説明

膜濾過方法

【課題】 透過水量および透過水の水質を維持することができる膜濾過方法を実現することである。
【解決手段】 逆浸透膜またはナノ濾過膜を有する濾過膜モジュール4に溶存塩類を含む給水をポンプ7により流入させ、透過水および濃縮水に分離するとともに、濃縮水を排出させる膜濾過方法であって、目標とする透過水量が得られるように、ポンプ7の回転数を制御するとともに、給水および/または透過水の電気伝導度に基づいて、回収率を調節することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、逆浸透膜またはナノ濾過膜を有する濾過膜モジュールに溶存塩類を含む給水をポンプにより流入させ、透過水および濃縮水に分離するとともに、濃縮水を排出させる膜濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器への給水の水処理システムとして、給水中に含まれる不純物,たとえば溶存塩類を濾過する濾過膜部を有する膜濾過システムがある(たとえば、特許文献1参照。)。この膜濾過システムでは、前記濾過膜部の一側から給水が流入し、この給水中に含まれる不純物が捕捉される。そして、前記濾過膜部の他側から流出した透過水が前記機器へ供給される。
【0003】
ところで、前記濾過膜部の他側からは、透過水の他に濃縮水が流出する。前記膜濾過システムにおいては、水の有効利用を図るため、濃縮水の一部のみを排水し、残部を前記濾過膜部の上流側へ還流させる構成(クロスフロー濾過)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−220480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、前記構成の膜濾過システム方法では、給水中に含まれる不純物の濃度により、透過水の水質が影響を受ける。また、前記濾過膜の表面付近において、不純物が過度に濃縮されると、ファウリングやスケーリングといった現象による濾過膜の詰まりが発生する。ここで、ファウリングとは、水中の懸濁物質,コロイド,有機物などが膜面に沈着または吸着する現象を云い、スケーリングとは、水中に溶解している溶存塩類が溶解度以上に濃縮されることによって、膜面に析出して沈着する現象を云う。さらに、前記濾過膜は、長期間使用していると、給水中に含まれる酸化性物質(たとえば、殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウムなど)により、前記濾過膜を形成する高分子が次第に酸化分解を受け、経時的に前記濾過膜の劣化が発生する場合がある。クロスフロー濾過を行うようになっている前記膜濾過システムでは、前記濾過膜の表面付近において、次第に酸化性物質の濃度が高くなり、前記濾過膜の劣化が進みやすい。この劣化は、通常、前記濾過膜が有する細孔を拡大する側へ作用するため、不純物を阻止しにくくなる。
【0006】
前記濾過膜部への給水中に含まれる不純物の濃度が増加し、前記濾過膜の表面付近において、不純物の濃縮度合が高くなると、透過水中へリークする不純物が多くなり、透過水の水質悪化を生じる。したがって、前記膜濾過方法においては、濃縮水の排水量を前記濾過膜の表面付近で必要以上の濃縮が生じない量に設定することにより、不純物の除去率を所定の範囲に維持し、透過水の水質悪化を抑制する必要がある。また、前記濾過膜部における濾過膜の詰まりが発生すると、水の透過流束が低下するため、透過水量の低下を生じる。したがって、前記膜濾過システムにおいては、濃縮水の排水量を前記濾過膜の表面付近で過度の濃縮が生じない量に設定することにより、ファウリングやスケーリングを防止し、透過水量の低下を抑制する必要がある。さらに、前記濾過膜部における濾過膜の劣化が発生すると、不純物を阻止しにくくなるため、給水側の不純物の濃度が増加した場合、透過水中へリークする不純物が多くなり、透過水の水質悪化を生じる。したがって、前記膜濾過方法においては、濃縮水の排水量を前記濾過膜の表面付近で必要以上の濃縮が生じ
ない量に設定することにより、不純物の除去率を所定の範囲に維持し、透過水の水質悪化を抑制する必要がある。
【0007】
