説明

自動滓回収装置

【課題】簡易かつ汎用性の高い構成であり、溶湯の湯面高さに応じて最適な回収動作を実現することができる自動滓回収装置を提供し、溶解炉における溶解歩留まりを改善するとともに、金属の溶解作業に従事する作業者の作業環境の改善を図る。
【解決手段】滓取り治具7は、導電性を有する素材からなるとともに、滓取り治具7と溶湯3との間の導通の有無を検出する導通検出装置9を備え、導通検出装置9によって、滓取り治具7と溶湯3との間の導通を検出したときに、滓取り治具7と溶湯3との間の導通を検出した旨の信号である導通検出信号を制御装置4に出力し、制御装置4によって、導通検出信号を受信したときの腕部5bの姿勢と、そのとき使用している滓取り治具7の寸法および形状から、滓取り治具7の最下端部の高さを算出して、溶湯3の湯面3aの高さを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶解炉等を用いて金属を溶解する際に発生する滓(のろ)を自動的に回収する自動滓回収装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶解炉等において金属を溶解する際には、金属を溶解して生成された溶湯の湯面に滓(のろ)が発生する。この滓を溶湯の湯面において高温のまま滞留させておくと、滓の自己連続酸化反応により所謂電気灰の生成量が増えてしまい、溶解歩留まり(投入金属の量に対する利用できる溶湯量の割合)が悪化する。あるいは、滓が溶湯中に混入すると鋳造製品に欠陥をもたらす可能性がある。このため、発生した滓は発生後速やかに溶湯から回収し除去することが望ましい。尚、本説明では、金属を溶解する際に発生する浮上ドロス、スラグ等を総称して滓(のろ)と呼んでいる(以下同様)。
【0003】
従来、このような滓の回収および除去作業は、柄杓状の用具等を用いて、作業者が手作業で行ったり、あるいは、回収治具を装着したリフト等を用いて、作業者が該リフト等を操縦して行ったりする場合が多かった。つまり従来、滓の回収および除去作業では、作業者が介在して、該作業者が高温の溶湯に接近して作業を行う場合が多く、作業者にとって過酷な条件の下での作業となるため、改善が望まれている状況であった。
【0004】
そこで従来、このような滓を自動的に掻き集めることができる装置が開発されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
特許文献1に示された従来技術では、第一油圧シリンダによって上下方向に回動される第一アームの先端に第二アームを上下方向に回動自在に連結し、また第一アームに第二アームを回動させる第二油圧シリンダを取り付ける構成とした自動多機能装置が開示されている。そして、当該自動多機能装置を用いることにより、駆動制御部に予め記憶した動作工程情報に基づき、各油圧シリンダを駆動制御し、金属溶解時に発生する浮上ドロスを掻き集める動作等を自動的に実行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−25299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示された従来技術では、滓を掻き集める動作は可能であるものの、掻き集めた滓を金属溶解炉の外部に除去する手段は備えていないため、最終的に、作業者が介在して除去作業を行うことが必要となっていた。
また、金属溶解炉における溶湯の湯面高さは随時変化するが、特許文献1に示された従来技術では、変化する湯面高さに応じて、滓を掻き集めるための動作(掻き集める高さ)を適宜変更する手段を備えておらず、滓を効率的に掻き集めることが困難であった。
さらに、特許文献1に示された従来技術では、自動多機能装置の構成が大掛かりであり、各金属溶解炉に対する専用設計となるため、汎用性が乏しく、装置が高価となっていた。
【0007】
本発明は、係る現状の問題を鑑みてなされたものであり、簡易かつ汎用性の高い構成であり、溶湯の湯面高さに応じて最適な回収動作を実現することができる自動滓回収装置を提供し、溶解炉における溶解歩留まりを改善するとともに、金属の溶解作業に従事する作業者の作業環境の改善を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、多軸方向の動作を実現する腕部を備える汎用ロボットと、前記腕部の手先部分に備えられる治具保持装置と、該治具保持装置によって保持される滓を取るための治具である滓取り治具と、各部の動作を制御する制御装置と、を備え、溶湯の湯面に存在する滓を自動的に回収する自動滓回収装置であって、前記滓取り治具は、導電性を有する素材からなるとともに、前記滓取り治具と前記溶湯との間における導通の有無を検出する導通検出装置を備え、前記導通検出装置によって、前記滓取り治具と前記溶湯との間の導通を検出したときに、前記滓取り治具と前記溶湯との間の導通を検出した旨の信号である導通検出信号を前記制御装置に出力し、前記制御装置によって、前記導通検出信号を受信したときの前記腕部の姿勢と、そのとき使用している前記滓取り治具の寸法および形状から、前記滓取り治具の最下端部の高さを算出して、前記溶湯の湯面の高さを検出するものである。
