説明

膜電極接合体及び燃料電池

【課題】出力性能が改善された膜電極接合体及び燃料電池を提供しようとするものである。
【解決手段】カソード6と、アノード5と、前記カソード6及び前記アノード5の間に配置された電解質膜7とを具備する膜電極接合体1であって、前記アノード5は、前記電解質膜7と対向するアノード触媒層8と、アノード拡散層10と、前記アノード触媒層8及び前記アノード拡散層10の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層9とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及び燃料電池に関するもので、特に小型の液体燃料直接供給型燃料電池に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わって、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は、水素ガスを使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れている。
【0003】
DMFCでは、アノード(例えば燃料極)においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成する。一方、カソード(例えば空気極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成する。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる。
【0004】
DMFCにおいては、このような構成で発電を進めるために、メタノールを供給するポンプや空気を送り込むブロワが補器として備えられ、システムとして複雑な形態を成したDMFCが開発されてきた。そのため、この構造のDMFCでは、小型化を図ることは難しかった。
【0005】
そこで、メタノールをポンプで供給するのではなく、メタノール収容室と発電素子の間にメタノールの分子を通す膜を設け、メタノールを透過させる代わりに、メタノール収容室を発電素子の近傍まで近づけることで小型化が進められた。また、空気の取り入れについては、ブロワを用いず、発電素子に直接取り付けた吸気口を設置することで、小型DMFCが構築された(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような小型DMFCは、機構が簡略化された代わりに、温度などの外部環境要因の影響を受けた場合、発電素子に一定量のメタノールを送ることが難しくなっている。このため、出力を安定して高く発電することが困難となっていた。
【0006】
そこで、特許文献2には、メタノールの供給量を制御するために、燃料収容室部分と負極の間に多孔体を設置し、メタノール供給量を絞る技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、空孔をもつカーボン基体に触媒を染み込ませる触媒層が開示されており、かつ電解質膜に直接触媒を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−157462号公報
【特許文献2】特開2004−171844号公報
【特許文献3】米国特許公報US6,221,523B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、出力性能が改善された膜電極接合体及び燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る膜電極接合体は、カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置された電解質膜とを具備する膜電極接合体であって、
前記アノードは、前記電解質膜と対向するアノード触媒層と、アノード拡散層と、前記アノード触媒層及び前記アノード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層とを含むことを特徴とする。
【0010】
第2の発明に係る膜電極接合体は、カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置された電解質膜とを具備する膜電極接合体であって、
前記カソードは、前記電解質膜と対向するカソード触媒層と、カソード拡散層と、前記カソード触媒層及び前記カソード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層とを含むことを特徴とする。
【0011】
第3の発明に係る膜電極接合体は、カソード触媒層と、カソード拡散層と、前記カソード触媒層及び前記カソード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層とを含むカソードと、
アノード触媒層と、アノード拡散層と、前記アノード触媒層及び前記アノード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層とを含むアノードと、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に配置された電解質膜と
を具備することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る燃料電池は、第1〜第3のいずれかの発明に係る膜電極接合体を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出力性能が改善された膜電極接合体及び燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の発明の実施形態)
第1の発明の実施形態に係る膜電極接合体及び燃料電池は、アノードに透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層を用いることを特徴とする。アノード多孔質層は、アノード触媒層とアノード拡散層との間に配置することができる。
【0015】
透湿度を前記範囲に規定する理由を説明する。発電によりカソードに生成した水は、電解質膜を透過してアノード触媒層に供給される。透湿度が70000g/m2・24hr・atmを超えるアノード多孔質層では、アノード触媒層の電解質膜側とは反対側に配置されたアノードガス拡散層まで水が不要に透過してしまい、アノードガス拡散層の目詰まりなどを生じ、結果的にメタノール等の燃料の供給量が減少してしまうため、出力が上がらない。一方、透湿度が30000g/m2・24hr・atm未満であると、アノード多孔質層を気体の燃料が透過することが困難となり、やはり出力が上がらない。透湿度のより好ましい範囲は、45000〜65000g/m2・24hr・atmである。
【0016】
