説明

脱硫器及びこれを備えた燃料電池システム

【課題】 脱硫器の交換を、燃料電池の運転を停止させることなく行い得る脱硫器及びこれを備えた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 燃料ガス供給路3の途中位置であって燃料電池システムの筐体2の外部位置において脱硫器6を介装する。両端開口611,612の筒状格納部61に対し脱硫剤カートリッジ9を例えば下から上に内嵌させて装填する。シール部92,93,94を内周面610に密着させてシールする。連通口613からの燃料ガスを通気孔916を通して容器本体61内の脱硫剤Sに流入させ、脱硫後の燃料ガスを通気孔916及び連通口614を通して流出させる。交換用カートリッジ9aを下から押し込むと、使用済みカートリッジ9は上に押し出されると同時に、交換用カートリッジ9aが装填される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスに含まれる硫黄分(硫黄化合物)を除去するための脱硫器及びこれを備えた燃料電池システムに関し、特に脱硫器内の脱硫剤の交換を燃料電池システムの運転を停止させることなく行い得るようにする技術に係る。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいては、炭化水素系の燃料ガスに含まれる硫黄分により触媒や電極等が被毒することを防止するために、硫黄分を脱硫器により除去した上で改質処理することが行われている。脱硫器内には脱硫剤が充填され、この脱硫剤と燃料ガスを接触させることで硫黄分を吸着除去するようになっており、脱硫剤の吸着除去能が飽和すれば脱硫器内の脱硫剤を交換するか、又は脱硫器ごと交換する必要がある。従来、このような交換のための技術について種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、脱硫器を構成する容器に内部を上流側・下流側の各部分に二分割するためのストレーナを設け、上流側部分の上側に入口を、下側に出口をそれぞれ開閉蓋を付けて設置するとともに、下流側部分の上側に入口を、下側に出口をそれぞれ開閉蓋を付けて設置し、上流側部分及び下流側部分のそれぞれに脱硫剤(脱硫触媒)を充填したものが提案されている。このものでは、上流側部分の脱硫剤が交換時期に到達したとしても、下流側部分の脱硫剤はまだ硫黄吸着能力を残していることから、下流側部分の脱硫剤を再利用可能とする、としている。そして、脱硫剤の交換として、まず、上流側部分の脱硫剤を排除して下流側部分の脱硫剤を再充填し、下流側部分にのみ新しい脱硫剤を充填するようにすることを提案している。
【0004】
又、特許文献2では、脱硫剤を交換用容器に収容したカートリッジを事前に形成しておき、脱硫剤の交換をカートリッジ交換式にしたものが提案されている。すなわち、セルスタックの上側位置に横置きした収納ケース内に上記カートリッジを装填し、収納ケースの一端から燃料ガスを導入し、カートリッジ内の脱硫剤を通過させた後に収納ケースの他端から脱硫後の燃料ガスを導出させるようにしている。そして、脱硫剤の交換時期に到達すれば、セルスタックの運転を停止し、収納ケースの一端面の蓋を開け、カートリッジに固定された棒状の把持部材を掴んで引っ張り出すことにより外部に取り出し、代わりに新たなカートリッジを装填することにより交換し、交換後に運転を再開させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−49469号公報
【特許文献2】特開2005−158716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、脱硫器の交換のために燃料電池の運転を停止せざるを得ないとなると、脱硫器の交換のための作業の手間以上に、その運転停止や交換後の運転再開(起動)のために消費される手間やエネルギーの損失を招くことになる。その上に、運転の停止から運転再開までの間は発電不能となって発電効率の低下をも招くことになる。特に、固体酸化物形燃料電池(SOFC;Solid Oxide Fuel Cells)においては、炭化水素系の燃料に対し水蒸気を高温状況下で反応させて水素と一酸化炭素に変換させる水蒸気改質が行われるため、高温環境下での運転状態から停止のために冷却処理したり、停止状態から起動のために加熱処理したりするのにかなりの時間を要し、上記の損失や低下は他のタイプの燃料電池よりも大幅に増大することになる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、脱硫器の交換を、燃料電池の運転を停止させることなく、つまり燃料電池への燃料ガスの供給を停止させることなく、行い得る脱硫器及びこれを備えた燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、脱硫器に係る発明では、内部に脱硫剤を収納した脱硫剤カートリッジと、この脱硫剤カートリッジを内部に格納する格納部とを備えた脱硫器を対象にして次の特定事項を備えることとした。