説明

膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水生成装置及び殺菌方法

【課題】殺菌性に優れたオゾン水による殺菌方法、該オゾン水生成用の膜−電極接合体、電解セル、これらを使用して得られた該オゾン水生成装置を提供する。
【解決手段】界面活性剤を含有する原料水56を、陰極、隔膜、及び少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む陽極を有するオゾン生成装置41で電解してオゾン水を生成させ、生成オゾン水を殺菌対象60に噴霧する。生成オゾン水中に含まれる界面活性剤が、殺菌能力の優れたオゾン水の殺菌対象物への親和性を向上させて、殺菌効率を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌や洗浄等に用いられる、オゾン水の生成に用いる電極-膜接合体、これを用いた電解セルの構造とそのオゾン水生成装置、及びこれを利用する殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[殺菌消毒液]
従来、広範な環境における殺菌消毒剤として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤が広く用いられている。中でも次亜塩素酸ナトリウム等次亜塩素酸塩は、価格面と効果の点で汎用されているが、医療、食品工業等、種々の分野で要求される微生物の殺菌、滅菌に対して、更にその効力を向上させるための多くの提案がなされている(特開2001−253803号公報、特開2001−342496号公報及び特開2002−145710号公報など)。
通常、このような組成物は各成分を水中に添加するか、各成分を含有する水溶液を混合することで調製される。
【0003】
[電解水の代替利用]
しかしながら、塩素系殺菌剤を多量に使用すると弊害が発生する。例えば大量に食材を取り扱う工場、小売店では100ppmを越える次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄を行っており、これが食材の味を損なうのみならず危険性(THMの増加)を生じさせるため問題視されている。
これを解決することを主目的として、電気分解により生成される電解水が、農業、食品、医療等の分野において有用であることが鋭意検討され、日本を中心に電解水、或いは、オゾン水への代替利用が進んでいる。クリーンな電気エネルギーを利用して、電極表面で化学反応を制御することにより、水素、酸素、オゾン、過酸化水素などを合成できるが、特に陽極での酸化反応では、水処理に有効な酸化剤(有効塩素、オゾンなど過酸化物)が生成し、一部OHラジカルなどの活性種も発生することが知られている(強酸性電解水の基礎知識、オーム社)。
【0004】
電解水の優れた殺菌・消毒作用に着目し、医療現場や家庭での利用、例えば患部、切開部、留置カテーテルの経皮開口部等の殺菌、消毒、あるいはキッチン用品、ベビー用品、家具等の家庭用品、トイレ、浴槽等の住居まわりの殺菌、消毒に使用することが検討されている。このような電解水は、溶解によりイオンが生じる溶質、例えば塩化ナトリウム等を添加し、また必要に応じpH調整のための酸を添加した水(被電解水)を、電気分解することによって得られる。
【0005】
[電解水の種類]
電解水は食品添加物以外にも利用可能である。電解セルでの陽極反応は、水のみの場合、式(1)の酸素発生が進行するが、触媒、電解条件によっては式(2)の通り、オゾンが生成し、これを溶解したオゾン水が合成できる。
2H2O = O2 + 4H+ + 4e (1)
3H2O = O3 + 6H+ + 6e (2)
【0006】
塩酸、塩化物イオンを添加した場合には、式(3)及び(4)に従って次亜塩素酸が生成するが、硫酸を添加した場合には式(5)の通り反応して過硫酸が生成する。炭酸イオンが存在する場合、式(6)の通り反応して過炭酸が生成する。
Cl- = Cl2 + 2e (3)
Cl2+ H2O = HCl + HClO (4)
2SO42- = S282- + 2e (5)
2CO32- = C262- + 2e (6)
【0007】
陰極反応では、水素を過剰に溶解している水素水、アルカリイオン水などの合成可能である(式(7)及び(8)参照)。
2H+ + 2e = H2 (7)
2H2O + 2e = H2 + 2OH- (8)
【0008】
また、過酸化水素などの合成も可能である。
このように、食品添加物として認可される酸性水のほかに、電解質の選択による複数の過酸化物を含有する電解水が製造できる。
【0009】
[電解水の特徴](参考:「水の特性と新しい利用技術」(2004年、NTS社))
食品添加物として認可されている電解水の種類には、
a) 弱アルカリの電解次亜水(添加物名:電解次亜塩素酸ナトリウム水、20〜200ppm、pH>7.5、0.2〜2%食塩水原料、無隔膜)
b) 微酸性電解水(添加物名:微酸性次亜塩素酸水、10〜30ppm、pH=5〜6.5、2〜6%%塩酸原料、無隔膜)
c) 強酸性電解水(添加物名:強酸性次亜塩素酸水、20〜60ppm、pH<2.7、0.2%以下食塩水原料、隔膜セル陽極水)
がある。
【0010】
これらの中で酸性水のメリットは、
(1)THMは酸性では生成しにくいため安全性が優れている。
(2)耐性菌が発生しにくい、オンサイトで管理がしやすい。
(3)アルカリ性電解水との併用処理ができる。
(4)水道水のような感覚で利用でき、手指に匂いが残らない。
(5)直前での使用で十分(殺菌時間が短い)。
などである。
従来の次亜塩素ナトリウム薬液処理では200ppmまで食品添加物として認可されているものの、味覚も悪くなり、残留性があるのに比較して、これらの電解水は装置としての初期投資はかかるが、低濃度で殺菌効果が高く、有益である。
【0011】
[オゾン水の特徴]
長期にわたる次亜塩素酸塩の使用によりこの薬剤に対する耐性菌が生じており、殺菌効果に疑念が生じている。一方、オゾン水は既に食品添加物リストに登載され、米国FDA(食品医薬品局)で食品貯蔵、製造工程での殺菌剤として認可(2001年)が得られている。既に食品工場内の殺菌、食品そのものの殺菌に多くの実績がある。最近では、皮膚科、眼科、歯科などの医療現場においても、これまでの殺菌水と同等以上の効果を発揮しつつ、生体への負荷を軽減できることが注目されている。
