説明

腎不全の治療のための選択的細胞治療

インビトロで増殖させた、腎臓の分化細胞から収集した単離腎細胞集団が提供される。腎細胞は、傍尿細管間質細胞を含んでよく、エリスロポエチン(EPO)を産生することが好ましい。腎細胞はEPO産生に基づいて選択されてもよい。単離されたEPO産生細胞集団を生成する方法も提供され、かつ、この集団を患者に投与し、それにより細胞がインビボでEPOを産生することを含む、治療を必要とする患者においてEPO産生の低下をもたらす腎疾患を治療する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2007年6月8日出願の米国特許仮出願第60/942,716号の利益を主張する。その開示内容は参照によりその全文が本明細書の記載の一部をなすものとする。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、臓器機能の回復のための選択的細胞治療の分野のものである。
【背景技術】
【0003】
慢性腎不全は、腎機能の緩やかな低下が特徴であり、最終的には末期腎不全へと進行する可能性があり、そうなると腎臓はもはや体を維持するレベルで機能できない。末期腎不全は、罹患者の複数の器官を巻き込む大変厳しい疾病である。米国における末期腎疾患の最も一般的な原因は、糖尿病である。
【0004】
腎臓によって働く機能の一つは、エリスロポエチン(EPO)の産生である。腎臓が正しく機能する場合、腎間質の組織への酸素供給の低下が間質細胞を刺激してEPOを産生する。分泌されたEPOは次に骨髄において赤血球の産生を刺激し、それにより組織酸素分圧を正常レベルに回復させる。無効な造血に起因する貧血は、EPOを産生する腎臓の能力の低下に起因する、慢性腎不全の避けられない結果の一つである。EPOはまた、酸化ストレスおよびアポトーシスから身体を保護することも報告されている。
【0005】
腎臓は身体内でEPOの主な産生器官であり、それ故に腎不全に誘導される貧血の治療の一次標的である。透析は多くの末期腎疾患患者の生存を延長させることができるが、現在は腎移植だけが正常な機能を回復させることができる。しかし、腎移植は、決定的なドナー不足により非常に限られている。
【0006】
長年にわたって腎不全に関連する貧血を軽減するために用いられる治療には、赤血球の反復輸血ならびにテストステロンおよびその他のタンパク質同化ステロイドの投与が含まれる。しかし、これらの療法のどれもがこれまで完全に満足のいくものであったことはない。反復輸血を受ける患者は鉄過剰に陥りやすく、主要組織適合性抗原に対する抗体を発生させることがある。テストステロンは、骨髄における赤血球生成(erythropoeisis)に最小限の効果を有し、かつ、望ましくない男性化副作用に関係する。
【0007】
腎不全に関連する貧血を緩和しようとするこれまでの努力には、精製された組換え型EPOの投与が含まれている(例えば、Cheung et al.に対する米国特許第6,747,002号、Westenfelderに対する同第6,784,154号を参照されたい)。しかし、組換え型EPOの投与は血液中のEPOレベルを一時的に上昇させるだけであって、鉄欠乏症を導き得る。遺伝子治療アプローチも追求され、トランスフェクトされた宿主細胞を用いてEPOが産生された(例えば、Selden et al.に対する米国特許第5,994,127号、Aebischer et al.に対する同第5,952,226号、Carcagno et al.に対する同第6,777,205号;Rinsch et al.(2002) Kidney International 62:1395−1401を参照されたい)。しかし、これらのアプローチは、非腎細胞のトランスフェクションを伴い、抗原認識および移植時の免疫拒絶を防ぐための細胞のカプセル封入(cell encapsulation)などの技法を必要とする。また、外因性DNAを用いるトランスフェクションは不安定である可能性があり、細胞は時間とともにEPOを発現する能力を失い得る。
【0008】
腎細胞を用いた腎組織の置換アプローチは、十分な量の腎細胞を同定および拡張する必要があるために限られている。その上、腎組織の操作を目的として腎細胞を培養することは、腎臓の独特の構造および細胞の不均一性により特に困難である。腎臓は、複数の機能を有する複雑な器官であり、その機能には老廃物の排泄、身体のホメオスタシス、電解質バランス、溶質輸送、ならびにホルモン産生が含まれる。
【0009】
腎細胞の不全により十分量のエリスロポエチンを産生できないことに起因する貧血を軽減するための代替治療選択肢に対する必要性は多く残っている。
【発明の概要】
【0010】
本明細書中の本発明の実施形態において、インビトロで継代し、かつ/または増殖させた腎臓の分化細胞から収集した、単離された腎細胞集団が提供される。一部の実施形態では、腎細胞には、傍尿細管(peritubular)間質細胞および/または内皮細胞が含まれる。一部の実施形態では、腎細胞は、腎組織から収集し、インビトロで継代した傍尿細管間質細胞および/または内皮細胞からなるか、または本質的になる。一部の実施形態では、細胞は、エリスロポエチン(EPO)を産生する。さらなる実施形態では、腎細胞は、EPO産生について選択される。
【0011】
また、単離されたEPO産生細胞集団を産生する方法も提供され、それには以下のステップ:1)分化した腎細胞を収集するステップと;2)分化した腎細胞を継代するステップと、この際、細胞は前記継代の後にEPOを産生する;が含まれ、それにより単離されたEPO産生細胞集団が産生される。一部の実施形態では、この方法には、分化した腎細胞をEPO産生について選択するステップがさらに含まれる。一部の実施形態では、継代ステップには、インスリン・トランスフェリン・セレン(ITS)を含む培地中での分化した腎細胞の増殖が含まれる。
【0012】
EPO産生の低下をもたらす腎疾患またはその他の病気を、治療を必要とする被験体(例えば、患者)において治療する方法も提供され、それには次のステップ:1)単離されたEPO産生細胞集団を準備するステップと、2)前記集団を被験体に(例えば、腎疾患および/またはEPO産生の低下を治療するために効果的な量で)投与するステップとが含まれ、それにより前記EPO産生細胞はインビボでEPOを産生する。一部の実施形態では、準備するステップは、腎臓の分化した腎細胞を収集するステップと、細胞をインビトロで継代するステップとにより行われる。一部の実施形態では、EPO産生細胞集団は、腎臓の分化細胞から収集され、インビトロで継代された、分化した傍尿細管内皮細胞および/または間質細胞を含むか、それらからなるか、あるいはそれらから本質的になる。一部の実施形態では、前記集団は、投与に適した担体(例えば、コラーゲンゲル)中に提供される。一部の実施形態では、この投与ステップは、細胞集団を患者の腎臓の中に移植することにより実行される。一部の実施形態では、この投与ステップは、前記組成物を皮下に注射または移植することにより実行される。一部の実施形態では、EPO産生細胞はヒトである。
【0013】
ヒト腎組織より収集され、インビトロで継代された、分化したヒト腎細胞を含む、単離された細胞集団がさらに提供される。一部の実施形態では、腎細胞は、腎組織から収集し、インビトロで継代した傍尿細管間質細胞および/または内皮細胞からなるか、または本質的になる。一部の実施形態では、分化したヒト腎細胞は、エリスロポエチン(EPO)を産生する。一部の実施形態では、ヒト腎細胞は、1〜20回継代されている。一部の実施形態では、ヒト腎細胞は、少なくとも3回継代されている。一部の実施形態では、この集団は、EPO産生のために選択されている。一部の実施形態では、細胞は、ポリペプチドをコードする外因性DNAをトランスフェクトされていない。
【0014】
本明細書に記載されるヒト腎細胞集団および製薬上許容可能な担体を含む組成物も提供される。一部の実施形態では、前記担体はコラーゲンを含む。
【0015】
本発明のもう一つの態様は、本明細書に記載される治療において使用するための、または治療方法を実行するための(例えば、腎疾患、またはEPO産生の低下をもたらすその他の病気を治療するための)組成物または薬物の調製のための、あるいは本明細書に記載される物品の製造を行うための、本明細書に記載される方法の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エリスロポエチン(EPO)産生の機構を示す図である。腎臓の腎間質性傍尿細管細胞が血中酸素レベルの低下を検知し、EPOが血液中に分泌される。EPOは、赤血球前駆細胞の網状赤血球への増殖および分化を刺激し、アポトーシスを阻止することにより、より多くの網状赤血球を循環血液に入らせる。網状赤血球は赤血球へと分化し、赤血球系のサイズを増大させる。組織への酸素送達はこのようにして増大する。
