説明

自動変速機のレンジ切替装置

【課題】車両用の自動変速機1においてシフトレバー21の操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置20において、良好なシフトフィーリングを確保したうえで、急制動やミスシフトによるポジション抜けを回避可能とし、操作性ならびに信頼性の向上を図る。
【解決手段】シフトレバー21の操作に応答して適宜方向に傾動されることに伴い自動変速機1に備える変速段切替用の油圧制御装置6の一構成要素であるマニュアルバルブ8の状態を変更するディテントレバー31を有する。このディテントレバー31の傾動時に、ディテントレバー31に作用する角速度に応じた抵抗をディテントレバー31に付与する抵抗付与手段50が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の自動変速機においてシフトレバーの操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機では、一般的に、選択可能なシフトレンジとして、パーキングレンジ(P),リバースレンジ(R),ニュートラルレンジ(N),ドライブレンジ(D)等が設定されている。
【0003】
なお、ドライブレンジDでは、運転状況に応じて自動的に最適な変速段を成立させるようになっている。
【0004】
このシフトレンジの選択方法としては、一般的に、車両の運転席付近に設置されるシフトレバーを運転者が操作することによって行うようになっている。
【0005】
ここで、シフトレンジを選択するためのレンジ切替装置としては、回動可能に支持されかつ適宜方向に回転駆動されることに伴い自動変速機に備えるシフトレンジ切替用の油圧制御装置の一構成要素であるマニュアルバルブの状態を変更するためのディテントレバーと、ディテントレバーとシフトレバーとを連動連結するためのシフトロッド(またはシフトケーブル)とを含んで構成されている(例えば特許文献1参照。)。
【0006】
つまり、このレンジ切替装置では、シフトレバーを車両運転者が操作することに伴いシフトロッドおよびディテントレバーを介してマニュアルバルブの状態を適宜に変更し、前記シフトレバーの操作で選択したシフトレンジを成立させるようになっている。
【0007】
なお、一般的には、シフトロッドとディテントレバーとは、アウターレバーを介して連結されており、アウターレバーとディテントレバーとがシフトコントロールシャフトで一体的に傾動するように連結されており、このシフトコントロールシャフトが自動変速機のケースに支持されている。
【特許文献1】特開平9−267726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来例では、例えば運転者が急ブレーキを踏んで急制動したときに、ポジション抜けが発生するおそれがある。
【0009】
この急制動によるポジション抜けを説明する。例えば急制動を行うと、車両前輪に荷重が急激に移動するために、車両が前のめり姿勢になる、いわゆるノーズダイブ現象が発生する。
【0010】
このとき、エンジンおよび自動変速機からなるパワートレーンが、一般的に、ゴム系のブッシュを介して車両に搭載されている関係より、パワートレーンがさらに前のめり姿勢になるために、シフトロッドやディテントレバーに前方への荷重移動に伴う慣性力が作用してディテントレバーが意に反して傾動してしまうことがある。
【0011】
なお、シフトロッドを例えば振動対策のために質量アップさせるようにしていることがあるが、そのような場合には、前記慣性力が増加するので、ディテントレバーの意に反する傾動動作が誘発されやすくなる。
【0012】
そのようになると、ラッチレバーのピンに係合しているディテントレバーのドライブポジション溝が一旦外れて、その隣に位置するニュートラルポジション溝がラッチレバーのピンに係合するような現象が発生することがあり、信頼性が低下する等、好ましくない。この現象を、ポジション抜けと言う。
【0013】
このような従来例におけるポジション抜けを防止して、シフトレンジの位置決め能力を向上させるには、ディテントレバーに設ける各ポジション溝を深くし、ラッチレバーのピンに対する各ポジション溝の係合力(節度力と言う)を強くすることが、有効な対策である。しかしながら、前記節度力を強めると、シフトレバーの操作が重くなる等、シフトフィーリングの悪化につながることになる。
【0014】
近年では、シフトフィーリングを向上させることが重要になってきているために、シフトフィーリングを向上したうえで、ポジション抜けを防止するというように、両方をバランス良く両立させる必要がある。
【0015】
