説明

脱臭された植物油の製造方法

【課題】 植物由来の有効成分を損なうことなく、不快臭を除去する植物油の製造方法を提供する。
【解決手段】 親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を臭気成分として含有する原料植物油(a)と、他の食用油脂(b)との混合油脂を得た後、該混合油脂を気相中に吸着剤を保持した状態で減圧蒸留する。植物原料を、圧搾、抽出、又は蒸留することにより得られた前記原料植物油(a)に、前記他の食用油脂(b)を添加して、前記混合油脂を得る、もしくは、前記原料植物油(a)の植物原料に、前記他の食用油脂(b)を添加した後、圧搾、抽出、又は蒸留して、前記混合油脂を得ることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を含有する植物油から、原料植物由来の有効成分を損なうことなく、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を除去する植物油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜類等の植物を加工して得られる植物油には、野菜類の有する栄養素、例えば、トコフェロール(天然ビタミンE)、ビタミンB、ビタミンB等の各種ビタミン類や、カルシウム等の各種ミネラル類が豊富に含まれている。また、体内の活性酸素を除去し、抗酸化作用に寄与するといわれているカロチノイド等の各種機能性成分も含まれており、栄養生理学的に優れた食品素材である。
【0003】
しかしながら、一般に、野菜類等の植物は、「青臭い・汗臭い・干草臭い」といった独特の不快臭気を有しており、植物油を食品に添加して用いた場合、食品本来の有する風味を損ないがちであった。そのため、用途が狭く、植物油の有する、独特の臭気を除去するため、各種植物油の精製(脱臭)手段が検討されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、不純物を除去した原料植物油を、真空度水銀柱6mm以下、温度180〜270℃で、30〜480分適量の蒸気を吹き込んだ後、常温又はそれ以下まで冷却してろ過処理することが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、1.3×10-3MPa以下、吹き込み水蒸気量10%以下、120〜200℃、10〜60分間の蒸留条件下で原料植物油(トウガラシ油)を減圧水蒸気蒸留することが開示されている。
【0006】
また、下記特許文献3には、植物油を減圧水蒸気脱臭処理した後、活性炭でろ過処理することが開示されている。
【特許文献1】特開昭52‐33903号公報
【特許文献2】特開2004‐159585号公報
【特許文献3】特開2003‐61577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、植物油の脱臭方法については、種々の検討がなされているが、上記特許文献1〜3のような脱臭方法であっても、脱臭効率を向上させるためには、原料植物油を比較的高温にする必要があることから、脱臭処理工程において、臭気成分と共に、原料植物が本来有する栄養素や各種機能性成分等の有効成分までもが失われがちであった。
【0008】
また、例えば、上記特許文献3のように、植物油を活性炭でろ過処理して脱臭処理することで、不快臭成分と共にビタミン類、ミネラル類といった栄養素をも同時に活性炭に捕捉されてしまい、得られる脱臭された植物油は栄養価値の低いものとなりがちであった。
【0009】
したがって本発明の目的は、原料植物由来の有効成分を損なうことなく、不快臭を除去する植物油の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するにあたって、本発明の脱臭された植物油の製造方法は、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を臭気成分として含有する原料植物油(a)と、他の食用油脂(b)との混合油脂を得た後、該混合油脂を気相中に吸着剤を保持した状態で減圧蒸留することを特徴とする。
【0011】
原料植物油(a)に他の食用油脂(b)を添加することで、親水性揮発成分の油脂中における溶解度が低下し、油脂外部への放出特性が向上する。そのため、比較的低温・短時間での減圧蒸留処理条件で、原料植物油から、親水性揮発成分を除去できるので、原料植物油の有する有効成分を損なうことなく、親水性揮発成分が除去された植物油を得ることができる。
【0012】
また、本発明においては、植物原料を、圧搾、抽出、又は蒸留することにより得られた前記原料植物油(a)に、前記他の食用油脂(b)を添加して、前記混合油脂を得る、もしくは、前記原料植物油(a)の植物原料に、前記他の食用油脂(b)を添加した後、圧搾、抽出、又は蒸留して、前記混合油脂を得ることが好ましい。
【0013】
