「J Immunol.」、2004年、第172巻、p.6954−60
【非特許文献19】Xu,X.H.ら「Circulation」、2001年、第104巻、p.3103−3108
【非特許文献20】Edfeldt,K.ら「Circulation」、2002年、第105巻、p.1158−1161
【非特許文献21】Miller,Y.I.ら「J.Biol.Chem.」、2003年、第278巻、p.1561−1568
【非特許文献22】Walton,K.A.ら「J.Biol.Chem.」、2003年、第278巻、p.29661−29666
【非特許文献23】Arbour,N.C.ら「Nat.Genet.」、2000年、第25巻、p.187−191
【非特許文献24】Kiechl,S.ら「N.Engl.J.Med.」、2002年、第347巻、p.185−192
【非特許文献25】Kiechl,S.ら「Ann.Med.」、2003年、第35巻、p.164−171
【非特許文献26】Ameziane,N.ら「Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.」、2003年、第23巻、p.61−64
【非特許文献27】Boekholdt,S.M.ら「Circulation」、2003年、第107巻、p.2416−2421
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脈管の疾患のための従来の処置は、実質的な欠点を有する:多くは部分的にしか有効でなく、関連する状態の本当の治癒を提供するものはほとんどない。この分野において、アテローム性動脈硬化症を含む脈管の疾患を、予防、処置、および治癒するための方法の明確な必要性が存在したままである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願を通して参照される全ての文献の開示は、本明細書において参考として援用される。
【0009】
上記の関連技術の例、およびそれらの例に関連する限定は、例示的であることを意図されており、排他的であることを意図されない。関連技術の他の限定は、本明細書を読み図面をよく見れば当業者に明らかとなる。
【0010】
(発明の要旨)
以下の実施形態およびそれらの局面は、組成物および方法と組み合わせて記載され例証される。それらの組成物および方法は、例示的かつ例証的であることを意味され、範囲の限定となることを意味されない。種々の実施形態において、一つ以上の上記の問題が、低減されるかまたは取り除かれており、一方、他の実施形態は、他の改善を目的とする。
【0011】
toll様レセプター4(TLR4)および骨髄性分化因子88(MyD88)は、種々の疾患状態に関するシグナル伝達経路に関与することが公知である。そのような疾患状態としては、例えば、アテローム性動脈硬化症が挙げられる。種々の実施形態において、TLR4の機能およびMyD88シグナル伝達経路をTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターを投与することによって阻害するための組成物および方法が、開示される。
【0012】
非限定的な例による実施形態として、toll様レセプター4(「TLR4」)および/または骨髄性分化因子88(MyD88)の生物学的活性を阻害するための方法(例えば、それらの発現またはシグナル伝達を阻害することによる方法)が挙げられる。さらに、非限定的な例による実施形態は、疾患を処置する方法を提供し、その方法において、TLR4および/またはMyD88の阻害が有益な効果を有する。そのような疾患としては、例えば、アテローム性動脈硬化症および血栓症のような脈管疾患、血管形成および/またはステント(stenting)後の再狭窄、および、バイパス手術後の静脈−移植片疾患(vein−graft disease)が挙げられる。
【0013】
非限定的な例による別の実施形態としては、種々のペプチド模倣物(mimetics)を使用してMyD88細胞シグナル伝達経路を阻害する方法が挙げられる。この方法は、TLR4レセプターに結合する低分子のペプチド(すなわち、およそ10〜20アミノ酸のペプチド)の導入を伴い、それによってTLR4レセプターがMyD88に結合することもMyD88シグナルカスケードを誘発することも妨げる。この様式において、TLR4レセプターがMyD88に正しく結合し得ないので、MyD88シグナル伝達が遮断される。
【0014】
同様に、非限定的な例による別の実施形態としては、種々のペプチド模倣物(mimetics)を使用してTLR4細胞シグナル伝達経路を阻害する方法が挙げられる。この方法は、内因性MyD88に結合する低分子のペプチド(すなわち、およそ10〜20アミノ酸のペプチド)の導入を伴い、それによって内因性MyD88がTLR4に結合することもTLR4シグナルカスケードを誘発することも妨げる。この様式において、利用可能なTLR4模倣物が利用可能な内因性MyD88について競合するので、TLR4シグナル伝達が遮断される。
【0015】
非限定的な例による別の実施形態としては、抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体の導入を介してTLR4および/またはMyD88の発現を阻害する方法が挙げられる。そのような抗体は、任意の従来の機構を介して、哺乳動物においてTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための有効量で、哺乳動物に送達され得る。
【0016】
上記の例示的な局面および実施形態に加えて、図面の参照および以下の詳細な説明をよく読むことによって、さらなる局面および実施形態が明らかになる。
【0017】
例示的実施形態は、参照される図面において示される。本明細書において開示されるこれらの実施形態および図は、制限的であるよりむしろ例証的であるとみなされることが意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(詳細な説明)
本明細書において考察される実施形態は、toll様レセプター4(TLR4)および骨髄性分化因子88(MyD88)の活性および発現を阻害するための組成物および方法に基づく。種々の実施形態において、これらの方法は、TLR4および/またはMyD88の活性の阻害が患者に対して有益な効果(例えば、疾患の改善、その疾患の合併症の重篤度の緩和、その疾患の顕在化の予防、その疾患の再発の予防、単にその疾患の悪化の予防、または上述のいずれかに影響するための治療努力(たとえそのような治療努力が最終的に不首尾であるとしても))を有する任意の疾患を処置するために、使用され得る。TLR4および/またはMyD88の活性が、その疾患を含む病理学的状態の開始、悪化、または維持において役割を果たすことが公知であるかまたは推測されている疾患が、当該分野において公知である。アテローム性動脈硬化症、再狭窄、炎症、および他の脈管疾患が、例である。本発明の方法は、これらの疾患のいずれかを処置するために使用され得る。
【0019】
蓄積している証拠が、免疫系とアテローム性動脈硬化症との間の根本的な関連を示すが、これまでのところ、この証拠は主として間接的であった。本明細書において実証されるように、MyD88またはTLR4のいずれかの遺伝子欠損は、ApoE欠損マウスにおいて、大動脈アテローム性動脈硬化症を軽減した。さらに、MyD88またはTLR4の欠損は、より強い構造的安定性を示唆するプラーク組成の変化と関連していた。このことは、脂質およびマクロファージ内容物の減少、および炎症促進性酵素であるCOX−2の発現の著しい減少によって証拠付けられる。遺伝的MyD88欠損を有するマウスまたはこの欠損を有さないマウスに由来する内皮細胞(EC)を用いた細胞培養研究は、遺伝的なMyD88の欠損によって、白血球−EC接着が著しく妨げられることを示した。最後に、MyD88欠損またはTLR4欠損のアテローム保護的(atheroprotective)効果は、血清のコレステロールまたはリポタンパク質の変化に起因する二次的なものではないことが示された。なおさらに、循環する炎症促進性サイトカインIL−12および単球化学誘導タンパク質1(MCP−1)の減少の知見は、MyD88欠損およびTLR4欠損のアテローム保護的効果が、部分的には、全身性炎症の低減からもたらされ得ることを示唆する。集合的に、これらの結果は、直接的に、先天免疫シグナル伝達が、全身性効果および局所性効果の両方を有することを示す。これらの効果は、共に、アテローム性動脈硬化症の発症を著しく阻害し、より安定なプラーク表現型を促進する。
【0020】
MyD88は、全てのTLR(TLR3を除く)、ならびにIL−1レセプターおよびIL−18レセプターのシグナルを伝達すると考えられている。ApoE−/−の背景のIL−1β欠損マウスを使用した先行の研究(Kirii,H.ら(2003)Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.23,656−660)は、アテローム性動脈硬化症の程度の、穏かな30%の軽減を見出した。これは、MyD88およびApoEの両方を欠損したマウスに関して本明細書において考察される結果(図1)において観察された60%近くの軽減より、かなり小さい。この知見は、MyD88シグナルが、インタクトなIL−1βシグナル伝達に依存する効果に加えて、下流のアテローム発生促進性効果を媒介することを示唆する。インタクトなIL−1βシグナル伝達を備えるApoE−/−/TLR4−/−マウスを用いた結果は、この解釈と一致した。ApoE−/−/MyD88−/−マウスと比較して、ApoE−/−/TLR4−/−マウスは、より穏かだが有意なアテローム性動脈硬化症の病変の縮小(それぞれ、57%対24%)を示し、そして、マクロファージ浸潤およびMCP−1血清濃度の持続性の減少を示した。しかし、この穏かな縮小は、予測されていなかったわけではない。アテローム性動脈硬化症は、多要因性(multifactorial)であり、動的であり、脈管構造内において時間的および位置的に可変性が高い。多くの重要な寄与物が存在するので、この疾患の罹患率または範囲のいずれかにおける絶大な可変性の原因である、単独の原因は存在しない。本明細書において考察されるこれらの結果は、これらの見解と一致し、TLR4シグナル伝達およびMyd88シグナル伝達は、一つの原因であることを示すが、また、インタクトな免疫機構が、この疾患に二次的に関連しているというよりもむしろ、この疾患の病因の重要な寄与物であることを、直接的に示す。加えて、MyD88を使用する他のTLRもまた、アテローム発生に関与し得る。近年、数種の細菌性またはウイルス性の微生物が、アテローム発生に関与しているとみなされており、これらの微生物は、例えば、TLR2に対するリガンドを含有する(Binder,C.J.ら(2002)Nat.Med.8,1218−1226;Libby,P.,Ridker,P.M.およびMaseri,A.(2002)Circulation 105,1135−1143;Muhlestein,J.B.およびAnderson,J.L.(2003)Cardiol.Clin.21,333−362)。
【0021】
