説明

腹膜内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法

【課題】腹膜内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出できる方法を提供する。
【解決手段】腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入された対象の腹腔内において、前記アミロイド結合性物質には、ホジトロン放出核種、シングルフォトン核種、フッ素、X線吸収物質のいずれかを結合させ、PET、SPECT、MRI、X線CTによって前記アミロイド結合性物質を検出する検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全の患者に対する治療法として、従来血液透析療法や腹膜透析療法等が行なわれてきた。腹膜透析療法(CAPD)とは、腎不全患者の腹腔内にカテーテルを留置し、これを通じて透析液バッグより腹膜透析液を腹腔内に注入し、一定時間貯留した後、同カテーテルを通じて腹膜透析液を体外へ排出する操作を1日数回繰り返す方法である。腹膜透析液には、一般に、電解質塩に加えてグルコースが含有されており、グルコースは腹膜透析液においては浸透圧剤の役割を果たす。すなわち、血液中の過剰な水分を、浸透圧の差を利用して除去するために、腹膜透析液にはグルコースが使用される。
【0003】
腹膜透析療法を行なう上での問題点として、長期に亘り腹膜透析を行なうことによる腹膜機能の劣化や腹膜の硬化・肥厚化が挙げられる。腹膜機能の劣化や腹膜の硬化・肥厚化により、溶質の除去や除水の能力が衰える、被嚢性腹膜硬化症(EPS)の発症等の問題を引き起こすおそれがある。この原因のひとつとして、浸透圧剤として腹膜透析液に含まれるグルコースが分解されて発生するグルコース分解産物(GDPs)や、糖とタンパクとの反応により発生する最終糖化産物(AGEs)による腹膜への悪影響が指摘されている。
【0004】
GDPとしては、メチルグリオキサール(MGO)、グリオキサール(GO)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−HMF)、3−デオキシグルコソン(3−DG)、3,4−ジデオキシグルコソン−3−エン(3,4−DGE)が挙げられる。これらの物質は、腹膜透析液を加熱滅菌する際の熱負荷によってグルコースが分解されることで発生する。これらの物質が細胞毒性を持つことは知られており、腹膜透析液に含まれるGDPsの細胞毒性によって腹膜機能の劣化や腹膜の硬化・肥厚化が引き起こされるものと考えられてきた。
【0005】
グルコース溶液に熱を加えた場合、溶液の水素イオン濃度(pH)が3に近いほど、熱負荷によるGDPsの発生を低減することができる。しかし、腹膜透析液は体内に注入するものであるため、pHは生体に近い中性であることが好ましい。この相反する問題を解決するため、特許文献1に記載のような腹膜透析液が開発されている。この技術によれば、グルコースが含まれた液とグルコースが含まれない液をバッグ内にて分割し、グルコースが含まれた液側の室をグルコースが安定しやすいpHとした構成により、加熱滅菌時のGDPsの生成を抑制することができる。また、各室の液を混合した後の透析液のpHが生体に近いpHとなるよう各室の液を調製することで、pHによる生体へのダメージも防ぐことができる。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明もある。特許文献2においては、腹膜硬化症にAGEsが関与しているとの知見から、AGEsの生成を抑制する物質やこれを用いた腹膜透析液の構成が開示されている。しかし、GDPsやAGEsが腹膜に対してどのように作用し、どのような機序で腹膜が硬化・肥厚化するのかについては解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4284737号
【特許文献2】WO2005/018649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、腹膜透析においては腹膜がダメージを受けるおそれが示唆されている。そこで、本発明は、腹膜細胞におけるアミロイド構造を検出できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は一態様において、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入された対象の腹腔内において前記アミロイド結合性物質を検出することを含む検出方法に関する。
【0010】
