説明

腸管内でインクレチン生産を刺激するための嚥下可能カプセルおよび方法

本発明の実施形態は、糖尿病および肥満を含む状態の処置のために、腸管内のL細胞を刺激してインクレチンを生産させるための装置および方法を提供する。多くの実施形態は、L細胞を電気的に刺激してインクレチンを分泌させてインスリンの生産を刺激するか、そうでなければ調整することによる、糖尿病の処置のための方法および装置を提供する。特定の実施形態は、カプセルが管内を移動する際に腸管内のL細胞を刺激するための嚥下可能カプセルを提供する。カプセルは、L細胞に電気刺激を提供するための二つ以上の電極と、カプセルの一つ以上の構成要素に給電するための電源と、腸管内のカプセルの位置を感知するためのセンサと;糖尿病状態のグルコース調節のためにL細胞を刺激してGLP−1等のインクレチンを分泌させてインスリン生産を刺激するために電極により発せられる電気シグナルを生成するための、コントローラおよび波形発生器とを含みうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は2009年8月3日に出願された米国仮特許出願第61/273,389号、名称「SWALLOWABLE CAPSULE AND METHOD FOR STIMULATING INCRETIN PRODUCTION WITHIN THE INTESTINAL TRACT」への優先権の利益を主張する。前述の優先権の出願は、その全容が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本明細書に記載される実施形態は、糖尿病および肥満等の様々な状態の処置のために、GI系の細胞を電気的に刺激してポリペプチドを生産させるための装置および方法に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、胃腸(GI;gastro−intestinal)系の細胞を電気的に刺激して、インクレチン等のグルコース調節ホルモンを生産させることによる、糖尿病の処置に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
西洋型の食生活に見られる高脂肪および/または高カロリーの食物の消費増加により、米国および他の先進諸国において糖尿病および肥満が流行してきた。糖尿病は、膵臓で生産されるホルモンであるインスリンを体が十分に生産しないか、またはこれに適切に反応しない疾患である。インスリンは、糖および他の食物をエネルギーに変えるために必要とされる。糖尿病においては、体がインスリンを十分に作らないか、または体内のインスリンを本来のようにうまく使用できないか、またはその両者である。これにより血液に糖が蓄積し、しばしば様々な合併症をもたらす。米国糖尿病協会(American Diabetes Association)は2009年に、米国内の2,360万人の子供および大人が糖尿病であると報告した(全人口の約7.8%に等しい)。米国内だけで約1,790万人が糖尿病と診断されている一方、約四人に一人の糖尿病患者(570万人)は、自分がその疾患であると気づいていない。
【0004】
糖尿病の主な種類には、1型、2型および妊娠糖尿病が含まれる。1型糖尿病は、体がインスリンを生産できないことから生じる。糖尿病と診断されるアメリカ人の5〜10%が、1型糖尿病であると推定される。現在、1型糖尿病の人はほぼ全員がインスリン注射をしなければならない。
【0005】
2型糖尿病は、相対的なインスリン欠乏と合わせて体がインスリンを適切に使用できない状態から生じる。糖尿病と診断されるアメリカ人のほとんどは、2型糖尿病である。2型糖尿病を発症する運命にある多くの人は、糖尿病前症の状況で長年を過ごす。これは「アメリカにおける健康問題で最大の流行病」と言われ、血液グルコースレベルが正常より高いが、2型糖尿病と診断されるほどは高くない場合に生じる状態である。2009年現在で、5,700万人のアメリカ人が糖尿病前症であった。先進国においては、糖尿病は非高齢者における成人失明の最も大きな原因であり、成人の非外傷性切断の一番の原因である。さらに、米国で腎臓透析を必要とする主な疾患は糖尿病性腎症である。
【0006】
1920年代にインスリンが医学的に利用可能になったこともあり、ほとんどの形の糖尿病は処置可能となっている。現在では多くの糖尿病患者が血液グルコース測定器を使用して自分の血液グルコースをモニタし、一日に一回以上自分でインスリン注射を打つ。しかし、このアプローチには、インスリン送達の過剰または不足、ならびに長期的に血液グルコースを調節できないことにより、多くの合併症がある。疾患が適切にコントロールされない場合には、低血液グルコース症、糖尿病性ケトアシドーシス、または非ケトン性高浸透圧性昏睡を含む急性合併症が生じうる。深刻な長期合併症には、心血管疾患、慢性腎不全、網膜損傷(失明につながりうる)、神経損傷、および微小血管損傷(勃起障害および創傷治癒遅延の原因となりうる)が含まれる。特に足の創傷治癒遅延は壊疽をもたらすこともあり、切断に至る可能性もある。
【0007】
Metformin(GLUCOPHAGEとして公知である)等、他の形の薬物療法も利用可能である。しかし、この薬はII型インスリン非依存型糖尿病の処置にのみ指定され、様々な胃腸の副作用を含む多くの副作用がある。また、腎臓疾患の患者には使用できない。他の処置の形には、埋め込み型インスリンポンプが含まれるが、これらは高コストであり最終的には体に拒絶される。したがって、改良された形の糖尿病および他のグルコース調節障害の処置が必要である。
【0008】
肥満は、ボディマスインデックス(BMI;body mass index)30超として定義され、米国および他の国において主要な健康問題である。三人に一人のアメリカ人および世界中で3億人超が肥満であると推定されている。肥満の合併症には、高血圧、糖尿病、冠状動脈疾患、脳卒中、うっ血性心不全、肺動脈弁閉鎖不全症、複数の整形外科的問題、様々ながんおよび平均余命の顕著な減少を含む、数多くの重大な生命にかかわる疾患が含まれる。食事療法、薬物療法、および胃のステープリング等のより侵襲性の処置を含めて、肥満処置のために多数の療法が試みられている。しかし、人に満腹を知らせる満腹シグナル経路を起動できないために失敗するものが多い。現在では研究により、塩、糖および脂肪分が高いものを含む食品産業により供給される多くの食品が、脳において食べ続ける強いシグナル反応を起動することが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、満腹シグナルおよび/または食欲抑制シグナルを刺激して人に食べるのを止めさせるか、または他の方法で食欲を抑制できるものを含む、改善された形の肥満処置が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(簡潔な概要)
