説明

脊髄損傷疼痛のための末梢送達グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子治療

本発明はグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するベクター、好ましくは単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターを提供する。本発明は、かかるベクターのストックおよびかかるベクターを含有する医薬組成物も提供する。本発明は更に、脊髄損傷疼痛を治療するための有効量でグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有するベクターを哺乳動物に対して投与することを含有する、哺乳動物の脊髄損傷疼痛などの疼痛を治療する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府委託研究および開発に関する陳述)
本発明は米国の国立神経疾患脳卒中研究所により与えられた助成金番号NS044507、NS38850およびNS43247、ならびに復員軍人局からの研究助成金のもと政府支援で部分的になされた。政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
(発明の分野)
本発明は疼痛を治療するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
脊髄損傷後の疼痛は、生活の質に悪影響を与え、効率的な社会復帰を妨げる重要な問題である。脊髄損傷(SCI)を患うほとんど全ての患者はSCI疼痛に苦しむ。SCI疼痛は損傷のレベルのものであり得、または損傷のレベル以下のものであり得る。各個人で疼痛は強さ、頻度、症状の発現期間、および経験する疼痛のタイプが多様である。経験する疼痛のタイプを、うずき、無感覚のもの、鈍い疼痛、拍動性のもの、ヒリヒリするもの、または締め付けるようなものとして患者は記述してきた。疼痛は特定の体の領域においてしばしば記述され、体のどちらか片側または両側で生じる。これは連続的または断続的であり得、体での場所または活動に関係しない。
【0004】
慢性SCI疼痛は脊髄損傷の時に始まり得、またはSCI後に数ヶ月または数年かけて徐々に発現する。慢性SCI疼痛は長期間持続し、しばしば従来の疼痛の治療は奏効しない。いくつかの報告によると、SCIを患う90%もの数の人が慢性SCI疼痛も経験している。SCI疼痛のレベルは、患者にとって単なる不快なものから耐えられないものまでの範囲であり得る。これらの報告にはSCI後の慢性疼痛の2つの分類が記載される。アットレベル(At−level)の神経障害性SCI疼痛とは、脊髄損傷部位の近くの皮節をいう。ビロウレベル(Below−level)の神経障害性SCI疼痛とは、脊髄損傷部位のレベルより下の皮節をいう。前者はしばしば脊髄損傷の初期段階の間に発現し、時間とともに消散する。一方、後者は徐々に発現し、一般的に医学的治療の効果がない。脊髄損傷後の慢性SCI疼痛は、生活の質に悪影響を与え、効率的な社会復帰を妨げる重大な問題である。
【0005】
SCI疼痛は筋骨格系疼痛または神経障害性疼痛として分類され得る。筋骨格系SCI疼痛は骨、関節および筋肉のような体の組織を過剰に使いすぎた結果生じる。筋骨格系SCI疼痛はしばしば活動することにより悪化し、休息により緩和される。
【0006】
神経障害性SCI疼痛は、神経系が正常な感覚を疼痛として異常に処理することに起因し得る。例えば、脊髄および脳は他の正常な感覚を疼痛として解釈し得る。損傷のレベルにおける神経障害性SCI疼痛は、実際の神経根の損傷または脊髄自体の損傷に起因し得る。医者および他のヘルスケアの専門家はこれを「分節性求心路遮断」または「帯状疼痛」と呼ぶであろう。このタイプの神経障害性SCI疼痛は、通常は両側性であり、円周のパターン(例えば腹からまわって背中へ)を伴う。他のタイプの慢性疼痛のように、始めの脊髄損傷後の最初の数週間でこの疼痛は発現し得、または時間とともによりゆっくりと発現するであろう。損傷のレベルより下の広範性の神経障害性SCI疼痛は、中枢神経系に起こった実際の変化に起因し得る。このSCI神経障害性疼痛は、しばしば異痛(通常では痛くはないものによる疼痛、例えば軽い触覚)または痛覚過敏(通常はちょっとした疼痛を生じるものによって引き起こされる極端な疼痛、例えばピンの刺し傷)に関連する。
【0007】
病態の本質的特徴を反復する動物モデルの確立は、損傷した脊髄での神経化学的変化の同定を可能にした。1つのモデルでは、これはSCIモデルであるが、T13での脊髄の側面片側切断に実験用ラットを供した。T13での実験用ラットの脊髄の側面片側切断により、両後肢において片側切断より下の左右両側の疼痛に関する行動が生じた。SCIモデルは、SCI疼痛の新規な治療を試験するための独自の動物モデルを提供する。
【0008】
脊髄でのγアミノ酪酸(GABA)作用性阻害機序の機能低下およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の増加はどちらも、SCI後に報告されている。GABA媒介阻害はシナプス前性およびシナプス後性の両方に働くが、一次求心路と二次(second-order)脊髄視床路ニューロンとの間の侵害受容性神経伝達を持続的に調節する。脊髄のGABA作用性神経伝達の薬理学的な拮抗作用は、結果的には神経障害性SCI疼痛に見られるものと似た機械的過敏症をもたらす。GABA作用薬(例えばバクロフェン)は、選択された神経障害性疼痛症候群の治療に限り承認される。しかし、GABA受容体が中枢神経系の至る所に分布することが、鞘内投与された時でさえ、バクロフェンの投与を厳しく制限することを強いる副作用をもたらす。
【0009】
皮下接種により送達された組み換え単純ヘルペスウイルス(HSV)に基づくベクターが、選択された後根神経節(DRG)のニューロンにおいて神経伝達を発現するために使用され得るということが、これまでに実証されている。プロエンケファリンを発現するように構築されたHSVベクターは、炎症疼痛、神経障害性疼痛、骨腫による疼痛を有するげっ歯類モデルにおいて、局所的な疼痛を緩和する効果をもたらす。SCI疼痛は一般的にオピオイド治療に抵抗性が見られるが、髄腔内のバクロフェンに対しては反応し得る。
【0010】
別の研究は、GADをコードする遺伝子を含むように操作されたアデノ随伴ウイルスまたはヘルペス単位複製配列ベクターが、遺伝子導入細胞中でGABAを発現するように使用され得ることを実証した。しかしながら、これらの研究における該ベクターは脳のニューロンの核中に直接注入されているが、疼痛のモデルまたは実験では使用されていない。
【0011】
最近でも、SCI疼痛に対して一様にうまくいく内科的または外科的治療はない。最近のSCI疼痛治療はオピオイドおよび神経障害治療薬を含む。これらの治療への反応の割合はしばしば副作用により限定される。残念なことに、神経障害性SCI疼痛はオピオイド(例えばモルヒネ)にいつも反応するわけではない。ある場合では、SCI疼痛は神経障害治療薬(例えば特定の鎮痙剤または抗うつ剤)のいずれにも反応しない。疼痛範囲を麻痺することができる神経根ブロッカーを推奨する医師もいるが、該麻痺効果は短時間しか続かない。時々推奨される別のアプローチは、DREZ(脊髄後根侵入帯)、神経根切断術または脊髄切断術などの外科的手段を使用することである。該手段は、SCI疼痛のレベルを結局のところは上昇させ、長期にわたって神経障害性SCI疼痛を悪化させるであろう。
【0012】
末梢神経障害性疼痛は一般的な別の疼痛であり、多発性神経障害または構造的神経損傷に伴う疼痛を治療することは難しい。オピオイドは比較的効果が薄く、その使用は副作用により制限される。抗うつ剤および鎮痙剤は無作為対照化試験では有効性が実証されたが、治療された患者の半分を下回る人のうちでたった50%緩和しただけであった。神経障害性疼痛の根本である複雑な機序の中で、部分的神経損傷は脊髄でのGABA作用性阻害シナプス電流の選択的喪失をもたらす。このことは、異常な疼痛の感受性および神経障害性疼痛症候群の表現型特性の原因となる。GABA作用性薬剤は神経障害性疼痛の治療において広く使用されてはこなかった。なぜなら、該薬剤の治療濃度域がわずかであり、用量が副作用により制限されるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、SCI疼痛および神経障害性疼痛を処置するための治療的アプローチが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するベクター、好ましくは単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターを提供する。本発明は、かかるベクターのストックおよびかかるベクターを含有する医薬成分も提供する。本発明は哺乳動物において脊髄損傷疼痛または末梢神経障害性疼痛などの疼痛を治療する方法を更に提供する。該方法は、哺乳動物に脊髄損傷疼痛を治療するための有効量のグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有するベクターを投与することを含む。これらの利点および更なる発明の特徴は、以下の発明の詳細および付随する図により明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
本発明は、グルタミン酸脱炭酸酵素タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するベクターを提供する。該ベクターはいかなる適切な遺伝子運搬ベクターでもあり得る。適切なベクターの例は、プラスミド、リポソーム、分子複合体(例えばトランスフェリン)およびウイルスを含む。好ましくは該ベクターはウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは、例えば、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベースのベクターおよびパルボウイルスベースのベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのベクター、AAV−アデノウイルスキメラベクターおよびアデノウイルスベースのベクター)を含む。当業者は特定の状況に適当なベクターを決定するために必要な理解を有している。
【0016】
好ましい実施態様において、該ベクターはHSVベースなどのヘルペスウイルスベースのベクターである。HSVベースのウイルスベクターは核酸配列を多数の細胞タイプに導入するためのベクターとして使用するのに適している。成熟したHSVウイルス粒子は、152kbの直鎖状の2重鎖DNA分子からなるウイルスゲノムを有する外被20面体キャプシドで構成される。好ましい実施態様において、HSVウイルスベースのベクターは少なくとも1つの必須HSV遺伝子を欠損している。当然ながら、該ベクターは必須でない遺伝子をその代わりとして、またはそれに加えて欠失することができる。好ましくは、少なくとも1つの必須HSV遺伝子を欠損する該HSVベースのウイルスベクターは、複製欠損である。最も複製欠損であるHSVベクターは、複製を阻害する1つ以上の前初期HSV遺伝子、初期HSV遺伝子または後期HSV遺伝子を除く欠失を含む。例えば、該HSVベクターは、ICP4、ICP22、ICP27、ICP47およびその組合せからなる群から選ばれる前初期遺伝子を欠損し得る。該HSVベクターの利点は結果的に長期にわたるDNA発現ができ、かつ最大で25kbの外因性のDNA挿入に適応できる大きなウイルス性DNAゲノムをもたらす潜伏期に入る(enter a latent stage)能力を有することである。HSVベースのベクターは、例えば、米国特許5,837,532、5,846,782、5,849,572、および5,804,413、ならびに国際特許出願WO91/02788、WO96/04394、WO98/15637、およびWO99/06583に記載されており、これらは引用によって本明細書に組み込まれる。好ましくは、該HSVベクターは、HSVベクターがウイルス複製に必要な1を超える遺伝子機能を欠損することを意味する「多重欠損」である。該HSV配列はwww.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=nucleotide&list_uids=9629378&dopt=GenBank&term=hsv−1&qty=1においてインターネット上で入手可能であり、これは設計したベクター中の所望の突然変異の生成を容易にする。