本発明はその他の態様において、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入された対象の腹腔から排出された液体中の腹膜細胞に存在する前記アミロイド結合性物質を検出することを含む検出方法に関する。
【0011】
また、本発明はその他の態様において、上述の腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法に使用する、アミロイド結合性物質を含有する溶液組成物、腹膜透析液製剤、及び、腹腔内洗浄液に関する。
【0012】
また、本発明はその他の態様において、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含有しない液体が腹腔内に導入された対象の腹腔から排出された液体中の腹膜細胞に存在するタンパク質のアミロイド構造をアミロイド結合性物質を用いて検出することを含む検出方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出することができ、好ましくは、腹膜のダメージを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、3,4−DGE添加後の腹膜中皮細胞に対するYO−PRO−1染色の結果の一例を示す。
【図2】図2は、3,4−DGE添加後の腹膜中皮細胞に対するCongo Red染色の結果の一例を示す。
【図3】図3は、3,4−DGEの化学式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、上記のGDPsの中でも特に3,4−DGEに着目し、3,4−DGEがタンパク質の変性を引き起こし、変性したタンパク質がアミロイド構造をとることにより腹膜中皮細胞の細胞死を引き起こすことを見出した。また、変性したタンパク質のアミロイド形成を抑制することで、3,4−DGEによる細胞死を抑制できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0016】
すなわち、本発明は一態様において、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法(以下、「本発明の検出方法」ともいう。)であって、予めアミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入された対象の腹腔内において前記アミロイド結合性物質を検出することを含む検出方法に関する。本発明の検出方法によれば、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出することができる。そして、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出することにより、好ましくは、腹膜のダメージを評価することができる。
【0017】
腹膜透析における腹膜のダメージのメカニズムは以下のように考えられる。すなわち、腹膜透析における腹膜のダメージは、腹膜透析液中に含まれるGDPが引き起こす腹膜細胞の細胞死によってもたらされ、GDPによる細胞死の原因はGDPによるタンパク質の最終糖化産物(AGEs)のアミロイド化が誘導するアポトーシスであると考えられる。実際、アミロイド形成抑制物質によってGDPに起因するアポトーシス及び細胞死が抑制されうる。但し、本発明はこのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0018】
本明細書において「腹膜細胞」とは、腹膜を構成する細胞をいい、好ましくは腹腔内面の細胞をいい、より好ましくは腹膜中皮細胞をいう。腹膜中皮細胞は、微繊毛を有した分泌細胞である。腹膜は、一般に、生体防御機能、癒着防止機能などの役割を担う。
【0019】
本明細書において「腹膜のダメージ」とは、腹膜機能が低下することをいい、腹膜中皮細胞におけるアミロイド構造の発生、腹膜中皮細胞の腹膜からの剥離、腹膜中皮細胞の細胞死、腹膜の硬化及び/又は肥厚化、並びに被嚢性腹膜硬化症(EPS)発症を含む。
【0020】
本明細書において「タンパク質のアミロイド構造」とは、タンパク質が何らかの理由で変性後に分子構造の不安定なベータシート構造をとり、その後、βシート構造を有する繊維状凝集体として得られうるアミロイド繊維の構造をいう。本明細書において「腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造」とは、腹腔内又は腹膜細胞の内部若しくは周辺にて形成された或いは存在するタンパク質のアミロイド構造をいう。
【0021】
