説明

自動二輪車

【課題】ギヤハウジングの小型化と、伝達ロスが増大することの抑制とを両立することができる自動二輪車を提供する。
【解決手段】自動二輪車1は、スイングアーム23と、スイングアーム23と一体に設けられ、スイングアーム23とともにピボット軸25回りに揺動するギヤハウジング31と、ギヤハウジング31に収容され、シャフトドライブ機構41に連結されるピニオンギヤ45と、ギヤハウジング31に収容され、後輪11の回転軸と同軸上に配置され、ピニオンギヤ45と噛み合うリングギヤ47と、を備え、ピニオンギヤ45の回転軸Aは、リングギヤ47の回転中心Pに対して下方にオフセットされている。スイングアーム23の揺動によって、ギヤハウジング31の姿勢は変化し、ギヤハウジング31内のより広い範囲に潤滑油が供給されるので、潤滑油の油量を少なくでき、潤滑油の攪拌ロスを低減でき、潤滑油の温度上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車に係り、特に、シャフトドライブ機構から後輪に動力を伝達する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフトドライブ機構を有する自動二輪車は、シャフトドライブ機構から後輪に動力を伝達する二次減速機構として傘歯車(ベベルギヤ)を備える。傘歯車は互いに噛み合うピニオンギヤ及びリングギヤを有し、シャフトドライブ機構の回転方向を略90度曲げて後輪を回転させる。
【0003】
上述のように二次減速機構として自動二輪車に適用される傘歯車は、いわゆるベベルギヤユニットであり、ピニオンギヤの回転軸とリングギヤの回転軸が交差する(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ピニオンギヤの回転軸をリングギヤの回転中心に対してオフセットした傘歯車(いわゆるハイポイドギヤユニットである)を適用した例も開示する文献も存在する(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に記載に技術
特許文献1に記載の自動二輪車は、シャフトドライブ機構と、シャフトドライブ機構に連動連結されるベベルギヤユニットと、ベベルギヤユニットを収容するギヤハウジングと、ギヤハウジングを一体に支持するリアアームとを備えている。ベベルギヤユニットは、互いに噛み合うピニオンギヤとリングギヤとを備えている。
【0005】
特許文献2に記載の技術
特許文献2に記載の自動二輪車は、シャフトドライブ機構と、シャフトドライブ機構に連動連結されるハイポイドギヤユニットと、ハイポイドギヤユニットを収容するギヤハウジングと、ギヤハウジングを支持するリアアームとを備えている。ハイポイドギヤユニットは、互いに噛み合うピニオンギヤとリングギヤとを備えている。
【0006】
シャフトドライブ機構は、エンジン装置の出力軸の近傍に設けられる単一のユニバーサルジョイントと、ギヤハウジングの近傍に設けられる単一のユニバーサルジョイントとを有し、これら2箇所のユニバーサルジョイントにおいて屈曲可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−72927号公報
【特許文献2】特開2008−87585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、ベベルギヤユニットであるので、比較的効率よくシャフトドライブ機構から後輪に動力を伝達することができる。しかしながら、リングギヤの径やギヤハウジングのサイズが比較的大きくなるという不都合がある。
【0009】
そもそも、ハイポイドギヤユニットは、特許文献2に開示されるハイポイドギヤユニットを含め、一般的には、リングギヤの小径化、及び静粛性に優れるが、歯の噛合い部に滑りを伴うため伝達ロスがあると言われている。
【0010】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ギヤハウジングの小型化と、伝達ロスが増大することの抑制とを両立することができる自動二輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ピニオンギヤの回転軸がリングギヤの回転中心より下方となるようにオフセットしたハイポイドギヤユニットを採用することによって、ギヤハウジングの小容量化を鋭意検討した。
【0012】
特許文献2に開示されるハイポイドギヤユニットは、ピニオンギヤの回転軸がリングギヤの中心点より下方にオフセットされている。しかし、前述のように、ギヤハウジングは同じ姿勢(傾き)のままで上下に移動するため、例えばピニオンギヤの軸受部の潤滑を考慮し潤滑油の油面高さを決めると、比較的高くせざるを得ない。
【0013】
潤滑油の油面が高いと、リングギヤが潤滑油を攪拌する量が多くなり、ハイポイドギヤユニットにおける動力の伝達ロスが増大する。ハイポイドギヤユニット自体、歯の噛み合い部の滑りによる動力損失があることを加味すると、特許文献2に開示されるハイポイドギヤユニットでは、動力の伝達ロスは大きいことを、本発明者らは知見した。
【0014】
このような特許文献2のハイポイドギヤユニットにおいて、ギヤハウジングの縮小化を図ろうとすると、ギヤハウジングの温度が一層高くなるという不都合を、本発明者らは知見した。また、本発明者らは、ギヤハウジングが高温となる原因は、潤滑油の油温が高温になっていることであることを知見した。さらに、本発明者らは、潤滑油の油温が高温となる原因は、ハイポイドギヤは、ギヤの滑りが多く、もともとベベルギヤに比べ油温が高くなり易い上、ギヤハウジングの小型化で放熱量が減少していることを知見した。
【0015】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明は、シャフトドライブ機構によって後輪を駆動する自動二輪車であって、ピボット軸回りに揺動可能に設けられているスイングアームと、前記スイングアームと一体に設けられ、前記スイングアームとともに前記ピボット軸回りに揺動するギヤハウジングと、前記ギヤハウジングに収容され、シャフトドライブ機構の後輪側端部に連結されるピニオンギヤと、前記ギヤハウジングに収容され、前記後輪の回転軸と同軸上に配置されるとともに前記ピニオンギヤと噛み合うリングギヤと、を備え、前記ピニオンギヤの回転軸は、前記リングギヤの回転中心に対して下方にオフセットされている。
【0016】
[作用・効果]本発明によれば、スイングアームによって固定的にギヤハウジングを支持しているので、スイングアームの揺動によってギヤハウジングはピボット軸回りに回転する。すなわち、ギヤハウジングはその姿勢を変えながら上下方向に回転移動する。ギヤハウジングの姿勢変化により、ギヤハウジングの内部の潤滑油は流動し、潤滑油の油面が傾斜する。この結果、ギヤハウジング内のより広い範囲に潤滑油が供給される。換言すれば、潤滑油の油量が比較的少量であり、油面の高さが比較的低い場合であっても、ギヤハウジング内のピニオンギヤやリングギヤなどに潤滑油を十分に供給することができる。このため、ギヤハウジング内に充填する潤滑油の油量を少なくすることができる。この結果、ピニオンギヤやリングギヤによる潤滑油の攪拌ロスを低減し、油温の上昇を抑制することができる。このように、本発明に係る自動二輪車によれば、潤滑油の油温の上昇を抑制することができる小容量なギヤハウジングを備えているので、シャフトドライブ機構から後輪に動力を好適に伝達することができる。
【0017】
上述した発明において、前記ギヤハウジングに設けられ、前記ピニオンギヤを回転可能に保持するピニオンギヤ用軸受部を備え、前記ギヤハウジング内の潤滑油の油量は、センタースタンドを使用して後輪を浮かせているときに潤滑油の油面が前記ピニオンギヤ用軸受部より下方となるように設定されていることが好ましい。センタースタンドを使用して自動二輪車を駐停車しているときは、平地に前輪及び後輪を接触させているときに比べて、スイングアームはピボット軸回りに下方に回転した位置にあり、ギヤハウジング内におけるピニオンギヤ用軸受部の相対的な位置は比較的に高い。このピニオンギヤ用軸受部は潤滑油の供給が必要な部材であるが、走行していないときは潤滑油を供給しなくてもよい。そこで、本発明では、センタースタンドを使用して自動二輪車を駐停車しているときにピニオンギヤ用軸受部が潤滑油に浸からない程度に潤滑油の油量が少なく設定される。このように潤滑油の油量が少なくても、走行中はギヤハウジングが揺動することによって好適にピニオンギヤ用軸受部に潤滑油を供給することができる。また、潤滑油の油量が少ないので、潤滑油の攪拌ロスを低減し、油温の上昇を抑制することができる。
【0018】
