説明

腫瘍を治療する方法

【課題】哺乳動物にタウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物を投与することにより、哺乳動物における腫瘍増殖を阻害する方法を提供する。
【解決手段】組成物は、アポトーシスによる細胞死を誘導するのに十分な用量で、腫瘍細胞と直接接触するように投与される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は癌治療に関する。
【0002】
癌細胞増殖を阻害する化学療法剤の特定における進歩にもかかわらず、癌は依然として死亡率の高い手に負えない疾患である。化学療法剤の重大な問題は特異性が低いことである。多くの抗癌剤が、正常細胞と癌細胞を十分に区別しない。結果として、これらの抗癌剤は望ましくない重篤な副作用を有することが多い。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、有害な副作用がほとんどまたは全くない、哺乳動物における腫瘍増殖を阻害する方法を提供する。前記方法は、哺乳動物に、活性なタウロリジン化合物またはタウルルタム化合物を含む組成物を投与することにより行われる。化合物は、アポトーシスによる細胞死を誘導するのに十分な用量で、腫瘍細胞と直接接触するように投与される。好ましくは、化合物は、壊死による死と比較して優先的にアポトーシスによる死を誘導するやり方および用量で投与される。タウロリジン化合物またはタウルルタム化合物を哺乳動物に投与することによって、中枢神経系(CNS)の腫瘍を治療する方法が行われる。化合物は、全身投与(例えば、経口投与もしくは静脈内投与)されるか、または脳もしくは脳脊髄液に直接注入される。腐食性または吸収性の固形マトリックス(例えば、ウエハー(wafer)またはスポンジ)が脳組織に直接移植される。好ましくは、腫瘍は、神経膠腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫、または非CNS原発腫瘍からのCNS転移である。投与される化合物は、タウロリジン、タウルルタム、またはその誘導体である、Rは、アルキル、アリール、水素、またはヘテロ基もしくはヘテロ原子である。
【化1】

タウロリジン
【化2】

タウルルタム
【0004】
または、化合物はタウリンアミド誘導体である。
【0005】
タウロリジンまたはタウルルタムの誘導体とは、それぞれ、タウロリジンまたはタウルルタムの新生物活性の少なくとも10%を有するスルホンアミド化合物を意味する。スルホンアミド化合物は式R2N-SO2R'を有する化合物である。本明細書記載の化合物の誘導体は、参照化合物(例えば、タウロリジンまたはタウルルタム)と構造が異なってもよいが、好ましくは、参照化合物の生物学的活性(例えば、アポトーシスによる細胞死の誘導)の少なくとも50%を保持する。より好ましくは、誘導体は、参照化合物の生物学的活性の少なくとも75%、85%、95%、99%、または100%を有する。場合によっては、誘導体の生物学的活性は参照化合物の活性のレベルを超えてもよい。誘導体はまた、参照化合物が有さない特徴または活性を有してもよい。例えば、誘導体は、低減した毒性、長期間の臨床的半減期、または血液脳関門を通過する改善した能力を有してもよい。
【0006】
化合物は単独で投与されるか、または別の抗新生物薬と併用投与される。好ましくは、同時投与される薬剤は、アポトーシス以外の機構によって腫瘍細胞を殺傷する。併用療法摂生において、例えば、代謝拮抗剤、プリン類似体もしくはピリミジン類似体、アルキル化剤、架橋剤(例えば、白金化合物)、および挿入剤、ならびに/または抗生物質が投与される。同時投与される薬剤は、タウロリジン化合物またはタウルルタム化合物またはその誘導体の前、後、または同時に与えられる。
【0007】
本発明はまた、哺乳動物にタウロリジン化合物またはタウルルタム化合物を投与することにより、哺乳動物における薬物耐性腫瘍(例えば、多剤耐性(MDR)腫瘍)を治療することを含む。治療される腫瘍は癌腫または肉腫である。薬物耐性腫瘍は、充実性腫瘍、非充実性腫瘍、およびリンパ腫からなる群より選択される。例えば、薬物耐性腫瘍は、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、CNS癌、肝臓癌、肺癌、膀胱癌、リンパ腫、白血病、または肉腫である。
【0008】
本明細書記載の方法を用いて、任意の新生物細胞を治療することができる。好ましくは、化合物(例えば、タウロリジン、タウルルタム、またはその誘導体)は、腫瘍細胞の表面と直接接触するように投与される。化合物は、ある成分(例えば、細胞表面ポリペプチドリガンドまたは他の細胞表面部分)に結合して、アポトーシスによる細胞死につながる細胞内シグナル伝達カスケードを引き起こす。治療される腫瘍として、白血病、リンパ腫、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、CNS癌、肝臓癌、膀胱癌、肉腫、および黒色腫が挙げられるが、これに限定されない。例えば、膀胱癌は、タウロリジン、タウルルタム、またはその誘導体を含む溶液で膀胱を膨張させることにより治療され、皮膚癌(例えば、基底細胞癌または扁平上皮癌)は、フィルム、クリーム、または軟膏として製剤化された化合物を皮膚患部に直接適用することにより治療される。原発性肝臓癌または肝臓転移を治療するために、化合物は、肝臓動脈、門脈、または肝臓の他の血管に注入される。または、腫瘍部位に直接接触させて、または腫瘍部位に隣接して、薬物を充填したマトリックスを移植することにより、化合物の任意の組織へのゆっくりとした放出が達成される。
【0009】
細胞の混合集団(例えば、患者から得られた骨髄細胞または末梢血細胞の試料)から汚染癌細胞を取り除くために、骨髄細胞または末梢血細胞は、タウロリジン、タウルルタム、またはその誘導体の存在下で培養される。次いで、エクスビボで処理された細胞は培養により増殖されるか、または哺乳動物レシピエント(例えば、細胞を得た個体または別の哺乳動物レシピエント)に注入される。
【0010】
化合物は、癌細胞と直接接触させる投与のために(例えば、水溶液の形で)製剤化される。製剤として、治療化合物を含む、または治療化合物でコーティングされた治療用フィルム形成組成物、ならびに軟膏、ペースト剤、噴霧剤、パッチ、クリーム、ゲル、スポンジ、および発泡体が挙げられる。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】タウロリジンおよびその主な分解産物または代謝産物(タウルルタム、タウリンアミド、およびタウリン)の構造の図である。分解の際に、タウロリジンの各分子は、タウロリジンの抗生物質活性および抗エンドトキシン活性に関与する3つのメチロール含有部分を生成する。
【図2】PA-1、SKOV-3、およびNIH-3T3細胞におけるDNA破片の出現に及ぼすタウロリジンへの48時間曝露の影響を示す棒グラフである。3×105個の細胞をプラスチック組織培養フラスコに播種した。24時間後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するようにタウロリジンを添加した。対照培養物には適量のコリジン17Pを与えた。タウロリジン曝露の48時間後、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色した。サブG0/G1領域におけるDNA破片の割合を、細胞蛍光技法を用いて評価した。それぞれのバーは3回の測定の平均(±SE)を示す。**p<0.01。***p<0.001。****p<0.0001。
【図3】PA-1、SKOV-3、およびNIH-3T3細胞における膜ホスホチジルセリン外面化に及ぼすタウロリジンへの24時間曝露の影響を示す棒グラフである。3×105個の細胞をプラスチック組織培養フラスコに播種した。24時間後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するようにタウロリジンを添加した。対照培養物には適量のコリジン17Pを与えた。さらに24時間後、細胞を回収し、細胞蛍光技法を用いてアネキシンV FITC結合を評価することによりホスホチジルセリン外面化を測定した。それぞれのバーは4回の測定の平均±SEを示す。**p<0.01。***p<0.001。