グルコース分解物(GDP)を含む液体(例えば、腹膜透析液)が腹膜表面(腹腔内面又は腹膜細胞)のタンパク質をアミロイド化し、このアミロイド化を介して腹膜中皮細胞にアポトーシス(細胞死)をもたらすこと、そして、アミロイド形成を抑制する物質によりGDP(特に、3,4−DGE)誘発性の細胞死を抑制できることは、従来知られていなかった新たな知見である。
【0022】
本明細書において「GDP」とは、グルコース分解産物をいう。透析液には高温高圧条件下の滅菌処理が必要とされる。したがって、グルコースを使用する腹膜透析液は、GDPを含有することとなる。上述したとおり、腹膜透析液中のGDPとしては、メチルグリオキサール(MGO)、グリオキサール(GO)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−HMF)、3−デオキシグルコソン(3−DG)、3,4−DGEが報告されている。GDPは、いずれも、腹膜透析液中で腹膜中皮細胞にダメージを与えると考えられるが、そのなかでも3,4−DGEの細胞毒性は著しく高い傾向がある。本明細書において「3,4−DGE」とは、図3に示す3,4−ジデオキシグルコソン−3−エンのことをいう。
【0023】
[アミロイド結合性物質]
本明細書における「アミロイド結合性物質」とは、アミロイド構造に結合能を有する公知の化合物を含みうる。公知のアミロイド結合性物質を示す文献としては、Fusheng Yang et al., The journal of Biological chemistry Vol.280, p5892-5901, 2005、 Volker Heiser et al., PNAS Vol.97, P6739-6744, 2000、 Harry Levine,III, Protein science, 2, p404-410, 1993 などが挙げられる。
【0024】
アミロイド結合性物質は、そのものが後述する方法で検出可能である場合もあるが、検出方法に応じた修飾がされたものであってもよい。例えば、PET(ポジトロン放射断層撮影法)であればポジトロン放出核種を標識することが好ましく、SPECT(シングルフォトン放射線コンピュータ断層撮影法)であればシングルフォトン放出核種を標識することが好ましい。また、MRI(核磁気共鳴画像法)であれば例えばフッ素を結合することが好ましく、X線CTであればX線吸収性物質を結合することが好ましい。これらの修飾をされた物質もアミロイド構造に結合能を有するのであれば、本明細書におけるアミロイド結合性物質に含まれうる。また、光学顕微鏡で検出を行う場合には、「アミロイド結合性物質」自身が色素であることが好ましい。さらに、アミロイド結合性物質は、アミロイド構造に結合能を有する抗体若しくは抗体の断片、及び検出方法に応じた修飾がされた抗体若しくは抗体の断片を含みうる。
【0025】
「アミロイド結合性物質」の具体例としては、クルクミン、コンゴーレッド、チオフラビン、及びこれらの誘導体、並びに、フラボン誘導体、及び、クルクミン、コンゴーレッド、及びチオフラビンの誘導体以外のアミロイドイメージングプローブ(FDDNP、SB−13など)が挙げられる。これらの物質は、塩の形態であってもよい。
【0026】
本明細書において「アミロイド形成抑制物質」とは、タンパク質のアミロイド構造の形成を抑制できる物質をいい、公知のアミロイド形成抑制物質を含みうる。なお、腹膜透析液内のGDPの細胞毒性にアミロイド化が関与すること、及び、アミロイド形成抑制物質によりGDPの細胞毒性を軽減できることは、従来知られていなかった新たな知見である。
【0027】
本明細書におけるアミロイド結合性物質は、アミロイド形成抑制物質を含みうる。アミロイド形成抑制物質であるアミロイド結合性物質は、GDPによる腹膜細胞への傷害性を低減することができる点で好ましい。アミロイド形成抑制物質であるアミロイド結合性物質としては、クルクミン、コンゴーレッド、チオフラビン及びこれらの誘導体が挙げられる。なお、PET、SPECT、MRI、又はX線CTのために修飾されたクルクミン、コンゴーレッド、及びチオフラビンの誘導体も本明細書における「アミロイド結合性物質」として好ましい。これらのアミロイド形成抑制物質であるアミロイド結合性物質の中でも、GDPの細胞障害性の低減の観点から、クルクミン及びクルクミン誘導体が好ましい。クルクミン誘導体としては、クルクミンと類似した構造を有し、アミロイド形成抑制作用を有するものが好ましい。
【0028】
予め対象の腹腔内に導入されるアミロイド結合性物質を含む液体におけるアミロイド結合性物質の含有量は、適宜調節でき、例えば、コンゴーレッド及びチオフラビンを用いた例では10〜1000μMとすることができ、クルクミンを用いた例では1〜100μMとすることができる。