しかし、前記濾過膜部への給水,とくに地下水を原水とする給水の水質や水温は、地域的な要因,季節的な要因,前記濾過膜部への給水の水処理状態の要因などによって変動する。また、たとえばシリカや硬度成分など、給水中に含まれる溶存塩類の溶解度は、水質や水温によって変化する。したがって、従来の膜濾過システムでは、給水の水質によらず、透過水を所定の水質に維持し、またファウリングやスケーリングを防止し、さらに不純物の除去率を所定の範囲に維持するため、水質や水温が最悪の条件を想定して、濃縮水の排水量を設定していた。このため、排水量が多くなり、水の有効利用を図りにくいという問題があった。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、透過水量および透過水の水質を維持することができる膜濾過方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、逆浸透膜またはナノ濾過膜を有する濾過膜モジュールに溶存塩類を含む給水をポンプにより流入させ、透過水および濃縮水に分離するとともに、濃縮水を排出させる膜濾過方法であって、目標とする透過水量が得られるように、ポンプの回転数を制御するとともに、給水および/または透過水の電気伝導度に基づいて、回収率を調節することを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の発明では、ポンプの回転数の制御により目標とする透過水量が得られるとともに、給水および/または透過水の電気伝導度に基づいて、回収率を調節して、透過水量および透過水の水質が維持される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、給水または透過水の電気伝導度が増加したとき、濃縮水の排水量を増加させる一方で、給水または透過水の電気伝導度が減少したとき、濃縮水の排水量を減少させることを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明では、給水または透過水の電気伝導度の増減に基づき、濃縮水の排水量を増減し、回収率を調整して、透過水の水質が維持される。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1において、給水および透過水の電気伝導度から透過水の溶存塩類の残存率を求め、溶存塩類の残存率に応じて濃縮水の排水量を増加または減少させることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明では、給水および透過水の電気伝導度から透過水の溶存塩類の残存率を求め、溶存塩類の残存率に応じて濃縮水の排水量を増加または減少し、回収率を調整して、透過水の水質が維持される。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、透過水量および透過水の水質を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第一実施例を実施するための膜濾過システムを示す概略的な説明図である。
【図2】この発明の第二実施例を実施するための膜濾過システムを示す概略的な説明図である。
【図3】第二実施例における制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】第二実施例における制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】第二実施例における制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明に係る膜濾過システムの運転方法を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
(第一実施形態)
まず、第一実施形態について説明する。第一実施形態の膜濾過システムの運転方法は、機器への給水ライン上に設けられた濾過膜部と、この濾過膜部からの濃縮水を排水するための排水ラインと前記濾過膜部の上流側の前記給水ラインとを接続する循環水ラインとを有する膜濾過システムにおいて実施される。
【0019】
前記濾過膜部は、濾過膜により、給水中に含まれる不純物を濾過するものである。前記濾過膜としては、逆浸透膜(RO膜)やナノ濾過膜(NF膜)などを挙げることができる。前記逆浸透膜は、分子量が数十程度のイオン類を濾別可能な液体分離膜である。また、前記ナノ濾過膜は、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度の物質)の透過を阻止することができる液体分離膜であり、濾過機能の点において、限外濾過膜(分子量が1,000〜300,000程度の物質を濾別可能な膜)と前記逆浸透膜との中間に位置する機能を有するものである。
【0020】
前記膜濾過システムにおいて、前記濾過膜部からの濃縮水は、一部が前記排水ラインから排水され、残部が前記循環水ラインを通って前記濾過膜部の上流側へ還流される。すなわち、前記膜濾過システムでは、クロスフロー濾過を行うようになっている。
【0021】