MyD88欠損は、2型Tヘルパー応答への転換と関連している(Schnare,M.ら(2001)Nat.Immunol.2,947−950;Muraille,E.ら(2003)J.Immunol.170,4237−4241;Kaisho,T.ら(2002)Int.Immunol.14,695−700)。この概念に従って、MyD88欠損が、IL−12p40の血清濃度の低下に関連するという観察がなされた。COX−2、IL−12、およびMCP−1もまた、試験された。なぜならば、これらの全てがアテローム発生に関与しており、TLR4シグナル伝達およびMyD88シグナル伝達の下流の標的であるからである(Alexopoulou,L.ら(2001)Nature 413,732−738;Rhee,S.H.およびHwang,D.(2000)J.Biol.Chem.275,34035−34040;Kawai、T.ら(2001)J.Immunol.167,5887−5894)。IL−12は、マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の進行に直接的に関連するので、MyD88欠損マウスにおいて観察されるがTLR4欠損マウスにおいては観察されないIL−12p40のレベルの低下は、部分的に、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて観察されるアテローム性動脈硬化症のさらなる減少の原因であり得る(Lee,T.S.ら(1999)Arterioscler.Thomb.Vasc.Biol.19,734−742;Davenport,P.およびTipping,P.G.(2003)Am.J.Pathol.163,1117−1125)。TLR4欠損もしくはMyD88欠損はまた、重要なアテローム発生促進性ケモカインであるMCP−1の循環するレベルの著しい低下と関連していた(Boring,L.ら(1998)Nature 394,894−897;Gu,L.ら(1998)Mol.Cell 2,275−281)。MCP−1欠損はまた、ApoE−/−/MyD88−/−マウスおよびApoE−/−/TLR4−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の軽減に寄与した可能性がある。なぜならば、近年の研究によって、MCP−1(またはそのレセプターCCR2)の遺伝子欠損が、ApoEレセプター欠損マウスまたはLDLレセプター欠損マウスにおける、マクロファージの浸潤の減少、およびアテローム性動脈硬化症の軽減に関連していることが示されたからである(Boring,L.ら(1998)Nature 394,894−897;Gu,L.ら(1998)Mol.Cell 2,275−281)。さらに、近年の研究によって、不安定狭心症および急性心筋梗塞が、循環する単球におけるhTLR4の下流での発現の増強とシグナル伝達事象の増強に関連していることが示され、このことは、hTLR4の活性化が、免疫によって媒介されるアテローム性動脈硬化症の進行における、シグナル伝達機構であることを示唆する(Methe,H.ら(2005)Circulation)。
【0022】
アテローム性動脈硬化症病変におけるCOX−2の発現の増加は、薬理学的および直接的な遺伝子的証拠と合わせて、COX−2がアテローム性動脈硬化症病変形性を促進することを示唆する(Schonbeck,U.ら(1999)Am.J.Pathol.155,1281−1291;Burleigh,M.E.ら(2002)Circulation 105,1816−1823;Rott,D.ら(2003)J.Am.Coll.Cardiol.41,1812−1819;Belton,O.A.ら(2003)Circulation 108,3017−3023;Olesen,M.ら(2002)Scand.Cardiovasc.J.36,362−367;Verma,S.ら(2001)Circulation 104,2879−2882)。これらのデータと一致して、MyD88欠損が、アテローム性動脈硬化症のプラークにおけるCOX−2免疫反応性の著しい減少をもたらすことが見出された。この結果は、少なくとも部分的に、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて観察されるアテローム性動脈硬化症の阻害の原因であり得る。
【0023】
アテローム発生の経過の重要な初期事象の一つは、白血球−EC接着の増強である。MyD88欠損ECは、MM−LDL刺激に応答して白血球接着を支持する能力の損傷を示すが、TNF−α刺激に応答して白血球接着を支持する能力には損傷を示さないことが見出された。先行のデータ(Shi,W.ら(2000)Circ.Res.86,1078−1084)は、C57BL/6Jマウス由来のECが、MM−LDLに応答して炎症促進性分子の実質的な誘導を示し、一方、C3H/HeJマウス由来のECは、このような誘導を示さないことを示唆した。共に、これらのデータは、MyD88が、EC上、単核性の食細胞上、またはこれらの両方の、細胞接着分子の発現および/または機能を調節し得ることを示唆する。しかし、MyD88および/またはTLR4が、単球からマクロファージへの転換、または動脈壁内での単球性食細胞の生存もしくは残留のような過程にも影響を及ぼし得る可能性は、除外することが出来ない。
【0024】
アテローム性動脈硬化症の発症におけるNF−κBの関与についての証拠は、実質的である(Collins,T.およびCybulsky,M.I.(2001)J.Clin.Invest.107,255−264)。近年の研究は、NF−κB経路のマクロファージ特異的な阻害が、おそらくはマクロファージによるIL−10の産生の減少に起因して、マウスにおいてより重篤なアテローム性動脈硬化症をもたらすことを報告した(Kanters,E.ら(2003)J.Clin.Invest.112,1176−1185)。しかし、本明細書において考察されるように、同腹子コントロールと比較して、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいてIL−10の発現に差異は存在しなかった。より近年に、アテローム発生促進性LDLレセプターがヌルであるレシピエントマウスへのp50欠損ドナーマウスの骨髄移植は、アテローム性動脈硬化症の軽減をもたらすことが、報告された(Kanters,E.ら(2004)Blood 103,934−940)。立証されるように、アテローム性動脈硬化症におけるNF−κBの関与は、完全には明らかにされていない。
【0025】
本明細書において考察される結果は、ApoE−/−マウスおよびApoE−/−/lpsdマウスの間で、アテローム性動脈硬化症の程度に差異が存在しないことを示唆した先の報告(Wright,S.D.ら(2000)J.Exp.Med.191,1437−1442)と対照的である(ApoE−/−/lpsdマウスは、ApoE−/−とLPS低応答性株であるC57BL/10ScNとの戻し交配によってもたらされた株である)。しかし、本明細書において考察される結果は、アテローム性動脈硬化症を直接的に測定しているが、一方、記述される研究(Wright,S.D.ら(2000)J.Exp.Med.191,1437−1442)は、全大動脈中のコレステリルエステル含有量から、アテローム性動脈硬化症の負荷を概算した。加えて、ApoE−/−/lpsdマウスは、部分的にのみ、TLR4−/−遺伝子型を反映する。なぜならば、ApoE−/−/lpsdマウスはまた、機能が未知である2個のさらなる遺伝子も欠失しているからである(Qureshi,S.T.ら(1999)J.Exp.Med.189,615−625)。さらに、偶発突然変異に起因する非機能的TLR4を有する異なるLPS低応答性株であるC3H/HeJ(Poltorak,A.ら(1998)Science 282,2085−2088)は、アテローム性動脈硬化症の発症に対して耐性である(Shi,W.ら(2000)Circ.Res.86,1078−1084)。この知見は、本明細書において考察される結果と一致している。
【0026】
要約すると、本明細書において考察されるこれらの種々の実施形態は、アテローム性動脈硬化症易発性の高コレステロール血症(hypercholesterolemic)マウスであるApoE−/−(このマウスはまた、アダプター分子であるMyD88またはその上流のレセプターであるTLR4のいずれかにヌル変異を保有する)が、循環コレステロールレベルまたはリポタンパク質プロフィールを有意に変化させることなく、大動脈アテローム性動脈硬化症の軽減、プラークの脂質内容物の減少、プラークのマクロファージファージ浸潤の減少、およびシクロオキシゲナーゼ(COX)−2免疫応答性の低下を示すことを実証することによって、先行技術の所見を発展させる。証拠は、MyD88欠損が、循環する炎症促進性分子であるIL−12p40および/またはMCP−1のレベルの低下、ならびにMM−LDLに応答しての白血球−EC接着(これは、MyD88欠損のアテローム保護的効果に寄与し得る)の低下をもたらすことを示唆する。これらの結果は、TLR4およびMyD88によって媒介されるシグナル伝達を、高コレステロール血症と、炎症と、アテローム性動脈硬化症との間の中心的繋がりとして関連付け、そして、アテローム性動脈硬化症の予防及び治療のための革新的な治療標的の開発のための基礎を提供する(Michelsen,K.S.ら(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101,10679−10684)。そのようなものとして、TLR4および/またはMyD88を阻害することが公知である利用可能な化合物は、ヒトの疾患および傷害の処置において使用され得る。
【0027】
従って、本明細書において考察される実施形態は、TLR4−/−の動物およびMyD88−/−の動物が、それらの冠循環において、野性型TLR4の動物および野性型MyD88の動物より、実質的により少ないアテローム性動脈硬化症のプラークを生じるという、驚くべき知見に基づく。本明細書において考察される例示的局面は、種々の疾患状態の処置のためにTLR4およびMyD88の機能を阻害する治療的組成物および治療方法に関する。種々の実施形態はまた、ヒトまたは動物の医薬における使用のために意図される薬学的組成物中でのこれらの使用に関する。
【0028】
