説明

脱臭フィルタの製造方法

【課題】風速が早い領域でも脱臭フィルタとして利用可能であり、光触媒担持量を増やすことができ、形状安定性を有する脱臭フィルタの製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維で構成される開口2を有する裏表二層の編地3、4と、前記編地3、4を連結する連結繊維5からなり、前記繊維および連結繊維の少なくとも一部が無機繊維である三次元立体編物を、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む処理液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、光触媒を前記編物に担持して脱臭フィルタを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を利用した脱臭フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の脱臭装置には、紫外線光源と、光触媒が担持された多孔体と、該光源と多孔体との間に空気を導入するための手段とを備えてなる脱臭・殺菌装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、その脱臭装置について図10を参照しながら説明する。図10に示すように、脱臭・殺菌装置は、管状の紫外線光源(殺菌灯)103と光触媒で被覆した2枚の筒状のガラスクロス104を同軸的に設け、空気導入側にブロワ102を取り付けたものである。ブロワ102によってフィルタ101を通過して吸入された空気は、殺菌灯103とガラスクロス104との間に導入され、ガラスクロス104を通過して多孔板105より排出されるものであり、殺菌灯103により殺菌されると共に、光触媒の光化学反応によって脱臭されるものである。
【0004】
また、従来の脱臭フィルタとして、表裏二枚の地組織とそれを連結する連結糸からなる三次元立体編物の空洞に吸着剤がバインダーで接着されている吸着剤担持繊維構造材が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平1−139139号公報
【特許文献2】特許第3045173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来の脱臭・殺菌装置に用いられるガラスクロスは、風速1cm/secにおける圧力損失が1〜20mmH2O程度のものが好適とされ、風速が早い領域では圧力損失が高すぎるため、空気清浄機や脱臭機などのフィルタとしては、実用には適さないものであった。また、触媒担持量を多くするとガラスクロスの開孔部が目詰まりして、実質的に風を流すことが困難となるため、触媒担持量を増やすことが難しいという課題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の従来の吸着剤担持繊維構造材は、吸着剤を担持するための三次元立体編物が樹脂繊維素材であり、触媒を担持する用途には不向きであった。すなわち、触媒を担持した場合、繊維に触媒に対する化学的・機械的強度が要求され、光触媒をそのまま担持すると触媒によって生成されるラジカル種によって樹脂繊維が劣化するという課題があった。また、発生したラジカル種が繊維の分解のために消費されてしまうため、脱臭フィルタとしての脱臭性能が十分に発揮できないという課題があった。また、繊維の劣化により、三次元立体構造を長期間維持することが困難であるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、風速が早い領域でも脱臭フィルタとして利用可能であり、光触媒担持量を増やすことができ、光触媒を担持しても繊維が劣化せず、形状安定性を有する脱臭フィルタの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の脱臭フィルタの製造方法は、上記目的を達成するために、繊維で構成される開口を有する裏表二層の編地と、前記編地を連結する連結繊維からなり、前記繊維および連結繊維の少なくとも一部が無機繊維である三次元立体編物を、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む処理液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、光触媒を前記編物に担持することを特徴としたものである。
【0009】
また、無機繊維を含む三次元立体編物を、バインダーを含む液に含浸し、乾燥した後、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、前記光触媒を前記編物に担持することを特徴としたものである。
【0010】
また、バインダーが繊維同士を接着することを特徴としたものである。
【0011】
また、光透過性のバインダーを用いて繊維に光触媒を接着したことを特徴としたものである。
【0012】
また、バインダーがケイ素化合物であることを特徴としたものである。
【0013】
また、無機繊維の少なくとも一部が光透過性であることを特徴としたものである。
【0014】
また、無機繊維がガラス繊維であることを特徴としたものである。
【0015】
また、三次元立体編物を処理液に含浸した後に、前記編地の開口部から空気を吹き込んで、余剰の処理液を除去することを特徴としたものである。
【0016】
また、処理液に界面活性剤を含むことを特徴としたものである。
【0017】
また、三次元立体編物の厚みを1mm以上30mm以下にすることを特徴としたものである。
【0018】
また、乾燥温度が90℃から900℃であることを特徴としたものである。
【0019】
また、乾燥によって有機物を焼成除去することを特徴としたものである。
【0020】
また、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に、三次元立体編物を浸漬し、乾燥する作業を複数回行うことを特徴としたものである。
【0021】
また、連結繊維を屈曲させることを特徴としたものである。
【0022】
