説明

脊髄の損傷、炎症および免疫疾患に用いられる局所的に放出を制御しうる治療薬

【課題】本発明は、炎症箇所に輸送される治療薬の輸送システムを提供する。
【解決手段】母材および1種または複数種の治療薬を含む薬剤輸送システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症箇所に輸送される治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)は、ヒトの体内で生じる多様な生理学的プロセスに適用しうるガス状の化学的メッセンジャーである。NOは、中枢神経系(CNS;Central Nervous System)において高濃度で存在する。NOの合成反応は、合成酵素であるNOシンターゼ(NOS;Nitric Oxide Synthase)の触媒下で行われる(非特許文献1参照)。中枢神経におけるNOSには4つのアイソフォーム(isoform)がある。このうち2つは、作用位置による観点から、それぞれ、神経型NOS(nNOS;neuronal NOS)および内皮型NOS(eNOS;endothelial NOS)と命名されている。一方、ミトコンドリアに存在するものに、ミトコンドリア型NOS(mtNOS;mitochondria NOS)がある。4番目は、疾病条件下で作用する誘導型NOS(iNOS;inducible NOS)である。
【0003】
通常の条件下では、nNOSは、ニューロン、血管周囲の神経、および星状細胞に局在している(星状細胞においてはきわめて低濃度)。eNOSは、脳血管の内皮細胞に存在する。また、iNOSは、血管周囲の神経、小神経膠細胞、血管平滑筋、および内皮細胞に存在する。
【0004】
しかし、NOは、通常の条件下で作用する一方で、毒性も有する。すなわち、NOは、スーパーオキシドディスムターゼとの競合に打ち勝って、過酸化物アニオンラジカルと反応し、ペルオキシナイトライトアニオン(毒性をもつ)を生成する。さらに、ペルオキシナイトライトアニオンは、生理的条件下で、ヒドロキシルラジカル、カルボネートラジカル、および二酸化窒素(いずれも、細胞に毒性のある酸化ストレスを及ぼす)に分解する。
【0005】
ペルオキシナイトライトおよびこの分解生成物による酸化ストレスは、脊髄の損傷(SCI)、脳梗塞、心筋梗塞、慢性心疾患、糖尿病、循環系のショック、炎症性疾患、ガン、神経変性障害等の病気や怪我の程度が大きい状態において生じる。
【0006】
神経系に損傷が生ずると、nNOSは、短時間(1時間)のうちにアップレギュレーション(レセプター数を増加)に晒される。種々の実験結果から、これは、虚血性の疾患につながることが示唆されている。他方、eNOSから生成されるNOは、血管の拡張を促進しかつ微小血管の凝集や付着を阻害することにより、神経を保護する役割を果たす。このようなことから、NOは、虚血状態中に生成した活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)を除去し、神経を保護する機能を果たすとの仮説を立てることができる。しかし、最初にnNOSがアップレギュレーションに晒された後は、NOが構成比以下となるダウンレギュレーションが生ずることにより、酸化ストレスとiNOSのハイパーインダクション(導入)が促進される。
【0007】
iNOSは、炎症、自己免疫疾患、外傷等の病理的条件下においては、ほぼあらゆるタイプの細胞に見られる。インダクションは、炎症に関連するサイトカイン(転写因子STAT−1および(NF)−kBの活性化を引き起こす)を必要とする。iNOSは、一旦現れると、広範囲かつ長時間にわたって、高濃度のNOを産生する。過剰なNOは、食細胞作用の過程では重要であるものの、制御されない状態で放散されると、慢性的な炎症、自己免疫疾患および外傷において観察されるように、組織に損傷を与える。
【0008】
脊髄に損傷(SCI)がある場合、iNOSのメッセンジャーRNA(mRNA)は、組織の損傷後ちょうど2時間で観察されるようになり、この状態は数日間続く。炎症を起こした細胞は、損傷後3時間までは組織に侵入しない。したがって、SCIの後、初期に発生するiNOSは、それまで損傷組織に存在していた脊髄細胞、特に小神経膠細胞によるものである。他方、この時点を経過した後に見られるiNOSは、主に損傷組織に浸潤した細胞によるものである。脊髄で検出される。
【0009】
好中球は、SCIの後1時間経過すると、観察されるようになるが、主として血管内においてである。一方、SCIの後1時間経過すると、管外遊出が見られる。損傷後1〜3日経過すると、好中球は最大限広がり、この状態は10日後くらいまで続く。好中球は、ケモカイン、サイトカイン、酵素、活性酸素種(ROS)、反応性窒素ラジカルを含む多数の物質を放散する。
【0010】
中枢神経系が、虚血性および外傷性損傷後に神経毒症状を呈するようになった場合、NOが見られる(非特許文献2参照)。フリーラジカルとしてのNOは、タンパク質のニトロシル化を引き起こす。すなわち、NOフリーラジカルは、多くの機序を経て、リン酸化(ホスホリル化)を弱め、グリコシル化を阻害することにより、エネルギーの枯渇、酸素の欠乏、およびニューロンの死を引き起こす。一方で、NOは、DNAの突然変異原性の脱アミノ化を促進し、リン脂質の過酸化を生じさせて、細胞膜の構造的・機能的な統合性を損なわせ、細胞死に至らしめる。
【0011】
いくつかの研究により、脊髄損傷の後に少なくとも1週間持続する高濃度のペルオキシナイトライトは、タンパク質の酸化および脂質の過酸化に関連することが分かっている(非特許文献3参照)。
【0012】
この外、2次的な障害の緩和に係る多数の因子の効能について、いくつかの研究が報告されているペニシルアミン、テンポール(非特許文献4参照)および尿酸(非特許文献5参照)。
【0013】
さらに、臨床的に投与されるグルコロルチコイドステロイドの神経防護効果は、大部分が、レセプターが介在する抗炎症作用よりも、脂質の過酸化を阻害することによっているという報告が複数挙がっている(非特許文献6参照)。
【0014】
1990年には、急性SCIの標準的な治療として、多量のメチルプレドニソロンが投与されていた。しかし、急性SCIにステロイドを投与することには、目的とする効果よりも先に逆効果(例えば、感染、肺炎、敗血症ショック、糖尿病性合併症、回復の遅延)が生じるリスクがある、用量について難しさがある(例えば、鋭角的二相的な用量−反応曲線や所望の治療効果持続時間(投与時間帯に依存する)の変動)等の異論がある。
【0015】
メチルプレドニソロンは、局所的に投与されてきた(非特許文献7参照)。非特許文献7に記載されているようにメチルプレドニソロンを投与するには、椎弓切除手術によって、脊髄を外部に晒さなければならない。また、投与に用いる際の媒体(暖めたアガロース)は、硬膜の外部から適用する。
【0016】
SCIの後に生ずる脊髄細胞や怪我をしたときに生ずる末梢神経に対する酸化ストレスは、NOおよびROS(活性酸素種)が原因で生成されるペルオキシナイトライト、および生理条件下におけるペルオキシナイトライトの反応性分解生成物に帰因するものと解される。ペルオキシナイトライトに帰因する酸化ストレスの結果生ずる壊死の過程またはアポトーシスカスケードは、脊髄損傷または末梢神経の損傷の後に拡大する外傷に特徴的なものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Conti,A., Miscusi,Ml., Cardali,S., German,A., Suzuki,H., Cuzzocrea,S., and Tomasello, F. (2007) “Nitric oxide in the injured spinal cord: Synthases cross-talk, oxidative stress and inflammation”. Brain Research Reiews 54, 205-218
【非特許文献2】Xiong,Y, Rabchevsky,A.G. and Hall,E.D. (2007) “Role of peroxynitrite in secondary oxidative damage after spinal cord injury”, J. Neurochem. 100 (1). 639-649
【非特許文献3】Deng,Y., Thompson,B.M. Gao,X. and Hall,E.D. (2007) Temporal relationship of peroxynitrite-induced oxidative damage, calpain-mediated cytoskeletal degradation and neurodegeneration after traumatic brain injury. Exp. Neurol. 205. 154-165
【非特許文献4】Hillard,V.H., Peng,H., Zhang,Y., Das,K., Murali,R. and Etlinger,J.D. (2004) Tempol, a nitroxide antioxidant, improves locomotor and histological outcomes after spinal cord contusion in rats, J. Neurotrauma 21 (10). 1405-1414
【非特許文献5】Scott, G.S., Cuzzocrea,S., Genovese,T., Koprowski,H., and Hooper,D.C. (2005) Uric acid protects against secondary damage after spinal cord injury. Proc. Natl. Acad. Sci. 102(9), 3483-3488
【非特許文献6】Hall,E.D. and Springer,J.E. (2004) Neuroprotection and Acute Spinal Cord Injury: A Reappraisal. ReuroRx. 1, 80-100
【非特許文献7】Chvatal,S.A., Kim,Y.T., Bratt-Leal,A.M., Lee, H., and Bellamkonda,R.V. (2008) Spatial distribution and anti-inflammatory effects of Methlprednisolone after sustained local delivery to the contused spinal cord Biomaterials, 1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、炎症箇所に輸送される治療薬の輸送システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、一の様相として、患者の外傷部位において、その傷を治療する方法を提供する。この方法は、母材および1種または複数種の治療薬を、患者の外傷部位に輸送する薬剤輸送システムを用いて、上記の目的を実現する。
【0020】
本発明は、もう一つの様相として、母材および1種または複数種の治療薬を含む薬剤を輸送するシステムを提供することにより、上記の目的を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】PEG4000(Fluka)の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図2】PLGA50:50(Lactel)の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図3】CP−PLGA−pPEG−PLGA−1の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図4】CP−PLGA−pPEG−PLGA−RAFT−functの1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図5】S−(チオベンゾイル)チオグリコール酸クロリドDJS−CP−チオベンゾイル−チオグリコール酸グリコロド−1の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図6】CP−PLGA−pPEG−PLGA−CTA−Cl−rxn−1の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図7】S−チオベンゾイル−チオグロコール酸鎖で置換されたCP−PGS−CTAポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)(輸送剤)の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図8】生体外チオール−アクリレートヒドロゲル中に懸濁されたPLGAマイクロ粒子からのメチルプレドニソロンの放出の態様を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書および特許請求の範囲において、名詞に付された「ある(aまたはone)」の語は、特に断らない限り、「1つまたは複数の」という意味である。
【0023】
「母材」の語は、ヒドロゲル、粒子、ナノ粒子、微粒子またはこれらの混合物を指す。
【0024】
「治療薬」および「薬剤」の語は、相互に交換しうる。
【0025】
「傷」の語は、外傷、疾病、免疫疾患、炎症等を含む何らかの原因により生じた傷をいう。
【0026】
「薬理学的に許容しうる塩(1種または複数種)」の語は、所望の生物学活性を有し、患者に無害で、かつ効果的に使用しうる化合物(塩)を意味する。薬理学的に許容しうる塩は、酸性基または塩基性基を有する塩を含む。
【0027】
