説明

脱硝触媒の再生方法

【課題】本発明の目的は、触媒被毒した脱硝触媒、特に灰分の付着によりその活性が低下した脱硝触媒を効果的に再生する方法を提供することである。
【解決手段】前記課題を解決することができた本発明の再生方法は、劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄した後、さらにバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガス等に含まれる窒素酸化物(NOx)を除去するための脱硝触媒の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所などの発電設備から排出される排ガスにはNOxが含まれるが、大気汚染防止の観点から排出NOxを除去する必要がある。NOxの除去方法としては、湿式の液相酸化法や乾式の無触媒還元法、選択的接触還元法などがあるが、アンモニア(NH3)を還元剤として触媒によりNOxを窒素に還元する接触還元法(アンモニアSCR法)が広く用いられている。
【0003】
アンモニアSCR法は、排ガス中に微量の酸素が含まれていても、触媒の作用によりNOxとNH3が選択的に反応し、NOxを窒素に還元させることができる優れた脱硝技術である。触媒としては、担体にチタニアを使用し、バナジウムとタングステンを担持したものが古くから利用されている。しかしながら、このような脱硝触媒は排ガス処理設備内で長時間使用すると、いわゆる触媒被毒によりその性能が低下する。触媒被毒は、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分や砒素などの元素が触媒に付着することに起因するもの、触媒が高温下でシンタリングし、触媒結晶粒子が粗大化することにより活性が低下するもの、排ガス中の灰分が触媒表面に付着することにより脱硝性能が低下するものなど、様々な原因が存在する。燃焼排ガス中にダストを多く含む石炭焚ボイラーの場合は、灰分(ダスト)の触媒表面への付着が脱硝触媒の触媒劣化の主要な原因となる。
【0004】
脱硝触媒は高価であるため、触媒表面への灰分の付着による被毒に対して、従来から種々の触媒の再生方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、脱硝触媒の再生に際し、触媒表面に付着したダスト成分を物理的に除去した後、触媒表面に触媒活性成分を含浸或いはコーティングして再担持する方法が開示されている。また、ダスト成分の除去方法として、ハニカム触媒のセル内を直接ブラシで清掃したり、エアーブローやサンドブラストで除去したり、或いは水洗や超音波洗浄を行う方法などが挙げられている。しかしながら、脱硝触媒の触媒表面には凹凸が存在し、凹部にもダストが付着するため、このような機械的な処理によりダストの除去処理を行っても、触媒表面のダストを十分に除去することはできない。
【0006】
また、特許文献2にはフッ化水素を含む洗浄液で脱硝触媒を洗浄する方法が、さらに、特許文献3には触媒をフッ化水素、フッ化水素アンモニウムおよび/またはフッ化水素アルカリを含む水性媒体に浸漬し、水洗、乾燥する方法が開示されている。これらの方法では、触媒上に付着したシリカ成分やリン化合物などの灰分を除去することは可能であるが、本発明者らの検討では、フッ化水素を含む溶液で処理すると触媒の性能低下が起こることが分かった。また、シリカをフッ化水素を含む溶液で処理すると、その際に主成分として生じるフッ化シリコン(SiF4)が触媒中に残留するおそれがある。フッ化シリコンの乾燥固化体を吸い込むと人体に有害である。残留したフッ化シリコンの乾燥固化体は発電装置を稼動させたときに排ガスとともに放出されてしまうため、安全性に問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−74106号公報
【特許文献2】特開平10−235209号公報
【特許文献3】特許第2659802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒被毒した脱硝触媒、特に灰分の付着によりその活性が低下した脱硝触媒を効果的に再生する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、下記の方法を採用することにより、劣化した脱硝触媒を効果的に再生できることを見出した。
【0010】
本発明に係る一つの脱硝触媒の再生方法は、劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄した後、さらにバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄することを特徴とするものである。このように、フッ化物塩の水溶液で洗浄することにより、触媒に付着したシリカなどの灰分を効果的に除去することができる。また、洗浄後の触媒をさらにバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で処理することにより、触媒の性能低下を起こさずに触媒の再生を行うことができる。
【0011】
前記フッ化物塩の水溶液はpH6〜8.5の中性域に調整されたものが好ましい。フッ化物塩の水溶液のpHを中性域に調整することにより、酸やアルカリの作用による脱硝触媒中の活性成分の溶出を抑えることができるため、触媒の性能を十分に回復させることが可能となる。また、pHが酸性域にあるとフッ化物塩がフッ酸へ変わるが、pHを中性域に維持すれば、フッ酸という危険物の使用を避けることができ、安全に洗浄操作を行うことが可能となる。
