説明

自動制御塗装車両

【課題】航空機等の大型構造物、多種少量品の塗装に対しても、塗装設備の大規模化、高コスト化を招くことなく、塗装工程の自動化を図る。
【解決手段】自動制御塗装車両1に、アクチュエータヘッド7を移動させるアーム6と、ヘッド7の地球上の位置情報を取得するGPS通信端末9と、地球上に位置付けられた塗装領域の情報を記憶する記憶装置を含む制御装置10と、ヘッド7とその周囲の物体との距離を測る測距装置8とを搭載する。GPS通信端末9から取得したヘッド7の位置情報及びアーム6の姿勢情報θ1〜θ5,Sに基づき地球上の車両5の配置を算出し、これと塗装領域の情報に基づき塗装領域に対する車両5の配置を制御する。測距装置から取得した距離情報F,L,R,H1,H2、塗装領域の情報及びアーム6の姿勢情報に基づきアーム6及びヘッド7の動作を制御して被塗装面に対する塗装工程を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装装置を搭載し自動制御により車両の移動及び前記塗装装置による塗装を制御する自動制御塗装車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機等の大型構造物の塗装作業は、人手により行われてきた。航空機等の大型構造物の塗装作業を自動化する場合、大きな設備が必要になり、設備投資リスクが大きい上、自動車等の塗装と比較し、少量多種の塗装を行うため、多くの治具や頻繁な設備改修が必要になるからである。
【0003】
特許文献1には、回路基板に適したものとして、限定された2次元領域を移動するディスペンサの噴射領域をカメラで撮影した画像に基づいて指定しディスペンサの移動と吐出動作を制御する自動塗布装置が記載されている。
特許文献2には、自動車の外板端部等にシール材等を一定幅で塗布する自動塗布装置が記載されている。
【特許文献1】特開平10−52664号公報
【特許文献2】実開平6−70864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、以上の特許文献1,2に記載の技術は、塗装装置の移動が制限されており、航空機等の大型構造物の塗装に適用しても、上掲したとおり、大きな設備が必要になり設備投資リスクが大きい、少量多種の塗装に応じるために多くの治具や頻繁な設備改修が必要になるという従来技術の問題を解決することはできない。
【0005】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、航空機等の大型構造物、多種少量品の塗装に対しても、塗装設備の大規模化、高コスト化を招くことなく、塗装工程の自動化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、被塗装面に対する処理を行うアクチュエータヘッドと、前記アクチュエータヘッドを支持し前記アクチュエータヘッドを自車に対して相対的に移動させるアームと、前記アクチュエータヘッドの地球上の位置情報を取得する通信端末と、
地球上に位置付けられた塗装領域の情報を記憶する記憶手段と、
前記通信端末から取得した前記アクチュエータヘッドの位置情報及び前記アームの姿勢情報に基づき自車の配置を算出する自車配置算出手段と、
前記自車配置算出手段により得られる自車の配置情報及び前記記憶手段に記憶された塗装領域の情報に基づき前記塗装領域に対する自車の配置を制御する車両制御手段と、
前記記憶手段に記憶された塗装領域の情報及び前記アームの姿勢情報に基づき、前記アーム及び前記アクチュエータヘッドの動作を制御して前記被塗装面に対する塗装工程を行わせるヘッド・アーム制御手段とを備えることを特徴とする自動制御塗装車両である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記アクチュエータヘッドの周囲の物体と前記アクチュエータヘッドとの距離を測る測距装置を備え、前記ヘッド・アーム制御手段は、前記測距装置から取得した距離情報、前記塗装領域の情報及び前記アームの姿勢情報に基づき、前記アーム及び前記アクチュエータヘッドの動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の自動制御塗装車両である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記塗装領域内の前記アクチュエータヘッドによる処理が終了した範囲を記録する記録手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動制御塗装車両である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両によって自律的に被塗装物の周囲を走行移動しアーム及びアクチュエータヘッドを動作させて被塗装面に対する塗装工程を行うので、被塗装物の規模による塗装設備の大規模化を抑えることができ、被塗装物の形状の変更によって塗装設備の構造を変更することを回避できるから、航空機等の大型構造物、多種少量品の塗装に対しても、塗装設備の大規模化、高コスト化を招くことなく、塗装工程の自動化を図ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の一実施の形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。