薬理学的に許容しうる酸付加塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、過リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、パントテン酸塩、重酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸ナトリウム、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカル酸塩、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p―トルエンスルホン酸塩、およびパモン酸塩(すなわち、1−1'−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフソエート))が挙げられる。
【0028】
薬理学的に許容しうる塩は、種々のアミノ酸基が付加した塩を含む。許容しうる塩基付加塩の例としては、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛およびジエタノールアミンの塩が挙げられる。
【0029】
ここで説明する態様は、外傷部位または炎症部位において、治療薬を局所的に投与することにより、ラジカルを取り除き、2次的外傷を和らげるという基本方針の下に実施する。薬剤(例えばグルココルチコイタルステロイド)のシステマチックな投与、抗炎症作用をもつ薬剤(例えばミノサイクリンまたはメチルプレドニソノン)を含む治療薬の局所的な投与、またはフリーラジカルスカベンジャー(例えば尿酸またはテンポール)に伴う望ましくない副作用があるため、2次的外傷を緩和するのは重要である。
【0030】
治療薬を局所的に投与するには、外傷に続く神経の損傷に関わるプロセスを標的とする薬剤輸送システムを用いる。標的とされるプロセスは、外傷により生起される酸化ストレス過程を含む。本発明に係る薬剤輸送システムは、外傷や炎症を生じたどのような部位にも適用しうる。外傷や炎症を生じる部位は、脊髄や末梢神経でもよい。
【0031】
本発明に係る薬剤輸送システムを用いる治療方法は、細胞内領域、細胞外領域、血管内領域、および/または細胞膜に適用することができる。
【0032】
本発明に係る薬剤輸送システムおよび薬剤輸送方法は、炎症の有害性を解決することができる。また、本発明に係る薬剤輸送システムおよび方法は、慢性的な炎症、自己免疫疾患、脊髄の損傷(SCI)、脳梗塞、心筋梗塞、慢性心不全、糖尿病、循環系のショック、慢性的な炎症、ガン、神経変性障害、脳の外傷、末梢神経の切断、神経根への衝撃その他の障害や外傷に適用しうる。
【0033】
本発明に係る薬剤輸送システムとは、母材、および1または複数の治療薬を含む組成物である。また、本発明に係る薬剤輸送方法とは、本発明に係る薬剤輸送システムを投与することである。
【0034】
本発明に係る薬剤輸送システムは、例えば、以下に示すような母材および治療薬の組み合わせである:
1)ヒドロゲルおよび1種の治療薬を組み合わせたもの
2)ヒドロゲルおよび複数種の治療薬を組み合わせたもの
3)種々の粒子および1種の治療薬を組み合わせたもの
4)種々の粒子および複数種の治療薬を組み合わせたもの
5)ヒドロゲル、種々の粒子および1種の治療薬(治療薬は、ヒドロゲル中に含める)を組み合わせたもの
6)ヒドロゲル、種々の粒子および複数種の治療薬(治療薬は、ヒドロゲル中またはヒドロゲル内の粒子(複数種の粒子は互いに識別しうる形で存在する)の中に含める。または、これらの両方を併用してもよい。)を組み合わせたもの
7)ヒドロゲル、種々の粒子および複数種の治療薬(特定の治療薬を、ヒドロゲル中またはヒドロゲル内の粒子(複数種の粒子は互いに識別しうる形で存在する)の中に含める。または、これらの両方を併用してもよい。)を組み合わせたもの
【0035】
上記の粒子は、マイクロ粒子またはナノ粒子である。また、上記1種または複数種の治療薬は、拡散および/または溶解を通じて徐放されるよう、ヒドロゲル中、粒子中、または両者の中に溶解または分散させる。
【0036】
母材は、本発明に係る薬剤輸送システムを、外傷部位へ注射することによって輸送しうるよう、体内に注射しうるものが好ましい。ただし、本発明に係る薬剤輸送システムは、外科手術による埋め込み等、他の形態で投与することもできる。
【0037】
上記のヒドロゲルは、温度感受性の生分解を生じる組成物とすることができる。ここで、「温度感受性」とは、ヒドロゲルが、患者の体温以下の温度と患者の体温との間で、ゾル−ゲルの相転移を生じること、または、ポリマーの混合物が、患者の体温に近い温度下において、これより低い温度下よりも容易にヒドロゲルを生成するように反応することをいう。患者とは、普通ヒトを指すため、その体温は37℃である。また、体温よりも低い温度とは室温(例えば22℃)をいう。温度感受性の生分解を生じるヒドロゲルは、患者の体温(37℃近辺)に近い臨界温度(相転移)を有する。
【0038】
本発明に係る薬剤輸送システムに用いる、温度感受性の生分解を生じるヒドロゲルは、マルチブロックコポリマーである。このコポリマーは、1個または複数個のポリマーブロックを、生分解性、生体適合性、またはこの両方の性質をもつようにすることができる。一部のポリマーブロックを生分解性、他のポリマーブロックを生体適合性とすることもできる。本発明で用いるヒドロゲル(ポリマー、モノマー、分解生成物等)を用いる場合は、生分解性、生体適合性、またはこの両方の性質をもつようにするのが好ましい。このヒドロゲルは、体外から排出される生体適合性のポリマーブロックを含むこともできる。
【0039】
モノマーのブロック同士を結合するエステルは、加水分解可能であるため、上記のヒドロゲルは、生体内で分解して、ポリマーを構成するモノマーのブロックが放出される。エステル結合を含むポリマーは、生分解性である。他に、モノマーのブロック同士を結合しうるアミド、無水物およびエーテルも加水分解可能である。このようなモノマーのブロック同士を結合しうる物質は、酵素の作用、還元条件下(例えば、チオエステル、チオエーテルおよびジスルフィドの場合)、または患者の体内に存在する種々の条件下で分解する。
【0040】
グリコール酸、乳酸、グリセロールおよびセバシン酸のポリマーは、生分解性であるため、本発明で用いるヒドロゲルに含ませることができる。乳酸基、グリコリド、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)等のポリマーも、生分解性であるため、本発明で用いるヒドロゲルに含ませることができる。この外にも、本発明で用いるヒドロゲルの一部として用いることができるポリマーには、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)アクリレート;ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)およびポリ(エチレングリコール)またはオリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリレートのマルチブロックコポリマー;ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)、およびポリ(エチレングリコール)、オリゴ(エチレングリコール)メタリメタクリレートまたはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、エトキシレート化トリメチロールプロパントリ−3−メルカプトプロピオネート、またはポリ(エチレングリコール)ジアクリレートのグラフトコポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、いずれも温度感受性を有する。
【0041】
ヒドロゲルは、変化する物理的条件の下で、膨潤したり収縮したりすることができる。例えば、ヒドロゲルは、温度、pHまたはイオン強度の変化により膨潤したり収縮したりする。しかし、脊髄や他の外傷部位に注射されるヒドロゲルは、外傷部位等における種々の条件と釣り合って、大きく膨潤することはない。
【0042】
反応性の末端基(アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、ジヒドラジド基、チオール基等)を端末とするエチレングリコールモノマーの単位を含む親水性ポリマーは、ヒドロゲルまたは粒子を構成するポリマーとして、本発明に用いることができる。このアクリレート基またはメタクリレート基(反応性の末端基)を生成するには、アクリロクロリド、メタクロクロリドまたは塩基ビニルを用いることができる。チオール基(反応性の末端基)は、メルカプトプロピオン酸、システインおよびシスタミンから生成することができる。
【0043】
母材となるポリマーを生成するには、開環重合やリビングラジカル重合等の多様な合成を行う。ヒドロゲルは、共有結合または物理的に交差結合したネットワークから構成される。物理的な交差結合とは、親水性のブロックが凝集することを意味する。
【0044】
アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、ジヒドラジド基またはチオール基を端末とするポリマーは、反応性の末端基を有する他のポリマーと反応して、ヒドロゲルを生成することができる。アクリレート基、メタクリレート基およびビニル基(反応性の末端基)は、いずれも、互いに、およびチオール基と適合性がある。チオール基およびアクリレート基で置換されたポリマーまたはポリマーブロックは、熱または光線が穏やかな条件下で、チオールエステルを生成する。したがって、チオール基およびアクリレート基で置換された水溶性のポリマーは、本発明に係る薬剤輸送システムに用いるヒドロゲルを生成するのに好適である。
【0045】
いくつかの種類のヒドロゲルは、ゲル化が終わった後の平衡状態で膨潤または収縮する。これは、ゲルへの転換が不完全であるためか、または速やかな反応のために要求される反応物質の濃度が、反応の後に続く生理条件下(温度、pH、イオン強度等)での平衡濃度(ゲル状態)と比較して高いことによる。
【0046】
チオール基とアクリレート基で置換された水溶性のポリマーは、反応速度が速く、ヒドロゲルへ転換する割合が高いため、本発明に係る薬剤輸送システムに用いるのに好適なポリマーである。
【0047】
本発明に係る薬剤輸送システムに用いるヒドロゲルは、互いに適合性のある反応性末端基を有するポリマーを混合することによって生成することができる。このポリマーの混合物は、チオール基を有するポリマーとアクリレート基を有するポリマーを含むのが好ましい。このポリマーを混合すると、チオールエステルが生成し、このエステルを十分な温度または光に晒すとヒドロゲルとなる。チオールエステルの生成は、患者の体温の条件下では、これよりも低い温度条件下に比べて、迅速に進む。例えば、37℃近辺では、22℃近辺よりも速く反応が進む。
【0048】
上記互いに適合性のある反応性末端基を有する複数種のポリマー(好ましくは、チオール基を有するポリマーとアクリレート基を有するポリマー)は、患者への投与に先立って、または投与の最中に混合する。投与の最中に混合する場合には、ポリマーは、注入される間に混合されるか、または異なる種のポリマーを連続的または同時並行的に注入された後に混合されることになる。このような互いに適合性のある反応性末端基を有する複数種のポリマーの混合物としては、エトキシレート化トリメチロールプロパントリ−3−メルカプトプロピオネートとポリ(エチレングリコール)ジアクリレートの混合物がある。
【0049】
本発明に係る薬剤輸送システムに用いるヒドロゲルは、外傷部位を取り囲む組織の圧縮率に類似した圧縮をもつのが好ましい。すなわち、脊髄用の薬剤輸送システムの場合には、脊髄の圧縮率に類似した圧縮率をもつのが好ましい。また、ヒドロゲルの気孔の大きさは、投与される治療薬の粒径に一致しているのが好ましい。治療薬の分子量が500の場合、ヒドロゲルの気孔は、この分子量500の治療薬が通過しうる大きさを有しなければならない。
【0050】
上記のような治療薬とすでに述べた粒子の両方を含む部材は、治療薬を徐放させることができる。ここで、粒子は懸濁状態で損傷部位(末梢神経や脊髄)に注射するのが好ましい。この粒子は、粒径が約1〜1000μmのマイクロ粒子とすることができる。また、この粒子は、粒径が約1〜1000nmのナノ粒子とすることができる。粒径は、特定の条件に適応するように変えることができる。
【0051】
治療薬は、酸化ストレスに関連するラジカルを除去したり、このようなラジカルの生成を防いだり、一酸化窒素の毒性を中和する効果を発揮しうる濃度で、粒子の表面に付着させたり、粒子の内部に存在させたりすることができる。粒子は、治療薬を、粒子と治療薬の全体に対する重量比で、好ましくは0.1〜30%、より好ましくは1〜30%含むのがよい。治療薬は、拡散、溶解、粒子塊の分解等を通じて放散される。
【0052】
粒子は、固体のポリマーまたはゲルとすることができる。このような粒子は、生分解性でかつ生体適用性のあるポリマー(例えばポリエステル)とするのが好ましい。
本発明において用いる粒子として好適なのは、エステルの加水分解機構を通じて分解しうるポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(略してPLGA)である。これ以外に粒子として好適な物質は、ポリラクチド、ポリグリコリド、およびポリ(カルボキシフェノキシプロパン)−コ−セバシン酸(例えばMGI Pharmaceuticalsが提供しているgliadel wafer(商標)である)。粒子の成分(ポリマー、モノマー、分解生成物等)は、生分解性、生体適応性、またはこれらの両方を有するのが好ましい。
【0053】
