説明

膵癌における異常メチル化遺伝子

本発明は、対象における膵癌を検出する方法を提供する。本方法は、対象由来の核酸含有標本を、少なくとも1つの遺伝子またはその遺伝子の関連調節領域のメチル化状態の判定を与える作用因子と接触させる工程、および遺伝子または調節領域の諸領域の異常メチル化を同定し(この際、異常メチル化は膵癌を有しない対象における同じ遺伝子領域または関連調節領域と比較した場合に異なるとして同定される)、それによって対象における膵癌を検出する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、遺伝子発現の調節に関し、より詳細には、所定の遺伝子座におけるCpG部位のメチル化状態を決定し、そのメチル化状態を細胞増殖性疾患の存在と相関づける方法に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)項に基づき、2003年3月17日に出願された米国仮特許出願第60/454,614号(これはその全体が参照として本明細書に組み入れられる)に対する優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
DNAメチラーゼは、普遍的なメチル基供与体であるS-アデノシルメチオニンから、DNA上の特定部位に対してメチル基を転移させる。いくつかの生物学的機能はDNA中のメチル化塩基に起因するとされている。メチル化DNAの最も確立されている生物学的機能は、DNAをコグネイト制限酵素による消化から保護することである。この制限修飾現象はこれまで細菌でしか観察されていなかった。しかし、哺乳動物細胞は、グアニンの5'側に隣接したシトシン残基(CpG)のみをメチル化する異なるメチラーゼを有する。シトシン残基のこの修飾は遺伝子発現に対して重要な調節作用を及ぼし、これは多くの遺伝子のプロモーター領域に位置するCpG島として知られるCpGリッチ領域にかかわる場合には特にそうである。
【0004】
メチル化は、遺伝子活性、細胞分化、腫瘍発生、X染色体不活性化、ゲノムインプリンティングおよび他の主要な生物プロセスに役割を果たすことが、いくつかの方面からの証拠によって示されている(Razin, A.H. and Riggs, R.D. eds. 「DNAメチル化の生化学および生物学的意義(DNA Methylation Biochemistry and Biological Significance)」、Springer-Verlag, New York, 1984)。真核細胞では、グアノシンの5'側に直に隣接するシトシン残基のメチル化は、CGの少ない領域で優先的に起こる(Bird, A., Nature, 321: 209, 1986)。これに対して、CpG島は、5'調節領域のメチル化が転写抑制につながる可能性のある、X染色体不活性化(Migeon et al., 前記)および親特異的インプリンティング(Li et al., Nature, 366: 362, 1993)の場合を除き、正常細胞ではメチル化されないままに保たれる。Rb遺伝子の新規メチル化が網膜芽細胞腫のわずかな割合で示されており(Sakai et al., Am. J. Hum. Genet., 48: 880, 1991)、最近、VHL遺伝子のより詳細な解析により、孤発性腎細胞癌のサブセットで異常メチル化が示された(Herman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 91: 9700, 1994)。また、腫瘍抑制遺伝子の発現も、通常はメチル化されていないCpG島の新規DNAメチル化によって消失する可能性がある(Issa, et al., Nature Genet., 2: 536, 1994;Herman, et al., 前記;Merlo、et al., Nature Med., 1: 686, 1995;Herman, et al., Cancer Res., 56: 722, 1996;Graff, et al., Cancer Res.,55: 5195, 1995;Herman, et al., Cancer Res., 55: 4525, 1995)。
【0005】
ヒト癌細胞は一般に、重要な遺伝子の変異、増幅または欠失を特徴とする、体細胞性に変化した核酸を含む。さらに、ヒト癌細胞由来の核酸はしばしば、DNAメチル化の体細胞性変化を呈する(E.R. Fearon et al., Cell, 61: 759, 1990;P.A. Jones et al., Cancer Res., 46: 461, 1986;R. Holliday, Science, 238: 163, 1987;A.De Bustros et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5693, 1988);P.A. Jones et al., Adv. Cancer Res. 54: 1, 1990;S.B. Baylin et al., Cancer Cells, 3: 383, 1991;M.Makos et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 1929, 1992;N. Ohtani-Fujita et al., Oncogene, 8: 1063, 1993)。しかし、ヒト腫瘍発生における異常DNAメチル化の厳密な役割は確立されていない。通常はメチル化されていないCpG島の異常なメチル化は、不死化細胞および形質転換細胞では高頻度のイベントとして記載されており、ヒト癌における特定の腫瘍抑制遺伝子の転写不活性化と関連づけられている。大腸癌(CRC)の発生においては、APC、p53、DCCおよびDPC4といった一連の腫瘍抑制遺伝子(TSG)が、変異および染色体欠失によって不活性化している。これらの変化のいくつかは、CRCのあるサブセットで記載されている染色体不安定性表現型に起因する。近年、もう1つの経路が、家族性CRCの一型である遺伝性非ポリポーシス大腸癌に関与していることが示された。これらの患者の癌は、マイクロサテライト不安定性(MI)を引き起こす特徴的な変異誘発性表現型、ならびに、TGF-β-RII(Markowitz et al., Science、268(5215): 1336-8, 1995)およびBAXなどの他の遺伝子座での変異を示す。この表現型は通常、ミスマッチ修復(MMR)遺伝子hMSH2およびhMLH1における変異によって生じる。孤発性CRCのあるサブセットもMIを示すが、MMR遺伝子の変異はこれらの腫瘍ではより頻度が低いように思われる。
【0006】
CRCにおいて記載されているもう1つの分子的な欠陥は、CpG島(CGI)のメチル化である。CGIは、CpGジヌクレオチドに富む短い配列であり、ヒトの全遺伝子のうち約半数の5'領域に認められ得る。5'CGI内のシトシンのメチル化は、遺伝子発現の消失に関連し、X染色体不活性化およびゲノムインプリンティングなどの生理的状態で見られる。CGIの異常メチル化は、脆弱X染色体症候群などの遺伝子病、加齢の細胞中および新形成中に検出される。家族性癌症候群患者の生殖系列で変異していることが示された腫瘍サプレッサー遺伝子(Rb、VHL、p16、hMLH1、およびBRCA1を含む)のほぼ半分がまた、孤発性癌のある程度の割合で異常にメチル化されていることが示された。癌におけるTSGメチル化は、通常、遺伝子転写の欠失(Antequera et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90: 11995-11999, 1993)を伴い、およびコード領域変異(Baylin et al., Adv.Cancer Res.72:141-196, 1998)は伴わない。従って、CGIメチル化は、癌における別の遺伝子不活性化機序として作用すると提唱されている。
【0007】
ヒト癌におけるCGIメチル化の原因および全体的なパターンは、未だにほとんど明確になっていない。正常結腸粘膜ならびにCRCにおけるいくつかのCGIのメチル化は年齢と関連した様式で検出可能であったことから、加齢はこのプロセスにおける1つの要因である可能性がある。さらに、CGIの異常メチル化は、CRCにおけるMI表現型、ならびに特定の発癌物質に対する曝露とも関連づけられている。しかし、CRCにおける異常メチル化の解明は、今日までに分析されたCGIが少数であることによって幾分限定されてきた。実際、これまでの研究によって不死化細胞系では多数のCGIがメチル化されていることが示唆されたが、この広範囲の異常メチル化が細胞培養条件に起因するのか、それともそれらが癌の成因の不可欠な部分であるのかは十分に解明されていない。
【0008】
メチル化シトシンの検出のためにこれまでに開発された大部分の方法は、シトシンとその5-メチル誘導体とを識別するメチル化感受性制限酵素または反応性化学物質(例えば、ヒドラジンなど)を用いて、シトシン残基の横にあるホスホジエステル結合を切断することに依存する。いずれのMaxam Gilbertシークエンシング反応によっても切断されない部位としてゲノムDNA中の5-MeC残基を同定するゲノムシークエンシングプロトコールも用いられてきたが、これらには、大量のゲノムDNAが必要であること、および種々の強度のバンドを含み得るシークエンシング用ラダーにおいてギャップを検出するのが困難であるといった欠点が依然としてある。
【0009】
DNA中のメチル化領域のマッピングは、主として、メチル化感受性制限酵素が1つまたは複数のメチル化CpG部位を含む配列を切断できないことに基づくサザンハイブリダイゼーション法アプローチに依拠する。この方法により、ある程度定量的な分析を含め、CpG島の全体的なメチル化状態の評価が得られるが、これは比較的感度が低く、大量の高分子量DNAを必要とする。
【0010】
もう1つの方法は、亜硫酸水素塩でDNAを処理して、すべての非メチル化シトシンをウラシルに変換することを利用する。改変されたDNAを増幅して配列を決定することで、すべてのCpG部位のメチル化状態を示す。しかし、この方法は技術的に困難であり、手間がかかり、増幅産物のクローニングを行わなければサザン分析よりも感度が低く、検出には対立遺伝子の約10%がメチル化されている必要がある。
【0011】
腫瘍発生における最も初期の遺伝子変化を同定することは、分子的な癌研究における大きな焦点である。これらの変化の同定に基づく診断アプローチは早期発見戦略を実現させる可能性が高く、これらの初期の変化を標的とする新規治療アプローチはより効率的な癌治療につながる可能性がある。
【0012】
ヒトの全遺伝子のうち約半数が5'CpG島を有しており、これらの島は通常、遺伝子の5'調節領域に随伴してみられる(Antequera et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 11995-11999, 1993)。インプリンティングを受けていないほとんどの遺伝子の5'CpG島は、正常細胞ではメチル化されないままであると考えられるが、加齢または腫瘍発生の過程でメチル化される可能性がある。メチルCpG結合タンパク質、ヒストンおよびヒストンデアセチラーゼの間の相互作用により、5'CpG島のメチル化は、転写サイレンシングを引き起こすクロマチン変化の一因となりうる(Baylin et al., Adv. Cancer Res.72: 141-196, 1998)。プロモーターのメチル化は、多くの癌において、腫瘍抑制遺伝子およびミスマッチ修復遺伝子(例えばp16、Rb、VHL、hMLH1)の転写サイレンシングに関与することが示されている。膵癌ではこれまでに13種の過剰メチル化遺伝子およびクローンが同定されているが(Ueki et al., Cancer Res. 60: 1835-1839, 2000)、他にも存在することはほぼ確実である。Costelloらは、癌ではほぼ400個の遺伝子が異常にメチル化されていると推定し、腫瘍特異的なメチル化パターンの証拠を見いだしている(Costello et al., Nat. Genet. 24: 132-138, 2000)。癌におけるDNAメチル化異常のパターンがさらに適切に記載されれば、腫瘍発生におけるDNAメチル化の役割に関する理解が向上する可能性があり、癌において異なる様式でメチル化されるCpG島の同定は、腫瘍抑制特性を有する新規遺伝子の発見につながる可能性がある。さらに、同定された遺伝子または遺伝子座は、癌の早期検出のための癌特異的マーカーとして利用しうると考えられる(Belinsky et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 11891-11896, 1998)。
【0013】
膵癌は、男性および女性における癌死亡原因の第4位であり、毎年ほぼ28,000名の米国人がこの疾患により死亡している(Greenlee et al., CA Cancer J. Clin. 50: 7-33, 2000)。膵癌では、変異によるK-ras発癌遺伝子の活性化、ならびにp16、DPC4、p53、MKK4、STK11、TGFBR2およびTGFBR1腫瘍抑制遺伝子の不活性化といった高頻度の遺伝子変化が記載されている(Goggins et al., Ann. Oncol. 10: 4-8, 1999, Rozenblum et al., Cancer Res. 57: 1731-1734, 1997)。膵癌発生には複数の腫瘍抑制経路が役割を果たすことが示されているが、これらの経路における遺伝子の不活性化に対するDNAメチル化の寄与に関してはほとんど明らかになっていない。最近、新規技術であるメチル化CpG島増幅法(MCA)が、メチル化CpGリッチ配列を濃縮するために開発された。MCAをRDAと組み合わせること(MCA/RDA)により、癌細胞において異なる様式でメチル化されるCpG島を回収することが可能である(Toyota et al., Cancer Res. 59: 2307-2312, 1997)。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、いくつかの遺伝子が癌において異なる様式でメチル化されていることが新たに同定されたという知見に基づく。この将来性のある発見は、癌のスクリーニング、リスク評価、予後評価、微小残存腫瘍の同定、病期分類および治療標的の同定に有用である。癌、加齢または加齢に関連した疾患においてメチル化されている新規遺伝子の同定により、特定の癌でメチル化されている遺伝子が発見される可能性が高まり;メチル化検出の感度および特異性が高まり;複数の遺伝子を用いたメチル化プロファイリングが可能となり;治療的介入のための新規標的の同定が可能となる。
【0015】
本発明の1つの局面においては、対象における膵癌を検出する方法であって、対象由来の核酸含有標本を、表1〜3より選択される、少なくとも1つの遺伝子またはその遺伝子の関連調節領域およびそれらの組み合わせのメチル化状態の判定を与える作用因子と接触させる工程;および、遺伝子または調節領域の諸領域の異常メチル化を同定し(この際、異常メチル化は膵癌を有しない対象における同じ遺伝子領域または関連調節領域と比較した場合に異なるものとして同定される)、それによって対象における膵癌を検出する工程を含む。遺伝子または調節領域の諸領域は、CpGリッチ領域内に含まれる。例示的な遺伝子は表1〜3に列記されている。この局面において、異常メチル化とは、膵癌を有しない対象における遺伝子または関連調節領域の同じ領域と比較した場合の過剰メチル化のことである。
【0016】
本発明のもう1つの局面においては、遺伝子内またはその遺伝子の関連調節領域内の標的配列とハイブリダイズするプライマー対を、膵癌と関連性のある遺伝子または調節領域を同定するために利用する。さらにもう1つの局面において、核酸含有標本には、膵管上皮、膵臓組織、便、血液または膵液などの組織が含まれる。膵癌には、膵管腺癌、慢性膵炎、島細胞腫瘍または漿液性嚢胞腺腫が非制限的に含まれる。
【0017】
本発明のもう1つの局面において、膵癌と関連性のあるDNAメチル化によってサイレンシングされる少なくとも1つの遺伝子を同定する方法は、ゲノムを代表するヌクレオチド配列のアレイを、癌細胞に対応する正常細胞で発現されるRNAにではなく、サイレンシングされた遺伝子の発現を再活性化する少なくとも1つの作用因子と接触させた癌細胞において発現されるRNAに対応する核酸分子と、核酸サブトラクション産物とアレイの相補的ヌクレオチド配列との選択的ハイブリダイゼーションのために適した条件下で接触させる工程;およびアレイのヌクレオチド配列の部分集団に対する核酸の選択的ハイブリダイゼーションを検出し(この際、癌細胞に対応する正常細胞において発現されるRNAに対応する核酸分子は選択的ハイブリダイゼーションのために適した条件下でヌクレオチド配列の部分集団とはハイブリダイズせず、アレイのヌクレオチド配列の部分集団と選択的にハイブリダイズする核酸分子は癌細胞の後成的にサイレンシングされた遺伝子を表す)、それにより、膵癌と関連性のある少なくとも1つの後成的にサイレンシングされた遺伝子を同定する工程を含む。
【0018】
遺伝子のメチル化状態の判定は、核酸含有標本を非メチル化シトシンを修飾する作用因子と接触させること、標本中のCpG含有核酸を、修飾されたメチル化核酸と非メチル化核酸とを識別するCpG特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅すること、および増幅段階で生じた増幅産物の有無に基づいてメチル化核酸を検出することを含む。本方法は任意で、増幅産物をメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼと接触させることを含む。遺伝子および/または調節配列のメチル化状態を判定するための他の方法は当技術分野で周知であり、本明細書でさらに詳細に述べる。
【0019】
1つの局面においては、メチル化状態をさらに判定する目的で、メチル化剤である5アザ2'デオキシシチジン(5Aza-dC)を用いて細胞を処理する。もう1つの局面においては、メチル化状態をさらに判定する目的で、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であるトリコスタチン(TSA)を用いて細胞を処理する。さらにもう1つの局面においては、5アザ2'デオキシシチジン(5Aza-dC)とトリコスタチン(TSA)との組み合わせを用いる。膵癌と関連性のある遺伝子を表1〜3に例として列記している。具体的には、このような遺伝子には、CDH3、reprimo、CLDN5、DR3、FOXE1、LDOC1、LHX1、NEFH、NPTX2、PIG11、SARP2、ST14、SMARCA1、TJP2、UCHL1、WNT7A、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0020】
