説明

脱燐溶銑の製造方法

【課題】溶銑中の燐が低減された脱燐溶銑を効率よく得ることができると共に、脱燐処理後のスラグ中の未滓化石灰を低減することができる脱燐溶銑の製造方法を提供する。
【解決手段】圧力下で溶銑2に脱燐処理を施す脱燐溶銑の製造方法であって、耐火物反応容器1中の溶銑2を、耐火物反応容器1を加圧状態とすることで加圧する加圧工程と、加圧状態とした耐火物反応容器1中の溶銑2に、酸素源を供給すると共に、石灰を主成分とする石灰源を供給する反応物質供給工程と、を含み、反応物質供給工程の溶銑2において、xを圧力とし、CaOをSiOで割った値(CaO/SiO)である塩基度を、1.89x−1.21以上1.5以下に制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑に、溶銑予備処理である脱燐処理を施して、脱燐溶銑を製造する脱燐溶銑の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉で鉄鉱石を還元することによって産出された銑鉄は、溶銑(溶融銑鉄)の状態で、転炉吹錬前に、P、S等の不純物元素を除去する溶銑予備処理が行われる。近年、低燐鋼の需要の増加のため、また、製鋼歩留まりの向上、使用する石灰量の低減、スラグ発生量の低減等の要求に応えるため、この溶銑予備処理である脱燐処理の技術が発達しており、種々の脱燐処理の方法が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸素上吹きランスと底吹きノズルを有する上底吹き転炉型の反応容器を用いて、反応容器内の圧力、上吹き酸素の供給速度、および、底吹きガス流量を所定に規定した溶銑の予備処理方法が開示されている。特許文献2には、1気圧を超える加圧雰囲気下で溶銑を脱燐して脱燐時の脱炭反応を抑制する溶銑予備処理方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、精錬容器内補助ランスに振動計を設置して振動強度を精錬処理中に連続的に測定し、スラグ泡立ち高さが容器高さの範囲内に維持されるように振動強度の増加に応じて容器内の圧力を制御し、精錬終了後にコークス粉を添加した後、容器内圧力を常圧に復圧するスラグフォーミング防止法が開示されている。特許文献4には、脱珪、脱燐、脱硫および脱炭を1つの反応容器で運搬処理するに当たり、排ガス処理系と脱着可能な反応容器に溶銑を装入し、脱硫後排滓したのち脱珪し、排滓せずに脱燐し、引き続き排滓せずに反応容器内圧力を所定に規定して、脱炭精錬を行う溶銑の連続精錬法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−246903号公報
【特許文献2】特開昭63−72809号公報
【特許文献3】特開平4−308016号公報
【特許文献4】特開2000−319716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の溶銑の脱燐処理に関する技術では、以下に示す問題がある。
近年、燐濃度の低い高品質の鉄鉱石を入手し難くなってきていること、製鋼の効率の向上、溶銑に供給する石灰のコストの低減、脱燐処理で発生するスラグ産廃物の低減を図ること等の理由から、脱燐処理技術の重要性がますます高まっている。
ここで、従来の技術においては、製造される鋼の低燐化、製鋼歩留まりの向上、使用する石灰量の低減、スラグ発生量の低減等が図られてはいるものの、より効率的、経済的に低燐鋼を得るため、脱燐処理技術のさらなる改善が望まれている。
【0007】
また、石灰は、融点が約2570℃と高いため、温度が低い脱燐処理では、石灰の溶け残り(未滓化石灰)が生じやすい。そのため、脱燐処理後のスラグを利材化して路盤材へ適用した場合、この未滓化石灰の水和膨張反応により、路盤表面に、うねりや、ひび割れといった欠陥が生じやすいという問題がある。