本発明の実施形態は、糖尿病および肥満を含む様々な疾患および状態の処置のために、小腸のL細胞を刺激してインクレチンおよび他のペプチドを生産させるための装置および方法を提供する。多くの実施形態は、L細胞を電気的に刺激してグルカゴン様タンパク質(GLP;glucagon−like protein、本明細書でグルカゴン様ペプチドとも称する)および他のインクレチンを分泌させ、インスリンの生産を刺激することによる、肥満、糖尿病および他のグルコース調節障害の処置のための方法および装置を提供する。具体的実施形態は、カプセルが腸管を通って移動する際に腸管内のL細胞を電気的に刺激してGLPを分泌させるための、嚥下可能カプセルを提供する。カプセルの実施形態には、L細胞に電気刺激を提供するための二つ以上の電極と、腸管内のカプセルの位置を感知するためのセンサと、カプセル内の一つ以上(one more)の電気構成要素に給電するための電池等の電源と、カプセルの一つ以上の操作を制御するためのコントローラと、L細胞を刺激してグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)等のインクレチンを生産させるために電極により組織に送達される電気シグナルを生成するためのシグナル/波形発生器とが含まれうる。シグナルは、選択可能なパルス持続時間を有する方形波等の波形を典型的に含み、コントローラに統合または連結されたシグナル/波形発生器により生成されうる。シグナルは、L細胞を刺激してGLP−1等のインクレチンを分泌させるが、カプセル付近の腸管部位または腸管の他のどの位置にも蠕動性収縮を引き起こさないように構成されるのが望ましい。しかし、いくつかの実施形態では、波形発生器は、蠕動性収縮を引き起こさずにL細胞を刺激するための一方の波形と、カプセルを腸管に沿って前進させるために蠕動性収縮を引き起こすための第二波形の、二つの波形を生じるように構成されてもよい。これらの後者の実施形態においては、カプセルは、カプセルが移動を止めているとき、または所望の速度閾値未満で移動しているときを検知するための加速度計を含みうる。使用においては、これらの後者の実施形態により、腸の神経障害または腸の壊死等の他の関連の状態を有する患者等、腸管の動きが非常に遅い患者においてカプセルを前進させうる。コントローラが加速度計からカプセルが停止しているかまたは移動が遅すぎることを示す入力を受け取ると、コントローラが波形発生器にシグナルを送って第二波形を生成させることにより、カプセル付近の領域で腸の蠕動性収縮を引き起こし、これによりカプセルが腸内を遠位に推進されうる。このプロセスは、蠕動性収縮の不応期を考慮した選択可能な遅延を伴って、必要に応じて繰り返されうる。
【0011】
電極は、カプセル表面上に様々な位置および向きに配置されうる少なくとも一対の電極を典型的に含む。これは、カプセルの長手軸または半径軸に対して長さ方向の様式において含みうる。具体的実施形態においては、電極は、表面カプセル上に配置される一対以上の環状電極を含みうる。電極は、例えば銀−塩化銀またはプラチナを含む公知技術の様々な導電性金属を含みうる。電極の間隔は、腸管の粘膜層下の組織の電気刺激を最小化するように構成されうる。具体的実施形態においては、間隔は、腸壁の電気刺激を5mm以下の深さに制限するように構成されうる。
【0012】
様々な実施形態においては、少なくとも一つのセンサは、胃から小腸へのカプセルの通過を検知するための一つ以上のpHセンサと、(pHセンサからの入力から独立して、またはこれと組み合わせて)カプセルが腸内にあるときを検知するために腸の蠕動性収縮を感知するための圧力センサとを含みうる。圧力センサは、腸がカプセルと接触しているとき(例えば蠕動性収縮中に圧搾されている際)を検知し、したがって刺激期間を開始すべきときを検知するためにも用いうる。具体的実施形態は、蠕動性収縮に加えて胃から腸へのpHの変化を特定するために、pHセンサおよび圧力センサの両方を含み得、管中のセンサの場所の特定における精度レベルを高める。温度、O、CO、光学センサ等、さらに他のセンサも企図される。複数のセンサからの入力を組み合わせて、コントローラにカプセルの場所を特定するための合計感覚入力を得てもよい。様々な実施形態においては、コントローラに入力される前にセンサシグナルをコンディショニングするために、センサコンディショニング回路(例えば帯域通過フィルタ)がコントローラに連結されうる。
【0013】
使用方法の例示的実施形態においては、インスリンの放出を促進しおよび/または体内活性を増強するために本発明の嚥下可能カプセルを用いてL細胞によるGLP等の様々なタンパク質の分泌を刺激しうる。これらおよび他の関連の実施形態においては、使用者が、食事前、食事中または食事後にカプセルを嚥下しうる。摂取後、嚥下可能カプセルは、胃を通過して小腸に至る。カプセル内のセンサにより体内におけるその相対的位置を検知しうる。例えばpH、圧力、または他の関連の徴候のセンサにより、カプセルが小腸に達したときを特定しうる。小腸に入ったら、(典型的にはカプセル内の)コントローラにより嚥下可能カプセルが作動されて電気刺激を提供し、これにより小腸のL細胞がGLP−1またはその他のインクレチン(GIP、PYY等)を分泌する。その後、GLP−1および/またはその他のインクレチンが、インスリンの分泌を誘発しおよび/または体のインスリン使用を促進する。電気刺激を提供するための嚥下可能カプセルの作動は、例えば嚥下可能カプセル内の内部指示および/またはプログラムにより命令され得、または嚥下可能カプセルの外的制御により提供されうる。GLP−1および/またはその他のインクレチンの分泌の刺激が消化食物からの栄養分の吸収と調和させられ、これによりその後のインスリン生産もグルコース、脂肪およびその他の栄養分の血流への流入と調和させられるように、嚥下可能カプセルは食事のすぐ前に、または食事とともに摂取されるのが好ましい。このようにして、患者の血液グルコースレベルが、食事後に糖尿病でない正常個体のものにより近くなるように制御されうる。
【0014】
これらならびに他の実施形態および本発明の態様に関するさらなる詳細を、添付の図面を参照してさらに詳しく後述する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、小腸および腸壁に沿ったL細胞の分布を示す図である。
【図2】図2は、腸壁のL細胞の場所を示す腸の断面図である。
【図3】図3は、ホルモン分泌および細胞内シグナル伝達を含むL細胞の生化学的機能および生理的機能を示す略図である。
【図4】図4は、本発明の嚥下可能カプセルの実施形態を示す側面図である。
【図5】図5は、L細胞を刺激してインクレチンを分泌させるための腸管内の嚥下可能カプセルの実施形態の使用を示す断面図である。
【図6】図6は、嚥下可能カプセルの実施形態の電極間のギャップを示す側面図である。
【図7】図7a−dは、カプセル上の電極の構成の様々な実施形態を示す図である。図7aは、環状電極を有するカプセルの実施形態を示す側面図である。図7bは、側面方向(laterally oriented)の電極を有する実施形態を示す側面図である。図7cは、複数の側面方向の電極を有する実施形態を示す断面図である。図7dは、環状および側面方向の電極の両方を有する実施形態を示す側面図である。
【図8】図8は、嚥下可能カプセルの一つ以上の機能を制御するための電子構造の実施形態を示すブロック線図である。
【図9】図9a−dは、腸管を通ってカプセルを移動させるための蠕動波を惹起するためにカプセルから発された電気的刺激波形の使用を示す側面図である。
