説明

脱硫器、並びにそれを備えた燃料電池コージェネレーションシステム及び脱硫システム

【課題】ベンゾチオフェン類及び/又はジベンゾチオフェン類を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する脱硫器であって、脱硫剤の交換時期が判断できることにより脱硫剤を寿命ぎりぎりまで長期間使用でき、更には、脱硫器内での偏流等を低減することにより脱硫剤の本来の性能を発揮させることが可能な脱硫器を提供する。
【解決手段】内部に固体酸系脱硫剤を含む脱硫剤が充填されており、該脱硫剤で、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する脱硫器であって、前記固体酸系脱硫剤の色の変化により脱硫剤の交換時期が判断できることを特徴とする脱硫器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫器、並びに該脱硫器を備えた燃料電池コージェネレーションシステム及び脱硫システムに関し、特には、燃料電池コージェネレーションシステムで使用する液体原燃料、特にはベンゾチオフェン類及び/又はジベンゾチオフェン類を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する脱硫器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用や業務用などの定置式燃料電池で使用する灯油などの炭化水素油の脱硫法として、主にニッケル系脱硫剤を200℃前後で使用する化学吸着脱硫法が検討されている。しかしながら、該化学吸着脱硫法は、加熱のためのエネルギーを消費すること、起動に時間を要すること、炭化水素油の気化を防止するために加圧条件で行う必要があること、メタンなどの分解ガスが発生するために気液分離装置などが必要であること、分解ガスの発生を抑制するために脱硫剤層での滞留時間を短くする必要があること、炭素析出が激しいために急激に活性が低下すること、高温に曝される時間が長いと炭素析出が避けられないために脱硫剤体積を大きくしても寿命延長に効果が少ないこと、更には、それらのためにシステムが複雑になることなどの問題点があった。また、銅を添加したニッケル系脱硫剤は、150℃程度のより低温でもある程度の活性を有するが、上記問題を解決するまでには至っていなかった。更に、ニッケル系脱硫剤は予め還元処理を施す必要があるが、還元処理を施したニッケル系脱硫剤は酸素と接触することにより急激な発熱反応が起きて活性が低下することから、保管や停止方法にも課題があった(特許文献1〜13参照)。
【0003】
上記のようなことから、脱硫剤は4,000時間などの一定時間、あるいは、一定量の炭化水素油を処理した後に交換することになるが、原料炭化水素油に含まれる硫黄分や運転状況によって残存する脱硫活性が異なるので、下流への硫黄分リークを防止するために、早めに脱硫剤を交換する必要があった。これに対して、極力、脱硫活性が残存する脱硫剤を無駄にしないように、脱硫剤の交換時期を管理する種々の方法が提案されているが、極めて複雑なシステムであり、実用化の点で問題があった(特許文献14〜16参照)。
【0004】
一方、炭化水素油の脱硫法としては、ゼオライトや活性炭等を常温付近で使用する物理吸着脱硫法も検討されている。しかしながら、市販の灯油は硫黄化合物と競争吸着となる芳香族化合物を含み、特に硫黄化合物の大部分を占めるベンゾチオフェン類に対して除去性能の高い物理吸着剤が存在せず、所望の硫黄含有量まで低減するには非常に多くの体積の吸着剤を必要とするため実用的ではなかった(特許文献17〜19参照)。
【0005】
例えば、市販の灯油に含まれる硫黄化合物のタイプは、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類が大部分であり、特にベンゾチオフェン類の割合が大きく、全硫黄化合物に対するベンゾチオフェン類の割合は、硫黄分として70%以上である場合が多い。しかしながら、ジベンゾチオフェン類の除去はベンゾチオフェン類の除去より困難であり、特にアルキルジベンゾチオフェン類の除去が困難であることが知られている(特許文献20〜22参照)。
【0006】
従って、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としない常温付近から150℃程度までの温度で、比較的容易に脱硫することが可能な燃料電池コージェネレーションシステム用液体原燃料の脱硫器が求められていた。
【0007】
これに対して、本発明者らは、単純な物理吸着法では十分な脱硫性能が得られないことから、化学反応と物理吸着とを複合化する脱硫方法を開発した。また、チオフェン環は反応性が高く、100℃以下でも酸性触媒存在下にベンゼン環と反応し、より重質の化合物を生成することを見出した。化学反応は温度が高いほど反応速度が大きいが、酸強度の大きい固体超強酸触媒を使用することにより、より低温でも反応が進行することを確認した。そして、比表面積の大きい固体酸系脱硫剤は、反応生成物である重質硫黄化合物を物理吸着することが可能であることが分かった。また、比表面積の大きい固体酸系脱硫剤を用いて化学反応と物理吸着とを複合化することにより、市販の灯油などの炭化水素油に含まれるベンゾチオフェン類を水素非存在下、常温付近で除去できることを把握した。しかしながら、これらの固体酸系脱硫剤は主にブレンステッド酸性であり、アルキル基を多く有するアルキルジベンゾチオフェン類などに対しては脱硫性能の低下が早いという問題点を有していた(特許文献23参照)。
【0008】
また、本発明者らは、アルキルジベンゾチオフェン類に対しても脱硫性能が高い活性炭系脱硫剤を提案した。しかしながら、活性炭系脱硫剤の吸着機構は活性炭に部分的に存在するグラファイト構造とベンゼン環とのπ電子吸着機構であることから、アルキルジベンゾチオフェン類のアルキル基の数が多くなるほどベンゼン環の寄与率が相対的に低下してしまう。そのため、活性炭系脱硫剤も、アルキル基を多く有するアルキルジベンゾチオフェン類に対しては、やはり脱硫性能の低下が早いという問題点を有していた(特許文献17参照)。
【0009】
【特許文献1】特公平6−65602号公報
【特許文献2】特公平7−115842号公報
【特許文献3】特許第3410147号公報
【特許文献4】特許第3261192号公報
【特許文献5】特許第3914749号公報
【特許文献6】特許第4041636号公報
【特許文献7】特開2007−070502号公報
【特許文献8】特開2007−262149号公報
【特許文献9】特開2008−016340号公報
【特許文献10】特開2008−036523号公報
【特許文献11】特開2008−043855号公報
【特許文献12】特開2008−045018号公報
【特許文献13】特開2008−063448号公報
