説明

腸内細菌を利用した胆汁酸の吸着方法、および胆汁酸吸着物質

【課題】胆汁酸を取り込ませることで胆汁酸の排泄量を増加させ、生体内コレステロールを低減させるため、生合成を抑制もしくは代謝を促進する方法を提供する。
【解決手段】グルコース等の糖源の存在下で能動的に胆汁酸を取り込んで、糖源が供給されている間は菌体外に胆汁酸を放出しないという性質を有する腸内細菌により、これらの腸内細菌は腸内で優勢に存在し、かつ二次胆汁酸を生成しないことから、胆汁酸排泄量の増加に伴う有害な二次胆汁酸の生成も抑制する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌を利用した胆汁酸の吸着方法および胆汁酸吸着物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のわが国では、食生活の欧米化に伴って高コレステロール血症の罹患者が増加している。高コレステロール血症は動脈硬化の主要な危険因子であるが、その予防・改善には食生活や運動等の生活習慣を大きく変える必要があり、時として持続困難な自己規制を強いられることがある。誰もが受け入れられるような簡便な予防・改善手段が望まれている。
【0003】
生体内のコレステロールを低減させる方法として、食物由来コレステロールの吸収を抑制する方法、生体内のコレステロール生合成を抑制する方法、生体内コレステロールの代謝を促進する方法が挙げられる。生体内コレステロールの多くが体内で生合成されたものであることから、吸収を抑制する方法よりも、生合成を抑制もしくは代謝を促進する方法はコレステロール低減への寄与が大きいと考えられる。
【0004】
生体内コレステロールは胆汁酸やステロイドホルモン等へ代謝されるが、このうち量的に最も多いのは胆汁酸への代謝である。胆汁酸は肝臓でコレステロールを原料に合成された後、グリシンもしくはタウリンの抱合体として小腸上部で分泌され、食品中脂質の消化・吸収を促進する。胆汁酸の大半は小腸下部で能動的に再吸収されるが、一部は大腸へ流入し、脱抱合作用を有する腸内細菌により遊離胆汁酸となった後、7α脱水酸化作用を有する腸内細菌によりデオキシコール酸等の二次胆汁酸に変換される。二次胆汁酸は大腸がんのプロモーターとして働くことが知られている。
【0005】
ヒトの腸管内には糞便1gあたり1011〜1012個、約500種類の腸内細菌が存在する。腸内細菌の中でも乳酸菌等の有用菌群に関しては、コレステロール低減等多くの機能が報告されているが、それらの腸内細菌叢全体に占める割合は最大でも数%程度である。残りのコリンゼラ(Collinsella)属菌、クロストリジウム(Clostridium)属菌などの菌群は日和見菌と称され、菌数は圧倒的に多いにも関わらず、その機能に関しては未解明な点が多い。
【0006】
上述のように胆汁酸の再吸収を抑制することにより、原料である生体内のコレステロールを低減させることができる。その詳細な方法としては1.脱抱合促進、2.変換または分解、3.単純な吸着、4.菌体内への取込が挙げられる。
1.は、遊離胆汁酸が小腸での能動的再吸収を受けにくいことを利用した方法であり、例えば抱合胆汁酸脱抱合酵素タンパク質を利用する方法(特許文献1参照)等がある。しかしながら遊離胆汁酸は7α脱水酸化の基質となるので、本方法によって脱抱合を促進すると、有害な二次胆汁酸量も増加して生体に悪影響を与える可能性があり、安全性の面から十分な方法とは言えない。
【0007】
2.は、腸管内で胆汁酸を変換または分解することで再吸収量を減少させる方法であり、例として特許文献2に挙げられる乳酸菌等がある。しかしながら胆汁酸の変換により新たに有害な二次胆汁酸が生成する可能性があり、本法もまた十分ではない。
3.は、樹脂、食物繊維、乳酸菌等に胆汁酸を単純に吸着させて排泄量を増加させる方法であり、高脂血症治療薬であるコレスチラミンの作用機序である。食品の例としては特許文献3に挙げられる蛋白分解物質や、特許文献4に挙げられるラクトバチルス・カゼイを含む機能性飲食品等がある。しかしながら単なる吸着の状態では胆汁酸は外部に露出しており、7α脱水酸化菌が胆汁酸に接触可能であることから、有害な二次胆汁酸が生成する可能性があり、本法もまた1.、2.と同様に十分ではない。
【0008】
4.は糖源の存在下で胆汁酸を菌体内に取り込ませて排泄量を増加させる方法であり、特許文献5に挙げられる乳酸菌がある。本法によると胆汁酸は菌体内に取り込まれた状態で排泄されるので、上述1.から3.の方法で懸念された二次胆汁酸量の増加は起こらない。しかしながら上述のように、乳酸菌は腸内細菌全体から見れば極めて少数の菌群であり、特許文献5および6は胆汁酸取り込み能力を有する菌数の面で不十分である。
【0009】
【特許文献1】特開2000−166548号公報
【特許文献2】特開2004−208577号公報
【特許文献3】特開2004−203859号公報
【特許文献4】特開2000−197469号公報
【特許文献5】特開2001−97870号公報
