説明

膜分離装置及び脱塩処理方法

【課題】原水側に作用させる操作圧が低くても効率よく濾過膜分離を行うことができ、膜面の目詰まりも防ぎやすい、効率性・経済性に優れた膜分離装置と脱塩処理方法を提供する。
【解決手段】膜分離装置4は、圧力容器22内に濾過膜エレメント21を装填して構成される濾過膜モジュール20の入口部分に、微細気泡生成装置10が設けられたものである。加圧条件下で原水中に生成された微細気泡が、そのままロス無く膜面に作用することにより、原水側に加える操作圧を低くしても、濾過膜に十分な有効圧が作用して、効率的に水を濾過処理することができる。微細気泡生成装置10は、ベンチュリ効果を利用するアスピレータ110と、アスピレータ110に加圧状態の気体を供給する気体供給部120とを具備し、濾過膜モジュールを構成する圧力容器22内にこれらが一体的に組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離法を利用して不純物を含む液体から該不純物を分離する技術に関し、特に、海水やかん水(低濃度の塩水)の淡水化に適した膜分離装置と、該装置を利用した脱塩処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物を含む液体から特定の物質を選択的に分離する方法として、濾過膜を用いた膜分離法がよく知られている。かかる濾過膜には、孔の大きさが概ね10μm〜5nmの精密濾過膜、孔の大きさが200nm〜2nmの限外濾過膜、孔の大きさが2nm以下の逆浸透膜等の種類がある。これらの濾過膜の素材としては、酢酸セルロースや芳香族ポリアミドが一般的である。これらのうち、特に逆浸透膜(RO膜)は、水は通すがイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜で、海水やかん水から工業用、農業用、飲用等の淡水(真水)を得る脱塩処理に広く利用されている。逆浸透膜のうち、孔の大きさが1〜2nmでイオンや塩類の阻止率が概ね70%以下のものは、特にナノフィルター又はNF膜とも呼ばれるが、作用や利用法は逆浸透膜と基本的に同様であるので、本明細書においては特に区別しない。
【0003】
逆浸透膜による脱塩処理では、逆浸透膜を隔てて浸透平衡にある原水(例えば、海水等)と水に対して、原水の浸透圧よりも高い圧力(「操作圧」と呼ぶ。)を原水側から加えることにより、原水中の水分子を水側へ移行させる。操作圧と原水の浸透圧との差が「有効圧」となる。
【0004】
逆浸透膜を透過できない塩類は膜面近傍に滞留して、膜面近傍での塩濃度が上昇する。これをそのまま滞留させると、原水側の浸透圧が限りなく上昇して濾過できなくなるので、塩類や不純物が濃縮された水(「濃縮水」と呼ぶ。)を連続的に排出する必要がある。したがって、逆浸透法では、原水の全量を濾過して取り出すことはできない。
【0005】
逆浸透法では、原水の塩濃度が高いほど、また、濃縮水を減らそうとするほど、原水側に高い操作圧をかける必要がある。例えば、平均的な塩濃度3.5%の海水から日本の飲料水基準に適合する塩濃度0.01%の淡水を、水の回収率40%(残りの60%は濃縮水として捨てる。)で得る場合、近年の技術水準では約5.5〜6.5MPa程度の操作圧が必要とされている。
【0006】
原水側に高い操作圧をかけるには、高圧ポンプを運転するための大きなエネルギーが必要であり、これによって淡水の処理コストが高くなる。現実的には、逆浸透法による海水の淡水化処理において、処理コストの半分程度が高圧ポンプを運転するための電気代になると言われている。
【0007】
そこで、例えば特許文献1〜3には、逆浸透膜を収容したモジュールユニットを多段に設けて直列的に接続し、前段の逆浸透膜モジュールユニットから得られる濃縮水をさらに昇圧して後段の逆浸透膜モジュールユニットに供給することにより、運転エネルギーや処理コストを低減させようとする技術が提案されている。
【0008】
しかし、このように逆浸透膜モジュールユニットを多段配置する構成では、必然的に処理装置全体が大型化、複雑化せざるを得ない。そして、逆浸透膜モジュールユニットを多段配置しても、後段のモジュールユニットには一層大きな操作圧(上記文献記載の実施例では7〜9MPa程度)が作用することになるので、やはり高圧ポンプを運転するための大きなエネルギーが必要になる。また、大きい操作圧が作用する後段のモジュールユニットについては、上記特許文献3でも指摘されている逆浸透膜モジュールユニットの耐圧負担といった問題も十分に解決されない。