【0029】
本明細書において「対象」とは、ヒト及び又はヒト以外の哺乳類とすることができる。本発明の検出方法は、一態様において、「アミロイド結合性物質を含む液体が予め腹腔内に導入された対象」に行われる。CAPD(腹膜透析)療法の患者が対象である場合には、腹膜透析液及び/又は腹腔内洗浄液の代わりに、アミロイド結合性物質を含有する腹膜透析液及び/又は腹腔内洗浄液を腹腔内に導入することができる。したがって、「アミロイド結合性物質を含む液体」の一実施形態は、アミロイド結合性物質を含む腹膜透析液及び/又は腹腔内洗浄液である。
【0030】
[アミロイド構造の検出方法]
腹腔内に導入されたアミロイド結合性物質を含む液体は、保持される腹腔内で腹膜表面の腹膜細胞と接するから、該腹膜細胞にアミロイド構造が存在すれば、該アミロイド結合性物質が容易に結合することができる。よって、このアミロイド構造に結合したアミロイド結合性物質を検出すれば、腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出できる。予め導入されたアミロイド結合性物質を含む液体の腹腔内貯留時間は適宜調節可能であり、例えば、1〜12時間が挙げられる。
【0031】
本発明の検出方法におけるアミロイド結合性物質の検出の一実施形態は、腹膜細胞におけるアミロイド構造に結合したアミロイド結合性物質をPET(ポジトロン放射断層撮影法)、SPECT(シングルフォトン放射線コンピュータ断層撮影法)、MRI(核磁気共鳴画像法)、及びX線CT等でイメージングすることを含む。本実施形態では、対象の腹部(腹腔)をそのままイメージングすることでアミロイド結合性物質を検出する。イメージングの結果からアミロイドの定量を行うことは、当業者であれば、例えば、検量線や適当なプログラムを用いて容易に行うことができる。そして、アミロイド構造の量で腹膜のダメージを評価することができる。したがって、本発明は、その他の態様において、腹膜におけるアミロイドの定量方法に関する。なお、イメージングを行う前に必要に応じ、予め対象に導入したアミロイド結合性物質を含む液体を腹腔内から排出してもよい。
【0032】
本発明の検出方法におけるアミロイド結合性物質の検出のその他の実施形態は、対象の腹腔内からの排液中に腹膜から剥離して存在する腹膜細胞に結合するアミロイド結合性物質を検出することを含む。前記排液の腹膜細胞にアミロイド構造が存在すれば、予め導入されたアミロイド結合性物質が結合しているので、検出可能となる。本実施形態では、光学顕微鏡で細胞を観察できる点から、アミロイド結合性物質は色素又は抗体であることが好ましい。排液中の腹膜細胞数及び腹膜細胞中のアミロイド構造の量の結果から腹膜のダメージを評価できる。なお、検出する腹膜細胞を回収する排液は、予め導入したアミロイド結合性物質を含む液体の排液であってもよく、あるいは、前記アミロイド結合性物質を含む液体の排液後に前記対象に導入されたアミロイド結合性物質を含まない液体の排液であってもよい。
【0033】
上述したとおり、腹膜細胞は、腹腔内に導入した液体中に剥離してくることがある。したがって、本発明の検出方法は、さらにその他の態様において、腹膜細胞におけるアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含まない液体が腹腔内に導入された対象の腹腔から排出された液体中の腹膜細胞に存在するタンパク質のアミロイド構造をアミロイド結合性物質を用いて検出することを含む検出方法に関する。すなわち、対象の腹腔内にアミロイド結合性物質を導入する代わりに、排液中の腹膜細胞にアミロイド結合性物質を接触させることにより、対象のアミロイド構造を検出できる。本態様の検出方法は、通常の腹膜透析療法(CAPD)における排液中の腹膜細胞を使用して行うことができる。
【0034】
本発明の検出方法は、アミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入される前に、アミロイド形成抑制物質を含有する腹膜透析液で腹膜透析を行っていた対象、及び、アミロイド形成抑制物質を含有しない腹膜透析液で腹膜透析を行っていた対象のいずれの対象にも適用できる。すなわち、アミロイド形成抑制物質を含有する腹膜透析液で腹膜透析を行っていた場合と、アミロイド形成抑制物質を含有しない腹膜透析液で腹膜透析を行っていた場合とでは、腹膜に対するダメージが異なることが予見され、両方の場合での本発明の検出方法の結果を比較することにより、アミロイド形成抑制物質を含有する腹膜透析液の効果の確認や、腹膜機能の評価ができる。
【0035】
[腹膜検査方法]