また、上述した発明において、前記ギヤハウジングの外面に設けられているフィンを備えていることが好ましい。ギヤハウジングのフィンは効率よく外気に放熱することができる。よって、ギヤハウジング内の潤滑油を好適に冷却することができ、潤滑油が高温になることを好適に抑制することができる。この結果、潤滑油の劣化が抑えられ、潤滑油の油量を少なくしても潤滑油の寿命(交換サイクル)が短くなることがない。よって、潤滑油の油量をさらに低減でき、攪拌ロスによる発熱量を一層抑制することができる。
【0019】
また、上述した発明において、前記フィンは、前記ピニオンギヤと前記リングギヤとが噛み合う部分に対応する位置に少なくとも配置されていることが好ましい。ピニオンギヤとリングギヤとが噛み合う部分から最も大きな熱が発生する。ギヤハウジングの外面の温度分布は、当該部分に対応する位置において最も高くなる。本発明によれば、ギヤハウジングの外面のうち高温になる位置にフィンを配置しているので、ギヤハウジングを効果的に冷却することができる。
【0020】
また、上述した発明において、前記フィンは、前記ギヤハウジングの上部、前記ギヤハウジングの下部、及び、前記ギヤハウジングの両側部のうち後輪側とは反対側の側部である表側部の少なくともいずれかに配置されている外側フィンを含むことが好ましい。ギヤハウジングの上部、下部、及び、表側部のいずれも、自動二輪車の外観に現れる部位であり(換言すれば、自動二輪車の外部に露出しており)、いずれの表面にも好適に走行風が当たる。よって、外側フィンは外気との間で好適に熱交換することができる。
【0021】
また、上述した発明において、前記外側フィンは、自動二輪車の前後方向と略平行であることが好ましい。外側フィンは自動二輪車の前後方向に平行であるので、走行風の流れを妨げない。すなわち、外側フィンの表面を走行風は良好に通過する。よって、外側フィンは外気に好適に熱伝達することができる。
【0022】
また、上述した発明において、前記ギヤハウジングは、自動二輪車の前後方向と略平行な方向に延び、前記ピニオンギヤを収容するための筒状部と、前記筒状部の後端部に連続しており、前記リングギヤを収容するための円盤状部と、を有し、前記外側フィンは、前記筒状部の表側部から略水平方向に突出する水平フィンを含むことが好ましい。走行風が水平フィンに好適に当たるので、水平フィンから外気に好適に放熱することができる。
【0023】
また、上述した発明において、前記外側フィンは、前記筒状部の上部から略垂直方向に延びている垂直フィンを含むことが好ましい。走行風が垂直フィンに好適に当たるので、垂直フィンから外気に好適に放熱することができる。
【0024】
また、上述した発明において、前記フィンは、前記ギヤハウジングの両側部のうち後輪側の側部である裏側部に設けられている裏側フィンを含むことが好ましい。後輪が回転すると、ギヤハウジングの裏側部の周囲に後輪の回転軸回りの風(以下、適宜に「旋回流」という)が発生する。裏側フィンにはこの旋回流が好適に当たるので、裏側フィンから外気に好適に熱を逃がすことができる。
【0025】
また、上述した発明において、前記裏側フィンは、後輪の車軸に対して放射状に形成されていることが好ましい。裏側フィンは後輪の車軸に対して放射状に形成されているので、旋回流が裏側フィンに好適に衝突する。よって、裏側フィンは外気に好適に熱伝達することができる。
【0026】
また、上述した発明において少なくとも前記裏側部の上側の領域に配置され、前記裏側フィン同士の間に異物が進入することを阻止する進入阻止部材を備えていることが好ましい。裏側フィン同士の間に異物が進入することを好適に防止することができる。よって、ギヤハウジング等が異物によって損傷することを防ぐことができる。
【0027】
また、上述した発明において、前記進入阻止部材は、前記ギヤハウジングの裏側部の上側の周縁部に沿って分離して配置され、外気の通過を許容する複数の爪片であることが好ましい。複数の爪片は外気の通過を許容するので、裏側フィンの周囲に外気が滞留する(よどむ)ことがない。また、複数の爪片はギヤハウジングの裏側部の上側の周縁部に配置されているので、裏側フィンと外気との熱交換を妨げない。
【0028】
また、上述した発明において、前記リングギヤの回転によって前記リングギヤとともに連れ回る潤滑油を一時的に溜める一時貯留室を、前記ギヤハウジングの内部に形成する油溜まり部を備えていることが好ましい。リングギヤが回転しているときは、油溜まり部に潤滑油が一時的に溜まり、ギヤハウジング内の潤滑油の油面が下がる。これにより、潤滑油の攪拌ロスを低減し、油温の上昇を抑制することができる。
【0029】
また、上述した発明において、前記油溜まり部は、前記一時貯留室に流れ込む流入口を、前記リングギヤとともに連れ回る潤滑油の流路上に形成することが好ましい。リングギヤとともに連れ回る潤滑油を、一時貯留室に自然に(動力等を使用せずに)流入させることができる。
【0030】
また、上述した発明において、前記ギヤハウジングは、その内奥面から前記リングギヤに向かって突出しているリブ部材を有し、前記油溜まり部は、前記リブ部材の側方に設けられ、前記内奥面と前記リブ部材との間で前記一時貯留室を形成する側壁板を備えていることが好ましい。簡易な構造で一時貯留室を形成することができる。
【0031】
なお、本明細書は、次のような自動二輪車に係る発明も開示している。
(1)上述した発明に係る自動二輪車において、前記ピニオンギヤに動力を伝達するシャフトドライブ機構を備え、前記シャフトドライブ機構は、前記ピボット軸の延長上にあたる位置に設けられた単一の自在軸継手を備えている自動二輪車。
【0032】
前記(1)に記載の発明によれば、シャフトドライブ機構は自在軸継手を備えているので、スイングアームの揺動に応じて好適に屈曲することができる。
【0033】
(2)前記(1)に記載の自動二輪車において、前記自在軸継手は、不等速性である自動二輪車。
【0034】
前記(2)に記載の発明によれば、シャフトドライブ機構を簡易な構造とすることができる。ここで、不等速性の自在軸継手は、たとえばユニバーサルジョイントを含む。
【0035】
(3)前記(1)に記載の自動二輪車において、前記自在継手は、等速性である自動二輪車。
【0036】
前記(3)に記載の発明によれば、シャフトドライブ機構は好適にピニオンギヤに動力を伝達することができる。ここで、等速性の自在軸継手は、たとえばダブルカルダンジョイントや等速ボールジョイントを含む。
【0037】
(4)上述した発明に係る自動二輪車において、前記ギヤハウジングの一側方のみに後輪が設けられている自動二輪車。
【0038】
前記(4)に記載の発明によれば、ギヤハウジングと後輪を適切に配置することができる。また、ギヤハウジングの他側方は何もなく、自動二輪車の外観に現れている(自動二輪車の外部に露出している)。このため、ギヤハウジングの他側方は好適に走行風を受けることができる。
【0039】
(5)上述した発明に係る自動二輪車において、前記ギヤハウジング内の潤滑油の油量は、平地に前輪及び後輪を接触させているときに、前記ピニオンギヤ用軸受部の少なくとも一部が潤滑油に浸かるように設定されている自動二輪車。
【0040】
自動二輪車に乗車する前には、必ず、センタースタンドを退避させて前輪及び後輪を平地に接触させる。このとき、ピニオンギヤ用軸受部の少なくとも一部に潤滑油が供給される。よって、走行し始めるときはいつも、ピニオンギヤ用軸受部は良好に潤滑油が供給された状態である。このように、前記(5)の発明によれば、自動二輪車特有の取り扱いを考慮して、潤滑油の油量を低減させつつ、ピニオンギヤ用軸受部に潤滑油を確実に供給することができる。
【0041】
(6)上述した発明に係る自動二輪車において、前記ギヤハウジング内の潤滑油の油量は、平地に前輪及び後輪を接触させているときに潤滑油の油面が前記ピニオンギヤ用軸受部より下方となるように、かつ、平地に前輪及び後輪を接触させているときのギヤハウジングの位置より上方にギヤハウジングが揺動したときに、前記ピニオンギヤ用軸受部の少なくとも一部が潤滑油に浸かるように設定されている自動二輪車。
【0042】
走行中はギヤハウジングが揺動して好適にピニオンギヤ用軸受部に潤滑油を供給することができる。よって、前記(6)に記載の発明によれば、自動二輪車の走行中の状態を考慮して、ピニオンギヤ用軸受部に適宜に潤滑油を供給可能としつつ、潤滑油の油量をより低減させることができる。
【0043】
(7)上述した発明に係る自動二輪車において、前記フィンは、前記ピニオンギヤに対応する位置に少なくとも配置されている自動二輪車。
【0044】
前記(7)に記載の発明によれば、ギヤハウジングの外面のうち高温になる位置にフィンを配置しているので、ギヤハウジングを効果的に冷却することができる。
【0045】
(8)上述した発明に係る自動二輪車において、前記外側フィンは、前記ピニオンギヤの車両進行方向と略平行である自動二輪車。
【0046】
前記(8)に記載の発明によれば、外側フィンは、車両進行方向と略平行であるので、走行風の流れを妨げにくい。すなわち、外側フィンの表面を走行風が良好に通過し易い。よって、外側フィンは外気との間で好適に熱伝達することができる。
