説明

脚付き環状部材の製造方法および製造装置

【課題】脚付き環状部材の完成までの製造工程数を少なくすると共に脚付き環状部材の完成までに要する時間を短縮する。
【解決手段】環状部22cと脚部26cとを有する中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながらバリ29cを除去して脚付き環状部材としてのキャリアを完成させる。これにより、脚部26cの拡径とバリ29cの除去とを別々の工程で行なうものに比してキャリアの完成までの製造工程数を少なくすることができ、キャリアの完成までに要する時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脚付き環状部材の製造方法および製造装置に関し、詳しくは、環状の環状部とその環状部の外周側に環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚とを有する脚付き環状部材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の脚付き環状部材の製造方法としては、円板状のブランク(素材)を後方押し出し成形することにより底部と底部の一側面側の外周面に沿って幅(太さ)が異なる複数の脚部および各脚部間に延在する膜部とからなる有脚部材の粗形材を成形する粗形材成形工程と、粗形材成形工程で成形された粗形材の膜部と底部の中心部とをトリミングするトリミング工程と、を含む製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−105085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の脚付き環状部材の製造方法では、トリミング工程で膜部をトリミングする際に脚部にバリを生じることがある。従来、こうしたバリは、手作業により除去していたため、脚付き環状部材の完成までに比較的長時間を要していた。また、トリミング工程で膜部をトリミングする際には、脚部が若干内側に倒れ込むことがあり、脚部のバリ取りとは別の工程として、脚部の内径を広げる工程を必要としていた。
【0004】
本発明の脚付き環状部材の製造方法および製造装置は、脚付き環状部材の完成までの製造工程数を少なくすることを目的の一つとする。また、本発明の脚付き環状部材の製造方法および製造装置は、脚付き環状部材の完成までに要する時間を短縮することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の脚付き環状部材の製造方法および製造装置は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の脚付き環状部材の製造方法は、
環状の環状部と、該環状部の外周側に該環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚と、を有する脚付き環状部材の製造方法であって、
(a)所定形状の粗材から、前記環状部と、前記脚を構成する脚部と該脚部を連結する連結部とからなるスカート状の外壁部と、を有するワーク部材を形成する工程と、
(b)該形成したワーク部材から前記連結部を取り外して中間脚付き環状部材を形成する工程と、
(c)該形成した中間脚付き環状部材に対して前記脚部の内径を広げながら該脚部の前記連結部との接続部位のバリ取りを行なって前記脚付き環状部材を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0007】
この本発明の環状部材の製造方法では、所定形状の粗材から環状の環状部とその環状部の外周側に環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚を構成する脚部と該脚部を連結する連結部とからなるスカート状の外壁部とを有するワーク部材を形成し、形成したワーク部材から連結部を取り外して中間脚付き環状部材を形成し、形成した中間脚付き環状部材に対して脚部の内径を広げながら脚部の連結部との接続部位のバリ取りを行なって脚付き環状部材を形成する。したがって、脚部の内径を広げる処理と接続部位のバリ取りを行なう処理とを一連の処理として行なうから、これらの処理を別々の工程で行なうものに比して脚付き環状部材の完成までの製造工程数を少なくすることができ、脚付き環状部材の完成までに要する時間を短縮することができる。ここで、「所定形状の粗材」には、環状の粗材などがある。
【0008】
こうした本発明の脚付き環状部材の製造方法において、前記工程(c)は、前記脚部の前記環状部への付け根側から先端方向に向けて作用する力により前記接続部位のバリ取りを行なう工程であるものとすることもできるし、前記脚部の先端の外径を前記環状部への付け根の外径より広げながら前記脚部の略先端の前記接続部位のバリ取りを行なう工程であるものとすることもできる。
