説明

脱ガス装置の浸漬管

【課題】芯金の変形や、芯金を覆う耐火物の損傷を抑制し、寿命末期まで安定に長寿命化を図ることが可能な脱ガス装置の浸漬管を提供する。
【解決手段】筒状の芯金11の内周側と外周側に、それぞれ内周側耐火物12と外周側耐火物13が設けられた脱ガス装置の浸漬管10は、内周側耐火物12と芯金11との間、及び外周側耐火物13と芯金11との間のいずれか一方又は双方に、断熱材16が配置され、この断熱材16に向けてArガスを吹付ける供給ヘッダ17、18を有するので、寿命末期まで安定に長寿命化を図ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスの溶製工程で使用される脱ガス装置の浸漬管に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉において一次精錬が終了した溶鋼は、脱炭のため、また水素や窒素などの溶存ガスの除去を目的として、真空脱ガス設備(以下、単に脱ガス設備ともいう)を用いた脱ガス処理が行われる。なお、脱ガス処理の方法には、例えば、DH(Dortmunt−Horde)法やRH(Ruhrstahl−Heraus)法等がある。
この脱ガス処理に用いる脱ガス設備は、真空脱ガス槽と、その下部に設けられた浸漬管を有している。なお、浸漬管は一般に、筒状となった芯金の内周側と外周側に耐火物が設けられた構成であり、脱ガス処理は、浸漬管の先端部(下端部)を取鍋内の溶鋼中に浸漬させ、この溶鋼を真空脱ガス槽内に吸い上げ、同時に還流することで行われている。
【0003】
しかし、脱ガス処理は、上記したように、浸漬管の先端部を、取鍋内の溶鋼中に浸漬させた状態で行われるため、先端部(浸漬させた部分)の耐火物が損傷し、また芯金が熱で変形するため、浸漬管の長寿命化が図れなかった。
そこで、例えば、特許文献1には、筒状の芯金(芯管)と耐火物(耐火材)との間に、断熱モルタルを配置した浸漬管が開示されている。
また、特許文献2には、耐火物内への空気の侵入を抑制するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管を、芯金の外周面(芯金の外周側の耐火物内)に配設した浸漬管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−168600号公報
【特許文献2】特開2010−106294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の浸漬管には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1に記載の浸漬管は、稼動に伴う受熱により、断熱モルタルの焼結が進行すると、その収縮が発生する。このため、断熱効果を向上させるために断熱モルタルの厚みを厚くした場合、断熱モルタルの収縮代に起因してウェア耐火物の背面側に生成する隙間が大きくなり、この結果、浸漬管の構造が不安定になって、煉瓦の目地開きや不定形耐火物(キャスタブル等)の亀裂といった問題が発生し、著しい場合には、ウェア耐火物の脱落が発生する恐れがある。
また、浸漬管は、高温下で稼動させるため、断熱モルタルの収縮が進行して、熱伝導率が大幅に上昇することが考えられる。特に、浸漬管の使用(処理)回数の増加に伴い、断熱モルタルの焼結(焼き締まり)が進行して組織が緻密になると、断熱性の低下が顕著となることが考えられる。
この場合、高温に曝された芯金に熱変形(膨張)が発生し、この変形に追従できない煉瓦に目地開きが発生して、また不定形耐火物に亀裂が発生して、これらが浸漬管の寿命を律速する損傷となり、浸漬管の長寿命化を図ることができない恐れがある。
【0006】
また、特許文献2に記載の浸漬管は、パージ用配管の一部(周方向配管)を、芯金の下端部外周面に沿って周回させることで、不活性ガスによる冷却効果を利用し、芯金の下部を冷却している。
