説明

脱硝装置

【課題】 水銀の酸化率を向上させ、かつ、脱硝装置を大型化することなく脱硝率を高くすることにある。
【解決手段】 排ガスが通流する煙道に設けられ、煙道内にアンモニアを注入するアンモニア注入手段と、注入されたアンモニアを含む排ガスが導入され、排ガス中の窒素酸化物を還元するとともに排ガス中の水銀を酸化する触媒層17と、アンモニアの注入量を制御する制御装置13を有する脱硝装置1において、触媒層17は排ガスの流れ方向に間隔を有して複数の触媒層に分割して形成され、制御装置13は触媒層17の少なくとも最終段の触媒層の入側の排ガス中のアンモニア濃度が0ppmを超えて5ppm以下になるようアンモニアの注入量を制御し、水銀の酸化率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝装置に係り、特に、排ガス中の窒素酸化物を還元するとともに、排ガス中の水銀を酸化する脱硝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭や石油などをボイラで燃焼させて発生した排ガスには、窒素酸化物や微量の水銀などの有害物質が含まれることから、脱硝装置を含む排ガス処理装置で排ガスを浄化して煙突などから放出することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ボイラで石炭を燃焼させて発生した排ガスが通流する煙道内にアンモニアを注入し、アンモニアを含む排ガスを触媒層に導入して、窒素酸化物を窒素に還元する脱硝装置が提案されている。また、同じ触媒層で排ガス中の塩化水素と水銀を反応させて塩化水銀を生成し、その塩化水銀を後段の湿式脱硫装置の吸収液に溶解させて、排ガスから水銀を除去するようにしている。
【0004】
しかし、生成した塩化水銀がアンモニアと反応して、難溶性の金属水銀に還元されるため、湿式脱硫装置における除去率が低下するという問題がある。そこで、同文献によれば、触媒層の後流に触媒層を配置し、前段の触媒層で窒素酸化物を還元し、後段の触媒層で水銀を酸化するようにし、特に、前段の触媒層の脱硝率に応じてアンモニアの注入量を制御することにより、後段の触媒層にアンモニアが導入されないようにして、金属水銀に還元されることを防止して、水銀の酸化率を向上させている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−167698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の脱硝装置は、後段の触媒層にアンモニアが導入されないようにするため、前段の触媒層で注入したアンモニアの全量を消費させる必要がある。ところで、アンモニアの注入量を減らすと脱硝率が低下するおそれがあり、高い脱硝率を確保するには、触媒層を大きくして排ガスの滞留時間を長くする必要があり、脱硝装置が大型化することになる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、水銀の酸化率を向上させ、かつ、脱硝装置を大型化することなく脱硝率を高くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、触媒層での水銀の酸化反応に対するアンモニアの影響を調べるため、排ガス中のアンモニア濃度と水銀の酸化活性の関係について研究した。その結果、触媒層に導入される排ガス中のアンモニア濃度を5ppm以下にすると水銀の酸化活性の上昇が顕著になることを見いだした。
【0009】
このような知見に基づき、上記課題を解決するため、本願発明は、排ガスが通流する煙道に設けられ、煙道内にアンモニアを注入するアンモニア注入手段と、注入されたアンモニアを含む排ガスが導入され、排ガス中の窒素酸化物を還元するとともに、排ガス中の水銀を酸化する触媒層と、アンモニアの注入量を制御する制御手段を有する脱硝装置において、触媒層は排ガスの流れ方向に間隔を有して複数の触媒層に分割して形成され、制御手段は触媒層の少なくとも最終段の触媒層の入側の排ガス中のアンモニア濃度が0ppmを超えて5ppm以下になるようにアンモニアの注入量を制御することを特徴とする。
【0010】
これによれば、排ガスにアンモニアが含まれている場合であっても、水銀の酸化率を向上できることから、触媒層の上流側でアンモニアを全量消費する必要がない。そのため、排ガスに余剰のアンモニアを注入できることから、脱硝装置を大型化することなく、高い脱硝率を確保できる。
【0011】
