説明

脊椎不安定性測定具

【課題】 脊椎間における不安定性を迅速且つ容易に、更に高温滅菌処理に対する材質の安定性を保持した小型で堅牢且つ構造の簡単な脊椎間の不安定測定具を提供することが、本発明の課題である。
【解決手段】 本発明装置による脊椎間の不安定性度を測定するための方法は、脊椎の棘突起部にピンを挿入するための2個の小さな穴を開け、その穴にピンを挿入する。次にバネを最大程度に圧縮した状態で、バネ支持体とその両端部に固設されたピン挿入導管及び計測板の孔71及びピン案内溝72を組合せてピンに挿入する。ここで、脊椎間が安定であればバネの離隔力に打ち勝ってピンの移動は殆ど無い。一方、脊椎間が不安定であればバネの離隔力に打ち勝てず、ピンは案内溝に沿って移動する。そして、その移動量を測定して、不安定性度を精確に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎疾患の治療を目的として、脊椎間特に腰椎間の不安定性を簡易に且つ客観的に測定するための測定具に係る。
【背景技術】
【0002】
脊椎や椎間板などの構造物は、中枢神経組織である脊髄を保護すると同時に、運動にも関与する人体の構成要素であり、脊椎の不具合は日常生活に多大な不便を伴うことが多い。ここで、図1に腰椎の全体像を、図2に第2腰椎の上面図を示す。
そして、脊椎には老化、炎症、腫瘍及び外傷等の原因で不具合が発生しやすく、中でも腰椎には椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性すべり症、分離すべり症等の疾患を発症する。
【0003】
このような疾患やその手術の際の徐圧術では、脊椎が不安定になることが多い。そして、不安定となった脊椎に対して骨移植や金属を使って固定(インスツルメンテーション)する固定術が行われている。しかし一方で、脊椎間を固定して自由度を制限することは、脊椎の本質的な機能が十分に発揮できなくなるため、脊椎の不安定性に応じて脊椎間の固定が必要か否かを客観的に判断する必要がある。
【0004】
これに対し、本発明者は脊椎間における不安定性を速やかに且つ容易に測定することのできる、不安定性測定具を以前に開発した(特許文献1)。本測定具は、不安定性を歪ゲージにより測定する方法(図3)を使用しており、脊椎間の不安定性を客観的に測定できるものの、静ひずみ計を用いたため測定システムが大がかりになること及び測定具をオートクレーブ中で高温滅菌する処理に対して、材質特性を一定に保持できなくなる等の問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特3288038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の事情から、本発明の課題とするところは、脊椎間における不安定性を迅速且つ容易に、更に高温滅菌処理に対する材質の安定性を保持した小型で構造の簡単な脊椎間の不安定測定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために、脊椎の棘突起部にピンを係止し、ピン間に離隔力を与えることによって脊椎の不安定性を測定しうることに思い至り、本発明に到達した。
【0008】
具体的には、本発明の第1の態様は、隣接する脊椎の棘突起部に係止するための2個のピンと、該2個のピン間にあって該ピンに離隔力を与える手段と、該ピン間の移動距離を測定する手段とを備えた脊椎間の不安定性測定具に係る。次に本発明の第2の態様は、ピンに離隔力を与えるための手段が、バネと該バネを真直に保持する支持体及び該支持体の両端部に固設されたピン挿入導管とで構成され、ピン間の移動距離を測定する手段が2個のピンの一方を固定するためのピン挿入孔と、他方のピンを脊椎間の不安定性に応じて離隔移動させるためのピン案内溝を設けた計測板とで構成されることを特徴とする脊椎間の不安定性測定具に係る。
【0009】
上記において、ピンを脊椎の棘突起部に係止する方法は、ピンを挿入するための小穴を棘突起部に穿設し、該小穴にピンを嵌入する方法がピンと棘突起部を一体化きるので最も望ましい。次に離隔力を与えるためのバネは、板バネ、コイルバネ等があるが、精度、軽量性、コストの点から一般的にはコイルスプリングが使用される。又、バネ支持体の両端に固設されるピン挿入導管は、2個のピンを相互に平行に保持する構造とすることが必要である。次に、計測板については、2本のピンのうち一方を嵌入して固定するためのピン挿入孔と、他方のピンが脊椎の不安定性度合いに応じて離隔移動するためのピン案内溝が計測板内に設けられている。ここで、ピンの移動量は目測によることも可能であるが、計測板の案内溝に計測目盛を付設することにより具体的な移動量を測定でき、脊椎不安定性度の判断により精確な情報を与えられる。
【0010】
次に、本発明の第3の態様は、不安定性測定具を構成するためのピン、バネ及び計測板の材質が何れも耐食性金属であることを特徴とする。本装置は、人体の脊椎の治療に用いられるため、人体組織に悪影響のある材質は許容されない。インプラント材及び人工骨には、一般的にステンレス鋼、チタン等の耐食性金属が用いられる。しかし、チタンは原料費か高い上に加工性が悪くコスト高となるため、一般的にはステンレス鋼が用いられる。これにより、約100℃以上の温度でのオートクレーブ滅菌処理に対しても材質的な変化を生ぜず、好適に用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脊椎間の不安定性測定具は小型、軽量、堅牢で簡単な構造であり、滅菌処理等の熱変化に対する材質の安定性も高い。測定方法も簡易であり且つ客観的な測定値が得られるので、脊椎の施術の必要有無を高い信頼度で判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態について下記に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0013】