【特許文献14】特開2007−193694号公報
【特許文献15】特開2007−193979号公報
【特許文献16】特開2008−044830号公報
【特許文献17】国際公開第2003/097771号パンフレット
【特許文献18】特開2003−49172号公報
【特許文献19】特開2005−2317号公報
【特許文献20】特開2001−294874号公報
【特許文献21】特開2004−319400号公報
【特許文献22】特開2007−311143号公報
【特許文献23】国際公開第2005/073348号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さらに、本発明者らは、アルキルジベンゾチオフェン類に対しても脱硫性能が高い、高温で焼成したアルミナ系脱硫剤を見出した。このアルミナ系脱硫剤は、主にルイス酸性であり、アルキルジベンゾチオフェン類のベンゼン環とのπ電子吸着機構でアルキルジベンゾチオフェン類を吸着できるものと推定された。そして、これらのアルミナ系脱硫剤を使用することで、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としない常温付近から150℃程度までの温度で、比較的容易に炭化水素油を脱硫することが可能となった。しかしながら、該脱硫剤を用いても、脱硫剤の交換時期が判断できないため、脱硫剤の寿命ぎりぎりまで長期間使用することができず、また、脱硫器内での偏流等により脱硫剤の本来の性能を十分に発揮させることができないことがあった。
【0011】
そこで、本発明は、ベンゾチオフェン類及び/又はジベンゾチオフェン類を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する脱硫器であって、脱硫剤の交換時期が判断できることにより脱硫剤を寿命ぎりぎりまで長期間使用でき、更には、脱硫器内での偏流等を低減することにより脱硫剤の本来の性能を発揮させることが可能な脱硫器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進め、アルミナ系脱硫剤は硫黄分を吸着するに従い初期の白色から褐色に変化することに着目し、詳細に検討した結果、脱硫剤の色の変化により交換時期が判断できる脱硫器を見出した。また、脱硫剤の本来の性能を発揮させるための充填方法を詳細に検討し、脱硫性能が高く、尚且つ、使用者の利便性の高い脱硫器を見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の脱硫器、並びに該脱硫器を備えた燃料電池コージェネレーションシステム及び脱硫システムは、以下とおりである。
【0013】
(1) 内部に固体酸系脱硫剤を含む脱硫剤が充填されており、該脱硫剤で、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する脱硫器であって、前記固体酸系脱硫剤の色の変化により脱硫剤の交換時期が判断できることを特徴とする脱硫器。
(2) 前記固体酸系脱硫剤が、ルイス酸系脱硫剤であることを特徴とする上記(1)に記載の脱硫器。
(3) 前記硫黄分の低減が−30〜100℃の温度で行われることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の脱硫器。
(4) 前記炭化水素油が灯油又は軽油であり、該炭化水素油の硫黄分が0.1〜10質量ppmであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の脱硫器。
(5) 前記脱硫器の一部又は全部が透明又は半透明であって、外部より前記固体酸系脱硫剤の色が識別でき、前記固体酸系脱硫剤の色をセンサにより波長400〜550nmの光を測定することによって検知する検知手段を具えることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の脱硫器。
(6) 前記脱硫器に充填する脱硫剤の粒子の大きさが0.1〜2.0mmであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の脱硫器。
(7) 前記脱硫剤の一部又は全ては、硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油とスラリー状にして前記脱硫器に充填されていることを特徴とする上記(6)に記載の脱硫器。
(8) 前記脱硫器が、円筒状の本体容器と、該本体容器の入口及び出口のそれぞれに設けられたフランジとを具え、前記本体容器の入口及び出口の径が、前記本体容器の円筒部分の内径の0.1〜1.0倍であることを特徴とする上記(6)に記載の脱硫器。
(9) 前記硫黄分が低減された炭化水素油の硫黄分が、5質量ppb以下であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の脱硫器。
【0014】
(10) 上記(1)〜(9)のいずれかに記載の脱硫器と燃料電池とを具える燃料電池コージェネレーションシステムであって、前記硫黄分を低減した炭化水素油を前記燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする燃料電池コージェネレーションシステム。
(11) 前記脱硫器が、前記燃料電池及び燃料処理装置を内蔵したハウジングの外部に設置されていることを特徴とする上記(10)に記載の燃料電池コージェネレーションシステム。
(12) 前記脱硫器が蓄熱剤ジャケットを具えることを特徴とする上記(11)に記載の燃料電池コージェネレーションシステム。
【0015】
(13) 上記(1)〜(9)のいずれかに記載された−30〜100℃の温度で硫黄分を低減する脱硫器Aと、該脱硫器Aの下流に配置された110〜300℃の温度で硫黄分を低減する高温脱硫器Bとを具えることを特徴とする脱硫システム。
(14) 前記脱硫器Aの内容積が、前記高温脱硫器Bの内容積の2〜100倍であることを特徴とする上記(13)に記載の脱硫システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の脱硫器は、常温付近で、効率的、且つ、経済的に炭化水素油の硫黄分を5質量ppb以下まで低減でき、尚且つ、脱硫剤の色の変化により交換時期が判断できるため、使用者の利便性が高く、燃料電池コージェネレーションシステム用の液体原燃料の脱硫に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の脱硫器は、内部に脱硫剤が充填されており、該脱硫剤で、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する。ここで、本発明の脱硫器の内部に充填する脱硫剤は、固体酸系脱硫剤を含み、該固体酸系脱硫剤の色の変化により交換時期が判断できる。また、固体酸系脱硫剤としては、色の変化が大きい点で、アルミナ系脱硫剤が好ましい。