しかし、浸漬管への溶鋼からの入熱が大きく、上記した構成では、芯金の冷却能力が不十分となり、芯金変形の抑制効果が不十分となる恐れがある。また、パージ用配管は、耐火物内への空気の侵入の抑制に使用するもので、芯金の外周面側の耐火物内に埋設されているため、パージ用配管から流出するArガスの流路を制御することが困難であり、目的とする場所の芯金の冷却を、効果的に行うことが難しい。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、芯金の変形や、芯金を覆う耐火物の損傷を抑制し、寿命末期まで安定に長寿命化を図ることが可能な脱ガス装置の浸漬管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明に係る脱ガス装置の浸漬管は、筒状の芯金の内周側と外周側に、それぞれ内周側耐火物と外周側耐火物が設けられた脱ガス装置の浸漬管において、
前記内周側耐火物と前記芯金との間、及び前記外周側耐火物と前記芯金との間のいずれか一方又は双方に、断熱材が配置され、該断熱材に向けてArガスを吹付ける供給ヘッダを有する。
【0009】
本発明に係る脱ガス装置の浸漬管において、前記断熱材は、雰囲気温度500℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であることが好ましい。
本発明に係る脱ガス装置の浸漬管において、前記断熱材は、厚みが1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る脱ガス装置の浸漬管は、芯金(特に、空冷芯金)と耐火物との間に断熱材を配置するので、耐火物の厚み方向、即ち稼動面(溶鋼接触面側)と背面(断熱材側)との間の温度勾配を緩やかにすることが可能になり、かつ、耐火物の急激な温度変化(抜熱による急冷)を軽減することが可能になる。これにより、耐火物のスポーリング損傷(剥離損傷)を軽減できるので、耐火物の寿命向上が可能になる。
また、仮に、浸漬管の芯金を空冷する場合でも、浸漬管は処理中の溶鋼内に浸漬させて使用するものであるため、溶鋼からの入熱が大きく芯金の温度が高温になり、芯金の熱膨張が煉瓦の目地開きや不定形耐火物の亀裂の発生原因となる。このため、開いた目地や亀裂を通して耐火物内へ地金が浸入し、芯金温度の更なる上昇を招くと共に、浸漬管の寿命を律速する損傷となり、浸漬管が低寿命となってしまう。そこで、芯金と耐火物との間に断熱材を配置することで、芯金の変形が抑制され、耐火物の寿命延長が可能になる。
更に、浸漬管に設けた断熱材の稼動面(溶鋼接触面側の表面)は、非常に高温となるため、浸漬管の寿命末期には、断熱材の収縮が進行して断熱材の断熱性が低下し、またこの収縮で生じる耐火物と断熱材との間の隙間に起因した耐火物の目地開きや亀裂が発生する。そこで、これらを抑制するため、断熱材に向けてArガスを吹付ける供給ヘッダを設けた。これにより、断熱材の収縮の低減が可能になると共に、発生した隙間をArガスの流路とし、断熱材の断熱機能の劣化後でも、Arガスが断熱材と芯金を積極的に冷却できる。
以上のことから、本発明の脱ガス装置の浸漬管は、寿命末期まで安定に長寿命化を図ることが可能である。
【0011】
また、断熱材の雰囲気温度500℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下である場合、耐火物のスポーリング損傷を更に抑制でき、耐火物寿命の更なる向上が図れる。これは、断熱材の熱伝導率を低下させるほど、溶鋼からの入熱を断熱により回避させ、浸漬管の芯金温度の低減が図れることによる。
【0012】
そして、断熱材の厚みが1mm以上5mm以下である場合、断熱材の断熱性を維持できると共に、断熱材の収縮による煉瓦の目地開きや不定形耐火物の亀裂発生を防止できる。従って、浸漬管の稼動後半の寿命を更に延長できると共に、例えば、耐火物の突然の剥離等による突発トラブルも回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る脱ガス装置の浸漬管の部分正断面図である。