【0010】
請求項2においては、前記滓取り治具による滓取りを実現する、前記汎用ロボットの前記腕部の基準高さにおける一連の動作が、前記制御装置に記憶され、前記制御装置により前記溶湯の湯面の高さを検出したときに、検出した前記溶湯の湯面高さにおいて、前記一連の動作を行うものである。
【0011】
請求項3においては、前記滓取り治具は、前記汎用ロボットに対して、電気的に絶縁されるものである。
【0012】
請求項4においては、前記滓取り治具に対して振動を付与する振動発生装置を備え、該振動発生装置により、前記滓取り治具に振動を付与して、前記滓取り治具に付着した滓を除去するものである。
【0013】
請求項5においては、前記滓取り治具は、前記振動発生装置により該滓取り治具に対して付与される振動を吸収する振動吸収部を備えるものである。
【0014】
請求項6においては、前記滓取り治具に対する滓の固着を検出する滓検出装置を備え、該滓検出装置によって、前記滓取り治具に対する滓の固着を検出したときには、滓の固着した前記滓取り治具を、滓の固着していない前記滓取り治具に自動的に交換するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、滓取り治具が湯面を検出する電極として機能し、別途電極を設ける必要がないため、自動滓回収装置の構成を簡易にすることができる。
【0017】
請求項2においては、滓の回収動作ごとに湯面高さを検出することができ、検出した湯面高さに応じて、滓取り治具を動作させることができるため、効率的に滓の回収を行うことができる。
【0018】
請求項3においては、滓取り治具の交換時に、導通検出装置の配線を繋ぎかえる必要がなくなり、滓取り治具の交換が容易となるため、滓取り作業の自動化を容易に実現することができる。
【0019】
請求項4においては、効率的に滓の回収を行うことができる。また、滓の固着を防止することによって、滓取り治具の寿命を延ばすことができる。
【0020】
請求項5においては、滓取り治具に対して振動を付与することに起因して汎用ロボットが故障することを防止できる。
【0021】
請求項6においては、常に正常な滓取り治具を用いて滓を回収でき、効率的に滓の回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置の全体構成を示す側面断面模式図。
【図2】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置の全体構成を示す平面模式図。
【図3】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置に備えられる治具保持装置を示す断面模式図。
【図4】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置に備えられる滓取り治具を示す模式図、(a)正面模式図、(b)側面模式図。
【図5】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置に備えられる導通検出装置を示す模式図、(a)金属溶解炉の炉壁が導体である場合、(b)金属溶解炉の炉壁が導体でない場合。
【図6】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置に備えられる振動発生装置および滓検出装置を示す模式図、(a)平面模式図、(b)側面模式図。
【図7】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置による滓回収作業の流れを示すフロー図。
【図8】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置の保持室内の滓回収作業への適用例を示す模式図。
【図9】本発明の一実施例に係る自動滓回収装置のフラックス投入作業への適用例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置の全体構成について、図1〜図6を用いて説明する。
図1に示す如く、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1は、金属溶解炉2において生成される溶湯3の湯面3aに存在する滓3bを自動的に回収するための装置であり、制御装置4、汎用ロボット5、治具保持装置6、滓取り治具7、治具交換台8、導通検出装置9、振動発生装置10、滓検出装置11、回収部12等により構成している。
【0024】