また、前記親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分は、ヘキサナール、2‐ヘキサナール、イソ酪酸、イソ吉草酸、n‐吉草酸、2‐メチルブタン酸、イソカプロン酸、n‐イソ酪酸アミルから選ばれた1種以上である。これらの親水性揮発成分は、不快臭の原因となる成分である。よって、これら親水性揮発成分を除去した植物油は、風味・口当たりが良好である。
【0014】
また、前記原料植物油(a)として、不快臭の除去処理をされていない未精製の植物油を用い、好ましくはナス科食用油脂であり、特に好ましくはトウガラシ油である。本発明によれば、減圧蒸留により不快臭の除去効率が高く、減圧蒸留の処理条件を、比較的低温とすることができるので、トウガラシ油のような比較的熱に弱い油脂であっても、有効成分を損なうことなく、前記親水性揮発成分を除去できる。
【0015】
また、前記他の食用油脂(b)として、パラフィンオイル、流動パラフィン、ヴァイソンオイル、タートルオイル、大豆油、ペルヒドロスクアレン、スウィートアーモンドオイル、カロフィラムオイル、ヤシ油、グレープシードオイル、トウモロコシ油、アララオイル、菜種油、サンフラワーオイル、綿実油、アプリコットオイル、ヒマシ油、アボカドオイル、ホホバオイル、オリーブオイル、穀類胚芽油、飽和脂肪酸トリグリセライド、ラノリン酸エステル、オレイン酸エステル、ラウリン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、ジイソプロピルアジペート、イソノニルイソナノエート、2‐エチルヘキシルパルミテート、2‐ヘキシルデシルラウレート、2‐オクチルデシルパルミテート、2‐オクチルドデシルミリステート、2‐オクチルドデシルラクテート、2‐ジエチルヘキシルスクシネート、ジイソステアリルマレート、グリセリントリイソステアレート、ジグリセリントリイソステアレート、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノールから選ばれた1種以上を用い、前記親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を実質的に含有しない食用油脂であることが好ましい。上記食用油脂を原料植物油(a)に添加することで、親水性揮発成分の除去効率が向上し、減圧蒸留の処理条件を、比較的低温、かつ短時間とすることができる。
【0016】
また、前記混合油脂として、前記原料植物油(a)100質量部に対して、前記他の食用油脂(b)を10〜1000質量部含有するものを用いることが好ましい。そして、前記減圧蒸留を、圧力1.3×10−3MPa、温度20〜100℃の条件で、1〜24時間行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、植物油から、ヘキサナール、2‐ヘキサナール、イソ酪酸、イソ吉草酸、n‐吉草酸、2‐メチルブタン酸、イソカプロン酸、n‐イソ酪酸アミル等の比較的親水性で、なおかつ不快臭をもつ臭気成分を、植物油の有する有効成分を損なうことなく除去できるので、栄養価値が高く、風味・口当たりの良好な植物油を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の脱臭された植物油の製造方法は、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を臭気成分として含有する原料植物油(a)と、他の食用油脂(b)との混合油脂を得た後、該混合油脂を気相中に吸着剤を保持した状態で減圧蒸留することである。
【0019】
原料植物油(a)としては、原料植物の花、果実、種子、葉、枝、幹、根等を処理して得られた、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分の除去処理をされていない未精製の植物油を用いる。
【0020】
原料植物の種類としては、特に限定はないが、例えば、トウガラシ等のナス科植物等が挙げられる。
【0021】
原料植物の処理方法としては、特に限定はないが、プレス方式等の物理的な手段による圧搾処理法、熱水抽出処理法、有機溶媒(ヘキサン、石油ベンゼン、エーテル等)を用いた化学抽出処理法、超臨界状態の流体を用いた超臨界抽出処理法、原料植物に直接熱した蒸気を接触させる水蒸気蒸留処理法、原料植物を沸騰した水中に浸漬させる直接蒸留処理法等が挙げられる。また、原料植物油(a)を製造する際、原料植物をプレス方式や超臨界抽出処理法等の方法で処理する時点で、抽出助剤として他の食用油脂(b)を添加する方法も利用することができる。
【0022】
原料植物油(a)が含有する、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分(以下より、「親水性不快臭成分」とする)は、ヘキサナール、2−ヘキサナール、イソ酪酸、イソ吉草酸、n−吉草酸、2−メチルブタン酸、イソカプロン酸、n−イソ酪酸アミルから選ばれた1種以上である。
【0023】
上記親水性不快臭成分は、該して「青臭い・汗臭い・干草臭い」等といった臭気を有する成分であり、原料植物油から上記親水性不快臭成分を除去することにより、風味や口当たりを顕著に改善することができる。
【0024】
本発明において、原料植物油(a)としては、成分が熱変性しやすい食用油脂が好ましく、トウガラシ油が好ましい。
