説明

腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物

【課題】腎臓の糸球体病変の予防、緩和または治療できる医薬組成物を提供すること。
【解決手段】ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎糸球体障害治療剤のスクリーニング方法に関し、さらに詳しくは、ヒト末梢血単核球上にまたはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcを検定することにより腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物をスクリーニングする方法に関する。また、本発明は、腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物に関し、さらに詳しくは、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器や組織障害後の修復・再生について、神経組織、皮膚創傷、腎尿細管障害などに関わる宿主固有の自己免疫性細胞の応答が存在することが示唆されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。そして、CD11bCD2マクロファージと調節型CD2CD4Tリンパ球を誘導促進する化合物が、選択的に腎糸球体障害を修復することが知られており(特許文献1)、またエフェクターマクロファージの誘導を抑制する化合物が腎臓の糸球体病変の改善効果があることも知られている(特許文献2)。
【0003】
臓器障害後の組織修復には、DNAレベルの修復、細胞レベルの修復、そして器官構造レベルの修復が必要であり、細胞レベルにおいては、臓器に存在する前駆細胞の増殖分化を含む、細胞増殖、蛋白合成が要求され、構造の再構築修復には、損傷した組織が選択的に修復されることが示唆されている(非特許文献3)。
【0004】
損傷した組織細胞に選択的に蛋白合成を促し修復や再生へと導くためには、修復再生の作用を有する細胞が選択的に病変の組織細胞に接着・融合する分子を持つと同時に、蛋白合成を促す分子も発現していることが合目的的である。
【0005】
Fusion-regulatory protein(FRP)−1、CD98、4F2hc(4F2 heavy chain)は同じ分子のことであり、FRP−1/CD98/4F2hc分子とも表示される。この分子は免疫刺激やウイルス感染時にT細胞やマクロファージに発現し、ウイルス感染時には融合を促し多核細胞を形成することが知られており(非特許文献4)、β1インテグリンと関連をもった機能、造血作用、アポトーシス、リンパ球増殖、BおよびTリンパ球の機能、細胞融合から破骨細胞新生(osteoclastogenesis)、変異原性、ウイルス感染後の細胞癒合など多彩な細胞機能に関わっている。そして、前記分子(FRP−1/CD98/4F2hc分子)は、アミノ酸トランスポーターのヘテロメリックアミノ酸トランスポーター(heteromeric amino acid transporter、HATと略す)の重鎖(H鎖)を構成する(非特許文献5、非特許文献6)。ヒトマクロファージ上にもこのヘテロメリックアミノ酸トランスポーターが発現することは知られている(非特許文献7)。このヘテロメリックアミノ酸トランスポーターは、アミノ酸輸送について選択性は少なく、非特異的に蛋白合成を促すものである。
また、ある種の化合物(例えば、Cynaropicrin)がCD98分子を抑制して細胞凝集を抑えることが知られている(非特許文献4、非特許文献8)。
【0006】
しかしながら、FRP−1/CD98/4F2hc分子の発現を調節することにより、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターを発現した修復再生に関わる細胞を惹起する化合物の存在は知られていないし、試験管内にて上記の機能をもつ化合物を同定するためのスクリーニング方法も存在しない。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/024185号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/72730号パンフレット
【非特許文献1】Renal Failure (1996); 18:355-375
【非特許文献2】Immunology Today (2000); 21:265-269
【非特許文献3】J Nephrology (2003); 16:186-195
【非特許文献4】Critical Review in Immunology (2000); 20: 167-196
【非特許文献5】Current Drug Metabolism (2001); 2: 339-354
【非特許文献6】Physiology (2005); 20: 112-124
【非特許文献7】Am J Physiol Cell Physiol (2001); C1964-C1970
【非特許文献8】Biochemical and Biophysical Research Communications (2004); 313: 954-961
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腎糸球体障害治療剤のスクリーニング方法を提供するものである。さらに、本発明は、前記スクリーニング方法で得られた化合物とインターフェロンを含んでなる医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、選択的に糸球体病変を軽減し修復する作用を有する公知化合物(特許文献1,2)で治療された動物は対照動物と比べて、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのひとつであるAsc−1分子を発現する単核球細胞が糸球体病変部位に優位に局在し、それら動物の糸球体病変は有意に軽減されている知見を得た。
【0010】
さらに本発明者は、ヒト末梢血単核球をリポ多糖類(LPS)で刺激培養する際、あるいはヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株(以下、単にヒト培養細胞株ということもある。)をインターフェロンで刺激培養する際、同時に糸球体病変を選択的に抑え修復する公知化合物(前記特許文献1,2)を添加して培養したところ、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのH鎖であるFRP−1/CD98/4F2hc分子の発現を選択的に調整する作用をもつ知見を得た。
【0011】
すなわち、単核球細胞あるいは前記ヒト培養細胞樹立株がヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのひとつである神経細胞由来のAsc−1(asc-type amino acid transporter 1)を発現することは、H鎖分子であるFRP−1/CD98/4F2hc分子が活性化されたことにより糸球体が神経細胞の分子をあわせもつ特性と関連して糸球体病変時の障害細胞に親和性をもって接着融合し、Asc−1が障害を受けた器官組織細胞が必要とするアミノ酸を広く供給でき細胞障害修復のために蛋白合成を促すことを意味する。
【0012】
そして、糸球体病変を選択的に抑え修復する公知化合物が、Asc−1を発現する単核球細胞を糸球体病変部位に選択的に誘導すること、さらに、この公知化合物が、ヒト末梢血単核球あるいは前記ヒト培養細胞樹立株をリポ多糖類(LPS)またはインターフェロンなどのマクロファージ活性化物質で刺激培養開始と同時に添加して培養すると、ヘテロメリックアミノ酸トランスポーターのH鎖であるFRP−1/CD98/4F2hc分子の発現を選択的に調整する作用をもつことから、該当する化合物を容易に探索、同定するスクリーニング方法を提供することができる知見を得た。また、本発明者は、前記スクリーニング方法により得られた化合物とインターフェロンを併用することにより、腎臓の糸球体病変を飛躍的に予防、緩和または治療する医薬組成物を提供することができる知見も得た。
【0013】
本発明者は、上記の知見に基づいてさらに検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株と、マクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法、
(2)被検化合物が示す調節作用の検定を、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をマクロファージ活性化物質および被検化合物の存在下に培養し、該単核球または該ヒト単球もしくは該ヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、被検化合物の非存在下に培養したときに発現する4F2hcの量と比較することにより行なう前記(1)記載のスクリーニング方法、
