説明

自動変速機のロックアップクラッチ制御装置

【課題】変速中に一時的にスリップ量が大きくなった場合に、故障であると判断されないようにする。
【解決手段】トルクコンバータ2に設けられて、トルクコンバータ2の入力側であるポンプインペラ2aと出力側であるタービンランナ2bとを締結するロックアップクラッチ2dの制御装置20であって、車両の運転状態に基づいて、ロックアップクラッチ2dのスリップ量を制御するロックアップクラッチ制御手段と、ロックアップクラッチ2dの故障判定用の所定の閾値を設定する閾値設定手段と、スリップ量を制御している際に、スリップ量が所定の閾値より大きくなると、ロックアップクラッチ2dが故障していると判断する故障判断手段と、を備え、閾値設定手段は、自動変速機1が変速中の間は、自動変速機1が変速中でないときの第1閾値Th1よりも大きい第2閾値Th2を、故障判定用の所定の閾値として設定する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のロックアップクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機では、エンジンの回転駆動力が、トルクコンバータを介して変速機構部に入力されるようになっており、トルクコンバータには、入力側(エンジン側)と出力側(変速機構部側)とを締結(直結)するロックアップクラッチが設けられている。
【0003】
ロックアップクラッチの動作は、車両の運転状態に応じて制御されるようになっており、例えば、車両の運転状態が、入力側と出力側とを締結(直結)させる締結領域にある場合には、ロックアップクラッチは、ロックアップ状態とされて、入力側と出力側とが締結されるようになっている。
【0004】
特許文献1には、ロックアップクラッチがロックアップ状態とされてトルクコンバータの入力側と出力側とが締結されている場合に、ロックアップクラッチに所定の滑りが生じると、ロックアップクラッチが故障していると判断するものが開示されている。
【0005】
また、自動変速機の変速中にロックアップクラッチを完全に解放して、変速ショックを低減しようとすると、ロックアップクラッチの完全解放に伴うエンジン回転数の変動に起因するショックや、その後のロックアップクラッチの再締結に起因するショックが問題となる。
そのため、特許文献2には、このようなショックを低減するために、自動変速機の変速中にロックアップクラッチを完全に解放せずに、ロックアップクラッチをスリップ締結状態で維持するようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−176265号公報
【特許文献2】特開平6−101755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、自動変速機の変速中にロックアップクラッチが所定のスリップ回転数となるように制御して、ロックアップクラッチをスリップ締結状態で維持する場合、変速の進行により出力側の回転数(タービン回転数)が変化するため、変速中のロックアップクラッチのスリップ量が一時的に大きくなってしまう。
そのため、ロックアップクラッチに所定の滑りがあるときに故障であると一律に判断すると、変速により一時的にスリップ量が大きくなったときにロックアップクラッチが故障していると誤って判断されてしまうことがあった。
【0008】
そこで、ロックアップクラッチに所定の滑りがあるときに故障であると判断するようにされた自動変速機において、変速中に一時的にスリップ量が大きくなった場合に、故障であると判断されないようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両用の自動変速機のトルクコンバータに設けられてトルクコンバータの入力側と出力側とを締結するロックアップクラッチのスリップ量を、車両の運転状態に基づいて制御するロックアップクラッチ制御手段と、ロックアップクラッチの故障判定用の所定の閾値を設定する閾値設定手段と、スリップ量を制御している際に、スリップ量が所定の閾値より大きくなると、ロックアップクラッチが故障していると判断する故障判断手段と、を備える自動変速機のロックアップクラッチ制御装置において、閾値設定手段は、自動変速機が変速中の間は、自動変速機が変速中でないときの第1閾値よりも大きい第2閾値を、所定の閾値として設定する構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロックアップクラッチのスリップ量が大きく変化する変速中の間は、変速中でないときの第1閾値よりも大きい第2閾値に基づいてロックアップクラッチの故障が判断される。