すなわち、上記格納部として、両端に開口し両端開口の間に一直線状に延びる筒状の内周面を有し、この内周面には燃料ガスが流入する側の連通口と、燃料ガスが流出する側の連通口とを上記両端開口の間で互いに離れた両側位置においてそれぞれ側方に開口して形成する。上記脱硫剤カートリッジとして、両端が閉止され内部に脱硫剤が封入された密閉筒状の容器本体と、この容器本体の一端側、他端側、及び両者の中間位置の各外周面から外周側に突出されて上記格納部の内周面に対し密着してシールするシール部と、上記中間位置のシール部を挟んだ両側位置であって上記一対の連通口の開口位置に対応する上記容器本体の両壁部に対し貫通形成された通気孔とを備えて構成する。そして、上記格納部と上記脱硫剤カートリッジとを、上記脱硫剤カートリッジが上記格納部の両端開口のいずれか一方から他方に向けて内嵌されて上記通気孔が形成された両壁部が上記一対の連通口にそれぞれ相対向することになるよう装填した装填状態において、上記一端側及び他端側位置の両シール部が上記一対の連通口を挟んだ両側位置をシールする一方、上記中間位置のシール部が上記一対の連通口の中間位置をシールする構成とした(請求項1)。
【0009】
本発明の場合、装填状態では、上端側位置のシール部と下端側位置のシール部とによって燃料ガスの流入側の連通口及び流出側の連通口を含んだ両側位置で外部と遮断される一方、中間位置のシール部によって一対の連通口の内の流入側と流出側との両者間がシールされる結果、流入側の連通口から流出側の連通口までの間は、流入側の連通口に相対向する通気孔から容器本体の内部空間を通して流出側の連通口に相対向する通気孔へと連通されるように仕切られることになる。このため、流入側の連通口から流入した燃料ガスは通気孔を通して容器本体の内部空間にその全てが流入し、脱硫剤と接触しつつ流出側に流れ、流出側の連通口と相対向する通気孔及び流出側の連通口を通して下流に流出されることになる。これにより、上流側から下流側へ流れる燃料ガスを脱硫剤と接触させて燃料ガス中の硫黄分を吸着除去して脱硫し得ることになる。一方、脱硫剤の硫黄吸着除去能が飽和すれば、装填状態の脱硫剤カートリッジを他の新しい交換用の脱硫剤カートリッジに交換すればよく、この交換作業は次のように行われることになる。すなわち、既に装填状態の使用済みの脱硫剤カートリッジの他端面に対し、格納部の他端開口から交換用の脱硫剤カートリッジの一端面を当接させ、この状態で交換用の脱硫剤カートリッジを押し込めばよい。これにより、使用済みの脱硫剤カートリッジは格納部の一端開口から押し出され、それと同時に、交換用の脱硫剤カートリッジが格納部の内周面に内嵌されて装填状態に至ることになる。つまり、交換用の脱硫剤カートリッジを押し込むことにより、使用済みの脱硫剤カートリッジを格納部から押し出すと同時に、新しい交換用の脱硫剤カートリッジの装填作業をも完了させ得ることになる。この交換作業の際には、新・旧の2つの脱硫剤カートリッジの6つのシール部が格納部の内周面に対し密着した状態で順に摺動していくことになる上に、上記の押し出しによる交換作業もほぼ一瞬の内に作業が完了することになるため、交換作業に伴う燃料ガスの漏出も最小限に抑えられることになる。このため、燃料ガスの供給を停止させなくても、脱硫器内の脱硫剤カートリッジの交換が可能になり、このような脱硫器を用いることで、燃料電池システムにおける燃料電池の運転を停止させなくても、脱硫剤の交換を行い得るようになる。この結果、脱硫剤の交換のために燃料電池の運転を停止させる場合と比べ、運転停止及び起動(運転再開)のために要するエネルギー消費を全て解消することが可能となり、大幅な省エネルギー化や省コスト化を実現させることが可能となる。
【0010】
本発明における脱硫剤カートリッジとして、上記格納部内に装填される前の交換用の段階では両端を除く外周面を覆う筒状のカバー部材を一体的に付設し、このカバー部材の内周面に対し上記容器本体の一端側及び他端側位置のシール部が密着した状態で内部に燃料ガスを封入するようにすることができる(請求項2)。このようにすることにより、燃料ガスの供給を停止させずに、脱硫剤カートリッジの交換作業を行ったとしても、交換用の脱硫剤カートリッジの内部には燃料ガスが封入されているため、燃料ガスを封入せずに空気が存在した状態で交換作業を行った場合に僅かな空気混入が発生する事態を、確実に回避させることが可能になる。又、交換用の脱硫剤カートリッジを格納部内に押し込む際に、カバー部材の端縁を格納部の開口端縁に当てることにより、カバー部材を自動的に除去させ得ることにもなる。