【特許文献6】国際公開第03/013559号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、胆汁酸を菌体内に取り込む性質を有する菌を使用することで胆汁酸を吸着させる方法、および胆汁酸吸着物質を提供することである。さらに詳細には、腸内に大量に存在する腸内細菌を用いて、二次胆汁酸量の増加を伴わずに胆汁酸の排泄量を増加させ、生体内コレステロールを低減させる技術に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題について鋭意検討した結果、グルコース等の糖源の存在下で能動的に胆汁酸を取り込んで、糖源が供給されている間は菌体外に胆汁酸を放出しないという性質を有する、腸内に優勢に存在する腸内細菌を見出した。さらにこれらの腸内細菌は二次胆汁酸を生成しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌を使用することを特徴とする胆汁酸の吸着方法を提供する。また、本発明は、糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌からなることを特徴とする胆汁酸吸着物質、糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌の資化糖からなることを特徴とする胆汁酸吸着物質、ならびに糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌及びその資化糖の組み合わせからなることを特徴とする胆汁酸吸着物質を提供する。
【0012】
上記吸着のメカニズムとしては、糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌は、同様の性質を有する乳酸菌よりもはるかに多く存在することから、従来技術である乳酸菌を用いた胆汁酸吸着剤もしくは胆汁酸吸着方法と比較して、より強力な胆汁酸排泄をもたらし、生体内コレステロールを低減させると考えられる。またこれらの腸内細菌は二次胆汁酸を生成しないことから、従来技術の問題点であった胆汁酸排泄量の増加に伴う有害な二次胆汁酸の生成も抑制することができる。
【0013】
本発明で使用できる腸内細菌としては、コリンゼラ(Collinsella)属菌、クロストリジウム(Clostridium)属菌、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌、バクテロイデス(Bacteroides)属菌等がある。具体的には理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)に登録・保存されている菌株のうち、コリンゼラ(Collinsella)属菌としては、コリンゼラ・エロファシエンス(Collinsella aerofaciens)JCM7791株、コリンゼラ・エロファシエンス(Collinsella aerofaciens)JCM10188株、コリンゼラ・エロファシエンス(Collinsella aerofaciens)JCM10789株、コリンゼラ・ステルコリス(Collinsella stercoris)JCM10709株等を使用することができ、クロストリジウム(Clostridium)属菌としては、クロストリジウム・クロストリジフォルメ(Clostridium clostridiiforme)JCM1291株、クロストリジウム・イノキュム(Clostridium innocuum)JCM1292株、クロストリジウム・ラモサム(Clostridium ramosum)JCM1298株、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株等を使用することができ、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌としては、ルミノコッカス・プロダクタス(Ruminococcus productus)JCM1471株等を使用することができ、バクテロイデス(Bacteroides)属菌としては、バクテロイデス・ディスタソニス(Bacteroides distasonis)JCM5825株、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)JCM5826株、バクテロイデス・ステルコリス(Bacteroides stercoris)JCM9496株等を使用することができる。
【0014】
本発明に用いられる資化糖としては、通常食品等に使用される糖であれば単糖、少糖類、多糖類のいずれでも利用することが可能である。例えば、単糖としては、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルボース、ラムノース、D−リキソース等が挙げられ、二糖類としては、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、ゲンチビオース、D−ツラノース、ラクチュロース等が挙げられ、三糖類としては、メレジトース、ラフィノース等が挙げられ、多糖類としては、イヌリン、スターチ、グリコーゲン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、酵母マンナン等が挙げられ、糖アルコールとしては、アドニトール、D−アラビトール、グリセロール、ダルシトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、その他糖類類縁体としては、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン等が挙げられる。好ましくは、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、ゲンチビオース、D−ツラノース、ラクチュロース、ラフィノース、スターチ、グリコーゲン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、酵母マンナン、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシンが挙げられる。