種々の実施形態において、多様なTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターが、TLR4および/またはMyD88の生物学的活性を阻害するために使用される。本発明に従うこれらのTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターは、任意の疾患状態を処置するために使用され得る。「疾患状態」は、動物(これは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む)の任意の不健康状態を含み、そのような疾患状態としては、炎症性の病気(illness)または疾患(disease)の種々の形態(例えば、アテローム性動脈硬化症、移植性アテローム性動脈硬化症(transplant atherosclerosis)、静脈移植片アテローム性動脈硬化症(vein−graft atherosclerosis)、ステント後再狭窄(stent restenosis)、および血管形成術後再狭窄(angioplasty restenosis)、ならびにアテローム性動脈硬化症が引き起こす他の心臓血管疾患(本明細書の以下において「脈管疾患」))が挙げられる。「脈管疾患」は、動物(これは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む)の任意の不健康状態をさらに含み、このような脈管疾患としては、以下が挙げられる:狭心症およびそのサブタイプ(例えば、不安定狭心症、および異型狭心症);脳、心臓、骨、および腸管のような器官を冒す虚血、および虚血と関連する状態(例えば、脳卒中、一過性脳虚血発作、心臓発作、骨壊死、結腸炎、腎機能不全(poor kidney function)、および鬱血性心不全);体肢への血液循環の減少、および血液循環の減少の合併症(例えば、遅い創傷治癒、感染、および間欠性跛行);アテローム性動脈硬化症自体(アテローム性動脈硬化症病変の血管形成術後またはステント植え込み術後の再狭窄を含む);バイパス手術後の静脈移植片アテローム性動脈硬化症;移植性アテローム性動脈硬化症;ならびに、アテローム性動脈硬化症によって引き起こされるか、アテローム性動脈硬化症と関連する他の疾患。他の適用は、当業者によって認識され、従って、本明細書において包含される。哺乳動物において疾患状態を「処置する」または哺乳動物における疾患状態の「処置」としては、以下が挙げられる:(1)その疾患にかかりやすくなっているがその疾患をまだ経験しないかもしくはその疾患の症状を示さない哺乳動物において、その疾患が起こることを予防すること;(2)その疾患を阻害すること、すなわち、その疾患の発症を止めること;(3)その疾患を軽減すること、すなわち、その疾患の退行を引き起こすこと、または(4)被験体にとって有益な任意の効果を提供すること。
【0029】
種々の実施形態において、これらのインヒビターは、哺乳動物に、種々の次の実施形態において示される手段のような任意の適切な手段によって投与され得る。そのようなインヒビターとしては、TLR4および/またはMyD88の生物学的活性の阻害をもたらす任意の化合物、薬学的組成物または他の組成物が挙げられ得る。
【0030】
種々の実施形態において、本発明に従うこれらのTLR4インヒビターおよび/またはMyD88インヒビターは、治療有効量において投与され得る。「治療有効量」とは、疾患を処置するために哺乳動物に投与された場合に、その疾患のためのそのような処置をもたらすために十分な量を意味する。「有益な効果」とは、本明細書において使用される場合、患者における任意の効果を指し、そのような効果としては、例えば、以下が挙げられる:疾患の緩和、その疾患の合併症の重篤度の低減、その疾患の発現の予防、その疾患の再発の予防、単なるその疾患の悪化の予防、または、上述のいずれかに影響するための治療努力(たとえそのような治療努力が最終的に不首尾であるとしても)。
【0031】
種々の実施形態において、本明細書において考察される組成物および方法は、既に存在するアテローム性動脈硬化症の軽減、まだ形成されていないアテローム性動脈硬化症の阻害、または存在するアテローム性動脈硬化症の軽減および新しいアテローム性動脈硬化症の阻害の両方から利益を受け得る、任意の患者において使用され得る。上で考察される治療指標において、これらの組成物は、等業者にとって公知の他の治療的介入と組み合わせて、有益に使用され得る。併用治療によって脈管疾患を処置するための、本発明の種々の実施形態において記載されるインヒビターの使用はまた、一般的な抗炎症薬、サイトカイン、または免疫モジュレーターと組み合わせての、哺乳動物への本発明の化合物の投与を包含する。
【0032】
種々の実施形態において、種々のペプチド模倣物を使用してTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための方法が、提供される。一実施形態において、この方法は、TLR4レセプターに結合しそれによってこれらのレセプターがMyD88に結合することを妨げる低分子ペプチド(すなわち、およそ10〜20アミノ酸のペプチド)の導入を包含する。別の実施形態において、この方法は、内因性MyD88に結合する低分子ペプチドの導入を包含する。短い、TLR4および/またはMyD88の重複するセグメント(segment)(例えば、長さがおよそ10〜20アミノ酸)が、分離され得、どの個々のセグメントがMyD88分子への結合によって(TLR4模倣物の場合)、またはTLR4レセプターへの結合(MyD88模倣物の場合)によって、TLR4および/またはMyD88の細胞シグナル伝達をもたらすかが試験され得る。分離に続いて、これらのセグメントは、複製されて、そのセグメントが、少なくとも、TLR4レセプターに結合するMyD88の一部、またはMyD88に結合するTLR4レセプターの一部を含むか否かを決定するために試験される。本明細書において考察される方法に従う使用に適したセグメントは、TLR4レセプターに結合するMyD88の少なくとも一部、またはMyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部を含み、それによって、このセグメントの個々の複製物の十分量の投与は、TLR4および/またはMyD88のシグナル伝達を妨げる。投与されると、セグメントは、好ましくは、TLR4レセプターのMyD88結合部位に結合するか、または内因性MyD88に結合し、それによってTLR4レセプターがMyD88の対応部位に結合することを妨げるか、または内因性MyD88がTLR4レセプターの対応部位に結合することを妨げる。このことは、TLR4および/またはMyD88の細胞シグナル伝達を、有意に妨げる。
【0033】
本発明の方法に従うと、TLR4レセプターに結合するMyD88の少なくとも一部を実際に含むセグメントが、疾患状態の処置のために患者に投与され得る。種々の実施形態において、このMyD88の一部は、このTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメインに結合し得る。同様に、本明細書において考察される別の方法に従うと、内因性MyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部を実際に含むセグメントが、疾患状態の処置のために患者に投与され得る。種々の実施形態において、このTLR4レセプターの一部は、このTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメインに対応し得る。さらに、TLR4および/またはMyD88のペプチド模倣物は、多様な薬学的組成物中に処方され得、それらのいずれか一つが、本発明の方法に従う使用に適し得ることが、当業者によって容易に理解される。
【0034】
投与は、任意の適切な手段によって行われ得、そのような手段として、以下を介する手段が挙げられる:経口形態(例えば、カプセル剤、錠剤、液剤、もしくは懸濁剤);静脈内形態;注射可能形態;移植可能形態(例えば、ステント被覆、徐放機構、もしくは生分解性ポリマーユニット);または、それによって活性因子もしくは治療因子が患者に送達され得る、任意の他の適切な機構。その投薬量は、投与の選択される形態に従って同様に決定され、その投薬量のレベルは、最も適切な投与手段が過度の実験なしに容易に確認され得るように、過度の実験なしに容易に確認され得る。
【0035】
種々の実施形態において考察されるようなペプチド模倣物とは、TLR4レセプターおよび/またはMyD88分子の、任意の構造アナログを指す。適切なペプチド模倣物の例としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:CRX−675(Corixa;Seattle,WAより入手可能)、RP105(Divanovic,S.ら(2005)Nature Immunology)、ST2エフェクター分子(Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)、種々のワクシニアウイルスORF類(例えば、A46RおよびA52R:Bowie,A.ら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,10162−10167)、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン(Bartfai,T.ら(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100,7971−7976)。他のペプチド模倣物は、当業者によって容易に認識される。
【0036】
種々の実施形態において、抗MyD88抗体の導入を介してMyD88の発現を阻害する方法が提供される。他の実施形態において、抗TLR4抗体の導入を介してTLR4の発現を阻害する方法が提供される。任意の適切な抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体は、本発明のこの局面と組み合わせて使用され得、以下を含むが、決してそれらに限定されない:抗TLR4抗体および/もしくは抗MyD88抗体、ならびにそれらの任意の適切な誘導体、それらの等価物、または抗TLR4抗体および/もしくは抗MyD88抗体と同様の様式で機能する活性部位を有する化合物(これらの化合物は、天然に存在する化合物であるか、または合成化合物である);(これらの全ては、本明細書の以下において句「抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体」内に含まれる)。種々の実施形態において、これらの抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体は、TLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメイン、またはTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプター結合ドメインに結合するMyD88の一部を標的化し得る。
【0037】
抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体の、本発明の方法を達成するために必要な適当量、ならびに、その抗体を哺乳動物に送達する最も便利な経路は、当業者によって、過度の実験なしに決定され得る。さらに、抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体が、種々の薬学的組成物中に処方され得、それらのいずれか一つが本発明の方法に従う使用に適切であり得ることが、当業者によって容易に理解される。
【0038】
そのような抗体は、任意の従来の機構を介して、哺乳動物におけるTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための治療有効量において、哺乳動物に送達され得る;この送達の機構およびTLR4および/またはMyD88の発現を阻害するために必要な抗体の量の両方は、過度の実験なしに容易に確認される。
【0039】