【0008】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶銑中の燐が低減された脱燐溶銑を効率よく得ることができると共に、脱燐処理後のスラグ中の未滓化石灰を低減することができる脱燐溶銑の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、脱燐溶銑の製造方法、すなわち、加圧下での溶銑脱燐処理方法であり、耐火物反応容器中の溶銑を加圧する工程(加圧工程)と、加圧状態とした耐火物反応容器中の溶銑に副原料として酸素源および石灰源を供給する工程(反応物質供給工程)から成り、処理中の塩基度(CaO/SiO)を、xを圧力として1.89x−1.21以上1.5以下に制御することを特徴とする。
【0010】
このような脱燐溶銑の製造方法によれば、加圧工程により、溶銑を加圧することで、反応物質供給工程で供給される酸素源による脱炭反応が抑制される。また、反応物質供給工程により、溶銑に酸素源を供給することで、溶銑浴面にFeOおよびSiOが生成し、溶銑に石灰を主成分とする石灰源を供給することで、CaOがFeOおよびSiOと反応して溶融(滓化)し、CaO−FeO−SiO系融体が形成される。そして、溶銑を加圧することにより、通常より低い塩基度においても、溶銑の脱燐が促進されるため、溶銑の塩基度を、圧力に応じて、低い範囲に制御することで、石灰の使用量が削減される。これにより、スラグ中に未滓化石灰が生じにくくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る脱燐溶銑の製造方法によれば、脱燐処理において、溶銑中に含まれる燐を効率よく低減することができる。これにより、製造される鋼の品質を向上させることができる。また、加圧により、脱燐反応が促進されるため、通常より低い塩基度においても脱燐処理が可能となり、石灰の使用量を削減することができる。そのため、脱燐処理後のスラグ中の未滓化石灰を低減することができ、脱燐処理後のスラグを利材化して、路盤材へ適用することができる。
【0012】
そして、脱燐処理において、石灰の使用量を低減させることができるため、石灰コストを低減させることができる。また、脱燐処理で発生するスラグ産廃物を低減させることができるため、スラグ産廃費用を低減させることができる。さらに、製造される鋼の歩留まりを向上させることができる。これらにより、経済性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、図面を参照して本発明に係る脱燐溶銑の製造方法ついて詳細に説明する。なお、参照する図面において、図1は、脱燐処理における脱燐反応を説明するための模式図であり、(a)は、通常時、(b)は、加圧時の脱燐反応を説明するための模式図、図2は、本発明で規定する溶銑の塩基度の範囲を示すグラフ、図3は、未滓化石炭の水和膨張反応により、路盤表面に生じる欠陥について説明するための模式図、図4は、脱燐処理の一例を説明するための転炉型の予備処理炉の模式図である。
【0014】
本発明に係る脱燐溶銑の製造方法は、圧力下で、溶銑に、溶銑予備処理である脱燐処理を施す脱燐溶銑の製造方法であって、加圧工程と、反応物質供給工程と、を含むものである。
【0015】
まず、脱燐処理について説明する。
≪脱燐処理≫
脱燐処理における脱燐反応は、「2[P]+5(FeO)+3(CaO)=3CaO・P+5Fe」の式により進行する。(詳細は後記する)。
脱燐反応は、吸熱反応のため、温度が低い方が、反応が促進され、また、炭素(C)が燐(P)の活量を上げるため、鋼中の炭素濃度が高い方が、反応が促進される。そのため、低温、高炭である溶銑の段階で脱燐する方が、効率がよい。また、溶銑の段階で脱燐処理を行うことにより、精錬工程全体における石灰使用量、ひいてはスラグ発生量を大幅に低減することができる。なお、一般的に、脱燐処理での処理後温度は1300〜1360℃であり、処理後の炭素濃度は3〜4質量%である。一方、転炉では、処理後温度は1600〜1700℃であり、処理後の炭素濃度は、0.05〜1.0質量%である。