【図4】PA-1、SKOV-3、およびNIH-3T3細胞におけるPARP発現および主要なPARP切断産物の出現に及ぼす50μMまたは100μMのタウロリジンへの24時間曝露の影響のウエスタンブロット分析の結果を示す写真である。2×106個の細胞を150cm2組織培養フラスコに播種した。24時間後、50μMまたは100μMの濃度のタウロリジンを添加した。さらに24時間後、細胞を回収し、細胞数を測定し、各曝露条件で産生された等しい細胞数からアリコートを得た。これらの全細胞溶解産物由来の総タンパク質をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースフィルターに転写した。次いで、クローンC-2-10マウスモノクローナル抗PARP抗体(Zymed Laboratories、San Francisco、CA)を用いることにより、無傷のPARPタンパク質および切断断片を検出するために、フィルターをイムノブロットした。得られたタンパク質-抗体複合体を化学発光技法により可視化した。
【図5】5×106個のSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞を腹腔内投与した後の雌ヌードマウスにおける腹腔内ヒト腫瘍異種移植片の発生に及ぼすタウロリジン(20mg/マウス/注射)の単回3日腹腔内ボーラス注射摂生の遅延投与の効果を示す棒グラフである。タウロリジン治療を、腫瘍細胞接種の日またはその5日後までに開始した。最後のタウロリジン注射の14日後、全ての群のマウスを屠殺し、腫瘍の存在について腹腔を調べた。各実験を3回繰り返し、各群においてプールされた動物は15匹〜21匹の範囲内であった。
【図6】5×106個のSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞を腹腔内投与した後の雌ヌードマウスにおける腹腔内ヒト腫瘍異種移植片の重量に及ぼすタウロリジン(20mg/マウス/注射)の単回3日腹腔内ボーラス注射摂生の遅延投与の効果を示す棒グラフである。タウロリジン治療を、腫瘍細胞接種の日またはその5日後までに開始した。最後のタウロリジン注射の14日後、全ての群のマウスを屠殺し、腹腔内卵巣腫瘍異種移植片を取り出して腫瘍の重量を測定した。各実験を3回繰り返し、各群にプールされた動物数は15匹〜21匹であった。それぞれのバーは15〜21匹の動物の平均(±SE)腫瘍重量を示す。***p<0.001。****p<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
タウロリジンおよびタウルルタムは、癌細胞においてアポトーシス死を優先的に誘導する安全かつ有効な抗新生物薬であることが見出された。これらの化合物は腫瘍細胞のアポトーシス死を誘導する。
【0014】
治療化合物
タウロリジンは、正常(すなわち、非癌)細胞を殺傷することなく癌細胞に対して選択的に毒性であることが見出された。タウロリジン、タウルルタム、またはその誘導体もしくは代謝産物は、癌細胞表面上のある部分(例えば、ホスファチジルセリン受容体)に対して高い親和性を有し、その部分に選択的に結合し、癌細胞において結果として細胞傷害をもたらすアポトーシスを誘導する。化合物の細胞内部移行は、癌細胞のアポトーシス死の誘導に必要でない可能性がある。
【0015】
細胞傷害または細胞死は、壊死またはアポトーシスのいずれかによって起こり得る。壊死は遺伝的に制御されておらず、通常、物理的損傷または化学的損傷の結果である。アポトーシスは遺伝的に制御されており、特定の刺激(例えば、細胞表面により発生するシグナル)に対する細胞応答である。壊死は、細胞小器官の破壊および細胞膜の完全な状態の損失を伴うが、アポトーシスを受けている細胞は、細胞の収縮、膜の突起形成(blebbing)、クロマチンの凝縮および断片化を示す。カスパーゼ酵素経路でのDNA損傷の後、カルシウム活性化およびカルパイン酵素を伴い、さらに他の細胞変化および細胞質酵素の調節につながる一連の事象が起こる。
【0016】
インビボでの壊死とアポトーシスの主な違いは、炎症反応が始まる前にアポトーシス細胞が排除されることである。細胞のアポトーシスとは対照的に、細胞の壊死は炎症を引き起こす。従って、アポトーシスによる癌細胞の細胞傷害の誘導は、従来の化学療法剤による細胞死の誘導と比較してかなりの利点を提供する。なぜなら、アポトーシス死は周囲の細胞または組織への最小限の損傷に関連するからである。多くの従来の化学療法剤と異なり、本発明に従って投与されるタウロリジン化合物またはタウルルタム化合物は、(正常な非癌細胞のアポトーシスを誘導せず)癌細胞のアポトーシスを誘導して、癌に罹患した哺乳動物における腫瘍負荷重(tumor burden)を安全に小さくする細胞傷害剤である。
【0017】
タウロリジンの機能的特徴付け
タウロリジン(タウロリン(Taurolin)(商標))は、ビス-(1,1-ジオキソペルヒドロ-1,2,4-チアジアジニル-4)メタンとして化学的に特定されている(図1)。これは、分子量284を有する比較的小さな2量体分子である(Knightら、1983.J.Pharm.Sci 72:705-707))。この抗生物質活性の初期の評価から、タウロリジンは、広範囲の好気性細菌株および嫌気性細菌株に対して殺菌力を有することが明らかになった。細菌の細胞増殖を阻害するために必要とされる最小濃度(MIC)は、評価された細菌株に応じて0.01mg/ml〜1mg/mlであった。初期の研究からまた、タウロリジンは、臨床上関連する真菌に対して活性を有することも明らかになった。抗真菌活性を発揮するのに必要とされる濃度は、抗菌活性を生じるのに必要とされる濃度にほぼ等しい。
【0018】
タウロリジンの抗生物質活性は、タウロリジン親分子の分解の際に形成される活性メチロール基の生成後の化学反応に依存している(図1)。生化学的および形態学的な研究から、タウロリジンに由来するメチロール基含有部分は細菌の細胞壁成分と反応するように見えることが分かった。この化学反応の結果として、この薬剤への曝露により、生物学的表面(例えば、上皮細胞)に付着する微生物の能力が著しく阻害される。タウロリジンへの曝露により細菌細胞線毛の構造が破壊され、その数が減少した(これは明らかに、これらの構造の凝集を表している)。これらの表面構造の変化は、タウロリジンが細菌表面付着を妨げる能力の原因になっていると考えられる。細菌細胞壁成分に及ぼすこの直接的な影響に加えて、タウロリジンはまた、腫瘍壊死因子α(TNF-α)の合成および活性を低減することによる抗エンドトキシン活性を有する。タウロリジンはまた手術後の腹膜癒着の程度および重篤度を低減し、手術後の感染および癒着の低減ならびに腹膜炎の治療のために腹部手術後に洗浄によって臨床的に投与されている。
【0019】
タウロリジンは、抗真菌活性も有する合成広域抗生物質である。機構的には、タウロリジンは、細菌細胞膜成分と反応して細菌細胞の上皮細胞表面への付着を妨げる。ヒト充実性腫瘍の増殖および発達における細胞付着の重要な役割を考えて、12種類の選択されたヒトおよびマウスの腫瘍細胞株からなるパネルの増殖に対するこの薬剤の細胞傷害活性を評価する研究を開始した。3日(3d)タウロリジン曝露の増殖阻害活性の評価から、この薬剤は、9.6μM〜34.2μMのIC50で、評価された全ての細胞株の増殖を阻害することが明らかになった。この効果の原因となる基礎機構を特定する研究を、NIH-3T3マウス線維芽細胞ならびにPA-1およびSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞株において行った。最初の研究は、細胞周期分布に及ぼすタウロリジンへの48時間曝露の影響を評価した。この分析の結果から、タウロリジンはPA-1細胞の細胞周期にほとんど影響を及ぼさないが、SKOV-3細胞ではG0/G1期にある細胞の割合を減少させ、S期およびG2/M期の細胞の割合を増加させることが明らかになった。これらのヒト腫瘍細胞株において、タウロリジン曝露はサブG0/G1領域でのDNA破片を有意に増加させた(これはアポトーシス誘導と一致する影響である)。対照的に、NIH-3T3細胞において、タウロリジンはS期にある細胞の割合を増加させ、G0/G1期にある細胞の割合を減少させ、サブG0/G1領域でのDNA破片を増加させなかった。タウロリジン曝露および腫瘍細胞アポトーシスとの関係のさらなる研究において、細胞表面マーカーとしてアネキシンV(Annexin-V)結合を用いてタウロリジンへの24時間曝露後のホスホチジルセリン外面化(phosphotidylserine externalization)を評価した。これらの研究から、タウロリジンは、アネキシンV陽性細胞の割合をPA-1細胞およびSKOV-3細胞においてそれぞれ4倍および3倍増加させた。対照的に、NIH-3T3細胞では、タウロリジン曝露はアネキシンV結合をわずかに(〜5%)増大させた。補足的な研究により、50μMまたは100μMタウロリジンへの48時間曝露がこれらの細胞モデルでのPARP切断に影響を及ぼすかどうかを調べ、タウロリジンがPA-1細胞およびSKOV-3細胞の両方でPARP切断を誘導することが明らかになった。全体としてこれらのインビトロでの結果は、タウロリジンが、アポトーシスを特異的に誘導する能力と相関関係にある腫瘍細胞の細胞傷害活性を有することを示している。最後に、この薬剤の抗新生物活性を評価するためにマウスに基づく研究を行った。最初の研究は、5mg/注射/マウス〜30mg/注射/マウスの用量での、タウロリジンの3日連続毎日の腹腔内ボーラス注射の毒性を評価した。20mg/注射の用量により〜10%の死亡率が生じ、これがこのモデルでのMTDとして特定された。腹腔内ヒト卵巣腫瘍異種移植片を有するヌードマウスへのこのタウロリジン摂生(regimen)の投与は、腫瘍形成および増殖の有意な阻害をもたらした。これらの発見は、タウロリジンが新規の種類の抗新生物薬である可能性があり、これらの臨床的意義を考慮して議論されることを示している。