本実施例における本発明の適用対象となる金属溶解炉2は、金属原料やフラックス等を投入するための外部に開放された部位であるオープンウェル2aや、溶解した溶湯3を保持する保持室2b等を備えている。そして、本実施例では、オープンウェル2aにおいて外部に露出している溶湯3の湯面3aに存在している滓3bを回収する用途に自動滓回収装置1を用いる場合を例示して説明する。
【0025】
制御装置4は、該制御装置4に接続された各装置から入力される信号(情報)に基づいて種々の演算や判定を行うとともに、演算および判定結果や予め記憶されたプログラム等に基づいて自動滓回収装置1を構成する各装置に動作指令を与えるための装置である。図1および図2に示す如く、制御装置4には、汎用ロボット5、治具保持装置6、導通検出装置9、振動発生装置10、滓検出装置11等が接続されている。
このように、制御装置4は、汎用ロボット5や前記各装置6・9・10・11等といった、自動滓回収装置1を構成する各部の動作を制御するものである。
また、制御装置4としては、PLCや、一般的なパーソナルコンピュータに所定の演算プログラムや判定プログラム等を実装したものを用いることができる。
【0026】
図1および図2に示す如く、汎用ロボット5は、基台部5a、腕部5b等からなり、多関節を有する腕部5bによって、該腕部5bの手先部5cを多軸方向に変位させることができる多関節型の汎用ロボットであって、滓3bの回収対象部位の近傍に配置される。本実施例では、金属溶解炉2のオープンウェル2aに貯留されている溶湯3に存在している滓3bが回収対象となるため、腕部5bの動作範囲を考慮して、オープンウェル2aの湯面3a全体に対して、滓取り治具7の滓受け部7aを到達させることができる位置に基台部5aを配置するようにしている。
【0027】
また、汎用ロボット5は、制御装置4と接続されている。
制御装置4には、汎用ロボット5による滓回収作業を効率的に実現するための基準高さにおける平面的な一連の滓取り動作のプログラムが予め記憶されている(図2参照)。このため、汎用ロボット5は、制御装置4が得た湯面3aの高さの情報に基づいて、制御装置4により一連の滓取り動作を行うべき高さを決定すれば、実際の湯面3aの高さを基準として、一連の滓取り動作を実行することができる。
尚、本実施例では、自動滓回収装置1に備えられる汎用ロボットとして、多関節型の汎用ロボット5を採用した場合を例示しているが、本発明に係る自動滓回収装置1に備えられる汎用ロボットの種類はこれに限定するものではない。
【0028】
図3に示す如く、汎用ロボット5の手先部5cには、治具保持装置6が設けられている。
治具保持装置6は、各種の治具を保持する役割を果たす部位であり、チャック6aによって、滓取り治具7の把持部7bを把持することができる。また、治具保持装置6は、滓取り治具7とは形状が異なる滓取り治具17等も把持することができる。
そして、チャック6aによって把持される滓取り治具7・17は、チャック6aとの間で導通が確保される。
【0029】
また、治具保持装置6は、汎用ロボット5に対して、ボルト6eに樹脂製のカラー6dを外嵌し、さらに、手先部5cとスペーサー6bの間に樹脂プレート6cを介挿して、ボルト6eを用いて螺設している。これにより、治具保持装置6は、汎用ロボット5に対して電気的に絶縁した状態で固設されている。また、治具保持装置6は、チャック6aに滓取り治具7を把持しているか否かを検出するためのセンサ6fを備えている。
このような構成により、自動滓回収装置1は、治具保持装置6によって保持される滓取り治具7を、グラウンドに対して電気的に絶縁(フローティング)した状態に保持することができる。
【0030】
また、治具保持装置6は、制御装置4と接続されている。
制御装置4には、治具保持装置6による滓取り治具7の自動交換を実現するためのプログラムや、治具交換台8において新しい滓取り治具7・7・・・が配置されている位置(座標)の情報、あるいは、使用できなくなった滓取り治具7・7・・・の収納場所の位置(座標)の情報等が予め記憶されている。
【0031】
そして、治具保持装置6は、制御装置4からの動作指令に基づいて、汎用ロボット5によって、新しい滓取り治具7を把持できる位置(座標)および姿勢や、使用できなくなった滓取り治具7の把持を解除できる位置(座標)および姿勢に変位される。このため、自動滓回収装置1は、滓回収作業の進行状況に応じて、制御装置4および治具保持装置6によって、常に正常な滓取り治具7によって滓回収作業が行えるように滓取り治具7・7・・・を自動的に交換することができる。
【0032】
また治具保持装置6は、後述する導通検出装置9の第二端子9cと電気的に接続されている。このため、チャック6aによって把持される滓取り治具7は、チャック6aによって滓取り治具7を把持するだけで、配線作業をすることなく、導通検出装置9の第二端子9cと電気的に接続することができる。
【0033】
