説明

脱臭性、導電性に優れた木炭プラスチック部材

【課題】脱臭性および導電性に優れた建築・建材用の木炭プラスチック部材を提供すること
【解決手段】炭化炉内燃焼最高温度が800℃以上で炭化し、比表面積が300m/g以上である木炭と熱可塑性樹脂を機械的に粉砕および混合してなる熱可塑性複合体を押出成形した、表面比抵抗率が10〜10Ω/sq.であることを特徴とする、脱臭性と導電性に優れた木炭プラスチック部材とする。これにより脱臭性および導電性に優れた建築・建材用の木炭プラスチック部材を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築部材に関し、具体的には、木炭と熱可塑性樹脂からなり、アンモニアやホルムアルデヒドなどの悪臭を吸着して脱臭すると伴に導電性を有し静電気を帯びにくい建築用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油から作られるプラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等)は大量に生産されており、建築部材としても多様な用途に使われている。しかしながら、プラスチック類は体積抵抗率が1016Ω・cm以上の絶縁物質であるため、静電気を帯びやすく、静電気が溜まった高電圧状態で人体が接触すると激しい電気ショックを引き起こすおそれがある。
【0003】
従来プラスチックに導電性を付与する方法が様々検討されてきた。例えばプラスチックの表面に金属などを蒸着、めっきする方法や界面活性剤を塗布する方法があるが、これは表面のみが導電性となるだけでプラスチック本体は絶縁体のままであるため表面が損傷すれば導電性が失われるといった問題がある。
【0004】
また、プラスチックそのものを導電性にするために、電気が流れやすい高分子構造とする研究もなされており、ポリアセチレンやポリピロールなどが新規に合成されているが、コストが高く従来の汎用プラスチックに比べ強度、加工性に劣るといった課題がある。
【0005】
また、プラスチックの中に導電性物質を混合させる方法も一般的に用いられており、導電性付与剤(導電性フィラー)として、カーボンブラック、炭素繊維、金属微粉末、金属繊維などが用いられている。しかしながら、これらは比較的高価な物質であるためコスト高になる。また、金属系のフィラーの場合添加量が多いと重くなるといった課題がある。
【0006】
また、プラスチック類は木材・金属などと組み合わされて建築部材となる場合が多いが、建築部材の組み合わせ、施工において有機溶剤を含有する接着剤を使用することが多い。接着剤からは揮発性有機化合物(VOC)が放散されるため、建物内に一定以上の濃度のVOCが存在するとシックハウス症候群を引き起こす等の健康阻害が発生するため大きな社会問題となっている。しかしながら、上記したプラスチックに導電性を付与する方法は脱臭性には何ら効果がない。
【0007】
プラスチックに脱臭性を付与する方法としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲルなどの多孔質物質を表面に塗布するか混合させることが一般的であるが、これら多孔質物質は比較的高価であり、かつ導電性には効果がない。
【0008】
安価で軽い木炭を使って、導電性と脱臭性を同時に付与しようとする技術を開示した例として例えば下記特許文献1がある。
【0009】
【特許文献1】特開平11−31597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、粒径の異なる木炭粒子を多孔質導電材として表面に備えたシートが開示されているが、これは人が座るシートのシート材の布層面に木炭粒を露出させた樹脂層を設けたものであって、プラスチック部材ではない。しかも表面のみなので損傷によって機能を失うものであり、施工などで表面損傷が起きやすい建築部材に使えるものではない。
【0011】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、特殊な製法で作られた木炭を主成分とし、表面損傷を受けても性能が変わらない脱臭性、導電性に優れた木炭プラスチック建築部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題について精意研究を重ねた結果、炭化炉内燃焼最高温度が800℃以上で炭化し、比表面積が300m/g以上である木炭と熱可塑性ポリマーからなる熱可塑性複合体を押出成形することで建築用部材として優れた脱臭性と導電性が発現されることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明に係る建築用部材は、炭化炉内燃焼最高温度が800℃以上で炭化し、比表面積が300m/g以上である木炭と熱可塑性樹脂からなる熱可塑性複合体を押出成形した、表面比抵抗率が10〜10Ω/sq.であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明により、部材自体がアンモニアやホルムアルデヒドなどの悪臭を吸着除去しかつ静電気の発生・帯電を防止できるので、健康・安全な建築部材が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は多くの異なる形態が実施可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載のみに限定されるものではない。
