説明

脳に対する光線療法を提供するための装置及び方法

患者の脳(20)を治療するための治療装置(10)が提供される。治療装置(10)は、有効な電力密度及び光の波長を用いて脳(20)の一部分を照射するために配置された出力放射領域を有する光生成装置(40)を含む。治療装置(10)はさらに、光生成装置(40)と患者の頭皮(30)の間に介在するエレメント(50)を含む。そのエレメント(50)は、光によって生ずる頭皮(30)における温度上昇を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、光線療法に関し、より詳細には、脳卒中に冒された脳組織の光線療法のための新規な装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管障害(CVA)とも呼ばれる脳卒中は、その脳の領域に供給する動脈中に停留する凝固物によって、又は動脈瘤の破裂もしくは動脈の破裂に起因する脳出血によって引き起こされる脳の個別の領域への血流の突然の中断である。脳卒中の結果、冒された脳領域の機能が失われ、付随して、その冒された脳領域によって制御される体領域における身体機能が失われることになる。脳の1次発作の程度及び位置に応じて、機能の喪失は、軽症から重症まで大きく変わり、一時的又は恒久的なものとなり得る。喫煙、ダイエット、身体活動のレベル、及び高コレステロールなどの生活様式因子は、脳卒中のリスクを高くし、したがって、脳卒中は、先進国で人間がかかる病気の主要原因である。脳卒中は、米国を含む最も進んだ国における死亡原因の3番目のものである。
【0003】
最近までは、脳卒中治療は、発作時に基本的な生命維持を提供し、その後、リハビリテーションを行うことに限定されていた。近年、新しい薬物療法は、血液凝固を破壊する手法、又は生き延びている危険な状態の神経細胞をさらなる損傷から保護する手法をとっている。
【0004】
血栓溶解性療法は、さらなる凝固形成を阻止し、虚血性発作の後に血流を維持するためのアスピリン又は静脈注射用ヘパリンを含む。血栓溶解性の薬物は、組織プラスミノーゲンアクチベータ(TPA)及びその遺伝子組換えバージョン、及びストレプトキナーゼを含む。しかし、ストレプトキナーゼは、早期に(発作の3時間以内に)投与しない限り、患者の予後を改善しないようである。TPAは、早期に投与された場合、かなり予後を改善するように思われるが、出血による死の危険をわずかに高める。さらに、半数を超える脳卒中患者は、発作の後、3時間を超えて病院に到着し、速やかに到着した場合であっても、まず、CT走査でその発作が出血性のものではないことを確認する必要があり、それにより、投薬が遅れる。また、アスピリン又は他の血液希釈剤を飲んでいる患者、及び凝固異常を有する患者には、TPAを与えるべきではない。
【0005】
神経保護薬は、1次梗塞(primary infarct)領域を取り巻く危険ゾーン中で、生き延びているが危険な状態の神経細胞をターゲットにする。かかる薬物は、このような神経細胞の死を遅らせるかあるいは阻止して、脳の損傷範囲を低減することを目的としている。いくつかの神経保護薬は、抗興奮毒性、すなわち、いくつかの条件の下で細胞膜に損傷を引き起こすグルタミン酸などの興奮性アミノ酸の興奮毒性効果を阻止するように働く。シチコリンなどの他の薬物は、損傷された細胞膜を修復することによって働く。チリラザド(Freedox)などのラザロイドは、発作中に生成される無酸素ラジカルによって作られる酸素反応を中和する。脳卒中治療のための他の薬物は、PARPとして知られる酵素を阻止する作用薬、及び血液供給をさらに制限する血管痙攣を阻止するために、血管を弛緩させるニモジピン(Nimotop)などのカルシウムチャネル遮断薬を含む。しかし、発作後6時間を超えて投与された場合、ニモジピンの効果は低減され、また虚血性発作には有益ではない。さらに、薬物療法は、逆の副作用及び免疫反応をおこす危険を含んでいる。
【0006】
脳卒中のための外科手術治療は、頸動脈血管内膜切除術を含み、70%を超える動脈狭小を示す患者の場合、脳卒中の再発リスクを低減するのに特に有効であると思われる。しかし、血管内膜切除術は、非常に侵襲的であり、手術後、脳卒中の再発リスクが一時的に増加する。試験的な脳卒中療法は、血管造影タイプ又は血管形成タイプの手技を含み、細いカテーテルを用いて凝固から妨害物を除去又は減少させる。しかし、このような手技は、可用性を極端に制限し、塞栓性脳卒中の危険を高める。破裂前に動脈瘤を修復するものなど、他の外科手術用インターベンションは、手術のリスクと、動脈瘤を処置しないでおくことの相対的なリスクに関する意見の相違のため議論が分かれたままである。
【特許文献1】米国特許第6537304号
【特許文献2】米国特許出願第10/353130号
【特許文献3】米国特許第6214035号
【特許文献4】米国特許第6267780号
【特許文献5】米国特許第6273905号
【特許文献6】米国特許第6290714号
【特許文献7】米国特許第6042531号
【特許文献8】米国特許第5054470号
【非特許文献1】Hans H.F.I van Breugel及びP.R. Dop Bar、「Power Density and Exposure Time of He-Ne Laser Irradiation Are More Important Than Total Energy Dose in Photo-Biomodulation of Human Fibroblasts In Vitro」、Lasers in Surgery and Medicine(1992)、第12巻、528〜537頁
【非特許文献2】V.Tuchin、「Tissue Optics: Light Scattering Methods and Instruments for Medical Diagnosis」、SPIE Press (2000)、米国ワシントン州ヘ゛リンカ゛ム、3〜11頁
【非特許文献3】Tiina I. Karu、「Mechanisms of Low-Power Laser Light Action on Cellular Level」、Proceedings of SPIE Vol.4159(2000)
【非特許文献4】「Effects of Low-Power Light on Biological Systems V」、Rachel Lubart編、1〜17頁
【非特許文献5】P.A/ Lapchak他、「Transcranial Infrared Laser Therapy Improves Clinical Rating Scores After Embolic Strokes in Rabbits」、Stroke(2004)、第35巻、1985〜1988頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この背景に対して、脳卒中治療のための新規な改善された治療装置及び方法を見つけることに高い関心がある。具体的には、薬物療法の制限も回避する脳卒中を治療するための比較的経費がかからず、かつ非侵襲的な手法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、患者の脳を治療するための治療装置を提供する。治療装置は、有効な電力密度及び光の波長を用いて、脳の一部分を照射するために配置された出力放射領域を有する光生成装置を備える。治療装置はさらに、光生成装置と患者の頭皮との間に介在させたエレメントを備える。そのエレメントは、光によって生ずる頭皮の温度上昇を抑制する。
【0009】
本発明の他の実施例は、脳組織を治療するための治療装置を提供する。その治療装置は、患者の頭部の少なくとも一部分を光で照射するように配置された光生成装置を備える。光は頭蓋骨を通過して脳組織に有効な量の光を送到達する波長及び電力密度を有している。治療装置はさらに、頭部の温度上昇を抑制する材料を備える。
【0010】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療するための治療装置を提供する。治療装置は、有効な電力密度及び光の波長を用いて脳の少なくとも一部分を照射する光生成装置を備える。治療装置はさらに、頭皮の温度上昇を抑制するエレメントを備える。エレメントの少なくとも一部分は、光源から頭皮への光の光路中にある。
【0011】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療するための治療装置を提供する。治療装置は、有効な電力密度及び光の波長を用いて、脳の少なくとも一部分を照射する光生成装置を備える。その治療装置はさらに、患者の頭皮上に複数の異なる照射パターンを選択的に作成するために、前記光生成装置を作動するための制御装置を備える。前記照射パターンのそれぞれは、患者の頭皮と比較して小さい少なくとも1つの照光領域と、少なくとも1つの非照光領域とから構成される。
【0012】
本発明の他の実施例は、光源と患者の頭皮との間にヘッドエレメントを介在させることを含む方法を提供する。そのエレメントは、脳における有効な電力密度のために、頭皮で温度上昇を抑制する材料から構成される。
【0013】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療するための治療装置を提供する。治療装置は、有効な電力密度及び光の波長を用いて、患者の脳の少なくとも一部分を照射する光生成装置を備える。治療装置はさらに、実時間のフィードバック情報を提供する生物医学的なセンサを備える。治療装置はさらに、光源及び生物医学的なセンサと結合された制御装置を備える。制御装置は、実時間フィードバック情報に応答して、前記光源を調整する。
【0014】
本発明の他の実施例は、脳組織を治療する方法を提供する。本方法は、患者の頭皮を介して光を送ることによって、脳組織に有効な電力密度の光を導くことを含む。光を送ることは、頭皮における電力密度を頭皮組織の損傷限界値以下に低減するように、前記頭皮上に十分大きいスポットサイズを提供することを含むが、一方、前記脳組織における前記有効な電力密度を達成するために、前記頭皮において十分な光学的出力を生成する。
【0015】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療する方法を提供する。本方法は、光放射ブランケットで患者の頭皮の少なくとも重要な部分を覆うことを含む。
【0016】
本発明の他の実施例は、脳卒中の後の患者の脳を治療する方法を提供する。本方法は、前記脳卒中の後、数時間以降に脳に低レベルの光線療法を適用することを含む。
【0017】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療する方法を提供する。本方法は、患者の頭皮を介して光を送ることによって、脳のターゲット領域に有効な電力密度の光を導くことを含む。光は、複数の波長を有し、有効な電力密度は、ターゲット領域で少なくとも0.01mW/cmである。
【0018】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療する方法を提供する。本方法は、脳に電磁場を印加しながら、同時に、脳のターゲット領域に患者の頭皮を介して光を送ることを含む。光は、ターゲット領域で有効な電力密度を有し、電磁場は、有効なフィールド強度を有する。
【0019】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療する方法を提供する。本方法は、脳に有効な量の超音波エネルギを印加しながら、同時に、脳のターゲット領域に患者の頭皮を介して有効な電力密度の光を送ることを含む。
【0020】
本発明の他の実施例は、脳中に虚血性イベントを有する患者に、神経保護効果を与える方法を提供する。本方法は、脳中に虚血性イベントを経験した患者を識別することを含む。本方法はさらに、虚血性イベントの時間を推定することを含む。本方法はさらに、虚血性イベントの時間の後、約2時間以上してから、神経を保護し有効な量の光エネルギの脳への投与を開始することを含む。
