説明

膨張弁

【課題】ダイアフラムの傾きに起因するヒステリシスを防止する温度式の膨張弁を提供する。
【解決手段】感温応動部材100の感温部101は支持部102と一体に形成されており、支持部102とダイアフラム64は取付部材80とともに適宜の溶接手段により一体に固着されている。感温部101のガス導入孔104は取付部材80の貫通穴82を介してガス室60と一体の閉空間を形成し、作動ガスが充填されている。感温部101の下端部に凹部110が形成され、この凹部110に球体120が固着される。感温部101の軸方向の移動は、球体120を介して点接触状態で作動棒40に伝達される。この作用により作動棒は円滑に垂直方向に摺動するので、ヒステリシスの発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルに組み込まれ、凝縮器で凝縮した高圧冷媒を減圧して蒸発器に導くとともに、蒸発器から圧縮機に戻る低圧冷媒の温度に基いて蒸発器に導く冷媒の流量を制御する膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は特許文献1等に開示されている膨張弁の概要を示す断面図である。
弁本体10は、凝縮器で凝縮した高圧の液冷媒が導入される入口通路12を有し、入口通路12は弁室14に連通している。18は弁室14に連通するオリフィスで、弁室14内に配置される球状の弁体30で開閉される。弁体30は支持部材32により支持され、支持部材32はコイルスプリング34により弾性支持されている。コイルスプリング34の下端は弁本体10に螺着したプラグ36で支持されている。
【0003】
プラグ36の弁本体10へのねじ込み量を調整することで、弁体30に対してコイルスプリング34を介して与える付勢力を調整することができる。弁体30に対向してオリフィス18の一端に弁座16が形成されており、弁体30と弁座16との間の隙間を通過した冷媒は、オリフィス18を通り、出口通路20から蒸発器側へ導かれる。
【0004】
蒸発器から圧縮機側へ戻る冷媒は、弁本体10に形成した戻り通路22を通過する。弁本体10の上部に形成された開口部には、パワーエレメント50が取り付けられる。パワーエレメント50は、上部ハウジング52と下部ハウジング54とを有し、上部ハウジング52と下部ハウジング54の間にダイアフラム64が挟み込まれる。上部ハウジング52とダイアフラム64はガス室60を区画形成し、ガス室60には作動ガスが封入され、栓体62により封止される。
【0005】
70は感温応動部材で、ダイアフラム64の下面に当接するフランジ状の支持部76と、支持部76の下面に一体形成されるとともに戻り通路22内に突出する棒状の感温部71とを有する。戻り通路22内を通る低圧冷媒は、貫通孔24を介してダイアフラム64の下方の空間26に流入し、支持部76の下面に接する。
【0006】
感温部71には有底のガス導入孔74が形成されている。支持部76が支持するダイアフラム64の上面にはリング状の取付部材80が配設され、取付部材80とダイアフラム64と支持部76はレーザー溶接等の適宜の溶接手段により一体に固着される。取付部材80の中央には貫通穴82が設けてあり、この貫通穴82を介してガス室60とガス導入孔74が連通される。ガス室60とガス導入孔74からなる閉空間内には作動ガスが充填される。
【0007】
ダイアフラム64は可撓性を有しており、ガス室60内の作動ガス圧と空間26内のガス圧との差圧により変位する。この変位は感温部71の下方に配置された作動棒40を介して弁体30に伝えられ、弁体30が弁座16に接離する
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−127581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した膨張弁において、ダイアフラム64は常に水平姿勢を保って変位するとは限らない。支持部76がダイアフラム64に固着されているため、ダイアフラム64が傾くと感温部71も傾くことになる。図7(a)に示すように、感温部71の下面72は平面形状に形成されており、作動棒40の上端42に当接している。図7(b)に示すように、ダイアフラム64が水平でなくなって感温部71の中心線がCからCに傾くと、感温部71が作動棒40を下方へ移動させる力の方向Fは垂直線に対して傾くことになる。
【0010】
作動棒40は弁本体10に形成されたガイド孔19に案内されているが、感温部71の下面72の応力作用点Pが作動棒40の上面の中心よりずれることにより作動棒40に対して横向きの力が作用する。この力により作動棒40はガイド孔19の内周面に対して押し付けられ、これによって摩擦力が発生し、作動棒40の上下動が不円滑となり、作動にヒステリシスが発生する。この作動棒40の動作のヒステリシスにより、弁開度の調節に不具合が発生する。
【0011】
