説明

脱毛の予防・治療または育毛用組成物

本発明は、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート誘導体または薬学的に許容されるその塩を含む、脱毛の予防・治療または育毛用組成物を提供する。また、本発明は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む、医薬品および医薬部外品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱毛の予防・治療または育毛用組成物に係り、より具体的には、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート誘導体を含む養毛用または脱毛治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
男性の身体的特徴において、ポジティブな側面に該当する骨格筋の増加や生殖器の発達、精子形成、性的欲求などは、テストステロンの関与によって発生し、ネガティブな側面に該当するニキビ、皮脂の増加、脱毛、前立腺肥大症などは、当該組織へのジヒドロテストステロンの関与によって発生することが知られている。それらの中でも、男性に多く発生する脱毛について長い間研究が続けられてきたが、未だ脱毛および発毛のメカニズムに対しては正確に解明されていない。ところが、外貌を重視する現代社会では、益々脱毛の予防および治療の必要性が切実に求められている。
【0003】
毛髪は、成長期、退行期および休止期の周期的な変化を規則的に繰り返す一つの生命体であって、各毛髪が独立に繰り返し生成・消滅しているので、常に一定の毛髪数を維持する。毛髪数は生れつき決まっているが、思春期以降の性ホルモンの影響による毛髪の成毛化過程を数の増加と勘違いする場合が多い。成長期は、毛嚢の活動と細胞分裂が盛んで毛髪が成長する時期であって、約2〜6年の期間を維持し、全体毛髪の約85%がこれに該当する。成長期の毛球細胞は基質細胞からなる毛乳頭に包まれて円形をしており、新しい毛髪の生成のための細胞分裂が盛んな時期である。退行期は毛嚢の成長活動が停止して急速に萎縮する時期であり、この際の毛の模様は棍棒状に類似している。また、退行期は約2〜3週間進行し、全体毛髪の約5%がこれに該当する。休止期は、毛嚢の細胞活動が完全に消滅してしまった時期であって、2〜3ヶ月の期間を経る間に休止期の毛髪の基底部から新しく生えてきて成長する成長期の毛髪によって髪の毛が押し出されて脱落し、髪を梳かす、洗髪などといった機械的作用によって自然に抜ける。一般に、脱毛症とは、成長期の毛髪比率が少なくなり、退行期または休止期の毛髪比率が多くなって、非正常的に脱落する髪の毛の数が多くなることをいう。
【0004】
このように、頭皮から毛髪が脱落する脱毛症の発生原因は様々であり、たとえば男性ホルモンの作用や精神的ストレス、頭皮における過酸化脂質の蓄積、薬物副作用、白血病または結核などの慢性疾患、放射線療法による副作用、栄養欠乏などがある。また、脱毛は一般に男性の悩みとして知られてきたが、最近では女性の脱毛や若い世代の脱毛の予防および治療に対する要求も高まってきた。
【0005】
現在、毛髪成長および養毛剤として使用される薬物には、頭皮に十分な血液を循環させるための血管拡張剤や、男性ホルモンの作用を抑えるための女性ホルモン剤、テストステロンを5−DHT(5−dihydrotestosterone)に変換させる5α−レダクターゼを抑制する男性ホルモン活性抑制剤などがある。前記血管拡張剤としては塩化カプロニウム、ミノキシジルおよび各種植物抽出物などがあり、女性ホルモン剤としてはエストロゲン、エストラジオール、プロゲステロンなどがあり、男性ホルモン活性抑制剤としてはフィナステリド、ペンタデカン酸などがある。
【0006】
ところが、前記脱毛治療剤の効果不十分もしくは副作用などにより、さらに効果的で安全な脱毛治療または育毛のための薬物の開発が求められている実情である。局所用または経口用に投与されるミノキシジルは、たとえば頭皮の紅斑、炎症、感染、刺激または疼痛といった皮膚への刺激があり、血圧降下効果があるので、血圧降下剤投与中の患者を含んだ高血圧患者には慎重な投与を必要とするなどの問題点がある。また、フィナステリドは、男性ホルモン活性抑制効果により発起不全や性欲減退などの欠点がある。
【0007】
一方、フィトスフィンゴシンは、皮膚の角質層の脂質二重層を構成する要素のうち、40%以上を占めているセラミド(ceramide)を成す構成の一つである。よって、フィトスフィンゴシンは、体内に吸収されてセラミド合成を促進し、それ自体でも水分蒸発を防いで肌をしっとりと潤わせながら抗菌作用および皮膚鎮静作用もあって、保湿剤およびニキビ治療剤として使われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、脱毛の治療または育毛に効果がある薬物の開発のために鋭意研究を重ねた結果、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート誘導体が脱毛の予防・治療および育毛に効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