【0009】
また、本発明の脚付き環状部材の製造方法において、前記脚付き環状部材は、遊星歯車機構におけるキャリアであるものとすることもできる。
【0010】
本発明の脚付き環状部材の製造装置は、
環状の環状部と、該環状部の外周側に該環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚と、を有する脚付き環状部材の製造装置であって、
前記環状部と、少なくとも一部にバリを有する前記脚を構成する脚部とを有する中間脚付き環状部材を端部の略中央で支持可能な支持手段と、
前記支持手段の外周側に該支持手段と略同軸となるよう配置され、内周側の端部が前記環状部の外径に比して大きい径の円形に形成された中空部材と、
前記支持手段の端部に対して対向配置され、前記中間脚付き環状部材が前記支持手段により支持されているときに前記環状部および前記脚部の内周側に当接した状態で該脚部の少なくとも一部の外径を前記中空部材の内周側の端部の内径より大きく広げながら前記中間脚付き環状部材および前記支持手段を該支持手段側に移動させる拡径移動手段と、
を備えることを要旨とする。
【0011】
この本発明の脚付き環状部材の製造装置では、環状部と少なくとも一部にバリを有する脚を構成する脚部とを有する中間脚付き環状部材を支持手段の端部の略中央で支持手段にに支持させ、その状態で拡径移動手段を中間脚付き環状部材の環状部および脚部の内周側に当接させて脚部の少なくとも一部の外径を中空部材の内周側の端部の内径より大きく広げながら中間脚付き環状部材および支持手段を支持手段側に移動させる。こうして中間脚付き環状部材を支持手段側に移動させると、内周側の端部が環状部の外径に比して大きい径の円形に形成された中空部材の端部に脚部の一部が当接し、さらに支持手段側に移動させる際に中空部材の端部によりバリ取りが行なわれる。したがって、脚部の内径を広げる処理と接続部位のバリ取りを行なう処理とを一連の処理として行なうから、これらの処理を別々の工程で行なうものに比して脚付き環状部材の完成までの製造工程数を少なくすることができ、脚付き環状部材の完成までに要する時間を短縮することができる。しかも、脚部の外径を環状部の外径よりも大きく広げながらバリ取りを行なうことになるから、バリが発生していない部分が大きく削られてしまうのを抑制することができる。ここで、支持手段は、中間脚付き環状部材を支持している状態で拡径移動手段により中間脚付き環状部材に力が作用したときに、脚部の拡径に要する荷重に比して中間脚付き環状部材の移動に要する荷重が大きくなるよう形成されてなるものとすることもできる。
【0012】
この本発明の脚付き環状部材の製造装置において、前記支持手段は、前記端部が前記中空部材の端部に比して突出するよう配置され、外周面から該中空部材の端部に向けてエアを吐出可能な第1のエア吐出部を有する手段であるものとすることもできる。また、前記拡径移動手段は、端部から前記支持手段の端部に向けてエアを吐出可能な第2のエア吐出部を有する手段であるものとすることもできる。前者の場合には、支持手段の端部が中空部材の端部に比して突出している状態で支持手段の外周面から中空部材の吐出部の端部に向けてエアを吐出させることにより、中間脚付き環状部材から切り落としたバリなどが中空部材の端部に堆積しないようにすることができる。また、後者の場合には、支持手段に中間脚付き環状部材を支持させた状態で拡径移動手段の端部から支持手段の端部に向けて即ち中間脚付き環状部材の表面に向けてエアを吐出させることにより、中間脚付き部材の表面のゴミなどを除去することができる。
【0013】
また、本発明の脚付き環状部材の製造装置において、前記中空部材は、前記内周側の端部の少なくとも一部が外周側に向けて略直角または鋭角に形成されてなるものとすることもできる。こうすれば、脚部のバリ取りをより容易に行なうことができる。また、前記中空部材は、前記内周側の端部の一部が面取りされた形状に形成されてなるものとすることもできる。後者の場合、脚部の周方向の略中央の端部が中空部材の面取りされている部分に対応する位置となるよう中間脚付き環状部材を支持手段に支持させれば、脚部の周方向の略中央の端部が削られるのを抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明の脚付き環状部材の製造装置において、前記中空部材を固定するための孔を有する固定台を備え、前記中空部材は、前記支持台に当接する面から略鉛直方向に、径方向に比して周方向に長い形状に形成された長孔を有し、該長孔と前記固定台の孔とに嵌合する固定部材により前記固定台に固定されるものであるものとすることもできる。こうすれば、中空部材を周方向に回転させることにより、バリ取りを行なう際に中間脚付き環状部材に当接される位置を変更することができる。