上記のようなヒドロゲルと粒子は、元の位置(in situ)でゲル状態から徐放されるようにするため、組み合わせ状態で投入することができる。治療薬の粒子からの放出速度とヒドロゲルからの放出速度は、互いに異なる。好ましい態様においては、ヒドロゲルまたは粒子に異なる種類の治療薬を含ませたり、同一種の治療薬が異なる速度で放出されるよう、同一種の治療薬を異なる種類の粒子に含ませたりすることもある。
【0054】
本発明の一態様においては、ヒドロゲルまたは粒子の分子の一部を治療薬で置換する。治療薬を置換するための結合は、どのようなものであってもよい。好ましいのは、ポリマーの繰返し単位であるカルボキシル基またはヒドロキシル基に、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、アセタル結合させることである。好ましい態様においては、ヒドロゲルは、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)アクリレート(PGSA)の形で治療薬を含む。
【0055】
このような種類の治療薬でも、上記のようにヒドロゲルまたは粒子に置換させることができるが、好ましいのは、治療薬を抗酸化剤として、ヒドロゲルに置換させる態様である。より好ましいのは、抗酸化作用をもつアスコルビン酸(ビタミンC)およびα−トコフェロール(ビタミンE)をヒドロゲルに導入することである。ともに抗酸化剤であるビタミンCとビタミンEは、組み合わせると、互いに入れ替わりつつその機能を発揮するため、抗酸化効果が長時間持続する。他の治療薬についても、治療薬システムにおいて効果が長持ちするよう、複数の種類を組み合わせることが考えられる。
【0056】
前述のPGSAは、温和な条件下では、エラストマーからなる網状の構造をなす(ラジカル重合による)ため、抗酸化剤が適用中に変性をきたすのを保護することができる。さらに、PGSAからは、溶解成形技術や固体フリー(solid free)のラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)技術を用いて、任意の幾何形状をもつ足場のようなものをつくることができる。こうすると、薬剤輸送システムの形状を、特定の形状をもつ障害部位(例えば脊髄腫瘍の空隙)に合わせてカスタマイズすることができるため、SCIや末梢神経等の外科手術を行う際に有用である。
【0057】
下記の表1は、7つの薬剤輸送システム(組み合わせ1〜7)の構成を一覧できるようにしたものである。
1)組み合わせ1;ヒドロゲル+1種の治療薬
2)組み合わせ2;ヒドロゲル+複数種
3)組み合わせ3;粒子+1種の治療薬
4)組み合わせ4;粒子+複数種の治療薬
5)組み合わせ5;ヒドロゲル+粒子+1種の治療薬(治療薬は、ヒドロゲル中もしくはヒドロゲル内の粒子の中、またはこれらの両方の中に存在する)
6)組み合わせ6;ヒドロゲル+粒子+複数種の治療薬(治療薬は、ヒドロゲル中もしくはヒドロゲル内の粒子(複数種の粒子は互いに識別しうる形で存在する)の中、またはこれらの両方の中に存在する)
7)組み合わせ7;ヒドロゲル+粒子+複数種の治療薬(治療薬は、ヒドロゲル中もしくはヒドロゲル内の粒子(複数種の粒子は互いに識別しうる形で存在する)の中、またはこれらの両方の中に存在する)
【0058】
【表1】

【0059】
上記の表1において、重量%は、その成分の重量を、組み合わせ全体(他の成分をも含む)の重量で除した値である。また、PBS(pH7.4)とは、リン酸塩でpH7.4に緩衝された生理食塩水(Phosphate Buffered Saline)を意味し、第一リン酸カリウム(KHPO(136g/mol))144mg/L(1.06mM)、塩化ナトリウム(NaCl(58g/mol))9000mg/L(155.17mM)、および第二リン酸ナトリウム(NaHPO・7HO)144mg/L(1.06mM)からなる。
【0060】
ラジカルスカベンジャーまたな抗炎症剤として働く分子は、本発明で用いる治療薬の候補となりうる。分子は、小さいものが好ましい。治療薬は、患者の体内で局所的にフリーラジカルの数を減少させるか、またはフリーラジカルの生成を抑制するものが好ましい。本発明に係る薬剤輸送システムは、2以上の種類の治療薬を含むことができる。本発明に係る薬剤輸送システムにおける治療薬としては、抗酸化剤、ステロイド、またはこれらの組み合わせ等を用いることができる。好ましい態様によれば、治療薬は、テンポール(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)、乳酸、ミノサイクリン、メチルプレドニソロン、MnTBAP(マンガン(III)テトラキス(4−安息香酸)ポルフィリン)、およびデキサメタソンからなる群(いずれも抗酸化剤)より、1種または複数種を選択する。抗酸化剤としては、アスコルビン酸やα−トコフェロールがある。
【0061】
同一の効果をもって互いに入れ替わることができる治療薬の組み合わせも、本発明に係る薬剤輸送システムにおいて用いることができる。例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)とα−トコフェロール(ビタミンE)の組み合わせは、互いに入れ替わることができ、抗酸化特性を長く持続させることができる。
【0062】
薬剤輸送システムにおいて用いることができる治療薬は、上記のものには限定されない。上記の他にも、NOSまたはNOSの生成を阻害する薬剤、上記以外の抗酸化剤、スピントラップ剤、ペルオキシナイトライトスカベンジャ等を用いることができる。
【0063】
上記のNOSまたはNOSの生成を阻害する薬剤としては、以下のものが挙げられる:1400W(N−(3−(アミノメチル)ベンジル)アセタミジン);アクチノミシンD;AET;ALLM;AllN;N−アリル−L−アルギニン;アミノグアニジン;ヘミスルフェート;1−アミノ−2−ヒドロキシグアニジン;p−トルエンスルホネート;2−アミノ−4−メチルピリジン;AMITU;AMT;S−ベンジルイソチオウレア;ブロモクリプチン;メシレート;L−カナバニンスルフェート;カナバリアエンシフォルミス;クロルプロマジン塩酸塩;クルクミン;クルクマロンガL;シクロヘキシミド;高純度シクロヘキシミド;シクロスポリン;デキサメタソン;2,4−ジアミノ−6−ヒコロキシピリミジン;N,N−ジメチル−L−アルギニン;N,NG1−ジメチル−L−アルギニン;ジフェニレンヨードニウム;DMHP;S(-)−エピガルロカテチンガレート;S−エチル−N−フェニルイソチオウレア;2−エチル−2−チオプシュードウレア;ETPI;塩基性線維芽細胞増殖因子;ボビン塩基性線維芽細胞増殖因子;ヒト遺伝子組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子;GED;ハロペリドール;L−N−(1−イミノエチル)リジン;L−N−(1−イミノエチル)オルニチン;LY83583;LY231617;MEG;メラトニン;S−メチルイソチオウレアスルフェート;S−メチル−L−チオトルールリン;ジヒドロクロリド;N−モノエチル−L−アルギニン;N−モノメチル−D−アルギニンモノアセテート;N−モノエチル−L−アルグニニンのDiHABS(ジ−ヒドロキシアゾベンゼン−p'−スルホネート)塩;N−モノエチル−L−アルグニニン;N−モノエチル−L−アルグニニンのモノハイドレートHABS塩;N−モノエチル−L−ホモアルギニン;ミオコフェノリン酸L−NIL;誘導型一酸化窒素シンターゼ阻害剤セット(Calbiochem(登録商標));ニューロナル一酸化窒素シンターゼ阻害剤セット(Calbiochem(登録商標));N−ニトロ−D−アルギニン;N−ニトロ−L−アルギニン;N−ニトロ−D−アルギニンメチルエステル;N−ニトロ−L−アルギニンメチルエステル;塩化p−ニトロルエテトラゾリウム;7−ニトロインダゾール;7−ニトロインダゾールのナトリウム塩;3−ブロモ−7−ニトロインダゾール;3−ブロモ−7−ニトロインダゾールのナトリウム塩;NOS阻害剤セット(Calbiochem(登録商標));1,3−PBITU;ペンタミジンイセチオネート;PPM−18;N−プロピル−L−アルギニン;1−ピロリジンカルボジチオン酸;SKF−525A;SKF−96365;サリチル酸ナトリウム;スペルミジン;スペルミジンの三塩酸塩;スペルミン;スペルミンの四塩酸塩;L−チオシトルールリン;N−tosyl-Lysクロロメチルケトン;N−tosyl-Pheクロロメチルケトン;TRIM;および亜鉛(II)プロトポルフィリンIX。この外、NOSまたはNO生成阻害剤の薬理学的に許容しうる塩も用いることができる。
【0064】
本発明に係る薬剤輸送システムに用いることができる抗酸化剤の例としては、以下のものが挙げられる:N−アセチル−L−シスチン;N−アセチル−S−ファルネシル−L−シスチン;AG1714;アンブロクソール塩酸塩;抗酸化剤セット(Calbiochem(登録商標));L−アスコルビン酸;ビリルビン;ビリルビン遊離酸;カフェイン酸;CAPE;カルンソール;(+)−カテチン;セルロプラスミン;ヒトリンパ血漿セルロプラスミン;コエレンラジン;ジイソプロピルサリチル酸銅;デフェロキサミン;R-(-)-デプレニルヒドロクロリド;DMNQ;DTPA;ジアンハイドライド;エブセレン;エラグ酸;デハイドレートエラグ酸;(-)-エピガールロカテキンゲレート;L−エルゴチオネイン;ジハイドレートEUK−8;アポ−フェリチン;ウマ脾臓アポ−フェリチン;カドミウム非含有フェリチン;ウマ脾臓カドミウム非含有フェリチン;ヒト肝臓フェリチン;ヒト組み換えフェリチンH−チェーン;ヒト組み換えフェリチンL−チェーン;ホルモノネチン;還元グルタチオン;還元グルタチオン遊離酸;グルタチオンモノエチルエステル;α−リポ酸;ジヒドロ−DL−α−リポ酸;ルテオリン,LY231617;ペニシルラミン;MCI−186;MnTMPyP,モリンハイドレート;NCO−700;NDGA;p−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド;O−トレンソックス;プロピルガレート;レスベラトロール;ロスマリン酸;(+)-ルチンハイドレート;シリマリン基;L−ステホリジン;ステファニアインテルメジカ;(±)-タクシフォリン;テトランドリン;DL−チオクチック酸;チオレドキシン;ヒト組み換え低エンドトキシンチオレドクソン;チオレドキシンH;酵母チオレドキシンH;組み換え酵母チオレドキシンH;DL−α−トコフェロール;トコペロールセット(Calbiochem(登録商標)); DL−α−トコフェロールアセテート、トコトリエノールセット(Calbiochem(登録商標))Trolox(登録商標);U−74389G;U−83836E;尿酸;およびビタミンEコハク酸塩。これら抗酸化剤の薬理学的に許容しうる塩も、本発明に係る薬剤輸送システムに用いることができる。
【0065】
本発明に係る薬剤輸送システムに用いうるスピントラップ剤剤の例としては、N−tert-ブチル−α−フェニルニトロン、テンポール、およびDTCS(鉄(II)N−(ジチオカルボキシ)サルコシンFe2+)がある。これらスピントラップ剤剤の薬理学的に許容しうる塩も、本発明に係る薬剤輸送システムに用いることができる。
【0066】
本発明に係る薬剤輸送システムに用いうるペルオキナイトライトスカベンジャーの例としては、エブセレン;FETMPyP;FeTPPS;還元グルタチオン;還元グルタチオン遊離酸;メラトニン;MnTBAP;MnTMPyP;L−セレノメチオニン;およびTrolox(登録商標)等がある。これらペルオキナイトライトスカベンジャーの薬理学的に許容しうる塩も、本発明に係る薬剤輸送システムに用いることができる。
【0067】
本発明において用いる治療薬は、ラジカルの除去、ラジカルの生成防止、その他一酸化炭素に関連するストレスによる毒性を打ち消す等の効果を発揮しうる濃度で用いる。好ましい濃度は、0.1〜30重量/体積%(薬剤輸送システム全体の重量/この体積)である。本発明の薬剤輸送システムで用いうる各治療薬の好ましい濃度を、下記の表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
本発明に係る薬剤輸送システムは、担体その他の薬理学的に許容しうる添加物を含むことができる。この「担体」とは、薬理学的に許容しうる補助剤およびビヒクルである。このような薬理学的に許容しうる担体としては、次のようなものがある:イオン交換体;アルミナ;ステアリン酸アルミニウム;レシチン;血清タンパク質;ヒト血清アルブミン;緩衝剤;リン酸塩;グリシン;ソルビン酸;ソルビン酸カリウム;野菜の飽和脂肪酸のグリセリド混合物;水;塩または電解液;プロタミンスルフェート;リン酸水素二ナトリウム;リン酸水素二カリウム;塩化ナトリウム;亜鉛塩;コロイダルシリカ;マグネシウムトリシリケート;ポリビニルピロリドン;セルロースを基礎とする物質;ポリエチレングリコール;ナトリウムカルボキシメチルセルロース;ワックス;およびポリエチレングリコール。
【0070】
本発明で用いる治療薬は、担体としての少量の希釈剤とともに投与される。例えば、治療薬として、1mlメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウム(すなわち、プレグナ−1,4−ジエン−3,20−ジオン,21−(3−カルボキシ−1−オキソプロポキシ)−11,17−ジヒドロキシ−6−メチル−モノナトリウム塩(6α、11β)(分子量496.53))を用いる場合には、40mgのメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウム、1.6mgの一塩基性リン酸ナトリウム無水物;17.46mgの乾燥二塩基性リン酸ナトリウム;および8.8mgのベンジルアルコール(保存剤)とともに投与することができる。
【0071】