【図2】細胞内エリスロポエチンの免疫反応性を示す図である。細胞内エリスロポエチンの免疫活性を、継代1(P1)、継代2(P2)および継代3(P3)での腎細胞の初代培養中で、陰性対照と比較して確認した(400倍)。
【図3】腎組織(左パネル)および培養腎細胞(右パネル)におけるエリスロポエチン発現細胞の顕微鏡画像を示す図である。
【図4】エリスロポエチン(EPO)産生細胞の数量化を示す図である。EPOを発現している細胞の数は、その後の継代につれて減少した(p<0.05)。
【図5】早期の継代初代培養腎細胞(P0−P3)EPOタンパク質(34kDa)を検出した、界面活性剤で可溶化した細胞抽出物のウエスタンブロット解析を示す図である。
【図6】FACSを用いるEPO発現分析を示す図である。上列:マウス細胞、継代0−3。下列:ラット細胞、継代0−3。
【図7】マウス腎細胞の特徴付けを示す図である。EPO発現が免疫蛍光により確認される(図7A)(KNRK細胞を陽性対照として使用した)。GLEPP1およびTamm Horsfall腎臓マーカーも検出した(図7B)。
【図8】ラット腎細胞の特徴付けを示す図である。培養したラット腎細胞は、位相差顕微鏡により示される様々な細胞形態を有し(左パネル)、かつ、GLEPP1およびTamm Horsfall腎臓マーカーを発現する(右パネル)。
【図9】HepG2細胞におけるEPO発現をウエスタンブロットにより示し、腎組織におけるEPO発現と比較した図である。
【図10】低酸素条件下での培養細胞のEPOタンパク質発現を示す図である。ルイスラット腎細胞およびHepG2細胞を、標準条件および低酸素条件下で培養し、EPO産生を、細胞のウエスタンブロットにより評価した。34kDa=EPO;43kDa=β−アクチン。
【図11】低酸素条件下、培地中でのEPOタンパク質発現を示す図である。ルイスラット腎細胞およびHepG2細胞の培地中のEPOを、ウエスタンブロットにより評価した。34kDa=EPO;43kDa=β−アクチン。
【図12】全タンパク質可溶化液を、継代1および2でのラット腎初代細胞から調製した。正常酸素圧の試料(NC)、3%Oおよび7%O中の試料から得たプレートを処理し、10%SDS−PAGEに流した。KNRK細胞系を陽性対照として使用した。
【図13】ウエスタンブロットによる培地濃縮物中のEPOの判定を示す図である。ルイスラット由来の初代培養細胞を、10cmプレートでそれぞれの継代ごとにほぼコンフルエンシー寸前まで増殖させた。細胞は、KSFMを24時間欠乏させ、次に低酸素チャンバ(1%O)の中に24、48または72時間入れた。低酸素インキュベーションに続いて、培地を回収し、10K mwcoアミコンウルトラ遠心装置(Millipore)で濃縮した。40ugの全タンパク質を、次に10%ポリアクリルアミドゲルの上に乗せた。KNRK細胞を陽性対照として使用した。
【図14】回収した移植片の組織学的解析により、腎細胞がインビボで生存し、組織を形成したことが示された。EPO産生細胞が存在することは、EPO特異的抗体を用いて免疫組織化学的に確認された(400倍)。左パネル:1×10細胞/注入の初期細胞密度。右パネル:1×10細胞/注入の初期細胞密度。上列の各々のパネル:2週。下列の各々のパネル:4週。
【図15】リアルタイムPCRにより測定した、培地および低酸素の腎初代細胞への効果を示す図である。腎初代細胞(p0)を、10cmプレート中80%のコンフルエンシーまで増殖させた。3枚の細胞プレートを、無血清KSFMまたはDMEMのいずれかで増殖させ、3%Oの低酸素チャンバの中に入れた。24時間後、全RNAおよびcDNA合成のために試料を処理した。リアルタイムPCRを三重反復で行って、試料を正常酸素圧の試料と比較して定量した。
【図16】リアルタイムPCRにより測定した、低酸素の腎初代細胞への効果を示す図である。腎初代細胞(継代0および2)を、10cmプレート中80%のコンフルエンシーまで増殖させた。次に、細胞を無血清KSFM中で増殖させ、1%Oの低酸素チャンバの中に入れた。24、48または72時間後、全RNAおよびcDNA合成のために試料を処理した。リアルタイムPCRを三重反復で行って、試料を正常酸素圧の試料と比較して定量した。
【図17】リアルタイムPCRにより測定した、低酸素の腎初代細胞への効果を示す図である。腎初代細胞(継代0)を、10cmプレート中80%のコンフルエンシーまで増殖させた。次に、細胞を1%Oの低酸素チャンバの中に24時間になるまで入れた。次に、試料を全RNAおよびcDNA合成のために処理した。リアルタイムPCRを三重反復で行って、試料を正常酸素圧の試料と比較して定量した。
【図18】初代ヒト腎細胞を拡張した。継代2、4、7および9の細胞を示す図である。
【図19】ヒト初代腎細胞は、20倍増まで維持された。
【図20】ヒト腎細胞の特徴付け。GLEPP1およびEPO陽性細胞が集団中に存在する。
【図21】20mg/mlコラーゲン担体を用いたインビボでのヒト腎細胞送達を示す図である。注射後3週の回収時、注入量は維持されたまま、新血管新生が存在した。
【図22】コラーゲンとともに培養ヒト腎細胞を注入した結果、インビボでEPO発現組織が形成された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
細胞に基づく腎不全の治療法は2つの方向、全体的および選択的方向からのアプローチが可能である。本明細書に記載されているのは、特定の機能器官の構成要素の修復を達成するための選択的細胞治療アプローチである。
【0018】
本明細書に引用される全ての米国特許参照文献の開示内容は、それらが本明細書中で説明される開示内容と一致する程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の説明および添付される特許請求の範囲において、本明細書において用いられる、単数形「a」「an」および「the」は、文脈上明らかに示されている場合を除き、複数形も同様に含むことが意図される。さらに、用語「約」および「およそ」は、本明細書において、化合物、用量、時間、温度などの量などの測定可能な値に言及する場合は、指定された量の20%、10%、5%、1%、0.5%、またさらには0.1%の変動を包含することを意味する。また、本明細書において、「および/または」または「/」とは、1以上の関連記載事項のありとあらゆる可能性のある組合せ、ならびに別の選択(「または」)に解釈される場合には組合せの欠如を指し、かつ包含する。
【0019】
「腎組織」は、腎臓から単離された、または収集された組織である。この組織は腎細胞を含む。一部の実施形態では、腎細胞は1以上の既知の腎臓マーカー、例えば、GLEPP1、Tamm Horsfall、その他に陽性である。単数または複数の「細胞」は、いずれの適した種の細胞であってもよく、一部の実施形態では、本明細書中のプロセスにより作製される組織を移植する被験体と同じ種であってよい。哺乳類細胞(マウス、ラット、イヌ、ネコ、サルおよびヒト細胞を含む)は、一部の実施形態において特に好ましい。「単離された」は、本明細書において、細胞がその自然環境以外の条件に置かれていることを示す。組織または細胞は、被験体、例えば、一次外稙体から最初に単離された時に「収集(harvested)」される。
【0020】
「被験体」は、一般にヒト被験体であり、限定されるものではないが、「患者」を含む。被験体は雄であっても雌であってもよく、どのような人種または民族性であってもよい。それには、限定されるものではないが、白色人種、アフリカ系アメリカ人、アフリカ人、アジア人、スペイン系アメリカ人、インド人などが含まれる。被験体はどのような年齢であってもよい。それには、新生児(newborn)、新生児(neonate)、乳児、小児、青年、成人、および老年が含まれる。
【0021】
被験体には、動物被験体、特に哺乳類被験体、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ブタ、げっ歯類(例えば、ラットおよびマウス)、ウサギ目、非ヒト霊長類なども、例えば、獣医学および/または医薬品開発目的のために含まれてよい。