よって、変速中のスリップ量の増大がロックアップクラッチの故障であると誤って判断されることを防止できる。また、変速中にロックアップクラッチが締結できない故障になったときには、ロックアップクラッチの故障を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態にかかる自動変速機のロックアップクラッチ制御装置の概略構成図である。
【図2】ロックアップクラッチ制御装置で実行される故障判断処理のフローチャートである。
【図3】ダウンシフト変速と、このダウンシフト変速に平行して行われる故障判断処理を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態にかかる自動変速機のロックアップクラッチ制御装置の概略構成を示す図である。
【0013】
図1に示すように、自動変速機1は、トルクコンバータ2と、変速機構部3と、を備え、エンジン4の出力回転(回転駆動力)は、エンジン4と変速機構部3との間に介挿されたトルクコンバータ2を介して、変速機構部3の入力軸5に入力される。
【0014】
トルクコンバータ2では、エンジン4の出力軸4aに連結されて一体に回転するポンプインペラ2aと、変速機構部3の入力軸5に連結されて一体に回転するタービンランナ2bとが、同軸上で対向して設けられており、ポンプインペラ2aとタービンランナ2bとの間には、一方向にのみ回転可能とされたステータ2cが、これらと同軸に設けられている。
【0015】
ポンプインペラ2aとタービンランナ2bは、コンバータハウジング7内で相対回転可能とされており、エンジン4の回転駆動力でポンプインペラ2aが回転すると、トルクコンバータ2の内部に充填された流体(ATF)を介して、ポンプインペラ2aからタービンランナ2bに回転が伝達されて、入力軸5に回転が入力される。
【0016】
ロックアップクラッチ2dは、入力軸5に一体回転可能に連結されており、トルクコンバータ2のエンジン4側の全面を覆うフロントカバー2eの内側に設けられている。
【0017】
ロックアップクラッチ2dは、その両側に作用するアプライ圧PAとレリーズ圧PRとの差圧に応じて動作し、レリーズ圧PRがアプライ圧PAよりも低いときには、フロントカバー2eの内側面に当接して、トルクコンバータ2の入力側(ポンプインペラ2a)と出力側(タービンランナ2b)とが、一体回転可能に締結される。
【0018】
一方、レリーズ圧PRがアプライ圧PAよりも高いときには、ロックアップクラッチ2dがフロントカバー2eの内側に付勢される力が弱くなって、トルクコンバータ2の入力側(ポンプインペラ2a)と出力側(タービンランナ2b)とが相対回転可能とされる。
【0019】
実施の形態では、ロックアップクラッチ2dの状態として、ロックアップ状態と、スリップ状態と、完全解放状態とが設定されている。
ロックアップ状態では、フロントカバー2eに当接させたロックアップクラッチ2dにより、トルクコンバータ2の入力側(ポンプインペラ2a)と出力側(タービンランナ2b)とが相対回転不能に連結される。このロックアップ状態では、入力側と出力側とが直結されて一体に回転する。
【0020】
スリップ状態では、フロントカバー2eに当接させたロックアップクラッチ2dにより、トルクコンバータ2の入力側(ポンプインペラ2a)と出力側(タービンランナ2b)とが相対回転可能に連結される。このスリップ状態では、アプライ圧PAとレリーズ圧PRとの差圧に応じて決まるスリップ量で、ポンプインペラ2aとタービンランナ2bとが相対回転する。
【0021】
完全解放状態では、ロックアップクラッチ2dがフロントカバー2eに当接していない状態となり、トルクコンバータ2の入力側(ポンプインペラ2a)と出力側(タービンランナ2b)とが相対回転可能とされる。この完全解放状態では、トルクコンバータ2の入力側(ポンプインペラ2a)から出力側(タービンランナ2b)への回転の伝達が、流体を介してのみ行われる。
【0022】
ここで、ロックアップクラッチ2dの締結力に依存する伝達可能トルク、つまりロックアップ容量は、アプライ圧PAとレリーズ圧PRの差圧により決定される。
