説明

自動変速機の制御装置

【課題】 摩擦締結要素に油圧を供給する油圧系内のエアを抜くことが可能な自動変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】 パルス状の油圧指令値を複数回に亘って出力し、摩擦締結要素に油圧を供給することで摩擦締結要素内のエア抜きを行なう際、所定の油圧指令値を出力する前に、所定の油圧指令値より低い油圧指令値を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の摩擦締結要素のエア抜きを行なう制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、Pレンジで使用していなかった変速機の摩擦締結要素を係合させ、使用していた摩擦締結要素を開放することで、使用していなかった摩擦締結要素のエアを抜く技術が開示されている。具体的には、油圧をかけた時間が、予め設定された所定時間に満たない場合、この所定時間に達するまで繰り返し油圧を供給し、摩擦締結要素に油圧を供給する油圧系にたまったエアを抜き出すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−205518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エア抜きを意図して油圧を一気に供給したとしても、エアが抜けにくく、油圧系内に残ってしまうという課題を見出した。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、摩擦締結要素に油圧を供給する油圧系内のエアを抜くことが可能な自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、パルス状の油圧指令値を複数回に亘って出力し、摩擦締結要素に油圧を供給することで摩擦締結要素内のエア抜きを行なう際、所定の油圧指令値を出力する前に、所定の油圧指令値より低い油圧指令値を出力する。
【発明の効果】
【0007】
よって、摩擦締結要素に供給された油の動きが抑制され、エア抜き口に油が詰まるのを回避してエアを抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の自動変速機の制御装置のシステム図である。
【図2】実実施例1のエア抜きを行なう摩擦締結要素周辺の構成を表す概略断面図である。
【図3】実施例1のシリンダ室に油圧を供給する経路を表す概略図である。
【図4】実施例1のエア抜き制御処理部において行われる油圧指令値の与え方を表すタイムチャートである。
【図5】実施例1のエア抜き制御処理部において行われる油圧指令値の与え方の変形例を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1の自動変速機のシステム構成を表す概略図である。実施例1の自動変速機にあっては、変速段を達成するための摩擦締結要素1と、摩擦締結要素1に供給する油圧を調圧するための信号圧を供給するソレノイドバルブ2と、ソレノイドバルブ2から供給される信号圧に基づいて摩擦締結要素1に供給する油圧を調圧するコントロール弁3と、ソレノイドバルブ2に指令信号を出力する自動変速機コントロールユニット4とを備えている。
【0010】
摩擦締結要素1は、変速過渡期にコントロール弁3からの締結要素圧Pcにより締結または解放が制御される油圧多板クラッチや油圧多板ブレーキ等である。
ソレノイドバルブ2は、図外のパイロット弁により生成されたパイロット圧(一定圧)を元圧とし、自動変速機コントロールユニット4からの油圧指令値(ソレノイド電流:例えば800Hzのデューティ駆動電流)の印加により、コントロール弁3へのソレノイド圧Psolを生成する。
コントロール弁3は、ソレノイドバルブ2からのソレノイド圧Psolを作動信号圧とし、図外のライン圧制御弁からのライン圧Plを元圧とし、摩擦締結要素1への締結要素圧Pcを制御する調圧スプール弁である。このコントロール弁3では、ソレノイド圧Psolが高圧であるほど摩擦締結要素1への締結要素圧Pcを高圧とする油圧制御を行う。
自動変速機コントロールユニット4は、油温センサ、エンジン回転数センサ、スロットルセンサ、タービン回転数センサ、車速センサ、その他センサ・スイッチ類からのセンサ信号やスイッチ信号を入力とし、走行状態に応じてソレノイドバルブ2に油圧指令信号を出力する。
【0011】