【0015】
あるいは、前記脚付き環状部材は、遊星歯車機構におけるキャリアであるものとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としての脚付き環状部材の製造方法により製造されたキャリア20の外観を示す外観図であり、図2は、図1のキャリア20をA−A面から見たAA視図である。実施例の製造方法により製造されるキャリア20は、図1および図2に示すように、環状の環状部22と、中空軸として環状部の内周に沿って形成されたボス部24と、環状部22に対してボス部24とは反対側に環状部22の外周側に環状部22に対して略直角に形成された4つの脚を構成する脚部26と、からなる。
【0018】
こうした実施例のキャリア20は、以下のように製造される。図3は、実施例のキャリア20を製造する工程を示す工程図である。キャリア20の製造は、まず、冷間鍛造可能な材質(例えば、低炭素鋼、低炭素合金鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金など)の棒材を準備し(工程S100)、準備した棒材に対して熱間鍛造や温間鍛造,冷間鍛造により、中央に孔を有する環状の粗材20aを形成する(工程S110)。環状の粗材20aの一例を図4に示す。
【0019】
そして、工程S130以降を行なうための準備処理を行なう(工程S120)。この準備処理としては、例えば、環状の粗材20aに対する軟化処理や、環状の粗材20aの表面のスケールを除去するためのショットブラスト,環状の粗材20aの形状を整形するためのC面切削(面取り)および幅切削,ボンデ処理などがある。なお、ボンデ処理は、後述するプレス加工を行なう際の加工装置と粗材20aとの摩擦抵抗を小さくするために、環状の粗材20aの表面に化成皮膜(例えば、燐酸塩皮膜など)を形成させると共に形成させた化成皮膜の表面を金属石けんなどによりコーティングする処理である。
【0020】
次に、環状の粗材20aに対してプレス加工を行なって図5および図6に例示するワーク部材20bを形成する(工程S130)。図5はワーク部材20bの外観を示す外観図であり、図6は図5のワーク部材20bをA−A面から見たAA視図である。ワーク部材20bは、図5および図6に示すように、環状の環状部22bと、環状部22bの内周に沿って環状部22bに対して略直角に形成された内壁部23bと、環状部22bに対して内壁部23bとは反対側に環状部22bの内周に沿って環状部22bに対して略直角に形成されたボス部24bと、環状部22bに対して内壁部23bと同じ側の環状部22bの外周に外周面が略一致し環状部22bに対して略直角に形成された脚部26bと脚部26bを連結する連結部27bとからなる外壁部25bと、からなる。なお、図5および図6では、脚部26bと連結部27bとの境界部分を接続部位28bとして図示した。
【0021】
こうしてワーク部材20bを形成すると、形成したワーク部材20bから連結部27bと内壁部23bとボス部24bの内周側の一部とを切り落として図7〜図9に例示する中間脚付き環状部材20cを形成する(工程S140)。図7は中間脚付き環状部材20cの外観を示す外観図であり、図8は図7の中間脚付き環状部材20cをA−A面から見たAA視図であり、図9は図7の中間脚付き環状部材20cをB−B面から見たBB視図である。中間脚付き環状部材20cは、図7〜図9に示すように、内壁部23bの切り落としにより内径が内壁部23bの外径より若干大きくなった環状部22cと、環状部22cの内周に沿って環状部22cに略直角に形成されたボス部24cと、ワーク部材20bの脚部26bに相当する脚部26cと、からなる。この中間脚付き環状部材20cは、脚部26cの環状部22cへの付け根部分を含む環状部22cが外径R1の円形に形成されると共に、脚部26cが厚みD1で環状部22cへの付け根から先端まで長さL1に形成されている。この中間脚付き環状部材20cを形成する工程において、連結部27bの切り落としは、例えば、ワーク部材20bの連結部27bの環状部22bへの付け根側から先端側に向けて力を作用させることにより行なったり、連結部27bの内側から外側に向けて力を作用させることにより行なったりすることができる。このようにしてワーク部材20bから連結部27bを切り落として中間脚付き環状部材20cを形成すると、ワーク部材20bの接続部位28bに相当する部分にバリ29cを生じることがある。また、この連結部27bを切り落とした後の中間脚付き環状部材20cでは、脚部26cが若干内側に倒れ込むことがある。
【0022】