即ち、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1に備えられる滓取り治具7は、汎用ロボット5に対して、電気的に絶縁されるものである。
このような構成により、滓取り治具7の交換時に、導通検出装置9の配線を繋ぎかえる必要がなくなり、滓取り治具7の交換が容易となるため、滓取り作業の自動化を容易に実現することができる。
【0034】
図4に示す如く、滓取り治具7は、導電性を有する素材によって形成される滓3bを掻き集めて保持することができる治具であり、滓取り治具7の下端部に形成される滓受け部7aによって、滓3bを掬い取ることができる。また、滓取り治具7の上端部には把持部7bが形成されており、該把持部7bにおいて、前述したチャック6aによって把持される構成としている。尚、滓取り治具7を形成する素材の選定においては、溶湯3の温度や当該素材の融点等を考慮する。
【0035】
さらに、滓取り治具7には、振動吸収部7cが形成されている。振動吸収部7cは、滓受け部7aと把持部7bの中途部に設けられる部位であり、本実施例では、2枚の板ばねによって振動吸収部7cを構成している。
振動発生装置10によって、滓取り治具7に振動を付与したときに、滓受け部7aを大きく振動させて効果的に滓3bを振り落とすようにするとともに、把持部7bに伝わる振動を軽減するように構成している。これにより、滓取り治具7を変位させる汎用ロボット5に過度に振動が伝わることを防止して、汎用ロボット5に故障が生じることを防止している。
【0036】
即ち、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1に備えられる滓取り治具7は、振動発生装置10により滓取り治具7に対して付与される振動を吸収する振動吸収部7cを備えるものである。
このような構成により、滓取り治具7に対して振動を付与することに起因して汎用ロボット5が故障することを防止できる。
【0037】
図1および図2に示す如く、治具交換台8には、複数の滓取り治具7・7・・・が位置決めした状態で保持されており、滓取り治具7に滓3bが付着して継続使用が困難となった場合に、即座に滓取り治具7を交換できるように準備しておくことができる。
また、オープンウェル2aの形状が入り組んでおり、部位によって異なる形状の滓取り治具17を使い分けた方が効率的に滓3bを回収できる場合もあるため、治具交換台8には、異なる形状を有する滓取り治具17・17・・・を準備しておくこともできる。
さらに、治具交換台8には、使用済みの滓取り治具7・17等を収納することができる収納部18・18が形成されている。
【0038】
図5(a)に示す如く、導通検出装置9は、溶湯3と滓取り治具7との間の通電状態を検出することができる装置であり、リレー9a等を備えている。
リレー9aは、第一端子9bと第二端子9cによって接点を形成しており、各端子9b・9c間に導通が生じたときにリレー9aが作動し、導通検出装置9から外部に信号(以下、導通検出信号と呼ぶ)を出力することができる。
【0039】
自動滓回収装置1では、第一端子9bが溶湯3と接するオープンウェル2aの壁体に電気的に接続されており、第二端子9cが治具保持装置6のチャック6aと電気的に接続されている。また、滓取り治具7は、チャック6aによって把持されることによって、チャック6aと電気的に接続されるため、チャック6aによって把持される状態において、滓取り治具7は、第二端子9cと電気的に接続されている。
【0040】
このため、滓取り治具7が溶湯3に接触すると、第一端子9bと第二端子9cとの間において導通が生じるため、リレー9aが作動し、導通検出装置9から導通検出信号が出力される構成としている。
【0041】
また、導通検出装置9は、図5(b)に示す如く、オープンウェル2aの壁体が導電性のない材料で構成されているような場合には、第一端子9bに電気的に接続される電極棒等を溶湯3中に直接浸して第一端子9bと溶湯3との間における導通を確保する構成とすることも可能である。
【0042】
また、導通検出装置9は、制御装置4と接続されている。
制御装置4には、滓取り治具7の形状および寸法の情報が予め記憶されている。また、制御装置4には、汎用ロボット5から腕部5bの姿勢に関する情報が入力される構成としている。
そして、制御装置4に対して、導通検出装置9から導通検出信号が入力されると、制御装置4は、その信号が入力されたときの腕部5bの姿勢と、そのとき使用している滓取り治具7の形状および寸法の情報に基づいて、信号入力時の滓取り治具7の最下端部の高さを演算により算出する構成としている。そして、この滓取り治具7の最下端部の高さを、溶湯3の湯面3aの高さとして認定する構成としている。
つまり、導通検出装置9は、滓取り治具7を電極棒として機能させて、湯面3aの高さを検出するために用いられている。
【0043】