また、抗菌性の金属を担持させたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、風速が早い領域でも脱臭フィルタとして利用可能であり、光触媒担持量を増やすことができ、光触媒を担持しても繊維が劣化せず、形状安定性を有する脱臭フィルタの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の請求項1記載の発明は、繊維で構成される開口を有する裏表二層の編地と、前記編地を連結する連結繊維からなり、前記繊維および連結繊維の少なくとも一部が無機繊維である三次元立体編物を、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む処理液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、光触媒を前記編物に担持することを特徴としたものである。
【0025】
光触媒および/または光触媒の前駆体を含む処理液に、三次元立体編物を含浸することによって、編物を構成する繊維全体に光触媒を塗布することができる。繊維の表面、繊維間および繊維の編目部分に浸透した処理液を乾燥することによって、処理液の溶媒が蒸発し、光触媒および/または光触媒の前駆体が重合・酸化・結晶化・凝集などを起こすため、繊維同士の接着、光触媒と繊維の接着が起こる。これによって、光触媒を編物に固定化するとともに、編物の強度をあげ、形状を安定化させることができる。作成した脱臭フィルタは、三次元立体編物からなっているので、ガラスクロスなどの二次元織物に比べてフィルタ面積が大きいため、光触媒担持量を多くすることができる。また、光触媒担持後の脱臭フィルタが三次元の多孔体となり、臭気と光触媒の接触時間を長くすることができるため、空気がフィルタを一回通過した際の脱臭性能を向上させることができる。また、ガラスクロスなどの二次元織物を複数枚重ねたものに比べて通風路が確保されているため、低圧損にすることができる。また、織物に比べて編物なので形状安定性がよく、強度にも優れるという作用を有する。また、繊維同士が密に絡み合っているため、絡み合った場所に光触媒を保持しやすいという作用を得ることができる。また、編目同士が接着されているので形状安定性がよいという作用を有する。また、三次元立体構造をもつ繊維に光触媒が担持されているので、同体積のハニカム構造に比べて表面積が広く、脱臭性能を高くすることができる。また、表裏二層の編地および編地を連結する繊維の表面および繊維間に光触媒を保持することができるため、ハニカム構造に比べて光触媒担持量を増やすことができる。また、ハニカム構造と比べると、繊維の隙間から三次元のいりくんだ空洞内部まで光が到達するので、より多くの光触媒を活性化して脱臭性能を高めることができる。また、編物を構成する繊維の少なくとも一部が無機繊維なので、光触媒による繊維の劣化が少ないという作用を有する。
【0026】
また、無機繊維を含む三次元立体編物を、バインダーを含む液に含浸し、乾燥した後、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、前記光触媒を前記編物に担持することを特徴としたものである。
【0027】
バインダー液に、三次元立体編物を含浸することによって、編物を構成する繊維全体にバインダーを塗布することができる。繊維の表面、繊維間および繊維の編目部分に浸透したバインダー液を乾燥することによって、バインダーが重合・酸化・結晶化・凝集などを起こすため、繊維同士の接着が起こる。これによって、編物の強度をあげ形状安定化させることができる。さらに、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に含浸することによって、バインダーおよび繊維上に光触媒を固定化することができる。ここで編物は三次元立体構造なので、光触媒担持量を多くすることができる。乾燥後の脱臭フィルタが三次元の多孔体となるため、臭気との接触効率がよく、脱臭性能を高めることができる。また、脱臭フィルタを低圧損にすることができる。編物なので液に含浸した際に型崩れしにくく、含浸前の形状を保ったまま脱臭フィルタを製造することができる。
【0028】
また、バインダーが繊維同士を接着することを特徴としたものであり、三次元立体編物を構成する繊維の接点が接着されるので、より強度が優れた脱臭フィルタを製造することができる。
【0029】
また、光透過性のバインダーを用いて繊維に光触媒を接着したことを特徴としたものであり、光透過性のバインダーが紫外線を透過または反射するので、光触媒がより活性化されるという作用を有する。
【0030】
また、バインダーがケイ素化合物であることを特徴としたものであり、バインダー層が紫外線を透過または反射するので、光触媒がより活性化されるという作用を有する。また繊維をケイ素化合物が被覆することによって、光触媒による繊維の劣化を抑えることができる。
【0031】
特にバインダーがSiO2を主成分とするガラスであった場合、光触媒によって劣化しないガラスが光触媒に密着しているので、光触媒を長期間安定的に担持することができる。また、ガラス層によって樹脂と光触媒が密着しにくいため、繊維が劣化する恐れがすくないという作用を有する。また、ガラス層が紫外線を透過または反射するので、光触媒がより活性化されるという作用を有する。
【0032】
また、無機繊維の少なくとも一部が光透過性であることを特徴としたものであり、三次元立体構造の繊維の陰に位置する光触媒にも光が照射されやすく、脱臭性能を高めることができる。
【0033】
また、無機繊維がガラス繊維であることを特徴としたものであり、光触媒によって繊維が劣化することがないという作用を有する。ガラス繊維は光透過性または反射性を有するため、担持した光触媒に効率的に光を照射でき、脱臭性能を高めることができるという作用を有する。
【0034】
また、三次元立体編物を処理液に含浸した後に、前記編地の開口部から空気を吹き込んで、余剰の処理液を除去することを特徴としたものであり、編地の開口部から風を吹き込むことによって、三次元立体編物の内部まで風がとどき、余剰に付着した液を除去することができ、余剰液がフィルタ上で膜状に乾燥することによって発生する脱臭フィルタの目詰まりを防止することができる。
【0035】
また、処理液に界面活性剤を含むことを特徴としたものであり、処理液に界面活性剤を含むことにより、フィルタの繊維間に処理液が浸透しやすくなり、気泡を除去することにより、編物を構成する繊維全体に液を塗布することができる。
【0036】
また、三次元立体編物の厚みを1mm以上30mm以下にすることを特徴としたものであり、十分な開口をもち、通気性能に優れた脱臭フィルタを得ることができる。三次元立体構造なので、平面構造に比べて編物の強度が強く、変形しにくいという作用を有する。また、光触媒と臭気の接触時間が長くなり、脱臭性能が向上するという作用を有する。