特に、シフトフィーリングを向上させることとポジション抜けを防止することとが、相反する関係であることを考慮すると、各ポジション溝の深さを適度に浅くして節度力を弱めることにより、シフトフィーリングの向上を図るようにしたうえで、ポジション抜けを防止するために工夫を施すようにせざるを得ない。ここに改良の余地がある。
【0016】
本発明は、車両用の自動変速機においてシフトレバーの操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置において、良好なシフトフィーリングを確保したうえで、急制動やミスシフトによるポジション抜けを回避可能とし、操作性ならびに信頼性の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、車両用の自動変速機においてシフトレバーの操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置であって、シフトレバーの操作に応答して適宜方向に傾動されることに伴い自動変速機に備える変速段切替用の油圧制御装置の一構成要素であるマニュアルバルブの状態を変更するディテントレバーを有し、このディテントレバーの傾動時に、当該ディテントレバーに作用する角速度に応じた抵抗を当該ディテントレバーに付与する抵抗付与手段が設けられている、ことを特徴としている。
【0018】
この構成によれば、ディテントレバーが急激に傾動されたとき、つまり角速度が大になるとき、ディテントレバーにその傾動を阻む大きな抵抗が付与されるので、ディテントレバーが緩やかに傾動するようになって、ディテントレバーの傾き方向へ働く慣性力が低減されることになる。一方、ディテントレバーが緩やかに傾動されたとき、つまり角速度が小になるとき、ディテントレバーに小さな抵抗しか付与されないので、ディテントレバーがスムーズに傾動するようになる。
【0019】
これにより、例えば車両を急制動することに伴い自動変速機がノーズダイブしたときに、ディテントレバーの例えばドライブポジション溝に係合しているラッチレバーのピンが抜け出すことを阻止することが可能になる。
【0020】
また、例えばレンジ切り替えのためにミスシフトを行ったときに、ディテントレバーの目標ポジション溝をラッチレバーのピンに正確に位置決めして係合させることが可能になる。
【0021】
また、本発明は、車両用の自動変速機においてシフトレバーの操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置であって、人的に操作されて任意の変速段を選択するためのシフトレバーと、シフトレバーで選択された変速段を成立させるための駆動手段とを含み、前記駆動手段は、自動変速機のケースの内側に配置されかつシフトレバーの操作に応答して適宜方向に傾動されることに伴い自動変速機に備える変速段切替用の油圧制御装置の一構成要素であるマニュアルバルブの状態を変更するディテントレバーと、自動変速機のケース外側に配置されかつ前記ディテントレバーに一体に傾動可能にシフトコントロールシャフトを介して取り付けられるアウターレバーと、このアウターレバーと前記シフトレバーとを機械的に連動連結するためのシフトロッドとを含み、前記ディテントレバーの傾動時に、当該ディテントレバーに作用する角速度に応じた抵抗を当該ディテントレバーに付与する抵抗付与手段が設けられている、ことを特徴としている。
【0022】
この構成は、シフトレバーとディテントレバーとを機械的に連動連結したタイプである。このようなタイプの場合、車両の急制動に伴いノーズダイブ現象が発生したときに、ラッチレバーのピンに係合しているディテントレバーのポジション溝が前記ピンから外れて、他のポジション溝が前記ピンに係合するような現象が発生しやすくなる。
【0023】
しかしながら、本発明の構成によれば、急制動に伴うノーズダイブ時に、ディテントレバーにノーズダイブ方向の慣性力が作用するものの、抵抗付与手段がディテントレバーに前記慣性力に対する抵抗を付与するから、ディテントレバーが急激に傾動しにくくなる。これにより、ラッチレバーのピンとディテントレバーのポジション溝との係合状態を維持することが可能になり、従来例のようなポジション抜けを防止することが可能になる。
【0024】
好ましくは、前記ディテントレバーは、その傾動中心から延びるアームが自動変速機に貯留されるオイル内に浸漬され、また、前記抵抗付与手段は、ディテントレバーの前記アームに設けられる板体とされる。
【0025】
この構成によれば、ディテントレバーが傾動する際に、抵抗付与手段としての板体がオイルを掻き分けるように動くことになり、それによって、オイルの流動抵抗がディテントレバーにかかることになる。