【0009】
また、逆浸透膜による脱塩処理においては、処理時間の経過とともに、原水中に含まれる懸濁物質が膜面に付着して目詰まりを生じ、処理効率が低下するという問題もある。通常は、膜処理の上流側に懸濁物質を除去するための前処理工程を設けるが、それでも完全な除去は難しく、現実的に膜面の目詰まりは避けられない。目詰まりした逆浸透膜は洗浄または交換しなければならず、この作業もまた処理コストを増大させることになる。
【0010】
そこで、例えば特許文献4には、原水を加圧するためのポンプの上流側に、気体導入器と気体細分器とからなる微細気泡生成手段を設けて、原水中に微細気泡を混合する技術が提案されている。この技術によれば、微細気泡の攪拌作用や摩擦作用によって膜面に懸濁物質が付着しにくくなり、また、付着した懸濁物質も膜面から除去されやすくなって、処理効率の向上が期待されるというものである。
【0011】
しかしながら、本発明者らの検証によると、原水中に微細気泡を混合した後、原水を高圧ポンプで加圧することによって、微細気泡の量が著しく減少してしまうこととなり、その結果、処理効率が著しく低下することが確認された。
【特許文献1】特開平9−276663号公報
【特許文献2】特開2000−051663号公報
【特許文献3】特開2001−252659号公報
【特許文献4】実開昭58−53203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記のような問題点を総合的に鑑みてなされたもので、原水側に作用させる操作圧が低くても効率よく濾過膜分離を行うことができる、効率性や経済性に優れた膜分離装置と、該装置を利用した脱塩処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、濾過膜分離に際して膜面に微細気泡を作用させると、低圧でも、水の濾過膜透過効率が大きく向上することを見出した。ただし、その効果を有効に発現させるには、原水中に生成した微細気泡が直接、膜面に作用する必要があるとの確証も得た。
【0014】
そこで、本発明は、上記のような作用効果を有効に発現させ得る膜分離装置として、圧力容器内に濾過膜エレメントを装填してなる濾過膜モジュールに、塩類を含む原水を加圧状態で供給して濾過膜分離する膜分離装置において、濾過膜モジュールにおける原水の入口部分に微細気泡生成装置を設ける、との技術的手段(請求項1)を採用するものである。
【0015】
通常、膜分離工程の上流側には、前処理した原水を加圧する高圧ポンプ等の加圧手段と、加圧された原水を膜分離装置に供給する管路とが設けられる。本発明の膜分離装置は、濾過膜モジュールの入口部分に微細気泡生成装置を設けて、加圧状態にある原水中に微細気泡を生成し、生成した微細気泡をロスなく、直接的に膜面に作用させるように構成したので、極めて効率よく微細気泡の作用を発現させることができる。
【0016】
上記膜分離装置における濾過膜としては、逆浸透膜(RO膜又はNF膜)を特に好適に利用することができる(請求項2)。また、上記濾過膜分離にて好適に利用される微細気泡とは、直径数十μm以下のマイクロバブル、又はマイクロバブルよりもさらに小径(1μm以下)のナノバブルである。気泡の直径が数十μm以下であれば、短時間では上昇して消泡することなく、原水中に長時間残存する。そして、気泡が小さいほど濾過効率を向上させる作用も大きくなる。
【0017】
このように、本発明の要部は、濾過膜分離の直前段階で原水中に微細気泡を生成する点にある。そして、その微細気泡は、加圧による消滅を防ぐため、予め濾過膜分離時の操作圧と同等以上に加圧された条件下で生成される必要がある。微細気泡の生成手段としては様々な公知技術を利用することができるが、特に実用性に優れるのは、ベンチュリ効果によって微細気泡を生成するアスピレータと、該アスピレータに加圧状態の気体を供給する気体供給部とを具備する構成(請求項3)である。かかる構成は、簡素でありながら連続的に微細気泡を生成することができ、大きなエネルギーも必要なく、濾過膜分離の連続操作にも対応性がよい、という利点を有している。