(3)ヒト末梢血単核球の培養をヒトAB型血清の存在下に、またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株の培養をウシ胎児血清の存在下に行なう前記(2)記載のスクリーニング方法、
(4)単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、FACScan解析により算出することを特徴とする前記(2)記載のスクリーニング方法、
(5)マクロファージ活性化物質がインターフェロンまたはリポ多糖類である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(6)ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株がヒト白血病培養細胞株THP−1である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(7)(a)ヒトAB型血清中、ヒト末梢血単核球をリポ多糖類および被検化合物の存在下に培養し、(b)得られる培養液からヒト末梢血単核球を回収し、(c)回収したヒト末梢血単核球に4F2hcの抗体を反応させ、(d)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(e)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法、
(8)(a)ウシ胎児血清中、ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をリポ多糖類もしくはインターフェロンおよび被検化合物の存在下に培養し、(b)得られる培養液からヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株を回収し、(c)回収した該ヒト培養細胞樹立株に4F2hcの抗体を反応させ、(d)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(e)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法、
(9)ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物、
(10)化合物が前記(1)〜(8)のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択される化合物である前記(9)記載の医薬組成物、
(11)化合物が、2−フルオロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステルまたは1−(4−フルオロフェノキシ)−3−オキソ−1,3−ジヒドロ−イソベンゾフラン−1−カルボン酸である前記(9)または(10)に記載の医薬組成物、
(12)腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、配合剤であることを特徴とする前記(9)〜(11)項のいずれかに記載の医薬組成物、
(13)腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物を含有してなる薬剤と、インターフェロンとを含有してなる薬剤とからなるキットであることを特徴とする前記(8)に記載の医薬組成物、および
(14)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のスクリーニング方法により選択された腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物と、インターフェロンとを腎臓の糸球体病変の予防、緩和または治療を必要とする患者に投与することを特徴とする腎臓の糸球体病変の予防、緩和または治療方法、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスクリーニング方法によれば、腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療できる化合物を容易に探索、同定することができる。また、本発明によれば、腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の腎臓の糸球体病変の予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法は、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする。
【0017】
被検化合物が示す調節作用の検定は、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とを被検化合物の存在下に培養し、該単核球または該ヒト培養細胞樹立株上に発現する4F2hcの量を、被検化合物の非存在下に培養したときに発現する4F2hcの量と比較することにより行なう。
【0018】
本スクリーニング法に用いるヒト末梢単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMCと略称される。)は、ヒトの末梢血から自体公知の方法により得ることができる。例えば、ヒトの末梢血から単核球細胞を分離する方法としては、5.7%w/vのフィコール400と、9.0%w/vのジアトリゾネイト ナトリウム(Sodium diatrizoate)の水溶液であって比重が1.077g/mLに調整されたフィコール・パック(Ficoll-Paque、登録商標、ファルマシア・ファイン・ケミカルズ(Pharmacia Fine Chemicals)社製)とを用いた遠心分離方法を挙げることができる。より具体的には、上記の方法は、(a)予め決められた量のフィコール・パックを試験管の底に設置する工程、(b)そのまま或いは希釈した血液試料を注意深くフィコール・パック上にピペットで移す工程、(c)フィコール・パックの比重よりも大きい比重を有する血液成分が、フィコール・パック中に進むか、あるいはフィコール・パックを通過するように、(b)で作製したフィコール・パック血液調整物を約400〜500×gで約30〜40分間遠心分離する工程、および(d)ピペットでフィコール・パックの上方に分離された単核球細胞層を採取する工程からなる。
【0019】
本発明で用いるヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とは、ヒトの正常な単球もしくはマクロファージと同様のマクロファージ活性化物質による刺激応答を示すものをいう。このようなヒト培養細胞樹立株としては、例えば、ヒト白血病培養細胞株などが挙げられ、具体的にはヒト白血病培養細胞株THP-1が挙げられる。ヒト白血病培養細胞株THP-1は、(財)ヒューマンサイエンス振興財団、研究資源バンク(Health Science Research Resources Bank)、(泉南市、大阪)から購入し使用することができる。該THP-1は、ヒト急性単球性白血病患者の末梢血由来から樹立されたマクロファージ様の細胞活性を合わせもつ培養細胞株である。
【0020】
一方、本発明のスクリーング方法で用いるマクロファージ活性化物質は、ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)または前記ヒト培養細胞株にヘテロメリックアミノ酸トランスポーターであるAsc−1分子、LAT1(L-type amino acid transporter 1)、LAT2(L-type amino acid transporter 2)(これらはH鎖にFRP−1/CD98/4F2hc分子をもつ)などを発現させる物質であれば特に限定されないが、好ましくはリポ多糖類(LPS)またはインターフェロンである。インターフェロンとしては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγなどが挙げられ、好ましくはインターフェロンγである。
【0021】
前記リポ多糖類は、自体公知の方法を用いて調製できる。例えば、微生物から抽出し、所望により毒性を除去する処理を行うという方法が挙げられる。微生物からの抽出は、例えば、熱フェノール抽出法(Westphal & Jann., Methods Carbohydr. Chem. 5, 83−89 (1965) )、または微生物をラウリル硫酸ナトリウム(SDS)存在下でプロテナーゼK処理をする方法などを挙げることができる。また、化学的に合成したものを用いてもよいし、市販のものを適宜用いることもできる。本発明においては、適当な溶媒、好ましくはRPMI1640液を用いて溶液としたときに、濃度が約60〜100μg/mL程度、好ましくは約70〜90μg/mL程度、より好ましくは約80μg/mL程度の高濃度のものを用いることが好ましい。なお、リポ多糖類は市販品(例えば、Sigma社製の大腸菌由来のLPS、カタログ番号L2654)を好適に使用することもできる。一方、インターフェロンは、遺伝子工学技術により製造されるヒトリコンビナントインターフェロンを好適に使用することができる。