【図10】図10は、分化NCI−H716細胞によるインビトロのGLP−1の生産に対する電気刺激の効果を示す棒グラフである。
【図11】図11は、分化NCI−H716細胞によるインビトロのGLP−1の生産に対する電気刺激の効果を示す時間経過グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本明細書に記載の実施形態は、糖尿病および肥満を含む様々な状態の処置のために、小腸の細胞を刺激してグルカゴン様タンパク質(本明細書においてグルカゴン様ペプチドとも称する)およびその他のホルモン類ならびに分泌化合物を分泌させる方法および装置を提供する。
【0017】
ここで図1〜3を参照すると、小腸および大腸を含む腸管の粘膜表面に、L細胞(LC)およびK細胞(KC)を含む多くの細胞が並んでいる。L細胞は、粘膜下部分SPと、粘膜Mの表面から伸び、グルコースを含む様々な分子と結合する管腔突出部分LPとを含む。L細胞およびK細胞は、グルカゴン様タンパク質(GLP−1)、グルコース依存性インスリン分泌性(insulinotropic)ペプチドGIPおよびオキシントモジュリン(OXM)を含む、インクレチンとして知られる様々な胃腸ホルモンを分泌する。
【0018】
ホルモンGIPは、GLP−1の分泌を増強しうる。GIPは、腸のコリン作動性ニューロンのある程度の制御下で、近位十二指腸のいわゆる「K」細胞により分泌される。K細胞に加えてL細胞も、グルコースへの曝露に応答してGLP−1およびGIPを分泌する。そしてGIPは、GLP−1の放出を増加させるように作用する。次に、GLP−1は、後述のようにインスリンの生産を増加させるように作用する。インクレチンは、食欲抑制、減量、身体組織のインスリン感受性の回復および膵臓のβ細胞の保存等の他の有益効果も生じる。インクレチンは、腎臓およびペプチダーゼにより急速に代謝/分解される(半減期GLP−1<2分、GIP<7分)。
【0019】
インクレチンは、体内のグルコース制御に重要な役割を果たすと考えられ、「インクレチン効果」として知られる現象においてGLP−1等のインクレチンがグルコース依存的様式でインスリン分泌を増加させる。実際のところ、食事に対するインスリン反応のおよそ50%以上がインクレチン効果に起因する。このインクレチン効果により、通常はグルコースの摂取後最初の約30分後以内に血漿インスリンの非常に急速な増加が生じる。多くの2型糖尿病患者は、GLP−1の分泌減少、およびGIPのインスリン分泌性活性の相当な減少を含む、インクレチン効果の有意な減少を有する。これにより、糖尿病患者においてインスリン生産の速度および量の相当な減少が生じる。
【0020】
II型糖尿病を含む糖尿病で生じるインクレチン効果の喪失を逆転させるための、いくつかのアプローチが企図されうる。これには、GIPおよび/またはGLP−1の生産を増加させることが含まれる。上述のように、II型糖尿病患者ではGIPがそのインスリン分泌性活性を失い、したがって超生理学的(supraphysiological)(薬理学的)血漿レベルでもグルコース依存的インスリン分泌を調整できなくなっている。この活性の喪失は、特に食後の膵臓のβ−細胞によるインスリン生産に有害である。したがって、GIPの生産を増加させることは実行可能な選択肢ではないかもしれない。しかし、II型糖尿病においてもGLP−1は、有意に減少したレベルではあるが、インスリン分泌性である。したがって、GLP−1のレベルを増加させることは、II型糖尿病患者を含む糖尿病患者におけるインスリン生産を増加させるためのアプローチであるように見える。
【0021】
したがって、本発明の様々な実施形態は、食事摂取と同時または実質的に同時に腸の部分を電気的に刺激することにより、GLP−1および他のインクレチンの生産を増加させることを企図する。これは、食事摂取前、食事摂取中または食事摂取後に嚥下可能カプセルを摂取することにより達成でき、このカプセルは、腸の部分を電気的に刺激することによりL細胞を刺激してGLP−1および他のインクレチンを分泌させて、インスリン生産を増加させるように構成されている。カプセルは、GLP−1または他のインクレチンの分泌が血流への栄養分の吸収と調和するように、食事摂取と調和した様式で嚥下されるのが望ましい(例えば食事摂取前、食事摂取中または食事摂取後の選択された時間中、例えば食事摂取前または食事摂取後1〜30分)。本明細書に記載の食欲抑制等の他の効果を生じるために、食事摂取とカプセルの調和またはタイミングが選択されてもよい。
【0022】
次に図4〜8を参照すると、腸管IT内のL細胞および他の細胞を刺激してインクレチンを分泌させるための嚥下可能カプセル10の実施形態には、カプセルボディ20と、所望の細胞に電気刺激を提供するための少なくとも二つ以上の電極40と、カプセルの一つ以上の操作を制御し、電極により組織に送達される電気シグナルを生成するためのコントローラ30と、コントローラ等のカプセルの一つ以上の構成要素に給電するための電源55と、管内のカプセルの位置および/またはGI管内の様々な事象および状態を特定するための少なくとも一つのセンサ60が含まれる。本明細書に記載の様々な実施形態においては、カプセル10は、カプセルの腸管ITを通る移動速度を測定し、移動のない期間を特定するための加速度計65も含みうる。
【0023】
カプセルボディ20(本明細書においてボディ20と称する)は、使用者(本明細書において患者とも称する)により嚥下され、通常の蠕動運動により腸管を完全に通過する大きさで成形されるのが望ましい。ボディ20は、ボディ表面25と、例えばコントローラ30等の様々な構成要素のための内部空洞21とを含む。ボディ20は、当技術分野で公知の様々な生体適合性の不活性プラスチックから製造でき、様々なコーティング(例えば腸溶コーティング)も含みうる。
【0024】
電極40は、銀−塩化銀、プラチナまたはステンレス鋼を含む様々な生体適合性の導電材料を含みうる。様々な導電性ポリマー等、当技術分野で公知のさらに他の導電材料も企図される。電極40は、表面上により防腐性の高い材料を伴う積層構造も有しうる。典型的には電極40は、双極電極として構成されうる電極の少なくとも一つの電極対50を含む。二つ、三つ、四つおよびさらに大きな数を含む、電極40の複数の対50も企図される。
【0025】
電極40は、カプセルボディ20の表面25上に様々な様式で配置されうる。これには、図7aの実施形態に示される、カプセルの半径20rに対して長さ方向の様式が含まれる。図7aは、電極40が表面カプセル上に配置された環状電極40rの一つ以上の対50を含む実施形態も示す。環状電極40rの複数の対50がカプセル20の長さに沿って分布し、各対がコントローラ30または他の切替回路によりスイッチ切替可能でありうる。このような実施形態により、例えば蠕動性収縮または圧搾がカプセルの一部分で検知されるが別の部分には検知されないときなど、様々な要因に基づいてL細胞の刺激を最適化するために、コントローラ30が個別の電極対50をオンおよびオフに切り替えることが可能になる。
【0026】