【0026】
しかも、前記抵抗付与手段を極めて簡易で設置スペースが小さな板体にしているから、設備コストの上昇ならびに自動変速機の大型化を抑制するうえで有利となる。
【0027】
好ましくは、前記抵抗付与手段は、液体を圧縮、膨張する伸縮タイプの液圧式ダンパとされる。この液圧式ダンパを構成するピストンまたはシリンダのうち、一方が前記ディテントレバーの傾動支点から離れた位置に固定され、他方が自動変速機のケースに固定される。
【0028】
この構成では、液圧式ダンパを用いているから、例えば市販品等を簡易に調達できる等、設備コストを抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、良好なシフトフィーリングを確保したうえで、急制動やミスシフトに伴うポジション抜けを回避することが可能になる。したがって、シフト切替装置の操作性ならびに信頼性の向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図12に示して詳細に説明する。
【0031】
まず、図1から図8に本発明の一実施形態を示している。ここで、本発明の特徴を適用した部分の説明に先立ち、本発明の適用対象となる車両用自動変速機のレンジ切替装置の概略構成について、図1および図2を参照して説明する。
【0032】
図1は、本発明の適用対象となる車両用自動変速機の概略構成図、図2は、本発明に係る車両用自動変速機のレンジ切替装置の一実施形態を示す概略構成の斜視図である。
【0033】
これらの図において、1はフロントエンジン・リアドライブ(FR)形式の車両用の自動変速機を示している。
【0034】
この自動変速機1は、図1に示すように、主として、インプットシャフト2、トルクコンバータ3、オイルポンプ4、変速機構部5、油圧制御装置6、アウトプットシャフト7等を含んで構成されている。
【0035】
この自動変速機1の動作としては、要するに、図示していないエンジンのクランクシャフトの回転がトルクコンバータ3を介してインプットシャフト2に入力され、このインプットシャフト2に入力された回転を、変速機構部5で適宜の変速比に変速してアウトプットシャフト7から出力する。このアウトプットシャフト7の出力が、図示していないプロペラシャフトおよびデファレンシャルを介して左右の後輪に伝達されるようになっている。
【0036】
変速機構部5は、詳細に図示していないが、例えば複数段の遊星機構を用いる構成とされるが、その他に、複数の歯車機構を用いる構成、CVTと呼ばれる無段変速機構を用いる構成等とすることが可能である。
【0037】
油圧制御装置6は、前述した変速機構部5の変速動作を制御するもので、詳細に図示していないが、変速機構部5に用いる各種のブレーキやクラッチの係合動作を制御する複数のリニアソレノイドバルブや、各リニアソレノイドバルブに必要に応じて作動油を供給するマニュアルバルブ8を少なくとも備えている。
【0038】
マニュアルバルブ8は、運転者による要求に応じてニュートラルレンジN、ドライブレンジDまたはリバースレンジRを成立するために、適宜のポートから適宜のリニアソレノイドバルブにそれぞれ作動油を供給するものである。
【0039】
このマニュアルバルブ8は、図2に示すように、例えばスプールバルブタイプとされており、図示省略している各種の給油ポートや排出ポートを有するバルブボディ8aと、バルブボディ8aに軸方向変位可能に収納されているスプール8bとを有している。
【0040】
このマニュアルバルブ8は、スプール8bをその軸方向一方または他方に変位させて所定位置に位置決めすることにより、適宜、パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDを成立させるようになっている。例えばバルブボディ8aは、自動変速機1のケースの一部として一体的に形成される。
【0041】
この油圧制御装置6のマニュアルバルブ8は、レンジ切替装置20でもって駆動されるようになっている。
【0042】
このレンジ切替装置20は、運転者による要求に応じて自動変速機1の変速段(パーキングレンジP,リバースレンジR,ニュートラルレンジN,ドライブレンジD等)を成立するものであり、主として、シフトレバー21と、駆動手段としての駆動ユニット22と、パーキングロック機構23とを含んで構成されている。
【0043】
シフトレバー21は、車両の運転席近傍に設置されるもので、人的に操作されて任意のシフトレンジに配置されるものである。
【0044】