図6(a)・(b)に示す如く、振動発生装置10は、滓取り治具7に対して振動を付与する役割を果たす装置であり、本実施例では所謂エアーノッカーと呼ばれる装置を採用している。振動発生装置10は、振動部10aおよび打撃部10bを備えている。振動発生装置10を作動させると、振動部10aが振動し、振動部10aに対して固設されている打撃部10bも振動部10aに伴って振動する。そして、該打撃部10bを滓取り治具7と接触させることによって、滓取り治具7に対して振動を付与する構成としている。
【0044】
また、振動発生装置10は、制御装置4と接続されている。
制御装置4には、振動発生装置10の打撃部10bの位置(座標)に関する情報や、滓取り治具7の振動付与部7dの位置および寸法等に関する情報が、予め記憶されている。
【0045】
このため、自動滓回収装置1は、制御装置4からの動作指令に基づいて、汎用ロボット5によって、滓取り治具7が変位され、該滓取り治具7の振動付与部7dが打撃部10bに接触可能な位置に配置されたときに、振動発生装置10を作動させて、滓取り治具7に対して自動的に振動を付与することができる。
【0046】
尚、図6(b)に示す如く、振動発生装置10によって、滓取り治具7に対して振動を付与するときには、滓取り治具7を正面側に向けて前傾させた状態で、かつ、滓取り治具7の正面側から打撃部10bを打ち付ける構成とすることが望ましく、これにより、より効果的に、滓受け部7aに付着した滓3bを振り落とすことができる。
【0047】
図6(a)・(b)に示す如く、滓検出装置11は、滓取り治具7に対して、もはや除去できない滓3bが付着してしまった状態を検出するための装置であり、一対の光電センサ11a・11aを備えている。
光電センサ11a・11aの間に、使用後の滓取り治具7を配置するとき、滓3bが付着していれば、光電センサ11a・11a間で送信している光が遮られるため、光電センサ11a・11a間での光の通過・遮断を検知することにより滓3bの付着を検出する構成としている。
【0048】
また、滓検出装置11は、制御装置4と接続されている。
制御装置4には、光電センサ11a・11aにより障害物の存在を検出することができる位置(座標)に関する情報や、滓取り治具7の滓受け部7aの位置および寸法等に関する情報が、予め記憶されている。
【0049】
このため、自動滓回収装置1は、制御装置4からの動作指令に基づいて、汎用ロボット5によって、滓取り治具7が変位され、該滓取り治具7の滓受け部7aが光電センサ11a・11aによる障害物の検出位置に配置されたときに、滓検出装置11によって、滓取り治具7に対して自動的に滓3bの固着の有無を検出することができる。
【0050】
尚、本実施例では、滓検出装置11として、光電式センサを採用した場合を例示しているが、本発明に係る自動滓回収装置に備えられる滓検出装置はこれに限定するものではなく、超音波センサを採用して障害物(滓)を検出したり、カメラによって撮影した画像から画像処理によって滓の残留の有無を検出したりすること等も可能であり、種々の方式の滓検出装置を採用することが可能である。
【0051】
図6(a)・(b)に示す如く、回収部12は、滓取り治具7によって回収された滓3bを貯留しておく役割を果たす部位であり、ホッパー12a、回収缶12b等を備えている。
そして、滓取り治具7によって掬い取られた滓3bは、ホッパー12aの上部において、滓取り治具7に振動を付与することによって振り落とされ、ホッパー12aの内壁面を滑り落ちながら、最終的に、回収缶12bに落下して貯留される。
尚、本実施例のように、滓3bをホッパー12a等を滑り落とす構成とすることにより、滓3bを効果的に放熱させることができるため、回収した滓3bの自己連続酸化反応による電気灰の生成を抑える効果を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1による一連の滓回収作業について、図1、図2および図7を用いて説明する。
図7に示す如く、自動滓回収装置1を起動すると、まず、汎用ロボット5に保持される滓取り治具7が、原点位置に配置される(STEP−1)。この原点位置は、自動滓回収装置1による滓3bの回収を行わないときに、滓取り治具7を待機させておく位置として、任意に設定することができる。
【0053】
次に、自動滓回収装置1は、自動的に予熱工程に移行する(STEP−2)。
予熱工程は、汎用ロボット5によって、滓取り治具7をオープンウェル2a内の溶湯3に触れない位置に変位させて、該位置に一定時間保持することにより行われる。予熱工程は、滓取り治具7をオープンウェル2a内の高温下にさらすことによって、滓取り治具7に付着している水分等を蒸発させて除去し、滓取り治具7を溶湯3に差し込んだときに水蒸気爆発が生じることを防止するために行われる。
【0054】
次に、自動滓回収装置1は、自動的に湯面検知工程に移行する(STEP−3)。