【0011】
燃料電池システムに係る発明では、筐体と、筐体内に収容された電池本体と、この電池本体に対し燃料ガスを供給する燃料ガス供給路と、この燃料ガス供給路に介装された上記請求項1又は請求項2に記載の脱硫器とを備えたものとし、上記脱硫器を上記筐体の外部に配設することとした(請求項3)。
【0012】
この発明の場合、脱硫剤カートリッジの上述の交換作業を、筐体の外部において電池本体の運転に伴う高温環境等の影響を受けることなく行うことが可能となる。これにより、筐体内の電池本体の運転を継続させたまま、その運転とは切り離して筐体の外部で交換作業を容易に行い得ることになる。
【0013】
この燃料電池システムにおいて、上記脱硫器の下流側位置の燃料ガス供給路に対しバッファータンクを介装するようにすることができる(請求項4)。このようにすることにより、脱硫剤カートリッジの交換の際に、燃料ガスの供給流量における瞬間的な変動がたとえ発生したとしても、その変動を下流側位置のバッファータンク内において吸収することが可能となる。これにより、電池本体での運転を停止することなく脱硫剤カートリッジの交換を行ったとしても、電池本体に対する燃料ガスの供給流量を安定的に維持させ得ることになる。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように、本発明の脱硫器によれば、格納部に対し脱硫剤カートリッジが装填された状態では、上流側から流入する燃料ガスを流入側の連通口、通気孔、容器本体内の脱硫剤、通気孔、及び、流出側の連通口をそれぞれ通して下流側に流すことができ、容器本体内の脱硫剤を通過する間に燃料ガス中の硫黄分を除去して確実に脱硫することができる。その上で、脱硫剤の硫黄吸着除去能が飽和した際の脱硫剤カートリッジの交換作業として、その使用済みの脱硫剤カートリッジに対し交換用の脱硫剤カートリッジを押し当てて格納部内に押し込むだけで、使用済みの脱硫剤カートリッジを格納部から押し出すと同時に、新しい交換用の脱硫剤カートリッジの装填作業をも完了させることができるようになる。その交換作業の際、新・旧の2つの脱硫剤カートリッジの6つのシール部が格納部の内周面に対し密着した状態で順に摺動していくことになる上に、押し出しによる交換作業もほぼ一瞬の内に作業が完了することになるため、交換作業に伴う燃料ガスの漏出も最小限に抑えることができるようになる。このため、燃料ガスの供給を停止させなくても、脱硫器内の脱硫剤カートリッジの交換を行うことができ、このような脱硫器を用いることで、燃料電池システムにおける燃料電池の運転を停止させなくても、脱硫剤の交換を行うことができるようになる。この結果、脱硫剤の交換のために燃料電池の運転を停止させる場合と比べ、運転停止及び起動(運転再開)のために要するエネルギー消費を全て解消することができ、大幅な省エネルギー化や省コスト化を実現させることができるようになる。
【0015】
特に請求項2によれば、交換用の脱硫剤カートリッジとしてカバー部材を一体的に付設したものにすることにより、燃料ガスの供給を停止させずに、脱硫剤カートリッジの交換作業を行ったとしても、交換用の脱硫剤カートリッジの内部には燃料ガスが封入されているため、燃料ガスを封入せずに空気が存在した状態で交換作業を行った場合に僅かな空気混入が発生する事態を、確実に回避させることができるようになる。
【0016】
一方、本発明の燃料電池システムによれば、上述の如く、燃料電池システムにおける燃料電池の運転を停止させなくても、脱硫剤の交換を行うことができるようになる結果、脱硫剤の交換のために燃料電池の運転を停止させる場合と比べ、運転停止及び起動(運転再開)のために要するエネルギー消費を全て解消することができ、大幅な省エネルギー化や省コスト化を実現させることができるようになる。その上に、脱硫剤カートリッジの交換作業を、筐体の外部において電池本体の運転に伴う高温環境等の影響を受けることなく行うことができるようになり、これにより、筐体内の電池本体の運転を継続させたまま、その運転とは切り離して筐体の外部で交換作業を容易に行うことができるようになる。
【0017】