【0020】
本発明は、上記で議論された活性に加えて、タウロリジンが腫瘍細胞の増殖を選択的かつ確実に阻害し、アポトーシス誘導により腫瘍細胞を選択的に殺傷するという発見に基づいている。タウロリジンは、現在、少なくとも28種類の異なるヒト腫瘍細胞株(卵巣、乳房、脳、結腸、前立腺、膀胱、および肺の腫瘍、ならびに黒色腫、中皮腫、喉頭癌腫、白血病、およびリンパ腫を含む)を殺傷することが見出されている。さらに、多剤耐性神経膠腫細胞および骨髄異形成症候群細胞(前癌細胞型)がタウロリジンによって殺傷された。腫瘍増殖の阻害およびアポトーシスによる腫瘍細胞死の誘導は、抗生物質活性に必要とされる濃度より著しく低いタウロリジン濃度で起こる。例えば、抗新生物用途のために、タウロリジンは、抗菌活性または抗付着活性に必要とされる用量より少なくとも10%少ない、好ましくは少なくとも20%少ない、より好ましくは少なくとも50%少ない、および最大1対数単位少ない用量で投与される。
【0021】
タウロリジンは、腫瘍起源に関係なく腫瘍細胞に対して毒性であるが、正常な非腫瘍細胞に対しては無毒である。腫瘍細胞のアポトーシスは、培養により1時間という短いタウロリジンとのインキュベーション後に誘導される。
【0022】
タウロリジンおよびその代謝産物はまた併用療法にも有用である。タウロリジンは、ある特定の種類の癌細胞を「S」期に入るように誘導することによって、他の化学療法剤および/または放射線療法の細胞傷害性を高めるのに有用であることをデータが示している。
【0023】
タウロリジンおよび血管形成
転移性結腸癌を有する患者がタウロリジンで治療され、血管形成を制御する数種類の因子が測定された。血管成長を制御する4種類の因子(組織壊死因子(TNF);インターロイキン1、インターロイキン6、およびインターロイキン10;血管内皮増殖因子(VEGF);ならびに腫瘍増殖因子β(TGF))が、プラセボを与えた被検体と比較してタウロリジンで治療された被検体において減少することが見出された。これらのデータは、タウロリジンが抗血管形成剤であることを示している。
【0024】
治療的投与
治療化合物の有効量は、好ましくは約0.1mg/kg〜約150mg/kgである。しかしながら、タウロリジンおよびタウルルタム化合物の毒性が低いために、さらに高い用量を有害な副作用なく投与することができる。癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効な用量は、防腐、抗菌、抗毒素、または抗付着の目的で投与される用量より1桁少ない。アポトーシスを誘導するのに有効なタウロリジンまたはタウルルタムのアポトーシス用量(例えば、0.5μg/dl)もまた、ある特定の癌の治療に潜在的に有用であると以前に示唆された用量(例えば、150mg/kg〜450mg/kg)より著しく少ない。当業者により理解されるように、有効量は、投与経路、賦形剤の使用、ならびに他の治療処置(他の抗腫瘍剤(例えば、代謝拮抗剤、プリン類似体もしくはピリミジン類似体、アルキル化剤、架橋剤、挿入剤、または抗生物質)および放射線療法の使用を含む)との同時投与によって異なる。
【0025】
標準的な方法を用いて癌もしくは転移に罹患している(または癌もしくは転移を発症するリスクのある)哺乳動物(例えば、ヒト患者)を特定することによって、治療摂生が行われる。例えば、タウロリジンまたはタウルルタムが、癌(例えば、急性骨髄性白血病)と診断された個体または前癌状態(例えば、急性骨髄性白血病に進行する可能性のある骨髄異形成)と診断された個体に投与される。当技術分野において周知の方法を用いて、このような個体に薬学的化合物が投与される。好ましくは、化合物は、経口投与、局所投与、または非経口投与(例えば、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、および静脈内投与)される。例えば、卵巣癌は、タウロリジンまたはタウルルタムの薬学的に許容される溶液を用いた腹腔内洗浄によって治療することができる。化合物は、再発腫瘍の検出後または手術時に予防的に投与される。化合物は、原発性卵巣癌を治療するための、または再発腫瘍を予防するための化学療法薬のカクテルの一成分として製剤化されてもよい。非経口投与に適した製剤の例として、活性薬剤を等張食塩水液、5%グルコース溶液、または別の標準的な薬学的に許容される賦形剤に溶解した水溶液が挙げられる。PVPまたはシクロデキストリンなどの標準的な可溶化剤もまた、治療化合物を送達するための薬学的賦形剤として使用される。
【0026】
本明細書記載の治療化合物は、従来の方法を用いて他の投与経路用の組成物に製剤化される。例えば、タウロリジンまたはタウルルタムは、経口投与用のカプセルまたは錠剤に製剤化することができる。カプセルは、ゼラチンまたはセルロースなどの任意の標準的な薬学的に許容される材料を含んでもよい。錠剤は、従来の手順に従って、治療化合物と固形担体および潤滑剤との混合物を圧縮することにより製剤化することができる。固形担体の例として、デンプンおよび糖、ベントナイトが挙げられる。化合物は、結合剤(例えば、ラクトースまたはマンニトール)、従来の増量剤、および錠剤化剤(tableting agent)を含む、硬い殻の錠剤またはカプセルの形で投与される。他の製剤として、軟膏、ペースト剤、噴霧剤、パッチ、クリーム、ゲル、吸収性スポンジ、または発泡体が挙げられる。このような製剤は、当技術分野において周知の方法を用いて製造される。
【0027】
タウロリジン化合物またはタウルルタム化合物は、癌細胞に直接接触させると効果的である。従って、化合物は局所投与される。例えば、膀胱癌腫を治療するために、化合物は、当技術分野において周知の方法を用いて(例えば、治療化合物を含む溶液で膀胱を少なくとも10分間膨張させるためにカテーテルを用いて)膀胱に投与される。例えば、膀胱にタウロリジンまたはタウルルタムの溶液を注入し、溶液を膀胱内に30分〜2時間貯留させる。基底細胞癌などの皮膚悪性腫瘍の治療のために、クリームまたは軟膏が腫瘍に冒された皮膚部位に適用される。肝臓の腫瘍細胞(例えば、原発腫瘍、または結腸もしくは乳房などの身体の他の場所にある原発腫瘍から生じた肝臓転移)は、肝臓の脈管構造に化合物を含む溶液を注入することにより治療される。または、化合物は、被検体の隣接組織または周囲組織に化合物をゆっくりと放出する固形または吸収性のマトリックスを(肝臓などの器官に直接、または皮下に)移植することにより投与される。薬物を充填したマトリックスを直接肝臓へ移植することにより肝臓の腫瘍細胞は効果的に破壊されるのに対して、健常な肝臓組織は任意の残留化学療法剤を急速に解毒する。
【0028】
膠芽腫などのCNS癌の治療のために、化合物は全身投与されるか、またはCNS組織へ直接に局所投与される。化合物は静脈内に投与されるか、またはクモ膜下に(すなわち、脳脊髄液への直接注入により)投与される。局所投与のために、化合物を染み込ませたウエハーまたは吸収性スポンジがCNS組織に直接接触させて配置される。グリアデル(GLIADEL)ウエハーなどの生分解性高分子移植片が、例えば、腫瘍塊の外科的除去後に腫瘍部位に配置される。ポリ無水物マトリックスなどの生分解性高分子(例えば、20:80モル比のポリ(カルボキシフェノキシプロパン):セバシン酸からなる共重合体)が治療薬剤(例えば、タウロリジンまたはタウルルタム)と混合され、所望の形に成形される。または、治療薬剤の水溶液またはマイクロスフェア製剤が、移植前にウエハー表面に噴霧される。化合物または化合物の混合物は、ウエハーからの薬物の拡散および高分子マトリックスの腐食によってインビボでゆっくりと放出される。タウロリジン化合物またはタウルルタム化合物は、カルムスチン(BCNU)などの他の化学療法剤と同時投与されてもよい。