上記各担体のpHは、必要ならば調整する。例えば、メチルプレドニソロンコハク酸ナトリウム40mg/mLを用いる場合、pHが7〜8、また、界面張力が0.5モル浸透圧濃度となるように、水酸化ナトリウムを添加する。母材の種々の条件は、母材に加える前の治療薬の溶液または希釈剤のそれと完全に同一かもしくは類似のもの、またはこれと異なるものにすることができる。例えば、メチルプレドニソロンコハク酸ナトリウムの母材が1mlである場合、この母材は、上述のように、同量のメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウムの外に、希釈剤として、上述の一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、ベンジルアルコール、ラクトース無水物および水を含むことができる。他の希釈剤も用いることができる。
【0072】
本発明においては、治療薬は、薬理学的に許容しうるものであれば、どのような担体とも一緒に投与することができる。例えば、治療薬は、緩衝液(例えばリン酸緩衝液またはリン酸塩で緩衝された生理食塩水)とともに投与することができる。
【0073】
本発明に係る薬剤輸送システムは、治療薬溶液中にポリマーを溶解または浸漬することによって実現することができる。1種または複数種の粒子およびヒドロゲルを組み合わせて使用する場合、これら母材の成分は、組み合わせて、またはそれぞれ単独で治療薬と混ぜ合わせる。複数種の治療薬を、母材成分である複数種の粒子、このうちのいくつかの種類の粒子をまとめたもの、またはヒドロゲル中に混入させる場合、これらの母材成分は、ヒドロゲルとなるすべてのポリマー成分を混ぜ合わせる前に、各治療薬の溶液と混合する。
【0074】
母材の分断、治療薬の放出、治療薬の生体内への分散に関しては、空間−温度に関する治療薬の分布について種々のパラメータの効果を予測するため、計算モデルが開発されている。このようなパラメータとしては、ポリマーの組成、分子量、多重分散度、治療薬のタイプ、治療薬分子の大きさ、治療薬とポリマーの相互作用、薬剤輸送システムの形状等がある。このようなパラメータは、本発明に係る薬剤輸送システムを最適化するために調整することができる。
【0075】
後述の実施例7に示すように、ヒドロゲルとしてのポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(分子量400g/mol)およびPLGAポリマー(分子量11600g/mol)と混合したエトキシレート化トリメチロールプロパントリ−3−メルカプトプロピオネート(分子量1300g/mol)は、本発明に係る薬剤輸送システムに好適なパラメータをもつヒドロゲルおよび粒子の例である。なお、本発明に係る薬剤輸送システムは、他のパラメータをもつヒドロゲルおよび粒子も用いることができる。
【0076】
本発明に係る薬剤輸送システムを最小侵襲的に投与するには、外科的に切開して投入するよりも、注射によって投与する方がよい。ただ1種の態様の投与で所定の用量を維持しうるのが好ましい。
【0077】
上記のように、治療薬は、外傷部位または炎症部位に直に投与することができる。こうすれば、システム的な投与に関連する副作用を最小限に止めることができる。上記のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)と混合したエトキシレート化トリメチロールプロパントリ−3−メルカプトプロピオネート(ETTMP)からなるヒドロゲルは、本発明の方法に用いるのに好適である。このヒドロゲルの組成は、表1に掲げたものである。
【0078】
本発明に係る薬剤輸送システムを用いる態様の一つは、脊髄打撲部位に対する注射である。この注射は、硬膜内髄内注射である。本発明に係る薬剤輸送システムを、注射その他のインプラントによって脊髄に注入するならば、治療薬も他の成分も、硬膜や血液脳関門を通過させる必要はない。本発明に係る薬剤輸送システムは、治療薬を長時間にわたって放出しうるように設計するのが好ましい。また、外傷部位においては、フリーラジカルの濃度が病態生理的に増加し(主に小グリア細胞の活性化および好中球の浸潤による)、かつこの濃度に一時的に留まるが、このような事態にも適合しうるように設計するのが好ましい。上述のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)と混合したエトキシレート化トリメチロールプロパントリ−3−メルカプトプロピオネート(ETTMP)からなるヒドロゲル(表1に掲げたもの)は、この意味においても、本発明の方法に用いるのに好適である。
【0079】
本発明に係る薬剤輸送システムは、治療中に加水分解し、さらに外科的な介入を行わなくても、通常のルートで体外に排出されるように設計するのが好ましい。上述のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)と混合したエトキシレート化トリメチロールプロパントリ−3−メルカプトプロピオネート(ETTMP)からなるヒドロゲル(表1に掲げたもの)は、この意味においても、本発明の方法に用いるのに好適である。
【0080】
本発明に係る薬剤輸送システムの適用可能性を評価するための試験
本発明の薬剤輸送システムとして用いうる治療薬、母材およびこれらの組み合わせについて、公知の方法を使って試験を行った。所定濃度のペルオキシナイトライトと、このペルオキシナイトライトの分解によって生じるラジカルを得るため、SIN−1塩酸塩のような一酸化窒素ドナーを、生体外で用いた。ついで、多くの方法(例えばグリース試薬を改良したもの)を用いて亜硝酸塩の量を測定することにより、抗酸化剤の活性を評価した。通常、市販されているグリース試薬は、5%のリン酸中に、0.2%のナフチレンジアミン二塩酸と2%のスルファニルアミドを含んでいる。生体外における細胞の完全性を、細胞膜の完全性に係るラクテートジヒドロゲナーゼ(LDH)のミトコンドリア活性を評価するためのMTTまたはMTS検定法を用いて評価することができる。この検定法の詳細については、Mosmann,T. (1983) Rapid Colorimetric Assay for Cellular Growth and Survival: Application to Proliferation and Cytotoxicity Assays. J. Immnunol. Meth. 65, 55-63; and Wilson, A.P. (2000) Cytotoxicity and Viablility Assays in Animal Cell Culture: A Practical Approach, 3rd ed. (ed. Master, J.R.W.) Oxford University Press: Oxford 2000, Vol. 1(この内容はすべて本明細書において引用する)を参照されたい。
【0081】
本発明に係る薬剤輸送システムの細胞死または細胞膜の損傷を減らす能力については、およびSIN−1のような一酸化窒素ドナーによって生成する亜硝酸塩を除去しうる能力については、生体外で試験を行なうことができる。本発明に係る薬剤輸送システム、ならびにこれに用いる治療薬および母材の効果は、免疫染色またはペルオキシナイトライトの酸化ストレスを調べるマーカーを使った生体内試験の後に評価することができる。この場合のマーカーとしては、3−ニトロチロシンおよび4−ヒドロキシノネナルを用いることができる。
【0082】
ラットの脊髄に軽微な打撲傷を負わせ、ペルオキシナイトライトによって誘導される酸化ストレス(ダメージ)の空間的および時間的な特性を評価した(Xiong,Y, Rabchevsky,A.G. and Hall,E.D. (2007) Role of peroxynitrite in secondary oxidative damage after spinal cord injury. J. Neurochem. 100(1), 39-649(以下「Xiongら」という(この内容はすべて本明細書において引用する))参照)。
【0083】
Xiongらは、参照ラットと比較して、3−ニトロチロシン(ペルオキシナイトライト専用のマーカー)は、打撲傷を負わせた後早期に(1時間後と3時間後)急速に蓄積され、さらに、この3−ニトロチロシンの増加は、1週間持続したことを示している。また、Xiongらは、タンパク質の酸化に関連したタンパク質カルボニル、および脂質の過酸化に誘導される4−ヒドロキシノネナルの濃度がともに増加し、かつこの濃度が維持されることを示している。3−ニトロチロシンおよび4−ヒドロキシノネナルの濃度のピークは、打撲傷を負わせてから24時間後に観察されたと記されている。免疫組織化学的な結果として、Xiongらは、3−ニトロチロシンと4−ヒドロキシノネナルがともに局所的に存在することを示した。これは、ペルオキシナイトライトがタンパク質の硝酸性の損傷だけでなく、脂質の過酸化に関与することを意味している。
【0084】
もう一つの酸化ストレスによるダメージは、細胞内カルシウムが過剰になることである。細胞内カルシウムが過剰になると、有節動物のタンパク質を含むいくつかの細胞ターゲットを分解させるシスチンプロテアーゼカルパイン(α−スペクトリン)が活性化される。Xiongらは、(α−スペクトリン)が分裂して生ずる生成物の解析を通じて、特にカルパインが分裂してできる分子量が145の生成物が、打撲傷を負わせた後1時間経過すると、顕著に増加することを示した(ただし、ピークは72時間経過後に訪れる)。この結果、Xiongらは、後々生ずるカルパインの活性化は、多くが、ペルオキシナイトライトに仲介された、カルシウムホメオスタシスの二次的な酸化と関連しているようだと結論づけた。
【0085】
本発明に係る治療薬システムに用いようと考える治療薬、母材およびこれらの組み合わせは、Xiongらに記載されているようなマーカーを使って試験することができる。この際には、Xiongらに記載されているマーカーだけでなく、多くの評価用マーカーを用いることができる。Xiongらに記載されている方法は、ラットの脊髄に打撲傷を負わせ、3−ニトロチロシンおよび4−ヒドロキシノネナルについて、免疫ブロッティング解析を行うというものである。すなわち、α−スペクトリンの分断生成物についてウエスタンブロットを施し、次のような統計分析を行う。
【0086】
ラットの脊髄に打撲傷を負わせる方法は、つぎのようなものである。Xiongらは、すべての試験は、成長した若いメス(Sprague-Dawley rat;Charles River社(米国ミネソタ州ホートゲージから入手;200〜225g))を使って行ったと記載している。ラットは、無差別に抽出し、発情期に入ったものは試験しなかった。
【0087】
ラットは、T10番の脊椎に椎弓切除手術を施す前に、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を使って麻酔にかけた。脊髄に対する打撲傷は、無限区間の衝撃装置(Scheff,S.W., Rabchevsky,A.G., Fugaccia,I., Main, J.A.,and Lumpp,J.E.Jr. (2003) Experimental modeling of spinal cord injury: characterization of a force-defined injury device. J. Neurotrauma 20, 179-193(この内容はすべて本明細書において引用する)参照)を使って負わせた。この装置は、先端がステンレススチール製の衝撃器(impounder)を使って、急速に衝撃を加えることにより、外部に晒された脊髄に信頼に足る打撲傷を負わせることができる。この際には、嘴状のT9番脊椎および尾状のT11番脊椎を鉗子で挟み、脊椎の一部(カラム状)を安定化させる。脊椎カラムと露出させた脊髄は、水平になるように注意深く整列させる。衝撃を加える際には、ステッピングモータを駆動させて、これに噛み合わせたラックを、外部に晒した脊髄に向けて移動させる。脊髄に加える力は、200kdynであるため、軽い裂傷が生まれる。上記の衝撃装置は、パソコンに接続し、衝撃器の速度、実際に加わった力、および脊髄が変位した距離を記録する。
【0088】
裂傷が生じた後、1,3,6,24,48,および72時間ならびに1週間経過した各時点で、ペントバルビタールナトリウムを過剰に投与(150mg/kg)して、第1の組のラット(各時点につき6匹のラット)を死亡させる。
【0089】
衝撃の中心点を含む20mmの脊髄断片を、椎弓切除手術によって速やかに取り出す。取り出した組織は、冷却したテーブル上で切開し、直ちに遠心分離用の試験管(800μLのトリトン溶解緩衝液[20mmol/Lのトリス塩酸塩、150mmol/Lの塩化ナトリウム、1%のトリトンX−100、5mmol/LのEGTA、10mmol/LのEDTA、20mmol/LのHEPES、グリセロールの10%溶液、およびプロテアーゼ阻害カクテル(混合物)(Roche Inc., 米国ニュージャージー州ニュートリー)からなる]を含む)に移す。この後、超音波でさらに切断した。
【0090】
脊髄の断片を解体した後、組織のサンプルを4℃下1500rpmで1時間遠心分離にかける。その後、上澄み液を採取し、プロテインアッセイキット(Pierce Biotechnology社(米国イリノイ州ロックフォード))を使って、タンパク質の濃度を測定する。この際、サンプルは、1μg/μLに規格化し、アッセイにかけるまで、80℃で保存する。
【0091】
酸化ダメージは、スロット免疫ブロット法で評価する。2μgのタンパク質サンプルを、最適な抗体結合感度を観るために、スロット−ブロット装置に載せる。ついで、脂質を過酸化するため、ウサギのポリクロナール抗HNE抗体(1:5000の割合; Alpha Diagnotics International社(米国テキサス州サンアントニオ)製)を添加する。
【0092】
