説明

腫瘍指向性ポテンシャルについてのマーカーとしての、幹細胞表面上のCXCR4タンパク質発現の使用

本発明は、腫瘍指向性の幹細胞(特に、神経幹細胞)、ならびに、新生物形成の病巣への治療遺伝子産物のための送達ビヒクルとしてのその使用に関する。腫瘍指向性ポテンシャルを有する幹細胞は、幹細胞のCXCR4レセプターまたはケモカインSDF−1に対する親和性の提示に基づいて選択される。幹細胞は、さらに、星状細胞前駆体に特徴的なマーカーを提示し得る。幹細胞は、ケモカインSDF−1を含む処置レジメンの一部として投与され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の権利)
本明細書中に記載される本発明は、少なくとも部分的に、セダーズ−シナイ メディカル センターに対して、National Institutes of Healthにより与えられた助成金番号NS02232の下で生じたものである。政府は、本発明に特定の権利を有し得る。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、癌のような種々の疾患状態を処置および予防することに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
グリア新生物としても知られている、中枢神経系(CNS)の癌は、研究の優先事項であり続けている。グリア新生物としては、多くの異種性腫瘍(例えば、星状細胞腫、上衣細胞腫瘍、多形性神経膠芽細胞腫および未分化神経外胚葉腫瘍)が挙げられる。悪性の神経膠腫の発生率は、癌の他の形態と比較して低いものの、グリア新生物は、致死的であり、かつ処置が困難である。さらに、外科的技術およびアジュバント療法における進歩にも関わらず、悪性のグリア腫瘍を有する患者の予後は、暗いままである。例えば、悪性の神経膠腫、多形性神経膠芽細胞腫の最も一般的かつ活動的な形態は、1年生存率および2年生存率が0に近づく、診断後のメジアン生存時間を有する(非特許文献1)。
【0004】
外科的な切除とそれに続く照射および/または化学療法を中心とする、現在使用されている治療的アプローチの失敗は、これらの腫瘍の非常に播種性の性質に根ざしている。高いグレードの神経膠腫は、高度に浸潤性の新生物であり、単発性の腫瘍細胞または新生物細胞のクラスターが、脳全体にわたって、しばしば中心的な腫瘍から有意な距離まで移動する。積極的な治療にもかかわらず、これらの腫瘍病巣の全てを首尾よく排除することはほぼ不可能であり、この病巣は、最終的に、この病巣の近くでの普遍的な腫瘍再発のためのリザーバとして機能し;それにより、この疾患の不可避な死亡率に寄与する。
【0005】
照射および化学療法を含む標準的なアジュバント治療は、長期の生存に小幅の効果を有するが、患者の予後に意味のあるあらゆるインパクトを達成することができていない。悪性の神経膠腫のための首尾よい治療様式の開発は、従って、原発性の腫瘍塊の外科的な切除後に、全ての生存可能な頭蓋内の新生物リザーバを排除する手段を考案する能力が、中心となる。今のところ、これは、疾患プロセスの非常に播種性の性質、そして、現在、残っている腫瘍細胞ごとを適切に可視化し、治療的に標的化することができていないことを考慮すると、困難な課題のままである。
【0006】
移動した腫瘍サテライトに対して特別に指向させた処置の1つの有望な手段は、神経幹細胞(NSC)の使用を包含する。NSCは、中枢神経系の多能性前駆体細胞またはニューロンのグリア前駆体であり、胚性、胎児、新生児、または成人の組織に由来し得、そして、長期の持続的なインビトロ増殖、およびニューロンまたはグリアの発生運命への最終的な分化が可能である(非特許文献2)。さらに、NSCは、げっ歯類において確立された頭蓋内神経膠腫に接種されたとき、インビボで神経膠腫細胞を播種させるための強力な指向性を示す。具体的には、NSCは、注射の最初の部位から離れて移動し、原発性の腫瘍塊から離れて広がった腫瘍サテライトと共に散らばるか、またはその近位へと追跡し、これらを薬物/処置送達のための第一の候補とする(非特許文献3;非特許文献4)。さらに、他の型の幹細胞を使用する癌の処置がまた、成功することが実証されている。例えば、造血幹細胞が、卵巣癌のような婦人科系の固形腫瘍の処置のための治療ストラテジーを作るために使用されている(非特許文献5)。
【0007】
腫瘍傷害性ケモカインを分泌するように遺伝子操作された幹細胞は、この様式で、有意な生物活性を有するこれらの治療的タンパク質を、直接これらの播種した新生物病巣に送達し得る。特に、免疫刺激性サイトカインであるインターロイキン(IL)−12およびIL−4、ならびに、アポトーシス促進性タンパク質腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を分泌する特定のNSC集団は、腫瘍ポケットの移動を標的化するために使用され、腫瘍負荷の減少および生存の延長をもたらしている(非特許文献4;非特許文献6;非特許文献7)。さらに、幹細胞の治療送達用ビヒクルとしての使用は、有望な前臨床の結果を提示している。
【0008】
しかし、患者におけるこの技術の使用は、有意な制限である鍵(中でも、臨床的に利用可能であり、かつ法律的に利用可能な腫瘍指向性ニューロン前駆体の供給源の単離である)により、なおも妨げられている。しかし、この分野は、多能性のニューロン前駆体が由来し得る、代替的な組織供給源に関する近年の報告により例示されるように、発展している(非特許文献8;非特許文献9)。
【0009】
さらなる問題は、幹細胞の指向性挙動を支配する正確な機構がほとんど理解されていないという事実にある。初期の観察は、多くの腫瘍内接種された幹細胞が、強い移動活性および腫瘍追跡能を示したが、かなりの集団の移植された幹細胞は、この挙動を示さず、最初に頭蓋内注射した部位に局在し続けたことを実証している(非特許文献4)。高いグレードの神経膠腫に付随するひどい予後を鑑みると、トランスレーショナルポテンシャル(translational potential)を用いた新規治療を開発する、急を要する必要性が存在する。従って、当該分野では、浸潤性の新生物を処置および予防する方法に対する必要性が存在する。
【非特許文献1】Surawicz,T.S.ら、「Brain tumor survival:results from the National Cancer Data Base」,J.Neurooncol.,(1998)Vol.40,p.151−160
【非特許文献2】Cai,J.ら、「Properties of a fetal multipotent neural stem cell(NEP cell)」,Dev.Biol.,(2002)Vol.251,p.221−240
【非特許文献3】Aboody,K.S.ら、「Neural stem cells display extensive tropism for pathology in adult brain:evidence from intracranial gliomas」,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,(2000)Vol.97,No.23 p.12846−12851
【非特許文献4】Ehtesham,M.ら、「The use of interleukin 12−secreting neural stem cells for the treatment of intracranial glioma」,Cancer Res.,(2002)Vol.62,p.5657−5663
【非特許文献5】Perillo,A.ら、「Stem cells in gynecology and obstetrics」,Panminerva Med.,(2004)Vol.46,No.1,p.49−59
【非特許文献6】Benedetti,S.ら、「Gene therapy of experimental brain tumors using neural progenitor cells」,Nat.Med.,(2000)Vol.6,No.4 p.447−450
【非特許文献7】Ehtesham,M.ら、「Induction of glioblastoma apoptosis using neural stem cell−mediated delivery of tumor necrosis factor−related apoptosis−inducing ligand」,Cancer Research,(2002)Vol.62,p.7170−7174
【非特許文献8】Jiang,Y.ら、「Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow」,Nature,(2002)Vol.418,p.41−49
【非特許文献9】Kabos,P.ら、「Generation of neural progenitor cells from whole adult bone marrow」,Exp.Neurol.,(2002)Vol.178,p.288−293
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
哺乳動物における疾患状態を処置するために有用な単離された幹細胞が本明細書中に記載される。この幹細胞は、CXCR4レセプター、星状細胞に分化した幹細胞に特徴的なマーカーおよび/またはケモカインSDF−1に対する親和性を提示し、そして、任意の従来の手段(例えば、腫瘍内接種)によって哺乳動物に投与され得る。この幹細胞は、神経幹細胞(NSC)であり得る。さらに、本発明の幹細胞は、疾患状態の処置のために細胞傷害性サイトカインを分泌するように遺伝子操作され得る。本発明の幹細胞を含有する組成物は、さらに、アジュバントのようなさらなる成分を含有して、治療的に簡便な処方を提供し、そして/または、幹細胞の生化学的送達および効率を高め得る。さらに、本発明の幹細胞を用いて癌を処置または予防する方法が提供される。なおさらに、本発明の幹細胞を用いて癌を処置または予防する方法は、必要に応じて、ケモカインSDF−1を用いる現行の処置を包含し得る。
【0011】