【0029】
または、化合物は、周知の方法を用いて脳または脳脊髄液に注入される。例えば、注射口として使用するためのカテーテル付バーホールリングが、頭蓋骨にあけられたバーホールで頭蓋骨とかみ合うように配置される。カテーテルに連結される液体リザーバは、バーホールリングの上端の上に配置された隔壁を通して挿入される針またはスタイレットによりアクセスされる。カテーテルアセンブリ(例えば、米国特許第5,954,687号記載のアセンブリ)は、ある期間にわたって薬物を投与するために、脳にある、または脳の近くの、または脳内の選択された位置への、または選択された位置からの液体の移動に適した液体流路を提供する。
【0030】
化合物はまた、骨髄細胞の試料から、その試料を汚染している可能性のある癌細胞を取り除くために使用される。骨髄細胞は、標準的な方法を用いて哺乳動物ドナーから得られる。汚染腫瘍細胞を排除するために、骨髄細胞は、インビトロで骨髄細胞とタウロリジン化合物またはタウルルタム化合物を接触させることにより処理される。処理された細胞を洗浄した後、哺乳動物レシピエントの免疫系を再構築するために、骨髄細胞調製物はレシピエントに投与される。
【0031】
同様に、末梢血単核細胞の集団から腫瘍細胞が取り除かれる。末梢血は、化学療法または放射線療法後の癌患者の免疫系を再増殖させるための幹細胞(例えば、造血幹細胞)の供給源として使用することができる。場合によっては(例えば、骨髄腫または乳癌を有する患者)、末梢血の方が腫瘍細胞に汚染されていない可能性があるので、幹細胞の供給源として末梢血を使用することが骨髄を使用するよりも好ましい。末梢血単核細胞は、標準的な方法(例えば、静脈穿刺またはプラズマフェレシス)を用いて個体から得られる。汚染腫瘍細胞を殺傷するために、細胞は、インビトロでタウロリジン、タウルルタム、またはその誘導体で処理される。細胞は洗浄され、レシピエント個体に注入される。選択的に、所望の細胞型を増殖させるために細胞は培養される。
【0032】
タウロリジン化合物およびタウルルタム化合物の細胞傷害性
タウロリジンの細胞傷害活性が、様々なヒトの癌細胞株ならびに「正常な」NIH3T3線維芽細胞の増殖に対してインビトロで評価され、アポトーシスによる細胞傷害を誘導することが見出された。調査に使用された新生物細胞株は、標準的な腫瘍細胞株(例えば、PA1ヒト卵巣細胞株、SKOV3ヒト卵巣細胞株、HT29ヒト結腸腫瘍細胞株、DU145ヒト前立腺腫瘍細胞株、U251ヒト膠芽腫細胞株、U251-MDRヒト膠芽腫細胞株(MDRをコードするDNAでトランスフェクトされている)、T98Gヒト膠芽腫細胞株、SP-1ヒト白血病細胞株、およびDaudiヒト白血病細胞株)であった。
【0033】
データは、タウロリジンがヒト癌細胞の増殖を阻害することを示した。驚くべきことに、化合物への3日曝露後に腫瘍細胞の増殖を阻害するのに必要とされるタウロリジン濃度(IC50)は約12.5μM〜50μMであった。この濃度は、細菌細胞の増殖を阻害するのに使用される濃度より少なくとも1/1000少ない。
【0034】
タウロリジンおよび癌細胞が同時にフラスコに添加され、細胞増殖が3日後に評価された。細胞付着の破壊が細胞傷害活性に役割を果たしているかどうかを評価するために、並行研究が行われた。ヒト卵巣腫瘍細胞が樹立され、別々のコロニーとしてインビトロで増殖した後に、ヒト卵巣腫瘍細胞の増殖を阻害するタウロリジンの能力を評価するアッセイ法が行われた。データから、50μMタウロリジンへの24時間曝露は樹立腫瘍細胞の増殖に対して有意な細胞傷害効果を生じることが明らかになった。データから、タウロリジンの細胞傷害活性/細胞分裂抑制活性は腫瘍細胞付着の阻害によるものではないことが分かった。
【0035】
タウロリジンが細胞傷害を生じる機構が評価された。腫瘍細胞の細胞周期の速度および細胞周期の分布がタウロリジンへの24時間曝露後に調べられた。結果から、PA1細胞および3T3細胞において、タウロリジン曝露が細胞周期の速度を乱し、S期およびG2/M期にある細胞の割合を著しく減少させることが明らかになった。タウロリジンのこの摂生へのPA1ヒト卵巣細胞の曝露はまた、アポトーシス誘導を示す高度のDNA断片化を誘導した。このDNA断片化は正常な3T3細胞では観察されなかった。
【0036】
50μMタウロリジンへの曝露が、ヒト卵巣腫瘍細胞においてアポトーシスを特異的に誘導することができたが、正常な線維芽細胞ではアポトーシスを誘導することができなかったという可能性をさらに評価するために、アガロースゲル電気泳動を用いて、タウロリジン曝露の関数としてDNA断片化を評価する研究が行われた。結果から、卵巣腫瘍細胞におけるタウロリジンへの曝露は明白なDNA断片化をもたらしたが、同一のタウロリジン摂生に曝露された3T3細胞ではDNA断片化は明らかに示されないことが確かめられた。
【0037】
タウルルタムの細胞傷害活性が、前記の同じヒト癌細胞株を用いてインビトロで評価された。データから、タウルルタムは、タウロリジンと同様に、癌細胞のアポトーシス死を誘導するが、正常な対照細胞のアポトーシス死を誘導しないことが分かった。タウルルタムの細胞傷害活性は、タウロリジンで観察された活性の約75%であった。
【0038】
アポトーシス死は、当技術分野において周知の方法を用いて他の機構による死と区別される。別のアポトーシス誘導の初期を表すものは、細胞カスパーゼによるタンパク質ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)の切断である。タウロリジンへの曝露がPARP切断をもたらすかどうかを確かめるために、ウエスタンブロットに基づく研究が行われた。結果から、同じタウロリジン摂生に曝露された場合、PARP切断は3T3細胞においてはっきり示されないことが明らかになった。アポトーシスはまた、カスパーゼ活性化の測定、bax/bcl12比、ならびにfasおよびfas-1相互作用などの既知の方法を用いて検出される。死の機構、または化合物が壊死と比較してアポトーシスを誘導する用量を確かめるために、アポトーシスと壊死を区別する他の方法(例えば、米国特許第5,976,822号記載の蛍光に基づく方法)が使用される。
【0039】
化合物の抗腫瘍活性はまた標準的なMTS比色アッセイ法を用いて評価される。様々な種類の腫瘍細胞(初代細胞または細胞株)を用いて得られた結果が、正常な細胞を用いて得られた結果と比較される。各細胞株における細胞の生存率は、96ウェルプレートにおいて試験化合物を含む溶液中で細胞をインキュベートした後にテトラゾリウム塩の細胞変換を測定することにより評価される。正常細胞および特定の腫瘍細胞株の細胞に対して同一の試験化合物を用いて得られたIC50値が比較され、その比(IC50正常細胞/IC50癌細胞)は試験化合物の癌選択性を示す。IC50正常細胞/IC50癌細胞比の増加は、癌細胞を殺傷する試験化合物のより高い選択性を表している。
【0040】
化合物の抗腫瘍活性はまた、例えば、腫瘍異種移植片退縮アッセイ法を用いてインビボで評価される。例えば、確立された腫瘍を有する動物が試験化合物で3週間治療される。3週間の治療中、および腫瘍の再増殖が起こるかどうかを確かめるために治療後もう2週間、腫瘍の増殖および動物の全身の健康状態がモニターされる。タウロリジンの抗新生物活性は、進行および/または転移した異種移植片を有する無胸腺(ヌード)マウスにおいて測定される。単回および複数回のタウロリジン投与計画が無胸腺(ヌード)マウスにおいて評価される。投与計画が特定されると、抗新生物活性が、ヒト癌細胞(例えば、卵巣、前立腺、結腸、膵臓、乳房、および神経膠腫の腫瘍)の異種移植片を有する無胸腺(ヌード)マウスにおいて評価される。
【0041】
白血病およびリンパ腫の治療
本明細書記載の化合物は、足場依存性でない腫瘍細胞(例えば、白血病またはリンパ腫)の殺傷に特に有効である。細胞傷害効果は細胞付着の阻害によるものではない。
【0042】
2種類の異なる非足場依存性腫瘍細胞株(ヒトバーキットリンパ腫細胞株およびDaudi細胞株)ならびに前癌細胞株(ヒト骨髄異形成細胞株)を懸濁培養で増殖させた。腫瘍細胞を10μM〜20μMのタウロリジンに72時間曝露した後、細胞の50%が死滅した。同様の結果が、骨髄異形成細胞のタウロリジンへの曝露後に観察された。これらの結果は、タウロリジンが非足場依存性腫瘍細胞型(例えば、リンパ腫または白血病)を治療するのに有用であることを示している。これらの結果はまた、前癌細胞(例えば、骨髄異形成細胞)が本明細書記載の化合物によって効果的に殺傷され、骨髄異形成(急性骨髄性白血病に進行する可能性がある)と診断された個体が本明細書記載のタウロリジン化合物またはタウルルタム化合物を用いて効果的に治療され得ることを示している。