オゾン水のメリットとして、
(1)オゾン(OHラジカル)殺菌効果は細胞壁の酸化破壊であり、無差別性のため耐性菌が存在しないといえる。
(2)残留性がない。
などがあり、必要に応じて他の残留性を有する酸化剤(次亜塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩など)と併用すれば、より有効な殺菌処理が可能となる。
【0012】
[オゾン水の従来製法]
オゾン水は従来から放電型のオゾンガス発生器を用いて製造することが一般的であり、数ppmのオゾン水を容易に製造でき、浄水処理、食品洗浄分野で利用されている。しかしながら、瞬時応答性に優れたハンディかつ高濃度なオゾン水装置の発生器としては以下の理由により不適当であった。
(1)オゾンをいったんガスとして発生させ、その後、水に溶解させる2つの工程を必要とすること。
(2)後述する電解法に比較して生成オゾン濃度が低いため高圧下で水中に注入し、溶解させ、製造する必要がある。
(3)発生電源が高電圧・高周波のため、小型化しにくい。
(4)放電によるオゾン水生成装置では、オゾンガス発生能力が安定するまで時間(数分間の待機時間)を要し、瞬時に一定濃度のオゾン水を調製することが困難である。
【0013】
[電解オゾン製造法]
電解法は、放電法に比較して電力原単位は劣るが、高濃度のオゾンガス及び水が容易に得られる特徴により、電子部品洗浄などの特殊分野で汎用されている。原理的に直流低圧電源を用いるため、瞬時応答性、安全性に優れており、小型のオゾンガス、オゾン水発生器としての利用が期待されている。また、用途に応じて電池駆動、発電機駆動、交流直流変換駆動が選択できる。
【0014】
オゾンガスを効率よく発生させるには、適切な触媒と電解質を選択することが不可欠である。電極材料として、白金などの貴金属、α-二酸化鉛、β-二酸化鉛、フルオロカーボンを含浸させたグラッシーカーボン、ダイアモンドが知られている。電解質としては、硫酸、リン酸、フッ素基含有などの水溶液が利用されてきたが、これらの電解質は取り扱いが不便であり広く使用されてはいない。固体高分子電解質を隔膜として用い、純水を原料とする水電解セルは、その点で管理がしやすく、汎用されている[J. Electrochem. Soc., 132, 367(1985)]。従来からの触媒である二酸化鉛では、12重量%以上の高濃度なオゾンガスが得られる。
【0015】
直接合成方式と呼ばれるシステムでは、電極近傍の溶液に十分な流速を与えることで、ガス化する前にオゾン水として取り出すようにしている(特開平8−134677号公報)。また、純水以外の原料水を電解系に供給する場合は、貴金属電極触媒自体の活性が水質の影響を受けるため、寿命や効率などの電解性能が変動することは注意を要する。特開平9−268395号公報では、導電性ダイアモンドが機能水(オゾンを含む)用電極として有用であることが開示されている。
【0016】
[小型装置の開発]
医療現場や家庭でより簡易に殺菌、消毒等を行うために、携帯可能、或いは、小型の電解水噴生成器が提案されている(特許文献1〜3)。小型であれば、室内、水回り、食器、衣類等の家庭用あるいは業務用の消臭、殺菌、漂白、又は人体、例えば手指等の殺菌、消毒等に広く使用することができる。
【0017】
これら以外にも、特開2004−129954号公報(電気分解に必要な電力を発生する手段を有する)、特開2004−130263号公報(ピストンの内容積とセル筒部分の体積、断面積などの比率の特定している)、特開2004−130265号公報(特開2004−130264号の電解水を泡状にして使用する)、特開2004−130266号公報(電極への電圧の印加方向を交互に変える)、特開2004−148108号公報(電極への電圧の印加電圧を可変とする)、特開2004−148109号公報(吸引経路に電極を配置する)、特開2003−93479号公報、特開2003−266073号公報、特開2002−346564号公報(スプレー部に円筒形の電極を有する分離型)及び特開2001−47048号公報(ガン型、非噴射時に目詰まり防止、モータ使用)などが知られている。
【0018】
オゾン水の合成を目的とした公知技術としては、特開2000−169989号公報では、円柱状軸体に金網状の陽極(白金)、イオン交換膜、金網状の陰極を巻いた接合体を水路中に配置した構造を有し、さらには軸体に細い溝を構成させた、小型電解オゾン発生装置が開示されている。特開2001−198574号公報では、円柱状軸体に多孔性陽極、固体重合体電解質(イオン交換膜)、多孔性陰極を固定し、陽極で合成されるオゾン水と、陰極で合成される水素・水素ガスを分離排出できるドレンラインが付加されている配管接続用モジュールが開示されている。特開2002−143851号公報では、通孔を有する支持円筒部材に陰極、膜、陽極を巻き付けた2重管構造で、希薄な食塩水を陰極室円筒に流すことにより、水道水を原料とする硬水成分の析出を抑制でき、また、紫外線処理も同時におこなえる水処理方法が開示されている。特開2004−60010及び2004−60011号公報では、特開2000−169989号公報と同等の電解セルで、陰極液を分離でき、かつ、流路に起電力測定体を設置しオゾン濃度を検出できるようにしたオゾン水製造装置を開示している。また、特開2007−136356号公報では、中心の円筒部材が円筒方向に複数の溝を有していて、陰極、膜、陽極の順に巻き付けられた構造が開示されている。
【0019】
特開2006−346203号公報では、電極として導電性ダイアモンドを用いることが開示され、特に棒状の導電性ダイアモンド電極に帯状の隔膜部材を配置し、その上に線状の対極を配置した電解セルを開示している。
【0020】
