説明

脱顆粒反応抑制剤

【課題】強力且つ安全性の高い、アレルギー性疾患や各種炎症性疾患の予防・治療に有用な脱顆粒反応抑制剤を提供すること。
【解決手段】ヒスチジン含有ジペプチド又はその塩を含有する、脱顆粒反応抑制剤。
式(I):


[式中、Xはアルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環を、R1は水素原子又はアシル基を示す]で表される化合物又はその塩を含有する、脱顆粒反応抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満細胞等の化学伝達物質を遊離し得る細胞の脱顆粒反応を抑制することができ、これらの細胞が関与するアレルギー性疾患や各種炎症性疾患の予防・治療に有用な脱顆粒反応抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のアレルギー治療薬としては、抗ヒスタミン剤や免疫抑制効果のあるステロイド剤等が挙げられる。抗ヒスタミン剤は肥満細胞等のエフェクター細胞より遊離されたヒスタミンが、標的細胞に発現する特異的な受容体との会合を抑制するものである。しかしながら、エフェクター細胞より産生される化学伝達物質にはヒスタミンだけではなくセロトニンやプロスタグランジン等があり、抗ヒスタミン剤はこれらの化学伝達物質には効果が期待できない。一方、ステロイド剤は強力な免疫抑制や抗炎症作用があり、アレルギー治療薬としては頻繁に使用されているが、易感染症等副作用が多く観察されることが知られている。
【0003】
肥満細胞(マスト細胞)はヒスタミン等の化学伝達物質やサイトカインを含有する顆粒を有し、花粉症や気管支喘息、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患や、自己免疫疾患を含む各種炎症性疾患において、肥満細胞における脱顆粒反応が、重要な役割を有していることが明らかになっている。従って脱顆粒反応を抑制することがこれらの疾患の治療方法として有効である。
【0004】
肥満細胞の膜を安定化することによって脱顆粒反応による化学伝達物質の放出を抑制する薬剤としてインタール(クロモグリク酸ナトリウム)やリザベン(トラニスト)等が挙げられ、抗アレルギー剤として既に臨床で用いられている。
【0005】
脱顆粒反応や抗アレルギー剤に関する従来技術は、非特許文献1及び非特許文献2を参照することができる。
【0006】
しかし、従来用いられている脱顆粒反応抑制剤の多くは、非天然の化合物であるため、生体に対する副作用のリスクを完全に取り除くことは困難である。
【0007】
一方、生体(特に筋肉)中には、ジペプチドであるL−カルノシン(β−アラニル−L−ヒスチジン)が多量に存在する。生体内には、カルノシンに加えて、その誘導体(メチル化体、アセチル化体等)が存在することが知られている。L−カルノシンのメチル化体としては、L−アンセリン、L−バレニン(L−オフィジンとも呼ばれる)が挙げられる。また、L−カルノシンのアセチル化体としては、N−アセチル−L−カルノシンが挙げられる。これらのジペプチドは総称してヒスチジン含有ジペプチド(HCDP)と呼ばれる。
【0008】
L−カルノシンは、ヒトを含む脊椎動物の筋肉、脳、心臓に存在し、L−アンセリンは、脊椎動物の筋肉に存在することが報告されている。また、N−アセチル−L−カルノシンは、哺乳動物の心筋に存在することが報告されている。L−バレニンは、ヘビ、クジラにおいて検出されている(非特許文献3)。
【0009】
L−カルノシン等のHCDPは、抗酸化作用(非特許文献4)、紫外線防御作用(特許文献1)、筋肉保護作用(非特許文献5)、抗疲労作用(特許文献2)、老化抑制作用(非特許文献6)等の薬理作用を有することが報告されており、これらの作用に基づくHCDPの種々の用途が報告されている。
【0010】
また、特許文献3には、イミダゾールジペプチド(アンセリン、カルノシン、バレニン)を含有する魚肉抽出物又は畜肉エキスを成分とする花粉症を改善又は予防する食品が記載されている。
【0011】
しかしながら、L−カルノシン等のHCDPの脱顆粒反応に対する作用については知られていない。
【特許文献1】特開平11−302145号公報
【特許文献2】特開2002−173442号公報
【特許文献3】特開2004−173589号公報
【非特許文献1】Turner H. & Kinet JP. Signalling through the high-affinity IgE receptor Fc epsilonRI. Nature 402, B24-30 (1999)
【非特許文献2】Blank U, Rivera J. The ins and outs of IgE-dependent mast-cell exocytosis. TRENDS in Immunology 25, 266-273 (2004)
【非特許文献3】A. A. Boldyrev and S. Severin, The Histidine-containing Dipeptides, Carnosine and Anserine: Distribution, properties and Biological Significance, Adv. Enz. Regul., 30, 175-193 (1990)