【0022】
ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株の培養に用いられる培地としては、RPMI培地が好ましい。このRPMI培地は、Goding,J.W.(1980)J.Immunol.Methods 39,285,JAMA 199(1957)519に記載されている。また、市販品(Sigma社製)を用いてもよい。
【0023】
ヒト末梢血単核球の培養はヒトAB血清の存在下に、またはヒト培養細胞樹立株の培養はウシ胎児血清の存在下に、約37℃で好適に実施できる。“被検化合物”、“リポ多糖類またはインターフェロン”、“ヒトAB血清またはウシ胎児血清”および“ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株”は、任意の組み合わせの2種または全部を予め混合してから前記培地に加えてもよく、それぞれを単独で前記培地に加えてもよい。ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株の培養時間は、通常2〜14日、好ましくは6〜10日である。また、培養温度は約37℃が好ましい。本培養は約5%COの条件下で実施するのが好ましい。
【0024】
培養後、ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株を回収し、該単核球または該ヒト培養細胞樹立株上に発現したFRP−1/CD98/4F2hc分子を該分子に対する抗体と反応させ、抗体が結合したヒト末梢血単核球細胞またはヒト培養細胞樹立株を例えばFACScanにて解析することにより、該単核球または該ヒト培養細胞樹立株上に発現したFRP−1/CD98/4F2hc分子の量を算出することができる。
【0025】
FRP−1/CD98/4F2hc分子に対する抗体は、モノクローナル抗体でもよく、ポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体は、例えばJ Virology (1992); 66: 5999-6007に記載の方法に従って、次のようにして調製することができる。すなわち、ヒト上皮培養細胞株FLでBALB/cマウスを免疫し、マウスの脾臓を採取しSP2/0−AG−14ミエローマ細胞と細胞融合を行う。ハイブリドーマ細胞を検出するためのスクリーニングには、ニューカッスル病ウイルスに感染したFLまたはHela細胞を用いる融合促進アッセイ(fusion-enhancing assay)が用いられる。これにより、マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3を産生するハイブリドーマ細胞を検出できる。ハイブリドーマ細胞は、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養する。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用することができる。また、ヒト膀胱癌培養株T24を免疫原として得られたHBJ―127ハイブリドーマ細胞(Jpn J Cancer Res.(Gann) (1985); 76: 336参照)を、同様に、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養する。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用できる。なお、上記モノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ―127の性質は、Critical Reviews in Immunology, volume20/issue 3,2000,167-196に記載されている。FRP−1/CD98/4F2hc分子に対するポリクローナル抗体は、ヒト4F2hcの164−175のアミノ酸残基(HKNQKDDVAQTD(配列番号1))に相当するペプチドを合成し、そのC末端にシステイン残基を導入し、KLH(keyhole−limpet hemocyanin)をカップリングさせて、ウサギに免疫し、同じペプチド(ヒト4F2hcの164−175)を結合したアフィニテイーカラムにて精製して得ることができる。
【0026】
FACScanは、回収したヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に上記モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を作用させ、ついで二次抗体である蛍光抗体(例えば、FITC−ヤギIgG)を作用させ、蛍光抗体で染色されたヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって、ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に発現したFRP−1/CD98/4F2hc分子の量を測定することによって実施される。また、FACScanは、細胞膜に穴を開けて細胞質内のタンパク質も合わせて測定することができる。細胞質内のタンパク質も合わせて測定する場合を以下に説明する。まず、細胞を固定化する。すなわち、前記の如く回収したヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に約4%ホルムアルデヒド溶液を添加し、約37℃において約10分静置して固定化する(Cytometry Part A(2003);55A:61-70)。細胞固定には、例えば市販の細胞固定/細胞膜浸透化キット(商品名:BD Cytofix/CytopermTM Kit、カタログNo.554714、BD Bioscience社)のBD Cytofix/CytopermTM液を用いることができる。次に、抗体が細胞膜を通過できるよう膜透過処理を行う。すなわち、固定化処理後のヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に約0.1%サポニン溶液を添加し、約4℃において約30分静置する。膜透過処理には、例えば市販の前記、0.1%サポニンを含有する細胞固定/細胞膜浸透化キットのBD Perm/WashTM染色バッファーを用いることができる。ついで、免疫染色を行う。すなわち、膜透過処理後のヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株の細胞に、一次抗体であるウサギ抗ヒト4F2hcポリクローナル抗体を反応させる。ついで、二次抗体として蛍光標識抗体(例えば、ヤギFITC−抗ウサギ免疫グロブリン)を反応させる。前記蛍光標識抗体で染色されたヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって、ヒト末梢血単核球またはヒト培養細胞樹立株に発現した4F2hc分子の量を測定する。
【0027】
上記で測定されたFRP−1/CD98/4F2hc分子量を、被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較することにより、FRP−1/CD98/4F2hc分子量の増大または減少を検出することにより、FRP−1/CD98/4F2hc分子の発現に対する被検化合物の調節作用を検定することができる。ここで、腎糸球体病変により低下している4F2hc量を増大させ、また腎糸球体病変により高まっているFRP−1/CD98/4F2hc分子量を減少させる化合物を同定・選択することにより、腎臓の糸球体病変の予防、緩和または治療できる化合物をスクリーニングすることができる。
【0028】
また本発明の別の態様は、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物(以下、有効成分化合物ともいう。)と、インターフェロンとを組み合わせてなる腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物である。前記有効成分化合物と、インターフェロンとを併用することにより、腎臓の糸球体病変を予防、緩和、または治療する効果を前記化合物単独使用に比べて増強させることができる。
前記有効成分化合物としては、前記スクリーニング方法により選択された腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物が挙げられる。このような化合物としては、国際公開第01/72730号パンフレットに記載されるような化合物、例えば、下記式[I]または[II]:
【化1】