【0047】
(9)上述した発明に係る自動二輪車において、前記外側フィンは、前記ギヤハウジングの上部、下部、及び、表側部の少なくともいずれかの前寄りの部分に配置されている自動二輪車。
【0048】
前記(9)に記載の発明によれば、ギヤハウジングの上部、下部、及び、表側部の各前寄りの部分はいずれも、好適に走行風が当たる。よって、外側フィンは外気との間で好適に熱交換することができる。
【0049】
(10)上述した発明に係る自動二輪車において、前記水平フィンは、前記筒状部の表側部から前記円盤状部の表側部の中央にわたって延びている自動二輪車。
【0050】
前記(10)に記載の発明によれば、ギヤハウジングの外面の温度が高い範囲を好適に冷却することができる。
【0051】
(11)上述した発明に係る自動二輪車において、前記外側フィンは、前記ギヤハウジングの表側部から水平方向に突出する水平フィンを含む自動二輪車。
【0052】
前記(11)に記載の発明によれば、走行風が水平フィンに好適に当たるので、水平フィンから外気に好適に放熱することができる。
【0053】
(12)上述した発明に係る自動二輪車において、前記水平フィンは複数であり、互いに略平行である自動二輪車。
【0054】
前記(12)に記載の発明によれば、略平行に並ぶ複数の水平フィンを備えているので、ギヤハウジングを十分に冷却することができる。
【0055】
(13)上述した発明に係る自動二輪車において、前記外側フィンは、前記ギヤハウジングの上部から略垂直方向に突出する垂直フィンを含む自動二輪車。
【0056】
前記(13)に記載の発明によれば、走行風が垂直フィンに好適に当たるので、垂直フィンから外気に好適に放熱することができる。
【0057】
(14)上述した発明に係る自動二輪車において、前記垂直フィンは複数であり、互いに平行である自動二輪車。
【0058】
前記(14)に記載の発明によれば、略平行に並ぶ複数の垂直フィンを備えているので、ギヤハウジングを十分に冷却することができる。
【0059】
(15)上述した発明に係る自動二輪車において、前記裏側フィンは、前記裏側部の中央部から外周部にわたって直線的に延びている自動二輪車。
【0060】
前記(15)に記載の発明によれば、裏側フィンは直線的に延びているので、旋回流が裏側フィンの全体にわたって略同じ角度(具体的には略直角)で当たる。この結果、裏側フィンの全体から外気に効率良く放熱することができる。また、裏側フィンは裏側部の中央部から外周部にわたって形成されているので、ギヤハウジングを十分に冷却することができる。
【0061】
(16)上述した発明に係る自動二輪車において、前記進入阻止部材は、前記裏側フィン同士の間から抜け落ちることが可能な大きさの異物の進入を許容する自動二輪車。
【0062】
前記(16)に記載の発明によれば、裏側フィン同士の間に詰まるおそれのある異物の進入を阻止しつつ、裏側フィンから外気へ好適に放熱することができる。
【0063】
(17)上述した発明に係る自動二輪車において、隣接する爪片同士の間隔距離は、前記裏側フィン同士の間から抜け落ちることができない異物の大きさの最小値より若干小さい自動二輪車。
【0064】
前記(17)に記載の発明によれば、裏側フィン同士の間に詰まる、または、挟まるおそれのある異物の進入を阻止しつつ、外気が通過可能な間隙を大きく形成することができる。
【0065】
(18)上述した発明に係る自動二輪車において、前記一時貯留室は、前記ギヤハウジングの内部の上方に配置されている自動二輪車。
【0066】
前記(18)に記載の発明によれば、ギヤハウジング内の潤滑油の油面を効果的に下げることができる。
【0067】
(19)上述した発明に係る自動二輪車において、前記一時貯留室の流入口は、前記リングギヤの歯面の側方に配置されている自動二輪車。
【0068】
前記(19)に記載の発明によれば、流入口を通じて、一時貯留室に潤滑油を円滑に流入させることができる。
【0069】
(20)上述した発明に係る自動二輪車において、前記一時貯留室の排出口は、前記ギヤハウジング内と常に連通しており、かつ、前記一時貯留室の流入口に比べて小さい自動二輪車。
【0070】
前記(20)に記載の発明によれば、排出口の排出能力を抑制することで、好適に一時貯留室に潤滑油を溜めることができる。
【0071】
(21)上述した発明に係る自動二輪車において、前記油溜まり部は前記ギヤハウジングの内壁との間で前記一時貯留室を形成する自動二輪車。
【0072】
前記(21)に記載の発明によれば、油溜まり部を簡易な構造で実現することができる。
【0073】
(22)上述した発明に係る自動二輪車において、前記側壁板は、前記リブ部材に取り付けられている自動二輪車。
【0074】
前記(22)に記載の発明によれば、油溜まり部を簡易な構造で実現することができる。
【発明の効果】
【0075】
この発明に係る自動二輪車によれば、スイングアームによって固定的にギヤハウジングを支持しているので、スイングアームの揺動によってギヤハウジングはピボット軸回りに回転する。すなわち、ギヤハウジングはその姿勢を変えながら上下方向に回転移動する。ギヤハウジングの姿勢変化により、ギヤハウジングの内部の潤滑油は流動し、潤滑油の油面が傾斜する。この結果、ギヤハウジング内のより広い範囲に潤滑油が供給される。換言すれば、潤滑油の油量が比較的少量であり、油面の高さが比較的低い場合であっても、ギヤハウジング内のピニオンギヤやリングギヤなどに潤滑油を十分に供給することができる。このため、ギヤハウジング内に充填する潤滑油の油量を少なくすることができる。この結果、ピニオンギヤやリングギヤによる潤滑油の攪拌ロスを低減し、油温の上昇を抑制することができる。このように、本発明に係る自動二輪車によれば、潤滑油の油温の上昇を抑制することができる小容量なギヤハウジングを備えているので、シャフトドライブ機構から後輪に動力を好適に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例に係る自動二輪車の概略構成を示した側面図である。
【図2】図1におけるI−I線断面図である。
【図3】ギヤハウジングの上部及び表側部の斜視図である。
【図4】ギヤハウジングの表側部の側面図である。
【図5】ギヤハウジングの裏側部及び下部の外観斜視図である。
【図6】ギヤハウジングの裏側部の側面図である。
【図7】ギヤハウジングの内部を示す図2の要部拡大図である。
【図8】外側ケースを裏側部側から見た側面図である。
【図9】図8のa−a矢視断面図である。
【図10】図8のb−b矢視断面図である。
【図11】図11(a)は、条件1を模式的に示すギヤハウジングの断面図であり、図11(b)は条件2を模式的に示すギヤハウジングの断面図である。
【図12】変形実施例に係るギヤハウジングの裏側部及び下部の外観斜視図である。
【図13】変形実施例に係るギヤハウジングの裏側部及び下部の外観斜視図である。
【図14】図14(a)は、条件3を模式的に示すギヤハウジングの断面図であり、図14(b)は条件4を模式的に示すギヤハウジングの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
1.自動二輪車の全体概略構成
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。図1は、実施例に係る自動二輪車の概略構成を示した側面図であり、図2は、図1におけるI−I線断面図である。各図において、x方向は車体の前後方向であり、y方向は車体の車幅方向であり、z方向は車体の上下方向である。車体の前後方向、車幅方向、及び、上下方向は互いに直交している。また、車体が直立している状態では車体の前後方向、及び、車幅方向はそれぞれ水平となり、車体の上下方向は鉛直となる。以下の説明において単に「右側」、「左側」と記載するときは、自動二輪車1に乗車した搭乗者から見た場合を基準とする。よって、図1は自動二輪車1の左側面図であり、図1において図面の左側が自動二輪車1の前側である。
【0078】
自動二輪車1は車体フレーム3を備えている。車体フレーム3にはエンジン装置5、燃料タンク7、および、シート9などが固定されている。エンジン装置5は車体フレーム3の下部に配置されている。燃料タンク7は車体フレーム3の上部の前寄りの位置に配置されている。シート9は車体フレーム3の上部の後寄りの位置に配置されている。また、車体フレーム3の下部には、後輪11を浮かせた状態で自動二輪車1を自立させるセンタースタンド13が回動可能に設けられている。
【0079】
車体フレーム3の上部の前端部にはヘッドパイプ15が固定的に連結されている。ヘッドパイプ15はステアリングシャフト(図示省略)をその軸心回りに回転可能に支持している。ステアリングシャフトにはハンドルクラウン17、及び、アンダーブラケット18を介してフロントフォーク19が連結されている。フロントフォーク19の下部には、前輪21が回転可能に支持されている。また、ステアリングシャフトにはハンドルクラウン17を介してハンドル22が連結されている。
