説明

脱酸素剤組成物

【課題】 酸素を吸収した際に臭気を低く抑制した酸素吸収組成物を提供する。
【解決手段】 (a)不飽和脂肪酸化合物又は不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物並びに(b)金属原子を有する触媒の少なくとも二成分を含浸した(c)多孔体と、(d)銀化合物を添着した活性炭とを混合した脱酸素剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を吸収した際に副生成物として発生する脱酸素剤由来の臭気を抑制した脱酸素剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和脂肪酸化合物又は不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物に触媒として遷移金属及びその化合物を添加した脱酸素剤が知られている(特許文献1)。しかしながら、この脱酸素剤は酸素を吸収した際に副生成物として臭気が発生する問題点があった。従来、臭気抑制のために活性炭、モレキュラーシーブス等の物理的に臭気を吸着する物質が用いられていたが、不快臭を抑制することはできなかった。
【0003】
特許文献2や特許文献3には、異臭成分の一部である低級アルデヒドを化学反応により吸収するアルデヒド吸収剤を用いると臭気が抑制できることが開示されている。この方法は、低級アルデヒドを特異的に吸着し、アルデヒドと反応し易い保存物品の変質を防ぐ発明ではあったが、依然として低級アルデヒド以外の異臭の原因となる臭気成分を抑えることはできず、改善すべき問題点があった。
【特許文献1】特公昭62−60936号公報
【特許文献2】特開平11−228954号公報
【特許文献3】特開2002−336693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、酸素を吸収すると発生する臭気を抑制した脱酸素剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的のため鋭意検討した結果、脱臭剤として銀化合物を添着した活性炭を用いると酸素を吸収した際に発生する臭気をほぼ完全に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、(a)不飽和脂肪酸化合物又は不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物並びに(b)金属原子を有する触媒の少なくとも二成分を含浸した(c)多孔体と、(d)銀化合物を添着した活性炭とを混合した脱酸素剤組成物である。
【0007】
本発明においては、(a)不飽和脂肪酸化合物又は不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物100重量部に対して、(b)金属原子を有する触媒を該触媒中の金属原子重量を基準として0.01〜0.5重量部、(c)多孔体を50〜300重量部、(d)銀化合物を添着した活性炭を10〜100重量部使用することが好ましい。
【0008】
また本発明は、前記脱酸素剤組成物を通気性包材により充填包装してなる脱酸素剤包装体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、酸素吸収反応の進行に伴って発生する異臭の発生を抑制した、脱酸素剤組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の脱酸素剤組成物においては、(a)不飽和脂肪酸化合物または不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物(以下、これらを総称して「(a)酸化反応物質」と称することがある)が酸化され、酸素吸収反応を進行させる。(a)酸化反応物質は、必ずしも単一物質である必要はなく、二種以上の混合物でも良い。また、これらは置換基を有していても良い。
【0011】
不飽和脂肪酸化合物として、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パリナリン酸、ダイマー酸、植物油、動物油から得られる脂肪酸、即ち、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、桐油脂肪酸、糠油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、綿実油脂肪酸、菜種油脂肪酸、トール油脂肪酸、及びこれらのエステルを使用することができる。