図1は本発明の一実施形態における航空機とその右翼後端付近に位置する自動制御塗装車両の平面図である。図2は、本発明の一実施形態における航空機の右翼後端付近に位置する自動制御塗装車両の左側面図(a)及び平面図(b)である。
【0011】
本実施形態では自動制御塗装車両1を1台用いる。図1においては、航空機2の右翼4の後端に対向する配置Aと、航空機2の右翼4の後端に平行な配置Bのそれぞれにつき自動制御塗装車両1を同図に描いた。
【0012】
図2に示すように、自動制御塗装車両1は、車両5に、アーム6,アクチュエータヘッド7,測距装置8,GPS通信端末9,制御装置10を搭載している。
【0013】
車両5は、前進後進、左右方向転換可能なものを用いる。また、旋回、横走行等の自由度の高い移動が可能なものを用いても良い。
アーム6は関節として、旋回部61,軸関節62,軸関節63,伸び出しアーム64,二軸関節65を基端から先端に掛けて有する。図2に示すように各関節の角度をθ1〜θ5とし、伸び出しアーム64の伸び出し量をSとする。
【0014】
アクチュエータヘッド7は、アーム6の先端に取り付けられる。アクチュエータヘッド7は、被塗装面に対する処理の種類ごとに設けられる。例えば、下地処理として被塗装面を研磨する研磨ヘッド、スプレー式、ローラ式、刷毛式等の各種塗布ヘッド、塗膜の硬化処理のための熱処理ヘッド又は光照射ヘッドなどが設けられる。研磨ヘッド、ローラ式、刷毛式塗布ヘッド等の接触式ヘッドの場合、アクチュエータヘッド7に接触圧力を検出するセンサが備えられ、その検出値が制御装置10に出力される。アクチュエータヘッド7が複数種類となる場合は、工程ごとにアクチュエータヘッド7の交換を行う。交換は自動で行うことが好ましい。
【0015】
GPS通信端末9は、周知のように地球上の位置情報を取得する通信端末で、現在実用化されている。GPS通信端末9は制御装置10にアクチュエータヘッド7の経度、緯度、高度情報(順にX,Y,Zとする)を出力する。したがって、少なくともGPS通信端末9の受信部(図示せず)は、アクチュエータヘッド7に固定される。なお、GPSはGlobal Positioning Systemの略である。より測位精度の高いディファレンシャルGPSやより高精度に開発されるであろう将来のGPSを利用することが好ましい。また、GPSの替わりに、超音波や赤外線を用いた3次元ポジショニングシステムを使うことも可能である。即ち、地上の複数の場所(通常2箇所)にそれぞれの発信機を置き、GPS通信端末9に替えてそれぞれの送受信機を設ければよい。
【0016】
測距装置8は、アクチュエータヘッド7の周囲の物体とアクチュエータヘッド7との距離を測る。例えば、図2に示すように前方対物距離F,左右対物距離L,R,下方・上方対物距離H1,H2等を測る。測距装置8は、GPS通信端末9から得られる位置情報と記憶装置11から得られる情報とから存在位置が計算できる物体(塗装対象物等)の実在を精度良く確認したり、他の物体(障害物等)を検知したりするために用いられる。
【0017】
制御装置10は、自車配置算出手段、車両制御手段、ヘッド・アーム制御手段を兼ね備えている。制御装置10内には、地球上に位置付けられた塗装領域の情報、塗装領域内のアクチュエータヘッド7による各工程の処理が終了した範囲を記録する記憶装置が備えられる。
制御装置10は、GPS通信端末9からアクチュエータヘッド7のX,Y,Z座標を、アーム6の姿勢制御系からアーム6の姿勢情報θ1〜θ5及びSを、測距装置8から対物距離情報をリアルタイムに取得する。
【0018】
次に、手順にそって説明する。
まず、塗装領域の情報を制御装置10に入力する。塗装領域は、経度X、緯度Y、高度ZのX−Y−Z座標上に位置付けなければならない。そのために、停止中の航空機2の塗装領域上の点のX,Y,Z座標を実測し、制御装置10に入力する。入力する点の数を多くすることにより塗装領域の指定をより詳細にすることが好ましい。