透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmのアノード多孔質層は、燃料電池が比較的低い温度(例えば45℃以下)で運転される場合の出力改善に特に有効である。発電によりカソードに生成した水は、電解質膜を透過してアノード触媒層に供給される。運転温度が低温であると、アノード触媒層内に保持された水の多くは液体の状態にある。
【0017】
上記透湿度を有するアノード多孔質層は、液体の水の透過を阻止することができるため、アノード拡散層の水による目詰まりを抑制することができる。また、上記透湿度を有するアノード多孔質層は、燃料(気化燃料)の透過を妨げるものではなく、さらにアノード多孔質層の目詰まりが抑えられたことから、アノード触媒層への燃料供給量の変動を小さくすることができる。これにより、燃料電池が比較的低い温度で運転される場合の出力性能を改善することが可能となる。
【0018】
また、燃料としてメタノールのような液体燃料を使用する場合には、アノード多孔質層に保持された水も燃料の希釈に利用されるため、燃料効率を良化することができる。
【0019】
アノード多孔質層は、撥水性を有することが望ましい。これにより、アノード多孔質層に気体を透過させつつ、水の透過をさらに抑制することができる。アノード多孔質層が撥水性を有するためには、アノード多孔質層に撥水剤を含有させることが望ましい。撥水剤には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂等を挙げることができる。
【0020】
アノード多孔質層は、アノード触媒層とアノード拡散層間の電気抵抗を小さくするため、導電性物質を含有することが望ましい。導電性物質としては、例えば、炭素材料を挙げることができる。炭素材料には、ケッチェンブラック、プリンテックス、カーボンナノチューブなどが挙げられ、粒子(例えば、球状粒子、扁平状粒子)もしくは繊維の形態を有する炭素材料であれば特に限定されるものではない。特に、炭素材料の微粒子もしくは炭素材料のナノ繊維が好適である。
【0021】
アノード多孔質層の空隙率は、10〜30%の範囲にすることが望ましい。アノード多孔質層の空隙率を10%以上にすることによって、アノード多孔質層を燃料の気体が効率良く透過するため、燃料供給効率を向上することができる。また、空隙率を30%以下にすることによって、アノード多孔質層の構造的強度を高くすることができる。
【0022】
アノード多孔質層は、例えば、以下の(a)〜(c)に説明する方法で作製される。
【0023】
(a)基材としてのカーボンペーパーに、炭素材料と撥水剤と溶媒とを含むスラリーをスプレーコート法にて塗布し、乾燥もしくは焼成することにより、アノード多孔質層が得られる。また、カーボンペーパーの片面のみにスラリーを塗布し、乾燥もしくは焼成することによっても、アノード多孔質層が得られる。なお、カーボンペーパーには、撥水処理が施されていても、いなくても良い。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0024】
(b)カーボンペーパー以外の基材に上記スラリーをスプレーコート法にて塗布し、乾燥もしくは焼成した後、得られた層を基材から剥離することによっても、アノード多孔質層を作製することが可能である。
【0025】
上記(a)及び(b)の方法に示す通りに、アノード多孔質層には、カーボンペーパーを含むもの、あるいは含まないものを使用することができる。
【0026】
(c)スラリー中に撥水剤を添加する代わりに、撥水剤を含まないスラリーを用いてアノード多孔質層を作製した後、得られたアノード多孔質層を撥水剤の溶液に浸漬処理しても良い。
【0027】
アノード多孔質層の透湿度は、例えば、下記の(1)〜(5)の方法により30000〜70000g/m2・24hr・atmの範囲内に設定することができる。
【0028】
(1)アノード多孔質層が導電性物質として炭素材料を含む場合には、炭素材料のかさ密度や形状を選択することにより、透湿度を前述した範囲内に設定することができる。
【0029】
(2)アノード多孔質層が炭素材料及び撥水剤を含む場合には、炭素材料と撥水剤との比率を調整することにより、透湿度を前述した範囲内に設定することができる。炭素材料の量を増加させると透湿度を増加させることができ、撥水剤の量を増加させると透湿度を低くすることができる。
【0030】
(3)基材に塗布するスラリー量を調整することによって透湿度を前述した範囲内に設定することができる。塗布量を増やすと透湿度を低くすることができ、塗布量を減らすと透湿度を増加させることができる。
【0031】
(4)上記(a)〜(c)の方法における基材にスラリーを塗布する工程でノズルを使用する場合には、ノズル条件、例えばノズル種類、吐出圧、吐出量、吐出距離、吐出時間等を変更すると、スラリーの塗布により形成された膜の密度や膜の表面状態が変わるため、透湿度を前述した範囲内に設定することができる。一般に、膜の表面の平滑性を高めることにより透湿度を低くすることができ、表面粗さを大きくすることにより透湿度を増加させることができる。また、塗布膜の密度を低くすることにより、透湿度を増加させることができる。
【0032】
(5)上記(a)〜(c)の方法により得られた膜にプレスを施すと、物理的に膜の密度が高くなるため、膜の表面が滑らかになり、透湿度を低くすることができ、透湿度を前述した範囲内に設定することができる。
【0033】
アノード多孔質層の厚さは、300μm〜360μmの範囲にあることが望ましい。
【0034】
アノード多孔質層は、孔径が50nm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0035】
以下、第1の実施形態を図1〜図3を参照して説明する。
【0036】
図1に示す燃料電池は、膜電極接合体1と、この膜電極接合体1に燃料を供給する燃料分配機構2と、液体燃料を収容する燃料収容部3と、これら燃料分配機構2と燃料収容部3とを接続する流路4とから主として構成されている。
【0037】
膜電極接合体1は、図1及び図3に示すように、アノード(燃料極)5と、カソード(空気極)6と、燃料極5及び空気極6の間に配置されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜7とから構成される。燃料極5は、電解質膜7の一方の面と対向している燃料極触媒層8と、燃料極触媒層8に積層されたアノード多孔質層としての燃料極多孔質層9と、燃料極多孔質層9に積層された燃料極ガス拡散層10とを有する。
【0038】
燃料極多孔質層9は、図3に示すように、カーボンペーパーからなる導電性多孔質基材9aと、導電性多孔質基材9aの両面に形成された撥水性導電性多孔質層9bとを有する。燃料極多孔質層9は、例えば前述した(a)で説明した方法により作製され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmである。
【0039】