この差圧は、制御装置20によって算出される目標スリップ量に基づいて制御される。
目標スリップ量は、トルクコンバータ2の入力側と出力側との回転速度差であり、目標スリップ量が大きいほど差圧を小さくして、ロックアップクラッチ2dの締結力を低下させる。
【0023】
変速機構部3は、同軸に配置された入力軸5と出力軸6上に、図示しないフロントプラネタリギヤ組、リヤプラネタリギヤ組が配置されて構成され、油圧により作動する複数の摩擦締結要素8の締結、解放の組み合わせにより動力伝達経路を切り換えて、所望の変速段を実現する。
【0024】
変速機構部3を収容する変速機ケース9の下部には、バルブボディ10が固定されており、バルブボディ10内には、アプライ圧PAとレリーズ圧PRを供給する油路(図示せず)、各摩擦締結要素8に油圧を供給する油路(図示せず)、油路を切り換えるスプール(図示せず)、摩擦締結要素8に供給される油圧を調整する調圧弁(図示せず)、そしてアプライ圧PAとレリーズ圧PRの調圧弁(図示せず)などを備える油圧制御回路11が形成されている。
【0025】
実施の形態では、例えば制御装置20から入力される指令に基づいて駆動されるソレノイド(図示せず)が、各油路に設けられた調圧弁(図示せず)を操作して、制御装置20が設定した指令圧(目標圧)の油圧が所定の締結要素やロックアップクラッチ2dに供給されるように制御される。また、車両の走行時には、所望の変速比を得るために必要な摩擦締結要素のみに油圧を供給するように制御される。
【0026】
制御装置20には、アクセルペダル操作量センサ21、エンジン回転センサ22、タービン回転センサ23、車速センサ24、インヒビタスイッチ25、エンジントルクセンサ26から、それぞれアクセルペダル操作量、エンジン4の出力軸4aの回転数(エンジン回転数Ne)、入力軸5の回転数(タービン回転数Nt)、出力軸6の回転数(車速)、シフトレバーの選択レンジ、エンジン4の出力トルクを示す信号が入力される。
【0027】
制御装置20は、例えば車速やエンジン回転数などにより特定される車両の運転状態に基づいて、自動変速機1の変速制御を実行する。
具体的には、変速判断がされると、油圧制御回路11を制御して、締結させる摩擦締結要素8の組み合わせを、変速後の変速段を実現する組み合わせに変更する。
【0028】
また、制御装置20は、車両の運転状態に基づいて、図示しないロックアップクラッチの制御マップを参照し、ロックアップクラッチ2dの締結状態を、ロックアップ状態、スリップ状態、完全解放状態のうちの何れにするのかを決定する。
【0029】
ここで、ロックアップクラッチ2dがスリップ状態である場合、制御装置20は、各種センサ21〜26から入力される信号に基づいて、ロックアップクラッチ2dの目標スリップ量を算出する。
そして、算出した目標スリップ量に基づいて、ロックアップクラッチ2dのアプライ圧PAとレリーズ圧PRの差圧指令値を求め、この差圧指令値をロックアップクラッチ2dへの供給油圧を制御する油圧制御回路11へ指示する。
【0030】
さらに、ロックアップクラッチ2dが、スリップ状態またはロックアップ状態である場合、制御装置20は、ロックアップクラッチ2dの故障判断処理を実行する。この故障判断処理では、ロックアップクラッチ2dをロックアップ状態(締結状態)にすることができない故障を検知している。
【0031】
さらに、制御装置20は、コースト走行時に変速判断がされた場合に、自動変速機1の変速制御を実行すると共に、この変速制御に平行して、ロックアップクラッチ2dの故障判断処理を実行する。
【0032】
制御装置20の記憶手段27は、制御装置20により実行される処理のプログラム、処理の実行に際して参照される固定値データや各種マップなどを、記憶している記憶媒体である。
実施の形態では、故障判断処理に関係するマップとして、例えば、変速速度マップ27aと、変速時間マップ27bと、スリップ量マップ27cと、が記憶されている。
【0033】
変速速度マップ27aは、車両の運転状態と、変速速度との関係を規定するマップである。このマップでは、車両の運転状態毎に、どの程度の変化率で変速を進行させるのか(どの程度の変化率でタービン回転数Ntを変化させるのか)が、予め設定されている。
【0034】