この場合において、排ガス中のアンモニア濃度を窒素酸化物検出器の検出値からアンモニア濃度を推定することで、既設の脱硝装置などの窒素酸化物検出器を利用でき、本発明を実施するための費用を低減できる。
【0012】
また、複数段の前記触媒の間にアンモニア検出器を設け、排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水銀の酸化率を向上でき、かつ、脱硝装置を大型化することなく脱硝率を高くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。図1に本実施形態の脱硝装置の概念図を示す。本実施形態の脱硝装置1はアンモニア接触還元法により排ガスを脱硝するものであり、例えば、図示していない石炭火力発電ボイラから排出された排ガス3が脱硝装置入口側の煙道5内を流通するようになっている。煙道5には、排ガス流量検出装置8が備えられ、煙道5内を通流する排ガス3の流量を検出できるようになっている。排ガス3の流量検出位置の後流には、煙道5の外側に位置するサンプリング配管7の一端が接続されている。サンプリング配管7は、煙道5内を通流する排ガス3の一部を吸入するようになっている。サンプリング配管7の他端には、排ガス3中の窒素酸化物を検出する検出器9が設けられている。サンプリング配管7の接続位置と後述する触媒層17の間には、煙道内にアンモニアを注入するアンモニア注入管11が接続されている。アンモニア注入管11の他端にはアンモニアの供給手段12が接続されている。アンモニア注入管11の流路途中には、弁14が取り付けられ、弁14の開度を調整することで、煙道5内に注入するアンモニアの注入量を調整できるようになっている。弁14には、アンモニアの注入量を制御する制御装置13が取り付けられている。制御装置13には、演算器15が備えられている。なお、アンモニア注入管11は、図示してないが、煙道5内に設けたアンモニア注入ノズルにアンモニアを供給して排ガスに注入する。
【0015】
アンモニア注入管11の接続位置の後流の脱硝装置1内には、触媒層17が配置されている。触媒層17は、例えば、Ti/Mo/Vの3元触媒で形成され、排ガス3中の窒素酸化物とアンモニアの反応を促進し、かつ、同一の触媒層17で塩化水素による水銀の酸化反応を促進できるようになっている。触媒層17は、排ガス3の流れ方向に間隔を有して複数層(本実施形態では4つ)に分割して形成されている。複数層の触媒層17の層間には、脱硝装置1の外側に位置するサンプリング配管19の一端が接続されている。サンプリング配管19は、触媒層17の層間で排ガス3をサンプリングできるようになっている。サンプリング配管19の他端には窒素酸化物濃度を検出する検出器25が取り付けられている。触媒層17を通過した排ガス29は、脱硝装置1の出口側の煙道27内を通流して脱硝装置1の後段に設けられる図示していない湿式脱硫装置などに導入されるようになっている。
【0016】
次に、本実施形態の脱硝装置1の動作を説明する。煙道5内を通流する排ガス3には、アンモニア注入管11からアンモニアが注入される。アンモニアの注入量は、後述する制御装置13の制御により、触媒層17の少なくとも最終段の触媒層の入側の排ガス中のアンモニア濃度が0ppmを超えて5ppm以下になるよう調整されている。アンモニアを含む排ガス3は、触媒層17に導入される。触媒層17の上流側では、排ガス3中に含まれる窒素酸化物と酸素及びアンモニアが反応し、窒素酸化物を還元して窒素と水が生成される。これにより、排ガス3から窒素酸化物を除去できる。触媒層17の下流側のアンモニア濃度が低い領域では、金属水銀と排ガス3中に含まれる塩化水素が次式1に示すように反応し、水銀が2価の塩化水銀に酸化される。
Hg+ 2HCl+1/2O → HgCl+ HO・・・(1)
つまり、触媒層17は、排ガス3中の窒素酸化物を還元するとともに排ガス3中の水銀を酸化する。脱硝され塩化水銀を含む排ガス29は、脱硝装置1の後段に設けられた湿式脱硫装置などに導入され、吸収液が散布され、塩化水銀を吸収液に溶解させて排ガス29から塩化水銀を分離することで、排ガスから水銀を除去できる。
【0017】