他の実施形態では、図7bの実施形態に示されるように、電極40が、カプセル20の長手軸20Lに対して長さ方向の様式で向けられうる。好ましい実施形態では、カプセル20は、図7cの実施形態に示されるようにカプセル周囲20pの周りに分布するように側面軸20Lに対して向けられた電極40の複数の対50を含みうる。さらに他の実施形態では、カプセル20は、図7dの実施形態に示されるように、側面方向および半径方向に向けられた電極の組み合わせを含みうる。このような実施形態は、異なる種類の細胞(例えばL細胞およびK細胞)、異なる位置の細胞を刺激するため、または本明細書に記載のようにL細胞を刺激するとともに腸の筋組織を刺激して蠕動性収縮を惹起するために、使用されうる。
【0027】
個々の電極間の間隔またはギャップ45は、図6の実施形態に示されるように、腸管粘膜層の下の組織の電気刺激を最小化するように構成されるのが望ましい。間隔45は、腸壁の電気刺激を5mm以下、より好ましくは3mm以下、さらにより好ましくは1mm以下の深さに制限するように構成されうる。特定の実施形態においてギャップ45は、約0.05〜約0.2インチの範囲内であり得、具体的実施形態において0.1、0.15インチでありうる。より浅い刺激効果を達成するために、より近い間隔を用いうる。特定の実施形態では電極対50の間の間隔が様々であり、一部の対がより浅い刺激効果のために構成され、他の対はより深い刺激効果のために構成されることができる。後者の場合には、より深い刺激効果は腸の筋組織を刺激して本明細書に記載のように腸の蠕動性収縮を惹起するように構成されうる。
【0028】
電源55には典型的に、リチウムまたはリチウムイオン電池等の小型化学電池が含まれる。電源55の電池の実施形態では、電池は、少なくとも5時間以上の電池寿命を提供するように構成されうる。コントローラ30は、電池寿命を最適化するための様々な電力管理回路を含みうる。様々な代替的実施形態においては、電源55は、腸管を通るカプセルの移動によるカプセルの圧縮または変形からエネルギーを得るように構成された圧電性電気材料を使用した圧電式電源も含みうる。さらに他の実施形態においては、電源は、患者の体の熱を利用して電力を生成するように構成されたペルティエ効果電源デバイス等の熱電電源を含みうる。このような実施形態においては、カプセルの全体または一部分は、ペルティエ効果デバイスに熱を伝導するように構成された熱伝導層または他の熱伝導素子を含みうる。
【0029】
様々な実施形態では、少なくとも一つのセンサ60は、一つ以上のpHセンサおよび圧力/力センサを含みうる。pHセンサは、カプセルが幽門弁から十二指腸へと通過する際のpHの急上昇により示される胃から小腸へのカプセルの通過を検知するために構成されうる。当技術分野で公知の様々な小型pHセンサが利用できる。圧力センサ60は、カプセルが腸内にあるときを検知するために、腸の蠕動性収縮を感知するために利用されうる。圧力センサ60を用いて、腸がカプセルと接触しているとき(例えば蠕動性収縮または蠕動性圧搾の間に圧搾されているとき)、したがって刺激期間を開始すべきときを検知しうる。様々な微小電気機械システム(MEMS;micro−electrical−mechanical systems)ベースの歪みゲージを含む様々な小型歪みゲージセンサまたは他の関連の圧力/力センサ等の、様々な小型固体状態圧力/力センサが用いられうる。特定の実施形態は、胃から腸へのpHの変化および蠕動性収縮を特定することにより、管内のセンサの場所の特定における精度レベルを高めるために、pHおよび圧力センサの両方を含みうる。様々な実施形態においては、カプセルの一部分が腸に入ったときを特定するため、または蠕動性収縮により一部分が圧搾されているとき(したがってそのセクションの電極がオンに切り替えられうる)もしくはカプセルの位置もしくは状況を変化させないその他の圧力差を特定するために、複数のpHおよび圧力センサ60がカプセルボディ表面25上に分布されうる。
【0030】
温度センサ、Oセンサ、COセンサ、光学センサ、音響センサ等、さらに他のセンサも企図される。さらに、複数のセンサからの入力が組み合わせられて、カプセルの場所を特定するためのコントローラへの合計感覚入力が生成されてもよい。また、本明細書に記載のように、様々な実施形態では、コントローラ30に入力される前にセンサシグナル61をコンディショニングするために、センサコンディショニング回路63がコントローラ30に連結されうる。
【0031】
次に図5を参照すると、使用方法の一実施形態では、本発明の嚥下可能カプセル10を用いて、インスリンの放出を促進しおよび/または体内活性を増強しうる。摂取された嚥下可能カプセル10は、胃を通過して小腸SIに至る。カプセル10内のセンサ60により、体内での相対的場所を検知できる。例えばpH、圧力、または他の関連する徴候のセンサにより、カプセルが幽門括約筋を過ぎて小腸に達したときを特定することができる。pH測定の場合にはこれは、カプセルが幽門括約筋を過ぎて十二指腸に行った後に生じるpHの急上昇により特定できる。
【0032】
嚥下可能カプセル10が小腸に入ったら作動させて電気刺激を提供させ、これにより小腸のL細胞にGLP−1または他のインクレチン(GIP、PYY等)を分泌させる。そしてGLP−1および/または他のインクレチンが、インスリンの分泌を誘発しおよび/または体のインスリン使用を促進する。電気刺激を提供するための嚥下可能カプセルの作動は、例えば嚥下可能カプセル内に配置されたコントローラまたは他の論理リソース内の内部指示および/またはプログラムにより命令され得、または嚥下可能カプセルの外的制御により提供されうる。
【0033】
一部の患者(特に大半が遠位に位置した不均一な分布を有する糖尿病患者)ではL細胞が遠位により集中する傾向があるため、特定の実施形態では、カプセルが小腸内をどれくらい進んだかをコントローラが推定できるように、小腸到達の際にカプセルコントローラ30がタイマーを開始させうる。この距離は、腸内平均通過時間を用いて、またはGI診断技術において公知の方法を用いた特定患者の通過時間の個別の測定により推定されうる。そして、タイマー機能を用いて刺激開始の適切な遅延が決定されうる。通過時間がより長い患者には、より長い遅延を用いうる。加速度計を有する実施形態においては、腸を通るカプセルの実際の速度を計算し、これを利用してカプセルが小腸に入った後いつ刺激シグナルを開始するかを決定できる。また、後述のように、蠕動性収縮刺激シグナルを用いた実施形態において、L細胞刺激シグナルのタイミングの加減を行いうる。
【0034】
カプセルが小腸に入ったときを含むカプセルの場所を特定するためのpHセンサの使用に代わりまたは加えて、カプセル10は、腸壁が例えば蠕動性収縮によりカプセルを圧搾しているときを検知するための圧力センサ60も含みうる。腸による圧搾を示す適切な圧力/力レベルは、公知の生理学的測定から特定され得、または圧搾圧力の相対的増加(例えば2倍、3倍、5倍または一桁以上)を探すことにより確立されうる。電極が腸壁と接触しているか、あるいはその付近にあることが望ましい場合があるため、いくつかの実施形態では腸壁による圧搾の検知がL細胞の電気刺激を開始させるトリガーの役割も果たしうる。そのような接触または接近は、GLP−1を生産させるためにL細胞に電流をより有効に送達し、脱分極するのに役立ちうる。また、関連の実施形態では、刺激によりもたらされるGLP−1または他のインクレチンの放出が最適以下となりうる間、電池残量を節約するために、圧力の減少(腸壁が弛緩してカプセルから離れることを示す)が検知されたら電気刺激が(最初からまたはプログラムした遅延後に)停止されうる。このようにして、カプセルが腸の全部または選択部分を通過するまで、腸(小腸または大腸)の各蠕動性収縮に伴い電極からの刺激シグナルがオン/オフにされうる。