湯面検知工程は、汎用ロボット5によって、滓取り治具7をオープンウェル2a内の溶湯3に触れる位置に変位させることにより行われる。
【0055】
滓取り治具7が溶湯3に触れたことは、導通検出装置9によって検出される。そして、導通検出装置9が、導通を検出した旨の信号(導通検出信号)を制御装置4に発信し、該制御装置4は、導通検出信号を受信して、滓取り治具7と溶湯3との間で導通が生じたときの汎用ロボット5の腕部5bの姿勢を記憶する。そして、腕部5bの姿勢と使用している滓取り治具7の形状および寸法から、滓取り治具7の下端部の高さを演算により算出し、この滓取り治具7の下端部の高さを、湯面3aの高さとして検出する。
【0056】
即ち、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1は、多軸方向の動作を実現する腕部5bを備える汎用ロボット5と、腕部5bの手先部5cに備えられる治具保持装置6と、該治具保持装置6によって保持される滓3bを取るための治具である滓取り治具7と、自動滓回収装置1の各部の動作を制御する制御装置4と、を備え、溶湯3の湯面3aに存在する滓3bを自動的に回収する装置であって、滓取り治具7は、導電性を有する素材からなるとともに、滓取り治具7と溶湯3との間における導通の有無を検出する導通検出装置9を備え、導通検出装置9によって、滓取り治具7と溶湯3との間の導通を検出したときに、滓取り治具7と溶湯3との間の導通を検出した旨の信号である導通検出信号を制御装置4に出力し、制御装置4によって、導通検出信号を受信したときの腕部5bの姿勢と、そのとき使用している滓取り治具7の寸法および形状から、滓取り治具7の最下端部の高さを算出して、溶湯3の湯面3aの高さを検出するものである。
このような構成により、滓取り治具7が湯面3aを検出する電極として機能し、別途電極を設ける必要がないため、自動滓回収装置1の構成を簡易にすることができる。
【0057】
次に、自動滓回収装置1は、自動的に滓回収工程に移行する(STEP−4)。
滓回収工程は、汎用ロボット5によって、検出した湯面3aの高さを基準とするオープンウェル2a内において、滓取り治具7を予めプログラムしたルートに沿って変位させることにより行われる。滓回収工程は、予めプログラムされたルートに沿って変位させる動作を1サイクルの工程として、この工程が所定の回数(例えば10回)繰返して行われる。
【0058】
即ち、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1に備えられる汎用ロボット5は、滓取り治具7による滓取り動作を実現する腕部5bの基準高さにおける一連の動作が記憶され、制御装置4により溶湯3の湯面3aの高さを検出したときに、検出した溶湯3の湯面3aの高さにおいて、一連の動作を行うものである。
このような構成により、滓3bの回収動作ごとに湯面3aの高さを検出することができ、検出した湯面3aの高さに応じて、滓取り治具7を動作させることができるため、効率的に滓3bの回収を行うことができる。
【0059】
次に、自動滓回収装置1は、1サイクルの滓回収工程が終了すると、自動的に滓振り落とし工程に移行する(STEP−5)。
滓振り落とし工程は、汎用ロボット5によって、滓取り治具7を振動発生装置10近傍の所定位置に変位させて、振動発生装置10によって、滓取り治具7に振動を付与することによって行われる。
【0060】
即ち、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1は、滓取り治具7に対して振動を付与する振動発生装置10を備え、該振動発生装置10により、滓取り治具7に振動を付与して、滓取り治具7に付着した滓3bを除去するものである。
このような構成により、効率的に滓3bの回収を行うことができる。また、滓3bの固着を防止することによって、滓取り治具7の寿命を延ばすことができる。
【0061】
次に、自動滓回収装置1は、滓振り落とし工程が終了すると、自動的に滓残り検出工程に移行する(STEP−6)。
滓残り検出工程は、汎用ロボット5によって、滓取り治具7を滓検出装置11近傍の所定位置に変位させて、滓検出装置11によって、滓取り治具7に固着した滓3bを検出することによって行われる。
【0062】
そして、滓検出装置11によって、滓取り治具7に固着した滓3bが検出されなかった場合には、滓回収工程を継続するか否かの判定(STEP−7)に移行する。また、滓取り治具7に固着した滓3bが検出された場合には、湯洗い工程(STEP−8およびSTEP−9)に移行する。
【0063】
ここではまず、滓残り検出工程(STEP−6)において、滓取り治具7に固着した滓3bが検出された場合について説明する。
滓検出装置11によって滓3bが検出されたときに、既に湯洗いを実施済みであるか否かを判定し(STEP−8)、未だ湯洗いを実施していなければ、湯洗い工程(STEP−9)に移行する。