【0021】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療するための治療装置を提供する。治療装置は複数の光源を備える。各光源は、有効な電力密度及び光の波長を用いて、脳の対応する部分を照射するように配置された出力放射領域を有する。治療装置はさらに、光源と患者の頭皮の間に介在させたエレメントを備える。そのエレメントは、光によって生ずる頭皮の温度上昇を抑制する。
【0022】
本発明の他の実施例は、脳組織を治療するための治療装置を提供する。治療装置は、複数の光源を備える。各光源は、有効な光量を脳組織に送到達するために頭蓋骨を通過する波長及び電力密度を有する光を用いて、患者頭部の少なくとも対応する部分を照射するように配置される。治療装置はさらに、頭部の温度上昇を抑制する材料を備える。
【0023】
本発明の他の実施例は、患者の脳を治療するための治療装置を提供する。治療装置は、複数の光源を備える。各光源は、有効な電力密度及び波長を有する光を用いて、脳の少なくとも対応する部分を照射する。その治療装置はさらに、患者の頭部上に所定の照射パターンを選択的に作成するように前記光源を作動するための制御装置を備える。
【0024】
本発明を要約するために、上記のように、本発明のいくつかの態様、利点、及び新規の機能を本明細書中で述べてきた。しかし、本発明の任意の特定な実施例によって、このような利点のすべてを達成できることは必ずしも必要ではないことを理解されたい。したがって、本発明は、本明細書に教示され、もしくは示唆されることができる他の利点を必ずしも達成することなく、本明細書に教示の1つの利点もしくは1群の利点を達成もしくは最適化するように実施又は行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
低レベル光療法(「LLLT」)又は光線療法は、切断、焼灼、又は生体組織の切除に使用されるものよりも低電力出力で、患者に光エネルギを治療的に与えることを含み、その結果、組織を損傷させずに望ましい生体刺激効果が得られる。非侵襲性の光線療法では、体外に配置された光源を用いて治療される内部組織に有効な量の光エネルギを適用することが望ましい。(例えば、Oronに発行された特許文献1、及び特許文献2を参照、またそれらを共に、参照によりその全体を本明細書に組み込む。)
【0026】
レーザ療法は、リンパ浮腫、筋肉外傷、及び手根管症候群の治療を含む様々な状況で有効であることが示されてきた。最近の研究では、レーザ生成の赤外線放射は、脳を含む様々な組織を通過し、機能を変更できることが示されている。さらに、レーザ生成の赤外線放射は、血管形成を誘導し、成長因子(トランスフォーミング成長因子−β)信号経路を変更し、タンパク質合成を高めることができる。
【0027】
しかし、組織に介入することによる光エネルギの吸収は、ターゲット組織部位に送達される光エネルギ量を制限する可能性があるが、一方、介入する組織を加熱する。さらに、介入する組織による光エネルギの散乱は、ターゲット組織部位に送達される電力密度又はエネルギ密度を制限する可能性がある。体の外部表面に加える電力及び/又は電力密度を増加させることによって、これらの影響を無理に回避しようと試みると、その介入する組織に損傷(例えば、焼ける)を与えることになり得る。
【0028】
非侵襲性の光線治療方法は、好ましくは、介入する組織への損傷を回避するために、指定された制限内に選択された治療パラメータを設定することによって制限される。この分野における既存の科学的な文献を再検討すると、有効ではあるが損傷させない1組のパラメータを見つけることが可能かどうか疑問を投げかけるはずである。しかし、本明細書で述べるいくつかの実施例は、この目標を達成できる装置及び方法を提供する。
【0029】
このような諸実施例は、介入する組織による吸収が損傷レベル以下である光の波長の選択を含むことができる。このような実施例はまた、光源の電力出力を有効であるが非常に低く設定すること、ターゲットの組織部位における電力密度を設定すること(例えば、約100μW/cmから約10W/cmの間)、及び治療されるターゲット組織部位で有効なエネルギ組織を達成するために、光エネルギを適用する時間期間を数秒から数分に設定することを含むことができる。他のパラメータはまた、光線療法の使用中に変えることもできる。これらの他のパラメータは、治療される組織に実際に送達される光エネルギに貢献し、また光線療法の有効性において主要な役割を果たすことができる。いくつかの実施例では、脳の照射される部分は脳全体を含むことができる。
【0030】
頭皮の温度上昇を抑制するためのエレメントについて、以下に説明する。図1及び2は、患者の脳20を治療するための治療装置10の一実施例の概略図である。治療装置10は、有効な電力密度及び光の波長で脳20の一部を照射するように配置された出力放射領域41を有する光源40を備える。治療装置10はさらに、光源40と患者の頭皮30との間に介在させたエレメント50を備える。そのエレメント50は、光によって生ずる頭皮30の温度上昇を抑制するように適合される。
【0031】
本明細書では、「エレメント」という用語は、特に限定されないが、複合装置の構成要素又はその個々の部分に対する参照を含む広い意味で使用される。いくつかの実施例では、エレメント50は、図1〜4に概略的に示すように、患者の頭皮30の少なくとも一部分と接触するように適合される。このようないくつかの実施例では、エレメント50は、頭皮30の少なくとも一部分と熱的な接触をしており、且つ、それを覆っている。他のいくつかの実施例では、エレメント50は、頭皮30から離れて配置されており、頭皮30と接触していない。
【0032】
いくつかの実施例では、前記光は、頭皮30に到達する前にエレメント50を通過するため、エレメント50は、光源40から頭皮30を通過して、さらには頭部の骨、組織、及び流体(図1に領域22として概略的に示す)を通過して脳20に伝播する光の光路中に存在する。いくつかの実施例では、光はエレメント50の透過性媒体を通過する。一方、他の実施例では、光はエレメント50の開口部を通過する。下記においてより十分説明するように、エレメント50は、治療装置10の様々な実施例と共に使用することができる。
【0033】
いくつかの実施例では、光源40は、患者の頭上に確実に固定されるキャップ60の内面上に配置される。キャップ60は、治療装置10に対する構造的一貫性を提供し、光源40及びエレメント50を所定の位置に保持する。キャップ60に用いられる例示的な材料は、特に限定されないが、金属、プラスチック、又は適切な構造的一貫性を有する他の材料を含む。キャップ60は、ライクラやナイロンなどのような伸長可能な繊維もしくはメッシュ素材を含むインナーライニング62を含むことができる。いくつかの実施例では、光源40は、複数の位置にキャップ60に取外しできるように取り付けられる構成であるので、光源40の出力放射領域41は、脳20の任意部分の脳卒中又はCVAの治療のために選択された位置に配置できる点において有利である。他の実施例では、光源40をキャップ60と一体化することができる。
【0034】
図1及び2に示す光源40は、電源(図示せず)に結合されている少なくとも1つの電力通路(conduit)64を備える。いくつかの実施例では、電力通路64は、電気信号を伝送してエミッタ(例えば、レーザダイオード又は発光ダイオード)に電力を供給するように構成された電気的な通路を備える。いくつかの実施例では、電力通路64は、光信号を伝送して光源40の出力放射領域41に電力を供給する光学通路(例えば、光導波管)を備える。いくつかのこのような実施例では、光源40は、光学通路64を介して受け取った光パワーの少なくとも一部分を伝送する光学素子(例えば、レンズ、ディフューザ、及び/又は導波管)を備える。さらに他の実施例では、治療装置10は電源(例えば、バッテリー)を含み、電力通路64は実質的に治療装置10に内蔵される。
【0035】
いくつかの実施例では、患者の頭皮30は、患者の頭蓋骨を覆う髪及び皮膚を含む。他の実施例では、光線療法の処置前に前記髪の少なくとも一部分が取り除かれるため、実質的に、治療装置10は頭皮30の皮膚に接触する。
【0036】
いくつかの実施例では、エレメント50は、患者の頭皮30に接触するように適合構成されることにより、治療装置10と患者の頭皮30とのインターフェースを提供する。このようないくつかの実施例では、エレメント50は光源40に結合される。また、他のこのような実施例では、エレメントはまた、図1において概略的に示すように頭皮30に適合するように構成される。このようにして、エレメント50は、光源40の出力放射領域41を頭皮30に対応して配置する。このようないくつかの実施例では、エレメント50は機械的に調整可能であるので、頭皮30に対応して光源40の位置を調整することができる。頭皮30に適合させて、光源40を所定の位置に保持することにより、エレメント50は、さもないと頭皮30に対応する光源40の配置を誤ることのよって生ずる頭皮30の温度上昇を抑制する。さらに、いくつかの実施例では、エレメント50は機械的に調整可能であるので、患者の頭皮30に治療装置10を適合させることができる。
【0037】
いくつかの実施例では、エレメント50は、治療装置10と患者の頭皮30との間で再使用可能なインターフェースを提供する。このような実施例では、エレメント50は、治療装置の使用の合間に、特に異なる患者による使用の合間に清掃又は消毒することができる。他の実施例では、エレメント50は、治療装置10と患者の頭皮30の間における使い捨て且つ交換可能なインターフェースを提供する。事前に消毒されて、且つ、事前に包装されて交換可能なインターフェースを用いることによって、いくつかの実施例は、使用直前に清掃又は消毒処理を行うことなく、消毒されたインターフェースを提供することができる点において有利である。
【0038】
いくつかの実施例では、エレメント50は、材料(例えば、ゲル又は液体)を含むコンテナ(例えば、キャビティ又はバッグ)を備える。前記コンテナは可撓性を有し、頭皮30の輪郭に一致するように構成することができる。エレメント50のコンテナ中に含まれる他の例示的な材料は、特に限定されないが、グリセロール及び水などの熱交換物質を含む。いくつかの実施例のエレメント50は、図2に概略的に示すように、実質的に患者の頭皮30全体を覆う。他の実施例では、エレメント50は、頭皮30の照射される部分の近傍の頭皮30の局所化された部分を覆うだけである。
【0039】
いくつかの実施例では、エレメント50の少なくとも一部分は、光源40から頭皮30への光の光路内に存在する。このような実施例では、エレメント50は、実質的に、光源40の出力放射領域41によって放射された光の波長において光透過性を有し、光の後方反射を低減するように構成される。エレメント50は、後方反射の低減により脳20に伝送される光量を増加させ、さもないとそうでない場合には頭皮30を温度上昇させ得るより高電力の光源40を使用する必要性を低減させる。このようないくつかの実施例では、エレメント50は、後方反射を低減するように構成された透過光の光路内に、一以上の光学的コーティング、フィルム、レイヤ、膜などを備える。
【0040】
このようないくつかの実施例では、頭皮30に適合させて前記光の光路中にある頭皮30とエレメント50との間の空隙を実質的に低減させることにより、エレメント50は後方反射を低減する。そうではない場合には、このような空隙及びエレメント50、及び/又は頭皮30との間の屈折率の不一致により、光源40から脳20に伝播する光の少なくとも一部分が、光源40に向かって後方反射されることになる。
【0041】
さらに、エレメント50のいくつかの実施例は、光源40によって放射された光の波長において、頭皮30の屈折率(例えば、約1.3)に実質的に一致する屈折率を有する材料備えることによって、任意の屈折率の不一致により発生するエレメント50と頭皮30との間における後方反射が低減される。後述する諸実施例と互換性のある屈折率を有する物質の実施例は、特に限定されないが、グリセロール、水、及びシリカゲルを含む。例示的な屈折率の一致するゲルは、特に限定されないが、米国マサチューセッツ州、フェアヘーブンのNye Lubricants Inc.から市販されているものを含む。
