説明

腎疾患治療剤

【課題】一般式[I]で表される構造を有するウレア化合物の新たな薬理作用を見出すこと。
【解決手段】一般式[I]で表される構造を有するウレア化合物またはその塩類は、優れた腎疾患治療作用を有する。式中、Aは低級アルキレン基または低級アルケニレン基を示し、;Rは水素原子、アルキル基またはアルケニル基を示し、該アルキル基およびアルケニル基は任意の置換基で置換されていてもよく;RおよびRは同一または異なって水素原子または低級アルキル基を示し、該低級アルキル基は単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレア誘導体を有効成分として含む腎疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓が果たしている最も重要な役割は、細胞外液の恒常性を維持することにある。腎の濾過再吸収機構に基づき、体液調節が行なわれる。その他の腎の機能として内分泌およびペプチドの不活性化がある。腎障害時にはこれらの機能が破綻し、場合によっては生命が脅かされることとなる(非特許文献1)。
【0003】
腎疾患は、種々の原因に起因して、腎に炎症あるいは変性等の異常が生じる疾患である。障害が重篤な場合、腎機能は完全に破綻し、さまざまな尿毒症状が出現し、患者は最終的に死に至る。現在の腎代替療法(人工透析)は体液調節機能のみを、しかも間欠的に代行しているにすぎず、腎障害時の腎機能低下を防ぎ、少しでも腎機能を回復させることは患者のQOLおよび生命予後を考えた場合、重要である。
【0004】
従来、腎疾患の治療には副腎皮質ホルモン、免疫抑制薬、抗凝固薬、降圧薬等が使用されている(非特許文献2)。しかし、いずれの薬物も根本的な治療には十分であるとはいえず、人工透析患者数は増加の一途をたどっている。したがって、さらなる治療薬の開発が望まれている。
【0005】
このような背景から種々の活性を有する化合物の腎疾患の治療薬への応用可否が検討されているが、必ずしもその成果は芳しいとは言えない。例えば、腫瘍壊死因子α(TNF−α)産生阻害作用を持つことが知られるロリプラムは急性腎不全モデルにおいて無効であることがJonassenらによって報告されている(非特許文献3)。
【0006】
一方、本発明における有効成分であるウレア誘導体は、TNF−α産生阻害作用を有し、関節リウマチ(RA)等の自己免疫疾患治療薬として使用できることが特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】萩原俊男、垂井清一郎編集・生体の調節システム・岩波書店・1999年発行
【非特許文献2】医学のあゆみ・別冊・腎疾患・医歯薬出版株式会社・2003年発行
【非特許文献3】Jonassen TE.他 The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 第303巻、364−374ページ 2002年
【特許文献1】特開2002−53555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
腎疾患、特に急性腎不全の治療薬として好適な化合物を探索すること、および、公知のウレア誘導体の新たな医薬用途を見出すことは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、医薬として有用な下記一般式[I]で示される公知のウレア誘導体(特開2002−53555)に着目し、腎疾患の治療薬の探索研究を行った。
【0009】
その結果、これらのウレア誘導体が、腎疾患のモデルである虚血性腎障害モデルにおいて腎機能パラメーターの低下および組織障害の抑制作用を有することから、腎疾患、特に急性腎不全の治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、下記一般式[I]で示される化合物またはその塩類(以下特記なき限り「本化合物」とする)を有効成分とする腎疾患治療剤に関するものである。
【化1】

【0011】
[式中、Aは低級アルキレン基または低級アルケニレン基を示し、;Rは水素原子、アルキル基またはアルケニル基を示し、該アルキル基およびアルケニル基は任意の置換基で置換されていてもよく;RおよびRは同一または異なって水素原子または低級アルキル基を示し、該低級アルキル基は単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
上記一般式[I]で示される本化合物は、腎における虚血性障害の抑制効果を有しており、急性腎不全、慢性腎不全等の腎疾患の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
一般式[I]で規定された各基について詳しく説明する。
【0013】
低級アルキレン基とはメチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、トリメチレン基、メチルメチレン基、テトラメチレン基、メチルテトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の1〜6個の炭素原子を有するアルキレン基を示し、当該アルキレン基は低級アルキル基で置換されていてもよく、すなわち分枝のアルキレン基であってもよく;好ましくは低級アルキレン基とは1〜6個の炭素原子を有する直鎖アルキレン基を示し、当該アルキレン基は単数または複数のメチル基で置換されていてもよく;さらに好ましくは、低級アルキレン基とは1〜6個の炭素原子を有する直鎖アルキレン基を示し、1個のメチル基で置換されていてもよい。
【0014】
低級アルケニレン基とは、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基等の1個以上の二重結合を有し、2〜6個の炭素原子を有するアルケニレン基を示し、当該アルケニレン基は低級アルキル基で置換されていてもよく、すなわち分枝のアルケニレン基であってもよく;好ましくは低級アルケニレン基とは2〜6個の炭素原子を有する直鎖アルケニレン基を示し、当該アルケニレン基は単数または複数のメチル基で置換されていてもよく;さらに好ましくは、低級アルケニレン基とは2〜6個の炭素原子を有する直鎖アルケニレン基を示し、1個のメチル基で置換されていてもよい。
【0015】
アルキル基とはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基、t-ブチル基、3,3−ジメチルブチル基等の1〜12個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルキル基を示す。
【0016】
低級アルキル基とは、アルキル基のうち、特に1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキル基を示し、好ましくは直鎖の1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す。
【0017】