【0043】
卵巣癌の治療
卵巣癌と診断された患者の80%以上が、原発腫瘍の治療的介入後に再発腫瘍を経験する。5%の反応率(例えば、腫瘍増殖の5%の減少)によってさえも、臨床上の恩典が付与される。反応率は、腫瘍の大きさまたは転移巣の数の減少と定義される。例えば、腫瘍の大きさの減少は、最も大きな新生物病変の大きさの減少を(例えば、ソノグラムにより、またはカリパスを用いた測定により)検出することによって測定される。
【0044】
再発性卵巣癌に及ぼすタウロリジンの効果を研究するために、卵巣癌の標準的なマウスモデルが使用された。進行卵巣癌の状態を再現するために、ホランド・スプラーグ・ドーリー(Holland Sprague-Dawley)マウスに5×106個の腫瘍細胞(例えば、SKOV3ヒト卵巣腫瘍細胞株)を注射した。5日後に、タウロリジンを腹腔内洗浄によって投与した。タウロリジンを、30mg/日の用量で4日間、1日3回投与した。腫瘍巣の少なくとも75%〜80%の減少が観察された。これらのデータは、タウロリジン投与が卵巣腫瘍の大きさおよび腫瘍の再発を減少させることを示している。
【0045】
薬物耐性腫瘍の治療
タウロリジンは、他の周知の化学療法剤による細胞傷害では効果のない腫瘍細胞の殺傷に特に有効であることが見出された。膠芽腫細胞が、多剤耐性(MDR)をコードする遺伝子でトランスフェクトされた。トランスフェクトされた細胞は、標準的な化学療法剤(例えば、アドリアマイシン)に対して100倍〜1000倍の耐性があった。標準的な用量(例えば、1μM)のアドリアマイシンと共に培養された非トランスフェクト膠芽腫細胞は殺傷されたが、1μMの薬物と接触されたMDRトランスフェクト膠芽腫細胞は耐性であった。MDRトランスフェクト膠芽腫細胞の有意な細胞傷害は、化合物(例えば、50μMの用量のタウロリジン)との接触後に観察された。これらのデータは、本明細書記載の化合物が、標準的な化学療法剤の機構とは異なる機構を介して細胞傷害活性を発揮することを示している。従って、別の化学療法剤(例えば、代謝拮抗剤、腫瘍特異的モノクローナル抗体、または抗血管形成剤)の前、後、または同時にタウロリジン化合物またはタウルルタム化合物が投与される併用療法は、腫瘍細胞の混合集団(例えば、標準的な化学療法剤により殺傷される腫瘍細胞およびMDRである腫瘍細胞)により特徴付けられる悪性疾患に罹患している患者において改善された臨床成果をもたらす。
【実施例】
【0046】
実施例1:抗新生物薬の細胞傷害評価および機構評価
タウロリジンは、インビトロでの様々なヒト腫瘍細胞株の増殖阻害に活性であることが見出された。抗腫瘍活性の機構を調べるために、PA-1およびSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞株ならびにNIH-3T3マウス線維芽細胞を使用した。この研究から、タウロリジンの効果はDNA構造、細胞膜成分、およびタンパク質切断の変化に関連しており、これらの変化は腫瘍細胞に特異的なアポトーシスの誘導と一致することが明らかになった。ヒト卵巣腫瘍の腹腔内異種移植片を有するヌードマウスにおけるタウロリジンの抗新生物評価から、この薬剤はインビボで腫瘍の発達および増殖を著しく阻害することが証明された。
【0047】
新生物活性を研究するために、タウロリジンを、5%コリドン(Kollidon)17PFに溶解した2%溶液として製剤化した。標準的な細胞培養増殖培地(例えば、高グルコースDMEM、RPMI 1640、McCoy's 5A、およびF12K)、トリプシン、ウシ胎児血清(FBS)は全て、ギブコ/ライフテクノロジーズ(GIBCO/Life Technologies)(Grand Island、NY)から購入した。細胞によるホスホチジルセリン外面化は、クロンテック(Clontech)(Palo Alto、CA)から購入したアポアラート(ApoAlert)(商標)アネキシンV/FITCアッセイキットを用いて評価した。SDS-PAGE用試薬は、バイオラッドラボラトリーズ(BioRad Laboratories)(Richmond、CA)から購入した。ヒトPARPに対するマウスモノクローナル抗体(クローンC-2-10)は、ザイメッドラボラトリーズ(Zymed Laboratories)(San Francisco、CA)から購入した。他の全ての化学試薬はシグマ(Sigma)(St.Louis、MO)から購入した。
【0048】
ヒト充実性腫瘍細胞株のパネルならびにNIH-3T3マウス線維芽細胞を用いて、タウロリジンの細胞傷害活性を評価する研究を行った。腫瘍細胞株パネルには、卵巣腫瘍細胞(PA-1およびSKOV-3)、結腸腫瘍細胞(HCT-8、HCT-15、およびHT-29)、肺腫瘍細胞(H-157、A-549、およびH-596)、前立腺腫瘍細胞(DU-145)、神経膠腫細胞(U-251)、ならびに黒色腫(MNT-1)が含まれた。マウス黒色腫B16F10細胞株もまた試験した。これらの細胞株は、例えば、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から容易に入手することができる。細胞を、加湿インキュベーター内で、適切な増殖培地中、37℃、5%CO2の雰囲気で培養した。これらの増殖条件下で、全ての細胞株の倍加時間は20時間〜28時間であった。
【0049】
ハルラン(Harlan)(Indianapolis、IN)から入手した6週齢〜12週齢の雌同型接合無胸腺(Hsd:無胸腺ヌードnu/nu)マウスにおいてインビボでの毒性および治療有効性を評価する研究を行った。
【0050】
細胞増殖の阻害を評価するために、適切な細胞株のサブコンフルエント培養物をトリプシン処理によって回収し、1〜5×104細胞/mlの細胞密度で培地に再懸濁した。適切な培地+血清3mlを含む12ウェル細胞培養プレートの各ウェルに、この細胞懸濁液1mlを添加した。24時間後、0.1μM〜200μMの最終濃度を達成するように、40μlの体積のタウロリジンを各ウェルに添加した。対照細胞には40μlの5%コリドン17PFのみを与えた。72時間後、全ての細胞をトリプシン処理によって回収し、細胞増殖阻害を評価するために、Coulter Model Z1粒子計数器(Coulter Corp.、Miami、FL)を用いて細胞数を電子的に測定した。各実験は二通り行い、最低3回繰り返した。
【0051】
フローサイトメトリー研究のために、血清を含む適切な培地中で1×106個のPA-1、SKOV-3、またはNIH-3T3細胞を24時間インキュベートした。24時間後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するように、40μlの体積のタウロリジンを添加した。各細胞株の対照培養物を、40μlの5%コリドン17PFのみを含む培地中でインキュベートした。48時間後、全ての細胞をトリプシン処理により回収し、細胞蛍光分析のために標準的な方法によって調製した。例えば、回収された細胞は、2×106細胞/mlの最終細胞密度で氷冷リン酸緩衝食塩水に再懸濁された。次いで、細胞を、0.05mg/mlヨウ化プロピジウム、0.6%イゲパール(Igepal)、および1%クエン酸ナトリウムの溶液を用いて、暗所、室温で30分間染色した。フローサイトメトリーは、ModFit LTプログラム(Becton Dickinson)を使用するFACScan(Becton Dickinson、Plymouth、England)によって行った。統計解析は、クラスカルワリス(Kruskal Wallis)ノンパラメトリックANOVA検定を用いて行い、その次に、インスタット(Instat)を用いてダン(Dunn)の多重比較を行った。
【0052】
アポアラート(ApoAlert)(登録商標)アネキシンV/FITCアッセイキットを使用したフローサイトメトリー法によって、潜在的なアポトーシス誘導を表すものとして細胞膜ホスホチジルセリン外面化を評価した。簡単に述べると、血清を含む細胞培養培地中で1×106個の細胞を24時間インキュベートした。その後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するようにタウロリジンを添加した。対照培養物には5%コリドン17PFのみを与えた。24時間後、全ての細胞をトリプシン処理により回収した。回収された細胞を200μlの結合緩衝液に再懸濁し、次いで、1μg/mlのアネキシンV/FITCを含む溶液中で、暗所、室温で5分間〜15分間インキュベートした。次いで、アネキシンV結合を定量するために、ModFit LTプログラムを使用するFACScanを利用した細胞蛍光技法と前記の統計解析によって細胞を分析した。