【0018】
上記アルミナ系脱硫剤は、乾燥状態では白色であるが、脱硫器に充填して炭化水素油を流通するとやや黄色になり、硫黄分を吸着すると茶色から褐色に変化する。該アルミナ系脱硫剤は、硫黄分を吸着するにつれ、次第に上流側から茶色に変化し、茶色の部分が下流側へ広がると同時に、上流側は褐色へ変化して行く。該アルミナ系脱硫剤においては、黄色から茶色に変化している段階で、硫黄分の吸着が起こっており、茶色から褐色へ変化しながら、硫黄分の吸着量が増加している。従って、脱硫剤の色の変化により脱硫剤の交換時期が判断できる。また、脱硫器出口の硫黄分を極めて低くする必要がある場合には、茶色の部分が出口に達する前に交換する必要がある。そして、脱硫器出口から一定距離の脱硫剤の色を観察、或いは、測定することにより、特定の閾値に達した場合には脱硫剤の交換時期であると判定することができる。
【0019】
上記アルミナ系脱硫剤において、脱硫剤の色が、白からやや黄色、茶色、褐色と変化する原因は不明であるが、吸着した多環芳香族や硫黄分と脱硫剤との相互作用により、光の吸収が起こっているものと考えられる。
【0020】
原料の炭化水素油として、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される硫黄化合物を一種以上含有する炭化水素油を使用することで、本発明の効果を得ることができる。
【0021】
ベンゾチオフェン類は、固体酸系脱硫剤、特にはブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤(以下、ブレンステッド酸系脱硫剤とも称する)、特にはアルミナ系脱硫剤により、水素の非存在下、加圧を必要としない常温(0〜40℃)から150℃程度までの温度で、効率的に除去することが可能である。温度は40〜120℃程度がより好ましいが、若干寿命は短くなるものの常温付近でも脱硫性能を有する。
【0022】
一方、ジベンゾチオフェン類、特にアルキル基の多いアルキルジベンゾチオフェン類に対して、上記のブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤は活性が低く、所望の脱硫性能を長期間維持することが困難である。このようなジベンゾチオフェン類に対しては、活性炭系脱硫剤を100℃以下、特には0〜80℃の温度で使用することが効率的である。活性炭系脱硫剤はベンゾチオフェン類の除去性能は低いが、ジベンゾチオフェン類の除去性能は高い。活性炭系脱硫剤は、吸着等温線がフロイントリッヒ型であるため、硫黄化合物の濃度が高いほど吸着量が多く、また、比表面積が比較的大きいことから飽和吸着量が多い。
【0023】
或いは、ルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤(以下、ルイス酸系脱硫剤とも称する)、特にはアルミナ系脱硫剤も、ジベンゾチオフェン類、特にアルキル基の多いアルキルジベンゾチオフェン類に対して高い吸着性能を有する。ルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤は、比表面積が活性炭系脱硫剤よりも比較的小さいので飽和吸着量は多くないが、吸着力が強いために吸着等温線がラングミュア型であり、硫黄化合物の濃度が低い場合でも吸着量が多い。ルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤もπ電子吸着機構であると考えられ、100℃以下の温度で使用することが効率的である。
【0024】
固体酸系脱硫剤、特にはアルミナ系脱硫剤のルイス酸量とブレンステッド酸量との割合は、一般に、ピリジン吸着フーリエ変換赤外分光光度分析(FT−IR)により相対比較することができる。ルイス酸点に起因する吸光度のピークは1450cm-1付近に、ブレンステッド酸点に起因する吸光度のピークは1540cm-1付近に、ルイス酸とブレンステッド酸との両方に起因する吸光度のピークは1490cm-1付近に検出される。従って、ルイス酸点(1450cm-1付近)のピーク高さをI1450、ブレンステッド酸点(1540cm-1付近)のピーク高さをI1540とすると、ルイス酸量に対するブレンステッド酸量の比I1540/I1450を相対比較することで、酸性質の違いが分かる。なお、本発明において、ブレンステッド酸系脱硫剤とは、I1540/I1450が0.120を超える脱硫剤を指し、また、ルイス酸系脱硫剤とは、I1540/I1450が0.120以下の脱硫剤を指す。
【0025】
本発明のルイス酸系脱硫剤としては、I1540/I1450が0.120以下、好ましくは0.010以下であるアルミナ系脱硫剤が好ましい。弱い酸点であるブレンステッド酸点は、チオフェン類やベンゾチオフェン類から重質硫黄化合物を生成する反応における触媒作用には重要な役割を果たすが、ジベンゾチオフェン類の吸着除去にはほとんど貢献しない。一方、強い酸点であるルイス酸点は、ベンゼン環とのπ電子相互作用によりジベンゾチオフェン類に対する高い物理吸着性能を有するので、チオフェン類やベンゾチオフェン類よりもジベンゾチオフェン類を除去する場合は、ブレンステッド酸点の残存量が少ない方が好ましい。
【0026】
本発明の脱硫器においては、活性炭系脱硫剤及び/又はブレンステッド酸系脱硫剤を上流に配置し、ルイス酸系脱硫剤を下流に配置することにより、ベンゾチオフェン類及び/又はジベンゾチオフェン類を含有する炭化水素油の硫黄分を効果的に低減することができる。ブレンステッド酸系脱硫剤及びルイス酸系脱硫剤としては、アルミナ系脱硫剤が好ましい。
【0027】
本発明の脱硫器に−30〜100℃の常温付近でも高い脱硫性能を有する脱硫剤、すなわち、活性炭系脱硫剤及び/又はブレンステッド酸系脱硫剤、さらにはルイス酸系脱硫剤を充填した場合、炭化水素油の硫黄分の低減を−30〜100℃、好ましくは−10〜80℃、特には0〜50℃の温度で行うことができる。
【0028】
本発明の脱硫器が硫黄分を低減する炭化水素油としては、代表的には市販灯油や市販軽油が挙げられ、また、灯油にナフサなどの軽質な炭化水素油を配合してなるもの、灯油に軽油などの重質な炭化水素油を配合してなるもの、市販の灯油よりも沸点範囲の狭いもの、市販の灯油から芳香族分などの特定成分を除去したもの、軽油に灯油などの軽質な炭化水素油を配合してなるもの、市販の軽油よりも沸点範囲の狭いもの、市販の軽油から芳香族分などの特定成分を除去したものであってもよい。特には、入手が容易な市販灯油や市販軽油が好ましい。また、使用する炭化水素油の硫黄分は、0.1〜10質量ppmの範囲が好ましい。硫黄分が0.1質量ppm以上であれば、燃料電池の原燃料としては脱硫が必要であり、脱硫器の性能が重要となるが、他の脱硫器よりも本発明の脱硫器は、常温付近で、効率的、且つ、経済的に炭化水素油の硫黄分を5質量ppb以下まで低減でき、尚且つ、脱硫剤の色の変化により交換時期が判断できるため、使用者の利便性が高く、燃料電池コージェネレーションシステム用の液体原燃料の脱硫に好適に用いることができるという効果がより明らかである。また、10質量ppm以下であれば、本発明の脱硫器を用いることによって、長期間、脱硫剤を交換する必要が無くなるので実用的である。