本発明のもう1つの局面においては、増幅プライマーの対が提供される。増幅プライマー対は、配列番号:1〜64に示されたフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含み、この際、増幅プライマー対は表1〜3の遺伝子の一部分を増幅する。1つの局面において、増幅プライマー対は、核酸分子のメチル化された5'調節領域を特異的に増幅する。より詳細には、これらの増幅プライマー対は、配列番号:3および4、配列番号:7および8、配列番号:11および12、配列番号:15および16、配列番号:19および20、配列番号:23および24、配列番号:27および28、配列番号:31および32、配列番号:35および36、配列番号:39および40、配列番号:43および44、配列番号:47および48、配列番号:51および52、配列番号:55および56、配列番号:59および60、または配列番号:63および64を含む。本発明のもう1つの局面において、増幅プライマー対は核酸分子のメチル化されていない5'調節領域を特異的に増幅する。より詳細には、これらの増幅プライマー対は、配列番号:1および2、配列番号:5および6、配列番号:9および10、配列番号:13および14、配列番号:17および18、配列番号:21および22、配列番号:25および26、配列番号:29および30、配列番号:33および34、配列番号:37および38、配列番号:41および42、配列番号:45および46、配列番号:49および50、配列番号:53および54、配列番号:57および58、または配列番号:61および62を含む。
【0021】
増幅プライマーが結合する対象となる標的配列も同じく含まれる。
【0022】
もう1つの局面においては、膵癌を有する対象を治療するための治療レジメをモニターする方法が提供される。本方法は、a)対象から治療前に核酸含有標本を入手する工程;b)核酸含有標本を、少なくとも1つの遺伝子またはその遺伝子に関連する調節領域のメチル化状態の判定を与える作用因子と接触させる工程;c)遺伝子または調節領域の諸領域の異常メチル化を同定する工程(この際、異常メチル化は膵癌を有しない対象における遺伝子または関連調節領域の同じ領域と比較した場合に異なるものとして同定される);およびd)治療期間中の遺伝子のメチル化状態の変化を判定し(この際、変化は遺伝子のメチル化状態を治療前の同じ対象由来の核酸含有試料のメチル化状態と比較することによって判定される)、それによって膵癌対象を治療するための治療レジメをモニターする工程を含む。
【0023】
本発明のもう1つの局面は、メチル化特異的な増幅プライマーの対、非メチル化特異的な増幅プライマーの対、または少なくとも1つのメチル化特異的増幅プライマーの対および少なくとも1つの非メチル化非特異的増幅プライマーの対を含む組み合わせを含む、少なくとも1つの増幅プライマー対を含むキットを提供する。キットはさらに、メチル化シトシン残基を修飾する試薬を含む。本発明のもう1つの局面において、キットはさらに、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼを含む。さらにもう1つの態様において、キットは増幅反応を行うための試薬を含む。任意で、キットは5-アザ-2'-デオキシシチジンおよび/またはトリコスタチンAを含む。
【0024】
本発明のもう1つの局面は、対象における膵癌の検出のために有用なキットであって、試料を内部に収容するように区画化された保持手段;非メチル化シトシンを修飾する試薬を含む第1の容器およびCpG含有核酸の増幅のためのプライマーを含む第2の容器を含む1つまたは複数の容器を含み、プライマーが配列番号:1〜64からの対であるようなキットを提供する。本発明の1つの局面において、キットは、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼを含む第3の容器を含む。この局面において、修飾用試薬は亜硫酸水素塩であることが典型的である。もう1つの実例となる例において、プライマーは表1〜3に示された標的配列とハイブリダイズする。
【0025】
本発明のもう1つの局面は、表1〜3に列記された膵癌と関連性のある遺伝子であって、関連する調節配列がCpGリッチ領域を含むような遺伝子を提供する。1つの局面において、CpGリッチ領域のメチル化の状態は、核酸分子を単離した対象に膵癌が存在するという判定をもたらす。1つの局面においては、CpGリッチ領域の過剰メチル化により、核酸分子を単離した対象における膵癌の存在が示される。
【0026】
発明の詳細な説明
いくつかの特定の遺伝子、特に調節配列における核酸の異常メチル化状態および/またはヒストンデアセチラーゼ(HDAC)活性(メチル化されたものが主である)が、その異常メチル化核酸を有する対象における細胞増殖性疾患の存在または発症可能性の診断を与えることが明らかにされた。より詳細には、CpG島に局在するいくつかの特定のヌクレオチドの過剰メチル化は、そのCpG島に関連する遺伝子の発現に影響を及ぼすことが示された;一般的には、このような過剰メチル化遺伝子の発現は低下または消失しており、これは主として転写ダウンレギュレーションのためであった。メチル化特異的PCR(MSP)と呼ばれるよく知られた手法を用いて、膵癌細胞において異常メチル化されているいくつかの核酸分子を同定した。
【0027】
今回開示するマイクロアレイベースの戦略は、遺伝子発現の状態と後成的調節とを組み合わせることにより、以前の方法の欠点を取り除く。さらに、本アプローチは、癌遺伝子における遺伝子発現の全体的な変化が、密なCpG島メチル化およびHDAC活性の両方に依存するという観察所見も利用する(Cameron et al., Nature Genet. 21: 103-107, 1999、これは参照として本明細書に組み入れられる)。開示する方法は、その転写抑制が腫瘍発生において重要な役割を果たす遺伝子を堅固に同定する。注目すべきこととして、開示するゲノムスクリーニング方法は、特定の種類の腫瘍にクラスター化する遺伝子過剰メチル化イベントの同定を可能とした上、これは単一の遺伝子ファミリーに属する複数のメンバーを同時に含むことができる。
【0028】
本明細書で用いる場合、遺伝子発現の全体的な変化とは、その遺伝子を含む細胞に通常属すると考えられる何らかの機能の変化のことを指す。遺伝子発現におけるこのような全体的な変化には、後成的にサイレンシングされた遺伝子の再活性化が非制限的に含まれる。「後成的にサイレンシングされた」または「後成的サイレンシングを受けた」という用語は、遺伝子に言及して用いられる場合、遺伝子変化以外の機序に起因して、その遺伝子が転写されないこと、または対応する対照細胞(例えば、正常細胞)におけるその遺伝子の転写レベルと対比して低いレベルで転写されることを意味する。遺伝子サイレンシングの後成的機序はよく知られており、これには例えば、遺伝子の5'調節領域のCpG島におけるCpGジヌクレオチドの過剰メチル化、および、遺伝子転写が低減または抑制されるような、例えばヒストンアセチル化に起因する、クロマチンにおける構造変化が含まれる。遺伝子の後成的サイレンシングを検出する方法は本発明に開示されており、これには例えば、細胞と、後成的サイレンシングを解除する作用因子との接触、例えば、サイレンシングが過剰メチル化に起因する場合には脱メチル化剤との接触の後に、遺伝子の再発現(再活性化)を検出することが含まれる。
【0029】
メチル化された核酸配列も提供する。本明細書で用いる場合、「メチル化」または「過剰メチル化」という用語は、遺伝子に言及して用いられる場合、その遺伝子に関連するCpG島におけるCpGジヌクレオチドのシトシン残基が5'位でメチル化されていること、すなわち5'-メチルシトシンのことを意味する。「メチル化状態」という用語は、CpG島におけるCpGジヌクレオチドのメチル化シトシン残基の有無を含む、相対的存在量のことを指して用いられる。一般に、CpG島におけるシトシン残基は転写活性のある遺伝子ではメチル化されておらず、このため、CpG島におけるメチル化シトシン残基の検出はその遺伝子の発現が低減または抑制されていることを示す。したがって、以上に考察したように、「メチル化サイレンシングを受けた」遺伝子という言及は、その遺伝子の5'調節領域のCpG島におけるCpGジヌクレオチドの過剰メチル化に起因して、その遺伝子が転写されないこと、または対応する対照細胞(例えば、正常細胞)におけるその遺伝子の転写レベルと対比して低いレベルで転写されることを意味する。メチル化サイレンシングを受けた遺伝子の発現の結果は、その遺伝子を含む細胞が、その遺伝子によってコードされるポリペプチド(すなわち遺伝子産物)を低下したレベルで有するか完全に喪失し、それにより、その細胞においてその遺伝子産物に通常属すると考えられる何らかの機能が低下または消失することである。
【0030】
本発明の1つの態様において、癌と関連性のある後成的にサイレンシングされた遺伝子を同定する方法は、例えば、ゲノムを代表するヌクレオチド配列のアレイを、核酸サブトラクション産物(すなわち、癌細胞に対応する正常細胞で発現されるRNAにではなく、後成的にサイレンシングされた遺伝子の発現を再活性化する少なくとも1つの作用因子と接触させた癌細胞で発現されるRNAに対応する核酸分子)と、核酸サブトラクション産物とアレイの相補的ヌクレオチド配列との選択的ハイブリダイゼーションのために適した条件下で接触させる工程;および、アレイのヌクレオチド配列の部分集団に対する核酸サブトラクション産物の選択的ハイブリダイゼーションを検出する工程(この際、癌細胞に対応する正常細胞で発現されるRNAに対応する核酸分子は選択的ハイブリダイゼーションのために適した条件下でヌクレオチド配列の部分集団とはハイブリダイズせず、アレイのヌクレオチド配列の部分集団と選択的にハイブリダイズする核酸サブトラクション産物は、癌細胞の後成的にサイレンシングされた遺伝子を表す)によって実施しうる。
【0031】
細胞の「RNAに対応する核酸分子」という言及は、mRNAまたはポリA+ RNA、細胞由来のRNAをテンプレートとして用いて生成されたcDNA、またはRNAもしくはcDNAをテンプレートとして用いて生成されたcRNAなどのRNAのことを意味する。本発明の方法を実施するためには、細胞のRNAに対応する核酸分子は、一般に、例えば放射性同位体、常磁性同位体、発光性化合物、化学発光性化合物、蛍光性化合物、金属キレート、酵素、酵素の基質、受容体もしくは受容体のリガンドにより、検出可能なように標識される;または、アレイのヌクレオチド配列に対する核酸分子のハイブリダイゼーションを検出しうるように、例えば、検出可能なように標識されたプローブなどを用いて検出することができる。
【0032】
本明細書で用いる場合、「ゲノムを代表するヌクレオチド配列のアレイ」という用語は、固体支持体、例えばマイクロチップまたはスライドグラスと結び付けられた組織化されたヌクレオチド配列群のことを意味し、この際、諸配列は細胞において発現される核酸分子と特異的および選択的にハイブリダイズしうる。アレイは、検討しようとする細胞の由来となる生物体、および/または検討しようとする組織もしくは組織に基づいて選択される。一般に、アレイは真核生物性の細胞または細胞種、特に哺乳動物性の細胞または細胞種、好ましくはヒト細胞の代表物であり、これには1つまたは複数の組織の細胞が必要に応じて含まれる(例えば、膵上皮細胞)。一般に、ゲノムの「代表物」であるプローブのアレイは、細胞において発現される核酸分子の少なくとも約10%、細胞または生物体の発現される核酸分子の、一般的には少なくとも約20%または40%、通常は約50%〜70%、典型的には少なくとも約80%または90%、特に95%〜99%またはそれ以上を識別すると考えられる。代表物がより大規模であるほど、本発明の方法が、癌において後成的にサイレンシングされる遺伝子のすべてを同定しうる可能性が高くなることが認識される必要がある。特定のゲノムを代表するヌクレオチド配列を含むアレイは、よく知られた方法を用いて調製すること、または販売元から入手することができ(例えば、Invitrogen Corp.;Affymetrix)、その具体例には今回の検討に用いたヒトゲノムU133Aチップ(Affymetrix, Santa Clara, CA)がある。
【0033】
後成的にサイレンシングされた遺伝子の発現を再活性化する作用因子としては、メチルトランスフェラーゼ阻害薬(例えば、5アザ2'デオキシシチジン;5Aza-dC)、ヒストンデアセチラーゼ阻害薬(例えば、トリコスタチンA;TSA)または作用因子の組み合わせ、例えば5Aza-dCとTSAとの組み合わせなどが可能である。このような作用因子で処理した癌細胞などの細胞からRNAを単離し、そのRNAまたはそのcDNAのcDNA産物を、作用因子で処理していない対応する細胞(例えば、癌細胞)からのRNA分子と、処理した細胞のみで発現されるRNA(またはcDNA)が単離されるような条件下で接触させ、そのようにして核酸サブトラクション産物を入手することができる。核酸サブトラクション反応を行うための方法は周知であり(Hedrick et al., Nature 308: 149-155, 1984、これは参照として本明細書に組み入れられる)、このような方法を行うためのキットは販売元(例えば、Gibco/BRL)から入手可能である。
【0034】
もう1つの態様において、本発明の方法は、5Aza-dCおよび/またはTSAに対する曝露後に癌細胞の遺伝子発現プロファイルを分析することにより、膵癌における異常メチル化の標的である可能性のあるものを同定する。この態様は、一部には、被験細胞または試料における遺伝子のメチル化状態と、調節がなされた増殖を呈する対応する細胞における対応する遺伝子のメチル化状態との比較を含む。本明細書で用いる場合、「対応する」という用語は、被験材料と比較される基準材料のことを意味する。一般に、基準材料は、被験材料と比較される対照または標準を与える。例えば、メチル化状態に関して調べられるSFRP遺伝子と対比した上での、対応する非メチル化SFRP遺伝子という言及は、その非メチル化SFRP遺伝子が、メチル化状態に関して調べられるSFRP遺伝子と同じ種類の遺伝子であること、例えば、被験遺伝子および対応する非メチル化遺伝子がいずれもヒトSFRP1遺伝子であることを意味する。被験細胞と対比した上での、調節がなされた増殖を呈する対応する細胞という言及は、一般に、正常細胞、すなわち健常な個体におけるそのような細胞の集団に特徴的な細胞周期および増殖パターンを有する細胞のことを指し、例えば、調べられる被験細胞に膵癌細胞の疑いがある場合であれば正常膵上皮細胞である。
【0035】
本発明の方法に従って調べられる被験細胞は、例えば、培養物を樹立する元になった細胞と実質的に同じ増殖特性を呈する初代細胞培養物を樹立する目的で、または対象に対する再投与のために細胞を処理および/もしくは増やす目的で、対象から入手して培養下におかれた初代細胞でもありうる。例えば、膵癌に罹患した患者から、その癌と関連性のある1つまたは複数の遺伝子のメチル化サイレンシングを受けた発現を呈する細胞である膵管上皮細胞を入手することが可能である。細胞を、サイレンシングされた遺伝子の発現を回復させる能力に関して検査しようとする1つまたは複数の作用物質を用いて培養下で処理し、そのようにして、その癌患者、または1つもしくは複数の同じ遺伝子のメチル化サイレンシングを特徴とする膵癌を有する別の患者を治療するために役立ちうる作用因子を同定するための手段を得ることができる。
【0036】
被験細胞は、細胞を含む試料を入手するために一般的に用いられる任意の様式で対象から入手しうる。例えば、被験細胞(または被験細胞を含む試料)は、検査しようとする細胞を含む臓器または組織の針生検などの生検手順によって入手可能である。そのようにして、被験細胞を、胃腸管試料(例えば、ポリープの生検資料)、肝臓試料、膵臓組織試料、骨髄試料、皮膚試料、リンパ節試料、腎臓試料、肺試料、筋肉試料、骨試料、脳試料などから入手することができる。被験細胞はまた、生物性液体、例えば、血液、リンパ液、脳脊髄液、膵液、唾液、痰、便、尿または射精液などの成分でもありうる。妥当であれば、例えば被験細胞を結腸、子宮、腹腔などから入手するために、被験細胞を洗浄によって入手することもでき、または、例えば骨髄試料を入手するために、吸引処置を用いて入手することもできる。
【0037】
後成的サイレンシングがメチル化サイレンシングを含む場合には、調節がなされていない増殖を呈する、またはそれを呈する素因のある細胞を同定する方法を、細胞における1つまたは複数の標的遺伝子を検出することによって行う。遺伝子のCpG島におけるCpGジヌクレオチドのメチル化は、核酸分子のCpGメチル化を検出するための種々の周知の方法のうち任意のものを用いて検出可能である。このような方法には、遺伝子を、非メチル化シトシン残基もしくはメチル化シトシン残基の両方ではなくいずれかを選択的に修飾する1つもしくは一連の化学試薬と接触させ、それによって修飾の有無を検出しうるようにする工程;遺伝子配列を、CpGジヌクレオチドを含む認識部位を有し、かつCpGのメチル化シトシン残基を有する認識部位もしくはCpGのメチル化シトシン残基を有しない認識部位の両方ではなくいずれかを切断するメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼと接触させ、それによって配列の切断の有無を検出しうるようにする工程;またはその遺伝子を含む核酸分子を、その遺伝子配列と選択的にハイブリダイズし、CpGメチル化が存在するか否かに関する判定を下すことを可能にするオリゴヌクレオチドプローブ、プライマーもしくは増幅プライマー対と接触させる工程が含まれる。このような方法の例は本明細書に提供されており、このような方法の改変物および変形物は当技術分野で周知である。
【0038】
標的遺伝子のメチル化は、例えば、その遺伝子を含む核酸分子の5'調節領域を含む領域を、CpGジヌクレオチドのメチル化シトシン残基を含む5'調節領域内の認識部位を切断するメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼと接触させることによって検出することができ、この場合は、核酸分子の切断によってメチル化、すなわち被験細胞の遺伝子のメチル化サイレンシングが示される。メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼは周知であり、これには例えば、Acc III、Ban I、BstNI、Msp IおよびXma Iが含まれる。代替的または補足的に、メチル化サイレンシングを、遺伝子を含む核酸分子の5'調節領域を含む領域を、CpGジヌクレオチドのメチル化シトシン残基を含む5'調節領域内の認識部位を、CpGジヌクレオチドのシトシン残基がメチル化されていない条件下で切断するメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼと接触させることによって検出することもでき、この場合、核酸分子の切断が起こらないことによって被験細胞の遺伝子のメチル化サイレンシングが示される。このようなメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼの例には、Acc II、Ava I、BssH II、BstU I、Hpa IIおよびNot Iがある。
【0039】
メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼによる、標的遺伝子配列を含む核酸分子の切断の有無は、ポリヌクレオチド配列の長さまたは連続性を検出するために有用な任意の方法を用いて特定しうる。例えば、標的遺伝子配列の切断を、切断部位のマッピングを可能にするサザンブロット分析により、または、相対サイズ、荷電もしくはそれらの組み合わせに基づいて核酸分子を分離する任意の他の電気泳動法もしくはクロマトグラフィー法を用いて検出することができる。また、制限エンドヌクレアーゼとの接触後に、制限エンドヌクレアーゼ切断部位の上流および隣接部と選択的にハイブリダイズする第1のオリゴヌクレオチド、ならびに切断部位の下流および隣接部と選択的にハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチドを標的遺伝子配列と接触させた上で、切断がなければオリゴヌクレオチドが互いに隣接して一つに連結されることが可能であり、一方、切断がなければ連結が起こらないように、さらにリガーゼと接触させる、オリゴヌクレオチド連結アッセイを用いて、標的遺伝子の切断を検出することもできる。連結反応後のオリゴヌクレオチドのサイズまたは他の関連パラメーターを決定することにより、連結したオリゴヌクレオチドを連結していないオリゴヌクレオチドと識別し、それによって制限エンドヌクレアーゼ活性の指標を得ることが可能である。
【0040】
遺伝子のメチル化サイレンシングを、被験細胞のその遺伝子を含む核酸分子の5'調節領域を、非メチル化シトシン残基またはメチル化シトシン残基のいずれかを選択的に修飾する化学試薬と接触させ、接触によって生成された産物を検出し(この際、産物によってその遺伝子のCpGジヌクレオチドにおけるシトシン残基のメチル化が示される)、それによって被験細胞の遺伝子のメチル化サイレンシングを検出することによって検出することもできる。例えば、産物は、電気泳動法、クロマトグラフィー法、質量分析法またはこのような方法の組み合わせによって検出可能である。
【0041】
本発明の1つの局面においては、標的遺伝子を含む核酸分子を、メチル化されていないシトシン残基を亜硫酸水素修飾されたシトシン残基に変換する亜硫酸水素イオンを含む化学試薬、例えば亜硫酸水素ナトリウムと接触させた後に、亜硫酸水素イオンで処理した遺伝子配列を、亜硫酸水素修飾されたシトシン残基をウラシル残基に変換するアルカリ性条件に対して曝露させる。亜硫酸水素ナトリウムは、シトシンの5,6二重結合と容易に反応(しかし、メチル化シトシンとはほとんど反応しない)してスルホン化シトシン反応中間体を形成し、これは脱アミノ反応を受けやすいことからスルホン化ウラシルが生じる。このため、アルカリ性条件に対する曝露によってスルホン酸基を除去してウラシルを形成させることができる。続いて、DNAを例えばPCRによって増幅し、シークエンシングを行うことで、すべてのCpG部位のメチル化状態を判定することができる。ウラシルはTaqポリメラーゼによってチミンとして認識され、PCRを行った結果生じる産物は、出発時のテンプレートDNA中に5メチルシトシンがあった位置にシトシンのみを含む。亜硫酸水素イオンで処理した被験細胞の遺伝子配列におけるウラシル残基の量または分布を、同様に処理した対応する非メチル化遺伝子配列と比較することにより、被験細胞からの遺伝子においてウラシル残基の量または分布の減少が検出されれば、被験細胞の標的遺伝子中のCpGジヌクレオチドにおけるシトシン残基のメチル化が示される。ウラシル残基の量または分布を、アルカリ性条件に対する曝露後に、亜硫酸水素イオンで処理した標的遺伝子配列を、ウラシル残基を含むか含まないかのいずれかである(両方ではない)標的遺伝子のヌクレオチド配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドと接触させ、オリゴヌクレオチドの選択的ハイブリダイゼーション(またはその欠如)を検出することによって検出することもできる。
【0042】
本明細書で用いる場合、「選択的ハイブリダイゼーション」または「選択的にハイブリダイズする」または「特異的ハイブリダイゼーション」という用語は、中程度にストリンジェントな、または高度にストリンジェントな条件下で起こり、しかも安定的である2つの核酸分子の相互作用のことを指す。このため、選択的ハイブリダイゼーションは、例えば、オリゴヌクレオチドと標的核酸分子との間で選好的に起こり、1つの遺伝子ファミリーに属する関連性はあるが異なるメンバーをコードする核酸分子との間で起こらないことを含め、オリゴヌクレオチドと標的核酸分子以外の核酸分子との間には実質的に起こらない。一般に、標的核酸分子と選択的にハイブリダイズするプローブまたはプライマーとして有用なオリゴヌクレオチドは、少なくとも約12〜15ヌクレオチド長、一般に少なくとも約18〜20ヌクレオチド長、通常は少なくとも約21〜25ヌクレオチド長、特に約26〜35ヌクレオチド長である。本発明の方法の実施に際して有用なオリゴヌクレオチドの例は、本明細書中の表4に開示されている。
【0043】
選択的ハイブリダイゼーションを可能にする条件は経験的に決定することもでき、または例えば、ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドおよび標的核酸分子の相対的なGC:AT(またはGC:AU)含有量、ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの長さ、およびハイブリダイズさせようとするオリゴヌクレオチドおよび標的配列との間のミスマッチの数(あれば)に基づいて推定することができる(例えば、Sambrook et al.,「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A laboratory manual)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989))。このため、特定レベルのストリンジェンシーを実現するために用いられる条件は、ハイブリダイズする核酸分子の性質に応じて異なると考えられる。もう1つの検討事項は、核酸の1つを、例えばフィルター上に固定化するか否かである。ハイブリダイゼーション条件の例は、ストリンジェンシーの低い順に以下の通りである:2×SSC/0.1%SDS、ほぼ室温(ハイブリダイゼーション条件);0.2×SSC/0.1%SDS、ほぼ室温(低ストリンジェンシー条件);0.2×SSC/0.1%SDS、約42℃(中程度ストリンジェンシー条件);および0.1×SSC、約62℃(高ストリンジェンシー条件)。ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄は、これらの条件の1つのみ、例えば高ストリンジェンシー条件のみを用いて行うこともでき、またはそれぞれの条件を例えば10〜15分間ずつ、上に列記した順に、列記した段階のいずれかまたはすべてを繰り返しながら行うこともできる。
【0044】
オリゴヌクレオチドと標的遺伝子(例えば、表1〜3に列記された遺伝子)との選択的ハイブリダイゼーションは、例えば、検出可能な標識を含むオリゴヌクレオチドを用いる方法を実施することによって検出することができる。検出可能な標識は、オリゴヌクレオチドと簡便に結合させ、容易に入手しうる装置を用いて検出することができる任意の分子でありうる。例えば、検出可能な標識は、以下のものでありうる:Cy3、Cy5、Fam、フルオレセイン、ローダミンもしくは緑色蛍光性タンパク質またはそれらの強化型もしくは改変型などの蛍光性化合物;イオウ-35、テクネシウム-99、リン-32、トリチウムまたはヨウ素125などの放射性核種;炭素-13、Gd-157、Mn-55、Dy-162、Cr 52またはFe 56などの常磁性スピン標識;エクオリンなどの発光性化合物;化学発光性化合物;金属キレート;ルシフェラーゼもしくはJ-ガラクトシダーゼなどの酵素、または酵素の基質;または受容体もしくは受容体のリガンド、例えばビオチン。検出可能な標識を検出するための手段は標識の特性に基づいて選択されると考えられ、標識をオリゴヌクレオチドに結合させるための手段についても同様と考えられる(例えば、Hermanson,「バイオコンジュゲートの技法(Bioconjugate Techniques)」(Academic Press 1996)を参照されたい。これは参照として本明細書に組み入れられる)。
【0045】
選択的ハイブリダイゼーションを、例えば、オリゴヌクレオチドをプライマー伸長反応のための基質として利用すること、さらに試料を、検出可能なdNTP(例えば、蛍光標識dNTP、ジゴキシゲニン標識dNTPまたはビオチン標識dNTP)を必要に応じて含む、デオキシリボヌクレオチド(dNTP)およびDNA依存性DNAポリメラーゼと、プライマー伸長反応が進行するのに十分な条件下で接触させること、ならびにプライマー伸長反応の産物を検出することによって検出することもできる。プライマー伸長反応を行うための条件は当技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al., 前記, 1989を参照されたい)。
【0046】
標的遺伝子配列を含む亜硫酸水素イオンで処理した核酸分子におけるアルカリ性条件に対する曝露後のウラシル残基の量または分布を、PCRなどの増幅反応を用いて検出することもできる。増幅反応は、増幅プライマー対のフォワードおよびリバースプライマーと標的核酸分子との選択的ハイブリダイゼーションが可能となる条件下で行われる。一般に、反応は、約pH 7〜9、通常は約pH 8の緩衝水溶液中で行われる。さらに、反応は一般に、プライマーが標的核酸分子に対してモル過剰量となるように、例えば、プライマー:ゲノムDNAの比が約100:1で行われる。試料中の標的核酸分子の量が不明である場合、例えば、生物試料を用いた診断手順の場合には、ある範囲のプライマー量を並行的に処理される試料中に用いることができるが、一般的には少量のプライマーでも増幅反応が進行しうるために十分なモル過剰量が得られると考えられる。
【0047】
デオキシリボヌクレオシド三リン酸dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPを、別個または混合物として合成用混合物に添加し、これにさらに適切な量のプライマーを含め、その結果得られた溶液を約90℃〜100℃に約1〜10分間、好ましくは1〜4分間加熱する。この加熱期間の後に、溶液を、プライマーハイブリダイゼーションのために好ましい室温まで冷却させる。冷却した混合物に対して、プライマー伸長反応を生じさせるために適切な作用因子、一般的にはポリメラーゼを添加し、本明細書に開示した条件(実施例1参照)または当技術分野で知られた他の条件の下で反応を起こさせる。ポリメラーゼが耐熱性である場合には、それを他の試薬とともに添加することができる。ポリメラーゼは、プライマー伸長産物の合成を導くために有用な任意の酵素であってよく、これには例えば、大腸菌DNAポリメラーゼI、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ、その他の入手可能なDNAポリメラーゼ、ポリメラーゼ突然変異体、逆転写酵素、および、当技術分野で周知であって市販されているような、耐熱性酵素を含むその他の酵素が含まれる。増幅産物は、シークエンシング法、オリゴマー制限(Saiki et al., BioTechnology 3: 1008-1012, 1985)、アレル特異的オリゴヌクレオチドプローブ分析(Conner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:278, 1983)、オリゴヌクレオチド連結アッセイ(Landegren et al., Science 241: 1077, 1988)などにより、メチル化または非メチル化として同定しうる(Landegren et al., Science 242: 229-237, 1988も参照のこと)。
【0048】
1つの態様において、核酸分子のメチル化状態を検出するために、メチル化特異的PCR(MSP)などのメチル化特異的増幅反応が、単独で、または亜硫酸水素塩処理と組み合わせて用いられる(米国特許第6,265,171号;第6,200,756号;および第6,017,704号を参照。これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる;実施例1も参照されたい)。MSPは、少数のメチル化アレルの検出および少量の核酸試料(パラフィン包埋材料を含む)の使用を可能にする、特に感度の高い方法であり、例えば単一試料中の非メチル化産物およびメチル化産物の同時検出を含む、多重分析にも簡便に適合化することができ、このようにして内部対照を得ることができる。
【0049】
MSP反応に用いられる増幅プライマー対は、亜硫酸水素塩で処理されていないDNAまたは非修飾DNA、およびメチル化DNAと非メチル化DNAとを特異的に識別するようにデザインされる。非メチル化DNAに対するMSPプライマー対(非メチル化特異的プライマー対)は一般に、メチル化DNA中に保たれたシトシン残基との識別のために、3'CpG対の内部にチミジン残基を有し、アンチセンスプライマーの場合はその相補物が設計される。MSPプライマー対は通常、配列中に比較的少数のシトシンまたはグアニン残基しか含まないが、これはセンス(フォワード)プライマー中にシトシンが存在せず、アンチセンス(リバース)プライマー中にはグアニンが存在しないためである;シトシンは修飾されてウラシルとなり、これは増幅産物中ではチミジンとして増幅される。MSP非メチル化(MSP(U))特異的プライマー対およびMSPメチル化(MSP(M))特異的なものの例は、表4に示されている。例えば、このような方法のために有用な増幅プライマー対には、例えば、以下として示されたメチル化特異的プライマー対が含まれる:カドヘリン3(CDH3)に対する配列番号:3および4;reprimoに対する配列番号:7および8;クローディン5(cLDN5)に対する配列番号:11および12;デスレセプター3(DR3)に対する配列番号:15および16;フォークヘッドボックスE1(FOXE1)に対する配列番号:19および20;癌におけるロイシンジッパーダウンレギュレーティッド1(leucine zipper down-regulated in cancer 1)(LDOC1)に対する配列番号:23および24;LIMホメオボックスタンパク質1(LHX1)に対する配列番号:27および28;ニューロフィラメント重ポリペプチド(NEFH)に対する配列番号:31および32;神経細胞ペントラキシンII(NPTX2)に対する配列番号:35および36;p53誘導タンパク質(PIG11)に対する配列番号:39および40;分泌性アポトーシス関連タンパク質2(SARP2)に対する配列番号:43および44;腫瘍形成のサプレッション14(suppression of tumorigenicity 14)(ST14)に対する配列番号:47および48;SWI/SNF関連遺伝子(SMARCA1)に対する配列番号:51および52;密着結合タンパク質2(TJP2)に対する配列番号:55および56;ユビキチンカルボキシ末端エステラーゼL1(UCHL1)に対する配列番号:59および60;またはウイングレス(wingless)型MMTV挿入部位ファミリーのメンバー7A(WNT7A)に対する配列番号:63および64。このような方法のために有用な増幅プライマー対には、例えば、以下として示された非メチル化特異的プライマー対が含まれる:カドヘリン3(CDH3)に対する配列番号:1および2;reprimoに対する配列番号:5および6;クローディン5(CLDN5)に対する配列番号:9および10;デスレセプター3(DR3)に対する配列番号:13および14;フォークヘッドボックスE1(FOXE1)に対する配列番号:17および18;leucine zipper down-regulated in cancer 1(LDOC1)に対する配列番号:21および22;LIMホメオボックスタンパク質1(LHX1)に対する配列番号:25および26;ニューロフィラメント重ポリペプチド(NEFH)に対する配列番号:29および30;神経細胞ペントラキシンII(NPTX2)に対する配列番号:33および34;p53誘導タンパク質(PIG11)に対する配列番号:37および38;分泌性アポトーシス関連タンパク質2(SARP2)に対する配列番号:41および42;suppression of tumorigenicity 14(ST14)に対する配列番号:45および46;SWI/SNF関連遺伝子(SMARCA1)に対する配列番号:49および50;密着結合タンパク質2(TJP2)に対する配列番号:53および54;ユビキチンカルボキシ末端エステラーゼL1(UCHL1)に対する配列番号:57および58;またはウイングレス型MMTV挿入部位ファミリーのメンバー7A(WNT7A)に対する配列番号:61および62。
【0050】
例示したメチル化特異的および非メチル化特異的なプライマー対、ならびに表1〜3に列記されたものなどの標的遺伝子の部分を含むヌクレオチド配列の入手可能性に鑑みて、表1〜3に列記されたメチル化遺伝子もしくは非メチル化遺伝子、またはその他の同定された標的遺伝子、さらには列記された遺伝子と関連するファミリーのメンバーの増幅のために有用な、そのほかのメチル化特異的および非メチル化特異的なプライマー対を容易に作製しうることは理解されると考えられる。
【0051】
したがって、1つの局面において、亜硫酸水素イオンで処理した標的遺伝子におけるアルカリ処理後のウラシル残基の量または分布を検出するためにMSPが用いられる。このような方法は、遺伝子配列を、第1の増幅プライマー対および第2の増幅プライマー対と、増幅のために適した条件下で接触させることによって実施することができ、この際、第1の増幅プライマー対はフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含み、第1のプライマー対の少なくとも1つのプライマーはウラシル残基を含む標的遺伝子のヌクレオチド配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含み、第2の増幅プライマー対はフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含み、第2のプライマー対の両方のプライマーはシトシン残基を含む標的遺伝子とは選択的にハイブリダイズするが、ウラシル残基を含む標的遺伝子配列とはハイブリダイズせず、第1のプライマー対によって生じる増幅産物(あれば)は第1の長さを有し、第2のプライマー対によって生じる増幅産物(あれば)は第1の長さとは異なる第2の長さを有し、この場合、増幅産物の長さは、被験細胞の標的遺伝子中のCpGジヌクレオチドにおけるウラシル残基の、したがってシトシン残基のメチル化の、量または分布を示す。
【0052】
また、ウラシル残基の量または分布を、遺伝子の5'調節領域を第1の増幅プライマー対および第2の増幅プライマー対と、増幅のために適した条件下で接触させることによって検出することも可能であり、この際、第1の増幅プライマー対はフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含み、第1のプライマー対の少なくとも1つのプライマーはウラシル残基を含む遺伝子の5'調節領域のヌクレオチド配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含み、第2の増幅プライマー対はフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含み、第2のプライマー対の両方のプライマーはシトシン残基を含む遺伝子の5'調節領域のヌクレオチド配列とは選択的にハイブリダイズするが、ウラシル残基を含む遺伝子の5'調節領域の対応するヌクレオチド配列とはハイブリダイズせず、第1のプライマー対によって生じる増幅産物(あれば)は第1の長さを有し、第2のプライマー対によって生じる増幅産物(あれば)は第1の長さとは異なる第2の長さを有し、この場合、増幅産物の長さは、被験細胞の標的遺伝子中のCpGジヌクレオチドにおけるウラシル残基の、したがってシトシン残基のメチル化の、量または分布を示し、これによって被験細胞の遺伝子のメチル化サイレンシングが検出される。