【0080】
車体フレーム3の下部の後端部には、スイングアーム23がピボット軸25周りに揺動可能に支持されている。スイングアーム23は、ピボット軸25から後輪11の右側方に延びている右側スイングアーム23R(図2を参照)と、ピボット軸25から後輪11の左側方に延びている左側スイングアーム23Lを有する。
【0081】
スイングアーム23は、リアサスペンション機構27によって車体フレーム3に連結されている。リアサスペンション機構27は、いわゆるボトムリンク式サスペンションであり、ショックアブソーバ27aと、リンク27b、27cとを備えている。リアサスペンション機構27は路面の衝撃を吸収する。
【0082】
左側スイングアーム23Lは、ギヤハウジング31を支持している。ギヤハウジング31は左側スイングアーム23Lの後端部に固定的に連結されており、左側スイングアーム23Lと一体にピボット軸25回りに揺動する。
【0083】
図2を参照する。ギヤハウジング31と右側スイングアーム23Rは、後輪11用の車軸(axle shaft)33を支持している。車軸33の一端はギヤハウジング31に固定的に連結されている。車軸33の他端は、右側スイングアーム23Rの後端部に固定的に連結されている。そして、車軸33はスイングアーム23と一体に揺動する。
【0084】
車軸33は単一の後輪11を回転可能に支持している。よって、ギヤハウジング31の一側方のみに後輪11が設けられており、ギヤハウジング31の他側方には何も設けられていない。すなわち、ギヤハウジング31の他側方は自動二輪車1の外観に現れる(自動二輪車1の外部に露出している)。車軸33は、後輪11と右側スイングアーム23Rとの間の位置でディスブレーキユニット34を支持している。
【0085】
図1、図2を参照する。エンジン装置5はクランクケース35を備えている。クランクケース35内には、クランクシャフトとともに、変速機が設けられている。変速機の出力軸37は、クランクケース35の後部に車幅方向と略平行に設けられている。出力軸37は、エンジン装置5で発生した動力によって、その軸心回りに回転する。
【0086】
出力軸37には、ミドルギヤ部39を介してシャフトドライブ機構41が連結されている。ミドルギヤ部39は傘歯車(ベベルギヤ)であり、互いに噛み合う主動ギヤ39a、及び、従動ギヤ39bを備えている。主動ギヤ39aは、出力軸37と一体に設けられており、従動ギヤ39bはシャフトドライブ機構41の前端部に一体に設けられている。このように構成されるミドルギヤ部39を介して、出力軸37からシャフトドライブ機構41に動力が伝達される。
【0087】
シャフトドライブ機構41の後端部には、リアギヤ部43が連結されている。リアギヤ部43はギヤハウジング31内に収容されている。リアギヤ部43は、互いに噛み合う比較的小径のピニオンギヤ45と比較的大径のリングギヤ47とを備えている。
【0088】
図1に示すように、ピニオンギヤ45の回転軸Aは、前記リングギヤ47の回転中心Pに対して下方にオフセットされている。このピニオンギヤ45が、シャフトドライブ機構41の後端部と連結している。
【0089】
図2を参照する。リングギヤ47は、ギヤハウジング31の外部において、ハブクラッチ部材49とスプライン結合によって連結している。ハブクラッチ部材49は、ボールベアリング50によって車軸33に回転可能に保持されており、リングギヤ47と一体に回転する。ハブクラッチ部材49にはゴムダンパ51が固定されている。
【0090】
後輪11は、キャストホイール53とタイヤ55を備えている。キャストホイール53は2つのボールベアリング57、58によって車軸33に回転可能に保持されている。キャストホイール53のハブ部53aには上述したゴムダンパ51が押しつけられて、面接触している。これにより、ゴムダンパ51とハブ部53aとの間では、衝撃が吸収されつつ、動力が伝達される。このように、リングギヤ47は、ハブクラッチ部材49、及び、ゴムダンパ51を介して後輪11と連結しており、リングギヤ47と後輪11は略一体に回転する。
【0091】
そして、シャフトドライブ機構41が回転すると、リアギヤ部43(ピニオンギヤ5、及び、リングギヤ47)は、シャフトドライブ機構41の回転方向を略90度曲げつつ、シャフトドライブ機構41の回転数を減速させて、後輪11を回転させる。これにより、自動二輪車1は前進する。車両進行方向は、前後方向x前向きである。
【0092】
2.シャフトドライブ機構41の構成
図2を参照して、シャフトドライブ機構41の構成を説明する。シャフトドライブ機構41は、単一の第1ドライブシャフト部41aと、単一のユニバーサルジョイント部41bと、単一の第2ドライブシャフト部41cとを備えている。これら第1ドライブシャフト部41aと、ユニバーサルジョイント部41bと、第2ドライブシャフト部41cは、この順番に接続されている。ユニバーサルジョイント部41bは自在軸継手の一種であり、不等速性を有している。このユニバーサルジョイント部41bによって、第1ドライブシャフト部41aの回転軸と第2ドライブシャフト部41cの回転軸とは屈曲可能である。
【0093】
第1ドライブシャフト部41aの前端部には、上述したミドルギヤ部39の従動ギヤ39bが一体に連結されている。第1ドライブシャフト部41aは、図示省略の軸受部によって回転可能にクランクケース35に支持されている。
【0094】
ユニバーサルジョイント部41bは、その回転中心がピボット軸25の延長上に位置するように配置されている。
【0095】
第2ドライブシャフト部41cは、図示省略の軸受部によって第2ドライブシャフト部41cの軸心回りに回転可能に左側スイングアーム23Lに支持されている。具体的には、左側スイングアーム23Lは略円筒形状を有しており、第2ドライブシャフト部41cは左側スイングアーム23Lの内部に挿入されている。これにより、第2ドライブシャフト部41cは、左側スイングアーム23Lと一体にピボット軸25回りに揺動可能である。
【0096】
第2ドライブシャフト41cの後端部は、歯車型軸継手(ギヤカップリング)59を介してピニオンギヤ45と連結している。歯車型軸継手59は、平歯車(外歯車)が形成された内筒59aと、平歯車と噛み合う内歯車が形成された外筒59bを備えている。内筒59aは第2ドライブシャフト41cの後端部と一体に設けられている。外筒59bはピニオンギヤ45の一端に固定されている。この歯車型軸継手59によって、第2ドライブシャフト41cの回転軸とピニオンギヤ45の回転軸Aとのずれなどが吸収され、第2ドライブシャフト41cからピニオンギヤ45に動力が円滑に伝達される。
【0097】
3.1.ギヤハウジング31の外観およびリアギヤ部43の配置に関する構成
図3は、ギヤハウジング31の上部及び表側部の斜視図であり、図4は、ギヤハウジング31の表側部の側面図である。図5は、ギヤハウジング31の裏側部及び下部の外観斜視図であり、図6は、ギヤハウジング31の裏側部の側面図である。なお、本明細書では、「表側部」は、車幅方向yの両側部のうち、後輪11側とは反対側の側部という意味であり、「裏側部」は、車幅方向yの両側部のうち、後輪11側の側部という意味である。本実施例では、「ギヤハウジング31」の一側部を特定する場合に限らず、後述する「筒状部65」、及び、「円盤状部67」等の一側部を特定する場合にも、適宜、「表側部」、及び、「裏側部」を用いる。
【0098】
図3乃至図6に示すように、ギヤハウジング31は外側ケース61と内側カバー63とを備えている。
【0099】
外側ケース61は、筒形状(四角柱のような形状)を呈する筒状部65と、円盤形状を呈する(換言すれば、椀形状を呈する)円盤状部67とを有している。筒状部65は略前後方向xに延びており、その後端部が円盤状部67に連続している。円盤状部67の中心は車幅方向yを略一致しており、円盤状部67の表側部67oの略中央には開口部Cが形成されており、この開口部Cに車軸33が保持される。円盤状部67の裏側部側には、内側カバー63が連結されている。内側カバー63は、中央に開口部Bを有する環形状の略平板状物である。
【0100】
図4に示されるように、ギヤハウジング31の表側部は、筒状部65の表側部65oと円盤状部67の表側部67oによって構成される。円盤状部67の表側部67oには、ギヤハウジング31内に潤滑油を注入する注入部71と、ギヤハウジング31内の潤滑油を排出する排出部72と、ギヤハウジング31内を大気と通気するブリーザ装置73とが設けられている。また、図6に示されるように、ギヤハウジング31の裏側部は、内側カバー63と、筒状部65の裏側部65iによって構成される。
【0101】
図7を参照して、ギヤハウジング31の内部構成を説明する。図7は、ギヤハウジング31の内部を示す図2の要部拡大図である。左側スイングアーム23Lの後端部は、筒状部65の前端部に固定的に連結されて、筒状部65の軸心が第2ドライブシャフト部41cの回転軸と略一致となるように設定されている。