【0012】
不飽和基を有する鎖状炭化水素系重合物として、液状ブタジエンオリゴマー、液状イソプレンオリゴマー、スクアレン、液状アセチレンオリゴマー、液状ペンタジエンオリゴマー、液状オリゴエステルアクリレート、液状ブテンオリゴマー、液状ブタジエンゴム、液状スチレンブタジエンゴム、液状ニトリルゴム、液状クロロプレンオリゴマー、液状サルファイドオリゴマー、液状イソブチレンオリゴマー、液状ブチルゴム、液状シクロペンタジエン系石油樹脂、液状オリゴスチレン、液状ヒドロキシポリオレフィンオリゴマー、液状アルキド樹脂、液状不飽和ポリエステル樹脂、天然ゴム等の液状の各種分子量のポリマーを使用することができる。
【0013】
本発明における(a)酸化反応物質の酸化反応を促進する(b)金属原子を有する触媒として、Cu、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Pb、Zn及びその化合物群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。例えば、硫酸塩、塩化物塩、硝酸塩等の無機塩、亜麻仁油、大豆油菜種油、トール油脂肪酸等の脂肪酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ロジン酸塩、アセチルアセトン金属塩等の有機塩、アルキル金属化合物等を使用することができる。これらCu、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Pb、Zn及びその化合物の中でも、酸化反応促進性能及び安全性の観点から、Fe、Co、Mn及びZnの塩が好ましい。
【0014】
(a)酸化反応物質100重量部に対して、(b)金属原子を有する触媒を該触媒中の金属原子重量を基準として0.01〜0.5重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部使用する。(b)金属原子を有する触媒の使用量が0.01重量部を下回ると、酸素吸収速度が遅くなるため好ましくなく、0.5重量部を上回ると、反応性が高くなりすぎ、空気下での取り扱いが困難となるため好ましくない。なお、前記した触媒能を有する金属を2種類以上使用する場合は、その合計重量を基準としてその使用量を算出する。
【0015】
本発明における(a)酸化反応物質及び(b)金属原子を有する触媒の少なくとも二成分を含浸する(c)多孔体として、天然ゼオライト、ホワイトカーボン、シリカゲル、珪酸カルシウム、コロイダルシリカ、バーミキュライト、珪藻土、活性炭、紙などを使用することができる。これらの中でも安価で(a)酸化反応物質の含浸率が高い珪藻土が好ましい。
【0016】
各成分の(c)多孔体への含浸方法は、特に制限がなく一般的な方法が用いられる。例えば、(a)酸化反応物質や(b)金属原子を有する触媒が固体の場合、水溶液もしくはメタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒に一旦溶解させた後に、(c)多孔体に含浸して混合し、物質の分解温度、気化温度、溶解温度以下の温度で乾燥する方法が挙げられる。また、(a)酸化反応物質や(b)金属原子を有する触媒が液体の場合は、そのままの状態で、或いは水や有機溶媒で希釈して(c)多孔体に直接含浸して混合する方法も挙げられる。
【0017】
(c)多孔体は、(a)酸化反応物質100重量部に対して、50〜300重量部、好ましくは100〜250重量部使用する。(c)多孔体の使用量が50重量部を下回ると、含浸可能な液量が減り、十分な酸素吸収速度が得られなくなるため好ましくなく、300重量部を上回ると、脱酸素剤組成物が嵩高くなり、包装体面積が大きくなるため好ましくない。
【0018】
銀は抗菌性物質として知られており、銀化合物を添着した活性炭はこれまで水道水中の塩素の除去を行う目的で、例えば浄水器用に用いられていた。活性炭により塩素を除去された水道水は細菌の繁殖が盛んになるが、添着した銀が水中に溶出することで殺菌力を持つものである(特開平9−108654号公報)。また、気相中の細菌・カビの殺菌除去の目的でも用いられていた(特開平10−99678号公報)。本発明では、(d)銀化合物を添着した活性炭が強い異臭低減効果を有することを新たに見出した。
【0019】