ついで、ペルオキシナイトライトから生成する3−ニトロチロシンを得るため、ウサギのポリクロナール抗ニトロシロシン抗体(1:2000の割合; Update USA社(米国バージニア州シャーロッツビル)製)を添加する。この後、オキシ−ブロットタンパク質酸化検定キット(Chemicon International社(米国カリフォルニア州テメクラ)製)を用い、オキシブロット法に従って、タンパク質の酸化を検出する。
【0093】
Li-Cor Odyssey赤外線イメージングシステム(1:5000の割合;LI-Corバイオオサイエンス社(米ネブラスカ州リンカーン)製)を使って、スロット−ブロット分析を行う。この装置は、2次抗体としてIRDye800が結合したヤギ−抗−ウサギIgG(1:5000の割合;Rockland社(米国ペンシルベニア州ギルバーツビル)製)を用いる。各酸化マーカーについてデンシトメトリー曲線が線型となる範囲を求め、得られたデンシトメトリー曲線が正確な定量範囲から外れていないことを検証するために、予備的な分析を行う。
【0094】
3−ニトロチロシンおよび4−ヒドロキシノネナルの免疫組織化学:
Xiongらによれば、裂傷が生じた後、1,3,6および24時間経過した各時点で、第2の組のラットに、ペントバルビタールナトリウムを過剰に投与(150mg/kg)し、ついで0.1mol/Lのリン酸塩で緩衝した生理食塩水(PBS)150mLを注入する(この後、さらに4%のパラホルムアルデヒドの4%PBS溶液(pH=7.4)200mLを注入する)。
【0095】
長さ5mmの脊髄断片を、裂傷部位を中心として、裂傷後の異なる時点で、横方向に切開した。また、裂傷部位を含む長さ15mmの脊髄断片を、裂傷後25時間経過した時点で縦方向に切開した。切り出した断片は、4%のパラホルムアルデヒドの4%PBS溶液に4時間浸漬した。この後、組織をPBSに一晩浸け置き、リン酸塩で緩衝した20%スクロース用域に2日間低温保存した。
【0096】
ついで、脊髄を20μm角で刻み、多数の刻んだもの(微小片)を、5つ目ごとに、凍結台(Superfrost plus slides(米国ニューハンプシャー州ハンプトン)製)上に直に載置した。台への載置が終わったら、この台をトレーに載せて、4℃で一晩乾燥保存する。この後は、着色が生じるまで−20℃で保存する。着色が生じたら、凍結している台を−20℃の状態から移動させ、30分間20℃で凍結状態を解く。
【0097】
0.2mol/LのPBSで洗浄した後、脊髄の微小片を、3%の過酸化水素を含む0.2mol/LのPBS中で30分間培養し、さらにブロッキングバッファー(5%のヤギの血清、0.25%のTriton-X、0.2mol/LのPBS中に溶解した1%の乾燥ミルクからなる)中で1時間培養した。この後、ウサギのポリクロナール抗4−ヒドロキシノネナル(1:5000の割合)または抗3−ニトロチロシン抗体(1:2000の割合)に一晩晒した。
【0098】
翌日、脊髄の微小片を、ビオチニル化したヤギ−抗−ウサギ2次抗体(1:200の割合;Vector Labs社(米国カリフォルニア州バーリンガム)製のVector ABC-APキットを用いた)とともに、20℃で2時間培養した。この後、脊髄の微小片を、VECTASTAIN ABC(avidin DHとビオチニレート化ワサビダイコンペロキシダーゼVector Labs社製)試薬を使って1時間培養し、ベクターブルー法により、10〜30分間かけて暗所で着色領域を拡大させた(ベクターブルーアルカリ性ホスファターゼ基質キット(Vector Labs社製))を用いた。反応が終了した後、脊髄の微小片は、Nuclear fast red(Vector Labs社製)で対比染色し、脱水した後、Olympus Magnafireデジタルカメラ付きのOlympus Provis A70顕微鏡(Olympus America社(米国ニューヨーク州メルビル)製)で写真撮影した。
【0099】
Xiongらによれば、α−スペクチンの断片にウエスタンブロット法を適用した結果、各サンプル15μgについて、ナトリウムドデシルスルフェート−ポリアクルアミドゲル中で、電気泳動にかけた([3〜8%アクリルアミド、Bio-Rad Criterion XTプレキャストゲル]の担体を用い、Tris-acetate緩衝液中で行った)。ついで、半乾燥電気移動ユニット(Bio-Rad Laboratories社(米国カリフォルニア州ヘルキュール)製)を用い、20mA下で15分間かけて、ニトロセルロースの細胞膜に移行させた。
【0100】
ブロット(染み)に、マウスのモノクロナール抗α−スペクトリン抗体(1:5000の割合:Affiniti社(米国フロリダ州フォートロンダーデール、現在Biomol Internation LP(米国ペンシルベニア州プリマス)の一部となっている)製を用いて精査した。この結果、分子量280000の親となるα−スペクトリンだけでなく、分子量150000〜および145000〜のタンパク質分解片にも共通のエピトープ構造が確認された。ついで、1次抗体に晒し、さらに暗所で1時間、IRDye800が結合したヤギ−抗−ウサギIgG(1:5000の割合;Rockland社製)を適用する。
【0101】
このあと、Li-Cor Odyssey赤外線イメージングシステムを使って、概ね分子量150000および145000のα−スペクトリンタンパク質分解片(それぞれSBDP145およびSBDP150)を定量する。それぞれのウエスタンブロットは、ブロットとブロットの染みの違いを際立たせるよう修正するための標準化されたタンパク質のローディングコントロール過程をも含む。このような定量的評価方法は、他の研究にも採用されている(Kupina,N.C., Bernath E.E., Inoue J., Mitsuyohsi A., Yuen, P.W., Wang, K.K., and Hall E.D. (2002) Neuroimmunophilin ligand V-10, 367 is newroprotective after 24-hour delayed administration in mouse model of diffuse traumatic brain injury. J. Cereb. Blood Flow Metab, 22, 1212-1221; および Hall E.D., Sullivan, P.G., Gibson, T.R., Pavel, K.M., Thompson, B.M., and Scheff, S.W. (2005) Spatial and temporal characteristics of newrodegenerations after controlled cortical impact in mice: more than a focal brain injury. J. Neruotrauma 22, 252-265:これら2つの文献の内容はすべて本明細書において引用する)。
【0102】
統計的分析:Xiongらは、スロット−ブロットを読み取る際に、定量的なデンシトメトリー分析、およびウエスタン免疫ブロット分析を用いている。さらに、統計的分析には、STATVIEWソフトウエア(JMPソフトウエア(米国ノースキャロライナ州キャリー)製)を用いている。これによれば、すべての値は、平均±標準誤差の形で表される。最初に、値の変動を2つの方法で、分析する。この結果、変動に有意な差が認められた場合(p<0.05)には、打撲傷を負わせた後の異なる時点で、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD;Protected Least Significant Difference)試験(事後的な(post hoc)試験)により、傷を負わせていない参照例と比較する。いずれの場合にも、p<0.05であれば、有意な差があるものとする。
【0103】
上記のXiongらが記述している試験方法によれば、どのような治療薬、母材、または薬剤輸送システムでも試験することができる。すなわち、SCIの後、治療薬、母材、または薬剤輸送システムを外科的に、または注射で投与する。ついで、Xiongらに記載されているようなマーカー試験を行う。この際には、炎症的な応答を追跡するため、免疫反応(例えばグリアル微小繊維酸性タンパク質(GFAP))のためのマーカーを監視する。治療の効果を監視するには、ヘマトキシリンまたはエオシンによる染色によって、外傷の全体的な範囲も評価する。
【0104】
本明細書において記載した母材は、単独で、もしくは細胞を埋め込んで、または治療薬との組み合わせ、もしくは最適な機能をもつ他のポリマーと混合して用いる。この最適な機能とは、分解速度、機械特性、小型化等である。最適な機能としては、この外にも、注射針の置き台(すなわちヒト組織工学上の補綴台)の一部となりうるような粒子、ヒドロゲルまたは粒子とヒドロゲルの形成能力がある。
【0105】
ヒドロゲルおよび/または粒子は、細胞、薬剤その他ヒト組織工学上有用なリマーを輸送することができる。粒子および/またはヒドロゲルは、細胞の付着を促進するペプチド鎖(例えばRGBまたはIKVAV)を含むことができる。この細胞の付着は、架橋されたポリマーのネットワークに組み入れられるか(ポリマーを構成するモノマーの一部として)、またはポリマーに物理的に絡め取られることによって実現する。米国特許第5759830号、同第5770417号、同第5770193号、同第5514378号、同第6689608号、同第6281015号、同第6095148号、同第6309635号、および同第5654381号は、ポリマーの合成、ポリマーの最適化、ポリマーに細胞を埋め込むこと、および組織台を調整することに関連する文献である(この内容はすべて本明細書において引用する)。
【0106】
本発明に係る薬剤輸送システムは、上記のような脊髄損傷の治療に好適に用いることができるが、その外にも、末梢神経、脳梗塞、心筋梗塞、慢性心疾患、糖尿病、循環系のショック、炎症性疾患、ガン、神経変性障害等にも適用しうる。上記以外の疾患で、治療に本発明を適用しうるものとしては、“Pacher,P., Beckman,J.S., Liaudet,L. (2007) Nitric oxide and peroxynitrite in health and disease. Physiol. Rev. 87, 315-424”を参照されたい(この内容はすべて本明細書において引用する)。上記の脊髄損傷等の外傷・疾患を治療するには、本発明に係る薬剤輸送システムを外傷や疾患部位に投与する。本発明に係る薬剤輸送システムの投与は、外科的なインプラントや注射等によって行うことができる。
【0107】
当業者であるならば、上記の態様を2つ以上組み合わせたり、また組み合わせたものを他の態様とさらに組み合わせたりすることができるであろう。
【0108】
上記の外にも、フリーラジカルスカベンジャー(例えば、アスコルビン酸)は、上記の母材と組み合わせることができる。この組み合わせは、食品業界や包装業界において、保存剤として使用することができる。例えば、食用の母材を、食用の抗酸化剤と組み合わせることができる。好ましい例として、ポリ乳酸をビタミンCと組み合わせたものが挙げられる。
【0109】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。これらの実施形態は、現段階において、最も好ましいものである。しかし、本発明は、これらの実施形態(薬剤の種類や装置類)に限定されるものではない。
【0110】
[実施例]
【0111】
実施例1−マルチブロックコポリマーの合成−PGA−PEG−PGA(ポリ(グリコリド)−b−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(グリコリド)
【0112】
上記のポリマーは、親水性のポリマーのいずれか一方の側に重合化された疎水性末端基をもつ、温度感受性のブロックコポリマーである。すなわち、上記のポリマーは、温度感受性のヒドロゲルとして用いうる両親媒性のトリブロックコポリマーである。このポリマーの場合は、開環重合によって、疎水性の末端鎖が生成される。
【0113】
材料
ポリ(エチレングリコール)1g(分子量400:0.00025mol)
グリコリド0.05mol(=5.805g);および
オクタン酸第一スズ(触媒;アセトン溶液で0.025重量%=1.7mg、密度1.251g/mL、1.36μL。
【0114】
方法
1.乾燥PEGとグリコリドを、オーブンで乾燥させたシュレンクフラスコの中に入れ、真空下で、40分間スターラーバーを使って攪拌した。
2.PEGとグリコリドを150℃で溶融させ、ついで15μLの触媒(アセトン溶液)を滴下した。
3.反応は、溶融物の温度が室温まで低下して、粘性をもつようになるまで進行させた。
【0115】
実施例2−マルチブロックコポリマーの合成−PLGA−PEG−PLGA(ポリ(ラクリド−コ−グリコリド)−b−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)
【0116】
上記のポリマーは、温度感受性ブロックコポリマーのもう一つの例である。
【0117】
材料
PEG;0.5g(分子量400:0.000125mol)
グリコリド0.00625mol(=0.9008125g);および
オクタン酸第一スズ(触媒;アセトン溶液で0.05重量%=0.85mg、密度1.251g/mL、0.68μL。
【0118】
方法
1.PEG、グリコリドおよびラクチドを、フラスコの中に入れた。このフラスコは、まず真空下に置き、ついでアルゴンを充填した。
2.上記PEG、グリコリドおよびラクチドの混合物は、150℃で溶融させ、ついで15μLの触媒(アセトン溶液)を滴下した。
3.反応は、1時間45分間にわたって進行させた。
【0119】
図1、図2および図3は、CP−PLGA−pPEG−PLGA−1−トリブロックコポリマーの合成が成功したことを示している。PEGのメチレンは、3.5〜3.7ppm(水素4個分)にシフトが認められる。また、PGAのメチレンは、4.6〜4.9ppm(水素2個分)にシフトが認められる。さらに、PLAのメチンは、5.2ppm(水素1個分)にシフトが認められる。