【0016】
次に、加圧工程、および、反応物質供給工程について説明する。
≪加圧工程≫
加圧工程は、耐火物反応容器中の溶銑を、耐火物反応容器を加圧状態とすることで加圧する工程である。すなわち、脱燐処理は、圧力下で行う。
【0017】
図1(a)、(b)に示すように、脱燐反応は競合反応であり、加えた酸素をC、Si、Mnと奪い合う。図1(a)に示すように、炭素(C)は、濃度が3〜4質量%と高いため、脱炭が最も起こりやすく、加えた酸素のうち、60〜80質量%が脱炭に使用される(脱燐は5〜10質量%)。しかし、図1(b)に示すように、加圧により、脱炭反応を抑制できるため、脱燐効率が向上し、より少ない石灰で脱燐可能となり、発生するスラグも低減される。なお、圧力としては、後記するように、塩基度が所定の範囲のなるように加圧されていればよい。例えば、下限については約1.4atm以上、上限については装置の加圧能力にもよるが、操業の利便性や安全性を十分に考慮した装置を製作する上での、コストの大幅な上昇に鑑み、5atmまでが現実的な値である。
【0018】
脱燐処理を行うための耐火物反応容器(精錬容器)としては、加圧状態にできるものであれば、特に限定されるものではないが、フリーボードが十分に確保できるという点から転炉型容器を用いることが好ましい。また、その他として、例えば、溶銑鍋やトーピードカー等の容器を用いることができる。
【0019】
≪反応物質供給工程≫
反応物質供給工程は、加圧状態とした耐火物反応容器中の溶銑に、脱燐処理における反応物質として、酸素源を供給すると共に、石灰を主成分とする石灰源を供給する工程である。
【0020】
<酸素源>
酸素源としては、気体酸素や固体酸素を用いることができ、これらを加圧状態とした耐火物反応容器中の溶銑に供給(添加)する(酸素源供給工程)。溶銑に酸素を供給することで、FeOが生成し、後記するように、CaOと反応して脱燐反応が進行する。
ここで、前記したように、脱燐反応は、温度が低い方が、反応が促進さる。しかし、温度を低くし過ぎると、転炉で温度を調整するために、FeSiや炭素(C)の追加投入、および、Feの燃焼吹錬をする必要が生じるため、コスト増加の原因となる。そのため、脱燐においては、ある一定の処理後温度を保つために、気体酸素を使用することが好ましい。
【0021】
気体酸素としては、純酸素ガス、酸素含有ガスが挙げられる。酸素源として純酸素ガスを用いることで、酸化熱によって溶銑の温度は上昇する。空気、酸素富化空気等の酸素含有ガスも気体酸素として使用することができるが、脱燐反応速度を速めることができる純酸素ガスを使用することが好ましい。また、これらの気体酸素には、窒素ガス等の不純物を体積%で数%程度含んでいてもよい。
【0022】
気体酸素の供給方法としては、例えば、上吹きランス(図4参照)から供給する方法、あるいは浸漬ランス、溶銑保持容器の側壁や底部に設けられた吹き込みノズルを通じた溶銑浴中へのインジェクション等が挙げられる。本発明においては、気体酸素の供給方法は、特に限定されるものではなく、どの方法を用いてもよい。
【0023】
また、耐火物反応容器内に供給される酸素源としては、気体酸素以外に酸化鉄(例えば、鉄鉱石、焼結粉、ミルスケール)等の固体酸素を用いることができ、これらを上置き装入や上吹きランスからのブラスティング、あるいは、浴中へのインジェクション等の任意の方法で供給することができる。
【0024】
<石灰源>
石灰源(CaO)は、後記するように、塩基度を調整するために、加圧状態とした耐火物反応容器中の溶銑に供給(添加)する(石灰源供給工程)。
石灰源(CaO源)は、石灰を主成分とするものであり、通常、CaO系精錬剤(CaOを主体とした精錬剤)を用いる。CaO系精錬剤としては、生石灰粉を使用することができる。また、生石灰粉にアルミナ粉等を滓化促進剤として加えてもよいが、後記するように、生石灰粉を溶銑浴面に吹き付けて供給(添加)する場合、生石灰粉単体であっても十分に滓化して、アルミナ粉等の滓化促進剤は用いなくても十分に脱燐することができる。特に、生成される脱燐処理後のスラグ(以下、適宜、脱燐スラグともいう)からのフッ素の溶出量を抑えて環境を保護する観点から、蛍石等のフッ素含有物質は、滓化促進剤として使用しないことが好ましい。ただし、フッ素が不純物成分として不可避的に混入した物質については使用しても構わない。