【0102】
ピニオンギヤ45は、主として筒状部65の内部に、回転軸Aが筒状部65の軸心と略平行となるように配置されている。ピニオンギヤ45は、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76によって回転可能に筒状部65に保持されている。ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76は、この発明におけるピニオンギヤ用軸受部に相当する。
【0103】
リングギヤ47は、円盤状部67と内側カバー63との間に配置されている。リングギヤ47の中央に形成された開口部には、略円筒形状のカラー77が一体に嵌め込まれている。内側カバー63は、リングギヤ47自体を回転可能に保持するボールベアリング78を支持しており、円盤状部67(外側ケース61)は、カラー77を回転可能に保持するニードルベアリング79を支持している。リングギヤ47は、これらボールベアリング78、及び、ニードルベアリング79によって、ギヤハウジング31に回転可能に保持されている。
【0104】
そして、筒状部65の内部、または、筒状部65が円盤状部67に連続している部位の内部が、ピニオンギヤ45とリングギヤ47が噛み合う位置に当たる。換言すれば、ギヤハウジング31の前後方向xの前寄りの部分で、ピニオンギヤ45とリングギヤ47が噛み合う。
【0105】
車軸33は、内側カバー63の開口部B、及び、リングギヤ47の開口部を貫通してギヤハウジング31の内部に挿入されている。車軸33とリングギヤ47との間には、僅かな隙間が確保されている。
【0106】
3.2.ギヤハウジング31のフィンに関する構成
再び、図3、4を参照する。ギヤハウジング31の外面には、自動二輪車1の走行時に走行風を受けて、外気と熱交換する外側フィン83が設けられている。外側フィン83は、水平フィン83hと垂直フィン83vとを有する。図3では走行風の向きW1を併せて示す。
【0107】
水平フィン83hは、筒状部65の表側部65oから円盤状部67の表側部67oの中央にわたる範囲において、略水平方向に突出している。各水平フィン83hは筒状部65の軸心と略平行な平板状物である。したがって、各水平フィン83hは、ピニオンギヤ45の回転軸A、及び、前後方向xとも略平行である。
【0108】
図4に明示されるように、各水平フィン83hは、互いに間隔をあけて筒状部65の表側部65oの全体にわたって上下方向zに並ぶ。ギヤハウジング31を側面視したとき、水平フィン83hが配置されている範囲は、ピニオンギヤ45とリングギヤ47とが噛み合う部分と対応している。各水平フィン83hは外側ケース61と一体に形成されている。
【0109】
垂直フィン83vは、筒状部65の上部65uから円盤状部67の上部67uの中央にわたって、略垂直方向に突出している。各垂直フィン83vは、筒状部65の軸心と略平行な複数(3枚)の平板状物である。したがって、垂直フィン83vは、ピニオンギヤ45の回転軸A、及び、前後方向xとも略平行である。
【0110】
各垂直フィン83vは、互いに間隔をあけて筒状部65の上部65uの全体にわたって車幅方向yに並ぶ。ギヤハウジング31を平面視したとき、垂直フィン83vが配置されている範囲は、ピニオンギヤ45とリングギヤ47とが噛み合う部分に対応している。各垂直フィン83vも外側ケース61と一体に形成されている。
【0111】
図5、図6を参照する。ギヤハウジング31の外面にはさらに、後輪11の回転によって発生する旋回流を受けて、外気と熱交換する裏側フィン85が設けられている。ここで、旋回流は、車軸33回りに回転する気流であり、図6に旋回流の向きW2を示す。
【0112】
裏側フィン85は、内側カバー63から突出している。各裏側フィン85はそれぞれ、車軸33に対して放射状に配置されている。より具体的には、各裏側フィン85は、車軸33を中心とした半径方向に延びる平板状物であり、周方向に間隔を空けて配置されている。各裏側フィン85は、内側カバー63の開口部Bから内側カバー63の周縁部にわたる範囲に形成されている。各裏側フィン85は内側カバー63と一体に形成されている。
【0113】
さらに、内側カバー63の上側の領域には、進入阻止部材87が設けられている。進入阻止部材87は、飛び石などの異物が裏側フィン85同士の間に進入することを阻止する。進入阻止部材87は複数の爪片89によって構成されている。
【0114】
各爪片89は、内側カバー63の上側の周縁部に沿って互いに間隔をあけて配置されている。爪片89同士の間隔距離Eは、内側カバー63と、内側カバー63に対向するゴムダンパ51との隙間から抜け落ちずに詰まるおそれのある小石等の異物の大きさよりも若干小さい値に設定されている。
【0115】
図5、図7に示すように、本実施例では、内側カバー63の表面にさらに、裏側フィン85を横切り、裏側フィン85よりも突出高さが低い環状凸部90が形成されている。そして、この環状凸部90と一対の裏側フィン85とによって区画される上方が開放された空間には、それらと対向するゴムダンパ51との各隙間よりも大きな異物が進入して、裏側フィン85同士の間に詰まるおそれがある。具体的には、図7に図示するように、環状凸部90とゴムダンパ51との離隔距離Dより大きい異物は、内側カバー63とゴムダンパ51の間に詰まってしまう。そこで、本実施例の場合では、爪片89同士の間隔距離Eは、環状凸部90とゴムダンパ51との離隔距離Dより若干小さい値が好ましい。
詰まである。
【0116】
このように構成される進入阻止部材87は、爪片89によって裏側フィン85の間に詰まるおそれのある異物の侵入を阻止しつつ、爪片89同士の間を通じて外気の通過を許容する。なお、爪片89同士の間を通過可能な異物は、裏側フィン85同士の最小間隔(距離)Dよりも小さい物に限られるので、裏側フィン85の間に挟まるおそれがない。
【0117】
3.3.ギヤハウジング31の油溜まり部91に関する構成
図8から図10を参照する。図8は外側ケース61を裏側部側から見た側面図であり、図9は図8のa−a矢視断面図であり、図10は図8のb−b矢視断面図である。
【0118】
ギヤハウジング31の内部には、潤滑油を一時的に溜める油溜まり部91が設けられている。油溜まり部91は、ギヤハウジング31の内壁との間で、一時貯留室Fを形成している。以下、油溜まり部91及び一時貯留室Fについて説明する。
【0119】
図9、図10に示すように、円盤状部67の内奥面67aから、リングギヤ47に向かって突出するリブ部材93が設けられている。リブ部材93は、環状リブ部材93aと直線リブ部材93bとに分けられる。環状リブ部材93aの突出長さは、直線リブ部材93bの突出長さに比べて長い。これら環状リブ部材93a、及び、直線リブ部材93bは、円盤状部67(外側ケース61)と一体に形成されている。
【0120】
図8に示すように、環状リブ部材93aは、ピニオンギヤ45が配置される部分を切り欠いた略円筒形状を呈している。直線リブ部材93bは、車軸33を略中心とした半径方向に延びる平板形状を呈している。環状リブ部材93aと直線リブ部材93bとは各所で互いに交差している。
【0121】
油溜まり部91は、略扇形をした平板状物であって、環状リブ部材93aの先端の上側部分、及び、隣接する2つの直線リブ部材93bと当接する側壁板95を備えている。側壁板95は、環状リブ部材93aと直線リブ部材93bが交差する位置でリブ部材93に固定されている。リングギヤ47の回転方向Gに対して側壁板95の後端95bは、直線リブ部材93bが配置されていない位置に設定され、リングギヤ47の回転方向Gに対して側壁板95の前端95fは、直線リブ部材93bが配置されている位置に設定されている。
【0122】
これにより、環状リブ部材93aを底面とし、円盤状部67の内奥面67a、側壁板95、及び、二つの直線リブ部材93bで囲まれる一時貯留室Fが形成される。この一時貯留室Fは、リングギヤ47の歯面の上側部分と対向している。より詳しくは、一時貯留室Fは、リングギヤ47の歯面47aの側方であって、リングギヤ47の歯面47aと近接している。
【0123】
図8に示すように、2つの直線リブ部材93bで囲まれる側壁板95の上方は、一時貯留室Fに潤滑油が流入する流入口Fiとなる。また、図9に示すように、二つの直線リブ部材93bのうち、リングギヤ47の回転方向Gに対して後方側にある直線リブ93bの上部には、切り欠きによって流入口Fiが形成されている。、これら流入口Fiは、リングギヤ47と連れ回る潤滑油の流路上に位置しており、リングギヤ47が回転すると潤滑油が自然に流れ込むように構成されている。これに対し、図10に示すように、二つの直線リブ部材93bのうち、リングギヤ47の回転方向Gに対して前方側にある直線リブ93bには切り欠きは形成されていない。