【0015】
また、適宜、難消化性又は低吸収性の糖を用いることもできる。例えば、単糖としては、L−アラビノース、D−キシロース等が挙げられ、二糖としては、セロビオース、メリビオース、ゲンチビオース、ラクチュロース等が挙げられ、三糖としては、ラフィノース等が挙げられ、多糖としては、イヌリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、酵母マンナン等が挙げられ、糖アルコールとしては、ダルシトール、ソルビトール等が挙げられる。
また、これらの糖類は単独で用いることも可能であるが、用途に応じて複数の糖を組み合わせて使用することも可能である。
【0016】
上記糖のうち、上記胆汁酸取り込み腸内細菌の資化糖に該当する糖を選択する方法としては、胆汁酸取り込み腸内細菌に被検物質を添加して胆汁酸取り込み腸内細菌の胆汁酸取り込み反応を誘導する被検物質を選択する方法が挙げられ、例えば各糖類を単独で0.5%含有するBCP加PY培地に対して菌懸濁液をマクファーランド濁度1になるように接種し、37℃で12時間嫌気培養して、指示薬であるブロモクレゾールパープルの変色により評価する方法などがある。
例えば、クロストリジウム属菌に対する資化糖としては、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ラムノース、ダルシトール、ソルビトール、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、スターチ、グリコーゲン、ゲンチオビオース、D−ツラノース、D−リキソース、D−アラビトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクチュロース、ゲンチオオリゴ糖、酵母マンナンなどが挙げられ、コリンゼラ属菌に対する資化糖としては、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロースなどが挙げられ、ルミノコッカス属菌に対する資化糖としては、グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、アドニトール、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルボース、ラムノース、マンニトール、ソルビトール、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、イヌリン、ラフィノース、スターチなどが挙げられ、バクテロイデス属菌に対する資化糖としては、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、ラムノース、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、イヌリン、ラフィノース、スターチなどが挙げられる。
【0017】
また、胆汁酸取り込み腸内細菌は主に大腸で効果を発揮するため、本発明で用いる資化糖は小腸で分解・吸収されず大腸まで到達する難消化性又は低吸収性糖であることが好ましい。例えば、低吸収性糖としては、L−アラビノース、D−キシロース、ダルシトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、難消化性糖としては、セロビオース、メリビオース、イヌリン、ラフィノース、ゲンチビオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクチュロース、ゲンチオオリゴ糖、酵母マンナン等が挙げられる。さらに、胆汁酸取り込み腸内細菌資化糖を小腸で溶解させずに大腸まで到達させることができるドラッグデリバリーシステム(DDS)等を利用することにより、小腸で分解・吸収される糖であっても十分に利用することができる。
【0018】
これらの腸内細菌は、例えば以下の(1)〜(3)に示すスクリーニング等により得ることができる。
(1)間接的胆汁酸取込試験
腸内細菌を培養後、遠心分離して集菌し、集菌した菌をリン酸カリウムバッファー等に懸濁する。懸濁液に胆汁酸およびグルコース等の糖源を添加してインキュベートし、一定時間ごとに遠心分離により上清を回収し、胆汁酸濃度を測定する。糖源を添加しなかった場合と比較して、上清の胆汁酸濃度が減少している菌株を選択する。
(2)直接的胆汁酸取込試験
腸内細菌を培養後、遠心分離して集菌し、集菌した菌をリン酸カリウムバッファー等に懸濁する。懸濁液に14C等の放射性同位体で標識した胆汁酸およびグルコース等の糖源を添加してインキュベートし、一定時間ごとにフィルター濾過により菌体を回収し、菌体の放射活性を測定する。糖源を添加しなかった場合と比較して、菌体の放射活性の高い菌株を選択する。
【0019】
(3)二次胆汁酸生成試験
腸内細菌を培養後、遠心分離して集菌し、集菌した菌をリン酸カリウムバッファー等に懸濁する。懸濁液に胆汁酸を添加してインキュベートし、上清の胆汁酸画分を抽出して、薄層クロマトグラフィー等で胆汁酸組成を分析する。基質とした胆汁酸以外のスポットが検出されなかった菌株を選択する。