アルケニル基とはビニル基、アリル基、3−ブテニル基、5−ヘキセニル基、イソプロペニル基等の2〜12個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルケニル基を示し、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルケニル基であり、特に好ましくは2〜6個の炭素原子を有する直鎖のアルケニル基である。
【0018】
単環式のシクロアルキル基とは、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等の3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基を示し、好ましくは5〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル基を示し、より好ましくはシクロヘキシル基を示す。
【0019】
多環式のシクロアルキル基とは、アダマンチル基等の4〜10個の炭素原子を有する多環式シクロアルキル基を示し、好ましくは10個の炭素原子を有する多環式シクロアルキル基を示し、より好ましくはアダマンチル基を示す。
【0020】
アリール基とは、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環を示し、好ましくはフェニル基を示す。
【0021】
ハロゲン原子とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示し、好ましくはフッ素原子を示す。
【0022】
任意の置換基とは、例えばハロゲン原子、トリハロゲノメチル基、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、メトキシ基またはN−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ基が例示され、好ましくは、ハロゲン原子、トリハロゲノメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、フラニル基、チオフェニル基、チアゾリル基、モルフォリノ基またはN−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ基を示し、好ましくはトリハロゲノメチル基またはN−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ基を示す。
【0023】
本発明における塩類とは医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸との塩、また、ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩などが挙げられる。また、本化合物の第四級アンモニウム塩も本発明における塩類に包含される。さらに、本化合物に幾何異性体または光学異性体が存在する場合には、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。なお、本化合物は水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0024】
前記一般式[I]で示される化合物において、本発明の腎疾患治療剤に用いられる好ましい化合物は、
1) Aが低級アルキレン基または低級アルケニレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
かつ、
3) R2が水素原子であり、かつ、R3が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基であるか
または、
R3が水素原子であり、かつ、R2が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基である、
化合物である。
【0025】
前記一般式[I]で示される化合物において、本発明の腎疾患治療剤に用いられるより好ましい化合物は、
1) Aが低級アルキレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
3) R3が水素原子であり、
かつ、
4) R2が単環式のシクロアルキル基、または多環式のシクロアルキル基で置換された低級アルキル基である、
化合物である。
【0026】
ここで、該単環式のシクロアルキル基または多環式のシクロアルキル基で置換された低級アルキル基は、単環式のシクロアルキル基または多環式のシクロアルキル基で置換された直鎖の低級アルキル基であることが好ましい。
【0027】
前記一般式[I]で示される化合物において、本発明の腎疾患治療剤に用いられるさらに好ましい化合物は、
Aがトリメチレン基またはメチルトリメチレン基であり;Rが直鎖低級アルキル基であり、当該直鎖低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;Rがアダマンチルエチル基またはアダマンチルプロピル基であり;かつ、Rが水素原子である、
化合物である。
【0028】
本発明による腎疾患治療剤は、前記一般式[I]で示される化合物のうち、好ましい具体的化合物として、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物1)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア (化合物2)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物3)、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物4)、
(−)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物5)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物6)、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物7)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物8)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物9)、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物10)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−(2−ブテニル)−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物11)、
(Z)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア (化合物12)、
(E)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア (化合物13)、
1,1−ジブチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物14)、
3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチル−1−フェネチルウレア (化合物15)、