【0018】
さらに、アスピレータ及び気体供給部を、圧力容器内に濾過膜モジュールと一体的に設ける(請求項4)ことにより、設備設計を一層、簡素化することができる。
【0019】
微細気泡生成装置の具体的な構成としては、アスピレータが略筒状をなし、その軸方向における一端部が原水を供給する上流側の管路に、他端部が濾過膜モジュールの入口部分にそれぞれ接続され、筒内の上流側半部と下流側半部との間に絞り部が形成されてなり、また、気体供給部は上記アスピレータに接続される均圧室を具備し、該均圧室は、加圧された気体を均圧室内に供給する給気路と、上記アスピレータの上流側半部内に連通する液通路とを有し、上記給気路を通じて均圧室内に供給される気体と上記液通路を通じて均圧室内に流入する原水とが均圧室内でアスピレータの上流側半部内と略同圧の気相部及び液相部を形成するように構成され、上記気相部の気体が、アスピレータに接続された注気路を通じてアスピレータ内に注入される(請求項5)ことにより、アスピレータ内の原水中に微細気泡を生成させるものとすることができる。
【0020】
この微細気泡生成装置における均圧室は、液通路を通じて、アスピレータの上流側半部と常時、連通しており、該上流側半部内と同じ圧力に保持される。この均圧室内に気体を密閉すると、その気体と均圧室内に流入した原水とが圧力均衡を生じて、均圧室内に略同圧の気相部及び液相部が形成される。その気相部内の空気を、注気路を通じてアスピレータの絞り部近傍に連通させると、絞り部を通過する液体が奏するベンチュリ効果によって原水中に気体が連続的に供給される。
【0021】
すなわち、この微細気泡生成装置は、加圧された原水の流路中にコンプレッサ等で直接的に気体を供給するのではなく、原水の流れによって流路内に気体が自給されるように構成したものである。流路内の液圧は、ポンプの運転状況等により一定範囲内で変動することがあるが、流路中にコンプレッサ等で直接的に気体を供給する方法では、液圧の変動に応じて気体の供給量を制御しないと、気泡の生成量が不安定になる。本発明の脱塩処理方法及び装置においては、気泡の生成状態が濾過膜分離の有効圧に影響を及ぼすので、気泡の生成量が不安定になるのは好ましくない。上記微細気泡生成装置によれば、アスピレータの上流側半部と均圧室とが液通路を通じて連通することにより、均圧室内の気相部及び液相部がアスピレータの上流側半部と常に圧力均衡状態を保持し、一方で気相部はアスピレータ減圧部とバランスするように気体が供給されるので、流路内の液圧が変動しても、それに連動して常に一定量の気体が原水中に供給される。
【0022】
この場合において、気体はアスピレータ内の絞り部下流端部よりも上流側に供給されるのが好ましいが、下流側半部であってもアスピレータの減圧効果が奏する部分に供給されるのであれば必ずしも限定されない。
【0023】
上記の構成に係る微細気泡生成装置において、均圧室内への気体の供給は、一定の圧力で連続的に行われる必要はない。適量の気体を均圧室内に供給した後、給気路を閉じれば、均圧室内に閉じ込められた気体が無くなるまでの間、気相部内の気体が注気路を通じてアスピレータ内に供給され続ける。均圧室内の気体が減少すると、気相部と液相部との界面が上昇するので、適当なタイミングで再度、給気路を開いて、均圧室内に気体を追加すればよい。こうして、気体を断続的に供給するようにすれば、気体を加圧するためのポンプの運転エネルギーを節約することができる。さらに、均圧室の全体または一部を透明な材料で形成しておけば、給気状況を視覚的にも確認しやすくなる。
【0024】
なお、アスピレータ内での気泡の生成量は、主としてアスピレータ内の液圧、流速、絞り部近傍の断面形状等によって決定されるが、均圧室内の気相部とアスピレータ内とを連通する注気路の内径や開口位置等にも影響される。よって、所望の気泡生成状態を安定的に得るためには、例えば、注気路の途中に気体の流量を調整する機能を設けたり、アスピレータ内における注気路の開口位置を動かせるように構成したりしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