変速時間マップ27bは、車両の運転状態と、変速時間との関係を規定するマップである。このマップでは、車両の運転状態毎に、どの程度の時間で変速を完了させるのか(どの程度の時間でタービン回転数Ntの変化を完了させるのか)が、予め設定されている。
【0035】
スリップ量マップ27cは、変速中のタービン回転数の変化量Δnと、ロックアップクラッチ2dのスリップ量の変化量ΔNsとの関係を規定するマップである。
例えばコースト走行時におけるダウンシフトの場合には、ダウンシフト(変速)の間におけるタービン回転数の変化量Δnから、ロックアップクラッチ2dのスリップ量の増加量ΔNsが判るようになっている。
このタービン回転数の変化量Δnとロックアップクラッチ2dのスリップ量の変化量ΔNsとの関係を規定するスリップ量マップ27cは、変速中に変化するロックアップクラッチ2dのスリップ量を実験などにより予め求め、この求められたデータに基づいて作成されている。
【0036】
以下、コースト走行時にダウンシフト判断(変速判断)がされた場合に、制御装置20において実行されるロックアップクラッチ2dの故障判断処理を説明する。
図2は、故障判断処理を説明するフローチャートであり、図3は、ダウンシフト変速と、このダウンシフト変速に平行して行われる故障判断処理を説明するタイムチャートである。
【0037】
制御装置20では、ダウンシフト判断(変速判断)がされて自動変速機1の変速(ダウンシフト)が開始されると(ステップ101)、ステップ102において、アクセルペダル操作量センサ21の出力に基づいて、アクセルペダル(図示せず)が運転者により踏み込まれていないオフ状態(パワーオフ)であるか否かを確認する。
ここで説明する故障判断処理は、コースト走行時に変速判断があった場合に行われる処理だからである。
そのため、ステップ102においてパワーオフでない場合には、ステップ103以降の処理は行われずに、ステップ101にリターンする。
【0038】
ここで、ダウンシフト変速時におけるロックアップクラッチ2dの制御を説明する。
実施の形態にかかる制御装置20は、図3に示すように、変速判断がされると(時刻t0)、変速ショックを低減するために、ロックアップクラッチ2dをスリップ状態にし、変速判断後の所定期間の間、スリップ量が目標スリップ量となるように、アプライ圧PAとレリーズ圧PRの差圧のFB(フィードバック)、FF(フィードワード)制御を実施する。すなわち、スリップ量の制御を実施する。
【0039】
ここで、変速判断後の所定期間の間(変速中の間)の目標スリップ量は、変速中でないときにロックアップクラッチ2dをスリップ状態にする場合の目標スリップ量よりも、大きい値に設定されている。
ショックを低減するために必要とされるスリップ量の変動幅が、変速中でないときよりも大きいからである。
【0040】
実施の形態では、変速中の間の目標スリップ量は、変速判断(時刻t0)ののち、変速が進行してイナーシャフェーズの開始時点(時刻t1)になるまでの間は一定値に保持され、イナーシャフェーズの進行に伴ってタービン回転数Ntが上昇するにつれて、大きくなるように変更される。
【0041】
そのため、エンジン回転数Neからタービン回転数Ntを減算して算出される実際のスリップ量Ns(Ne−Nt)は、変速判断(時刻t0)からイナーシャフェーズの開始(時刻t1)までの間は、ほぼ一定となり、イナーシャフェーズの開始(時刻t1)から終了(時刻t2)にかけて、タービン回転数Ntが上昇するにつれて、大きくなる。
【0042】
そして、例えば入力軸5の回転数と出力軸6の回転数とから算出した変速比(入力軸5の回転数/出力軸6の回転数)が、ダウンシフト後の変速段の変速比となって変速の完了が判断された時点(時刻t2)から所定時間ΔTの間で、目標スリップ量は、変速中でないときの目標スリップ量(ロックアップクラッチ2dをロックアップ状態にするときは、「0(ゼロ)」、スリップ状態にするときは、変速中の目標スリップ量よりも小さい所定のスリップ量)に向けて小さくなるように変更される。
なお、実施の形態では、所定時間ΔTの間における目標スリップ量の変化率には上限が設定されており、目標スリップ量が予め決められた上限の変化率よりも大きい変化率で変更されないようにされている。スリップ量の急激な変動によるショックを防止するためである。
【0043】