特に請求項4によれば、バッファータンクの介装により、脱硫剤カートリッジの交換の際に、燃料ガスの供給流量における瞬間的な変動がたとえ発生したとしても、その変動を下流側位置のバッファータンク内において吸収することができるようになる。これにより、電池本体での運転を停止することなく脱硫剤カートリッジの交換を行ったとしても、電池本体に対する燃料ガスの供給流量を安定的に維持させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(a)は本発明の脱硫器を備えた燃料電池システムの実施形態を示すブロック構成図であり、図1(b)はその燃料電池システムの全体外観図である。
【図2】図1の主として脱硫器を含む部分の縦断面図である。
【図3】図2に装着されている脱硫剤カートリッジの斜視図である。
【図4】図2の脱硫器内の脱硫剤カートリッジを新しい脱硫剤カートリッジに交換する作業の手順を示す断面説明図である。
【図5】第2実施形態の脱硫器で用いる脱硫剤カートリッジの縦断面図である。
【図6】他の実施形態を示す図2対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムを示す。この燃料電池システムは、炭化水素系の燃料ガス(例えば都市ガス)から硫黄分を脱硫し、脱硫後の燃料ガスを水蒸気改質により水素リッチな燃料ガスに改質し、この燃料ガスを用いて燃料電池にて発電するようになっている。特に燃料ガスとして都市ガスを用いる場合には、その都市ガス中の付臭剤に硫黄分が含まれるため、この硫黄分を除去する必要がある。そして、この燃料電池システムの特徴的な構成部分としての脱硫器6は、燃料電池システム1の筐体2の外部に付設され、後述の脱硫剤カートリッジ9を交換することにより脱硫器6内の脱硫剤を交換可能にしたものである。以下、詳細に説明する。
【0021】
図1(a)を主に参照しつつ説明すると、燃料ガスが筐体2のガス導入口21から上流側の燃料ガス供給路31に導入され、この燃料ガス供給路31に導入された燃料ガスは昇圧ポンプ4及び流量センサ5を介して脱硫器6に導入され、脱硫器6を通過することにより脱硫された燃料ガスは下流側の燃料ガス供給路32に導出され、途中で水供給部71から水供給により水蒸気が混合された状態で電池本体8に供給されることになる。上流側及び下流側の両燃料供給路31,32によって、燃料ガス供給路が構成されている。
【0022】
電池本体8は、改質器81及び円筒型の燃料電池セル(固体電解質形燃料電池;SOFCを例示)82を備えている。改質器81は、燃料ガス供給路32により供給される脱硫後の燃料ガスを水蒸気改質し、改質後の水素リッチな燃料ガスを燃料電池セル82の後述の燃料極に供給するようになっている。
【0023】
燃料電池セル82は、Ni等の金属酸化物を含有するセラミックスにより形成された燃料極や空気極を備え、電解質として例えばYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成されたものである。そして、燃料電池セル82ではその空気極に対し空気供給部72のブロワからカソード空気が供給されて、カソード空気の酸素が酸素イオンとなって電解質を通り、燃料極では燃料ガスの水素と反応して水(水蒸気)を生成する一方、その際に生じた電子が回路を通して空気極側に移動して酸素を再びイオン化するということを繰り返して発電される。燃料極に供給された燃料ガスは上記反応に利用された後、未利用の水素リッチなオフガスが改質器バーナ811に導かれて燃焼用の燃料として利用されるようになっている。一方、改質器バーナ811からの排ガスは、図外の排熱回収回路(例えば排熱回収熱交換器)により熱回収されて水供給部71や空気供給部72での水や空気を加熱するために利用したり、排ガス中の水分回収等により回収された水を精製して純水にした上で水供給部71による供給水の一部又は全部として利用したり、されることになる。
【0024】
上記の脱硫器6は図1(a)又は図1(b)に示すように筐体2の外部に付設されたものであり、図2に詳細を示すように脱硫器6内に脱硫剤カートリッジ9が装填されて構成されたものである。脱硫器6は、両端が開放されて一直線状に延びる筒状の格納部61と、その各端の開口611,612を開閉可能に閉止する開閉蓋62,62とを備えて構成されている。なお、格納部61の配設方向に制限はなく、いずれでもよい。すなわち、両端開口611,612が図例の如く上下方向両側に位置するよう上下方向に配設しても、両端開口611,612が水平方向両側に位置するよう水平方向に配設しても、あるいは斜め方向に配設しても、いずれでもよい。以下、格納部61及び脱硫剤カートリッジ9が図例の如く上下方向に配設されたものとして、「上」又は「下」との用語を用いて説明する。つまり、格納部61又は脱硫剤カートリッジ9の説明において、例えば「上側」又は「下側」とは「一側」又は「他側」のいずれかのことであり、「上端」又は「下端」とは「一端」又は「他端」のいずれかのことを意味する。
