説明

脱塩処理方法及び脱塩処理システム

【課題】低濃度、低脱塩率での脱塩処理を行うにあたり、従来のような専用の殺菌用薬剤を用いることなく、電気透析装置のイオン交換膜表面や、濃縮水および脱塩水の流路に、スライムが発生することを防止する。
【解決手段】電気透析槽1を用いて、井水またはインフラ排水を処理原水として脱塩処理するにあたり、電気透析槽1からの濃縮水を電解水生成装置42で電気分解し、当該電気分解によって生じた電解生成酸性水を、電気透析槽1の脱塩水循環系および濃縮水循環系、または処理原水系に導入する。電解生成酸性水は、適切な殺菌力を有するので、別途スライム発生防止用の薬剤および薬剤供給装置を用意する必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱塩処理方法及び脱塩処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば水の精製等を行なう場合に、水に溶解しているイオン物質を除去する技術として電気透析法がある。この技術は、電極板の間に組み込まれた隣り合うセルの区分けに、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配列することで、電圧により保持する正負電荷と反対の極へ移動するイオンの動きを制御し、対象とするセルからの脱塩、他方へ濃縮させることを特徴とするものである。
【0003】
脱塩技術に関しては、海水淡水化事業に代表されるRO膜等を用いた逆浸透膜技術があるが、前記した電気透析法は、逆浸透膜技術よりも、回収率が高い。RO膜による脱塩技術では回収率70%程度であるのに対して、電気透析法では、90%以上の回収が可能である。かかる電気透析法の優位性により、とりわけ中東域などの排水規制が法制化されつつある地域においての導入が検討されつつある。その際対象となる処理水は、井水等の未利用水の精製や冷却塔ブロー排水などのインフラ排水の精製再利用であり、海水塩濃度とくらべると遙かに低い濃度の水質を対象としている。
【0004】
このように電気透析法は濃縮倍率を上げることにより脱塩精製水の回収率を増加させることができるが、炭酸カルシウムに代表される溶解度の低い物質がイオン交換膜表面に析出し、脱塩性能が低下するおそれがある。そのため、酸性の薬液を使用して濃縮水のpHを下げた運転管理が一般的に行われる。濃縮水は最終的には水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)などであり、これらは再びpH調整された後廃棄されるが、その処理に関わるイニシャル、ランニング、メンテナンスについての各コストは、脱塩プロセスにおいて必ず考慮が必要とされるものである。
【0005】
一方で、微生物由来の汚染物が膜表面でスライムを形成し、イオンの膜移動阻害、脱塩流量の低下による脱塩性能の劣化を引起す。このスライム形成による性能劣化を回避するため、殺菌剤の投入や電気透析装置の分解洗浄を行うが、この処置に対する薬剤コスト、メンテナンスコストは電気透析処理コストにおいて高い割合を占めている。
【0006】
上に述べた電気透析法の課題を列挙すれば下記のようである。
(1)濃縮水についての低pH管理が必要である。
(2)イオン交換膜に生成するスライムの防止、及びスライム除去のために要するコストが大きい。
(3)濃縮水を廃棄する際にpH調整が必要となる。
【0007】
上記課題を解決する手段として、脱塩プロセスにより排出される濃縮水を有効利用する技術(特許文献1)が提案されている。この技術は海水の脱塩淡水化等で排出されるRO膜ろ過の濃縮排水を電気透析で脱塩し、電気透析陽極液と電極板間で生成する塩素由来の強酸化性溶液で殺菌を行うことにより、上記の電気透析システムにおける課題克服を目的としたシステムである。さらに電気透析で排出される濃縮水のpH調整、キレートによる硬度処理を行い、その水を有膜電気分解することで酸、アルカリ溶液を生成し、脱塩プロセスでのpH調整溶液として利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−269777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された技術は、高塩濃度の原水より上水、飲用レベルの低濃度水質を高い回収率で精製する目的から、その原水からの濃縮水は非常に高い硬度類を保有し、硬度除去のために多くの設備を導入するという問題がある。以下、詳述すると、
(1)設備コストの高さ