上述のように構成される本発明の膜分離装置は、濾過膜分離の直前で原水中に微細気泡を生成することにより、微細気泡を膜面に直接、作用させるように構成されている。その微細気泡の作用により、原水側の操作圧を低くしても、従来に比して実質的に高い有効圧が得られ、また、同等の操作圧でもより多くの水を透過させることができる。こうして、従来よりも少ないエネルギーで高い回収率を得ることができ、濾過膜分離の処理効率が飛躍的に上昇する。
【0026】
また、処理装置全体を従来よりも小型化、簡素化することが容易になる。さらに、濾過膜に作用する操作圧の低下により、濾過膜における耐圧負担の問題も大いに改善することができる。
【0027】
特に、請求項5に係る微細気泡生成装置を備えた膜分離装置によれば、加圧状態にある原水中に、面倒な圧力調整操作等を要することなく、少ないエネルギーで一定量の気泡を連続的に生成させることができる。
【0028】
また、本発明の脱塩処理方法は、加圧した原水を上述のような膜分離装置に供給して、濾過膜分離の直前で原水中に微細気泡を生成させ、上記加圧条件と同等乃至それ以下の操作圧で原水を濾過膜分離するように構成されているので、原水中に生成した微細気泡を消滅させることなく、膜面に直接、作用させることができる。その結果、上述した微細気泡の作用が有効に発現され、運転エネルギーの節約や濾過膜の耐圧負担軽減等、大きな経済的効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図を参照しつつ説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る脱塩処理装置全体の概略構成を示す。貯留槽1には、原水として、例えば、不純物の除去や殺菌など適宜の前処理をした海水が貯留される。原水は、貯留槽1に接続された供給パイプ2を通じ、高圧ポンプ3により加圧されて、膜分離装置4に送られる。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態に係る膜分離装置4を示す。膜分離装置4は、微細気泡生成装置10を上流側に配し、逆浸透膜モジュール20を下流側に配して、それらを一体的に結合することにより形成されている。
【0032】
逆浸透膜モジュール20は、1本又は複数本の逆浸透膜エレメント21を圧力容器22内に装填したものであり、逆浸透膜エレメント21は、酢酸セルロース系やポリアミド系など公知の材料からなる逆浸透膜を、平膜スパイラル状、あるいは中空糸膜状など適宜公知の形態に加工して専用の筒容器内に収容したものである。ただし、本発明において、逆浸透膜エレメント21の種類や本数は特に限定しない。
【0033】
塩類を含む原水は、高圧ポンプ3によって加圧された後、逆浸透膜モジュール20の入口部分から供給され、逆浸透膜エレメント21を経由して精製水と濃縮水とに分離される。分離された精製水及び濃縮水は、出口部分に設けられた精製水取出パイプ5及び濃縮水排出パイプ6を通じてそれぞれ取り出される。精製水取出パイプ5は精製水槽7に接続され、これ以降、図示しない後工程にて精製水の後処理が行われる。
【0034】
本発明の要部をなす微細気泡生成装置10は、外殻となる圧力容器22を逆浸透膜モジュール20と共有して、逆浸透膜モジュール20の入口部分に直結されている。微細気泡生成装置10は、ベンチュリ効果によって微細気泡を生成するアスピレータ110と、該アスピレータ110に加圧された空気(又はその他の気体)を供給する気体供給部120を具備する。
【0035】
アスピレータ110は、略円筒状をなす流路を有しており、その軸方向における上流側が原水を供給する管路101に接続され、下流側が逆浸透膜モジュール20の入口部分に接続されている。
【0036】
アスピレータ110の内部には、上流側から下流側にかけて順に、入口側大径部111と、断面積が一定の傾斜で減少するテーパ状の縮小部112と、縮小された断面積が一定距離にわたって連続する絞り部113と、断面積が一定の傾斜で増大するテーパ状の拡大部114と、出口側大径部115とが、同軸上に連続するように形成されている。本発明においては、絞り部113を境にして区分されたうちの上流側、つまり入口側大径部111及び縮小部112を合わせて上流側半部と呼び、下流側、つまり拡大部114及び出口側大径部115を合わせて下流側半部と呼ぶ。ただし、それら上流側半部と下流側半部の軸長の大小関係は特に限定しない。