【0037】
また、乾燥温度が90℃から900℃であることを特徴としたものであり、バインダーを90℃から900℃の温度で処理することによってバインダーを重合・硬化させることができ、繊維同士の接着あるいは繊維と光触媒を強固に接着することができる。また、バインダーに熱を加えることによってバインダーの結晶化を促進し、光透過性を向上させることができる。
【0038】
また、乾燥によって有機物を焼成除去することを特徴としたものであり、有機物を含有する繊維あるいは有機物接着剤を乾燥によって焼成除去することによって、光触媒が有機物を分解して生じる脱臭フィルタの変色、異臭の発生などを防止することができる。また光触媒で発生したラジカル成分を付着有機物の分解に利用されることがないため、光触媒の脱臭性能を十分に活用することができる。
【0039】
また、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に、三次元立体編物を浸漬し、乾燥する作業を複数回行うことを特徴としたものであり、光触触媒の担持むらをなくして担持量を増加させ、脱臭フィルタ全体を光触媒で被覆することができる。また、脱臭フィルタを強固で形状安定性に優れたものにすることができる。
【0040】
また、連結繊維を屈曲させることを特徴としたものであり、湾曲した通風路になるため、光触媒と臭気を含む空気の接触時間を長くすることができ、脱臭性能を向上させることができる。また、編物の開口部分に照射された光も屈曲した繊維表面に照射されるため、脱臭フィルタの受光面積を拡大し、脱臭性能を高めることができる。
【0041】
抗菌性の金属を担持させたことを特徴としたものであり、光があたらない場合にも、脱臭フィルタに抗菌作用を与えることができる。
【0042】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0043】
(実施の形態)
図1は本発明の実施の形態における三次元立体編物からなる脱臭フィルタ1の斜視図、図2は編地と連結繊維の開口部分の拡大斜視図、図3は三次元立体編物を構成する繊維の編目部分の拡大図である。脱臭フィルタ1は、略正六角形の開口2を有する二枚の編地3、4と連結繊維5からなる三次元立体編物である。Aは開口2の最長対角線を示し、Bは厚みを示している。片側の編地を構成する編目6のうちのひとつから、4本の連結繊維5が反対側の編地を構成する編目に延び、二枚の編地を曲線的に連結しており、前記編地3、4および連結繊維5によって形成される編目6の間隙に光触媒7を保持している。光触媒7は編目6以外の繊維表面にも、図示しないバインダーによって保持されており、脱臭フィルタ1の全体が光触媒7によって被覆されている。
【0044】
本発明の脱臭フィルタは、三次元立体編物を、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む処理液に含浸し、乾燥することによって製造される。処理液は、光触媒および/または光触媒の前駆体を溶媒で希釈し、必要に応じて界面活性剤や分散剤を添加した後、混合することによって作成することができる。ここで、処理液の混合には、ミキサー、ボールミル、超音波分散など一般的な混合方法を利用することができる。処理液に、三次元編物を静かに沈めて含浸し、引き上げることによって、三次元立体編物に処理液を付着させる。含浸時間は処理液に組成によって最適な時間を設定すればよく、酸化チタンとコロイダルシリカの水溶液からなる処理液の場合には1〜60秒程度、処理液中で含浸すればよい。
【0045】
三次元立体編物に処理液を付着させ、そのまま乾燥させると、編物の開口を閉塞する恐れがあると判断される場合には、余剰の処理液を除去する必要がある。除去方法としては、編物の開口部からエアブローしたり、編物に振動を与えたり、編物を遠心脱水するなどの方法を用いることができる。
【0046】
乾燥処理は、処理液の溶媒あるいは分解物を除去する目的で行う。処理液が酸化チタンゾルなどの水溶液であれば、室温から100℃程度の温度で通風乾燥すればよい。バインダーを含む場合には、バインダーの硬化温度以上にする必要があり、例えばコロイダルシリカを用いる場合には、100℃〜200℃程度の乾燥温度が必要である。LiO2などのケイ酸塩を用いる場合には、350℃〜400℃の温度にして、バインダーの結晶化を促進するとよい。光触媒の前駆体として、チタンのアルコキシド類とその加水分解物を用いる場合には、光触媒が生成する400℃〜700℃の温度にする必要がある。この場合、700℃以上の温度にすると、光触媒としての活性が高いアナターゼ型から、活性の低いルチル型に結晶変化するので好ましくない。10分程度の短時間であれば900℃まで昇温してもよく、これによって有機物を焼成除去することができる。乾燥温度は、室温からから900℃であればよく、より好ましくは90℃から700℃であり、さらに好ましくは100℃から400℃である。なお、室温とは溶媒が蒸発する程度の温度を意味しており、通常5℃〜30℃程度である。
【0047】
特許文献1に記載の従来の脱臭・殺菌装置に用いられるガラスクロスは、風速1cm/s(0.01m/s)における圧力損失が1〜20mmH2O (10〜200Pa)程度のものが好適とされ、空気清浄機や脱臭機などのフィルタとして要求される0.1m/s以上の風速では圧力損失が高すぎるため、実用には適さないものであった。また、光触媒担持量を多くするとガラスクロスの開孔部が目詰まりして、実質的に風を流すことが困難となるため、光触媒担持量を増やすことが難しいという課題があった。
【0048】
ガラスクロスのような織物の場合、織物の繊維の重なり部分をバインダーで接着をしないと形状保持ができないため、繊維の重なり部分は接着剤でうめられている。結果として織物に光触媒担持する際には、織物の重なり部分には光触媒を保持することができない。一方、編物の場合、編物の繊維同士を接着するバインダーは必ずしも必須ではなく、編目を適当な間隔で設けることによって形状保持できるため、ループ状になった編目部分に光触媒を保持することができ、織物よりも光触媒担持量を増やすことができる。
【0049】