本発明の実施形態は、腫瘍指向性ポテンシャルを有する幹細胞を選択するための方法を提供する。本発明の方法は、幹細胞のCXCR4レセプターおよび/またはケモカインSDF−1に対する親和性の提示に基づいて幹細胞を選択する工程を包含する。さらに、本発明の種々の実施形態に従って腫瘍指向性ポテンシャルを有する幹細胞を選択するための方法は、星状細胞前駆体に特徴的なマーカーのようなさらなるマーカー(例えば、A2B5またはグリア繊維状酸性タンパク質(GFAP))の存在に基づいて選択する工程をさらに包含し得る。
【0012】
本発明の実施形態は、さらに、本発明の幹細胞を使用することによって、哺乳動物において疾患状態を処置する方法を提供する。本発明の方法は、任意の従来の手段(例えば、腫瘍内接種)によって幹細胞を投与する工程を包含する。さらに、本発明の方法は、CXCR4レセプター、ケモカインSDF−1に対する親和性、および必要に応じて、星状細胞に分化した幹細胞に特徴的なマーカーを提示する幹細胞の投与を包含し得る。この幹細胞は、アジュバントのようなさらなる成分と共に投与されて、治療に簡便な処方を提供するか、そして/または組成物の生化学送達および効力を高め得る。本発明の方法は、ケモカインSDF−1の投与を包含し得る。なおさらに、本発明の方法は、癌のような種々の疾患状態の処置に有用であり得る。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の幹細胞を用いて哺乳動物を処置する際に使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明の方法と整合性の取れた様式で使用するための指示書と共に一定量の本発明の幹細胞を包含する。さらに、本発明のキットは、一定量のケモカインSDF−1を包含し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
(A.定義)
特に定義されない限り、本明細書中で使用される科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版,J.Wiley & Sons(New York,NY 1994);March,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 第4版 J.Wiley & Sons(New York,NY 1992);ならびに、SambrookおよびRussel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版 Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,NY 2001)は、本願において使用される用語の多くに対する一般的なガイドを当業者に提供する。
【0015】
当業者は、本明細書中に記載される方法および材料に類似するかまたは等価である多くの方法および材料を認識し、これらは、本発明を実施する際に使用され得る。実際、本発明は、決して記載される方法および材料に限定されない。本発明の目的のために、以下の用語が、以下に定義される。
【0016】
特定の癌および/またはその病理を「緩和する」とは、腫瘍を分解すること、例えば、腫瘍の構造完全性または結合組織を崩壊させて、その結果、処置前の腫瘍サイズと比べて腫瘍サイズが減少することを包含する。癌の転移を「緩和する」とは、癌が他の器官に広がる速度を低下させることを包含する。
【0017】
「有益な結果」とは、疾患状態の重篤度を減少または緩和させること、疾患状態が悪化することを防ぐこと、疾患状態を治癒すること、および患者の生命または余命を延長することが挙げられ得るがこれらに限定されない。疾患状態は、中枢神経系に関連し得るか、または中枢神経系により調節され得る。
【0018】
「癌」および「癌性」とは、代表的には、制御されていない細胞の増殖により特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を指すか、または説明する。癌の例としては、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌、および脳腫瘍(星状細胞腫、上衣細胞腫瘍、多形性神経膠芽細胞腫、および未分化神経外胚葉腫瘍が挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「状態」および「疾患状態」としては、任意の形態の癌;特に、星状細胞腫、上衣細胞腫瘍、多形性神経膠芽細胞腫、および未分化神経外胚葉腫瘍が挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0020】
癌を「治癒する」とは、腫瘍が処置後に検出され得ないように腫瘍を分解することを包含する。腫瘍は、例えば、血液供給の欠如による萎縮によってか、または、本発明に従って投与される1つ以上の成分により攻撃もしくは分解させることによって、サイズが減少し得るか、または検出できなくなり得る。
【0021】
「サイトカイン」は、細胞内メディエーターとして別の細胞に作用する、1つの細胞集団により放出されるタンパク質についての一般的な用語である。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、および伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインに含まれるのは、成長ホルモン(例えば、ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン);副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;レラキシン;プロレラキシン;糖タンパク質ホルモン(例えば、卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体形成ホルモン(LH));肝臓増殖因子;線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子−αおよび−β;ミューラー阻害物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;脈管内皮増殖因子(VEGF);インテグリン;トロンボポエチン(TPO);神経増殖因子(NGF)(例えば、NGF−β);血小板増殖因子;トランスフォーミング成長因子(TGF)(例えば、TGF−αおよびTGF−β);インスリン様成長因子−Iおよび−II;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子(osteoinductive factor);インターフェロン(例えば、インターフェロン−α、−β、および−γ);コロニー刺激因子(CSF)(例えば、マクロファージ−CSF(M−CSF)、顆粒球−マクロファージ−CSF(GM−CSF)および顆粒球−CSF(G−CSF));インターロイキン(IL)(例えば、IL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12およびIL−13);腫瘍壊死因子(例えば、TNF−αまたはTNF−β);ならびに他のポリペプチド因子(LIFおよびkitリガンド(KL)を含む)である。本明細書中で使用される場合、サイトカインとの用語は、天然の供給源に由来するタンパク質、または組換え細胞培養物に由来するタンパク質、および、ネイティブな配列のサイトカインの生物学的に活性な等価物を包含する。
【0022】
「提示する」または「提示すること」は、一般に、何かの外向きな存在または表示をいう。例えば、この用語は、細胞表面マーカーまたは膜貫通マーカーの存在または表示を指し得る。
【0023】
本明細書中で使用される場合「単離された」は、組換え技術により製造された場合に他の細胞材料もしくは培養培地を実質的に含まないか、または、化学的に合成された場合に化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない、純化された神経幹細胞を包含する。
【0024】
本明細書中で使用される場合「哺乳動物」は、Mammalia網に入る全てのメンバーを指し、これらとしては、ヒトおよび非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーおよび他の類人猿、およびサル種);家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマ);家庭の哺乳動物(例えば、イヌおよびネコ);実験動物(マウス、ラットおよびモルモットのようなげっ歯類を含む)などが挙げられるがこれらに限定されない。この用語は、特定の年齢または性別は意味しない。従って、成人および新生児の被験体、ならびに胎児は、雄性であれ雌性であれ、この用語の範囲内に包含されることが意図される。
【0025】
「神経幹細胞」および「神経前駆体」またはNSCは、より多くの細胞を生じる、大規模な増殖能力を有する多能性の未分化細胞、ならびに、最終的にはニューロンおよび支持グリア細胞の両方に分化し得る前駆体を指す。
【0026】
癌の「病理」とは、患者の健康を損なう全ての現象を包含する。病理としては、異常または制御不能な細胞増殖、転移、隣接する細胞の正常な機能の干渉、異常なレベルでのサイトカインもしくは他の分泌生成物の放出、炎症性もしくは免疫学的な応答の抑制または悪化、新生物形成、前癌状態、悪性腫瘍、周囲もしくは遠隔の組織もしくは器官(例えば、リンパ節)の浸潤などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