【0016】
本実施形態は、脱臭性と導電性に優れた木炭プラスチック部材に関するものである。
【0017】
本発明形態に係る木炭プラスチック部材は、炭化炉内燃焼最高温度が800℃以上で炭化し、比表面積が300m/g以上である木炭と熱可塑性ポリマーからなる熱可塑性複合体を押出成形した、表面比抵抗率が10〜10Ω/sq.であることを特徴とする。この部材を建築用に用いることで優れた脱臭性と導電性により快適な室内空間や建築物が可能になる。
【0018】
木炭の原料となる木材は、針葉樹や広葉樹、竹などの森林資源を用いれば良く、特に国内に広く植林されている針葉樹であるスギ、ヒノキ、マツなどが、炭化後の比表面積が大きくなりやすいので好ましい。森林資源以外にも、廃建材や廃木製パレットなども使用可能であるが、塗装等に含まれる重金属の混入が起こる可能性があるため、用いる場合は十分に注意する必要がある。
【0019】
木材を木炭にする炭化方法には、伝統的な築窯法、伏せやきの様な簡易法、流動炉などの工業的方法がある。木炭の性状は炭化方法と炭化温度によって様々に変化する。本発明者らは、木材が自ら燃焼しながら炭化する自燃式炭化法において、燃焼時の空気量を制御することで炭化炉内燃焼温度が達する最高温度800℃以上の高温が達成でき、高温での燃焼後空気を遮断して得られる木炭が300m/g以上の比表面積と高い導電率を有していることを見出した。なお、炭化炉内燃焼温度とは、炭化炉内の火格子直上30cmの位置で測定した温度であり、「最高温度」とは、着火から消火されるまでの炭化過程で測定される最も高い温度をいう。最高温度の範囲としては、800℃以上であればよいが、好ましくは800℃以上1500℃以下、より好ましくは1000℃以上1300℃以下である。
【0020】
炭化時の最高温度を800℃以上とすることで、木炭自体の導電性を高くすることができるとともに、熱可塑性樹脂と粉砕および混合した後押出成形により部材とした場合であっても高い導電性を維持することができる効果があり、1000℃以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1500℃以下とすることで、燃焼が激しすぎて木材が燃え尽き得られる木炭量が少なくなることおよび炉の構造材である鉄や耐火物の損傷が大きくなって炉の寿命を縮めることを防止できる効果があり、1300℃以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0021】
木炭の比表面積を300m/g以上とすることで、熱可塑性樹脂と粉砕および混合した後押出成形により部材とした場合であってもアンモニアやホルムアルデヒドなどの悪臭成分分子の吸着能力を十分確保することができ優れた脱臭性を確保することができる。
【0022】
この木炭を熱可塑性樹脂と機械的に粉砕および混合させることで熱可塑性複合体、すなわち木炭プラスチックとなる。熱可塑性樹脂は、木炭の周囲にバインダーとして配置され、機械的粉砕によって微粉化した木炭と相俟って連結して複合体として熱可塑性を発現するとともに強度をより高くすることができる。熱可塑性ポリマーとしては限定されるものではないがポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンアクリロニトリル/スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミドの1種または2種以上を有していることが好ましい。特に、結晶性を有するポリオレフィン樹脂であるポリプロピレン、ポリエチレンが安価で汎用性があり好ましい。
【0023】
木炭プラスチックにおいて、木炭と熱可塑性樹脂の比率を変えることで脱臭性と導電性を変えることができる。その比率は目的に応じて決めれば良く、限定されるわけではないが、木炭と熱可塑性樹脂の総重量を100重量部とした場合、木炭を20重量部以上80重量部以下とすることが、建築部材として好ましい。木炭を20重量部以上とすることで脱臭性、導電性を十分確保することができ、80重量部以下とすることで熱可塑性樹脂による木炭微粉の連結効果の低下を防止し、熱可塑性の劣化により成形が出来なくなってしまうおそれを防ぐことができる。
【0024】
木炭を20重量部から80重量部に任意に変化させることで、木炭プラスチックの表面比抵抗率を10〜10Ω/sq.に制御することができる。
【0025】
また本実施形態では、上記木炭と熱可塑性樹脂のほか、建築部材で要求される難燃性を満足させるための難燃剤を添加することができる。難燃剤としてはリン系化合物、臭素系化合物、酸化アンチモンなどを用いることができ、その添加量は木炭プラスチックの重量を100重部とした場合、0.1重量部以上10重量部以下とすることが好ましい。
【0026】