前記膜濾過システムでは、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のうちのいずれかの水温,もしくは前記濾過膜部への給水の水質に基づいて、前記排水ラインからの濃縮水の排水量を調節する。たとえば、給水,透過水および濃縮水のうちのいずれかの水温が変化したときには、その水温における各種不純物の溶解度以上の濃縮が起きない範囲で濃縮水の排水量を増減し、前記濾過膜の詰まりを防止することにより、所定の透過水量を確保するとともに、前記濾過膜の表面付近における不純物濃度を低下させることにより、透過水の水質を所定範囲に維持する。また、たとえば給水の水質が悪化したときには、不純物の除去率を低下させないように、濃縮水の排水量を増加し、前記濾過膜の詰まりを防止することにより、所定の透過水量を確保するとともに、前記濾過膜の表面付近における不純物濃度を低下させることにより、透過水の水質を所定範囲に維持する。逆に、透過水の水質がよくなったときには、不純物の除去率は低下しにくいので、濃縮水の排水量を減少し、水の有効利用を図るようにする。ここで、給水の水質としては、前記濾過膜の詰まりの原因となりやすい硬度分,シリカ,懸濁物質などの濃度を挙げることができ、また水質を総合的に把握できる電気伝導度を挙げることができる。
【0022】
以上のように、第一実施形態の膜濾過システムの運転方法によれば、透過水量の低下や透過水の水質悪化を防止することができるとともに、必要量以上の濃縮水の排水を防止することができる。この結果、膜濾過システムを長期間安定して使用しながら、節水を図ることができる。
【0023】
(第二実施形態)
つぎに、第二実施形態について説明する。第二実施形態の膜濾過システムの運転方法は、前記第一実施形態と同様、機器への給水ライン上に設けられた濾過膜部と、この濾過膜
部からの濃縮水を排水するための排水ラインと前記濾過膜部の上流側の前記給水ラインとを接続する循環水ラインとを有する膜濾過システムにおいて実施される。この膜濾過システムの構成については、前記第一実施形態の説明を援用してその説明を省略する。
【0024】
第二実施形態に係る膜濾過システムでは、前記濾過膜部における濾過膜の詰まり状態または濾過膜の劣化状態に基づいて、前記排水ラインからの濃縮水の排水量を調節する。ここで、前記濾過膜の詰まり状態または劣化状態は、たとえば運転初期における透過水の流束(以下、「透過流束」と云う。)と、所定時間運転後における透過流束とを比較することで判断する。また、前記濾過膜の詰まり状態または劣化状態は、たとえば運転初期における前記濾過膜部の給水側と透過水側の圧力差と、所定時間運転後における前記濾過膜部の給水側と透過水側の圧力差とを比較することで判断する。そして、前記濾過膜の詰まりや劣化が発生したと判断したときには、濃縮水の排水量を増加し、前記濾過膜の詰まりや劣化の進行を抑制することによって、所定の透過水量を確保するとともに、透過水の水質を所定範囲に維持する。
【0025】
また、前記濾過膜の劣化状態は、たとえば透過水の水質を監視し、不純物の残存量から判断することもできる。さらに、前記濾過膜の劣化状態は、たとえば給水の水質と、透過水の水質とを比較して、不純物の残存率を求めることで判断することもできる。そして、前記濾過膜の劣化が発生したと判断したときには、不純物の除去率を低下させないように、濃縮水の排水量を増加し、前記濾過膜の表面付近における不純物濃度や前記濾過膜を劣化させる酸化性物質濃度を低下させることにより、透過水の水質を所定範囲に維持し、また前記濾過膜の劣化の進行を抑制する。ここで、給水および透過水の水質としては、水質を総合的に把握できる電気伝導度を挙げ、また前記濾過膜の劣化の原因となりやすい残留塩素の濃度(酸化性物質濃度)を挙げることができる。
【0026】
以上のように、第二実施形態の膜濾過システムの運転方法によれば、透過水量や透過水の水質を維持することができる。この結果、膜濾過システムを長期間安定して使用することができる。
【実施例】
【0027】
(第一実施例)
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。まず、この発明の第一実施例について説明する。図1は、この発明の第一実施例を実施するための膜濾過システムを示す概略的な説明図である。
【0028】
図1において、膜濾過システム1は、水道水,工業用水,地下水などが貯留されている原水タンク(図示省略)から供給される原水の水処理を行い、この水をボイラ2へ給水として供給するものである。この膜濾過システム1は、前記ボイラ2への給水ライン3を備え、さらにこの給水ライン3と接続された濾過膜部4および脱気膜部5を上流側からこの順で備えている。また、前記膜濾過システム1は、給水を貯留する給水タンク6と、前記濾過膜部4の上流側に設けられ、給水を前記濾過膜部4へ供給するポンプ7とを有している。
【0029】