また、特許文献2に記載のような樹脂繊維で構成した三次元立体編物では、光触媒を担持した場合、繊維に光触媒に対する化学的・機械的強度が要求され、光触媒をそのまま担持すると光触媒によって生成されるラジカル種によって樹脂繊維が劣化するという課題があった。光触媒に対する耐久性を有する無機繊維で立体編物を構成した場合、樹脂繊維にくらべると無機繊維は曲げ強度が弱くコシがないため、形状を保持することが困難である。本発明では、繊維の編目部分を接着することによって形状を安定化させることが可能となっている。なお、無機繊維と有機繊維を併用すると光触媒によって有機繊維が分解されることがあるため、有機繊維を併用して用いる場合には形状を維持することが可能な程度の量にとどめたほうがよい。
【0050】
本発明の脱臭フィルタは三次元立体編物なので、ガラスクロスなどの二次元織物に比べてフィルタの表面積が大きく、触媒担持量を多くすることができる。また、光触媒担持後の脱臭フィルタが三次元の多孔体となり、臭気と触媒の接触時間を長くすることができるため、空気がフィルタを一回通過した際の脱臭性能を向上させることができる。また、ガラスクロスなどの二次元織物を複数枚重ねたものに比べて、通風路が確保されているため、低圧損にすることができる。また、織物に比べて編物なので形状安定性がよく、強度にも優れるという作用を有する。さらに、編物の編目部分が接着されているので、フィルタに対する圧縮・引っ張りなどの変形要因に対して強度が強く、形状安定性がよい。また、繊維同士が密に絡み合っているため、絡み合った場所に光触媒を保持しやすいという作用を有する。また、編目同士が接着されているので形状安定性がよいという作用を有する。また、編物を構成する繊維の少なくとも一部が無機繊維なので、光触媒による繊維の劣化が少ないという作用を得ることができる。
【0051】
図4は、三次元立体構造であるハニカムコルゲートフィルタの斜視図である。ハニカムコルゲートフィルタ11は、波板12と平板13を積層した構造となっており、波板12と平板13の間に開口14を有している。
【0052】
図5は(A)ハニカム構造体を利用した脱臭フィルタの光のあたり方、図6(B)は三次元立体編物を利用した脱臭フィルタの光のあたり方を示す模式図である。図5のドット部分はランプ8から照射された光のあたる範囲を模式的にあらわしている。脱臭フィルタ1を通過する臭気は、脱臭フィルタ1に保持された光触媒に吸着されるとともに、光触媒の酸化作用によって分解され、脱臭フィルタ1は再生される。(A)のようにハニカム構造体を利用した脱臭フィルタでは、ハニカム内部の光触媒は、ハニカムを構成する壁によって影となる部分が多く、ランプ8からの効果的な光照射が行われないため光触媒の酸化作用が十分働かず臭気が分解されないため、脱臭フィルタの再生が不十分になることがあった。一方、(B)のように三次元立体編物を利用した脱臭フィルタでは、編物の繊維が光を遮断する壁を形成していないため、編地の開口部に保持された光触媒と、連結繊維に保持された光触媒の両方に光照射される。その結果、脱臭フィルタ内部の光触媒にも光が照射されるため、臭気が分解され脱臭フィルタを十分に再生することができる。なお、図5では光触媒の励起光源としてランプ8を示したが、空気清浄機などの脱臭フィルタとして用いる場合には、空気清浄機の一部をガラスのような光透過性の材料で構成し、外光の自然照射によって脱臭フィルタの再生を行ってもよい。
【0053】
光触媒としては、酸化スズ、酸化亜鉛、三酸化タングステン、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化鉄、酸化ビスマスなどの金属酸化物、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化モリブデンなどの金属硫化物、チタンナイトライドなどの窒化物が挙げられ、安全性、経済性などの面から、酸化チタンが好ましい。また、光触媒の表面にPt、Pd、Rh、Ru、Au、Ag、Cu、Zn等の助触媒を添加してもよい。
【0054】
光触媒の前駆体としては、乾燥あるいは焼成後に光触媒活性を示すものであれば特に問題はなく、酸化チタンゾル、酸化亜鉛ゾル、チタンのアルコキシド類とその加水分解物などが挙げられる。
【0055】
無機繊維としては、金属、ガラス、セラミックなどが挙げられるが,紫外線に対する強度を有していることが望ましい。金属としては、鉄・ステンレス・アルミ・銅・銀・金繊維などが挙げられる。セラミックとしては、アルミナ、シリカ、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維などが挙げられる。ガラス繊維は樹脂繊維のように光触媒による劣化をうけることがなく、長期にわたって信頼性の高い三次元立体編物を得ることができる。また、ガラス繊維は光透過性および光反射性を有するため、光触媒に効率的に光を照射することができ、優れた脱臭性能を得ることができる。ガラス繊維の材質としては、石英ガラス、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Aガラスなど光透過性および光反射性を有するものを利用することができる。
【0056】
三次元立体編物を構成する繊維は、光触媒性能と担持強度が確保できる材質であれば完全に無機物である必要はなく、樹脂繊維や天然繊維などを利用して、繊維表面にチタンやシリカやアルミナや金属などの被膜をコーティングあるいは蒸着して、繊維の表面部分を無機物にして利用してもよい。
【0057】
編地を連結する連結繊維は、有機繊維を無機繊維と混合して利用してもよい。連結繊維は三次元立体編物の立体形状を安定化させるために、適度な弾力性と強度が必要である。とくに脱臭フィルタを製造する際の触媒担持工程や乾燥工程では、脱臭フィルタに応力や熱がかかるため変形が生じやすい。有機繊維にくらべると無機繊維は曲げ強度が弱くコシがないため、無機繊維で立体編物を作成すると、変形が生じやすくなる。そこで、銃器繊維と無機繊維を混合して編物を構成することによって形状を安定化させることができる。
【0058】
有機繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、羊毛、綿等の天然繊維、あるいはキュプラ等の再生繊維など、各種材質を用いることができる。繊維の材質を選択することにより、たとえば、ポリエステルなど硬質の繊維を用いた場合には、開口の形状や厚み、脱臭フィルタの形状を維持することが容易となる。
【0059】
三次元立体編物を構成する繊維の編目部分の接着には、適当なバインダーを用いる方法、熱処理をして繊維を溶着する方法などが挙げられる。バインダーとしては、光触媒の触媒作用によって劣化しなければよく、シリコーンやフッ素樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、硫酸カルシウム、粘土等が挙げられる。