【0012】
前記バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液は、フッ化物塩をさらに含むことも可能である。
【0013】
また、触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄する処理と、洗浄後の触媒をバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄する処理との間に、触媒を乾燥する処理を行うことが好ましい。このように、乾燥処理を行うことにより、触媒表面、特に表面の凹部に残存した洗浄液成分であるフッ化物塩の水溶液を除去することができるため、後にバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で処理する際に、触媒活性成分であるバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を触媒表面に効率的に担持させ、触媒の再生効率を高めることが可能となる。
【0014】
本発明に係るもう一つの脱硝触媒の再生方法は、劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物とを含む水溶液で洗浄した後、さらに水で洗浄することを特徴とするものである。この方法によっても、前記方法と同様の再生効果を得ることができる。
【0015】
この方法において、触媒をフッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物とを含む水溶液で洗浄する処理と、洗浄後の触媒を水で洗浄する処理の間に、触媒を乾燥する処理を行うことが、触媒の再生効率の向上にも有効であるため、好ましい。
【0016】
前記二つの再生方法で使用されるフッ化物塩としては、フッ化アンモニウムが好適である。また、バナジウム化合物としては、バナジウムの無機酸塩、バナジウムの有機酸塩、バナジウム酸およびその塩から選択することができるが、シュウ酸塩あるいは硫酸塩であることが好ましい。さらに、タングステン化合物としては、タングステンの無機酸塩、タングステンの有機酸塩、タングステン酸およびその塩から選択することができるが、メタタングステン酸アンモニウムおよび/またはタングステン酸鉄であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、触媒表面への灰分の付着により劣化した脱硝触媒を効果的に再生する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】脱硝性能の評価に用いる試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0020】
本発明に係る一つの脱硝触媒の再生方法は、劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄した後、さらにバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄することを特徴としている。
【0021】
劣化した脱硝触媒を先にフッ化物塩の水溶液で洗浄することにより、触媒表面に付着した触媒劣化要因であるシリカなどの灰分を効果的に除去することができる。
【0022】
前記フッ化物塩としては、さまざまな塩が利用できるが、安全性の点から、フッ化アンモニウムが好適に利用できる。
【0023】
前記フッ化物塩の水溶液のpHは、6以上であることが好ましく、6.5以上であることがより好ましく、8.5以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。例えば、フッ化物塩としてフッ化アンモニウムを使用した場合、得られた未調整の水溶液のpHは酸性を呈するが、各種のアルカリやキレート剤などのpH調整剤を用いることで、水溶液のpHを前記中性域に維持することが望ましい。
【0024】
フッ化物塩の水溶液のpHを前記中性域に維持することにより、酸やアルカリの作用による脱硝触媒中の活性成分の溶出を抑えることができるため、触媒の性能を十分に回復させることが可能となる。また、pHが酸性域にあるとフッ化物塩がフッ酸へ変わるが、pHを中性域に維持すれば、フッ酸という危険物の使用を避けることができ、安全に洗浄操作を行うことが可能となる。
【0025】
前記フッ化物塩の水溶液はアルカリ金属を含まないものであることが望ましい。アルカリ金属は脱硝触媒の活性点であるS(硫黄)、酸化バナジウム、酸化タングステンと結合し、触媒活性を失わせるためである。
【0026】
前記フッ化物塩の水溶液におけるフッ化物塩の濃度は、特に限定されないが、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。フッ化物塩の濃度を前記範囲とすることにより、灰分洗浄効果を得るとともに、触媒洗浄に使用される際の安定性も確保できる。一方、濃度が2質量%未満では、十分な灰分洗浄効果が得られないおそれがあり、30質量%を超えると、フッ化物塩が分解してフッ化水素が生成するおそれがある。
【0027】