【0053】
また、調節がなされていない増殖を呈する細胞またはそれを呈する疑いのある細胞における遺伝子(例えば、癌と関連性のある遺伝子)のメチル化サイレンシングを、被験細胞を脱メチル剤と接触させ、脱メチル化剤と接触させていない被験細胞におけるRNAの発現レベルとの比較による、その遺伝子によってコードされるRNAの発現亢進を検出することによって検出することもできる。このような方法はさらに、調節がなされた増殖を呈する対応する細胞または対応する細胞の抽出物における遺伝子の5'調節領域のCpG島でのCpGジヌクレオチドにおけるシトシン残基のメチル化(あれば)を検出することも含みうる。脱メチル化剤は、DACなどのメチルトランスフェラーゼ阻害薬でありうる。RNAの発現亢進は、例えばノーザンブロット分析、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応アッセイ、または本明細書に開示したヌクレオチド配列のアレイに対する選択的ハイブリダイゼーションを含む、RNAを検出するための任意の方法を用いて検出することができる。したがって、本発明の方法は、被験細胞または被験細胞の抽出物が、複数の被験細胞のうち1つ、または被験細胞の抽出物、またはそれらの組み合わせを含み;複数のうちの被験細胞のそれぞれ、または被験細胞の抽出物が、同じである、または異なる、またはそれらの組み合わせであるような、ハイスループット形式で行うことができる。
【0054】
本発明の方法をハイスループット形式に適応させるためには、被験細胞または被験細胞の抽出物を、マイクロチップ、スライドグラスまたはビーズなどの固体支持体上にアレイ(これはアドレス指定可能なアレイでありうる)として配置し、細胞(または抽出物)を、本明細書に開示したオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー(またはプライマー対)と逐次的または並列的に接触させる。アレイまたはその他の再現性のあるパターンで配置された試料には、アドレス(すなわち、アレイ上の位置)を割り当てて、それによって試料の源の特定を容易にすることができる。試料をアレイ、特にアドレス指定可能なアレイとして配置することのもう1つの利点は、試料の1つもしくは複数に対してさまざまな時点で試薬を添加もしくは除去するため、または特定の試料に種々の試薬を添加するために自動化システムを用いうることである。多数の試料を同時に調べられるという便利さに加えて、このようなハイスループットアッセイは、単一の試料の2つずつ、3つずつまたはそれ以上のアリコートを調べ、それによって得られる結果の妥当性を高めるための、および、対照試料を被験試料と同じ条件下で調べ、それによって異なるアッセイによる結果を比較するための内部標準を与えるための手段をもたらす。簡便には、アレイ中の1つの位置にある細胞または抽出物を2種類またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー(またはプライマー対)と接触させることができ、この際、オリゴヌクレオチドは異なる様式で標識されている、または識別可能な産物を生じる反応を含み、このようにして多重アッセイを行う手段が得られる。このようなアッセイは、被験細胞における後成的にサイレンシングされた遺伝子を同定する目的で、1つまたは複数の、特に2、3、4、5、10、15、20種またはそれ以上の遺伝子を調べることを可能にする。
【0055】
本発明はまた、後成的サイレンシングされた遺伝子(またはその欠如)を同定するためのプローブまたはプライマーとして有用な可能性のあるオリゴヌクレオチドも提供する。本明細書で用いる場合、「オリゴヌクレオチド」「ポリヌクレオチド」または「核酸分子」という用語は、ホスホジエステル結合によって一つに連結した2種類またはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの配列のことを意味して広義に用いられる。「単離されたポリヌクレオチド」とは、その由来となった生物体の天然のゲノム中でそれと直に隣接している(一方は5'端側に、もう一方は3'端側に)コード配列のいずれとも直に隣接していないポリヌクレオチドのことを指す。したがって、単離されたポリヌクレオチドには、コード領域がそれに関連する調節配列を伴ったものが含まれうる。したがって、この用語には、例えば、ベクター中;自律複製性のプラスミドまたはウイルス中;または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み入れられているか、または他の配列と独立した別個の分子(例えば、cDNA)として存在する、組換えDNAが含まれる。本発明のヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはいずれかのヌクレオチドの修飾形態でありうる。特に、ポリヌクレオチド配列中のメチル化形態のヌクレオチドも含まれる。この用語には一本鎖および二本鎖形態のDNAが含まれる。
【0056】
「遺伝子」という用語もまた、本明細書において、ゲノム中に含まれるポリヌクレオチド配列のことを指して用いられる。しかし、遺伝子の一部分を含む核酸分子を細胞から単離することもでき、またはゲノムDNAとして、例えばハイブリダイゼーション反応またはPCR反応によって調べることもできることが理解される必要がある。したがって、ゲノム中にある場合、遺伝子が開始または終了する特定のヌクレオチド位置は必ずしも明らかではない可能性があるが、本発明の目的においては、遺伝子は、本明細書において同定および/または検討された種々の遺伝子に関して表1〜3に示されたGenBankアクセッション番号に提示されたヌクレオチド配列を少なくとも含む、離散的な核酸分子であるとみなされる。
【0057】
当業者には理解されるように、配列がRNAである場合には、デオキシヌクレオチドA、G、CおよびTは、それぞれリボヌクレオチドA、G、CおよびUによって置き換えられる。ポリペプチドをコードするDNAと選択的にハイブリダイズするのに十分な長さの、少なくとも15塩基長である上記の核酸配列の断片も、同じく本発明に含まれる。
【0058】
核酸配列には、本明細書で提供したポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの保存的変形物をコードする、開示された1つまは複数の配列が含まれる。本明細書で用いる「保存的変形物」という用語は、アミノ酸残基を別の生物学的に類似した残基によって置換することを示す。保存的変形物の例は、1つの疎水性残基(例えばイソロイシン、バリン、ロシンまたはメチオニン)を別のもので置換するか、または、1つの極性残基を別のもので置換する、例えばアルギニンをリジンに、グルタミン酸をアスパラギン酸に、またはグルタミンをアスパラギンに置換することを含む。「保存的変形物」という用語はまた、置換ポリペプチドに対して生じた抗体が非置換ポリペプチドとも免疫反応するように、非置換親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を用いることも含む。
【0059】
本発明の核酸配列は、適切な宿主細胞にDNAを導入することによってインビトロで発現させることができる。「宿主細胞」とは、その中でベクターを増殖させて、そのDNAを発現させることが可能な細胞のことである。細胞は原核細胞でも真核細胞でもよい。この用語はまた、対象の宿主細胞のあらゆる子孫も含む。複製過程で変異が生じる場合があるため、すべての子孫が親細胞と同一というわけではない可能性があることを理解されたい。しかし、「宿主細胞」という用語を用いる場合には、このような子孫が含まれる。安定的導入の方法(これは外来DNAが継続的に宿主内に維持されることを意味する)は、当技術分野において周知である。
【0060】
1つの局面において、核酸配列を、発現ベクターに挿入してもよい。「発現ベクター」という用語は、目的の遺伝子配列の配列の挿入または組み入れによって操作された、プラスミド、ウイルスまたは当技術分野で知られた他の媒体のことを指す。目的の配列をコードするポリヌクレオチド配列を、発現制御配列と機能的に結合させることができる。「機能的に結合した」とは、このように記載される構成要素がその意図した様式で機能しうるような関係で並置されていることを指す。コード配列と機能的に結合した発現制御配列は、調節配列または発現制御配列に適合した条件下でコード配列の発現が達成されるように連結されている。本明細書で用いる場合、「調節配列」および「発現制御配列」という用語は、機能的に結合している核酸配列の発現を調節する核酸配列のことを指す。発現制御配列が核酸配列の転写、および翻訳(適宜)を制御および調節する場合、発現制御配列はその核酸配列と機能的に結合している。したがって、発現制御配列には、適切なプロモーター、エンハンサー、転写終結因子、タンパク質コード遺伝子前方の開始コドン(すなわちATG)、イントロン用のスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能とする正しい遺伝子リーディングフレームの維持、および終止コドンが含まれうる。「調節配列」および「発現制御配列」という用語は、最小限、その存在が発現に影響を与えうる構成要素を含むものとし、その存在が有益である別の構成要素、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列なども含むことができる。発現制御配列の一例にはプロモーターが含まれる。
【0061】
「プロモーター」は、転写を指令するのに十分な最小配列である。プロモーター依存的な遺伝子発現を、細胞種特異的発現、組織特異的発現または外部シグナルもしくは薬剤による誘導性発現に関して制御可能とするために十分なプロモーターエレメントも本発明に含まれる;このようなエレメントは遺伝子の5'領域または3'領域のいずれに位置してもよい。構成性および誘導性プロモーターの両方が本発明に含まれる(例えば、Bitter et al., Methods in Enzymology 153: 516-544, 1987を参照されたい)。例えば、細菌系にクローニングする場合には、バクテリオファージpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)などの誘導性プロモーターを用いうる。哺乳動物細胞系にクローニングする場合には、哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えば、レトロウイルス末端反復配列;アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を用いうる。組換えDNA技術または合成法によって作製したプロモーターも、本発明の核酸配列の転写を行うために用いうる。
【0062】
本発明において、ポリヌクレオチド配列を、宿主の挿入遺伝子配列の効率的な転写を促すプロモーター配列を含む発現ベクターに挿入してもよい。発現ベクターは典型的には、複製起点、プロモーター、並びに、形質転換細胞の表現型選択を可能とする特異的遺伝子を含む。本発明に用いるために適したベクターは、細菌における発現用のT7系発現ベクター(Rosenberg et al., Gene 56:125, 1987)、哺乳動物細胞における発現用のpMSXND発現ベクター(Lee and Nathans, J. Biol. Chem. 263: 3521, 1988)および昆虫細胞における発現用のバキュロウイルス由来ベクターが非制限的に含まれる。DNAセグメントは、プロモーターなどの調節エレメント(例えば、T7プロモーター、メタロチオネインIプロモーターまたはポリヘドロンプロモーター)と機能的に結合したベクター中に存在させることができる。
【0063】
本発明のポリヌクレオチド配列は、原核細胞または真核細胞のいずれにおいて発現させることもできる。宿主には、微生物、酵母、昆虫および哺乳動物が含まれうる。真核生物配列またはウイルス配列を有するDNA配列を原核細胞で発現させる方法は、当技術分野において周知である。宿主における発現および複製が可能な、生物学的機能を有するウイルスベクターおよびプロモーターDNAベクターは、当技術分野において周知である。このようなベクターは、本発明のDNA配列を組み入れるために用いられる。
【0064】
「形質転換」とは、新たなDNA(すなわち、細胞にとって外因性のDNA)の組み入れ後に細胞で誘導される遺伝的変化のことを意味する。細胞が哺乳動物細胞である場合、遺伝的変化は一般に、細胞のゲノムへのDNAの(すなわち安定的な)導入によって実現される。
【0065】
したがって、「形質転換細胞」とは、組換えDNA技術によって、その内部(またはその細胞の祖先の内部)に目的のDNA分子のコード配列が導入された細胞である。組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来の技術によって行ってもよい。宿主が大腸菌などの原核細胞である場合には、DNA取り込みが可能なコンピテント細胞を、指数増殖期の後に回収した細胞から調製し、その後に、当技術分野で周知の手順を用いるCaCl2法によって処理することができる。または、MgCl2またはRbClを用いることもできる。形質転換を、必要に応じて宿主細胞のプロトプラストを形成させた後に行うこともできる。
【0066】
宿主が真核細胞である場合には、リン酸カルシウム共沈法、従来の機械的手順、例えば、微量注入法、電気穿孔法、リポソーム中に封入したプラスミドの挿入など、またはウイルスベクターなどのようなDNAトランスフェクション法を用いうる。真核細胞に対して、目的の配列をコードするDNA配列、および選択可能な表現型をコードする第2の外来性DNA分子(例えば、単純ヘルペスウイルスキナーゼ遺伝子)による同時形質転換を行うこともできる。もう1つの方法は、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスなどの真核生物ウイルスベクターを用いて、真核細胞を一過的に感染または形質転換させて、タンパク質を発現させることである(例えば、「真核生物ウイルスベクター(Eukaryotic Viral Vectors)」、Cold Spring Harbor Laboratory, Gluzman ed., 1982を参照されたい)。
【0067】
本発明によって提供される、微生物により発現されるポリペプチドまたはその断片の単離および精製を、調製用クロマトグラフィー、ならびにモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いる免疫学的分離を含む、従来の手段によって行ってもよい。
【0068】
1つの態様において、本発明は、実質的に精製されたポリペプチドを提供する。本明細書で用いる「実質的に精製された」という用語は、他のタンパク質、脂質、糖質または天然に付随する他の物質を実質的に含まないポリペプチドのことを意味する。当業者は、標準的なタンパク質精製技術を用いて、ポリペプチド配列を精製することができる。実質的に純粋なポリペプチドは、非還元性ポリアクリルアミドゲル上で1つの主バンドを生じると考えられる。ポリペプチドの純度をアミノ末端アミノ酸配列解析によって決定することもできる。
【0069】
一次アミノ酸配列の軽度の改変により、本明細書に記載した非改変対応ポリペプチドと比べて、実質的に等価な活性を有するタンパク質が得られる可能性がある。このような改変は、部位特異的変異誘発などによる計画的なものであってもよく、自然発生的であってもよい。これらの改変によって作製されたすべてのポリペプチドは、生物活性が依然として存在する限り、本明細書に含まれる。
【0070】
本発明のポリペプチドには、本発明のポリペプチド配列の生物活性を有さない、ドミナントネガティブ形態の本発明のポリペプチドを含む。本発明の「ドミナントネガティブ形態」とは、本発明のポリペプチドと構造的に類似しているが、野生型の本発明の機能を示さないポリペプチドのことである。例えば、ドミナントネガティブな本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドと通常は機能的に相互作用する、上流または下流の成分などの調節因子と結合すること、またはそれらをそれ以外の様式で隔離させることにより、野生型の本発明の機能と干渉しうる。
【0071】
CpG島のメチル化と細胞増殖性疾患との間に明らかな相関があることから、本発明のもう1つの態様においては、細胞増殖性疾患に罹患しているか、または罹患するリスクがある対象における細胞増殖性疾患を検出する方法を提供する。本方法は、対象から採取した核酸含有標本において、遺伝子またはその関連調節領域のメチル化状態をアッセイし(この際、遺伝子またはその関連調節領域の発現状態は細胞増殖性疾患の存在と関連性がある)、遺伝子の領域の異常メチル化を有する対象を細胞増殖性疾患に罹患しているものとして同定することを含む。本方法は、遺伝子の領域の異常なメチル化を、細胞増殖性疾患に罹患していない対象における同じ遺伝子領域と比較して同定することにより、細胞増殖性疾患に罹患しているか、または罹患するリスクのある対象における細胞増殖性疾患の検出をもたらす。
【0072】
異常メチル化には、過剰メチル化CpGリッチ領域(すなわち島)が含まれる。本発明の1つの局面において、CpGリッチ領域は本発明の遺伝子に関連し、メチル化状態依存的にその発現に影響を及ぼす。
【0073】
「細胞増殖性疾患」または「細胞性増殖性疾患」とは、罹患細胞の増殖能が非罹患細胞の正常な増殖能とは異なる、任意の疾患のことである。細胞増殖性疾患の一例は、新形成(neoplasia)である。悪性細胞(すなわち、癌)は、多段階過程の結果として発生する。CpG島のメチル化増加と関連性のある細胞増殖性疾患の具体的で非制限的な例には、低悪性度星細胞腫、未分化星細胞腫、神経膠芽腫、髄芽腫、胃癌、大腸癌、大腸腺腫、急性骨髄性白血病、肺癌、腎癌、膵癌、白血病、乳癌、前立腺癌、子宮内膜癌および神経芽細胞腫がある。本発明の実例となる例は膵癌である。
【0074】
本明細書に記載した細胞増殖性疾患は新生物(neoplasm)でもよい。このような新生物は良性または悪性である。「新生物」という用語は、正常細胞より急速に再生される、新たな異常な細胞増殖または異常細胞の増殖のことを指す。新生物は、組織化されていない塊(腫瘍)を作り出し、これは良性でも悪性でもありうる。例えば、新生物は、頭部、頸部、肺、食道、胃、小腸、結腸、膀胱、腎臓または子宮頸部の新生物であり得る。「良性」という用語は、非癌性の腫瘍のこと、すなわち、その細胞が増殖しないか、または周辺組織に侵襲しないことを指す。「悪性」という用語は、転移性であるか、もはや正常な細胞増殖制御下にない腫瘍のことを指す。
【0075】
細胞増殖性疾患が加齢関連疾患である場合もある。細胞増殖性疾患である加齢関連疾患の例には、例えば、結腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌および黒色腫が含まれる。