ここで、前記濾過膜部4は、ナノ濾過膜を備えて構成されている。このナノ濾過膜は、ポリアミド系,ポリエーテル系などの合成高分子膜であり、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度の物質)の透過を阻止することができる液体分離膜である。前記ナノ濾過膜は、通常、濾過膜モジュールとして構成されている。この濾過膜モジュールの形態には、スパイラルモジュール,中空糸モジュール,平膜モジュールなどがある。
【0030】
さらに、前記膜濾過システム1は、バルーンA,A′,A″のうち、いずれかの位置に接続されている温度センサ8,8′,8″およびバルーンBの位置に接続された水質センサ9とを有している。この水質センサ9は、前記濾過膜部4への給水の水質情報を得るための測定機器であって、具体的には、給水の電気伝導度を測定する電気伝導度センサ,給水に含まれる硬度分の濃度を測定する硬度センサ,給水に含まれるシリカの濃度を測定するシリカセンサ,給水に含まれる懸濁物質の濃度を測定する濁度センサなどから選ばれた1種類以上のセンサである。さらに、前記膜濾過システム1は、前記温度センサ8,8′,8″および前記水質センサ9の検出値に基づいて、後述する各排水弁を開閉する制御部10を有している。
【0031】
ここで、前記硬度センサまたは前記シリカセンサには、たとえば色素を含む試薬を添加したときの発色により、硬度分またはシリカの濃度を検出する比色式センサなどが用いられる。この比色式センサは、試料水を所定量収容した透明容器へ試薬を添加し、色素の反応による試料水の色相変化を特定波長の光を照射したときの吸光度から測定する。そして、吸光度に基づいて、試料水中の硬度分やシリカの濃度を判定する。また、前記濁度センサには、たとえば試料水の濁り度合を透過光強度から判定する透過光式センサや、散乱光強度から判定する散乱光式光センサが用いられる。
【0032】
さて、前記濾過膜部4の一側へは、前記ポンプ7から送り出された給水が流入するようになっている。前記濾過膜部4内へ流入した給水は、前記ナノ濾過膜により、腐食促進成分が捕捉されるとともに、腐食抑制成分が透過されるようになっている。
【0033】
ここで、腐食促進成分および腐食抑制成分について説明する。まず、腐食促進成分とは、前記ボイラ2が貫流ボイラである場合、かかる貫流ボイラにおける非不動態化金属よりなる複数の伝熱管(図示省略)の腐食が発生しやすい部位,とくに内側に水分(ここでは、ボイラ水)が接触し,かつ外側から加熱される前記伝熱管の内面に作用してその腐食を促進するものを云い、通常、硫酸イオン,塩化物イオンおよびその他の成分を含んでいる。ちなみに、腐食促進成分として重要なものは、硫酸イオンおよび塩化物イオンの両者である。ところで、JIS B8223:1999は、前記貫流ボイラを含む特殊循環ボイラの腐食を抑制する観点から、これらのボイラにおけるボイラ水の水質に関する各種の管理項目および推奨基準を規定している。この規定では、ボイラ水の塩化物イオン濃度についての基準値を設けている。一方、ボイラ水の硫酸イオン濃度には言及されていないが、本願出願人においては、ボイラ水に含まれる硫酸イオンが、腐食促進成分として前記伝熱管などに作用していることを確認している。
【0034】
つぎに、腐食抑制成分とは、前記ボイラ2の前記伝熱管の腐食が発生しやすい部位,とくに内側に水分(ここでは、ボイラ水)が接触し,かつ外側から加熱される前記伝熱管の内面に作用し、その腐食を抑制可能なものを云い、通常、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素)を含んでいる。ところで、給水に含まれるシリカは、一般に、前記伝熱管におけるスケール生成成分と認識されており、可能な限りその濃度を抑制することが好ましいと考えられている。しかしながら、本願出願人においては、ボイラ水に含まれるシリカが腐食抑制成分として前記伝熱管などに作用していることを確認している。ここで、シリカは、給水として用いる水道水,工業用水,地下水などにおいて、通常、含有されている成分である。
【0035】
前記濾過膜部4の他側からは、腐食抑制成分を多く含む透過水と腐食促進成分を多く含む濃縮水とがそれぞれ分離されて流出するようになっている。そして、透過水は、前記給水ライン3を流れて前記給水タンク6内に貯留されるようになっている。一方、濃縮水は、その一部が排水ライン11から排水されるとともに、残部が前記排水ライン11と前記ポンプ7の上流側の前記給水ライン3とを接続する循環水ライン12を流れて前記ポンプ
7の上流側へ還流されるようになっている。
【0036】