【0022】
細胞は、同系(syngeneic)(すなわち、組織移植拒絶を最小化するために、遺伝子的に同一であるかまたは近縁種である)、同種異系(すなわち、同じ種の遺伝子的に同一でないメンバーに由来する)または異種(すなわち、異なる種のメンバーに由来する)であってよい。同系細胞には、自己(すなわち、治療される患者に由来する)および同系(isogeneic)(すなわち、遺伝子的に同一であるが被験体が異なる、例えば、一卵性双生児に由来する)の細胞が含まれる。細胞は、例えば、ドナー(生体または死体)から採取されてもよいし、樹立細胞株または細胞系に由来してもよい。細胞は、ドナーから、例えば当分野で公知の標準的な生検技法を用いて、収集されてよい。
【0023】
「初代培養」は、脱凝集した細胞または一次外植片を培養容器の中に播種した後に確立される最初の培養である。「増殖」とは、本明細書において、生存細胞の数の増加を指す。増殖は、例えば、細胞を1以上の細胞周期によって「増殖させること」により達成することができ、この際、少なくとも一部の細胞が分裂してさらなる細胞を生じる。
【0024】
「インビトロで継代した」または「継代した」とは、細胞培養の第2の培養容器への移動または継代培養を指し、通常、増殖の速度に応じて、機械によるかまたは酵素による脱凝集、再播種、および多くの場合2以上の娘培養(daughter cultures)への分割、の意味を含む。この集団が特定の遺伝子型または表現型について選択されるならば、この培養物は継代培養の際に「細胞株」となり、すなわち培養は均質であり、望ましい特性(例えば、EPOを発現する能力)を保有する。
【0025】
EPOを「発現する」またEPOの「発現」とは、EPOをコードする遺伝子が転写される、そして好ましくは、翻訳されることを意味する。一般に、本発明によれば、EPOコーディング領域が発現すると、コードされるポリペプチドが産生され、その細胞は「EPO産生細胞」となる。一部の実施形態では、細胞は外来性遺伝子の導入などのさらなる操作を行わずにEPOを産生する。一部の実施形態では、本発明は、EPO産生細胞が、外来性遺伝子の導入および/またはEPOの産生を刺激する外来化学物質により操作されないという条件に従う。
【0026】
一部の実施形態では、収集した細胞は継代されない。その他の実施形態では、細胞は、1回、2回、または3回継代される。さらにその他の実施形態では、細胞は、3回より多く継代される。一部の実施形態では、細胞は、0〜1、0〜2または0〜3回継代される。一部の実施形態では、細胞は、1〜2、1〜3、または1〜4回あるいはそれより多く継代される。一部の実施形態では、細胞は、2〜3または2〜4回あるいはそれより多く継代される。さらなる実施形態では、細胞は、5、8、10、12または15回あるいはそれより多く継代される。一部の実施形態では、細胞は、0、1、2、3または4〜8、10、15または20回あるいはそれより多く継代される。使用される継代の回数は、例えば、それぞれの継代の後に細胞集団において測定される相対的なEPO産生により選択されてよい。
【0027】
腎細胞の増殖および増殖は、これらの細胞が成長停止および早期分化に陥りやすいために、特に手腕が問われる。この課題は、本発明の一部の実施形態において、腎細胞の増殖を促進する添加剤を含む腎細胞特異的培地を使用することにより克服される。したがって、一部の実施形態では、腎細胞は、増殖因子および腎細胞の増殖を促進するその他の補助物質(supplements)などの添加剤を含有する培地中で増殖される。さらに、一部の実施形態では、EPO産生細胞は、その他の腎細胞種とともに共培養で増殖される。
【0028】
一部の実施形態では、腎細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)またはウシ胎児血清(FCS)および、所望により、ペニシリン−ストレプトマイシン(P/S)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖される。その他の実施形態では、腎細胞は、ケラチノサイト無血清培地(KSFM)中で増殖される。さらなる実施形態では、腎細胞は、次の添加剤、ウシ下垂体抽出物(BPE)(例えば、50g/mL)、上皮成長因子(EGF)(例えば、5ng/mL)、抗生物質−抗真菌溶液(GIBCO)(例えば、5mL)、ウシ胎児血清(FBS)(Gemini Bio−Product)(例えば、2.5%の12.5mL)、およびインスリン・トランスフェリン・セレン(ITS)(Roche)(例えば、5L培地に対して50mg)の1以上を含むKSFM中で増殖される。当業者に理解されるように、上記培地の一部の実施形態では、ペニシリン−ストレプトマイシン(P/S)および抗生物質−抗真菌溶液は相互に交換可能である。
【0029】
一部の実施形態に従う腎細胞の継代は、当分野で公知の標準的な手順を用いて達成されてよい。例えば、細胞はトリプシン/EDTAを用いて剥離し、他のプレートに移してよい。これは多くの細胞種について標準的な手順である。手短に言うと、一部の実施形態では、これは次のステップを用いて達成されてよい。1)培地を除去する。2)10mlのPBS/EDTA(0.5M)を4分間添加する。位相差顕微鏡で細胞間結合の分離を確認する。3)PBS/EDTAを除去し、7mlのトリプシン/EDTAを添加する。4)顕微鏡で見て細胞の80〜90%がはがれた(lift)時に、5mlの培地を添加する。5)細胞懸濁液を15mlの試験管の中に吸引回収する。6)1000rpmにて4分間細胞を遠心分離する。7)上清を除去する。8)5mlの培地に細胞を再懸濁する。9)100μlの細胞懸濁液をピペットで取り出し、生死判別試験のためにトリパンブルー染色を行う。10)血球算定器で細胞の数を計数する。11)所望の数の細胞をプレートに等分し、培地の容積を合計10mlとする。12)細胞をインキュベーターの中に入れる。
【0030】
「選択」は、1つの細胞種を別の細胞種と区別する任意の特有の特性、例えば、密度、サイズ、特有のマーカー、特有の代謝経路、栄養要求量、タンパク質発現、タンパク質排泄などに基づいてよい。例えば、細胞は、遠心勾配を用いて密度およびサイズに基づいて選択されてよい。特有のマーカーは、蛍光活性化細胞選別法(FASC)、免疫磁性ビーズ選別法、磁気細胞分離法(MASC)、パニングなどで選択されてよい。特有の代謝経路および栄養要求量は、特に無血清環境で、細胞を増殖している培地の構成および/または栄養成分の量を変えることにより活用されてよい。タンパク質発現および/または排泄は、様々なアッセイ、例えば、ELISAを用いて検出することができる。
【0031】
「EPO産生細胞」とは、その少なくとも一部がEPOを産生する(例えば、細胞の少なくとも20、30、40、または50%またはそれ以上、あるいは、より好ましくは60、70、80、または90%またはそれ以上がEPOを産生する)、分化した細胞を指す。一部の実施形態では、細胞は外来性遺伝子の導入などのさらなる操作を行わずにEPOを産生する。一部の実施形態では、本発明は、EPO産生細胞が外来性遺伝子の導入および/またはEPOの産生を刺激する外来化学物質により操作されていないという条件に従う。細胞は、例えば、傍尿細管間質細胞から収集されてよい。一部の実施形態では、細胞は、EPOを産生するそれらの能力について選択される。その他の実施形態では、細胞は、細胞培養技法、例えば、継代により数が拡張される。腎臓由来の、かつその他の起源由来の、EPO産生という特定の機能を有する細胞を使用することができる。例えば、EPOは通常、肝臓でも産生される。
【0032】
腎臓において、EPOは、一般に間質性傍尿細管細胞(interstitial peritubular cell)により産生されることが知られている(図1)。一部の実施形態では、分化した腎細胞の単離された集団は、80、90、95、または99パーセントまたはそれ以上からなるかまたは本質的になる腎臓の間質性管周囲細胞、あるいは多くて20、10、5または1パーセントまたはそれ未満の多くのその他の細胞種を含むか、それらからなるか、あるいはそれらから本質的になる。その他の実施形態では、単離された分化した腎細胞の集団にはその他の細胞種、例えば、内皮傍尿細管細胞が含まれる。
【0033】