【0025】
格納部61は、その内周面610が円形の断面形状を有し、内周面610の下側位置の側方には流入側連通口613が開口して形成される一方、上側位置の側方には流出側連通口614が開口して形成されている。流入側連通口613には筐体2の内部から外部に突出された上流側の燃料ガス供給路31の下流端が連通して接続され、流出側連通口614には筐体2の内部から外部に突出された下流側の燃料ガス供給路32の上流端が連通して接続されている。
【0026】
脱硫剤カートリッジ9は、内部空間に脱硫剤Sが予め充填された状態で両端が閉止されて密閉された円筒状の容器本体91と、この容器本体91の上下端壁部911,912及び中間壁部913の各外周面から外周側に突出(膨出)して上記の格納部61の内周面との間を遮断するように設けられたシール部92,93,94とを備えて構成されたものである。シール部92が例えば「一端側位置のシール部」を構成し、シール部94が「他端側位置のシール部」を構成し、シール部93が「中間位置のシール部」を構成する。容器本体91は、上記の上下端壁部911,912間の上下方向長さとして上記の格納部61と同一の長さを有し、シール部92,93,94の膨出代を考慮して上記の格納部61の内径と同等か僅かに小径の外径を有するように形成されている。又、上記の脱硫剤Sは燃料ガスと接触することで燃料ガスに含まれる硫黄分を吸着除去(脱硫)するようになっている。
【0027】
より詳細に説明すると、脱硫剤カートリッジ9の容器本体91は、図3にも示すように、上端壁部911,下端壁部912及び中間壁部913が同一外径の外周面を有する一方、上端壁部911及び中間壁部913の両者間に挟まれた下流側の流通壁部914と、中間壁部913及び下端部912の両者間に挟まれた上流側の流通壁部915との各周面が、上下方向の中央部位に向かって外径が漸減するように滑らかに湾曲する凹曲面に形成されている。そして、各流通壁部914,915の周面には内外方向(径方向)に貫通する多数の通気孔916,916,…が形成されている。要するに、容器本体91は、両端が上端壁部911及び下端壁部912により閉止され、中間壁部913を間に挟んで両側位置にそれぞれ多数の通気孔916,916,…が形成された流通壁部914,915を備えるように形成されたものであって、かつ、両流通壁部914,915の外径はこれらを区画する他の上端壁部911,下端壁部912及び中間壁部913よりも小径になるように設定されている。加えて、流通壁部914,915は、脱硫剤カートリッジ9が上記の格納部61に装填された際に(図2参照)、その格納部61の連通口613,614に臨むことになるように上下方向の形成位置が設定されている。すなわち、下側の流通壁部915が流入側の連通口613に臨み、上側の流通壁部914が流出側の連通口614に臨むことになるよう互いの位置関係が設定されている。
【0028】
各シール部92,93,94は、上端壁部911,下端壁部912及び中間壁部913の各外周面に対し、シール部材としてOリングが嵌め込まれて形成されたものである。各シール部92,93,94は、上端壁部911,下端壁部912及び中間壁部913の各外周面よりも外周側に対し上記格納部61の内周面610の内径よりも僅かに大径になるよう膨出し、かつ、上記の格納部61の内周面に対し摺動可能で弾性変形により圧接することによりシール(格納部61の内周面との間の隙間を遮断)するようになっている。従って、このような機能を発揮するものであれば、「Oリング」なる名称の如何に拘わらず他の同種の部材を用いて各シール部92,93,94を構成することができる。
【0029】
そして、格納部61の内周面610を、流出側の連通口614及び上端開口611の両者間の上側内周面615と、両連通口613,614の上下間に位置する中間内周面616と、流入側の連通口613及び下端開口612の両者間の下側内周面617とに分けたとすると、上端壁部911のシール部(以下、「上端側シール部」ともいう)92は上側内周面615に圧接又は密着し、中間壁部913のシール部(以下、「中間シール部」ともいう)93は中間内周面616に圧接又は密着し、下端壁部912のシール部(以下、「下端側シール部」ともいう)94は下側内周面617に圧接又は密着することになる。
【0030】