界面活性剤を含む液を電解して電解水を製造する技術が、特許文献4及び5に開示され、特許文献4では、pH調整剤、界面活性剤、塩素化合物、水からなる電解原水を用い、pH3〜8.5の電解水が得られている。特許文献5では、オゾンガス発生器とUV装置、水供給源からなる空気感染病原体の中和(殺菌分解)装置で、水を反応室に送り込む前に、1つまたは複数の界面活性剤を水に加える方法が開示されている。しかしオゾン水製造に界面活性剤を使用する技術に関する記載はない。
【特許文献1】特開2000−79393号公報
【特許文献2】特開2000−197889号公報
【特許文献3】特開2001−276826号公報
【特許文献4】特開2004−130264号公報
【特許文献5】特表2005−503893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
これまでの小型の電極接合体、それを用いる電解オゾンセルでは、以下の課題があった。
(1)水道水、純水を原料としてオゾン水を合成し、これを殺菌対象に噴出すると、対象物が親水性表面でない場合、オゾンと対象物の十分な接触が得られず、十分な殺菌効果が得られない。オゾンガスを界面活性剤の溶解した水に吸収させ、殺菌効果を高めることは公知であるが、電解における直接合成方式での技術応用の開示はない。
(2)原料水に含まれる不純物の中で、塩化物イオンが多量に存在すると、次亜塩素酸が主に生成し、オゾンが生成しない。
(3)白金触媒はオゾン発生に優れた特性を有するが、不安定であり、原料水の影響を受けやすく、水道水をそのまま使用すると、殺菌を短時間で行える数ppmのオゾン水を合成できない場合がある。
以上の課題を克服すれば、家庭、病院、介護施設などでのオゾン水の利用が更に拡大すると推定される。
【0022】
本発明は、前記課題の多くを解決でき、製造も容易で、かつ高性能を得ることができる膜−電極接合体、これを用いた電解オゾンセル及びオゾン水生成装置、及び殺菌方法を提供することを目的とする。本発明のオゾン水生成装置を利用し、原料水溶液を電解し、生成したオゾン水溶液は、直ちに利用できる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の殺菌方法は、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される界面活性剤を0.01重量%以上4重量%以下の濃度で含有し、塩化物イオン濃度が0.03重量%以下である原料水を、陰極、隔膜、及び少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む陽極を有する電解セルで電解してオゾン水を生成させ、生成オゾン水を殺菌対象に接触させることを特徴とする。
特に、界面活性剤がその構成成分として塩素原子を含まない原料水を用いることが好ましい。
【0024】
本発明の殺菌方法に好ましく用いられるオゾン水製造用の膜−電極接合体は、陰極と少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む陽極と間に隔膜を設置し、該隔膜と前記陽極、及び前記隔膜と前記陰極の少なくとも一部が接するようにこれらを固定し、前記隔膜と前記陽極及び前記隔膜と前記陰極の間の少なくとも一方に前記界面活性剤を含有する原料水用流路を形成させ、あるいは少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む、棒状又は筒状の陽極の周囲に筒状の隔膜を設置し、該隔膜の周囲に線状陰極を配置し、該線状陰極を使用して前記隔膜を前記陽極に固定し、これにより前記隔膜と前記陽極の間に前記界面活性剤を含有する原料水用流路を有する電極室を形成させる。
【0025】
本発明の殺菌方法に好ましく使用される電解セルは、前記膜−電極接合体の陰極に、給電体を接続して成っている。
本発明の殺菌方法に用いるオゾン水生成装置は、前記電解セル、原料水を収容した容器、及び、ヘッドを含んで成り、前記原料水を前記電解セルで電解して生成するオゾン水を、前記ヘッドから噴出させるよう構成される。
【0026】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明では、原料水に界面活性剤を添加すると、電気分解後の溶液、つまりオゾン水の対象物に対する濡れ性が向上し、カビや菌の細胞膜との親和性も向上するので、オゾンによる殺菌効果が向上する。つまり毒性のない界面活性剤(石鹸分子)を、予め水と混合しておくと、例えば空気感染病原体(特に、胞子)に対するオゾンの効果を高めるために、得られるオゾン水中の界面活性剤は、オゾンとオゾン遊離基と病原体との間の接触時間を延長する効果を有する。
【0027】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤、アミンオキサイド(例えばアルキルジメチルアミンオキサイド)等の両性界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等の非イオン界面活性剤等を使用することができるが、陽イオン界面活性剤を使用してもオゾンは生成しない。
界面活性剤の溶液における濃度は、0.01重量%以上4重量%以下の濃度とし、特に0.03〜1重量%とすることが好ましい。0.01重量%より少ないと親和性向上の効果がなく、4重量%より多いと環境負荷の観点で問題が生じ、また、用途によっては界面活性剤の除去プロセスが必要となる。また、電解時において泡の発生が多くなり、電解反応に支障を来す。電解により分解しにくく、電極表面に吸着しにくい活性剤が好適である。
塩化ベンザルコニウム等の塩素原子を含む界面活性剤は、電解による塩素ガス、次亜塩素酸を生成することがあり、好ましくない。
【0028】
塩化物などを含有する原料水では、上記と同様の理由により、次亜塩素酸の生成が進行し、オゾン発生の電流効率を低減するため、塩化物イオンの濃度は0.03重量%以下とし、これ以下であれば、次亜塩素酸の生成はわずかであり、オゾンを主体とする殺菌溶液を生成することができる。
本発明の原料水としては、界面活性剤を溶解した純水、水道水、井戸水などが利用できる。原料水に含まれるCa、Mgの陰極上への析出(水酸化物或いは、炭酸化物の沈殿)を抑制するために、pH調製剤を添加して弱酸性にすることは好ましい。この対策として、適当な時間(1分から1時間)ごとに停止するか逆電流を流すと、陰極では酸性化し、陽極ではアルカリ化するため、発生ガス及び供給水の流動により、析出物の脱離反応が加速され容易に進行する。