そのため、実際のスリップ量Nsは、変速終了判断(時刻t2)から所定時間ΔTが経過した時点(時刻t3)までの間、所定の割合で減少し、時刻t3において、変速中でないときの目標スリップ量に到達する。
【0044】
ここで、実施の形態にかかる故障判断処理は、変速判断後の所定期間の間(時刻t0から時刻t3までの間)に、ロックアップクラッチ2dをロックアップ状態にすることができない故障が発生しているか否かを判断している。
【0045】
そのため、ステップ102においてパワーオフである場合(図2参照)、ステップ103において、現時点が変速判断後の所定期間内であるかを確認するために、変速完了判断がされてから所定時間ΔTが経過しているか否かが確認される。
実施の形態では、現時点が、自動変速機が変速中である場合(時刻t0から時刻t2までの間)、または変速が完了しているものの変速完了の判断がされてから所定時間が経過していない場合(時刻t2から時刻t3までの間)には、変速完了判断がされてから所定時間が経過していないと判断される。
なお、所定時間ΔTは、ロックアップクラッチ2dのスリップ量Nsが、変速中でないときのスリップ量になると判断できる時間に、実験結果などに基づいて決定されている。
【0046】
そして、変速完了判断がされてから所定時間が経過していない場合には、ステップ104において、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntから算出した現時点のスリップ量Nsと、ロックアップクラッチ2dの故障を判断のための閾値(第2閾値Th2)とを比較して、算出した実際のスリップ量が、第2閾値Th2よりも大きいか否かが確認される。
【0047】
ここで、第2閾値Th2について説明する。
実施の形態では、ロックアップクラッチ2dが締結できなくなる故障であるか否かを判断するための閾値として、第1閾値Th1と第2閾値Th2とがある。
第1閾値Th1は、自動変速機が変速中でないときに実行される故障判断処理で使用され、第2閾値Th2は、自動変速機が変速中の間(変速判断後の所定期間の間)に行われる故障判断において使用される。
【0048】
実施の形態では、第2閾値Th2は、第1閾値Th1よりも大きい値に設定されており、第2閾値Th2で故障を判断する場合には、第1閾値Th1で故障を判断する場合よりも、スリップ量Nsが大きくならないと、ロックアップクラッチ2dが故障であると判断されないようになっている。
【0049】
実施の形態では、ステップ103の処理を実行するに当たり、実行中の故障判断処理が、変速判断後に実行される最初の処理である場合には、変速により増加するスリップ量ΔNsを、変速判断時(時刻t0)における車両の運転状態に応じて決まる変速速度と変速時間とに基づいて算出し、算出したスリップ量ΔNsに基づいて、第2閾値Th2を決定している。
【0050】
具体的には、変速判断時(時刻t0)車両の運転状態に基づいて、変速速度マップ27aを参照して、変速速度を決定する。
前記したように、変速速度マップ27aでは、変速判断時の車両の運転状態と、変速速度との関係が規定されているので、制御装置20は、運転状態に基づいて、変速速度マップ27aを参照することで、どの程度の変化率で変速を進行させるのか(どの程度の変化率でタービン回転数Ntを変化させるのか)を決定する。
例えば図3の場合には、時刻t1以降のタービン回転数Ntの変化率(傾き)が、変速速度に相当する。
【0051】
続いて、変速判断時(時刻t0)車両の運転状態に基づいて、変速時間マップ27bを参照して、変速時間を決定する。
前記したように、変速時間マップ27bでは、変速判断時の車両の運転状態と、変速時間との関係が規定されているので、制御装置20は、運転状態に基づいて、変速時間マップ27bを参照することで、どの程度の時間で変速を完了させるのか(どの程度の時間でタービン回転数Ntの変化を完了させるのか)を決定する。
例えば図3の場合には、時刻t1から時刻t2までの時間Δtが、変速時間に相当する。
【0052】
そして、決定した変速速度と変速時間とから、変速中(イナーシャフェーズ中)に変化するタービン回転数の変化量Δnを算出する。
具体的には、変速速度(タービン回転数Ntの変化率)に変速時間(タービン回転数Ntの変化時間Δt)を乗算して得られた値が、タービン回転数の変化量Δnとなる。
【0053】
タービン回転数の変化量Δnが算出されると、スリップ量マップ27cを参照して、故障判定用の第2閾値Th2の値を決定する。