以上の脱硫剤カートリッジ9は、格納部61に対し上端開口611又は下端開口612から内部に差し込まれ、各シール部92,93,94が格納部61の内周面610に密着した状態で押し込まれることにより、格納部61内に上下方向の長さが丁度合致した状態に装填される。この装填状態(図2に示す状態参照)では、上側シール部92と下側シール部94とによって上流側の燃料ガス供給路31、格納部61内、及び、下流側の燃料ガス供給路32の間が外部と遮断された状態で互いに連通されることになる一方、中間シール部93によって上流側の燃料ガス供給路31及び下流側の燃料ガス供給路32の両者間が脱硫剤カートリッジ9の容器本体91の内部空間を通してのみ連通されるように仕切られることになる。
【0031】
このため、上流側の燃料ガス供給路31を通して脱硫器6に供給される燃料ガスFは、図2に点線の矢印にて示すように、流入側の連通口613及び下側の流通壁部915の各通気孔916を通して容器本体91の内部空間にその全てが流入し、脱硫剤Sと接触しつつ上側に流れ、上側の流通壁部914の各通気孔916及び流出側の連通口614を通して下流側の燃料ガス供給路32に流出(吐出)されることになる。この際、各流通壁部914,915の外周面が凹曲面により構成されているため、燃料ガスの容器本体91内への流入や容器本体91内からの流出も、各流通壁部914,915と格納部61の内周面610とのドーナッツ環状の隙間を通してスムースに行わせることができる。このように上流側の燃料ガス供給路31からの燃料ガスが脱硫剤Sと接触しつつ脱硫剤カートリッジ9内を通過する際に、燃料ガス中の硫黄分が吸着除去されて脱硫され、脱硫後の燃料ガスが下流側の燃料ガス供給路32を通して電池本体8(図1(a)参照)に供給されることになる。
【0032】
脱硫剤Sの硫黄吸着除去能が飽和して交換時期(例えば1〜2年)が到来すれば、それまで装填されていた脱硫剤カートリッジ9を、これと同様構成に形成された他の新しい脱硫剤カートリッジに交換すればよい。図4を参照しつつ交換手順について説明すると、次のようになる。なお、上記の新しい脱硫剤カートリッジに対し符号9aを付して表示している。
【0033】
まず、図4の左側部分に示すように、上下の開閉蓋62,62(図2参照)を除去した後、既に装填されている交換すべき使用済みの脱硫剤カートリッジ9の上か下か(図例では下)に新しい脱硫剤カートリッジ9aを配置する。つまり、図4では使用済みの脱硫剤カートリッジ9を下から上に押し出すことにより交換する手順を示している。なお、逆に上から下に押し出すことにより交換する場合も、作業の向きが逆になるだけでほぼ同様である。
【0034】
そして、格納部61の下端開口612から露出した状態になっている使用済みの脱硫剤カートリッジ9の下端壁部912の下端面に対し、新しい脱硫剤カートリッジ9aの上端壁部911の上端面を当接させ、この状態で新しい脱硫剤カートリッジ9aを上向きに押し込む。これにより、使用済みの脱硫剤カートリッジ9は図4の右側部分に示すように格納部61の上端開口611から上方に押し出されると同時に、新しい脱硫剤カートリッジ9aが格納部61の内周面610に内嵌されて装填状態に至ることになる。つまり、上端開口611又は下端開口612のいずれかから新しい脱硫剤カートリッジ9aを押し込むことにより、古い脱硫剤カートリッジ9を格納部61から押し出すと同時に、新しい脱硫剤カートリッジ9aの装填作業をも完了させ得ることになる。
【0035】
この交換作業の際には、新・旧の2つの脱硫剤カートリッジ9,9aの6つのシール部92,93,94、92,93,94が上側内周面615,中間内周面616,下側内周面617に対し密着した状態で順に摺動していくことになる上に、上記の押し出しによる交換作業もほぼ一瞬の内に作業が完了することになるため、交換作業に伴う燃料ガスの漏出も最小限に抑えることができる。このため、上流側の燃料ガス供給路31から下流側の燃料ガス供給路32への燃料ガスの供給を停止させなくても、つまり、電池本体8への燃料ガスの供給を停止させなくても、脱硫器6内の脱硫剤カートリッジ9の交換を行うことができるようになる。
【0036】
以上、本実施形態の脱硫剤カートリッジ9(9a)を用いた脱硫器6によれば、燃料電池の運転を停止させることなく、燃料ガスの供給を継続させた状態で脱硫剤カートリッジ9の交換作業を行うことができ、これにより、硫黄吸着除去能が飽和した脱硫剤Sを新しい脱硫剤Sと交換することができるようになる。このため、脱硫剤の交換のために燃料電池の運転を停止させる場合と比べ、運転停止及び起動(運転再開)のために要するエネルギー消費を全て解消することができ、大幅な省エネルギー化や省コスト化を実現させることができる。
【0037】
<第2実施形態>