適切な抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体の例としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:抗TLR4抗体製品番号ab8376、ab2891、ab6563、ab6726、ab6728、ab6729、ab6785、ab6788、ab7002、ab7018、およびHTA125(Abcam;Cambridge,UKより入手可能);MTS510(Monosan;Netherlandsより入手可能);抗MyD88抗体製品番号ab2064およびab2068(Abcamより入手可能);抗MyD88抗体カタログ番号2125(ProSci Incorporated;Poway,CAより入手可能);抗MyD88抗体製品番号M9934(Sigma;St.Louis,MOより入手可能)。他の抗TLR4抗体および/または抗MyD88抗体は、当業者によって容易に認識される。
【0040】
種々の実施形態において、本発明の抗体は、スクリーニングされ得、TLR4および/またはMyD88の標的領域への結合におけるそれらの抗体の有効性を決定され得る。適切である抗血清をスクリーニングするための技術は、当該分野において公知である(Sambrook,J.& D.W.Russel、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2巻、第3版、A14.50−14.51(2001))。例えば、一般的な技術としては、抗血清と目的のタンパク質との反応性について、ウェスタンブロット分析、免疫沈降アッセイ、または放射免疫アッセイを行うことが挙げられる。
【0041】
低分子アンタゴニストの出現によって、アテローム性動脈硬化症に基づく病因の処置におけるTLRシグナル伝達の治療的阻害の効力を評価することが可能となり得る。低分子アンタゴニストは、当該分野において公知である(Bartfai,T.ら(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100,7971−7976)。特に、NF−κBを活性化しないtoll−インターロイキン1レセプター(TIR)スーパーファミリーの分子は、TLR4シグナル伝達を負に調節することが示されている(Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)。さらに、種々の組成物が、NF−κBを遮断し、TLRシグナル伝達を負に調節することが、当該分野において公知である(O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403;O’Neill,L.(2004)Trends in Immunology 25,687−693;Liew,F.Y.ら(2005)Immunol Lett.96,27−31)。他の組成物およびインヒビターは、当業者によって認識され、従って、本明細書において包含される。なおさらに、シグナル伝達経路に拮抗させるために使用されるレセプターリガンドおよび抗体のアナログの例は、当該分野において公知である。例えば、特異的なケモカインに対する中和抗体、および、レセプターを活性化して機能的応答を惹起することなく特異的なケモカインと結合ドメインについて競合する、レセプターリガンドのアンタゴニストが、当該分野において議論される(Howardら(1996)Trend Biotechnol 14,46−51)。具体的には、抗ケモカイン抗体の使用は、多数の動物モデルにおいて炎症を抑えることが示されている(例えば、ブレオマイシン誘導性肺線維症における抗MIP−1α(Smithら(1994)Leukocyte Biol 57,782−787);再灌流傷害における抗IL−8(Sekidoら(1995)Nature 365,654−657)、および、糸球体腎炎のラットモデルにおける抗MCP−1(Wadaら(1996)FASEB J 10,1418−1425))。さらに、ケモカインレセプターの機能の数種の低分子アンタゴニストが、科学文献および特許文献において報告されている(White,J.(1998)Biol Chem 273,10095−10098;Hesselgesser,J.(1998)Biol Chem 273,15687−15692;Brightら(1998)BioorgMed Chem Lett 8,771−774;Lapierre,26th Natl Med Chem Symposium、6月14日〜18日、Richmond(Va.)、USA(1998);Forbesら(2000)Bioorg Med Chem Lett 10,1803−18064;Katoら、WO 97/24325;Shiotaら、WO 97/44329;Nayaら、WO 98/04554;Schwenderら、WO 98/02151;Hagmannら、WO 98/27815;Connorら、WO 98/06703;Wellingtonら、米国特許第6,288,103号)。
【0042】
本発明によって企図される一つのそのような代替的実施形態としては、種々のスタチンを使用してTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための方法(Methe,H.ら(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.25,1−7)が挙げられる。アトロバスタチン(Atorvastatin:Pfizer;Ann Arbor,MIから入手可能)およびシンバスタチン(Merck;West Point,PAから入手可能)が、例である。任意の適切なスタチンが、本発明のこの局面と組み合わせて使用され得、そのようなスタチンとしては、以下が挙げられるが、それらに決して限定されない:TLR4シグナル伝達経路および/もしくはMyD88シグナル伝達経路に作用することが現在公知であるかまたは将来において発見されるスタチン、およびそれらの任意の適切な誘導体、それらの等価物、またはスタチンと同様の様式で機能する活性部位を有する化合物(これらの化合物は、天然に存在する化合物であるか、もしくは合成化合物である);(これらの全てが、本明細書の以下において句「スタチン」の内に含まれる)。TLR4シグナル伝達経路および/もしくはMyD88シグナル伝達経路のなお他のインヒビターが、本発明に含まれ、例えば、以下が挙げられるが、それらに限定されない:ST2エフェクター分子(Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)、抗アポトーシス性(anti−apoptotic)タンパク質A20(Arvelo,M.B.ら(2002)Hepatology 35,535−543)、可溶性TLR4、作用性の脂質A(agonistic lipid A)およびそのアナログ(O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403)、I−κB−2のインヒビター(Epinat,J.C.ら(1999)Oncogene 18,6896−6909;Haefner,B.(2002)Drug Discov Today 7,653−663)、サリチル酸塩およびパルテノライド(parthenolide)(Koop,E.ら(1994)Science 265,956−959;Almawi,W.Y.ら(2002)J Mol Endocrinol 28,69−78)、PS−1145(Epinat,J.C.ら(1999)Oncogene 18,6896−6909)、p38およびJNKのインヒビター(Boehm,C.J.ら(2000)Expert Opin Ther Pat 10,25−37;English,J.M.ら(2002)Trends Pharmacol Sci 23,40−45)、IL−1レセプター関連キナーゼ4のインヒビターおよびTGF−βによって活性化されるキナーゼ(TGF−β activated kinase)1のインヒビター。他の組成物およびインヒビターは、当業者によって認識され、従って、本明細書において包含される。
【0043】
スタチンおよび上述のインヒビターの、本発明の方法をもたらすために必要な適当量、およびこれらのスタチンおよびインヒビターを哺乳動物に送達する最も便利な経路は、当業者によって、過度の実験なしに決定され得る(Methe,H.ら(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.25,1−7;O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403;Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)。さらに、スタチンが、種々の薬学的組成物中に処方され得、それらのいずれか一つが、本発明の方法に従う使用に適切であり得ることは、当業者によって容易に理解される。
【0044】
そのようなスタチンおよび上述のインヒビターは、任意の従来の機構を介して、哺乳動物においてTLR4シグナル伝達および/またはMyD88シグナル伝達を阻害するための治療有効量において、哺乳動物に送達され得る;この送達の機構、ならびにTLR4および/またはMyD88の発現を阻害するために必要なスタチンの量の両方は、余分の実験なしに、容易に確認され得る(Methe,H.ら(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.25,1−7;O’Neill,L.(2003)Current Opinion in Pharmacology 3,396−403;Brint,E.K.ら(2004)Nature Immunology 5,373−379)。
【0045】
種々の実施形態において、本発明は、薬学的に受容可能な賦形剤と、本明細書において考察される例示的局面と関連して使用される少なくとも一種のインヒビターの治療有効量とを含有する、薬学的組成物を提供する。「薬学的に受容可能な賦形剤」とは、薬学的組成物の調製において有用な賦形剤を意味し、一般に安全であり、非毒性であり、そして望ましく、さらに、動物への使用のために、ならびにヒトの薬学的使用のために受容可能である賦形剤を含む。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体であり得るか、またはエアロゾル組成物の場合においては、気体であり得る。
【0046】
種々の実施形態において、本発明に従う薬学的組成物は、任意の投与経路を介する送達のために処方され得る。「投与経路」とは、当該分野において公知の任意の投与経路を指し得、そのような投与経路としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:エアロゾル投与経路、鼻投与経路、経口投与経路、経粘膜投与経路、経皮投与経路、または非経口投与経路。「非経口」とは、一般に注射に関連する投与経路を指し、そのような投与経路としては、以下が挙げられる:眼窩内投与経路、注入投与経路、動脈内投与経路、関節内(intracapsular)投与経路、心臓内投与経路、皮内投与経路、筋肉内投与経路、腹腔内投与経路、肺内投与経路、脊髄内投与経路、胸骨内(intrasternal)投与経路、くも膜内投与経路、子宮内投与経路、静脈内投与経路、くも膜下投与経路、被膜下(subcapsular)投与経路、皮下投与経路、経粘膜投与経路、または経気管投与経路。非経口経路を介する場合、この組成物は、注入もしくは注射のためには、液剤もしくは懸濁剤の形態であり得るか、または、凍結乾燥された散剤の形態としてあり得る。
【0047】