前記したように、スリップ量マップ27cでは、タービン回転数の変化量Δnと、ロックアップクラッチ2dのスリップ量の変化量ΔNsとの関係が規定されているので、制御装置20は、タービン回転数の変化量Δnに基づいて、スリップ量マップ27cを参照することで、第2閾値Th2の値を決定できる。
【0054】
実施の形態のステップ104では、このように決定した第2閾値Th2に基づいて、ロックアップクラッチ2dの故障の有無の判断を実行している。
【0055】
そして、ステップ104において、現時点のスリップ量Nsが第2閾値Th2よりも大きい場合、ステップ105において、ロックアップクラッチ2dが締結できない故障状態であるとして、ロックアップクラッチ2dの異常を判断する。
【0056】
例えば、スリップ量Nsを制御している変速の途中でロックアップクラッチ2dを締結できない故障が発生すると、図3において1点差線で示すように、イナーシャフェーズの開始時点(時刻t1)以降、エンジン回転数Neが低下し続けて、タービン回転数Ntとの差が大きくなるので、スリップ量ΔNsが大きくなる。
そして、その状態で変速が進行してエンジン回転数Neが低下し続けると、スリップ量ΔNsが第2閾値Th2よりも大きくなった時点(時刻ta)で、ロックアップクラッチ2dの異常が判断されて、例えば、故障判断フラグがオンにされることになる。
【0057】
そして、ロックアップクラッチ2dの異常が判断されると、ステップ106において、制御装置20は、ロックアップクラッチ2dを開放状態にするために、開放指令を、油圧制御回路11に出力し、ロックアップクラッチ2dを完全解放状態にする。
【0058】
なお、ステップ101において変速判断がされておらず自動変速機1が変速中でない場合や、ステップ103において変速完了の判断がされてから所定時間が経過している場合には、ステップ107において、現時点における実際のスリップ量Nsが、ロックアップクラッチ2dの故障を判断するための第1閾値Th1よりも大きいか否かが確認される。
そして、現時点における実際のスリップ量Nsが第1閾値Th1よりも大きい場合には、前記したステップ105、ステップ106の処理が実行されることになる。
【0059】
このように、スリップ量Nsが大きくなる変速中の間(変速判断から所定期間の間)は、ロックアップクラッチ2dの故障を判断するための閾値が、変速中でないときの第1閾値Th1よりも大きい第2閾値Th2に変更されるので、変速に起因するスリップ量Nsの変化を、ロックアップクラッチ2dの故障であると誤って判断することを好適に防止できるようになる。
また、図3に示すように、第2閾値Th2の値は、変速判断時(時刻t0)における車両の運転状態から算出した変速中のスリップ量ΔNsに基づいて決定され、第2閾値Th2は、第1閾値Th1よりもΔThだけ大きい値に設定される。そして、ΔThは、スリップ量ΔNsに応じて変わり、スリップ量ΔNs大きくなるほど大きくなるように、スリップ量マップ27cにおいて設定されている。よって、車両の運転状態に応じた最適な閾値(第2閾値Th2)が故障判定用の所定の閾値として設定されることになる。
【0060】
ここで、実施の形態におけるステップ104およびステップ107の処理が、発明における閾値設定手段と故障判断手段を構成している。
【0061】
以上の通り、実施の形態では、トルクコンバータ2の入力側であるポンプインペラ2aと出力側であるタービンランナ2bとを締結(直結)するロックアップクラッチ2dの締結力を、車両の運転状態に基づいて変更することで、ロックアップクラッチ2dのスリップ量を制御するロックアップクラッチ制御手段と、ロックアップクラッチ2dの故障判定用の所定の閾値を設定する閾値設定手段と、スリップ量を制御している際にスリップ量が所定の閾値より大きくなると、ロックアップクラッチ2dが故障していると判断する故障判断手段と、を備える自動変速機1のロックアップクラッチ2dの制御装置20において、閾値設定手段は、自動変速機1が変速中の間は、自動変速機1が変速中でないときの第1閾値Th1よりも大きい第2閾値Th2を、故障判定用の所定の閾値として設定する構成とした。