燃料極ガス拡散層10は、燃料極触媒層8に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、燃料極触媒層8の集電体も兼ねている。燃料極ガス拡散層10は、例えば、カーボンペーパーから形成される。カーボンペーパーには、撥水性を付与しても良いし、撥水性を付与しなくてもよい。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0040】
一方、空気極6は、電解質膜7の他方の面と対向している空気極触媒層11と、空気極触媒層11に積層された空気極ガス拡散層12とを有する。空気極ガス拡散層12は、空気極触媒層11に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、空気極触媒層11の集電体も兼ねている。空気極ガス拡散層12には、例えば、撥水処理の施されたカーボンペーパーを使用することができる。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0041】
燃料極触媒層8および空気極触媒層11に含有される触媒としては、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。具体的には、燃料極側の触媒として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなど、空気極側の触媒として、白金やPt−Niなどを用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒を使用してもよい。
【0042】
また、燃料極触媒層8、空気極触媒層11及び電解質膜7に含まれるプロトン伝導性材料としては、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(デュポン社製の商品名ナフィオン(登録商標)や旭硝子社製の商品名フレミオン(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸重合体等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、無機物(例えば、タングステン酸、リンタングステン酸、硝酸リチウムなど)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
燃料極ガス拡散層10及び空気極ガス拡散層12には、必要に応じて導電層13が積層される。これら導電層13としては、例えば、金、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などが用いられる。電解質膜7と燃料分配機構2およびカバープレート14との間には、それぞれゴム製のOリング15が介在されており、これらによって膜電極接合体(MEA)1からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0044】
図示を省略したが、カバープレート14は酸化剤である空気を取入れるための開口部を有している。カバープレート14とカソード6との間には、必要に応じて保湿層や表面層が配置される。保湿層は空気極触媒層11で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制すると共に、空気極触媒層11への空気の均一拡散を促進するものである。表面層は空気の取入れ量を調整するものであり、空気の取入れ量に応じて個数や大きさ等が調整された複数の空気導入口を有している。このようなカバープレート14を備えることにより、酸化剤を供給するためのブロワを用いることなく、酸化剤をカソード6に自然供給することができる。なお、酸化剤は、空気に限定されるものではなく、O2を含むガスを使用可能である。
【0045】
燃料収容部3には、膜電極接合体1に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部3には膜電極接合体1に応じた液体燃料が収容される。
【0046】
液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、複数の燃料排出口22を有する燃料分配機構2の特徴がより顕在化するのは燃料濃度が濃い場合である。このため、燃料電池は、濃度が80%以上のメタノール水溶液もしくは純メタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。
【0047】
膜電極接合体1のアノード(燃料極)5側には、燃料分配機構2が配置されている。燃料分配機構2は配管のような液体燃料の流路4を介して燃料収容部3と接続されている。燃料分配機構2には燃料収容部3から流路4を介して液体燃料が導入される。流路4は燃料分配機構2や燃料収容部3と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構2と燃料収容部3とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構2は流路4を介して燃料収容部3と接続されていればよい。
【0048】
液体燃料を燃料収容部3から燃料分配機構2まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部3から燃料分配機構2まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路4を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部3から燃料分配機構2まで送液することができる。さらに、燃料収容部3から燃料分配機構2への送液は、図1に示すように、ポンプ16で実施してもよい。あるいは、燃料分配機構2から膜電極接合体1への燃料供給が行われる構成であればポンプ16に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0049】
燃料分配機構2は、図2に示すように、液体燃料が流路4を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口21と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口22とを有する燃料分配板23を備えている。燃料分配板23の内部には図1に示すように、燃料注入口21から導かれた液体燃料の通路となる空隙部24が設けられている。複数の燃料排出口22は燃料通路として機能する空隙部24にそれぞれ直接接続されている。
【0050】
燃料注入口21から燃料分配機構2に導入された液体燃料は空隙部24に入り、この燃料通路として機能する空隙部24を介して複数の燃料排出口22にそれぞれ導かれる。複数の燃料排出口22には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、膜電極接合体1の燃料極5には液体燃料の気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構2と燃料極5との間に気液分離膜等として設置してもよい。液体燃料の気化成分は複数の燃料排出口22から燃料極5の複数個所に向けて排出される。