【0124】
図8に示すように、側壁板95の下部には一時貯留室Fから潤滑油を排出する小径の排出口Foが形成されている。排出口Foの流路面積は、流入口Fiの流路面積に比べて小さい。
【0125】
一時貯留室Fは排出口Foを通じてギヤハウジング31内と常に連通しているので、潤滑油を貯留した状態を維持することはできない。しかしながら、一時貯留室Fは、回転するリングギヤ47に連れ回る潤滑油が円滑に流入するように構成されているとともに、潤滑油の排出能力を制限しているので、一時的に潤滑油をとどめることができる。その結果、ギヤハウジング31内の潤滑油の油面を一時的に下げることができる。
【0126】
3.4.ギヤハウジング31の構成(潤滑油の油量)
ギヤハウジング31がピボット軸25回りに回転するため、ギヤハウジング31内に設けられる構成と、ギヤハウジング31内の潤滑油の油面との相対的な位置関係は変化する。本実施例では、ピニオンギヤ45を保持するボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76と、ギヤハウジング31内の潤滑油の油面との関係に着目して、ギヤハウジング31の姿勢ごとに両者の位置関係を予め規定する。そして、姿勢ごとに規定した位置関係となるように、潤滑油の油量が設定されている。以下、規定した位置関係を条件1、条件2等と記載して、具体的に説明する。
【0127】
図11(a)は、条件1を模式的に示すギヤハウジング31の断面図であり、図11(b)は条件2を模式的に示すギヤハウジング31の断面図である。図11(a)は、平地に前輪21及び後輪11を接触させているときのギヤハウジング31の姿勢である。また、図11(b)は、センタースタンド13を使用して後輪11を浮かせているときのギヤハウジング31の姿勢である。
【0128】
図11(a)に示すように、条件1は、「平地に前輪21及び後輪11を接触させているときに、ボールベアリング75の少なくとも一部、及び、ニードルベアリング76の少なくとも一部がそれぞれ潤滑油LOに浸かる」ことである。換言すれば、センタースタンド13を使用せずに平地に自動二輪車1を直立させた状態では、潤滑油LOの油面Sがボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76の各下端より上方に位置していなければならない。この条件1は、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの最低量を規定している。
【0129】
図11(b)に示すように、条件2は、「センタースタンド13を使用して後輪11を浮かせているときに、潤滑油LOの油面Sがボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76より下方となる」ことである。換言すれば、センタースタンド13を使用して後輪11を浮かせているときに、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76のいずれも潤滑油LOに一切浸からないことである。なお、センタースタンド13を使用して後輪11を浮かせているときは、ギヤハウジング31はピボット軸25回りに下方に回転するので、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76は油面Sに対して相対的に高くなる。この条件2は、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの最大量を規定している。
【0130】
そして、上述した条件1及び条件2を満たすように、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量が選択、設定されている。
【0131】
4.動作
次に、本実施例に係る自動二輪車1の動作について説明する。
【0132】
4.1.自動二輪車の停車時、または、駐車時
自動二輪車1がセンタースタンド13を使用して後輪11を浮かせた状態であるとき、図11(b)に示すように、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76には潤滑油LOが供給されていない。また、一時貯留室Fには潤滑油LOが貯留されていない状態となっている。
【0133】
4.2.自動二輪車の走行開始時
自動二輪車1を走行させる場合、まず、センタースタンド13を格納する。これにより、平地に前輪21及び後輪11を接触させると、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76の少なくとも一部に潤滑油LOが供給される。このように、自動二輪車1を走行させるときは必ず発車前に、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76に潤滑油LOが供給される。
【0134】
4.3.自動二輪車の走行時
自動二輪車1の走行時は、スイングアーム23がピボット軸25回りに揺動することにより、ギヤハウジング31はその姿勢を変えながら上下方向に回転移動する。ギヤハウジング31の姿勢変化により、ギヤハウジング31内の潤滑油LOは流動し、潤滑油LOの油面Sが傾斜する。この結果、ギヤハウジング31内のより広い範囲に潤滑油LOが供給される。
【0135】
また、ギヤハウジング31内ではリングギヤ47が回転している。潤滑油LOはリングギヤ47とともに連れ回る。連れ回る潤滑油LOは、主にリングギヤ47の歯面47aに沿ってリングギヤ47の回転方向Gに油面Sから上方に汲み上げられる。上方に汲み上げられた潤滑油LOは、各所の流入口Fiから一時貯留室Fに流入する。流入した潤滑油LOは、排出口Foを通じて一時貯留室Fから排出される。ここで、一時貯留空間Fに流入する流入量は、排出口Foの排出能力を超えるので、潤滑油LOは、一時貯留空間Fに一時的にとどめられる。この結果、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油面Sの高さは、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量に応じた当初の油面Sより下がる。
【0136】
潤滑油LOの油面Sが下がると、リングギヤ47が油面Sの下側で潤滑油LOと接触する体積が減少し、リングギヤ47の回転に対する潤滑油LOの抵抗が低減される。よって、リアギヤ部43における動力の伝達ロスが低減される。
【0137】
また、ギヤハウジング31内では、ピニオンギヤ45とリングギヤ47とが噛み合う部分から最も大きな熱が発生している。このほか、リングギヤ47の回転によって潤滑油LOが飛散し、ギヤハウジング31内の各部に衝突することによって、潤滑油LOの温度が上昇する。
【0138】
一方、ギヤハウジング31の外面では、水平フィン83h、及び、垂直フィン83vの周囲に自動二輪車1の前方から後方に向かって走行風が流れている。水平フィン83h、及び、垂直フィン83vはいずれも前後方向に略平行であるので、水平フィン83h、及び、垂直フィン83vの表面に沿って走行風が流れる。よって、水平フィン83h、及び、垂直フィン83vは外気に効率良く放熱することができ、ギヤハウジング31、及び、ギヤハウジング31内の潤滑油LOを好適に冷却することができる。
【0139】
また、後輪11が車軸33回りに回転することによって、裏側フィン85の周囲には車軸33を中心とした旋回流が発生している。裏側フィン85は、車軸33を中心とした半径方向に平行であるので、旋回流は裏側フィン85に直交するように当たる。これにより、裏側フィン85は外気との間で効率良く熱交換することができる。
【0140】
4.4.自動二輪車の停車後
自動二輪車1が再び停車しエンジン装置5を停止させると、リングギヤ47の回転が停止する。これにより、潤滑油LOは上方に汲み上げられなくなり、潤滑油LOは一時貯留室Fに流入しなくなる。よって、時間の経過に伴い、一時貯留室F内の潤滑油LOは全て排出口Foを通じて流下する。この結果、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油面Sの高さは、潤滑油LOの油量に応じた当初の油面Sの高さ位置に戻る。
【0141】
このように、本実施例に係る自動二輪車1によれば、ピニオンギヤ45の回転軸Aがリングギヤ47の回転中心Pに対して下方にオフセットされているリアギヤ部43を備えるとともに、このリアギヤ部43を収容するギヤハウジング31をピボット軸25回りに揺動回転させるスイングアーム23を備えているので、ギヤハウジング31は姿勢変化を起こし、ギヤハウジング31内のより広い範囲に自ずと潤滑油LOを供給することができる。このため、ギヤハウジング31を揺動させずに上下に平行移動させる場合に比べて、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量が比較的を低減することができる。