【0029】
なお、代表的な市販灯油は、炭素数12〜16程度の炭化水素を主成分とし、密度(15℃)0.790〜0.850g/cm3、沸点範囲150〜320℃程度の炭化水素油である。市販灯油は、パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素を0〜30容量%程度含み、多環芳香族も0〜5容量%程度含む。一般的には、灯火用及び暖房用・ちゅう(厨)房用燃料として日本工業規格JIS K2203に規定される1号灯油を使用する。該1号灯油は、品質として、引火点40℃以上、95%留出温度270℃以下、硫黄分0.008質量%(80質量ppm)以下、煙点23mm以上(寒候用のものは21mm以上)、銅板腐食(50℃、3時間)1以下、色(セーボルト)+25以上と、規定されている。なお、市販灯油は、通常、硫黄分を数質量ppmから80質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから10質量ppm程度含む。
【0030】
また、代表的な市販軽油は、炭素数16〜20程度の炭化水素を主成分とする炭化水素油であり、密度(15℃)0.820〜0.880g/cm3、沸点範囲140〜390℃程度で、パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素を0〜30容量%程度含み、多環芳香族化合物も0〜10容量%程度含む。なお、市販軽油は、一般的には、自動車用ディーゼルエンジンの燃料としてJIS K2204に「軽油」として標準的な性状が規定されている。
【0031】
例えば、灯油留分に含まれる主な硫黄化合物は、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類であるが、チオフェン類、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、二硫化炭素、無機硫黄などを含む場合もある。
【0032】
原料の炭化水素油に含まれる硫黄化合物の種類及び濃度は、ガスクロマトグラフ(GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いて分析することができ、分析機器は特に限定されるものではないが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい。
【0033】
本発明の脱硫器により硫黄分を低減した炭化水素油は、燃料電池の燃料である水素を製造するための原燃料として使用することができる。燃料電池としては、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC、別称:固体電解質形燃料電池)、固体高分子形燃料電池(PEFC)などが挙げられ、なかでも、固体酸化物形燃料電池は固体高分子形燃料電池よりも発電効率が高く好ましい。
【0034】
本発明の脱硫器は、脱硫器と燃料電池とを具える燃料電池コージェネレーションシステムに好適に使用することができる。ここで、本発明の脱硫器は、常温付近で使用できることから、加熱が不要なので、必ずしも燃料電池コージェネレーションシステムの燃料電池本体(ハウジング)内部に設置する必要は無く、設置場所の自由度が向上する。即ち、本発明の脱硫器は、燃料電池コージェネレーションシステムの燃料電池及び燃料処理装置を内蔵したハウジングの外部に設置することができ、例えば、炭化水素油を貯蔵するタンクの下、炭化水素油を貯蔵するタンクから燃料電池コージェネレーションシステムへの炭化水素油配管の途中に設置することが可能である。尚、ハウジングとは、灯油などの原燃料から水蒸気改質反応などにより水素を製造する燃料処理装置、燃料電池、燃料電池で発生する熱を温水で回収する熱交換器、ポンプやバルブなどの補器、などを内蔵する容器を指す。
【0035】
本発明の脱硫器は、常温付近で使用できるが、直射日光が当たり50℃以上の高温になるような場所に設置しなければならない場合や、寒冷地で0℃以下の低温になるような場所に設置しなければならない場合には、脱硫器を蓄熱剤ジャケットで覆い、該蓄熱剤ジャケットで温度変動を抑制することができる。蓄熱剤としては、特には長鎖ノルマルパラフィンを用いた蓄熱剤が好適であり、長鎖ノルマルパラフィンとしては、テトラデカン(融点278.95K)、ペンタデカン(融点283.05K)、ヘキサデカン(融点291.25K)、ヘプタデカン(融点295.05K)、オクタデカン(融点301.25K)ノナデカン(融点305.15K)などが挙げられる。
【0036】
本発明の脱硫器は、脱硫器の一部又は全部が透明又は半透明であり、外部より脱硫剤の色が識別できることが好ましい。脱硫器の脱硫剤充填部分の一部又は全部を透明又は半透明とすることで、脱硫剤の劣化状況並びに交換時期を簡便に確認することができ、さらには、偏流を防止する目的で脱硫剤の充填状態を確認することもできる。
【0037】
さらに、本発明の脱硫器には、脱硫剤の色をセンサにより検知して、脱硫剤の交換時期を外部に知らせる機構を設けることがより好ましい。センサとしては、投光側で赤色、青色、緑色の各色光源をパルス点灯して、その各々の反射量を受光部で検出することにより対象物の色を特定、判別するカラーセンサ、白色光を点灯して反射光をフィルターに透過させて特定の波長を測定する単色光センサや、発光素子と受光素子が同一方向を向いた構造で、発光素子からの単一光を検知物に当て、反射してくる光を受光素子で受けて検知する反射型フォトセンサなどが使用できる。白色から茶色へと変化する脱硫剤の色を検知することにより、特定の閾値以下の場合には脱硫剤の交換時期であると判定し、外部に知らせることができる。測定する光の波長としては、脱硫剤の色の変化が容易に確認できる380〜700nmが好ましく、400〜550nmがさらに好ましく、450〜500nmが特に好ましい。なお、本発明の脱硫器は、固体酸系脱硫剤の色をセンサにより波長400〜550nm、特には450〜500nmの光を測定することによって検知する検知手段を具えることが好ましい。測定する光の波長が400〜550nm、特には450〜500nmの場合、測定誤差が小さく、より確実に脱硫剤の交換時期を判断することができる。
【0038】