【0035】
GLP−1および/または他のインクレチンを分泌させるためのL細胞(または他の細胞)の刺激が、食事からの栄養分の吸収に調和させられ、これによりその後のインスリン生産もグルコース、脂肪および他の栄養分の血流への流入に調和させられるように、嚥下可能カプセルが食事とともに摂取されるのが好ましい。このようにして、通常の食物消化に際したインスリンの生理学的送達を模倣した様式でインスリンが送達され、したがって血液グルコース管理の改善が達成される。このプロセスは、標準のグルコースモニタリング法(例えば血液グルコース測定器)を用いて食事後の血液グルコースレベルをモニタし、刺激シグナルの遅延または他のタイミングを加減することにより、さらに改善できる。いくつかの実施形態では、カプセルは、使用者が消費される食物の量および種類(例えば高炭水化物または高脂肪の食事、それらは、血液グルコース値の急上昇を生じる可能性がより高い)をカプセルに入力できるように構成されうる。これにより、カプセル10内のコントローラ30または他の論理リソース内に存在するかまたはこれに連結されたソフトウェアモジュールが、食物の消費に応答して生成されるインスリンのレベルを加減(titrate)するために、L細胞刺激シグナルのタイミングおよびシーケンスを加減しうる。カプセルへの入力は、BLUETOOTHまたは当技術分野で公知の他のワイヤレス接続またはプロトコルを用いて携帯電話または類似のデバイス等の携帯デバイスにより送られうる。これらおよび関連の実施形態では、カプセル10にはRF−通信チップが含まれうる。
【0036】
次に図8を参照しながら、カプセル10の一つ以上の機能を制御するための、回路アーキテクチャ100の実施形態についてここで述べる。アーキテクチャ100は典型的に、コントローラ30と、センサ60(圧力およびpHセンサ等)と、センサコンディショニング回路63と、刺激シグナル源70(本明細書のシグナル源70)と、H−ブリッジまたは類似のデバイス80とを含む。コントローラ30は典型的に、マイクロプロセッサまたはステートデバイス等のマイクロコントローラを含み、図8の実施形態に示されるように、カプセル10の一つ以上の他の電子構成要素に連結されうる。また、図に示すように、電源55がアーキテクチャ100の一つ以上の構成要素(例えばコントローラ30、センサ60、刺激シグナル源70等)に連結されて、それらの構成要素に電力を供給しうる。センサコンディショニング回路63は、当技術分野で公知の標準回路を含み得、センサ60から受け取られる入力61をコンディショニングする(例えば高域通過または低域通過フィルタにより分離する)役割を果たしうる。シグナル源シグナル70は、電池または他の電源55からの固定DC電圧をプログラム可能なエネルギー様式に転換する様々なエネルギー変換回路を含む。シグナル源70に好適なエネルギー変換回路には、プログラム可能な電流源、プログラム可能な電圧源、DC−DC変換器またはDC−AC変換器の一つ以上が含まれうる。H−ブリッジデバイス80は、電極40にシグナルを供給し、(コントローラ30により作動可能な一つ以上のスイッチにより)電流の流れを完全に停止させるだけでなく二相刺激シグナル(後述)を生じるために電極40間の電流の流れの方向を変更するように構成されうる。
【0037】
コントローラ30、刺激シグナル源70およびH−ブリッジ80は、波形発生器110としても知られるシグナル発生器110を共同で構成し、これが刺激シグナル200を生成し、これが電極40に送達されてから腸組織(例えば腸壁)に伝えられてL細胞(または他の細胞)を刺激してGLP等のインクレチンを生産させ、これによりインスリン生産が刺激されるかまたはインスリンの効果が増強される。シグナル200は、L細胞を刺激してGLP−1等のインクレチンを生産させるが、カプセル200付近の腸の部位または腸管の他のどの位置にも蠕動性収縮を引き起こさないように構成されるのが望ましい。この品質は、本明細書に記載のように、パルスシグナルのパルス持続時間だけでなく電流、電圧および/またはシグナルの周波数の一つ以上を制御することにより達成できる。L細胞(およびK細胞)を刺激する目的においては、シグナル200は約0.1〜10Vの電圧、約10μa〜2mAの電流、および1Hz〜100Hzの周波数を有しうる。電圧、電流および周波数はまた、処置される状態(例えば糖尿病、肥満等)、状態の重症度(例えばI型対II型糖尿病)、および他の患者の状態(腸の神経障害等)に応じて微調整またはそうでなければ加減しうる。
【0038】
シグナル200は、例えば方形波、正弦波、鋸歯状波、台形波等の様々な波形を有しうる。好ましい実施形態では、シグナル200は二相シグナル200bを含み得、これは上述のようにH−ブリッジデバイス80を使用して生成されうる。方形波を有するものを含む多くの実施形態では、シグナル200はパルスシグナル200pを含みうる。パルスシグナル200pは、10μs〜100msの範囲内のパルス幅を有しうる。
【0039】
上述の通り、シグナル200は、L細胞(またはK細胞等の他の関連細胞)を刺激してGLP−1等のインクレチンを生産させるが、カプセル付近の腸の部位または腸管の他のどの位置にも蠕動性収縮を引き起こさないように構成されるのが望ましい。しかし、いくつかの実施形態では、波形発生器110は、蠕動性収縮を引き起こさずにL細胞を刺激するための第一波形200と、カプセル10を腸管に沿って前進させるために蠕動性収縮を引き起こすための第二波形210の、二つの波形を生じるように構成されてもよい。これらの後者の実施形態では、カプセルは、カプセル10が移動を止めているとき、または所望の速度閾値未満で移動しているときを検知するための加速度計65を含みうる。使用においては、これらの後者の実施形態により、腸の神経障害または腸の壊死等の他の関連の状態を有する患者等、腸管の動きが非常に遅い患者においてカプセル10を前進させうる。コントローラ30が加速度計65からカプセル10が停止しているかまたは移動が遅すぎることを示す入力66を受け取ると、コントローラが波形発生器110にシグナルを発生して第二波形210を生成させることにより、カプセル付近の領域で腸の蠕動性収縮を引き起こし、これによりカプセルが腸内を遠位に推進されうる。このプロセスは、蠕動性収縮の不応期を考慮した選択可能な遅延を伴って、必要に応じて繰り返されうる。
【0040】