【0120】
上記スペクトルのピークは、以下の面積を有する:PEG=15.57/4=3.8925;PGA=3.6/2=3.8925;およびPGA=1。PEG(Fluka)ポリマーの分子量は、4000g/molである。一方、PEGモノマーの分子量は44であり、重合度は91である。一方、PLAモノマーの分子量は72であり、重合度は91/3.8925=23.38、PLAポリマーの分子量は1683.24である。また、PGAモノマーの分子量は58であり、重合度は91/(3.892/1.8)=42.08、PLAポリマーの分子量は2440.69である。
【0121】
PLGA−PEG−PLGAの全分子量は、8881.38g/molである。また、PEGブロックコポリマーの分子量は、約4000g/molである。各PLGAブロックコポリマーの分子量は、約4881.38g/molであり、PLGA比(乳酸/グリコール酸モノマー)は、約36:46である。
【0122】
実施例3−マルチブロックコポリマーの合成−CTA−CP−PLGA−pPEG−PLGA−CTA
【0123】
上記ポリマーは、マルチブロックコポリマーの可逆性付加−分断鎖の輸送(RAFT;Reversible addition-Fragmentation chain Transfer)重合のためのマクロ鎖状輸送剤の一例である。上記マクロ鎖状輸送剤は、トリブロックであり、5またはそれ以上のブロックをもつ両親媒性のマルチブロックコポリマーを生成するのに用いることができる。
【0124】
材料
CP−PLGA−pPEG−PLGA(前述のもの)、または二官能性のヒドロキシル末端基を含む他のポリマー
S−(チオベンゾイル)−チオグリコール酸(CTA)または他の酸鎖状輸送剤
鎖状輸送を活性化するためのジジクロヘキシルカルボジイミド(DCC)
【0125】
方法
1.100mgのCP−PLGA−pPEG−PLGA−1(全分子量は、8881.38g/mol:1.124×10−5モル)を、1mLの無水ジクロロメタンに溶解した。
2.CP−PLGA−pPEG−PLGA−1の2倍のモル数のDCC(4.65mg)、およびCP−PLGA−pPEG−PLGA−1の5倍のモル数のCTA(11.95mg)を、スターラー付きの丸底フラスコに注入した。
3.上記のフラスコを真空中に1時間放置した。
4.上記の真空をアルゴンで置き換えた。
5.1mLの無水ジクロロメタンを上記フラスコに注入した。
6.上記溶解させたポリマーを、上記フラスコに滴下し、室温で一晩攪拌した(回転数:300rpm)。
7.得られた溶液を100mLのエチルエーテル中で沈殿させた。
8.上記混合物を、濾紙および真空フィルタを介して濾過・分離した後、上記の沈殿物を乾燥させた。
【0126】
図4(1H−NMRスペクトル図)からは、鎖状輸送剤の存在は明らかではない。しかし、上記の精製過程(実施例4も参照)は、鎖状輸送剤が、ヒドロキシル末端基をもつポリマーと結合する効率を高めるために開発したものである。
【0127】
実施例4−マルチブロックコポリマーの合成−DJS−CP−CTA−Cl
【0128】
RAFT鎖状輸送剤の酸クロリドは、ヒドロキシル末端基をもつポリマーと反応する効率を高めるために開発したものである。このRAFT鎖状輸送剤の酸クロリドは、塩基性の触媒(例えば4−ジメチルアミノピリジン(DMAP))を用いるのが好ましくないときに(塩基性の触媒により、α−ヒドロキシ−酸ポリマーブロックや、マクロマー中の他の想定しうるエステルブロックにおけるエステルの加水分解が増加するおそれによる)、上述の酸鎖状輸送剤(CTA)の結合を容易にする上で有用である。
【0129】
材料
S−(チオベンゾイル)−チオグリコール酸または他のCTA
オキサリルクロリド
【0130】
方法
1.0.5gのS−(チオベンゾイル)−チオグリコール酸を、スターラー付き丸底フラスコ中の50mLの無水ジクロロメタンに溶解した。ついで、このフラスコを氷水浴に浸し、0℃に冷却した。
2.窒素雰囲気下で、オキサリルクロリド1.2モル当量を、ゆっくりとフラスコに注入し、ついで、この溶液の温度を、3時間攪拌しながら、室温まで低下させる。
3.溶液を減圧下で濃縮し、上記のRAFT鎖状輸送剤の酸クロリドを得た(ジクロロメタン中に残留させることもできる)。
【0131】
図5は、得られたS−(チオベンゾイル)−チオグリコール酸クロリドDJS−CP−チオベンゾイル−チオグリコール酸クロリド−1の1H−NMRスペクトルを示す。
【0132】
実施例5−マルチブロックコポリマーの合成:CTA-ClのCP−PLGA−pPEG−PLGA−1に対する結合
【0133】
ここで紹介する方法は、温度感受性コポリマーの生成に寄与するRAFTブロック重合化のためのマクロ鎖状輸送剤を生成するためには、ポリマーを結合する鎖状輸送剤の酸クロリドを用いることが有用ことを示している。
【0134】
方法
1.1mLの無水ジクロロメタンに溶解した100mgの乾燥させたCP−PLGA−pPEG−PLGA−1を、シュレンクフラスコに入れ、ついで、7.84μLのトリエチルアミンを添加した。
2.この混合物を不活性ガス雰囲気下で0℃に冷却した。
3.0.346mLのDJS−CP−チオベンゾイル−チオグリコール酸クロリド−1(ポリマーに対して5倍のモル比としたジクロロメタン溶液)を、上記混合物にゆっくりと添加した。
4.反応を24時間かけて、反応物の温度が室温に低下するまで進行させた。
5.トリエチルアミン塩を除去するため、溶液を濾過した。
6.濾過した溶液をエチルエーテル中で沈殿させ、未反応の酸クロリドとトリエチルアミンを除去した。
7.沈殿物を濾過し、真空中で乾燥させた。
【0135】
図6は、ポリマーブロックのさらなる付加のためのRAFTの重合化を行うマクロ鎖状輸送剤を生成するため、CP−PLGA−pPEG−PLGA−1コポリマーに、RAFT鎖状輸送剤末端基(7.6〜8.0ppm)によって薬剤輸送機能をもたせることが成功したことを示している。RAFTの重合化プロセスは、注射の可能な薬剤輸送ヒドロゲルまたはヒト組織工学的な基台となる、温度感受性をもつ生体適合性および生分解性のペンタブロックコポリマーを生成するため、オリゴエチレングリコールメチルメタクリレートをトリブロックに付加する際に用いる。
【0136】
実施例6−マルチブロックコポリマーの合成−PGS-CTA
【0137】
ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)の水酸基を、前述のCP−PLGA−pPEG−PLGA−1用のRAFT鎖状輸送剤で官能化した。この際、RAFT鎖状輸送剤の酸または酸クロリドを用いた。例えば、温度感受性のエラストマーネットワークと生成しうるグラフトコポリマーを生成するため、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)の水酸基を、RAFTを介して、オリゴ(エチレングリコールメチルメタクリレート)で官能化する。
【0138】
材料1
ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸);
S−(チオベンゾイル)チオグリコール酸鎖状輸送剤(CTA)、またはS−(チオベンゾイル)チオグリコール酸以外の酸CTA;
CTAを活性化するためのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC);および
DMAP(塩基性触媒)
【0139】
方法1
1.0.5gのPGS(〜1.95mmolの水酸基を含む)を、5mLの無水ジクロロメタンに溶解した。
2.PGS中の水酸基とモル当量のDCC(0.402g)、およびPGSのモル数と比較して過剰のCTA(0.414g)を、スターラー付きの丸底フラスコに注入した。ついで、PGS中の水酸基に対して0.1モル当量のDMAPを、添加した。
3.フラスコを真空中に1時間放置した。
4.上記の真空をアルゴンで置き換えた。
5.無水ジクロロメタンを上記フラスコに注入し、DCC,CTAおよびDMAPを溶解させた。
6.前記工程1から得られた溶解したPGSをフラスコに滴下し、室温で一晩攪拌した(回転数300rpm)。
7.得られた溶液を250mLのエチルエーテル中で沈殿させた。
8.上記混合物を、濾紙および真空フィルタを介して濾過・分離した後、上記の沈殿物を乾燥させた。
材料2
ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸);
DJS−CP(チオベンゾイル)チオグリコール酸クロリド−1、またはDJS−CP(チオベンゾイル)チオグリコール酸クロリド−1以外の酸クロリド鎖状輸送剤;および
トリエチルアミン(塩基性触媒)
【0140】
方法2
1.1mLの無水ジクロロメタンに溶解した100mgの乾燥させたPGSを、シュレンクフラスコに入れ、ついで、PGSとモル当量のトリエチルアミンを添加した。
2.この混合物を不活性ガス雰囲気下で0℃に冷却した。
3.DJS−CP−チオベンゾイル−チオグリコール酸クロリド−1(ポリマーの水酸基に所望の官能化を施すための2倍のモル比の酸クロリド)を、上記混合物にゆっくりと添加した。
4.反応を24時間かけて、反応物の温度が室温に低下するまで進行させた。
5.トリエチルアミン塩を除去するため、溶液を濾過した。
6.濾過した溶液をエチルエーテル中で沈殿させ、未反応の酸クロリドとトリエチルアミンを除去した。
7.沈殿物を濾過し、真空中で乾燥させた。
【0141】
図7は、得られたCP−PGS−CTAポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)が、S−チオベンゾイル−チオグリコール酸鎖状輸送剤によって官能化されたことを示している。
【0142】
実施例7−注射可能なヒドロゲルを生体外および生体内における試験
【0143】
注射可能なヒドロゲルの生体外における試験
【0144】
生理条件下で急速にゲル化し、調整可能な膨潤特性を示す水溶性の複数種のポリマー化合物を同定した。これらのポリマー化合物は、以下の化合物である:
1.エトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオネート(ETTMP1300)。CAS345352-19-4(分子量1300g/mol:Bruno Bock社(ドイツ国マルシャハト)製)
2.エトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオネート(ETTMP700)。CAS345352-19-4(分子量700g/mol:Bruno Bock社(ドイツ国マルシャハト)製)
3.ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA400)。CAS26570-48-9(分子量400g/mol:Polysciences社(米国ペンシルベニア州ウォリントン)製)
3.ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA400)。CAS26570-48-9(分子量4000g/mol:Polysciences社(米国ペンシルベニア州ウォリントン)製)
【0145】
配合
【0146】
ETTMP1300およびETTMP700は、3つのチオール基をもつ。また、PEGDA400およびPEGDA4000は、2つのアクリレート基をもつ。これらの化合物を、チオール基とアクリルレート基とが等モルとなるように混合した。ついで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4;Gibco(米国カリフォルニア州カールスバッド)社製)を、全ポリマーの溶液に対して、20,25,30重量/体積%の濃度で溶解した。アクリレートとチオールを含むポリマーの組み合わせは、どのようなものでも本発明に用いることができる。この際、アクリレート基の分子量が大きくなればなるほど、膨潤が大きくなる。膨潤を小さくしたい場合には、低分子量のアクリレート基(例えばPEGDA400におけるくらいの分子量)を用いる。
【0147】
ゾルからゲルへの転換比率
【0148】
200mLのポリマーとよび生理食塩水(ETTMP1300/PEGDA400;互いに濃度は異なる)を、1.5mLのエッペンドルフ試験管に入れ、暗所中で、37℃で培養するか、または室温(22℃)に放置した。下記の表3は、ゾルからゲルへの転換(1グループにつきサンプルを3個とし、試験管を上下逆にして3時間手で掻き回して観察しても、溶液が流動しなくなったときをもってゲル化したとみなす)に要する時間を示している。
【0149】
表3から、ゾルからゲルへの転換に要する速度は、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)中のチオーアクチレート濃度に依存することが分かる。
【0150】
【表3】

【0151】
膨潤テスト
【0152】
1.5mLのゲル(n=6)を、37℃で効果させ、その質量と体積を測定した。ついで300mLのリン酸緩衝食塩水(pH7.4)中に入れ、7日間かけて平衡に至らしめた。膨潤比は、ヒドロゲルの体積比(硬化後の平衡ヒドロゲルの体積/初期の平衡ヒドロゲルの体積)として定義される。もう一つの測定量は、ヒドロゲルの重量比(硬化後の平衡ヒドロゲルの重量/初期の平衡ヒドロゲルの重量)である。初期のヒドロゲル重量は、化合物の配合から決定される。
【0153】
平衡ポリマーの重量%を求めるには、平衡に達した後のヒドロゲルの湿潤時の重量を測定する。ついで、ヒドロゲルに凍結乾燥を施し、乾燥重量を測定する。最後に、この乾燥重量を、初期のポリマー重量と比較すると、膨潤比も分かる。ヒドロゲルのゾル−ゲル転換および分解の範囲は、平衡後の乾燥質量を、ヒドロゲルに加えられた初期ポリマーの質量と比較することによって分かる。