【0064】
湯洗い工程(STEP−9)は、汎用ロボット5によって、滓取り治具7の滓受け部7aを溶湯3に再度浸して一定時間保持することにより行われる。
そして、湯洗いによって滓3bを昇温して軟化させた状態で、再度滓振り落とし工程(STEP−5)に移行する。
【0065】
そして、滓振り落とし工程(STEP−5)が終了すると、自動的に再度滓残り検出工程に移行する(STEP−6)。
そして、湯洗いを実施した後でもなお、滓検出装置11によって、滓取り治具7の滓受け部7aに滓3bが検出された場合には、治具交換工程(STEP−8およびSTEP−10)に移行する。
【0066】
湯洗いを実施してもなお、滓受け部7aに固着している滓3bは、もはや除去するのが困難であり、また、滓3bが固着した状態では、滓受け部7aの容積が減少し、効率よく滓3bを回収することができなくなるため、この場合には、滓取り治具7を正常なもの(滓3bが固着していないもの)に交換するようにしている。
【0067】
即ち、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1は、滓取り治具7に対する滓3bの固着を検出する滓検出装置11を備え、該滓検出装置11によって、滓取り治具7に対する滓3bの固着を検出したときには、滓3bの固着した滓取り治具7を、滓3bの固着していない滓取り治具7に自動的に交換するものである。
このような構成により、常に正常な滓取り治具7を用いて滓3bを回収でき、効率的に滓3bの回収を行うことができる。
【0068】
滓残り検出工程(STEP−6)は、汎用ロボット5によって、滓3bが固着した滓取り治具7を治具交換台8の所定位置(収納部18)に変位させて、使用済みの滓取り治具7を治具交換台8(の収納部18)に収納した後に、治具保持装置6によって、治具交換台8に準備されている新しい(滓3bの付着がない正常な)滓取り治具7を把持することによって、滓取り治具7の交換が行われる。
そして、滓取り治具7の交換がなされた場合には、前述した予熱工程(STEP−2)に移行して、滓3bの回収作業を継続する。
【0069】
ここでは、滓残り検出工程(STEP−6)において、滓取り治具7に固着した滓3bが検出されなかった場合について説明する。
滓検出装置11によって、滓取り治具7に固着した滓3bが検出されなかった場合には、滓回収工程を継続するか否かの判定(STEP−7)に移行する。
【0070】
ここで、滓回収工程が未だ所定のサイクル数(例えば10回)に達していなければ、滓回収工程を継続して、(STEP−4)〜(STEP−10)の各工程を繰返して実行する。
また、滓回収工程が既に所定のサイクル数(例えば10回)に達していれば、滓回収工程を完了する(STEP−11)。
【0071】
次に、自動滓回収装置1は、滓回収工程が終了すると、自動的に滓取り治具7を原点位置に復帰させて(STEP−12)、金属溶解炉2が未だ操業中か否かの判定を行う(STEP−13)。
【0072】
そして、金属溶解炉2が未だ操業中であれば、再起動の指示があるまで待機状態を維持する(STEP−14)。尚、ここで必ずしも自動滓回収装置1を待機状態とする必要はなく、即座に予熱工程(STEP−2)に移行し、連続的に自動滓回収装置1による滓回収工程を実行することももちろん可能である。
【0073】
一方、金属溶解炉2の操業が終了していれば、自動滓回収装置1による一連の滓3bの回収作業を終了する。
このように、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1によれば、作業者を介在させることなく、連続的かつ効率的に滓3bを回収することができ、溶解歩留まりの改善や鋳造品の品質確保および作業者の作業環境の改善を図ることが可能である。
【0074】
ここで、自動滓回収装置1の、他の用途への適用例について、図8および図9を用いて説明する。
例えば、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1は、金属溶解炉2のオープンウェル2aにおける滓回収作業のみならず、金属溶解炉2の保持室2b内の滓3bを回収する用途にも用いることが可能である。
【0075】
図8に示す如く、自動滓回収装置1を金属溶解炉2の保持室2bと連通する自動扉2cの近傍に配置する構成とし、保持室2bの自動扉2cの開閉と、自動滓回収装置1による滓回収工程を連動させることによって、保持室2b内の滓3bを効率的に回収することができる。
【0076】
またこの場合、オープンウェル2aに対しても滓回収作業を行うことができるように自動滓回収装置1を配置することによって、一台の自動滓回収装置1で、オープンウェル2a内と保持室2b内の両方の滓回収作業を行うことが可能になる。
【0077】