【0017】
該HSVベクターは、HSVゲノムの初期領域だけ、HSVゲノムの前初期領域だけ、HSVゲノムの後期領域だけ、またはHSVゲノムの初期および後期領域の両方の、複製に必須な遺伝子機能を欠損し得る。HSVベクターはまた、除去された完全HSVゲノムを実質的に有し得る。この場合では、ウイルスの逆位末端反復配列(ITR)および1つ以上のプロモーター、またはウイルスのITRおよびパッケージングシグナルの少なくともいずれかが生来のまま(すなわち、HSV単位複製配列)残されていることが好ましい。除去されたHSVゲノムの領域が大きくなればなるほど、ゲノム中に挿入可能な外因性の核酸配列の断片も大きくなる。しかしながら、本発明のベクターは非単位複製配列(non−amplicon)HSVベクターであることが好ましい。
【0018】
該HSVベクターの異なる領域の欠失が哺乳動物の免疫応答を変化させ得ることは評価されるべきである。特に、異なる領域の欠失は該HSVベクターにより生じる炎症反応を減少させ得る。更に、野生型外被タンパク質に対する中和抗体に認識され得るHSVベクターまたは認識され得ないHSVベクターを減少させるように、HSVベクターの外被タンパク質は改変され得る。
【0019】
多重複製欠損の時、単複製欠損HSVベクターにより得られるのと同じくらいのウイルスの成長を補完細胞株内で提供するように、該HSVベクターは好ましくはスペーサーエレメントを含んでいる。該スペーサーエレメントは、いかなる核酸配列または所望の長さの配列も含み得る。該スペーサーエレメント配列は、HSVゲノムに関してコードまたは非コード、および生来または非生来の配列であり得る。しかし、欠損領域に複製に必須な機能(複数の機能)を回復させない配列であり得る。さらに、欠損HSV領域のいずれかまたは全てにスペーサーエレメントを含むことは、大きな挿入を行うHSVベクターの能力を減少させるだろう。HSVベクターの産生には当業者に良く知られた標準的な分子生物学的技術を用いることを包含する。
【0020】
複製欠損HSVベクター中には存在しない遺伝子機能を与える補完細胞株において、複製欠損HSVベクターは通常生産される。しかし、ウイルスベクターのストックの高力価を生じさせるために適当なレベルのウイルス増殖が必要とされる。好ましい細胞株は複製欠損HSVベクター中に存在しない、複製に必須な遺伝子機能を少なくとも1つ、および好ましくは全てを補完する。該細胞株は、成長効率または複製効率を減少させる必須でない遺伝子(例えば、UL55)も該遺伝子が欠けている場合は、また補完し得る。該補完細胞株は、全てのHSV機能(例えば、逆位末端反復配列およびパッケージングシグナルだけ、またはITRおよびHSVプロモーターだけなどの最小のHSV配列を含むHSV単位複製配列の増殖を可能にする)を含む、初期領域、前初期領域、後期領域、ウイルスパッケージング領域、ウイルス関連領域またはその組合せによりコードされる少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能の欠損を補完し得る。該細胞株はHSVベクターとは重複しない様式で補完遺伝子を含んでいるということにおいて、好ましくは更に特徴付けられる。該補完遺伝子は、HSVベクターゲノムが細胞DNAと組み換わる可能性を最小化し、実質的に排除する。結果的に、ベクターストック中で発現することが避けられないとしても、複製コンピテントHSVの出現は最小化される。したがって、特定の治療目的、特に遺伝子治療目的には適している。補完細胞株の構築は当業者に良く知られた標準的な分子生物学的技術および細胞培養技術を包含する。
【0021】
ベクターが複製欠損HSVである時、タンパク質(例えば、GADタンパク質)をコードしている核酸配列は、好ましくは必須HSV遺伝子座、最も好ましくはHSVゲノムのICP4遺伝子座またはICP27遺伝子座のどちらかに位置する。HSVゲノム(例えば、HSVゲノムのICP4遺伝子座またはICP27遺伝子座)中への核酸配列の挿入は既知の方法によって促進され得る。その方法は、例えばHSVゲノムの特定の位置に、ある固有の制限部位を導入することによる。
【0022】
本発明に関して使用される好ましいHSVベクターは、拡張されたICP4欠失またはICP27欠失、および好ましくは両方の欠失を含む。この文脈中では、「拡張された」欠失とは、好ましいベクターが産生に使用された補完細胞株に関して、遺伝子座のどちらかまたは両方の相同な配列も有しないことを意味している。望ましくは、該ウイルスはICP4もしくはICP27(または両方)をコードする配列またはプロモーター配列を残さない。好ましくは、ICP27の欠失は更にUL55座にまで拡張され、望ましくは両方の遺伝子が除去される。したがって、本発明において使用される最も好ましいウイルスは、補完細胞株において使用される遺伝子とウイルスの相同性がないように、ICP4、ICP27およびUL55における拡張された欠失を含む。望ましくは、該ベクターは更に、(例えば、異なる調節配列およびポリアデニル配列を使用する時でさえ)補完細胞株において用いられている配列と相同ないずれのDNA配列も含まない。
【0023】
上記のように、遺伝子機能、特にHSVベクターから欠失した必須遺伝子機能を補完する細胞株は、該ベクターを複製するのに(そして必要であれば必須HSV遺伝子の場合において)望ましい。したがって、ICP4およびICP2の両方を欠失する好ましいベクターを供するために、両方の必須遺伝子を補完するように操作された細胞株が供される。その上、UL55HSV株が十分に育たないように、ベクターの骨格から欠失している時はそれを補完する細胞株を使用することが望ましい。補完細胞株を産生する方法は当業者に既知である。
【0024】
上記のように、本発明のベクターはGADタンパク質をコードする核酸配列(すなわち、1つ以上のGADタンパク質をコードする1つ以上の核酸配列)も含有する。該GADタンパク質をコードする核酸配列はいずれの源からも得ることができる。該配列は、例えば、天然から単離され得、合成的に産生され得、遺伝的に操作された生物から単離され得る。当業者は、ベクター中に挿入され得るいずれのタイプの核酸配列(例えば、DNA、RNAおよびcDNA)も本発明と組み合せて使用可能であることを理解するだろう。
【0025】
本発明のベクターの核酸配列は分泌されるタンパク質をコードし得る。例えば、感染細胞により天然に分泌されるタンパク質である。あるいは、該核酸配列は、細胞内で酵素触媒により分泌された産物(例えば、GABA)またはペプチドを産生するGADなどのタンパク質をコードし得る。あるいは、該核酸配列は細胞によって天然には分泌されないタンパク質(すなわち、非分泌タンパク質)をコードし得る。しかし、該配列はタンパク質の分泌を促進するシグナルペプチドを含有する。この場合、例えば、該核酸配列は小胞体(ER)局在シグナルペプチドおよび該非分泌タンパク質をコードする。ER局在シグナルペプチドは、DNA、RNAおよび/またはタンパク質を、タンパク質が発現され分泌の標的にされる小胞体膜に向かわせるように機能する。ER局在シグナルペプチドは望ましくは(i)細胞によって通常は分泌(すなわち、分泌可能である)されないタンパク質、および/または(ii)細胞によって通常分泌されるが少量である(すなわち、所望の量より少ない)タンパク質の細胞による分泌(すなわち、分泌能力)を増加させるように機能する。ポリヌクレオチドによりコードされるER局在シグナルペプチドは、いずれの適切なER局在シグナルペプチドまたはポリペプチド(すなわち、タンパク質)でもあり得る。例えば、該核酸配列によりコードされるER局在シグナルペプチドは、神経成長因子(NGF)、免疫グロブリン(Ig)(例えば、Ig κ鎖リーダー配列)およびミッドカイン(MK)またはその一部からなる群から選択されるペプチドまたはポリペプチド(すなわち、タンパク質)であり得る。適切なER局在シグナルペプチドはLadunga,Current Opinions in Biotechnology,11,13−18(2000)に記載されたものも含む。
【0026】
該核酸配列はいずれのタンパク質をもコードし得るが、該タンパク質は好ましくはGADタンパク質またはエンケファリンである。数種の異なる遺伝子、特にGAD25、GAD65およびGAD67にコードされる哺乳動物GADのいくつかのアイソフォームがある。主に膜および神経末端を標的とするGAD65は、ピリドキサール−5’−リン酸塩および他の補因子によって調節される。シナプス放出の調製において、GAD65は小胞中にGABAをパッケージングすることに責を負うと考えられている。哺乳動物のGADの別のアイソフォームであるGAD67は主に細胞質にあり、酵素活性はタンパク質レベルによって調節されるようである。GAD25はGAD67のオルタナティブスプライシング変異体である。該ベクターは好ましくはGAD67をコードする核酸配列を含有する。ヒトGAD67遺伝子のコード配列およびコードされた遺伝子産物のアミノ酸配列(すなわち、コードされたタンパク質)はNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイトでそれぞれGenBank Accession No.NM_000817(配列番号1)およびNP_000808(配列番号2)として公的に入手可能である。同様に、ヒトエンケファリン遺伝子のコード配列およびコードされた遺伝子産物のアミノ酸配列(すなわち、コードされたタンパク質)はGenBank Accession No.NM_006211として公的に入手可能である。
【0027】
該核酸配列は上述のタンパク質のいずれの変異体、ホモログまたは機能的部分もコードし得る。タンパク質の変異体は、対応する自然に生じるタンパク質から起こった1つ以上の変異(例えば、点突然変異、欠失、挿入など)を含み得る。「自然に生じること」は、タンパク質が天然で見られ、かつ合成的に修飾されていないということを意味する。したがって、変異がタンパク質をコードする核酸配列中に導入される場所では、望ましくはそのような変異はコードされたタンパク質中の以下のような置換をもたらすであろう。すなわち、正に荷電した残基(H、KおよびR)をコードするコドンが正に荷電した残基をコードするコドンに置換され、負に荷電した残基(DおよびE)をコードするコドンが負に荷電した残基をコードするコドンに置換され、中立極性残基(C、G、N、Q、S、TおよびY)をコードするコドンが中立極性残基をコードするコドンに置換され、かつ中立無極性残基(A、F、I、L、M、P、VおよびW)をコードするコドンが中立無極性残基をコードするコドンに置換される。更に、タンパク質のホモログは、ペプチド、ポリペプチドまたはそれらの一部のいずれでもあり得、アミノ酸レベルで該タンパク質と約70%超同一(好ましくは80%超同一であり、より好ましくは90%超同一であり、更に好ましくは95%超同一)である。アミノ酸同一性の程度は、BLAST配列データベースなどの当業者に既知のいずれかの方法を用いて決定することができる。「機能的部分」は、自然に生じる全長GADタンパク質の生物学的活性を測定可能なレベルで保持するGADタンパク質のいずれかの部分である。該ベクターの核酸配列の発現によって生産されるGADタンパク質の機能的部分は、GADタンパク質部分をコードする核酸配列を一時的に導入したヒト細胞中のGADタンパク質部分の生物学的活性の分析などの標準的な分子生物学的技術および細胞培養技術を用いて同定され得る。
【0028】