【図2】(A)〜(D)はそれぞれ第1〜第4の変形例に係る脱ガス装置の浸漬管の供給ヘッダの部分拡大正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る脱ガス装置の浸漬管(以下、単に浸漬管ともいう)10は、筒状の芯金11の内周側に、ウェア耐火物である煉瓦(内周側耐火物の一例)12が、また外周側に、ウェア耐火物である不定形耐火物(外周側耐火物の一例)13が、それぞれ設けられたものであり、寿命末期まで安定に長寿命化が図れるものである。以下、詳しく説明する。
【0015】
浸漬管10は、真空(減圧)を利用した溶鋼の脱炭や脱ガスの精錬を目的として使用可能なものである。なお、浸漬管は、上記した脱炭や脱ガスの精錬に使用するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、DH法やRH法、更にはCAS(Composition Adjustment by Sealed Argon Bubbling)法等に使用するものでもよい。
【0016】
浸漬管10の芯金11は、鉄製(金属製)の筒状となったものであり、その上端部が、真空脱ガス槽(図示しない)に接続され、その下端部には、内周側に配置される煉瓦12を支持するための支持金物14が固着されている。なお、芯金11は、ここでは円筒状となっているが、筒状であれば特に限定されるものではない。
また、芯金11は、その内部が外気から遮断された中空部15を有する構造であり、芯金11を内部から冷却できる構成(空冷可能な構成)となっているが、使用条件に応じて、例えば、中空部を有しない構成(中実板状)にすることもできる。
【0017】
芯金11の内周側には、前記したように、煉瓦(れんが)12を設置しているが、浸漬管の使用用途に応じて、不定形耐火物を設置することもできる。また、芯金11の外周側も、前記したように、主として不定形耐火物13を使用することが多いが、不定形耐火物と煉瓦を組み合わせて使用する場合もあり得る。
なお、芯金11を覆う煉瓦12と不定形耐火物13には、従来公知の耐火材を用いることができる。この耐火材には、例えば、マグネシア−クロム質、マグネシア−カーボン質、アルミナ−クロム質、アルミナ−カーボン質、アルミナ−マグネシア質、アルミナ−マグネシア−カーボン質、アルミナ−スピネル−カーボン質等がある。
【0018】
芯金11の径方向内表面と煉瓦12の径方向外表面との間、及び芯金11の径方向外表面と不定形耐火物13の径方向内表面との間には、断熱材16が配置されている。これにより、浸漬管10の稼動前半において、断熱材16の断熱効果により、熱による芯金11の変形を抑制することが可能になり、煉瓦12と不定形耐火物13の寿命延長に寄与できる。
この断熱材16は、芯金11の内表面と外表面に直接配置されているが、断熱材16が、芯金11と煉瓦12の間、また芯金11と不定形耐火物13の間に配置されていれば、これに限定されるものではない。例えば、断熱材16が芯金11に隣接配置(断熱機能を発揮可能な位置に配置)されていれば、芯金11の表面に断熱材16を固定(接着)するため、芯金11と断熱材16の間に、薄いモルタルのような耐火材(固着材)を設置することもできる。
【0019】
なお、前記したように、芯金に不定形耐火物を設置する場合、この不定形耐火物を支持するために、例えば、芯金の外周部にスタッドを設置することが多いが、この場合、スタッドは、上記した断熱材を避けて設置する。
また、断熱材16は、芯金11の内周側と外周側の双方に設置しているが、内周側と外周側のいずれか一方のみに配置した場合でも、熱による芯金11の変形をある程度抑制することが可能であり、煉瓦12又は不定形耐火物13の寿命延長に寄与可能である。しかし、上記したように、断熱材16を芯金11の内周側と外周側の双方に配置することが、より望ましい。
【0020】
この断熱材には、例えば、セラミックスファイバー等の無機繊維質の断熱材、流込み施工や鏝塗り施工を行う無機不定形質の断熱材(耐火材)、微細多孔性の断熱材等を用いることができる。
なお、断熱材の断熱効果を更に高めるためには、雰囲気温度500℃における熱伝導率が、0.05W/(m・K)以下の断熱材を使用することが好ましい。例えば、雰囲気温度500℃での熱伝導率は、セラミックスファイバーが約0.1W/(m・K)であり、セル構造の微細多孔性の断熱材が0.05W/(m・K)以下であるが、上記した微細多孔性の断熱材がより低熱伝導性である。