次に図9a〜9dを参照しながら、蠕動性収縮を惹起することにより腸を通してカプセルを推進する方法の実施形態の考察をここに示す。本明細書に記載のように、一部の患者、特に糖尿病患者は、腸に分布する運動ニューロンの損傷により食物の小腸および/または大腸通過時間が大きく減少している、腸の神経障害として知られる状態を有する。そのため特定の実施形態では、コントローラが、蠕動性収縮を引き起こさずにL細胞を刺激するための第一波形を有する一方のシグナルと、カプセルを腸管に沿って前進させるために蠕動性収縮を惹起するための第二波形を有する第二シグナルの、二つの刺激シグナルを生じるように構成されうる。本明細書に記載のように、第二シグナルは、第一シグナルよりも高い、例えば2〜5maの範囲内の刺激電流を有しうる。蠕動性刺激シグナルを用いた実施形態では、カプセル10は、カプセルが移動を止めているとき、または所望の速度閾値未満で移動しているときを検知するための加速度計65を含みうる。コントローラ30が、カプセルが所望の閾値未満であるかまたはカプセルが所望の期間(例えば0.5〜2分であるが、より長い期間および短い期間も企図される)を超えて静止していることを検知すると、一つ以上の蠕動性刺激シグナルの生成を開始することにより蠕動性収縮を引き起こして、カプセルを腸内で遠位に推進する。そして、L細胞刺激シグナルが送達される前に適切な遅延が組み入れられ得、腸の電気不応期についても蠕動性収縮の発生を許容する。必要に応じて、例えば特に遅い通過時間を有する患者のために、またはカプセルがちょうど小腸に入るときに、L細胞刺激シグナルが送達される前にカプセルを腸管内でより遠位に移動させるために、一連の蠕動性収縮を引き起こすため、複数の蠕動惹起シグナルが生成されうる。使用においては、このような実施形態により、腸の神経障害または腸の壊死等の他の関連の状態を有する患者等、腸管の動きが非常に遅い患者においてカプセルを前進させうる。コントローラが加速度計からカプセルが停止しているかまたは移動速度が遅すぎることを示す入力を受け取ると、コントローラが第二波形を生成することによりカプセル付近の領域で腸の蠕動性収縮を引き起こし、これによりカプセルが腸内を遠位に推進される。このプロセスは、蠕動性収縮の不応期を考慮した選択可能な遅延を伴って、必要に応じて繰り返されうる。
【実施例】
【0041】
(実施例)
次に本発明の様々な実施形態を以下の実施例を参照してさらに示す。しかし、当然のことながらこれらの実施例は説明の目的で示されるものであり、本発明がこれらの具体的実施例またはその詳細により制限されるものではない。
【0042】
(実施例1−インビトロGLP−1放出の電気刺激)
培養皿を、50ul/cm(24ウェル皿に190ul)を加えることによりマトリゲルにより氷上でコーティングした。この皿を30分間37℃で暖めてから、2mMのグルタミン(500mlあたり0.146g)、10%のウシ胎仔血清(FBS)、および1%のPen Strepを補充した高グルコースDMEMを用いて260,000の細胞を播種した。48時間後に、ウェルあたり1,500,000〜2,000,000の細胞があった。初代細胞はNCI−H716細胞であり、これはヒト低分化結腸直腸腺癌である。これらの細胞は、懸濁物において未分化で増殖した。しかし、上述の48時間の処理後には、細胞はGLP−1分泌細胞に分化した。これらのGLP−1分泌細胞を、以下の実験で用いた。
【0043】
実験では、細胞培地を0.5%のFBSおよび以下の試験因子のうちの任意選択の一つを補充したHBSSと交換した。
【0044】
1.PMA(ホルボール−12−ミリステート−13−アセテート)(1.6mlのDMSO中1mgのストック溶液=1mM;培地1mlあたり1ulを加えて、1uMの終濃度を得る)
2.1.5%のスクロース
3.10%のグルコース
4.電気刺激(250uA、5Hz、0.1、1.0または10ミリ秒の交流パルス波)。
【0045】
細胞を2時間培養した。試験因子を加え、分析のために細胞上清を様々な時点で取り出した。PMSF(10ul)を細胞上清に加え、これは、冷凍または直ちに使用できる。RIPAを10ulのPMSF、10ulのプロテイナーゼインヒビター、および10ulのオルトホウ酸ナトリウム(sodium orthovate)と合わせることにより、溶解緩衝液を調製した。その後、200〜300ulのRIPA溶解緩衝液を、細胞上清サンプルとともにウェルに加えた。ウェルを細胞スクレイパーでこすり取り、混合物をピペットで1.5mlチューブに移した後、細胞および細胞膜を壊すために再度ピペット操作を行った。チューブを5分間全速でスピンダウンし、上清を回収した後、冷凍または直ちに分析した。
【0046】
ELISAでGLP−1を測定した。ストレプトアビジンでコーティングしたウェルを、GLP−1を特異的に結合するビオチン結合体化抗体とともにインキュベートした。溶解細胞上清とのインキュベート後、サンプルをHRP(ホースラディシュペルオキシダーゼ)に結合体化されたGLP−1結合抗体とともにインキュベートした。そしてHRPによる基質変換を用いて、GLP−1を定量化した。結果が図10および11に示される。
【0047】
(結論)
以上の本発明の様々な実施形態の説明は、例示および説明の目的で提示されている。これは、本発明を開示された正確な形に制限することを意図するものではない。多くの修正、変形および改良が、当業者に明らかとなる。例えば、カプセルは様々な小児科用途の大きさに作られうる。また、波形は、腸管の様々な細胞を刺激するだけでなく阻害するためも構成されうる。例えば波形は、一つの細胞型を刺激し、別の細胞型を阻害するように構成されうる。加えて、カプセルの様々な実施形態には、外部のモニタリングおよび/または制御デバイスへの、およびそれらからの、シグナル伝達のための遠隔測定が含まれうる。
【0048】
一実施形態からの要素、特性、または行為は、他の実施形態からの一つ以上の要素、特性、または行為と容易に組み換えまたは代替されて、本発明の範囲内の多数の追加の実施形態を形成しうる。さらに、他の要素と組み合わせられるものとして示される、または説明される要素は、様々な実施形態において、独立の要素として存在しうる。それ故、本発明の範囲は記載される実施形態の詳細に制限されず、添付の請求の範囲のみにより制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腸トラック内のL細胞を刺激するための嚥下可能カプセルであって、
表面を有するカプセルボディであって;該カプセルボディは、嚥下されて患者の腸管を通過する大きさに設定される、カプセルボディと;
該L細胞を電気的に刺激するために該カプセルボディ表面上に配置された、少なくとも一対の電極と;
該腸トラックの特性を感知して該腸管内の該カプセルの位置を特定するために該カプセルボディに連結された、少なくとも一つのセンサと;
該少なくとも一対の電極と該少なくとも一つのセンサとに連結されたコントローラであって、該コントローラは該カプセルボディ内に配置され、かつ該少なくともの一つのセンサから入力シグナルを受け取り、該入力に基づいて該腸管内の該カプセルの位置を特定し、該少なくとも一対の電極に出力される波形を生成するように構成され、該波形は、該カプセル位置のすぐ近くのL細胞を電気的に刺激して該腸管の蠕動性収縮を引き起こさずにポリペプチドを分泌させるように構成される、コントローラと;
該コントローラに連結された電源と
を含む、カプセル。
【請求項2】
前記分泌されるポリペプチドが、インクレチンまたはGLP−1のうちの一つである、請求項1に記載のカプセル。