該タンパク質をコードする核酸配列の発現は、核酸配列へ操作可能に連結した適切な発現制御配列によって制御される。「発現制御配列」は、他の核酸配列の発現(一般的には好ましくは転写)を促進し、強化し、または制御するいずれかの核酸配列である。適切な発現制御配列は、構成的なプロモーター、誘導可能なプロモーター、抑制可能なプロモーター、およびエンハンサーを含む。ベクター中で該タンパク質をコードしている核酸配列は、内因性プロモーターによって、または好ましくは非天然のプロモーター配列によって調節され得る。適切な非天然のプロモーターの例には、HCMV前初期プロモーター(HCMV IEp)などのヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモーター、HIV長末端反復配列プロモーターなどのヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、RSV長末端反復配列などのラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、Lap2プロモーターまたはヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., Proc. Natl. Acad. ScI, 78, 144-145 (1981))、SV40またはエプスタインバーウイルス由来のプロモーターなどが含まれる。好ましい実施態様において、該プロモーターはHCMV IEpである。該HCMV IEpプロモーターは組み換えHSVのICP4座内に挿入され得る。あるいは、該タンパク質をコードする核酸配列の発現はキメラプロモーター配列によって制御され得る。少なくとも2つの異なる源(例えば、1つの生物ゲノムの2つの異なる領域、2つの異なる生物、または合成された配列と組み合わされた生物)から得られ、由来し、または基づく少なくとも2つの核酸配列部分を含有する場合、プロモーター配列は「キメラ」である。配列を互いに操作可能に連結する技術は当業者に周知である。
【0029】
該プロモーターは誘導可能なプロモーター、すなわち適当なシグナルに応答して上方調節および/または下方調節されるプロモーターであり得る。例えば、医薬製剤によって上方調節される発現制御配列は、特に疼痛を管理する用途に有用である。例えば、該プロモーターは医薬的に誘導可能なプロモーター(例えば、テトラサイクリンに反応する)であり得る。かかるプロモーターの例はAriadにより市販されている。該プロモータは当業者に既知の方法で、例えばゲノムの特定領域に固有の制限部位を導入することにより、ベクターのゲノムに導入され得る。あるいは、該プロモーターはGADなどのタンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセットの一部として挿入され得る。好ましい実施態様において、誘導可能なプロモーターはGADタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と操作可能に連結する。
【0030】
好ましくは、該タンパク質をコードする核酸配列がタンパク質をコードする領域の3’に位置するポリアデニル化配列などの転写終結領域を更に含有する。いずれの適切なポリアデニル化配列も使用され得る。該配列は合成最適化配列ならびにBGH(ウシ成長ホルモン)、ポリオーマウイルス、TK(チミジンキナーゼ)、EBV(エプスタインバーウイルス)ならびにヒトパピローマウイルスおよびBPV(ウシパピローマウイルス)を含むパピローマウイルスのポリアデニル化配列を含む。
【0031】
タンパク質をコードする核酸(プロモーターおよび転写終結領域を含む)に加えて、該ベクターは少なくとも1つの他の遺伝子産物をコードする少なくとも1つの追加の核酸配列を含有し得る。該遺伝子産物は例えば、それ自体が病気予防の機能または治療機能を有したり、または該タンパク質の病気予防の潜在能力もしくは治療の潜在能力を拡張したり増強したりする。追加の核酸配列にコードされた遺伝子産物は所望の活性を有するRNA、ペプチドまたはポリペプチドであり得る。追加の核酸配列が病気予防の利点または治療の利点を与える場合、該核酸配列はRNAまたはタンパク質のレベルでその影響を発揮し得る。あるいは、追加の核酸配列はアンチセンス分子、リボザイム、スプライシングもしくは3’プロセシング(例えば、ポリアデニル化)に影響するタンパク質、あるいは例えば、mRNAの蓄積の変化した早さもしくはmRNAの輸送の変化した早さまたは転写調節後の変化を媒介することにより細胞中の別の遺伝子の発現レベルに影響するタンパク質をコードする(すなわち、遺伝子発現は転写開始からプロセスタンパク質の生産を通して全ての段階を含むと広く考えられている)。追加の核酸配列は、目的とする組成物の最終使用により、病気予防の利点または治療の利点を与える多様な遺伝子産物のいずれか1つをコードし得る。追加の核酸配列は、ベクターの核酸配列によってコードされるタンパク質よりも異なる標的に作用する因子をもコードし得、それによって多因子性の治療を提供する。追加の核酸配列は組み合せ治療のためのキメラタンパク質をコードし得る。追加の遺伝子産物は分泌され、または細胞内に留まり、細胞が溶解されなければ、または溶解される前に生産される。多様な遺伝子産物はベクターの治療に関する潜在能力を増強し得る。
【0032】
追加の核酸配列は1つの遺伝子産物または複数の遺伝子産物をコードし得る。あるいは、複数の追加の核酸配列(それぞれが1つ以上の遺伝子産物をコードする)がベクター中に挿入され得る。どちらの場合でも、遺伝子産物(複数の遺伝子産物)の発現は個々の発現制御配列によって別々に調節され得、または1つの共通の発現制御配列によって協調的に調節され得る。あるいは、追加の核酸(複数の追加の核酸)の発現は、ベクターの核酸配列にコードされるタンパク質の発現を調節する同一の発現制御配列によって調節され得る;しかしながら、タンパク質をコードする核酸中に存在するいずれの転写終結領域も、追加の核酸配列(複数の追加の核酸配列)の転写リードスルー(transcriptional read−through)を可能にするように除去されるだろう。追加の核酸配列(複数の追加の核酸配列)は、ベクターの核酸配列の発現によって生産されるタンパク質の発現に関連する、本明細書中で議論したいずれの適切な発現制御配列(複数の発現制御配列)およびいずれの適切な転写終結領域(複数の転写終結領域)も含有し得る。
【0033】
ベクターを作製した後、該ベクターは精製される。組成物中のベクターの濃度を増強するためのベクターの精製は、濃度勾配精製、クロマトグラフィー技術、または限界希釈精製などによる、いずれの適切な方法によっても行われ得る。該ベクターは、好ましくは複製欠損HSVベクターであるが、望ましくはHSVベクターに感染させた細胞を溶解すること、およびHSVベクターを含む画分を収集することを含む方法を用いて、複製欠損HSVベクターに感染した細胞から精製する。
【0034】
該細胞は、界面活性剤への曝露、凍結解凍、および細胞膜破裂(例えば、加圧方細胞破壊装置または顕微鏡溶液化による)などのいずれかの適切な方法を用いて溶解され得る。それから、該細胞溶解液は、緩やかな遠心分離、ろ過またはタンジェンシャル フロー 濾過(tangential flow filtration)(TFF)などのいずれかの適切な方法を用いて、大きな断片の細胞屑を除去して浄化されてもよい。その後、浄化された細胞溶解液は、浄化された細胞溶解液中でベクター粒子中に含まれないいかなるDNAまたはRNAも除去するために、DNAおよびRNAを分解することのできる酵素(「DNase/RNase」)で処理されてもよい。
【0035】
一般的に、細胞があらかじめ決定された数のウイルスに直面させられることが保証されるように、十分なウイルスが細胞集団に送達され得る時に、本発明の組み換えHSVは最も有用である。したがって、本発明は本発明のHSVベクターを含むストック、好ましくは均質なストックを提供する。HSVストックの調製および分析は当業者に周知である。例えば、ウイルスストックは、HSVベクターで形質導入された細胞を含むローラーボトル中で製造され得る。それから、該ウイルスストックは連続的なナイコデンツ勾配で精製され得、等分されて必要とされるまで保存され得る。ウイルスストックは、ウイルス遺伝子型およびプロトコルならびにストック調製に用いた細胞株に主に依存して、力価が大幅に変化する。好ましくは、かかるストックは、少なくとも約10プラーク形成単位(pfu)、例えば少なくとも約10pfu、より好ましくは少なくとも約10pfuのウイルス力価を有する。更により好ましい実施態様では、力価は少なくとも約10pfu、または少なくとも約10pfuであり得、少なくとも約1010pfuまたは少なくとも約1011pfuの高力価ストックが最も好ましい。
【0036】
本発明はHSVベクターおよび担体、好ましくは生理学的に許容され得る担体を含有する組成物を更に提供する。該組成物の担体は、ベクターに対して適切ないかなる担体でもあり得る。該担体は一般的には液体であるが、固体または液体と固体の成分の組み合せでもあり得る。該担体は望ましくは医薬的に許容され得る(例えば、生理学的または薬理学的に許容され得る)担体(例えば、賦形剤または希釈剤)である。医薬的に許容され得る担体は周知であり、すでに市販されている。担体の選択は、少なくとも部分的には組成物を投与するために使用される特定のベクターおよび特定の方法によって決定されるであろう。該組成物は更にいかなる他の適切な成分、特に該組成物および/または最終使用の安定性を増強するための成分も含み得る。したがって、本発明の組成物の適切な剤形は幅広く多様である。後述の剤形および方法は例示にすぎず、決して限定する意味はない。
【0037】
非経口投与に適した剤形は、抗酸化物質、緩衝剤、静菌薬、および目的の受容者の血液に等張の剤形を与える溶質を含み得る水性および非水性等張無菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁液を含む。該剤形は、アンプルおよびバイアルなどの単一用量(unit−dose)または複数用量(multi−dose)の密閉された容器で提供され得、使用直前に無菌賦形剤溶液(例えば注射については水)を添加することだけを必要とするフリーズドライされた(凍結乾燥された)状態で貯蔵され得る。
その場で調製する注射液および懸濁液は、前記した種類の滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。
【0038】
更に、該組成物は更なる治療または生物学的に活性な薬剤を含有し得る。例えば、特定の徴候の治療において有用な治療的因子が存在し得る。イブプロフェンまたはステロイドなどの炎症を制御する因子は、in vivoでのベクターの投与および生理的損傷にともなう腫れおよび炎症を減少させるために組成物の一部であり得る。免疫系サプレッサーはベクター自身に対するいかなる免疫応答、または疾患に関連するいかなる免疫応答も減少させるために組成物の方法で投与され得る。あるいは、免疫エンハンサーは病気に対する体の自然な防御を高めるための組成物に含まれ得る。
【0039】
抗生物質、すなわち殺微生物剤および殺菌剤は、遺伝子輸送手段および他の病気に関する感染リスクを減少させるために存在してもよい。
【0040】
本発明は、哺乳動物にグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)タンパク質をコードする核酸配列を含む本発明のベクターまたは組成物を脊髄損傷疼痛または末梢神経障害性疼痛を治療するための有効量投与することを含む哺乳動物における脊髄損傷疼痛または末梢神経障害性疼痛を治療する方法も提供する。好ましい実施態様において、投与されるベクターはウイルスベクターである。好ましい実施態様において、該哺乳動物はヒトである。
【0041】
脊髄損傷疼痛または末梢神経障害性疼痛を治療する方法は、更に該方法の有効性を修飾する(例えば、増強する)ような他の治療および/または薬剤の投与(すなわち前投与、共投与、および/または後投与)を含み得る。本発明の方法は、宿主に対する組成物の効果を局所的または全身的に変化させる(すなわち、減少または増強させる)他の物質の投与を更に含み得る。例えば、宿主中でのベクターの核酸配列の発現を通して生産されたタンパク質のいずれかの全身性の効果も減少させる物質が、宿主における全身性毒性のレベルを制御するために使用され得る。同じように、宿主内でのベクターの核酸配列の発現を通して産生されたタンパク質の局所的な効果を増強する物質も、宿主における病気予防効果または治療効果を生み出すために必要なタンパク質のレベルを減少させるために使用され得る。かかる物質は拮抗剤、例えばベクターの核酸配列の発現を通して生産されるタンパク質に対して方向付けられた可溶性受容体または抗体および該タンパク質の作用物質を含む。
【0042】