【0029】
また、原料水の伝導度が小さいため、セル電圧に占める抵抗損失が無視できず、伝導度を高めることが好ましい場合がある。この際は、Na2SO4、K2SO4、Na2CO3などの塩を電解質として溶解することが好ましい。これらの塩は電解により過酸化物を生成し、殺菌効果の残留性を担う場合がある。濃度としては0.01〜10g/Lの範囲が好ましい。生成するオゾン水の濃度は0.1〜20ppmである。
解離度の低い弱酸の水溶性の有機酸を使用することは、溶液のpH制御の容易性の点から好ましい。ここで、水溶性の有機酸としては、コハク酸、乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸等をあげることができる。
【0030】
原料水には、この他、殺菌力や清涼感を向上させる等のためにアルコールを添加してもよく、また、必要に応じて塩素原子を含まない香料、色素、界面活性剤以外の殺菌剤、増粘剤、酵素、漂白剤、キレート剤、ビルダー、防腐剤、防錆剤、塩素化合物以外の電解質等を添加してもよい。特に、保存安定性の面からは原料水が防腐剤を含有することが好ましい。
【0031】
特に、本発明の殺菌方法に使用可能なオゾン水製造用膜−電極接合体は、少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む、棒状又は筒状の陽極の周囲に筒状の隔膜を設置し、該隔膜の周囲に線状陰極を配置し、該線状陰極を使用して前記隔膜を前記陽極に固定し(これを円筒型接合体と称する)、これにより前記隔膜と前記陽極の間に界面活性剤を含有する原料水用流路を有する電極室を形成させる。前記円筒型接合体では、前記陽極、前記膜及び前記陰極が一体化しているため、一旦製造すると、取り扱い易い。その製造方法も前記棒状陽極と膜を、線状陰極で、同時に巻きつけるといった簡単な操作で実施できる。
【0032】
この円筒型接合体は、棒状陽極の周囲に円筒の膜を配置し、線状陰極を適当な間隔で螺旋状に巻き付けることで、棒状陽極と膜と線状陰極を部分的に接触でき、棒状陽極と膜の間に液や発生したガスが螺旋状に移動できる空間を構成できる(例えば後述の図2の陽極室10)。膜開口部の少なくとも一方にチューブを固定し、給電端子を陽極及び/又は陰極に接続した電解セルを構成できる。
また、これとは異なる円筒型接合体としては、棒状の電極の周囲に、帯状の膜を被覆し、当該膜の表面に陰極を設置する。前記帯状膜は、前記棒状の電極の周囲に、螺旋状に被覆することが好ましい。これを適切な太さを有するチューブ内に固定すると、チューブ内径空間と接合体の隙間に液や発生したガスが螺旋状に移動できる空間を有する電解セルを構成できる。
【0033】
後者の接合体では、陰極から発生する水素が陽極から発生するオゾン、酸素と混合するため、生成するオゾン水濃度は、前者の接合体に比較して小さい。一方、後者の接合体では、電解室としては1つであるため、陽極、陰極で生成した電解液が容易に混合し、pH分布が生じにくいため、電極表面、膜内への金属化合物の析出反応が進行しにくい長所がある。
【0034】
本発明の殺菌方法に用いる電解セルは、前記膜−電極接合体を有する電解セルである。
【0035】
本発明の殺菌方法に用いるオゾン水生成装置は、前述の電解セル、原料水を収容した容器、及び、ヘッドを含んで成り、前記原料水を前記電解セルで電解して生成するオゾン水を、前記ヘッドから噴出させる。
この電解セルを、原料水を収容した容器とヘッドを含むオゾン水噴出装置(オゾン生成装置)に収容し、前記原料水を吸引して電解セルを流通させながら、通電すると、前記原料水が前記電解セルの陽極に接触して電解され、オゾン水が生成する。このオゾン水は前記ヘッドのノズルから、必要に応じてポンプ等の動力を利用して、外部に霧状又は液状で放出される。
また、原料水を給水配管と直結させ、電解することにより、同様のオゾン水が生成する。
【0036】
本発明の殺菌方法では、前記した棒状陽極を有する膜−電極接合体を使用して電解水を製造する電解セル以外に、板状又は孔開き板状の陽極及び陰極で隔膜であるイオン交換膜を挟み込んで2室型とした電解セルを使用することもできる。
【0037】
本発明の殺菌方法や本発明のオゾン水生成装置は、室内、水回り、食器、衣類等の家庭用あるいは業務用の消臭、殺菌、漂白、又は人体、例えば手指等の殺菌、消毒等に広く使用することができる。このように本発明の殺菌方法における「殺菌」は、殺菌以外に、消臭、漂白、消毒などを含む。
【発明の効果】
【0038】
本発明の殺菌方法は、界面活性剤を含有する原料水を、導電性ダイアモンドで形成した陽極を有する電解セルで電解してオゾン水を生成させ、生成オゾン水を殺菌対象に噴出又は接触させるため、親水性の小さい殺菌対象とオゾンの接触時間が増加し、殺菌効果を高めることができる。本発明の殺菌方法を行うためのオゾン水生成装置は、小型で軽量であり、簡便な操作で利用できるため、一般家庭、業務用として適している。
原料水の成分とその濃度を限定することで、1ppm以上の高濃度のオゾン水を安定に生成、噴出でき、原料水の水質を一定に制御、保管するため、安全かつ安定に殺菌性の高いオゾン水を供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に本発明の各構成要素に関し説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[陽極材料]
陽極触媒は、導電性ダイアモンドとする。電極基体として使用しうる材料は、長寿命の観点と処理表面への汚染が起きないように耐食性を有することが必要であり、チタン、ニオブなどの弁金属、その合金の使用が望ましい。
円筒型接合体の場合、パイプ、棒など従来汎用されている任意形状の基材表面へ陽極触媒を担持する。断面は、円、四角形、楕円など、あるいは中空の円筒、角筒などから選択されることが望ましいが、これらに限定されない。棒状、筒状の陽極の表面に凹凸を加工し、また、中空の材料の場合、電極表面に開口部を設けることは、気液透過性を高めるために有効である。金網を丸め筒状にした基材も利用できる。凹凸の大きさは、0.1mmから5mmが好ましい。また、螺旋状に円筒方向に溝が加工された基材も使用可能である。