(式中、記号は国際公開第01/72730号パンフレットに記載されたものと同一意味を有する。)
で示される化合物が挙げられる。具体的には、2−フルオロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステル、1−(4−フルオロフェノキシ)−3−オキソ−1,3−ジヒドロ−イソベンゾフラン−1−カルボン酸などが挙げられる。また、前記有効成分化合物として下記式(3−2)で示される化合物も挙げられる。
【化2】

【0029】
本発明の医薬組成物は、前記有効成分化合物とインターフェロンとを合剤としてもよく、各成分をそれぞれ含む薬剤からなるキットであってもよい。キットである場合、有効成分化合物を含む薬剤とインターフェロンを含む薬剤とを別々に投与してもよく、あるいは同時に投与してもよい。前記有効成分化合物とインターフェロンのモル比率は、通常1:0.001〜1:0.5、好ましくは1:0.02〜1:0.1である。
【実施例】
【0030】
以下、実験例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実験例により制限されるものではない。なお、本実験例に使用した被検化合物は、腎糸球体病変を選択的に抑制することが知られている化合物(6−2)および化合物(3−2)と、尿細管間質病変を選択的に抑制することが知られている化合物(4−2)および化合物(7−3)であり、これらの構造式は次の通りである(前記特許文献1、2参照)。
【化3】