当業者は本発明のベクターおよび本発明の組成物を治療または予防(例えば、遺伝子治療、ワクチン治療など(例えば、Rosenfeld et al,Science,252,431−434(1991),Jaffe et al,Clin.Res.,39(2),302A(1991),Rosenfeld et al.,Clin.Res.,39(2),311A(1991),Berkner,BioTechniques,6,616−629(1988)参照))のために動物(特にヒト)に対して投与する適切な方法が使用可能であり、そして、1以上の経路が組成物の投与に使用可能であること、特定の経路が他の経路よりもより素早くかつより効率的な反応を提供し得ることを理解するであろう。好ましい投与経路は、脊髄後角においてGABAを放出させるために末梢接種を通じてDRGニューロンに形質導入することを含む。多くの実施態様では、これは皮下移植でGADベクターを送達することによって達成され得、SCI疼痛または末梢神経障害性疼痛を治療するための本発明のアプローチの魅力的な特徴である。
【0043】
本発明に関して動物、特にヒトに投与される用量は、特定のベクター、ベクターを含む組成物およびそのための担体(上記)、投与方法、ならびに治療される特定の場所および組織によって変化するであろう。該用量は、望ましい時間枠内で、望ましい応答(例えば、治療応答または病気予防応答)を奏功するのに十分であるべきである。したがって、本発明の組成物のベクターの用量は、一般的には約1×10以上の粒子ユニット(例えば約1×10以上の粒子ユニット、約1×10以上の粒子ユニット、1×10以上の粒子ユニット、1×10以上の粒子ユニット、1×1010以上の粒子ユニット、1×1011以上の粒子ユニット、または1×1012以上の粒子ユニット)である。該ベクターの用量は一般的には1×1013以下の粒子ユニット(例えば、4×1012以下の粒子ユニット、1×1012以下の粒子ユニット、1×1011以下の粒子ユニット、または1×1010以下の粒子ユニット)ではない。
【0044】
以下の実施例は更に本発明を実証するものであるが、もちろん発明の範囲を限定する目的で解釈されるべきではない。これらの実施例において、いくつかの測定を記録し、統計学的分析を行った。ベクター処理した動物と対照動物との間の差異の統計的有意性は、多変量分散分析またはノンパラメトリック測定によるKruskal−Wallis検定を用いて決定された。単独比較はStudent’s T検定によって行った。有意なものとして<0.05のP値を用いた。全てのデータは平均値±標準誤差(SEM)として示した。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
本実施例はGADベクターの構築を実証する。
【0046】
複製しないHSVベクターQHGAD67はHSV前初期(IE)遺伝子であるICP4、ICP22、ICP27およびICP47の発現が欠損しており、U41座中のヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(HCMV IEp)の制御下のヒトGAD67遺伝子を含む(図1)。対照ベクターQ0ZHG(Chen et al.J.Virol,74(21),10132−41(2000)に記載の方法により構築された)は同じ遺伝子を欠損するが、同じ部位に大腸菌lacZレポーター遺伝子を含む(図1)。
【0047】
GAD67のcDNA(Bu,D.F.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,89,2115−2119(1992)に記載の方法により構築された)は、シャトルプラスミドp41H中のヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーターの下流のCla I/Xba I断片として個々にサブクローン化された。該cDNAは、プロモーター、およびベクターのU41遺伝子座における効率的な相同組み換えを可能にするための適切なHSV隣接DNA配列を含む。Pme I消化ウイルスプラスミドDNAおよび標的プラスミドDNAで補完7b細胞を共トランスフェクションすることによって、発現/標的カセットをベクターQ0ZHGのU41座中に組み換えて、LacZマーカー遺伝子をGAD発現構築物に置き換えた。組み換えQHGAD67は限界希釈精製を3回行うことによって精製し、遺伝的構造をサザンブロットによって確認した。ベクターストックはローラーボトル中で7b細胞内に生産され、連続ナイコデンツ勾配で精製され、使用するために解凍されるまで等分して−80℃で保存された。最終ベクター産物の力価はKrisky,D.,et al.,In Methods in Molecular Medicine,Human Press,Totowa,NJ(1996)に記載のようにして決定した。
【0048】
(実施例2)
この実施例はICP4座およびICP27座の拡張された欠失ならびにUL55の欠失を有するHSVベクターの構築を実証する。
【0049】
このベクターを構築するための概略図は図14で説明する。特に、プラスミドd106(Hadjipanayis and DeLuca,Can Res65(12):530−6(2005))は、QOZHG.1を生産するためにプラスミドTOZ.1(Arafat et al.,Clin Can Res 6:4442−8(2000))とウイルスによって交雑された。ベクターQOZHG.1の詳細は実施例1に、その構築はChen et al.,J Virol 74(21),10132−41(2000)に記載されている。
【0050】
プラスミドpPXE(Niranjan et al.,Mol Ther 8(4):530−42(2003))を、QOZHG.1のICP27座中に組み換えることにより、以前のICP27欠失をレスキューし、HCMV−eGFP遺伝子を除去した。そして、蛍光顕微鏡下で緑色蛍光を示さないプラークを選択することによって、単一組み換え体(single recombinant)が単離され、精製され、確認された。組み換え体はE1と名づけた。E1はGFP遺伝子が陰性であり、LacZ遺伝子が陽性であった。
【0051】
プラスミド41HNは、pBSSK(Stratagene)のHind IIIからNot Iの部位中に、UL41コード配列を含むHind IIIからNot Iの断片(HSV−1ゲノムヌクレオチド90145から93858)をクローニングすることによって生産した。それから、プラスミド41HNをE1のUL41座中に組み換えることにより、野生型UL41遺伝子をレスキューし、LacZを除去した。結果として生じたE1−1と名づけられたベクターは、標準的な方法によって単離され、精製され、確認された。このベクターはgfp遺伝子およびlacZ遺伝子の両方が陰性であった。
【0052】
プラスミドpSASB3はSph I/Sal I消化pSP72中に、HSV−1 KOS株ゲノム(ヌクレオチド124485−126413)のSph IからAfl IIIの(Sal Iで結合された)断片(1928bp)をクローニングし、続いて、ベクタープラスミドのBgl IIからBamH Iの部位中へ、短い逆位末端反復配列領域内に含まれたウイルス開始点を含むICP4プロモーターの上流領域を含む695bpのBgl IIからBamH Iの断片(ヌクレオチド131931から132626)を挿入した。
【0053】
プラスミドpSASB3gfpを、pSASB3のBamH I部位にHCMV−eGFP断片をクローニングすることによって構築した(contructed)。それから、プラスミドpSASB3gfpを、E1−1のICP4座中に組み換えることにより、ICP4欠失を拡張した。結果として生じたベクターは、E1G6/d1O6−4HGと名づけ、標準的な方法で単離し、精製し、確認した。
【0054】
プラスミドpSASB3−HPPEは、サウスカロライナ大学のDr.Steven Wilsonから提供された、プラスミドpCMV−hPPE(Liu F,Housley PR,Wilson SP.(J Neurochem.1996 Oct;67(4):1457−62.)のEcoR IからSal Iの断片を(HCMV前初期プロモーター、SV40の16s/19sのRNAからのSV40イントロン(180bpのXho I−Pst I)、全hPPEコード配列、およびSV40ポリアデニル化シグナル(SV40塩基2533から2729)を含む)クローニングすることによって作製した。hPPE発現構築物のSal I放出は、以前のEcoR I消化とそれに引き続くEcoR I部位のクレノー断片平滑末端化、ならびにSal Iリンカーの連結により可能となった。それから、この結絡産物をSal Iで消化し、Sal I隣接発現構築物を精製した。pCMV−hPPEは、pUR292からの946bpのBamH I−Hind III断片としてDr.Barbara Spruceから提供されたcDNAクローンのpUR292からサブクローン化された。pUR292は平滑末端であり、Not Iリンカーが付加されており、発現プラスミドpCMVβの固有のNot I部位中にクローン化された。
【0055】
最終的なエンケファリン発現/ICP4標的構築物(pSASB3−HPPE)は以下のエレメントを含む;1)ICP4座を標的とする5’組み換え隣接配列を提供するHSVゲノムの塩基131931から132626、2)ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)前初期プロモーター(IEp)、3)SV40の16s/19sのイントロンスプライスドナー部位およびアクセプター部位、4)プレプロエンケファリンcDNA、5)SV40後期ポリアデニル化シグナル、6)ICP4座を標的とする3’組み換え隣接配列を提供するHSVゲノムの塩基124485から126413。
【0056】
それから、プラスミドpSASB3−hppeを、E1G6/d106−4HGのICP4座中に組み換えることにより6221として一般的に知られるNurelP1(NP1)ベクターを生産した。
【0057】
プラスミドPS−UB6R−6を、PSP4のBamH I部位内へBgl II−BamH I隣接ユビキチンプロモーターによりドライブされたRed2(Invitrogen)をクローニングすることによって作製した。PSP.4のBamH I部位は、5’ICP27隣接断片とUL56コード配列との間に位置する。
【0058】
プラスミドPS−UB6R−6をNP1のIPC27座中に組み換えることにより、全てのICP27およびUL55を含み、かつUB6−Red遺伝子を挿入するように、ICP27欠失を拡張した。結果として生じたベクターは、HPPE6221Rと名づけ、赤色のプラークを選択することによって、単離され、精製され、および確認された。
【0059】
プラスミドPSP4は、プラスミドPS.2中へ、IPC27コーディング配列の5’のEcoR IからBamH I(HSV−1ゲノム110095から113322)をクローニングすることによって作製した。PS.2は、pBSSK(Stratagene)のNot I部位中へ連結されたDde IからSma I(HSV−1ゲノム断片116156から117119)の平滑末端を含む。
【0060】
プラスミドPSP4をHPPE6221RベクターのICP27座中へ組み換えることにより、UB6−Redを除去し、ICP27/UL55欠失を残した。結果として生じるベクターはNurelp2(NP2)と名づけられ、標準的な方法によって単離され、精製され、確認された。
【0061】
プラスミドpSASB3GFPをNP2のICP4座へ組み換えることにより、HCMV−hppeをHCMV−eGFPへ置き換えた。結果として生じるベクターは、SAS2と名づけられ、標準的な方法で単離され、精製され、確認された。
【0062】
1)Hind III部位をCla I部位に、2)Bbv II部位をHind III部位に、3)得られたHind III部位をBgl II部位に順次変換することによってプラスミドpRC2(Invitrogen)を改変して、プラスミドpRC2HB2を作製した。pRC2HB2のBgl II断片は、約1200塩基対であるが、プラスミドpSASB3のBam HI部位中へクローン化してプラスミドpSHB3を作製した。別途、Hind III部位をBamH I部位に変換することによってGAD67クローンを改変して、pGADHB2を作製した。pGADHB2から結果として生じた2.8kbのBamH I断片を、pSHB3のBamH I部位にクローン化することによりpGADL1を作製した。
【0063】
プラスミドpGAD−L1を、SAS2のICP4座中へ組み換えることによりベクターNurelG2(NG2)を生産した。
【0064】