駆動ユニット22は、シフトレバー21で選択されたシフトレンジを成立させるために、上述した変速段切替用の油圧制御装置6の一構成要素であるマニュアルバルブ8の状態を変更するものであって、主として、ディテントレバー31と、アウターレバー32と、シフトコントロールシャフト33と、シフトロッド34と、ラッチレバー35とを含んで構成されている。
【0045】
まず、ディテントレバー31は、シフトレバー21により選択されるシフトレンジ(例えばパーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジNならびにドライブレンジD)に連係して例えば四段階に傾動されるものであり、その傾動姿勢に応じてマニュアルバルブ8のスプール8bを軸方向に変位させてマニュアルバルブ8の状態を変更するものである。
【0046】
このディテントレバー31の上側アーム31aには、波形溝が設けられている。この波形溝は、シフトレバー21における四段階のシフトレンジ(パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジNならびにドライブレンジD)に対応する数(四つ)の溝を有している。
【0047】
ここで、このディテントレバー31の長手方向途中には、マニュアルバルブ8のスプール8bの前端が結合される突片31bが設けられている。
【0048】
ここで、ディテントレバー31を適宜傾動させると、スプール8bが軸方向に進退変位されることにより、パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDが成立されるようになっている。
【0049】
ディテントレバー31は、自動変速機1のケース内側に配置され、アウターレバー32は、自動変速機1のケース外側に配置されており、シフトコントロールシャフト33は、ディテントレバー31とアウターレバー32とを一体に傾動可能に連結するもので、自動変速機1のケースに回動可能に支持されている。
【0050】
シフトロッド34は、アウターレバー32とシフトレバー21とを機械的に連動連結するもので、自動変速機1のケース外側に配置されている。このシフトロッド34とシフトレバー21とは、枢軸36を介してリンク結合されており、シフトレバー21は、その長手方向途中が車体(図示省略)等の固定位置に枢軸37を介して回動自在に支持されている。
【0051】
ラッチレバー35は、ディテントレバー31の四段階の傾動姿勢を個別に保持するもので、後端がマニュアルバルブ8のバルブボディ8aに取り付けられた板ばね等からなる本体の先端に、ディテントレバー31の上側アーム31aにおける波形溝のいずれかに係合されるピン35aが設けられた構成になっている。
【0052】
パーキングロック機構23は、パーキングレンジPが選択されたときに自動変速機1のアウトプットシャフト7を回転不可能な状態とするものであって、主として、パーキングギア41と、パーキングロックポール42と、パーキングロックロッド43とを有している。
【0053】
パーキングギア41は、アウトプットシャフト7に外装固定され、パーキングロックポール42は、パーキングギア41に対して遠近変位可能に傾動自在に支持されており、パーキングギア41の歯間に係入、離脱可能とされる爪42aが設けられている。
【0054】
パーキングロックロッド43は、一端がディテントレバー31の上側アーム31aの途中に連結されていて、ディテントレバー31の回動動作によってアウトプットシャフト7と略平行に前側または後側に変位されるようになっている。
【0055】
このパーキングロックロッド43の他端には、パーキングロックポール42を傾動させるためのテーパコーン44が設けられており、テーパコーン44をパーキングギア41に押圧するようにコイルスプリング45で付勢するようになっている。コイルスプリング45の一端は、パーキングロックロッド43に固定されたスナップリング46で受け止められる。
【0056】
このパーキングロック機構23の動作としては、ディテントレバー31の回動動作によってパーキングロックロッド43を例えば後側にスライド変位させると、テーパコーン44がパーキングロックポール42を上向きに押し上げて、その爪42aをパーキングギア41の歯間に係入させることによって、アウトプットシャフト7を回転不可能なロック状態とする。一方、ディテントレバー31の回動動作によってパーキングロックロッド43を例えば前側にスライド変位させると、テーパコーン44によるパーキングロックポール42の押し上げ力が解除され、パーキングロックポール42が下向きに下がるので、その爪42aがパーキングギア41の歯間から抜け出ることによってアウトプットシャフト7を回転可能なアンロック状態とする。
【0057】
ここで、上述したような構成のレンジ切替装置20に本発明を適用した部分について図3から図8を参照して詳細に説明する。