本発明の脱硫器に充填する脱硫剤粒子の大きさは、球状の場合は、直径が0.05〜4.0mm、特には0.1〜2.0mmが好ましく、また、円柱状の場合には、直径が0.05〜4.0mm、特には0.1〜2.0mmで、長さが直径の0.5〜5倍、特には、1〜2倍であることが好ましい。しかしながら、このような小粒子は、乾燥状態で充填すると、充填密度が低下する。また、充填後に炭化水素油を満たすと、ガス溜りが形成されて、後からガスを抜くことが困難であり、偏流が発生する場合がある。そこで、脱硫剤の一部又は全てを硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油とスラリー状にして脱硫器に充填することにより、充填密度が向上する上に、ガス溜りの形成を防止することができるので好ましい。或いは、脱硫器に脱硫剤を充填中に硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油で満たして、途中でガスを抜きながら充填することも好ましい。さらには、脱硫剤の充填後に、硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油で満たし、5〜100ml/分、好ましくは10〜50ml/分の大流量で炭化水素油を流通することにより、ガス抜きを行うことも可能である。
【0039】
本発明の脱硫器としては、図1に示すような、円筒状の本体容器1と、該本体容器の入口及び出口のそれぞれに設けられたフランジ2,3とを具え、本体容器1の入口及び出口の径D1が、本体容器1の円筒部分の内径D2の0.1〜1.0倍である脱硫器が好ましい。そして、脱硫器の本体容器1(脱硫剤を充填する部分)の入口および出口の径D1(配管の径ではなく、本体容器1を絞った部分の径)を、脱硫器の本体容器1の円筒部分の内径D2の0.1〜1.0倍、好ましくは0.2〜0.5倍としておき、ガス抜きを行った後に、フランジ2,3に配管との接続ジョイント4,5を取り付けることが好ましい。また、脱硫剤の一部又は全てを硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油とスラリー状にして脱硫器に充填する場合にも、脱硫器の本体容器1の入口の径が大きいことから、容易に充填することができる。
【0040】
また、通常使用時の流量は0.5〜5ml/分程度の低流量であるので、脱硫器に接続する配管が細く、圧力損失が大きくなる。大流量で炭化水素油を流通することにより、ガス抜きを行う場合にも、脱硫器の本体容器1の入口および出口の径D1を、脱硫器の本体容器1の円筒部分の内径D2の0.1〜1.0倍、好ましくは0.2〜0.5倍としておき、ガス抜きを行った後に、フランジ2,3に配管との接続ジョイント4,5を取り付けることが好ましい。
【0041】
このように脱硫器に活性炭系脱硫剤及び/又はブレンステッド酸系脱硫剤、さらにはルイス酸系脱硫剤を充填することにより、炭化水素油の硫黄分を常温で500質量ppb以下、好ましくは50質量ppb以下、より好ましくは20質量ppb以下、より一層好ましくは5質量ppb以下に低減することができる。
【0042】
上述した本発明の脱硫器(以下、便宜上、脱硫器Aとする)の下流に、さらに110〜300℃の温度で硫黄分を低減するニッケル系脱硫剤など使用する高温脱硫器Bを配置して、脱硫システムを構成することも、本発明の好適一態様である。脱硫器Aと高温脱硫器Bを具える脱硫システムにおいては、脱硫器Aから微量の硫黄分がリークしても良いので、例えば、脱硫器Aでは500質量ppbまで脱硫し、本発明の脱硫器Aの交換頻度を少なくしても良い。
【0043】
上記脱硫システムにおいては、脱硫器Aの内容積、つまり充填する脱硫剤の量を、高温脱硫器Bの内容積、つまり充填する高温脱硫剤の量の2〜100倍、好ましくは3〜20、より好ましくは4〜10倍とすることで、交換が困難な高温脱硫剤の交換頻度を少なく、好ましくは交換不要とすることができる。また、高温脱硫器Bを小型化することにより、高温脱硫器Bからの放熱によるエネルギー効率の低下を抑制することができる。
【0044】
活性炭系脱硫剤は、吸着等温線がフロイントリッヒ型であるため、硫黄化合物の濃度が高いほど吸着量が多い。ブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤による脱硫は、反応を伴う吸着脱硫であることから、硫黄化合物の濃度の影響は少ない。ルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤は、吸着等温線が上記のようにラングミュア型であるため、硫黄化合物の濃度が低くても吸着量が多い。したがって、活性炭系脱硫剤とブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤を上流に、ルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤を下流に配置することが効率的である。特には、第一の脱硫剤として活性炭系脱硫剤を使用し、次いで第二の脱硫剤としてブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤を使用し、さらに次いで第三の脱硫剤としてルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤を用いることが、硫黄化合物の濃度が脱硫剤の得意とする領域となるため好ましい。
【0045】
また、処理する炭化水素油の硫黄分が1〜5質量ppmなど、元々低い場合には、必ずしも活性炭系脱硫剤を使用する必要は無く、第一の脱硫剤としてブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤を使用し、次いで第二の脱硫剤としてルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤を使用しても良い。
【0046】
また、ベンゾチオフェン類を含まない軽油などを脱硫する場合には、必ずしもブレンステッド酸性を有する固体酸系脱硫剤を使用する必要は無く、第一の脱硫剤として活性炭系脱硫剤を使用し、次いで第二の脱硫剤としてルイス酸性を有する固体酸系脱硫剤を使用しても良い。
【0047】
上記固体酸系脱硫剤として具体的には、ゼオライト、シリカ・アルミナ、活性白土などの固体酸のほかに、硫酸根ジルコニア、硫酸根アルミナ、硫酸根酸化スズ、硫酸根酸化鉄、タングステン酸ジルコニア、タングステン酸酸化スズなどの固体超強酸も挙げることができる。これらは、ブレンステッド酸性とルイス酸性とを合わせ持つ場合が多く、特にブレンステッド酸性が強いことからブレンステッド酸系脱硫剤として使用できる。これらの中でも、硫酸根アルミナなどのアルミナ系脱硫剤が好ましい。
【0048】
ブレンステッド酸系脱硫剤は、好ましくは、プロトンタイプのフォージャサイト型ゼオライト、プロトンタイプのモルデナイト及びプロトンタイプのβゼオライトの中から選ばれる少なくとも1種のゼオライトである。特には、これらのゼオライトは、シリカ/アルミナ比が小さい方が吸着サイトとなる酸量が多いことから、シリカ/アルミナ比が100mol/mol以下であることが好ましく、さらには30mol/mol以下であることが好ましい。
