説明

腱駆動マニピュレータ内の生体内張力較正

【課題】マニピュレータを分解することなく、及び外力基準なしで、腱駆動マニピュレータ内の腱への張力センサを較正する方法を提供すること。
【解決手段】この方法は、運動学的に一貫した結果を生み出すために、互いに対して張力を較正する。結果は、完全に正確ではない可能性があるが、初期または名目較正に対して最適化される。この方法は、腱を緩ませるステップと、腱への張力を測定するセンサからのセンサ値を記録するステップとを含んでいる。この方法はさらに、いかなる障害物または関節限界と接触しないように位置決めされたマニピュレータで腱に張力を加えるステップと、センサ値を再び記録するステップとを含んでいる。この方法はその後、マニピュレータへのゼロトルク制限を満たし、名目較正値に対する誤差を最小限に抑えるセンサパラメータを判断するために回帰プロセスを行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府後援の調査または開発に関する陳述
[0001]本明細書に記載の発明は、米国政府に対するまたは米国政府ためのロイヤリティの支払なしに、米国政府(すなわち、非営利)の目的で、米国政府によって、または米国政府のために製造及び使用することができる。
【0002】
[0002]本発明は一般に、腱駆動マニピュレータ内の腱を較正するためのシステム及び方法に関し、より詳細には、外力基準を必要とすることなく互いに対する張力を較正する、腱駆動マニピュレータに対する生体内腱張力較正を行なうシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]器用なロボットシステムは典型的には、組立てまたは他の用途の間に物体または部品を把持及び操作するように動作するロボットアーム及びハンドを備えている。「ロボットマニピュレータ」という用語は、1つまたは複数のロボットアーム及びハンドの全てまたは一部を説明するために使用される。腱駆動ロボットマニピュレータは、制御されているマニピュレータの部品の外側にアクチュエータを配置することを可能にする腱またはケーブルを使用して作動される。腱伝達は、ロボットマニピュレータ内の遠位関節を作動させるために頻繁に使用される。これらは、アクチュエータをマニピュレータの基部のより近くに配置可能にすることによって、強度対重量比を改善することができる。これらはまた、アクチュエータ選択及びマニピュレータ寸法におけるより大きな柔軟性を機械設計者に与える。例えば、マニピュレータが人間型ロボットハンド内の腱駆動フィンガである場合、アクチュエータは典型的には、ロボットアームの前腕領域内に置かれている。この場合、腱は前腕アクチュエータからフィンガまで延び、そこに取り付けられる。
【0004】
[0004]腱駆動マニピュレータの力及びインピーダンス制御は、正確な腱張力測定で改善される。これは、一貫したセンサ出力及び出力の正確な較正によるものである。しかし、特定の張力に対するセンサからの出力は、時間の経過及び温度とともに変化する可能性があり、センサドリフトとして知られている。さらに、別個のイベントが、外部衝撃などの、センサ測定に対する急激な変化を生じさせる可能性がある。したがって、センサはこれらの変化を補償するために時々較正する必要がある。
【0005】
[0005]腱駆動マニピュレータは、このような冗長ネットワーク内で関節より多くの腱を必要とするので、各個別の腱への張力を基準外力のみから判断することができない。むしろ、基準力を各腱に独立して加えなければならず、ここでマニピュレータ内の各センサをそこから取り外し、張力検査機器に接続させなければならない。すなわち、各関節を制御する多数の腱があるので、マニピュレータ内にある間に検査機器を使用してセンサを較正することができない。したがって、外部で感知することができない内力が腱の間にある。同時に、較正が必要な毎にマニピュレータを分解することは実際的ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006]本発明の教示によると、マニピュレータを分解することなく、及び外力基準なしで、腱駆動マニピュレータ内の腱のための張力センサを較正する方法が開示されている。この方法は、運動学的に一貫した結果を生み出すために、互いに対して張力を較正する。結果は、完全に正確ではない可能性があるが、初期または名目較正に対して最適化される。この方法は、腱がゼロ張力を有するようにするステップと、腱への張力を測定するセンサからのセンサ値を記録するステップとを含んでいる。この方法はさらに、いかなる障害物にも接触せず、マニピュレータ内の関節がいずれも限界にないように、マニピュレータを位置決めするステップを含んでいる。この方法はその後、腱に張力を加え、腱への張力がある場合に、センサからのセンサ張力値を記録する。この方法は、センサ較正パラメータを判断するために、これらの2つのデータ点及び回帰プロセスを使用する。回帰プロセスは、初期または名目較正と比較した誤差を最小限に抑えながら、ゼロトルク制限を満たす解を求める。