特許文献1に開示された技術は、海水(電気伝導度5500mS/m程度)等から、電気伝導度が15〜30mS/m程度の飲用水レベルへの脱塩処理を行うため、電気透析からの濃縮水は回収率に応じて原水の数倍の塩濃度となり、性能劣化や配管等の閉塞といったスケール障害の原因物質である硬度類も濃縮されるため、有効利用するには別途硬度処理装置の設置が不可欠となる。
(2)陽極液を用いて生成する電解液濃度制御の困難さ
印加電圧は、処理流量や脱塩率により設計されるセル数により異なるが、その際極板と陽極間での塩素生成量は電圧に応じて変化することになる。さらにスライム防止に必要な塩素量は、RO膜ろ過での濃縮倍率と電気透析での濃縮倍率により決定されてしまうため、スライム防止に必要とする電解条件と主目的である脱塩による設計条件を合致させることは煩雑な作業である。
(3)陽極膜の劣化
特許文献1に開示された技術では、電気透析の陽極で発生する塩素を殺菌に利用しているが、塩素は強力な酸化作用を持つため、一般的には、陽極液には硫酸や硫酸ナトリウムなどの薬液を別系統で用い、陽極での反応は水の電気分解を促進し、濃縮層と陽極室との区分けの陽極膜には、カチオン交換膜を用いて塩化物イオンの濃縮層からの混入を極力減少させる手法を採用する。電気透析槽における防スライム処理には0.1mg/l程度のイオン交換膜破壊に大きな影響を与えない低濃度に残留塩素濃度を管理することで効果が得られることは報告されているが(特開2004−8851号公報)、極板−陽極間で0.1mg/l程度の塩素生成量を基準とする脱塩システムは電気エネルギー的なコスト面で考えると非現実的である。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、低濃度、低脱塩率での脱塩処理を行うにあたり、従来のような専用の殺菌用薬剤を用いることなく、電気透析装置のイオン交換膜表面や、濃縮水および脱塩水の流路に、スライムが発生することを防止して、前記問題点を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前期目的を達成するため、本発明の脱塩処理方法は、電気透析槽を用いて、井水またはインフラ排水を処理原水として脱塩処理する方法において、電気透析槽からの濃縮水を電気分解し、当該電気分解によって生じた電解生成酸性水を、前記電気透析槽の脱塩水循環系および濃縮水循環系、または処理原水系に導入することを特徴としている。ここでいう、インフラ排水とは、ビル排水、プラント排水、空調、衛生用水の廃棄水、冷却塔ブロー水、厨房排水、汚水や汚水を敷地内で処理した中水などをいう。
【0012】
本発明によれば、井水またはインフラ排水を電気透析処理した際に発生する濃縮水を電気分解し、その際に生成された電解生成酸性水を、前記電気透析槽の脱塩水循環系および濃縮水循環系、または処理原水系に導入するようにしたので、専用の殺菌用薬剤を用いることなく、スライムの発生を防止することが可能である。また処理原水は、井水やインフラ排水であるから、これを電気透析した際に発生する濃縮水はその濃度が低く、したがって当該低濃度の濃縮水を電気分解しても、硬度類(水に含まれるカルシウム、マグネシウムなど陽イオンで析出しやすい物質)や、シリカが析出しにくく、硬度調整は不要である。したがって、全体として簡素な設備で安定した電解能力を維持することができ、脱塩処理を長期間に渡って安定して実施することが可能である。
【0013】
前記電気分解によって生じた電解生成アルカリ水を、濃縮廃棄水系に供給して、当該濃縮廃棄水のpH調整を行なうようにしてもよい。
【0014】
また本発明で用いる処理原水は、その電気伝導度が、40〜300mS/mであることが望ましい。
【0015】
本発明の脱塩処理システムは、前記脱塩処理方法を実施するためのシステムであり、電気透析槽からの濃縮水の一部を有隔膜電気分解処理する電解水生成装置と、当該電解水生成装置で生成された電解生成酸性水を、前記電気透析槽の脱塩水循環系および濃縮水循環系、または処理原水導入系に導入する配管と、当該電解水生成装置で生成された電解生成アルカリ水を、濃縮廃棄水系に導入する配管と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、専用の殺菌用薬剤を用いることなく、電気透析装置のイオン交換膜表面や、濃縮水および脱塩水の流路に、スライムが発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態にかかる脱塩処理システムの系統の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、実施の形態にかかる脱塩処理システムの系統の概要を示しており、システムの中核となる電気透析槽1は、陰イオン交換膜(アニオン膜)Aと、陽イオン交換膜(カチオン膜)Kとを交互に並べられた構成を有しており、陰極側端部には、陰極室11が形成され、陽極側端部には、陽極室21が形成されている。