よって、本発明の目的は、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート誘導体を含む、脱毛の予防・治療または育毛用組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む医薬品を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む医薬部外品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者は、脱毛の治療または育毛に効果がある薬物の開発のために鋭意研究を重ねた結果、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート誘導体が脱毛の予防・治療および育毛に効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
よって、本発明の目的は、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート誘導体を含む、脱毛の予防・治療または育毛用組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む医薬品を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む医薬部外品を提供することにある。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む、脱毛の予防・治療または育毛用組成物を提供する。
【0017】
【化1】

・・・(化学式1)
【0018】
式中、Rは、水素または−COR1であり、R1は、C1−C6アルキル基である。
【0019】
また、本発明は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む医薬品を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記脱毛の予防・治療または育毛用組成物を含む医薬部外品を提供する。
【0021】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0022】
本発明において、全ての技術用語は、別途定義されない限り、本発明の関連分野における通常の当業者が一般に理解するのと同じ意味で使用される。また、本明細書には好適な方法または試料が記載されるが、これと類似または同等のものも本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の全内容は本発明に参考として組み込まれる。
【0023】
本発明者は、脱毛の予防・治療または育毛に効果がある物質を開発するために研究を行った結果、保湿剤およびニキビ治療剤として使用されているフィトスフィンゴシンの誘導体が、脱毛の予防・治療または育毛にミノキシジルと同等以上の効果がありながらも、従来のミノキシジルとは異なり、皮膚に対する刺激や高血圧患者には慎重に投与しなければならないなどの副作用がないため好ましいという事実を見出し、本発明に係る組成物を開発するに至った。
【0024】
したがって、本発明のある観点によれば、下記化学式1の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む、脱毛の予防・治療または育毛用組成物を提供する。
【0025】
【化1】

・・・(化学式1)
【0026】
式中、Rは、水素または−COR1であり、R1は、C1−C6アルキル基であり、好ましくは、Rは、水素またはC1−C3アルキル基である。
【0027】
前記化学式1の化合物は、有機化学分野で公知の通常の知識を用いて製造することができ、たとえば、文献(S.Li,W.K.Wilson,G.J.Schroepfer,Chemical synthesis of D−ribo−phytosphingosine−1−phosphate,a potential modulator of cellular processes,J.Lipid Res.40:117−125,1999)に開示されている方法を用いて製造することができる。
【0028】
前記化学式1の化合物が脱毛の治療・予防および育毛に効果を示すということは、下記実施例で立証された。具体的には、本発明の化合物に対してbalb/cマウスを用いた育毛試験を行った。その結果、本発明の化合物は、現在FDAから脱毛治療剤として許可を受けて販売中のロゲイン5%(ミノキシジル5%液剤、ジョンソン・エンド・ジョンソン社)と同等以上の育毛効果を示した。また、本発明の化合物に対して新生血管の活性をCAM(chorioallantoic membrane)アッセイで測定し、陰性対照群としてのリン酸緩衝溶液、陽性対照群としてのスフィンゴシン−1−ホスフェート、および抑制対照群としての新生血管抑制剤TMP(トリメチルフィトスフィンゴシン)と比較試験した。その結果、本発明の化合物は、新生血管生成の促進において著しく優れた結果を示した。よって、本発明の化学式1の化合物は、新生血管生成の促進によって脱毛の治療・予防および育毛に効果があるものと予想される。
【0029】