【0025】
石灰源(以下、適宜、精錬剤ともいう)の供給方法としては、上吹きランス(図4参照)を通じて溶銑浴面に吹き付ける方法(ブラスティング)、上置き装入、浴中へのインジェクション等により供給する方法が挙げられる。本発明においては、精錬剤の供給方法は、特に限定されるものではなく、どの方法を用いてもよい。例えば、ブラスティングによる供給の場合は、上吹きランスを通じて気体酸素を浴銑浴面に吹き付けるため、大量のFeOが生成し、精錬剤の滓化促進に非常に有利な条件となる。そして、このFeOが大量に生成した領域に、上吹きランスを通じて精錬剤を直接供給することにより、精錬剤(CaO)の滓化を効果的に促進することができる。なお、ブラスティングによる場合は、精錬剤は粉体を用いる。
また、ブラスティングと、インジェクション等の方法を併用して供給することもできる。なお、以下では、一実施形態として、ブラスティングにより、酸素源、および、石灰源を供給する場合について説明する。
【0026】
上吹きランスによる気体酸素と精錬剤の溶銑浴面への吹き付けでは、精錬剤を気体酸素以外のキャリアガス(例えば、N、Ar等の不活性ガス)を用いて溶銑浴面に吹き付けてもよい。しかし、その場合でも、精錬剤の一部または全部を気体酸素が供給(吹き付け)されている溶銑浴面領域に吹き付けることが好ましい。これは、気体酸素が供給される溶銑浴面領域は酸素供給によってFeOが生成する場所であり、このような浴面領域に直接CaOを供給することにより、CaOの滓化が効果的に促進されると共にCaOとFeOの接触効率が高まるからである。
【0027】
また、精錬剤は気体酸素が供給された溶銑浴面領域の中でも、特に気体酸素の上吹きにより生じる「火点」と呼ばれる領域に供給することが最も好ましい。この火点は気体酸素ガスジェットが衝突することにより最も高温となる溶銑浴面領域であるが、気体酸素による酸化反応が集中し、かつ気体酸素ガスジェットにより撹拌されている領域であるため、CaOの供給による効果が最も顕著に得られる領域であるといえる。また、この意味で精錬剤を溶銑浴面に吹き付けるためのキャリアガスとしては、気体酸素を用いることが好ましく、この場合には、気体酸素が精錬剤と共に溶銑浴面に吹き付けられることにより、精錬剤が火点に直接供給されることになり、この結果、溶銑浴面でのCaOとFeOの接触効率が最も高まる。
【0028】
気体酸素が最適状態で供給されている溶銑浴面領域(好ましくは火点)に対して、上吹きランスを通じて精錬剤(CaO)を吹き付けると、このCaOは火点で発生するFeOと迅速に反応し、溶融(滓化)して、CaO−FeO系の融体を形成する。発生したCaO−FeO系融体は、気体酸素の運動エネルギーによって、火点を中心とする気体酸素が供給されている溶銑浴面領域から、その周囲の酸素ポテンシャルの低い領域に押し出されながら、まず溶銑中のSiと反応し、FeOは還元されて、処理前の溶銑中Si含有量に応じて2CaO・SiO等の安定な固相を形成する。
【0029】
また、前記反応によって溶銑中のSi含有量がある程度低くなると、CaO−FeO系融体は、次に燐と反応し始めて3CaO・Pという同じく安定な固相を形成する。この結果、脱燐処理の進行にしたがって生成され、火点を中心とする気体酸素が供給されている溶銑浴面領域からその外側の領域に順次押し出されたスラグの相当量(若しくは大部分)が、2CaO・SiO、3CaO・Pといった安定な固相として存在することになる。そして、このようにして固相となったスラグは非常に安定であるため、スラグ塩基度が低くても再び溶融することはない。そして、このように火点を中心とした領域において直接的な脱燐反応が生じることと、その外側に押し出されたスラグが固相主体の状態で存在することにより、少ない精錬剤添加量で効率的な脱燐を行うことができる。