【0053】
PARP切断を評価するためにウエスタンブロット分析を使用した。組織培養培地+血清20mlを含む別々の75cm2組織培養フラスコに、2×106個の細胞を播種した。24時間後、タウロリジンを50μMまたは100μMの濃度で添加した。タウロリジン添加の24時間後、細胞を回収した。細胞数を測定し、各曝露条件から同じ細胞数を含むアリコートを作成した。これらのアリコートから作成した全細胞溶解産物からの総タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロースフィルターに電気転写した。次いで、フィルターを処理して、クローンC-2-10マウスモノクローナル抗PARPタンパク質(Zymed Laboratories、San Francisco、CA)を使用することにより無傷のPARPタンパク質および切断断片を検出した。得られたタンパク質-抗体複合体を標準的な化学発光技法により可視化した。
【0054】
タウロリジンにより誘導される毒性を評価するために、マウスを5匹〜8匹の動物からなる群に分けた。その後、全てのマウスの体重を測定し、3日連続したタウロリジンの単回腹腔内ボーラス注射からなる治療を開始した。評価されたタウロリジン用量は5mg/マウス/注射、10mg/マウス/注射、15mg/マウス/注射、20mg/マウス/注射、25mg/マウス/注射、および30mg/マウス/注射であり、25mg/マウス(1.25ml)および30mg/マウス(1.5ml)の注射以外は、1mlの体積で投与された。注射用タウロリジンは、5%コリドン17PFを添加して2%タウロリジン溶液から希釈された。対照動物には5%コリドン17PFのみを1ml注射した。毎日、動物を検査し、週2回、体重を記録した。10%を超える体重の減少が有意であるとみなされた。最大耐量(MTD)は、約10%の死亡率を生じる用量であるとみなされた。
【0055】
治療有効性を評価するために、マウスに0.5mlの体積で5×106個のSKOV-3細胞の単回腹腔内注射を与えた。その直後に、マウスを7匹の動物からなる治療群に無作為に分けた。3日連続したタウロリジン20mg単回腹腔内ボーラス注射からなるタウロリジン治療を、腫瘍細胞接種の直後、または腫瘍細胞接種後の選択された時間間隔(5日以内)で開始した。対照動物には5%コリドン17PFのみの1ml注射を与えた。毎日、動物を検査し、週2回、体重を記録した。最後のタウロリジン注射の14日後、全ての群のマウスをCO2窒息によって屠殺した。全ての腹腔内腫瘍巣を取り出し、腫瘍の重量を測定した。各治療群の平均腫瘍重量を計算し、治療群間の平均腫瘍重量の差の統計解析はスチューデントt検定を使用した。0.05以下のp値が有意であるとみなされた。
【0056】
タウロリジンは腫瘍細胞増殖を阻害する
タウロリジンが細胞増殖を阻害する能力を、6種類の異なる腫瘍型を示す13種類の異なる株からなるヒトおよびマウス新生物細胞株のパネルにおいて評価した。この調査の結果から、タウロリジンへの3日曝露は、調べられた各細胞株の細胞増殖を阻害することが明らかになった(表5)。
【0057】
選択されたヒトおよびマウス新生物細胞株の増殖に対するタウロリジンのIC50を以下のように評価した。細胞を、1〜5×104個の細胞密度で6ウェル組織培養フラスコの各ウェルに播種した。24時間後、1μM〜100μMの濃度のタウロリジンを添加した。3日後、細胞をトリプシン処理により回収し、細胞数を電子的に測定した。タウロリジンに曝露されていない対照培養物と比較することにより細胞増殖阻害を測定した。IC50は、細胞数を50%阻害するのに必要とされる濃度として計算した。それぞれのIC50値は4回〜8回の測定の平均±SEを示す。
【0058】
【表5】

【0059】
驚くべきことに、各細胞株に関して観察されたIC50は非常に似ており、〜10μM(PA-1、DU-145、HCT-8、HCT-15、B16F10、およびNIH-3T3)から〜35μM(H-596)の比較的狭い範囲にわたって変化した。
【0060】
この研究は、腫瘍細胞増殖に及ぼすタウロリジンの効果を評価した。増殖阻害は、増殖停止または細胞死のいずれかを反映している可能性がある。従って、次に、タウロリジンが細胞増殖の阻害を誘導する機構を特定する研究に焦点を当てた。これらの研究は、ヒト卵巣腫瘍細胞株PA-1およびSKOV-3ならびにNIH-3T3マウス線維芽細胞において行った。従来のフローサイトメトリー技法を使用した研究により、PA-1およびSKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞株における細胞周期分布に及ぼすタウロリジンへの48時間曝露の影響が評価された。これらの研究の結果から、この薬剤への曝露は、細胞周期変化の一致したパターンを誘導しないことが明らかになった。
【0061】
ヒト卵巣腫瘍細胞(PA-1およびSKOV-3)ならびにマウス線維芽細胞(NIH-3T3)における細胞周期分布に及ぼす選択された濃度のタウロリジンへの48時間曝露の影響は以下のように行った。3×105個の細胞をプラスチック組織培養フラスコに播種した。24時間後、25μM、50μM、または100μMの最終濃度を達成するようにタウロリジンを添加した。対照培養物には適量のコリジン17P(Kollidine-17P)のみを与えた。さらに48時間後、細胞を回収し、ヨウ化プロピジウムで染色し、細胞蛍光技法を用いて細胞周期分布を評価した。それぞれの値は、指示された細胞周期にある細胞の割合を示し、3回の測定の平均±SEMである。
【0062】
【表6】

【0063】
詳細に述べると、PA-1細胞では、100μMまでのタウロリジンへの48時間曝露は細胞周期分布にほとんど影響を及ぼさなかった。実際に、タウロリジン曝露にもかかわらず、G0/G1期、S期、およびG2/M期にある細胞の割合は本質的に変わらなかった。または、SKOV-3細胞では、タウロリジン曝露は、G0/G1にある細胞の割合の濃度依存的な減少をもたらしたが、S期およびG2/Mにある細胞の割合を増加させた。重要なことには、PA-1およびSKOV-3細胞株の両方において、タウロリジン曝露はまたサブG0/G1領域でのDNA破片の出現をももたらし、これはタウロリジン濃度依存的な影響であった(図2)。SKOV-3細胞株と同様に、タウロリジンへのNIH-3T3細胞の曝露はG0/G1にある細胞の割合を減少させ、濃度依存的にSにある細胞の割合を増加させた。しかしながら、評価されたヒト卵巣腫瘍細胞とは異なり、NIH-3T3細胞におけるタウロリジン曝露は、サブG0/G1領域におけるDNA破片の出現に有意に影響を及ぼさなかった(図2)。
【0064】
別々の断片へのDNAの切断はアポトーシス過程の最後の事象である。タウロリジン曝露の48時間後のサブG0/G1領域におけるDNA破片の出現は、アポトーシスに関連したDNA断片化を表している可能性がある。この可能性を評価するために、次に、研究は、アポトーシス過程の初期に起こる事象である細胞膜上のホスホチジルセリン外面化を増大させるタウロリジンの能力を評価した。これらの研究はフルオロサイトメトリー(fluorocytometry)に基づいており、ホスホチジルセリン外面化を評価するために蛍光抗体結合アッセイ法(アネキシンV)を使用した。研究の結果(図3に示す)から、PA-1およびSKOV-3のヒト卵巣腫瘍細胞株でのタウロリジンへの24時間曝露は、有意でタウロリジン濃度依存的な、それぞれ4倍および3倍のアネキシンV結合増加を誘導することが明らかになった。対照的に、NIH-3T3細胞では、タウロリジン曝露は抗体結合の有意でない増加(約5%)をもたらした。これらのデータは、細胞周期研究からの結果、ならびにタウロリジン曝露がPA-1およびSKOV-3細胞においてアポトーシスを誘導したが、NIH-3T3細胞では誘導しなかったという観察を裏付けた。これらの結果は、タウロリジンが、非腫瘍細胞と比較して優先的に腫瘍細胞においてアポトーシス(およびアポトーシス死)を誘導することを示している。
【0065】