前記排水ライン11は、前記循環水ライン12の接続箇所よりも下流側が、第一排水ライン13,第二排水ライン14および第三排水ライン15に分岐している。そして、これらの各排水ライン13,14,15には、それぞれ第一排水弁16,第二排水弁17および第三排水弁18が設けられている。
【0037】
ここで、前記各排水弁16,17,18は、それぞれ定流量弁機構(図示省略)を備えている。この定流量弁機構は、前記各排水弁16,17,18において、それぞれ異なる流量値に設定されている。前記各排水弁16,17,18からの排水量は、たとえばつぎのように設定される。すなわち、前記第一排水弁16のみを開状態にしたときの排水量は、回収率が95%となるように設定され、また前記第二排水弁17のみを開状態にしたときの排水量は、回収率が90%となるように設定され、さらに前記第三排水弁18のみを開状態にしたときの排水量は、回収率が80%となるように設定される。ここで、回収率とは、前記濾過膜部4からの透過水量と系外への排水量との和に対する透過水量の割合のことを云う。また、以下では、排水量を透過水量と排水量との和に対する排水量の割合で述べる。たとえば、前記第一排水弁16のみを開状態にしたときの排水量,すなわち回収率が95%のときの排水量を5%排水と云い、また前記第二排水弁17のみを開状態にしたときの排水量,すなわち回収率が90%のときの排水量を10%排水と云い、さらに前記第三排水弁18のみを開状態にしたときの排水量,すなわち回収率が80%のときの排水量を20%排水と云う。
【0038】
前記脱気膜部5は、気体透過膜を多数備えた気体透過膜モジュール(図示省略)と、給水中の溶存気体,具体的には溶存酸素を前記気体透過膜モジュールを通して真空吸引する水封式真空ポンプ(図示省略)とを備えている。
【0039】
前記制御部10には、信号線19,19,…を介して前記ポンプ7および前記各排水弁16,17,18が接続されており、また信号線や通信線(図示省略)を介して前記温度センサ8,8′,8″および前記水質センサ9が接続されている。そして、前記制御部10は、前記温度センサ8,8′,8″および前記電気伝導度センサ9の検出値に基づいて、前記各排水弁16,17,18を開閉制御し、また前記温度センサ8の検出値に基づいて、常に目標とする透過水量が得られるように、前記ポンプ7の回転数を制御する。
【0040】
つぎに、前記膜濾過システム1の運転方法について説明する。前記膜濾過システム1では、前記ポンプ7により、前記濾過膜部4へ給水を供給し、前記ナノ濾過膜(図示省略)で腐食促進成分を濾過する。前記ナノ濾過膜で濾過した後の透過水には、腐食抑制成分が含まれている。つぎに、この腐食抑制成分が含まれている透過水中の溶存酸素を前記脱気膜部5で脱気し、この水を前記ボイラ2へ供給する給水として前記給水タンク6内に貯留する。
【0041】
前記濾過膜部4からの濃縮水は、一部を前記排水ライン11から排水し、残部を前記循環水ライン12を介して前記ポンプ7の上流側へ還流させる。そして、前記制御部10は、前記温度センサ8,8′,8″および前記水質センサ9の検出値に基づいて、前記各排水弁16,17,18を開閉制御し、濃縮水の排水量を調節する。具体的には、前記温度センサ8,8′,8″の検出値が変化したときには、その水温における給水中の各種不純物(たとえば、炭酸カルシウムやシリカなど)の溶解度以上の濃縮が起きない範囲で濃縮水の排水量を増減し、前記ナノ濾過膜の詰まりを防止することにより、所定の透過水量を確保するとともに、前記ナノ濾過膜の表面付近における不純物濃度を低下させることにより、透過水の水質を所定範囲に維持する。また、前記水質センサ9により、たとえば硬度分,シリカ,懸濁物質などの濃度の増加が検知されたときには、不純物の除去率を低下さ
せないように濃縮水の排水量を増加し、前記ナノ濾過膜の詰まりを防止することにより、所定の透過水量を確保するとともに、前記ナノ濾過膜の表面付近における不純物濃度を低下させることにより、透過水の水質を所定範囲に維持する。逆に、前記水質センサ9により、たとえば硬度分,シリカ,懸濁物質などの濃度の減少が検出されたときには、不純物の除去率は低下しにくいので、濃縮水の排水量を減少し、水の有効効率を図るようにする。
【0042】
濃縮水の排水量は、前記各排水弁16,17,18をそれぞれ開閉することにより、段階的に調節することができる。たとえば、前記第二排水弁17のみを開状態とし、前記第一排水弁16および前記第三排水弁18を閉状態とすることにより、10%排水とすることができる(すなわち、回収率90%)。また、たとえば前記第一排水弁16および前記第二排水弁17を開状態とし、前記第三排水弁18のみを閉状態とすることにより、15%排水とすることができる(すなわち、回収率85%)。したがって、濃縮水の排水量は、前記各排水弁16,17,18の組合わせにより、5%排水から35%排水まで、5%毎に段階的に調節することができ、換言すれば、回収率は、65%から95%まで、5%毎に段階的に調節することができる。