続いて、中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながら脚部26cのバリ29cを除去する(工程S150)。実施例では、この工程を図10および図11に例示する拡径バリ取り装置30を用いて行なうものとした。図10は拡径バリ取り装置30および中間脚付き環状部材20cの断面図であり、図11は図10の拡径バリ取り装置30および中間脚付き環状部材20cをA−A面から見たAA視図である。図10の拡径バリ取り装置30および中間脚付き環状部材20cの断面図は、図11のB−B断面に相当する。なお、図11では、見易さを考慮して、中間脚付き環状部材20cと載置部35にハッチングを付した。
【0023】
拡径バリ取り装置30は、図10および図11に示すように、装置下部に配置された下型32と、下型32に対して略同軸上の上方に配置された上型50と、を備える。下型32は、主として、下型32内の略中央上部に配置され中間脚付き環状部材20cを載置可能な支持手段としてのエジェクター34と、エジェクター34の外周側にエジェクター34と略同軸となるよう配置された中空部材としてのダイス38と、ダイス38を固定するための固定台40と、などを備える。エジェクター34は、上端部の外周側が中間脚付き環状部材20cの環状部22cの外径R1よりも若干大きい外径R2の円形に形成され且つ中間脚付き環状部材20cのボス部24cの外径と略同一の内径でボス部24cの長さより深く開口した開口部を有する載置部35と、載置部35の下部に配置され載置部35の下部への移動を制限するガスクッション部36と、を備える。載置部35は、その上端部がダイス38の上端部に比して突出するよう配置され、内部を経由して外周面におけるダイス38の上端部よりも若干上方から外側(ダイス38の上端部)に向けてエアを吐出するための複数のエア通路35aが形成され、エア源60とエア通路35aとの間に介在する電磁弁62を開としたときにエア源60からエア通路35aを介してダイス38の上端部に向けて所定圧(例えば、300MPaや400MPaなど)のエアが吐出される。また、ガスクッション部36は、脚部26cが上側となるよう中間脚付き環状部材20cを載置部35に載置した状態で後述の拡径パンチ52により中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながら中間脚付き環状部材20cおよび載置部35を下方に移動させる際に脚部26cの内径を広げるのに要する荷重に比して中間脚付き環状部材20cおよび載置部35を下方に移動させるのに要する荷重が大きくなる程度をもって載置部35の下方への移動を制限できるよう形成されるものとした。ダイス38は、上端部が、内周側から外周側に向けて距離L2の範囲では、面取りされているか内周面に対して略直角に形成されており、距離L2を超えて外周側に向かうほど上端部が低くなるよう形成されている。以下、ダイス38の上端部のうち面取りされている部分を面取り部38aといい、内周面に対して略直角に形成された部分を直角部38bという。また、ダイス38には、径方向に比して周方向に長い形状(例えば、二つの半円を円弧で繋いだ形状など)の長孔38cが鉛直方向に貫通するよう形成され、固定台40には、上端部側から所定の深さの円形の孔40aが形成されており、固定部材としてのボルト42によりダイス38を固定台40に固定できるようになっている。このため、ボルト42を緩めればダイス38を回転させることができる。
【0024】
上型50は、主として、載置部35の上端部に下端部が対向配置された拡径パンチ52などを備える。この拡径パンチ52は、その下端部が中間脚付き環状部材20cの脚部26の内径即ち脚部26cが若干内側に倒れ込んだときの脚部26cの内径に比して小さい外径R3の円形に形成されると共に、下端部よりも脚部26cの長さL1に比して短い長さL3だけ上方側の位置(以下、中間部という)が下端部側から見て外径R4の円形に形成されており、脚部26cが上側となるよう中間脚付き環状部材20cを載置部35に載置した状態で中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながら中間脚付き環状部材20cおよび載置部35を下方に移動させる際に、拡径パンチ52の下端部が環状部22cの表面(図10中、上面)に当接すると共に拡径パンチ52の中間部が脚部26cの内周側に当接するよう形成されている。ここで、外径R4は、拡径パンチ52の下端部が環状部22cの表面に当接すると共に中間部が脚部26cの内周側に当接したときに、即ち、中間脚付き環状部材の20cの脚部26cの内径を広げたときに、脚部26cの先端のバリ29cの部分の外径がダイス38の上端部の内径R2より大きくなる大きさである。拡径パンチ52には、内部を経由して下端部から下方に向けてエアを吐出するためのエア通路52aが形成され、エア源60とエア通路52aとの間に介在する電磁弁64を開としたときにエア源60からエア通路52aを介して下方に向けて所定圧のエアが吐出される。