ベクターNP2、SAS2およびNG2は、相同組み換えが細胞株とベクターとの間で起こり得ないように、細胞株と相同性を有しないベクターである。したがって、これらのベクターは細胞ICP4、ICP27、IL55補完株と組み合せてベクター産生のために使用するために理想的である。
【0065】
(実施例3)
本実施例は、GADベクター形質導入細胞によるGADタンパク質の発現を実証する。
【0066】
実験用ラットの後肢の足底表面内にQHGAD67の皮下接種を行った1週間後、プールされたL4−L6 DRGにおけるGAD67のmRNAの量をリアルタイムPCRによって検出し、その量はQ0ZHGを形質導入した反対側のDRGにおける量の5倍多かった(図2)。同様に、(ビヒクルを注射した)反対側のDRGに比べて形質導入されたDRGでは全てのサイズのDRGニューロンの幅広いスペクトルで、GAD67免疫反応性がニューロンで見られた。ウェスタンブロットにより決定されたGAD67タンパク質は、接種された対照(0.025±0.006ODユニット)に比べて両腰のDRG(0.048±0.009ODユニット)において有意に増加していた、P<0.01。
【0067】
11×10pfu/ml QHGAD67の30μlの皮下接種1週間後、上昇した免疫反応性が、(ビヒクルを注射した)反対側の脊髄後角と比べて、薄膜IIおよびIIIで優勢に見られた。対照ラットの表面脊髄後角において、GAD67免疫反応性は、表面脊髄後角中の内在性GABA作用性介在ニューロンであるように見受けられる、ほとんどの神経の伸長を伴わない、薄膜IIIの小円形細胞において、ならびに結節状構造または小さな軸索末端であるように見受けられるいくつかの、より小さく、断続的で、濃く染色した、不規則な輪郭において、優勢に位置していた。免疫染色の強度は、QHGAD67により形質導入されたDRGからの軸索の中央末端を含む脊髄後角において実質的に増加し、増加した免疫反応性は軸索末端をあらわす不規則な輪郭中に位置するように見られた。ウェスタンブロットによると、これらの軸索の中央末端を含む腰部背面脊髄におけるGADの量(0.041±0.008ODユニット)は、偽接種された対照(0.027±0.004ODユニット)に比べて有意に増加した(P<0.01、図3)。
【0068】
リアルタイムPCRによるGADのRNA分析は、以下のようにして行われた:L4−6 DRGを素早く取り除き、全RNAをTriReagent(Sigma)を用いてプールしたL4−6神経節から抽出した。DNase Iの消化後、Omniscript reverse transcriptase(Qiagen,Valencia,CA,USA)を用いて第一鎖cDNAを生産した。GAD67およびGAPDH(Synthegen,Houston,TX,USA)のためのプライマーおよびプローブは、Primer Express(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いて設計した。GAD67フォワードプライマー配列番号3;リバースプライマー配列番号4;プローブ、配列番号5(Synthegen);およびCAPDHフォワードプライマー配列番号6;リバースプライマー配列番号7;プローブ配列番号8(Invitrogen)。PCRはABI Prism 7700 sequence detection system(Applied Biosystems)で全量50μlにて行った。RNAの量は内部対照としてGAPDHを用いて決定し、Q0ZHGにより形質導入されたDRGに関して計算した。それぞれのPCR増幅は、3つ組のウェルで、以下の条件を用いて行った:50℃で2分、95℃で10分、その後95℃を15秒と60℃を1分を40サイクル。
【0069】
GAD67タンパク質の量は、以下のプロトコルによってウェスタンブロットで決定された:脊髄の腰膨大(L4からL6部)のL4−L6 DRGまたは背面の4分の1を、60mM リン酸緩衝液、pH 7.4、1mM フェニルメチルスルホニルフッ化物および0.5% TritonX−100からなる破砕バッファー(100mg組織/ml)中で超音波処理した。破砕物をTL100超遠心分離機(Beckman)を用いて15分100,000gで遠心分離し、Bradfordアッセイ(BioRad,Hercules,CA,USA)によって上澄み中の全タンパク質を測定した。タンパク質を4〜15%SDS勾配ポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロースメンブレン(Immobilon−P,Millipore,Billerica,Ma,USA)に転写し、ウサギ抗GAD67(1:4000,Chemicon,Temecula,CA,USA)とともにインキュベートし、続いてセイヨウワサビペルオキシダーゼ合成ヤギ抗マウス(1:10,000,Jackson Laboratories,Bar Harbor,ME,USA)で処理し、高感度化学発光(NEN,Boston,MA,USA)で検出した。メンブレンはストリップし、ローディング・コントロールとしてウサギ抗βアクチンでリプローブした。各バンドの強度はPC−based image analysis system(MCID,Imaging Research,Brock,Ontario,Canada)を用いて定量的な濃度測定によって決定した。
【0070】
(実施例4)
本実施例はGADベクター形質導入細胞におけるGABAの放出の増加を実証する。
【0071】
感染の多重度(m.o.i.)1でin vitroでQHGAD67により形質導入された一次DRGニューロンは、対照から放出されるGABA(2.34±0.22pmmol/10μl、P<0.01)またはQ0ZHGで形質導入されたDRGニューロンから放出されるGABA(2.56±0.54pmol/10μl、P<0.01)よりも大幅に多い量のGABAを培地中に放出した(9.53±2.15pmol/10μl)(図4A)。1週間前に肢への皮下接種により形質導入されたDRGの中央末端から背面脊髄中に放出されたGABAのin vivoでの量を、同側の腰部脊髄後角に埋め込まれたカテーテルから微小透析によって決定した。QHGAD67を接種された動物から集めた透析液はGABAが1.46±0.25pmol/10μl含まれていたのに対して、Q0ZHGを接種した動物から集めた透析液にはGABAが0.74±0.24pmol/10μl含まれていた(P<0.05)(図4B)。
【0072】
17日齢のラット胚から分離したDRGニューロンを、10細胞/ウェルの濃度で24ウェルプレート中にポリ−D−リシン−処理したカバースリップ上にまいた。各ウェルは、7.0S NGF(Sigma,St.Louis,MO)100ng/mlを添加した、B27、Glutamax I、Albumax II、およびペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco−BRL,Carlsbad,CA)を含む500μl Neurobasal培地を含む。培養14日目、細胞をm.o.i.1で1時間QHGAD67またはQ0ZHGのどちらかで感染させ、その後ウイルスを除去した。48時間後、培地を人工的な脳脊髄液100μlに変えて、5分間の採集時間の後、浴液(bathing solution)を10,000gで5分間遠心分離し、HPLCによるGABAの決定のために上澄みを採取した。DRG細胞は免疫細胞化学によってGAD67タンパク質の発現を調べた。
【0073】
脊髄後角においてin vivoで神経末端から放出されたGABAの量は、以下のプロトコルを用いた微小透析液のHPLCによって決定した:ラットは抱水クロラール(400mg/kg)で再麻酔し、脊椎の腰髄部を覆うT11およびT12の薄膜を除去し、硬膜を無傷で残し、該動物を定位固定装置に固定した。熱の喪失を防ぐために加熱ランプを使用し、フィードバックセンサーを用いて体温を37.5℃に保った。鋭い針を用いて側方から正中へ小さく硬膜を切開し、微小透析プローブ(CMA/11,cuprophane dialysis membrane,長さlmm,直径0.24mm,molecular cut−off 6kDa,CMA/Microdialysis,Stockholm,Sweden)を硬膜切開部を通して脊髄後角中に挿入し、1μl/分の割合で人工脳脊髄液(CMA/Microdialysis)を還流させた。細胞外液で平衡にさせた1時間後、サンプルを1時間かけて集めた。実験の最後に、プローブは空気泡の存在がチェックされ、脊髄の脊髄後角における位置が還流固定部分の顕微鏡によって確認された。
【0074】
次に、in vitroで形質導入細胞から放出されまたはin vivoで微小透析によって集められたGABAの量を、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシサクシンイミジル カルバメート 誘導体化(AccQ.Fluor Reagent Kit;Waters,USA)を用いてHPLCで決定した。20μlの培養溶液を60μlのホウ酸塩緩衝剤中で20μlの誘導体化試薬と混合した;10μlのサンプルを10分間55℃で反応させ、Eluent A(Waters)およびアセトニトリルからなる移動相を有し流速が1ml/分であるAccQ.Taq column(3.9×150mm;Waters)の勾配HPLC(Waters 2695 Separations Module)により分離した。250nmの励起波長および395nmの発光波長を用い、ピークを37℃(Waters 2475 Detector)における蛍光によって検出された。
【0075】
髄腔内のカテーテルを、以下のプロトコルによって外科的に実験用ラットに埋め込んだ:髄腔内のカテーテルをT13左脊髄片側切断の1週間後にStorksonの方法に準じて配置した。簡単に言えば、該動物を抱水クロラール(400mg/kg)で再麻酔し、正中まで数ミリメートルを残してL2からL6へ縦切開し、ポリエチレンカテーテル(PE−10,Clay Adams,Parsippany,NJ,USA)をL4−L5椎間腔から腰部くも膜下腔内へ、カテーテルの先端が脊髄の腰膨大の近くに位置するように導入した。カテーテルの遠位末端は、7μlの空所を残して、首に現れるまで皮下に埋設された。髄腔内にカテーテルを埋め込んだ後、ラットを各ケージに入れ、運動機能障害の徴候を示した該動物を屠殺した。カテーテルの先端の位置は、リドカイン(20mg/ml)15μl続いて生理食塩水8μlを注入して20〜30分続く運動麻痺を生じさせることにより確かめられた。髄腔内の薬物投与は、髄腔内のカテーテルにつないだmicroinjection syringe(Hamilton Co.,Reno,NV,USA)を用いて、覚醒していて短期間拘束したラットにおいて行った。
【0076】
(実施例5)
本実施例は、実験用ラットへのGADベクターの皮下接種がSCI後の機械的異痛および温熱性痛覚過敏を減少させることを実証する。
【0077】
T13左脊髄の片側切断の1日後、全ての動物が脊髄の片側切断に対して反対側の後肢における運動機能障害を伴わず同側の後肢麻痺を示した。
脊髄の片側切断2週間後、運動機能の著しい回復があった(12〜13のBBBスコア、データ表示せず)。12のBBBスコアは、頻繁ないし一貫した体重を支えて行う錯覚の足踏み、および前足後足の時折の協調に相当するが、足を引っ込めることを体知覚的に誘導する行動試験を完全に行うのには十分である。脊髄の片側切断後1週間で、段階的な一連のvon Frey filamentによる刺激に対して後足を引っ込めるまでの閾値(同側1.71±0.35g、反対側1.9±0.52g)が、両方の後足における手術前の閾値(同側11.2±1.68g、反対側11.6±1.71g)と比較して著しく減少したことから明らかな機械的異痛が認められた。脊髄の片側切断1週間後にQHGAD67(1×10pfu/ml、30μl/足)を両方の後肢の足底表面中に皮下接種することにより、接種1週間後(損傷2週間後)に測定した後肢を引っ込めるまでの閾値(同側4.4±1.12g、反対側4.1±0.75g)を有意に増加させた。Q0ZHGを接種した対照動物は、機械的閾値(同側1.8±0.28g、反対側1.6±0.34g、QHGAD67に対してP<0.01)の変化を示さなかった。最大抗アロディニア効果(すなわち、足を引っ込めるまでの閾値の増加)はQHGAD67の接種2週間後に起こり(同側5.19±0.82g、および反対側5.8±1.14g)、抗アロディニア効果は5週間持続し、接種6週間後に減少した(同側2.86±0.63g、および反対側3.2±0.47g)(図5Aおよび5B)。初めの接種から6週間後に両方の足蹠内に同じ用量のQHGAD67を再接種すると、抗アロディニア効果が再び生じた。再接種によって得られる該効果の大きさは、少なくともベクターの初めの注射により得られる該効果の大きさと同じくらいであった。そして、再接種により得られる該効果の持続期間は、初めの接種から得られる効果の持続期間よりもわずかに長かった(6〜7週間)。全ての時点で、Q0ZHG接種ラットとビヒクル処理されたラットとの間で足を引っ込めるまでの閾値に有意な違いはなかった(図5Aおよび5B)。