【0031】
上記既知化合物のうち、化合物(6−2)および化合物(3−2)は腎糸球体病変を選択的に抑制することが、一方、化合物(4−2)および化合物(7−3)は尿細管間質病変を選択的に抑制することが既知である(前記特許文献1,2)。
【0032】
[実験例1]
(実験方法)
1)ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell, PBMCと略す)の分離:
正常ヒト末梢血よりヘパリンを少量シリンジに満たし約30mlを採血し、直ちに等量の0.9%生理食塩水(1mMEDTA添加)と混和した。50mlチューブに12mlヒストパック(Sigam-Aldrich社、HISTOPAQUE-1119, Cat No.1119-1)と10mlフィコールパック(Amersham Bioscience社、Ficoll-Paque Plus)を重層した上に静かに血液を重層した。400g20分室温にて遠心し、血漿成分を約8ml集め、0.2μmのミリポアフィルターを通した。リンパ球を含む単核球分画を集め、冷却したPBS(Ca++)を十分量加えて混和し、250g10分、4℃にて遠心洗浄した。上清を捨て、2回同様の操作を行なった。ペレットに先の採取した血漿を約8ml加えて混和し37℃10分静置した。250g10分、4℃にて遠心洗浄し、ペレットに血清未添加RPMI1640(2mMLグルタミン、5μg/mlゲンタマイシン、以下、培養液RPMIと略す)を加えて同様に遠心洗浄を行なった。PBMCの最終細胞数を2×10/mlに調整した。
【0033】
2)リポ多糖類(LPS)の調整:
大腸菌由来のLPS(Sigma社、カタログ番号L2654)1mgを5mlの培養液RPMIで希釈し、0.2μlのミリポアフィルターを通したものを、LPSとして使用した。
【0034】
3)被検化合物の希釈:
滅菌されたDMSO(ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide))原液に被検化合物を溶解した後、培養液RPMIで希釈を進め、最終10−5(v/v)のDMSO濃度になるように被検化合物を希釈調整し、100nM以下の被検化合物濃度で活性を検討した。
【0035】
4)培養:
マイクロプレート(Falcon3046)の各ウェルに、1000μlのPBMC溶液、同量のLPS、250μlの被検化合物溶液、250μlのヒトAB血清を加えて、6日間37℃にて5%CO−95%airに培養した。
【0036】
5)培養PBMCの回収:
培養終了後に、ラバーにて付着細胞を含めてPBMCを回収した。培養液は血清未添加ハンクス溶液(5μl/mlゲンタマイシン加)にて1回洗浄し、同液で細胞数の濃度を4×10/mlに調整した。
【0037】
6)FRP−1/CD98/4F2hcに対するモノクローナル抗体(マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ−127)の作成:
マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1および6−1−3の作成は、J Virology (1992); 66: 5999-6007に記載されている方法に準拠して行なった。すなわち、ヒト上皮培養細胞株FLでBALB/cマウスを免疫し、マウスの脾臓を採取しSP2/0−AG−14骨髄腫細胞と細胞融合を行なった。ハイブリドーマ細胞を検出するためのスクリーニングには、ニューキャッスル病ウイルス(Newcasle disease virus)に感染したFL細胞またはHela細胞を用いた融合促進アッセイ(fusion-enhancing assay)を用いた。これにより、マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1,6−1−3を産生するハイブリドーマ細胞を検出した。
ハイブリドーマ細胞は、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養した。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用した。
ヒト膀胱癌培養株T24を免疫原として得られたHBJ−127ハイブリドーマ細胞(Jpn J Cancer Res.(Gann) (1985); 76: 336参照)を、同様に、5%ウシ胎児血清を加えたMEM培養液にて静置培養した。培養上清を原液濃度にてFACScanに使用した。
なお、上記で得られたマウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ−127の性質は、Critical Reviews in Immunology (2000); 20: 167-196に記載されている。
【0038】
7)FACScanによる解析:
FACScan用のチューブに3種類の抗体(すなわち、マウス抗ヒトモノクローナル抗体4−5−1、6−1−3およびHBJ−127)を100μl入れ、被検細胞を同量加えた。対照としてPBS(Ca++)をおいた。37℃にて10分、そして4℃にて20分静置し、1500rpm5分遠心し、上清を捨て、PBS(Ca++)を4ml加えて1500rpm5分遠心し上清を捨てた。チューブに二次抗体、FITC−ヤギIgG(anti-mouse whole IgG, Cappel社 Cat#. 55493)を50μl加え、4℃30分静置した。再度、PBS(Ca++)を4ml加えて1500rpm5分遠心し上清を除き、撹拌し、1%ホルマリン−PBS溶液を300μl〜500μl加えて浮遊した。約1万個の細胞を測定し、単球マクロファージ分画の移動率を対照と比較し、10%以上の差があれば有意と判定した。
【0039】
(結果)
結果は、下記表1の通りである。
【表1】

【0040】
(考察)
上記表1から、化合物(6−2)は、LPSにて刺激され培養されたヒトPBMCのマクロファージ分画に発現されるアミノ酸トランスポーターのFRP−1/CD98/4F2hcに対する分子を活性化し、発現を増加させた。一方、化合物(7−3)は発現を増加させなかった。
なお、表には示していないが、異なる正常ヒトPBMCを使った場合には、逆に、90%以上に分子の発現増強した例においては、化合物(6−2)は選択的に5%以下に発現を低下させる作用を示した。
【0041】
[実験例2]
(実験方法)
上記実験例1の1)〜5)と同様にして、ヒト末梢血単核球に、被検化合物(6−2)(終濃度10nM)、または被検化合物(7−3)(終濃度100nM)をLPS(終濃度80μg/ml)添加と同時に添加して6日間培養した。さらに、一次抗体として、ウサギ抗ヒト4F2hcポリクローナル抗体(Biol Pharm Bull 30:415-422,2007参照)を用いて、同様にしてヒトPBMC中の、単球マクロファージより大きな分画(large-macropharge)に発現されるHATのピーク値を市販の細胞固定/細胞膜浸透化キット(商品名:BD Cytofix/CytopermTM Kit、カタログNo.554714、BD Bioscience社)を用いるFACScanにより測定した。
なお、被検化合物の無添加のものを対照とし、ウサギ抗ヒトrBAT(related to b0,+−type amino acid transporter)ポリクローナル抗体は、ヒトrBATのアミノ基末端(MAEDKSKRDSIEMSMKGC(配列番号2))とマウスb0,+AT(BAT1)のカルボキシル基末端(CHLQMLEVVPEKDPE(配列番号3))からなる合成ペプチドを担体であるKLH(keyhole−limpet hemocyanin)にカップリングさせてウサギに免疫して得たものを使用した。
【0042】
(結果)
結果は、下記表2の通りである。
【表2】