【0037】
図2に示した形態にあっては、圧力容器22の外側からアスピレータ110内に挿通された給気路121が、気体供給部120を構成している。この給気路121は図示しない加圧ポンプに接続され、加圧された気体をアスピレータ110内に供給する。給気路121には図示しない開閉弁や調整弁等が設けられ、給気状態と閉止状態との切り替えや、給気量の増減ができるようになっている。
【0038】
給気路121の先端は、アスピレータ110における縮小部112と絞り部113との接続部分近傍に開口している。原水がアスピレータ110の絞り部113を通過する際、ベンチュリ効果によって絞り部113内に負圧が生じる。その負圧により、加圧された気体が給気路121を通じてアスピレータ110内に引き込まれ、絞り部113の下流側に微細気泡を生じる。
【0039】
アスピレータ110内で発生した微細気泡は、そのまま直ちに逆浸透膜モジュール20へと送られて、逆浸透膜エレメント21内の膜面に作用する。これにより、操作圧が低くても実質的な有効圧が上昇し、膜透過効率が著しく増大する。
【0040】
図3は、本発明の第2実施形態に係る膜分離装置4を示す。この形態に係る膜分離装置4も、微細気泡生成装置10を上流側に配し、逆浸透膜モジュール20を下流側に配して、それらを一体的に結合することにより形成されている。逆浸透膜モジュール20の構成については上記第1実施形態と同様であるので、その説明は省略する。微細気泡生成装置10が、外殻となる圧力容器22を逆浸透膜モジュール20と共有して逆浸透膜モジュール20の入口部分に直結される点、及び、微細気泡生成装置10がアスピレータ110と気体供給部120とによって構成される点も上記第1実施形態と同様である。
【0041】
この形態に係るアスピレータ110も、基本的構造は上記第1実施形態と同様であり、略円筒状の流路内には入口側大径部111とテーパ状の縮小部112とからなる上流側半部、絞り部113、テーパ状の拡大部114と出口側大径部115とからなる下流側半部が形成されている。ただし、アスピレータ110は、その外径がやや小さく形成され、外殻となる圧力容器22の下部に接した状態で逆浸透膜モジュール20と結合されている。
【0042】
アスピレータ110の外側上部と圧力容器22との間には、アスピレータ110の軸長の略全体にわたって、略三日月形の一様断面を有する均圧室122が設けられている。均圧室122の端部には給気路121が接続されており、この給気路121を通じて、図示しない加圧ポンプ等により加圧された気体が均圧室122内に供給される。給気路121には図示しない開閉弁や調整弁等が設けられ、給気状態と閉止状態との切り替えや、給気量の増減ができるようになっている。
【0043】
また、アスピレータ110の側部を貫通するようにして、アスピレータ110の上流側半部と均圧室122とを連通する液通路123が設けられている。均圧室122側にあっては、液通路123の端部は、均圧室122の高さ方向における中間部か、それよりよりもやや下方位置に開口している。この液通路123は常時、開通しており、したがって、アスピレータ110内の原水は液通路123を通じて自由に均圧室122内に流入する。
【0044】
さらに、アスピレータ110の上部を貫通するようにして、アスピレータ110と均圧室122とを連通する注気路125が設けられている。この注気路125は、均圧室122側にあっては均圧室122内の上部に開口し、アスピレータ110側にあっては縮小部112と絞り部113との接続部分近傍に開口している。
【0045】
この実施形態においては、上記した均圧室122、給気路121、液通路123、注気路125等によって気体供給部120が構成される。すなわち、給気路121を通じて均圧室122内に適量の気体が供給された後、給気路121が閉じられると、均圧室122内に密閉された気体と、液通路123を通じて均圧室122内に流入する原水とが圧力均衡を生じて、均圧室122内に略同圧の気相部及び液相部が形成される。
【0046】
そして、アスピレータ110内の原水が絞り部113を通過する際のベンチュリ効果によって絞り部113内に負圧が生じ、その負圧により、気相部内の気体が注気路125を通じてアスピレータ110内に引き込まれ、絞り部113を通過して微細気泡を生じる。