一部の実施形態では、単離された分化した腎細胞集団は、80、90、95、または99パーセントまたはそれ以上からなるかまたは本質的になるEPO産生のために選択される腎細胞、あるいは多くて20、10、5または1パーセントまたはそれ未満のEPOを発現していない多数の細胞を含むか、それらからなるか、あるいはそれらから本質的になる。選択は、特異的マーカーを用いてEPOを発現する細胞を選択することにより達成されてよい。一部の実施形態では、細胞には、その細胞がEPOを発現するのであれば、様々な種類の腎細胞が含まれてよい。さらなる実施形態では、全腎細胞コロニーを拡張および治療のために用いることができる。
【0034】
一部の実施形態では、単離された分化した腎細胞集団は、インビトロで増殖した場合にそれらが少なくとも5、10、15、20、25または30倍またはそれ以上の集団倍増によって増殖できるような「寿命延長」を有する。一部の実施形態では、細胞は、インビトロで増殖した場合に40、50または60倍の集団倍増またはそれ以上によって増殖できる。
【0035】
「分化した」とは、特殊化した機能、例えば、EPO産生および/または分化した細胞の既知マーカーの発現(例えば、GLEPP1および/またはTamm Horsfall腎臓細胞マーカー)を有する細胞または細胞を含む集団を指す。この意味において、それらは前駆体または幹細胞ではない。本発明の一部の実施形態は、収集した分化した細胞は、特殊化の程度の低い細胞集団を作り出す条件下で継代されないという条件に従う。
【0036】
あるいは、その他の実施形態では、細胞は、後に分化されてさらに特殊化した細胞を生成し得る細胞系を作製するために培養される。「細胞系」の確立は、細胞株とは対照的に、概して、未分化であるが、特定の分化系列に関係づけられ得る。増殖は本来増殖性の表現型を好み、一部の実施形態では、細胞は、例えば、培養条件の変更による分化の再誘導を必要とし得る。細胞系で分化を誘導し得る多数の分化因子が当分野で公知である(例えば、エピモルフィンおよびHGFなどのサイトカイン、ビタミンなど)。
【0037】
<治療方法>
一部の実施形態では、EPO産生細胞は、それを必要とする被験体に(例えば、注射により)腎臓に(例えば、皮質および/または髄質の中に)投与される。その他の実施形態では、EPO産生細胞は、身体のその他の領域、例えば、肝臓、腹膜などに投与される。一部の実施形態では、EPO産生細胞は、皮下、被膜下などに投与される。さらなる実施形態では、EPO産生細胞は、本明細書に記載される前記EPO産生細胞を含む基質(例えば、コラーゲンゲルスキャフォールド)の移植により投与される。さらにその他の実施形態では、EPO産生細胞は、血管アクセスによって(例えば、全身的にまたは局所的に)投与される。
【0038】
本明細書に開示される方法を用いて処理することのできる疾患としては、限定されるものではないが、貧血が挙げられる。貧血としては、限定されるものではないが、腎不全または末期腎疾患に関連する貧血、化学療法または放射線療法に起因する貧血、慢性疾患、例えば、慢性感染症、自己免疫疾患、関節リウマチ、AIDS、悪性腫瘍による貧血、未熟児貧血、甲状腺機能低下症による貧血、栄養障害(例えば、鉄欠乏症)による貧血、および血液障害に関連する貧血が挙げられる。
【0039】
「治療する」とは、患者、例えば、疾患(例えば、腎疾患、貧血など)に罹患しているか、または疾患を発症する危険性のある患者に利益を与えるあらゆる種類の治療を指す。治療には、患者の状態を改善する(例えば、1以上の症状の軽減)、疾患の発症または進行の遅延などの目的で、とられる処置と、とることを控える処置が含まれる。
【0040】
その他の内分泌系は、本明細書に開示される治療法、例えば、ビタミンD産生細胞治療またはアンジオテンシン系から利益を受けることができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Atala et al.に対する米国特許出願公開第2005/0002915号を参照されたい。特定の機能を有する細胞は、腎臓およびその他の供給源、すなわち目的の機能を生じる細胞から使用することができる。例えば、EPOは通常肝臓でも産生される。
【0041】
好ましくは、細胞は投与の前に製薬上許容可能な担体と混合されるか、またはその上に播種される。「製薬上許容可能な」とは、疾患の重篤度および治療の必要性を踏まえて過度に有害な副作用なく本明細書に記載の治療を達成するために、化合物または組成物が被験体への投与に適していることを意味する。かかる製剤は、当分野で周知の技法を用いて調製することができる。例えば、米国特許出願第2003/0180289号;Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Alfonso R.Gennaro,editor,20th ed.Lippincott Williams & Wilkins:Philadelphia,PA,2000を参照されたい。担体は固体であっても液体であっても、または両方(例えば、ヒドロゲル)であってもよく、かつ、細胞とともに単位容量製剤として処方することができる。一部の実施形態では、細胞は、細胞の凝集を減らすために担体中の懸濁液として提供される。その他の実施形態では、細胞は生分解性スキャフォールドまたはマトリックスの上に播種される。
【0042】
一部の実施形態では、細胞は投与に適したゲルと混合される。本発明で用いることのできる、適したゲルとしては、限定されるものではないが、寒天、コラーゲン、フィブリン、ヒドロゲルなどが挙げられる。ゲルのほかに、その他の支持化合物も本発明で利用することができる。例えば、細胞外マトリックス類似体を、支持ゲルと組み合わせてゲルを最適化または機能性にする。1またはそれ以上の増殖因子を細胞懸濁液に導入してもよい。
【0043】
本発明の製剤には、注射または移植による非経口投与(例えば、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、動脈内、腹膜内注射)のための製剤が含まれる。一実施形態では、投与は、単一の注射によるか、または適した血管、例えば腎動脈の中に位置づけられたカテーテルを通じての注射により血管内に実行される。一部の実施形態では、投与は、「注入」により実行され、それによって組成物が静脈(例えば、門脈)を通じて身体に導入される。もう一つの実施形態では、投与は、上に考察されるように、増加させるべき器官または組織、例えば、腎臓および/または肝臓に対する移植片として実行される。
【0044】
「生分解性スキャフォールドまたはマトリックス」は、有毒でないかまたは生物学的機能に有害な作用を及ぼすあらゆる物質であり、かつ、宿主によりその基本的な構成要素に分解されることが可能である。好ましくは、該スキャフォールドまたはマトリックスは、細胞がマトリックスの上に、かつマトリックスの孔の中に沈殿できるように、多孔性である。かかる製剤は、少なくとも1つの細胞集団を生分解性スキャフォールドに供給して、細胞集団をスキャフォールドの上および/またはスキャフォールドの中に播種することにより調製することができる。播種されたスキャフォールドは、次にレシピエント被験体の身体内に移植され得る。
【0045】
一部の実施形態では、細胞は、(例えば、適した担体中での)細胞の注射により被験体の組織の中へ直接投与される。例えば、細胞は腎臓の中(例えば、腎臓の被膜下腔)に注射されてよい。EPO産生の機能的効果は全身性となるので、細胞をその他の組織への注射により投与してもよい(例えば、肝臓、皮下など)。
【0046】
細胞は、全身的に送達することもできる。さらなる実施形態では、EPO産生の機能的効果の結果が全身的となるので、細胞は、腎臓の外部の組織(例えば、肝臓)に送達される。例えば、確立された送達法である「エドモントン・プロトコール(Edmonton protocol)」を参照すると、細胞は患者の門脈に注入される(Shapiro et al.(2000)N.Engl.J.Med.343:230−238)。
【0047】