本発明は、さらにその他の態様において、腹膜検査方法であって、本発明の検出方法を行い、腹膜のアミロイド化の有無又はその程度を調べることを含む方法に関する。具体的な検出方法は、上述のとおりとすることができる。本発明の腹膜検査方法は、さらに、本発明の検出方法で得られたデータに基づき腹膜細胞のアミロイド量を定量すること、及び、腹膜のダメージを評価することを含んでもよい。
【0036】
[腹膜透析方法]
本発明は、さらにその他の態様において、腹膜透析方法であって、アミロイド結合性物質を含む腹膜透析液を使用して本発明の検出方法又は本発明の腹膜検査方法を行うことを含む腹膜透析方法に関する。本発明の検出方法又は本発明の腹膜検査方法を行うこと以外の具体的な手法は、公知のCAPD療法と同様に行うことができる。この態様の発明によれば、腹膜のダメージをモニターしながら腹膜透析を行うことができ、重篤な腹膜のダメージを予防できる。
【0037】
[溶液組成物]
本発明は、その他の態様として、本発明の検出方法に使用する溶液組成物であって、電解質塩、及び、アミロイド結合性物質を含有する溶液組成物に関する。本明細書において電解質塩は、腹腔内に導入される溶液に使用される観点から、従来の腹膜透析液に使用される組成及び濃度であることが好ましい。電解質塩としては、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、及びこれらの水和物、並びに、これらの組み合わせなどが挙げられ、血清中の組成及び濃度に近いものが好ましい。本発明の溶液組成物の限定的に解釈されない一実施形態において、含有される電解質塩の組み合わせ及びその濃度としては、0.4〜0.6w/v%塩化ナトリウム、0.01〜0.02w/v%塩化カルシウム水和物、0.005〜0.02w/v%塩化マグネシウム、及び0.3〜0.5w/v%乳酸ナトリウムが挙げられる。
【0038】
[腹膜透析液製剤]
本発明は、その他の態様として、腹膜透析液製剤であって(以下、「本発明の腹膜透析液製剤」ともいう)、グルコース又はグルコースポリマー、電解質塩及びアミロイド結合性物質を含有する腹膜透析液製剤に関する。すなわち、本発明の腹膜透析液製剤は、従来のグルコース又はグルコースポリマーを含有する腹膜透析液に上述したアミロイド結合性物質を加えたものである。本発明の腹膜透析液製剤は、本発明の検出方法、本発明の検査方法、及び本発明の腹膜透析方法に用いることが好ましい。本発明の腹膜透析液製剤であれば、グルコースを用いる腹膜透析液から排除が困難なGDPによる腹膜中皮細胞への傷害性を低減するとともに、腹膜のダメージをモニターできる。なお、本発明の腹膜透析液製剤における電解質塩は、上述の本発明の溶液組成物と同様とすることができる。
【0039】
本明細書においてグルコースポリマーとは、構成単位としてグルコースを含むポリマー又は構成単位がグルコースのみからなるポリマーをいう。グルコースポリマーとしては、腹膜透析液として使用した場合に浸透圧差を形成できるものであれば特に制限されないが、腹膜透析液として使用する観点から、構成単位がαグルコースであるグルコースポリマーが好ましい。本明細書におけるグルコースポリマーの具体例としては、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、セルロース、プルラン、カードラン、シゾフィラン、レンチナン、ペスタロチアン等が挙げられる。グルコース及びグルコースポリマーは、浸透圧を高くする機能を果たす観点から、腹膜透析液の浸透圧比が、好ましくは1.1〜1.6、より好ましくは1.2〜1.5となるように含有され、含有量としては、1.4〜2.5w/v%が好ましく、1.5〜2.4w/v%がより好ましい。
【0040】
本発明の腹膜透析液製剤は、一実施形態として、電解質塩が溶解し、かつ、グルコース及びグルコースポリマーを含有しない第1液とグルコース又はグルコースポリマーが溶解した第2液とを分離して収容する腹膜透析液製剤であって、第1液及び第2液の少なくとも一方がアミロイド結合性物質を含有する腹膜透析液製剤に関する。この実施形態によれば、製造時にアミロイド結合性物質を添加でき、使用時における手間が省けるメリットがある。第1液及び第2液のいずれかにアミロイド結合性物質を含ませるかについては、そのアミロイド形成抑制剤のpH安定性等から適宜判断できる。この実施形態は、例えば、従来の2液タイプの透析液バッグを用いて実施できる。
【0041】