【0025】
図12は、拡径バリ取り装置30を用いて中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながらバリ29cを除去する際の様子を示す説明図であり、図13は、図12中の脚付き環状部材20c近傍を拡大した部分拡大図である。中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながらバリ29cを除去する際には、まず、載置部35の略中央の開口部に中間脚付き部材30のボス部24cが嵌ると共にダイス38の面取り部38aの径方向に沿った内側に中間脚付き環状部材20cの脚部26bの周方向の略中央が位置するよう中間脚付き環状部材20cを載置する(図10および図11参照)。そして、その状態で上型50を下降させると、まず、拡径パンチ52の一部が中間脚付き環状部材20cに当接する。さらに上型50を下降させると、前述したように、中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げるのに要する荷重に比して中間脚付き環状部材20cおよび載置部35を下方に移動させるのに要する荷重が大きいため、脚部26cの内径が広がっていき、拡径パンチ52の下端部が環状部22cの表面に当接すると共に拡径パンチ52の中間部が脚部26cの内周側に当接すると、脚部26cの内径はそれ以上広がらずに中間脚付き環状部材20cおよび載置部35は下方に移動する。そして、脚部26cの先端のバリ29cがダイス38の内周側の端部に当接すると、拡径パンチ52により中間脚付き環状部材20cおよび載置部35を下方に押し下げる力に応じた力がダイス38から脚部26cの略先端のバリ29cの部分に脚部26cの付け根側から先端方向に向けて作用し、脚部26cのバリ29cが除去される。即ち、脚部26cの内径を広げる処理と脚部26cのバリ29cを除去する処理とを一連の処理として行なうのである。なお、このとき、脚部26cの周方向の中央部分の先端は、ダイス38の面取り部38aに当接するため、削られるのを抑制することができる。その後に上型50を上昇させると、ガスクッション部36からの載置部35を上昇させる力によりバリ29cを除去した中間脚付き環状部材20cおよび載置部35が上昇し、拡径バリ取り装置30は図10の状態に戻る。こうして上型50が中間脚付き環状部材20cから離れると、弾性変形により内径が広げられていた脚部26cは環状部材20cに対して略直角になり、完成後のキャリア20(図1および図2参照)と略同一形状になる。このようにして、ワーク部材20bの連結部27bの切り落としによって生じたバリを除去することができると共に連結部27bの切り落とした後に脚部26cが若干内側に倒れ込んでいるときに脚部26cの内径を広げることができる。しかも、この拡径バリ取り装置30では、中間脚付き部材20cを載置部35に載置した状態で電磁弁64を開として拡径パンチ52から下方にエアを吐出させることにより、環状部22bの上面のゴミなどを除去することができ、載置部35の上端部がダイス38の上端部より突出している状態(例えば、脚部26cのバリ29cを除去した後に図9の状態に戻ったときなど)で電磁弁62を開として載置部35の外周面からダイス38の上端部にエアを吐出させることにより、ダイス38の上端部にバリ29cが堆積しないようにすることができる。また、この拡径バリ取り装置30では、ダイス38を回転させることにより、脚部26cからバリ29cを除去する際にバリ29cに当接するダイス38の直角部38bの位置を切り替えることができるから、ダイス38の寿命を長くすることができる。
【0026】
最後に、仕上げ処理を施して(工程S160)、上述した脚付き環状部材としてのキャリア20を完成する。ここで、仕上げ処理としては、例えば、工程S120でボンデ処理を行なった場合に中間脚付き環状部材20cの表面にコーティングされた金属石けんを取り除く処理や、中間脚付き環状部材20cの環状部22cの表面を滑らかに整えるコイニング処理などがある。
【0027】
以上説明した実施例のキャリア20の製造方法によれば、環状部22cと脚部26cとを有する中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながらバリ29cを除去してキャリア20を完成させるから、脚部26cの拡径とバリ29cの除去とを別々の工程で行なうものに比してキャリア20の完成までの製造工程数を少なくすることができ、キャリア20の完成までに要する時間を短縮することができる。