【0142】
本実施例では、さらに、ボールベアリング75及びニードルベアリング76と、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油面Sとの位置関係に基づく条件を満足するように、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量を設定しているので、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量を的確に低減することができる。
【0143】
さらに、本実施例では、油溜まり部91を備え、ギヤハウジング31の上方位置に一時貯留室Fを形成しているので、潤滑油LOを一時的に溜めることができる。これにより、リングギヤ47が回転しているときは一層潤滑油LOの油面Sを下げることができる。
【0144】
また、一時貯留室Fは、リングギヤ47と連れ回って上昇する潤滑油LOが自ずと流入するように構成されているので、一時貯留室Fに潤滑油LOを導くための動力を要しない。
【0145】
この結果、リングギヤ47が回転しているときに潤滑油LOから受ける抵抗が低減され、リアギヤ部43はエンジン装置5から後輪11へ効率よく動力を伝達することができる。また、リングギヤ47が潤滑油LOを飛散させる量も減少するので、潤滑油LOの衝突による発熱量も低減することができる。
【0146】
さらに、ギヤハウジング31の外面には、フィン(すなわち、外側フィン83及び裏側フィン85である)が設けられているので、好適にギヤハウジング31、及び、ギヤハウジング31内の潤滑油LOを冷却することができる。これにより、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量を低減した場合にあっても、潤滑油LOの劣化を好適に防止することができる。
【0147】
また、外側フィン83(水平フィン83h及び垂直フィン83v)は、ピニオンギヤ45とリングギヤ47とが噛み合う部分に対応する位置(すなわち、ギヤハウジング31の外面が最も高温になる部位)に配置されている。このため、外側フィン83は効果的にギヤハウジング31を冷却することができる。
【0148】
また、水平フィン83h及び垂直フィン83vは走行風に対して平行な形状であるので、水平フィン83h及び垂直フィン83vの周囲には常に新鮮な外気が供給される。よって、水平フィン83h及び垂直フィン83vは、外気との間で効率よく熱交換することができる。
【0149】
また、裏側フィン85は、後輪11の旋回流の中心と同軸である車軸33に対して放射状に配置されているので、各裏側フィン85にはそれぞれ旋回流が好適に当たる。よって、各裏側フィン85も外気との間で効率よく熱交換することができる。
【0150】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0151】
(1)上述した実施例では、外側フィン83は、筒状部65の表側部65o及び上部65uと、円盤状部67の表側部67o及び上部67oとに配置されていたが、これに限られない。すなわち、外側フィン83はギヤハウジング31の上部、下部、及び、表側部の任意の位置に配置してもよい。例えば、図5に示される筒状部65の下部65lや円盤状部67の下部67lに外側フィン83を配置してもよい。また、外側フィン83は、筒状部65から円盤状部67にわたって配置せずに、筒状部65のみに配置してもよい。
【0152】
また、ギヤハウジング31が筒状部65や円盤状部67を有しない形状の場合であっても、ギヤハウジング31の上部、下部、及び、表側部の少なくともいずれかに外側フィン83を配置するように適用することができる。
【0153】
(2)上述した実施例では、水平フィン83h及び垂直フィン83vは、それぞれ平板形状であったが、これに限られない。すなわち、外側フィン83は、走行風を好適に受けることができる形状に適宜に変更することができる。たとえば、曲面形状に変更してもよい。
【0154】
(3)上述した実施例では、水平フィン83h及び垂直フィン83vは、前後方向xに略平行であったが、これに限られない。たとえば、ピニオンギヤ45の回転軸Aや筒状部65の軸心が前後方向xと略平行な関係にない場合には、ピニオンギヤ45の回転軸Aまたは筒状部65の軸心と略平行となるように、水平フィン83h及び垂直フィン83vを変更してもよい。あるいは、上述したように、曲面形状のフィンを採用する場合などのように、前後方向x、回転軸A、及び、筒状部65の軸心のいずれとも略平行でないフィンに変更してもしてもよい。
【0155】
(4)上述した実施例では、各水平フィン83hは互いに略平行に配置されていたが、これに限られない。たとえば、各水平フィン83hを放射状に配置してもよい。垂直フィン83vについても同様である。
【0156】
(5)上述した実施例では、裏側フィン85は車軸33を中心とした半径方向に延びる平板状物であったが、これに限られない。以下、裏側フィンの変形実施例について図面を参照して説明する。
【0157】
図12を参照する。図12は、変形実施例に係るギヤハウジングの裏側部及び下部の外観斜視図である。裏側フィン101は、車軸33を中心とした半径方向にわたって、分離して配置された複数の第1凸部102を備えている。また、裏側フィン101は、車軸33を中心とした円周方向にわたって、分離して配置された複数の第2凸部103を備えている。このように構成される裏側フィン101によれば、旋回流と接触する表面積が増加し、一層効率よく外気と熱交換することができる。
【0158】
図13を参照する。図13は、変形実施例に係るギヤハウジングの裏側部及び下部の外観斜視図である。裏側フィン105は、車軸33に対して放射状に配置されている。ただし、裏側フィン105は、車軸33を中心とした半径方向に形成されていない点で、裏側フィン85と異なっている。このように構成される裏側フィン105によれば、旋回流を内側カバー63の側方に案内するので、効率よく外気と熱交換することができる。
【0159】
(6)上述した実施例では、進入阻止部材87は、分離配置される複数の爪片89によって構成されていたが、これに限られない。たとえば、図13に図示するにように、進入阻止部材87は、内側カバー63の周縁部に沿って連続して突出する壁部107によって構成してもよい。
【0160】
(7)上述した実施例では、進入阻止部材87は、内側カバー63の上側の領域にのみ形成されていたが、これに限られない。例えば、図13に図示するように、内側カバー63の周縁部の全周にわたって進入阻止部材87を設けるように変更してもよい。
【0161】
(8)上述した実施例では、油溜まり部91はギヤハウジング31の内壁との間で一時貯留室Fを形成していたが、これに限られない。例えば、側壁板95のほかに一時貯留室Fの底部や側壁を構成する部材を備え、ギヤハウジング31の内壁を利用することなく、一時貯留室Fに形成するように構成してもよい。
【0162】
(9)上述した実施例では、一時貯留室Fを形成する側壁板95は平板形状であったがこれに限られない。たとえば、側壁板95の後端95bがリングギヤ47の歯面47aに近接するように屈曲した形状に変更してもよい。これによって、流入口Fiが潤滑油LOを一時貯留室Fに積極的に案内することができ、一時貯留室Fに一層円滑に潤滑油LOを流入させることができる。
【0163】
(10)上述した実施例では、一時貯留室Fの排出口Foは、側壁板95の前端95fと直線リブ部材93bとによって囲まれた開口であったが、これに限られない。たとえば、側壁板95、環状リブ部材93a、または、直線リブ部材93bの少なくともいずれかに開口部を一時貯留室Fの排出口Foとして形成するように変更してもよい。
【0164】
(11)上述した実施例では、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量を条件1、2に基づいて設定したが、条件1、2に限られない。
【0165】
図14を参照する。図14(a)は、条件3を模式的に示すギヤハウジング31の断面図であり、図14(b)は条件4を模式的に示すギヤハウジング31の断面図である。図14(a)は、平地に前輪21及び後輪11を接触させているときのギヤハウジング31の姿勢である。図示するように、条件3は、「平地に前輪21及び後輪11を接触させているときに、潤滑油LOの油面Sがボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76より下方となる」ことである。条件4は、「平地に前輪21及び後輪11を接触させているときのギヤハウジング31の位置より上方にギヤハウジング31が揺動したときに、ボールベアリング75の少なくとも一部、及び、ニードルベアリング76の少なくとも一部がそれぞれ潤滑油LOに浸かる」ことである。そして、上述した条件3及び条件4を満たすように、ギヤハウジング31内の潤滑油LOの油量を設定するように変更してもよい。