或いは、塗装領域は、被塗装面の立体データにより立体的かつより詳細に特定することが好ましい。より好ましくは、制御装置10に塗装対象物(航空機2)の完全な外面の立体データを入力し、その立体データによる立体の全部又は一部として塗装領域を特定する範囲指定を入力し、その立体データによる立体に対して特定された必要最少の点(例えば、立体外面上にあり一直線上にない3点)の実測したX,Y,Z座標を入力して、その立体データによる立体をX−Y−Z座標上に位置付ける。
【0019】
塗装領域の情報が入力され、作業開始指令が入力されると制御装置10は以下の制御を行う。
制御装置10は、塗装領域の情報を記憶装置から読み出すことによって塗装領域(好ましくは塗装対象物及び塗装領域)のX−Y−Z座標上の位置を認識する。
制御装置10は、アクチュエータヘッド7のX,Y,Z座標と、アーム6の姿勢情報θ1〜θ5及びSとから車両5のX−Y−Z座標上の配置(向きを含む)を算出する。
【0020】
以上の情報に基づき制御装置10は、車両5の移動ルートや移動の際の車両5の向きや停止位置、停止時間を含めた車両制御情報を作成する。
次に、制御装置10は、予め作成された上記車両制御情報に基づき車両5を移動・停止させることによって塗装領域に対する車両5の配置を制御する。
また、車両5、アーム6の動作中は随時、制御装置10は、測距装置8からの距離情報をチェックし、必要により車両5,アーム6の障害物回避制御を行う。
【0021】
制御装置10は、車両5の移動・停止を制御するとともに、アクチュエータヘッド7及びアーム6の動作を制御して被塗装面に対する塗装工程を行わせる。このとき、制御装置10は、測距装置8から取得した距離情報、記憶している塗装領域の情報及びアーム6の姿勢情報θ1〜θ5及びSに基づきアクチュエータヘッド7及びアーム6の動作を制御して被塗装面に対する塗装工程を行わせる。ここで塗装工程には、下地処理工程、塗料塗布工程、仕上げ工程等が該当する。
【0022】
具体的には、車両5の移動や、アーム6の動作により塗装領域の塗装開始端上にアクチュエータヘッド7を運び、車両5を停止させ、測距装置8からの距離情報とアーム6によって被塗装面とアクチュエータヘッド7との距離を適度な距離に精度良く保ちつつ、塗料噴射などのアクチュエータヘッド7の動作とアーム6の動作によるアクチュエータヘッド7の移動を制御して塗装工程の一部を実行する。アーム6の動作は、アーム6の姿勢情報θ1〜θ5及びSに基づき制御する。
【0023】
次に、制御装置10は次の塗装対象部に車両5を移動させる。制御装置10は、アクチュエータヘッド7のX,Y,Z座標と、アーム6の姿勢情報θ1〜θ5及びSとから車両5のX−Y−Z座標上の配置(向きを含む)を算出し、これに基づき車両5の移動制御を行う。
次に、車両5を停止させ、再びアーム6とアクチュエータヘッド7を制御して塗装工程の一部を実行する。
以下同様にして、車両移動→停止→塗装動作を繰り返して、全塗装領域に対する塗装工程を遂行する。
【0024】
航空機2の右翼上面を塗装する場合を例にとって動作を説明する。
図1に示すように航空機2の右翼4上面が塗装領域として指定されているとする。
まず、制御装置10は、車両5を右翼4後端側基端付近に配置する(図中Aの配置)。
図2に示すように制御装置10は、右翼4や胴体部3を距離情報F,L,R,H1,H2により認識する。アーム6を動作させて測距装置8の位置を変えて距離情報F,L,R,H1,H2を取得し右翼4や胴体部3を立体的に認識し、記憶している情報と照合する。
次に、アーム6の関節62,63の動作や伸び出しアーム64の動作によりアーム6を伸ばし、アクチュエータヘッド7を右翼4後端上に配置する。
次に下方対物距離H1を取得し、下方対物距離H1に基づくアーム6の制御によって被塗装面とアクチュエータヘッド7との距離を所定の距離に精度翼良く保持する。
次に、アクチュエータヘッド7を作動させるとともに、アーム6の関節62,63の動作や伸び出しアーム64の動作によりアーム6を伸ばして一定速度、かつ、被塗装面との距離を一定に保持したまま、アクチュエータヘッド7を右翼4上を横断移動させ、図1に示すように右翼4上面を帯状に区切った一区域iの塗装工程を実行する。片道、一往復又は複数の往復において一区域i内の塗装工程を実行する。
【0025】
次に、隣の一区域iの延長上にアーム6の旋回軸が位置するように車両5を移動させ、車両5を停止して当該一区域iの塗装工程を上記と同様に実行する。以下同様に繰り返し、全ての塗装領域の塗装工程を実行する。
【0026】
その際、車両5の移動は、切り返しにより又は前進若しくは後進により行う。例えば、図1中に前進による移動の様子を描く。車両5を右翼4後端に平行に配置し(図中Bの配置)、矢印Cに示すように車両5を右翼4後端に沿って一区域iの幅分相当距離だけの前進と停止を繰り返しながら、停止時に矢印Dに示すようにアーム6の伸縮によりアクチュエータヘッド7を往復動させ一区域i内の塗装工程を実行する。