【請求項3】
前記コントローラは、前記カプセルが前記腸管内の選択可能な位置に到達したときに前記波形の生成を開始するように構成される、請求項1に記載のカプセル。
【請求項4】
前記選択可能な位置が、小腸のすぐ近くである、請求項3に記載のカプセル。
【請求項5】
前記波形が、前記カプセルの腸壁との接触により作動される、請求項1に記載のカプセル。
【請求項6】
前記カプセルボディ表面上に配置された前記少なくともの一対の電極または接触センサもしくは圧力センサのうちの少なくとも一つにより接触が検知される、請求項5に記載のカプセル。
【請求項7】
前記少なくとも一対の電極の長手軸が、前記カプセルボディの長手軸に対して並べられている、請求項1に記載のカプセル。
【請求項8】
前記少なくとも一対の電極の長手軸が、前記カプセルボディの半径軸に対して並べられている、請求項1に記載のカプセル。
【請求項9】
前記少なくとも一対の電極が、環形の電極を含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項10】
前記環形の電極が、前記カプセルボディの長手軸に対して同軸で並べられている、請求項9に記載のカプセル。
【請求項11】
前記少なくとも一対の電極が、前記腸管の粘膜層の下の組織の電気刺激を最小化するように構成された間隔を有する、請求項1に記載のカプセル。
【請求項12】
前記少なくとも一対の電極が、前記腸管の粘膜層の表面の下約3〜5mm超の組織の電気刺激を最小化するように構成された間隔を有する、請求項11に記載のカプセル。
【請求項13】
前記電極間の前記間隔が、約0.01〜0.2インチの間の範囲内である、請求項11に記載のカプセル。
【請求項14】
前記電極間の前記間隔が、約0.05〜0.2インチの間の範囲内である、請求項11に記載のカプセル。
【請求項15】
前記コントローラが、シグナル発生器を含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項16】
前記シグナル発生器が、パルス発生器またはH−ブリッジのうちの一つを含む、請求項15に記載のカプセル。
【請求項17】
前記シグナル発生器が、パルスシグナルを生成するように構成される、請求項15に記載のカプセル。
【請求項18】
前記パルスシグナルが、約1〜100Hzの間の範囲内の周波数を有する、請求項17に記載のカプセル。
【請求項19】
前記少なくとも一つのセンサが、前記腸管内の収縮または収縮力を感知するための圧力センサを含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項20】
前記少なくとも一つのセンサが、前記カプセルが前記管を通って移動する際の該腸管のpHまたは該腸管のpHの変化を感知するためのpHセンサを含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項21】
前記少なくとも一つのセンサが、pHセンサおよび圧力センサを含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項22】
前記コントローラが、前記少なくとも一つのセンサからの入力をコンディショニングするためのセンサコンディショニング回路を含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項23】
前記コンディショニング回路が、帯域通過フィルタ、高域通過フィルタまたは低域通過フィルタのうちの少なくとも一つを含む、請求項22に記載のカプセル。
【請求項24】
前記電源が、コンデンサ、電気電池、リチウム電池またはリチウムイオン電池を含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項25】
前記電源が、前記腸管を通る前記カプセルの運動、または該カプセルの該腸管または腸管の内容物との機械的相互作用から電力を生成するように構成された圧電式電源を含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項26】
前記波形が、前記カプセルボディ表面から約5cm以内のL細胞を刺激するように構成される、請求項1に記載のカプセル。
【請求項27】
前記波形が、前記カプセルボディ表面から約2cm以内のL細胞を刺激するように構成される、請求項1に記載のカプセル。
【請求項28】
前記波形が、前記カプセルボディ表面から約1cm以内のL細胞を刺激するように構成される、請求項1に記載のカプセル。
【請求項29】
前記腸管を通る前記カプセルの運動を感知するための加速度計であって、前記コントローラに連結された、加速度計をさらに含む、請求項1に記載のカプセル。
【請求項30】
前記コントローラが、第一波形および第二波形を生成するように構成され、該第一波形が、前記カプセル位置のすぐ近くのL細胞を電気的に刺激して前記腸管の蠕動性収縮を引き起こさずに分泌されるポリペプチドを生産させるように構成され、該第二波形が、該腸管内で該カプセルを前進させるために該カプセルのすぐ近くの該腸管の一部分の蠕動性収縮を引き起こすように構成される、請求項1に記載のカプセル。
【請求項31】
第二波形が、前記腸管を通るカプセル運動の速度が最低レベルを下回ることを示す入力に応答して作動される、請求項30に記載のカプセル。
【請求項32】
前記入力が、前記コントローラに連結された加速度計からのものである、請求項31に記載のカプセル。
【請求項33】
前記第一波形および前記第二波形が、前記コントローラまたは該コントローラに連結されたメモリリソースの中に電子的に格納されたアルゴリズムにより生成される、請求項30に記載のカプセル。
【請求項34】
患者の腸トラック内のL細胞を刺激してポリペプチドを分泌させるための方法であって、
腸管を通って進み、該腸管内のL細胞を電気的に刺激するように構成された嚥下可能デバイスを摂取するステップと;
該デバイスからの電気シグナルを、該デバイスのすぐ近くの腸壁へ送達するステップであって、該シグナルは、該腸管内のL細胞を電気的に刺激して該ポリペプチドを分泌させるように構成された波形を含む、ステップと;
該L細胞を電気的に刺激して、該ポリペプチドを分泌させるステップと
を含む、方法。
【請求項35】
前記腸壁が、小腸の壁である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ペプチドが、インクレチンを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記インクレチンが、GLP−1を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記分泌されたポリペプチドに応答して前記患者におけるインスリンの放出を調整するステップをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記インスリン放出が、前記L細胞の前記電気刺激により刺激の30分以内に血漿インスリンの増加を生じさせることにより調整される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記分泌されたポリペプチドに応答して前記患者の血液グルコースレベルを制御するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記分泌されたポリペプチドに応答して前記患者の食欲レベルを抑制するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記波形が、実質的に方形の波形を有する、請求項34に記載の方法。