触媒は陽極の一部に存在すればよく、前記基材の一部が露出していても支障ない。
【0041】
ダイアモンドはドーピングにより電気伝導性の制御も可能である。ダイアモンド電極は水の分解反応に対しては不活性であり、酸化反応では酸素以外にオゾン、過酸化水素の生成が報告されている。導電性ダイアモンドを用いることにより、電解反応が進行しやすくなり、これらの電解生成過酸化物が格段に効率良く製造される。更にダイアモンド電極では前述の電解種以外に、OHラジカル、電解質の酸化体が生成し、これらと前記電解種による殺菌、漂白効果が相乗的に利用できる。
【0042】
[陰極材料、陰極給電線]
陰極反応は主に水素発生であり、水素に対して脆化しない電極触媒が好ましく、白金族金属、ニッケル、ステンレス、チタン、ジルコニウム、金、銀、カーボン、ダイアモンドなどが好ましい。陰極基材としてはステンレス、ジルコニウム、カーボン、ニッケル、チタンなどの使用が望ましい。
円筒型接合体の場合、形状は線状とすることが好ましい。線状以外に細く切断した金網、箔でもよい。線状の場合、細い線を複数本合わせて撚った巻き線の形態でも好適である。多孔性の金網陰極を筒状とし、隔膜好ましくはイオン交換膜の周囲に配置してもよい。
イオン交換膜の片面に触媒層を形成させておき、触媒形成面を外側に向けて設置すると、電解セルの電流分布を均一化でき、セル電圧を低減できるため好ましい。この触媒層の形成方法には、無電解めっき、PVDなどの既存の方法が利用できる。この場合は、給電を兼ねた金属線で巻きつける。給電線材料としては、白金族金属、ニッケル、鉄、銅、銀、金、ステンレス、チタン、ジルコニウムなどが好ましい。
【0043】
[イオン交換膜材料]
隔膜としてのイオン交換膜は、陽極、陰極で生成した物質が反対の電極で消費されるのを防止するとともに、液の電導度の低い場合でも電解を速やかに進行させる機能を有するため、伝導性の乏しい純水などを原料として利用する場合に好ましく使用できる。イオン交換膜として、フッ素樹脂系、炭化水素樹脂系のいずれでも良いが、オゾンや過酸化物耐食性の面で前者が好ましい。膜の厚さは、0.1mmから1mmが好ましい。該膜は、補強繊維を含む機械的強度の大きい市販膜を利用することが好ましい。
円筒型の膜を用いる接合体の場合、膜は予め、筒状に成形しておくことは好適である。これは熱可塑性を有するプレカーサー樹脂を用いて、公知のチューブ成形加工により簡便に行うことができる。膜種として補強繊維が用いられているものが好ましい。シート状のまま、棒状、筒状にした後、接着させてもよい。
【0044】
フッ素樹脂系イオン交換膜の場合、端部を重ねて、熱融着させるか、接着剤で固定することができる。熱融着の処理温度は、200℃から350℃、面圧は2kg/cm2から20kg/cm2、時間は1秒から1分の範囲が適切である。接合強度を上げ、より完全な接合を達成するために、補強繊維を含まないフッ素樹脂系膜の細い帯を挟んで接着すると好適である。
膜表面に凹凸を設けることは、気液透過性を高めることができ、好適である。
帯状の膜を用いる接合体の場合、帯状の隔膜の厚さは0.1〜2mm、膜幅が0.1〜20mmの範囲であることが好ましい。これより幅が細いと巻き付け作業において、物理強度が不足するため切断され易くなる。また、太いと電解の原料や生成物の隙間からの物質移動が抑制され、電圧の増加や電流効率の低下を招く。隙間は0.1〜10mmが好適である。
【0045】
[膜−電極接合体]
円筒型接合体の場合、膜−電極接合体の棒状陽極の長さ及び径は得られるオゾン要求量より選択される。通常、長さは10mmから300mm、径は0.5mmから10mmが好ましい。該接合体の膜の直径は、中に収納する棒状陽極の直径(代表的には円柱を想定)より、0.1mmから5mmほど大きく設定する。
線状陰極、給電線を用いる場合、その径は0.1mmから2mmの範囲であることが好ましい。これより細いと電気抵抗による電圧損失が無視できなくなり、巻き付け作業において、物理強度が不足するため切断され易くなる。また、太いと電解原料や生成物の陽極室からの物質移動が抑制され、電圧の増加や電流効率の低下を招き、また、巻き付け作業が困難となる。
【0046】
陰極線を螺旋状に巻きつけるときの角度は、棒状電極の径と隔膜の幅、隔膜の隙間により特定される。線状陰極、又は給電線を、陽極と膜の外側に螺旋状に巻きつける場合、陰極線間隔は0.1mmから10mmが好適である。棒状陽極の直径、線状陰極の材質、太さ、螺旋の間隔などを適切に選択することにより、理想的な流路を有する膜−電極接合体が得られる。
【0047】
以上の寸法は、伝導性の小さい原料水においても、少なくとも電極と膜の一部が螺旋状に密着し、電解が円滑に進行でき、かつ、陽極と膜からなる陽極室において、供給する原料水、発生する気体成分の速やかな流動が可能な容積を有する必要性の観点から、選択、設計される。
【0048】
[電解セル]
円筒型の膜を用いる接合体の場合、前記膜−電極接合体のうち、陽極と膜からなる陽極室の少なくとも一方の開口部は、原料水の経路に接続するチューブに固定できる。該チューブは、筒状の膜と同程度の径を有し、膜とチューブを接着剤で固定し、また、棒状陽極の給電端子を該チューブ内の陽極に接続させる。
円筒型接合体の場合、チューブは、接合体が収まる径を有するが、太過ぎると、管内の流速が低下し、例えば、オゾン水生成の場合には、気液接触の効率が低下するため、高濃度のオゾン水を得るには不都合となる。従って所望濃度のオゾン水を得られるようチューブの径を選定することが好ましい。チューブの径でなく棒状電極の径の選定により濃度調節を行っても良い。
【0049】
チューブ材料としてはPP、PVC、PEなどの炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂、金属管などが好ましい。管が熱収縮性を有するものであれば、電解セル部の容積を調整でき好ましい。チューブの厚さは、電解セル内での発熱を速やかに除去する目的から、薄い方が好ましいが、機械的強度も必要であることから、0.05mmから2mmが好適である。