上記(1)と(2)の試験はいずれも胆汁酸取り込み活性を測定するものであり、いずれかを省略することができる。
上記(1)〜(3)の試験で使用する胆汁酸は、公知の種々の胆汁酸を使用できるが、特に好適にはコール酸を使用することができる。
また腸内細菌が効果を発揮するのは主に大腸内であると考えられることから、上記(1)、(2)の試験で大腸内pHに近い中性付近で高い取り込み活性を示す菌株、および(3)の試験で二次胆汁酸生成を示さない菌株を選択するのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により腸内で腸内細菌に胆汁酸を取り込ませることで胆汁酸の排泄量を増加させ、生体内コレステロールを低減させる事ができる。
さらに詳述すると、糖源の存在下で能動的に胆汁酸を取り込んで、かつ二次胆汁酸を生成しない腸内細菌を使用することにより、胆汁酸排泄量を増加させることができる。さらに有害な二次胆汁酸の生成を伴わないので、生体内コレステロールを安全に低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明では、糖源の存在下で能動的に胆汁酸を取り込んで、糖源が供給されている間は菌体外に胆汁酸を放出しないという性質を有し、かつ二次胆汁酸を生成しない性質を有する腸内細菌を使用する。
本発明の実施の形態としては、例えば上記性質を有する腸内細菌を菌体あるいは菌体を含む培養物として含有させた製剤や飲食品がある。これら製剤や飲食品を摂取する事で、取り込み能を有する腸内細菌を腸内に到達させ、腸内の胆汁酸量を低減することができる。
また例えば上記性質を有する腸内細菌の糖源として使用できる資化糖を含有させた製剤や飲食品がある。これら製剤や飲食品を摂取する事で、元来腸内に存在する取り込み能を有する腸内細菌の胆汁酸取り込み活性を誘導して、腸内の胆汁酸量を低減することができる。
【0022】
また例えば上記性質を有する腸内細菌の菌体あるいは菌体を含む培養物、および上記性質を有する腸内細菌の資化糖を含有させた製剤や飲食品がある。これら製剤や飲食品を摂取する事で、胆汁酸取り込み能を有する腸内細菌を腸内に到達させ、かつその胆汁酸取り込み活性を誘導して、腸内の胆汁酸量をより効果的に低減することができる。
上述の製剤としては粉剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤等が挙げられる。また飲食品としては発酵乳、乳製品、飲料、菓子、パン類等、種々のものが挙げられる。
本発明で用いる上記性質を有する腸内細菌の菌体あるいは菌体を含む培養物の投与量は1日あたりの総投与菌体量として1×104〜1×1011個であり、好ましくは1×105〜1×1010個である。
本発明で用いる上記性質を有する腸内細菌の資化糖は、安全性には問題がないため、これを経口投与する場合の投与量に制限はない。一般的には食品に使用される投与量に設定し、具体的には1日あたりの総投与量として0.05〜25g、好ましくは0.1〜20gである。ただし、難消化性糖については1日あたりの投与量が10g未満とすることが望ましい。
本発明で用いる上記性質を有する腸内細菌の菌体あるいは菌体を含む培養物、および上記性質を有する腸内細菌の資化糖との組成物の配合割合は、上記1日量の範囲が好ましい。
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
胆汁酸取り込み腸内細菌の糖資化性試験腸内細菌について、各種糖類の資化性試験を行った。表1に示す各糖類を単独で0.5%含有するBCP加PY培地に対し、菌懸濁液をマクファーランド濁度1になるように接種した。37℃で12時間嫌気培養し、指示薬であるブロモクレゾールパープルの変色が観察された糖を資化糖とした。下に培地組成を示す。
BCP加PY培地(1リットル)
ポリペプトン 10g
酵母エキス 5g
ツィーン80 1mL
リン酸水素二カリウム 2g
酢酸ナトリウム三水和物 5g
クエン酸二アンモニウム 2g
硫酸マグネシウム七水和物 0.20g
硫酸マンガン四水和物 0.05g
ブロモクレゾールパープル 0.17g
表1にクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株を使用した場合の糖資化性試験の結果を示す。JCM1391株はL−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、スターチ、グリコーゲン、ゲンチオビオース、D−ツラノース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクチュロース、ゲンチオオリゴ糖、酵母マンナンを資化した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【実施例2】
【0026】
腸内細菌の胆汁酸取り込み活性の測定
ヒトの優勢な腸内細菌であるコリンゼラ(Collinsella)属菌、クロストリジウム(Clostridium)属菌、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌、バクテロイデス(Bacteroides)属菌を間接的胆汁酸取り込み試験に供した。
腸内細菌は市販のGAM培地で一夜培養した。培地組成は次の通りである。
GAM培地(1リットル)
ペプトン 10g
プロテオースペプトン 10g
ソイペプトン 3g
可溶性デンプン 5g
グルコース 3g
システイン塩酸塩 0.3g
酵母エキス 5g