なお、本実施形態では木炭と熱可塑性樹脂だけで構成することができるが、熱可塑性樹脂の一部を木粉で置き換えることも可能である。この場合でも木炭プラスチック100重量部とした場合、熱可塑性樹脂が20重量部以上としておくことが必要である。
【0027】
本実施形態において、木炭と熱可塑性樹脂を機械的に粉砕および混合させる方法としては、限定されるわけではないが、例えば図1に示す装置を用いることができる。
【0028】
図1の装置では、チャンバー1内にモーター2によって高速回転する羽根3が設けられ、該チャンバー内に木炭と熱可塑性樹脂を投入後、羽根を高速で回転させることにより、木炭と熱可塑性樹脂を粉砕及び混合することができる。混合された熱可塑性複合体は、そのまま押出成形機に装填して部材に成形すれば良く、または一旦ペレタイザーでペレット化し、このペレットを押出成形機に装填して部材に成形しても良い。
【0029】
部材を成形する押出成形法は特に限定するものではなく、通常のプラスチック成形に用いられる成形機を用いれば良い。木炭プラスチックは熱可塑性ではあるが、一般プラスチックにくらべ溶融時流動性が低い傾向にあるので、2軸スクリューを有する押出成形機が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、上記実施形態において説明した木炭プラスチックについて実際に建築部材を作成し、本発明の効果を確認した。以下に本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はこれらの範囲に限定されるものではない。
【0031】
(実施例)
サンブスギを原料とし、自燃式炭化装置を用いて最高燃焼温度1000℃で炭化した木炭と、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(サンアロマー(株)製:PMA20VとPL500Aの1対1混合)とサンブスギ木粉を、図1で示した粉砕混合装置に投入し、モーター2により羽根3の先端速度が約30m/秒まで回転させることにより機械的に粉砕および混合し熱可塑性複合体、即ち木炭プラスチックを製造した。
【0032】
(比較例)
サンブスギの木粉と熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(サンアロマー製:PMA20VとPL500Aの1対1混合)とを、実施例と同様の方法で機械的に粉砕および混合し熱可塑性複合体(木質プラスチック)を製造した。
【0033】
実施例および比較例の熱可塑性複合体を、シリンダー内径65mmの1軸押出成形機を用いてシリンダー温度180℃、金型温度160℃で直径20mmの丸棒部材を成形した。
【0034】
成形した丸棒部材を長さ100mmのサンプルとし、105℃で8時間乾燥後、サンプル4個を入れた5Lフレックスサンプラーに、濃度50ppmのホルムアルデヒドガスが充満させ、24時間後のサンプラー内ホルムアルデヒド濃度をガス検知管で測定した。
【0035】
成形した丸棒部材をホットプレスにて約100mm×100mm×2mm厚の平板部材に加工し、四探針法(JIS K 7194;三菱化学製 ロレスターGP 使用)にて、表面抵抗率を測定した。
【表1】

【0036】
実施例と比較例の評価結果を示した表1から分かるように、本発明の木炭プラスチック部材は、ホルムアルデヒド濃度が低下しており脱臭性に優れること、および表面抵抗率が低く電導性に優れている。また、木炭の量が多いほど表面抵抗率が低くなっており、木炭比率で導電性が制御できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、天然資源である木材から作られる木炭を主成分として熱可塑性樹脂を含む木炭プラスチックであり、押出成形法で作られる丸棒、板材、パイプ等の部材として建材用途において広く利用できる。脱臭性および導電性を兼ね備えているので、人間生活における居住空間を安全・快適に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】粉砕混合装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1…チャンバー、2…モーター、3…回転羽根


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化炉内燃焼最高温度が800℃以上で炭化し、比表面積が300m/g以上である木炭と熱可塑性樹脂からなる熱可塑性複合体を押出成形した、表面比抵抗率が10〜10Ω/sq.であることを特徴とする、脱臭性と導電性に優れた木炭プラスチック部材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−183658(P2011−183658A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51177(P2010−51177)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(592020563)株式会社藤井製作所 (3)
【Fターム(参考)】