【0021】
ここで、断熱材の熱伝導率を雰囲気温度500℃で規定したのは、断熱材を設置する浸漬管の使用環境を考慮したことによる。また、熱伝導率を0.05W/(m・K)以下に規定したのは、溶鋼からの入熱を断熱により回避させ、浸漬管の芯金温度の低減を図る必要があるため、より低熱伝導性であることが望ましいことによる。
従って、雰囲気温度500℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下の断熱材を使用したが、熱伝導率が0.04W/(m・K)以下、更には、0.035W/(m・K)以下の断熱材を使用することが好ましい。
一方、上記した理由から、断熱材の熱伝導率の下限値については規定していないが、世の中に存在する低熱伝導性の断熱材を考慮すれば、例えば、0.01W/(m・K)である。
【0022】
また、断熱材の厚みは、1mm以上5mm以下にすることが好ましい。
断熱材の厚みの下限値を1mmとしたのは、セラミックスファイバーや微細多孔性の断熱材が、その断熱性を維持しつつ、製造が可能な厚みを考慮したことによる。一方、厚みの上限値を5mmとしたのは、断熱材の収縮により、煉瓦の目地開き(目地切れ)や不定形耐火物の亀裂が発生することのない厚みを考慮したことによる。
従って、断熱材の厚みを1mm以上5mm以下とすることで、浸漬管の稼動後半(断熱材の性能劣化後)の寿命を更に延長できると共に、突然の耐火物の剥離等による突発トラブルも回避できるが、下限を1.5mm、更には2mm、上限を4mm、更には3mmとすることが好ましい。
【0023】
更に、煉瓦12と断熱材16との間、及び不定形耐火物13と断熱材16との間には、それぞれ供給ヘッダ17、18が設けられている。
一方の供給ヘッダ17は、環状となって、芯金11の内周面から径方向内側に向って突出する支持部(図示しない)を介し、内周側の断熱材16の表面に沿うように、芯金11に取付け固定されている。また、他方の供給ヘッダ18も、環状となって、芯金11の外周面から径方向外側に向って突出する支持部(図示しない)を介し、外周側の断熱材16の表面に沿うように、芯金11に取付け固定されている。なお、各供給ヘッダは、芯金11の内周面と外周面にそれぞれ接触してもよい。また、各供給ヘッダ17、18を構成する配管の径は、例えば、10mm以下程度である。
【0024】
各供給ヘッダ17、18には、芯金11の周方向に等ピッチで多数の噴出孔19が形成されている。この各噴出孔19は、開口部分が、煉瓦12と断熱材16との間(界面近傍)、及び不定形耐火物13と断熱材16との間(界面近傍)に、それぞれ位置するように、各供給ヘッダ17、18に形成されている。
これにより、浸漬管10の外部から供給された冷却用のAr(アルゴン)ガスを、ガス供給用配管20、21を介して各供給ヘッダ17、18にそれぞれ供給することで、各噴出孔19から断熱材16に向けて吹付けることができる。
なお、供給ヘッダの配置位置や噴出孔の形成位置は、上記した位置に限定されるものではなく、断熱材に向けてArガスを吹付け可能な位置であればよい。
【0025】
例えば、図2(A)に示すように、噴出孔19が断熱材16の内部に位置するように形成された供給ヘッダ22を、不定形耐火物13と断熱材16との間に設置する。これにより、Arガスを断熱材16の内部に吹付けることができる。
また、図2(B)に示すように、複数の噴出孔19が、断熱材16の内部、及び不定形耐火物13と断熱材16との間に位置するように形成された供給ヘッダ23を、不定形耐火物13と断熱材16との間に設置する。これにより、Arガスを断熱材16の内部、及び断熱材16の表面に、それぞれ吹付けることができる。
【0026】
そして、図2(C)に示すように、噴出孔19が不定形耐火物13と断熱材16との間に位置するように形成された供給ヘッダ24を、不定形耐火物13内に設置する。これにより、Arガスを断熱材16の表面に吹付けることができる。