「幹細胞」は、多くの細胞を生じる、大規模な増殖能を有する、あらゆる組織に由来する全能性の未分化細胞、ならびに、最終的にあらゆる組織(例えば、神経幹細胞を含む)に分化し得る前駆体を指す。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「処置」および「処置すること」は、治療的処置および予防的な処置の両方を指し、ここで、目的は、その処置が最終的には失敗に終わったとしても、標的とする病理学的状態または障害を、予防または減速(軽減)させることである。処置を必要とする被験体としては、すでに障害を有する被験体、ならびに、障害を有しがちな被験体、または障害が予防されるべき被験体が挙げられる。腫瘍(すなわち、癌)の処置において、治療因子は、腫瘍細胞の病理を直接減少し得るか、または、他の治療因子(例えば、照射および/または化学療法)による処置に対して腫瘍細胞をより感受性にし得る。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「腫瘍」は、悪性であれ良性であれ、全ての新生物細胞の増殖および過形成(growth and proliferation)、そして、全ての前癌および癌性細胞および組織を指す。
【0030】
(B.詳細な説明)
本発明は、頭蓋内神経膠腫の治療モデルにおいて利用される幹細胞集団の腫瘍指向性成分が、有意なレベルのCXCケモカインレセプター4(CXCR4)を発現する星状細胞前駆体を含むという、驚くべき発見に基づいている。このCXCR4は、発生段階の脳におけるニューロンおよびグリア前駆体を含む、種々の細胞型において細胞の移動を支配し、帰巣させると考えられている、ケモカインレセプターである。CXCR4に対する唯一の公知のリガンドである間質細胞由来因子−1(SDF−1)の神経膠腫細胞による産生が、組織学的グレード、腫瘍細胞の生存、および侵襲性と相関したことが、近年報告された(Rempel,S.A.ら、「Identification and localization of the cytokine SDF1 and its receptor,CXC chemokine receptor 4,to regions of necrosis and angiogenesis in human glioblastoma」,Clin.Cancer Res.,Vol.6,p.102−111(2000);Barbero,S.ら、「Stromal cell−derived factor 1 alpha stimulates human glioblastoma cell growth through the activation of both extracellular signal−regulated kinases 1/2 and Akt」,Cancer Res.,Vol.63,p.1969−1974(2003))。本発明の方法が基づくデータは、少なくとも部分的に、「探し求め、破壊する」という腫瘍指向性の移動という治療的に関連する挙動を示す、全身性の幹細胞集団における特定の細胞の重要な特徴を描写する。これらの特徴は、Ehtesham,M.ら、「The Use of Interleukin 12−secreting Neural Stem Cells for the Treatment of Intracranial Glioma」,Cancer Res.,Vol.62,p.5657−5663(2002)、およびEhtesham,M.ら、「Glioma Tropic Neural Stem Cells Consist of Astrocytic Precursors and Their Migratory Capacity Is Mediated by CXCR4」,Neoplasia,Vol.6,No.3,p.287−293(2004)に記載されている。これらの刊行物は、その全体が、本明細書中で、本明細書により参考として援用される。これらのマーカーの使用、およびこれらの移動性下位集団の特徴づけに関するさらなる研究は、肝細胞の下位集団を純化することを可能にし、このことは、インビボで播種性の腫瘍サテライトに対する指向性を支配し、従って、この設定において幹細胞の治療ポテンシャルの最適化を可能にするキューに対してますます応答性にする。
【0031】
幹細胞の接種は、腫瘍指向性活性、および幹細胞が接種の地点に局所的に留まることにより特徴付けられる。これは、インビボで接種された幹細胞集団における異なる表現型プロフィールの結果である。この文脈において、幹細胞接種材料において観察される腫瘍指向性能は、分化の特定の段階にある幹細胞の特定の下位集団により提示される。インビボ神経膠腫追跡幹細胞は、発生段階の脳における幹細胞の移動に関連する公知の化学走性のキューに対して応答性を示す、ケモカインレセプターのような表現型マーカーを発現する。悪性の神経膠腫にもまた特異的である、ケモカインレセプターを提示するこれらの追跡幹細胞は、癌、および幹細胞に対して受容性である他の状態の処置に特に有効であり得る。
【0032】
本発明の1つの実施形態において、悪性の神経膠腫に指向性の単離された幹細胞としては、CXCR4レセプターを提示する幹細胞が挙げられる。さらに、単離された幹細胞としては、さらに、ケモカインSDF−1に対して親和性を提示する幹細胞が挙げられ得る。単離されたNSCは、本発明のこれらの実施形態と関連して、特に有用であり得る。本発明の別の実施形態において、本発明と関連して使用される単離された腫瘍指向性の幹細胞はまた、星状細胞または星状グリア細胞に分化した幹細胞に特徴的なマーカーを提示し得る;これらの幹細胞は、さらに腫瘍指向性ポテンシャルを有する。ここでも、NSCは、本発明のこの実施形態に関連して、特に適切な幹細胞であり得る。マーカーとしては、A2B5および/またはGFAPが挙げられ得るが、また、Sox−2、段階特異的胚性抗原(SSEA)−1、S−100、Hes−1、Notch−1、4’,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、神経細胞表面分子の胚形態(E−NCAM)、興奮性アミノ酸トランスポーター(EAAT)1、EAAT2、血小板由来増殖因子レセプター−α(PDGFRα)、サイクリック2’,3’−ヌクレオチド−3’−ホスホジエステラーゼ(CNPase)、およびβ−IIIチューブリンが挙げられ得るがこれらに限定されない;当業者に容易に理解されるように、他の機能的に関連するマーカーが、追加しておよび/または代わりに存在し得、そして、多くのさらなるマーカーがまた存在し得る。
【0033】
さらに、本発明の別の実施形態において、CXCR4レセプターおよび/または星状細胞の分化に特徴的な他のマーカーを提示する単離された幹細胞は、幹細胞のこれらのレセプターおよびマーカーの提示に基づいて選択され得る。なおさらに、単離された幹細胞は、幹細胞のケモカインSDF−1に対する親和性の提示に基づいて選択され得る。これらのレセプターおよびマーカー、またはケモカインに対する親和性の存在に基づく、これらの幹細胞の選択は、過度の実験を行なうことなく、当業者により簡便な方法により容易に達成され得る。例えば、選択の方法は、蛍光細胞分析分離法(FACS)、親和性カラム、親和性ビーズ、または、特定の細胞表面分子に選択的に結合する任意の方法を含み得る。あるいは、上記方法は、幹細胞によって発現されない細胞表面分子を使用して所望されない細胞を選択的に除去または殺傷し、そして、このやり方で、所望の細胞を富化し得る。あるいは、上記方法は、幹細胞に選択的に結合する磁気ビーズの使用を包含し得る。
【0034】
単離された幹細胞は、当業者により容易に認識されるように、単一の因子としての使用、併用療法における使用、または、本明細書中に列挙されないさらなる成分との使用に適切であり得る。
【0035】
幹細胞が特定の因子と接触したときに、分化が生じる。例えば、幹細胞が、ウシ胎仔血清、または他の形態形成因子の存在下で増殖するとき、幹細胞は、これらに種々の細胞型、または分化度の低い幹細胞に分化し得る。例えば、NSCは、神経細胞またはグリア細胞(ニューロン、グリア細胞、希突起神経膠細胞、および星状細胞を含む)に分化する。
【0036】
幹細胞を、特定の型の神経細胞または他の型の前駆体に分化させ得る多くの分化因子が当業者に公知である。従って、本明細書において単離された幹細胞が、当業者に公知の任意に手段によって分化され得ることが想定される。分化因子のいくつかの例としては、インターフェロン−γ、ウシ胎仔血清、神経増殖因子、上皮増殖因子(EGF)を取り除くこと、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を取り除くこと、ニューロジェニン(neurogenin)、脳に由来する神経指向性因子(BDNF)、甲状腺ホルモン、骨形態形成タンパク質(BMP)、白血病阻害因子(LIF)、超音波ヘッジホッグ(sonic hedgehog)(shh)、グリア細胞株由来の神経指向性因子(GDNF)、脈管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン、インターフェロン、幹細胞因子(SCF)、アクチビン、インヒビン、ケモカイン、レチノイン酸および毛様体の神経指向性因子(CNTF)が挙げられるがこれらに限定されない。さらに、幹細胞は、永久的または一過性に分化され得る。例えば、幹細胞は、そのマーカーを識別のために使用するために、一過性に分化させてそのマーカーを発現させ得、その後、分化因子を取り除いて、マーカーがもはや発現しないようにし得る。しかし、分化の文脈において、インターフェロン−γのような因子は、異なるマーカーの発現を誘導するものの、古典的な分化因子としては分類され得ないことが理解されるべきである。
【0037】
当業者に公知の任意の抗分化因子が使用され得ることもまた理解されるべきであり、これらの抗分化因子としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−β、TGF−α、EGF、FGFおよびデルタ(notchリガンド)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
本発明の別の実施形態において、本発明と関連して使用される、単離された腫瘍指向性幹細胞は、例えば、癌の処置に関与する細胞傷害性ポリペプチドをコードする異種性遺伝子を発現するように改変され得る。例えば、α−、β−、またはγ−インターフェロンのサイトカイン(IL−12、IL−4および腫瘍壊死因子を含む)、アポトーシスタンパク質(TRAILを含む)、プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、および上記のいずれかについての細胞レセプターが含まれる。これらの異種性の遺伝子はまた、アミノ酸の生合成または分解、プリンまたはピリミジンの生合成または分解、および神経伝達物質(例えば、ドパミン)またはこのような経路の調節に関与するタンパク質(例えば、プロテインキナーゼおよびプロテインホスファターゼ)の生合成または分解に関与する酵素をコードし得る。この異種性の遺伝子はまた、その調節に関与する転写因子もしくはタンパク質、膜タンパク質、または構造タンパク質をコードし得る。