【0042】
いくつかの実施例では、エレメント50は、頭皮30から熱を除去することによって頭皮30を冷却するように構成されるので、頭皮30の温度上昇を抑制することができる。このようないくつかの実施例では、エレメント50は、冷却液を含むように適合されたリザーバ(例えば、チャンバー又は通路)を備える。冷却液は、頭皮30の近くのリザーバを通じて流れる。頭皮30は、頭皮30から流れ去る冷却液を加熱することにより、能動冷却によって頭皮30から熱が除去される。いくつかの実施例における冷却液は、エレメント50と熱伝導装置(例えば、冷却装置)との間で循環することによって、冷却液は頭皮30により加熱されて、前記熱伝導装置で冷却される。冷却液の例示的な物質は、特に限定されないが、水又は空気を含む。
【0043】
いくつかの実施例では、エレメント50は、図3において概略的に示すように、入口通路52及び出口通路53と結合されたコンテナ51(例えば、可撓性のあるバッグ)を備える。流れる材料(例えば、水、空気又はグリセロール)は、入口通路52からコンテナ51に流入し、頭皮30から熱を吸収して、出口通路53を通じてコンテナ51から流出する。このようないくつかの実施例は、頭皮30へのコンテナ51の機械的な適合(fit)を提供し、さらには、光による頭皮30の過熱を阻止するための十分な熱的結合を提供することができる。いくつかの実施例では、コンテナ51は使い捨て可能であり、交換されたコンテナ51は次の患者のために使用することができる。
【0044】
さらなる他の実施例では、エレメント50は、コンテナから流出しないが、頭皮30に熱的に結合されて受動冷却により頭皮30から熱を除去する材料を含むコンテナ(例えば、可撓性のあるバッグ)を備える。例示的な材料は、特に限定されないが、、水、グリセロール、及びゲルを含む。このようないくつかの実施例では、非流動性材料は、光線療法処置の前に(例えば、冷蔵庫中に入れておくことによって)事前に冷却することにより、頭皮30の冷却を可能とする。
【0045】
いくつかの実施例では、エレメント50は、頭皮30の少なくとも一部分に圧力を加えるように構成されている。十分な圧力を加えて、少なくともいくらかの血液を光エネルギの光路から押し出すことによって、エレメント50は、頭皮30の該部分を白化することができる。エレメント50が頭皮30に加えた圧力により血液が除去されて、頭皮30中の血液による対応する光エネルギの吸収を減少させることができる。結果として、頭皮30の血液による光エネルギの吸収に起因する温度上昇が低減される。さらなる結果として、脳20のターゲットとされた皮下組織に伝送される光エネルギの割合は増加する。
【0046】
図4A及び4Bは、頭皮30の白化を可能にするように適合されたエレメント50の実施例の概略図である。図4Aに概略的に示す治療装置10の一部の断面図では、いくつかのエレメント部分72が患者の頭皮30に接触し、他のエレメント74が頭皮30から間隔が空いている。頭皮30に接触しているエレメント部分72は、光源40から頭皮30に伝播する光のための光路を提供する。また、頭皮30に接触しているエレメント部分72が頭皮30に圧力を加え、それにより、エレメント部分72の下から血液が押し出される。図4Bは、光源40が複数の光源40a、40b、40cを備える実施例に関する同様の図の概略図である。
【0047】
図5Aは、図4Bにおける一実施例の断面4−4の概略図である。頭皮30に接触するエレメント部分72は、一方向に沿って延伸する隆起を備えており、頭皮30から離れて配置されたエレメント部分74は、同じ方向に沿って延伸する谷を備える。いくつかの実施例では、前記隆起は実質的に互いに平行であり、前記谷は実質的に互いに平行である。図5Bは、図4Bにおける他の実施例の断面4−4の概略図である。頭皮30と接触しているエレメント部分72は、格子又はアレイ形の複数の突起を備える。より詳細には、部分72は長方形であり、頭皮30から間隔の空いているエレメント部分74によって分離されているので、2つの略直角方向に延伸する谷を形成する。頭皮30と接触しているエレメント50の部分72は、エレメント50又は頭皮30の全体領域の実質的な断片とすることができる。
【0048】
図6A〜6Cは、光源40が頭皮30から離れて配置されることを特徴とする一実施例の概略図である。このようないくつかの実施例では、光源40によって放射された光は、光源40から頭皮30を通じて脳20に伝播し、図6Aに示すように、頭皮30に対して略平行な方向に分散する。光源40が互いに十分な間隔を空けて配置されることにより、各光源40から放射される光が、脳20で隣接する光源40から放射される光と重なり合うことが好ましい。図6Bは、脳20の表面又は表面下における基準深さでの円形スポット42の重なりとして、その重複部の概略図であるものである。また、図6Cは、図6A及び6Bの線L−Lに沿った脳20の基準深さにおける電力密度のグラフとして、その重複部の概略図であるものである。隣接する光源40からの電力密度を加算することは(図6Cにおいて破線で示すように)、治療された組織においてより一様な光分布を提供するように働く。このような実施例では、加算された電力密度は、脳20の損傷限界値未満であり、かつ有効限界値を超えることが好ましい。
【0049】
いくつかの実施例では、エレメント50は、頭皮30に到達する前に光を拡散させるように構成される。図7A及び7Bは、エレメント50による光に対する拡散効果の概略図である。図7Aで示すように、光源40によって放射された光のエネルギ密度の一般的な分布は特定の放射角でピークとなる。図7Bに示すように、エレメント50で拡散された後、光のエネルギ密度の分布はどの特定の放射角でも実質的なピークを有していないが、実質的には、ある範囲の放射角の間で平均的に分散される。光源40によって放射された光を拡散させることによって、エレメント50は、照光領域に亘り実質平均に光エネルギを分散させることにより、そうでない場合に頭皮30の温度を上昇させる「ホットスポット(hotspot)」を抑制することができる。さらに、頭皮30に到達する前に光を拡散させることによって、エレメント50は、頭皮30に当たる光のスポットサイズを実質的に増やすことにより、頭皮30の電力密度を下げることができる点において有利であり、下記において、当該事項をより十分に説明する。さらに、複数の光源40を有する実施例では、エレメント50は、光を拡散させて全体の光出力分布を変えることにより、不均一性を低減することができる。
【0050】
いくつかの実施例では、エレメント50が光の拡散を十分に行うことにより、光の電力密度は頭皮30及び脳20の最大許容レベル未満となる。他のいくつかの実施例では、エレメント50が光の拡散を十分に行うことにより、光の電力密度がターゲットとする組織の治療値に等しくなる。エレメント50は、特に限定されないが、米国カリフォルニア州、トランスのPhysical Optics Corp.から市販のもの、及び米国コネティカット州、エーボンのReflexite Corp.のDisplay Optics P/N SN1333などホログラフィックディフューザを含む一般的なディフューザを含むことができる。
【0051】
電力密度について、以下に説明する。脳卒中の治療のための光線療法は、組織に適用される光エネルギの電力密度(すなわち、単位面積当たりの電力、又は単位時間当たり単位面積当たりの光子数)及びエネルギ密度(すなわち、単位面積当たりのエネルギ、又は単位面積当たりの光子数)が、低レベル光線療法の相対的な有効性を決定する重要な因子であると考えられるとの発見に一部基づいている。この発見は、脳卒中又は脳血管障害(CVA)後の1次梗塞の周りの危険なゾーンにおける、生存しているが危険な状態の神経細胞を治療し救うことに関して特に適用可能である。本明細書に述べる好ましい方法は、光エネルギの選択された波長が与えられた場合、光線療法の相対的な有効性を決定する重要な因子と考えられるのは、(組織に送達される総電力又は総エネルギとは反対に)組織に送達される光の電力密度及び/又はエネルギ密度であることを見出したことに少なくとも一部基づいている。
【0052】
理論に拘束されずに、一定の範囲の電力密度及びエネルギ密度内で送達された光エネルギは、細胞内環境に対して所望の生体刺激的な効果を提供し、前に機能していない又は機能が低下している危険な状態の神経細胞中のミトコンドリアに対して適正な機能を回復させることができると考えられる。生体刺激的な効果は、ターゲット組織内の発色団との対話を含むことができ、それは、ATPの生産を可能にし、それにより、脳卒中に起因して血流が減少している損傷を受けた細胞にエネルギを供給することができる。脳卒中は、脳の部分への血流の遮断又は他の妨害に相当するため、光線療法による血流の増加のどんな効果も、脳卒中の被害者に対する光線療法の有効性に重要なものではないと考えられる。電力密度の役割及び曝露時間に関するさらなる情報は、非特許文献1に述べられており、それを参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0053】
光線療法で使用される電力密度の重要性は、図8A及び8Bで概略的に示すように、脳組織の光線療法で使用される装置及び方法に関して派生する問題を有しており、図は、介入する組織による散乱の影響を示す。組織による光の散乱に関するさらなる情報は、非特許文献2により提供され、それを参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0054】
図8Aは、患者の頭皮30の部分90に当たっており、また患者の脳組織20の部分100を照射するために患者の頭を介して伝播する光線80の概略図である。図8Aの例示的な実施例では、頭皮30に当たる光線80は、平行化され、半径2cmの円形断面及び約12.5cmの断面面積を有する。比較のために、図8Bは、脳組織20の部分102を照射するために、頭皮30のより小さい部分92に当たるかなり小さい断面を有する光線82の概略図である。図8Bで頭皮30に当たる光線82は、平行化されており、半径1cmの円形断面及び約3.1cmの断面面積を有する。図8A及び8Bに示す、光線80、82のコリメーション、断面、及び半径は、例示的なものであり、他のパラメータを有する他の光線もまた、本明細書に記載の諸実施例と互換性がある。特に、焦点を絞ったビーム又は発散されたビームに同様の考慮が適用され、それらは、介入する組織によって同様に散乱される。
【0055】
図8A及び8Bに示すように、光線80、82の断面は、頭部の組織との相互作用による散乱により、頭部を介して伝播するにつれて大きくなる。分散の角度が15度であり、照射される脳組織20が頭皮30の下2.5cmにあると仮定すると、図8Aの光線80によって照射される脳組織20の部分100の面積が約22.4cmという結果になる。同様に、図8Bの光線82によって照射される脳組織20の部分102の面積は、約8.8cmとなる。
【0056】
10mW/cmの電力密度で、脳組織20の部分100を照射することは、部分100内で約224mW(10mW/cm×22.4cm)の総電力に相当する。光線80の約5%だけが、頭皮30と脳組織20の間で伝送されると仮定すると、頭皮30における入射光線80は、約4480mW(224mW/0.05)の総電力及び約358mW/cm(4480mW/12.5cm)の電力密度を有することになる。同様に、10mW/cmの電力密度で脳組織20の部分102を照射することは、約88mW(10mW/cm×8.8cm)の部分102内の総電力、及び同様に5%の伝送効率で、頭皮30における入射光線82は、約1760mW(88mW/0.05)の総電力及び約568mW/cm(1760mW/3.1cm)の電力密度を有することになる。それらの計算を表1に要約する。
【0057】
【表1】

【0058】
これらの例示的な計算は、脳20における所望の電力密度を得るために、頭皮30におけるより大きいスポットサイズと共に、頭皮30でより高い総電力を使用できることを示している。したがって、頭皮30におけるスポットサイズを増すことによって、脳20における所望の電力密度が、頭皮30における低電力密度で達成することが可能となり、それにより、頭皮30を過熱する可能性を低減することができる。いくつかの実施例では、光を、頭皮30の照光を定義するための開口部を介して選択された小領域に送ることができる。