前記フッ化物塩の水溶液の温度は、特に限定されないが、5℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。フッ化物塩の水溶液の温度を前記範囲と維持することで、灰分洗浄効果を維持するとともに、フッ化水素の生成を防止することができる。一方、温度が5℃未満では、溶液の粘性が大きくなるため触媒への浸透性が悪くなり、さらに凍結するおそれがある。また、50℃を超えると、水溶液中のフッ化物塩が分解してフッ化水素が生成するおそれがある。
【0028】
次に、フッ化物塩の水溶液で洗浄した後の触媒を、バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄する。この洗浄処理により、触媒の性能低下を起こさずに触媒の再生を効果的に行うことができる。
【0029】
前記バナジウム化合物は、特に限定されず、シュウ酸バナジウム、硫酸バナジウムなどのバナジウムの無機酸塩やバナジウムの有機酸塩、五酸化バナジウム、メタバナジン酸などのバナジウム酸およびその塩から選択することができる。バナジウム酸の塩としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウムなどが挙げられる。また、化学的安定性が高く、かつ入手が比較的容易である硫酸塩が好適に利用できる。
【0030】
前記タングステン化合物は、特に限定されず、シュウ酸タングステンなどのタングステンの無機酸塩やタングステンの有機酸塩、タングステン酸およびその塩から選択することができる。タングステン酸の塩としては、例えば、タングステン酸鉄やメタタングステン酸アンモニウムが挙げられる。また、酸性条件下で水に溶解し、入手が比較的容易である点から、メタタングステン酸アンモニウムおよび/またはタングステン酸鉄が好ましい。
【0031】
前記バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液に、フッ化物塩をさらに添加することも可能である。
【0032】
前記バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液におけるバナジウム化合物とタングステン化合物の総濃度は、特に限定されないが、金属量で計算すると、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。バナジウム化合物とタングステン化合物の総濃度を前記範囲とすることにより、洗浄の際に脱離した触媒活性成分を十分に補充するため、触媒の活性を維持することができる。一方、総濃度が1質量%未満では、触媒活性成分を触媒表面に効率的に担持させることができないおそれがあり、10質量%を超えると、触媒の酸化力が強くなりすぎて、その結果、排ガス中のSO2を酸化するという副反応が生じてしまうおそれがある。
【0033】
前記バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液にフッ化物塩をさらに含有する場合、該水溶液におけるフッ化物塩の濃度は、特に限定されないが、前記フッ化物塩を含む水溶液と同様の濃度範囲を採用することが好ましい。
【0034】
前記バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液の温度は、特に限定されないが、フッ化物塩をさらに含有する場合、前記フッ化物塩を含む水溶液と同様の温度範囲を採用することが好ましい。
【0035】
なお、この再生方法において、触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄する処理と、洗浄後の触媒をバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄する処理の間に、触媒を乾燥する処理を行うことが好ましい。このように、乾燥処理を行い、触媒表面、特に表面の凹部および細孔内に残存した洗浄液等に含まれる水を除去し、触媒表面を露出させることにより、後にバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で処理する際に、触媒活性成分であるバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を触媒表面により効率的に担持させることができ、触媒の再生効率を高めることが可能となる。その理由については、触媒表面の凹部や細孔内に水が残っていると、表面張力等によりバナジウム化合物および/またはタングステン化合物の浸透が阻害されるため担持率が悪化するが、水を乾燥処理で除去することで担持率の悪化を改善すると考えられる。
【0036】
以上のように、フッ化物塩の水溶液と、バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液を別々に用意して、2回に分けて洗浄処理を行うことで劣化した脱硝触媒を再生させることができる。
【0037】
本発明に係るもう一つの脱硝触媒の再生方法は、劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物とを含む水溶液で洗浄した後、さらに水で洗浄することを特徴としている。
【0038】
本発明者らは、このように、フッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物との両方を含む水溶液を調製して、この水溶液で触媒を洗浄した後、さらに水で洗浄する操作によっても、前記方法と同様の再生効果が得られることを見出した。即ち、この方法において、灰分を除去する処理と触媒の活性を回復させる処理を同時に行って、その後、水で洗浄すれば、劣化した脱硝触媒を効果的に再生することが可能である。