1−(2−シクロヘキシルエチル)−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物16)および、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−ペンチル−1−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物17)からなる群から選択される化合物またはその塩類を有効成分として含有する。
【0029】
上記化合物1〜17のうち、より好ましい具体的な化合物は、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(−)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−(2−シクロヘキシルエチル)−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
(Z)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア、
(E)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア、
3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチル−1−フェネチルウレアおよび、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−ペンチル−1−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレアまたはその塩類からなる群から選択される化合物またはその塩類である。
【0030】
上記化合物1〜17のうち、さらに好ましい具体的な化合物は、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(−)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレアおよび、
1−(2−シクロヘキシルエチル)−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレアからなる群から選択される化合物またはその塩類である。
【0031】
上記化合物1〜17のうち、特に好ましい具体的な化合物は、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(−)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレアおよび、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレアからなる群から選択される化合物またはその塩類である。
【0032】
上記化合物1〜17のうち、最も好ましい具体的な化合物は、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレアまたはその塩類である。
【0033】
本化合物に含まれる代表的な化合物の構造式を以下に示す。
【表1】

【表2】

【0034】
本化合物は、例えば特開2002−53555記載の方法によって製造できる。
【0035】
本化合物の有用性を調べるべく、腎疾患に関する薬理試験を実施した。
【0036】
腎疾患は、種々の原因に起因して、腎に炎症あるいは変性等の異常が生じる疾患である。腎疾患の例としては急性腎不全、慢性腎不全、糸球体腎炎、糖尿病性腎症などを挙げることができる。これらの腎疾患の原因の一つとして虚血性障害が挙げられる。
【0037】
腎において、何らかの理由、例えば、炎症性疾患、微小循環障害、腎移植手術等によって腎全体又は腎の一部の血流が一時的に減少し又は停止した場合、尿細管壊死、鬱血出血、蛋白円柱等の虚血性障害が生じる。
【0038】
一方、急性腎不全、慢性腎不全、糸球体腎炎、糖尿病性腎症等の腎疾患には、それぞれ病態形成に虚血性障害が関与することが知られている。即ち、腎全体の虚血性障害が急性腎不全の病態形成に関与すること、免疫複合体の沈着による微小循環障害が糸球体腎炎の病態形成に関与すること、糖尿病による微小循環障害が糖尿病性腎症の病態形成に関与することが知られている。また、長期にわたる炎症等による微小循環障害が慢性腎不全の病態形成に関与することが知られている。
【0039】
詳細については後述の薬理試験の項で示すが、本化合物の作用をラット虚血性腎障害モデルを用いて検討したところ、腎機能パラメーターの悪化および組織障害を抑制すること、即ち、腎障害を緩和することを見出した。本発明で使用したラット虚血性急性腎不全モデルは、腎疾患の病態形成に関与する虚血性障害のモデルであり、特に虚血性急性腎不全の実験的病態モデルとして使用される。このことから、本化合物は腎疾患の治療剤として好適であることがわかる。
【0040】
また、本化合物は、好ましくは虚血性障害が関与する腎疾患の治療剤として好適である。より好ましくは、本化合物が治療剤として好適な虚血性障害が関与する腎疾患は急性腎不全、慢性腎不全、糸球体腎炎または糖尿病性腎症であり、さらに好ましくは、本化合物が治療剤として好適な虚血性障害が関与する腎疾患は急性腎不全、慢性腎不全または糖尿病性腎症であり、さらに好ましくは、本化合物が治療剤として好適な虚血性障害が関与する腎疾患は急性腎不全または慢性腎不全である。
【0041】
もっとも好ましくは、本化合物は急性腎不全の治療剤として好適である。
【0042】
本化合物の投与は非経口でも経口でも行うことができる。投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤、貼付剤、軟膏剤、懸濁剤等が挙げられる。本化合物の製剤例は特開2002−53555、特開2003−226686に記載されているが、これらの特許文献記載の方法に限らず、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤は、乳糖、結晶セルロース、デンプン、植物油等の増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂等のコーティング剤、ゼラチン皮膜等の皮膜剤などを必要に応じて加えて、調製することができる。
【0043】
本化合物の投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、経口剤であれば通常1日当り0.1〜5000mg、好ましくは1〜1000mgを1回または数回に分けて投与すればよい。
【実施例】
【0044】
以下に本化合物を用いた薬理試験の結果を例示するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
薬理試験
1.ラット虚血性急性腎不全モデルに対する本化合物の作用