【0030】
また、脱燐効率を向上させるためには溶銑をガス撹拌することが好ましい。このガス撹拌は、例えば、浸漬ランス、耐火物反応容器の側壁や底部に設けられた吹き込みノズル等を通じて窒素やAr等の不活性ガスを溶銑中に吹き込むことにより行われる。このような撹拌ガスの供給量としては、十分な浴撹拌性を得るために0.02m(Normal)/min/溶銑トン以上とし、また、浴の撹拌が強すぎると生成したFeOを溶銑中の炭素が還元する速度が大きくなり過ぎるため、0.3m(Normal)/min/溶銑トン以下とすることが好ましい。
【0031】
本発明においては、反応物質供給工程の溶銑において、xを圧力とし、CaOをSiOで割った値(CaO/SiO)である塩基度を、1.89x−1.21以上1.5以下に制御する。
【0032】
<塩基度:1.89x−1.21以上1.5以下>
本発明においては、酸素源、および、石灰源が供給された溶銑の塩基度を、圧力に応じて、xを圧力とした場合に、1.89x−1.21以上1.5以下に制御する。すなわち、塩基度は、図2に示す範囲となる。なお、図2では、圧力を、約1.211〜3.5atmの範囲とした場合について示している。
ここで、塩基度とは、投入するCaOを、脱珪(Si)反応により脱燐処理中に発生するSiOで割った値、すなわち、CaOとSiOとの比率(CaO/SiO)である。なお、図2では、便宜上、塩基度を「C/S」としている。
【0033】
通常、溶銑の脱燐処理は、塩基度が1.6〜3.5の範囲で実施されるが、本発明においては、加圧により、脱燐反応が促進されるため、それより低い塩基度においても、脱燐処理が可能となる。また、塩基度を低くすることにより、CaOの使用量を削減することができる。CaO使用量の削減は、副原料のコストダウン・歩留まりの向上だけではなく、脱燐スラグを利材化するための障害となる未滓化石灰(f−CaO)の低減にも繋がる。
【0034】
ここで、図3を参照して、未滓化石灰による影響について説明する。
図3に示すように、石灰は、融点が約2570℃と高いため、温度が低い脱燐処理では、溶け残りが生じやすく、未滓化石灰が生じやすい。したがって、脱燐スラグを利材化して路盤材として使用した場合、雨水等により、スラグ中の未滓化石灰の水和膨張反応(「CaO+HO=Ca(OH)」)が起こり、路盤表面に、うねりや、ひび割れ等の欠陥が生じやすくなる。本発明においては、脱燐スラグ中の未滓化石灰を低減させることができるため、このような欠陥を抑制することができる。
【0035】
溶銑の塩基度において、圧力をxとした場合、塩基度が1.89x−1.21未満では、脱燐反応が促進されず、脱燐処理後の燐濃度が高くなり、一方、塩基度が1.5を超えると、未滓化石灰の割合が高くなる。従って、塩基度は、1.89x−1.21以上1.5以下とする。塩基度をこの範囲に制御することにより、脱燐溶銑中の燐を低減することができると共に、脱燐スラグ中の未滓化石灰を低減することが可能となる。
【0036】
塩基度の調整は、CaO(石灰源)の投入量により行う。CaOの投入量は、溶銑中のSi濃度、および、投入する副原料成分から脱燐処理中に発生するSiO量の値を計算し、目標とする塩基度に必要なCaO量の値を計算することで決定する。
【0037】
次に、図4を参照して、脱燐処理の一例として転炉型の予備処理炉を用いた場合について説明する。
まず、転炉型の予備処理炉(耐火物反応容器)1内に、溶銑2とスクラップ等の冷材3を装入し、予備処理炉1を直立させて炉口フード4と気密に締結する。次に、底吹き羽口5から撹拌用ガスを吹き込みつつ、排ガスダクト7に配した圧力調節弁8により予備処理炉1内の圧力を所定の値に調節し、上吹きランス6から予備的送酸を開始する。なお、加圧の際に不活性ガス等を補助的に予備処理炉1内に吹き込んでもよい。
【0038】