本発明の脱酸素剤組成物に使用する(d)銀化合物を添着した活性炭としては、銀化合物を活性炭に対して0.1〜5.0重量%添着したものが好ましい。銀化合物の添着量が0.1重量%より少ないと異臭低減効果が低下するため好ましくない。また、5.0重量%を超過すると銀化合物と活性炭の密着性が低下し、且つ活性炭の細孔内部まで銀化合物を均一に添着できなくなり、結果として異臭低減効果が低下するため好ましくない。また、(d)銀化合物を添着した活性炭の比表面積は大きい方が好ましい。
【0020】
活性炭に添着する銀化合物は、銀原子を含む化合物であれば特に限定されるものではない。銀化合物としては、金属銀、銀塩、銀コロイドなどが例示できる。金属銀を用いる場合、金属銀中に微量の不純物であるパラジウム、金、白金などの貴金属や、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル分を含んでいても良いが、カドミウムや鉛は環境上好ましくない。
【0021】
本発明で使用する活性炭の原料、形状、賦活法などは特に限定されず、それぞれ任意のものを使用できる。原料としては、石炭、木質、ヤシ殻などが、形状としては、粉状、粒状、繊維状などが、賦活法としては、塩化亜鉛などの化学薬品や水蒸気を用いた方法がそれぞれ例示できる。
【0022】
活性炭への銀化合物の添着方法についても特に制限はなく、例えば公知のスパッタリング装置を用いる方法や、賦活の前に銀化合物を添着する特開平10−99678号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0023】
(d)銀化合物を添着した活性炭は、(a)酸化反応物質100重量部に対して、10〜100重量部、好ましくは10〜80重量部使用する。(d)銀化合物を添着した活性炭の使用量が10重量部を下回ると、異臭低減効果が損なわれるため好ましくなく、100重量部を上回ると、脱酸素剤組成物が嵩高くなり、包装体面積が大きくなるため好ましくない。
【0024】
本発明の脱酸素剤組成物は、通気性包装材料により充填包装して脱酸素剤包装体として使用することができる。通気性包装材料とは、酸素透過度が5,000〜5,000,000ml/(m・atm・Day)の包装材料である。通気性材料としては、たとえば和紙、洋紙、レーヨン紙等の紙類、パルプ、セルロース、合成樹脂からの繊維等の各種繊維類を用いた不織紙、マイクロポーラスフィルム、プラスチックフィルムまたはその穿孔物等、また、耐水性、耐油性を持たせるために紙、不織布などに耐水剤、耐油剤を塗布したもの、さらに、耐破損性を向上させるためにワリフなどの補強材を用いたもの、さらにはこれから選択される2種以上を積層したものなどが例示できる。
【0025】
本発明の脱酸素剤組成物または脱酸素剤包装体を、酸素バリア性を有する包装材料からなる容器に封入して密封することにより、異臭の発生を抑制しながら該容器内の酸素濃度を低減させることができる。酸素バリア性を有する包装材料とは、酸素透過度20ml/(m・atm・Day)以下の包装材料である。酸素バリア性を有する包装材料は、アルミニウム箔等の金属箔をラミネートしたフィルム、酸化珪素や酸化アルミニウム等を蒸着したフィルムをラミネートしたフィルム、バリアナイロンフィルムやKコートナイロンフィルムをラミネートしたフィルム等のガスバリアフィルムが例示できる。また、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン重合体、Kコート樹脂、酸化ケイ素蒸着樹脂、酸化アルミ蒸着樹脂又はアルミ蒸着樹脂なども酸素バリア性を有する包装材料として挙げられる。容器の形状には特に制限はなく、袋状容器、トレー状容器など任意の形態のものを使用することができる。
【0026】
本発明の脱酸素剤組成物は、異臭の発生を抑制しながら容器内の酸素を吸収できるので、異臭の付着を嫌う食品、医療機器、医療器具、易酸化性の医薬品、及び臭気成分と薬効成分の反応が懸念される医薬品等を、安定して長期間保存する用途に好適に使用することができる。
【0027】
本発明の脱酸素剤組成物により保存できる易酸化性化合物としてはアミン、アミン塩、スルフィド、アリルアルコール、フェノール、アルコール、アルデヒド等が例示できる。また、易酸化性の医薬品としてはアミノ酸製剤、脂肪乳剤、ビタミン製剤、核酸製剤、経腸栄養剤、経脈管投与栄養剤等の輸液や、アトルバスタチン、プソイドエフェドリン、チアガビン、アシトレチン、レシナミン、ロバスタチン、トレチノイン、イソトレチオニン、シンバスタチン、イベルメクチン、ベラパミル、オキシブチニン、ヒドロキシウレア、セレギリン、エステル化したエストロゲン類、トラニルシプロミン、カルバマゼピン、チクロピジン、メチルドパヒドロ、クロロチアジド、メチルドパ、ナプロキセン、アセトアミノフェン、エリスロマイシン、ブプロピオン、リファペンチン、ペニシラミン、メキシレチン、ベラパミル、ジルチアゼム、イブプロフェン、シクロスポリン、サキナビル、モルヒネ、セルトラリン、セチリジン、N−[[2−methoxy−5−(1−methyl)phenyl]methyl]−2−(diphenylmethyl)−1−azabicyclo[2.2.2]octan−3−amine等の薬剤が例示できる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