タウロリジンによるアポトーシス誘導をさらに確かめるために、タウロリジン曝露とPARP切断との関係を評価した。PARPは、一本鎖DNA切断および二本鎖DNA切断の認識および修復に重要な役割を果たす核タンパク質である。さらに、アポトーシス過程における重要な事象は、このタンパク質の、カスパーゼ3およびカスパーゼ9により媒介される切断および結果として起こる触媒失活である。タウロリジン曝露が卵巣腫瘍細胞においてPARP切断をもたらすかどうか確かめるために、50μMまたは100μMのタウロリジンへの24時間曝露後に、PA-1、SKOV-3、およびNIH-3T3細胞の全細胞抽出物に対してウエスタンブロット分析を行った。図4に含まれる代表的なウエスタンブロットに示された、この分析の結果から、PA-1およびSKOV-3細胞での50μMまたは100μMタウロリジンへの曝露はPARP切断をもたらすことが明らかになった。対照的に、NIH-3T3細胞では、タウロリジンへの曝露後、このタンパク質分解事象の形跡がほとんどなかった。これらのデータは、タウロリジンが腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導するが、非腫瘍細胞では誘導しないことを裏付けている。
【0066】
正常な非新生物細胞と比較して腫瘍細胞における優先的なアポトーシス死の誘導を考えて、抗新生物活性をさらに評価するために、腫瘍を有する動物にタウロリジンを投与した。腹腔内ヒト卵巣腫瘍異種移植片を有するヌードマウスにおいてタウロリジンの抗新生物活性を評価する研究を開始した。雌ヌードマウスにおけるタウロリジンの最大耐量(MTD)摂生を特定するために、および毒性を評価するために、インビボ研究を設計した。毒性は、3日腹腔内ボーラス注射摂生後の体重変化および死亡率を測定することにより評価した。毎日1mlの注射により、5mg/マウス/日〜30mg/マウス/日の用量が送達された。これらの研究の結果から、毎日15mg/マウス(〜650mg/kg)以下の用量でのタウロリジンは十分に許容されることが明らかになった(表7)。
【0067】
無胸腺(ヌード)雌マウスにおけるタウロリジンにより誘導される毒性は以下のように評価した。5匹〜10匹のマウスからなる群に3日連続してタウロリジンを注射した。評価されたタウロリジン用量は5mg/マウス/注射〜30mg/マウス/注射であり、(限られた溶解度のために、それぞれ1.25mlおよび1.5mlの体積で送達された25mgおよび30mgの用量以外は)1mlの体積で腹腔内に送達された。この注射摂生間、およびその後30日間毎日、マウスの体重を測定し、検査した。実験を最低3回繰り返し、死亡率および体重減少のデータをプールした。
【0068】
【表7】

【0069】
この投与計画の結果としての最大体重減少は7%であり、体重は、注射摂生の完了後7日以内で注射前のレベルに戻った。20mg/マウス以上の用量を使用した摂生では、より著しい毒性が観察された(表7)。詳細に述べると、マウスあたり20mg、25mg、または30mgを使用した摂生の体重減少最下点は、それぞれ、-12%、-16%、および-25%であった。さらに、これらのタウロリジン投与計画は、それぞれ、15%、43%、および100%の死亡率をもたらした。
【0070】
毒性研究に基づいて、20mg/マウスの用量で3日間毎日1mlのタウロリジン腹腔内注射がMTDであると選択された。次に、研究は、SKOV-3細胞株から得られた腹腔内ヒト卵巣腫瘍異種移植片を有するマウスにおいて、この摂生の抗新生物活性を評価した。マウスに5×106個のSKOV-3細胞を腹腔内注射した。3日20mg/マウスの投与計画を用いるタウロリジン治療は腫瘍細胞注射の5日後までに開始した。タウロリジン治療終了の14日後、マウスを屠殺し、全ての腹腔内腫瘍を取り出し、その重量を測定した。図5および図6にまとめられた、この研究の結果から、腫瘍細胞注射時に開始した場合、タウロリジン治療は非常に効果的であり、腫瘍形成(図5)、腹水発達、および増殖(図6)を阻害することが明らかになった。
【0071】
SKOV-3ヒト卵巣腫瘍細胞の腹腔内異種移植片を有するマウスの肉眼的外観(gross appearance)に及ぼすタウロリジン単回3日腹腔内ボーラス注射摂生(20mg/マウス/注射、腫瘍細胞注射時に開始)の効果を評価した。腫瘍細胞注射の19日後、対照マウス(タウロリジンなし)の平均腫瘍重量は約1.7gmであった。さらに、対照動物は、7mlまでの腹水を含むことが見出された。タウロリジン治療群(タウロリジンの単回摂生)の平均腫瘍重量は50mg未満であり、腹水生成の形跡はなかった。これらのタウロリジン治療動物のかなりの数に腫瘍が無いことも見出された。
【0072】
腫瘍細胞注射の日に治療を開始した場合、治療マウスの〜80%では屠殺時に疾患の形跡がなかった。さらに、腫瘍を有する治療マウスにおける平均腫瘍大きさは対照(賦形剤治療)マウスより約1/40小さかった。タウロリジン治療が腫瘍細胞注射の3日後まで遅れても、マウスの約10%には屠殺時に腫瘍が無く、これもまた、治療マウスの平均腫瘍大きさは対照より有意に小さかった。腫瘍細胞注射の5日後の(確立した腹腔内卵巣腫瘍を有するマウスでの)、この単回タウロリジン治療サイクルの開始はなお腫瘍増殖を有意に阻害することができた。
【0073】
本明細書に示したデータは、タウロリジンにより例示される化合物の種類が、腫瘍細胞増殖を選択的に阻害することにより強力な抗新生物活性を有し、腫瘍細胞においてアポトーシスを特異的に誘導することを示している。驚くべきことに、タウロリジンの細胞傷害IC50は10μM〜50μMの範囲内であり、抗生物質効果に必要とされるIC50より約1/100少ないことが見出された。この有効濃度の差は、タウロリジンの観察された低い臨床的毒性と合わせて考えると、この種類の化合物が安全で臨床的に十分に許容される抗新生物薬として有用であることを示している。
【0074】
前記のデータから、タウロリジンへの曝露は、充実性腫瘍細胞株の広範なパネルにおいて評価された全ての腫瘍細胞株の増殖および生存能力を効果的に阻害することが明らかになった。タウロリジンは新生物細胞においてアポトーシスを誘導した。このことから、タウロリジンの作用機構は、単に、細胞表面付着の成分または過程の阻害ではないことが分かる。非付着癌細胞モデルにおいて行われた研究の結果は前記の発見を裏付けており、HL-60ヒト前骨髄細胞株での90分という短いタウロリジンへの曝露がアポトーシスを誘導することを示している。タウロリジンへの曝露は、カスパーゼ3、カスパーゼ8、およびカスパーゼ9の活性化、ミトコンドリア膜の完全な状態の破壊(これらの細胞小器官からのチトクロムC流出が伴う)、およびPARPタンパク質の切断をもたらす。
【0075】
アポトーシス誘導に耐えるように遺伝子操作されたヒト白血病HL-60細胞が、シグナル伝達カスケードのbcl-2/bax(抗死遺伝子(anti-death gene))ポイントとは無関係に(bcl-2/baxポイントの下流で)アポトーシスになるように誘導された。驚くべきことに、Bcl2過剰発現HL-60細胞でのタウロリジン曝露は、開始は遅れるがアポトーシスを誘導できることが見出された。これらのデータは、活性なタウロリジン分解産物が、細胞内シグナル伝達過程に影響を及ぼし、アポトーシス過程を開始する膜成分と反応することができることを示している。
【0076】
タウロリジンがアポトーシスを誘導する能力は腫瘍細胞に特異的であることが見出された。この観察は、腫瘍の無いことが分かっている動物から得られた正常な(非腫瘍)初代細胞を用いて確かめられた。正常なマウス骨髄培養物ならびに活性化ヒトT細胞培養物においてタウロリジンの細胞傷害活性およびアポトーシス活性を評価した。両方の正常細胞モデルにおいて、タウロリジンは高μM範囲では細胞傷害性でなく、アポトーシス誘導と一致する細胞変化を生じなかった。正常マウス骨髄において、細胞増殖を阻害するのにmM範囲の濃度が必要とされた。これらの発見は、タウロリジン(またはその代謝産物の1つ)が、腫瘍細胞アポトーシスを誘導することができる腫瘍細胞特異的な標的に近づくことを示している。
【0077】
実施例2:臨床的使用
再発性卵巣腫瘍を除去する手術の直後の腹腔内洗浄によってタウロリジンを投与した。膠芽腫を有する患者にはタウロリジンを全身投与した。現在まで、タウロリジンはこれらの患者において十分に許容されている。
【0078】
進行した再発性多形性膠芽腫と診断された4人の患者をタウロリジンで治療した。この患者群の予後は約8週間の生存であると決定された。各患者は、タウロリジン20gが週2回6時間にわたって腕に静脈内注入される少なくとも1回の5週摂生を受けた。治療された4人の患者のうち3人で腫瘍塊が縮小したか、または同じままであった。1症例においてわずかな増大が見られた。治療開始の14週間後、どの患者も生存しており、8週間の予後を超えた。タウロリジンの全身投与によって、これらの脳腫瘍患者で有益な臨床効果が達成された。このことから、タウロリジンまたはタウロリジンの代謝産物は血液脳関門を首尾よく通過して脳の腫瘍に接近したことが分かる。