一部の実施形態によれば、被験体に投与される細胞は、上記の通り、治療される被験体に関して、細胞の免疫抑制療法の封入または投与の存在または不在などのその他のステップに応じて、同系(syngeneic)(すなわち、組織移植拒絶を最小化するために、遺伝子的に同一であるかまたは近縁種である)、同種異系(すなわち、同じ種の遺伝子的に同一でないメンバーに由来する)または異種(すなわち、異なる種のメンバーに由来する)であってよい。同系細胞には、自己(すなわち、治療される被験者に由来する)および同系(isogeneic)(すなわち、遺伝子的に同一であるが被験体が異なる、例えば、一卵性双生児に由来する)の細胞が含まれる。細胞は、例えば、ドナー(生体または死体)から採取されてもよいし、樹立細胞株または細胞系に由来してもよい。ドナー(例えば、バイオスキャフォールド移植片の可能性のあるレシピエント)由来の細胞を入手するために用いることのできる方法の一例として、当分野で公知の標準的な生検技法を用いてよい。あるいは、細胞は、被験体から収集され、インビトロで拡張/選択され、そして同じ被験体に再導入されてよい(すなわち自己)。
【0048】
一部の実施形態では、細胞は治療上有効な量で投与される。細胞の治療上有効な投与量は被験体によって多少変動し、被験体の年齢、体重、および状態ならびに送達経路などの因子によって決まる。かかる投与量は、当業者に公知の手順に従って決定してよい。一般に、一部の実施形態では、被験体あたり1×10、1×10または5×10から最大1×10、1×10または1×10細胞またはそれ以上の投与量が与えられ、単一回で一緒に投与されるかまたは数回のさらに分割された投与として与えられる。その他の実施形態では、被験体の体重1キログラムあたり1〜100×10細胞の間の投与量が与えられてよく、単一回で一緒に投与されるかまたは数回のさらに分割された投与として与えられる。当然、必要であれば追加投与を行ってもよい。
【0049】
細胞は、一部の実施形態に従って標的ヘマトクリット範囲を実現するために投与されてよい。理想的なまたは目標とするヘマトクリット範囲は、例えば、特定の併存症にもよるが、被験体によって変動し得る。一部の実施形態では、目標ヘマトクリットは30〜40%、一部の実施形態では、目標ヘマトクリットは33〜38%、一部の実施形態では、目標ヘマトクリットは33〜36%である。本発明に従う細胞の投与の際には、ヘマトクリットを測定してもよく、かつ、所望または必要であれば、例えば、細胞のさらなる移植および/またはその他の当分野で公知の方法(例えば、組換え型EPOの補充)により補正してよい。貧血および/または腎疾患のためのその他の治療方法を、本明細書に提供される治療方法、例えば、適応したタンパク質カロリー摂取食とともに用いてよい。
【0050】
さらなる実施形態では、所望または必要であれば、被験体に、投与した細胞の移植拒絶を阻害するための薬剤、例えばラパマイシン、アザチオプリン、コルチコステロイド、シクロスポリンおよび/またはFK506などを、公知の技法に従って投与してもよい。例えば、R.Calne、米国特許第5,461,058号、同第5,403,833号および同第5,100,899号を参照されたい;また、米国特許第6,455,518号、同第6,346,243号および同第5,321,043号も参照されたい。一部の実施形態は、移植および移植片拒絶を最小化する免疫抑制を組み合わせて使用する。移植は、適切な質量の移植組織を作り出すために必要なだけ繰り返されてよい。
【0051】
本発明を、以下の限定されない実施例においてさらに詳細に説明する。
【0052】
[実施例]
貧血は、傍尿細管間質細胞によりエリスロポエチン(EPO)を産生する能力の低下を原因とする、慢性腎不全の避けられない結果である。本発明者らは、エリスロポエチン産生細胞の補充が腎不全に誘導される貧血の可能な治療選択肢となるのかどうかを、細胞に基づく治療のためのエリスロポエチン産生細胞の選択および拡張の実現可能性を検討することにより調査した。
【0053】
以下の実施例は、マウスおよびラット腎臓から収集した腎細胞にEPO産生細胞が存在することを実証する。加えて、下に記載される方法を用いて単離および拡張された細胞には、調べたあらゆる培養ステップでEPOを発現している細胞が含まれる。さらに、培養中でEPOマーカーを発現している細胞の実際の百分率は、正常な腎組織に存在する細胞集団と一致した(Yamaguchi−Yamada et al.,J Vet Med Sci,67:891,2005;Sasaki et al.,Biosci Biotechnol Biochem,64:1775,2000;Krantz,Blood,77:419,1991を参照されたい)。
【実施例1】
【0054】
腎細胞初代培養の拡張。7〜10日齢のマウスC57BL/6由来の腎細胞を培養拡張した。刻んだ腎臓(1匹のマウスの1つの腎臓)を、15mlのコラゲナーゼ/ディスパーゼ(0.2mg/ml)を含む50cc管に入れた。この腎組織断片を、37℃のシェーカー中で30分間コラゲナーゼ/ディスパーゼ・ミックス(0.2mg/ml;15ml)とともにインキュベートした。ゼラチンを含む無菌PBS(20ml)(ゼラチン(DIFCO)2mg/ml)を、消化溶液に添加した。この混合物を70ミクロンのフィルターに通して濾過して、未消化の組織断片を除去した。回収した溶液を十分混合し(気泡を作らないように注意深く)、2本の50cc管に分けた。この管を1000(〜1500)RPMにて5分間遠心した。上清を処分し、各管のペレットを3mlのKSFM培地に再懸濁した。DMEM培地(10% FBS、5ml P/S)を間質細胞に使用し、BPE、EGF、5ml抗生物質−抗真菌薬、12.5ml FBS(Gemini Bio−Product、2.5%)、インスリン・トランスフェリン・セレン(Roche)(5L培地に対して50mg)とBPEおよびEGFを含むKSFMを上皮構成要素に使用する。P/Sまたは抗生物質−抗真菌薬(GIBCO)を添加してもよい。各組織を25mmプレートに播種し、培地を添加した(合計3ml)。
【0055】
翌日に、その後細胞密度によって1日おきに培地を交換することにより細胞を維持した。細胞が80〜90%コンフルエントになったらトリプシン/EDTAを使用して剥離することにより細胞を継代し、次のステップを用いて他のプレートに移した。1)培地を除去する。2)10mlのPBS/EDTA(0.5M)を4分間添加する。位相差顕微鏡で細胞間結合の分離を確認する。3)PBS/EDTAを除去し、7mlのトリプシン/EDTAを添加する。4)顕微鏡で見て細胞の80〜90%がはがれた(lift)時に、5mlの培地を添加する。5)細胞懸濁液を15mlの試験管の中に吸引回収する。6)1000rpmにて4分間細胞を遠心分離する。7)上清を除去する。8)5mlの培地に細胞を再懸濁する。9)100μlの細胞懸濁液をピペットで取り出し、生死判別試験のためにトリパンブルー染色を行う。10)血球算定器で細胞の数を計数する。11)所望の数の細胞をプレートに等分し、培地の容積を合計10mlとする。12)細胞をインキュベーターの中に入れる。
【0056】
あるいは、以下のプロトコールを使用した。10日齢の雄C57BL/6マウス由来の腎臓を、汚染の危険性を回避するため10%抗生物質/抗真菌薬(Gibco Invitrogen,Carlsbad,CA USA)を含有するKrebs緩衝液(Sigma Aldrich,St.Louis,MO USA)中に回収した。この腎臓を、カプセルが取り除かれた培養フードに直ちに運んだ。腎臓の髄質領域を除去し、皮質組織だけを用いて、EPO産生細胞として既に同定されている細胞を単離した(Maxwell et al.,Kidney International,44:1149,1993)。腎組織を刻み、リベラーゼブレンザイム(Liberase Blendzyme)(Roche,Mannheim,Germany)を用いて25分間37℃にて振盪水浴中で酵素により消化させた。上清を除去し、細胞ペレットを100μm細胞ストレーナに通して培養用の単細胞懸濁液を得た。
【0057】
その後、細胞を5×10細胞/mlの密度で培地を充填した10cmの組織培養処理プレートに蒔いた。この培地は、ケラチノサイト無血清培地(KSFM)と、前もって混合したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の1:1の比の混合物からなった。前もって混合したDMEM培地は、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%グルタミン100×(Gibco)、1mlの0.4μg/mlヒドロコルチゾン、0.5mlの10−10Mコレラ毒素溶液、0.5mlの5mg/mlインスリン溶液、12.5ml/500mlの1.2mg/mlアデニン溶液、0.5mlの2.5mg/mlトランスフェリン+0.136mg/mlトリヨードチロニン混合物、および0.5mlの10μg/ml上皮成長因子(EGF)溶液を補充した、3/4DMEMおよび1/4HAMのF12栄養混合物を含有した。全ての組織培養試薬は、別に指定されない限りSigma−Aldrich(St.Louis,MO USA)から購入した。3日に1回培地を交換して5%CO下、37℃にて細胞をインキュベートし、コンフルエントの時に1:3の比で拡張のために細胞を継代培養した。