【0047】
この微細気泡生成装置10を利用すると、気体を均圧室122内に一定の圧力で連続的に供給しなくともよい。適量の気体を均圧室122内に供給した後、給気路121を閉じれば、均圧室122内に閉じ込められた気体が無くなるまでの間、気相部と液相部との圧力均衡状態が自動的に保持される。気相部内の気体はアスピレータ110内に少しずつ供給され、気相部と液相部との界面が徐々に上昇するので、適当なタイミングで再度、給気路121を開いて、均圧室122内に気体を追加すればよい。こうして、均圧室122に対しては気体を断続的に供給することにより、気体を加圧するためのポンプの運転エネルギーを節約することができる。また、原水の圧力が、例えば数%程度の幅で変動したとしても、それに合わせて気体の供給圧力を頻繁に調整する必要がなく、一定の供給圧力を保持すれば足りる。
【0048】
アスピレータ110内での気泡の生成量や、生成される気泡の粒径は、アスピレータ110内の液圧、流速、絞り部113近傍の断面形状のほか、注気路125の内径やアスピレータ110内への開口位置等によって規定される。これら複数種類の設計要素は、必要とする気泡の生成量や粒径に応じて、適宜、選択的に決定されればよい。アスピレータ110内への注気路125の開口位置は、縮小部112の近傍から絞り部113の下流端部(絞り部113と拡大部114との境目)までの範囲内であればよいが、その開口位置をアスピレータ110の軸方向に沿って動かせるようにしたり、注気路125の途中に気体の流量を調整する機能を設けたりしてもよい。また、例えば、アスピレータ110を図2のようにして圧力容器22内に設け、均圧室122を圧力容器22の外部に設けるという構成も採用可能である。
【実施例】
【0049】
上記実施形態の脱塩処理装置による実施例を以下に示す。
【0050】
[実施例1]
実施例1として、図1のような構成による脱塩処理装置に、図2に示した第1実施形態に係る膜分離装置4を用いて実施した。原水には、蒸留水に塩を添加して塩濃度0.5%に調整した塩水を用いた。上記の原水を高圧ポンプ3で1.5MPaまで加圧した状態で膜分離装置4に接続し、加圧条件下で原水10L(リットル)に対して毎分約1Lの空気を送り込み、原水中に微細気泡を生成した。
【0051】
そして、1.5MPaの圧力を保持したまま、原水を膜分離装置4内の逆浸透膜モジュール20によって膜分離した。逆浸透膜モジュール20には、日東電工株式会社製の低圧スパイラル型ROエレメント『NTR−759HR』を1基用いた。この脱塩処理装置の運転により、塩濃度0.01%以下の精製水を得ることができた。このときの膜面積当たりの処理量は55L/hr・mであった
[比較例1]
比較例1として、上記実施例1と同様の装置構成において微細気泡生成装置10に空気を供給せずに運転し、微細気泡を含まない塩濃度0.5%の原水に対し、同じ1.5MPaの操作圧で脱塩処理を行った。原水は逆浸透膜モジュール20を透過して、塩濃度0.01%以下の精製水を得ることができたが、このときの膜面積当たりの処理量は32L/hr・mとなり、上記実施例1による処理効率を大幅に下回った。
【0052】
[比較例2]
比較例2として、図4の構成に係る脱塩処理装置により実施した。この脱塩処理装置は、貯留槽1内に貯留された原水が供給パイプ2を通じて取り出され、高圧ポンプ3により加圧されて膜分離装置4’に送られるが、微細気泡の生成処理が、貯留槽1内に設けられた、いわゆる「循環/投入型」の微細気泡生成装置8(例えば、株式会社多自然テクノワークス製の『ナノバブルDBON(商標)』、株式会社ニクニ製のバブルジェネレータ、株式会社協和機設製の『バヴィタス(商標)』など)によって行われる。貯留槽1内の原水を、この種の微細気泡生成装置8を通じて循環させることにより、原水内に微細気泡を連続的に生成する。
【0053】
実際には、蒸留水に塩を添加して塩濃度0.5%に調整した原水中に、原水20Lに対し毎分約1Lの割合で空気を送り込みながら微細気泡を生成した。
【0054】
そして、微細気泡を含んだ原水を高圧ポンプ3で1.5MPaまで加圧し、微細気泡生成装置を具備しない膜分離装置4’によって膜分離した。膜分離装置4’に装填する逆浸透膜モジュール20には、日東電工株式会社製の低圧スパイラル型ROエレメント『NTR−759HR』を1基用いた。この脱塩処理装置の運転により、塩濃度0.01%以下の精製水を得ることができたが、このときの膜面積当たりの処理量は35L/hr・mであった。