【0059】
光源について、以下に説明する。いくつかの実施例では、単一の光源40を、光を生成するための光生成装置として使用されるが、一方、他の実施例では、複数の光源40を、光を生成するための光生成装置として使用される。光源40は、可視波長から近赤外線波長の範囲で光を生成することが好ましい。いくつかの実施例では、光源40は、コヒーレント光をそれぞれが提供する一以上のレーザダイオードを備える。光源40からの光が干渉性を有する実施例では、放射された光は、光のコヒーレント干渉により「スペックリング(speckling)」を作ることができる。そのスペックリングは、構成的な干渉によって生成される強度スパイクを含み、治療されるターゲット組織の近傍で生じ得る。例えば、平均の電力密度が、約10mW/cmであるが、治療される脳組織の近傍における1つのこのような強度スパイクの電力密度は、約300mW/cmとすることができる。いくつかの実施例では、スペックリングにより増加させた電力密度は、より深い組織の照光に関して、非コヒーレント光を用いたものより、コヒーレント光を用いて治療効果を改善することができる。
【0060】
他の実施例では、光源40は非コヒーレント光を提供する。非コヒーレント光の例示的な光源40は、特に限定されないが、白熱光又は発光ダイオードを含む。光源40から熱を除くために、また頭皮30の温度上昇を抑制するために、(コヒーレント又は非コヒーレント源に対して)光源40と共にヒートシンクを使用することができる。
【0061】
いくつかの実施例では、光源40は、実質的に単色(すなわち、1波長を有する光、又は狭帯域の波長を有する光)である光を生成する。脳に伝送される光の量を最大化するために、いくつかの実施例では、光の波長を介入する組織に対する伝送ピーク(又は吸収の最小又はその近傍)又はその近傍とするように選択される。このようないくつかの実施例では、波長は、約820ナノメートルで組織の伝送スペクトルのピークに対応する。他の実施例では、光の波長は、約630ナノメートルから約1064ナノメートルの間であることが好ましく、約780ナノメートルから約840ナノメートルの間であることがさらに好ましく、約785、790、795、800、805、810、815、820、825、又は830ナノメートルの波長を含むことが非常に好ましい。約730ナノメートルから約750ナノメートルの間の範囲の中間的な波長(例えば、約739ナノメートル)は、頭蓋骨を通過するのに適していると考えられるが、他の波長もまた、適切であり、使用することができる。
【0062】
他の実施例では、光源40は、複数の波長を有する光を生成する。このようないくつかの実施例では、各波長は、ターゲット組織内の一以上の発色団を共に働くように選択される。理論により拘束されずに、発色団を照射すると、ターゲット組織中のATPの生産が増加し、それにより、有益な効果が得られるものと考えられる。いくつかの実施例では、光源40は、第2の波長を有する光と同時に、第1の波長を有する光を生成するように適合される。いくつかの他の実施例では、光源40は、第1の波長を有する光を生成し、順次に、第2の波長を有する光を生成するように適合される。
【0063】
いくつかの実施例では、光源40は、約830ナノメートルの波長を有する少なくとも1つの連続的に放射するGaAlAsレーザダイオードを含む。他の実施例では、光源40は、約808ナノメートルの波長を有するレーザ源を備える。他の実施例では、光源40は、少なくとも1つのVCSEL(vertical cavity surface−emitting laser:垂直キャビティ面発光レーザ)ダイオードを含む。本明細書に記載の実施例と互換性のある他の光源40は、特に限定されないが、発光ダイオード(LED)及びフィルタ付きランプ(filtered lamp)を含む。
【0064】
光源40は、皮下のターゲット組織で(例えば、硬膜から約2センチメートルの深さで)所定の電力密度を達成するのに十分な電力で光エネルギを放射することができる。組織の光線療法は、組織のレベルで、少なくとも約0.01mW/cmから最高約1W/cmの光の電力密度でターゲット組織を照射する場合、非常に有効であると現在考えられている。様々な実施例では、内表面の電力密度は、所望の臨床的パフォーマンスに応じて、それぞれ、少なくとも約0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、又は90mW/cmである。いくつかの実施例では、ターゲット組織における内表面の電力密度は、約0.01mW/cmから約100mW/cmであることが好ましく、約0.01mW/cmから約50mW/cmであることがさらに好ましく、約2mW/cmから約20mW/cmであることが非常に好ましい。これらの内表面の電力密度は、治療される組織に対する所望の生体刺激的な効果を生む点で特に有効であると考えられる。
【0065】
エネルギが皮膚の表面から、体の組織、骨、流体を介して皮下のターゲット組織に伝播するとき、エネルギが減衰することを考慮に入れると、好ましくは、約10mW/cmから約10W/cmの間、又はより好ましくは、約100mW/cmから約500mW/cmの間の表面電力密度が、皮下ターゲット組織における選択された電力密度を達成するのに通常使用される。このような、表面電力密度を達成するために、光源40は、少なくとも約25mWから約100Wの総電力出力を有する光エネルギを放射できることが好ましい。様々な実施例では、総電力出力は、約30、50、75、100、150、200、250、300、400、又は500mWを、それぞれ、超えないように制限される。いくつかの実施例では、光源40は、総電力出力を提供するために、組み合わせて使用される複数のソースを備える。光源40の実際の電力出力は、制御可能に可変であることが好ましい。このように、放射される光のエネルギの電力は、治療される皮下組織における選択された電力密度に従って調整することができる。
【0066】
いくつかの実施例は、皮膚の表面で、約25mWから約100Wの総電力出力を提供できる単一のレーザダイオードだけを含む光源40を利用する。このよういくつかの実施例では、レーザダイオードは、光ファイバを介して頭皮30に光学的に結合され、又は頭皮30を焼いたりあるいは損傷を与えたりする電力密度を回避するために十分大きなスポットサイズを提供するように構成することができる。他の実施例では、光源40は、皮膚の表面で少なくとも約25mWから約100Wの総電力出力を提供することができる格子又はアレイに配列された複数のソース(例えば、レーザダイオード)を利用する。他の実施例の光源40はまた、これらの制限外の電力容量を有するソースを備えることもできる。
【0067】
図9Aは、キャップ60と、光放射ブランケット110を備える光源とを備える治療装置10の他の実施例の概略図である。図9Bは、可撓性のある基板111(例えば、可撓性のある回路板)、電力通路インターフェース112、及び扇状構成に配置された光ファイバ114によって形成されたシートを備えるブランケット110の一実施例の概略図である。図9Cは、可撓性のある基板111、電力通路インターフェース112、及びメッシュに織られた光ファイバ114(waven optical fibers)によって形成されたシートを備えるブランケット110の一実施例の概略図である。ブランケット110は、治療される脳20の一部分に対応する頭皮30の領域を覆うように、キャップ60内に配置されることが好ましい。
【0068】
このようないくつかの実施例では、電力通路インターフェース112は、ブランケット110に光パワーを提供する光ファイバ通路64に結合するように適合される。いくつかの実施例の光パワーインターフェース112は、ビームスプリッタ、又は到来する光パワーを様々な光ファイバ114間に分配する他の光学的装置を備える。他の実施例では、電力通路インターフェース112は、ブランケット110に電気的なパワーを提供する電気的通路に結合するように適合される。このようないくつかの実施例では、電力通路インターフェース112は、一以上のレーザダイオードを備え、その出力が、ブランケット110の様々な光ファイバ114間に分配される。他のいくつかの実施例では、ブランケット110は、電力通路インターフェース112からの電気信号に対して光を放射することにより応答するエレクトロルミネセンスシートを備える。このような実施例では、電力通路インターフェース112は、エレクトロルミネセンスシートの適切な部分に電気信号を配布するように適合された回路を備える。
【0069】
頭皮30に近い方のブランケット110の側面は、ブランケット110から頭皮30の方向に散乱する光量を増すために、粗くした表面など、光を散乱させる表面を備えることが好ましい。頭皮30から遠い方のブランケット110の側面は、頭皮30から離れて放射された光が反射されて頭皮30の方向に戻るように、反射性のコーティングによって覆われることが好ましい。この構成は、液晶ディスプレイ(LCD)の「背景照光」に使用される構成と類似している。ブランケット110の他の構成は、本明細書に記載の諸実施例と互換性がある。
【0070】
いくつかの実施例では、光源40は、人が見た場合に目に損傷を与える光を生成する。このような実施例では、装置50は、人が光を見ることのないように、目の保護を行うように構成することができる。例えば、直接光を見るのを妨げるように、不透明な材料を適切に配置することができる。さらに、装置50が定位置にない限り、光源40が活動化されないようにインターロックを提供することができ、あるいは他の適切な安全対策が行われる。
【0071】
光送達装置について、以下に説明する。本明細書に記載の脳卒中治療のための光線治療方法は、例えば、特許文献3、特許文献4、米国特許第6273905号特許文献5、及び特許文献6に示され記載されたものなどの低レベルレーザ治療装置を用いて実施し、また説明することが可能であり、それらが参照によりそこに組み込まれた参照であるように、それらをすべて参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0072】
本明細書に記載の諸実施例による他の適切な光線療法装置を図10に示す。図示の治療装置10は、光源40、エレメント50、及び患者の頭部の領域の上に治療装置10を固定するように適合された可撓性のあるストラップ120を含む。光源40は、ストラップ120それ自体の上に、又はストラップ120に結合されたハウジング122中に配置することができる。光源40は、可視波長から近赤外線波長の範囲の波長を有する光エネルギを放出することができる複数のダイオード40a、40bなどを備えることが好ましい。エレメント50は、光源40及び患者の頭皮30の間に配置されるよう適合される。
【0073】
治療装置10はさらに、光源40に動作可能に結合された電源(図示せず)と、光源40及び電源に動作可能に結合されたプログラム可能な制御装置126とを含む。プログラム可能な制御装置126は、脳組織20に所定の電力密度を送到達するために光源40を制御するように構成されている。いくつかの実施例では、図10に概略的に示すように、光源40は、プログラム可能な制御装置126を備える。他の実施例では、プログラム可能制御装置126は、治療装置10から独立したコンポーネントである。
【0074】
いくつかの実施例では、ストラップ120は、患者の頭皮30にぴったりと合うように適切なサイズの弾性材料のループを備える。他の実施例では、ストラップ120は、係合するベルクロ細片、バックル、スナップ、ホック、ボタン、ひもなどの任意の適切な固定手段130が固定される弾性材料を含む。ストラップ120の正確な構成は、ストラップ120が、光源40によって放射される光エネルギが目標とする脳組織20の方向へ送られるように、光源40を選択された位置に維持可能であるという制限だけを受ける。
【0075】