【0039】
1つの実施形態において、異種性の遺伝子は、疾患状態を緩和、治癒または処置するのに有益な、治療的な使用のためのポリペプチドをコードする。例えば、上記のサイトカインおよびタンパク質の中で、IL−12およびIL−4は、腫瘍内のCD4およびCD8のT細胞の浸潤を有意に増加するインターロイキンであり、そして、アポトーシスタンパク質であるTRAILは、固形腫瘍および造血系起源の腫瘍上に発現されるTRAILレセプタータンパク質に特異的に結合して、アポトーシス、すなわちプログラムされた細胞死により殺傷する、アゴニスト的なヒトモノクローナル抗体である。これらの分子をコードする異種性の遺伝子は、本発明に従って使用される場合、特に有益であり得る。
【0040】
本発明の別の実施形態において、単離された腫瘍指向性幹細胞は、癌の処置に関与する化学療法剤を発現するように改変され得る。「化学療法剤」とは、癌の処置に有用な化合物である。化学療法剤の例としては、以下が挙げられる:アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロホスファミド(Bristol−Meyers;New York,NYより入手可能なCYTOXAN));アルキルスルホン酸塩(例えば、ブスルファン、イムプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパ);エチレンイミンおよびメチルメラミン(methylamelamine)(アルトレタミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミドおよびトリメチロロメラミンが挙げられる);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビシン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード);ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン);抗生物質(例えば、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン、アゼセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアミシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU));葉酸アナログ(例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート);プリンアナログ(例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフリジン、エノシタビン、フロキシウリジン、5−FU);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン);抗副腎因子(anti−adrenal)(例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン);葉酸補充因子(replenisher)(例えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグルコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォファミド;デメコルシン;ジアジコン(diaziquone);エルフオルニチン(elfornithine);酢酸エリピチニウム(elliptinium acetate);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;ポリサッカリド−K(Kureha Chemical;Japanから入手可能なPSK);ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン(triaziquone);2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール(mitobronitol);ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(Upjohn GmbH;Heppenheim,Germanyから入手可能なAra−C);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン(例えば、パクリタキセル(Bristol−Myers Squibb Oncology;Princeton,NJから入手可能なTAXOL)およびドセタキセル(Rhone−Poulenc Rorer;Antony,Franceから入手可能なTAXOTERE);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金アナログ(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イダンドロネート(ibandronate);CPT−11;トポイソメラーゼインヒビターRFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン(esperamicins);カペシタビン;および上記のいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸、または誘導体。また、抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン(onapristone)、およびトレミフェン(Orion Corp.;Finlandから入手可能なFARESTON)が挙げられる);および抗アンドロゲン剤(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリン);ならびに上記のいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸、または誘導体のような、細胞におけるホルモン作用を調節または阻害するように機能する、抗ホルモン因子がこの定義に含まれる。
【0041】
幹細胞を、幹細胞のゲノムとは別個の異種性遺伝子、または化学療法剤のいずれかを発現するように遺伝子操作することは、当業者に容易に理解される多数の方法で実施され得る。例えば、1つの一般的な方法は、目的の異種性の遺伝子をパッケージングする複製欠損型アデノウイルスでの幹細胞のインビトロ感染を包含する(Liu,Y.ら、「In Situ adenoviral interleukin 12 gene transfer confers potent and long−lasting cytotoxic immunity in glioma」,Cancer Gene Ther.,Vol.9,p.9−15(2002);Schaack,J.ら、「Efficient selection of recombinant adenoviruses by vectors that express β−galactosidase」,J.Virol.,Vol.69,p.3920−3923(1995))。レトロウイルスおよび他の慣用的な感染因子を使用するなお他の方法が存在する(Ehtesham,M.ら、「The use of interleukin 12−secreting neural stem cells for the treatment of intracranial glioma」,Cancer Res.,Vol.62,p.5657−5663(2002);Benedetti,S.ら、「Gene therapy of experimental brain tumors using neural progenitor cells」,Nat.Med.,Vol.6,p.447−450(2000);Ehtesham,M.ら、「Induction of glioblastoma apoptosis using neural stem cell−mediated delivery of tumor necrosis factor−related apoptosis−inducing ligand」,Cancer Res.,Vol.62,p.7170−7174(2002);Cai,J.ら、「Properties of a fetal multipotent neural stem cell(NEP cell)」,Dev.Biol.,Vol.251,p.221−240(2002))。上記の参考文献の各々は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0042】
本発明の別の実施形態において、腫瘍指向性ポテンシャルを有する幹細胞または幹細胞の下位集団の識別のために、CXCR4レセプター、ケモカインSDF−1に対する親和性、および/または、星状細胞マーカーを使用する方法が存在する。この方法は、幹細胞を提供する工程、および当業者に容易に認識される標準的な免疫組織化学プロトコールを組み込んだ、選択プロセスを実施する工程を包含し得る。この免疫組織学プロトコールとしては、一次抗体、ケモカインレセプター、および他の機能的に関連するマーカーが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0043】
例えば、上記方法は、蛍光細胞分析分離法(FACS)、親和性カラム、親和性ビーズ、または、特定の細胞表面分子に選択的に結合する任意の方法を包含し得る。あるいは、上記方法は、幹細胞によって発現されない細胞表面分子を使用して、所望されない細胞を選択的に除去または殺傷し、このやり方で、所望の細胞を富化し得る。あるいは、上記方法は、幹細胞に選択的に結合する磁気ビーズの使用を包含し得る。