【0007】
[0007]本発明の追加の特徴は、添付の図面と合わせて、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】[0008]複数の腱駆動関節を含むロボットフィンガマニピュレータの斜視図である。
【図2】[0009]図1に示すマニピュレータ内の腱に対する較正プロセスを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0010]腱駆動マニピュレータ内の腱を較正する方法を対象とした本発明の実施形態の以下の議論は、単に例示的な性質のものであり、発明またはその応用例または使用を限定することを意図したものではない。
【0010】
[0011]以下に詳細に論じるように、本発明はマニピュレータからセンサを取り外す必要なく、腱駆動マニピュレータ内のセンサを較正する技術を提示している。普通、プロセスは、以前の較正データに基づいてマニピュレータ内の各センサに対する名目ゲインから始まるステップを含んでいる。プロセスは、2つのデータ点でのセンサ読み取り値を記録する。第1の点は、全て緩み、したがってその上にゼロ張力を有するように、腱の張力を取り除くことである。第2の点は、緊張し、マニピュレータがいかなる外力に対して押されないように、腱の全てに張力を加えることである。したがって、腱張力は全て、関節でゼロ正味トルクを生成するように合計される。この状況は本明細書では、「均衡」構成または「ゼロトルク」制限と呼ばれる。回帰はその後、ゼロトルク制限を満たし、名目較正値への(最小二乗の意味で)可能な最も近い結果を生成する較正を求めるために、これらの2つのデータ点で行なわれる。この方法は、運動学的に一貫した結果を生成するために、互いに対して張力を較正する。これは必ずしも、絶対基準に対して正確である較正値を生成するものではないが、互いに対して正確である。腱間のこのような相対精度は、マニピュレータコントローラの性能を改善する。
【0011】
[0012]本発明はしたがって、ロボットマニピュレータの腱の間で相対較正を行なう方法の問題に対処する。較正プロセスは、マニピュレータコントローラの性能を改善するが、較正された読み取りの実際の値は正確でない可能性がある。名目較正に基づき、較正プロセスは、マニピュレータへのゼロ外部トルクの状態を満たす最小誤差の解を求める。
【0012】
[0013]図1は、ロボットアーム用のロボットフィンガ10の斜視図であり、ここでフィンガ10は腱28によって駆動される。本実施形態はロボットフィンガを示しているが、本発明の較正プロセスは、いかなる腱駆動マニピュレータにも適用可能である。ロボットフィンガ10は3つのフィンガ部、すなわち先端部12、中間部14及び基部16を備えている。先端部12はパッド18を含み、中間部14はパッド20を含み、基部16はパッド22を含み、フィンガ10が特定の部分(図示せず)を効果的に把持することを可能にする。フィンガ部12、14及び16、及び、パッド18、20及び22は、特定の応用例では、アルミニウムなどの任意の適切な材料で作ることができる。先端部12は、シャフト24上で中間部14に対して旋回し、中間部14はシャフト26上で基部16に対して旋回する。
【0013】
[0014]フィンガ10の関節は、当技術分野でよく理解されている方法で腱28によって操作される。各腱28は、典型的にはロボットアームの前腕領域で、張力センサ44に接続されている。張力センサ44は、フィンガ10上への力の表示を行なう、腱28内の張力の信号を与える。腱28は、適切なアクチュエータによって作動される引張力を与える。
【0014】
[0015]フィンガ10内の全ての関節が回転式であると仮定すると、腱張力と関節トルクとの関係は以下の式によって記載することができる。
τ=Rf (1)
式中、τはn関節トルクのベクトルであり、fはm≧n+1腱張力のベクトルである。
【0015】
[0016]この関係を逆にすることによって、特定のトルクを生成する一式の腱張力は以下のように算出することができることに留意されたい。