【0051】
燃料排出口22は膜電極接合体1の全体に燃料を供給することが可能なように、燃料分配板23の燃料極5と対向する面に複数設けられている。燃料排出口22の個数は2個以上であればよいが、膜電極接合体1の面内における燃料供給量を均一化する上で、0.1〜10個/cm2の燃料排出口22が存在するように形成することが好ましい。燃料排出口22の個数が0.1個/cm2未満であると、膜電極接合体1に対する燃料供給量を十分に均一化することができない。燃料排出口22の個数を10個/cm2を超えて形成しても、それ以上の効果が得られない。
【0052】
上述した燃料分配機構2に導入された液体燃料は空隙部24を介して複数の燃料排出口22に導かれる。燃料分配機構2の空隙部24はバッファとして機能するため、複数の燃料排出口22からそれぞれ規定濃度の燃料が排出される。そして、複数の燃料排出口22は膜電極接合体1の全面に燃料が供給されるように配置されているため、膜電極接合体1に対する燃料供給量を均一化することができる。
【0053】
燃料分配機構2から均一に放出された燃料は、燃料極ガス拡散層10及び燃料極多孔質層9を拡散して燃料極触媒層8に供給される。燃料としてメタノール燃料を使用する場合には、次の式(A)に示すメタノールの内部改質反応を生じさせる必要がある。
【0054】
CHOH+HO → CO+6H+6e …式(A)
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜7を伝導し、空気極触媒層11に到達する。空気極ガス拡散層12から供給される気体燃料(たとえば空気)は、空気極ガス拡散層12を拡散して、空気極触媒に供給される。空気極触媒に供給された空気は、次の式(B)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0055】
(3/2)O+6H+6e → 3HO …式(B)
発電反応により生じた水は、空気極6から電解質膜7を通して燃料極触媒層8に供給される。本実施形態においては、燃料極触媒層8と燃料極ガス拡散層10との間に、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmの燃料極多孔質層9が配置されている。この燃料極多孔質層9では、液体の水の透過が抑制されるため、燃料極多孔質層9と燃料極触媒層8との間に水が溜まり、燃料極ガス拡散層10内に取り込まれる水の量を少なくすることができる。その結果、燃料極ガス拡散層10の水による目詰まりを少なくすることができるため、燃料極ガス拡散層10からの燃料供給が阻害されない。
【0056】
また、燃料が純メタノールである場合には、燃料極多孔質層9と燃料極触媒層8との間に溜まった水が燃料との混合に使用されるため、メタノールが均一に希釈され、燃料効率が良化すると共に、前述した(A)の内部改質反応の反応抵抗を小さくすることができる。その結果、燃料極側の発電効率が増加し、燃料電池の出力性能を向上することができると共に、長期間に亘って一定の出力を保つことができる。特に、第1の実施形態によると、低温側での出力性能が大幅に改善される。
【0057】
(第2の発明の実施形態)
第2の発明の実施形態に係る膜電極接合体及び燃料電池は、カソードに透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層を用いることを特徴とする。カソード多孔質層は、カソード触媒層とカソード拡散層との間に配置することができる。
【0058】
透湿度を前記範囲に規定する理由を説明する。透湿度を70000g/m2・24hr・atmを超えるカソード多孔質層では、液体の水の透過が容易であるため、出力が上がらない。一方、透湿度が30000g/m2・24hr・atm未満のカソード多孔質層では、気体の透過が困難となり、やはり出力が上がらない。透湿度のより好ましい範囲は、45000〜65000g/m2・24hr・atmである。
【0059】
透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層は、前述した(B)の反応によりカソード触媒層で生成した水の蒸発を抑えるため、特に45℃以上の比較的高い温度で運転される場合にも、水の大部分を電解質膜を通してアノードに戻すことができる。その結果、上記式(A)に示す内部改質反応を生じさせるのに十分な量の水をアノードに供給することができるため、アノード側での反応が十分に行われ、結果として高出力が得られる。また、水がアノード側へ供給される量が多くなるため、メタノールクロスオーバー反応も抑制される。
【0060】
カソード多孔質層は、撥水性を有することが望ましい。これにより、カソード多孔質層に気体を透過させつつ、水の透過をさらに抑制することができる。カソード多孔質層に撥水性を付与するため、カソード多孔質層には撥水剤を含有させることが望ましい。撥水剤には、例えば、アノード多孔質層で説明したのと同様なものを挙げることができる。
【0061】
カソード多孔質層は、カソード触媒層とカソード拡散層との導通を良好にするため、導電性物質を含有することが望ましい。導電性物質としては、例えば、炭素材料を挙げることができる。炭素材料には、例えば、アノード多孔質層で説明したのと同様なものを挙げることができる。
【0062】
カソード多孔質層の空隙率は、10〜30%の範囲にすることが望ましい。カソード多孔質層の空隙率を10%以上にすることによって、酸化剤ガスがカソード多孔質層を効率良く通過することが可能となる。また、カソード多孔質層の空隙に水を保持をすることができるため、カソード触媒層の表面上に水が溜まるのを防止することができる。さらに、空隙率を30%以下にすることによって、カソード多孔質層の構造的強度を高くすることができる。
【0063】
カソード多孔質層は、例えば、以下の(I)〜(III)に説明する方法で作製される。
【0064】
(I)基材としてのカーボンペーパーに、炭素材料と撥水剤とを含むスラリーをスプレーコート法にて塗布し、乾燥もしくは焼成することにより、カソード多孔質層が得られる。また、カーボンペーパーの片面のみにスラリーを塗布し、乾燥もしくは焼成することによっても、カソード多孔質層が得られる。なお、カーボンペーパーには、撥水処理が施されていても、いなくても良い。
【0065】
(II)カーボンペーパー以外の基材に上記スラリーをスプレーコート法にて塗布し、乾燥もしくは焼成した後、得られた層を基材から剥離することによっても、カソード多孔質層を作製することが可能である。
【0066】
上記(I)及び(II)の方法に示す通りに、カソード多孔質層には、カーボンペーパーを含むもの、あるいは含まないものを使用することができる。
【0067】
(III)スラリー中に撥水剤を添加する代わりに、撥水剤を含まないスラリーを用いてカソード多孔質層を作製した後、得られたカソード多孔質層を撥水剤の溶液に浸漬処理しても良い。