最初に電解セルから流出する水は、十分に電解されていない原料水があるため、電解セル内に存在する水量やそれ以外の配管部の容積は小さい方が好ましい。
【0050】
電極からの2本の給電線は互いに接触することがないよう、絶縁材料で被覆しておくことが好ましい。チューブ内部から取り出した後、外側から熱収縮性を有する被覆チューブで覆い溶着し、該オゾン水経路と隔離することが好ましい。
また、オゾン水を合成する場合、電解セルから装置出口までのチューブの長さが短すぎると十分にオゾンを溶解していない原料水が噴出するため好ましくなく、気液の接触時間を増加させるほど、ガス化したオゾンの原料水への溶解が進行し、その合成効率が増大させることができる。このため、最適な長さは、接触時間が0.1秒から10秒の範囲となるように設定することが好適である。
【0051】
原料水を貯留する容器のタンク、配管の材質は原料水により侵されない材料を選択する。特に問題がなければPE樹脂でよい。
電解条件としては、生成した物質の安定性、活性の観点から温度は5℃から40℃が好ましく、電流密度は0.01〜1A/cm2が好ましい。
【0052】
[オゾン水生成装置]
本発明のオゾン水生成装置は、例えばトリガーの操作によりスイッチがONとなり回路に電流が流れ、その結果、電極間に電流が流れる。このとき、チューブ内の原料水はほぼ瞬時に電気分解され、且つピストン・シリンダー機構によりヘッドのノズルから外部に噴出又は噴霧される。すなわち、本発明の装置では、生成操作(例えばトリガーの操作)と連動して電気分解が行われる。トリガーの操作開始から1秒以内で電気分解により生成したオゾン水を生成することが好ましい。
【0053】
本発明のオゾン生成装置(トリガースプレー)の一例を図1〜図3に基づいて説明する。図1は、本発明の一態様であるオゾン生成装置を示す正面図、図2は、図1の要部である膜−電極接合体の分解拡大図、図3は、図1及び図2の電解セルの斜視図である。
図1に示すオゾン生成装置1は、界面活性剤が溶解した原料水2を収容する容器3とこの容器3の上部開口に連結されたヘッド4とから成っている。前記容器3は、硬質なものでも軟質なものでも良いが、各種硬質樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の硬質材料で形成することが好ましい。容器3の容量は、10〜1000mLが好ましく、200〜500mLが更に好ましい。
【0054】
前記容器3内には、陽極、陰極及び隔膜からなる電解セル6が収容されている。この電解セル6は図2に示すように、導電性ダイアモンド触媒を担持した金属製棒状電極である陽極7の周囲に、筒状に成形されたイオン交換膜から成る隔膜8を巻き、この隔膜8の周囲に金属線から成る線状陰極9を螺旋状に巻き付けて構成されている。この隔膜8は、方形のシートを上面視円形になるように丸め、両端部を長手方向に接着することにより得られる。
【0055】
前記隔膜8は本来凹凸を有さないが、前記線状陰極9が巻き付けられることにより線状陰極9に接触する部分が強く陽極7方向に押し付けられ、線状陰極9と接触しない隔膜8が外向きに湾曲して陽極7と隔膜8間に螺旋状に陽極室10が形成される。
更に隔膜8の外側の前記容器3内に陰極室が形成される。
前記棒状陽極7の上端には、短寸円筒状の接合チューブ12を介して給電線保持チューブ13が接続され、接合チューブ12の内面と給電線保持チューブ13の外面間には給電線14が保持され、給電線14の先端は前記陽極7の上端部に接続されている。
【0056】
給電線保持チューブ13の上端は、前記ヘッド4内の垂直管路15に嵌合され、該垂直管路15の上端はヘッド4内の水平管路16に連通している。
水平管路16の他端側には、噴霧ノズル17が配置され、当該噴霧ノズル17のやや内方にはトリガーアーム18の支点19が設けられ、この支点19を中心にトリガーアーム18が回動するようになっている。当該トリガーアーム18には内向きにピストン杆20が接続され、トリガーアーム18の動きに応じてシリンダー21内を移動するようになっている。
【0057】
トリガーアーム18の支点19の上方には、トリガーアーム18に接触するよう設置されたトリガー連動スイッチ22が設置されている。このトリガー連動スイッチ22は、電極への電力の印加を入力・切断するスイッチで、使用時にのみ電圧がかかるように、トリガーを引くと自動的にスイッチがオンとなり、トリガーを離すとスイッチがオフとなるようになっている。
前記ヘッド4に設置されたLEDランプ23は、電気分解が実行されていることを表示する。電池の劣化などにより、規定の電流が流れない場合に、LEDランプを消灯する機能を付加してもよい。
【0058】
前記ヘッド4の上部中央には電源用電池24が設置されている。なお電源として電池を用いずに、トリガーの操作により電気分解のための電力を発電する手段を備えることもできる。単純な1次電池ではなく、充電可能な2次電池、キャパシターでもよい。また、交流電源から直流電力を供給できるアダプターを利用して稼動させることも可能である。
印加する電圧・電流の大きさは、消臭あるいは殺菌等の対象物に応じて所定の殺菌力を得るために適した濃度、電気分解される溶液の容積等に応じて、適宜定め、電極間には3〜25V印加する。回路部に、電極に印加される電圧を可変にする手段を形成することができる。
図示は省略したが、前記装置1は、生成操作により電気分解のための電力を発生する手段を有していても良い。該手段として、例えば、トリガーと連動して作動するモータが挙げられ、該モータは通常トリガースプレー内に設けられる。
【0059】
このような構成から成る電解水スプレー装置1を手で保持しながら、トリガーアーム18に人差し指と中指で内向きに力を加えると、トリガーアーム18が支点19を中心に移動して、トリガー連動スイッチ22がONになって電解セル6に通電される。それと同時にシリンダー21内のピストンが動いて、容器3内の原料水2が電解セル6に接触して原料水2が電気分解され電解水を生成する。この電解セル6の陽極7表面には導電性ダイアモンド層の触媒が形成されており、高濃度オゾンが溶解した電解水が得られる。このときに、隔膜8の内側に螺旋状の陽極室10が形成されているため、陽極室に適切な気液流路が形成され、供給水量、電流値を変え、電解水の電解種濃度を所望値に設定できる。