更に、図2(D)に示すように、噴出孔19が不定形耐火物13内に位置し、しかも断熱材16の表面に向くように形成された供給ヘッダ25を、不定形耐火物13内に設置する。ここでは、噴出孔19から吹出されたArガスを、不定形耐火物13内の気孔を介して、断熱材16の表面に吹付けることができる。
【0027】
この図2(D)に示す供給ヘッダ25は、噴出孔19を不定形耐火物13内に位置させても、断熱材16にArガスを吹付けることができる範囲内で、設置されている。具体的には、断熱材16の表面(不定形耐火物13との接触面)から、噴出孔19までの最短距離(半径方向の距離)dが、例えば、5mm以下程度である。ここで、供給ヘッダ25の噴出孔19前方(ガス吹付け方向)の不定形耐火物を除去し、不定形耐火物内の気孔を介することなく、断熱材16にArガスを直接吹付けてもよい。
以上に示した供給ヘッダの噴出孔から吹出すArガスの流量は、例えば、10〜200(Nm/時間)程度で調整できる。
【0028】
また、供給ヘッダの設置位置や噴出孔の形成位置は、煉瓦側の供給ヘッダについても勿論適用できる。なお、供給ヘッダは、芯金の内周側と外周側の双方に設置することなく、前記した断熱材の設置位置に対応させて、内周側と外周側のいずれか一方のみに配置してもよい。
そして、供給ヘッダは、芯金に取付け固定されているが、これに限定されるものではなく、例えば、断熱材の表面に、巻き付けて固定することもできる。
【0029】
供給ヘッダの設置高さ位置は、浸漬管の先側(下側)であれば、特に限定されるものではないが、芯金の熱変形が発生し易い部分を考慮すれば、浸漬管の先端部(下端部)が好ましい。
更に、供給ヘッダから断熱材に吹付けるArガスは、一般的に用いられている脱ガス装置の浸漬管の外気浸入防止用に用いられている「パージ用Ar」を流用することが可能である。この場合、耐火物内でのArガスの吹出し位置を、配管等の流路を用いて断熱材の表面に向けることで、「パージ用Ar」による外気浸入防止と断熱性の低下抑制の両立が可能になる。ここでは、上記した流路がArガスを吹付ける供給ヘッダになる。
【0030】
続いて、本発明の一実施の形態に係る脱ガス装置の浸漬管10を使用した脱ガス方法について説明する。
まず、図1に示すように、芯金11と煉瓦12及び不定形耐火物13との間に断熱材16が配置され、この断熱材16に向けてArガスを吹付ける供給ヘッダ17、18を有する浸漬管10を準備する。そして、この浸漬管10の先端部を、取鍋(図示しない)内の溶鋼に浸漬させ、脱ガス処理を行う。
【0031】
一般的に、耐火物の寿命は、溶鋼やスラグ等から受ける摩耗や溶損により耐火物が損耗することに起因した耐火物の残存状態により決定される。しかし、それ以外にも、脱ガス装置の浸漬管に使用される耐火物の寿命は、浸漬管の芯金の熱変形による亀裂や剥離等の影響を大きく受け、それにより発生した亀裂や目地開きにより、耐火物の残存厚み以外の寿命の律速要因が存在する。
【0032】
即ち、浸漬管の稼動初期は、断熱の効果により浸漬管の芯金の熱変形が防止されるため、断熱性の大小が、芯金の変形抑制、更には浸漬管の寿命を決定づける因子となる。
また、浸漬管の稼動後半では、受熱による収縮のため断熱材の断熱性が低下し、逆に、断熱材の収縮による空隙の大小に起因した亀裂が発生するため、断熱材の収縮代が、浸漬管の寿命を決定する因子となる。
【0033】
そこで、上記した浸漬管10のように、芯金11と煉瓦12及び不定形耐火物13との間に断熱材16を配置することで、浸漬管の稼動前半において、断熱材16の断熱性を維持し、芯金の変形を抑制でき、耐火物の寿命延長が可能になる。
更に、浸漬管10は、断熱材16に向けてArガスを吹付ける供給ヘッダ17、18を有するので、浸漬管の稼動後半において、断熱材16の収縮の低減が可能になると共に、この収縮により発生した隙間にArガスを流すことで断熱材16と芯金11を積極的に冷却できる。
【0034】
なお、Arガスは、浸漬管の稼動後半、例えば、過去の経験則から得られる断熱材の断熱機能の劣化の進行具合に応じて流すのがよい。しかし、前記した通常使用している「パージ用Ar」の配管を流用することが好ましく、これにより、浸漬管の稼動初期から末期まで通してArガスを流し続けることで、目地開きや亀裂発生等がない、安定した長寿命化が可能になる。