【0068】
カソード多孔質層の透湿度は、例えば、前述した(1)〜(5)の方法により調整することができる。
【0069】
カソード多孔質層の厚さは、300μm〜360μmの範囲にあることが望ましい。
【0070】
カソード多孔質層は、孔径が50nm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0071】
以下、第2の実施形態を図4を参照して説明する。なお、図4では、前述した図1〜図3で説明したのと同様な部材については同符号を付して説明を省略する。
【0072】
第2の実施形態で使用される膜電極接合体1では、図4に示すように、燃料極5においては、燃料極触媒層8に直接、燃料極ガス拡散層10が積層されている。一方、空気極6においては、空気極触媒層11と空気極ガス拡散層12との間に、空気極多孔質層(カソード多孔質層)17が配置されている。
【0073】
空気極多孔質層17は、例えば、カーボンペーパーからなる導電性多孔質基材17aと、導電性多孔質基材17aの両面に形成された撥水性導電性多孔質層17bとを有する。また、空気極多孔質層17は、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmである。
【0074】
上記構成の膜電極接合体1は、例えば、前述した図1〜図3に示す構造の燃料電池に使用することができる。前述した(B)の反応により空気極触媒層11で生成した水は、その蒸発が空気極多孔質層17で抑えられるため、特に45℃以上の比較的高い温度で運転される場合にも、水の大部分は、電解質膜7を通って燃料極5へ戻る。その結果、上記式(A)に示す内部改質反応を生じさせるのに十分な量の水を燃料極5に供給することができるため、燃料極側での反応が十分に行われ、結果として高出力が得られる。また、水が燃料極側へ供給される量が多くなるため、メタノールクロスオーバー反応も抑制される。
【0075】
(第3の発明の実施形態)
第3の発明の実施形態に係る膜電極接合体及び燃料電池は、アノードに透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層を用いると共に、カソードに透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層を用いることを特徴とする。
【0076】
第3の実施形態を図5を参照して説明する。なお、図5では、前述した図1〜図4で説明したのと同様な部材については同符号を付して説明を省略する。
【0077】
第3の実施形態で使用される膜電極接合体1では、図5に示すように、燃料極5においては、燃料極触媒層8と燃料極ガス拡散層10との間に燃料極多孔質層9が配置されている。一方、空気極6においては、空気極触媒層11と空気極ガス拡散層12との間に、空気極多孔質層17が配置されている。
【0078】
上記構成の膜電極接合体1は、例えば、前述した図1〜図3に示す構造の燃料電池に使用することができる。前述した(B)の反応により空気極触媒層11で生成した水は、その蒸発が空気極多孔質層17で抑えられるため、水の大部分は、電解質膜7を通って燃料極5へ戻る。その結果、上記式(A)に示す内部改質反応を生じさせるのに十分な量の水を燃料極5に供給することができるため、燃料極側での反応が十分に行われる。また、水が燃料極側へ供給される量が多くなるため、メタノールクロスオーバー反応も抑制される。
【0079】
さらに、燃料極側での反応に使用されなかった水は、燃料極多孔質層9内を透過せずに燃料極多孔質層9と燃料極触媒層8との間に溜まるため、燃料極ガス拡散層10からの燃料供給が阻害されない。また、燃料極多孔質層9と燃料極触媒層8との間に溜まった水は、燃料極ガス拡散層10からの燃料と混合されるため、燃料が均一に希釈され、燃料効率が良化する。
【0080】
これらの結果、広い運転温度範囲に亘って燃料電池の出力性能を向上することができる。
【0081】
カソード多孔質層及びアノード多孔質層のそれぞれの厚さは、300μm〜360μmの範囲にあることが望ましい。
【0082】
カソード多孔質層及びアノード多孔質層は、孔径が50nm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0083】
また、第3の実施形態では、アノード多孔質層の透湿度とカソード多孔質層の透湿度とを以下の(i)〜(iv)の範囲に特定することにより、要求される性能に応じた様々な燃料電池を実現することができる。
【0084】
(i)カソード多孔質層及びアノード多孔質層それぞれの透湿度を、45000〜70000g/m2・24hr・atmにする。透湿度が45000〜70000g/m2・24hr・atmのカソード多孔質層は、発電反応によりカソード触媒層中に生成した水の蒸発を抑えることができる。また、透湿度が45000〜70000g/m2・24hr・atmのアノード多孔質層は、アノード触媒層に保持された水の外部への拡散を抑制することができる。
【0085】
さらに、カソード多孔質層及びアノード多孔質層双方の透湿度が高い方側にあるため、水の拡散を抑える効果についてカソード側とアノード側とで差を少なくすることができる。
【0086】
従って、アノード触媒層の水保持量を安定化することができるため、燃料電池の出力の変動を少なくすることができる。特に、カソード多孔質層の外側に配置されるカソード拡散層と、アノード多孔質層の外側に配置されるアノード拡散層に、カーボンペーパーをそれぞれ使用する場合、各拡散層の透湿度は70000g/m2・24hr・atmよりも大きくなるため、上記カソード多孔質層及びアノード多孔質層により大幅な出力改善を期待できる。
【0087】
(ii)カソード多孔質層の透湿度を30000〜55000g/m2・24hr・atmにし、アノード多孔質層の透湿度を45000〜70000g/m2・24hr・atmの範囲内にし、かつアノード多孔質層の透湿度をカソード多孔質層の透湿度よりも大きくする。
【0088】
カソード多孔質層の透湿度を30000〜55000g/m2・24hr・atmにすることにより、カソード触媒層からの水の蒸発が抑制されると共に、カソード触媒層から電解質膜を拡散してアノード触媒層に水が供給される反応を促すことができる。
【0089】
また、アノード多孔質層の透湿度を45000〜70000g/m2・24hr・atmの範囲内にし、カソード多孔質層の透湿度よりも大きくすることによって、アノード多孔質層における燃料の拡散を促すことができる。
【0090】
従って、アノード触媒層への水及び燃料の供給が安定化するため、燃料電池において高出力を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0091】
(iii)カソード多孔質層及びアノード多孔質層それぞれの透湿度は、30000〜55000g/m2・24hr・atmである。
【0092】