次に、生石灰等の石灰源を予備処理炉1内に供給しつつ、本格的送酸を開始する。石灰源の供給は、塊状・粒状のものをホッパー9からシュート等を用いて投入してもよく、粒状のものを上吹きランス6から吹き付けるか、あるいは底吹き羽口5から吹き込んでもよい。そして、所定時間脱燐処理を行った後、送酸を停止し、圧力調節弁8を開放して予備処理炉1内の圧力を大気圧にする。予備処理炉1の排ガスは、排ガス処理・回収設備10へ送られる。
なお、脱燐処理については、この方法に限定されるものではなく、通常、溶銑予備処理として行われる脱燐処理であれば、どのような方法であってもよい。
【0039】
脱燐処理後の溶銑は、転炉に移送して脱炭精錬を行ってもよく、あるいは予備処理炉1で脱燐スラグを排滓した後、脱炭精錬を行ってもよい。
このようにして製造された脱燐溶銑は、転炉において、溶鋼(溶融鋼鉄)へと転換される。そして、転炉から出鋼された溶鋼は、さらに硫黄等を取り除いたり、合金元素を添加したりする等、成分を微調整する二次精錬を行う。その後、圧延工程で加工しやすくするため、鋳造工程へ運ばれる。
【0040】
本発明は、以上説明したとおりであるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更を加えてもよい。
例えば、耐火物反応容器中の溶銑に、酸素源を供給すると共に、石灰を主成分とする石灰源を供給する反応物質供給工程と、この反応物質供給工程で、酸素源、および、石灰を主成分とする石灰源を供給した溶銑を、耐火物反応容器を加圧状態とすることで加圧する加圧工程と、を含み、この加圧工程の溶銑において、xを圧力とし、CaOをSiOで割った値(CaO/SiO)である塩基度を、1.89x−1.21以上1.5以下に制御するものであってもよい。
【0041】
また、加圧工程による溶銑の加圧と、反応物質供給工程による酸素源、および、石灰源の供給を、同時に行ってもよい。すなわち、溶銑の加圧を行いながら、酸素源、および、石灰源の供給を行ってもよい。さらに、酸素源、および、石灰源は、耐火物反応容器内に、どちらを先に供給してもよく、同時に供給してもよい。
【0042】
そして、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、撹拌用ガスを吹き込む撹拌用ガス供給工程や、酸素源を予備的に送酸する予備的送酸工程や、得られた脱燐溶銑から異物を除去する異物除去工程等、他の工程を含めてもよい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明に係る脱燐溶銑の製造方法について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
加圧設備を有する高周波誘導溶解炉にて、溶銑の脱燐処理を実施した。溶銑量は、1ヒート当たり2kgとし、酸素源としては、試薬品の1mmアンダー酸化鉄(III)粉末を用い、石灰源としては生石灰粉末を用いた。酸化鉄(III)粉末の投入量は、実施例、比較例の全ヒート共に、脱珪(Si)必要酸素量+13m(Normal)となるように決定した。また、生石灰粉末の投入量は、溶銑中のSi濃度から処理中に発生するSiO量を計算し、それから目標とする塩基度に必要なCaO量を計算することで決定した。なお、酸化鉄(III)粉末、石灰粉末は、全て処理開始時に投入した。
【0044】
また、実施例、比較例の全ヒートにおいて、処理時間を10分とし、所定の圧力に加圧した溶銑にフラックス(試薬品の1mmアンダー酸化鉄(III)粉末および生石灰粉末)を投入した時間を処理開始時間として、10分経過後の溶銑サンプルおよびスラグサンプルを採取して分析に供した。また、処理温度は溶融炉に付属する温度制御装置により、処理中1350℃に保った。
【0045】
処理後の溶銑サンプルの燐(P)の成分分析は、モリブド燐酸青吸光光度法で分析した。未滓化石灰(f−CaO)の分析は、スラグサンプルを粉砕して磁選し、粒鉄を除去した後、エチレングリコール分解原子吸光法により行った。また、CaO、SiO等、その他の成分は、誘導結合プラズマ発光分光法で分析した。