【0060】
バインダーとしては、光触媒によって劣化せず、繊維を接着できるものであれば特に問題はなく、Na2O、K2O、LiO2などのケイ酸塩からなるアルカリシリケート塗料、シリカゾル、アルミナゾルなどの無機コロイド、ケイ素、チタン、アルミなどのアルコキシド類とその加水分解物、リン酸アルミニウム系塗料、重クロム酸系塗料、セメント類、シリコーン、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0061】
光透過性のバインダーを用いると、バインダーが光透過性および光反射性を有するため、光触媒に効率的に光を照射することができ、優れた脱臭性能を得ることができる。光透過性のバインダーとしては、Na2O、K2O、LiO2などのケイ酸塩からなるアルカリシリケート、シリカゾルなどの無機コロイド、シリカ、ケイ素、チタンなどのアルコキシド類とその加水分解物などが挙げられる。なお、Naなどのアルカリ成分は光触媒の結晶性を低下させ、光触媒性能を低下させることがあるため、バインダーとしては、主成分がSiO2であることがのぞましく、シリカゾルまたはシリカアルコキシド類の加水分解物などが好適である。
【0062】
処理液には界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は市販のものを利用することができ、光触媒の分散性がよく、処理液の粘度を低下させて液に含浸したときに繊維の編目に気泡が残らないように作用するものが好適であり、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0063】
裏表二層の編地の開口は、開口の最長対角線Aが0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、より好ましくは2〜6mmである。これによって、十分な開口をもち、通気性能に優れた脱臭フィルタとすることができる。
【0064】
また、編地の開口形状は、略正多角形であることが好ましく、表裏編面に、同じ形状または同じサイズの開口を連続して設けることができるために、閉塞部を作ることなく連続的な開口を得ることができる。開口の形状としては、三角形や四角形、六角形であれば、同じ形状およびサイズの開口を連続して設けることができ、編地における開口の配置としてはもっとも効率的である。また、たとえば同じ四角形であっても、長方形やひし形の開口に比べ、正方形の開口は対向する辺のすべてがもっとも離れた配置になるため、脱臭フィルタの形状が安定化する。ここで、表裏編面の開口位置をずらして配置しても特に問題はなく、この場合、空気が脱臭フィルタの内部を曲線的に通過する一方で、開口部から入射した光は連結繊維に直線的に照射されるため、脱臭フィルタを透過する光を減らすことができるという効果を得ることができる。
【0065】
三次元立体編物を構成する繊維の直径は、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μmから200μmである。これによって、十分な開口をもち、通気性能に優れた脱臭フィルタとすることができる。また、適度の反発性を有し、強度が優れた脱臭フィルタとすることができる。
【0066】
また、三次元立体編物を構成する連結繊維の少なくとも一部がマルチフィラメントであってもよい。連結繊維にマルチフィラメントを使用することにより、表面積が広く、脱臭性能に優れた脱臭フィルタになる。モノフィラメントを複数本ひきそろえる場合には、形状安定性に優れた脱臭フィルタを得ることができるが、マルチフィラメントを用いる場合に比べ、表面積が少なくなる。なお、モノフィラメントとマルチフィラメントをひきそろえて使用しても良い。その場合には、マルチフィラメントの配合割合を変化させることにより、強度と触媒保持量のバランスを調整することができる。一本の太い繊維よりも複数の細い繊維をより合わせたマルチフィラメントのほうが粉落ちすることなく光触媒の担持量を増加させることができ、脱臭性能に優れたものが得られる。細い繊維に担持した場合、光触媒が繊維間に入り込んではさまり、強固に固定化されるとともに、外部から衝撃が加わった場合にも繊維を介して衝撃が伝わるので脱落しにくいという作用を得ることができる。連結繊維のマルチフィラメント配合割合を増加させれば、単位体積あたりの繊維原材料の使用量を同等に保ちながら、脱臭フィルタ全体の表面積を増加させることができ、高効率で経済性に優れた脱臭フィルタを得ることができる。
【0067】
光触媒の粒子径は、三次元立体編物を構成する繊維の直径よりも小さいほうが好ましい。光触媒が繊維の直径よりも小さいため、光触媒が繊維間の編目や重なり部分に入り込みやすく、強固に固定化されるという効果を得ることができる。その結果、光触媒の担持量を増加させることができる。光触媒の粒子径は、一次粒子径として6〜100nm程度であるが、実際は一次粒子が凝集して0.1〜100μm程度の二次粒子になっていることが多い。ここでいう光触媒の粒子径は二次粒子の状態を示し、光触媒を編物に分散させる際に繊維の編目や重なり部分に入り込みやすいことが必要である。
【0068】
連結繊維は屈曲していてもよく、湾曲した通風路になるため、光触媒と臭気を含む空気の接触時間を長くすることができ、脱臭性能が向上するという作用を得ることができる。また、編物の開口部分に照射された光も屈曲した繊維表面に照射されるため、脱臭フィルタの受光面積を拡大することができる。
【0069】
光触媒は光が照射されることによって触媒作用を発揮することから、脱臭フィルタには光があたることが必要である。脱臭フィルタを空気清浄機に用いる場合、光の照射は空気清浄機の内部に光源を備える方法と、太陽光や室内照明の光など空気清浄機外部の光を利用する方法がある。空気清浄機外部の光を利用するためには、空気清浄機機の一部を光透過性の部材で構成すればよく、脱臭フィルタの周囲をガラス、透明樹脂などで構成して光を脱臭フィルタにあててやればよい。
【0070】
空気清浄機機内部に光源を備える方法では、光触媒を励起する光源としてブラックライト、冷陰極管、殺菌灯、蛍光灯などのランプが挙げられる。光触媒を励起することができればいかなる手段を用いてもよいが,冷陰極管は比較的低コストであり,耐久寿命も長いことから光源として好ましい。LED光源を複数配列して光源としてもよい。