そしてこれら陰極室11と陽極室21の間に、前記した陰イオン交換膜(アニオン膜)Aと、陽イオン交換膜(カチオン膜)Kとが交互に並べて配置されている。そして陰極2と陽極3との間に直流電圧が印加されることで、これら陰イオン交換膜(アニオン膜)Aと、陽イオン交換膜(カチオン膜)Kに供給される処理原水が脱塩処理される。
【0019】
陰極室11は、ポンプ12によって陰極液タンク13との間で陰極液が循環している。一方陽極室21は、ポンプ22によって陽極液タンク23との間で陽極液が循環している。
【0020】
処理原水は、配管31を通じて、一部は濃縮水槽14、一部は脱塩水槽24へと一旦供給される。そして濃縮水槽14に供給された処理原水は、流入する処理済の濃縮水とともにポンプ25によって電気透析槽1に供給され、濃縮水循環系に導入される。また脱塩水槽24に供給された処理原水は、流入する処理済の脱塩水とともに、電気透析槽1に供給され、脱塩水循環系に導入される。
【0021】
電気透析槽1において脱塩処理した際に発生する濃縮水は、配管32を通じて濃縮水槽14へと戻され、脱塩処理して生成された脱塩水は、配管33を通じて脱塩水槽24へと戻される。
【0022】
濃縮水槽14内の濃縮水の一部は、ポンプ41によって、電解水生成装置42へと供給される。この電解水生成装置42は、隔膜を有する有隔膜タイプの電解水生成装置であり、濃縮水槽14から供給された濃縮水を電気分解処理する。そして電解水生成装置42で電気分解された際に生成された電解生成酸性水の一部は、配管43、44を通じて濃縮水槽14に戻すことが可能である。また電解生成酸性水の他の一部は、配管43、45を通じて脱塩水槽24にも供給することが可能になっている。なお配管44、45には、各々対応するバルブV1、V2が設けられている。
【0023】
電解水生成装置42において電気分解によって生成された電解生成アルカリ水は、配管46を通じてpH調整水槽47へと送られる。このpH調整水槽47には、濃縮水槽14から排気される濃縮水が、配管48を通じて送られる。pH調整水槽47には、pH調整用アルカリ薬液タンク51から、ポンプ52によってpH調整用アルカリ薬液が供給され、pH調整された後、排出される。
【0024】
濃縮水槽14には、pH調整用酸薬液タンク61から、ポンプ62によって配管63を通じて、pH調整用酸薬液が供給される。またpH調整用酸薬液タンク61内のpH調整用酸薬液は、ポンプ64によって、配管65を通じて、配管陰極液タンク13へも供給可能である。
【0025】
実施の形態にかかる脱塩処理システムの主要部は、以上の構成を有しており、処理原水として、電気伝導度が40〜300mS/mの井水やインフラ排水を回収率90%程度で脱塩処理を行うために、電気透析槽1において電気透析を行なった場合、生成される濃縮水の電気伝導度は400〜3000mS/m程度となる。この濃縮水には、塩素の電解生成に必要な塩化物イオンを十分量含んでおり、さらに保有する硬度成分はpH調整する限りにおいて、析出やファウリングに問題のない濃度である。
【0026】
したがって、従来のような硬度処理を必要とせず、濃縮水を電解水生成装置42に直接導入することにより、塩素由来の殺菌作用のある電解生成酸性水を生成することができる。また電解水生成装置42は、脱塩制御する電気透析槽1とは独立した制御を組むことが可能である。さらに電解水生成装置42に対して印加する電圧による供給濃度、ポンプ41による供給添加量、バルブV1、V2の制御を調整することにより、ポンプ25によって循環する脱塩循環水、ポンプ15によって循環する濃縮循環水の残留塩素濃度を、各々制御することが可能である。
【0027】
殺菌剤として良く使用される次亜塩素酸ナトリウムよりも、電解生成酸性水は残塩素濃度基準において高い殺菌作用があるため、次亜塩素酸ナトリウムよりも低い残留塩素濃度で、電気透析槽1のイオン交換膜のスライム防止効果が期待できる。また、電気透析プロセスにおける濃縮水に対して、電解水生成装置42で生成された電解生成酸性水を添加することで、本来低pH管理のために添加される酸溶液の使用量低減が可能となる。またさらに、排水の水質規制により、濃縮水は廃棄される際に、アルカリ溶液でpH=5.0〜9.0以下(下水放流)に調整されるが、電解水生成装置42で生成された電解生成アルカリ薬液を添加することでアルカリ溶液の使用量も低減が可能である。