生成した電解水は瞬時に垂直管路15及び水平管路16を通って、図示を省略した外気導入孔から導入された空気とともに、噴霧ノズル17から殺菌対象に噴霧される。る。1回のトリガー操作で0.1〜1mLの電解水が噴出するよう設定することが好ましい。
この電解水には、オゾンの他に界面活性剤が含有され、この界面活性剤が前記オゾンの噴霧対象への親和力を高めるため、より効率的な殺菌等を行うことができる。
【0060】
図4は、前記オゾン生成装置で使用可能な他の電解セルを例示する斜視図である。
この例では、表面に導電性ダイアモンドが被覆された棒状の陽極31の周囲に帯状のイオン交換膜32を螺旋状に巻きつけ、更にこのイオン交換膜32上に、該イオン交換膜より狭幅の線状陰極33を螺旋状に巻き付けて、電解セル34を構成している。
この電解セル34を、図1の電解セル6と置換して設置し、同様のオゾン生成装置を構成できる。
【0061】
図5は、本発明の他のオゾン生成装置を例示する分解正面図、図6は、図5のオゾン生成装置を使用する殺菌方法のフローチャートである。
図5のオゾン生成装置41は、側面中央部に凹入部42が形成された陽極枠43の周辺部に当接された額縁状の陽極ガスケット44と、該陽極枠43の凹入部42と対向する凹入部45が形成された陰極枠46の周辺部に当接された額縁状の陰極ガスケット47を、イオン交換膜48に接触させて、陽極室と陰極室に区画した2室型電解セルとして構成されている。
【0062】
前記陽極ガスケット44内には、表面に導電性ダイアモンドが被覆された多孔性陽極49が、前記陰極ガスケット47内には、多孔性陰極50が、それぞれ収容されている。
前記陽極枠43の側面上部及び下部には、それぞれオゾン水出口51と原料水入口52が、形成されている。更に、前記陰極枠46の側面上部には、水素ガス及び移行水出口53が形成されている。
【0063】
このオゾン生成装置41の上流側には、例えば図6に示すように、ポンプ55を介して、界面活性剤を溶解した原料水56のタンク57が位置している。前記オゾン生成装置41と前記ポンプ42は、電源58に接続され、該電源58により駆動される。前記オゾン生成装置41の下流側、つまりオゾン水出口51にはオゾン水噴霧用ノズル59が連結され、このノズル59の下方に殺菌対象物60が位置している。
【0064】
図5のオゾン生成装置41の陽極枠43内に、原料水入口52から、前記タンク57内の界面活性剤を含んだ原料水56を供給しながら両極間に通電すると、陽極枠46内でオゾンが発生して界面活性剤を溶解したオゾン水が生成され、このオゾン水61は図6に示すように、前記ノズル59から殺菌対象物60に向けて一定時間噴霧され、オゾン水中のオゾンは界面活性剤の親和性により、前記殺菌対象物60に効率的に作用して殺菌が行われる。
【0065】
次に本発明によるオゾン水生成に関する実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例におけるオゾン濃度、次亜塩素酸濃度は、それぞれ紫外分光光度計、及びヨウ化カリウムによるヨウ素滴定法を用いて定量した。
【0066】
[実施例1]
陽極として導電性ダイアモンド触媒(ダイアモンドの厚さ3μm、ホウ素ドープ濃度1500ppm)を形成したニオブ製の棒(直径2mm、長さ10cm)を用い、膜としてイオン交換膜(デュポン製Nafion350、厚さ0.4mm、幅1mm)の帯を前記陽極に巻き、陰極として、市販の白金線(直径0.5mm)を前記膜の上から巻き、図3に示すような、陽極−膜−陰極を一体化した接合体を作製した。
界面活性剤として、花王株式会社製の陰イオン性界面活性剤(1)〔AES(アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム)〕、陰イオン性界面活性剤(2)〔ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム〕、非イオン性界面活性剤〔POE・R(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)〕をイオン交換水で希釈し、それぞれ、濃度を表1のように調整した溶液を100mLのビーカーに入れ原料水とし、前記接合体をビーカー内に固定し、0.5Aで5分間の電気分解を行った。そのとき得られたオゾン水の濃度を表1に示す。
【0067】
(表1)

界面活性剤 界面活性剤濃度 オゾン濃度

陰イオン性界面活性剤(1) 0.1重量% 1.8ppm

陰イオン性界面活性剤(2) 0.1重量% 1.0ppm

陰イオン性界面活性剤(2) 0.5重量% 0.4ppm

非イオン性界面活性剤 0.1重量% 2.4ppm

非イオン性界面活性剤 0.4重量% 1.8ppm

非イオン性界面活性剤 0.7重量% 1.0ppm

【0068】
[実施例2]
実施例1の陰イオン性界面活性剤(1)の原料水中の濃度を、0.025〜0.030重量%の間で変化させたところ、得られたオゾン濃度は2ppm〜2.5ppmの範囲で変化した。
【0069】
[実施例3]
実施例1の非イオン性界面活性剤の原料水中の濃度を、0.01重量%としたところ、得られたオゾン濃度は3.5ppmであった。
【0070】
[比較例1]
界面活性剤を含まないイオン交換水100mLを、実施例1と同じ条件で電解したところ、約3ppmのオゾン水が生成した。
【0071】
[比較例2]
陽イオン性界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩)を使用して実施例1と同じ条件で電解したところ、オゾンの存在は確認できなかった。しかし、KI法で測定した結果、酸化物の存在を確認できた(ヨウ素が遊離した)。これは、界面活性剤中に塩化物イオンが含まれていたため、次亜塩素酸が生成しているものと考えられる。
【0072】
[比較例3]
実施例1の非イオン性界面活性剤を5%含む原料水では、約0.4ppmのオゾン水が生成したが、ビーカー内の溶液が泡立ち、また、電解電圧が顕著に増加した。
【0073】
[実施例4]