図10に示す例示的な実施例では、ハウジング122は、ストラップ120に固定された可撓性のあるプラスチック又は繊維のレイヤを備える。他の実施例では、ハウジング122は、プレート又はストラップ120の拡大された部分を備える。様々なストラップ構成及び光源40の空間的分布は、治療装置10が脳組織の選択された部分を治療できるように、本明細書に記載の諸実施例と互換性がある。
【0076】
他の実施例では、光エネルギを送到達するための治療装置10は、図11で概略的に示すように、手持形プローブ140を含む。プローブ140は、光源40及び本明細書に記載のエレメント50を含む。
【0077】
図12は、本明細書に記載の諸実施例によるプログラム可能制御装置126を備える制御回路200のブロック線図である。制御回路200は、所定の内面電力密度など、脳20のターゲット領域への所定のエネルギ送達プロファイルに対応する頭皮30における所定の表面電力密度を生成するように、光源40によって放射される光エネルギの電力を調整するように構成される。
【0078】
いくつかの実施例では、プログラム可能制御装置126は、論理回路210、論理回路210に結合されたクロック212、及び論理回路210に結合されたインターフェース214を備える。いくつかの実施例のクロック212は、論理回路210が、適用される光のタイミング間隔を監視しかつ制御できるように、論理回路210にタイミング信号を送る。タイミング間隔の実施例は、特に限定されないが、合計の治療時間、適用される光パルスのパルス幅時間、及び適用される光のパルス相互間の時間間隔を含む。いくつかの実施例では、光源40は、頭皮30に対する熱負荷を低減するために、また脳20の特定領域に選択された電力密度を送到達するために、選択的にオン/オフすることができる。
【0079】
いくつかの実施例のインターフェース214は、適用される光を制御するために論理回路210が使用する信号を論理回路210に提供する。インターフェース214は、ユーザインターフェース、又は治療の少なくとも1つのパラメータを監視するセンサへのインターフェースを備える。このようないくつかの実施例では、プログラム可能制御装置126は、センサからの信号に応答して、測定された応答を最適化するように治療パラメータを調整することが好ましい。したがって、プログラム可能制御装置126は、光線療法を最適化するための様々な治療パラメータを閉回路で監視し、調整を行うことができる。ユーザからインターフェース214によって提供される信号は、特に限定されないが、患者の特性(例えば、皮膚のタイプ、脂肪率)、選択された適用される電力密度、ターゲット時間間隔、及び適用される光に対する電力密度/タイミングプロファイルを含むことができるパラメータを示す。
【0080】
いくつかの実施例では、論理回路210は、光源ドライバ220に結合されている。光源ドライバ220は電源230に結合されており、その電源は、いくつかの実施例でバッテリーを含み、また他の実施例では交流電源を含む。光源ドライバ220はまた、光源40に結合されている。論理回路210は、クロック212からの信号及びユーザインターフェース214からのユーザ入力に応答して、制御信号を光源ドライバ220に送信する。論理回路210からの制御信号に応答して、光源ドライバ220は、光源40に加えられる電力を調整かつ制御する。図12の制御回路200の他に、他の制御回路も本明細書に記載の諸実施例と互換性がある。
【0081】
いくつかの実施例では、論理回路110は、治療の少なくとも1つのパラメータを監視するセンサからの信号に応答して、適用される光を制御する。例えば、いくつかの実施例は、頭皮30の温度に関する情報を制御回路210に提供するために、頭皮30に熱的に結合された温度センサを備える。このような実施例では、論理回路210は、温度センサからの情報に応答して、頭皮温度を所定のレベル以下に維持するための適用される光のパラメータを調整するために、光源ドライバ220に制御信号を送信する。他の実施例は、特に限定されないが、血流センサ、血液ガス(例えば、酸素添加反応)センサ、ATP生産センサ、又は細胞活動センサを含む例示的な生物医学的なセンサを含む。このような生物医学的なセンサは、論理回路210に実時間フィードバック情報を提供することができる。このようないくつかの実施例では、論理回路110は、センサからの信号に応答して、測定された応答を最適化するように、適用される光のパラメータを調整することが好ましい。したがって、論理回路110は、光線療法を最適化するために適用される光の様々なパラメータを閉回路で監視し、かつ調整を行うことができる。
【0082】
いくつかの実施例では、図13で概略的に示すように、治療装置310は、有効な電力密度及び光の波長を用いて、患者の脳20の一部分を照射するように適合された光源340を備える。治療装置310はさらに、患者の頭皮30の上に複数の異なる照射パターンを選択的に作成するために、前記光源340を作動するための制御装置360を備える。各照射パターンは、患者の頭皮30と比較して小さい少なくとも1つの照光領域と、少なくとも1つの非照光領域とから構成される。
【0083】
いくつかの実施例では、光源340は、頭皮30の異なる部分を照射するように、放射光を調整するための装置を含む。このようないくつかの実施例では、装置は、頭皮30に対して光源40を物理的に移動させる。他の実施例では、装置は光源40を移動させるのではなく、頭皮30の異なる部分へと放射光の方向を変える。例示的な実施例では、図14で概略的に示すように、光源340は、レーザダイオード342及びガルボメータ(galvometer)344を備え、それらは共に、制御装置360に電気的に結合されている。ガルボメータ344は、複数のモータ350で調整可能なアセンブリ348上にマウントされたミラー346を備える。レーザダイオード342によって放射された光は、ミラー346の方に進み、選択的にミラー346を移動することにより、また選択的にレーザダイオード342を活動化することにより、患者の頭皮30の選択された部分へと反射される。いくつかの実施例では、治療装置310は、本明細書で述べたように、頭皮30における温度上昇を抑制するように適合されたエレメント50を備える。
【0084】
図15Aは、本明細書に記載の諸実施例による照射パターン370の概略図である。照射パターン370は、少なくとも1つの照光領域372及び少なくとも1つの非照光領域374を含む。いくつかの実施例では、照射パターン370は、光が、照光領域372で患者の頭皮30に当たるが非照光領域374では当たらないように、ミラー346を走査することによって生成される。いくつかの実施例では、照光領域372及び非照光領域374が時間の関数として変更される。
【0085】
選択的照射は、光を1つの照光領域372から他の領域へ移動させることによって頭皮30の特定の位置に対する熱負荷を低減するのに使用することができる。例えば、図15Aで概略的に示されている照射パターン370を用いて頭皮30を照射することによって、頭皮30の照光領域372は、光との相互作用によって加熱され、非照光領域374は加熱されない。図15Bに概略的に示す相補的照射パターン370'を用いて頭皮30を連続的に照射することにより、前の非照光領域374が、今度は照光領域372'となり、前の照光領域372は、今度は非照光領域374'となる。図15Aの照射パターン370の照光領域372を、図15Bの照射パターン370'の照光領域372'と比較すると、照光領域372、372'が実質的に互いに重なっていないことが示される。このように、光の吸収による頭皮30における熱負荷を、頭皮30全体に分散することができ、それによって、頭皮30の一以上の部分が過度に加熱されるのを回避することができる。
【0086】
図16は、本明細書に記載の諸実施例による他の治療装置400の概略図である。治療装置400は、ハウジング420内に複数の光源410を備える。各光源410は、有効な電力密度及び光の波長を用いて、脳20の対応する部分を照射するように配置された出力放射領域を有する。いくつかの実施例では、それらの部分は、2つ以上の光源410で照射される脳20の部分の少なくとも一部分が互いに重複するように重なる。本明細書で述べるように、光源410は、制御装置(図示せず)によって共に、又は別個に活動化されて、所定の照射パターンを作成することができる。
【0087】
図16の治療装置400はさらに、光源410と患者の頭皮30の間に介在するキャップ430を備え、したがって、光は、頭皮30に到達する前にキャップ430を通過する。いくつかの実施例では、キャップ430は、実質的にその波長で光透過性を有し、光の後方反射を低減する。いくつかの実施例のキャップ430は、頭皮30とキャップ430の間の空隙を実質的に低減するために、頭皮30に適応させてある。いくつかの実施例では、キャップ430は、頭皮30の屈折率と実質的に一致する屈折率を有する材料を含む。いくつかの実施例では、キャップ430は、頭皮30の皮膚及び/又は髪の屈折率と実質的に一致する屈折率を有する材料を含む。
【0088】
図16で概略的に示す実施例では、キャップ430は、患者の頭皮30の上に着用可能である。このようないくつかの実施例では、患者は、キャップ430を身につけ、光源410の近傍に自分の頭部を置くためにリクライニング位にあるようにする。キャップ430は、本明細書で述べるように(例えば、頭皮30を冷却することにより、頭皮30の一部分を白化させることにより、頭皮30に到達する前に光を散乱させることにより)、光源410からの光によって生ずる頭皮30における温度上昇を抑制するように適合される。
【0089】
光の送達方法について、以下に説明する。光線療法の好ましい方法は、選択された波長に対して、組織に送達される光エネルギの電力密度(光の強度又は単位面積当たりの電力、W/cm)、又はエネルギ密度(単位面積当たりのエネルギ、J/cm、又は曝露時間を乗じた電力密度)は、光線療法の相対的な有効性を判定するのに重要な因子であり、有効性は、組織に送達される総電力又は総エネルギに直接関係するものではないという上記の発見に少なくとも一部基づいている。本明細書で述べる方法では、脳卒中の後の梗塞の領域を含み得る患者の脳20の一部分に送達される電力密度又はエネルギ密度は、梗塞の起きた領域の周囲の危険なゾーンにおける生存しているが危険な状態の神経細胞を治療し、救うために光線療法を使用することにおいて、重要な因子であると考えられる。いくつかの実施例は、受容可能なエラーマージン内で、意図するターゲット組織に最適な電力密度又はエネルギ密度を与える。
【0090】
いくつかの実施例では、本明細書に記載の光線療法の装置及び方法が、患者の大脳の血流を増加させる。このようないくつかの実施例では、大脳の血流が、照射直前と比較して、照射直後では10%、15%、20%、又は25%増加している。
【0091】
いくつかの実施例では、本明細書に記載の光線療法の装置及び方法は、脳卒中又は他の神経変性源を治療するために使用される。本明細書では、用語「神経変性(neurodegeneration)」とは、脳卒中又はCVAなどの1次の破壊性イベント、ならびに1次の破壊性イベントの発生により細胞によって引き起こされた2次の、遅延性で進行性の破壊的メカニズムによる細胞破壊のプロセスを指す。1次の破壊性イベントは、脳卒中も含めた病気のプロセス、又は身体的な損傷もしくは発作を含むが、また、複数の硬変症、筋萎縮性側索硬化症、熱射病、てんかん、アルツハイマー病、AIDSなど他の原因による痴呆、局所性大脳虚血を含む大脳虚血、及び、脳、脊髄、神経、又は網膜の挫傷又は圧縮損傷、あるいは神経変性を作る任意の急性の損傷もしくは発作を含めた中枢神経(CNS)における挫傷もしくは圧縮損傷などの身体的外傷などの他の病気及び状態も含む。2次の破壊メカニズムは、アポトーシス、ミトコンドリア膜の浸透性変化による細胞エネルギ保存の喪失、過剰グルタミン酸塩の放出及び再取り込み不全、再潅流傷害、及びサイトカイン/炎症の作用を含む神経毒性分子の生成と放出へと導く任意のメカニズムを含む。1次及び2次のメカニズムは、神経細胞に対する「危険なゾーン」を形成することの一因となり、そのゾーンにおける神経細胞は、1次の破壊性イベントを少なくとも一時的に生き延びているが遅延性の効果を有するプロセスによって死の危険がある。
【0092】