f=Rτ+N(R)λ (2)
式中、RはRの擬似逆であり、N(R)はRのゼロ空間であり、λ∈Rm−nはゼロ空間に伝えられる任意の張力のベクトルである。このゼロ空間成分は、フィンガ10上にゼロ正味トルクを生成する一式の張力を示している。すなわち、これらは腱間の内力を示している。
【0016】
[0017]直線適合がセンサ44に応用されると仮定すると、各センサ読み取り値Sを、2つのパラメータ、すなわちゲインm及びオフセットbを使用して較正する必要がある。各腱28では、張力センサ読み取り値に対する関係は以下の式によって与えられる。
=m(s−b) (3)
式中、fは腱i上の張力である。
【0017】
[0018]n個の腱の全ての組合せでは、nの等式を以下の2つの行列の形で示すことができる。
f=M(s−b) (4)
f=(S−B)m (5)
[0019]この表記では、大文字の記号はそれぞれの要素に対する対角行列を表し、太文字の記号は列行列を表す。例えば、以下のように示される。
【0018】
【数1】

【0019】
[0020]フィンガ10の設計に基づき、関節でのトルクτと腱28での張力fの関係は以下の通りである。
τ=Rf (7)
式中、Rは腱張力を関節トルクにマッピングする関節半径データを含む腱マップとして知られている。
【0020】
[0021]図2は、上に論じるように、フィンガ10内の腱28を較正する較正プロセスを示すフローチャート図30である。プロセスはボックス32で始まり、腱28は張力が取り除かれ、それにより腱28には力が存在しない、すなわち腱28は緩んでいる。特に、腱28を制御するアクチュエータ(図示せず)の全ては前方向に移動され、それにより腱28は緩んでおり、各腱28はゼロ張力を受ける。アルゴリズムは、腱28がボックス34でスタック位置にある場合に、センサ読み取り値sを記録する。
【0021】
[0022]このデータを使用して、オフセットbがマニピュレータ10内で各センサ44に対して判断される。この値は、以下の通り求められる。
f=M(s−b)=0
b=s (8)
【0022】
[0023]次のステップは、フィンガ10がいかなる関節止めまたは外力に直面しないことを保証しながら、腱28の全てに張力を与えることである。したがって、アルゴリズムにより、ボックス36で、フィンガに力を加える可能性があるいかなる障害物からも離れており、フィンガ10内の関節全てが関節限界にないような位置にフィンガ10を位置決めさせる。これにより、関節トルクは全てゼロであることが保証される。腱28に力がある限り、腱28への力の量は重要ではない。この位置のフィンガ10では、引張力は関節の両側で同じであるので、フィンガ10内の各関節へのゼロトルクがあるべきである。アルゴリズムはその後、センサ測定値、sを記録する。関節トルク及び張力はこの時、1の前上付き文字で示される。
τ=Rf=0 (9)
【0023】
[0024]アルゴリズムはその後、オフセット値及び回帰プロセスを使用して、ボックス42でゼロトルク制限を満たすセンサパラメータを判断する。実際の解は、Rのゼロ空間内にあるべきである。アルゴリズムは、ゲインmの名目較正に基づいて力の読み取りを行ない、ゼロ空間R内に垂直に投影する。較正等式(5)の第2の形を参照すると、その名目力上の読み取り値は以下の通りである。
f=(S−B)m (10)
【0024】
[0025]この名目上の読み取り値をゼロ空間Rに投影した後、較正ゲインmを以下のように求めることができる。
f=(I−RR)
m=(S−B)−1 f (11)
式中、Iは恒等行列であり、RはRの擬似逆である。
【0025】
[0026]別の方法では、ゲインmの個別の要素は以下の通り求めることができる。
【数2】

【0026】
[0027]特に、アルゴリズムは特定のセンサが初期に読み込むものと読み込むべきものとの誤差を最小限に抑える。回帰動作は、最小二乗適合動作などの任意の適切なプロセスである可能性がある。最小二乗適合動作は、センサ差分値全てに対して同時に行なわれる。
【0027】
[0028]前述の議論は、単に本発明の例示的な実施形態を開示及び記載している。当業者は、このような議論、及び添付の図面及び特許請求の範囲から、以下の特許請求の範囲で規定されるような本発明の精神及び範囲を逸脱することなく本明細書に様々な変更、変形及び変化を加えることができることが容易に分かるだろう。
【符号の説明】
【0028】
10 ロボットフィンガ
12 先端部
14 中間部
16 基部