【実施例2】
【0058】
EPO産生の特徴付け。早期継代(1、2および3)からの細胞を、免疫細胞化学およびウエスタンブロット解析を用い、特異的抗体(ウサギポリクローナル抗EPO抗体、sc−7956、Santa Cruz Technologies,Santa Cruz,California)を用いてEPO発現について特徴付けた。
【0059】
8ウェルのチャンバスライドにウェルあたり3000細胞の密度で腎細胞を蒔いた。細胞を、5%CO下、37℃にて24時間インキュベートして付着させた。それに続いて、室温にて10分間4%パラホルムアルデヒドで固定した。PBS中0.1%Triton−X 100を3分間室温にて添加することにより細胞膜の透過処理を行った。次に、細胞をヤギ血清中で30分間室温にてインキュベートした。洗浄後、細胞を一次抗体とともに1時間(1:50)室温にてインキュベートした。細胞を2度目に洗浄し、ビオチン化ヤギポリクローナル抗ウサギ抗体(ポリクローナル抗ウサギIgG、Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,California)(1:200)を添加し、それに続いて室温にて45分間インキュベートした。EPOの発色検出の後に最後の洗浄ステップが続き、Vector ABCキットを製造業者の取扱説明書に従って用いて行った(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,California)。一次抗体を含まないスライドは、内部陰性対照としての役割を果たし、正常マウス腎組織は陽性対照としての役割を果たす。
【0060】
培養中の腎細胞は、顕微鏡で複数の表現型を示した。細胞はプレーティングから7〜10日以内にコンフルエンシーに達した。腎臓から単離後の最初の3回の継代で観察された多くの細胞は、バックグラウンド染色または非特異的染色のない(図2)陰性対照と比較して、EPOに対して陽染された、このことは、観察した染色が培養物中のEPOの存在に起因する可能性のあることを示した。EPOについて陽染した細胞の数は調査した3継代にわたって、同じ期間中の培養物で表現型の変化が観察された時でさえ、一定のままであった。腎組織の免疫組織化学的染色は、培養細胞中に見出されるものと同様量のEPO発現を示した(図3)。
【0061】
EPOを発現している細胞の数は、その後の継代とともにわずかに減少した(図4)。これは、時間および操作を通じての継代数の増加および細胞/機能の喪失による可能性が最も高い。しかし、相対百分率は最初の継代の後も安定していると思われる。
【0062】
EPO発現を、図5に示されるウエスタンブロットによっても確認した。
【実施例3】
【0063】
マウスおよびラット腎細胞の特徴付け。FACS解析を用いて、各々の継代(1〜3継代)の確立された腎細胞培養中のEPO産生細胞の数を数量化した。細胞をトリプシン処理および遠心分離により回収し、培地に再懸濁し、70μm細胞ストレーナに通過させて単細胞懸濁液を確保した。細胞を計数した後、細胞を遠心沈殿し、PBSに5〜7.5×10細胞/管で再懸濁してFBSを細胞から除去した。細胞を2%ホルムアルデヒドに4℃にて10分間固定し、100%メタノールを用いて室温にて10分間透過処理した。その後、細胞をPBS中3%ヤギ血清に再懸濁し、それに続いてウサギ抗EPO一次抗体sc−7956(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,California)とともに45分間氷上でインキュベートした。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)共役ヤギ抗ウサギ二次抗体での1時間のインキュベーションの前に細胞をPBS中3%ヤギ血清で2回洗浄した。次に、細胞をPBS中3%血清で完全に洗浄し、FACS機に移した(FACS Calibur E6204,Becton−Dickinson,Franklin Lakes,New Jersey)。
【0064】
蛍光活性化細胞選別実験により、継代1(P1)細胞の44%がEPO陽性であることが実証された。この割合は継代2(P2)で82%に増加し、次いで継代3(P3)で42%に低下した。このことにより、培養の最初の2〜3日の間、正常な生組織と比較して培地中の低い酸素濃度に応答してEPO産生細胞の増殖および/またはEPO遺伝子発現のアップレギュレーションが起こることが示され得る。次に、これらの応答は、次の2〜3日にわたって正常化されることができ、その結果、EPO産生細胞の数は腎組織に見出される数に近くなる(図6、上列)。
【0065】
FACSデータにより、EPO発現が数継代にわたって維持されていることが実証される。注目すべきは、継代2培養でEPO発現細胞の数に急激な増加(82%)があったことであり、これは数回の反復実験で確認された。特定の理論に縛られることを望むものではないが、この現象の一つの可能性のある説明として、EPO発現が、必要に応じてオンおよびオフにすることのできる、全ての腎細胞の有する固有の形質であるということもあり得る。この場合、身体と培養プレートの間の生存条件の突然の変化に従って、細胞は培養物の安定化が起こるまでEPOの発現が一時的に誘発された可能性がある。これに一致して、EPOの急激な増加は急速に反転し、継代3分析はより低い割合のEPO産生細胞(42%)を示した。
【0066】
免疫蛍光によるマウス細胞の特徴付けにより、EPO発現を確認した(図7A)。細胞集団は、腎細胞マーカーGLEPP1およびTamm Horsfallに対して陽性であった(図7B)。
【0067】
ラット細胞継代0、1および2も、蛍光活性化細胞選別法(FACS)を用いてEPO産生について分析した(図6、下列)。培養したラット細胞は、様々な細胞形態を有し、腎細胞マーカーGLEPP1およびTamm Horsfallに対して陽性であった(図8)。
【実施例4】
【0068】
EPO産生培養物の低酸素条件への曝露。表現型の特徴の維持は、細胞の拡張ステップの間には必須であるが、細胞治療の成功を確実にする重要な構成要素は、EPO産生細胞が正常なEPOレベルを調節かつ維持する能力である。EPOは、造血性サイトカインファミリーに属し、骨髄において赤血球新生を制御し、かつ、EPO受容体(EPOR)媒介性シグナル伝達によって赤血球前駆細胞の増殖、分化および生存を調節する。EPOは、大部分は腎臓で産生され、この器官が機能しないと、EPO産生は減少し、貧血を引き起こす。身体内のEPO発現は、EPOを産生することのできる細胞を取り囲んでいる環境における酸素圧に大部分は依存する。酸素レベルに影響を及ぼす因子としては、周囲空気中の酸素の欠乏および腎血流量の低下が挙げられる。
【0069】
培養中のEPO発現細胞が変化する酸素レベルに応答できるかどうかを判定するため、細胞を24時間血清飢餓状態にし、それに続いて細胞をインビトロで様々な濃度の酸素に曝露する実験を行った。ルイスラット腎細胞およびHepG2(ヒト肝細胞肝癌細胞系)細胞を、標準条件および低酸素条件下で培養し、細胞のウエスタンブロットによりEPO産生を評価し、確認した。培地中のEPOの存在も、Quantikine(登録商標)IVD(登録商標)エリスロポエチンELISAキット(R&D Systems(登録商標),Minneapolis,Minnesota)を用いる二重抗体サンドイッチ酵素結合免疫吸着(immunosorberbent)アッセイを用いて、正常酸素圧および低酸素条件下で培養腎細胞からの上清を分析することにより測定し、確認した。
【0070】