図5は第2実施形態として交換用の脱硫剤カートリッジ9aを示す。この第2実施形態では、脱硫器6内に装填される脱硫剤カートリッジ9としては第1実施形態で説明したものと同じ構成のものを用いるものの、格納部61(図4参照)に装填する前の新しい交換用の脱硫剤カートリッジ9aの状態では外周面を遮蔽して内部を密封するカバー部材10(図3も併せて参照)が一体に付設されたものを用い、交換作業時にカバー部材10を自動的に除去しつつ格納部61に装填させ得るようにしたものである。
【0038】
カバー部材10は、両端が開口し、容器本体91と同じ上下方向寸法を有する円筒形に形成され、その内周面101にシール部92,93,94が密着することにより、特に上側シール部92と下側シール部94とにより仕切られる領域を密封し得るようになっている。そして、この密封された領域の空間には、燃料ガス供給路31により供給される燃料ガスと同じ燃料ガスFが予め充填されており、脱硫剤Sと燃料ガスFとが密封された状態で交換用脱硫剤カートリッジ9aが形成されている。
【0039】
そして、交換の際には、交換用の脱硫剤カートリッジ9aの上端面をそれまでに装填されていた古い脱硫剤カートリッジ9の下端面に押し付けると、図4の左側部分に一点鎖線で示すようにカバー部材10が格納部61の下端開口612の端縁に当たり、交換用の脱硫剤カートリッジ9aを上向きに押し込むと、カバー部材10は図4の右側部分に一点鎖線で示すようにその脱硫剤カートリッジ9aから自動的に脱落することになる。完全に脱落するまでは、交換用脱硫剤カートリッジ9aのシール部92,93,94によりシールされた状態に維持されるため、内部の燃料ガスFは密封された状態を維持しつつ格納部61内に装填されることになる。
【0040】
このため、第1実施形態では、交換用脱硫剤カートリッジ9a内の脱硫剤S同士の僅かな隙間等には空気が存在し、この僅かな空気が交換に伴い燃料ガス供給路32内の燃料ガスに混入することになるが、第2実施形態ではそのような僅かな空気の混入をも確実に回避することができるようになる。
【0041】
なお、カバー部材10としては、格納部61の下端開口612の端縁に当たることにより自動脱落させ得る程度の硬めの合成樹脂を用いてフィルム状に形成してもよい。
【0042】
<他の実施形態>
なお、本発明は上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、その他種々の実施形態を包含するものである。すなわち、上記第1及び第2実施形態では、流通壁部914,915として凹曲面の外周面を有するものを示したが、これに限らず、上端壁部911,下端壁部912,中間壁部913よりも単に小径に形成された外周面を有するようにしてもよい。又、外径を全て同一にしてもよい。すなわち、図6に例示するように、上端壁部911,流通壁部914a,中間壁部913,流通壁部915a,下端壁部912の全てを同一の外径を有するように形成してもよい。この場合であっても、容器本体91aの外周面と、格納部61の内周面610との間にはシール部92,93,94に相当する分の隙間が形成されるため燃料ガスの流通に支障はない。あるいは、格納部61に対し、上記の流通壁部914a,915aに対応する部分に外周側に膨出した膨出部62,63を一体に形成するようにしてもよい。
【0043】
又、上記各実施形態では、シール部92,93,94として、それぞれ1本のOリングにより構成した例を示しているが、これに限らず、それぞれ2本又はそれ以上のOリング等のシール部材により構成してもよい。
【0044】
上記各実施形態では、脱硫器カートリッジ9,9aとして円筒状に形成したものを示したが、これに限らず、外周の断面形状として円形以外に楕円形や三角形,四角形あるいは多角形を採用した筒状に形成してもよい。この場合には、格納部61の内周面の断面形状もそのような脱硫器カートリッジの断面形状に対応するように形成すればよい。
【0045】
上記各実施形態では格納部61の両端の開口611,612に対し開閉蓋62,62を取り付けて閉止するようにしているが、これに限らず、開閉蓋62,62は必須ではなくて、いずれも省略してもよい。内部に装填された脱硫剤カートリッジ9の上端壁部911及び下端壁部912と、上下両側のシール部92,94とによって、格納部61の上下の両端開口611,612は実質的にかつ完全に閉止状態に維持することができるからである。
【0046】
上記各実施形態では、通気孔916として各流通壁部914,915に対し貫通形成した孔により構成しているが、これに限らず、例えば上記の各流通壁部914,915の所定位置をメッシュ壁により構成することにより通気孔を形成するようにしてもよい。
【0047】