【0078】
脊髄の片側切断後、手術前の値(同側12.6±1.23s、反対側12.1±1.25s)に比べて、不快な熱刺激に対して足を引っ込めるまでの期間(同側6.7±0.51s、反対側6.9±0.6s)が減少したことにより明らかになった温熱痛覚過敏も、動物は実証した。QHGAD67の接種1週間後(脊髄の片側切断の2週間後)、Q0ZHG接種対照(同側6.5±0.43s、反対側7.1±0.42sec)に比べて熱への反応期間(thermal latency)が統計学的に有意に増加した(同側8.8±0.48s、反対側8.7±0.71s)。接種4週間後にピークの効果が生じること(同側9.7±0.71s、反対側9.62±0.78s)以外、抗痛覚過敏効果の時間経過は該ベクターの抗アロディニア効果の時間経過と似ていた(図5Cおよび5D)。6週間後のQHGAD67ベクターの再接種は、抗痛覚過敏効果を再び生じさせた。2回目の接種後の抗痛覚過敏効果の持続期間と大きさは、初めの接種後のものより長く大きかった。全ての時点で、ビヒクル処理された動物とQ0ZHG接種された動物との間では両後肢を引っ込めるまでの閾値に有意な違いはなかった(図5Cおよび5D)。
【0079】
これらの試験で、体重175〜200gの、オスのSprague−Dawleyラットを使用した。住居条件および実験手法はUniversity of Pittsburgh,Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認されている。抱水クロラール麻酔(400mg/kg)下のラットを用い、(T13にくっついている)最下位の肋骨を触診することによってT11−T12脊髄薄膜の位置を決めた。縦切開をすることによりいくつかの部位を露出させ、2つの脊椎分節(T11−T12)で椎弓切除を行った。腰膨大は付随する背脈管より特定し、主要な背脈管および血管分岐(vascular branches)を損傷しないように注意してNo.11の手術用メスの刃を用いて脊髄をT13で片側切断した。脊髄の片側切断が完了したことを確実にするために、28内径の針のツベルクリンシリンジを脊髄の正中で背腹方向に置き、横方向に引いた。筋肉と筋膜を縫合して閉じ、皮膚はautoclipで閉じた。外科手術の後に、動物は手術前の状態と同じ状態で維持された。全動物が手術後3時間以内に摂餌も摂水も行った。脊髄の片側切断と同側の肢の運動回復が体知覚行動試験を可能にするのに十分であることを確認するために、運動機能をBBB Locomotor Rating Scaleを用いて観察し、記録した。皮質脊髄路の相互作用を示す両後肢の運動機能の喪失を示した動物は、該研究当時から考慮に入れなかった。基準に合った動物にその後ベクターを接種した。各群につき6匹の動物にベクター接種し、かつ再接種した。
【0080】
機械的異痛および温熱性痛覚過敏のための行動試験は、概日サイクルの昼の部分(AM8:00からPM5:00)の間に行われた。機械的異痛は、一連のvon Frey filaments(0.4、0.7、1.2、1.5、2.0、3.6、5.5、8.5、11.8、および15.1g)を用いて段階的な機械的刺激に対して肢を引っ込める反応の閾値を測定することにより評価した。ラットを順化のために少なくとも30分間網状の床の透明なプラスチックの小部屋中に置いた後で、肢をわずかに曲げさせるのに十分に強さを上げて6秒保ってvon Frey filamentsを足の足底表面に連続的に適用した。von Frey filamentの適用に対して活発に足を引っ込めることは肯定的な反応と見なされ、その次の弱い刺激を生じさせた。温熱性痛覚過敏は、放射熱源から足を引っ込めるまでの時間を測定することによって評価した。この試験では、ラットは光源の箱上にあるガラスのプレート上に置かれた。10分の順化期間の後、足の足底表面をガラスの床を通して当てられる放射熱の光線に曝した。光線の開始と肢の引っ込めとの間の時間を測定することができるように、ラットが肢を上げると光線は自動的に光電池によって消えた。この時間が足を引っ込めるまでの時間として定義された。試験は通常5分間隔で3回行われ、遮断時間として20秒を用いた。
【0081】
(実施例6)
本実施例はGADベクター接種の行動への影響がビククリンおよびファクロフェンによって逆戻りさせることを実証する。
【0082】
GABA受容体選択的拮抗薬であるビククリンおよびGABA受容体選択的拮抗薬であるファクロフェンを用いてQHGAD67媒介抗侵害受容性効果の薬理学的基礎を調べた。偽手術を行った動物に、外科手術の2週間後にビククリン(0.5μg;Sigma)またはファクロフェン(0.8μg;Sigma)を髄腔内に投与しても機械的閾値または熱への反応期間は変化しなかった。QHGAD67を接種して脊髄片側切断したラットにビククリンを同量投与し、薬物投与の10〜15分後に測定すると、脊髄の片側切断と同側の機械的閾値は4.87±1.13gから3.5±0.7g(P<0.05)まで減少し、脊髄の片側切断と反対側は5.75±1.41gから3.38±0.9g(P<0.01)まで減少した(図6A)。髄腔内のファクロフェンは脊髄の片側切断と同側の機械的閾値を3.6±0.78g(P<0.05)まで減少させ、脊髄の片側切断と反対側の機械的閾値を4.05±0.75g(P<0.05)まで減少させた(図6A)。熱に対して足を引っ込めるまでの時間はビククリン投与によって同側を9.28±1.39sから7.23±1.21s(P<0.05)まで、反対側を9.56±1.5sから7.41±1.29s(P<0.05)まで減少させた。ファクロフェンの投与によっては同側で7.54±1.16s(P<0.05)、反対側で7.66±1.24s(P<0.05)まで減少させた(図6B)。各場合において、薬剤の効果は薬剤投与30分後のピークの効果で測定された。接種1時間後にはもはや薬剤効果は検知できなかった。脊髄を片側切断し、Q0ZHGを接種し、ビククリンまたはファクロフェンを同量投与したラットにおいて、機械的閾値または熱への反応期間のどちらも有意な変化はなかった。
【0083】
(実施例7)
本実施例は、GADベクターを用いた細胞への形質導入が脊髄後角においてCGRP免疫反応性を減少させることを実証した。
【0084】
偽手術を行った動物では、L5部でのCGRP免疫反応性は弱く、脊髄の表在性脊髄後角中の薄膜IおよびIIに両側性で大部分は限局していた。左のT13を片側切断して1週間後、CGRP免疫反応性が増加し、染色が背面脊髄の薄膜IIIおよびIV中に両側性に拡がって検出できた。両後足にQHGAD67を接種した1週間後の脊髄片側切断ラットにおいて、Q0ZHGを接種した脊髄片側切断ラット(同側107.3±22.4ODユニット、反対側86±23.5ユニット、P<0.0−5)またはビヒクル処理された動物(同側96.7±21.8ODユニット、反対側104.6±22.6ODユニット、P<0.05)と比較して、CGRP様免疫反応性は減少した(同側76.5±13.3ODユニット、反対側63.6±12.4ODユニット)。Q0ZHG接種動物とビヒクル処理された動物との間で染色に有意な違いはなかった(図7)。
【0085】
損傷していない形質導入動物におけるGADタンパク質および損傷している形質導入動物におけるCGRPペプチドの分布は、免疫組織化学によって決定された。ラットは0.1Mリン酸緩衝液中の4%パラホルムアルデヒドにより心臓内を環流し、脊髄のL5部およびそれにくっついた脊髄根を除去し、2時間同じ溶液中で後固定し、2日間PBS中の30%ショ糖で抗凍結した。20マイクロメートルの凍結切片は冷却したSuperfrost microscope slides(Fisher,Pittsburgh,PA,USA)上に解凍して載せられ、ウサギの抗GAD67(1:2000,Chemicon)またはウサギの抗CGRP(1:500,PLI,San Carlos,CA,USA)とともに4℃で一晩インキュベートし、その後蛍光抗ウサギIgG(Alexa Fluor 594,1:500,Molecular Probes,Eugene,OR,USA)とともに室温で2時間置いた。蛍光画像は共焦点顕微鏡(Diagnostic Instruments,Sterling Heights,MI USA)で捉えた。
【0086】
(実施例8)
本実施例は、単純ヘルペスウイルスベクターを用いてGADをコードする遺伝子を後根神経節に運搬することが末梢神経障害性疼痛を弱めるということを実証する。
【0087】
体重が225から250gmのオスのSprague−Dawleyラットに(Hao et al.,Pain;102:135−42(2003)に記載のように)選択的L5 SNLを行った。SNLの1週間後、30μlのベクター(QHGAD67またはQOZHGのどちらか、1ミリリットル当たり4×10プラーク形成ユニット)を結紮と同側の左後足の足底表面に皮下注射した。上げ下げ法(up−down method)(Dixon et al.,Annu Rev Pharmacol Toxicol;20:441−62(1980)参照)を使用して決定された50%の尤度で足を引っ込めることが生じる触刺激を用いて、von Frey hairの段階的な引っ張り強度(上記Hao et al.およびChaplan et al.,J Neurosci Methods,53:55−63(1994)参照)に対して肢を引っ込める反応を評価することによりSNLで導かれた機械的異痛が決定された。温熱性痛覚過敏はHargreaves装置(Hargreaves et al.,Pain;32:77−88(1988)に記載)を用いて後足の真下に位置する放射熱刺激から肢を引っ込めるまでの時間を記録することによって決定された。
【0088】
ラットはL5のSNL後に、von Prey hair刺激に対して活発に足を引っ込める反応を喚起するのに必要な機械的刺激の大きさの有意な減少を示し(図11A)、熱刺激から足を引っ込めるまでの時間の有意な減少を示した(温熱性痛覚過敏;図11B参照)。QHGAD67を接種されたラットは、接種1週間後から始まる機械的閾値の統計学的に有意な増加を示した。QHGAD67媒介GABA発現の抗アロディニア効果は、接種後5週間から6週間維持され、継続し、存続し、接種2週間後にピークになった(図11A参照)。機械的閾値のピーク値は8.6gmであるが、これは手術前の数値に近い。接種7週間後までに、ベクター遺伝子導入の抗アロディニア効果は消失し、QHGAD67注射ラットの機械的閾値は対照ラットの機械的閾値と同一であった。QHGAD67の同量を同じ肢に再接種すると抗アロディニア効果が再び生じた(図11A参照)。徐々に回復する前の3週間続いて、SNLは10.7秒から6.7秒への熱への反応期間の減少を導いた。QHGAD67を接種されたラットは、接種1週間後から同側の肢で熱への反応期間において統計学的に有意な増加を始め(図11B参照)、効果は3週間から4週間維持し、継続し、存続した(図11B参照)。偽手術を行った動物は機械的閾値または熱への反応期間に変化がなかった。
【0089】