【0058】
要するに、ディテントレバー31の傾動時に、ディテントレバー31に作用する角速度に応じた抵抗をディテントレバー31に付与するために、ディテントレバー31の下側アーム31cに、抵抗付与手段としての板体50を設けている。
【0059】
この実施形態では、図3および図4に示すように、板体50を、ディテントレバー31と別体に形成されるものとし、ボルト52等の締結部材でもってディテントレバー31の下側アーム31cに取り付けるような形態としている。
【0060】
詳しくは、板体50は、平面的に見て略長方形とされていて、その一方長辺には、二つ一対で対向する取付片51,51が設けられている。
【0061】
このようなディテントレバー31と別体の板体50をディテントレバー31に取り付けるための形態については、一対の取付片51,51をディテントレバー31の下側アーム31cを挟むような状態にあてがい、一対の取付片51,51と下側アーム31cとの重合部分をボルト52で留めるようにする。
【0062】
そして、このようなディテントレバー31は、その下側アーム31cおよび板体50を自動変速機1のケース内に貯留されるオイル内に浸漬させるような状態で、自動変速機1のケースに配置される。
【0063】
そのため、抵抗付与手板50を設けたディテントレバー31が、あたかも船を漕ぐためのオールのようなものとなり、それによって、ディテントレバー31を傾動動作させると、その板体50が自動変速機1のケース内のオイルを掻き分けるようになり、その際にディテントレバー31に適宜の抵抗を付与することになる。
【0064】
次に、上述したような構成のレンジ切替装置20の基本的な動作を説明する。図5および図6は、図2のレンジ切替装置の側面図で、図5はシフトレバーをパーキングレンジPに位置させている状態、図6はシフトレバーをドライブレンジDに位置させている状態を示している。
【0065】
運転者がシフトレバー21を操作して適宜のシフトレンジ位置にまで動かすと、シフトロッド34を介してアウターレバー32およびそれと一体のディテントレバー31が傾動されることになる。
【0066】
例えば図5に示すパーキングポジションPに位置しているシフトレバー21を図6に示すドライブポジションDに移動させる場合、シフトレバー21の移動に応じてシフトロッド34が前側へ押されることになり、アウターレバー32が図5から図6に示すように反時計方向に傾動する。このとき、アウターレバー32とシフトコントロールシャフト33で一体に連結されているディテントレバー31も反時計方向に傾動する。
【0067】
これにより、ディテントレバー31の上側アーム31aにおける係合溝の隣り合う溝間の山を乗り越えることによって、ラッチレバー35のピン35aがドライブポジション溝Dに係合することになる。この状態では、ラッチレバー35が適宜に弓なりに弾性変形するように設定されているので、その弾性復元力でもってラッチレバー35のピン35aがドライブポジション溝Dに強く係合することになり、ディテントレバー31の姿勢が保持される。
【0068】
このようなディテントレバー31の傾動に伴い、マニュアルバルブ8のスプール8bがスライドされて、マニュアルバルブ8が選択されたドライブレンジDへと切り替えられることにより、油圧制御装置6が適宜に駆動されて変速機構部5内で適宜の動力伝達経路つまり変速段が成立されることになる。
【0069】
ところで、ドライブポジションDを成立させている状態において、車両を急制動した場合についての各部の挙動について説明する。
【0070】
例えば車両が急制動されると、車両の前輪に荷重が急激に移動するために、車両が前のめり姿勢になる、いわゆるノーズダイブ現象が発生する。
【0071】
このとき、エンジンおよび自動変速機1からなるパワートレーンが、一般的に、ゴム系のブッシュを介して車両に搭載されている関係より、パワートレーンがさらに前のめり姿勢になるために、シフトロッド34やディテントレバー31に前方への荷重移動に伴う慣性力が作用する。
【0072】
従来では、前記慣性力が大きいと、ディテントレバー31に傾動させようとする力が急激に働くために、ラッチレバー35のピン35aに係合しているディテントレバー31のドライブポジション溝Dが一旦外れて、その隣に位置するニュートラルポジション溝Nがラッチレバー35のピン35aに係合するような現象が発生することがある。この現象を、ポジション抜けと言う。
【0073】
ところが、この実施形態では、上述したように車両の急制動によってディテントレバー31に作用する角速度が大きくなると、ディテントレバー31に付設した板体50が自動変速機1のケース内のオイルを掻き分けるようになるために、ディテントレバー31にその傾動を阻むような大きな抵抗が付与されることになる。