【0046】
P濃度については、処理後のP濃度が0.030質量%以下であれば、その後の脱炭精錬時においても脱燐が起きることから、最終的に製造される一般的な鋼種のP濃度が問題ないレベルとなる。そのため、P濃度についての判定(処理後P判定)は、0.030質量%以下のものを、脱燐溶銑のP濃度が低いものとして、合格(○)、0.030質量%を超えるものを、P濃度が高いものとして、不合格(×)とした。
【0047】
また、f−CaO濃度についての判定(f−CaO判定)は、脱燐スラグ中のf−CaO濃度が3質量%を超えると、JIS路盤材規格の膨張率を満たさなくなるおそれがあるため、3質量%以下のものを、脱燐スラグ中のf−CaO濃度が低いものとして、合格(○)、3質量%を超えるものを、脱燐スラグ中のf−CaO濃度が高いものとして、不合格(×)とした。
【0048】
これらの結果を表1に示す。また、本実施例における圧力と塩基度との関係を図5に示し、本実施例における塩基度と未滓化石灰(f−CaO)との関係を図6に示す。なお、表1中、「T.Fe」は、脱燐スラグ中の全鉄量である。また、表1、図5、6では、便宜上、塩基度を「C/S」としている。
【0049】
【表1】

【0050】
表1、図5、6に示すように、実施例1〜5は、塩基度が本発明の範囲を満たすため、脱燐処理後の燐の濃度が低く、かつ、f−CaOの濃度も低かった。これに対して、比較例1〜3は、塩基度が本発明の範囲の下限値未満のため、脱燐処理後の燐の濃度が高かった。比較例4、5は、塩基度が本発明の範囲の上限値を超えるため、f−CaOの濃度が高かった。また、図6から、塩基度が1.5以下の場合、f−CaO濃度が低いことがわかる。
【0051】
以上、本発明に係る脱燐溶銑の製造方法について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】脱燐処理における脱燐反応を説明するための模式図であり、(a)は、通常時、(b)は、加圧時の脱燐反応を説明するための模式図である。
【図2】本発明で規定する溶銑の塩基度の範囲を示すグラフである。
【図3】未滓化石炭の水和膨張反応により、路盤表面に生じる欠陥について説明するための模式図である。
【図4】脱燐処理の一例を説明するための転炉型の予備処理炉の模式図である。
【図5】本実施例における圧力と塩基度との関係を示すグラフである。
【図6】本実施例における塩基度と未滓化石灰(f−CaO)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 予備処理炉(耐火物反応容器)
2 溶銑
3 冷材
4 炉口フード
5 底吹き羽口
6 上吹きランス
7 排ガスダクト
8 圧力調節弁
9 ホッパー
10 排ガス処理・回収設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力下で溶銑に脱燐処理を施す脱燐溶銑の製造方法であって、
耐火物反応容器中の前記溶銑を、前記耐火物反応容器を加圧状態とすることで加圧する加圧工程と、
前記加圧状態とした耐火物反応容器中の前記溶銑に、酸素源を供給すると共に、石灰を主成分とする石灰源を供給する反応物質供給工程と、を含み、
前記反応物質供給工程の前記溶銑において、xを圧力とし、CaOをSiOで割った値(CaO/SiO)である塩基度を、1.89x−1.21以上1.5以下に制御することを特徴とする脱燐溶銑の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−203491(P2009−203491A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44152(P2008−44152)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】