軽い触覚によって誘導されたc−Fosならびにリン酸化細胞外シグナル調節キナーゼ1および2(p−ERKl/2)の発現は、侵害受容過程の1つの間接的な生物学的マーカーである(Catheline et al.,Pain;92:389−98(2001))。SNL3週間後、4秒ごとに1回、10分間、実験者の親指の平らな表面でラットの肢に軽い触覚を与え、免疫反応性細胞(抗c−Fosまたは抗p−ERK1/2抗体;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)の数を、ニッケル−強化ジアミノベンジジン(Vector Laboratories,Bur−lingame,CA)を用いたアビジン−ビオチンセイヨウワサビペルオキシダーゼにより検出した。Fos−L1陽性のニューロンの数は偽手術を行った対照のラットと比べてSNLと同側で実質的に増加し、ベクターQHGAD67の接種は薄膜I〜VIにおけるFos−L1陽性のニューロンの数を有意に減少させた(図12参照)。薄膜IおよびIIにおけるp−ERKl/2発現もSNLを行ない軽い触覚刺激後のラットで増加し、QHGAD67を接種した動物においては該増加は阻害された。p−ERKは偽手術を行った動物で10分の軽い触刺激によって誘導されなかったが、QOZHGを接種した動物における脊髄神経結紮(SNL)後では実質的に誘導された。p−ERK1/2の接触誘導発現はQHGAD67を接種した動物において抑制され、このことは脊髄後角でp−ERK1/2陽性のニューロンの数を数えることによって確認した(図13)。
【0090】
これらの結果は、末梢神経障害性疼痛のモデルにおいて、GADを発現するHSVベクターをin vivoで皮下接種してDRGに形質導入することにより機械的異痛および温熱性痛覚過敏の行動上の症状が弱まることを実証する;行動上の効果は同側の脊髄後角におけるc−Fosおよびp−ERK1/2の発現誘導の阻害を示す組織学的測定によって確かめた。
【0091】
(考察)
実験用ラットのT13での脊髄の側面片側切断が、両後肢における損傷下での行動に関する両側性のSCI疼痛を生じさせる(「SCIモデル」)。行動に関するSCI疼痛は機械的異痛および温熱性痛覚過敏として現れる。この現象は両側の脊髄の再組織化を伴う。上記の実験において、このSCIモデルは、腰のDRGへのGADベクターによって媒介された遺伝子輸送によるGABAの局所的な生産および放出のSCI疼痛のいくつかの症状を緩和することにおける効果を調べるために使用された。
【0092】
DRGニューロンをGADをコードするHSVベクター(「GADベクター」)で形質導入した。これらの形質導入されたDRGニューロンはin vitroでもin vivoでもGADを発現した。これらの細胞におけるGADの発現はGABAの放出をもたらした。T13で脊髄の側面片側切断を行い、GADベクターの皮下接種を行った実験用ラットでは、形質導入したDRGニューロンから放出された局所的なGABAが後肢における機械的異痛および温熱性痛覚過敏を減少させた。正常な動物またはT13で脊髄の側面片側切断を行いGADベクターを皮下接種していない実験用ラットにおいて、痛覚を変化させない用量を投与したGABA受容体拮抗薬またはGABA受容体拮抗薬のどちらによってもこの効果は逆転させることができた。その上、GADベクターにより媒介されたGABA放出もSCI後に生じる腰部脊髄後角におけるCGRP免疫反応性の増加を弱めた。したがって、GADベクターにより媒介されたDRGへの遺伝子移送を含む本発明の方法は、レベルより下の神経障害性SCI疼痛を治療するために有効に使用され得る。
【0093】
GADベクターをin vitroで遺伝子導入した一次DRGニューロンからのGABAの放出は、60mM Kを含有する培地中では増加せず、培地からCa2+を除去することに影響を受けなかった。これは、GABAの放出が小胞状ではなく、構成的に、たぶんGABAトランスポーターの逆転を通じて生じることを示している。in vivoでの神経末端から放出されたGABAの量は脊髄後角の微小透析液におけるGABAのレベルを有意に上昇させるのに十分であったが、これらの動物の運動の弱化の徴候はなかった。このことは、導入遺伝子により媒介されたGABA放出が脊髄後角に制限されることを示す。これは、プロエンケファリンを発現するHSVベクターの皮下接種によって形質導入した動物が接種と同側の肢に限定された鎮痛効果を獲得する、という観察と一致する。
【0094】
損傷していない脊髄を有する実験用ラットにおいて、低い閾値の求心性入力を持続的にGABA作動性に阻害することにより知覚処理を調節し、GABA受容体機能のビククリン阻害が疼痛に関わる行動を生じさせる。電気生理学的研究は、GABAおよびGABA受容体の両方が脊髄レベルでの侵害受容性の神経伝達の持続的調節に貢献するということを示す。末梢神経損傷は脊髄後角におけるGABAレベルの減少をもたらし、部分的な神経損傷後に脊髄後角で一次求心性に誘発された抑制性のシナプス後電流(post synaptic currents)の減少につながる。しかしながら、これらの現象がGABA作動性介在ニューロンの喪失に由来するのか、あるいは、中枢性感作で見られるGABA受容体の脱感作に由来するのか、十分には証明されていない。GABA免疫反応性の一時的な減少は脊髄の虚血を光化学的に誘導した後の腰髄で報告されているが、該研究は片側切断のレベルより下のGABA免疫反応性を調査していなかった。それにも関わらず、DRGニューロンのGADベクター形質導入の結果として、片側切断のレベルより下の脊髄後角にGABAを構成的に送達することが、SCI後の機械的異痛および温熱性痛覚過敏の行動の量を減少させた。このことは、SCI痛がGABAによる調節の影響を受けやすいことを示している。
【0095】
中枢神経性の疼痛に対するバクロフェンの効果をいくつかの試験で評価し、短期の試験においては、一般的に肯定的な結果が得られたが、顕著な長期の緩和はあまりなかった。バクロフェンの髄腔内への投与は、SCIの虚血モデルにおいて慢性の機械的異痛および冷感異痛を部分的に軽減する。神経障害性疼痛の慢性圧縮損傷モデルにおいて、GABA放出細胞の髄腔内への移植により神経障害性疼痛のいくつかの症状がなくなる。GADベクターにより媒介されたGABA放出の疼痛緩和効果は、数週間にわたって継続することが見出された。
【0096】
時間を通じたGABA放出量は測定しなかった。しかしながら、鎮痛効果が弱くなった後のGADベクターの再接種は、機械的異痛および温熱性痛覚過敏の減少を再び生じさせることが観察された。この観察は、治療効果の喪失が寛容の発達によるものではなく、遺伝子発現の減少によることを実証する。これは、導入遺伝子が一時的に活性なヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(HCMV IEp)によってドライブされるベクターを試験した、これまでの研究の発見とも一致している。
【0097】
疼痛および疼痛の緩和の「客観的な」基準はない。しかしながら、SCIモデルの損傷レベルより下の脊髄分節におけるCGRP免疫反応性量の増加の測定を、実験室における疼痛および疼痛の緩和の測定に使用した。残念なことに、SCIモデルにおいて脊髄CGRPが増加する現象についてはほとんど分かっていない。レベルより下でのCGRPへ増加に責を負う機序は明らかになっていない。免疫反応性における増加がCGRPの代謝回転での放出の増加に関係するかどうかは分かっていない。SCI疼痛の現象においてCGRPがいかなる役割を演じるのかということも、SCIの付帯現象として生じるのかということも分からない。それにも関わらず、末梢神経疼痛の脊髄結紮モデルにおいて、これらの研究でのSCI後に生じるCGRPの増加は、無害な触覚により誘導されたc−fos免疫反応性の増加と類似する疼痛の行動基準に相関がある組織学的なものとして働く。したがって、CGRPの測定はSCI疼痛を治療する際のGADベクターの効果を決定するために使用され得る。いずれの特定の理論にもつながることを希望するものではないが、脊髄後角の薄膜I、IIおよびVに主に突出する無髄の求心性神経および薄い有髄の求心性神経中にCGRPが存在するので、CGRPの増加は一次求心性神経の出芽に由来すると信じられている。GAD形質導入された細胞からのGABA放出がCGRP発現の増加を阻害する機序は、知られていない。
【0098】
以上のことから、本発明によると、ヒトグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)を発現するように設計された非複製HSVベクターがうまく構築され、このベクターがSCI疼痛を治療するために使用され、末梢神経障害性疼痛も治療するために使用された。これらの実施例は、遺伝子運搬アプローチの使用を含む本発明の方法がDRGニューロンに遺伝子導入するために使用され得ることを、脊髄後角でGABAを放出するための末梢への接種を通じて実証する。これらの実施例は、GADベクターを用いて遺伝子を運搬することを含む本発明の方法が、SCI後のレベルより下の機械的異痛および温熱性痛覚過敏を下げることも実証する。皮下接種によってGADベクターを送達する能力は、SCI疼痛および末梢神経障害性疼痛も治療する本発明のアプローチの魅力的な特徴である。
【0099】
本発明の実施は、当業者に公知のウイルス学、細菌学、分子生物学および組み換えDNA技術の従来の方法を他に示さないかぎり用いる。かかる技術は文献に十分に説明されている(例えば、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Current Edition);DNA Cloning:A Practical Approach,Vol.I&II(D.Glover,ed.);Oligonucleotide Synthesis(N.Gait,ed.,Current Edition);Nucleic Acid Hybridization(B.Hames&S.Higgins,eds.,Current Edition);Transcription and Translation(B.Hames&S.Higgins,eds.,Current Edition);CRC Handbook of Parvoviruses,Vol.I&II(P.Tijessen,ed.);Fundamental Virology,2nd Edition,Vol.I&II(B.N.Fields and D.M.Knipe,eds.)参照)。
【0100】
本明細書中で引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、本明細書中で参考として援用されることが個別におよび具体的に示され、かつその全体が記載されているのと同じ程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0101】
本発明を記載する文脈において(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」及び「an」及び「the」及び同様の指示語の使用は、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含するように解釈されるべきである。「含有する(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含む(containing)」という用語は、他に特に明記がない限り、オープンエンドの用語(すなわち、「〜を含むが、限定されない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書中で他に特に明記がない限り、その範囲内にある各々の別々の値を個々に言及する略記方法として働くことが単に意図され、そして各々の別々の値は、それが本明細書中で個々に列挙されているかのように本明細書中に含まれるものである。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に特に明記がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供される任意及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより良く明瞭にすることが単に意図され、そして他に特に主張されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中の如何なる言葉も、本発明の実施に必須なものとして主張されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0102】
本発明の実施に関して、本発明者らが知っている最良の形態を含む、本発明の好適な実施態様を本明細書中に記載する。これらの好ましい実施態様のバリエーションは前記記載を読むことによって当業者に明らかとなる。発明者らは本明細書中に明確に記載したものとして当業者が発明を実施することを意図するというよりはむしろ、発明者らはかかるバリエーションを適切な例として使用することを期待している。したがって、本発明は本明細書に添付した特許請求の範囲において述べられた対象の改良されたもの全ておよび等価なもの全てを適用法に許可されたものとして含む。さらに、本明細書中に明記がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、その可能なバリエーションにおける上記の要素のいずれの組合せも本発明によって包含される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1−1】図1は、本発明において使用され得る典型的なベクターの構造の略図である。