【0049】
上記ゼオライトは、一般式:xM2/nO・Al23・ySiO2・zH2O(ここで、nは陽イオンMの価数、xは1以下の数、yは2以上の数、zは0以上の数)で表される結晶性含水アルミノシリケートの総称である。該ゼオライトは、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の電荷補償陽イオンを細孔や空洞内に保持している。ゼオライト中の電荷補償陽イオンは、プロトン等の別の陽イオンと容易に交換することが可能である。また、酸処理等により、SiO2/Al23モル比が高まり、酸強度が増加して固体酸量が減少する。硫黄化合物の吸着には酸強度はあまり影響しないので、固体酸量を低下させないことが好ましい。
【0050】
上記の脱硫手段に用いられるゼオライトの電荷補償陽イオンは、プロトン、つまり水素であり、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのプロトン以外の陽イオン含有量は5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0051】
上記のゼオライト結晶の性状としては、結晶化度は80%以上、特には90%以上が好ましく、結晶子径は5μm以下、特には1μm以下が好ましく、また、平均粒子径は30μm以下、特には10μm以下が好ましく、さらに比表面積は300m2/g以上、特には400m2/g以上が好ましい。
【0052】
また、ブレンステッド酸系脱硫剤およびルイス酸系脱硫剤として、固体超強酸触媒も挙げられる。固体超強酸触媒の酸性質は、その焼成温度で調整することができる。800℃以上の高温で焼成するとブレンステッド酸性が低下し、ルイス酸性が向上する。なお、800℃以上の高温で焼成した固体超強酸触媒は、本発明のルイス酸系脱硫剤として好適に使用できる。
【0053】
固体超強酸触媒とは、ハメット(Hammett)の酸度関数H0が−11.93である100%硫酸よりも酸強度が高い固体酸からなる触媒をいい、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、鉄等の水酸化物又は酸化物、或いはグラファイト、イオン交換樹脂等からなる担体に、硫酸根、五フッ化アンチモン、五フッ化タンタル、三フッ化ホウ素等を付着或いは担持したもの、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化第二スズ(SnO2)、チタニア(TiO2)又は酸化第二鉄(Fe23)等に酸化タングステン(WO3)を担持したもの、さらにはフッ素化スルホン酸樹脂等を例示することができる。これらの中でも、特に、ジルコニア、アルミナ、酸化スズ、酸化鉄又はチタニアを硫酸で処理した硫酸根ジルコニア、硫酸根アルミナ、硫酸根酸化スズ、硫酸根酸化鉄、硫酸根チタニア、或いは、複数の金属水酸化物及び/又は水和酸化物を混練混合して焼成するなどしたタングステン酸ジルコニア、タングステン酸酸化スズなどを用いることが好適である(例えば、特公昭59−6181号公報、特公昭59-40056号公報、特開平04-187239号公報、特開平04-187241号公報、特許2566814号公報、特許2992972号公報、特許3251313号公報、特許3328438号公報、特許3432694号公報、特許3517696号公報、特許3553878号公報、特許3568372号公報参照)。
【0054】
酸強度(H0)とは、触媒表面の酸点が塩基にプロトンを与える能力(ブレンステッド酸性)あるいは塩基から電子対を受け取る能力(ルイス酸性)で定義され、pKa値で表わされるものであり、既知の指示薬法あるいは気体塩基吸着法等の方法で測定することができる。例えば、pKa値が既知の酸塩基変換指示薬を用いて、固体酸系脱硫剤の酸強度を、直接、測定することができる。p−ニトロトルエン(pKa値;−11.4)、m−ニトロトルエン(pKa値;−12.0)、p−ニトロクロロベンゼン(pKa値;−12.7)、2,4−ジニトロトルエン(pKa値;−13.8)、2,4−ジニトロフルオロベンゼン(pKa値;−14.5)、1,3,5−トリクロロベンゼン(pKa値;−16.1)等の乾燥シクロヘキサンあるいは塩化スルフリル溶液に触媒を浸漬し、触媒表面上の指示薬の酸性色への変色を観察したら、酸性色に変色するpKa値と同じかそれ以下の値である。触媒が着色している場合には、指示薬による測定ができないので、ブタン、ペンタンの異性化活性から推定できることが報告されている〔"Studies in Surface Science and Catalysis" Vol. 90, ACID-BASE CATALYSIS II, p.507 (1994)〕。
【0055】
固体酸系脱硫剤としては、上述のゼオライトや固体超強酸触媒をそのまま用いることもできるが、これらのゼオライトや固体超強酸触媒を30質量%以上、特には60質量%以上含む成形体が好ましく用いられる。形状としては、硫黄化合物の濃度勾配を大きくするため、流通式の場合には脱硫剤を充填した容器前後の差圧が大きくならない範囲で小さい形状、特には球状が好ましい。球状の場合の大きさは、直径が0.05〜4mm、特には0.1〜2mmが好ましい。円柱状の場合には、直径が0.05〜4mm、特には0.1〜2mmで、長さが直径の0.5〜5倍、特には1〜2倍が好ましい。
【0056】
固体酸系脱硫剤の比表面積は、固体超強酸触媒の場合も含めて、硫黄化合物の吸着容量に大きく影響するので、100m2/g以上が好ましく、さらには200m2/g以上、特には300m2/g以上が好ましい。細孔直径10Å以下の細孔容積は、硫黄化合物の吸着容量を大きくするために、0.10ml/g以上、特には0.20ml/g以上とすることが好ましい。また、細孔直径10Å以上0.1μm以下の細孔容積は、硫黄化合物の細孔内拡散速度を大きくするために、0.05ml/g以上、特には0.10ml/g以上とすることが好ましい。細孔直径0.1μm以上の細孔容積は、成形体の機械的強度を高くするために、0.3ml/g以下、特には0.25ml/g以下とすることが好ましい。なお、通常、比表面積、全細孔容積は、窒素吸着法により、マクロ孔容積は水銀圧入法により測定される。
【0057】
ゼオライトを成形品として使用する場合には、特開平4−198011号公報に記載のように、半製品を成形した後、乾燥及び焼成しても良いし、ゼオライト粉末に必要に応じてバインダー(粘結剤)を混合して、成形した後、乾燥及び焼成しても良い。
【0058】