本発明に係る前記組成物は、他の脱毛の予防・治療または育毛用薬物、または補助剤をさらに含んで複合製剤として使用できる。他の薬物または補助剤としてはレチノイン酸(retinoic acid)やミノキシジル(minoxidil)、フィナステリド、亜鉛ペプチド、亜鉛オキシド、ビオチン、ゼニステイン、玉葱抽出物、カボチャ種子油、エミュー(Emu)油、緑茶抽出物、柳の皮抽出物などがあるが、これに限定されない。
【0030】
本発明の前記組成物は、経口投与製剤、注射剤、座剤、経皮投与製剤、および経鼻投与製剤を含むが、これに限定されない任意の剤形に製剤化されて投与されてもよく、好ましくは頭皮または毛髪で覆われた皮膚部位への局所適用に適した形態に製剤化することができる。このような局所投与用製剤としては、リポソーム、ナノエマルジョン、シャンプー、ヘアコンディショナー、またはヘアローションなどがあり、これに限定されない。好ましくは、経皮吸収の増加により効果を促進させるために、リポソームまたはナノエマルジョンに製剤化する。前記組成物の製剤化の際に、薬剤学分野で公知になっているそれぞれの製剤の製造に適した、薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤を用いて製造することができる。
【0031】
本発明の組成物は、前記化学式1の化合物を組成物全体に対して約0.1重量%〜10重量%、好ましくは0.5重量%〜5重量%の範囲で含有することができ、化学式1の化合物の種類に応じて増減できる。
【0032】
局所投与の際に、化学式1の化合物を脱毛の予防・治療または育毛のための部位に1日1回〜2回程度塗布することにより投与することができる。活性成分が1重量%のときを基準として1日塗布量は0.5〜3mg程度であり、塗布部位の面積に応じて増減できる。このような投与量および回数は患者の年齢、性別、脱毛の進行程度に応じて適切に増減して使用できる。
【0033】
本発明に係る前記化学式1の化合物または薬学的に許容されるその塩は、脱毛の治療・予防または育毛に対する効果が優れるうえ、化学構造が簡単であって合成によって容易に製造できて経済的であり、リポソームやナノエマルジョンなどの脂質微粒球製剤への製剤化の際に毛嚢に容易に伝達できる。
【0034】
また、従来から使用されてきた他の脱毛治療剤であるミノキシジルおよびフィナステリドに比べて皮膚刺激および副作用がないため、非常に好ましい。
【0035】
前記本発明に係る化学式1の化合物を活性成分とする脱毛の治療・予防または育毛用組成物は、脱毛の治療・予防または育毛に効果がある医薬品または医薬部外品に完成品化することができる。
【0036】
したがって、本発明の他の観点によれば、前記化学式1の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む組成物、および薬学的に許容される担体または添加剤を含む医薬品または医薬部外品が提供される。
【発明の効果】
【0037】
前述したように、本発明に係る脱毛の治療・予防または育毛用組成物は、優れる効果を示すのはもとより、リポソーム、ナノエマルジョンなどの脂質微粒球製剤への製剤化の際に毛嚢へ容易に伝達でき、従来から使用されてきた他の脱毛治療剤であるミノキシジルおよびフィナステリドに比べて皮膚刺激および副作用がないため、非常に好ましい。また、化学式1の化合物は、化学構造が簡単であって合成により容易に製造でき、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】balb/cマウスの脇腹を除毛した後、N−アセチルフィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(NAPS−1−P)含有リポソームを1日1回ずつ14回塗布した後の結果を、非処理群と比較して撮影した写真である。
【図2】balb/cマウスの脇腹を除毛した後、フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(PhS−1−P)リポソームとNAPS−1−Pリポソームを1日1回ずつ4週間塗布した後の結果を、対照群と共に比較して撮影した写真である。
【図3】balb/cマウスの脇腹を除毛した後、NAPS−1−P0.5%含有リポソーム、NAPS−1−P1.0%含有リポソーム、および5%ミノキシジル液剤を1日1回ずつ4週間塗布した結果を、対照群と共に比較して撮影した写真である。
【図4】CAMアッセイ法を行う各段階を図式的に示したものである。
【図5】NAPS−1−P0.5%含有リポソーム、PhS−1−P0.5%含有リポソーム、トリメチルフィトスフィンゴシン(TMP)、およびリン酸緩衝液に対してCAMアッセイを実施し、新生血管抑制効果を顕微鏡で観察した結果を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を下記実施例によってさらに具体的に説明する。ところが、これらの実施例は、本発明に対する理解を助けるためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
<実施例1:N−アセチルフィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(NAPS−1−P)含有リポソームの製造(1)>