本発明に従う薬学的組成物はまた、任意の薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。「薬学的に受容可能なキャリア」とは、本明細書において使用される場合、一つの組織、器官、または身体の部分から、別の組織、別の器官、または身体の別の部分への、目的の化合物の運搬または輸送に関与する、薬学的に受容可能な物質、組成物、またはビヒクルを指す。例えば、このキャリアは、液体または固体の、充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、もしくはカプセル化物質、またはそれらの組み合わせであり得る。このキャリアの各々の成分は、この処方物の他の成分と適合性でなければならないという点において、「薬学的に受容可能」でなければならない。また、このキャリアの各々の成分は、接触し得る任意の組織または器官に接触する使用に適していなければならない。このことは、このキャリアの各々の成分が、毒性、刺激、アレルギー性応答、免疫原性、またはその治療上の利点を過剰に上回る任意の他の合併症の危険性を有してはならないことを意味する。
【0048】
本発明に従う薬学的組成物はまた、カプセル化され得るか、錠剤化され得るか、または経口投与のために乳濁剤またはシロップ剤に調製され得る。薬学的に受容可能な固体もしくは液体のキャリアが、この組成物を強化もしくは安定化するために、またはこの組成物の調製を容易にするために、添加され得る。液体のキャリアとしては、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、グリセリン、食塩水、アルコール、および水が挙げられる。固体のキャリアとしては、デンプン、乳糖、硫酸カルシウム、脱水剤(diydrate)、石膏、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸、滑石、ペクチン、アラビアゴム、寒天、またはゼラチンが挙げられる。また、キャリアとしては、徐放物質(例えば、単独または蝋と共に、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレート)が挙げられ得る。
【0049】
薬学的調製物は、調剤の従来の技術に従って作製され、そのような技術は、以下の工程を包含する:錠剤形態のためには、粉砕(milling)、混合、造粒、および必要な場合は、圧縮の工程;または、硬質ゼラチンカプセル形態のためには、粉砕、混合、および充填の工程。液体のキャリアが使用される場合、この調製物は、シロップ剤、エリキシル剤、乳濁剤、または水性もしくは非水性の懸濁剤の形態であり得る。このような液体処方物は、直接的に経口で、または柔らかいゼラチンカプセル中に充填されて、投与され得る。
【0050】
本発明に従う薬学的組成物は、治療有効量で送達され得る。正確な治療有効量とは、所与の被験体において、処置の効力に関して、最も有効な結果を生じるその組成物の量である。この量は、種々の要因に依存して変化し、そのような要因として、以下が挙げられるが、それらに限定されない:その治療化合物の特徴(活性、薬学動態学、薬力学、バイオアベイラビリティを含む)、その被験体の生理学的状態(年齢、性別、疾患の型および段階、一般的な身体状態、所与の投薬量に対する応答性、および医薬の型を含む)、その処方物中の一種または拭く数種の薬学的に受容可能なキャリアの性質、および投与経路。臨床学および薬学の分野の当業者は、慣用的な実験を介して(例えば、化合物の投与に対する被験体の応答をモニタリングし、それに従って投薬量を調整することによって)治療有効量を決定し得る。さらなる手引きについては、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro編、第20版、Williams & Wilkins PA,USA)(2000)を参照されたい。
【実施例】
【0051】
(実施例1:ApoE/MyD88のダブルノックアウトマウスおよびApoE/TLR4のダブルノックアウトマウスの作製)
ApoE欠損C57BL/6マウスを、The Jackson Laboratoryから入手した。MyD88−/−マウスおよびTLR4−/−マウスを、S.Akira(Osaka University,Osaka)の好意によって入手した。両方の株を、4世代にわたってC57BL/6株中に戻し交配した。MyD88−/−マウスおよびTLR4−/−マウスを、ApoE−/−のC57BL/6マウスと交配した。ヘテロ接合体のマウスを、交雑(intercross)し、MyD88+/+、+/−、−/−のマウス、ならびにTLR4+/+および−/−のマウスの組み合わせを有する、ホモ接合体のApoE−/−マウスを作製した。このプロセスは、合計5世代のC57BL/6背景への戻し交配を生じる。雄および雌のマウスに、高(0.15%)コレステロール食(Harlan Teklad,Madison,WI)を、6ヶ月間にわたり与えた。
【0052】
(実施例2:大動脈および大動脈洞におけるアテローム性動脈硬化症の評価)
大動脈を切除し、付着した(外膜性の)脂肪を取り除いて、次いでHistoCHOICE(Amrecso;Solon,OHより入手した)中で固定した。全大動脈を、大動脈弓から大動脈分岐まで縦方向に切開し、正面向きで標本にし、脂質をOil red Oで染色した。心臓を、OCTコンパウンド(Tissue Tek,Sakura;Torrance,CAより入手した)に包埋し、大動脈洞の横断切片をOil red Oで染色した。病変領域を、IMAGEPRO PLUS(Media Cybernetics;Silver Spring,MDより入手した)で定量した。画像解析を、これらのマウスの遺伝子型に対してマスクされた(blinded)訓練された観察者によって行った。アテローム性動脈硬化症のプラーク内へのマクロファージの浸潤を評価するために、大動脈洞の凍結切片を固定し、3%の過酸化水素と共にインキュベートし、透過処理(permeabilize)した。これらの切片を、マクロファージ特異的抗体であるMOMA−2、またはコントロールIgG抗体(Serotec;Raleigh,NCより入手した)と共にインキュベートした。可視化のために、3−アミノ−9−エチルーカルバゾル色原体(DAKO;Carpinteria,CAより入手した)を、基質として使用した(Fredrikson,G.N.ら(2003)Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.23,879−884)。MOMA−2マクロファージ免疫陽性領域を、IMAGEPRO PLUSで定量した。
【0053】
(実施例3:COX−2染色)
切片を、0.1MのTris・HCl/0.15MのNaCl/0.5%のブロッキング試薬(TNBブロッキング緩衝剤)中でブロッキングし、TNBブロッキング緩衝剤中で希釈したCOX−2一次抗体またはコントロールのIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz,CAより入手した)と共に、4℃で一晩インキュベートし(1:5,000希釈)、その後、ストレプトアビジン−西洋ワサビペロキシダーゼ複合体と共にインキュベートした。シグナルを、チラミド(tyramide)シグナル増幅キット(NEN Life Science Products;Boston,MAより入手した)を、製造者の推奨に従って使用することによって増幅し、切片を、100nMのSYTOXグリーン(Molecular Probes;Eugene,ORより入手した)で、核について対比染色した。
【0054】
(実施例4:脂質プロフィール)
マウスから、一晩の絶食の後で、屠殺時に血清を得た。総コレステロール濃度を、比色分析アッセイ(infinity cholesterol reagent、Sigma Diagnostics;St.Louis,MOより入手した)を使用して、二連で決定した。トリグリセリド濃度を、L型トリグリセリドHアッセイを製造者の指示書(Wako Chemicals USA;Richmond,VAより入手した)に従って使用することによって決定した。リポタンパク質プロフィールを、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用することによって決定した。
【0055】
(実施例5:単離されたマウス大動脈内皮細胞(Ec)における機能研究)
MyD88−/−マウスおよびMyD88+/+マウス由来の胸大動脈を、洗浄し、長さ3mmの環に切断した。これらのセグメントを、裏返しにし、I型コラーゲン(BD Biosciences;Bedford,MAより入手した)でコーティングした組織培養皿中に置き、20%のFBS(Omega Scientific;Tarzana,CAより入手した)、1%の抗生物質/抗真菌性物質の溶液(Invitrogen;Carlsbad,CAより入手した)、1単位/mlのヘパリン(Sigmaより入手した)、および60μg/mlのEC増殖補給剤(Upstate;Charlottesville,VAより入手した)で補充されたMCDB131(Invitrogenより入手した)中でインキュベートした。脈管の環を、細胞の発生物が観察されたらすぐに取り除いた。細胞の同一性を、フォン・ヴィレブランド因子(DAKOより入手した)での染色によって、および1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニン(tetramethylindocarbocyanine)−アセチル化LDL(Molecular Probesより入手した)取り込み実験によって、確認した(ECの純度>95%)。接着アッセイのために、ECをコンフルエンシーまで増殖させた。これらの細胞を、1%のリポタンパク質除去血清を含有する培養培地中で6時間にわたって、MM−LDL、ネイティブなLDL、LPS、または腫瘍壊死因子(TNF)−αで刺激した。インキュベーション後に、細胞を血清を含まない培地で洗浄し、5μMの2’,7’−ビス−(2−カルボキシエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセイン(carboxyfluorescein)、アセトキシメチルエステル(Molecular Probesより入手した)で標識したヒト末梢血液単核細胞と共に1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、0.5NのNaOHで溶解した。蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダー(fluorescence microplate reader)において測定した(励起、485nm;発光(emmission)、528nm)。
【0056】
(実施例6:サイトカインおよびケモカインの血清レベル)
IL−10、IL−12p40、MCP−1、およびケモカインであるKCの、マウスの血清中の濃度を、ELISAによって、製造者の指示書(IL−10、IL−12p40、およびMCP−1についてはBD Biosciencesより入手し、KCについてはR & D Systemsより入手した)に従って、測定した。
【0057】
(実施例7:統計学的解析)
データを、平均値±SDとして表した。統計学的有意を、ボンフェローニ補正を用いた一要素(one−factor)ANOVA、およびスチューデントt検定によって決定した。P<0.05を、統計学的に有意と見なした。
【0058】
(実施例8:MyD88欠損は、ApoE−/−マウスにおける循環コレステロールプロフィールまたは循環リポタンパク質プロフィールを変化させない)