ここで、アンモニア注入量の制御方法を説明する。煙道5では、排ガス流量検出装置8により触媒層17に導入される排ガス3の流量が検出され、この流量に応じた信号fが演算器15に入力される。また、サンプリング配管7内を通流した排ガス3を検出器9に導入し、排ガス3中の窒素酸化物量が検出し、この検出値に応じた信号iが演算器15に入力される。一方、サンプリング配管19を通流した排ガス3は検出器25に導入され、サンプリング位置における排ガス3中の窒素酸化物量が検出され、これに応じて信号mが演算器15に入力される。演算器15は、信号fとiにより、脱硝反応に必要なアンモニア量を演算すると同時に、排ガス3の流量とアンモニアの必要量から、アンモニア注入量aを出力する。演算器15は、触媒層17の入口側の窒素酸化物量iと触媒層17のサンプリング位置の窒素酸化物量mの差分量から、消費されたアンモニア量を演算する。演算器15は、次式2に示すように、アンモニア注入量aと入口側と出口側の窒素酸化物量の差分(i−m)からアンモニアの消費量を求め、アンモニア注入量aとアンモニア消費量の差からサンプリング配管19の位置における未反応アンモニア量cを演算する。
c=a−(i−m)・・・(2)
そして、未反応アンモニア量cからサンプリング配管19の位置における排ガス3中のアンモニア濃度を求め、このアンモニア濃度が0ppmを超えて5ppm以下になるよう制御装置7が弁14の開度を調整し、アンモニア注入量を制御する。これにより、触媒層17のサンプリング配管19の後流側に導入される排ガス3中のアンモニア濃度を0ppmを超えて5ppm以下にできる。なお、窒素酸化物とアンモニアの反応は等モル反応であるため、脱硝反応前後の窒素酸化物量からアンモニアの消費量を求めることができる。また、本実施形態では、脱硝前後の窒素酸化物の差分量から未反応のアンモニア量を推定しているが、検出器25をアンモニアを検出する検出器とし、サンプリング配管19の位置の未反応のアンモニア濃度を直接検出することができる。
【実施例】
【0018】
次に、排ガス中のアンモニア濃度と水銀の酸化率について試験をした結果について説明する。試験に使用した触媒は、チタニア粉末(比表面積=約90m2/g)、モリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウムとシリカゾル、水及びシリカ系無機繊維を加えてニーダなどで混練し、組成が原子比でTi/Mo/V=93/5/2となる触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを加圧ローラにより、SUS430製帯鋼をメタルラス加工して目開きが約2mmの網状基材に圧着して厚さ0.7mmの板状触媒に成型した。さらに、この板状触媒を150℃で2時間乾燥後、大気中500℃で2時間焼成して、試験に供する触媒とした。
【0019】
この触媒を用いて、Hg酸化反応に対するNH濃度の影響を見るため、図2に示す組成のガスを排ガスとし、図2に示す測定条件で、アンモニア(NH)濃度に対する触媒の水銀(Hg)酸化活性を評価した。その結果を第3図に示す。図3の縦軸はHg酸化活性比であり、横軸はNH濃度(ppm)である。本試験結果から明らかであるように、NH濃度が少なくなるにつれ、Hg酸化活性が向上することが分かる。特に、NH濃度が5ppm以下になるとき、Hg酸化活性の上昇が顕著になっている。
【0020】
これによれば、排ガス3に5ppm以下のアンモニアが含まれている場合であっても、水銀の酸化率を向上できることから、触媒層の上流側でアンモニアを全量消費する必要がない。そのため、その分だけ排ガスに余剰のアンモニアを注入できることから、脱硝装置を大型化することなく、高い脱硝率を確保できる。
【0021】
特に、排ガス3中に含まれるアンモニアは、触媒の活性点に優先的に吸着し、水銀の酸化反応を阻害することから、触媒層17にアンモニア濃度が5ppm以下の領域を形成することで、アンモニアが触媒に吸着することを抑制でき、水銀の酸化率を向上できる。
【0022】
なお、触媒層17を形成する触媒の充填量は、例えば、触媒の面積速度によって選択することができる。図4にNH/NOx比を0.9(脱硝率の最大値90%)に設定し、実施例と同一の触媒に図5の条件でガスを導入した場合の、面積速度(AV)、脱硝率(%)、ガス中アンモニア濃度(ppm)の関係を示す。図4の線50は、脱硝率(%)とAV(m/h)の関係を示すものであり、線52は、排ガス中のアンモニア濃度(未反応NH濃度)(ppm)とAV(m/h)の関係を示すものである。AV値をパラメータとして、触媒出口の脱硝率及び脱硝反応に使われなかった未反応NH濃度の変化を見ると、AV値が十分低い(触媒充填量が多い)ときは、最大脱硝率90%を維持でき、かつ、未反応NH濃度が5ppm以下であることがわかる。
【0023】
一方,AV値が高く(触媒充填量が少なく)なると、未反応NH濃度が高くなり、それに伴って脱硝率も徐々に低下する。この結果により、AV値が30m/h以下の範囲であれば,脱硝率を大きく低下させること無く、未反応NH濃度を5ppm以下にできることが分かる。