組立て後の本測定具の全体構成図(側面図)を図4に示す。以下、各構成部品について図を参照しながら説明する。図5に挿入ピンを示すが、ピンは直径が2〜3mmφ、長さが30〜40mmの丸棒とするのが一般的である。そして、棘突起部に挿入するピンの先端部はおよそ60°のテーパで三角錐体状に加工されている。
【0014】
図6には離隔力を与えるためのコイルスプリング61及びその内部にあってコイルスプリングを支持するための支持体62A及び62B、及びその両端部に固設されたピン挿入導管63を示す。ここで、バネ支持体は62A及び62Bに示すように2分割されており、何れも金属棒から切削により所定形状に加工されることが一般的である。そして62Aと62Bは互いに入れ子方式になっており、バネの離隔力により滑動できる構造となっている。ここで、ピン挿入導管63は金属棒からの切削加工時にバネ支持体と一体的に加工しても良いし、ピン挿入導管とバネ支持体が別々に加工された後、溶接等で一体化しても良い。
【0015】
次に、図7に計測板を示すが、2個のピンのうち1方はピンを固定するための孔71と、他方のピンを案内溝72に沿って滑動できる案内溝が切り込まれた構造となっている。
日本人の平均的な隣接する棘突起間距離は約25mmであるため、バネを最大限圧縮した状態でのピン間距離は約25mmとし、また脊椎間が最も不安定な状態となったときのピンのスライド長さを約20mmとして、案内溝および計測版の形状が決められる。
【0016】
ここで、本発明装置による脊椎間の不安定性度を測定するための方法を説明する。先ず始めに、測定対象である隣接する脊椎の棘突起部にピンを挿入するための2個の小さな穴を開け、その穴にピンを挿入する。次にバネを最大程度に圧縮した状態で、バネ支持体とその両端部に固設されたピン挿入導管及び計測板の孔71及びピン案内溝72を組合せてピンに挿入する。ここで、脊椎間が安定であればバネの離隔力に打ち勝ってピンの移動は殆ど無い。一方、脊椎間が不安定であればバネの離隔力に打ち勝てず、ピンは案内溝に沿って移動する。そして、その移動量を測定して、脊椎不安定性を客観的に測定する。
【実施例1】
【0017】
脊椎が種々の状態(正常、椎間板損傷、棘間・棘上靭帯切除、右椎間関節切除、両椎間関節切除、後縦靭帯切除、後方椎間板切除、前縦靭帯のみの切除)にあるヒト遺体腰椎に、本発明による脊椎間不安定性測定具を用いて、本測定具の機能を確認した。ここで、ピン、コイルスプリング支持体およびピン挿入導管、及び計測板の材質はSUS316であり、コイルスプリングの材質はSUS304とした。又、ピンの長さは36.5mm、直径2.5mmの丸棒であり、棘突起の小穴に嵌入される先端部は3角錐形状に加工されたものを用いた。次に、コイルの外径および平均径が各々10.0mm及9.2mm、有効巻き数9.50巻き、バネ定数0.481N/mmのコイルスプリングを用いた。コイルスプリング支持体のシリンダー部は外径8.4mm、又該外筒に滑入される中子断面は一辺が4mmの正方形であり、ピン挿入導管の長さは15mm、ピン挿入部の径は2.7mmとした。
次に計測板の長さ51.3mm、幅7mm、厚さ1.5mm、ピン孔径2.7mm、ピンの案内溝幅及び長さは各々2.7mm及び19.5mmとした。
【0018】
上記の試験により脊椎の不安定性を測定した結果を表1に示すが、本発明による脊椎間不安定性測定具は脊椎間の不安定性に応じてピン間移動距離が変動し、好適に機能することを確認した。
【0019】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】腰椎左側面の全体像を示す概要図である。
【図2】第2腰椎の上面を示す概要図である。
【図3】先願特許の発明による装置を示す図である。
【図4】本発明の全体像を示す概要図である。
【図5】本発明におけるピンを示す概略図である。
【図6】本発明におけるコイルスプリングとその支持体、及びピン挿入導管を示す概略図である。
【図7】本発明における計測板の上面および側面を示す概略図である。
【符号の説明】
【0021】
61コイルスプリング
62A,62B支持体
63ピン挿入導管
71ピン固定孔
72ピン案内溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する脊椎の棘突起部に係止するための2個のピンと、該2個のピン間にあって該ピンに離隔力を与える手段と、該ピン間の移動距離を測定する手段とを備えたことを特徴とする脊椎間の不安定性測定具。
【請求項2】
前記において、ピンに離隔力を与えるための手段が、バネと該バネを真直に保持する支持体及び該支持体の両端部に固設されたピン挿入導管とで構成され、ピン間の移動距離を測定する手段が2個のピンの一方を固定するためのピン挿入孔と、他方のピンを脊椎間の不安定性に応じて離隔移動させるためのピン案内溝を設けた計測板とで構成されることを特徴とする請求項1に記載の脊椎間の不安定性測定具。
【請求項3】
前記において、不安定性測定具を構成するピン、バネとその支持体及びピン挿入導管及び計測板の材質が何れも耐食性金属であることを特徴とする請求項1及び/又は2に記載の脊椎間の不安定性測定具。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−255039(P2006−255039A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74156(P2005−74156)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(802000042)株式会社三重ティーエルオー (20)
【Fターム(参考)】