【0076】
「核酸含有標本」には、本発明の方法に供される、核酸を含む任意の種類の材料を含まれる。核酸が生物試料中に含まれていてもよい。このような試料には、血清、尿、唾液、血液、脳脊髄液、胸水、腹水、痰、便などの任意の体液、または生検試料が非制限的に含まれる。
【0077】
試料または標本は、その由来にかかわらず、配列が試料中に検出できるほど存在する限り、何らかのCpGリッチDNA配列を含む。ルーチン的な診断検査ではこれらの試料中の癌細胞を同定できない場合もあるが、本発明の方法は、原発性腫瘍または転移に由来する新生物細胞を同定する。本方法は、非侵襲的サンプリング(例えば、体液)ならびに侵襲的サンプリング(例えば、生検)を含む。対象のDNA試料は、血清、血漿、リンパ球、尿、痰、胆汁、便、子宮頸部組織、唾液、涙液、膵液、十二指腸液、脳脊髄液、局所リンパ節、組織病理学的辺縁、および体腔または器官から排出される任意の体液でありうる。したがって、本方法は、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、小腸癌、結腸癌、膀胱癌、腎臓癌、子宮頸部癌、および分析可能な排液を有するその他の種類の臓器を含む、さまざまな種類の腫瘍の非侵襲的な検出を提供する。例えば、原発性乳腺腫瘍に関連した局所リンパ節の新形成を、本発明の方法を用いて検出することができる。頭頸部癌に関係する局所リンパ節には、頸部リンパ節、喉頭前リンパ節、肺食道傍リンパ節および顎下リンパ節が含まれる。乳腺組織癌に関係する局所リンパ節には、腋窩リンパ節および肋間リンパ節が含まれる。試料には、膀胱癌においては尿中DNA、または頭頸部癌患者においては血漿中DNAもしくは唾液中DNAも含まれる。
【0078】
精製形態または非精製形態にある任意の核酸試料を、それが標的遺伝子座を含む核酸配列(例えば、CpG含有核酸)を含むか、または含むことが疑われることを条件として、本発明による出発材料の核酸または酸として利用することができる。一般に、CpG含有核酸はDNAである。しかし、本発明の方法に、例えば、DNA、またはDNAとRNA(メッセンジャーRNAを含む)とを含む試料を用いてもよく、この際、DNAまたはRNAは一本鎖でも二本鎖でもよく、またはDNA-RNAハイブリッドが試料に含まれていてもよい。核酸の混合物を用いてもよい。検出しようとする特定の核酸配列は、大きな分子の一部でもよく、またはその特定の配列が全核酸を構成するような離散的な分子として最初に存在してもよい。調べようとする配列が最初から純粋な形態で存在することは必要ではない;例えばヒト全DNA中に含まれているといったように、核酸は複合的な混合物のわずかな部分でもよい。メチル化CpGの検出に用いられる核酸含有試料は、脳、結腸、泌尿生殖器、肺、腎臓、膵臓、肝臓、食道、胃、造血器、乳房、胸腺、精巣、卵巣および子宮組織を非制限的に含む、任意の源に由来するものでよく、Maniatis, et al.(「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning a Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor, NY, pp 280, 281, 1982)に記載されたものなどのさまざまな技法によって抽出しうる。
【0079】
目的の核酸は、異なる様式でメチル化されたCpG島の存在を検出することが望ましい場合には、任意の核酸でありうる。CpG島には、遺伝子または遺伝子の調節領域に位置するCpG島が含まれる。「CpG島」とは、核酸配列のCpGリッチ領域である。核酸配列には、例えば、MICP 1-42が含まれうる。しかし、CpG配列を含む任意の目的の遺伝子または核酸配列により、本発明の方法を用いて診断情報(すなわち、そのメチル化状態を介して)を得ることができる。
【0080】
さらに、これらのマーカーを1回の増幅反応に多重的に用いることで、多くの癌に対する低コストで信頼性のある癌スクリーニング検査を同時に行うことができる。
【0081】
核酸のCpGリッチ領域に対するDNAマーカーの組み合わせを、1回の増幅反応で増幅させてもよい。マーカーは、例えば、2つ以上の遺伝子座に対するプライマーを組み合わせることにより、1回の増幅反応で多重化される。例えば、尿試料由来のDNAを、MICP38-42遺伝子座の増幅に用いられるものなどの、無作為に標識した3種類の異なるプライマーセットを用いて、同じ増幅反応において増幅させることができる。反応産物を、例えば変性ポリアクリルアミドゲルによって分離し、続いて、可視化および分析のためにフィルムに対して露光させる。一群のマーカーを分析することにより、対象にとってより有用なメチル化プロファイルを作成しうる可能性が高くなる。
【0082】
試料が純粋でない場合(例えば、血漿、血清、便、精液、痰、唾液、脳脊髄腋もしくは血液、またはパラフィン中に包埋された試料)には、増幅前に、液体中に含まれる細胞、組織または試料の動物細胞膜を溶解し、そこに含まれる核酸を露出させるために有効な試薬で処理してもよい。試料由来の核酸を精製または部分精製する方法は当技術分野において周知である(例えば、Sambrook et al., 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning a Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Press, 1989、これは本明細書に参照として組み入れられる)。
【0083】
目的の遺伝子またはCpG含有領域における差異を伴うメチル化状態を検出するために、本発明の方法は、このような差異を伴うメチル化を検出するための当技術分野で知られた任意の手段を含む。例えば、差異を伴うメチル化の検出は、核酸含有標本を、非メチル化シトシンを修飾する作用因子と接触させ、CpG特異的オリゴヌクレオチドプライマー(この際、オリゴヌクレオチドプライマーは、修飾メチル化核酸と非メチル化核酸とを識別する)を用いて標本中のCpG含有核酸を増幅し、増幅段階で生じた増幅産物の有無に基づいてメチル化核酸を検出することを含みうる。この態様には、米国特許第5,786,146号に記載されたPCRに基づく方法が含まれ、これはその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0084】
初めて、多くの遺伝子のメチル化状態が細胞増殖性疾患、より詳細には膵癌と相関づけられた。このような遺伝子およびそのNCBIアクセッション番号の例は、クローンの位置を含め、表1〜3に示されている。
【0085】
もう1つの態様において、差異を伴うメチル化の検出は、CpG含有核酸を含むことが疑われる核酸試料を、非メチル化CpG部位のみを切断するメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼと、非メチル化核酸が切断される条件下および時間にわたって接触させることによって達成される。試料をさらに、メチル化CpG部位および非メチル化CpG部位の両方を切断するメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼのアイソシゾマーと、メチル化核酸が切断される条件下および時間にわたって接触させる。オリゴヌクレオチドを、制限エンドヌクレアーゼにより切断された核酸とオリゴヌクレオチドが連結する条件下および時間にわたって核酸試料に対して加え、消化された核酸を、オリゴヌクレオチドに対して相補的なプライマーを用いるPCRなどの従来の方法によって増幅する。同定の後に、メチル化CpG含有核酸は当業者に周知の方法を用いてクローニングしうる(Sambrook et al., 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:a Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Press, 1989を参照)。
【0086】
本明細書で用いる「メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼ」とは、その認識部位の一部としてCGを含み、Cがメチル化されている場合に、Cがメチル化されていない場合と比べて活性が変化する制限エンドヌクレアーゼである。好ましくは、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼは、Cがメチル化されている場合には抑制された活性を示す(例えば、SmaI)。メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼの具体的で非制限的な例には、SmaI、BssHII、またはHpaIIが含まれる。このような酵素は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。その他のメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼも当業者に周知であり、これには例えば、SacII、EagIおよびBstUIが非制限的に含まれる。メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼの「アイソシゾマー」は、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼと同じ認識部位を認識するが、メチル化CGおよび非メチル化CGの両方を切断する制限エンドヌクレアーゼのことである。当業者は、制限エンドヌクレアーゼが核酸を切断するのに適切な条件を容易に決定しうる(Sambrook et al., 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:a Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Press, 1989を参照)。理論によって拘束されることはないが、活発に転写される遺伝子は、一般に、他の遺伝子よりもメチル化CG含有量が少ない。
【0087】
本発明の1つの態様においては、目的の核酸をメチル化感受性エンドヌクレアーゼで切断する。1つの局面において、メチル化感受性エンドヌクレアーゼによる切断により、目的の核酸に十分な突出が作製される。アイソシゾマーによる切断後も、切断産物は依然として十分な突出を有しうる。「突出」とは、鎖の末端において一方の鎖の数塩基が他方の鎖と塩基対を形成していない、2つの鎖を有する核酸のことを指す。「十分な突出」とは、目的のオリゴヌクレオチドの特異的ハイブリダイゼーションを可能にする十分な長さの突出のことを指す。1つの態様において、十分な突出は、少なくとも2塩基長である。もう1つの態様において、十分な突出は、4塩基長またはそれ以上である。目的のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせるために、目的の核酸上に特定配列の突出が求められることがある。この場合には、アイソシゾマーを用いて、目的の核酸に所望の配列を有する突出を作製することができる。
【0088】
この態様のもう1つの局面においては、メチル化感受性エンドヌクレアーゼによる切断により、平滑末端または不十分な突出を有する目的の核酸の反応産物が得られる。この態様において、メチル化感受性エンドヌクレアーゼのアイソシゾマーは、目的の核酸上に十分な突出を作製することができる。「平滑末端」とは、核酸のセンス鎖およびアンチセンス鎖の2つの鎖が平坦な末端のことを指す。
【0089】
十分な突出を目的の核酸上に作製した上で、オリゴヌクレオチドを、メチル化特異的制限エンドヌクレアーゼにより切断しておいた目的の切断した核酸と連結する。「連結」とは、実質的に相補的な配列の塩基対合による、および/または、2つの核酸配列の間の共有結合形成による、2つの核酸配列の付着のことである。本発明の1つの局面において、「オリゴヌクレオチド」は、約2〜約40塩基長の核酸配列である。オリゴヌクレオチドは、ここでは約15〜35塩基長であることが好ましい。
【0090】
1つの態様においては、所望の配列および突出のDNA末端を作製するためにアダプターを用いる。「アダプター」は、一端または両端に十分な一本鎖突出を有する二本鎖核酸配列であり、このため、アダプターは、メチル化感受性制限酵素またはメチル化感受性制限酵素のアイソシゾマーにより切断された、目的の核酸上の十分な突出と塩基対合によって連結しうる。アダプターは、市販のものを入手することもでき、または、2つのオリゴヌクレオチドを利用してアダプターを形成することもできる。したがって、1つの態様においては、2つのオリゴヌクレオチドを用いてアダプターを形成させる;これらのオリゴヌクレオチドは、一本鎖突出を形成する5'および/または3'末端の領域を除き、配列全体にわたって実質的に相補的である。一本鎖突出は、メチル化感受性制限酵素またはメチル化感受性制限酵素のアイソシゾマーにより切断された核酸上の突出に対して相補的であり、このため、目的の核酸上の突出は、適切な条件下でアダプターの3'または5'一本鎖末端と塩基対を形成すると考えられる。条件は、核酸の配列組成(GC対AT)、長さおよび種類に応じて異なると考えられる(Sambrook et al., 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:a Laboratory Manual)」、2nd Ed.;Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, NY, 1998を参照)。
【0091】
オリゴヌクレオチドの連結の後に、目的の核酸を、オリゴヌクレオチドに対して相補的なプライマーを用いて増幅する。特に、本明細書で用いる「プライマー」という用語は、2つまたはそれ以上、好ましくは3つを上回る、より好ましくは8つを上回るデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含む配列のことを指し、この際、配列は、アダプターまたは連結されたオリゴヌクレオチドなどの核酸に対して実質的に相補的であるプライマー伸長産物の合成を開始しうる。合成を導く環境条件には、ヌクレオシド三リン酸および重合のための作用因子(例えば、DNAポリメラーゼ)の存在、ならびに適切な温度およびpHが含まれる。プライマーは、増幅効率を最大にするためには一本鎖であることが好ましいが、二本鎖でもよい。二本鎖である場合には、プライマーをまず使用前に処理し、伸長産物の調製に用いる前にその鎖を分離する。1つの態様において、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、重合の誘導物質の存在下で伸長産物の合成を開始するのに十分な長さでなければならない。プライマーの厳密な長さは、温度、緩衝液およびヌクレオチド組成を含む多くの因子に依存する。オリゴヌクレオチドプライマーは、典型的には、12〜20またはそれ以上のヌクレオチドを含むが、それより少ないヌクレオチドを含む場合もある。
【0092】
本発明のプライマーは、増幅するオリゴヌクレオチドのそれぞれの鎖に対して「実質的に」相補的であるように設計されており、上記で考察したように、適切なGまたはCヌクレオチドを含む。このことは、プライマーが、作用因子が重合を遂行させることを可能にする条件下でそれぞれの鎖とハイブリダイズする程度に十分に相補的でなければならないことを意味する。換言すれば、プライマーは、ハイブリダイズする5'および3'オリゴヌクレオチドに対して十分な相補性を有すべきであり、CpG含有核酸配列の増幅を可能とする必要がある。
【0093】
本発明のプライマーは、関与する反応段階の数に対して指数関数的な量の標的遺伝子座を生じる酵素的連鎖反応であるような増幅過程に用いられる(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、すなわちPCR)。一般的には、一方のプライマーは、遺伝子座のマイナス(-)鎖に対して相補的であり、もう一方は、プラス(+)鎖に対して相補的である。プライマーを変性させた核酸とアニーリングさせ、その後、酵素(例えば、DNAポリメラーゼIの大きな断片(クレノウ)など)およびヌクレオチドを用いて伸長させると、標的遺伝子座配列を含む新たに合成されたプラス鎖およびマイナス鎖が得られる。これらの新たに合成された配列もテンプレートとなるため、変性、プライマーのアニーリングおよび伸長のサイクルを繰り返すことにより、プライマーによって定められた領域(すなわち、標的遺伝子座配列)の指数関数的な生成がもたらされる。連鎖反応の産物は、用いた特定のプライマーの末端に対応する末端を有する離散的な核酸二重鎖である。
【0094】
本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、従来のホスホトリエステル法およびホスホジエステル法またはその自動化された態様といった任意の適切な方法を用いて調製しうる。1つのこのような自動化された態様においては、ジエチルホスホルアミダイトを出発原料として用い、これはBeaucageら(Tetrahedron Letters, 22: 1859-1862, 1981)に記載されたようにして合成しうる。修飾された固相支持体上にオリゴヌクレオチドを合成する方法の1つは、米国特許第4,458,066号に記載されている。
【0095】
目的のCpG含有核酸配列が2つの鎖を含む場合には、それを増幅過程のテンプレートとして用いるために、核酸鎖を分離することが必要である。鎖の分離は、プライマー伸長産物の合成とは別の段階として、または同時に行うことができる。この鎖分離は、物理的、化学的または酵素的手段を含む、種々の適切な変性条件を用いて行うことができ、「変性」という言葉にはすべてのこのような手段が含まれる。核酸鎖を分離する1つの物理的方法は、核酸を変性するまで加熱することを含む。典型的な熱変性には、約80℃〜105℃の温度で約1〜10分間の時間をかけることが含まれうる。鎖分離を、ヘリカーゼとして知られる酵素クラスの酵素により、または、ヘリカーゼ活性を有し、リボATPの存在下でDNAを変性することが知られている酵素RecAによって誘導することもできる。ヘリカーゼによる核酸の鎖分離のために適した反応条件は、Kuhn Hoffmann-Berling(CSH-Quantitative Biology, 43: 63, 1978)によって記載されており、RecAを用いるための技法は、C. Radding(Ann. Rev. Genetics, 16: 405-437, 1982)に総説されている。
【0096】
1つまたは複数の核酸の相補鎖を分離する場合には、核酸が最初に二本鎖であったか一本鎖であったかにかかわらず、分離された鎖は別の核酸鎖合成のテンプレートとして直ちに用いられる。この合成は、プライマーとテンプレートとのハイブリダイゼーションが可能な条件下で行われる。一般的には、合成は、一般にpHが約7〜9である緩衝水溶液中で起こる。好ましくは、モル過剰量(ゲノム核酸では、プライマー:テンプレートが通常、約108:1)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを、分離したテンプレート鎖を含む緩衝液に加える。しかし、相補鎖の量は、本発明のプロセスを診断用途に用いる場合には不明な可能性があり、このため、相補鎖の量に対するプライマーの量を正確には決定できないことが理解されるであろう。しかし、実際には、加えられるプライマーの量は、増幅しようとする配列が、複雑な長鎖核酸鎖混合物中に含まれている場合には、一般に、相補鎖(テンプレート)の量に比べてモル過剰である。モル大過剰であることが、プロセスの効率を向上させるためには好ましい。