本発明の腹膜透析液製剤は、その他の実施形態として、電解質塩が溶解し、かつ、グルコース及びグルコースポリマーを含有しない第1液とグルコース又はグルコースポリマーが溶解した第2液とを分離して収容する腹膜透析液製剤であって、アミロイド結合性物質を含有する第3液をさらに分離して収容した腹膜透析液製剤に関する。この実施形態によれば、使用時までアミロイド結合性物質と第1液又は第2液との接触を避けることができるというメリットがある。この実施形態は、例えば、従来の3液タイプの透析液バッグを用いて実施できる。
【0042】
本発明の腹膜透析液製剤は、さらにその他の実施形態として、従来の1〜3液タイプの腹膜透析液と該腹膜透析液に混注するためのアミロイド結合性物質との組み合わせの腹膜透析製剤に関する。前記アミロイド結合性物質は、操作の簡便性の点から前記アミロイド結合性物質が収容されたプレフィルドシリンジとすることが好ましい。したがって、本発明は、その他の態様として、腹膜透析液に混注するためのアミロイド結合性物質が収容されたプレフィルドシリンジに関する。本発明のプレフィルドシリンジは、薬液をアミロイド結合性物質又はその溶液とするほかは、従来公知のプレフィルドシリンジを採用できる。また、本発明のプレフィルドシリンジは、腹膜透析液に使用する旨の取扱い説明書が添付されていてもよい。
【0043】
[腹腔内洗浄液]
本発明は、さらにその他の態様において、アミロイド結合性物質を含有する腹腔内洗浄液に関する。本明細書において、腹腔内洗浄液とは、腹腔内を洗浄するために腹腔内に導入する液体であって、例えば、腹膜透析療法を中止する場合に、透析液の代わりに腹腔内に注入し洗浄する液をいう。腹腔内洗浄液を用いて本発明の検査方法を行うことにより、腹膜透析による腹膜のダメージを評価することができる。本発明の腹腔内洗浄液におけるアミロイド結合性物質の含有量は、上述と同様にすることができ、その他の成分は従来と同様であってよく、例えば、生理食塩水とすることができる。
【実施例】
【0044】
〔3,4−DGEの細胞毒性:アポトーシス細胞の検出〕
SD系ラット(雄、8週齢)から腹膜中皮細胞を回収し、8Wellカルチャースライドを用いてM199培地(10%FBS、100U/ml HYPERLINK "http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/weblsd/c/begin/penicillin" penicillin、100μg/ml streptomycin入り)500μl中で培養した。次にこの培養細胞に、自社にて透析液より単離・精製した3,4−DGEを最終濃度100μMとなるよう添加し、さらに4時間培養した。その後、アポトーシスを起こした細胞に浸透する緑色蛍光性の核酸染色剤YO−PRO−1(Molecular Probe社)を0.5μl添加し、蛍光顕微鏡にて観察した。また、コントロールとして3,4−DGEを添加しない他は同様に培養した腹膜中皮細胞の蛍光顕微鏡観察を行った。その結果を図1に示す。図1に示した通り、3,4−DGEを添加した細胞では、ほとんどの細胞でアポトーシスが誘発されていた。
【0045】
〔3,4−DGEの細胞毒性:アミロイド構造の検出〕
SD系ラット(雄、8週齢)から腹膜中皮細胞を回収し、8WellカルチャースライドにてM199培地(10%FBS、100U/ml HYPERLINK "http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/weblsd/c/begin/penicillin" penicillin、100μg/ml streptomycin入り)500μl中で培養した。次にこの培養細胞に、自社にて透析液より単離・精製した3,4−DGEを最終濃度100μMとなるよう添加し、さらに4時間培養した。その後、アミロイド染色剤であるコンゴーレッド(Sigma社)を最終濃度10μMとなるよう添加し、染色後光学顕微鏡にて観察した。また、コントロールとして3,4−DGEを添加しない他は同様に培養した腹膜中皮細胞の光学顕微鏡観察を行った。その結果を図2に示す。図2に示した通り、3,4−DGEを添加した細胞では、タンパク質のアミロイド化が引き起こされていた。
【0046】
以上の結果、3,4−DGEによる細胞死の原因は、3,4−DGEによる最終糖化産物(AGEs)のアミロイド化が誘導するアポトーシスであると考えられる。
【0047】
〔3,4−DGEの細胞毒性:細胞毒性の抑制〕