【0079】
これらのデータは、タウロリジンおよびその誘導体または代謝産物が、腫瘍増殖を阻害または阻止するのに、および腫瘍患者の平均余命を延ばすのに有用であることを示している。
【0080】
他の態様は添付の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、哺乳動物における中枢神経系(CNS)の腫瘍の増殖を阻害する方法:
該哺乳動物に、タウロリジン(taurolidine)、タウルルタム(taurultam)、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物を投与する段階。
【請求項2】
腫瘍が、神経膠腫、神経芽細胞腫、星状細胞腫、癌性髄膜炎(carcinomatous meningitis)、およびCNSリンパ腫からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腫瘍が非CNS原発腫瘍からの転移である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
アポトーシスによる腫瘍細胞死を誘導するのに十分な用量で組成物が投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
腫瘍細胞が壊死と比較して優先的にアポトーシスを受ける用量で、組成物が投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
代謝拮抗剤、プリン類似体またはピリミジン類似体、アルキル化剤、挿入剤、架橋剤、および抗生物質からなる群より選択される化学療法剤を投与する段階。
【請求項7】
以下の段階を含む、哺乳動物における薬物耐性腫瘍の増殖を阻害する方法:
該哺乳動物に、タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物を投与する段階。
【請求項8】
薬物耐性腫瘍が充実性腫瘍、非充実性腫瘍、およびリンパ腫からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
薬物耐性腫瘍が癌腫である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
薬物耐性腫瘍が肉腫である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
薬物耐性腫瘍が、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、CNS癌、肝臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、膀胱癌、黒色腫、白血病、およびリンパ腫からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項12】
アポトーシスによる腫瘍細胞死を誘導するのに十分な用量で組成物が投与される、請求項7記載の方法。
【請求項13】
腫瘍細胞が壊死と比較して優先的にアポトーシスを受ける用量で、組成物が投与される、請求項7記載の方法。
【請求項14】
以下の段階をさらに含む、請求項7記載の方法:
代謝拮抗剤、プリン類似体またはピリミジン類似体、アルキル化剤、挿入剤、架橋剤、および抗生物質からなる群より選択される化学療法剤を投与する段階。
【請求項15】
組成物が、アポトーシスによる腫瘍細胞死を誘導するのに十分な用量で腫瘍細胞の表面と直接接触するように投与される、哺乳動物における腫瘍細胞を殺傷する方法であり、以下の段階を含む方法:
哺乳動物に、タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物を投与する段階。
【請求項16】
腫瘍細胞が、充実性腫瘍、非充実性腫瘍、またはリンパ腫に由来する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
腫瘍細胞が癌腫または肉腫である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
腫瘍細胞が、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、CNS癌、肝臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、膀胱癌、黒色腫、白血病、およびリンパ腫からなる群より選択される種類の腫瘍細胞である、請求項15記載の方法。
【請求項19】
腫瘍細胞が膀胱癌腫である、請求項15記載の方法。
【請求項20】
組成物を含む溶液で膀胱を膨張させる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
腫瘍細胞が悪性皮膚細胞である、請求項15記載の方法。
【請求項22】
悪性皮膚細胞が、基底細胞癌、扁平上皮癌、黒色腫、肉腫、およびリンパ腫からなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
組成物が、悪性皮膚細胞へ直接投与される軟膏に製剤化される、請求項21記載の方法。
【請求項24】
腫瘍細胞が肝臓癌である、請求項15記載の方法。
【請求項25】
肝臓の血管への注入により組成物が投与される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
肝臓動脈への注入により組成物が投与される、請求項24記載の方法。
【請求項27】
門脈への注入により組成物が投与される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
以下の段階を含む、骨髄細胞の集団から腫瘍細胞をエクスビボで取り除く方法:
該集団と、タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物とを接触させる段階。
【請求項29】
以下の段階を含む、末梢血単核細胞の集団から腫瘍細胞を取り除く方法:
該集団と、タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物とを接触させる段階。
【請求項30】
集団と、アポトーシスによる腫瘍細胞死を誘導するのに十分な量の組成物を接触させる、請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
集団と、腫瘍細胞の壊死と比較して優先的に腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する量の組成物を接触させる、請求項28または29記載の方法。
【請求項32】
タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む、治療用フィルム形成組成物。
【請求項33】
化合物が、粘着パッチ、軟膏、ペースト剤、噴霧剤、パッチ、クリーム、ゲル、吸収性スポンジ、または発泡体の形をとる、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
以下の段階を含む、哺乳動物における腫瘍の増殖を阻害する方法:
シグナルが該細胞のアポトーシス死を誘導する、該哺乳動物における腫瘍細胞と、細胞表面シグナルを開始するのに十分な量のタウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物とを接触させる段階。
【請求項35】
以下の段階を含む、哺乳動物における脊髄異形成(myelodysplastic)細胞の増殖を阻害する方法:
該哺乳動物に、タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体を含む組成物を投与する段階。
【請求項36】
中枢神経系(CNS)の腫瘍の増殖を阻害するための医薬品の製造における、タウロリジン、タウルルタム、または生物学的に活性なその誘導体の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−136540(P2012−136540A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38079(P2012−38079)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【分割の表示】特願2001−541495(P2001−541495)の分割
【原出願日】平成12年12月6日(2000.12.6)
【出願人】(508326459)ガイストリッヒ ファーマ アーゲー (2)
【Fターム(参考)】