バインダーとしては、例えば、アルミナ、スメクタイトなどの粘土、水ガラス等の無機質系粘結剤などが例示される。これらの粘結剤は、成形できる程度の量で使用すればよく、特に限定されるものではないが、原料に対して通常0.05〜30質量%程度の量で使用される。シリカ、アルミナ、他のゼオライトなどの無機微粒子や活性炭などの有機物を混合して、ゼオライトが吸着しにくい硫黄化合物の吸着性能を向上させたり、メソ孔及びマクロ孔の存在量を増やしたりして、硫黄化合物の拡散速度を向上させても良い。また、金属との複合化により吸着性能を向上させても良い。特に、Gaなどを担持することによりルイス酸性を向上させても良い。粒子の破壊強度が0.5kg/ペレット以上、特には1.0kg/ペレット以上であることが脱硫剤の割れを生じないので好ましい。通常、破壊強度は、木屋式錠剤破壊強度測定器(富山産業株式会社)等の圧縮強度測定器により測定される。
【0059】
本発明の脱硫器に炭化水素油を流通させる条件としては、圧力は、常圧〜5MPaG、好ましくは常圧〜1MPaG、特には0.01〜0.3MPaG、温度は、−30〜100℃、好ましくは−10〜80℃、特には0〜50℃、またLHSVは0.001〜10hr-1、好ましくは0.01〜1hr-1、特には0.02〜0.5hr-1が好ましい。見掛けの線速度(炭化水素油の流量を脱硫剤層の断面積で割った値)は、0.001〜10cm/分、好ましくは0.05〜1cm/分、特には0.01〜0.5cm/分が好ましい。見掛けの線速度が大きいと、吸着速度(液相から固相への移動速度)に比べて液相自体の移動速度が大きくなり、液相が吸着層出口に到達するまでに硫黄分が除去しきれず、除去されない硫黄分を含有したまま出口から流出される問題が生じやすくなる。逆に見掛けの線速度が小さいと、同一流量であれば脱硫剤層の断面積が大きくなることから、液体の分散状態が不良となり、脱硫剤層の流れ方向と直角な断面を通過する炭化水素油の流速(流量)にムラが生じ、脱硫剤層の断面において吸着した硫黄分に分布が生じるため、脱硫剤への負荷が不均一になり、やはり十分効率的に脱硫することができない。流れの方向は、下から上(アップフロー)が、流れを均一にできるので好ましい。
【0060】
脱硫剤は、前処理として、吸着している微量の水分などを予め除去することが好ましい。水分などが吸着していると、硫黄化合物の吸着を阻害するばかりか、炭化水素油の導入開始直後に脱硫剤から脱離した水分が炭化水素油に混入する。特にルイス酸系脱硫剤は水分が吸着するとルイス酸性が低下するので、水分を吸着させないようにする必要がある。ブレンステッド酸系脱硫剤やルイス酸系脱硫剤など、炭素質を含まない脱硫剤は、200〜980℃、好ましくは300〜900℃、さらに好ましくは400〜800℃で乾燥することが好ましい。活性炭系脱硫剤は、空気などの酸化性雰囲気下ならば100〜200℃程度、好ましくは120〜150℃程度で乾燥することが好ましい。なお、活性炭系脱硫剤は、200℃以上では酸素と反応して質量が減少するので好ましくない。一方、活性炭系脱硫剤は、窒素などの非酸化性雰囲気下では100〜800℃程度で乾燥することが可能である。また、活性炭系脱硫剤は、400〜800℃で熱処理を行うと、有機物や含有酸素が除去され、吸着性能が向上するので特に好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
内容積10mlの透明耐圧ガラス製カラムに、ルイス酸系脱硫剤としてアルミナ系脱硫剤(硫酸根アルミナ、アルミナ含有率99.5質量%、分光分析ピーク比I1540/I14500.000、比表面積295m2/g、細孔容積0.67ml/g、硫黄含有率0.5質量%、粒子サイズ0.1〜0.6mm)10mlを充填した。充填は、硫黄分20質量ppb以下の脱硫灯油でスラリー状にして行った。
【0063】
水素の非存在下、全て常温・常圧で、灯油を、流量0.12ml/分(LHSV 0.72hr-1、見掛けの線速度0.11cm/分)で下から上へ流通させ、流出灯油中の硫黄化合物をGC−ICP−MSで分析した。
【0064】
灯油(ジャパンエナジー社製)は、沸点範囲158.0〜275.0℃、5%留出点172.0℃、10%留出点175.5℃、20%留出点183.0℃、30%留出点190.0℃、40%留出点197.0℃、50%留出点205.0℃、60%留出点214.0℃、70%留出点223.0℃、80%留出点233.5℃、90%留出点247.0℃、95%留出点259.5℃、97%留出点269.0℃、密度(15℃)0.7941g/ml、芳香族分17.0容量%、飽和分83.0容量%、硫黄分6.3質量ppm、ベンゾチオフェンよりも軽質の硫黄化合物に由来する硫黄分1質量ppb、チオフェン及びチオフェンよりも重質であり4−メチルジベンゾチオフェンよりも軽質の硫黄化合物に由来する硫黄分5.3質量ppm、4−メチルジベンゾチオフェン及び4−メチルジベンゾチオフェンよりも重質の硫黄化合物に由来する硫黄分1.0質量ppm、窒素分1質量ppm以下のものを使用した。
【0065】
出口における硫黄分の経時変化を図2に示す。図2から分かるように、出口における硫黄分は、2,500分まで5質量ppb以下、3,600分まで20質量ppb以下であり、7,000分で約200質量ppbとなった。
【0066】
また、1,170分後、2,550分後および4,080分後の外観を図3に示す。出口における硫黄分が5質量ppb以下の段階では白色部分が残存しているが、次第に褐色部分が下流へ広がり、出口における硫黄分が20質量ppbの段階で全体が褐色となった。
【0067】
(比較例1)
内容積13.5mlのステンレス製カラムに、実施例1と同様のルイス酸系脱硫剤としてアルミナ系脱硫剤(硫酸根アルミナ、アルミナ含有率99.5質量%、分光分析ピーク比I1540/I14500.000、比表面積287m2/g、細孔容積0.66ml/g、硫黄含有率0.5質量%、粒子サイズ0.1〜0.4mm)13.5mlを充填した。充填は、硫黄分20質量ppb以下の脱硫灯油でスラリー状とせず、また、脱硫剤を充填中及び/又は充填後に、硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油で満たしもせず、直接原料灯油の流通を開始した。
【0068】
水素の非存在下、全て常温・常圧で、実施例1と同一の灯油を、流量0.10ml/分(LHSV 0.44hr-1、見掛けの線速度0.11cm/分)で下から上へ流通させ、流出灯油中の硫黄化合物をGC−ICP−MSで分析した。
【0069】
出口における硫黄分の経時変化を図4に示す。図4から分かるように、出口における硫黄分は、2,920分まで5質量ppb以下であったが、その後急激に上昇し、3,000分で約20質量ppb、5,000分で約200質量ppbとなった。比較例1は、実施例1よりも脱硫剤量が多いにも拘らず、硫黄分の上昇が早く、偏流が発生しているものと考えられた。
【0070】
(実施例2)