【0025】
例えば、トウガラシ油を高温条件下にて脱臭処理を行った場合、親水性不快臭成分のみならず、機能性成分であるカプサイシイド等が除去されたり、カロチノイドが除去されてトウガラシ油特有の色彩が変色しがちであるが、本発明によれば、上述のように、減圧蒸留の処理条件が比較的ゆるやかな条件(低温)で、上記親水性不快臭成分を充分除去できるので、成分が熱変性しやすい油脂を原料植物油として用いた場合特に効果的である。
【0026】
他の食用油脂(b)は、高度に精製された油脂であって、通常食品に使用される油脂より選ばれる。例えばパラフィンオイル、流動パラフィン、ヴァイソンオイル、タートルオイル、大豆油、ペルヒドロスクアレン、スウィートアーモンドオイル、カロフィラムオイル、ヤシ油、グレープシードオイル、トウモロコシ油、アララオイル、菜種油、サンフラワーオイル、綿実油、アプリコットオイル、ヒマシ油、アボカドオイル、ホホバオイル、オリーブオイル、穀類胚芽油、飽和脂肪酸トリグリセライド、ラノリン酸エステル、オレイン酸エステル、ラウリン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、ジイソプロピルアジペート、イソノニルイソナノエート、2‐エチルヘキシルパルミテート、2‐ヘキシルデシルラウレート、2‐オクチルデシルパルミテート、2‐オクチルドデシルミリステート、2‐オクチルドデシルラクテート、2‐ジエチルヘキシルスクシネート、ジイソステアリルマレート、グリセリントリイソステアレート、ジグリセリントリイソステアレート、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等が具体例として挙げられ、上記親水性不快臭成分を実質的に含有しない食用油脂である飽和脂肪酸トリグリセライド、ラノリン酸エステル、オレイン酸エステル、ラウリン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、ジイソプロピルアジペート、イソノニルイソナノエート、2‐エチルヘキシルパルミテート、2‐ヘキシルデシルラウレート、2‐オクチルデシルパルミテート、2‐オクチルドデシルミリステート、2‐オクチルドデシルラクテート、2‐ジエチルヘキシルスクシネート、ジイソステアリルマレート、グリセリントリイソステアレート、ジグリセリントリイソステアレート、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノールが好ましい。このような上記親水性不快臭成分を実質的に含有しない食用油脂は、市販されており、例えば、日清製油株式会社から市販されている中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド「商品名;ODO」等が挙げられる。なお、本発明において親水性不快臭成分を実質的に含有しない食用油脂とは、親水性不快臭成分の含有量が10ppm以下の食用油脂を意味する。
【0027】
次に、本発明の脱臭された植物油の製造方法について説明する。
まず、原料植物油(a)と、他の食用油脂(b)との混合油脂を調製する。
【0028】
このような混合油脂は、植物原料を、圧搾、抽出、又は蒸留することにより得られた原料植物油(a)に、他の食用油脂(b)を添加する、もしくは、前記原料植物油(a)の植物原料に、前記他の食用油脂(b)を添加した後、圧搾、抽出、又は蒸留する等の方法によって得ることができる。
【0029】
植物油(a)と、他の食用油脂(b)との混合比は、原料植物油(a)100質量部に対して、他の食用油脂(b)が10〜1000質量部であることが好ましく、より好ましくは400〜900質量部である。
【0030】
混合油脂中における他の食用油脂(b)の含有量が10質量部未満であると、原料植物油(a)からの上記親水性不快臭成分の除去効率が劣りがちであり、また、1000質量部を超えてもさほど顕著な効果は得られないばかりか、原料植物油(a)の希釈により、本来の原料植物油(a)の使用範囲が限定されてしまう恐れがある。
【0031】
そして、上記混合油脂を減圧蒸留し、気相中に配置した吸着剤に上記親水性不快臭成分を吸着させる。
【0032】
上記親水性不快臭成分を吸着させるのに使用する吸着剤としては、特に限定はなく、活性炭、シリカゲル、珪藻土、酸性白土、活性アルミナ、ゼオライト等を用いることができ、好ましくは、食品に適用でき、効率的で、コンタミネーションしても安全性が高いという理由から活性炭である。
【0033】
減圧蒸留は、圧力1.3×10−3MPa以下、温度20〜100℃、処理時間1〜24時間の条件で行うことが好ましい。温度は40〜60℃とすることがより好ましい。また、処理時間は、1〜10時間とすることがより好ましい。
【0034】
減圧蒸留の処理条件が、上記範囲内であれば、原料植物油が有する有効成分を損なうことなく、短時間で親水性不快臭成分を除去することができる。
【0035】
こうして得られた植物油は、親水性不快臭成分が効率よく除去されており、例えば、飲食品に添加して用いた場合、飲食品本来の風味を損なうことなく、植物油の栄養を付与できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、各例で使用する原料植物油は、下記製造例によって得られた原料植物油(トウガラシ油)を用いた。