【非特許文献4】Decker, E. A. and Crum, A.D.: Antioxidant activity of carnosine in cooked ground pork., Meat Sci., 34, 245-253 (1993)
【非特許文献5】佐藤三佳子ほか:食肉中カルノシン及びアンセリンの運動能力向上作用, 食肉の科学, 43, 109-112 (2002)
【非特許文献6】R. Holliday and G. A. McFarl and Biochemistry (Moscow), Review: A Role for Carnosine in Cellular Maintenance, 65,843-848 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は、強力且つ安全性の高い、アレルギー性疾患や各種炎症性疾患の予防・治療に有用な脱顆粒反応抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、HCDPが肥満細胞の脱顆粒反応を強力に抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下に示すものである。
【0014】
[1]ヒスチジン含有ジペプチド又はその塩を含有する、脱顆粒反応抑制剤。
[2]ヒスチジン含有ジペプチドが、式(I):
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、Xはアルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環を、R1は水素原子又はアシル基を示す]で表される化合物又はその塩である、上記[1]記載の脱顆粒反応抑制剤。
[3]Xが、C1−6アルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環である、上記[2]記載の剤。
[4]式(I)中、−Xが、式
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、R2及びR3は水素原子又はアルキル基を示す]である、上記[2]記載の剤。
[5]Xが、アルキル基により置換されたイミダゾール環である、上記[2]記載の剤。
[6]R1が、水素原子、ホルミル又はC1−5アルキル−カルボニルである、上記[2]記載の剤。
[7]ヒスチジン含有ジペプチドが、L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン及びN−アセチル−L−カルノシンからなる群より選択されるいずれかである、上記[2]記載の剤。
[8]ヒスチジン含有ジペプチドが、L−アンセリン又はL−バレニンである、上記[7]記載の剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明の脱顆粒反応抑制剤を用いれば、肥満細胞等の化学伝達物質を遊離し得る細胞の脱顆粒反応を抑制することができ、これらの細胞が関与するアレルギー性疾患、各種炎症性疾患等の疾患を予防・治療することができる。本発明の脱顆粒反応抑制剤で用いるヒスチジン含有ジペプチドは、生体にも高濃度で存在するペプチドであり得るので、他の生体機能に与える影響が少なく、安全性が高いと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、ヒスチジン含有ジペプチド又はその塩を含有する、脱顆粒反応抑制剤に関する。本発明で使用することのできるヒスチジン含有ジペプチドは、細胞の脱顆粒反応を抑制するものであれば、特に限定されない。
【0021】
本発明において使用することのできる好ましいヒスチジン含有ジペプチドとしては、例えば、式(I):
【0022】
【化3】



【0023】
[式中、Xはアルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環を、R1は水素原子又はアシル基を示す]で表される化合物が挙げられる。
【0024】
式(I)中、Xはアルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環を示す。この任意のアルキル基は、イミダゾール環中の置換可能な位置に1ないし3個(好ましくは1ないし2個、最も好ましくは1個)置換していてもよい。
【0025】
Xのイミダゾール環が有していてもよいアルキル基の好適な例としては、分岐又は非分岐のC1−6アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル等が挙げられ、特に、メチル、エチル、プロピル等のC1−3アルキル基が好ましい。
【0026】
Xとしては、−Xが、式
【0027】
【化4】



【0028】
[式中、R2及びR3は水素原子又はアルキル基を示す]であることが好ましい。ここで、R2及びR3のアルキル基としては、上述の「Xのイミダゾール環が有していてもよいアルキル基」と同様のものが用いられる。
【0029】
より強力な脱顆粒反応抑制効果を達成する観点から、Xは、好ましくはアルキル基により置換されたイミダゾール環である。最も好ましくは、Xは、メチル基により窒素原子上で置換されたイミダゾール環である。
【0030】