【図1−2】図1は、本発明において使用され得る典型的なベクターの構造の略図である。
【図2】図2は、足蹠接種によるQHGAD67形質導入により増加した腰後根神経節(DRG)におけるGAD67のmRNAである。1本の後足に1×10pfu/mlのQHGAD67またはQ0ZHGを30μl皮下接種した1週間後、全RNAをプールされたL4−L6DRG(500ng)から抽出し、リアルタイムPCRで増幅し、GAPDHを基準として用いて定量した。Q0ZHG導入神経節に対する相対値を示した。平均値±標準誤差(SEM)、N=6。
【図3】図3は、腰髄の後ろ1/4から得られた(the dorsal quadrant of lumbar spinal cord)タンパク質を示す。該タンパク質は内部標準としてβアクチンを使用してウェスタンブロットを行い、相対的光学濃度により定量した。平均値±SEM、N=6、P<0.05、QHGAD67による形質導入後に増加したGAD67様免疫反応性。
【図4】図4Aは、対照細胞またはQ0ZHG感染細胞と比べてQHGAD67感染細胞では実質的に増加したm.o.i.が1でin vitroで形質導入された一次DRGニューロンから放出されたγアミノ酪酸(GABA)の量を示す。下記の材料および方法に記載のように、5分間にわたって放出されたGABAをHPLCにより決定した。GABA濃度/ウェルの測定は3回行い、各状態で3つ組のサンプルを用いた。平均値±SEM、P<0.01vs.Q0HGまたはビヒクル。図4Bは、HPLCによって決定された、脊髄後角の微小透析液中のin vivoで脊髄の神経末端から放出されたGABAの量である。1本の後足に1×10pfu/mlのQHGAD67を30μl皮下接種した1週間後、GABAの量(微小透析液のpmol/10μlの割合)は対照動物と比べてQHGAD67接種動物では実質的に増加した。平均値±SEM、N=6、P<0.05。
【図5−1】図5A〜Dは、QHGAD67接種により有意に減少した機械的異痛および温熱性痛覚過敏を示す。図5Aおよび5Bは片側切断の1週間後に、ビヒクル処理された動物(X)で見られるように15週間にわたって、足を引っ込めるまでの閾値(機械的異痛)の減少があったことを実証する。QHGAD67の接種は、増加した閾値(白丸)を反映した抗アロディニア効果を生じた。始めの接種から数週間後にはQHGAD67の抗アロディニア効果は減少したが、同じ動物にQHGAD67を再接種すると抗侵害受容性の効果が再び生じた(P<0.05、**P<0.01vs.Q0ZHG接種、N=6)。(A)同側の片側切断および(B)反対側の片側切断。
【図5−2】図5A〜Dは、QHGAD67接種により有意に減少した機械的異痛および温熱性痛覚過敏を示す。図5Cおよび5Dは、片側切断の1週間後に足を引っ込めるまでの時間(温熱性痛覚過敏)に有意な減少があり、ベクターの注射が足を引っ込めるまでの時間(白丸)に有意な増加をもたらすということを実証する。始めの接種から7週間後までは両方のQHGAD67の抗痛覚過敏効果は減少したが、QHGAD67の再接種により抗痛覚過敏効果が再び生じた(P<0.05、**P<0.01vs.Q0ZHG接種、N=6)。(C)同側の片側切断および(D)反対側の片側切断。Q0ZHG接種動物(白三角)は全ての場合(A〜D)において、ビヒクル処理された対照と区別できなかった。
【図6】図6Aおよび6Bは、片側切断の3週間後および足蹠接種の2週間後にビククリン(0.5μg)またはファクロフェン(0.8μg)を髄腔内に投与することが部分的に(A)ベクター接種の抗アロディニア効果および(B)ベクター接種の抗痛覚過敏効果を覆すことを実証する。対照のベクターまたはビヒクルを接種したSCI後の動物において、点線は平均閾値(A)および時間(B)を示している。平均値±SEM、N=6、P<0.05、**P<0.01vs.ビヒクル処理。
【図7】図7は脊髄後角におけるCGRP様免疫反応性の相対的光学濃度測定のヒストグラムである。相対的光学濃度測定は各動物のL5部分における一連の6つの連続切片から行った。点線は正常な脊髄におけるCGRP−IRの濃度がビヒクルまたはQ0ZHGを接種した動物においてT13片側切断の同側と反対側の両方で実質的に増加したこと、QHGAD67の接種がこの増加を有意に弱めたことを示している。平均値±SEM、n=6、ビヒクルまたはQ0HZGと比較してP<0.051。
【図8】図8は本明細書中で議論する配列番号1を示す。
【図9】図9は本明細書中で議論する配列番号2を示す。
【図10】図10は本明細書中で議論する配列番号3〜8を示す。
【図11−1】図11(a)および11(b)は、神経障害性疼痛におけるQOGAD67の抗侵害受容性効果を実証するデータを示す。(A)L5脊髄神経結紮(SNL)は触刺激に対する閾値の有意な減少を生じさせ、これは4ヶ月以上続いた。QHGAD67(矢印)の皮下接種により、機械的閾値の増加を反映した抗アロディニア効果が生じた。初めの接種から7週間後のQHGAD67の再接種(矢印)により抗アロディニア効果が再び生じた。結果は平均値±標準誤差として示した。(白丸)QHGAD67;(黒丸)QOZHG;P<0.05;**P<0.01;各グループn=8動物。
【図11−2】図11(a)および11(b)は、神経障害性疼痛におけるQOGAD67の抗侵害受容性効果を実証するデータを示す。(B)L5SNLは有意な温熱性痛覚過敏も生じさせ、これは6週間続いた。QOZHGではなくてQHGAD67の接種(矢印)は脊髄神経損傷によって誘導された温熱性痛覚過敏を覆した。QOZHG接種に対してP<0.05;**P<0.01;各グループn=8動物。差の統計的有意性は、Scheffe’s F 検定を用いて比較したhoc後の数を補正する変異の分析(StatView 5.2;SAS Institute,Cary,NC)によって決定した。
【図12】図12は、脊髄後角におけるFos−LIに対するQHGAD67の効果に関するデータを示すヒストグラムである。10分の軽い触刺激が誘導した脊髄後角のFos−LIは、脊髄神経結紮(SNL)の1週間後にQOZHGを接種し、2週間後に試験した(SNLの3週間後)ラットで有意に増加した。この増加はSNL1週間後にQHGAD67を接種し、2週間後に試験した(SNLの3週間後)SNLのラットにおいて阻害された。これは脊髄後角の薄膜I〜VIで見られた。結果は平均値±標準誤差で示す。**P<0.01;各グループn=5動物。偽手術を行った動物とQOZHGを接種したSNL動物の差も統計的に有意であった(P<0.01)。
【図13】図13は、脊髄後角でのリン酸化細胞外シグナル調節キナーゼ1および2(p−ERKl/2)の発現へのQHGAD67の効果に関するデータをグラフを使って示す。結果は平均値±標準誤差で示す。**P<0.01;***P<0.001;各グループn=5動物。
【図14−1】図14はICP4座およびICP27座の拡張された欠失ならびにUL55の欠失を有するHSVベクターの構造を示す。
【図14−2】図14はICP4座およびICP27座の拡張された欠失ならびにUL55の欠失を有するHSVベクターの構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICP4、ICP27の拡張された欠失およびUL55の欠失を含有し、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有する非単位複製配列組み換え単純ヘルペスウイルス(HSV)を含有する、ベクター。
【請求項2】
該GADタンパク質がGAD67である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
GADタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結された誘導可能なプロモーターを更に含有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
GADタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結されたヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(HCMV IEp)を更に含有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
GADタンパク質をコードする配列が組み換えHSVのUL41座、ICP4座またはICP27座内に挿入される、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
少なくとも1つの必須HSV遺伝子が更に欠損している、請求項1に記載のベクター。
【請求項7】
該必須HSV遺伝子が前初期HSV遺伝子、初期HSV遺伝子または後期HSV遺伝子である、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
ICP22およびICP47ならびにその組合せからなる群から選択される前初期遺伝子が更に欠損している、請求項1に記載のベクター。
【請求項9】
該組み換えHSVが複製欠損である、請求項1に記載のベクター。
【請求項10】
請求項1または9に記載のベクターを含有する、ウイルスストック。
【請求項11】
請求項1または9に記載のベクターおよび生理学的に許容され得る担体を含有する、組成物。
【請求項12】
哺乳動物の脊髄損傷疼痛または末梢神経障害性疼痛を治療するための医薬を調製するための、請求項1〜11のいずれかに記載のベクターの使用。
【請求項13】
該哺乳動物がヒトである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ICP4、ICP27における拡張された欠失およびUL55の欠失を含有する、HSVベクター。
【請求項15】
少なくとも1つの追加の必須HSV遺伝子が欠損していることを更に含有する、請求項14に記載のHSVベクター。
【請求項16】
該必須HSV遺伝子が前初期HSV遺伝子、初期HSV遺伝子または後期HSV遺伝子である、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
該前初期遺伝子がICP22、ICP47およびその組合せからなる群から選択される、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
該組み換えHSVが複製欠損である、請求項14に記載のベクター。
【請求項19】
更に導入遺伝子を含有する、請求項14に記載のベクター。
【請求項20】
該導入遺伝子がGADをコードする、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
該導入遺伝子がエンケファリンをコードする、請求項19に記載のベクター。
【請求項22】
医薬を調製するための、請求項14〜21のいずれかに記載のベクターの使用。
【請求項23】
HSVのICP4遺伝子、ICP27遺伝子およびUL55遺伝子を補完する細胞株。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【公表番号】特表2008−518599(P2008−518599A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539217(P2007−539217)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/039162
【国際公開番号】WO2006/050211
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(500091313)ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション (10)
【出願人】(502389630)アメリカ合衆国 (4)
【Fターム(参考)】