【0074】
そのため、ディテントレバー31が緩やかに傾動するようになって、ディテントレバー31の傾き方向へ働く慣性力が低減されることになる。これにより、ラッチレバー35のピン35aとディテントレバー31のドライブポジション溝Dとの係合状態を維持することが可能になり、従来例のようなポジション抜けを防止することが可能になる。
【0075】
但し、ディテントレバー31を緩やかに傾動させたとき、つまり角速度が小になるとき、ディテントレバー31に小さな抵抗しか付与されないので、ディテントレバー31がスムーズに傾動するようになる。
【0076】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した実施形態では、ディテントレバー31に作用する角速度が大きいときにはディテントレバー31の動きを緩慢にしてポジション抜けを防止する一方で、ディテントレバー31に作用する角速度が小さいときにはディテントレバー31の動きをスムーズにすることが可能になる。特に、シフトロッド34を例えば振動対策のために質量アップしている場合において有利である。
【0077】
これにより、ポジション抜けに対する信頼性の向上を図ることができるので、ディテントレバー31の各ポジション溝の深さを浅めに設定することが可能になって、シフトフィーリングを向上するうえで有利となる。
【0078】
しかも、上記実施形態では、抵抗付与手段について極めて簡易で設置スペースが小さな板体50にしているから、設備コストの上昇ならびに自動変速機1の大型化を抑制するうえで有利となる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下、本発明の他の実施形態を例に挙げる。
【0080】
(1)本発明の適用対象とする自動変速機の基本構成は、上記実施形態で説明したようなフロントエンジン・リアドライブ(FR)形式に用いるタイプに限定されず、他の構成、例えばフロントエンジン・フロントドライブ(FF)形式に用いるタイプの自動変速機にも適用できる。また、上記実施形態では、一般的なトルクコンバータを用いるタイプの自動変速機1に本発明を適用した例を挙げているが、自動変速機は有段式、無段式のどちらでも可能である。また、マニュアルバルブを備えない、ハイブリッド車両用自動変速機にも適用可能である。
【0081】
(2)上記実施形態では、ディテントレバー31に、抵抗付与手段としての板体50をボルト52等で取り付ける例を挙げているが、この板体50は、例えば図9に示すように、ディテントレバー31と一体に形成することができる。
【0082】
この場合、例えば一枚の金属板を打ち抜いてから捩じるように屈曲することによって製造することができるが、その他には、金型を用いて製造する鋳造品や樹脂成形品等とすることができる。
【0083】
図9に示すように板体50を一体にしたタイプのディテントレバー31であれば、製造コストの上昇ならびに重量増加を抑制するうえで有利となる。
【0084】
(3)上記実施形態では、ディテントレバー31に設ける抵抗付与手段を板体50とした例を挙げているが、例えば図10から図12に示すような液圧式ダンパ60とすることが可能である。
【0085】
この抵抗付与手段としての液圧式ダンパ60は、液体を圧縮、膨張する伸縮タイプであり、シリンダ61とピストン62とを含んで構成されている。
【0086】
シリンダ61は、自動変速機1のケースに揺動可能に固定され、ピストン62は、ディテントレバー31の下側アーム31c、つまりディテントレバー31の傾動支点から離れた位置に固定される。
【0087】
なお、シリンダ61は、自動変速機1のケース内に貯留されるオイル(ATF)に浸漬されており、このシリンダ61の外端面には、オイル通過用のオリフィス63が設けられており、また、シリンダ61の内壁面とピストン62の外周面との摺動部分には、オイル通過用のクリアランス64が設けられている。
【0088】
動作としては、ディテントレバー31の傾動動作に伴いピストン62がシリンダ61内で進退変位されると、このピストン62の往復ストロークに伴い自動変速機1のケース内のオイルがシリンダ61内に吸引されたり、シリンダ61内のオイルが外部に排出されたりすることによって、ディテントレバー31に適宜の抵抗を付与するようになっている。
【0089】
この実施形態で説明した液圧式ダンパ60によれば、ディテントレバー31に付与する抵抗を高精度に管理することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の適用対象となる車両用自動変速機の概略構成図である。