【0154】
注射可能なヒドロゲルの生体内における試験
【0155】
2つの貯蔵溶液(薬瓶1:3.28mLのPBSに溶解した1720mgのETTMP1300、および薬瓶2:4.21mLのPBSに溶解した794mgのETTMP1300)を混合して、ETTMP1300とPEGDA400の25重量/体積%溶液を用意した。これらの貯蔵溶液は、滅菌濾過にかけた(0.2μmのスーパーメンブレンアクロディスクシリンジフィルタ(Super membrane Acrodisc syringe filter)(PALL life Sciences社製)を用いた)後、滅菌条件下で、ピペットで200μLずつ加えた。
【0156】
250gのラットに麻酔(麻酔薬はイソフルレーン)をかけ、椎弓切除手術によって、T8番の脊椎を外部に晒した後、前述の無限区間の衝撃装置(力の大きさは250kdynes)を用いて、脊髄に打撲傷を負わせた。
【0157】
4匹のラットについては6時間後、他の4匹のラットについては3日後に、ラットに再度麻酔をかけ、打撲傷を負わせた位置で、脊髄を再度外部に晒した。25μLのシリンジ(Hamilton 1802RN、26ゲージの鈍った注射針)に5μLの生理食塩水と15μLのチオールアクリレートゲル溶液(PBS中にETTMP1300とPEGDA400をそれぞれ含む、2つの200μLアリコート)を混合したものを、定位フレームを使って、脊髄の打撲傷中心部(硬膜背部中央の表面から測定する)に1.1mm注入した。このゲルは、5分間にわたって、3μL/分の速度で注射した。
【0158】
ついで、シリンジに対してゲルが付着するのを防止するため、生理食塩水をシリンジに追加した。アリコートを混合・注射した後、ヒドロゲルを室温下で約20分間にわって硬化させた。ヒドロゲルは、脊髄の内部で、7分以内に完全に硬化したと考えられる。注射してから5〜7分経過後、シリンジを取り外し、直ちに少量の残留したゲルを観察した。
【0159】
本発明に係る薬剤輸送システムのラットにおける効果を、打撲傷を負わせかつ本発明に係る薬剤輸送システムを注射しなかった比較例と対比し、14日間にわたって、バッソビーティーブレスナン(Basso Beattie Bresnahan:BBB)スコアリングにより観察した。14日経過後、ラットを安楽死させ、外傷の大きさと特性を評価する組織分析(ヘマトキシリンおよびエオシンによる染色、ならびに炎症マーカー(GFAP、Iba1ヒト免疫組織化学)による)のため、脊髄を収集した。
【0160】
実施例8−メチルプレドニソロンマイクロ粒子
【0161】
マイクロ粒子の用意
【0162】
ただ1種の懸濁したマイクロ粒子(質量250mgまで)の単一バッチを、以下の手順に従って用意した。
【0163】
溶液の調製
【0164】
汚染に対する簡単な予防として、すべてのビーカーをエタノールとアセトンで洗浄した。ついで、蒸留した脱イオン水を使って、0.25重量%のポリ(ビニルアルコール)(PVA)と0.5Mの塩化ナトリウム(NaCl)を含む800mLの水溶液をつくった。反応速度を上げるため、ホットプレートを使って上記の固体を溶解させ、ついで、溶液を室温まで冷却させた。
【0165】
0.5Mの塩化ナトリウム水溶液1Lをつくった。ついで、450mgのポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA:例えばBoehringer Ingelheim GR502H 分子量11600g/mol)を秤量し、1.1mLの塩化メチレン(DCM)に溶解した。ついで、50mgのメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウムを秤量し、400μLのメタノールに溶解した。最後に塩化メチレン溶液とメタノール溶液を混合した。
【0166】
均質化
【0167】
中型のヘッドをもつホモナイザを用意し、水、アセトン、再び水の順で洗浄した。ヘッドの下部を800mLのPVA/NaClに浸し、回転数を6500rpmに設定した。PLGA/DCM/MPss/メタノールの混合物をガラスピペットに注入し、20秒間均質化した。ついで、ホモナイザのヘッドを引き上げ、水で洗浄した。この後、均質化した溶液(約800mL)を、1Lの0.5Mの塩化ナトリウム溶液に注いだ。最後に、マグネットスターラー付きの攪拌プレート上で、400rpmの速度で1時間攪拌した。
【0168】
濾過、洗浄および凍結乾燥
【0169】
PVAとDCMを除去するため、上記の溶液1.8Lを攪拌しながら、真空下、酢酸エチル耐性をもつフィルタで濾過した。ついで、マイクロ粒子を蒸留水で洗浄し回収した。この後、懸濁させたマイクロ粒子を、50mLのファルコン試験管に注いだ。このファルコン試験管を、1500rcfの回転数で3分間遠心分離にかけた。上澄み液を蒸留脱イオン水で置き換え、マイクロ粒子を再度懸濁させた。上記の操作を3回繰り返した。3回目の遠心分離工程が終了したら、ファルコン試験管中の懸濁液を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥器中で、mTorrのオーダーの真空に晒した。最後に、こうして凍結乾燥させたマイクロ粒子をエッペンドルフ試験管に入れ、電子ビーム殺菌(強度:3mRad)のために包装した。
【0170】
チオール−アクリレートヒドロゲル中に懸濁させたメチルプレドニソロンの生体外での放出
【0171】
放出のための準備
【0172】
16mgのメチルプレドニソロンPLGAマイクロ粒子(上述の手順で用意したもの)を攪拌することにより、ヒドロゲル(25重量/容量%のチオール−アクリレートヒドロゲル溶液160μL)中に懸濁させた。この懸濁液50μLを、容積15mLのファルコン試験管に、ピペットで3回にわって注入した。こうして、試験管の底にゲルを硬化させた。10mLのPBSを、試験管(ヒドロゲルの上部)に入れ、密封した試験管を、楕円形シェーカーの頂面(37℃)に載置した。所定の時間間隔で、14日間にわたって、上澄み液から300μLのアリコートを回収した。
【0173】
HPLCから放出された薬剤の分析
【0174】
上記の各時点で採取したサンプルを、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけて分析することにより、以下の手順で、ヒドロゲルマイクロ粒子からのメチルプレドニソロンの放出速度を求めた。
【0175】
まず、238nmのUV検出器を備えた100HPLCシステムを使った。この際には、4.6mm×250mmのカラム(Atlantis dC18:5μm;(Atlantis社(アイルランド国ウォーターズ)))を用いた。浮遊層は、アセトニトリル、水、ギ酸(容量比60:40:1)を含んでいた。注射した容量は5μLであった。メチルプレドニソロンメチルプレドニソロンは、この状態を8.4分間保った。85〜2.66μg/mLに希釈した6個のサンプルを使って、基準線(放出曲線)を描いた(相関係数0.9997)。
【0176】
5mgのマイクロ粒子を50μLのヒドロゲルに懸濁させた3つのサンプルに係る上記放出曲線を図8に示す。
【0177】
実施例9−脊髄損傷を治療するための投与
【0178】
ラットの脊髄に打撲傷を負わせ、その中心部に15μLのヒドロゲル(実施例8の組成物(25重量/容量%のチオールアクリレートヒドロゲル溶液+1.5mgのメチルプレドニソロン(マイクロ粒子を含む)))を硬膜内髄内注射した。これは、15μgのメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウムを、1〜2週間わたって放出を制御しつつ、投与したことに相当する。臨床用としては、ヒトのT8番脊椎の直径が約10mm(ラットのそれは2.8mm)であることに鑑み、上記ラットの衝撃と同じ衝撃を受けた場合、上記ヒドロゲルは、ヒトの脊髄に150μL注射しうると考えられる。150μgのメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウムを、2次損傷の期間にわたって、外傷部位に直接投与することに相当する。
【0179】
実施例10−末梢神経の治療
【0180】
外傷または慢性的な変性に起因して末梢神経に炎症が生じた場合、外傷の近傍に上記ヒドロゲルを注射することができる。この場合、用量は、炎症部位周囲の注射可能なスペースの大きさによって変動する。例えば、上記ヒドロゲルを、末梢神経の近接部位に1mL注射すると、1mgのメチルプレドニソロンコハク酸ナトリウムが、1〜2週間にわたって放出される。
【0181】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、本明細書、特許請求の範囲および/または図面に実質的に記載されているあらゆる変更・修正をも含むと解さなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の損傷部位において、母材と1種または複数種の治療薬を含む薬剤輸送システムを投与する工程を含む、前記損傷を治療する治療方法
【請求項2】
前記薬剤輸送システムを投与する工程は、前記薬剤輸送システムを、患者の損傷部位に注射する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記母材は、温度感受性のヒドロゲルを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記温度感受性のヒドロゲルは、エチレングリコールを含むポリマー、オリゴエチレングリコールを含むポリマー、ポリエチレングリコールを含むポリマー、ラクチドポリマー、グリコールポリマー、およびポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)からなる群より選択される1種または複数種のポリマーからなるマルチブロックコポリマーを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記温度感受性のヒドロゲルは、生体適合性の反応末端基を有する複数種のポリマーの組み合わせを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記温度感受性のヒドロゲルは、チオール基を有するポリマーとアクリレート基を有するポリマーとのチオールエステルを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記温度感受性のヒドロゲルは、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)アクリレート、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)およびポリ(エチレングリコール)またはオリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリレートのマルチブロックコポリマー、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)およびポリ(エチレングリコール)、オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリレートまたはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)のグラフトコポリマー、ならびにエトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオネートおよびポリ(エチレングリコール)ジアクリレートのチオールエステルからなる群より選択される1種または複数種のポリマーからなるマルチブロックコポリマーを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記温度感受性のヒドロゲルは、エトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオンネートとポリ(エチレングリコール)ジアクリレートとのチオールエステルを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記温度感受性のヒドロゲルは生分解性であり、前記ヒドロゲルは、生分解性または生体適合性をもちかつ体外への排出が可能な成分を含むか、または生分解性の成分と、生体適合性をもつとともに体外への排出が可能な成分との混合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記母材は粒子であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記粒子は、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記粒子は、生分解性ポリマー、体外排出可能な生体適合性ポリマー、または生体適合性もちかつ体外排出可能な成分を含む生分解性ポリマーであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記粒子は、ポリエステルであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記粒子は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリラクチド、ポリグリコリド、およびポリ(カルボキシフェノキシプロパン)−コ−セバシン酸)からなる群より選択される1種または複数種のポリマーを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記粒子は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を含むマイクロ粒子であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記1種または複数種の治療薬は、NOSまたはNOの生成阻害剤、抗酸化剤、スピントラップ剤、ペルオキシナイトライトスカベンジャー、およびこれらの薬理学的に許容しうる塩からなる群より選択される1種または複数種の物質を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記1種または複数種の治療薬は、1種または複数種の抗酸化剤、テンポール(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ)、尿酸、ミノサイクリン、メチルプレドニソロン、MnTBAP、デキサメタソン、およびこれらの薬理学的に許容しうる塩からなる群より選択される1種または複数種の物質を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記1種または複数種の治療薬は、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項21】