従って、本発明の脱ガス装置の浸漬管を使用することで、芯金の変形や、芯金を覆う耐火物の損傷を抑制し、寿命末期まで安定に長寿命化が図れる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、DH法の脱ガス装置の浸漬管を用いた。なお、浸漬管の内周側のウェア耐火物にはマグネシア−クロム質の煉瓦を、また、外周側の耐火物には、アルミナ−マグネシア質の不定形耐火物を、それぞれ使用した。
浸漬管への供給ヘッダの使用の有無、浸漬管に使用した断熱材の種類、熱伝導率、及び厚みと、各条件での耐火物の損傷状況を、表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に記載の供給ヘッダの有無について、供給ヘッダ有りは、脱ガス処理中、常時、パージ用のArガスを供給ヘッダに100(Nm/時間)流し、断熱材に吹付けた。
また、断熱材の種類で「C.F.」とは、セラミックスファイバーを意味する。また、「WDS」とは、Porextherm Dammstoffe Gmbh社製の「Porextherm WDS(登録商標)」であり、その材質は、ヒュームドシリカを主材とした微孔性成形体である。
【0038】
そして、煉瓦の平均損耗速度とは、浸漬管の芯金の内周側に設置された煉瓦の1チャージあたりの損耗量である。この平均損耗速度は、芯金の内周側に設置された煉瓦の初回(稼動開始より80〜100チャージ後)の補修時に、芯金の内周側へ圧入した不定形耐火物の圧入量を測定することで、煉瓦の損耗量を求め、その結果より算出した。具体的には、浸漬管(脱ガス槽)内に、内径が一定の円筒状の中子をセットし、中子及び浸漬管の下端の隙間を塞いだ状態で、中子と煉瓦との間に浸漬管の高さまで不定形耐火物を圧入し、浸漬管の高さと測定した不定形耐火物の圧入量(体積)から補修厚みを求めた。
【0039】
更に、評価は、損耗抑制の効果と稼動末期の欠陥の双方を含めた総合評価で行った。
なお、損耗抑制の効果は、煉瓦の耐用性を示す評価であり、煉瓦の平均損耗速度から得られた結果である。ここでは、平均損耗速度が1.0(mm/ch)以下を「◎」、1.0(mm/ch)超1.5(mm/ch)以下を「○」、1.5(mm/ch)超を「×」とした。
また、稼動末期の欠陥は、操業の安定性(突発トラブルの発生の有無)を示す評価であり、目地開きや亀裂発生の有無を目視による監視で行った。
【0040】
まず、断熱材にArガスを吹付ける供給ヘッダの有無が、損耗抑制の効果に及ぼす影響について説明する。
表1に示す比較例のように、供給ヘッダを設けなかった場合、煉瓦の平均損耗速度が2.0(mm/ch)となって損耗抑制の効果が悪かった。これは、Arガスによる断熱材の冷却効果が得られず、また断熱材の断熱性が低下したことで、煉瓦内部の温度勾配が増大した結果、煉瓦の剥離損傷が増大したことによるものと考えられる。
一方、実施例1のように、供給ヘッダを設けることで、煉瓦の平均損耗速度を1.5(mm/ch)まで低減でき、比較例と比較して損耗抑制の効果を大幅に改善できた。これは、Arガスによる断熱材の冷却効果が得られ、断熱材の断熱性能が維持された結果、煉瓦の剥離損傷を低減させることができたことによる。
【0041】
次に、断熱材の断熱性が、損耗抑制の効果に及ぼす影響について説明する。
実施例1〜3は、断熱材にそれぞれ、断熱モルタル、セラミックスファイバー、WDSを使用して、断熱性を変化させた結果であるが、断熱性を向上(熱伝導率を低下)させることにより、煉瓦の平均損耗速度の低減効果が得られることを確認できた(実施例1:1.5mm/ch、実施例2:1.2mm/ch、実施例3:0.7mm/ch)。
特に、実施例3のように、熱伝導率を最適範囲(0.05W/(m・K)以下)内とした断熱材を使用することで、煉瓦の平均損耗速度の低減効果を最も高めることができた。
【0042】
ここで、上記した実施例1〜3に記載の浸漬管の構成が、稼動末期の欠陥の発生に及ぼす影響について説明する。