カソード多孔質層の透湿度を30000〜55000g/m2・24hr・atmにすることにより、カソード触媒層からの水の蒸発が抑制されると共に、カソード触媒層から電解質膜を拡散してアノード触媒層に水が供給される反応を促すことができる。
【0093】
また、アノード多孔質層の透湿度を30000〜55000g/m2・24hr・atmにすることにより、アノード多孔質層を透過する燃料の気化を促すことができる。
【0094】
従って、アノード触媒層への水及び燃料の供給が安定化するため、燃料電池において高出力を長期間に亘って維持することが可能となる。さらに、アノード触媒層に供給される燃料の気化が促進されることから、運転環境温度の変動に対する出力の変動を小さくすることができる。
【0095】
(iv)カソード多孔質層の透湿度を45000〜70000g/m2・24hr・atmにし、アノード多孔質層の透湿度を30000〜55000g/m2・24hr・atmの範囲内にし、かつカソード多孔質層の前記透湿度よりも小さい値にする。
【0096】
カソード多孔質層の透湿度を45000〜70000g/m2・24hr・atmにすることにより、カソード触媒層への空気の取り込みを促すことができる。また、アノード多孔質層の透湿度を30000〜55000g/m2・24hr・atmの範囲内にし、かつカソード多孔質層の前記透湿度よりも小さい値にすることにより、アノード多孔質層を透過する燃料の気化を促すことができる。
【0097】
その結果、燃料電池への空気及び燃料の取り込みを促進することができるため、燃料電池の初期の出力性能を向上することができる。
【0098】
燃料極多孔質層9と空気極多孔質層17の透湿度の測定方法を説明する。
【0099】
まず、サンプルである膜電極接合体(MEA)1を固定する。具体的には、エポキシ樹脂の基材(BUEHLER社製 EPO-MIX EPOXIDE)にサンプル(MEA)を浸漬する。次いで、室温で6〜8時間放置することにより、エポキシ樹脂を硬化させる。これにより、サンプルの固定が終了する。
【0100】
固定処理の済んだサンプルを研磨機にて研磨し、評価面を出す(面を出す順番は、透湿度の大きい順にする)。なお、研磨条件は、紙やすりとして2,400番を使用すると共に、ディスク回転速度を150〜300RPMに設定するものである。
【0101】
次いで、測定サンプルの調整を行う。まず、直径がφ20 mm〜35 mmのAlテープの中心に直径がφ2 mmの孔を開ける。評価面を出したサンプルの大きさを直径がφ20 mm〜35 mmとなるように調整する。大きさを調整済みのサンプルの両面にAlテープを貼り付ける。この際、サンプルの中心の孔がAlテープの中心の孔と同じ位置になるように位置調整をする。
【0102】
上記位置調整の済んだサンプルについて、JIS K7126-2(制定年月日が2006/08/20)の規格に従い、GTRテック株式会社製の装置名がGTR-10XFTBの装置にて透湿度を測定する。
【0103】
次いで、燃料極多孔質層9と空気極多孔質層17の撥水度の測定方法を説明する。
【0104】
まず、膜電極接合体1の最外層表面(燃料極ガス拡散層10の表面)の撥水度を調べるため、水の接触角を以下に説明する方法で測定する。次に、膜電極接合体1の表面をマイクロスコープとマイクロメータで注意深く確認しながら住友3M製ポリッシングフィルム3M291Xで削り、接触角が増加し、変化が見られなくなったところの接触角を測定し、この値を燃料極多孔質層9の撥水度とする。空気極多孔質層17の撥水度を測定する際には、膜電極接合体1の最外層表面における空気極ガス拡散層12の表面の撥水度の測定から行う。
【0105】
水の接触角θは、図6に示すように、液滴DRと測定対象物X(ガス拡散層もしくは多孔質層)とが接触する点Pにおける液滴DRの表面カーブに対する接線Lと測定対象物Xの表面とが成す角である。
【0106】
この接触角θは以下のように測定する。最初に、図7に示すように、マイクロシリンジMで、純水の液滴DRを形成する。本実施形態の場合、液滴(水滴)DRは約0.5マイクロリットルである。
【0107】
次に、図8に示すように、液滴DRの底を測定対象物Xに付ける。そして、マイクロシリンジMを測定対象物Xから離すと、測定対象物Xの表面に図9に示すように液滴DRが付着する。この状態で、3000ms後に、液滴DRの高さhと、液滴DRの半径rを測定する。ここで、液滴DRの高さhとは、測定対象物Xの界面と液滴DRの頂点との距離である。
【0108】
接触角θは、図6に示すθ1(=arctan(r/h))の2倍に等しいことから、測定された水滴DRの高さhおよび半径rから、下記の式(A)を用いて接触角θの値が算出される。
【0109】
θ=2×{arctan(r/h)} 式(A)
上記のように算出された接触角θは、その値が大きいほど、測定対象物の撥水度が高いことを示し、その値が小さいほど測定対象物の撥水度が低いことを示している。
【0110】
本発明に適用可能な燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分をアノードに供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、前述した図1〜図2に示すセミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAのアノードへ供給する一方、カソードに対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAのアノードに気化したメタノールを自然供給で送り、一方カソードに対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池では、燃料を循環させないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【0111】
[実施例]
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0112】
(実施例1)
燃料極のアノード多孔質層及び空気極のカソード多孔質層を、以下に説明する方法で作製した。
【0113】
炭素材料としてのグラファイト粒子(VALCAN)を下記表1に示す値と60%のPTFE溶液とを混合して固形分量が約10%のスラリーを作製した。得られたスラリーを、気孔率が75%のカーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−030)の両面にスプレーコート法により塗布、常温で自然乾燥した後に340℃で1時間焼成し、撥水性を持たせた超微多孔質層(以後、撥水MPLと称す)を形成した。
【0114】
グラファイト粒子の量を下記表1に示すように変更することによって、撥水MPLの透湿度の値を下記表1に示すように設定した。なお、透湿度は前述の方法により測定し、また、スラリーが塗布される基材(カーボンペーパー)そのものの透湿度は140000g/m2・24hr・atmであった。