本発明の目的は、上述した不具合を解消する膨張弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の膨張弁は、冷凍サイクルに組み込まれ、凝縮器で凝縮した高圧冷媒を減圧して蒸発器に導くとともに、蒸発器から圧縮機に戻る低圧冷媒の温度に基いて前記蒸発器に導く冷媒の流量を制御する膨張弁であって、前記高圧冷媒が導入される弁室、該弁室に連通するオリフィス及び前記低圧冷媒が通る戻り通路を有する弁本体と、前記オリフィスを開閉する弁体と、該弁体を移動させる作動棒と、前記低圧冷媒の温度に基いて前記作動棒を駆動する駆動装置と、前記低圧冷媒の温度を前記駆動装置に伝達するとともに前記駆動装置の駆動力を前記作動棒に伝達する感温応動部材とを備え、前記駆動装置は、ハウジングと、該ハウジングの内部にガス室を区画形成するとともに前記ガス室に充填される作動ガスの膨張及び収縮に応じて変位するダイアフラムとを有し、前記感温応動部材は、前記ダイアフラムに固着される支持部及び前記戻り通路内に突出して前記ダイアフラムの変位を前記作動棒に伝達する感温部を有し、前記感温部と前記作動棒が球面継手部を介して接することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の膨張弁は、以上の構成により、ダイアフラムが傾いても作動棒は傾かずにスムーズに摺動するので、ヒステリシスの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の膨張弁の一実施例の断面図。
【図2】図1の膨張弁の作用を示す説明図。
【図3】本発明の膨張弁の他の実施例の要部の断面図。
【図4】本発明の膨張弁の他の実施例の要部の断面図。
【図5】本発明の膨張弁の他の実施例の要部の断面図。
【図6】従来の膨張弁の断面図。
【図7】図6の膨張弁の作用を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の膨張弁の第1の実施例を示す断面図である。なお、以下の各実施例において、図6に示す従来の膨張弁と同一の部分には同一の符号を付して再度の説明を省略するものとする。
【0016】
本実施例の膨張弁にあっても、感温応動部材100の感温部101は支持部102と一体に形成されており、支持部102とダイアフラム64は取付部材80とともに適宜の溶接手段により一体に固着されている。そして、ガス導入孔104は取付部材80の貫通穴82を介してガス室60と一体の閉空間を形成し、作動ガスが充填されている。
【0017】
感温部101の下端部には凹部110が形成されている。この凹部110は例えば円錐面で形成される。そして、この凹部110に球体120が固着される。球体120は例えば鏡面仕上げされた汎用のスチールボール等が使用され、凹部110に対して溶接等により固着される。感温部101の軸方向の移動は、球面継手部を形成する球体120を介して点接触状態で作動棒40に伝達される。
【0018】
図2は、感温部101と球体120と作動棒40の作用を示す拡大図である。
図2(a)はダイアフラム64の変位が中心線Cに沿ったもので、感温部101が中心線C上で球体120を介して作動棒40にダイアフラム64の変位を伝達する正常の状態を示す。図2(b)はダイアフラム64が傾いて変位し、感温部101の軸線Cが中心線Cから傾いて作動棒40に力Fを伝達する状態を示す。
【0019】
感温部101の移動は球体120を介して作動棒40に伝達されるので、図2(b)に示す状態において、球体120と作動棒40の上面42は中心点Pで接触することとなり、力Fは中心線Cに沿って伝達される。この作用により、作動棒40とガイド孔19(図1参照)の間でカジリ等の不具合は発生せず、ヒステリシスの発生を防止することができる。
【0020】
図3は、本発明の他の実施例の要部を示す。先の実施例と同様の部材には同一の符号を付して再度の説明は省略する。
本実施例にあっても、感温応動部材200の感温部201は支持部202と一体に形成されており、ガス導入孔204がガス室60とともに閉空間を形成している。感温部201の下端部には装着孔212が形成されるが、この装着孔212は球体120の外径寸法に対してわずかに小さな内径寸法を有する。
【0021】
球体120を装着孔212に圧入することで球体120は感温部201に固着される。感温部201に圧入された球体120は球面で作動棒40の上面に接するので、ダイアフラム64が不均一に変位して感温部201が傾いても、作動棒40は垂直方向にスムーズに摺動することができ、ヒステリシスの発生を防止することができる。
【0022】
図4は、本発明の他の実施例の要部を示す。先の実施例と同様の部材には同一の符号を付して再度の説明は省略する。
本実施例にあっても、感温応動部材300の感温部301は支持部302と一体に形成されており、ガス導入孔304がガス室60とともに閉空間を形成している。感温部301の下端部には球形の装着孔310が形成されている。この装着孔310に球体120を挿入し、装着孔310の開口部の周縁部314をカシメ加工により変形させて球体120を固定する。
【0023】
感温部301に固定された球体120は球面で作動棒40の上面に接するので、ダイアフラム64が不均一に変位して感温部301が傾いても、作動棒40は垂直方向にスムーズに摺動することができ、ヒステリシスの発生を防止することができる。