【0043】
(考察)
上記表2から、被検化合物(6−2)はHATのheavy chainのうち4F2hc量をrBAT量に影響することなく選択的に減少させたが、被検化合物(7−3)に効果はみられなかった。従って、被検化合物(6−2)が腎糸球体病変を軽減する効果があることから、同様に4F2hc量の発現を調節する効果を有する化合物を選択することにより腎糸球体病変を軽減させる化合物をスクリーニングできることが確認された。
【0044】
[実験例3]
(実験方法)
上記実験例2において、ヒト末梢血単核球の代わりにヒト白血病培養細胞株THP−1を用い、被検化合物(6−2)の添加濃度を終濃度100nM、被検化合物(7−3)の添加濃度を終濃度1000nMとし、ヒトAB血清の代わりにウシ胎児血清を用いる以外は同様とし、ヒト白血病培養細胞株THP−1中の、LPSの刺激を受けていないものと比べて、より大きな分画(Large-cell)に発現されるHATのピーク値を求めた。なお、被検化合物の無添加のものを対照(コントロール)とし、HATのピーク値の測定は市販の細胞固定/細胞膜浸透化キット(商品名:BD Cytofix/CytopermTM Kit、カタログNo.554714、BD Bioscience社)を用いるFACScanにより行なった。
【0045】
(結果)
結果は、下記表3の通りである。
【表3】

【0046】
(考察)
上記表3から、被検化合物(6−2)はHATのheavy chainである4F2hc量を著しく変化させたが、被検化合物(7−3)では変化がみられなかった。従って、被検化合物(6−2)が腎糸球体病変を軽減する効果があることから、ヒト白血病培養細胞株THP-1を用いて、同様に4F2hc量の発現を調節する効果を有する化合物を選択することにより腎糸球体病変を軽減させる化合物を容易にスクリーニングできることが確認された。
【0047】
[実験例4]
(実験方法)
上記実験例2において、ヒト末梢血単核球の代わりにヒト白血病培養細胞株THP−1を用い、被検化合物(6−2)の添加濃度を終濃度100nM、ヒトAB血清の代わりにウシ胎児血清を用い、LPSの代わりにヒトリコンビナント インターフェロンγ(human recombinant Interferon-gamma,(PHP050,Serotec社)(終濃度100ng/ml)とする以外は同様にした。また、一次抗体として、ウサギ抗ヒト4F2hcポリクローナル抗体(Biol Pharm Bull 30:415-422,2007参照)を用いて、同様にしてヒト白血病培養細胞株THP−1中の、LPSの刺激を受けていないものと比べて、より大きな分画(Large-cell)に発現されるHATのピーク値を求めた。なお、被検化合物の無添加のもの(DMSOのみ)を対照(コントロール)とし、ウサギ抗ヒトrBATポリクローナル抗体は、実験例2と同様にして得た。
【0048】
(結果)
結果は、下記表4の通りである。
【表4】