【0055】
上記実施例1及び比較例1、2により、微細気泡生成装置10を結合した膜分離装置4を利用する本発明の脱塩処理方法が、膜分離の処理効率を確実に向上させることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の膜分離装置及び脱塩処理方法は、海水の淡水化のほか、湖水、河川水、雨水などの自然水や、種々無機塩類等の混合溶液から水以外の不純物を除去して、工業用、農業用、飲用等の真水を得る技術に幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る脱塩処理装置全体の構成図である。
【図2】上記脱塩処理装置に用いられる膜分離装置の一例を示す概略構成図であって、(a)は該装置の上流側端面図、(b)は該装置の軸方向縦断面図である。
【図3】本発脱塩処理装置に用いられる膜分離装置の他の例を示す概略構成図であって、(a)は該装置の上流側端面図、(b)は該装置の軸方向縦断面図である。
【図4】比較例2に係る脱塩処理装置工程全体の構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1 貯留槽
2 供給パイプ
3 高圧ポンプ
4 膜分離装置
10 微細気泡生成装置
20 逆浸透膜モジュール
21 逆浸透膜エレメント
22 圧力容器
101 上流側の管路
110 アスピレータ
113 絞り部
120 気体供給部
121 給気路
122 均圧室
123 液通路
125 注気路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器内に濾過膜エレメントを装填してなる濾過膜モジュールに、塩類を含む原水を加圧状態で供給して濾過膜分離する膜分離装置において、
濾過膜モジュールにおける原水の入口部分に微細気泡生成装置が設けられたことを特徴とする膜分離装置。
【請求項2】
濾過膜が逆浸透膜であることを特徴とする請求項1に記載の膜分離装置。
【請求項3】
微細気泡生成装置は、ベンチュリ効果によって微細気泡を生成するアスピレータと、該アスピレータに加圧状態の気体を供給する気体供給部とを具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の膜分離装置。
【請求項4】
アスピレータ及び気体供給部は、圧力容器内に濾過膜モジュールと一体的に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の膜分離装置。
【請求項5】
アスピレータは略筒状をなし、その軸方向における一端部が原水を供給する上流側の管路に、他端部が濾過膜モジュールの入口部分にそれぞれ接続され、筒内の上流側半部と下流側半部との間に絞り部が形成されてなり、
気体供給部は上記アスピレータに接続される均圧室を具備し、該均圧室は、加圧された気体を均圧室内に供給する給気路と、上記アスピレータの上流側半部内に連通する液通路とを有し、上記給気路を通じて均圧室内に供給される気体と上記液通路を通じて均圧室内に流入する原水とが均圧室内でアスピレータの上流側半部内と略同圧の気相部及び液相部を形成するように構成され、上記気相部の気体が、アスピレータに接続された注気路を通じてアスピレータ内に注入されることにより、アスピレータ内の原水中に微細気泡を生成させることを特徴とする請求項3又は4に記載の膜分離装置。
【請求項6】
塩類を含む原水を加圧して請求項1〜5のいずれか一つに記載の膜分離装置に供給することにより、濾過膜モジュールの入口部分にて原水中に微細気泡を生成させ、上記加圧条件と同等乃至それ以下の操作圧で原水を濾過膜分離する脱塩処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−148673(P2009−148673A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327638(P2007−327638)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】