【0097】
デオキシリボヌクレオシド三リン酸dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPを、別々に、またはプライマーとともに適切な量で合成混合物に加え、得られた溶液を約90〜100℃まで約1〜10分間、好ましくは1〜4分間加熱する。この加熱期間後に、溶液を、プライマーのハイブリダイゼーションのために好ましい、ほぼ室温まで冷却する。冷却した混合物に対して、プライマー伸長反応を生じさせるために適切な作用因子(本明細書では「重合用の作用因子」と称する)を添加し、反応を当技術分野で知られた条件下で行わせる。重合用の作用因子は、耐熱性であれば、他の試薬とともに加えてもよい。この合成(または増幅)反応は、室温から、重合用の作用因子がもはや機能しなくなる温度を上回らない温度までの範囲で起こりうる。したがって、例えば、DNAポリメラーゼを作用因子として用いる場合、温度は一般に約40℃を上回らない。最も簡便には、反応は室温で起こる。
【0098】
重合用の作用因子は、酵素を含む、プライマー伸長産物の合成を実現するように機能する任意の化合物または系であり得る。この目的に適した酵素は、例えば、大腸菌DNAポリメラーゼI、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ、その他の入手可能なDNAポリメラーゼ、ポリメラーゼ突然変異体、逆転写酵素、および耐熱性酵素を含む他の酵素(すなわち、変性が起こるのに十分な高温下におかれた後にプライマー伸長を行う酵素、例えばTaq DNAポリメラーゼ)を含む。適切な酵素は、ヌクレオシドの組み合せを適切な様式で促し、各遺伝子座の核酸鎖に対して相補的なプライマー伸長産物を形成すると考えられる。一般に、合成は各プライマーの3'末端で開始され、テンプレート鎖に沿って、合成が終了するまで5'方向に進み、種々の長さの分子を生じると考えられる。しかし、上記と同じプロセスを用いて、5'末端で合成を開始し、逆方向に進行する、重合用の作用因子が存在してもよい。
【0099】
増幅の方法は、本明細書に記載され、当業者に一般的に用いられているPCRによることが好ましい。しかし、代替的な増幅方法も記載されており、それらを用いることもできる。PCR技術およびPCRの多くの変法は周知である。基本的なPCR技術は、Saikiら(1988, Science 239: 487-491)および米国特許第4,683,195号、第4,683,202号および第4,800,159号に記載されており、これらは参照として本明細書に組み入れられる。
【0100】
PCRに一般に必要とされる条件には、マスターカット断片(master-cut fragment)の効率的なコピーのために必要な、温度、塩、陽イオン、pHおよび関連条件が含まれる。PCR条件には、熱変性(すなわち、少なくとも約95℃まで加熱)、プライマー:アダプターのハイブリダイゼーションを許容する温度でのインキュベーション、および増幅酵素によるマスターカットDNA断片のコピーの反復サイクルが含まれる。各変性サイクル後に酵素を加える必要のない、pwo、サーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus)またはサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)DNAポリメラーゼなどの耐熱性増幅酵素が市販されている。酵素的増幅活性のために必要な塩、陽イオン、pHおよび関連因子は、増幅酵素の製造販売元から入手可能である。
【0101】
本明細書で提示される場合、増幅酵素は、例えば上記の手順によるインビトロでの核酸増幅に用いうる任意の酵素である。このような増幅酵素には、pwo、大腸菌DNAポリメラーゼI、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアティクス(Taq)DNAポリメラーゼ、サーモコッカス・リトラリスDNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、T4ポリヌクレオチドキナーゼ、トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素、モロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素、T4 DNAリガーゼ、大腸菌DNAリガーゼまたはQ.βレプリカーゼが含まれる。好ましい増幅酵素は、pwoおよびTaqポリメラーゼである。pwo酵素は、それがDNAを複製する忠実度の点で特に好ましい。
【0102】
ひとたび増幅されれば、核酸をメンブランなどの固相支持体に付着させることができ、目的の任意のプローブとハイブリダイズさせて、任意の核酸配列を検出することができる。核酸配列の付着用のいくつかのメンブランが当業者に知られている。これらのメンブランの具体的で非制限的な例には、ニトロセルロース(NITROPURE)、または、遺伝子発現の検出に用いられる他のメンブラン、例えばポリビニルクロリド、ジアゾ化濾紙およびその他の市販されているメンブラン、例えばGENESCREEN、ZETAPROBE(Biorad)およびNYTRANが含まれる。核酸をこれらのメンブランに付着させるための方法は当業者に周知である。または、スクリーニングを液相で行うこともできる。
【0103】
核酸ハイブリダイゼーション反応において、特定レベルのストリンジェンシーを達成するために用いられる条件は、ハイブリダイズする核酸の性質に応じて異なると考えられる。ハイブリダイゼーション条件の選択においては、例えば、核酸のハイブリダイズ領域の長さ、相補性の程度、ヌクレオシド配列組成(例えば、GC含量対AT含量)および核酸の種類(例えば、RNAかDNAか)を考慮しうる。もう1つの検討事項は、核酸の1つを、例えばフィルター上に固定するか否かである。
【0104】
条件の例は、ストリンジェンシーの低い順に以下の通りである:2×SSC/0.1%SDS、ほぼ室温(ハイブリダイゼーション条件);0.2×SSC/0.1%SDS、ほぼ室温(低ストリンジェンシー条件);0.2×SSC/0.1%SDS、約42℃(中程度ストリンジェンシー条件);および0.1×SSC、約68℃(高ストリンジェンシー条件)。洗浄は、これらの条件の1つのみ、例えば高ストリンジェンシー条件のみを用いて行うこともでき、またはそれぞれの条件を例えば10〜15分間ずつ、上に列記した順に、列記した段階のいずれかまたはすべてを繰り返しながら行うこともできる。しかし、上述したように、最適な条件は、当該の具体的なハイブリダイゼーション反応に応じて異なると考えられ、これは経験的に決定されうる。一般的には、高ストリンジェンシー条件が目的のプローブのハイブリダイゼーションのために用いられる。
【0105】
目的のプローブは、例えば、放射性同位体、蛍光性化合物、生物発光性化合物、化学発光性化合物、金属キレートまたは酵素により、検出可能なように標識することができる。当業者は、プローブに対する結合のために適したその他の標識を把握しているか、またはルーチン的な実験を用いて確認することできる。
【0106】
1つの態様においては、発現差解析法(RDA、Lisitsyn et al., Science 259: 946-951, 1993を参照、これは参照として本明細書に組み入れられる)を、MCAの後にCpG含有核酸に対して行うことができる。MCAは速度論的およびサブトラクティブな濃縮を利用して、核酸断片の1つの集団には存在するが別の集団には存在しない制限エンドヌクレアーゼ断片を精製する。これにより、RDAは、2つの核酸集団の配列間の小さな差異を同定しうる。RDAは、1つの集団からの核酸を「テスター」として用い、第2の集団からの核酸を「ドライバー」として用いて、2つの集団のうち一方に存在する(または存在しない)単一のコピー配列に対するプローブをクローニングする。1つの態様においては、細胞増殖性疾患などの疾患に罹患していない「正常な」個体または試料に由来する核酸を「ドライバー」として用い、細胞増殖性疾患などの疾患に罹患している「罹患」個体または試料に由来する核酸を「テスター」として用いる。1つの態様において、「テスター」として用いる核酸は、低悪性度星細胞腫、未分化星細胞腫、神経膠芽腫、髄芽腫、胃癌、大腸癌、大腸腺腫、急性骨髄性白血病、肺癌、腎癌、膵癌、白血病、乳癌、前立腺癌、子宮内膜癌および神経芽細胞腫などの細胞増殖性疾患に罹患した個体から単離する。「ドライバー」として用いられる核酸は、したがって、それぞれ、正常なアストロサイト、正常なグリア細胞、正常な脳細胞、正常な胃細胞、正常な大腸細胞、正常な白血球、正常な肺細胞、正常な腎臓細胞、正常な乳房細胞、正常な前立腺細胞、正常な子宮細胞および正常なニューロンである。もう1つの態様においては、「ドライバー」として用いる核酸を、低悪性度星細胞腫、未分化星細胞腫、神経膠芽腫、髄芽腫、胃癌、大腸癌、大腸腺腫、急性骨髄性白血病、肺癌、腎癌、膵癌、白血病、乳癌、前立腺癌、子宮内膜癌および神経芽細胞腫などの細胞増殖性疾患に罹患した個体から単離する。「テスター」として用いられる核酸は、したがって、正常なアストロサイト、正常なグリア細胞、正常な脳細胞、正常な胃細胞、正常な結腸直腸細胞、正常な白血球、正常な肺細胞、正常な腎臓細胞、正常な乳房細胞、正常な前立腺細胞、正常な子宮細胞および正常なニューロンである。当業者は、所定の「ドライバー」集団におけるメチル化核酸配列を同定するために有用な「テスター」核酸を容易に同定しうると考えられる。
【0107】
本発明のアッセイに用いられる材料は、キットの調製に理想的に適している。このため、本発明のもう1つの態様によれば、細胞増殖性疾患に罹患しているか、または罹患するリスクがある対象における細胞増殖性疾患の検出のために有用なキットが提供される。本発明のキットは、厳重に封入された状態で試料を収容するように区画化された保持手段、非メチル化シトシンを修飾する試薬を含む第1の容器およびCpG含有核酸の増幅のためのプライマー(この際、プライマーは、修飾メチル化核酸と非メチル化核酸とを識別する)を含む第2の容器を含む1つまたは複数の容器、ならびに任意で、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼを含む第3の容器を含む。本発明に従って用いることが想定されるプライマーには、配列番号:1〜64に示された配列またはその断片を増幅するプライマーが含まれる。
【0108】
もう1つの局面において、キットはハイスループット自動分析のために理想的に適している。すなわち、キットはさらに、上記のようにして調製した被験試料と逐次的または並列的に接触させうる、マイクロチップ、スライドグラスまたはビーズなどの固体支持体上にアレイとして配置された複数のオリゴヌクレオチドを含む。
【0109】
保持手段は、バイアル、チューブなどの1つまたは複数の容器手段を含めるために適したものであり、各々の容器手段は、本方法に用いられる別々の構成要素の1つを含む。本発明の方法に関して本明細書に提示した説明に鑑みて、当業者は容易に、容器手段の中の必要な試薬の割り当てを決定しうると考えられる。例えば、容器手段の1つは、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼにより切断された核酸に対する連結用のオリゴヌクレオチドを含む容器を含むことができる。そのオリゴヌクレオチドに対して相補的なプライマーを含む、1つまたは複数の容器手段も含めることができる。さらに、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼを含む、1つまたは複数の容器手段も含めることができる。また、メチル化感受性制限酵素のアイソシゾマーを含む、1つまたは複数の容器手段も含めることもできる。
【0110】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」「および(and)」および「その(the)」は、別に明示する場合を除き、複数の対象物も含む。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」に対する言及は、そのような細胞の複数も含み、「その制限酵素(the restriction enzyme)」に対する言及は、1つまたは複数の制限酵素および当業者に知られたその同等物への言及を含み、そのほかも同様である。
【0111】
別に指定する場合を除き、本明細書に用いたすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書に記載したものと類似または同等な任意の方法、装置、および材料を本発明の実践または検査に用いることができるが、好ましい方法、装置および材料は以下に述べるものである。
【0112】
本明細書に記載したすべての刊行物はその全体が、本明細書に記載した本発明に関連して用いうる、刊行物に記載された方法を記載および開示する目的で、本明細書に参照として組み入れられる。上記および本文全体を通じて考察した刊行物は、本出願の提出日の以前にさかのぼってそれらの開示を提供する目的のみで提供される。本明細書中のいかなる記載も、本発明者らが先行発明によるこのような開示に先行する権利を持たないことを認めたものとみなされるべきではない。
【0113】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており、明示的にも暗示的にも、何らかの様式、形状または形態に本発明を限定するためのものではない。それらは、用いうるものの典型ではあるものの、当業者に知られた他の手順、方法または技術を代わりに用いることもできる。
【0114】
実施例1
材料および方法
A. 膵臓細胞株の収集および調製
22種類のヒト膵癌細胞株、および正常ヒト膵管上皮(HPDE;Dr. Ming-Sound Tsao, University of Toronto, Toronto, Ontario, Canadaより提供)由来の不死細胞株を本検討に用いた。原発性膵癌組織は、The Johns Hopkins Medical Institutionsで切除された外科標本から入手し、Ueki, Cancer Res., 60: 1835-1839, 2000;Ueki, Cancer Res., 61: 8540-8546, 2001)に記載されたように顕微解剖によって新生物細胞性を高めた。正常膵管上皮細胞は、種々の膵疾患を有する10例の患者(平均年齢64.3歳;範囲36〜83歳)から切除した膵臓からレーザー捕捉顕微解剖システムを用いて選択的に顕微解剖により入手した。膵液試料は、膵管腺癌(患者24例)、慢性膵炎(患者8例)、島細胞腫瘍(患者4例)および漿液性嚢胞腺腫(患者1例)に対する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を受けた37例の患者(平均年齢62.9歳;範囲31〜81歳)から収集した。膵液は外科的切除の時点で、離断された膵管から直接吸引により回収した。
【0115】
B. 5Aza-dCおよび/またはTSAによる処理
4種類の膵癌細胞株(AsPC1、Hs766T、MiaPaCa2およびPanc1)を、5Aza-dC(sigma, St. Louis, MO)およびTSA(Sigma)の単独または組み合わせによって処理した。細胞を5Aza-dC(1μM)に対して4日間連続して曝露させるか、TSA(1μM)に対して24時間連続して曝露させた。細胞株を5Aza-dC(1μM)で4日間処理すると、細胞死の所見を伴わずに、異常メチル化によりサイレンシングされたいくつかの遺伝子の顕著な誘導が引き起こされることが観察された。模擬処理(mock-treated)細胞は同じ容積のPBSのみとともに培養した。組み合わせ処理に関しては、これらの細胞を5Aza-dC(1μM)の存在下で3日間培養し、続いてTSA(0.5μM)によりさらに24時間処理した。
【0116】
C. オリゴヌクレオチドアレイのハイブリダイゼーション
培養細胞からTRIZOL試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて全RNAを単離し、RNeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて精製した。10μgの全RNAから、T7-dT)プライマー(Genset Corp., La Jolla、CA)およびSuperScript Choiceシステム(Invitrogen)を用いて第一鎖および第二鎖cDNAを合成した。精製したcDNAから、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(Enzo Diagnostics, Inc., Farmingdale, NY)を37℃で6時間用いるインビトロ転写反応によって標識cRNAを合成した。このcRNAを、断片化バッファー[40mMトリス酢酸 @ pH 8.1、100mM酢酸カリウムおよび30mM酢酸マグネシウム]中にて94℃で35分にわたり断片化した。続いて、断片化されたcRNAを、18462種の一意的な遺伝子/EST転写物を有するヒトゲノムU133Aチップ(Affymetrix, Snata Clara, CA)と45℃で16時間にわたりハイブリダイズさせた。洗浄および染色の手順は、Affymetrix Fluidics Stationで製造元の指示に従って行った。続いてプローブをレーザースキャナーを用いてスキャンし、各々の転写物に関するシグナル強度(バックグラウンドを差し引き、ノイズに関して調整)を、MicroArray Suite Software 5.0(Affietrix)を用いて算出した。
【0117】
D. 逆転写-PCR(RT-PCR)
4μgの全RNAを、SuperscriptII(Invitrogen)を用いて逆転写した。PCR反応は以下の条件下で行った:(a)95℃、5分;(b)95℃ 20秒、60℃ 20秒および72℃ 20秒を30〜35サイクル;ならびに(c)72℃、4分の最終伸長。プライマー配列は以下の通りとした:
CDH3に関しては、5'-CTCTGTTTAGCACTGATAATG-3'(フォワード)、配列番号:65および
5'-TTTATTAGACTTGAGCTGATTC-3'(リバース)、配列番号:66;
CNPTX2に関しては、5'-CATCGAGCTGCTCATCAAC-3'(フォワード)、配列番号:67および
5'-CTGCTCTTGTCCAAGGATC-3'(リバース)、配列番号:68;
SARP2に関しては、5'-CTGGCCCGAGATGCTTAAG-3'(フォワード)、配列番号:69および
5'-TATTTTCATCCTCAGTGCAAAC-3'(リバース)、配列番号:70;
UCHL1に関しては、5'-CTTCATGAAGCAGACCATTG-3'(フォワード)、配列番号:71および
5'-ATCATGGGCTGCCTGTATG-3'(リバース)、配列番号:72;ならびに
WNT7aに関しては、5'-CGGGAGATCAAGCAGAATC-3'(フォワード)、配列番号:73および