前記母材は、1種または複数種の治療薬またはこの薬理学的に許容しうる塩で官能化されていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記損傷部位は脊髄であり、前記投与の工程は、硬膜内髄内注射であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記損傷部位は末梢神経であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記母材は、温度感受性ヒドロゲルおよび粒子であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記1種または複数種の治療薬は、温度感受性ヒドロゲル、粒子、またはこれらの温度感受性ヒドロゲルおよび粒子中に溶解または分散されていることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記1種または複数種の治療薬は複数種の治療薬であり、これらのうち一部の治療薬は、温度感受性ヒドロゲル中に溶解または分散されており、他の治療薬は、粒子中に溶解または分散されていることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記温度感受性のヒドロゲルは、エトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオネートおよびポリ(エチレングリコール)ジアクリレートのチオールエステルであり、前記粒子は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を含むマイクロ粒子であり、前記1種または複数種の治療薬は、NOSまたはNOの生成阻害剤、抗酸化剤、スピントラップ剤、ペルオキシナイトライトスカベンジャー、およびこれらの薬理学的に許容しうる塩からなる群より選択される1種または複数種の物質を含むことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記1種または複数種の治療薬は、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項21】
前記1種または複数種の治療薬は、マイクロ粒子中に溶解または分散されていることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項32】
前記損傷部位は脊髄であり、前記投与の工程は、硬膜内髄内注射であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記損傷部位は末梢神経であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記ヒドロゲルおよびマイクロ粒子の少なくとも一方は、1種または複数種の治療薬で官能化されていることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記1種または複数種の治療薬は、ビタミンCおよびビタミンEであることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項36】
母材および1種または複数種の治療薬を含む薬剤輸送システム。
【請求項37】
前記母材はヒドロゲルであることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項38】
前記温度感受性のヒドロゲルは、エチレングリコールを含むポリマー、オリゴエチレングリコールを含むポリマー、ポリエチレングリコールを含むポリマー、ラクチドポリマー、グリコールポリマー、およびポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)からなる群より選択される1種または複数種のポリマーからなるマルチブロックコポリマーを含むことを特徴とする請求項37に記載の薬剤輸送システム。
【請求項39】
前記温度感受性のヒドロゲルは、生体適合性の反応末端基を有する複数種のポリマーの組み合わせを含むことを特徴とする請求項37に記載の薬剤輸送システム。
【請求項40】
前記温度感受性のヒドロゲルは、チオール基を有するポリマーとアクリレート基を有するポリマーとのチオールエステルを含むことを特徴とする請求項37に記載の薬剤輸送システム。
【請求項41】
前記温度感受性のヒドロゲルは、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)アクリレート、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)およびポリ(エチレングリコール)またはオリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリレートのマルチブロックコポリマー、ポリ(グリセロール−コ−セバシン酸)およびポリ(エチレングリコール)、オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリレートまたはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)のグラフトコポリマー、ならびにエトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオネートおよびポリ(エチレングリコール)ジアクリレートのチオールエステルからなる群より選択される1種または複数種のポリマーからなるマルチブロックコポリマーを含むことを特徴とする請求項37に記載の薬剤輸送システム。
【請求項42】
前記温度感受性のヒドロゲルは、エトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオンネートとポリ(エチレングリコール)ジアクリレートとのチオールエステルを含むことを特徴とする請求項37に記載の薬剤輸送システム。
【請求項43】
前記温度感受性のヒドロゲルは生分解性であり、前記ヒドロゲルは、生分解性または生体適合性をもちかつ体外への排出が可能な成分を含むか、または生分解性の成分と、生体適合性をもつとともに体外への排出が可能な成分との混合物を含むことを特徴とする請求項37に記載の薬剤輸送システム。
【請求項44】
前記母材は粒子であることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項45】
前記粒子は、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項44に記載の薬剤輸送システム。
【請求項46】
前記粒子は、生分解性ポリマー、体外排出可能な生体適合性ポリマー、または生体適合性もちかつ体外排出可能な成分を含む生分解性ポリマーであることを特徴とする請求項44に記載の薬剤輸送システム。
【請求項47】
前記粒子は、ポリエステルであることを特徴とする請求項44に記載の薬剤輸送システム。
【請求項48】
前記粒子は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリラクチド、ポリグリコリド、およびポリ(カルボキシフェノキシプロパン)−コ−セバシン酸)からなる群より選択される1種または複数種のポリマーを含むことを特徴とする請求項44に記載の薬剤輸送システム。
【請求項49】
前記粒子は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を含むマイクロ粒子であることを特徴とする請求項44に記載の薬剤輸送システム。
【請求項50】
前記1種または複数種の治療薬は、NOSまたはNOの生成阻害剤、抗酸化剤、スピントラップ剤、ペルオキシナイトライトスカベンジャー、およびこれらの薬理学的に許容しうる塩からなる群より選択される1種または複数種の物質を含むことを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項51】
前記1種または複数種の治療薬は、1種または複数種の抗酸化剤、テンポール(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ)、尿酸、ミノサイクリン、メチルプレドニソロン、MnTBAP、デキサメタソン、およびこれらの薬理学的に許容しうる塩からなる群より選択される1種または複数種の物質を含むことを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項52】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項53】
前記1種または複数種の治療薬は、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項54】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項55】
前記母材は、1種または複数種の治療薬またはこの薬理学的に許容しうる塩で官能化されていることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項56】
前記母材は、温度感受性ヒドロゲルおよび粒子であることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項57】
前記1種または複数種の治療薬は、温度感受性ヒドロゲル、粒子、またはこれらの温度感受性ヒドロゲルおよび粒子中に溶解または分散されていることを特徴とする請求項56に記載の薬剤輸送システム。
【請求項58】
前記1種または複数種の治療薬は複数種の治療薬であり、これらのうち一部の治療薬は、温度感受性ヒドロゲル中に溶解または分散されており、他の治療薬は、粒子中に溶解または分散されていることを特徴とする請求項57に記載の薬剤輸送システム。
【請求項59】
前記温度感受性のヒドロゲルは、エトキシレート化トリメチロールプロパントリ3−メルカプトプロピオネートおよびポリ(エチレングリコール)ジアクリレートのチオールエステルであり、前記粒子は、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を含むマイクロ粒子であり、前記1種または複数種の治療薬は、NOSまたはNOの生成阻害剤、抗酸化剤、スピントラップ剤、ペルオキシナイトライトスカベンジャー、およびこれらの薬理学的に許容しうる塩からなる群より選択される1種または複数種の物質を含むことを特徴とする請求項56に記載の薬剤輸送システム。
【請求項60】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項59に記載の薬剤輸送システム。
【請求項61】
前記1種または複数種の治療薬は、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項59に記載の薬剤輸送システム。
【請求項62】
前記1種または複数種の治療薬は、メチルプレドニソロン、ミノサイクリン、またはこの薬理学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項59に記載の薬剤輸送システム。
【請求項63】
前記1種または複数種の治療薬は、マイクロ粒子中に溶解または分散されていることを特徴とする請求項59に記載の薬剤輸送システム。
【請求項64】
前記ヒドロゲルおよびマイクロ粒子の少なくとも一方は、1種または複数種の治療薬で官能化されていることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。
【請求項65】
前記1種または複数種の治療薬は、ビタミンCおよびビタミンEであることを特徴とする請求項36に記載の薬剤輸送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−506840(P2012−506840A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529282(P2011−529282)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/058479
【国際公開番号】WO2010/036961
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(511075966)インヴィーヴォ セラプーティクス コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】INVIVO THERAPEUTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Broadway, 14th Floor, Cambridge, Massachusetts 02142, U.S.A.
【Fターム(参考)】