さらに、各実施形態の脱硫器6の下流側の燃料ガス供給路32に対しバッファータンク11(図1(a)参照)を介装させるようにしてもよい。このようなバッファータンク11を介装させることで、脱硫剤カートリッジ9の交換作業に伴う瞬間的な燃料ガスの供給流量の変動を吸収して、電池本体8に対し安定した供給流量によって燃料ガスを供給し続けることができるようになる。
【0048】
加えて、各実施形態では、脱硫器6を筐体2の外部に設置しているが、これに限らず、最低限、格納部61の両端開口611,612が筐体2の外面に露出するように配設されていれば、格納部61のその他の部位は筐体2の内部に設置するようにしてもよい。このようにしても、脱硫剤カートリッジ9を新たな脱硫剤カートリッジ9aに交換する作業を上記各実施形態と同様に容易行うことができ、しかも燃料ガスの供給(燃料電池の運転)を停止することなしに交換作業を行うことができる。さらに、格納部61の全体を筐体2の内部に設置することもできる。例えば筐体2に対し交換作業の際に開閉し得るカバー部を設け、カバー部を開けて格納部に対する交換作業を行うようにすればよい。この際、たとえ筐体2の内部が高温環境下に晒されていても、耐熱・防護した状態で交換作業を行えばよい。
【符号の説明】
【0049】
2 筐体
3 燃料ガス供給路
6 脱硫器
8 電池本体
9 脱硫剤カートリッジ
9a 交換用の脱硫剤カートリッジ
10 カバー部材
11 バッファータンク
61 格納部
91,91a 容器本体
92 シール部(一端側位置のシール部)
93 シール部(中間位置のシール部)
94 シール部(他端側位置のシール部)
610 内周面
611 上端開口
612 下端開口
613 流入側の連通口
614 流出側の連通口
914,915 流通壁部(通気孔が形成された両壁部)
916 通気孔
F 燃料ガス
S 脱硫剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に脱硫剤を収納した脱硫剤カートリッジと、この脱硫剤カートリッジが内部に装填されて格納される格納部とを備えた脱硫器であって、
上記格納部は、両端に開口し両端開口の間に一直線状に延びる筒状の内周面を有し、この内周面には燃料ガスが流入する側の連通口と、燃料ガスが流出する側の連通口とが上記両端開口の間で互いに離れた両側位置においてそれぞれ側方に開口して形成され、
上記脱硫剤カートリッジは、両端が閉止され内部に脱硫剤が封入された密閉筒状の容器本体と、この容器本体の一端側、他端側、及び両者の中間位置の各外周面から外周側に突出されて上記格納部の内周面に対し密着してシールするシール部と、上記中間位置のシール部を挟んだ両側位置であって上記一対の連通口の開口位置に対応する上記容器本体の両壁部に対し貫通形成された通気孔とを備え、
上記格納部と上記脱硫剤カートリッジとは、上記脱硫剤カートリッジが上記格納部の両端開口のいずれか一方から他方に向けて内嵌されて上記通気孔が形成された両壁部が上記一対の連通口にそれぞれ相対向することになるよう装填された装填状態において、上記一端側及び他端側位置の両シール部が上記一対の連通口を挟んだ両側位置をシールする一方、上記中間位置のシール部が上記一対の連通口の中間位置をシールするように構成されている
ことを特徴とする脱硫器。
【請求項2】
請求項1に記載の脱硫器であって、
上記脱硫剤カートリッジは、上記格納部内に装填される前の交換用の段階では両端を除く外周面を覆う筒状のカバー部材が一体的に付設され、
上記カバー部材はその内周面に対し上記容器本体の一端側及び他端側位置のシール部が密着した状態で内部に燃料ガスが封入されている、脱硫器。
【請求項3】
筐体と、筐体内に収容された電池本体と、この電池本体に対し燃料ガスを供給する燃料ガス供給路と、この燃料ガス供給路に介装された請求項1又は請求項2に記載の脱硫器とを備え、
上記脱硫器は上記筐体の外部に配設されている
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
上記脱硫器の下流側位置の燃料ガス供給路にはバッファータンクが介装されている、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132377(P2011−132377A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293423(P2009−293423)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000004709)株式会社ノーリツ (1,293)
【Fターム(参考)】