【図2】本発明に係る車両用自動変速機のレンジ切替装置の一実施形態を示す概略構成の斜視図である。
【図3】図2のディテントレバーを拡大して示す斜視図である。
【図4】図3のディテントレバーの抵抗付与手段としての板体を分離して示す斜視図である。
【図5】図2のレンジ切替装置の側面図で、シフトレバーをパーキングレンジPに位置させている状態を示している。
【図6】図2のレンジ切替装置の側面図で、シフトレバーをドライブレンジDに位置させている状態を示している。
【図7】図5のディテントレバーによる動作説明に用いる側面図である。
【図8】図7に示すパーキングレンジからドライブレンジに変更したときのディテントレバーの姿勢を示す図である。
【図9】図1から図8に示す抵抗付与手段の他実施形態で、図3に対応する図である。
【図10】図1から図8に示す抵抗付与手段のさらに他実施形態で、図3に対応する図である。
【図11】図10の実施形態で、図7に対応する図である。
【図12】図11のディテントレバーをドライブレンジDに変更したときのディテントレバーの姿勢を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 自動変速機
5 変速機構部
6 油圧制御装置
7 アウトプットシャフト
8 マニュアルバルブ
20 レンジ切替装置
21 シフトレバー
22 駆動ユニット(駆動手段)
31 駆動ユニットのディテントレバー
32 駆動ユニットのアウターレバー
33 駆動ユニットのシフトコントロールシャフト
34 駆動ユニットのシフトレバー
35 駆動ユニットのラッチレバー
35a ラッチレバーのピン
50 板体(抵抗付与手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の自動変速機においてシフトレバーの操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置であって、
シフトレバーの操作に応答して適宜方向に傾動されることに伴い自動変速機に備える変速段切替用の油圧制御装置の一構成要素であるマニュアルバルブの状態を変更するディテントレバーを有し、
このディテントレバーの傾動時に、当該ディテントレバーに作用する角速度に応じた抵抗を当該ディテントレバーに付与する抵抗付与手段が設けられている、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項2】
車両用の自動変速機においてシフトレバーの操作に伴い目標の変速段を確立するレンジ切替装置であって、
人的に操作されて任意の変速段を選択するためのシフトレバーと、シフトレバーで選択された変速段を成立させるための駆動手段とを含み、
前記駆動手段は、自動変速機のケースの内側に配置されかつシフトレバーの操作に応答して適宜方向に傾動されることに伴い自動変速機に備える変速段切替用の油圧制御装置の一構成要素であるマニュアルバルブの状態を変更するディテントレバーと、
自動変速機のケース外側に配置されかつ前記ディテントレバーに一体に傾動可能にシフトコントロールシャフトを介して取り付けられるアウターレバーと、
このアウターレバーと前記シフトレバーとを機械的に連動連結するためのシフトロッドとを含み、
前記ディテントレバーの傾動時に、当該ディテントレバーに作用する角速度に応じた抵抗を当該ディテントレバーに付与する抵抗付与手段が設けられている、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記ディテントレバーは、その傾動中心から延びるアームが自動変速機に貯留されるオイル内に浸漬され、
前記抵抗付与手段は、ディテントレバーの前記アームに設けられる板体とされる、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自動変速機のレンジ切替装置において、
前記抵抗付与手段は、液体を圧縮、膨張する伸縮タイプの液圧式ダンパとされ、
この液圧式ダンパを構成するピストンまたはシリンダのうち、一方が前記ディテントレバーの傾動支点から離れた位置に固定され、他方が自動変速機のケースに固定される、ことを特徴とする自動変速機のレンジ切替装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−232223(P2008−232223A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70919(P2007−70919)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】