【0028】
以下に、前記システムを使用して脱塩処理の実験を行なった結果を示す。前記システムで1m/day×1ヵ月の連続実験データを取ることにより、性能検証を行った。試験は、電解水生成装置42を持たない従来の脱塩処理法との同時比較実験として行い、pH調整試薬、殺菌薬液使用量とスライム生成状況を確認した。
【0029】
比較系実験条件として、脱塩水槽24、濃縮水槽14の残留塩素濃度が0.05〜0.1mg/lを維持するために、200mg/lの次亜塩素酸ソーダの添加量を制御した。試験系においては電解水生成装置42により残塩濃度30〜50mg/lの電解生成酸性水を印加電圧を調整して生成し、脱塩水槽24、濃縮水槽14の残塩濃度が、各々0.01〜0.03mg/lとなるように添加量を制御した。これは強酸性電解水が次亜塩素酸ソーダと同等濃度において10〜20倍の殺菌効果を示すとの資料調査により条件を設定したものである。
【0030】
実験後に、電気透析の分解、目視によるスライム生成状況を確認したところ、試験系と比較系においてスライムは確認されなかった。また脱塩水、濃縮水の循環流量の低下や脱塩性能の低下もなかった。なお別途実験により、殺菌剤を投入しない場合の連続実験では実験開始後2週間で脱塩流量低下が観測され、分解洗浄時に、電気透析槽1内においてスライムが生成されているのを目視確認している。
【0031】
そして従来技術において殺菌剤として使用した残塩素濃度200ppmの溶液使用量が3kg/tonであったのに対し、試験系において電解水(電解酸性水、電解アルカリ水)投入のみの条件で、電気透析槽1のイオン交換膜(陰イオン交換膜A、陽イオン交換膜K)の表面や、濃縮水および脱塩水の流路にスライムが発生することなく、電気透析槽1の定常運転の継続を確認した。またpH調整溶液の使用量については、10%程度の削減効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、電気透析法を用いて、低脱塩率の脱塩処理を行なう際に有用である。
【符号の説明】
【0033】
1 電気透析槽
11 陰極室
12、15、22、25、41、52、62、64 ポンプ
13 陰極液タンク
14 濃縮水槽
21 陽極室
23 陽極液タンク
24 脱塩水槽
42 電解水生成装置
47 pH調整水槽
51 pH調整用アルカリ薬液タンク
61 pH調整用酸薬液タンク
A 陰イオン交換膜(アニオン膜)
K 陽イオン交換膜(カチオン膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気透析槽を用いて、井水またはインフラ排水を処理原水として脱塩処理する方法において、
電気透析槽からの濃縮水を電気分解し、
当該電気分解によって生じた電解生成酸性水を、前記電気透析槽の脱塩水循環系および濃縮水循環系、または処理原水系に導入することを特徴とする脱塩処理方法。
【請求項2】
前記電気分解によって生じた電解生成アルカリ水を、濃縮廃棄水系に供給して、当該濃縮廃棄水のpH調整を行なうことを特徴とする、請求項1に記載の脱塩処理方法。
【請求項3】
前記処理原水の電気伝導度は、40〜300mS/mであることを特徴とする、請求項1または2に記載の脱塩処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の脱塩処理方法を実施するためのシステムであって、
電気透析槽からの濃縮水の一部を有隔膜電気分解処理する電解水生成装置と、
当該電解水生成装置で生成された電解生成酸性水を、前記電気透析槽の脱塩水循環系および濃縮水循環系、または処理原水導入系に導入する配管と、
当該電解水生成装置で生成された電解生成アルカリ水を、濃縮廃棄水系に導入する配管と、
を有することを特徴とする、脱塩処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−217943(P2012−217943A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87063(P2011−87063)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】