【0044】
さらに、種々の実施形態において、本発明の幹細胞は、1つ以上のさらなる成分と組合せられ得、これらとしては、ビヒクル、添加剤、薬学的補助剤、治療用化合物、キャリア、および癌または他の疾患状態の処置に有用な因子、ならびにこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。一旦そのように組み合わされると、幹細胞は、疾患状態を処置するための哺乳動物への投与に適切であり得るが;このようなさらなる成分との処方は、投与に必要とされるわけではない。なおさらに、種々の実施形態において、本発明の幹細胞は、ケモカインSDF−1を含む処置レジメンの一部であり得、この処置レジメンは、疾患状態を処置するための哺乳動物への投与に適切であり得る。
【0045】
さらに、1つの実施形態において、ケモカインSDF−1は、局所投与に適切であり得る。SDF−1のようなタンパク質の局所送達は、選択したタンパク質を、特定のレセプター特異性を有する生体適合性または生分解性の高分子(例えば、生体高分子、脂質、多糖、タンパク質(アルブミンおよび免疫グロブリンを含む))と結合体化することによって達成され得る。このやり方で、タンパク質は、特定のタンパク質を用いた処置に供される人体の特定の部分に移され得る。あるいは、局所送達機構は、キャリア物質と結合した標的化因子を含有し得、この標的化因子は、個体の中の特定の部位に結合し得る。この標的化因子は、レセプター抗体、抗腫瘍抗体、または白血球抗体のようなタンパク質または抗体であり得る。本発明によれば、SDF−1は、カテーテルベースの脈管内もしくは経皮送達系、コーティングステント、非経口、または肺送達により投与され得る。他の全身投与法としては、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内投与、皮内および経皮拡散、鼻腔内および他の粘膜の経路が挙げられ得る。カテーテルによる局所静脈内投与は、医療の実務において一般的な技術である。例えば、二重バルーン、多孔性バルーン、微小孔性バルーン、バルーン内のステント、ヒドロゲル、急送(dispatch)およびイオン泳動のようなカテーテルが、当業者により理解されるように使用され得る。
【0046】
なおさらに、種々のタンパク質が、ステントコーティングを調製するために使用され得、これらとしては、ゼラチン、コラーゲン、アルブミンなどが挙げられるがこれらに限定されない。コーティングの適用は、溶剤(水、グリセリン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられるがこれらに限定されない)により達成され得る。本発明の代替的な実施形態において、コーティング中に1つ以上の添加剤を組み込むことが望ましくあり得る。例としては、界面活性剤、水溶性薬物、生物製剤、抗菌剤などが挙げられる。界面活性剤は、基質のタンパク質溶液の伝播特性を改善し得る。有用な界面活性剤としては、以下が挙げられる:カチオン性界面活性剤(例えば、アルキル四級アンモニウム塩);アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム);および非イオン性界面活性剤(例えば、ポリ(オキシエチレンソルビタンモノオレエート))。基質が、血管内に挿入されるデバイス(例えば、静脈内ステント、カテーテルまたは血管形成術用バルーン)である場合、添加剤として、ヘパリンのような血栓形成因子を有することが望ましくあり得る。安息香酸ナトリウムのような抗菌剤の添加剤は、基質上または基質の周りでの微生物の増殖を防ぎ得る。
【0047】
本発明の別の実施形態において、CXCR4レセプターおよび/またはケモカインSDF−1に対する親和性を提示する幹細胞、ならびに、例えば、疾患状態の処置におけるその使用のための指示書を備えるキットが包含される。本発明のキットを構成する要素の正確な性質は、その意図される目的、および使用される特定の方法論に依存する。例えば、このキットのいくつかの実施形態は、被験体において癌を緩和、治癒または処置する目的のために構成される。1つの実施形態において、キットは、特に、ヒト被験体においてグリア新生物形成に対する治療処置を送達する目的のために構成される。
【0048】
使用のための指示書が、キットと共に包含され得る。「使用のための指示書」は、代表的には、被験体に幹細胞を接種するための工程、および/または治療システムにおいてこの幹細胞を使用するための工程を記載する、具体的な表示を含む。必要に応じて、このキットはまた、他の有用な成分(例えば、希釈剤、緩衝剤、薬学的に受容可能なキャリア、検体コンテナ、シリンジ、ステント、カテーテル、ピペッティングまたは測定のためのツールなど)を含む。
【0049】
キット内に集められる材料または成分は、その操作性および有用性を保存する、任意の簡便かつ適切な方法で格納されて開業医に提供され得る。例えば、成分は、溶解されたか、脱水されたか、または凍結乾燥された形態であり得る;これらは、室温、冷蔵温度、または凍結温度にて提供され得る。
【0050】
これらの成分は、代表的には、適切なパッケージング材料内に含まれる。本明細書中で使用される場合、句「パッケージング材料」とは、キットの内容物を収容するために使用される1つ以上の物理的な構造体を指す。パッケージング材料は、周知の方法によって構築され、好ましくは、無菌かつ汚染のない環境を提供する。キット内で使用されるパッケージング材料は、当該分野で慣習的に利用されるものである。本明細書中で使用される場合、用語「パッケージ」とは、個々のキット成分を保持し得る、ガラス、プラスチック、紙、箔などのような適切な固体マトリクスまたは材料を指す。従って、例えば、パッケージは、幹細胞の適切な量を含むために使用されるガラスバイアルであり得る。パッケージング材料は、一般に、キットの内容物および/もしくは目的、そして/またはその成分を示す外側ラベルを有する。
【0051】
上記の開示は、一般に、本発明を説明し、そして、本開示において引用される全ての特許および特許出願、ならびに刊行物は、明白に本明細書中に参考として援用される。より完全な理解が、以下の実施例を参照することにより得られ得、以下の実施例は、例示の目的のみのために提供され、本発明の範囲を制限することは意図されない。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は、グリア新生物の処置のための腫瘍指向性幹細胞を選択するため、および、本発明の種々の実施形態に従って、患者を処置するために使用され得る腫瘍指向性幹細胞療法の効率を評価するために使用され得る手順の代表例である。これらの実施例の改変は、状態が本明細書中に記載されるものと異なる患者を処置することを求める当業者には容易に明らかである。
【0053】
(実施例1 細胞および培養手順)
ヒトU87MG細胞株、マウスGL26神経膠腫細胞株、NIH 3T3細胞株、および293ヒト胚性腎臓細胞株を、それぞれ、10%ウシ胎仔血清(Gemini Bio−Products;Calabasas,CAから入手)、L−グルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogenから入手可能)を補充した、DM/F12(Invitrogen;Carlsbad,CAから入手可能)およびダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen;Carlsbad,CAから入手可能)中で培養した。U87MG培養物、GL26培養物、NIH 3T3培養物または293培養物からの馴化培地を、ほぼ同数の細胞で96時間前に撒いた、コンフルエントな75cm培養フラスコから得た。凍結保存したヒト胎性NSCを、Cambrex(Walkersville,MD)から得、マウスNSCを、Ehtesham,M.ら、「The use of interleukin 12−secreting neural stem cells for the treatment of intracranial glioma」,Cancer Res.,Vol.62,p.5657−5663(2002)に記載されたように、15日齢のマウス胎仔の前頭領域から回収した。NSCを、B−27増殖因子(Invitrogenから入手)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen;Carlsbad,CAから入手可能)、20〜30ng/mlのヒトまたはマウスの上皮増殖因子、20〜30ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(Peprotech;Rocky Hill,NJ)、および2mg/mlのヘパリン(Sigma;St.Louis,MO)を補充したDM/F12培地(Invitrogenから入手)中で培養した。マウスNSCを、Ehtesham,M.ら、「The use of interleukin 12−secreting neural stem cells for the treatment of intracranial glioma」,Cancer Res.,Vol.62,p.5657−5663(2002)に記載されるように、LacZ遺伝子を有する複製欠損型アデノウイルスを用いたインビトロインフェクションによりβガラクトシダーゼを発現するように遺伝子操作した。
【0054】
(実施例2 インビボ神経膠腫モデルの確立と、NSC接種)
6〜8週齢のC57B1/6マウス(Charles River Laboratories;Wilmington,MAから入手)を、ケタミンおよびキシラジンで腹腔内麻酔し、Ehtesham,M.ら、「Treatment of intracranial glioma with in situ interferon−gamma and tumor necrosis factor−alpha gene transfer」,Cancer Gene Ther.,Vol.9,p.925−934(2002)に報告されたように、右線条体に、1.2%メチルセルロース/MEM中5×10個のGL26細胞(3μl)を定位に播種した。移植から7日後に、動物に、血清およびウイルスを含まない培地中2×10のNSC−LacZ(5μl)の腫瘍内接種を、同じバーの穴および定位座標を用いて、確立された腫瘍内に直接注射して与えた。