自動変速機コントロールユニット4では、予め設定されているシフトスケジュール上でスロットル開度と車速による運転点がアップシフト線やダウンシフト線を横切ることにより変速開始指令を出力する変速制御処理を行なう。また、変速開始指令やタービン回転数と車速により求められるギヤ比の変化等に応じて、変速過渡期における油圧指令値の算出処理やスリップ締結制御時における油圧指令値の算出処理等を行なう。また、自動変速機コントロールユニット4内には、所定の条件が成立した場合に、摩擦締結要素1に油圧を供給する油圧系内にたまったエアを抜くためのエア抜き制御を行うエア抜き制御処理部を有する。尚、このエア抜き制御処理については、例えば自動変速機を工場から出荷する際に、工場内の検査機器等から指令信号を送り、ソレノイドバルブ2に油圧指令値を送る構成としてもよく、特に限定しない。基本的な処理としては、パルス状の油圧指令値を複数回に亘って出力するものである。
【0012】
図2は実施例1のエア抜きを行なう摩擦締結要素周辺の構成を表す概略断面図である。実施例1の摩擦締結要素1は、自動変速機内に備えられたブレーキであり、変速機ハウジング10の縦壁に形成されたシリンダ部103と、このシリンダ部103内に軸方向に摺動するピストン7が備えられている。尚、この例では、シリンダ部103及びピストン7は、それぞれ内径側と外径側に二つのシリンダ室を備えた例を示しているが、このような径方向に二つのシリンダ室を備えた構成に限らず、一つのシリンダ室を備えた構成であっても構わない。ピストン7は、摩擦締結要素1の多板プレート8を押圧し、これにより、回転メンバ9を変速機ハウジング10に固定する。
【0013】
内径側のシリンダ部103の車両搭載時における上方には、軸方向に貫通するエア抜き通路101と、このエア抜き通路101に連通すると共にエア抜き部材6が圧入されるエア抜き部材挿入口102とが形成されている。エア抜き部材6は、円筒状の中心部61と、この中心部61の円周上に4箇所形成された突起62とを有する。そして、エア抜き部材挿入口102とエア抜き部材6との間には、突起62によって隙間が形成され、この隙間がエア抜き口5として機能する。尚、このエア抜き口5は、エアについては積極的に排出可能であるが、油については粘性抵抗の違いから、油圧制御に影響を与えるほど抜けることはない。
【0014】
図3は実施例1のシリンダ室に油圧を供給する経路を表す概略図である。この図3は、制御油圧を作り出すコントロールバルブユニット20から油圧が供給される際の油部分のみを抜き出して描いたものである。ソレノイドバルブ2やコントロール弁3を内装するコントロールバルブユニット20から油圧が出力されると、変速機ハウジング10内に形成された油路11,12を通ってシリンダ室に締結圧が供給される。
【0015】
図3に示すように、コントロールバルブユニット20から供給される油圧は、油路11を通って油圧室の下方から供給される。供給された油はシリンダ室の下方から徐々に上方に満たされていき、最終的に全てが油で満たされる。このように、下方から油が満たされていくため、エアは下方から上方に上昇していき、エア抜き口5から排出される。ここで、エアを一気に抜くために、仮に最初の油圧指令値として高い油圧指令値を出力すると、シリンダ室内は空気で満たされた状態であることから、抵抗が小さく、油がシリンダ室内で攪拌されてしまう。よって、エアよりも先に油がシリンダ室上方に飛び上がっていくような現象が引き起こされ、エア抜き口5に油が付着してしまい、エアが抜ける際の抵抗となることで、エア抜きがうまく行なえないという問題があった。そこで、実施例1では、エア抜き用の高い油圧指令値を出力する前に低めの油圧指令値を出力し、エア抜き口5を油で塞ぐことを回避することとした。
【0016】
図4は実施例1のエア抜き制御処理部において行われる油圧指令値の与え方を表すタイムチャートである。図4に示すように、実施例1では、パルス状の油圧指令値を複数回に亘って出力する。このとき、油圧指令値を徐々に高くなるように出力する。言い換えると、所定の油圧指令値を出力する前に、所定の油圧指令値より低い油圧指令値を出力することと同義であり、1回目に供給する油圧指令値よりも2回目に供給する油圧指令値を高くするものである。ここで、所定の油圧指令値とは、所定時間でエアを抜くために必要な油圧を生成することが可能な指令値であり、実際に発生する油圧とは異なる。
【0017】
これにより、コントロールバルブユニット20からシリンダ室に油が供給される際、エア抜き口5を油によって塞ぐことなく、油圧室内に油を供給することができるため、摩擦締結要素1に油圧を供給する油圧系内のエアをエア抜き口5から排出することができる。尚、2回目以降はシリンダ室内にある程度油が充填された状態であり、エアも少なくなった状態で油を供給することから、高い油圧指令値を出力しても、シリンダ室内で油が攪拌されるようなことがない。