このように構成すると、自動変速機1の変速によりタービンランナ2bの回転数が変化してロックアップクラッチ2dのスリップ量Nsが大きく変化する変速中の間は、変速中でないときの所定の閾値(第1閾値Th1)よりも大きい閾値(第2閾値Th2)に基づいてロックアップクラッチ2dの故障が判断される。よって、変速中の間のスリップ量が大きくなった場合であっても、ロックアップクラッチ2dの故障であると誤って判断されることを防止できる。また、変速中にロックアップクラッチ2dが締結できない故障になったときには、ロックアップクラッチ2dの故障を判断できる。
【0062】
また、ロックアップクラッチ制御手段は、自動変速機1の変速中は、ロックアップクラッチ2dのスリップ量を変速開始前よりも大きいスリップ量に制御すると共に、変速の完了後は、変速中のスリップ量よりも小さいスリップ量に向けて徐々に変化するように制御し、閾値設定手段は、変速の完了から所定時間ΔTの間は、第2閾値Th2を所定の閾値として設定する構成とした。
変速中にロックアップクラッチ2dのスリップ量を、変速中でない時のスリップ量よりも大きくなるように制御する場合、変速完了後(イナーシャフェーズ終了後)の所定時間ΔTの間は、ロックアップクラッチ2dのスリップ量が徐々に低減しており、この所定時間ΔTの間のスリップ量は、変速中でないときのスリップ量よりも大きいスリップ量となっている。そのため、変速完了後から所定時間ΔTの間、ロックアップクラッチ2dが締結できない故障になったことを判断する閾値を第2閾値に設定することによって、この所定時間ΔTの間に、ロックアップクラッチ2dの故障を誤判断することを防止できる。さらに、変速完了後から所定時間内にロックアップクラッチ2dが締結できない状態になったときには、ロックアップクラッチ2dの故障を判断できる。
【0063】
また、故障判断手段は、変速により増加するロックアップクラッチのスリップ量を算出する算出手段を備え、閾値設定手段は、第2閾値の値を、算出手段で算出したスリップ量に基づいて決定する構成とした。
このように構成すると、変速中に大きくなるロックアップクラッチ2dのスリップ量に基づいて第2閾値Th2が設定されるので、ロックアップクラッチ2dの締結できない故障をより精度良く判断できる。
【0064】
さらに、算出手段は、変速の速度と変速が完了するまでの時間(変速時間)のうちの少なくとも一方に基づいて、変速により増加するロックアップクラッチのスリップ量を算出する構成とした。
このように構成すると、変速中に大きくなるロックアップクラッチ2dのスリップ量は、変速速度や変速時間に応じて変化するので、変速速度と変速時間のうちの少なくとも一方に基づいて、変速により増加するロックアップクラッチのスリップ量を算出し、この算出されたスリップ量に基づいて第2閾値Th2を設定することにより、ロックアップクラッチ2dの締結できない故障をより精度良く判断できる。
【0065】
以下、実施の形態の変形例を例示する。
実施の形態では、ロックアップクラッチ2dの故障を判断するための閾値として第2閾値Th2を使用する期間を、変速判断時(時刻t0)から所定期間が経過した時点まで(変速完了判断(時刻t2)から所定時間ΔTが経過した時点(時刻t3)まで)とした。
しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、ロックアップクラッチ2dの目標スリップ量が変速に伴って増加していると判断できる期間の間、第2閾値Th2を使用するようにしても良い。
【0066】
実施の形態では、アクセルペダルが踏み込まれていないパワーオフ時(コースト走行時)におけるダウンシフトの場合を例に挙げて説明をしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、パワーオフ時のアップシフトの場合にも適用可能である。
通常、パワーオフ時には、燃費向上などのためにエンジンへの燃料噴射が行われないようになっており、この状態でトルクコンバータの入力側と出力側とを直結したままで、アップシフトまたはダウンシフトを行うとエンジンの回転数が低下してしまう。そのため、パワーオフ時のアップシフトおよびダウンシフトの間は、ロックアップクラッチは、スリップ状態に制御されており、本発明にかかる故障判断処理を実行することで、変速中に生じたロックアップクラッチ2dの締結できない故障をより精度良く判断できる。
なお、パワーオン時の場合、アップシフトまたはダウンシフトの間は、ロックアップクラッチ2dは、変速ショックの防止のために、ほぼ完全開放状態に近い状態に制御されている。そのため、実施の形態では、パワーオン時のアップシフトおよびダウンシフトにおけるロックアップクラッチの故障の判定を行わないようになっている。