R1のアシル基の好適な例としては、C1−6アシル基、例えば、ホルミル、C1−5アルキル−カルボニル等が挙げられる。ここで、C1−5アルキル−カルボニルの好適な例としては、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル等が挙げられる。該アシル基としては、特に、ホルミル、アセチル、プロピオニル等のC1−3アシル基が好ましい。
【0031】
式(I)で表される化合物としては、L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン、N−アセチル−L−カルノシン等がとりわけ好ましく用いられる。これらの化合物は生体にも多量に存在するので、より安全性の高い剤を提供することができる。L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン及びN−アセチル−L−カルノシンの構造式は以下の通り:
【0032】
【化5】



【0033】
本発明において使用することのできるヒスチジン含有ジペプチドは、脱顆粒反応抑制効果を奏する限り、金属イオンと錯体を形成していてもいなくてもよい。好ましくは、ヒスチジン含有ジペプチドは、金属イオンと錯体を形成していない形態で、本発明の脱顆粒反応抑制剤中に含まれる。
【0034】
ヒスチジン含有ジペプチドの塩としては、薬理学的に許容しうる塩等が挙げられ、例えば、トリフルオロ酢酸、酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ホスホン酸、塩酸、硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、スルファミン酸、硫酸、マロン酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸、リン酸等の酸との酸付加塩、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属塩、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン等の有機塩等が挙げられる。
【0035】
本発明において使用するヒスチジン含有ジペプチドは、天然材料(生体の筋肉など)由来であっても、化学的に合成したものであってもよい。ヒスチジン含有ジペプチドは、混合物(例えば、筋肉、魚肉抽出物、畜肉エキスなど)として、或いは単離及び/又は精製された形態で、本発明の脱顆粒反応抑制剤中に含まれる。好ましくは、ヒスチジン含有ジペプチドは、単離及び/又は精製された形態で、本発明の脱顆粒反応抑制剤中に含まれる。
【0036】
本発明の脱顆粒反応抑制剤は、式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)と略記することがある)等のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩に加え、所望により薬学的に許容される賦形剤、添加剤を含む。薬学的に許容される賦形剤、添加剤としては、担体、結合剤、崩壊剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0037】
薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0038】
本発明の脱顆粒反応抑制剤の剤形としては、例えば、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、トローチ剤、カシェ剤、ドロップ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの経口剤;及び注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤)、外用剤(例、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤)、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、局所投与剤、点眼剤などの非経口剤が挙げられる。これらの剤は、速放性製剤又は徐放性製剤などの放出制御製剤(例、徐放性マイクロカプセル)であってもよい。
本発明の脱顆粒反応抑制剤は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法などにより製造することができる。
【0039】
例えば、錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、腸溶性コーティング錠、フィルムコーティング錠あるいは二層錠、多層錠とすることができる。散剤は、薬学的に許容される散剤の基剤と共に製剤化される。基剤としては、タルク、ラクトース、澱粉等が挙げられる。ドロップは水性又は非水性の基剤と一種又はそれ以上の薬学的に許容される拡散剤、懸濁化剤、溶解剤等と共に製剤化できる。カプセルは、有効成分となる化合物を薬学的に許容される担体と共に中に充填することにより製造できる。当該化合物は薬学的に許容される賦形剤と共に混合し、又は賦形剤なしでカプセルの中に充填することができる。カシェ剤も同様の方法で製造できる。当該化合物を坐剤として調製する場合、植物油(ひまし油、オリーブ油、ピーナッツ油等)や鉱物油(ワセリン、白色ワセリン等)、ロウ類、部分合成もしくは全合成グリセリン脂肪酸エステル等の基剤と共に通常用いられる手法によって製剤化される。
【0040】