虚血性急性腎不全モデルは虚血性腎障害、特に、急性腎不全の実験的病態モデルとして汎用されている(Matsumura Y他: The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、第287巻、1084-1091ページ、1998年、Kelly KJ他、The Journal of Clinical Investigation、第97巻、1056-1063ページ、1996年)。Matsumuraらの方法に準じて、ラット虚血性急性腎不全モデルにおける本化合物の作用を検討した。
【0046】
(被験化合物含有液の調製)
上述した化合物1と媒体である1%メチルセルロース水溶液を乳鉢を用い混和して被験化合物含有液を用時調製した。
【0047】
(使用動物)
SD系マウス (雄性、10週齢)を、5日間以上の馴化の後、各群6〜9匹で実験に供した。
【0048】
(実験方法)
動物をペントバルビタールにて麻酔し、右腎を摘除し、縫合した。右腎摘除2週間後に被験化合物含有液あるいは媒体である1% メチルセルロース水溶液を経口投与し、投与30分後からペントバルビタール麻酔下にて左腎動静脈を45分間阻血し、虚血性急性腎不全モデルを作製した。尚、偽手術群には右腎摘除のみを施し、左腎の阻血を行わなかった。再灌流24時間後より5時間採尿を行ない、採尿終了後にペントバルビタール麻酔下にて全採血および左腎の摘出を行なった。腎機能を評価するために、血中尿素窒素(BUN)、血漿クレアチニン濃度(Pcr)、クレアチニンクリアランス(Ccr)、尿量(UF)、尿中ナトリウム排泄率(FENa)並びに尿浸透圧(Uosm)を算出した。摘出した腎臓はヘマトキシリンエオシン染色による病理組織標本を作製し、鬱血出血について評価した。
【0049】
(結果評価)
腎機能の各評価項目について平均と標準誤差を求めた。統計学的な解析は、偽手術群と病態対照群についてスチューデントのt検定によって、化合物1投与各群と病態対照群の比較はダネットの多重比較によって、それぞれ評価した。
【0050】
腎機能の結果を図1に、鬱血出血の結果を図2に示す。図1の結果は平均±標準誤差で示した。統計解析結果については、病態対照群との有意水準5%未満で有意なものを*で、1%未満で有意なものを**でそれぞれ表示した。
【0051】
図1から明らかなように、化合物1は腎機能パラメーターの悪化を用量依存的かつ強力に抑制した。また、図2から明らかなように、化合物1は鬱血出血を30mg/kgの用量で抑制した。
【0052】
上記の薬理試験の結果から、本化合物は優れた腎疾患の治療作用を有し、腎疾患治療薬として有用であることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】腎機能の各評価項目についての薬理試験結果を示すグラフである。
【図2】薬理試験における腎臓の鬱血出血の結果を示す顕微鏡写真(倍率:200倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で表される化合物またはその塩類を有効成分として含む腎疾患治療剤。
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基または低級アルケニレン基を示し、;Rは水素原子、アルキル基またはアルケニル基を示し、該アルキル基およびアルケニル基は任意の置換基で置換されていてもよく;RおよびRは同一または異なって水素原子または低級アルキル基を示し、該低級アルキル基は単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
【請求項2】
1) Aが低級アルキレン基または低級アルケニレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
かつ、
3) R2が水素原子であり、かつ、R3が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基であるか
または、
R3が水素原子であり、かつ、R2が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基である
請求項1に記載の腎疾患治療剤。
【請求項3】
1) Aが低級アルキレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
3) R3が水素原子であり、
かつ、
4) R2が単環式のシクロアルキル基または多環式のシクロアルキル基で置換された低級アルキル基である
請求項2に記載の腎疾患治療剤。
【請求項4】
Aがトリメチレン基またはメチルトリメチレン基であり;Rが直鎖低級アルキル基であり、当該直鎖低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;Rがアダマンチルエチル基またはアダマンチルプロピル基であり;かつ、Rが水素原子である
請求項3に記載の腎疾患治療剤。
【請求項5】
化合物が、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア 、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア 、
(−)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−[2−[N−(t−ブトキシカルボニル)−N−メチルアミノ]エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−(2−ブテニル)−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
(Z)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア、
(E)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア、
1,1−ジブチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア、
3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチル−1−フェネチルウレア、
1−(2−シクロヘキシルエチル)−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレアおよび、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−ペンチル−1−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレアからなる群から選択される
請求項1記載の腎疾患治療剤。
【請求項6】
腎疾患が虚血性障害が関与する腎疾患である
請求項1〜5のいずれかに記載の腎疾患治療剤。
【請求項7】
虚血性障害が関与する腎疾患が急性腎不全、慢性腎不全、糸球体腎炎、または糖尿病性腎症である
請求項6に記載の腎疾患治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−62284(P2009−62284A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228887(P2007−228887)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】