【0049】
(考察)
上記表4から、被検化合物(6−2)はHATのheavy chainのうち4F2hc量をrBAT量に影響することなく選択的に減少させた。従って、被検化合物(6−2)が腎糸球体病変を軽減する効果があることから、同様に4F2hc量の発現を調節する効果を有する化合物を選択することにより腎糸球体病変を軽減させる化合物を容易にスクリーニングできることが確認された。
【0050】
[実験例5]
(実験方法)
1)ラット一側尿管閉塞解除モデルの作成:
8−9週齢、約280gのSDラット雄を用いて、石橋が考案確立した方法(石橋道男ほか:日本腎臓学会誌42:248,2000)により実験モデルを作成した。すなわち、ラットをエーテル麻酔下にて開腹し左腎下極の高さで尿管を7−0ナイロンで結紮閉腹した。閉塞14日目に閉塞を解除しカフを用い尿路を再建した。すなわち、14日後に結紮された閉塞尿管を部分切除し、25ゲージポリエチレンチューブ(日本シャーウッド製)をカフとして、下方正常尿管断端より内腔に挿入留置し、次に上方の拡張した尿管内にもカフを留置し、それぞれ7−0ナイロンにて結紮固定し尿路を再建した。同時に、対側の右腎を摘出した。閉塞解除後に体重を測定し、解除後2日目、5日目および7日目に採血して血清クレアチニンを測定し、7日目には麻酔のもと犠死させ、左閉塞解除腎を摘出した。摘出した腎について腎重量の測定、腎病理形態学的検査を実施した。このモデルにおいて、被検化合物を投与しない場合は、閉塞期間中と閉塞解除後の経時的な病理形態学的検討において、腎構造の破壊をきたし、糸球体ボーマン嚢壁肥厚、メサンギウム細胞増生、糸球体硬化、尿細管の萎縮、拡張、間質への細胞浸潤、繊維化を呈する。
【0051】
2)被検化合物の投与:
上記1)で得たモデルを用いて、被検化合物のインビボの生物学的な効果を検討した。被検化合物は、アラビアゴムとともに被検化合物の原末を滅菌生理食塩水に溶解し、アラビアゴムは5%、被検化合物は30mg/mlに調整した。連日30mg/kgを皮下注射した。14日間の閉塞期間と7日間の閉塞解除の21日間連日投与した。なお、コントロールは溶媒である5%アラビアゴムのみを投与した。
【0052】
3)糸球体病変の観察:
被検化合物の投与開始から22日目に、麻酔下に犠死させ、左閉塞解除腎を摘出し、中性ホルマリンにて固定した。固定されたパラフィン包埋腎組織を4ミクロンの厚みにて薄切し検討した。
組織切片を顕微鏡で観察し、視野内に入る糸球体の数と、病変(尿細管極におけるボーマン嚢上皮細胞の腫大を伴う拡張またはボーマン嚢基底膜の肥厚)の認められる糸球体の数を計数し、50個の糸球体当たりの病変の認められる糸球体(病変糸球体と呼び)の数を算出した。
また、糸球体病変が改善したか否かは、50個の糸球体当たりの病変糸球体数がコントロール群の平均値よりも1/2以下に抑えられた場合を改善ありと判定した。
【0053】
4)Asc−1陽性細胞数の検討:
アフィニテイー精製抗ラットAsc−1ポリクローナル抗体(ウサギ)を次のようにして作成した。すなわち、抗Asc−1ペプタイドポリクローナル抗体(ウサギ)の作成のために、Asc−1の517−530のアミノ酸残基に対応するオリゴペプチド(PSPLPITDKPLKTQC(配列番号4))を合成し(J Biol Chem (2000); 275:9690-9698参照)、C末端のシステイン基にアジュバンドとしてキーホールリンペッドヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanine)を結合させ、ウサギに免疫した。血清を免疫後7日目と14日目に採取した。Asc−1の517−530のアミノ酸残基に相当するオリゴペプチドを結合したアフィニテイーカラムにて血清を吸着解離操作により濃縮し、タンパク量0.5mg/mlのアフィニテイー精製抗体を得た。免疫病理学的検討に際しては、パラフィンラット腎臓組織を用いてPBSにて希釈し至適濃度にて使用した。
免疫組織染色は、ベンタナ社製自動免疫染色装置を含めベンタナHXシステムベンチマーク(ベンタナジャパン、東京)のプロトコールを基本にして行った。組織切片は、脱パラフィン後に、100℃1時間熱処理を行った。ブロッキングとして10%ヤギ血清(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社)を用い、一次抗体にアフィニテイー精製抗ラットAsc−1ポリクローナル抗体(ウサギ)を至適濃度、50倍希釈にて室温1時間反応した。二次抗体として、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(ヤギ)(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社)を室温30分反応し、発色にはシンプルステインDAB溶液(ヒストファイン SAB−PO(R)キット、株式会社ニチレイバイオサイエンス社)を用いた。
染色された細胞を顕微鏡にて観察し、視野内に入る細胞数とAsc−1細胞数とを計数し、50個の糸球体当たりのAsc−1細胞の数を算出した。
【0054】
5)尿細管間質病変の観察:
前記3)と同様にして得た組織切片を顕微鏡で観察し、尿細管の拡張に伴う尿細管の萎縮、尿細管基底膜の肥厚および尿細管間質の繊維化を観察し、±(ごく軽度の変化が認められた)を0.5点、+(軽度の変化が認められた)を1点、++(中程度の変化が認められた)を2点、+++(高度の変化が認められた)を3点とし、その合計を算出した。
また、糸球体病変が改善したか否かは、コントロール群の病変程度の平均値より1/2以下に抑えられた場合をもって改善ありと判定した。
【0055】
(結果)
結果は下記表5〜8に示す通りである。