さらに、本発明の一実施例に係る自動滓回収装置1は滓3bの回収作業のみならず、インジェクション装置13と連係させることによって、金属溶解炉2にフラックスを投入したり、あるいは投入したフラックスを攪拌させたりするフラックス投入作業の用途にも使用することができる。
【0078】
具体的には、図9に示す如く、治具交換台8に、滓取り治具7・7・・・のみならず、インジェクションランス13aを準備しておき、治具保持装置6によって、インジェクションランス13aを把持するとともに、インジェクションランス13aに供給装置13cを介してフラックスタンク13bを接続する構成とすることも可能である。尚、図9においては、説明の便宜上、自動滓回収装置1の構成要素の一部を割愛して図示している。
【0079】
そして、インジェクションランス13aを汎用ロボット5によって変位させて、溶湯3中に差込み、インジェクションランス13aの先端から供給装置13cによって圧送されるフラックスを放出したり、あるいは、供給装置13cから供給される窒素を放出してバブリングによる攪拌を行ったり、あるいは、インジェクションランス13aによって、溶湯3をかき混ぜる動作等を行うことによって、フラックス投入作業を効率よく行うことができる。
【0080】
このように、フラックス投入作業においても自動滓回収装置1を活用する構成とすることにより、フラックス投入作業の自動化および省人化をも図ることができ、金属溶解炉2による金属溶解作業のより一層の効率化を図ることが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 自動滓回収装置
3 溶湯
3a 湯面
3b 滓
4 制御装置
5 汎用ロボット
5b 腕部
6 治具保持装置
7 滓取り治具
7c 振動吸収部
8 治具交換台
9 導通検出装置
10 振動発生装置
11 滓検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多軸方向の動作を実現する腕部を備える汎用ロボットと、
前記腕部の手先部分に備えられる治具保持装置と、
該治具保持装置によって保持される滓を取るための治具である滓取り治具と、
各部の動作を制御する制御装置と、
を備え、
溶湯の湯面に存在する滓を自動的に回収する自動滓回収装置であって、
前記滓取り治具は、導電性を有する素材からなるとともに、
前記滓取り治具と前記溶湯との間における導通の有無を検出する導通検出装置を備え、
前記導通検出装置によって、前記滓取り治具と前記溶湯との間の導通を検出したときに、前記滓取り治具と前記溶湯との間の導通を検出した旨の信号である導通検出信号を前記制御装置に出力し、
前記制御装置によって、
前記導通検出信号を受信したときの前記腕部の姿勢と、そのとき使用している前記滓取り治具の寸法および形状から、
前記滓取り治具の最下端部の高さを算出して、
前記溶湯の湯面の高さを検出する、
ことを特徴とする自動滓回収装置。
【請求項2】
前記滓取り治具による滓取りを実現する、前記汎用ロボットの前記腕部の基準高さにおける一連の動作が、前記制御装置に記憶され、
前記制御装置により前記溶湯の湯面の高さを検出したときに、
検出した前記溶湯の湯面高さにおいて、前記一連の動作を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の自動滓回収装置。
【請求項3】
前記滓取り治具は、
前記汎用ロボットに対して、
電気的に絶縁される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動滓回収装置。
【請求項4】
前記滓取り治具に対して振動を付与する振動発生装置を備え、
該振動発生装置により、
前記滓取り治具に振動を付与して、
前記滓取り治具に付着した滓を除去する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の自動滓回収装置。
【請求項5】
前記滓取り治具は、
前記振動発生装置により該滓取り治具に対して付与される振動を吸収する振動吸収部を備える、
ことを特徴とする請求項4記載の自動滓回収装置。
【請求項6】
前記滓取り治具に対する滓の固着を検出する滓検出装置を備え、
該滓検出装置によって、
前記滓取り治具に対する滓の固着を検出したときには、
滓の固着した前記滓取り治具を、滓の固着していない前記滓取り治具に自動的に交換する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の自動滓回収装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−33315(P2011−33315A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182640(P2009−182640)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】