アテローム性動脈硬化症の発症についてのMyD88の役割を研究するために、ApoE−/−マウスとMyD88−/−マウスとを交雑し、類遺伝子性(congenicity)を増強し、分散の二次的な原因を減少させるために、C57BL/6株に少なくとも5世代にわたって戻し交配することによって、ダブルノックアウトマウスを作製した。ApoE−/−/MyD88−/−ならびに同腹仔コントロール(ApoE−/−/MyD88+/−およびApoE−/−/MyD88+/+)に、高コレステロール食を与え、6ヶ月で屠殺した。血漿脂質濃度に対するMyD88の効果を評価するために、全血清コレステロール濃度を測定した。これらの遺伝子型の間で、24週齢で、全コレステロール濃度または血漿トリグリセリド濃度に有意差は見出されなかった(データは示さず)。リポタンパク質プロフィールに対するMyD88欠損の有意な効果は存在しなかった(データは示さず)。
【0059】
(実施例9:MyD88欠損は、ApoE−/−マウスにおける大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を軽減する)
アテローム発生性の食餌を与えられたApoE−/−マウスは、ヒトにおいて見られる形態学的特徴と類似の形態学的特徴を有する、アテローム性動脈硬化症の病変を発症する(Breslow,J.L.(1996)Science 272,685−688)。大動脈アテローム性動脈硬化症の程度に対するMyD88欠損の効果を評価するために、総病変領域を、大動脈の正面向きの標本、および脂質についてのOil red O染色を使用することによって測定した(図1A)。コンピューターによって補助される定量的組織形態計測分析は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の程度の57%の減少を明らかにした。ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の程度は、ApoE−/−/MyD88=+/+マウスにおいて観察されるアテローム性動脈硬化症の程度と、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の程度において観察されるアテローム性動脈硬化症の程度の間の中間であった。このことは、遺伝子の用量−応答効果と一致している(図1B、左)。MyD88欠損のアテローム保護的効果は、オスのマウスにおいてもメスのマウスにおいても観察された。
【0060】
(実施例10:MyD88欠損は、プラークの脂質含有量の低下、マクロファージの浸潤の減少、およびCOX−2免疫応答性の低下に関連する)
アテローム性動脈硬化症のプラークの組成に対するMyD88欠損の効果を試験するために、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈洞のプラークにおいて、脂質含有量をOil red O組織化学染色で試験し、マクロファージの浸潤の程度をMOMA−2免疫染色で試験した。ApoE−/−/MyD88−/−マウスの大動脈洞のプラークは、ApoE−/−/MyD88+/+マウスのプラークより、有意により少ない脂質およびマクロファージ蓄積(各々、69%および75%の減少)を示した。中間のレベルが、ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおいて観察された(図2A、左、およびB、およびC)。このことは、繰り返し、遺伝子の用量−応答の関係と一致した。大動脈洞のプラークの病変の大きさの定量は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて、ApoE−/−/MyD88+/+マウスと比較して、病変の大きさの有意な減少を明らかにした(P<0.05、データは示さず)。ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈洞のプラークにおいて、COX−2の免疫染色を評価し、MyD88欠損によってもたらされるアテローム性動脈硬化症の程度の軽減が、炎症促進性酵素であるCOX−2の発現の減少を伴っているか否かを決定した。ApoE−/−/MyD88+/+マウス由来の病変は、広範囲のCOX−2免疫染色を示した。COX−2免疫染色は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて著しく少なかった(図2D)。中間のレベルのCOX−2免疫反応性が、ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおいて観察された(図2D)。
【0061】
(実施例11:MyD88欠損は、炎症性サイトカインであるIL−12およびMCP−1の循環レベルの低下と関連する)
一般的な抗炎症性機構によるアテローム発生の阻害におけるMyD88欠損の効果を試験した。MyD88欠損は、ApoE−/−マウスにおいて、重要な炎症促進性のサイトカインおよびケモカイン(Tヘルパー1サイトカインであるIL−12およびMCP−1)の循環濃度を変化させた。ApoE−/−/MyD88−/−マウスは、ApoE−/−/MyD88+/+マウスと比較して、著しく低下したIL−12p40およびMCP−1の血清レベルを有した(図3Aおよび図3B)。ApoE−/−/MyD88+/−マウスのIL−12p40血清濃度は、野生型ApoE−/−/MyD88+/+マウスの血清濃度に匹敵した。ApoE−/−/MyD88+/−マウスにおけるMCP−1の血清濃度は、野生型ApoE−/−/MyD88+/+マウスのMCP−1の血清濃度に匹敵した。MyD88欠損は、抗炎症性サイトカインIL−10またはケモカインKCの循環濃度の有意変化とは、全く関連しなかった(データは示さず)。これらの結果は、ApoE欠損およびMyD88欠損の両方を有するマウスにおいて観察されるアテローム発生の抑制の少なくとも一部は、アテローム発生促進性の炎症性分子の循環レベルの一般的な低下によって媒介され得るという解釈と、最もよく一致するようであった。
【0062】
(実施例12:MyD88欠損は、MM−LDLによる刺激の際の白血球のECへの接着の低下と関連する)
増強された白血球−EC接着は、アテローム性動脈硬化症のプラークの発達における中心的な初期事象の一つを構成する。白血球−EC接着に対するMyD88欠損の効果を決定するために、MyD88−/−マウスおよびMyD88+/+マウスから、大動脈のECを単離し、それらと白血球(ヒト末梢血液の単核細胞)との相互作用を、MM−LDLによる刺激の際に評価した。MyD88+/+マウスの大動脈由来のECは、MM−LDLによって刺激された場合、用量依存性の白血球接着の増大を示したが、未改変のネイティブLDLによって刺激された場合は、白血球接着の増大は示さなかった(図4)。対照的に、MyD88欠損マウス由来のECへの白血球接着は、MM−LDLまたはLDLのいずれかによる刺激に応答して増大しなかった。しかし、TNF−α誘導性の白血球のECへの接着は、MyD88−/−のECにおいては低下しておらず、MyD88+/+のECへの白血球接着と異ならなかった。これらの結果は、MM−LDLによって刺激されたMyD88−/−のECへの白血球の接着の低下は、ApoE−/−/MyD88−/−マウスの発達中のプラークへの単核食細胞の浸潤の減少をもたらし得ることを示唆する。
【0063】
(実施例13:TLR4欠損は、ApoE−/−マウスにおける大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を低減する)
さらに、アテローム性動脈硬化症の発症に対するMyD88および上流のレセプターの役割を明らかにするために、ApoE−/−マウスとTLR4−/−マウスとを交雑して、ダブルノックアウトマウスを作製した。ApoE−/−/TLR4−/−および同腹仔のコントロール(ApoE−/−/TLR4+/+)に、高コレステロール食を与え、6ヶ月で屠殺した。総血清コレステロール濃度および総血清トリグリセリド濃度を計測し、そして、ApoEおよびMyD88の両方を欠損しているマウスを用いる場合、これらの遺伝子型の間で、総コレステロール濃度または総血漿トリグリセリド濃度に有意差は見出されなかった(データは示さず)。全大動脈の総病変領域を、Oil red O染色の後で計測した。定量分析は、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおいて、アテローム性動脈硬化症の程度の24%の減少を明らかにした(ApoE−/−/TLR4−/−についてはn=12、およびApoE−/−/TLR4+/+についてはn=8、P<0.01;図1B、右)。
【0064】
(実施例14:TLR4欠損は、プラークの脂質含有量の減少、マクロファージの浸潤の低下、およびMCP−1の血清濃度の低下に関連する)
さらに、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおけるアテローム性動脈硬化症の特徴を研究するために、脂質含有量およびマクロファージ浸潤を、大動脈洞のプラークにおいて定量した(図2Aの右のパネル、および図5A)。大動脈洞のプラークの脂質含有量は、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおいて有意に減少した(55%減少)。ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおけるマクロファージ浸潤もまた、コントロールマウスと比較して、有意に65%減少した。さらに、MCP−1血清濃度は、ApoE−/−/TLR4−/−マウスにおいて優位に低下した(図5B)。ApoE−/−/MyD88−/−マウスと対照的に、ApoE−/−/TLR4−/−マウスとApoE−/−/TLR4+/+マウスとの間で、IL−12p40の血清濃度に有意差は存在しなかった(データは示さず)。
【0065】
上の記載は、本発明の特定の実施形態に言及するが、一方、本発明の精神から逸脱することなく多くの改変がなされ得ることが理解される。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲および精神の中へ含まれるような改変を含むように意図される。ここで開示される実施形態は、従って、あらゆる点で、例示的であるものとしてみなされるべきであり、制限的であるものとしてみなされるべきではなく、本発明の範囲は、上記の明細書よりもむしろ、付属の特許請求の範囲によって示され、そして、これらの特許請求の範囲の意味または特許請求の範囲の等価の範囲に起こる全ての変更は、従って、その明細書において含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1A】図1は、本発明の実施形態に従うと、MyD88欠損およびTLR4欠損が、大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を軽減することを示す。図1Aは、高コレステロール食を6ヶ月間与えられたApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈の一連の顕微鏡写真を表す。大動脈は単離され、脂質蓄積物についてOil red Oで染色された。3群からの代表的な標本が示される。