本明細書では、用語「神経保護(neuroprotection)」とは、神経変性損失が1次の破壊性イベントに関連する病気メカニズムによるものであろうと、2次の破壊性メカニズムによるものであろうと、1次の破壊性イベント後の神経変性に起因する神経細胞のさもなければ不可逆となる損失を遅延させ、又は阻止するための治療的な戦略を指す。
【0093】
本明細書で使用される用語「認識機能」とは、知ること、考えること、学ぶこと、知覚すること、(直前の、最近の、又は遠い記憶を含めて)記憶すること、及び判断することに関するものを含む、認識及び認識的もしくは精神的なプロセスもしくは機能を指す。認識機能の喪失の症状はまた、患者の個性、ムード、及び挙動の変化を含むこともできる。認識機能に影響する病気又は状態は、アルツハイマー病、痴呆、AIDSもしくはHIV感染、クロイツフェルトヤコブ病、(単一イベント外傷、及び運動損傷の結果起こり得る複数の脳震盪もしくは他の外傷などの長期間の外傷を含めた)頭部外傷、レヴィ小体病、ピック病、パーキンソン病、ハンチントン病、薬物もしくはアルコール濫用、脳腫瘍、水頭症、腎臓もしくは肝臓病、脳卒中、うつ病、及び認識機能の破壊、神経変性を生ずる他の精神的な病気を含む。
【0094】
本明細書で使用する用語「運動機能」とは、運動協調、簡単及び複雑な運動動作の反応などを含む筋肉運動、主として意識的な筋肉運動に関する身体的機能を指す。
【0095】
本明細書で使用する用語「神経機能」は、認識機能及び運動機能を共に含む。
【0096】
本明細書で使用する用語「認識強化」及び「運動強化」とは、それぞれ、認識機能及び運動機能を向上させること又は高めることを指す。
【0097】
本明細書で使用する用語「神経強化」は、認識強化及び運動強化を共に含む。
【0098】
本明細書で使用する用語「神経を保護し有効な(neuroprotective−effective)」とは、光エネルギ量の特性を指し、その量は、mW/cmで測定される光エネルギの電力密度である。光エネルギの神経を保護し有効な量は、神経変性を阻止し、回避し、低減し、又は除去する目標を達成し、その結果、認識強化及び/又は運動強化が得られるべきである。
【0099】
本明細書で使用する用語「神経機能強化に有効」とは、光エネルギ量の特性を指し、その量は、mW/cmで測定される光エネルギの電力密度である。その光エネルギの量は、神経保護、運動強化、及び/又は認識強化の目標を達成する。
【0100】
したがって、このような治療の必要性がある患者において、脳卒中の治療のため、又は神経機能の強化のための方法は、患者の脳20のターゲット領域に、可視波長から近赤外線波長の範囲の波長を有する光エネルギの神経機能強化に有効な量、又は神経を保護し有効な量を送到達することを含む。いくつかの実施例では、患者の脳20のターゲット領域は、梗塞領域、すなわち、「危険なゾーン」内の神経細胞への梗塞領域を含む。他の実施例では、ターゲット領域は、危険なゾーン内ではなく、脳20の部分を含む。理論に拘束されることなく、危険なゾーンの近傍の健康な組織の照射は、健康な組織中にATP及び銅イオンの生産を高め、それが、次いで、梗塞の周囲の領域内の損傷を受けた細胞に移動するものと考えられ、それにより、有益な効果が生み出される。光線療法に含まれる生体医学メカニズム又は反応に関するさらなる情報は、非特許文献3、非特許文献4、によって提供され、それを参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0101】
いくつかの実施例では、光エネルギの神経保護的量を送到達することは、脳20のターゲット領域における所定の電力密度に相当する頭皮30における光エネルギの表面電力密度を選択することを含む。上記のように、組織を伝播する光は、組織によって散乱され吸収される。脳20の選択されたターゲット領域に所定の電力密度を送到達するための頭皮30に適用される電力密度の計算は、皮膚、及び骨や脳組織などの他の組織を通じて伝播するときの光エネルギの減衰を考慮に入れることが好ましい。頭皮30から脳20に伝播する光の減衰に影響することが知られている因子は、特に限定されないが、皮膚の色素沈着、治療される領域上の髪の存在及びその色、脂肪組織の量、傷付いた組織の存在、頭蓋骨の厚さ、及び脳20のターゲット領域の位置、特に、頭皮30の表面に対する領域の深さを含む。例えば、頭皮30の表面下3cmの深さにおける脳20において所望の50mW/cmの電力密度を得るためには、光線療法は、適用される500mW/cmの電力密度を利用することができる。皮膚の色素沈着のレベルが高ければ高いほど、脳20の内表面部位に光エネルギの所定の電力密度を送到達するために、高い電力密度が頭皮30に適用される。
【0102】
いくつかの実施例では、脳卒中の影響を受けている患者を治療することは、治療装置10を、頭皮30に接触させかつ患者の脳20のターゲット領域に隣接して配置することを含む。患者の脳20のターゲット領域は、標準の医療用イメージング技法を用いることなどによって、前に識別することができる。いくつかの実施例では、治療はさらに、患者の脳20のターゲット領域における事前選択された電力密度に相当する頭皮30における表面電力密度を計算することを含む。いくつかの実施例の計算は、光エネルギの通過に影響する、したがって、ターゲット領域における電力密度に影響する因子を含む。これらの因子は、特に限定されないが、患者の頭蓋骨の厚さ、髪のタイプ及び髪の色合い、皮膚の色合い及び色素沈着、患者の年齢、患者の性別、及び脳20内のターゲット領域までの距離を含む。適用される光の電力密度及び他のパラメータは、次いで、計算結果に従って調整される。
【0103】
患者の脳20のターゲット領域に適用される選択された電力密度は、特に限定されないが、適用される光の波長、CVAのタイプ(虚血性又は出血性)、及び影響を受けた脳領域の程度を含む患者の臨床的状態を含むいくつかの因子に依存する。患者の脳20のターゲット領域に送達される光エネルギの電力密度はまた、所望の生物学的効果を達成するために、任意の他の治療作用物質、特に、薬学的な神経保護作用物質と組み合わせて調整することもできる。このような実施例では、選択された電力密度はまた、選択された追加の治療作用物質に依存することができる。
【0104】
好ましい実施例では、治療は、約10秒から約2時間の期間、より好ましくは、約1分から約10分の期間、非常に好ましくは約1から5分の期間に対して連続的に行われる。他の諸実施例では、少なくとも約5分の少なくとも1治療期間の間、光エネルギを送到達することが好ましく、少なくとも10分の少なくとも1治療期間の間、光エネルギを送到達することがより好ましい。光エネルギは、治療期間中脈動させる(pulse)ことが可能であり、又は光エネルギは、治療期間中連続的に適用することもできる。
【0105】
いくつかの実施例では、治療は、1治療期間の後終了することができるが、他の実施例では、少なくとも2治療期間、治療を繰り返すこともできる。次の治療期間の間の時間は、少なくとも約5分であることが好ましく、少なくとも約1日から2日であることがより好ましく、少なくとも約1週間であることが非常に好ましい。治療が複数日の期間にわたり実施されるいくつかの実施例では、装置10は、同時の複数日にわたり着用可能である(例えば、図1、3、9A、10、及び13の実施例)。治療時間の長さ及び治療期間の頻度は、患者の機能の回復及び梗塞のイメージング分析の結果を含むいくつかの因子に依存し得る。いくつかの実施例では、一以上の治療パラメータは、患者を監視する装置(例えば磁気共鳴映像法)からのフィードバック信号に応答して調整することができる。
【0106】
治療中、光エネルギを連続的に提供することが可能であり、あるいは脈動させることもできる。光を脈動させた場合、そのパルスは、少なくとも約10ナノ秒の長さで、かつ最高約100kHzの周波数で発生することが好ましい。連続波の光を使用することもできる。
【0107】
脳卒中の治療に現在使用されている血栓溶解性治療は、通常、脳卒中の数時間以内に開始される。しかし、脳卒中を起こした人が医学的な治療を受ける前に、しばしば、多くの時間が経過しており、したがって、血栓溶解性治療を開始するための短い時間制限により、多くの患者が治療から除外されている。それに反して、脳卒中の光線療法は、虚血性イベントが発生した後の数時間以降に治療を開始した場合、より有効であると考えられる。したがって、光線療法の本方法は、より大きな割合の脳卒中患者を治療するために使用することができる。
【0108】
いくつかの実施例では、方法は、脳に虚血性イベントのあった患者に神経保護的効果を提供する。本方法は、脳に虚血性イベントを生じた患者を識別することを含む。本方法はさらに、虚血性イベントの時間を推定することを含む。本方法はさらに、光エネルギの神経を保護し有効な量を脳に投与することの開始を含む。光エネルギの投与は、虚血性イベントの時間の後、約2時間以降に開始される。いくつかの実施例では、光線療法処置は、虚血性イベントの発生後、好ましくは24時間以内に、より好ましくは虚血性イベントの後2時間以降又は3時間以降に、さらに非常に好ましくは虚血性イベントの後5時間以降、有効に実施することができる。いくつかの実施例では、一以上の治療パラメータは、虚血性イベントから経過した時間量に応じて変えることができる。
【0109】
理論に拘束されずに、治療を遅延させることの利点は、ATP生産の誘導に必要な時間、及び/又は梗塞の周囲領域中の血管形成の可能な誘導に必要な時間によって生ずると考えられる。したがって、好ましい一実施例によると、脳卒中の治療のための光線療法は、脳卒中症状の開始後、約6から24時間で行われるのが好ましく、症状の開始後、約12から24時間で行われることがより好ましい。しかし、治療が、約2日後に開始される場合、その有効性は大きく低減されると考えられる。
【0110】
いくつかの実施例では、光線療法は、治療効果を改善するために、他のタイプの治療と組み合わされる。治療は、脳のターゲット領域に患者の頭皮を介して光を送り、同時に、脳に電磁場を印加することを含むことができる。このような実施例では、光はターゲット領域に有効な電力密度を有し、また電磁場は有効なフィールド強度を有する。例えば、装置50はまた、例えば、Holcombに発行された特許文献7に記載されている電磁治療のためのシステムを含むこともでき、それを参照により本明細書にその全体を組み込む。いくつかの実施例では、電磁場は磁場を含むが、他の実施例では、電磁場は、高周波(RF)場を含む。他の実施例として、治療は、脳のターゲット領域に、患者の頭皮を介して有効な電力密度の光を送ると同時に、超音波エネルギの有効な量を脳に適用することを含むことができる。このようなシステムは、例えば、Fry他に発行された特許文献8に記載のものなど、超音波治療のためのシステムを含むことができ、それを参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0111】
光線療法実施例について、以下に説明する。
実施例[実施例1]
神経細胞に対する光線療法の一効果、すなわち、ATP生産に対する効果を示すために、生体外実験が行われた。NHNP(Normal Human Neural Progenitor:正常ヒト神経前駆細胞)細胞は、米国メリーランド州ボルチモアのClonetics、catalog # CC−2599、から冷凍保存で入手された。NHNP細胞は、製造者の指示に従って、解凍され、細胞と共に提供された試薬を用いてPEI(ポリエチレンイミン)上で培養された。細胞は、スフェロイドとして96ウェルプレート(透明な底部を有する黒いプラスチック、米国ニュージャージー州フランクリンレークのBecton Dickinson)にプレート化されており、2週間の期間にわたり成熟した神経細胞へ分化することができた。
【0112】