【0028】
また、実施例のキャリア20の製造に用いる拡径バリ取り装置30によれば、中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながらバリ29cを除去するから、脚部26cの拡径とバリ29cの除去とを別々の工程で行なうものに比してキャリア20の完成までの製造工程数を少なくすることができ、キャリア20の完成までに要する時間を短縮することができる。しかも、実施例の拡径バリ取り装置30によれば、エジェクター34の載置部35の上端部がダイス38の上端部より突出している状態で載置部35の外周からダイス38の上端部にエアを吐出させて、脚部26cから除去したバリ29cがダイス38の上端部に堆積しないようにすることができる。また、載置部35に中間脚付き環状部材20cを載置している状態で拡径パンチ52から下方にエアを吐出させて、環状部22cのゴミなどを除去することができる。さらに、ダイス38を固定台40に固定するための長孔38cを径方向に比して周方向に長い形状とすることにより、ダイス38を回転させ、脚部26cのバリ29cを除去するためにバリ29cに接触する部分を切り替えることができ、ダイス38の寿命を長くすることができる。
【0029】
実施例の拡径バリ取り装置30では、上型50の拡径パンチ52の内部に、その下端部から下方にエアを吐出するためのエア通路52aを形成するものとしたが、こうしたエア通路52aを形成しないものとしてもよい。また、実施例の拡径バリ取り装置30では、下型32のエジェクター34の載置部35の内部に、その外周面からダイス38の上端部にエアを吐出するためのエア通路35aを形成するものとしたが、こうしたエア通路52aを形成しないものとしてもよい。後者の場合、載置部35の上端部がダイス38の上端部の内周側よりも若干低くなるよう(載置部35に中間脚付き環状部材20cを載置したときに脚部26cの先端のバリ29cがダイス38の先端部の内周側よりも高くなる範囲で)載置部35を配置するものとしてもよい。
【0030】
実施例の拡径バリ取り装置30では、ダイス38の上端部の内周側について、面取り部38aを有するものとしたが、こうした面取り部38aを有さず、直角部38bだけを有するものとしてもよい。また、ダイス38の上端部の内周側について、内周面に対して略直角に形成された直角部38bに代えて、内周面に対して鋭角に形成された鋭角部を有するものとしてもよい。
【0031】
実施例の拡径バリ取り装置30では、ダイス38に、径方向に比して周方向に長い形状の長孔38cを形成するものとしたが、長孔38cに代えて、略円形などの孔を形成するものとしてもよい。即ち、ダイス38を周方向に回転させることができないものとしてもよい。
【0032】
実施例では、遊星歯車機構のキャリア20の製造方法やこのキャリア20の製造に用いる拡径バリ取り装置30について説明したが、こうしたキャリア20を製造する場合に限られず、環状の環状部と環状部の外周側に環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚とを有する脚付き環状部材の製造方法やこの脚付き環状部材の製造に用いる製造装置であればよい。
【0033】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、遊星歯車機構のキャリアなどの脚付き環状部材の製造産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】キャリア20の外観を示す外観図である。
【図2】図1のキャリア20をA−A面から見たAA視図である。
【図3】キャリア20を製造する工程を示す工程図である。
【図4】環状の粗材20aの外観を示す外観図である。
【図5】ワーク部材20bの外観を示す外観図である。
【図6】図5のワーク部材20bをA−A面から見たAA視図である。
【図7】中間脚付き環状部材20cの外観を示す外観図である。
【図8】図7の中間脚付き環状部材20cをA−A面から見たAA視図である。
【図9】図7の中間脚付き環状部材20cをB−B面から見たBB視図である。
【図10】拡径バリ取り装置30および中間脚付き環状部材20cの断面図である。
【図11】図10の拡径バリ取り装置30および中間脚付き環状部材20cをA−A面から見たAA視図である。
【図12】拡径バリ取り装置30を用いて中間脚付き環状部材20cの脚部26cの内径を広げながらバリ29cを除去する際の様子を示す説明図である。
【図13】図12中の脚付き環状部材20c近傍を拡大した部分拡大図である。
【符号の説明】
【0036】