【0071】
励起光源から脱臭フィルタに照射される光は、波長400nm以下の紫外線を0.001〜10.0mW/cm2の範囲となるように脱臭フィルタに照射されることが好ましく、より好ましくは0.5〜2mW/cm2の光強度である。照射強度は、励起光源の数、発光強度、励起光源と脱臭フィルタの距離を、任意の値に設計して制御することができる。
【0072】
脱臭フィルタの紫外線透過率は、10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。これによって、脱臭フィルタが光を効率的に受光することができ、脱臭性能が高いという作用を得ることができる。脱臭フィルタの紫外線透過率は、編地の開口率、繊維の使用量、脱臭フィルタの厚み、連結繊維の本数および屈曲状態、表裏の開口部の位置によって任意の値に制御することができる。
【0073】
三次元立体編物の厚みが1mm以上30mm以下であることが好ましく、十分な開口をもち、通気性能に優れた脱臭フィルタを得ることができる。三次元立体構造なので平面構造に比べて編物の強度が強いという作用を有する。また光触媒と臭気の接触時間が長くなり、脱臭性能が向上するという作用を有する。気体の圧力損失は、主に表面と裏面の編地の形状と開口面積によって支配され、連結繊維の形状の影響は少ないと考えられる。厚みを1mm以上30mm以下とすることにより、圧力損失を低く保ちながら、表面と裏面の間に十分な光触媒量を保持することができる。また、保持された光触媒と、そこを通過する空気などの気体との接触時間も十分に得られる。
【0074】
脱臭フィルタは、吸着剤を含んでいてもよい。吸着剤を含むことにより、吸着剤で臭気を濃縮して光触媒で効率的に分解させることができ、優れた脱臭性能を得ることができる。また、光触媒に光が照射されていないときでも脱臭作用を得ることができる。吸着剤としては、活性炭、活性炭素繊維、ゼオライト、シリカゲル、セピオライト、珪藻土、アパタイトなどが挙げられ、紫外線領域の光吸収量が少ないハイシリカゼオライト(Si/Al=16以上)が好適である。光触媒と吸着剤の比率としては任意の配合を用いることができるが、好ましくは光触媒濃度が20〜80wt%である。吸着剤を脱臭フィルタに含ませる方法としては、処理液に吸着剤を混合する方法などが挙げられる。
【0075】
脱臭フィルタは抗菌性の金属を担持していてもよい。抗菌性の金属としては、銀・銅・亜鉛などの金属イオンを溶出する無機化合物、銀・銅・亜鉛の金属微粒子、銀ゼオライト、銀含有リン酸ジルコニウムなどが挙げられる。抗菌性の金属を担持することにより、光があたらない場合にも、脱臭フィルタに抗菌作用を与え、フィルタを清潔に保つことができる。抗菌性能金属を脱臭フィルタに含ませる方法としては、処理液に抗菌性の金属を混合する方法などが挙げられる。金属微粒子、金属コロイド、金属の硝酸塩・塩酸塩・炭酸塩、金属錯体などの微粒子あるいは水溶液を処理液に混合し、編物を処理液に含浸し、乾燥させることによって、脱臭フィルタに抗菌性の金属を含ませることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0077】
(実施例1)
脱臭フィルタを作成するために、図1、図2に示すような三次元立体編物を利用した。用いた三次元立体編物は、略正六角形の開口を有する二枚の編地3、4と連結繊維5からなっている。開口2の最長対角線Aは5mm、厚みBは8mmである。連結繊維5には単繊維径55μm(330/10dtex)を10本束ねたポリエステルマルチフィラメントを使用している。三次元立体編物の編目部分および繊維の接点を接着し、繊維の少なくとも一部を無機繊維とするために、バインダーを用いた。バインダーとして、テトラエトキシシランとエタノールを主成分として混合した溶液に、少量の塩酸と水を加えて加水分解を行ったものを用いた。三次元立体編物をバインダー溶液に含浸し、余剰液を除いた後、70℃で20分乾燥することによって、ポリエステルマルチフィラメントをSiO2成分で被覆した。乾燥後の三次元立体編物は、編目部分が接着されて強度が向上し、形状が安定化した。
【0078】
酸化チタンと上記のバインダー液を混合した液に、上記の三次元立体編物を含浸し、余剰液を除いた後、70℃で20分乾燥することにより、脱臭フィルタ(立体編物A)を作成した。得られた脱臭フィルタ(立体編物A)は、さらに強度が向上した。脱臭フィルタ(立体編物A)の表面を顕微鏡で観察すると、表面に酸化チタンと思われる粒子状の成分が保持されている様子が観察できた。
【0079】
(実施例2)
編物を構成する繊維をポリエステルからガラス繊維に変え、実施例1と同じ形状の三次元立体編物を作成した。開口の最長対角線Aは5mm、厚みBは8mmである。連結繊維には繊維径55μmを10本束ねたガラス繊維マルチフィラメントを使用している。ガラス繊維は光触媒に対する耐久性を備えているため、光触媒とバインダーを含む液を直接塗布することとした。また、ガラス繊維はポリエステル繊維に比べて水に対するなじみ性が良いため、テトラエトキシシランとエタノールを主成分として混合した溶液ではなく、水系バインダーであるコロイダルシリカを用いて、エタノールが残留しない脱臭フィルタを作成した。液の成分は、コロイダルシリカ・酸化チタン・吸着剤としての疎水性ゼオライト・界面活性剤・水である。ガラス繊維でできた三次元立体編物を液に含浸すると、液の重量によって変形が生じやすいため、塗布液をスプレーで噴霧して光触媒とバインダーと吸着剤を含む液を塗布した。液はあらかじめボールミルを用いて十分混合攪拌したものを用いた。スプレー塗布した編物を、100℃で20分乾燥させる作業を3回繰り返し、脱臭フィルタ(立体編物B)を作成した。脱臭フィルタ(立体編物B)の表面を顕微鏡で観察すると、表面に酸化チタンと吸着剤と思われる粒子状の成分が混在して保持されている様子が観察できた。
【0080】
作成した脱臭フィルタ(立体編物B)の連結繊維は屈曲しており、脱臭フィルタの開口部から見ると連結繊維が開口部をふさぐように伸びている。脱臭フィルタの厚み方向から断面を見ると、連結繊維が波状に規則配列されており、連結繊維間が屈曲して連通した通風路を形成している様子が観察された。
【0081】
紫外線冷陰極管と紫外線強度計を30mmの間隔をおいて配置し、紫外線強度を測定した。脱臭フィルタなしでは、2.300mW/cm2であった。光触媒を保持させる前の三次元立体編物で遮光した場合、0.545mW/cm2であった。触媒を保持させた脱臭フィルタ(立体編物B)で遮光した場合、0.046mW/cm2であった。それぞれの強度差から、脱臭フィルタ(立体編物B)の受光率は98%となった。