【0067】
実施の形態では、変速速度と変速時間との積に基づいて、変速により増加するロックアップクラッチ2dのスリップ量ΔNsを算出するものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、変速判断時の運転状態毎に、変速中に増加するロックアップクラッチのスリップ量を、実験などにより予め求めてマップに記憶させておき、変速判断時の運転状態に基づいて、このマップを参照して、変速中に増加するロックアップクラッチのスリップ量ΔNsを算出するようにしても良い。
さらに、他の一例として、変速速度と変速時間とのうちの一方に基づいて、ロックアップクラッチのスリップ量ΔNsを算出するようにしても良い。
このようにすることによっても、前記した実施の形態の場合と同様の効果が奏されることになる。
【符号の説明】
【0068】
1 自動変速機
2 トルクコンバータ
2a ポンプインペラ
2b タービンランナ
2c ステータ
2d ロックアップクラッチ
2e フロントカバー
3 変速機構部
4 エンジン
5 入力軸
6 出力軸
7 コンバータハウジング
8 摩擦締結要素
9 変速機ケース
10 バルブボディ
11 油圧制御回路
20 制御装置
21 アクセルペダル操作量センサ
22 エンジン回転センサ
23 タービン回転センサ
24 車速センサ
25 インヒビタスイッチ
26 エンジントルクセンサ
27 記憶手段
27a 変速速度マップ
27b 変速時間マップ
27c スリップ量マップ
Ne エンジン回転数
Nt タービン回転数
Ns スリップ量
PA アプライ圧
PR レリーズ圧
Th1 第1閾値
Th2 第2閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の自動変速機のトルクコンバータに設けられて前記トルクコンバータの入力側と出力側とを締結するロックアップクラッチのスリップ量を、車両の運転状態に基づいて制御するロックアップクラッチ制御手段と、
前記ロックアップクラッチの故障判定用の所定の閾値を設定する閾値設定手段と、
前記スリップ量を制御している際に、前記スリップ量が前記所定の閾値より大きくなると、前記ロックアップクラッチが故障していると判断する故障判断手段と、
を備える自動変速機のロックアップクラッチ制御装置において、
前記閾値設定手段は、
前記自動変速機が変速中の間は、前記自動変速機が変速中でないときの第1閾値よりも大きい第2閾値を、前記所定の閾値として設定することを特徴とする自動変速機のロックアップクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチ制御手段は、
前記変速中は、前記スリップ量を前記変速の開始前よりも大きいスリップ量に制御すると共に、
前記変速の完了後は、前記変速中のスリップ量よりも小さいスリップ量に向けて徐々に変化するように制御し、
前記閾値設定手段は、
前記変速の完了から所定時間の間は、前記第2閾値を前記所定の閾値として設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機のロックアップクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記故障判断手段は、
変速により増加する前記ロックアップクラッチのスリップ量を算出する算出手段を備え、
前記閾値設定手段は、
前記第2閾値の値を、前記算出手段で算出したスリップ量に基づいて決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動変速機のロックアップクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記変速の速度と、前記変速が完了するまでの時間のうちの少なくとも一方に基づいて、前記ロックアップクラッチのスリップ量を算出することを特徴とする請求項3に記載の自動変速機のロックアップクラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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