【0024】
これによれば、触媒層17をボイラなどの定常負荷運転時にAV値が30m/h以下に相当するものとし、さらに、負荷変動等で未反応NH濃度が変化した際には、この未反応NH濃度が常に0ppmを超えて5ppm以下を維持するようにアンモニア注入量を制御することができる。
【0025】
また、サンプリング配管19の位置は本実施形態に限定されるものではなく、位置21や位置23などにすることができる。例えば、触媒層17でのアンモニア濃度や脱硝率は、排ガス温度やNH/NOx比の設定値や触媒の種類、触媒の経時的な劣化状態などの運用条件によって変化するから、運用条件に合ったサンプリング位置を選択することができる。
【0026】
また、脱硝装置1の入口の窒素酸化物量に代えて、触媒層17の中間の1段の触媒層の入側及び出側の窒素酸化物量を検出してアンモニアの消費量を推定することができる。
【0027】
なお、本実施形態のように、触媒層17の層間の窒素酸化物量を検出することに代えて、触媒層17の出口側の窒素酸化物量を検出してアンモニア注入量を制御することも考えられる。この場合、ボイラの負荷変動などにより、NOx濃度が変化すると、触媒層17から排ガスが排出されるまで排ガス3の窒素酸化物濃度を検出できず、アンモニアの注入制御の応答性が悪くなるおそれがある。しかし、本実施形態は触媒層17の層間で窒素酸化物量やアンモニア量を検出できることから、脱硝装置1の入口から排ガス組成の検出位置までの触媒量が少なく、触媒へのアンモニア吸着及び脱硝反応の安定化までに要する時間が短くなり、アンモニア注入制御系統への応答性を速められ、脱硝装置1を安定して運転できる。
【0028】
また、本実施形態は、水銀の酸化率を向上できることから、例えば、ボイラでCl含有量の少ないPRB炭(亜瀝青炭)などを燃料とする場合に有効である。
【0029】
また、脱硝装置1での水銀の酸化率を向上し、湿式脱硫装置などで排ガスから除去できる水銀量を多くできることから、排ガス処理装置に別途水銀除去装置を設けることなく、排ガスの水銀除去率を向上できる。
【0030】
また、触媒層17の下流側のアンモニア濃度が低い領域に水銀酸化性能の高い触媒を配置することで、水銀の酸化率をより一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態の脱硝装置の概念図である。
【図2】本発明の実施例の試験条件を示す図である。
【図3】アンモニア濃度と水銀酸化活性比の関係を示す図である。
【図4】面積速度、脱硝率、アンモニア濃度の関係を示す図である。
【図5】図4の試験条件を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 脱硝装置
3 排ガス
9 検出器
11 アンモニア注入管
13 制御装置
17 触媒層
25 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスが通流する煙道に設けられ、前記煙道内にアンモニアを注入するアンモニア注入手段と、注入された前記アンモニアを含む排ガスが導入され、排ガス中の窒素酸化物を還元するとともに前記排ガス中の水銀を酸化する触媒層と、前記アンモニアの注入量を制御する制御手段を有する脱硝装置において、
前記触媒層は排ガスの流れ方向に間隔を有して複数の触媒層に分割して形成され、前記制御手段は前記触媒層の少なくとも最終段の触媒層の入側の排ガス中のアンモニア濃度が0ppmを超えて5ppm以下になるよう前記アンモニアの注入量を制御することを特徴とする脱硝装置。
【請求項2】
請求項1に記載の脱硝装置において、
前記アンモニア濃度は、前記最終段の触媒層より上流の前記触媒層の入側及び出側に設けられる窒素酸化物検出器の検出値から推定されることを特徴とする脱硝装置。
【請求項3】
請求項1に記載の脱硝装置において、
前記アンモニア濃度は、複数段の前記触媒の間に設けられるアンモニア検出器で検出することを特徴とする脱硝装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−115611(P2010−115611A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291725(P2008−291725)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】