注射用液剤としては、溶液、懸濁液、乳剤等が挙げられる。例えば、水溶液、水−プロピレングリコール溶液等が挙げられる。液剤は、水を含んでも良い、ポリエチレングリコール及び/又はプロピレングリコールの溶液の形で製造することもできる。
【0041】
経口投与に適切な液剤は、有効成分となる化合物を水に加え、着色剤、香料、安定化剤、甘味剤、溶解剤、増粘剤等を必要に応じて加え製造することができる。また経口投与に適切な液剤は、当該化合物を分散剤とともに水に加え、粘重にすることによっても製造できる。増粘剤としては、例えば、薬学的に許容される天然又は合成ガム、レジン、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース又は公知の懸濁化剤等が挙げられる。
【0042】
局所投与剤としては、上記の液剤及び、クリーム、エアロゾル、スプレー、粉剤、ローション、軟膏等が挙げられる。上記の局所投与剤は、有効成分となる化合物と薬学的に許容される希釈剤及び/又は担体とを混合することによって製造できる。軟膏及びクリームは、例えば、水性又は油性の基剤に増粘剤及び/又はゲル化剤を加えて製剤化する。該基剤としては、例えば、水、液体パラフィン、植物油等が挙げられる。増粘剤としては、例えばソフトパラフィン、ステアリン酸アルミニウム、セトステアリルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ラノリン、水素添加ラノリン、蜜蝋等が挙げられる。局所投与剤には、必要に応じて、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾール、ベンザルコニウムクロリド等の防腐剤、細菌増殖防止剤を添加することもできる。ローションは、水性又は油性の基剤に、一種類又はそれ以上の薬学的に許容される安定剤、懸濁化剤、乳化剤、拡散剤、増粘剤、着色剤、香料等を加えることによって製造できる。
【0043】
かくして得られる本発明の脱顆粒反応抑制剤は、経口又は非経口的に投与される。
【0044】
経口的に投与する場合、通常当分野で用いられる投与形態で投与することができる。非経口的に投与する場合には、局所投与剤(経皮剤等)、直腸投与剤、注射剤、経鼻剤等の投与形態で投与することができる。
【0045】
経口剤又は直腸投与剤としては、例えばカプセル、錠剤、ピル、散剤、ドロップ、カシェ剤、坐剤、液剤等が挙げられる。注射剤としては、例えば、無菌の溶液又は懸濁液等が挙げられる。局所投与剤としては、例えば、クリーム、軟膏、ローション、経皮剤(通常のパッチ剤、マトリクス剤)等が挙げられる。
【0046】
本発明の脱顆粒反応抑制剤は、局所投与剤(例えば、外用剤、経鼻剤、経肺剤、点眼剤など)の剤形で投与することにより、より安全に且つ高い有効性で脱顆粒反応を抑制し得る。有効成分として生体内に高濃度で存在するペプチドを用いる場合、局所投与剤として投与することにより、その効果発現を高めることができる。例えば、皮膚のアレルギー性疾患(例、アトピー性皮膚炎)や粘膜のアレルギー性疾患(例、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息)の治療のために、該疾患の患者の肥満細胞等の脱顆粒反応を抑制したい皮膚/粘膜の部位に、本発明の脱顆粒反応抑制剤を外用剤として直接適用することにより、効率よく脱顆粒反応を抑制することができる。
【0047】
ヒスチジン含有ジペプチド又はその塩の投与量、投与回数は、患者の症状、年齢、体重、投与形態等によって異なり適宜設定され得る。ヒスチジン含有ジペプチド又はその塩の投与量は、例えば、経口剤として投与する場合、成人一人当たり1日に約0.01〜5g、好ましくは約0.1〜2gであり、外用剤として投与する場合、成人一人当たり1日に約0.001〜10g、好ましくは約0.01〜1gである。
【0048】
製剤中のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩の配合割合は、製剤の形態によっても異なるが、例えば、経口剤として投与する場合には約10〜約50重量%が好ましく、非経口剤として投与する場合には約0.001〜約30重量%が好ましい。特に、アトピー性皮膚炎等の皮膚/粘膜における疾患用の外用剤として投与する場合、製剤中のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩の配合割合は、通常約0.001〜約10重量%であり、より好ましくは約0.01〜約5重量%であり、これを局所に1日1回〜数回適用する。
【0049】
本発明の脱顆粒反応抑制剤は、必要に応じて、式(I)の化合物等のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩以外の薬物をさらに含んでいてもよい。
【0050】
本発明の脱顆粒反応抑制剤が投与され得る対象は、任意の動物種であり得る。このような動物種としては、例えば、霊長類、齧歯動物などの哺乳動物、鳥類(ペット、家畜、使役動物が含まれる)が挙げられる。より詳細には、本発明の脱顆粒反応抑制剤が適用され得る動物としては、例えば、ヒト、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ニワトリが挙げられ、特にヒトが好ましい。
【0051】