陰イオン性界面活性剤(1)を0.1重量%、塩化物イオンを0.01重量%添加した純水を原料とし、実施例1と同様に電解を行ったところ、2.5ppmのオゾン水が生成した。次亜塩素酸の生成は認められなかった。
【0074】
[比較例4]
実施例1の非イオン性界面活性剤を0.1重量%、塩化物イオンを0.05重量%添加した純水を原料とし、実施例1と同様に電解を行ったところ、10ppmの次亜塩素酸が生成し、オゾン水の生成は認められなかった。
【0075】
[実施例5]
実施例1の非イオン性界面活性剤を 、原料水である水道水(硬度70、残留塩素0.4ppm、塩化物イオン10ppm)に0.1重量%になるように溶解し、実施例1と同様に電解を行ったところ、2ppmのオゾン水が生成した。残留塩素は0.1ppmであった。
【0076】
[実施例6](殺菌性試験)
トリガー式のスプレー装置内のPE樹脂製チューブ内に、実施例1の接合体を固定して電解セルとし、装置のヘッド内には9Vの角型電池を搭載し、回路部内で電極端子と可変抵抗、スイッチを配線で接合した。
別々の4個の容器内に下記に示す原料水1)〜4)を500ccずつ満たした。2)、3)ではトリガーを引くと、スイッチが接続し電池と前記電解ユニット間に電流が流れ、同時にオゾン水が噴霧された。1)、4)では、電池をはずしており、単に原料水が噴霧された。
1)水道水
2)純水(電解により1.5ppmのオゾン水生成)
3)純水に0.13重量%の実施例1の非イオン性界面活性剤を含む原料水(電解により1.5ppmのオゾン水生成)
4)0.13重量%の実施例1の界面活性剤非イオン性界面活性剤を含む原料水
【0077】
噴霧されたオゾン水をそれぞれ手に吹きかけ,菌を付着した手を殺菌対象とした。噴霧後、5秒待ち、キムワイプで拭き、その後、SCDLP寒天培地を用いてスタンプ試験を行った。
採取した菌は、インキュベーターを用いて35℃で24時間培養し、コロニー数をカウントした。コントロール(菌の付着した殺菌対象そのものを何の処理もせず、培養した)では1000cfu/10cm2以上の菌が検出されたが、1)の水道水では50cfu/10cm2以下、2)のオゾン水及び4)の界面活性剤水では10cfu/10cm2以下になった。しかし、これらでは完全に殺菌することはできなかった。
一方、3)の電解により生成したオゾン水と界面活性剤の混合した溶液では、菌は検出されなかった。よって、オゾン水+界面活性剤の系は殺菌に有効であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一態様であるオゾン生成装置を示す正面図。
【図2】図1の要部である膜−電極接合体の分解拡大図。
【図3】図1及び図2の電解セルの斜視図。
【図4】前記オゾン生成装置で使用可能な他の電解セルを例示する斜視図。
【図5】本発明の他のオゾン生成装置を例示する分解正面図。
【図6】図5のオゾン生成装置を使用する殺菌方法のフローチャート。
【符合の説明】
【0079】
1 オゾン生成装置
2 原料水
3 容器
4 ヘッド
6 電解セル
7 陽極
8 隔膜
9 線状陰極
10 陽極室
15 垂直管路
17 噴霧ノズル
18 トリガーアーム
22 トリガー連動スイッチ
31 棒状陽極
32 イオン交換膜
33 線状陰極
34 電解セル
41 オゾン生成装置
43 陽極枠
45 陰極枠
48 イオン交換膜
49 多孔性陽極
50 多孔性陰極
57 タンク
59 オゾン水噴霧用ノズル
60 殺菌対象物
61 オゾン水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される界面活性剤を0.01重量%以上4重量%以下の濃度で含有し、塩化物イオン濃度が0.03重量%以下である原料水を、陰極、隔膜、及び少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む陽極を有する電解セルで電解してオゾン水を生成させ、生成オゾン水を殺菌対象に接触させることを特徴とする殺菌方法。
【請求項2】
原料水中の界面活性剤濃度が0.03重量%以上1重量%以下である請求項1記載の殺菌方法。
【請求項3】
原料水中の界面活性剤がその構成成分として塩素原子を含まないものである請求項1又は2記載の殺菌方法。
【請求項4】
陰極と少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む陽極との間に隔膜を設置し、該隔膜と前記陽極、及び前記隔膜と前記陰極の少なくとも一部が接するようにこれらを固定し、前記隔膜と前記陽極及び前記隔膜と前記陰極の間の少なくとも一方に、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される界面活性剤を含有する原料水用の流路を形成させたことを特徴とするオゾン水製造用の膜−電極接合体。
【請求項5】
少なくともその表面に導電性ダイアモンドを含む、棒状又は筒状の陽極の周囲に筒状の隔膜を設置し、該隔膜の周囲に線状陰極を配置し、該線状陰極を使用して前記隔膜を前記陽極に固定し、これにより前記隔膜と前記陽極の間に、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される界面活性剤を含有する原料水用の流路を有する電極室を形成させたことを特徴とするオゾン水製造用の膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の膜−電極接合体の陰極に、給電体を接続したことを特徴とするオゾン水製造用電解セル。
【請求項7】
請求項6に記載の電解セル、原料水を収容した容器、及び、ヘッドを含んで成り、前記原料水を前記電解セルで電解して生成するオゾン水を、前記ヘッドから噴出させることを特徴とするオゾン水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125628(P2009−125628A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300962(P2007−300962)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】