細胞を、実験の前に24時間無血清培地に入れた。次に、プレートを低酸素チャンバに移し、異なる低酸素条件(酸素1%、3%、5%、および7%)に曝露させた。HepG2細胞は培養中に高レベルのEPOを産生することが既に報告されているため、HepG2細胞を陽性対照として用いた(Horiguchi et al.,Blood,96:3743)。HepG2によるEPO発現をウエスタンブロットにより確認した(図9)。全ての細胞は、NP−40を含有する溶解バッファー中で収集した。Bio−Radタンパク質アッセイを用いて各々の試料中のタンパク質濃度を測定した。40μgの全タンパク質をSDS−PAGEを用いて10%アクリルアミドゲルに流した。次に、タンパク質をPVDF膜(Millipore Corp.)の上に移した。可溶化液中のβ−アクチン発現の検出を、ローディングコントロールとして用いた。EPO抗体(ウサギポリクローナルsc−7956、Santa Cruz Biotechnology)を1:200で使用し、二次抗体(ヤギ抗ウサギ7074、Cell Signaling Technology,Beverly,Massachusetts)を1:2000で使用した。初代腎培養により培地に分泌されたEPOの量を測定するため、培地を回収し、アミコンウルトラ遠心濾過装置(Millipore Corporation,Billerica,Massachusetts)を用いて500ulに濃縮した。この培地の試料を10%ポリアクリルアミドゲルに流した。EPO抗体(ウサギポリクローナルsc−7956、Santa Cruz Biotechnology)を1:100で使用し、二次抗体(ヤギ抗ウサギ7074、Cell Signaling Technology,Beverly,MA,USA)を1:2000で使用した。
【0071】
ウエスタンブロット法により、低酸素の後の細胞可溶化液中のEPO発現のわずかな増加が示された(図10)。しかし、これらの結果は、培地濃縮物を用いてEPOを測定した場合には見出されなかった(図11)。この培地試験により、全ての培地濃縮物(低酸素および正常酸素圧条件)が同じ少量のEPOを含むことが示された。
【0072】
あるいは、全タンパク質可溶化液を、継代1および2のラット腎初代細胞から調製した。正常酸素圧の試料(NC)、3%Oおよび7%O中の試料から得たプレートを処理し、10%SDS−PAGEに流した。KNRK細胞系を陽性対照として使用した。結果を図12に示す。
【0073】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、これにより、分泌されたEPOレベルがウエスタンブロットで検知可能なレベルまで上昇するためには、24時間は十分な時間ではないことが示され得る。デノボ(de novo)タンパク質産生が明らかとなるのには数時間かかるので、細胞がEPOを分泌し始めるためにより長い曝露時間が必要であると思われる。そのために、細胞を低酸素条件に24、48および72時間置く、以下の実験を行った。
【0074】
ルイスラット由来の初代培養細胞を、10cmプレートでそれぞれの継代ごとにほぼコンフルエンシーまで増殖させた。細胞を、低酸素チャンバ(1%O)の中に24、48または72時間入れた。低酸素インキュベーションに続いて、培地を回収し、10K 分子量カットオフのアミコンウルトラ遠心装置(Millipore)で濃縮した。40μgの全タンパク質を、次に10%ポリアクリルアミドゲルに負荷した。KNRK細胞を陽性対照として使用した。結果を図13に示す。
【0075】
要約すれば、全ての実験により、初代培養細胞中のEPOレベルは、HepG2陽性対照中で測定したレベルよりも大きいかまたは等しく、EPO産生細胞は変化する環境に応答することができることが示された。
【実施例5】
【0076】
インビボでのEPO産生細胞の投与。EPO産生細胞がインビボで生存し、組織を形成するかどうかを判定するため、コラーゲンゲルと混合した腎細胞を無胸腺マウスの皮下に1×10および5×10の濃度で移植し、続いて分析のため移植後14および28日目に回収した。1〜5の異なる継代の細胞を使用した。注入しやすくするために細胞をコラーゲンゲルに懸濁した(濃度:0.1mg/ml)。
【0077】
組織学的に、回収した移植片は、生存する腎細胞がEPOタンパク質を発現し続けることを示し、EPO特異的抗体を用いて免疫組織化学的に確認した(図14)。
【0078】
これらの結果は、培養中で増殖および拡張されたEPO産生腎細胞がインビボで安定してEPOを発現することを実証する。従って、EPO産生細胞を慢性腎不全に起因する貧血の治療選択肢として用いることができる。
【実施例6】
【0079】
リアルタイムPCRによるEPO発現の分析。リアルタイムPCRを行って低酸素条件に応答するラット細胞のEPO発現を評価した。
【0080】
培地の効果を試験するため、KSFMおよびDMEMのいずれかで増殖した細胞を、低酸素条件(3%O)に曝露した。腎初代細胞(継代0)を、10cmプレート中80%のコンフルエンシーまで増殖させた。3枚の細胞プレートを、無血清KSFMまたはDMEMのいずれかで増殖させ、3%Oの低酸素チャンバの中に入れた。24時間後、全RNAおよびcDNA合成のために試料を処理した。リアルタイムPCRを三重反復で行って、試料を正常酸素圧の試料と比較して定量した。結果を図15に示す。
【0081】
ラット腎臓培養EPO発現を、24、48および72時間にわたるリアルタイムPCRで比較した。腎初代細胞(継代0および2)を、10cmプレート中80%のコンフルエンシーまで増殖させた。次に、細胞を無血清KSFM中で増殖させ、1%Oの低酸素チャンバの中に入れた。24、48または72時間後、全RNAおよびcDNA合成のために試料を処理した。リアルタイムPCRを三重反復で行って、試料を正常酸素圧の試料と比較して定量した。結果を図16に示す。
【0082】
24時間までの時点を試験するため、腎初代細胞(継代0)を、10cmプレート中80%のコンフルエンシーまで増殖させた。次に、細胞を1%Oの低酸素チャンバの中に24時間になるまで入れた。次に、試料を全RNAおよびcDNA合成のために処理した。リアルタイムPCRを三重反復で行って、試料を正常酸素圧の試料と比較して定量した。結果を図17に示す。
【実施例7】
【0083】
ヒト腎細胞の拡張。初代ヒト腎細胞の増殖および拡張性も上記の培地および条件を用いて実証された。継代2、4、7および9からの培養物を図18に示す。ヒト初代腎細胞は、20倍増まで維持することができることが実証された(図19)。ヒト腎細胞培養をEPOおよびGLEPP1発現について特徴付けた(図20)。
【実施例8】
【0084】
コラーゲン注入によるヒト腎細胞送達。コラーゲンゲルに混合したヒト腎細胞を上記の実施例5のように無胸腺マウスの皮下に移植した。1mg/ml、2mg/mlおよび20mg/mlのコラーゲン濃度を比較した。1および2mg/mlでは、インビボの容積は投与後に消失した。20mg/mlでは、インビボの注入量は維持され、新血管新生が図21に見られた。組織学によりEPO発現組織がインビボで形成されたことが確認された(図22)。
【実施例9】
【0085】
磁気細胞選別によるEPO産生細胞の選択。細胞を、磁気細胞選別を用いてEPO産生のために選択する。標準的な調製法を用いて単細胞懸濁液を単離する。単細胞懸濁液の調製後、細胞の総数を計数し、細胞試料を遠心してペレットを得る。細胞を10%の(二次抗体が作製される動物の)ヤギ血清で10分間ブロッキングする。1または2mLのブロッキング溶液を添加する。10分の遠心分離の後、細胞をEPOに対する一次抗体に再懸濁する(1μgの一次抗体/100万の細胞を使用)。一般に、4〜8℃にて15分間の標識で十分である。10細胞あたり1〜2mLのバッファーで細胞を2回洗浄して未結合の一次抗体を除去し、300×gにて10分間遠心する。2回の連続洗浄の後、ペレットを10細胞あたり80μLのPBS(0.5%のBSAおよび2mMのEDTA、pH7.2)中に再懸濁する。10細胞あたり20μLのヤギ抗ウサギMicroBeadsを添加する。十分混合し、4〜8℃にて15分間インキュベートする。10細胞あたり1〜2mLのバッファーを添加して細胞を2回洗浄し、300×gにて10分間遠心する。上清をピペットで完全に取り去る。500μLのバッファー中10細胞までを再懸濁する(注:より多くの細胞数には、バッファー容積を適宜スケールアップする;LD Columnsが枯渇している場合、1.25×10細胞までについて500μLのバッファーに細胞ペレットを再懸濁する)。磁気細胞分離に進む。
【0086】
注意:作業は迅速に、細胞は冷たく保ち、予め冷却した溶液を使用すること。これにより細胞表面での抗体のキャッピングおよび非特異的細胞標識が防止される。下記に示される磁気ラベリングのための容積は、10全細胞までのものである。10細胞よりも少ない数で作業する場合には、示された容積と同じ容積を使用する。それよりも多い細胞数で作業する場合には、全ての試薬容積および全容積を適宜スケールアップする(例えば、2×10全細胞には、示される全ての試薬容積および全容積の2倍の容積を使用する)。氷上での作業は、インキュベーション時間を増加する必要があり得る。高い温度および/または長いインキュベーション時間は非特異的細胞標識をもたらす。