【0037】
[原料植物油の製造例]
2リットル容積の三口フラスコに、トウガラシの冷凍乾燥粉末100gと、エタノール1000gとを加え、40℃にて5時間攪拌抽出した。抽出後、抽出液を遠心分離機で固液分離した後、濾紙ろ過処理を行い、濾液850gを得た。その後、この濾液を4.0×10−4MPa以下に減圧してエタノールを除去し、トウガラシ油20.9gを得た。
【0038】
(実施例)
図5に示すような脱臭装置を用い、上記製造例で得られたトウガラシ油20gに、中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド(商品名;ODO、日清製油株式会社製)90gを添加した後、活性炭吸着剤20gの存在下にて、圧力1.3×10−4MPa、温度50℃の条件下で、5時間減圧蒸留して、トウガラシ油を得た。
【0039】
(比較例)
中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドを添加しない以外は実施例と同様にして、トウガラシ油を得た。
【0040】
〔臭気成分分析〕
原料植物油として用いたトウガラシ油(未処理トウガラシ油)、実施例及び比較例のトウガラシ油について、Gestel-TDS-CIS装着Agilent6890 GC/MSにて臭気成分を分析した。すなわち、それぞれのトウガラシ油の含有量が約0.03gになるように100mlナス型フラスコにサンプリングし、ナス型フラスコ中のヘッドスペースに、臭気成分を、50℃、N流量70ml/minの条件で50分通気してTenax管に吸着させ、このTenax管を上記装置に取り付け、サーマルデソープション・コールド・トラップインジェクション機能をシーケンスコントロールにより臭気成分をGC/MSに導入・分析した。結果を図1〜3に示す。図1は、上記操作により検出された未処理トウガラシ油の臭気成分を示すGC/MS分析結果であって、図2は、比較例のトウガラシ油の臭気成分を示すGC/MS分析結果であって、図3は、実施例のトウガラシ油の臭気成分を示すGC/MS分析結果である。
【0041】
また、実施例及び比較例のトウガラシ油について、下式(1)の計算式で臭気残存率を算出し、その結果を図4に示し、表1にその数値をまとめて示す。
【0042】
【数1】

【0043】
【表1】

【0044】
GC/MSにて保持時間7.5min〜15minで検出される成分を親水性不快臭成分と解釈した。
【0045】
上記結果より、未処理トウガラシ油を減圧蒸留することで、臭気成分、特に親水性不快臭成分を減少させる(図1,2,3参照)ことができるが、特にトウガラシ油に中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドを添加した油脂を減圧蒸留した実施例のトウガラシ油は、親水性不快臭成分が検出限界以下であり(図3参照)、親水性不快臭成分の除去率の高い(図4参照)ものであった。
【0046】
(官能性試験)
未処理トウガラシ油(参考例)、実施例及び比較例のトウガラシ油を、それぞれエタノールで希釈して10質量%濃度に調製した溶液を、10名の熟練検査員にて官能評価し、植物独特の臭気について、「0点;臭気が全く感知し得ない」、「5点;非常に強い臭気」とした0〜5の尺度を用いて点数化した。また、風味について、「1点;悪い」、「5点;非常によい」とした1〜5の尺度を用いて点数化した。結果を表2に記す。
【0047】
【表2】

【0048】
上記結果より、トウガラシ油のみを減圧蒸留して得られた比較例のトウガラシ油は、脱臭が不十分であり、トウガラシ油独特の風味・臭気を有するものであった。
【0049】
一方、トウガラシ油に中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドを添加して減圧蒸留をして得られた実施例のトウガラシ油は、トウガラシ油独特の風味・臭気がほとんど感じられず、風味・口当たりの良いものであった。
【0050】
(酸化安定性試験)
日本油脂化学協会制定の基準油脂分析試験法2.4.12‐86に準じた測定方法により、未処理トウガラシ油(参考例)、及び実施例のトウガラシ油の過酸化物価(初期値)、およびそれぞれのトウガラシ油0.3gを開放状態のシャーレに採取して63℃の恒温槽内で7日間保存した後の過酸化物価を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
上記結果より、実施例のトウガラシ油は、未処理のトウガラシ油(参考例)と比較して、酸化安定性がほとんど変化しておらず、本発明の脱臭処理によって、酸化安定性は劣化しないことがわかった。また、色相も、未処理のトウガラシ油と比較してほとんど変化しておらず、カロチノイド色素が劣化しないことが確認できた。
【0053】