20 キャリア、20a 環状の粗材、20b ワーク部材、20c 中間脚付き環状部材、22,22b,22c 環状部、23b 内壁部、24,24b,24c ボス部、25b 外壁部、26,26b,26c 脚部、27b 連結部、28b 接続部位、29c バリ、30 拡径バリ取り装置、32 下型、34 エジェクター、35 載置部、35a エア通路、36 ガスクッション部、38 ダイス、38a 面取り部、38b 直角部、38c 長孔、40 固定台、40a 孔、42 ボルト、50 上型、52 拡径パンチ、52a エア通路、60 エア源、62,64 電磁弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の環状部と、該環状部の外周側に該環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚と、を有する脚付き環状部材の製造方法であって、
(a)所定形状の粗材から、前記環状部と、前記脚を構成する脚部と該脚部を連結する連結部とからなるスカート状の外壁部と、を有するワーク部材を形成する工程と、
(b)該形成したワーク部材から前記連結部を取り外して中間脚付き環状部材を形成する工程と、
(c)該形成した中間脚付き環状部材に対して前記脚部の内径を広げながら該脚部の前記連結部との接続部位のバリ取りを行なって前記脚付き環状部材を形成する工程と、
を含む脚付き環状部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(c)は、前記脚部の前記環状部への付け根側から先端方向に向けて作用する力により前記接続部位のバリ取りを行なう工程である請求項1記載の脚付き環状部材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)は、前記脚部の先端の外径を前記環状部への付け根の外径より広げながら前記脚部の略先端の前記接続部位のバリ取りを行なう工程である請求項1または2記載の脚付き環状部材の製造方法。
【請求項4】
前記脚付き環状部材は、遊星歯車機構におけるキャリアである請求項1ないし3いずれか記載の脚付き環状部材の製造方法。
【請求項5】
環状の環状部と、該環状部の外周側に該環状部に略直角に形成された少なくとも一つの脚と、を有する脚付き環状部材の製造装置であって、
前記環状部と、少なくとも一部にバリを有する前記脚を構成する脚部とを有する中間脚付き環状部材を端部の略中央で支持可能な支持手段と、
前記支持手段の外周側に該支持手段と略同軸となるよう配置され、内周側の端部が前記環状部の外径に比して大きい径の円形に形成された中空部材と、
前記支持手段の端部に対して対向配置され、前記中間脚付き環状部材が前記支持手段により支持されているときに前記環状部および前記脚部の内周側に当接した状態で該脚部の少なくとも一部の外径を前記中空部材の内周側の端部の内径より大きく広げながら前記中間脚付き環状部材および前記支持手段を該支持手段側に移動させる拡径移動手段と、
を備える脚付き環状部材の製造装置。
【請求項6】
前記支持手段は、前記端部が前記中空部材の端部に比して突出するよう配置され、外周面に該中空部材の端部に向けてエアを吐出可能な第1のエア吐出部を有する手段である請求項5記載の脚付き環状部材の製造装置。
【請求項7】
前記拡径移動手段は、端部から前記支持手段の端部に向けてエアを吐出可能な第2のエア吐出部を有する手段である請求項5または6記載の脚付き環状部材の製造装置。
【請求項8】
前記中空部材は、前記内周側の端部の少なくとも一部が外周側に向けて略直角または鋭角に形成されてなる請求項5ないし7いずれか記載の脚付き環状部材の製造装置。
【請求項9】
前記中空部材は、前記内周側の端部の一部が面取りされた形状に形成されてなる請求項5ないし8いずれか記載の脚付き環状部材の製造装置。
【請求項10】
請求項5ないし9いずれか記載の脚付き環状部材の製造装置であって、
前記中空部材を固定するための孔を有する固定台を備え、
前記中空部材は、前記支持台に当接する面から略鉛直方向に、径方向に比して周方向に長い形状に形成された長孔を有し、該長孔と前記固定台の孔とに嵌合する固定部材により前記固定台に固定されるものである
脚付き環状部材の製造装置。
【請求項11】
前記脚付き環状部材は、遊星歯車機構におけるキャリアである請求項5ないし10いずれか記載の脚付き環状部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−260052(P2008−260052A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106411(P2007−106411)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】