説明

臨界電流密度の磁場角度依存性に優れた超電導体

【課題】従来と比較して磁場角度依存性に優れた超電導体を提供する。
【解決手段】基板上にGdBaCu7-δ(δ=0〜1)の超電導層を形成した酸化物超電導線材において、前記超電導層の内部に、柱状又は棒状のBaZrOが、超電導結晶のc軸に対して傾き、かつ、隣接する長手方向がねじれる状態で分散していることを特徴とする酸化物超電導線材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第二種超電導体の内部に常電導性の粒子を分散した超電導体に関し、特に、臨界電流密度が高く、磁場角度依存性が小さい超電導体に関する。
【背景技術】
【0002】
第二種超電導体である酸化物超電導体膜中に、ナノロッドと呼ばれる、膜厚方向に延びた、常電導物質で構成された柱状又は棒状の結晶を、複数分散し、そのナノロッドをピンニング点とした超電導体膜について種々の検討がされている。
【0003】
このような超電導体膜は、内部に形成されたナノロッドが強力なピンニングセンターとして作用することにより、高い臨界電流密度を有することが知られている。
【0004】
特許文献1には、臨界電流密度が高く、磁場角度依存性が小さい超電導体膜として、REBaCuで表される超電導物質からなる超電導体層中に、Baを含む常電導物質からなり、膜厚方向に間欠的に並んだ柱状結晶が形成された構造が開示されている。
【0005】
しかしながら、超電導線材を用いた、超電導磁気エネルギー貯蔵(SMES)、ケーブル、変圧器等の開発が進み、超電導体のさらなる特性向上が要求されており、従来の磁場角度依存性では不十分となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−130291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の事情にかんがみてなされたものであって、従来と比較して臨界電流密度の磁場角度依存性に優れた超電導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、超電導体内のナノロッド配置について、鋭意検討した。その結果、超電導体内に、ナノロッドを傾斜させ、また、隣接するナノロッドをねじれる状態になるようにすることで、磁場角度依存性を向上させることができる知見を得た。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)基板上にGdBaCu7-δ(δ=0〜1)の超電導層を形成した酸化物超電導線材において、
前記超電導層の内部に、柱状又は棒状のBaZrOが、超電導結晶のc軸に対して傾き、かつ、隣接する長手方向がねじれる状態で分散していることを特徴とする酸化物超電導線材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来にない臨界電流密度の磁場角度依存性が小さい超電導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の超電導体膜の構成の概略を示す図である。
【図2】臨界電流密度と印加磁場角度との関係を示す図であり、(a)は、純GdBaCu7-δの場合、(b)は内部にBaZrOのナノロッドを形成したGdBaCu7-δの場合である。
【図3】本発明の実施例の超電導体膜の断面のSTEM−LAADF像である。
【図4】本発明の実施例の超電導体膜の断面のSTEM−LAADF像の3次元再構築像である。
【図5】本発明の実施例の超電導体膜の断面のab面断面の3次元再構築像から作成した1次元APCs像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る超電導体膜の概略を示す図である。超電導体膜10は、基板20上に形成されており、GdBaCu7-δからなる超電導体層11中に、柱状又は棒状のBaZrO(ナノロッド)12が、複数分散している。
【0015】
BaZrOは、c軸(GdBaCu7-δの成長方向)に対して傾きを有し、おおむね、c軸方向に成長するように形成されている。この傾きは、特に規定するものではないが、1つの超電導結晶内に、0〜60°程度の範囲で、様々な傾きを有するBaZrOが存在することが、臨界電流密度の磁場角度依存性を低減させるためには好ましい。
【0016】
さらに、BaZrOは、隣接する長手方向がねじれる状態で分散している。BaZrOが、隣接するBaZrOとなすねじれ角は、特に規定されるものではなく、それぞれのBaZrOが、隣接するBaZrOと様々なねじれ角でねじれる状態にあることが、臨界電流密度の磁場角度依存性を低減させるためには好ましい。
【0017】
基板20には、Ni、Ni−Cr、Ni−WなどからなるNi基合金基板、Cu、Cu−NiなどからなるCu基合金基板、Fe−Si、ステンレス等からなるFi基合金基板などを用いることができる。また、金属基板の上に、2軸配向した無機材料からなる複数の層を形成した基板を用いることもできる。
【0018】
超電導物質であるGdBaCu7-δと、ナノロッドを構成するBaZrOの比率は、特に制限されないが、通常は、重量比で99.5:0.5〜95:5程度である。
【0019】
BaZrOの比率が小さすぎると、磁場中での臨界電流密度を向上させる効果は得られない。また、一般に、BaZrOの比率が大きくなるにつれて、臨界温度、自己磁場での臨界電流密度等の超電導特性は低下する。BaZrOの比率は、超電導膜製造時の成膜条件や、超電導線材の使用環境(温度、磁場など)によって、最適な比率に設定される。
【0020】
ナノロッドの長さは、特に制限されないが、通常は1〜200nm程度である。ただし、本発明の課題である臨界電流密度の磁場角度依存性の改善に対しては、長さの短いロッドとすることが効果的である。
【0021】