【0024】
図5は、本発明の他の実施例の要部を示す。先の実施例と同様の部材には同一の符号を付して再度の説明は省略する。
本実施例にあっても、感温応動部材400の感温部401は支持部402と一体に形成されており、ガス導入孔404がガス室60とともに閉空間を形成している。感温部401の下端部には球面状部410が一体形成されている。
【0025】
球面状部410は、球面で作動棒40の上面に接するので、ダイアフラム64が不均一に変位して感温部401が傾いても、作動棒40は垂直方向にスムーズに摺動することができ、ヒステリシスの発生を防止することができる。
【0026】
本発明の膨張弁は以上のように、パワーエレメントのダイアフラムに対して一体に固着された感温応動部材の移動を作動棒を介して弁体に伝達する構造として、感温部の下端部と作動棒の上端部の当接部を球面で接触する構造を採用しているので、ダイアフラムの不均一な変位による感温部の傾きが生じても、作動棒は垂直方向にスムーズに摺動することができる。
【0027】
この作用により、作動棒が弁本体のガイド孔に対して局部的に強い力で押しつけられることないので、円滑に摺動し、ヒステリシスの発生を防止することができる。
【0028】
なお、上記の各実施例においては、感温部にガス導入孔が形成された場合を例にあげて説明したが、本発明は感温部にガス導入孔が形成されない膨張弁にも適用することができる。
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記の各実施例に種々の改変を施すことができる。
【符号の説明】
【0029】
10 弁本体
12 入口通路
14 弁室
16 弁座
18 オリフィス
20 出口通路
22 戻り通路
30 弁体
32 支持部材
34 コイルスプリング
36 プラグ
40 作動棒
50 パワーエレメント(駆動装置)
52 上部ハウジング
54 下部ハウジング
64 ダイアフラム
60 ガス室
62 栓体
80 取付部材
100 感温応動部材
101 感温部
102 支持部
104 ガス導入孔
110 凹部
120 球体
200 感温応動部材
201 感温部
202 支持部
204 ガス導入孔
212 装着孔
300 感温応動部材
301 感温部
302 支持部
304 ガス導入孔
310 装着孔
400 感温応動部材
401 感温部
402 支持部
404 ガス導入孔
410 球面状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルに組み込まれ、凝縮器で凝縮した高圧冷媒を減圧して蒸発器に導くとともに、蒸発器から圧縮機に戻る低圧冷媒の温度に基いて前記蒸発器に導く冷媒の流量を制御する膨張弁であって、
前記高圧冷媒が導入される弁室、該弁室に連通するオリフィス及び前記低圧冷媒が通る戻り通路を有する弁本体と、前記オリフィスを開閉する弁体と、該弁体を移動させる作動棒と、前記低圧冷媒の温度に基いて前記作動棒を駆動する駆動装置と、前記低圧冷媒の温度を前記駆動装置に伝達するとともに前記駆動装置の駆動力を前記作動棒に伝達する感温応動部材とを備え、
前記駆動装置は、ハウジングと、該ハウジングの内部にガス室を区画形成するとともに前記ガス室に充填される作動ガスの膨張及び収縮に応じて変位するダイアフラムとを有し、
前記感温応動部材は、前記ダイアフラムに固着される支持部及び前記戻り通路内に突出して前記ダイアフラムの変位を前記作動棒に伝達する感温部を有し、
前記感温部と前記作動棒が球面継手部を介して接することを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記球面継手部は、前記感温部の先端部に固着される球体であることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。
【請求項3】
前記球体が前記感温部に溶接により固着されることを特徴とする請求項2記載の膨張弁。
【請求項4】
前記球体が前記感温部に圧入により固着されることを特徴とする請求項2記載の膨張弁。
【請求項5】
前記球体が前記感温部にカシメにより固着されることを特徴とする請求項2記載の膨張弁。
【請求項6】
前記球面継手部は、前記感温部の先端部に一体的に形成される球面状部からなることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。
【請求項7】
前記ガス室に連通するとともに前記戻り通路内に位置するガス導入孔が前記感温部に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の膨張弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−29241(P2013−29241A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164749(P2011−164749)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】