【0082】
(実施例3)
開口の最長対角線Aを7mm、厚みBは8mmとした三次元立体編物を作成した。連結繊維には繊維径138μmのポリエステルモノフィラメントと、繊維径15μmを36本束ねたガラス繊維マルチフィラメントを使用している。実施例2と同様に、水系バインダーであるコロイダルシリカを用いて、エタノールが残留しない脱臭フィルタを作成した。液の成分は、コロイダルシリカ・酸化チタン・吸着剤としての疎水性ゼオライト・界面活性剤・水である。スプレー塗布した編物を、100℃で20分乾燥させる作業を3回繰り返し、脱臭フィルタ(立体編物C)を作成した。脱臭フィルタ(立体編物C)の表面を顕微鏡で観察すると、表面に酸化チタンと吸着剤と思われる粒子状の成分が混在して保持されている様子が観察できた。
【0083】
作成した脱臭フィルタ(立体編物C)の連結繊維は屈曲しており、脱臭フィルタの開口部から見ると連結繊維が開口部の一部をふさぐように伸びている。脱臭フィルタの厚み方向から断面を見ると、連結繊維が波状に規則配列されており、連結繊維間が屈曲して連通した通風路を形成している様子が観察された。
【0084】
紫外線冷陰極管と紫外線強度計を30mmの間隔をおいて配置し、紫外線強度を測定した。脱臭フィルタなしでは、2.300mW/cm2であった。光触媒を保持させる前の三次元立体編物で遮光した場合、1.100mW/cm2であった。触媒を保持させた脱臭フィルタ(立体編物C)で遮光した場合、0.350mW/cm2であった。それぞれの強度差から、脱臭フィルタ(立体編物C)の受光率は85%となった。
【0085】
(実施例4) (面風速と圧力損失)
実施例2および3で作成した脱臭フィルタの面風速と圧力損失の関係を図6に示す。比較対照として、図4のような三次元構造をもつハニカムコルゲートフィルタ(ハニカムA:180セル/in2、厚み10mm)、三次元構造をもつハニカムコルゲートフィルタ(ハニカムB:80セル/in2、厚み10mm)、ガラス繊維織物フィルタ(繊維織物A、模紗織、縦11×3本/25mm、横11×3本/25mm、質量354g/m2、標準番手135tex)、ガラス繊維織物フィルタ(繊維織物B:模紗織、縦7.5×4本/25mm、横6×4本/25mm、質量375g/m2、標準番手169tex)、ガラス繊維織物フィルタ(繊維織物Bを2枚重ねたもの)を示した。立体編物Bは、繊維織物Aおよび繊維織物Bよりも圧力損失が低くなっているが、ハニカムA、Bよりは圧力損失が高い。立体編物Cは、立体編物Bよりも開口径が大きいため、さらに圧力損失が低くなっており、ハニカムBとほぼ同じ圧力損失を示した。
【0086】
立体編物を利用して、脱臭フィルタとして多用されているハニカムコルゲートフィルタと同じような低圧損脱臭フィルタを作ることができた。
【0087】
(実施例5) (圧力損失と触媒担持量)
実施例2および3で作成した脱臭フィルタの圧力損失と固形分添着量の関係を図7に示す。フィルタの圧力損失は面風速1m/s時の値、固形分添着量はフィルタに付着している光触媒・吸着剤・バインダーの量を合計したものである。
【0088】
繊維織物を利用した脱臭フィルタでは圧力損失が高く、固形分添着量は少ないものとなった。固形分添着量を増やすためにフィルタ量を増やそうとすると、圧力損失も上昇しまうことがわかり、低圧損で固形分添着量の多いフィルタを得るには立体形状が必要であることがわかる。立体編物では、脱臭フィルタとして多用されているハニカムコルゲートフィルタと同じような低圧損で固形分添着量の多い脱臭フィルタを作ることができることがわかる。このような編物は、設計上の工夫で糸の太さや織りかたや開口径を変えることで圧力損失を制御することが容易である。
【0089】
(実施例6) (脱臭性能)
作成した脱臭フィルタを用いて脱臭試験を行った。容積1m3のアクリル製試験容器内に、脱臭フィルタ・送風手段としてのファン・光源としての紫外線冷陰極管を設置した脱臭ユニットを設置した。脱臭フィルタは78mm×130mmの大きさとし、脱臭フィルタを通過する空気が、面風速1.5m/sになるように調整した。脱臭フィルタと紫外線冷陰極管は密着させ、脱臭フィルタの表裏面を照射できる位置に紫外線冷陰極管を各1本ずつ設置した。紫外線冷陰極管は、長さ150mm、中心発光波長365nm、7mmの距離で測定した紫外線強度が2mW/cm2のものを使用した。アクリル製試験容器内を温度25±3℃、湿度50±5%にした状態で、濃度が20ppmになるようにアセトアルデヒドを導入した。アセトアルデヒド濃度はガスクロマトグラフィーを用いて定量した。
【0090】
アセトアルデヒド脱臭性能の比較を図8に示す。縦軸は初期濃度を100%としたときのアセトアルデヒド残存率である。脱臭フィルタなしであるBLANKでは、120分後の残存率が90%となっており、試験容器のもれ・およびアクリル容器への吸着作用の影響が約10%存在している条件での評価となっている。
【0091】
ガラス繊維織物A、Bでは、光触媒の作用によって臭気の減衰がみられるものの、脱臭速度はあまり高くない。ハニカムフィルタAは、初期(0〜15分)の脱臭がはやく、その後の脱臭速度も速い。ハニカムフィルタBは、初期(0〜15分)の脱臭がはやく、その後の脱臭速度がやや遅く、ハニカムのセル数(開口径)の差によって、変化がみられた。初期の脱臭性能は、主に吸着剤の吸着能力および脱臭フィルタへのガスの拡散速度に影響を受けていると考えられ、ハニカム構造はガスの拡散性能に優れているため脱臭性能が高いと考えられる。15分以降の脱臭速度は、主に光触媒の臭気分解性能に影響を受けていると考えられ、セル数が多く、コルゲートの間隔が狭いハニカムAの方が光を効率的に受光できたものと考えられる。
【0092】
立体編物A、Bは、ほぼ同じような脱臭性能の傾向を示し、初期(0〜15分)の脱臭がおそく、その後の脱臭速度が速かった。10〜40分にかけての脱臭速度はハニカム以上であったことから、ハニカムと比べてガスの拡散性能には劣るが光を効率的に受光でき、光触媒の作用をより効率的に発揮できるものと考えられる。
【0093】
(実施例7) (光触媒による脱臭フィルタの再生効果)
光触媒による脱臭フィルタの再生効果を調べるため、以下の実験を行った。実施例6と同様の条件で、アセトアルデヒドのガスを30分おきに等量ずつ追加導入し、容器内のアセトアルデヒド濃度を測定した。評価した脱臭フィルタは、立体編物BとハニカムAである。結果を図9に示す。