18 パッド
20 パッド
22 パッド
24 シャフト
26 シャフト
28 腱
30 フローチャート図
32 ボックス
44 張力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータを駆動する一式の腱への張力を較正する方法であって、前記マニピュレータまたは前記腱のいずれかに外力基準を直接適用することのない、方法において、前記外力基準は、知られている重量または較正センサのいずれかを表す、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記腱がゼロ張力を有するようにし、センサ読み取り値を記録するステップと、
いかなる障害物にも接触せず、前記マニピュレータ内の関節がいずれも限界にないように、前記マニピュレータを位置決めするステップと、
前記腱に張力を加え、センサ読み取り値を記録するステップと、
前記マニピュレータへのゼロトルク制限を満たす回帰プロセスを使用して、較正パラメータを求めるステップとを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記回帰プロセスを使用するステップは、前記回帰プロセスの解がゼロ空間内にあることを判断するステップを含んでいる、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記回帰プロセスを使用するステップは、最小二乗適合プロセスを行なうステップを含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記マニピュレータは、フィンガ関節を含むロボットフィンガである、方法。
【請求項6】
マニピュレータを駆動する一式の腱への張力を較正する方法であって、前記マニピュレータまたは前記腱、またはそれらの中のいかなる部品を分解することのない、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記腱がゼロ張力を有するようにし、センサ読み取り値を記録するステップと、
いかなる障害物にも接触せず、前記マニピュレータ内の関節がいずれも限界にないように、前記マニピュレータを位置決めするステップと、
前記腱に張力を加え、センサ読み取り値を記録するステップと、
前記マニピュレータへのゼロトルク制限を満たす回帰プロセスを使用して、較正パラメータを求めるステップであって、前記回帰プロセスの使用は、前記回帰プロセスの解がゼロ空間内にあることを特定し、最小二乗適合プロセスを使用してセンサ較正ゲインを求めることを含んでいる、ステップとを含む、方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、
前記マニピュレータは、フィンガ関節を含むロボットフィンガである、方法。
【請求項9】
マニピュレータ内の腱への張力を較正するシステムであって、
前記腱がゼロ張力を有するようにし、センサ読み取り値を記録する手段と、
いかなる障害物にも接触せず、前記マニピュレータ内の関節がいずれも限界にないように、前記マニピュレータを位置決めする手段と、
前記腱に張力を加え、センサ読み取り値を記録する手段と、
前記マニピュレータへのゼロトルク制限を満たす回帰プロセスを使用して、較正パラメータを求める手段とを備えた、システム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムにおいて、
回帰プロセスを使用して較正パラメータを求める前記手段は、前記回帰プロセスの解がゼロ空間内にあることを判断する、システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−115938(P2011−115938A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−266689(P2010−266689)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(505212049)ジーエム・グローバル・テクノロジー・オペレーションズ・インコーポレーテッド (221)
【出願人】(510149563)ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプレゼンテッド・バイ・ジ・アドミニストレーター・オブ・ザ・ナショナル・エアロノーティクス・アンド・スペース・アドミニストレーション (27)
【Fターム(参考)】