【0043】
(第二実施例)
つぎに、この発明の第二実施例について説明する。図2は、この発明の第二実施例を実施するための膜濾過システムを示す概略的な説明図である。
【0044】
図2に示す第二実施例における膜濾過システム20の基本的な構成は、前記第一実施例における膜濾過システム1と同一であり、同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
前記濾過膜システム20は、バルーンA,A′,A″のうちいずれかの位置に接続されている前記温度センサ8,8′,8″およびバルーンB,B′,B″の位置に接続された複数の前記水質センサ9,9′,9″を有するとともに、バルーンCの位置に接続された流量センサ21と、バルーンD,D′,D″の位置に接続された複数の圧力センサ22,22′,22″を有している。前記温度センサ(8,8′,8″),前記各水質センサ(9,9,9″),前記流量センサ21および前記各圧力センサ(22,22′,22″)は、信号線や通信線(図示省略)を介して前記制御部10と接続されている。さらに、前記膜濾過システム20は、前記濾過膜部4における前記ナノ濾過膜(図示省略)の詰まりまたは劣化が生じたときの通報手段,たとえば報知用のランプやブザーなどを有している(図示省略)。
【0046】
前記膜濾過システム20の運転方法が、前記第一実施例の膜濾過システム1の運転方法と異なるのは、濃縮水の排水量の調節が、前記ナノ濾過膜の詰まり状態または劣化状態に基づいて行われる点である。以下、具体的に説明する。
【0047】
前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化を判断し、濃縮水の排水量を調節するため、図3に示すステップS1からステップS3までの処理を行う。すなわち、前記制御部10は、ステップS1において、前記温度センサ8,8′,8″の検出値,前記流量センサ21の検出値および前記各圧力センサ22,22′,22″の検出値に基づいて、運転中の透過水についての透過流束を求める演算を行い、ステップS2へ移行する。ステップS2では、前記制御部10は、ステップS1において求められた透過流束と、予め演算されて記憶された運転初期の透過流束とを比較し、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じたか否かを判断する。そして、運転初期の透過流束に対して許容値を超える開きが生じたときには、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じたと判断(ステップS2でYES)してステップS3へ移行する。ステップS3では、前記制御部10は、前記各
排水弁16,17,18を開閉制御して、濃縮水の排水量を増加し、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化の進行を抑制することによって、所定の透過水量を確保するとともに、透過水の水質を所定範囲に維持する。このとき、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じた旨を前記通報手段を介して通報してもよい。一方、ステップS2において、運転初期の透過流束に対して許容値を超える開きが生じていないときには、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じていないと判断(ステップS2でNO)して、再度ステップS1の処理を実行する。
【0048】
また、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化を判断し、濃縮水の排水量を調節するため、図3に示す処理に代わり、図4に示すステップS4からS6の処理を行ってもよい。すなわち、前記制御部10は、ステップS4において、前記圧力センサ22と前記圧力センサ22′の検出値に基づいて、または前記圧力センサ22と前記圧力センサ22″の検出値に基づいて、前記濾過膜部4の圧力差を求める演算を行い、ステップS5へ移行する。ステップS5では、前記制御部10は、ステップS4において求められた圧力差と、予め演算されて記憶された運転初期の圧力差とを比較し、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じたか否かを判断する。そして、運転初期の圧力差に対して許容値を超える開きが生じたときには、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じたと判断(ステップS5でYES)してステップS6へ移行する。