【図1B】図1は、本発明の実施形態に従うと、MyD88欠損およびTLR4欠損が、大動脈アテローム性動脈硬化症の程度を軽減することを示す。図1Bは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス(左)、およびApoE−/−/TLR4−/−マウス(右)における全大動脈中のプラーク面積の定量を示す。ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/+マウス、ApoE−/−/TLR4−/−マウス、およびApoE−/−/TLR4+/+マウスの大動脈は、脂質蓄積物についてOil red Oで染色された。プラーク面積の平均値およびSD(ApoE−/−/MyD88−/−、ApoE−/−/MyD88+/−、ApoE−/−/MyD88+/+についてはn=13;ApoE−/−/TLR4+/+についてはn=8;そして、ApoE−/−/TLR4−/−についてはn=12)が示される。MyD88−/−またはTLR4−/−における総プラーク面積は、対応する野生型マウスと比較して有意に減少した(*,P<0.01)。
【図2A】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Aは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウス(左)、ならびに、ApoE−/−/TLR4−/−マウス、およびApoE−/−/TLR4+/+マウス(右)に由来する大動脈プラークの脂質含有量の定量を示す。示されるのは、総プラーク面積に相対的な脂質含有量のパーセンテージの平均値およびSDである(ApoE−/−/MyD88−/−、ApoE−/−/MyD88+/−、およびApoE−/−/MyD88+/+についてはn=10;ApoE−/−/TLR4+/+についてはn=7;そして、ApoE−/−/TLR4−/−についてはn=8)。ApoE−/−/MyD88−/−またはApoE−/−/TLR4−/−における相対的脂質含有量は、対応する野生型マウスと比較して、有意に減少する(**,P<0.01;*,P<0.05)。
【図2B】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Bは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスに由来する大動脈洞のプラークの代表的なMOMA−2染色の一連の顕微鏡写真を表す。
【図2C】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Cは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの大動脈洞のプラークにおけるマクロファージ免疫反応性の定量分析を示し、総プラーク面積の比率として表される(各群において、n=10)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【図2D】図2は、本発明の実施形態に従うと、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおける大動脈洞のプラーク中の、脂質含有物、マクロファージ浸潤、およびCOX−2発現が減少することを示す。図2Dは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウスの強膜のプラークにおけるCOX−2免疫蛍光染色の定量分析を示す(各群において、n=7)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【図3A】図3は、本発明の実施形態に従うと、IL−12p40および単球の化学誘引タンパク質1(MCP−1)の血清濃度が、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて減少することを示す。図3Aは、高コレステロール食を6ヶ月与えられたApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウス(各群において、n=19)のIL−12p40血清濃度を示す。
【図3B】図3は、本発明の実施形態に従うと、IL−12p40および単球の化学誘引物質1(MCP−1)の血清濃度が、ApoE−/−/MyD88−/−マウスにおいて減少することを示す。図3Bは、ApoE−/−/MyD88−/−マウス、ApoE−/−/MyD88+/−マウス、およびApoE−/−/MyD88+/+マウス(各群において、n=24)のMCP−1血清濃度を示す。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【図4】図4は、本発明の実施形態に従うと、MyD88欠損マウス由来の内皮細胞(Ec)が、MM−LDL誘導性の白血球の接着の低下を示すことを示す。MM−LDL、LDL、またはTNF−αで刺激されたMyD88−/−マウスまたはMyD88+/+マウスの大動脈に由来するマウス大動脈ECへの、ヒト末梢血液の単核細胞の接着。同様の結果を有する3回の代表的な実験の一つからのデータが、バックグラウンドに対する白血球接着の増大の倍数として表される(*,P<0.05)。
【図5A】図5は、本発明の実施形態に従うと、TLR4欠損が、マクロファージの浸潤およびMCP−1分泌の程度を低下させることを示す。図5Aは、ApoE−/−/TLR4−/−マウスおよびApoE−/−/TLR4+/+マウスの大動脈洞のプラークにおける、マクロファージ免疫反応性の定量分析を示し、総プラーク面積の比率として表される(各群ごとに、n=7)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)
【図5B】図5は、本発明の実施形態に従うと、TLR4欠損が、マクロファージの浸潤およびMCP−1分泌の程度を低下させることを示す。図5Bは、、ApoE−/−/TLR4−/−マウスおよびApoE−/−/TLR4+/+マウスのMCP−1血清濃度を示す(ApoE−/−/TLR4+/+についてはn=8、そしてApoE−/−/TLR4−/−についてはn=14)。平均値およびSDが示される(*,P<0.01)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における脈管疾患を処置する方法であって、以下:
少なくとも1種のtoll様レセプター4(TLR4)インヒビター、少なくとも1種の骨髄性分化因子88(MyD88)インヒビター、または少なくとも1種のTLR4インヒビターと少なくとも1種のMyD88インヒビターとの組合せを含有する組成物を提供する工程;および
該脈管疾患を処置するための有効量で、該組成物を該被験体に投与する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記脈管疾患は、アテローム性動脈硬化症、移植性アテローム性動脈硬化症、静脈移植片アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、ステント後再狭窄、および血管形成術後再狭窄からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TLR4インヒビターは、TLR4ペプチド模倣物および抗TLR4抗体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記MyD88インヒビターは、MyD88ペプチド模倣物および抗MyD88抗体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記TLR4インヒビターは、CRX−675、RP105、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、ab8376、ab2891、ab6563、ab6726、ab6728、ab6729、ab6785、ab6788、ab7002、ab7018、HTA125、MTS510、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記MyD88インヒビターは、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、抗MyD88抗体ab2064および抗MyD88抗体ab2068、抗MyD88抗体2125、抗MyD88抗体M9934、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体は、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記投与の経路は、経口投与経路、非経口投与経路、または移植可能投与経路である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物を投与する工程が、脈管内デバイスによって該組成物を送達する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記脈管内デバイスは、カテーテルまたはステントである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記脈管内デバイスは、前記組成物で被覆されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記TLR4インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間に内因性MyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗TLR4抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターに結合するMyD88分子の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗MyD88抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに結合するMyD88の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記TLR4インヒビターは、TLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに対応するタンパク質の配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患は、アテローム性動脈硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が薬学的に受容可能なキャリアを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
薬学的組成物であって、以下:
(a)治療有効量の、少なくとも1種のtoll様レセプター4(TLR4)インヒビター、少なくとも1種の骨髄性分化因子88(MyD88)インヒビター、または少なくとも1種のTLR4インヒビターと少なくとも1種のMyD88インヒビターとの組合せ;および
(b)薬学的に受容可能な賦形剤
を含有する、薬学的組成物。
【請求項19】