正確に計測されたレーザ光の照射量を96ウェルプレート中のNHNP細胞に提供するために、PDA(Photo Dosing Assembly)が使用された。PDAは、LUDL電動式XYZステージ(米国ニューヨーク州ホーソンのLudl Electronic Products)を有するNikon Diaphot 倒立顕微ミラー(米国ニューヨーク州メルビルのNikon)を含んでいた。808ナノメートルのレーザは、カスタム設計されたアダプタ及び光ファイバケーブルを用いて顕微ミラー上の後部の落射型蛍光ポートに導かれた。拡散レンズがビームの経路中にマウントされて、レーザビームがヒトの皮膚を通過した後の生体外条件を模倣するよう意図された「スペックル」パターンを作成した。ビームは、96ウェルプレートの底部に達したとき25ミリメートルの径の円に発散した。その寸法は、4つの隣接するウェルのクラスタに同時にレーザが当てられるように選択された。細胞は、96個のウェルプレートごとに、合計12のクラスタにレーザが当たるようなパターンでプレート化された。ステージの位置決めは、Silicon Graphicsのワークステーションによって制御され、レーザタイミングは、デジタルタイマを用いて手動で実施された。NHNP細胞に対するプレートを通過する測定された電力密度は、50mW/cmであった。
【0113】
2つの独立したアッセイが、NHNP細胞に対する808ナノメートルレーザ光の効果を測定するために使用された。第1のものは、CellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(米国ウィスコンシン州マディソンのPromega)であった。このアッセイは、細胞ATPとのルシフェラーゼ反応によって作られた「グロータイプ(glow−type)」の発光信号を生成する。CellTiter−Glo試薬は、ウェル中の媒体容積に等しい量で加えられ、その結果、細胞が溶解して、その後Reporter 発光測定装置(米国カリフォルニア州サニーベールのTurner Biosystems)を用いて測定された発光反応が持続する。NHNP細胞中に存在するATPの量は、RLU(Relative Luminescent Units:相対発光量)で発光測定装置により定量化された。
【0114】
使用された第2のアッセイは、alamarBlueアッセイ(米国カリフォルニア州カマリロのBiosource)であった。増殖している細胞の内部環境は、増殖していない細胞よりも還元される。具体的には、NADPH/NADP、FADH/FAD、FMNH/FMN、及びNADH/NADの比が増殖中に増加する。レーザ照射はまた、これらの比に対して効果を有すると考えられる。alamarBlueなどの化合物は、これらの代謝中間物によって還元され、細胞状態を監視するのに使用することができる。alamarBlueの酸化は、測定可能な色シフトを伴う。alamarBlueは、その非酸化状態では青色に見える。酸化されると、色が赤に変化する。そのシフトを定量化するために、340PCマイクロプレート読取り分光分析計(米国カリフォルニア州サニーベールのMolecular Devices)がNHNP細胞、媒体、及び10%v/vで希釈されたalamarBlueを含むウェルの吸収を測定するために使用された。各ウェルの吸収は、570ナノメートル及び600ナノメートルで測定され、alamarBlueの還元率は、製造者によって提供された式を用いて計算された。
【0115】
上記の2つの測定(RLU及び%還元)は、次いで、808ナノメートルの波長で50mW/cmでレーザ処理されたNHNP培養ウェルを比較するのに使用された。CellTiter−Gloアッセイの場合、20ウェルが1秒間レーザ処理され、レーザ処理されていない20ウェルの対照(control)群と比較される。CellTiter−Glo試薬は、レーザ処理が完了した後、10分間加えられ、細胞が溶解しルシフェラーゼ反応が安定化した後、プレートが読み取られた。制御ウェルに関して測定された平均のRLUは、3803+/−3394であり、一方、レーザグループは、ATPコンテンツで2倍の増加を示し、7513+/−6109であった。標準偏差は、ウェル中のNHNPが比較的少数(視覚による観察からウェルごとに約100)であるため幾分高いが、studentの対応のない(unpaired)t検定がデータに対して行われ、その結果、p値が0.02となり、2倍の変化が統計的に有意であることを示している。
【0116】
alamarBlueアッセイは、高い細胞密度及び5秒のレーザ処理時間を用いて実施された。プレート化密度(製造者によって提供された保証書に基づいてウェル当たり7500から26000セルの間であると計算される)は、いくつかの細胞がスフェロイド中に残留しており、完全に分化していないので判定するのが困難であった。しかし、プレート化条件が同一なので、同じプレートのウェルは比較可能である。alamarBlueは、レーザ処理後すぐに加えられ、その吸収は9.5時間後に測定された。パーセント還元に関する平均測定値は、8レーザ処理ウェルに対して22%+/−7.3%であり、3非レーザ処理対照ウェルに対しては12.4%+/−5.9%であった(p値=0.076)。それらのalamarBlueの結果は、細胞に対するレーザ治療の同様の好ましい効果を示す前の知見をサポートしている。
【0117】
細胞ATP濃度の増加及び細胞内のより還元された状態は共に、細胞の新陳代謝に関係しており、細胞が生存可能であり健康であることを示すものと考えられる。それらの結果は、体外の神経細胞培養における細胞の代謝に対するレーザ照射の好ましい効果を示している点で新規でありかつ有意である。
【0118】
実施例[実施例2]
第2の実施例では、経頭蓋レーザ治療が、RSCEM(rabbit small clot embolic stroke model:ラビットの小凝固塞栓性脳卒中モデル)における行動欠損を治療するために低エネルギ赤外線レーザを用いて調査された。その実施例は、非特許文献5によって、より詳細に述べられており、それを参照により本明細書にそのすべてを組み込む。
【0119】
RSCEMは、麻酔をかけたオスのニュージーランドホワイトラビットの大脳の血管系に血液凝固を注入することによって行われ、その結果、虚血誘導型の行動欠損になり、それは、二項選択(dichotomous)評価尺度で定量的に測定することができる。治療しない場合、少数の微小凝固は、明確な神経機能障害を生じないが、大量の微小凝固を用いると、例外なく脳障害又は死にいたった。挙動が正常なラビットは何も障害の兆候を有しないが、挙動が異常なラビットは、平衡を失い、頭が傾き、円を描き、てんかんタイプの行動をし、又は脚の麻痺を起こす。
【0120】
レーザ治療の場合、レーザプローブが皮膚に直接接触して配置された。レーザプローブは、低エネルギレーザ(波長が808±5ナノメートル)を備え、OZ Optics Ltd.の光ファイバケーブル及び直径約2センチメートルのレーザプローブが取り付けられた。装置の設計研究によると、これらの仕様により、レーザは、ラビットの頭蓋骨及び脳を通過し2.5から3センチメートルの深さに到達することができること、及びレーザビームは、正中線上のブレグマの後方の皮膚表面上に配置された場合、脳の大部分を包含することが示された。プローブ下の表面皮膚の温度は、最高3°Cまで上昇したが、レーザプローブの直接下の局所的な脳の温度は、25mW/cmのエネルギ設定を用いた10分間のレーザ治療中に0.8°Cから1.8°C上昇した。局所的な脳の温度は、レーザ治療の60分以内に正常に戻った。
【0121】
凝固投与量(clot dose)と、挙動もしくは神経的な欠損との間の定量的な関係は、コンピュータによって、計数的な投与量−応答データに適合させたロジスティック(S字型)曲線を用いて評価された。それらのパラメータは、動物群の50%(P50)に神経障害を起こす微小凝固の量の測定値(mgで)である。対照と比較されたP50値における統計的に有意な増加が挙動の改善を示している別個の曲線が治療条件ごとに生成された。データはt検定を用いて分析され、検定には、適切な場合、ボンフェローニ補正を含めた。
【0122】
レーザ治療が、生理学的変数を変化させているかどうか判定するために、14のラビットを2つの群、すなわち、対照群及びレーザ治療群(10分間で25mW/cm)に無作為に分割した。血液グルコースレベルは、Bayer Elite XL 3901B Glucometerを用いて塞栓を起こしたすべてのラビットについて測定され、体温は、Braun Themoscan Type 6013 デジタル温度計を用いて測定された。塞栓形成の60分以内に、対照群とレーザ治療群で共に血液グルコースレベルの上昇があり、それは、塞栓形成後の観察時間の2時間の間維持された。血液グルコースレベルは、脳卒中に誘導された行動欠損の程度にかかわらず、24時間で対照レベルに回復した。レーザ治療は、どんな場合もグルコースレベルに大きく影響することはなかった。塞栓形成又はレーザ治療のいずれも、ラビットのどちらの群においても体温に大きく影響しなかった。
【0123】
図17Aは、2分の治療時間に7.5mW/cmのレーザ治療を行った場合、ミリグラムの凝固重量の関数として表した、異常もしくは死亡した個体数の割合のグラフである。図17Aで示すように、対照曲線(点線)は、0.97±0.19mgのP50値(n=23)を有する。脳卒中の後3時間で開始されたこのようなレーザ治療により、大幅に挙動能力(performance)が改善され、P50値が2.21±0.54mg(n=28、*P=0/05)(実線)に増加している。その効果は、塞栓形成後3週間、持続可能であり測定可能であった。しかし、同じ設定であっても、塞栓形成後、長時間の遅延(24時間)があった場合、挙動は改善されなかった(破線)(P50=1.23±0.15mg、n=32)。
【0124】
図17Bは、10分の治療時間に25mW/cmのレーザ治療を行った場合、ミリグラムの凝固重量の関数として表した、異常もしくは死亡した個体数の割合のグラフである。図17Bに示すように、対照曲線(点線)は、1.10±0.17mgのP50値(n=27)を有する。塞栓形成後1時間(破線)又は6時間(実線)で開始されたこのようなレーザ治療はまた、大幅に挙動能力が高められ、P50値が2.02±0.46mg(n=18、*P<0.05)及び2.98±0.65mg(n=28、*P<0.05)に、それぞれ、増加した。
【0125】
図18は、ラビットの小凝固塞栓性脳卒中後のレーザで誘導された挙動改善に関する治療的ウィンドウを示すグラフである。x軸上に示された塞栓形成後、1、3、6、又は24時間に開始されたレーザ治療に対する時間点ごとのラビット数(括弧中の数)に対して平均±SEMとした場合の臨床的評価点P50(ミリグラム:凝固した重量)として結果を示す。水平な線は対照P50値(*P<0.05)の平均を表す。
【0126】
RSCEMにおける結果は、体温及び血液グルコースレベルに影響することなく、レーザ治療は、ラビットの塞栓脳卒中後、挙動評価点を大幅に改善することを示した。さらに、レーザ治療は、脳卒中後、最高6時間に開始された場合も有効であり、それは、同じ前臨床(preclinical)脳卒中モデルにおけるどんな以前に有効な単一の療法よりも遅い。さらに、その効果は、塞栓形成後、最高21日まで持続可能でありかつ測定可能であった。ラビットにおけるレーザで誘導された改善の大きさは、前にテストされた血栓溶解薬(アルテプラーゼ、テネクテプラーゼ、及びマイクロプラスミン)及び神経保護化合物(NXY−059)と同様であり、それらは、臨床的開発が行われている。
【0127】
本明細書で提示する説明及び例示は、当業者に、本発明、その原理、及びその実際的な応用を知らせることを意図している。当業者であれば、本発明を、特定の使用要件に最も適することが可能なように、その数多くの形態に適合させかつ適用することができる。したがって、記載した本発明の特有の実施例は、網羅的であること又は本発明を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】患者の頭部に確実に装着されるキャップを備える治療装置の概略図である。
【図2】エレメントを備える治療装置の一実施例の一部及び頭皮と脳との関係を示す図1における断面2−2の部分的な概略図である。
【図3】エレメントを通じて流れる材料の移送のための入口通路及び出口通路と結合されたコンテナを備えるエレメントを有する一実施例の概略図である。
【図4A】頭皮に接触している部分及び頭皮から離れて配置された部分を備えるエレメントを備える治療装置の他の実施例の一部を示す図1における断面2−2の部分的な概略図である。