【請求項43】
前記波形が、実質的に蠕動性収縮を引き起こさずに前記L細胞を刺激するように構成される、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記波形が、第一波形および第二波形を含み、該第一波形が、実質的に蠕動性収縮を引き起こさずに前記L細胞を刺激するように構成される、請求項34に記載の方法。
【請求項45】
前記第二波形が、前記デバイスのすぐ近くの腸組織の蠕動性収縮を生成するように構成される請求項44に記載の方法であって、該生成された蠕動性収縮を用いて前記腸管内で該デバイスを前進させるステップをさらに含む、方法。
【請求項46】
前記第二波形が、前記第一波形と実質的に異なるときに生じる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記第二波形が、前記腸管を通って移動する前記デバイスの速度に応答して生成される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記速度が、前記デバイスの上または中に配置された加速度計を用いて測定される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
GI管内の前記デバイスの位置を特定するステップであって、該腸管内の該デバイスの該位置に応答して前記シグナルが送達される、ステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項50】
前記位置が、小腸である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記位置が、センサを用いて特定される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記位置が腸壁組織により前記デバイス表面に加えられて感知されたpHまたは感知された圧力のうちの少なくとも一つに基づいて特定される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記デバイスの前記摂取が、食物の摂取と調和させられる、請求項34に記載の方法。
【請求項54】
前記デバイスが、食物の摂取前、摂取中、または摂取後の選択された期間中に摂取される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記期間が、前記L細胞の前記刺激と食物から血流への栄養分の吸収とが調和するように選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記デバイスが、嚥下可能カプセルを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項57】
前記デバイスが、コントローラ、少なくとも一つの電極、および波形発生器を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項58】
患者の腸トラック内のL細胞を刺激して、インスリンの放出を調整するインクレチンを分泌させるための方法であって、
腸管を通って進み、該腸管内のL細胞を電気的に刺激するように構成された嚥下可能デバイスを摂取するステップと;
該デバイスからの電気シグナルを、該デバイスのすぐ近くの腸壁へ送達するステップであって、該シグナルは、該腸管内のL細胞を電気的に刺激して、小腸または他のGI器官の蠕動性収縮を実質的に引き起こさずに該インクレチンを分泌させるように構成された波形を含む、ステップと;
該L細胞を電気的に刺激して、該インクレチンを分泌させるステップと;
該分泌されたインクレチンに応答して該患者におけるインスリンの放出を調整するステップと
を含む、方法。
【請求項59】
インスリン放出が、前記L細胞の前記電気刺激により刺激の30分以内に血漿インスリンの増加を生じさせることにより調整される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記インクレチンが、GLP−1を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
前記分泌されたインクレチンに応答して前記患者の身体組織のインスリン感受性を高めるステップをさらに含む、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
前記分泌されたインクレチンに応答して前記患者の血液グルコースレベルを制御するステップをさらに含む、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
患者の腸管内のL細胞を刺激して、食欲レベルを抑制するインクレチンを分泌させるための方法であって、
該腸管を通って進み、該腸管内のL細胞を電気的に刺激するように構成された嚥下可能デバイスを摂取するステップと;
該デバイスからの電気シグナルを、該デバイスのすぐ近くの腸壁へ送達するステップであって、該シグナルは、該腸管内のL細胞を電気的に刺激して、小腸または他のGI器官の蠕動性収縮を実質的に引き起こさずに該インクレチンを分泌させるように構成された波形を含む、ステップと;
該L細胞を電気的に刺激して、該インクレチンを分泌させるステップと;
該分泌されたインクレチンに応答して該患者の食欲レベルを抑制するステップと
を含む、方法。
【請求項64】
前記インクレチンが、GLP−1を含む、請求項63に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図7c】
image rotate

【図7d】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9a】
image rotate

【図9b】
image rotate

【図9c】
image rotate

【図9d】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2013−501060(P2013−501060A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523704(P2012−523704)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/044265
【国際公開番号】WO2011/017335
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
【出願人】(511227440)インキューブ ラブズ, エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】