抗炎症薬、サイトカイン、または免疫モジュレーターをさらに含有する、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記TLR4インヒビターは、TLR4ペプチド模倣物および抗TLR4抗体からなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記MyD88インヒビターは、MyD88ペプチド模倣物および抗MyD88抗体からなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記TLR4インヒビターは、CRX−675、RP105、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、ab8376、ab2891、ab6563、ab6726、ab6728、ab6729、ab6785、ab6788、ab7002、ab7018、HTA125、MTS510、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記MyD88インヒビターは、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、抗MyD88抗体ab2064および抗MyD88抗体ab2068、抗MyD88抗体2125、抗MyD88抗体M9934、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記TLR4インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間に内因性MyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗TLR4抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターに結合するMyD88分子の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗MyD88抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに結合するMyD88の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列である、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
前記TLR4インヒビターは、TLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに対応するタンパク質の配列である、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項1】
被験体における脈管疾患を処置する方法であって、以下:
少なくとも1種のtoll様レセプター4(TLR4)インヒビター、少なくとも1種の骨髄性分化因子88(MyD88)インヒビター、または少なくとも1種のTLR4インヒビターと少なくとも1種のMyD88インヒビターとの組合せを含有する組成物を提供する工程;および
該脈管疾患を処置するための有効量で、該組成物を該被験体に投与する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記脈管疾患は、アテローム性動脈硬化症、移植性アテローム性動脈硬化症、静脈移植片アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、ステント後再狭窄、および血管形成術後再狭窄からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TLR4インヒビターは、TLR4ペプチド模倣物および抗TLR4抗体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記MyD88インヒビターは、MyD88ペプチド模倣物および抗MyD88抗体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記TLR4インヒビターは、CRX−675、RP105、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、ab8376、ab2891、ab6563、ab6726、ab6728、ab6729、ab6785、ab6788、ab7002、ab7018、HTA125、MTS510、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記MyD88インヒビターは、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、抗MyD88抗体ab2064および抗MyD88抗体ab2068、抗MyD88抗体2125、抗MyD88抗体M9934、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体は、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記投与の経路は、経口投与経路、非経口投与経路、または移植可能投与経路である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物を投与する工程が、脈管内デバイスによって該組成物を送達する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記脈管内デバイスは、カテーテルまたはステントである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記脈管内デバイスは、前記組成物で被覆されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記TLR4インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間に内因性MyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗TLR4抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターに結合するMyD88分子の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗MyD88抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに結合するMyD88の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記TLR4インヒビターは、TLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに対応するタンパク質の配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患は、アテローム性動脈硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が薬学的に受容可能なキャリアを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
薬学的組成物であって、以下:
(a)治療有効量の、少なくとも1種のtoll様レセプター4(TLR4)インヒビター、少なくとも1種の骨髄性分化因子88(MyD88)インヒビター、または少なくとも1種のTLR4インヒビターと少なくとも1種のMyD88インヒビターとの組合せ;および
(b)薬学的に受容可能な賦形剤
を含有する、薬学的組成物。
【請求項19】
抗炎症薬、サイトカイン、または免疫モジュレーターをさらに含有する、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記TLR4インヒビターは、TLR4ペプチド模倣物および抗TLR4抗体からなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記MyD88インヒビターは、MyD88ペプチド模倣物および抗MyD88抗体からなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記TLR4インヒビターは、CRX−675、RP105、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、ab8376、ab2891、ab6563、ab6726、ab6728、ab6729、ab6785、ab6788、ab7002、ab7018、HTA125、MTS510、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記MyD88インヒビターは、ST2エフェクター分子、ワクシニアウイルスORF A46RおよびワクシニアウイルスORF A52R、ヒドロシンナモイル−L−バリルピロリジン、抗MyD88抗体ab2064および抗MyD88抗体ab2068、抗MyD88抗体2125、抗MyD88抗体M9934、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記TLR4インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間に内因性MyD88に結合するTLR4レセプターの少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗TLR4抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターに結合するMyD88分子の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列、抗MyD88抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記MyD88インヒビターは、TLR4シグナル伝達事象の間にTLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに結合するMyD88の少なくとも一部に対応するタンパク質の配列である、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
前記TLR4インヒビターは、TLR4レセプターのtoll/IL−1レセプタードメインに対応するタンパク質の配列である、請求項18に記載の薬学的組成物。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【公表番号】特表2007−534775(P2007−534775A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511106(P2007−511106)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/018604
【国際公開番号】WO2005/117975
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/018604
【国際公開番号】WO2005/117975
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】
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