【図4B】複数の光源と、頭皮に接触している部分及び頭皮から離れて配置された部分を有するエレメントとを備える治療装置の一実施例の一部を示す図1における断面2−2の部分的な概略図である。
【図5A】図4Bにおけるエレメントの実施例における断面4−4の概略図である。
【図5B】図4Bにおけるエレメントの実施例における断面4−4の概略図である。
【図6A】光源が頭皮から離れて配置される一実施例の概略図である。
【図6B】光源が頭皮から離れて配置される一実施例の概略図である。
【図6C】光源が頭皮から離れて配置される一実施例の概略図である。
【図7A】エレメントによる光の拡散効果を示す概略図である。
【図7B】エレメントによる光の拡散効果を示す概略図である。
【図8A】患者の頭皮に入射する異なる横断面を有しており、患者の頭部を通じて伝播して患者の脳組織の一部に照射する2つの光線の概略図である。
【図8B】患者の頭皮に入射する異なる横断面を有しており、患者の頭部を通じて伝播して患者の脳組織の一部に照射する2つの光線の概略図である。
【図9A】キャップ及び光ブランケットを備える光源を備える治療装置を概略図である。
【図9B】光ブランケットの実施例の概略図である。
【図9C】光ブランケットの実施例の概略図である。
【図10】可撓性のあるストラップ及びハウジングを備える治療装置を概略図である。
【図11】手持形プローブを備える治療装置の概略図である。
【図12】プログラム可能な制御装置を備える制御回路のブロック線図である。
【図13】光源及び制御装置を備える治療装置の概略図である。
【図14】レーザダイオードと、ミラー及び複数のモータを有するガルボメータとを備える光源の概略図である。
【図15A】互いに空間的にシフトされた照射パターンの概略図である。
【図15B】互いに空間的にシフトされた照射パターンの概略図である。
【図16】本明細書に記載の諸実施例による例示的な治療装置の概略図である。
【図17A】小凝固塞栓性脳卒中を有するウサギの個体群に対して、7.5mW/cmで治療時間2分間のレーザ治療による効果を表わすグラフである。
【図17B】小凝固塞栓性脳卒中を有するウサギの個体群に対して、25mW/cmで治療時間10分間のレーザ治療による効果を表わすグラフである。
【図18】ウサギにおける小凝固塞栓性脳卒中の後、レーザで誘導された挙動改善に対する治療ウィンドウを示すグラフである。
【符号の説明】
【0129】
10 治療装置
20 脳
30 頭皮
40 光源
40a 光源
40b 光源
41 出力放射領域
50 エレメント
60 キャップ
110 光放射ブランケット
112 電力通路インターフェース、光パワーインターフェース
114 光ファイバ
120 ストラップ
126 制御装置
140 手持形プローブ
200 制御回路
310 治療装置
340 光源
342 レーザダイオード
346 ミラー
370 照射パターン
370’ 照射パターン
372 照光領域
372’ 照光領域
374 非照光領域
374’ 非照光領域
410 光源
430 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳を治療するための治療装置であって、
有効な電力密度及び光の波長を用いて、前記脳の一部分を照射するように配置された出力放射領域を有する光生成装置と、
前記光生成装置と前記患者の頭皮の間に介在し、前記光によって生じた頭皮における温度上昇を抑制するエレメントと
を備えることを特徴とする治療装置。
【請求項2】
前記有効な電力密度が、硬膜の下の約2センチメートルの深さで少なくとも約0.01mW/cmであることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記有効な電力密度が、前記硬膜の下の約2センチメートルの深さで少なくとも約10mW/cmであることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項4】
前記有効な電力密度が、前記硬膜の下の約2センチメートルの深さで少なくとも約20mW/cmであることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項5】
前記有効な電力密度が、前記頭皮の表面で約10mW/cmから約10W/cmであることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項6】
前記波長が、約630ナノメートルから約1064ナノメートルあることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項7】
前記波長が、約780ナノメートルから約840ナノメートルであることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項8】
前記光が、前記頭皮に到達する前に前記エレメントを通過することを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項9】
前記エレメントが前記患者の頭皮に接触していることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項10】
前記エレメントが、前記光生成装置に取り付けられており、前記頭皮に対する前記光生成装置の位置決めを行うように前記頭皮に適合されることを特徴とする請求項9に記載の治療装置。
【請求項11】
前記エレメントが、前記頭皮に対して前記光生成装置の位置を調整するために、機械的に調整可能であることを特徴とする請求項10に記載の治療装置。
【請求項12】
前記エレメントが、前記頭皮に前記治療装置を適応させるために機械的に調整可能である、請求項10に記載の治療装置。
【請求項13】
前記エレメントが、前記頭皮の輪郭に適合する材料を含むバッグを備えることを特徴とする請求項12に記載の治療装置。
【請求項14】
前記エレメントの少なくとも一部分が、前記光生成装置から前記頭皮への光路内に存在することを特徴とする請求項10に記載の治療装置。
【請求項15】
前記エレメントが、前記波長において実質的に光学的な透過性があり、前記光の後方反射を低減することを特徴とする請求項14に記載の治療装置。
【請求項16】
前記光の前記光路中における、前記頭皮と前記エレメントの間の空隙を実質的に低減するために、前記エレメントを前記頭皮に適応させることを特徴とする請求項15に記載の治療装置。
【請求項17】
前記エレメントが、前記頭皮の屈折率と実質的に一致する屈折率を有する材料を含むことを特徴とする請求項15に記載の治療装置。
【請求項18】
前記材料がグリセロールを含むことを特徴とする請求項17に記載の治療装置。
【請求項19】
前記材料がシリカゲルを含むことを特徴とする請求項17に記載の治療装置。
【請求項20】
前記エレメントが、前記頭皮から熱を除去することによって前記頭皮を冷却することを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項21】
前記エレメントが、前記頭皮の近くの通路を通じて流れ、前記頭皮によって加熱され、前記頭皮から流れ出る冷却液を含むように適合された前記通路を備えることを特徴とする請求項20に記載の治療装置。
【請求項22】
前記冷却液が、前記エレメントと熱伝導装置との間を循環し、それにより、前記冷却液が前記頭皮によって加熱され、また前記熱伝導装置によって冷却されることを特徴とする請求項21に記載の治療装置。
【請求項23】
前記冷却液が、空気又は水を含むことを特徴とする請求項21に記載の治療装置。
【請求項24】
前記エレメントが、前記頭皮と熱的に結合された非流体材料を含むことを特徴とする請求項20に記載の治療装置。
【請求項25】
前記非流体材料が、前記脳の治療前に事前に冷却されていることを特徴とする請求項24に記載の治療装置。
【請求項26】
前記非流体材料がゲルを含むことを特徴とする請求項24に記載の治療装置。
【請求項27】
前記エレメントが少なくとも前記頭皮の一部分に圧力を加え、それにより、前記頭皮の前記部分を白化させて、前記頭皮中の血液による前記光の吸収を減少させることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項28】
前記エレメントが、前記頭皮に到達する前に前記光を拡散させることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項29】
前記脳の前記照射された部分が全体の脳を含むことを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項30】
前記装置が同時の複数日にわたり着用可能であることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項31】
前記患者の頭皮上に複数の異なる照射パターンを選択的に作成するために、前記光生成装置を作動させる制御装置をさらに備え、前記照射パターンのそれぞれが、前記患者の頭皮と比べて小さい少なくとも1つの照光領域、及び少なくとも1つの非照光領域からなることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項32】
前記異なる照射パターンの前記照光領域が互いに実質的に重複しないことを特徴とする請求項31に記載の治療装置。
【請求項33】
実時間のフィードバック情報を提供するように構成された生物医学的なセンサ、及び光源及び前記生物医学的センサに結合された制御装置をさらに備え、前記制御装置が、前記実時間フィードバック情報に応答して前記光生成装置を調整するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項34】
前記生物医学的センサが、血流センサ、血液酸化センサ、ATP生産センサ、又は細胞活動センサを含むことを特徴とする請求項33に記載の治療装置。
【請求項35】
前記光生成装置が、光放射ブランケットを備えることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項36】
前記光放射ブランケットは、織られた光ファイバを含むことを特徴とする請求項35に記載の治療装置。
【請求項37】
前記光放射ブランケットが、エレクトロルミネセンスシートを含むことを特徴とする請求項35に記載の治療装置。
【請求項38】
前記光生成装置が複数の光源を備え、各光源が、有効な電力密度及び光の波長を有して、前記脳の対応する部分を照射するように配置された出力放射領域を有することを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項39】
前記光源に対応する前記脳の前記部分が互いに重複することを特徴とする請求項38に記載の治療装置。
【請求項40】
前記患者の頭皮上に所定の照射パターンを選択的に作成するために、前記光源を作動するための制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項38に記載の治療装置。
【請求項41】
前記患者がリクライニング位置にあることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項42】
前記エレメントが、前記患者の頭皮上に着用可能であるキャップを備えることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【公表番号】特表2007−504909(P2007−504909A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526348(P2006−526348)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/029724
【国際公開番号】WO2005/025672
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(506083383)フォトテラ・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】