実施例1〜3のように、断熱材の厚みを厚く(8mm以上)設定した場合、おおよそ浸漬管の稼動末期の300チャージ以降に、亀裂や目地開きといった耐火物の残存厚みに寄らない浸漬管の交換理由が発生することが確認された。そこで、浸漬管の稼動終了後に耐火物の解体調査を行ったところ、当初施工した断熱材はいずれも最大で5mm以上収縮していた。このため、この収縮で発生した耐火物と芯金の間の隙間が起因となって、煉瓦の目地開きや不定形耐火物の亀裂が発生したものと考えられる。
このように、実施例1〜3においては、稼動末期に欠陥が発生したが、Arガスを吹付ける供給ヘッダを設けた効果(特に、損耗抑制の効果)で、これら浸漬管の寿命を、比較例よりも延長することができたため、浸漬管を使用することが可能であった(総合評価:○)。
【0043】
最後に、断熱材の厚みが、損耗抑制の効果と稼動末期の欠陥の発生に及ぼす影響について説明する。
損耗抑制の効果について、実施例2と実施例6のように、断熱材にセラミックスファイバーを用いた場合、また実施例3〜5のように、断熱材にWDSを用いた場合のいずれについても、断熱材の厚みを薄くすることで、煉瓦の平均損耗速度が僅かに上昇する傾向はあったが、十分な損耗抑制効果が得られることを確認できた。
【0044】
また、稼動末期の欠陥については、実施例2〜6から、断熱材の種類に影響されることなく、断熱材の厚みを最適範囲(1mm以上5mm以下)内にすることで、稼動中の浸漬管に、煉瓦の目地開きや不定形耐火物の亀裂が発生しないことを確認できた。
特に、実施例4、5は、十分な損耗抑制効果が得られると共に、稼動末期の欠陥の発生もなかったことから、浸漬管の寿命を最大限延長することができた(総合評価:◎)。
以上のことから、本発明の脱ガス装置の浸漬管を使用することで、芯金の変形や、芯金を覆う耐火物の損傷を抑制し、寿命末期まで安定に長寿命化が図れることを確認できた。
【0045】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の脱ガス装置の浸漬管を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、環状の供給ヘッダを使用した場合について説明したが、断熱材にArガスを吹付けることができれば、これに限定されるものではなく、例えば、螺旋状の供給ヘッダを使用したり、また直線状の複数の配管(供給ヘッダ)を、浸漬管の軸心を中心として、浸漬管の周方向に等ピッチ(異なるピッチでもよい)で配置することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10:脱ガス装置の浸漬管、11:芯金、12:煉瓦(内周側耐火物)、13:不定形耐火物(外周側耐火物)、14:支持金物、15:中空部、16:断熱材、17、18:供給ヘッダ、19:噴出孔、20、21:ガス供給用配管、22〜25:供給ヘッダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の芯金の内周側と外周側に、それぞれ内周側耐火物と外周側耐火物が設けられた脱ガス装置の浸漬管において、
前記内周側耐火物と前記芯金との間、及び前記外周側耐火物と前記芯金との間のいずれか一方又は双方に、断熱材が配置され、該断熱材に向けてArガスを吹付ける供給ヘッダを有することを特徴とする脱ガス装置の浸漬管。
【請求項2】
請求項1記載の脱ガス装置の浸漬管において、前記断熱材は、雰囲気温度500℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であることを特徴とする脱ガス装置の浸漬管。
【請求項3】
請求項1又は2記載の脱ガス装置の浸漬管において、前記断熱材は、厚みが1mm以上5mm以下であることを特徴とする脱ガス装置の浸漬管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−19022(P2013−19022A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152973(P2011−152973)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】