【0055】
(実施例3 神経膠腫指向性NSC表現型の免疫組織化学分析)
NSC−LacZを播種した腫瘍を有する動物から回収した脳を、ドライアイス上で凍結し、クリオスタットを用いて切片作製し、スライド上にマウントして、風乾させた。LacZを発現するNSCの組織学的な可視化のために、切片を、慣用的なプロトコールによりX−galで染色し、次いで、ニュートラルレッドで対比染色した。隣接する組織切片を、アセトンで固定した。β−ガラクトシダーゼ、Sox−2、SSEA−1、A2B5、E−NCAM、β−IIIチューブリン、グリア繊維性酸性タンパク質(GFAP)、CNPase、PDGFRα(Chemicon;Temacula,CAから入手)、CXCR4(Torrey Pines Biolabs;San Diego,CAから入手)、EAAT1およびEAAT2(Santa Cruz Biotech;Santa Cruz,CAから入手)を使用する、標準的な免疫組織化学プロトコールを用いて、染色を実施した。フルオロフォアFITCまたはCy3(Chemiconから入手)と結合体化した抗体を使用して、二次染色を行なった。染色の後、スライドを水性マウンティング培地(ICN Biochemicals;St.Louis,MOから入手)内にマウントし、蛍光顕微鏡下で可視化した。
【0056】
(実施例4 インビトロ化学走性実験)
全ての化学走性実験を、5μm孔のポリカーボネート膜で分離された一対の培養ウェルから構成される化学走性チャンバシステム(Neuro Probe;Gaithersburg,MDから入手)を使用して実施した。下側のウェルに、上記のように回収したGL26馴化培地またはU87MG馴化培地のいずれかを充填した。10% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した、新しいDMEMを、非馴化培地コントロールとして使用した。介在性の孔性膜を置いた後、約1.5×10個のバラバラにしたヒトまたはマウスのNSCを、上のチャンバに添加した。チャンバシステムを、37℃で4時間インキュベートし、その後、下側ウェルからの培地を回収し、規定された数の蛍光ビーズ(BD Pharmingen;San Diego,CAから入手)に対して、フローサイトメトリーを使用して、細胞含有量について定量的に分析した。このことにより、下側のチャンバに移動した、上側のチャンバの各々に添加された細胞の百分率の定量を可能にした。中和アッセイのために、抗SDF−1(250μg/l)(このケモカインの公知のαアイソフォームおよびβアイソフォームの療法を中和する)および抗CXCR4(40μg/ml)モノクローナル抗体(R&D Systems;Minneapolis,MNから入手)を、アッセイ前に、それぞれ、腫瘍馴化培地またはNSCと共に、室温にて20分間インキュベートした。コントロールサンプルを、非特異的抗体(BD Pharmingenから入手)にマッチする、同一の濃度のアイソタイプと共にインキュベートした。全ての実験を、三連で行なった。
【0057】
(実施例5 NSC分化サブタイプの分析)
広がった腫瘍の部位に移動するNSCは、星状細胞前駆体を含む。NSC−LacZの腫瘍内接種を与えた後に、神経膠腫を有する動物からの脳組織を組織化学的に分析した。慣用的なX−gal染色により、以前に報告された知見(Ehtesham,M.ら、「The use of interleukin 12−secreting neural stem cells for the treatment of intracranial glioma」,Cancer Res.,Vol.62,p.5657−5663(2002))と同様に、正常な脳実質に、または正常な脳実質を通って広がった、腫瘍細胞の島の近くの接種部位から離れて移動した(ニュートラルレッドの対比染色後に容易に識別可能)、β−ガラクトシダーゼポジティブな細胞の優位な割合が明らかになった。同時に、NSC−LacZの残りの集団は、最初の接種部位に局在化したままであり、この移動および腫瘍指向性活性は示さなかった。上で言及したサンプルの良く似た切片(すなわち、X−gal染色で可視化した最初のサンプルから多くて20〜30μm離れた、類似の組織学的サンプル)を、次いで、NSC分化の種々の段階において発現するタンパク質を反映するマーカーに特異的な抗体のパネルを用いた免疫蛍光組織化学に供した。これらは、中立の神経前駆体(uncommitted neural precursor)において発現することが知られている、転写因子Sox−2および細胞表面段階特異的胚性抗原−1(SSEA−1);それぞれ、星状細胞運命およびニューロン細胞運命に向かう分化経路を開始したNSCの指標である、A2B5および神経細胞表面分子の胚性形態(E−NCAM);星状グリア細胞系統の細胞において発現される、GFAP;機能的な分化した星状グリア細胞において見られるグルタミン酸トランスポーター関連タンパク質である、興奮性アミノ酸トランスポーター遺伝子(EAAT1およびEAAT2);希突起神経膠細胞前駆体において発現される、血小板由来増殖因子レセプターα(PDGFRα);分化した希突起神経膠細胞に見られる2’,3’−サイクリックヌクレオチド3’−ホスホジエステラーゼ(CNPase);ならびに、前駆体および分化した神経細胞において発現される、β−IIIチューブリンを含んだ(Cai,J.ら、「Properties of a fetal multipotent neural stem cell(NEP cell)」,Dev.Biol.,Vol.251,p.221−240(2002);Rao,M.S.,「Multipotent and restricted precursors in the central nervous system」,Anat.Rec.,Vol.257,p.137−148(1999);Sutherland,M.L.ら、「Glutamate transporter mRNA expression in proliferative zones of the developing and adult murine CNS」,J.Neurosci.,Vol.16,p.2191−2207(1996);Cai,J.ら、「Identifying and tracking neural stem cells」,Blood Cells Mol.Dis.,Vol.31,p.18−27(2003);Capela,A.およびS.Temple,「LeX/ssea−1 is expressed by adult mouse CNS stem cells,identifying them as nonependymal」,Neuron,Vol.35,p.865−875(2002))。これより前のX−gal染色した良く似た切片において観察されたように、最初に接種した管から広がり、ここでは、広がった腫瘍サテライトと一緒にか、またはその近くに移動した、NSC−LacZにおけるこれらのマーカーの発現に焦点を当てた。知見(表1にまとめた)は、Sox−2およびSSEA−1を発現するNSCの集団は、最初に注射した管の近くに存在したが、神経膠腫の増殖およびサテライトに伴って移動が見られる、β−ガラクトシダーゼを発現するNSCの大半は、これらのマーカーに対して陰性であった(示さず)ことを示す。表1は、インビボ腫瘍内接種後の、分化の種々の段階におけるNSCs−LacZに関連するタンパク質マーカーの発現を詳述する。
【0058】
【表1】

さらに、これらの腫瘍指向性NSC集団は、A2B5およびGFAPに対して強くポジティブであったのに対し(図2)、希突起神経膠細胞関連タンパク質であるPDGFRαおよびCNPase(示さず)ならびにニューロンマーカーであるβ−IIIチューブリン(示さず)に対してはネガティブであり、これは、明らかに、分化が星状細胞系統に向かっていることを示す。同時に、これらの細胞は、分化した星状細胞において発現することが知られている、グリア特異的グルタミン酸トランスポーター関連タンパク質であるEAAT1およびEAAT2に対してネガティブであった(Sutherland,M.L.ら、「Glutamate transporter mRNA expression in proliferative zones of the developing and adult murine CNS」,J.Neurosci.,Vol.16,p.2191−2207(1996))。逆に、GFAPおよびA2B5と共にEAAT1およびEAAT2を発現した、分化した形態を有するβ−ガラクトシダーゼポジティブな細胞は、原発性の腫瘍塊内の最初に注射した管の近くに観察され得(示さず)、これは、接種した前駆体の星状細胞への完全な分化が実際に起こったことを確認する。しかし、β−ガラクトシダーゼポジティブな細胞集団を追跡する神経膠腫におけるEAAT1/EAAT2の発現がなく、かつ、A2B5の発現があり、そして、完全に分化した形態が明らかにない場合、腫瘍指向性の細胞集団が、正常細胞への分化に向かう経路を開始したが、完了しなかった、前駆体細胞から構成されることを示す。
【0059】
(実施例6 腫瘍レセプターと神経膠腫の追跡との間の相関)