【0166】
自動二輪車1の走行中は、ギヤハウジング31が揺動するので、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76に潤滑油LOを供給することができる。このような自動二輪車1の走行中の状態を考慮すると、条件4を満たせば、ボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76に適宜に潤滑油LOを供給することができる。そこで、条件4を満たす範囲で、条件3を満たすように潤滑油LOを油量を設定することで、潤滑油LOの油量を一層低減させることができる。
【0167】
(12)上述した実施例では、潤滑油LOの油量を設定する条件を、ピニオンギヤ45を保持するボールベアリング75、及び、ニードルベアリング76に着目して規定したが、これに限られない。たとえば、ピニオンギヤ45やリングギヤ47に着目して条件を規定してもよいし、リングギヤ47を保持するボールベアリング78、及び、ニードルベアリング79に着目して条件を設定してもよい。
【0168】
(13)上述した実施例では、自在軸継手としてユニバーサルジョイント部41bを備えていたが、これに限られない。すなわち、自在軸継手であれば、適宜に選択することができる。たとえば、ユニバーサルジョイント部41bを、ダブルカルダンジョイントや等速ボールジョイントに変更してもよい。これら等速性を有する自在軸継手によれば、後輪11の回転変動を抑制することができる。
【0169】
(14)上述した実施例は、ピニオンギヤ45の回転軸Aは、前記リングギヤ47の回転中心Pに対して下方にオフセットされていた。ただし、ギヤハウジング31の油溜まり部91の構成は、このようなリアギヤ部43に限られず、たとえば、種々のギヤ部に適用することができる。たとえば、ピニオンギヤ45の回転軸Aが、前記リングギヤ47の回転中心Pと交差するように構成されたギヤ部に油溜まり部91の構成を適用してもよい。また、ストレートベベルギヤ、または、スパイラルギヤに油溜まり部91の構成を適用することもできる。
【0170】
(15)上述した実施例では、スイングアーム23Lは、その内部に第2ドライブシャフト部41cを収容していたが、これに限られず、第2ドライブシャフト部41cを収容しない構造のスイングアームであってもよい。スイングアームの形状は、第2ドライブシャフト部41cと干渉しない範囲で適宜に選択・変更することができる。この場合、第2ドライブシャフト部41cを外部に露出させてもよい。
【0171】
(16)上述した実施例、及び、上記(1)から(15)で説明した各変形実施例については、さらに各構成を他の変形実施例の構成に置換または組み合わせるなどして適宜に変更してもよい。
【符号の説明】
【0172】
1 …自動二輪車
11 …後輪
13 …センタースタンド
23 …スイングアーム
23L …左側スイングアーム
25 …ピボット軸
31 …ギヤハウジング
33 …車軸
41 …シャフトドライブ機構
41b …ユニバーサルジョイント部
43 …リアギヤ部
45 …ピニオンギヤ
47 …リングギヤ
47a …リングギヤの歯面
51 …ゴムダンパ
61 …外側ケース
63 …内側カバー
65 …筒状部
67 …円盤状部
76 …ボールベアリング
77 …ニードルベアリング
83 …外側フィン
83h …水平フィン
83v …垂直フィン
85、101、105 …裏側フィン
87 …進入阻止部材
89 …爪片
90 …環状凸部
91 …油溜まり部
93 …リブ部材
95 …側壁板
A …ピニオンギヤの回転軸
D …環状凸部とゴムダンパとの離隔距離
E …爪片の間隔距離
F …一時貯留室
Fi …一時貯留室の流入口
Fo …一時貯留室の排出口
G …リングギヤの回転方向
LO …潤滑油
P …リングギヤの回転中心
S …潤滑油の油面
W1 …走行風の向き
W2 …旋回流の向き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトドライブ機構によって後輪を駆動する自動二輪車であって、
ピボット軸回りに揺動可能に設けられているスイングアームと、
前記スイングアームと一体に設けられ、前記スイングアームとともに前記ピボット軸回りに揺動するギヤハウジングと、
前記ギヤハウジングに収容され、シャフトドライブ機構の後輪側端部に連結されるピニオンギヤと、
前記ギヤハウジングに収容され、前記後輪の回転軸と同軸上に配置されるとともに前記ピニオンギヤと噛み合うリングギヤと、
を備え、
前記ピニオンギヤの回転軸は、前記リングギヤの回転中心に対して下方にオフセットされている自動二輪車。
【請求項2】
請求項1に記載の自動二輪車において、
前記ギヤハウジングに設けられ、前記ピニオンギヤを回転可能に保持するピニオンギヤ用軸受部を備え、
前記ギヤハウジング内の潤滑油の油量は、センタースタンドを使用して後輪を浮かせているときに潤滑油の油面が前記ピニオンギヤ用軸受部より下方となるように設定されている自動二輪車。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の自動二輪車において、
前記ギヤハウジングの外面に設けられているフィンを備えている自動二輪車。
【請求項4】
請求項3に記載の自動二輪車において、
前記フィンは、前記ピニオンギヤと前記リングギヤとが噛み合う部分に対応する位置に少なくとも配置されている自動二輪車。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の自動二輪車において、
前記フィンは、前記ギヤハウジングの上部、前記ギヤハウジングの下部、及び、前記ギヤハウジングの両側部のうち後輪側とは反対側の側部である表側部の少なくともいずれかに配置されている外側フィンを含む自動二輪車。
【請求項6】
請求項5に記載の自動二輪車において、
前記外側フィンは、自動二輪車の前後方向と略平行である自動二輪車。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の自動二輪車において、
前記ギヤハウジングは、
自動二輪車の前後方向と略平行な方向に延び、前記ピニオンギヤを収容するための筒状部と、
前記筒状部の後端部に連続しており、前記リングギヤを収容するための円盤状部と、
を有し、
前記外側フィンは、前記筒状部の表側部から略水平方向に突出する水平フィンを含む自動二輪車。
【請求項8】
請求項7に記載の自動二輪車において、
前記外側フィンは、前記筒状部の上部から略垂直方向に延びている垂直フィンを含む自動二輪車。
【請求項9】
請求項3から請求項8のいずれかに記載の自動二輪車において、
前記フィンは、前記ギヤハウジングの両側部のうち後輪側の側部である裏側部に設けられている裏側フィンを含む自動二輪車。
【請求項10】
請求項9に記載の自動二輪車において、
前記裏側フィンは、後輪の車軸に対して放射状に形成されている自動二輪車。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の自動二輪車において、
少なくとも前記裏側部の上側の領域に配置され、前記裏側フィン同士の間に異物が進入することを阻止する進入阻止部材を備えている自動二輪車。
【請求項12】
請求項11に記載の自動二輪車において、
前記進入阻止部材は、前記ギヤハウジングの裏側部の上側の周縁部に沿って分離して配置され、外気の通過を許容する複数の爪片である自動二輪車。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の自動二輪車において、
前記リングギヤの回転によって前記リングギヤとともに連れ回る潤滑油を一時的に溜める一時貯留室を、前記ギヤハウジングの内部に形成する油溜まり部を備えている自動二輪車。
【請求項14】
請求項13に記載の自動二輪車において、
前記油溜まり部は、前記一時貯留室に流れ込む流入口を、前記リングギヤとともに連れ回る潤滑油の流路上に形成する自動二輪車。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載の自動二輪車において、
前記ギヤハウジングは、その内奥面から前記リングギヤに向かって突出しているリブ部材を有し、
前記油溜まり部は、前記リブ部材の側方に設けられ、前記内奥面と前記リブ部材との間で前記一時貯留室を形成する側壁板を備えている自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−51407(P2011−51407A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200318(P2009−200318)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】