5'-AACGGCCTCGTTGTACTTG-3'(リバース)、配列番号:74。
cDNAの完全性を確かめるために、対照としてグリセルアルデヒド-2-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)も増幅した。
【0118】
E. 亜流酸水素塩処理およびメチル化特異的PCR(MSP)
各遺伝子の5'CpG島のメチル化状態を、Herman、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、93: 9821-9826, 1996による記載の通りにMSPにより決定した。DNA試料を亜硫酸水素ナトリウム(Sigma)により50℃で16時間にわたり処理した。Wizard DNA clean-upシステム(Promega, Madison, WI)による精製後に、亜硫酸水素塩で処理したDNA 1μgを、メチル化DNAまたは非メチル化DNAのいずれかに対して特異的なプライマーを用いて増幅した。プライマーはメチル化DNAと非メチル化DNAとの間の配列の違いを亜硫酸水素修飾の結果として検出するように設計し、最適な特異性が得られるように各プライマー対には少なくとも4つのCpG部位を含めた。本検討で分析した16種の遺伝子に関するプライマー配列は表4に開示されている。PCR条件は以下の通りとした:(a)95℃、5分;b)95℃ 20秒、60℃〜62℃ 20秒および72℃ 30秒を40サイクル;ならびに(c)72℃、4分の最終伸長。各PCR産物5μlを3%アガロースゲルにローディングし、臭化エチジウム染色により可視化した。
【0119】
F. 統計学
2つの処理群のオリゴヌクレオチドマイクロアレイから得られたシグナル強度間の変化倍数解析は、Data Miningソフトウエア(Affymetrix)を用いて行った。膵癌患者および他の膵疾患を有する患者の膵液試料における異常メチル化を、Fisherの直接確率法を用いて比較した。
【0120】
実施例2
膵癌細胞株において5Aza-dCにより誘導される遺伝子の同定
4種類の膵癌細胞株(AsPC1、Hs766T、MiaPaCa2およびPanc1)において5Aza-dCにより誘導される遺伝子発現プロファイルの全体的な変化を、既知遺伝子の13000種の完全長配列をカバーする18462種のプローブセット(転写物)を備えるAffymetrix U133オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて決定した。模擬処理した対応物と比較して、5Aza-dC処理は、シグナル強度の実質的な増加(>5倍)を、AsPC1では225種の転写物(分析した18462種の転写物のうち1.2%)、Hs766Tでは167種の転写物(0.9%)、MiaPaCa2では251種の転写物(1.4%)、およびPancIでは116種の転写物(0.6%)において引き起こした。5Aza-dCで処理した非腫瘍性膵管細胞株HPDEにおける遺伝子発現の変化により、薬剤処理後に発現が誘導された101種の転写物(0.5%)が同定された。非腫瘍性HPDE細胞株でも同じく再活性化された41種の転写物は、正常膵管上皮ではなく膵癌において特異的に異常メチル化された遺伝子を同定するためのこれらの631種の候補から除外した。残った590種の転写物(487種は既知の遺伝子、103種は発現配列タグ)は膵癌において5Aza-dC処理により特異的にアップレギュレートされた。これらの487種の既知の遺伝子のうち、10種は2種類またはそれ以上のプローブセットによって提示されていたため、非腫瘍性HPDE細胞ではなく、1つまたは複数の膵癌細胞株において5Aza-dC処理により顕著にアップレギュレートされたものとして475種の遺伝子が同定された。同定された中で最も興味深い50種の遺伝子に関するデータを表1に列記している。
【0121】
注目されることとして、この大規模な遺伝子の一団は、いくつかの癌精巣抗原(G抗原など)、IFN関連遺伝子(IFN刺激遺伝子など)およびインプリンティング遺伝子(インスリン様増殖因子II)を含んでいたが、このことは5Aza-dCによって誘導される遺伝子に関する従来の報告と一致する。いくつかの遺伝子は5'CpG島のメチル化状態とは無関係に5Aza-dC処理によって誘導されることが報告されているが、今回同定された遺伝子の多くは、膵癌における異常メチル化の標的である可能性がある。事実、本発明者らのアプローチにより、膵癌など癌において異常メチル化されていることが以前から報告されているいくつかの遺伝子、例えばCACNA1G、CDKN1A/p21、p57KIP2、stratifin/14-33σおよびTIMP-3が同定された。
【0122】
実施例3
膵癌細胞株においてTSAにより誘導される遺伝子の同定
同じ4種類の膵癌細胞株においてヒストンデアセチラーゼ阻害薬TSAによって誘導される遺伝子発現プロファイルの全体的な変化について分析した。TSAによる処理は、AsPC1における424種の転写物(分析した18642種の転写物のうち2.3%)、Hs766Tにおける349種の転写物(1.9%)、MiaPaCa2における207種の転写物(1.1%)、Panc1における459種の転写物(2.5%)の顕著な誘導を引き起こした。全体的には、965種の遺伝子および231種の発現配列タグを含む1196種の転写物(6.5%)が、4種類の膵癌細胞株の1つまたは複数においてTSAにより5倍またはそれ以上に誘導された。これらには、いくつかの既知の腫瘍抑制遺伝子または細胞周期調節遺伝子(ING1、p57KIP2、GHES1、CHFR、GADD45Bなど)を含め、ヒストン脱アセチル化によるサイレンシングの新規標的の大規模な一団が含まれた。TSA処理によって誘導された遺伝子の多くは5Aza-dCのみの処理によっても誘導されており、このことはこれらの遺伝子の転写調節にDNAメチル化およびヒストン脱アセチル化の両方が役割を果たしている可能性を示唆する。興味深いことに、Hs766TをTSAで処理すると多くの癌精巣抗原(例えば、G抗原)の発現の有意な増加を引き起こしたが、5Aza-dCで処理してもこれはみられず、一方、他の3種類の細胞株では、これらの遺伝子は5Aza-dCによる処理では誘導されたがTSAでは誘導されなかった。
【0123】
実施例4
両方の作用因子による膵癌細胞株の処理によって誘導される遺伝子の同定
5Aza-dCおよびTSAによる併用処理後の4種類の膵癌細胞株における遺伝子発現プロファイルを決定した。両方の作用因子による処理は、18462種の転写物のうち、AsPC1では422種(2.3%)、Hs766Tでは304種の転写物(1.6%)、MiaPaCa2では243種の転写物(1.3%)、Panc1では196種の転写物(1.1%)の誘導を引き起こした。全体的には、707種の遺伝子および150種の発現配列タグに対応する857種の転写物(1.6%)が、4種類の膵癌細胞株のうち少なくとも1つで誘導された。併用処理によって誘導された707種の遺伝子には、癌において異常メチル化していることが知られているいくつかの遺伝子(例えば、p16およびMLH1)が含まれ、このことから、密にメチル化されたCpG島を有する遺伝子のいくつかは5Aza-dCおよびTSAの併用処理によって再発現するという以前の見解が裏づけられた。この4種類の膵癌細胞株はいずれも、5Aza-dC単独またはTSA単独で処理しても処理期間中に表現型の明らかな変化は生じなかったが、いくつかの膵癌細胞株では5Aza-dCおよびTSAの併用処理により、細胞のわずかな割合で細胞死が誘導された。
【0124】
実施例5
膵癌細胞株における選択された遺伝子の発現およびメチル化の分析
非腫瘍性HPDE細胞ではなく膵癌細胞株の1つまたは複数において5Aza-dC処理によって顕著に(>5倍)アップレギュレートされるものとして同定された457種の遺伝子のリストのうち、癌との関連性があること、または機能的に重要と考えられることが報告されている16種の候補遺伝子を用いて、膵癌における異常メチル化の新規標的を同定した。これらの遺伝子は表4に列記されている。PubMedを用いた文献検索により、この16種の遺伝子のうち14種はいずれの種類の腫瘍においても異常メチル化と関連づけられておらず、一方、SARP2(SFRP1とも呼ばれる)およびTJP2(ZO-2とも呼ばれる)はそれぞれ大腸癌および膵癌で高頻度にメチル化されていることが最近報告されていることが判明した。16種の遺伝子はすべて、5'領域におけるCpG島[GC含有率>50%、CpG:GpC比>0.6、および最小の長さが(200bp)]の基準を満たすCpCリッチ配列を有するものとして同定された。
【0125】
2種類の膵癌細胞株(AsPC1およびMiaPaCa2)において、これらの16種の遺伝子のうち5つ(CDH3、NPTX2、SARP2、UCHL1およびMNT7A)に対するRT-PCRを行い、その結果を対応するマイクロアレイデータの結果と比較したところ、一致する結果が見いだされた(図1A)。
【0126】
続いて、非腫瘍性HPDE細胞におけるこの16種の遺伝子のメチル化状態を決定した。MSPによれば、これらの遺伝子のうち5つ(DR3、LDOC1、NEFH、PIG11およびSMARCA1)はHPDEにおける部分的メチル化を示し、以降の分析から除外した。残りの11種の遺伝子はHPDEでは全くメチル化されておらず、これらの11種の遺伝子のメチル化状態を22種の膵癌細胞株の一団において決定した。図1Bに示されているように、これらの11種の遺伝子すべての過剰メチル化がさまざまな頻度で認められた。最も高頻度にメチル化されていたのはUCHL1(100%がメチル化)であり、続いてCLDN5(95%)、SARP2(91%)、reprimo(91%)、LHX1(77%)、FOXE1(64%)、TJP2(59%)、WNT7A(59%)、CDH3(18%)およびST14(9%)の順であった。異常メチル化遺伝子の数は個々の細胞株によってさまざまであり、細胞株1つ当たりの遺伝子座の平均数は7.6(範囲4〜11)であった(図2)。細胞株のメチル化遺伝子座の数と、K-ras、p53および/またはSMADA4遺伝子における変異の有無に関する遺伝的プロファイルとの間に有意な相関は認められなかった。
【0127】
実施例6
膵癌細胞において異常メチル化される遺伝子の発現の変化のパターン
次に、膵癌において異常メチル化しているものとして同定された遺伝子のメチル化状態と、5Aza-dCおよび/またはTSAによる処理後の発現レベルの変化との関連について分析した。4種類の膵癌細胞株のそれぞれにおける全処理群の間での11種の遺伝子の発現を比較するためのマイクロアレイデータにより、最も多いパターンは、5Aza-dC処理後の弱いまたは中等度の誘導および併用処理後の強い誘導(相乗的)であることが示された(図3)。しかし、遺伝子のいくつかはTSAのみの処理によっても誘導された(例えば、Hs766TおよびPanc1におけるUCHL1)。さらに、個々の細胞株において完全にメチル化されていた遺伝子の再発現は、5Aza-dC処理後も併用処理後も観察されなかった(例えば、MiaPaCa2におけるreprimo、およびHs766TにおけるSARP2)。これは、用いたプライマーが転写調節の決定的な領域をカバーしていなかったことに起因する可能性がある。また、DNAメチル化およびヒストン脱アセチル化以外の他の機序がこれらの遺伝子のサイレンシングに関与していることも考えられる。
【0128】
実施例7
原発性膵癌における多数の遺伝子のメチル化分析
膵癌細胞株において同定された遺伝子の異常メチル化が原発性膵癌でも生じているか否かを検証するために、20件の原発性膵癌および10件の正常膵管上皮における11種の遺伝子のメチル化状態を分析した。異常メチル化は同様に、UCHL1に関しては原発性膵癌の100%、NPTX2に関しては原発性膵癌の100%、SARP2に関しては原発性膵癌の100%、CLDN5に関しては原発性膵癌の90%、WNT7Aに関しては原発性膵癌の85%、reprimoに関しては原発性膵癌の80%、LHX1に関しては原発性膵癌の75%、FOXE1に関しては原発性膵癌の75%、TJP2に関しては原発性膵癌の70%、CDH3に関しては原発性膵癌の20%、ST14に関しては原発性膵癌の10%で検出された。これとは対照的に、正常膵管上皮由来の10件の試料のすべてにおいて、11種の遺伝子のうち8種は全くメチル化されていなかった。3種の遺伝子(UCHL1、WNT7AおよびFOXE1)は、10件の正常膵管上皮のうち1〜3件でメチル化アレルの弱い増幅を示した。これらの結果は、原発性膵癌ならびに膵癌細胞株におけるこれらの11種の遺伝子の異常メチル化パターンを裏づけるものである。
【0129】
実施例8
原発性膵癌のより大規模な一団および膵液試料における選択された遺伝子のメチル化分析
膵癌においてメチル化されているとして同定された遺伝子の診断的能力を検証するために、3種の遺伝子(NPTX2、SARP2およびCLDN5)を選択した。これらの3種の遺伝子は膵癌では高頻度にメチル化されているが、調べた正常膵管上皮のいずれにおいてもメチル化されていないことが判明した。これらの遺伝子座での異常メチル化の存在率の高さを確かめるために、例数をさらに増やして、外科的に切除された43件の原発性膵癌における遺伝子のメチル化状態を分析した。NPTX2、SARP2およびCLDN5の異常メチル化は、これらの43件の原発性膵癌のうち42件(98%)、41件(95%)および35件(81%)で検出され(図4)、これらの遺伝子座のうち少なくとも1つは、調べた原発性腫瘍の100%で過剰メチル化が見いだされた。
【0130】
次に、膵癌患者から上記のようにして収集した膵液試料を、NPTX2、SARP2およびCLDN5の異常過剰メチル化が検出されうるか否かを決定するための分析にかけた。MSPを用いて、膵癌患者からの24件の試料および良性膵疾患患者からの13件の試料を含む合計37件の膵液試料を、この3種の遺伝子のメチル化パターンに関して分析した。膵癌患者からの24件の膵液試料において、NPTX2の異常メチル化は67%に、SARP2は46%に、およびCLDN5は42%に認められた。全体的には、膵癌患者からの膵液試料の75%(24件中18件)が少なくとも1つの遺伝子の異常メチル化を呈し、一方、良性膵疾患患者からの13件の膵液試料は、これらの遺伝子のいずれの過剰メチル化も有していなかった(P<0.0001)。重要なこととして、小さな膵癌(腫瘍径<2cm)を有する患者からの5件の膵液試料において異常メチル化DNAが検出された。
【0131】
実施例9
概括
膵癌における異常メチル化の標的である可能性があるものを同定するために、5Aza-dCおよび/またはTSAに対する曝露後に、4種類の膵癌細胞株の遺伝子発現プロファイルを分析した。かなり多数の遺伝子が、5Aza-dCおよびTSAの単独または組み合わせによって発現が顕著に誘導されるものとして同定された。MSPを用いて、膵癌細胞および切除された一連の原発性膵癌における、11種の選択された遺伝子の異常メチル化パターンを確かめた。これらの遺伝子のほとんどは、いかなる種類の腫瘍においても異常メチル化部位として示唆されていなかった。これらの結果は、遺伝子発現プロファイリングを用いて、膵癌における異常メチル化を呈する新規標的遺伝子を同定しうることを示している。また、これらの異常メチル化遺伝子が、膵癌患者からの膵液試料中には著しい割合で検出されるが、良性膵疾患の患者からの膵液ではそうでないことも示された。これらの結果は、多数の遺伝子における異常過剰メチル化が膵癌における一般的なイベントであることを裏づけるとともに、これらの遺伝子が膵癌の早期発見のための高感度かつ特異的なマーカーとなりうることを示唆する。
【0132】
最近、Suzukiら(Nat. Genet., 31: 141-149, 2002)は、大腸癌において後成的にサイレンシングされる遺伝子に関するスクリーニングのための、cDNAマイクロアレイに基づくアプローチを記載している。彼らは、5Aza-dCおよび/またはTSAで処理した大腸癌細胞株(RKO)における遺伝子発現プロファイルを検討し、大腸癌細胞株および原発性腫瘍においてCpG島過剰メチル化を有する数多くの遺伝子を同定することに成功した;しかし、これらの遺伝子のいくつかは正常結腸組織でもメチル化されていた。わずかなメチル化は正常膵管上皮由来のごく少数の試料においても時折認められたものの、膵癌において異常メチル化されているとして同定された遺伝子のほとんどは、一群の正常膵管上皮において全くメチル化されていなかった。
【0133】
多数の細胞株からのハイスループットオリゴヌクレオチドマイクロアレイデータを用いることの利点は、ヒト癌における異常メチル化の標的となる、かなり多くの候補遺伝子を同定しうる点にある。このようなデータにより、膵癌における異常メチル化によって直接影響される遺伝子の数を堅実に推定することも可能になる。5Aza-dCによる膵癌細胞株の処理は、細胞株1つ当たり平均して〜200種の転写物(116〜251種の転写物の範囲)を誘導した。CpG島を有する16種の遺伝子を、非腫瘍性HPDE細胞ではなく膵癌細胞株において5Aza-dCにより誘導される遺伝子のリストから選択したところ、これらの遺伝子のうち〜70%(16種のうち11種)が膵癌において異常メチル化していることが確かめられた。したがって、膵癌細胞株では平均140種の遺伝子(200種の遺伝子のうち70%)が異常メチル化されている可能性があり、そのうち60種はCpG島にあると予想される[以前の1件の研究では、5Aza-dCによって誘導される遺伝子の60%は5'領域内にCpG島を有しないと見積もられている]。膵癌において60個の異常メチル化CpG島が存在するということは、以下のいくつかの理由から最小限の推定値であると考えられる:分析にはAffimetrix U133Bチップ上のESTの多くの割合を含めなかったこと;異常メチル化CpG島を有する多くの遺伝子の発現は5Aza-dC処理による影響を受けなかった可能性があること;および、5Aza-dCによって誘導される遺伝子を同定するためのカットオフ値として発現の5倍の誘導という厳しいものを用いたこと。
【0134】
以前、Costelloら(Nat. Genet., 24: 132-138, 2000)は、一対の癌をRLGSを用いて検討し、任意の癌において、〜600個のCpG島が異常メチル化されていると推定した。彼らの推定値は、いくつかの理由から本発明者らのものよりも多い。まず、RLGSは遺伝子と関連のないメチル化CpG島も同定する(彼らの検討ではCpG島の〜22%)。5Aza-dCによる処理は、腫瘍において過剰メチル化されているとして彼らが同定したCpG島のうち3分の1のみの発現を誘導したに過ぎなかった。さらに、RLGSは、対応する正常組織が低レベルのメチル化を有する場合にも腫瘍におけるメチル化CpG島を同定する。今回の研究および結果は、ヒト癌ではかなり多くの遺伝子が異常メチル化によってサイレンシングされていることを強く示している。同様に、TSAによって多数の遺伝子が誘導されることは、TSA処理によって癌細胞における遺伝子の2%〜10%が誘導されることを明らかにした以前の報告と一致する。
【0135】