化合物(I)等のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩は、ヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、マウス、ラット等の哺乳動物において、細胞、具体的には化学伝達物質を脱顆粒し得る細胞の脱顆粒反応を抑制することができる。脱顆粒反応によって放出される物質としては、細胞傷害性物質、掻痒物質、炎症誘導物質などが挙げられ、それぞれの物質について放出担当細胞が存在する。従って、本発明の顆粒放出抑制剤は、種々の疾患の予防・治療のために応用可能である。脱顆粒反応抑制の対象となる細胞は、ヒスタミンやサイトカイン等の炎症性の化学伝達物質を遊離し得る細胞であって、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、ケラチノサイト、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、細胞傷害性T細胞、血小板等が例示される。特に、アレルギー反応、炎症反応に関わる化学伝達物質や掻痒物質の放出に深く関わる肥満細胞、好塩基球への適用が、好ましい例である。従って、化合物(I)等のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩を用いれば、これらの化学伝達物質を脱顆粒し得る細胞が関与する、各種アレルギー性疾患や自己免疫疾患を含む炎症性疾患を予防・治療することが可能となる。化合物(I)等のヒスチジン含有ジペプチド又はその塩は、その脱顆粒反応抑制作用に基づく抗ヒスタミン作用(ヒスタミン遊離抑制作用)等により、I型アレルギー反応による血管透過性亢進、平滑筋収縮、腺分泌亢進、血管拡張等の諸症状の発現を抑制し、諸症状を改善する。また、その脱顆粒反応抑制作用に加えてサイトカイン産生(遊離)抑制作用等により、炎症性サイトカインと呼ばれる、炎症時に誘導され、炎症に強く関わるIL-6やTNFαなどのサイトカインの産生抑制作用が期待出来ることから、当該サイトカイン産生(遊離)能を有する細胞における異常、例えば、各種アレルギー性疾患、自己免疫疾患を含む炎症性疾患に有効である。従って、本発明はI型アレルギー反応が関与する各疾患、例えば、アナフィラキシーショック、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎等の予防及び治療に用いることができる。また、スギ花粉、ハウスダスト、カビ、ダニ又はぺットの毛、皮膚もしくは糞等によるアレルギー性鼻炎やアレルギー性炎症、また全身性エリテマトーデス、混合型結合組織病、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、リウマチ熱、グッドパスチャー症候群、パセドウ病、橋本病、アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、クローン病、交換性眼炎、多発性硬化症、乾癬、肝炎等のアレルギー性疾患及び/又は自己免疫疾患を含む炎症性疾患の予防及び治療に極めて有用である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例にそって本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。本出願全体を通して引用されたすべての刊行物は参照として本明細書に組み入れられる。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0053】
実施例1
抗原刺激依存的な肥満細胞の化学伝達物質遊離に対する、L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン及びN−アセチル−L−カルノシンの効果を検討した。これらの化合物は公知の方法に従って合成した。L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン及びN−アセチル−L−カルノシンの製造方法はそれぞれ、Vinick Frederic J., Jung Stanley. A simple and efficient synthesis of L-carnosine. J. Organic Chemistry, 48(3), 392-3,(1983)、特開2005−082571号公報、Hirohata R., Ono T., Synthesis of ophidine. Proceedings of the International Congress of Biochemistry., Fukuoka, 20,(1955)、及び特開昭58−124750号公報等に記載される。
【0054】
肥満細胞としては骨髄細胞をインターロイキン3で5〜8週間培養することによって分化誘導させた骨髄由来肥満細胞を用いた。得られた骨髄由来肥満細胞(1×10細胞/10mL)をIgE抗体(SPE−7クローン;SIGMAより入手)1μg/mLで6時間感作を行った。感作終了後、細胞をTyrodeバッファー(pH7.4)で再懸濁した。Tyrodeバッファーの組成は表1の通り。
【0055】
【表1】

【0056】