肝臓エキス末 1.2g
肉エキス末 2.2g
消化血液末 13.5g
チオグリコール酸ナトリウム 0.3g
リン酸2水素ナトリウム 2.5g
【0027】
一夜培養した菌体は再度同じ培地に植え継ぎ、対数増殖期の菌体を遠心分離により回収した。菌体はリン酸カリウム緩衝液(150mMリン酸カリウム、1mM硫酸マグネシウム、pH 7.0)で1回洗浄後、同じ緩衝液に懸濁し、660nmにおける濁度が20になるように調整した。この菌体懸濁液4.75mLに2mMコール酸ナトリウムを0.25mL加え、37℃で20分間静置した後、1Mグルコースを50μL添加して胆汁酸取り込み反応を開始した。反応開始後0分から30分の間に経時的に反応液を0.5mLずつ回収し、遠心分離で上清をすみやかに分離し、上清中の胆汁酸濃度を総胆汁酸テストワコー(和光純薬工業(株))で測定した。対照としてグルコースを添加しないものについても同様に上清中の胆汁酸濃度を測定した。グルコース添加による胆汁酸濃度の減少分を菌の胆汁酸取り込み量とした。
【0028】
図1はクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株の胆汁酸取り込み結果を示す。グルコースの添加により速やかにコール酸は菌体内に取り込まれ、グルコースを消費した反応10分以降は徐々に放出された。同様に全ての供試菌について試験を行い、結果を表3にまとめた。コリンゼラ(Collinsella)属菌、クロストリジウム(Clostridium)属菌、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌、バクテロイデス(Bacteroides)属菌に胆汁酸取り込み活性が認められた。
【0029】
【表3】

【0030】
表中、Tは標準菌株を示す。
強い胆汁酸取り込み活性を示した菌株について、確認のため直接的胆汁酸取り込み試験を行った。上述の通りに菌体懸濁液を調製し、この菌体懸濁液950μLに2mMコール酸ナトリウム(14Cで標識したコール酸、197MBq/mmol)50μLを加え、37℃で20分間静置した後、1Mグルコースを10μL添加して胆汁酸取り込み反応を開始した。反応開始後0分から30分の間に経時的に反応液を100μLずつ回収し、セルロースアセテート膜でろ過して菌体を分離し、放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定し、放射活性からコール酸取り込み量を算出した。対照としてグルコースを添加しないものについても同様に放射活性を測定した。一例としてクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株の結果を図2に示すが、間接的胆汁酸取り込み試験と同様の結果を得た。
【実施例3】
【0031】
資化糖による腸内細菌の胆汁酸取り込み
実施例1で胆汁酸取り込み活性を示した菌株について、グルコース以外の糖を添加した間接的胆汁酸取り込み試験を行った。一例としてクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株の試験結果を表4にまとめた。資化糖であるラフィノース、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖はいずれもグルコース同様に胆汁酸の取り込みを誘導し、特にラフィノース、ゲンチオオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖はグルコースよりも強い取り込み誘導活性を示した。
【0032】
【表4】

【実施例4】
【0033】
腸内細菌の二次胆汁酸生成活性の調査
実施例2で胆汁酸取り込み活性を示した菌株について、二次胆汁酸生成活性を調査した。上述の通りに菌体懸濁液を調製し、菌体懸濁液95μLに2mMコール酸ナトリウムを50μL加え、37℃で20分間静置した後、1Mグルコースを5μL添加して胆汁酸取り込み反応を開始した。反応開始30分後に6N塩酸10μLを添加して反応を停止し、反応液を酸性化した。反応液は5倍量の酢酸エチルで2回抽出し、濃縮後シリカゲルプレート(Silica gel 60,Merck)に全量をスポットした。シリカゲルプレートは展開溶媒(酢酸エチル:シクロヘキサン:酢酸=69:21:9)で展開し、10%モリブドリン酸−エタノール液を噴霧した後に110℃で10分間加熱して、胆汁酸の青色スポットを確認した。
最初に添加したコール酸以外の胆汁酸スポットは検出されず、実施例1で胆汁酸取り込み活性を示した菌株は二次胆汁酸生成活性を有さないことが判明した。一例としてクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株の結果を図3に示す。
【実施例5】
【0034】
腸内細菌の菌体および菌体を含む培養物の調製
市販のGAM培地に腸内細菌を37℃で24時間嫌気培養して培養液を得た。培養液をそのまま、もしくは遠心分離により菌体を回収して凍結乾燥することにより、腸内細菌の菌体を含む培養物および菌体を得た。クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株では、培地1mLあたり2.0×10個の菌体を得た。
【実施例6】
【0035】
錠剤、カプセル剤
実施例5の菌体 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。
【実施例7】
【0036】
錠剤、カプセル剤