5Aza-dCおよびTSAに対する個々の細胞株の遺伝子発現応答にはばらつきが観察された。特定の遺伝子座にCpC島のメチル化を有するいくつかの細胞株では、5Aza-dC処理後に遺伝子発現が誘導されたが、そうでないものもあった。同じ観察所見はTSA処理についてもみられた。驚いたことに、今回の検討で分析した遺伝子のうち、これらの細胞株の各々において遺伝子がメチル化されていても、4種類の膵癌細胞株のすべてにおいて5Aza-dC処理後に誘導(>5倍)されたものは皆無であった。これは一部には、発現の有意な誘導の指標として5倍というカットオフ値を用いたことを反映している可能性がある。また、細胞株間でのCpG島メチル化の密度の違いおよび転写補助因子のレベルの違いが、5Aza-dCおよびTSAに対する遺伝子発現応答の違いの一因となった可能性もある。検討した4種類の膵癌細胞株のたとえ1つにおいてであっても、5Aza-dC処理によって誘導された遺伝子の一団は、通常、他の膵癌細胞株におけるこれらの遺伝子の異常CpGメチル化の同定につながったため、5Aza-dC処理によって5倍またはそれ以上に誘導されるすべての遺伝子のリストを提供することは有用である。
【0136】
5Aza-dC処理後にアップレギュレートされた、5'CpG島を伴わない多数の遺伝子が同定された。これらの所見は、CpGプロモーターをほとんど伴わない遺伝子であってもDNAメチル化によって調節されうることを意味する。この見解に一致するように、14-3-3σなどのようにCpGが比較的乏しい遺伝子が癌において異常メチル化されていることが観察された。膵癌および他の癌で過剰発現されることが知られており、5Aza-dCによって誘導される遺伝子(例えば、カリクレイン10)も同定された。興味深いことに、カリクレイン10はある種の癌においてメチル化されていることが以前に示されている。この観察所見は、メチル化パターンの変更が、癌において影響される多くの遺伝子の過剰発現ならびに低発現の原因であるという可能性を示唆する。
【0137】
本研究における新規な所見の1つは、膵癌においてCpG島が異常メチル化されているものとして同定された11種の遺伝子のうち4つの発現を、TSAのみで誘導することができたことである。さらに、メチル化CpG島を有することが以前に特徴づけられているいくつかの遺伝子(p57KIP2およびCACNA1Gなど)も、TSAのみによる処理後に再発現した。従来の研究により、密にメチル化されたCpG島を有する遺伝子の発現のためにはTSAのみでは十分でないが、5Aza-dCと併用すると遺伝子発現の誘導を促しうることが判明している。最近、El-Ostaら(Mol. Cell. Biol., 22: 1844-1857, 2002)は、メチルCpG結合タンパク質2がMDR1遺伝子のメチル化依存的サイレンシングに関与すること、および、5-アザシチジンによる処理は、高度にメチル化されたプロモーターからメチル-CpG結合タンパク質2を遊離させ、それによって転写抑制の部分的解除をもたらすが、TSAによる処理ではこれが起こらないことを報告している。遺伝子発現の制御におけるDNAメチル化とヒストン脱アセチル化との間の相関の基礎をなす機序については今後の調査が必要であるが、本発明者らの結果は、TSAのみによる処理で、少なくとも一部の場合には、癌細胞におけるメチル化遺伝子のサイレンシングが解除されるという証拠を提供するものである。
【0138】
メチル化パターンの変化は癌の発生および進行において決定的な役割を果たす。膵癌において異常メチル化されているものとして本明細書において同定された多数の遺伝子は、細胞周期調節(reprimo)、アポトーシス(SARP2)、細胞接着(CDH#)および密着結合障壁(CLDN5およびTJP2)に関与する重要な特性を有することが知られている。これらの遺伝子の異常メチル化およびそれに伴うサイレンシングは膵癌発生にとって機能的に重要な可能性がある。例えば、膵癌において高頻度の過剰メチル化を呈するreprimoは、p53により誘導されるG2細胞周期停止の下流メディエーターである。過剰発現されるとreprimoはG2期での細胞周期停止を誘導し、このことはそれが腫瘍抑制機能を有することを示唆する。p53腫瘍抑制遺伝子およびその下流メディエーター(14-3-3σなど)の機能抑止はヒト癌の発生において最も重要であるため、reprimoの異常メチル化は細胞周期制御の欠陥を招いて、膵腫瘍化の進行の一因になる可能性がある。
【0139】
また、SARP2が膵癌における異常メチル化の高頻度な標的であることも示されている。SARP2は、Wnt腫瘍形成シグナル伝達経路に拮抗するSARP遺伝子ファミリーのメンバーであり、この遺伝子はアポトーシスの調節に関与すると考えられている。SARP2がトランスフェクトされた乳癌細胞は、種々のアポトーシス誘発刺激に対する感受性の増加を示す。したがって、異常メチル化によるSARP2の不活性化は、アポトーシスに対する細胞抵抗性を高めることにより、癌細胞に対して増殖上の優位性を与える可能性がある。興味深いことに、SARP2は最近、大腸癌および胃癌において高頻度に過剰メチル化されているものとして同定されており、このことは、消化器官の腫瘍発生におけるこの遺伝子の全般的な関与を示唆する。
【0140】
種々の癌において異常メチル化されているものとして同定される遺伝子の数は増加しつつあるが、癌の大多数において異常メチル化されていることが報告されている遺伝子は少数に過ぎない。本明細書で採用したアプローチによって5種の遺伝子(UCHL1、NPTX2、SARP2、CLDN5およびreprimo)が同定され、これらはそれぞれ、膵癌細胞株の一団のうち>80%で異常メチル化されていた。さらに、膵癌細胞株でメチル化されていることが判明したこれらの遺伝子はすべて、原発性膵癌でもメチル化されていた。このことは、癌細胞株で同定された異常メチル化遺伝子はその由来となった原発性癌にも往々にして存在するという本明細書で認められた観察所見を裏づける。ある所定の癌において高い頻度で異常メチル化されている遺伝子は、早期癌発見戦略のために特に適している。
【0141】
いくつかの研究が、癌の発見における後成的マーカーの診断的有用性を取り扱っている。メチル化異常は、肺癌患者の血液または痰において、頭頸部癌患者の血清において、乳癌患者の乳管洗浄液において、ならびに、前立腺癌および膀胱癌の患者からの尿中において検出されている。特に、これらの分析に多数の遺伝子を含めることにより、癌診断のための高感度かつ特異的なマーカーが得られるように思われる。3種類のマーカーを用いることにより、膵癌患者からの膵液試料の75%において異常メチル化DNAを検出することが可能であった。
【0142】
本発明を現時点で好ましい態様を参照しながら説明してきたが、本発明の精神から逸脱することなく、さまざまな改変を行いうることが理解されるべきである。したがって、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0143】
【表1】

【0144】
【表2】

【0145】
【表3】

【0146】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1A】膵癌細胞株(AsPC1およびMiaPaCa2)における5つの遺伝子(CDH3、NPTX2、SARP2、UCHL1およびWNT7A)のRT-PCR分析を示している。細胞を5Aza-dC単独、TSA単独または両方の組み合わせによって処理した上でRNA抽出を行った。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をRNA対照として用いた。
【図1B】膵癌細胞株および非腫瘍性膵管細胞株(HPDE)における5つの遺伝子(CDH3、CLDN5、NPTX2、SARP2およびTJP2)のMSP分析を示している。レーンUおよびMにおけるPCR産物は、それぞれ非メチル化テンプレートおよびメチル化テンプレートの存在を示した。
【図2】MSPによって判定した、22種の膵癌細胞株群における11種の遺伝子のメチル化プロファイルをまとめた概略図である。黒ボックスはメチル化されたアレルであり、白抜きボックスは非メチル化アレルである。
【図3】4種類の膵癌細胞株における5Aza-dC、TSAまたは両方の組み合わせによる処理後に膵癌において異常メチル化された11種の遺伝子の発現パターンの図を示している。細胞を5Aza-dC単独、TSA単独または両方の組み合わせによって処理し、オリゴヌクレオチドマイクロアレイハイブリダイゼーションを行った。
【図4】一連の正常膵管上皮、原発性膵癌および膵液試料における3つの遺伝子(CLDN5、NPTX2およびSARP2)のMSP分析を示している。レーンUおよびMにおけるPCR産物は、それぞれ非メチル化テンプレートおよびメチル化テンプレートの存在を示した。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における膵癌を検出する方法であって、
a)対象由来の核酸含有標本を、少なくとも1つの遺伝子または該遺伝子の関連調節領域のメチル化状態の判定を与える作用因子と接触させる工程;および
b)遺伝子または調節領域の諸領域の異常メチル化を同定し、それよって対象における膵癌を検出する工程であって、該異常メチル化は、膵癌を有しない対象における遺伝子または関連調節領域の同じ領域と比較した場合に異なるものとして同定される、工程
を含む方法。
【請求項2】
遺伝子の領域がCpGリッチ領域内に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遺伝子が、表1〜3に列記された少なくとも1つの遺伝子またはそれらの任意の組み合わせより選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
異常メチル化が、膵癌を有しない対象における遺伝子または関連調節領域の同じ領域と比較した場合の過剰メチル化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
領域が遺伝子の調節領域を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
作用因子が、遺伝子内または該遺伝子の関連調節領域内の標的配列とハイブリダイズするプライマー対である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
核酸含有標本が、膵管上皮、膵液または膵臓組織より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
核酸含有標本が膵液である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
膵癌が、膵管腺癌、慢性膵炎、島細胞腫瘍または漿液性嚢胞腺腫より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
膵癌と関連性のあるDNAメチル化によってサイレンシングされる少なくとも1つの遺伝子を同定する方法であって、
a)ゲノムを代表するヌクレオチド配列のアレイを、癌細胞に対応する正常細胞で発現されるRNAにではなく、サイレンシングされた遺伝子の発現を再活性化する少なくとも1つの作用因子と接触させた癌細胞において発現されるRNAに対応する核酸分子とを、核酸サブトラクション産物とアレイの相補的ヌクレオチド配列との選択的ハイブリダイゼーションのために適した条件下で接触させる工程;および、
b)アレイのヌクレオチド配列の部分集団に対する核酸の選択的ハイブリダイゼーションを検出し、それによって、膵癌と関連性のある少なくとも1つの後成的にサイレンシングされる遺伝子を同定する工程であって、
ただし、癌細胞に対応する正常細胞において発現されるRNAに対応する核酸分子は、選択的ハイブリダイゼーションのために適した条件下でヌクレオチド配列の部分集団とはハイブリダイズせず、
アレイのヌクレオチド配列の部分集団と選択的にハイブリダイズする核酸分子は、癌細胞の後成的にサイレンシングされた遺伝子を表す、工程
を含む方法。
【請求項11】
RNAに対応する核酸分子がcDNAを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの作用因子が5アザ2'デオキシシチジン(5Aza-dC)を含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの作用因子がトリコスタチン(TSA)を含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの作用因子が、5アザ2'デオキシシチジン(5Aza-dC)およびトリコスタチン(TSA)の組み合わせを含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのメチル化サイレンシングを受ける遺伝子が膵癌と関連性がある、請求項10記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのメチル化サイレンシングを受ける遺伝子が、表1〜3に列記された遺伝子またはそれらの任意の組み合わせより選択される、請求項10記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのメチル化サイレンシングを受ける遺伝子が、CDH3、reprimo、CLDN5、DR3、FOXE1、LDOC1、LHX1、NEFH、NPTX2、PIG11、SARP2、ST14、SMARCA1、TJP2、UCHL1、WNT7Aまたはそれらの組み合わせより選択される、請求項10記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの癌が癌腫または肉腫である、請求項10記載の方法。
【請求項19】
配列番号:1〜64に示されたフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む増幅プライマー対であって、表1〜3の遺伝子の一部分を増幅することができる増幅プライマー対。
【請求項20】
核酸分子のメチル化された5'調節領域を特異的に増幅することができる、請求項19記載の増幅プライマー対。
【請求項21】
配列番号:3および4、配列番号:7および8、配列番号:11および12、配列番号:15および16、配列番号:19および20、配列番号:23および24、配列番号:27および28、配列番号:31および32、配列番号:35および36、配列番号:39および40、配列番号:43および44、配列番号:47および48、配列番号:51および52、配列番号:55および56、配列番号:59および60、または配列番号:63および64を含む、請求項20記載の増幅プライマー対。
【請求項22】
核酸分子のメチル化されていない5'調節領域を特異的に増幅することができる、請求項19記載の増幅プライマー対。
【請求項23】
配列番号:1および2、配列番号:5および6、配列番号:9および10、配列番号:13および14、配列番号:17および18、配列番号:21および22、配列番号:25および26、配列番号:29および30、配列番号:33および34、配列番号:37および38、配列番号:41および42、配列番号:45および46、配列番号:49および50、配列番号:53および54、配列番号:57および58、または配列番号:61および62を含む、請求項22記載の増幅プライマー対。
【請求項24】
メチル化特異的な増幅プライマー対、非メチル化特異的な増幅プライマー対、または少なくとも1つのメチル化特異的増幅プライマー対と少なくとも1つの非メチル化非特異的増幅プライマー対とを含む組み合わせを含む、少なくとも1つの増幅プライマー対を含むキット。
【請求項25】
メチル化シトシン残基を修飾する試薬をさらに含む、請求項24記載のキット。
【請求項26】
メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼをさらに含む、請求項24記載のキット。
【請求項27】
増幅反応を行うための試薬をさらに含む、請求項24記載のキット。
【請求項28】
対象における膵癌の検出のために有用なキットであって、
a)試料を内部に収容するように区画化された保持手段;
b)非メチル化シトシンを修飾する試薬を含む第1の容器およびCpG含有核酸の増幅のためのプライマーを含む第2の容器を含む、1つまたは複数の容器であって、該プライマーが配列番号:1〜64より選択される容器
を含むキット。
【請求項29】
メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼを含む第3の容器をさらに含む、請求項28記載のキット。
【請求項30】
修飾用試薬が亜硫酸水素塩である、請求項28記載のキット。
【請求項31】
プライマーが、表1〜3に示された標的遺伝子とハイブリダイズする、請求項28記載のキット。
【請求項32】
膵癌を有する対象を治療するための治療レジメをモニターする方法であって、
a)対象から治療前に核酸含有標本を入手する工程;
b)該核酸含有標本を、少なくとも1つの遺伝子または該遺伝子の関連調節領域のメチル化状態の判定を与える作用因子と接触させる工程;
c)遺伝子または調節領域の諸領域の異常メチル化を同定する工程であって、該異常メチル化は、膵癌を有しない対象における遺伝子または関連調節領域の同じ領域と比較した場合に異なっているとして同定される、工程;および
d)治療期間中の遺伝子のメチル化状態の変化を判定し、それによって膵癌対象を治療するための治療レジメをモニターする工程であって、該変化は、遺伝子のメチル化状態を治療前の同じ対象由来の核酸含有試料の同じ遺伝子のメチル化状態と比較することによって判定される、工程
を含む方法。
【請求項33】
遺伝子の領域がCpGリッチ領域内に含まれる、請求項32記載の方法。
【請求項34】
遺伝子が、表1〜3に列記された少なくとも1つの遺伝子またはそれらの任意の組み合わせより選択される、請求項32記載の方法。
【請求項35】
異常メチル化が、膵癌を有しない対象における遺伝子または関連調節領域の同じ領域と比較した場合の過剰メチル化を含む、請求項32記載の方法。
【請求項36】
領域が遺伝子の調節領域を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
作用因子が、遺伝子内または該遺伝子の関連調節領域内の標的配列とハイブリダイズするプライマー対である、請求項32記載の方法。
【請求項38】
核酸含有標本が、膵管上皮、膵液または膵臓組織より選択される、請求項32記載の方法。
【請求項39】
核酸含有標本が膵液である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
膵癌が、膵管腺癌、慢性膵炎、島細胞腫瘍または漿液性嚢胞腺腫より選択される、請求項32記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−524369(P2007−524369A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507248(P2006−507248)
【出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/008061
【国際公開番号】WO2004/083399
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(505011280)ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティー (12)
【Fターム(参考)】