【0115】
<燃料極ガス拡散層の作製>
まず、カーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−120)を平板プレスにて厚さ方向に厚さが1/2になるまで圧縮した。なお、このカーボンペーパーの圧縮前の気孔率は、アルキメデス法を用いて測定したところ75%であった。また、このカーボンペーパーの圧縮後の気孔率は、外形寸法と重量測定により計算した結果、40.5%であった。このカーボンペーパーを燃料極ガス拡散層として用いた。燃料極ガス拡散層の透湿度を測定したところ、140000g/m2・24hr・atmであった。
【0116】
<燃料極触媒層の作製>
白金ルテニウム合金微粒子を担持したカーボン粒子とナフィオン溶液DE2020(デュポン社製)と溶媒をホモジナイザで混合して約15%固形分のスラリーを作製し、これを基材の一方の面にダイコーターを用いて塗布した。そしてこれを常温乾燥して、基材から剥離し、燃料極触媒層を形成した。
【0117】
<空気極ガス拡散層の作製>
空気極ガス拡散層として、気孔率が75%のカーボンペーパー(東レ(株)製TGP-090)を用意した。空気極ガス拡散層の透湿度を測定したところ、140000g/m2・24hr・atmであった。
【0118】
<空気極触媒層の作製>
白金微粒子を担持したカーボン粒子とナフィオン溶液DE2020(デュポン社製)と溶媒とをホモジナイザで混合して約15%固形分のスラリーを作製した。得られたスラリーを、基材の一方の面にダイコーターを用いて塗布した。そしてこれを常温乾燥して、基材から剥離し、空気極触媒層を形成した。
【0119】
<膜電極接合体(MEA)の作製>
電解質膜として、固体電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)を用い、最初にこの電解質膜と空気極触媒層を重ね合わせ、さらに空気極触媒層に撥水MPLを重ね、さらに空気極ガス拡散層を重ね合わせ、温度が135℃、圧力が40kgf/cm2の条件でプレスした。続いて、電解質膜の空気極を重ね合わせたのと逆の面に燃料極触媒層を重ね、さらに燃料極触媒層に撥水MPLと燃料極ガス拡散層とを重ね合わせ、温度が135℃、圧力が10kgf/cm2の条件でプレスし、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、電極面積は、空気極、燃料極ともに12cm2とした。
【0120】
<燃料電池の組み立て>
続いて、この膜電極接合体を、空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み、燃料極導電層および空気極導電層を形成した。
【0121】
上記の膜電極接合体(MEA)、燃料極導電層、空気極導電層が積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、膜電極接合体の空気極側と一方のフレームとの間、膜電極接合体の燃料極側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0122】
また、燃料極側のフレームは、気液分離膜を介して、液体燃料収容室にネジ止めによって固定した。気液分離膜には、厚さ0.2mmのシリコーンシートを使用した。一方、空気極側のフレーム上には、気孔率が28%の多孔質板を配置し、保湿層を形成した。この保湿層上には、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置して表面カバー層を形成し、ネジ止めによって固定した。
【0123】
上記したように形成された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノールを15ml注入し、温度30℃、相対湿度50%の環境で、出力の最大値(最大出力)を電流値と電圧値から測定した。上記測定を100回連続で行い、91〜100回分の最大出力の平均値を算出し、その結果を下記表1に示す。
【0124】
(比較例)
空気極にカソード多孔質層を用いず、かつ燃料極にもアノード多孔質層を用いないこと以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を製造し、前述したのと同様な条件で最大出力の平均値を算出したところ、20.3mWであった。
【表1】

【0125】
表1から明らかなように、アノード多孔質層もしくはカソード多孔質層を備える燃料電池は、前述した比較例の燃料電池に比して最大出力が高いことがわかる。カソード多孔質層の透湿度を一定にしてアノード多孔質層の透湿度を比較することによって、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmの範囲内で最大出力が高くなることがわかる。一方、アノード多孔質層の透湿度を一定にしてカソード多孔質層の透湿度を比較しても、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmの範囲内で最大出力が高くなることがわかる。
【0126】
特に、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層及び透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層を備えた燃料電池の最大出力が最も大きくなった。
【0127】
(実施例2〜6)
空気極のカソード多孔質層を用いず、かつ燃料極のアノード多孔質層の空隙率及び透湿度を下記表2に示すように変更した以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を製造した。
【0128】
上記のように形成された燃料電池の液体燃料収容室に、最初に純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で0.3V定電圧測定を実施した。出力が20mW/cm2以下になると純メタノールを2mL供給するようにして、初期出力と2000時間後の出力を測定した。その結果を下記表2に示す。
【表2】

【0129】
表2から明らかな通りに、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層では、空隙率が10〜30%の実施例2〜4の燃料電池の初期出力と2000時間後の出力が、空隙率が前記範囲から外れる実施例5,6に比して高い。
【0130】
(実施例7〜11)
燃料極のアノード多孔質層を用いず、かつ空気極のカソード多孔質層の空隙率及び透湿度を下記表3に示すように変更した以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を製造した。
【0131】
上記のように形成された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノールを5ml注入し、温度25℃、相対湿度50%の環境で0.3V定電圧測定を実施した。出力が20mW/cm2以下になると純メタノールを2mL供給するようにして、初期出力と2000時間後の出力を測定した。その結果を下記表3に示す。