【0039】
この方法で使用しうるフッ化物塩、バナジウム化合物、タングステン化合物は、前記したものを使用すれば良い。
【0040】
前記と同様の理由で、前記水溶液はアルカリ金属を含まないものであることが望ましい。
【0041】
前記水溶液におけるフッ化物塩の濃度は、特に限定されないが、前記フッ化物塩を含む水溶液と同様の濃度範囲を採用することが好ましい。
【0042】
前記水溶液におけるバナジウム化合物とタングステン化合物の総濃度は、特に限定されないが、前記バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液と同様の濃度範囲を採用することが好ましい。
【0043】
前記水溶液の温度は、特に限定されないが、前記フッ化物塩を含む水溶液と同様の温度範囲を採用することが好ましい。
【0044】
また、この方法では、洗浄後の触媒をさらに水で洗浄する。水で洗浄することにより、フッ化物塩の脱硝触媒への残留を抑えることができる。一方、脱硝触媒中にフッ化物塩が残留していると、脱硝中に排ガスから受ける熱によりフッ化水素として脱離してしまうおそれがある。
【0045】
なお、この再生方法において、触媒をフッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物とを含む水溶液で洗浄する処理と、洗浄後の触媒を水で洗浄する処理の間に、触媒を乾燥する処理を行うことが、触媒の再生効率の向上にも有効であるため、好ましい。
【0046】
本発明の再生方法において、各水溶液または水で触媒を洗浄する方法としては、特に限定されず、散液法、液浸法などの方法が挙げられる。洗浄時間は特に限定されるものではないが、十分洗浄できる程度で、1分〜5分が好ましい。
【0047】
また、洗浄後の触媒を乾燥する際の乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、自然乾燥や減圧乾燥が適用できるが、50℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0048】
なお、本発明の再生方法に使用し得る劣化触媒は、チタニア担体にバナジウムおよび/またはタングステンを担持し、脱硝後に活性が低下したものなどが挙げられる。特に、石炭焚ボイラーからの燃焼排ガスの脱硝に用いた後のものが好適に使用できる。また、脱硝触媒の形状も限定するものではなく、ハニカム形状、プレート形状、コルゲート形状などを使用することができる。
【0049】
本発明の再生方法により得られた脱硝触媒は、そのまま再使用することも可能であるが、300〜400℃、2〜24時間の条件で、酸素存在下で焼成した後に再使用することが好ましい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
<洗浄方法>
各水溶液または水での洗浄操作は、水溶液または水をポンプで循環しながら、試験用の脱硝触媒に散液する方法で行った。処理条件としては、洗浄時間が4.5分間、水溶液または水の温度および雰囲気の温度がそれぞれ常温であった。
【0052】
<脱硝性能の評価>
脱硝触媒の脱硝性能は、下記の方法で評価した。
【0053】
(I)反応後のガス中のNOx濃度
図1に示す試験装置を用いて、反応後のガス中のNOx濃度を測定した。まず、評価用の脱硝触媒を本体ヒータ14で温調した反応器15に充填した上で、脱硝触媒(温度371℃)内に、反応器15の入口側ヒータ13で加熱した被処理ガス(流量19.75NL/min、SV値11237h-1、LV値86.3cm/s、AV値21.7m3/m2h)を流通させた。その後、反応後のガス中の水分をドレン除去器16で除去した後、NOx計17を使用してNOx濃度を測定した。
【0054】
被処理ガスは、窒素ボンベ5およびNOボンベ6のガスを予熱器12で加熱したガスと、空気ボンベ4の空気に水槽1の水を加湿ポンプ2で添加した後に水気化器3で気化させた加湿空気とを混合したガスに、さらにNH3ボンベ7のガスを混合したもの(NOx230ppm(体積濃度)、O22.8%(体積濃度)、H2O11%(体積濃度)、NH3210ppm(体積濃度)、バランスN2)とした。ガス流量の調整はそれぞれ流量計8〜11で行った。
【0055】
(II)脱硝触媒の反応速度定数
アンモニアSCR法による脱硝の総括反応は、式(1)で表される。
4NO + 4NH3 + O2 → 4N2 + 6H2O (1)
ガス中のNOx濃度をCA、反応時間(ガスと触媒との接触時間)をt、反応速度定数をkで表すと、式(1)の脱硝反応はNOx濃度に対して式(2)で表される一次反応である。
−dCA/dt = kCA (2)
従って、脱硝触媒の反応速度定数kとガス中のNOx濃度CAおよび反応時間tとの関係は式(3)で表される。
kt = −ln(CA/CA0) (3)
(ここで、CA0はt=0時のNOx濃度(触媒と接触する前の被処理ガス中のNOx濃度)である。)
脱硝触媒の反応速度定数kは、式(4)により計算した。
k = −[ln(CA/CA0)]/t (4)
【0056】
(III)脱硝触媒の再生率
実施例1〜4および比較例1〜3の触媒を評価用の脱硝触媒として用い、前記方法により、それぞれの脱硝性能を評価して反応速度定数kを求めた。
【0057】
同様に、劣化する前の未使用の触媒の反応速度定数k0も求めたところ、35.6m/hであった。
各脱硝触媒の再生率は、式(5)により計算した。
再生率 = k/k0 (5)
【0058】