【0027】
塗装作業中、制御装置10は、GPS通信端末9からアクチュエータヘッド7のX,Y,Z座標を取得して、このX,Y,Z座標により塗装領域内のアクチュエータヘッド7による処理が終了した範囲を記録する。この記録は、下地処理、塗料塗布、仕上げ処理等の工程ごとに記録する。これにより、いつでも未処理部分を特定することができ、作業効率を維持できる。
【0028】
以上の実施形態によれば、車両5によって自律的に航空機2の周囲を走行移動しアーム6及びアクチュエータヘッド7を動作させて被塗装面に対する塗装工程を行うので、航空機2の規模による塗装設備の大規模化を抑えることができ、航空機2の形状によって塗装設備の構造を変更することを回避できるから、塗装設備の大規模化、高コスト化を招くことなく、航空機に対する塗装工程の自動化を図ることができる。
【0029】
また、自動制御塗装車両1は、塗装作業時に整備ドック等の航空機2のある場所に出向くことができるので、塗装専用のブースを建築する必要がなく、設備費を低く抑えることができる。航空機2を他のブースから塗装専用のブースに移動させることもないので、工期の短縮、移動コストの削減を図ることできる。
【0030】
また、塗装作業時以外は自動制御塗装車両1を別の場所に移動して整備、保管をすることができる。
自動制御塗装車両1は、工場間の移動が容易であるので、1台を複数の工場で使用することができ、設備費を低く抑えることができる。
自動制御塗装車両1は、塗装作業の繁閑に応じて増減が容易である。
自動制御塗装車両1は、売却、貸与が容易であるから設備費削減が容易となり、設備投資リスクを軽減できる。
自動制御塗装車両1によれば、塗装作業の無人化が可能であり、人体に影響を与える恐れのある紫外線硬化等の硬化方法を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態における航空機とその右翼後端付近に位置する自動制御塗装車両の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態における航空機の右翼後端付近に位置する自動制御塗装車両の左側面図(a)及び平面図(b)である。
【符号の説明】
【0032】
1 自動制御塗装車両
2 航空機
3 胴体部
4 右翼
5 車両
6 アーム
7 アクチュエータヘッド
8 測距装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装面に対する処理を行うアクチュエータヘッドと、前記アクチュエータヘッドを支持し前記アクチュエータヘッドを自車に対して相対的に移動させるアームと、前記アクチュエータヘッドの地球上の位置情報を取得する通信端末と、
地球上に位置付けられた塗装領域の情報を記憶する記憶手段と、
前記通信端末から取得した前記アクチュエータヘッドの位置情報及び前記アームの姿勢情報に基づき自車の配置を算出する自車配置算出手段と、
前記自車配置算出手段により得られる自車の配置情報及び前記記憶手段に記憶された塗装領域の情報に基づき前記塗装領域に対する自車の配置を制御する車両制御手段と、
前記記憶手段に記憶された塗装領域の情報及び前記アームの姿勢情報に基づき、前記アーム及び前記アクチュエータヘッドの動作を制御して前記被塗装面に対する塗装工程を行わせるヘッド・アーム制御手段とを備えることを特徴とする自動制御塗装車両。
【請求項2】
前記アクチュエータヘッドの周囲の物体と前記アクチュエータヘッドとの距離を測る測距装置を備え、前記ヘッド・アーム制御手段は、前記測距装置から取得した距離情報、前記塗装領域の情報及び前記アームの姿勢情報に基づき、前記アーム及び前記アクチュエータヘッドの動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の自動制御塗装車両。
【請求項3】
前記塗装領域内の前記アクチュエータヘッドによる処理が終了した範囲を記録する記録手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動制御塗装車両。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−320825(P2006−320825A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145539(P2005−145539)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】