ラフィノース 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。
【実施例8】
【0037】
錠剤、カプセル剤
実施例5の菌体 5.0g
ラフィノース 5.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。
【実施例9】
【0038】
錠剤、カプセル剤
実施例5の菌体を含む培養物 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。
【実施例10】
【0039】
錠剤、カプセル剤
実施例5の菌体を含む培養物 5.0g
ラフィノース 5.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。
【実施例11】
【0040】
散剤、顆粒剤
実施例5の菌体 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【実施例12】
【0041】
散剤、顆粒剤
ラフィノース 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【実施例13】
【0042】
散剤、顆粒剤
実施例5の菌体 10.0g
ラフィノース 10.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【実施例14】
【0043】
散剤、顆粒剤
実施例5の菌体を含む培養物 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【実施例15】
【0044】
散剤、顆粒剤
実施例5の菌体を含む培養物 10.0g
ラフィノース 10.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【実施例16】
【0045】

ショ糖 20.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
香料 0.45g
着色料 0.045g
実施例5の菌体 0.005g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。
【実施例17】
【0046】

ラフィノース 5.0g
ショ糖 15.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
香料 0.45g
着色料 0.05g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした
【実施例18】
【0047】

ラフィノース 5.0g
ショ糖 15.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
香料 0.45g
着色料 0.045g
実施例5の菌体 0.005g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。
【実施例19】
【0048】

ショ糖 20.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
香料 0.45g
着色料 0.045g
実施例5の菌体を含む培養物 0.005g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。
【実施例20】
【0049】

ラフィノース 5.0g
ショ糖 15.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
香料 0.45g
着色料 0.045g
実施例5の菌体を含む培養物 0.005g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。
【実施例21】
【0050】
ジュース
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 5.0g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.048g
実施例5の菌体 0.002g
水 79.5g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。
【実施例22】
【0051】
ジュース
ラフィノース 2.5g
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 2.5g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.05g
水 79.5g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。
【実施例23】
【0052】
ジュース
ラフィノース 2.5g
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 2.5g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.048g
実施例5の菌体 0.002g
水 79.5g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。
【実施例24】
【0053】
ジュース