実施例1
石炭火力発電所の排煙脱硝設備で使用された脱硝性能低下後の脱硝触媒(ハニカム形状のチタニア担体にバナジウムおよびタングステンをそれぞれ3質量%ずつ担持させたもの、25セル×25セル×700mm、セルピッチ5.95mm、リブ厚み0.9mm)から、3セル×3セル×300mmに切り出したものを試験用の脱硝触媒とした。
【0059】
前記試験用の脱硝触媒を用いて、フッ化アンモニウム水溶液(濃度20質量%のフッ化アンモニウム水溶液を水で5倍希釈して、コハク酸(キレート剤であり、pH調整剤としても働く)でpH6.5に調整した溶液)で洗浄した後、乾燥せずに、シュウ酸バナジウム0.5質量%、メタタングステン酸アンモニウム2質量%、コハク酸0.5質量%となるように調整したシュウ酸バナジウムとメタタングステン酸アンモニウムを含む水溶液(pH6.5)で洗浄した。
【0060】
2種の洗浄処理後の脱硝触媒を、高温炉を用いて400℃×4hの条件で焼成した後、脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0061】
実施例2
シュウ酸バナジウムとメタタングステン酸アンモニウムを含む水溶液の代わりに、シュウ酸バナジウムおよびメタタングステン酸アンモニウムの水溶液とフッ化アンモニウム水溶液との混合液を使用した以外は、実施例1と同様にして、洗浄処理を行った。この混合液は、20質量%のフッ化アンモニウム水溶液を原液として用いて、混合液のフッ化アンモニウムの濃度が4質量%になるように調整すると共に、シュウ酸バナジウム0.5質量%、メタタングステン酸アンモニウム2質量%、コハク酸0.5質量%となるように調整した溶液であった(pH6.5)。
【0062】
洗浄処理後の脱硝触媒を実施例1と同様にして焼成した後、脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0063】
実施例3
フッ化アンモニウム水溶液で洗浄した後、且つシュウ酸バナジウムとメタタングステン酸アンモニウムを含む水溶液で洗浄する前に、濡れた状態の脱硝触媒を、室温で16時間の自然乾燥を行った以外は、実施例1と同様にして、洗浄処理を行った。
【0064】
洗浄処理後の脱硝触媒を実施例1と同様にして焼成した後、脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0065】
実施例4
実施例2で調製した混合液を用いて、試験用の脱硝触媒を洗浄した。その後、濡れた状態の脱硝触媒を室温で16時間の自然乾燥を行った後、水で洗浄した。
【0066】
洗浄処理後の脱硝触媒を実施例1と同様にして焼成した後、脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0067】
比較例1
シュウ酸バナジウムおよびメタタングステン酸アンモニウムを含む水溶液の代わりに水を使用した以外は、実施例1と同様にして、洗浄処理を行った。
【0068】
洗浄処理後の脱硝触媒を実施例1と同様にして焼成した後、脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0069】
比較例2
洗浄処理を行わずに、実施例1の試験用の脱硝触媒を直接脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0070】
比較例3
キレート剤が混合されていないフッ化アンモニウム水溶液のみを洗浄液として使用した以外は、実施例1と同様にして洗浄処理を行った。
【0071】
洗浄処理後の脱硝触媒を実施例1と同様にして焼成した後、脱硝性能の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例1〜4では、脱硝触媒のいずれも反応速度定数が27m/h以上、再生率が0.76以上と、触媒性能の回復効果が高いものであった。
【0074】
特に、フッ化アンモニウム水溶液で洗浄後に乾燥処理を行った実施例3では、脱硝触媒の反応速度定数が31.3m/hまで向上し、再生率が0.879と、未使用の脱硝触媒と比べてほぼ88%の高い値まで性能が回復した。実施例3のように、フッ化アンモニウム水溶液で処理した後に乾燥処理を行うことで、触媒表面の凹部に存在する水溶液が完全に取り除かれ、シュウ酸バナジウムおよびメタタングステン酸アンモニウムの水溶液で処理した際にバナジウム、タングステンの成分をより効率的に触媒上に担持することができるため、触媒の性能回復効果が非常に顕著になるものと考えられる。
【0075】
また、シュウ酸バナジウムおよびメタタングステン酸アンモニウムの水溶液とフッ化アンモニウム水溶液との混合液で洗浄後に乾燥処理を行った実施例4でも、効果的な再生が可能であり、得られた脱硝触媒は反応速度定数が30.9m/h、再生率が0.868と、実施例3とほぼ同等の再生効率が達成できた。
【0076】
一方、フッ化アンモニウム水溶液で洗浄後に水洗浄で再生処理を行った比較例1では、脱硝触媒の反応速度定数が22.8m/h、再生率が0.641と、性能の回復効果が低いものであった。再生率の値は比較例2の値と比較して高まっておらず、この処理では劣化触媒の性能向上には効果がないことが分かった。
【0077】
また、比較例2の排煙脱硝設備で使用済みの触媒(即ち、洗浄処理を行う前の試験用の脱硝触媒)は、反応速度定数が24.9m/hまで低下し、再生率が0.702のものであった。
【0078】