【0087】
以上は、本発明を例証するものであり、本発明を制限するものと解釈されない。本発明は以下の特許請求の範囲により規定され、該特許請求の範囲の同等物はその中に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎組織から収集され、インビトロで継代された、分化した傍尿細管間質細胞を含む単離細胞集団。
【請求項2】
前記分化した傍尿細管間質細胞が、エリスロポエチン(EPO)を産生する請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
前記集団が、分化した傍尿細管間質細胞から本質的になる請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項4】
前記集団が、1〜4回継代された請求項1から3のいずれか一項に記載の集団。
【請求項5】
前記集団が、EPO産生のために選択された請求項1から4のいずれか一項に記載の集団。
【請求項6】
前記細胞集団が、ポリペプチドをコードする外因性DNAでトランスフェクトされていない請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞集団と製薬上許容可能な担体とを含む組成物。
【請求項8】
単離されたEPO産生細胞集団を産生する方法であって、前記方法が、
分化した腎細胞を準備するステップと、
前記分化した腎細胞を継代するステップと、ここで、前記細胞は前記継代の後にEPOを産生する、
を含み、それにより単離されたEPO産生細胞集団が産生される方法。
【請求項9】
EPO産生のために分化した腎細胞を選択するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記継代するステップが、インスリン・トランスフェリン・セレン(ITS)を含む培地中における分化した腎細胞の増殖を含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記準備するステップの前記分化した腎細胞が、分化した傍尿細管間質細胞から本質的になる請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記EPO産生細胞集団が、ポリペプチドをコードする外因性DNAをトランスフェクトされていない請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
EPO産生の低下をもたらす腎疾患を、治療を必要とする患者において治療する方法であって、前記方法が、
単離されたEPO産生細胞集団を製薬上許容可能な担体中に含む組成物を準備するステップと、
前記組成物を前記患者に投与するステップと、それにより前記EPO産生細胞がインビボでEPOを産生する、
を含む方法。
【請求項14】
前記製薬上許容可能な担体が、コラーゲンゲルを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記投与するステップが、前記組成物を前記患者の腎臓または肝臓の中に注射することにより実行される請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記投与するステップが、前記組成物を血管内に注射または注入することにより実行される請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
前記投与するステップが、前記組成物を前記患者の門脈に注入することにより実行される請求項13または14に記載の方法。
【請求項18】
前記製薬上許容可能な担体が生分解性スキャフォールドを含み、投与するステップが前記組成物を前記患者の腎臓の中に移植することにより実行される請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記EPO産生細胞集団が、分化した傍尿細管間質細胞から本質的になる、請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記EPO産生細胞が、ポリペプチドをコードする外因性DNAをトランスフェクトされていない請求項13から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記腎疾患が、腎不全による貧血、末期腎疾患による貧血、化学療法による貧血、放射線療法による貧血、慢性感染症による貧血、自己免疫疾患による貧血、関節リウマチによる貧血、AIDSによる貧血、悪性腫瘍による貧血、未熟児貧血、甲状腺機能低下症による貧血、栄養障害による貧血、および血液障害による貧血からなる群から選択される貧血である請求項13から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記投与するステップが、前記組成物を注射または移植することにより実行される請求項13または14に記載の方法。
【請求項23】
前記EPO産生細胞がヒトである請求項13から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ヒト腎組織より収集され、インビトロで継代された、分化したヒト腎細胞を含む単離細胞集団。
【請求項25】
前記分化したヒト腎細胞が、エリスロポエチン(EPO)を産生する請求項24に記載の細胞集団。
【請求項26】
前記集団が、前記分化したヒト腎細胞から本質的になる請求項24または25に記載の細胞集団。
【請求項27】
前記ヒト腎細胞がインビトロで1〜20回継代された請求項24から26のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項28】
前記ヒト腎細胞がインビトロで少なくとも3回継代された請求項24から26のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項29】
前記集団が、EPO産生のために選択された請求項24から28のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項30】
前記細胞が、ポリペプチドをコードする外因性DNAをトランスフェクトされていない請求項24から29のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項31】
請求項24から30のいずれか一項に記載の細胞集団と製薬上許容可能な担体とを含む組成物。
【請求項32】
前記担体がコラーゲンを含む請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
治療を必要とする患者において貧血を治療する方法であって、前記方法が、
請求項25に記載の細胞集団を含む組成物を準備するステップと、
前記貧血を治療するために効果的な量で前記組成物を前記患者に投与するステップと
を含む方法。
【請求項34】
前記投与ステップが、前記組成物を前記患者に注射または移植することにより実行される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記貧血が、腎不全による貧血、末期腎疾患による貧血、化学療法による貧血、放射線療法による貧血、慢性感染症による貧血、自己免疫疾患による貧血、関節リウマチによる貧血、AIDSによる貧血、悪性腫瘍による貧血、未熟児貧血、甲状腺機能低下症による貧血、栄養障害による貧血、および血液障害による貧血からなる群から選択される請求項33または34に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2010−528658(P2010−528658A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511210(P2010−511210)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/007161
【国際公開番号】WO2008/153970
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】