N−アセチルフィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(NAPS−1−P)を含有するリポソームを製造した。NAPS−1−Pは、文献(S.Li,W.K.Wilson,G.J.Schroepfer,Chemical synthesis of D−ribo−phytosphingosine−1−phosphate,a potential modulator of cellular processes,J.Lipid Res.40:117−125,1999)に開示されている方法によって、N−アセチルフィトスフィンゴシンから製造して使用した。まず、75%の大豆ホスファチジルコリン(Lipoid社)3gとNAPS−1−P 0.5gをエタノール20gに溶解させた。メントール0.1gを溶かした蒸留水76.4gを、ホスファチジルコリンとNAPS−1−Pを溶かしたエタノール溶液にゆっくり添加した。添加するときに強く攪拌した。蒸留水をさらに添加し、1時間攪拌し続けた後、チップタイプソニケーターを用いて超音波処理し、しかる後に、0.22μmのメンブレンフィルターで濾過してNAPS−1−P0.5%含有リポソームを製造した。ここに皮膚透過促進剤としてポロキサマー+ポリソルベート20(Tween20)を付加して、本発明に係るナノエマルジョンを製造した。
【0041】
<実施例2:NAPS−1−P含有リポソームの製造(2)>
NAPS−1−Pを0.5gの代わりに1.0g使用する以外は実施例1と同様にして、NAPS−1−P1.0%含有リポソームを製造した。但し、牡丹の根皮抽出物および柳の皮抽出物の添加量に相当する分だけ蒸留水を少なく用いて、リポソームを製造した。
【0042】
<実施例3:NAPS−1−P含有リポソームの製造(3)>
牡丹の根皮抽出物3g、柳の皮抽出物5gおよび蒸留水を添加するときに一緒に付加し、NAPS−1−Pを1.0g使用する以外は実施例1と同様にして製造した。但し、牡丹の根皮抽出物および柳の皮抽出物の添加量に相当する分だけ蒸留水を少なく用いて、リポソームを製造した。
【0043】
<実施例4:フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(PhS−1−P)含有リポソームの製造(3)>
NAPS−1−Pの代わりにフィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(PhS−1−P)を使用する以外は実施例1と同様にして、PhS−1−P0.5%含有リポソームを製造した。
【0044】
実施例1〜4で製造されたリポソームの組成を下記表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
<実施例5:NAPS−1−P含有ナノエマルジョンの製造(1)>
N−アセチルフィトスフィンゴシンを含有するナノエマルジョンを製造した。まず、75%の大豆ホスファチジルコリン(Lipoid社)2gとNAPS−1−P 0.5gをエタノール15gに溶解させた。その後、PEG−8カプリリック/カプリックグリセリド(LAS)15gとイソプロピルミリステート3.0gを前記エタノール溶液に添加した。その後、メントール0.1gを溶かした蒸留水57.4gを前記エタノール溶液に添加した後、軽く30分〜1時間程度攪拌してナノエマルジョンを製造した。ここに皮膚透過促進剤としてポロキサマー+ポリソルベート20(Tween20)を付加して、本発明に係るナノエマルジョンを製造した。
【0047】
<実施例6:NAPS−1−P含有ナノエマルジョンの製造(2)>
NAPS−1−Pを0.5gの代わりに1.0g使用する以外は実施例1と同様にして、NAPS−1−P1.0%含有リポソームを製造した。但し、NAPS−1−Pの含量が増えた分だけ蒸留水を少なく使用して、ナノエマルジョンを製造した。
【0048】
<実施例7:NAPS−1−P含有ナノエマルジョンの製造(3)>
牡丹の根皮抽出物3gと柳の皮抽出物5gを蒸留水の添加時に一緒に付加し、NAPS−1−P 1.0gを使用する以外は実施例5と同様にして製造した。但し、牡丹の根皮抽出物および柳の皮抽出物の添加量に相当する分だけ蒸留水を少なく用いて、ナノエマルジョンを製造した。
【0049】
<実施例8:フィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(PhS−1−P)含有ナノエマルジョンの製造(3)>
NAPS−1−Pの代わりにフィトスフィンゴシン−1−ホスフェート(PhS−1−P)を使用する以外は実施例5と同様にして、PhS−1−P0.5%含有ナノエマルジョンを製造した。
【0050】
実施例5〜8で製造されたナノエマルジョンの組成を、下記表2にまとめて示す。
【0051】
【表2】

【0052】
(実験例1)
<Balb/cマウスを用いた育毛試験(1)>
5〜6週齢のbalb/cマウスを購入して脇腹部分の毛を一部除去した後、除毛クリームを塗布して既存の毛を完全に除去した。完全に除毛されていないマウスは実験から排除した。除毛の後、無作為にマウスケージ当たり3匹ずつ飼育した。合計5ケージを用いた。
【0053】
除毛の後に1日程度放置し、その後、実施例1で製造したNAPS−1−P含有リポソームを除毛部位に1日1回ずつ塗布した。14回塗布した後、非処理群と処理群の育毛の度合を比較した。14回塗布した後で除毛部位を撮影した写真を、図1に示した。
【0054】