【0018】
図5は実施例1のエア抜き制御処理部において行われる油圧指令値の与え方の変形例を表すタイムチャートである。図5に示すように、1回目の油圧指令値を低くし、2回目以降の油圧指令値を一定とするものである。これにより、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0019】
以上説明したように、実施例1にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(1)摩擦締結要素1の締結・解放により変速段を達成する自動変速機と、パルス状の油圧指令値を複数回に亘って出力し、摩擦締結要素1に油圧を供給することで、摩擦締結要素1内のエア抜き口5からエア抜きを行なう自動変速機コントロールユニット10のエア抜き制御処理部(エア抜き手段)と、を備えた自動変速機の制御装置において、エア抜き制御処理部は、所定の油圧指令値を出力する前に、前記所定の油圧指令値より低い油圧指令値を出力する。
よって、摩擦締結要素1に締結圧を発生させるシリンダ内に供給された油の動きが抑制され、エアが抜ける前にエア抜き口5に油が詰まるのを抑制できる。このため、最初のエア抜き動作でシリンダ内のエアが抜け、その後、圧力を高くしても、シリンダ内のエアの割合が少なくなっているため、油の動きが抑えられ、エア抜き口5に油が詰まるのを回避してエアを抜くことができる。
【0020】
(2)エア抜き制御処理部は、1回目に供給する油圧指令値よりも2回目に供給する油圧指令値を高くする。
すなわち、2回目に供給する際は、1回目で有る程度油が供給されているため、高い油圧指令値を出力したとしても、油がシリンダ室内で攪拌されるようなことがない。また、高い油圧指令値を出力することで、より素早くエア抜きを達成できる。
【0021】
(3)エア抜き制御処理部は、油圧指令値を徐々に高くする。よって、シリンダ室内の油の状態を安定させつつエア抜きを達成できる。
【0022】
(4)エア抜き制御処理部は、2回目以降の油圧指令値を一定とすることとしてもよい。これにより、早期にエア抜きを達成できる。
【0023】
以上、実施例に基づいて、本発明のエア抜き制御処理について説明したが、上記構成に限らず、他の変更があっても構わない。実施例1では、摩擦締結要素としてブレーキを例に説明したが、ブレーキ以外にクラッチ等であっても構わない。また、自動変速機に限らず、例えば発進クラッチ等でシリンダ室を備えた構成であっても、同様に適用可能である。また、実施例1において、エア抜き部材6は、円柱状の中心部61と突起62によって構成したが、単に、断面円形としてもよい。この場合、エア抜き部材は、エア抜き部材挿入口102より、わずかに小さい径で形成し、エア抜き部材の周囲にエアが通流する流路を形成するようにしてもよい。この場合、エア抜き部材が、エア抜き部材挿入口から抜けないように、カシメ材をエア抜き部材挿入口のエアの出口側に挿入する。
【符号の説明】
【0024】
1 摩擦締結要素
2 ソレノイドバルブ
3 コントロール弁
4 自動変速機コントロールユニット
5 エア抜き口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦締結要素の締結・解放により変速段を達成する自動変速機と、
パルス状の油圧指令値を複数回に亘って出力し、前記摩擦締結要素に油圧を供給することで、前記摩擦締結要素内のエア抜き口からエア抜きを行なうエア抜き手段と、
を備えた自動変速機の制御装置において、
前記エア抜き手段は、所定の油圧指令値を出力する前に、前記所定の油圧指令値より低い油圧指令値を出力することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機の制御装置において、
前記エア抜き手段は、1回目に供給する油圧指令値よりも2回目に供給する油圧指令値を高くすることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機の制御装置において、
前記エア抜き手段は、油圧指令値を徐々に高くすることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自動変速機の制御装置において、
前記エア抜き手段は、2回目以降の油圧指令値を一定とすることを特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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