なお、キレート剤が混合されていないフッ化アンモニウム水溶液のみを洗浄液として洗浄を行った比較例3では、脱硝触媒の反応速度定数が14.5m/h、再生率が0.408であり、性能の回復効果が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の再生方法によれば、触媒表面への灰分の付着により劣化した脱硝触媒を効果的に再生させることができる。従って、本発明の技術を排煙脱硝触媒の再生に適用することで、脱硝触媒の交換のためのコストを大きく低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1:水槽、2:加湿ポンプ、3:水気化器、4:空気ボンベ、5:窒素ボンベ、6:NOボンベ、7:NH3ボンベ、8〜11:流量計、12:予熱器、13:入口側ヒータ、14:本体ヒータ、15:反応器、16:ドレン除去器、17:NOx計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄した後、さらにバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄することを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項2】
フッ化物塩の水溶液が、pH6〜8.5に調整されたものである請求項1に記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項3】
バナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液が、フッ化物塩をさらに含む請求項1に記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項4】
触媒をフッ化物塩の水溶液で洗浄する処理と、洗浄後の触媒をバナジウム化合物および/またはタングステン化合物を含む水溶液で洗浄する処理の間に、触媒を乾燥する処理を行う請求項1〜3のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項5】
フッ化物塩が、フッ化アンモニウムである請求項1〜4のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項6】
バナジウム化合物が、バナジウムの無機酸塩、バナジウムの有機酸塩、バナジウム酸およびその塩から選択される請求項1〜5のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項7】
タングステン化合物が、タングステンの無機酸塩、タングステンの有機酸塩、タングステン酸およびその塩から選択される請求項1〜6のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項8】
バナジウム化合物がシュウ酸塩あるいは硫酸塩である請求項1〜7のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項9】
タングステン化合物が、メタタングステン酸アンモニウムおよび/またはタングステン酸鉄である請求項1〜8のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項10】
劣化した脱硝触媒の再生に際して、触媒をフッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物とを含む水溶液で洗浄した後、さらに水で洗浄することを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項11】
触媒をフッ化物塩とバナジウム化合物および/またはタングステン化合物とを含む水溶液で洗浄する処理と、洗浄後の触媒を水で洗浄する処理の間に、触媒を乾燥する処理を行う請求項10に記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項12】
フッ化物塩が、フッ化アンモニウムである請求項10または11に記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項13】
バナジウム化合物が、バナジウムの無機酸塩、バナジウムの有機酸塩、バナジウム酸およびその塩から選択される請求項10〜12のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項14】
タングステン化合物が、タングステンの無機酸塩、タングステンの有機酸塩、タングステン酸およびその塩から選択される請求項10〜13のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項15】
バナジウム化合物がシュウ酸塩あるいは硫酸塩である請求項10〜14のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項16】
タングステン化合物が、メタタングステン酸アンモニウムおよび/またはタングステン酸鉄である請求項10〜15のいずれかに記載の脱硝触媒の再生方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−24669(P2012−24669A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164124(P2010−164124)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】