【表5】


【表6】


【表7】


【表8】

【0056】
(考察)
ラット一側尿管閉塞解除モデルにおける糸球体病変として、糸球体尿細管極のボーマン嚢上皮細胞の腫大を伴う拡張と、ボーマン嚢基底膜の肥厚が観察される。一方、尿細管間質病変は尿細管の拡張に伴う尿細管の萎縮、間質の線維化と基底膜の肥厚がある。表5から、化合物(6−2)を投与した群では、尿細管病変を軽減しないが、糸球体病変を選択的に軽減したことがわかる。
【0057】
また、Asc−1はHAT群のアミノ酸トランスポーターのひとつで、そのH鎖はFRP−1/CD98/4F2hcで共通している。化合物(6−2)を投与した群では、Asc−1陽性細胞が糸球体係蹄やボーマン嚢壁の障害部位に集積し、コントロール群に較べて優位に増加した。すなわち、化合物(6−2)は、HATのH鎖に作用することにより、HATを活性化し、糸球体病変に親和性を有するAsc−1を発現する細胞を惹起した。Asc−1のH鎖の4F2hc/FRP−1/CD98は、インテグリンの接着性の亢進と関連し、細胞融合を有することから、Asc−1陽性細胞が、糸球体病変部位に誘導されて接着融合し、HATの作用である蛋白合成を促進させる作用によって糸球体病変を軽減したものと考えられた。
【0058】
一方、表6は、同様のモデルに化合物(7−3)を投与した実験結果である。対照群が4匹のうち1匹に尿細管間質病変が軽減されているが、化合物(7−3)群では、4匹すべてに病変が軽減されていたことから、同化合物は選択的に尿細管間質病変を抑える作用を有していることがわかる。このモデルでは、主たる障害が尿細管間質病変で糸球体病変は二次的であることから、尿細管間質病変の軽減により二次的に糸球体病変が軽度となっている可能性が考えられる。また、化合物(7−3)の投与群では、HATのH鎖であるFRP−1/CD98/4F2hcへの作用を示さず、糸球体内へのAsc−1陽性細胞も少なかった。
【0059】
表7は、化合物(6−2)と同じ作用をもつ公知化合物(3−2)を上記のモデルに投与したときの解析結果である。表4から、化合物(3−2)は、化合物(6−2)と同様の結果が得られていることがわかる。
【0060】
表8は、化合物(7−3)と同じ作用をもつ公知化合物(4−2)を比較した解析結果である。表8から、化合物(4−2)は化合物(7−3)と同様の結果であったことが分かる。
【0061】
以上の結果から、試験管内のスクリーニングによりHATのH鎖であるFRP−1/CD98/4F2hcを制御する化合物が同定されたとき、その化合物は、腎障害時にHATのAsc−1陽性細胞を惹起し腎糸球体病変に集積し接着融合することで蛋白合成を助長させることにより、選択的に腎糸球体病変を軽減する薬理作用を発揮することが確認できた。
【0062】
[実験例6]
(実験方法)
5週齢の雄性SD(Sprague-Dawley)ラットにピューロマイシン(puromycin)50mg/kgを1回静脈内投与した場合、糸球体上皮障害を受けて投与後6日目から14日目をピークに高度な蛋白尿を呈し、以後暫時軽減していくが、再び尿細管質病変による蛋白尿を再度呈することが知られている(Diamonod JR, Karnovsky MJ:Focal and segmental glomerulosclerosis following a single intravenous dose of puromycin aminonucleoside, Am. J. Pathol; 1986;122;481-487参照)(以下、このモデルをピューロマイシン誘導急性ネフローゼモデルという)。
糸球体病変のモデルとして上記のようなピューロマイシン誘導急性ネフローゼモデルを用いて、以下の方法で腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物とインターフェロンγの併用による腎臓の糸球体病変の予防、緩和または治療についての効果を調べた。
5週齢の雄性SD(Sprague-Dawley)ラットにピューロマイシンを投与する日の5日前から前記化合物(6−2)を30mg/kg/dayを連日皮下投与し、同時にピューロマイシンを投与する日の5日前からラットリコンビナント インターフェロンγ(rat recombinant Interferon-gamma,(PeproTech社)(終濃度9.09μg/ml))0.25ml(2.3×10U)を腹腔内に隔日に投与し、ピューロマイシン50mg/kgを1回静脈内投与した。ピューロマイシン投与後も、前記化合物(6−2)とラットリコンビナント インターフェロンγを同じ投与量にて、前記化合物(6−2)は連日、ラットリコンビナント インターフェロンγは隔日に投与を継続した。
ピューロマイシン投与後6日目、12日目、19日目に24時間尿を蓄尿し、尿中のラットアルブミン排泄量をELIZA法にて測定した。また同時に、尿中クレアニチン濃度を酵素法にて測定した。糸球体上皮障害の指標として、アルブミン排泄量および尿中アルブミン排泄量/尿中クレアニチンの比を評価した。
(結果)
結果は、表9、10に示す。
【表9】

【表10】

【0063】
(考察)
化合物(6−2)とラットリコンビナント インターフェロンγの併用群は、化合物(6−2)単独投与群に比べて、有意に尿中アルブミン排泄量が減少すると共に、尿中アルブミン排泄量/尿中クレアニチンが優位に改善された。このことから、インターフェロンγを併用することで、腎臓の糸球体病変に対してより有効な治療効果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明方法によれば、簡便な方法で腎糸球体病変治療薬をスクリーニングできるため、医薬品産業において有用である。また、本発明によれば、有用な腎糸球体病変治療薬を提供できるため、医薬品産業において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物と、インターフェロンとを組み合わせてなる腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物。
【請求項2】
化合物が、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株と、マクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して被検化合物が示す調節作用を検定することを特徴とする腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法により選択される化合物である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
化合物が、(1)ヒトAB型血清中、ヒト末梢血単核球をリポ多糖類および被検化合物の存在下に培養し、(2)得られる培養液からヒト末梢血単核球を回収し、(3)回収したヒト末梢血単核球に4F2hcの抗体を反応させ、(4)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(5)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療できる化合物のスクリーニング方法により選択される化合物である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
化合物が、(1)ウシ胎児血清中、ヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株をリポ多糖類もしくはインターフェロンおよび被検化合物の存在下に培養し、(2)得られる培養液からヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株を回収し、(3)回収した該ヒト培養細胞樹立株に4F2hcの抗体を反応させ、(4)FACScan解析により4F2hc量を算出し、(5)該4F2hc量を被検化合物の非存在下のときの4F2hc量と比較して4F2hc量の増大または減少を検出することを特徴とする腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する化合物のスクリーニング方法により選択される化合物である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
化合物が、2−フルオロ−5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸ベンジルエステルまたは1−(4−フルオロフェノキシ)−3−オキソ−1,3−ジヒドロ−イソベンゾフラン−1−カルボン酸である請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、配合剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
腎臓の糸球体病変を予防、緩和または治療する医薬組成物が、ヒト末梢血単核球またはヒト単球もしくはヒトマクロファージの性質を有するヒト培養細胞樹立株とマクロファージ活性化物質とが接触して惹起される4F2hcの発現に対して調節作用を有する化合物を含有してなる薬剤と、インターフェロンとを含有してなる薬剤とからなるキットであることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2009−126822(P2009−126822A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303406(P2007−303406)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(500138054)
【Fターム(参考)】