ステップS6では、前記制御部10は、前記各排水弁16,17,18を開閉制御して、濃縮水の排水量を増加し、前記ナノ濾過膜の詰まりや劣化の進行を抑制することによって所定の透過水量を確保するとともに、透過水の水質を所定範囲に維持する。このとき、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じた旨を前記通報手段を介して通報してもよい。一方、ステップS5において、運転初期の圧力差に対して許容値を超える開きが生じていないときには、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じていないと判断(ステップS5でNO)して、再度ステップS4の処理を実行する。
【0049】
さらに、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の劣化を判断し、濃縮水の排水量を調節するため、図3および図4に示す処理に代わり、図5に示すステップS7からステップS9の処理を行ってもよい。すなわち、前記制御部10は、ステップS7において、前記水質センサ9と前記水質センサ9′(または水質センサ9″)の検出値に基づいて、または前記水質センサ9′単独の検出値に基づいて、透過水中の不純物の残存率または残存量を求める演算を行い、ステップ8へ移行する。ステップS8では、前記制御部10は、ステップS7において求められた不純物の残存率または残存量と、予め演算されて記憶された運転初期の不純物の残存率または残存量とを比較し、前記ナノ濾過膜の劣化が生じたか否かを判断する。そして、運転初期の不純物の残存率または残存量に対して許容値を超える開きが生じたと判断(ステップS8でYES)してステップS9へ移行する。ステップS9では、前記制御部10は、前記各排水弁16,17,18を開閉制御して濃縮水の排水量を増加し、前記ナノ濾過膜の劣化の進行を抑制することによって、所定の透過水量を確保するとともに透過水の水質を所定範囲に維持する。このとき、前記制御部10は、前記ナノ濾過膜の劣化が生じた旨を前記通報手段を介して通報してもよい。一方、運転初期の不純物の残存率または残存量に対して許容値を超える開きが生じていないときには、前記制御部10は、ステップS8において、前記ナノ濾過膜の詰まりまたは劣化が生じていないと判断(ステップS8でNO)して、再度ステップS7の処理を実行する。
【0050】
以上、この発明を第一実施例および第二実施例により説明したが、この発明は、前記各膜濾過システム1,20で実施される態様に限られないことはもちろんである。たとえば、前記各膜濾過システム1,20において、給水中の次亜塩素酸ナトリウムに由来する塩素剤などの酸化剤を活性炭などの吸着材によって除去するための酸化剤除去部や、給水中の硬度分をイオン交換樹脂などによって除去する軟水化処理部などが、この順で前記濾過膜部4の上流側に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,20 膜濾過システム
4 濾過膜部
7 ポンプ
9,9′,9″ 水質センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜またはナノ濾過膜を有する濾過膜モジュールに溶存塩類を含む給水をポンプにより流入させ、透過水および濃縮水に分離するとともに、濃縮水を排出させる膜濾過方法であって、
目標とする透過水量が得られるように、ポンプの回転数を制御するとともに、
給水および/または透過水の電気伝導度に基づいて、回収率を調節することを特徴とする膜濾過方法。
【請求項2】
給水または透過水の電気伝導度が増加したとき、濃縮水の排水量を増加させる一方で、給水または透過水の電気伝導度が減少したとき、濃縮水の排水量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の膜濾過方法。
【請求項3】
給水および透過水の電気伝導度から透過水の溶存塩類の残存率を求め、
溶存塩類の残存率に応じて濃縮水の排水量を増加または減少させることを特徴とする請求項1に記載の膜濾過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−120015(P2010−120015A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20851(P2010−20851)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【分割の表示】特願2005−133196(P2005−133196)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】