腫瘍を追跡するNSCは、CXCR4を強く発現する。腫瘍の侵襲性および生存を促進する際に、実証される侵襲性の神経膠腫細胞からのSDF−1分泌能力(Barbero,S.ら、「Stromal cell−derived factor 1 alpha stimulates human glioblastoma cell growth through the activation of both extracellular signal−regulated kinases 1/2 and Akt」,Cancer Res.,Vol.63,p.1969−1974(2003);Zhou,Y.ら、「CXCR4 is a major chemokine receptor on glioma cells and mediates their survival」,J Biol.Chem.,Vol.277,p.49481−49487(2002))、ならびに、発生中の脳においてニューロン前駆体およびグリア前駆体の移動を支配する際の、このケモカインおよびそのレセプターであるCXCR4の確立された役割(Lazarini,F.ら、「Role of the alpha−chemokine stromal cell−derived factor(SDF−1) in the developing and mature central nervous system」,Glia,Vol.42,p.139−148(2003);Reiss,K.ら、「Stromal cell−derived factor 1 is secreted by meningeal cells and acts as chemotactic factor on neuronal stem cells of the cerebellar external granular layer」,Neuroscience,Vol.115,p.295−305(2002))に基づいて、腫瘍を追跡するNSC−LacZ集団がCXCR4を発現したかどうかを調査した。弱いCXCR4の発現が、神経膠腫細胞、および原発性の腫瘍塊に残るNSC−LacZ集団(示さず)の両方で目に見えたのに対して、腫瘍の過剰増殖およびサテライトを追跡するNSC−LacZが、このタンパク質を強く発現し(図2)、このことは、神経膠腫の複雑な化学走性キューに対するNSCの応答性の支配におけるこのレセプターの可能な役割を示唆する。
【0060】
(実施例7 インビトロでの腫瘍馴化培地に向かうNSCの移動は、NSC表面CXCR4レセプターをブロッキングすることによって阻害され得る)
腫瘍指向性NSC集団が、インビボでCXCR4を強く発現したという観察に基づいて、このレセプターが、NSCの神経膠腫に向かう化学走性において役割を果たしたということを決定した。腫瘍馴化培地が、多孔性膜によって、ヒトおよびマウスのNSCから分離されている2チャンバベースの実験システムにおいて、NSCの神経膠腫上清に向かう移動が、正常な培地に向かう観察される移動よりも有意に高かったことが観察され(図3)、これは、腫瘍馴化培地中に存在する可溶性因子に向かう化学走性を示唆する。腫瘍上清におけるSDF−1の中和が、NSCの神経膠腫馴化培地へ向かう移動を疎外するかどうかを決定する目的で、抗SDF−1抗体を、ヒトU87MG神経膠腫腫瘍上清と共にインキュベートし、次いで、ヒト胎性NSCと共に化学走性アッセイにおいて利用した。非特異的なIgGアイソタイプ抗体と共にインキュベートしたU87MG上清に向かうことが見られる有意なNSCの化学走性と比較して、抗SDF−1中和抗体の添加は、NSCの移動を顕著に減少したが(図3A)、この差は、統計的有意差を満たさなかった(P=0.09;t検定)。このことは、より効率的な細胞表面CXCR4のブロッキングに対する可溶性ケモカインの最適以下の中和に関する技術的問題を表し得るか、または、これらの知見は、CXCR4に対するまだ識別されていない可溶性リガンドのような、SDF−1の、本発明者らが中和したαおよびβサブタイプとは異なる、追加の可能性のあるさらなるアイソフォーム改変体に対する役割を提示し得る。しかし、抗CXCR4ブロッキング抗体とのインキュベーションの後、NSCの神経膠腫馴化培地に向かう移動の有意な減少は、マウス(図3B)およびヒト(示さず)の胎性NSC(それぞれ、P=0.022およびP=0.003;t検定)の両方の場合において見られた。対照的に、アイソタイプとマッチする非特異的抗体と共にインキュベートしたNSCは、未処理のNSCと比べたときに、腫瘍馴化培地に向かう移動の減少を示さなかった(図3B)。これらのデータは、CXCR4のブロッキングが、NSCの神経膠腫上清に向かう走性を有意に阻害することを示し、これは、これらの細胞により提示される腫瘍指向性挙動におけるこのレセプターの重要な役割を示唆する。しかし、腫瘍上清におけるSDF−1の中和の後に、統計的に検証可能な差を観察できないことは、可溶性ケモカインの最適以下の中和、または、CXCR4経路を通る化学走性を誘導し得る二次リガンドの腫瘍馴化培地内の存在のいずれかを示唆し得る。
【0061】
インビトロにおいて、神経膠腫馴化培地に向かうことが観察されるNSCの移動レベルは、以前に記載されたインビボの移動パターンに基づいて定性的に予測可能なものよりも有意に低かった(Ehtesham,M.ら、「The use of interleukin 12−secreting neural stem cells for the treatment of intracranial glioma」,Cancer Res.,Vol.62,p.5657−5663(2002))。しかし、これは、腫瘍指向性の挙動が、星状細胞への分化に向かって進行している細胞により主に提示されるという知見と組み合わされる。インビトロ実験において利用される細胞は、主として、未分化状態の維持を支持するように設計された条件において培養されたNSCを含有するので、最終的な神経またはグリアの方向性の早期の徴候は、なお識別可能であり得るが(Rao,M.S.,「Multipotent and restricted precursors in the central nervous system」,Anat.Rec.,Vol.257,p.137−148(1999))、傾倒し、かつ積極的に分化する星状細胞前駆体のより低い割合が、これらの集団において期待される。しかし、インビボ移植の後に、NSCは、線条体に固有に存在する膠細胞生成のキューに対して優勢に応答し、広がった腫瘍細胞から発される化学走性シグナルに対して応答性である可能性のある、星状細胞前駆体の数を増加させる。
【0062】
原発性のマウス胎性NSCは、ヒト胎性NSCとは対照的に、未馴化培地に向かってさえ、有意に多い移動を提示したという知見もまた興味深い。これは、これらの培養物の異なる起源により説明され得る。マウスNSCが、原発性の胎性組織に由来するのに対して、ヒト胎性NSCは、数年齢間凍結保存された、市販のストックから培養した。長期の低温保存の後に生物学的活性が妨害され得るヒトNSCとは対照的に、新たに生成した原発性のマウス細胞は、より活性な移動能力を提示する可能性がある。
【0063】
上記の説明は、本発明の特定の実施形態を参照するが、本発明の精神から逸脱することなく多くの改変がなされ得ることが理解される。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲および精神の範囲内に入るような改変を網羅することが意図される。それゆえ、本明細書により開示された実施形態は、全ての点において、例示的であり、限定的ではないものとして考慮されるべきであり、本発明の範囲は、上記の説明ではなく、添付の特許請求の範囲により示され、従って、特許請求の範囲の等価物の目的および範囲は、特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本特許出願は、カラーで作成された少なくとも1枚の図面を含む。この特許のカラー図面のコピーは、特許商標局に要請し、必要な費用を支払えば、特許商標局により提供される。
【図1】カラーで作成された図1は、本発明の種々実施形態に従って、インビボで神経膠腫を広めるためのNSC指向性を図示する。NSCs−LacZを、C57B1/6マウスにおいて確立された頭蓋内GL26腫瘍内に接種した。次いで、組織学的な脳の切片を、慣用的なX−gal染色で処理し、NSC−LacZ内に青色〜暗青色の沈殿の発色を生じた。次いで、切片を、ニュートラルレッドで対比染色した。腫瘍組織は、新生物の核の鮮やかな赤い染色と、腫瘍細胞の眼に見える密集した凝集により識別され得る。Tは腫瘍を表し、Nは正常組織を表す。図1Aは、矢印により境界を定められた、主な腫瘍塊(T)内の非移動性のNSC−LacZの存在を例示する低拡大画像である。図1Bは、主な腫瘍塊から移動し、灰白質/白質の境界に沿って、おそらくは白質管に沿って移動する腫瘍細胞島の近くに移動するNSC−LacZを例示する(挿入ボックス)。移動性のNSC−LacZは、神経領域様の蓄積(neurosphere−like accumulation)においてなお凝集していることに注意されたい。図1Cは、図1Bの挿入ボックスの高拡大倍率を表す。暗青色のNSC−LacZの凝集が、広がった腫瘍サテライト(T)の直ぐ近くにはっきりと見える。図1Dは、原発性腫瘍部位から有意に離れた距離にある独立した腫瘍サテライト(矢印の先により境界を定める)の高拡大倍率である。青色のNSC−LacZは、腫瘍内に見え、これは、NSC−LacZが、インビボにおいて広範囲に移動し得、そして、広がった腫瘍島内にインターカレートし得ることを示す。
【図2】カラーで作成された図2は、本発明の種々の実施形態に従って、NSCを発現するβ−ガラクトシダーゼ(NSCs−LacZ)の腫瘍内接種を受けた、神経膠腫を有する動物からの脳組織を組織化学的に分析した結果を図示する。NSCs−LacZが追跡した、広がった神経膠腫を、慣用的なX−gal染色に供し、これにより、接種されたNSCの有意な割合が、接種の部位から離れて移動したことが明らかとなった。次いで、これらの染色と良く似た切片を、種々の段階のNSC分化において発現されるタンパク質を反映するマーカーに特異的な抗体のパネルを用いて、免疫蛍光組織化学に供した。図2Aは、腫瘍内接種された腫瘍指向性NSCs−LacZの指標である、GFAPマーカーの間の正の相関を示す。図2Bは、腫瘍の微小サテライトにおけるA2B5マーカーと腫瘍指向性NSC−LacZとの間の正の相関を示す。図2Cは、CXCR4マーカーと、腫瘍内接種された腫瘍指向性NSCs−LacZとの間の正の相関を示す。A2B5およびGFAPマーカーは、星状細胞および星状グリア系統に向かう分化経路が開始された、NSCの指標である。全ての画像は、400倍の倍率を表す。