したがって、本発明によれば、植物由来の有効成分を損なうことなく、親水性不快臭成分を除去して、植物油の味・風味を改善できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、植物油の有する有効成分や機能性成分を損なうことなく、臭気や風味を改善することができるため、例えば、この植物油を飲食品に添加した場合、飲食品本来の風味を損なわせることなく、植物油が有する有効成分を含有する飲食品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】未処理トウガラシ油の臭気成分のGC/MS分析結果である。
【図2】比較例のトウガラシ油の臭気成分のGC/MS分析結果である。
【図3】実施例のトウガラシ油の臭気成分のGC/MS分析結果である。
【図4】実施例、比較例のトウガラシ油の臭気成分残存率の比較である。
【図5】本発明で植物油の脱臭処理に用いた脱臭装置の略式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を臭気成分として含有する原料植物油(a)と、他の食用油脂(b)との混合油脂を得た後、該混合油脂を気相中に吸着剤を保持した状態で減圧蒸留することを特徴とする脱臭された植物油の製造方法。
【請求項2】
植物原料を、圧搾、抽出、又は蒸留することにより得られた前記原料植物油(a)に、前記他の食用油脂(b)を添加して、前記混合油脂を得る請求項1に記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項3】
前記原料植物油(a)の植物原料に、前記他の食用油脂(b)を添加した後、圧搾、抽出、又は蒸留して、前記混合油脂を得る請求項1に記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項4】
前記親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分が、ヘキサナール、2‐ヘキサナール、イソ酪酸、イソ吉草酸、n‐吉草酸、2‐メチルブタン酸、イソカプロン酸、n‐イソ酪酸アミルから選ばれた1種以上である請求項1〜3のいずれか一つに記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項5】
前記原料植物油(a)として、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分の除去処理をされていない未精製の植物油を用いる請求項1〜4のいずれか一つに記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項6】
前記原料植物油(a)として、トウガラシ油を用いる請求項1〜5のいずれか一つに記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項7】
前記他の食用油脂(b)として、パラフィンオイル、流動パラフィン、ヴァイソンオイル、タートルオイル、大豆油、ペルヒドロスクアレン、スウィートアーモンドオイル、カロフィラムオイル、ヤシ油、グレープシードオイル、トウモロコシ油、アララオイル、菜種油、サンフラワーオイル、綿実油、アプリコットオイル、ヒマシ油、アボカドオイル、ホホバオイル、オリーブオイル、穀類胚芽油、飽和脂肪酸トリグリセライド、ラノリン酸エステル、オレイン酸エステル、ラウリン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、ジイソプロピルアジペート、イソノニルイソナノエート、2‐エチルヘキシルパルミテート、2‐ヘキシルデシルラウレート、2‐オクチルデシルパルミテート、2‐オクチルドデシルミリステート、2‐オクチルドデシルラクテート、2‐ジエチルヘキシルスクシネート、ジイソステアリルマレート、グリセリントリイソステアレート、ジグリセリントリイソステアレート、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノールから選ばれた1種以上を用いる請求項1〜6のいずれか一つに記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項8】
前記他の食用油脂(b)として、親水性揮発成分で、なおかつ不快臭を与える成分を実質的に含有しない食用油脂を用いる請求項7に記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項9】
前記混合油脂として、前記原料植物油(a)100質量部に対して、前記他の食用油脂(b)を10〜1000質量部含有するものを用いる請求項1〜8のいずれか一つに記載の脱臭された植物油の製造方法。
【請求項10】
前記減圧蒸留を、圧力1.3×10−3MPa以下、温度20〜100℃の条件で、1〜24時間行う請求項1〜9のいずれか一つに記載の脱臭された植物油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−56083(P2007−56083A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240662(P2005−240662)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】