桐油(不飽和脂肪酸含量95重量%)50g及びトール油脂肪酸Mn(Mn濃度4重量%)1.25gからなる液体混合物を珪藻土100gに加え攪拌、混合し、銀添着活性炭1(日本エンバイロケミカルズ株式会社製 商品名「WHA−L」)を23g添加、混合し流動性のある粉粒体を得た。
【0030】
粉粒体6.6gを紙の内面に開孔したポリエチレンフィルムをラミネートした小袋(外寸;60mm×75mm、内寸40mm×65mm)に前記粉粒体を充填して開孔部をヒートシールし、脱酸素剤包装体を得た。この脱酸素剤包装体を、空気4500mlと共にアルミ箔ラミネート袋(300mm×440mm)に同封し、開口部をヒートシールして密閉し、保存用包装袋を得た。この包装袋を25℃環境下で保存した。
【0031】
保存3日後、保存用包装袋中の酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定した。3日後においては、300ml以上酸素を吸収しており、酸素吸収が進行していることが確認された。
【0032】
保存3日後、保存用包装袋中のガスの臭気を鼻により評価した結果を表1に示す。ほとんど臭気がなかった。
【0033】
(実施例2)
実施例1の銀添着活性炭1を、銀添着活性炭2(日本エンバイロケミカルズ株式会社製 商品名「WHA」)に変更した点を除き、実施例1と同様とした。保存3日後、保存用包装袋中のガスの臭気を鼻により評価した結果、ほとんど臭気がなかった(表1)。
【0034】
(比較例1)
実施例1の銀添着活性炭1を、銀化合物を添着しない活性炭(日本エンバイロケミカルズ株式会社製 商品名「X−7000」)に変更した点を除き、実施例1と同様とした。保存3日後、保存用包装袋中のガスの臭気を鼻により評価した結果、強い臭気がした(表1)。なお酸素吸収量については実施例1及び2と同程度であった。
【0035】
実施例1では比較例1で検出される2−ヘキセン、ギ酸プロピル、2,2,3−トリメチル−オキシランやC4以上のアルデヒド、ケトン、アルコール、カルボン酸、フラン、エステル類の発生が抑制された。なお、上記成分の検出にはガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所製 GCMS−QP5050A)を使用した。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
銀化合物を添着した活性炭を使用する本発明の脱酸素剤組成物により、酸素吸収時に発生する臭気成分を速やかに吸収することが可能となった。これにより食品、健康食品、医薬品等を脱酸素時の臭気が無い状態で長期間保存することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)不飽和脂肪酸化合物又は不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物並びに(b)金属原子を有する触媒の少なくとも二成分を含浸した(c)多孔体と、(d)銀化合物を添着した活性炭とを混合した脱酸素剤組成物。
【請求項2】
(a)不飽和脂肪酸化合物又は不飽和基を有する鎖状炭化水素重合物100重量部に対して、(b)金属原子を有する触媒を該触媒中の金属原子重量を基準として0.01〜0.5重量部、(c)多孔体を50〜300重量部、(d)銀化合物を添着した活性炭を10〜100重量部使用してなる請求項1記載の脱酸素剤組成物。
【請求項3】
請求項1乃至2記載の脱酸素剤組成物を通気性包装材料により充填包装してなる脱酸素剤包装体。

【公開番号】特開2010−46591(P2010−46591A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212084(P2008−212084)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】