【表3】

【0132】
表3から明らかな通りに、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層では、空隙率が10〜30%の実施例7〜9の燃料電池の初期出力と2000時間後の出力が、空隙率が前記範囲から外れる実施例10,11に比して高い。
【0133】
上記実施の形態ではパッシブ型DMFCを例に説明を行ったが、パッシブ型に限らず反応によって生成した水を燃料極側で利用する構造のものであれば、何らその燃料電池の方式について限定されるものではない。
【0134】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。また、アクティブ型燃料電池及びセミパッシブ型の燃料電池においても、上記した説明と同様の作用効果が得られる。MEAへ供給される液体燃料の蒸気においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池を示す内部透視断面図。
【図2】図1の燃料電池の燃料分配機構を示す斜視図。
【図3】図1の燃料電池の膜電極接合体の拡大断面図。
【図4】第2の実施形態に係る燃料電池に用いる膜電極接合体の拡大断面図。
【図5】第3の実施形態に係る燃料電池に用いる膜電極接合体の拡大断面図。
【図6】本実施形態に係る燃料電池に用いる多孔質層の表面の接触角を測定する方法を説明するための模式図。
【図7】本実施形態に係る燃料電池に用いる多孔質層の表面の接触角を測定する方法を説明するための模式図。
【図8】本実施形態に係る燃料電池に用いる多孔質層の表面の接触角を測定する方法を説明するための模式図。
【図9】本実施形態に係る燃料電池に用いる多孔質層の表面の接触角を測定する方法を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0136】
1…膜電極接合体(MEA)、2…燃料分配機構、3…燃料収容部、4…流路、5…アノード(燃料極)、6…カソード(空気極)、7…電解質膜、8…燃料極触媒層、9…燃料極多孔質層、9a…導電性多孔質基材、9b…撥水性導電性多孔質層、10…燃料極ガス拡散層、11…空気極触媒層、12…空気極ガス拡散層、13…導電層、14…カバープレート、15…Oリング、16…ポンプ、17…空気極多孔質層、17a…導電性多孔質基材、17b…撥水性導電性多孔質層、21…燃料注入口、22…燃料排出口、23…燃料分配板、24…空隙部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置された電解質膜とを具備する膜電極接合体であって、
前記アノードは、前記電解質膜と対向するアノード触媒層と、アノード拡散層と、前記アノード触媒層及び前記アノード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層とを含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置された電解質膜とを具備する膜電極接合体であって、
前記カソードは、前記電解質膜と対向するカソード触媒層と、カソード拡散層と、前記カソード触媒層及び前記カソード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層とを含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項3】
カソード触媒層と、カソード拡散層と、前記カソード触媒層及び前記カソード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるカソード多孔質層とを含むカソードと、
アノード触媒層と、アノード拡散層と、前記アノード触媒層及び前記アノード拡散層の間に配置され、透湿度が30000〜70000g/m2・24hr・atmであるアノード多孔質層とを含むアノードと、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に配置された電解質膜と
を具備することを特徴とする膜電極接合体。
【請求項4】
前記カソード多孔質層及び前記アノード多孔質層それぞれの前記透湿度は、45000〜70000g/m2・24hr・atmであることを特徴とする請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記アノード多孔質層の前記透湿度は45000〜70000g/m2・24hr・atmであり、前記カソード多孔質層の前記透湿度は30000〜55000g/m2・24hr・atmで、かつ前記アノード多孔質層の前記透湿度よりも小さいことを特徴とする請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記カソード多孔質層及び前記アノード多孔質層それぞれの前記透湿度は、30000〜55000g/m2・24hr・atmであることを特徴とする請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記アノード多孔質層の前記透湿度は30000〜55000g/m2・24hr・atmであり、前記カソード多孔質層の前記透湿度は45000〜70000g/m2・24hr・atmで、かつ前記アノード多孔質層の前記透湿度よりも大きいことを特徴とする請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記カソード多孔質層または前記アノード多孔質層は、孔径が50nm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項9】
前記カソード多孔質層または前記アノード多孔質層は、導電性物質を含むことを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項10】
前記導電性物質は、炭素材料を含むことを特徴とする請求項9記載の膜電極接合体。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか1項記載の膜電極接合体を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
前記膜電極接合体の前記カソードにO2を含む酸化剤ガスを供給するためのブロワを具備しないことを特徴とする請求項11記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−3562(P2010−3562A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161960(P2008−161960)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】