得られた肥満細胞懸濁液に、抗原(DNP−HSA;dinitrophenol conjugated Human Serum Albumin;SIGMAより入手)を各濃度(図1中に示す)で30分間刺激した。L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン又はN−アセチル−L−カルノシン(0.01,0.1,1,10mM)を感作期間中の2時間と刺激時の30分間共存させた。肥満細胞から放出された化学伝達物質であるβ−ヘキソサミニダーゼを測定した。β−ヘキソサミニダーゼの活性測定は基質として4−ニトロフェニル N−アセチル−β−D−グルコサミニド(SIGMAより入手)を用い405nmの波長を用いて吸光度計にて測定した。細胞内に存在するβ−ヘキソサミニダーゼが全て細胞外に放出された場合を100%とした。
【0057】
結果を図1に示す。L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン又はN−アセチル−L−カルノシンの添加により、肥満細胞からの化学伝達物質遊離が抑制された。L−カルノシン等が抗酸化作用を発現するための有効濃度は数mMオーダーであることが報告されているが(A. A. Boldyrev et al. Carnosine and taurine protect rata cerebellar granular cells from free radial damage. Neuroscience Letters, 263, 169 (1999))、上述の化合物は、その1/100以下の濃度(0.01mM)でも肥満細胞からの化学伝達物質遊離を抑制した。特に、L−カルノシンのメチル化誘導体である、L−アンセリン及びL−バレニンの効果が強力であった。
【0058】
実施例2
L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニンおよびN−アセチル−L−カルノシンが、マウスアレルギー性疾患モデルにおいて抑制効果を示すかどうか検討する。
マウス(5週齢雄、BALB/cマウス、日本チャールズリバー)に、IgE依存性DNFB誘発の掻痒および浮腫を誘発するために、10μgの抗DNPマウスIgE抗体(SIGMA)を尾静脈内に投与して受動感作させる。24時間後に0.75%DNFBを右耳介部に5μL塗布チャレンジし、それにより惹起される耳介部への引っ掻き回数を計測する。同時に耳介部に惹起される腫脹の厚みをR−1型アップライトゲージ(PEACOCK)で測定することにより被験物質のI型アレルギー応答に対する効果を評価する。L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニンおよびN−アセチル−L−カルノシンを溶解した各濃度の被験親水軟膏は、受動感作の直後、DNFB惹起塗布の3時間前および1時間前に、右耳耳介部に5μLの用量で塗布する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の脱顆粒反応抑制剤を用いれば、肥満細胞等の化学伝達物質を遊離し得る細胞の脱顆粒反応を抑制することができ、これらの細胞が関与するアレルギー性疾患等の疾患を予防・治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、肥満細胞からの抗原刺激依存的な化学伝達物質(β−ヘキソサミニダーゼ)の遊離(脱顆粒)に及ぼす、L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン及びN−アセチル−L−カルノシンの作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスチジン含有ジペプチド又はその塩を含有する、脱顆粒反応抑制剤。
【請求項2】
ヒスチジン含有ジペプチドが、式(I):
【化1】



[式中、Xはアルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環を、R1は水素原子又はアシル基を示す]で表される化合物又はその塩である、請求項1記載の脱顆粒反応抑制剤。
【請求項3】
Xが、C1−6アルキル基により置換されていてもよいイミダゾール環である、請求項2記載の剤。
【請求項4】
式(I)中、−Xが、式
【化2】



[式中、R2及びR3は水素原子又はアルキル基を示す]である、請求項2記載の剤。
【請求項5】
Xが、アルキル基により置換されたイミダゾール環である、請求項2記載の剤。
【請求項6】
R1が、水素原子、ホルミル又はC1−5アルキル−カルボニルである、請求項2記載の剤。
【請求項7】
ヒスチジン含有ジペプチドが、L−カルノシン、L−アンセリン、L−バレニン及びN−アセチル−L−カルノシンからなる群より選択されるいずれかである、請求項2記載の剤。
【請求項8】
ヒスチジン含有ジペプチドが、L−アンセリン又はL−バレニンである、請求項7記載の剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31066(P2008−31066A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204784(P2006−204784)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(501280921)インターサイト・ナノサイエンス株式会社 (3)
【出願人】(000236573)浜理薬品工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】