SD系ラット(雄、8週齢)から腹膜中皮細胞を回収し、8WellカルチャースライドにてM199培地(10%FBS、100U/ml HYPERLINK "http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/weblsd/c/begin/penicillin" penicillin、100μg/ml streptomycin入り)500μl中で培養した。次にこの培養細胞に、自社にて透析液より単離・精製した3,4−DGE及びコンゴーレッド(Sigma社)をそれぞれ最終濃度100μMとなるよう添加し、さらに4時間培養した。その後Hoechst33342を用いた核染色及び抗Vimentin抗体を用いた免疫染色を行った。Vimentin免疫染色により細胞骨格を染色することで細胞の形態を確認し、Hoechst33342染色によりアポトーシス細胞で特徴的に観察される核の収縮を共焦点レーザー顕微鏡にて確認した。その観察結果に基づき、全細胞数及び死細胞数をカウントし、死細胞の割合(%)を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
上記表1に示すとおり、アミロイド形成抑制能を有するコンゴーレッドと3,4−DGEとが共存する場合、3,4−DGEに起因する細胞毒性が低減されていた。したがって、GDPが存在しうる腹膜透析液中のアミロイド結合性物質がアミロイド形成抑制能を有する場合、アミロイド構造の検出と同時に、GDPによる腹膜へのダメージ軽減も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば、腹膜透析の分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入された対象の腹腔内において前記アミロイド結合性物質を検出することを含む、検出方法。
【請求項2】
アミロイド結合性物質の検出が、PET(ポジトロン放射断層撮影法)、SPECT(シングルフォトン放射線コンピュータ断層撮影法)、MRI(核磁気共鳴画像法)、及びX線CTからなる群から選択される方法で検出することを含む、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入された対象の腹腔から排出された液体中の腹膜細胞に存在する前記アミロイド結合性物質を検出することを含む、検出方法。
【請求項4】
予め対象の腹腔内に導入されたアミロイド結合性物質を含む液体が、腹膜透析液又は腹腔内洗浄液である、請求項1から3のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
前記対象が、アミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入される前に、アミロイド形成抑制物質を含有する腹膜透析液で腹膜透析を行っていた対象である、請求項1から4のいずれかに記載の検出方法。
【請求項6】
前記対象が、アミロイド結合性物質を含む液体が腹腔内に導入される前に、アミロイド形成抑制物質を含有しない腹膜透析液で腹膜透析を行っていた対象である、請求項1から4のいずれかに記載の検出方法。
【請求項7】
腹腔内におけるタンパク質のアミロイド構造を検出する方法であって、予めアミロイド結合性物質を含有しない液体が腹腔内に導入された対象の腹腔から排出された液体中の腹膜細胞に存在するタンパク質のアミロイド構造をアミロイド結合性物質を用いて検出することを含む、検出方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の検出方法に使用する溶液組成物であって、電解質塩、及び、アミロイド結合性物質を含有する溶液組成物。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の検出方法に使用する腹膜透析液製剤であって、グルコース又はグルコースポリマー、電解質塩、及びアミロイド結合性物質を含有する腹膜透析液製剤。
【請求項10】
電解質塩が溶解し、かつ、グルコース及びグルコースポリマーを含有しない第1液とグルコース又はグルコースポリマーが溶解した第2液とを分離して収容する腹膜透析液製剤であって、第1液及び第2液の少なくとも一方がアミロイド結合性物質を含有するか、或いは、アミロイド結合性物質を含有する第3液をさらに分離して収容した、請求項9記載の腹膜透析液製剤。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかに記載の検出方法に使用する腹腔内洗浄液であって、アミロイド結合性物質を含有する腹腔内洗浄液。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−242252(P2011−242252A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114573(P2010−114573)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】