図1の結果より確認できるように、非処理群では、毛が殆ど成長しておらず皮膚が外部に露出されているが、NAPS−1−P含有リポソームで処理した群では、除毛していない部分とほぼ区別が付かない程度に毛髪が成長している。よって、このような結果より、本発明に係る化合物が発毛を促進させることを明確に把握することができる。
【0055】
(実験例2)
<Balb/cマウスを用いた育毛試験(2)>
前記実施例で製造したNAPS−1−P 0.5%含有リポソーム(実施例1)、NAPS−1−P 1.0%含有リポソーム(実施例2)、およびPhS−1−P 0.5%含有リポソーム(実施例4)に対して前記実験例1と同一の方式で育毛試験を行った。但し、1日1回ずつ塗布することを4週間持続した後、除毛した部位の写真を撮影した。陽性対照群として、ミノキシジル5%液剤の「ロゲイン5%」を用いた。その結果を、図2および図3に示す。
【0056】
図2は、PhS−1−PリポソームとNAPS−1−Pリポソームを塗布した結果を対照群と共に比較して撮影した写真である。図3は、NAPS−1−P0.5%含有リポソーム、NAPS−1−P1.0%含有リポソーム、および5%ミノキシジル液剤を塗布した結果を対照群と共に比較して撮影した写真である。
【0057】
図2の結果によれば、PhS−1−PリポソームとNAPS−1−Pリポソームの両方とも対照群に比べて毛髪成長促進効果があるが、NAPS−1−PがPhS−1−Pに比べて優れた毛髪成長促進効果を示すものと確認された。
【0058】
図3の結果によれば、NAPS−1−Pリポソームは、0.5%に比べて1.0%含有リポソームの毛髪成長促進効果が優れることからみて、濃度の増加によって効果が良くなるものと確認された。また、NAPS−1−P1%リポソーム製剤は、脱毛治療剤として現在広く使われているミノキシジル5%液剤と同等以上の効果を有するものと確認された。
【0059】
(実験例3)
<新生血管生成能の測定>
実施例1および実施例4でそれぞれ製造されたNAPS−1−P 0.5%含有リポソームおよびPhS−1−P 0.5%含有リポソームを対象として、新生血管生成能を測定した。陰性対照群としてリン酸緩衝液を用い、陽性対照群としてスフィンゴシン−1−ホスフェート(PS−1−P)、抑制対照群として新生血管抑制剤のトリメチルフィトスフィンゴシン(TMP)をそれぞれ用いて比較した。
【0060】
新生血管生成能の測定はCAM(chorioallantoic membrane)アッセイで行った。この試験法は、新生血管の生成能を調べる一般な方法である。
【0061】
鶏が産んで1日内の有精卵を購入し、3日後に、図4のi)に示すように卵白を注射器で6mL除去し、ii)に示すように卵の上部を開けるようにした。3日後には鶏の胚芽が発達するが、胚芽を包んでいる部分をCAMという。その後、図4のiii)に示すように、CAM上に、試験薬物を点滴して乾かしたカバースリップをのせた。3日後、薬物による血管新生が起こったか否かを図4のiv)のように顕微鏡で観察した。
【0062】
NAPS−1−P 0.5%含有リポソーム、PhS−1−P 0.5%含有リポソーム、TMP、およびリン酸緩衝液に対して新生血管抑制効果を顕微鏡で観察した結果を、下記表3および図5に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
前記表3および図5から確認できるように、本発明に係る組成物の活性成分に該当するPhS−1−PおよびNAPS−1−Pは、いずれも対照群に比べて新生血管生成能が高く、特にNAPS−1−Pが最も高い新生血管生成能を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む、脱毛の予防・治療または育毛用組成物。
【化1】

・・・(化学式1)
(式中、Rは、水素または−COR1であり、R1は、C1−C6アルキル基である。)
【請求項2】
前記組成物は、頭皮または毛髪で覆われた皮膚部位への局所適用に適することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、リポソーム、ナノエマルジョン、シャンプー、ヘコンディショナー、またはヘアローションの剤型を有することを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物を含む医薬品。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物を含む医薬部外品。


【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−530503(P2011−530503A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522000(P2011−522000)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004254
【国際公開番号】WO2010/016683
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511072965)ピトス カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】