以上説明したように、超電導体膜中にナノロッドを形成することにより、臨界電流密度が高く、磁場角度依存性が小さい超電導体膜を得ることができる。上述のようにナノロッドが形成された超電導体膜の臨界電流密度の磁場角度依存性が小さくなるメカニズムは、様々な方向にナノロッドを配置することで、配置されたナノロッドが様々な角度の磁束ピンニング点として機能するので、構造由来による臨界電流密度の磁場角度依存性の異方性が改善されるものと考えられる。
【0022】
次に、本発明の超電導体膜の製造方法を説明する。
【0023】
本発明の超電導体膜の製造には、例えばパルスレーザ蒸着法(PLD法)、スパッタ法、真空蒸着法などの公知の方法を用いることができる。
【0024】
具体的には、超電導物質とナノロッドを構成する物質を所定の割合で混合して焼結したターゲットを用意し、ターゲットをパルスレーザ蒸着装置に取り付ける。
【0025】
そして、パルスレーザ蒸着装置の中に取り付けられた基板を、減圧された酸素雰囲気下で加熱しつつ、基板上に、膜方向に延びるナノロッドを含む超電導層を形成する。
【0026】
使用する基板は、特に制限されないが、二軸配向基板(PLD−CeO/IBAD−GdZr/Ni−superalloy)や、(PLD−CeO/LaMnO/IBAD−MgO/GdZr/Ni−superalloy)基板等が好適である。
【0027】
上述したように超電導体膜が形成されるので、成膜温度及びパルスレーザエネルギー密度の増加により、基板に到達する吸着原子の移動度を向上させ、かつ、マルチプルーム方式を用いて擬似的にパルスレーザ発振周波数をさげる(成膜時の過飽和度を下げる)ことにより、ナノロッドの長さ、角度を調整することができる。
【実施例】
【0028】
GdBaCu+ZrO(5mol%)、及び、GdBaCu+BaZrO(5mol%)を混合したターゲットを作製し、パルスレーザ蒸着装置に取り付けた。
【0029】
その後、パルスエネルギー500〜600mJ(2〜3J/cmに相当)、パルスレート177Hz(4−plume)、基板温度850−900℃、プロセス圧600mTorrの条件で、PLD法により、成膜を行い、超電導体膜を作製した。
【0030】
基板には、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)により成膜したGdZr層を含む二軸配向基板(PLD−CeO/IBAD−GdZr/Ni−superalloy)を用いた。
【0031】
作製した超電導体膜を、FIB装置で薄片化して、板状及びピラー状のSTEM試料を作製し、STEM−CT法により、BZOナノロッドの分散状態を解析した。
【0032】
<比較例>
純GdBaCuターゲットを作製し、スパッタ装置に取り付けた。
【0033】
その後、パルスエネルギー500〜600mJ(2〜3J/cmに相当)、パルスレート177Hz(4−plume)、基板温度850−900℃、プロセス圧600mTorrの条件で、パルスレーザ蒸着法(PLD法)により、成膜を行い、超電導体膜を作製した。
【0034】
基板には、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)により成膜したGdZr層を含む二軸配向基板(PLD−CeO/IBAD−GdZr/Ni−superalloy)を用いた。
【0035】
作製した超電導体膜を、FIB装置で薄片化して、板状及びピラー状のSTEM試料を作製し、STEM−CT法により、BZOナノロッドの分散状態を解析した。
【0036】
図2に、77.3Kにおける、臨界電流密度と印加磁場の入射角度との関係を示す。(a)は上記の比較例、(b)は上記の実施例の結果である。本発明の超電導体膜は、臨界電流密度の磁場角度依存性が極めて小さいことが分かった。
【0037】
図3に、実施例の超電導体膜の断面のSTEM−LAADF像を、図4に、3次元再構築像を示す。3次元像の再構築には代数的反復(SIRT)法を用い、可視化にはAvizo Fire6.1を使用した。さらに、図5に、ab面断面の3次元再構築像から作成した1次元APCs(artificial pinning centers)像を示す。
【0038】
これらの結果から、本発明の超電導体膜は、超電導層の内部に、超電導結晶のc軸に対して傾いて、かつ、隣接する長手方向がねじれる状態で柱状又は棒状のBaZrOが分散していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、従来にない臨界電流密度の磁場角度依存性が小さい超電導体を得ることができ、SMES、ケーブル、変圧器等に適用することができるので、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0040】
10 超電導体膜
11 超電導体層(GdBaCu7-δ
12 ナノロッド(棒状又は柱状のBaZrO
20 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にGdBaCu7-δ(δ=0〜1)の超電導層を形成した酸化物超電導線材において、
前記超電導層の内部に、柱状又は棒状のBaZrOが、超電導結晶のc軸に対して傾き、かつ、隣接する長手方向がねじれる状態で分散していることを特徴とする酸化物超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−33402(P2012−33402A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172400(P2010−172400)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本顕微鏡学会第66回学術講演会 発表要旨集(発行所:社団法人日本顕微鏡学会 発行日:平成22年5月23日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】