図1に示す構造を有し、脱硫器本体容器の入口および出口の径D1が、脱硫器本体容器内径D2の約0.33倍の脱硫器を準備した。該脱硫器に脱硫剤を充填し、充填中に、硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油で満たして、途中でガス抜きしながら脱硫剤を充填することが可能であった。また、該脱硫器に脱硫剤を充填した後に、硫黄分20ppb質量以下の炭化水素油を大流量で流通することも可能であった。なお、いずれの場合も、ガス溜りの形成が防止されており、実施例1と同様にして灯油を流通させた場合に、偏流が発生しないことが確認できた。
【0071】
(実施例3)
実施例1と同一のアルミナ系脱硫剤および灯油を使用して、灯油にアルミナ系脱硫剤を浸せきすることにより、灯油の硫黄分が20質量ppbおよび460質量ppbの場合の着色アルミナ系脱硫剤B(出口硫黄分が20質量ppb相当)およびC(出口硫黄分が460質量ppb相当)を得た。また、予め硫黄分30質量ppb以下まで脱硫した灯油にアルミナ系脱硫剤を浸せきし、脱硫性能が低下していないアルミナ系脱硫剤A(流通初期相当)を得た。さらに、実施例1の実験後の入口付近の脱硫剤を採取し、大幅に劣化したアルミナ系脱硫剤D(大幅劣化相当)を得た。
【0072】
内容量10mlのガラス製バイアル瓶に、脱硫剤A〜Dをそれぞれ充填し、硫黄分が30質量ppb以下の脱硫灯油で満たした後に分光光度計を用いて反射率を測定した。測定方法は反射法であり、波長範囲は340〜800nm、スキャンスピードは120nm/分、リファレンスには白色板を用いた。反射スペクトルの変化を図5に示す。測定波長が400〜600nmの範囲において、脱硫剤Aの流通初期相当の反射率が40%程度であるのに対し、出口での硫黄分が20質量ppb相当まで劣化した脱硫剤Bでは反射率が20〜30%程度まで低下した。また脱硫剤Dの大幅劣化後の反射率は5%程度まで低下した。脱硫剤の劣化程度によって反射率が明らかに低下することから、測定波長400〜550nmの反射率を測定することにより、脱硫剤の劣化程度を把握し交換時期を容易に判定することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の脱硫器の一例の側面図である。
【図2】透明耐圧ガラス製カラムを用い、ルイス酸系脱硫剤をスラリー状にして充填した場合の出口硫黄分の経時変化を示した図である(実施例1)。
【図3】透明耐圧ガラス製カラムを用い、ルイス酸系脱硫剤をスラリー状にして充填した場合の脱硫剤充填層における色相の経時変化を示した図である(実施例1)。
【図4】ステンレス製カラムを用い、ルイス酸系脱硫剤をスラリー状にせずに充填した場合の出口硫黄分の経時変化を示した図である(比較例1)。
【図5】脱硫後のアルミナ系脱硫剤の反射スペクトルである(実施例3)。
【符号の説明】
【0074】
1 脱硫器本体容器
2,3 フランジ
4,5 接続ジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に固体酸系脱硫剤を含む脱硫剤が充填されており、該脱硫剤で、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含有する炭化水素油の硫黄分を低減する脱硫器であって、
前記固体酸系脱硫剤の色の変化により脱硫剤の交換時期が判断できることを特徴とする脱硫器。
【請求項2】
前記固体酸系脱硫剤が、ルイス酸系脱硫剤であることを特徴とする請求項1に記載の脱硫器。
【請求項3】
前記硫黄分の低減が−30〜100℃の温度で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱硫器。
【請求項4】
前記炭化水素油が灯油又は軽油であり、該炭化水素油の硫黄分が0.1〜10質量ppmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱硫器。
【請求項5】
前記脱硫器の一部又は全部が透明又は半透明であって、外部より前記固体酸系脱硫剤の色が識別でき、前記固体酸系脱硫剤の色をセンサにより波長400〜550nmの光を測定することによって検知する検知手段を具えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脱硫器。
【請求項6】
前記脱硫器に充填する脱硫剤の粒子の大きさが0.1〜2.0mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の脱硫器。
【請求項7】
前記脱硫剤の一部又は全ては、硫黄分20質量ppb以下の炭化水素油とスラリー状にして前記脱硫器に充填されていることを特徴とする請求項6に記載の脱硫器。
【請求項8】
前記脱硫器が、円筒状の本体容器と、該本体容器の入口及び出口のそれぞれに設けられたフランジとを具え、
前記本体容器の入口及び出口の径が、前記本体容器の円筒部分の内径の0.1〜1.0倍であることを特徴とする請求項6に記載の脱硫器。
【請求項9】
前記硫黄分が低減された炭化水素油の硫黄分が、5質量ppb以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の脱硫器。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の脱硫器と燃料電池とを具える燃料電池コージェネレーションシステムであって、
前記硫黄分を低減した炭化水素油を前記燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする燃料電池コージェネレーションシステム。
【請求項11】
前記脱硫器が、前記燃料電池及び燃料処理装置を内蔵したハウジングの外部に設置されていることを特徴とする請求項10に記載の燃料電池コージェネレーションシステム。
【請求項12】
前記脱硫器が蓄熱剤ジャケットを具えることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池コージェネレーションシステム。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載された−30〜100℃の温度で硫黄分を低減する脱硫器Aと、該脱硫器Aの下流に配置された110〜300℃の温度で硫黄分を低減する高温脱硫器Bとを具えることを特徴とする脱硫システム。
【請求項14】
前記脱硫器Aの内容積が、前記高温脱硫器Bの内容積の2〜100倍であることを特徴とする請求項13に記載の脱硫システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138013(P2010−138013A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314457(P2008−314457)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】