【0094】
アセトアルデヒドの導入回数が3回目までは、ハニカムAの方が高い脱臭性能を示した。特に、ガス導入直後の吸着作用が強くなっており、実施例6とほぼ同様の傾向となった。導入回数が4〜7回目では、立体編物Bの方が高い脱臭性能を示しており、その差は導入回数を増やすごとに増大した。図9の●と▲は、ガスを導入して30分後のアセトアルデヒド濃度を示しており、回数を増すごとに濃度差が広がっていることがわかる。この理由として、ハニカムAよりも立体編物Bの方が、脱臭フィルタ全体に光が照射され、光触媒によって吸着剤に吸着されたアセトアルデヒドを分解して再生されているためと考えられる。試験後の脱臭フィルタは、両者ともやや黄色に変色していたが、立体編物Bのほうが白く見える面積が大きく、広い範囲を再生できている様子がうかがえた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
風速が早い領域でも脱臭フィルタとして利用可能であり、光触媒担持量を増やすことができ、光触媒を担持しても繊維が劣化せず、形状安定性を有する脱臭フィルタの製造法を提供することができ、脱臭機、空気清浄機、脱臭機能付きエアコンなどに用いる脱臭フィルタとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施の形態の三次元立体編物からなる脱臭フィルタの斜視図
【図2】同脱臭機の三次元立体編物からなる脱臭フィルタの編地と連結繊維の開口部分の拡大図
【図3】同脱臭機の三次元立体編物からなる脱臭フィルタを構成する繊維の編目部分の拡大図
【図4】ハニカムコルゲートフィルタの斜視図
【図5】脱臭フィルタの光のあたり方を示す模式図
【図6】脱臭フィルタの面風速と圧力損失の関係を示すグラフ
【図7】脱臭フィルタの圧力損失と固形分添着量の関係を示すグラフ
【図8】アセトアルデヒド残存率と経過時間の関係を示すグラフ
【図9】アセトアルデヒド残存率と経過時間の関係を示すグラフ
【図10】従来の脱臭装置を示す概略断面図
【符号の説明】
【0097】
1 脱臭フィルタ
2 開口
3 編地
4 編地
5 連結繊維
6 編目
7 光触媒
8 ランプ
11 ハニカムコルゲートフィルタ
12 波板
13 平板
14 開口
101 フィルタ
102 ブロワ
103 紫外線光源(殺菌灯)
104 ガラスクロス
105 多孔板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維で構成される開口を有する裏表二層の編地と、前記編地を連結する連結繊維からなり、前記繊維および連結繊維の少なくとも一部が無機繊維である三次元立体編物を、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む処理液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、光触媒を前記編物に担持することを特徴とする脱臭フィルタの製造方法。
【請求項2】
無機繊維を含む三次元立体編物を、バインダーを含む液に含浸し、乾燥した後、光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に含浸し、乾燥することによって、前記編物の編目を接着するとともに、前記光触媒を前記編物に担持することを特徴とする脱臭フィルタの製造方法。
【請求項3】
バインダーが繊維同士を接着することを特徴とする請求項2記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項4】
光透過性のバインダーを用いて繊維に光触媒を接着したことを特徴とする請求項2または3記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項5】
バインダーがケイ素化合物であることを特徴とする請求項2乃至4いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項6】
無機繊維の少なくとも一部が光透過性であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項7】
無機繊維がガラス繊維であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項8】
三次元立体編物を処理液に含浸した後に、前記編地の開口部から空気を吹き込んで、余剰の処理液を除去することを特徴とした請求項1乃至7いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項9】
処理液に界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項10】
三次元立体編物の厚みを1mm以上30mm以下にすることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項11】
乾燥温度が90℃から900℃であることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項12】
乾燥によって有機物を焼成除去することを特徴とする請求項1乃至11いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項13】
光触媒および/または光触媒の前駆体を含む液に、三次元立体編物を浸漬し、乾燥する作業を複数回行うことを特徴とする請求項1乃至12いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項14】
連結繊維を屈曲させることを特徴とする請求項1乃至13いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。
【請求項15】
抗菌性の金属を担持させたことを特徴とする請求項1乃至14いずれかに記載の脱臭フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−68835(P2010−68835A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236089(P2008−236089)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】