【図3】図3は、本発明の種々の実施形態に従って、インビトロで神経膠腫馴化培地に向かうNSC移動指向性のグラフ表示である。ヒトおよびマウスの胎性NSCを、複数の5ミクロン孔のポリカーボネート膜により種々の培地/培養上清を含む下側のウェルから分離された、2ウェル化学走性チャンバシステムの上側のウェルに入れた。37℃で4時間インキュベーションした後、下側のチャンバからの培地を回収して、細胞を定量した。Y軸は、下側のチャンバに移動したNSCの百分率を図示する。図3Aは、ヒトの胎性NSCが、正常な非馴化培地に向かう最小の移動活性を示すのに対し、U87MG神経膠腫上清に向かう移動は、有意により高かった(P=0.005、t検定)ことを示す。神経膠腫培地の希釈は、NSC化学走性の有意な減少を生じ(図示せず)、これは、NSCの転移が、おそらく腫瘍の精密な可溶性因子に起因するものであったことを示す。このような潜在的な因子の1つである、間質細胞由来因子(SDF)−1に対する中和抗体の添加は、アイソタイプIgGで処理したNSCと比較して顕著に化学走性を減少したが、それにもかかわらず、統計的に有意な程度ではなかった(P=0.09、t検定)。図3Bは、マウスの胎性NSCが、コントロール培地と比較して、GL26馴化培地に向かう移動活性の増強を示した(P=0.0001;t検定)ことを示す。抗CXCR4中和抗体の添加は、アイソタイプIgGで処理したNSCと比べて、神経膠腫馴化培地に向かうNSCの転移を有意に減少した(P=0.003;t検定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された幹細胞であって、該幹細胞は、該幹細胞がCXCR4レセプターを提示すること、ケモカインSDF−1に対する親和性を示すこと、またはそれら両方に基づいて該幹細胞を選択する工程を包含する方法によって単離される、単離された幹細胞。
【請求項2】
前記単離された幹細胞は、星状細胞に分化した幹細胞の前駆体に特徴的なマーカーを提示する、請求項1に記載の単離された幹細胞。
【請求項3】
前記単離された幹細胞は、A2B5星状細胞前駆体マーカーを提示する、請求項2に記載の単離された幹細胞。
【請求項4】
前記単離された幹細胞は、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)星状細胞前駆体マーカーを提示する、請求項2に記載の単離された幹細胞。
【請求項5】
前記単離された幹細胞は、異種遺伝子を含む、請求項1に記載の単離された幹細胞。
【請求項6】
前記異種遺伝子は、疾患状態の処置において治療的に使用するポリペプチドをコードする、請求項5に記載の単離された幹細胞。
【請求項7】
前記ポリペプチドは細胞傷害性である、請求項6に記載の単離された幹細胞。
【請求項8】
前記ポリペプチドは免疫応答に関与する、請求項6に記載の単離された幹細胞。
【請求項9】
前記ポリペプチドは、IL−12である、請求項8に記載の単離された幹細胞。
【請求項10】
前記ポリペプチドは、IL−4である、請求項8に記載の単離された幹細胞。
【請求項11】
前記ポリペプチドは、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)である、請求項8に記載の単離された幹細胞。
【請求項12】
前記単離された幹細胞は、神経幹細胞(NSC)である、請求項1に記載の単離された幹細胞。
【請求項13】
幹細胞の腫瘍指向性ポテンシャルを評価するための方法であって、該方法は、
幹細胞を提供する工程;
該幹細胞によるCXCR4の発現レベル、該幹細胞によるケモカインSDF−1に対する親和性、またはそれら両方を決定する工程;および
該CXCR4の発現レベル、該ケモカインSDF−1に対する親和性、またはそれら両方に基づいて該幹細胞の腫瘍指向性ポテンシャルを評価する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
前記幹細胞が、星状細胞に分化した幹細胞の前駆体に特徴的なマーカーを提示する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記幹細胞が、A2B5星状細胞前駆体マーカーを提示する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記幹細胞が、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)星状細胞前駆体マーカーを提示する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記幹細胞が、神経幹細胞(NSC)である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物において疾患状態を処置するための方法であって、該方法は、
CXCR4レセプターを提示する幹細胞、ケモカインSDF−1に対する親和性を示す幹細胞、またはそれら両方の幹細胞を提供する工程;
該幹細胞を該疾患状態を処置するのに十分な量で該哺乳動物に投与する工程
を包含する、方法。
【請求項19】
前記幹細胞が、星状細胞前駆体細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記幹細胞が、星状細胞に分化した幹細胞の前駆体に特徴的なマーカーを提示する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記幹細胞が、A2B5星状細胞前駆体マーカーを提示する、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記幹細胞が、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)星状細胞前駆体マーカーを提示する、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記幹細胞が、異種遺伝子を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記異種遺伝子が、前記疾患状態の処置において治療的に使用するポリペプチドをコードする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリペプチドが細胞傷害性である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリペプチドが、免疫応答に関与する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリペプチドが、IL−12である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリペプチドが、IL−4である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリペプチドが、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導性リガンド(TRAIL)である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記疾患状態が、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌、星状細胞腫、上衣細胞腫瘍、多形性神経膠芽細胞腫ならびに未分化神経外胚葉性腫瘍からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
前記幹細胞を投与する工程が、ビヒクル、添加剤、薬学的補助剤、治療用化合物、キャリア、疾患状態の処置に有用な因子およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるさらなる成分をさらに含む組成物中に、該幹細胞を投与する工程をさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
一定量のケモカインSDF−1を前記哺乳動物に投与する工程をさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
前記幹細胞が、神経幹細胞(NSC)である、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
キットであって、
CXCR4レセプターを提示する一定量の幹細胞、ケモカインSDF−1に対する親和性を示す一定量の幹細胞、またはそれら両方の幹細胞;ならびに
哺乳動物における疾患状態の処置において該一定量の幹細胞を使用するための指示書
を備える、キット。
【請求項35】
前記一定量の幹細胞が、ビヒクル、添加剤、薬学的補助剤、治療用化合物、キャリア、疾患状態の処置に有用な因子およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるさらなる成分をさらに含む組成物中に含まれる、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記疾患状態が、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌、星状細胞腫、上衣細胞腫瘍、多形性神経膠芽細胞腫ならびに未分化神経外胚葉性腫瘍からなる群より選択される、請求項34に記載のキット。
【請求項37】
前記幹細胞が、神経幹細胞(NSC)である、請求項34に記載のキット。
【請求項38】
一定量のケモカインSDF−1、および前記疾患状態の処置において該一定量のケモカインSDF−1を使用するための指示書をさらに備える、請求項34に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−516698(P2007−516698A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533934(P2006−533934)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/030607
【国際公開番号】WO2005/039488
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】