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 5.0g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.048g
実施例5の菌体を含む培養物 0.002g
水 79.5g
合 計 100.0g
【実施例25】
【0054】
ジュース
ラフィノース 2.5g
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 2.5g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.048g
実施例5の菌体を含む培養物 0.002g
水 79.5g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】はクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)JCM1391株の間接的胆汁酸取り込み試験の結果を示す図である。
【図2】JCM1391株の直接的胆汁酸取り込み試験の結果を示す図である。
【図3】標準物質およびJCM1391株反応上清抽出物による胆汁酸スポットを示すシリカゲルプレートの展開図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌を使用することを特徴とする胆汁酸の吸着方法。
【請求項2】
腸内細菌がクロストリジウム(Clostridium)属菌、コリンゼラ(Collinsella)属菌、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌、又はバクテロイデス(Bacteroides)属菌である請求項1記載の方法。
【請求項3】
腸内細菌が二次胆汁酸生成活性を有さない菌である請求項1記載の方法。
【請求項4】
腸内細菌がクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)である請求項1記載の方法。
【請求項5】
糖源がグルコース、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖である請求項1記載の方法。
【請求項6】
糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌からなることを特徴とする胆汁酸吸着物質。
【請求項7】
腸内細菌がクロストリジウム(Clostridium)属菌、コリンゼラ(Collinsella)属菌、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌、又はバクテロイデス(Bacteroides)属菌である請求項6記載の物質。
【請求項8】
腸内細菌が二次胆汁酸生成活性を有さない菌である請求項6記載の物質。
【請求項9】
腸内細菌がクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)である請求項6記載の物質。
【請求項10】
糖源がグルコース、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖である請求項6記載の物質。
【請求項11】
請求項6−10のいずれか1項記載の物質を含有する胆汁酸吸着作用を有する飲食品。
【請求項12】
請求項6−10のいずれか1項記載の物質を含有する胆汁酸吸着作用を有する胆汁酸吸着剤。
【請求項13】
糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌の資化糖からなることを特徴とする胆汁酸吸着作用を有する胆汁酸吸着物質。
【請求項14】
腸内細菌がクロストリジウム(Clostridium)属菌、コリンゼラ(Collinsella)属菌、ルミノコッカス(Ruminococcus)属菌、又はバクテロイデス(Bacteroides)属菌である請求項13記載の物質。
【請求項15】
腸内細菌が二次胆汁酸生成活性を有さない菌である請求項13記載の物質。
【請求項16】
腸内細菌がクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)である請求項13記載の胆汁酸吸着物質。
【請求項17】
糖源および資化糖がグルコース、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖である請求項13記載の物質。
【請求項18】
請求項13−17のいずれか1項記載の物質を含有することを特徴とする胆汁酸吸着作用を有する飲食品。
【請求項19】
請求項13−17のいずれか1項記載の物質を含有することを特徴とする胆汁酸吸着剤。
【請求項20】
糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌およびその資化糖からなることを特徴とする胆汁酸吸着作用を有する胆汁酸吸着物質。
【請求項21】
糖源の存在下で菌体内に胆汁酸を取り込む性質を有する腸内細菌およびその資化糖を使用することを特徴とする胆汁酸の吸着方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−314219(P2006−314219A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138052(P2005−138052)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】