説明

自動車およびその類似物のためのブレーキアセンブリ

自動車用のブレーキアセンブリ(1)であって:ホイールの回転軸(A)と一緒に回転する回転体(2)と;前記回転体(2)近傍に位置するように、前記ホイールを支持する車両の構造体に固定された支持構造体(3)と;前記回転体(2)の表面に接触可能に前記支持構造体(3)へ可動に搭載された、高い摩擦係数の材料でできたブレーキパッド(4)と;前記パッドを前記回転体 (2)の表面へ選択的に押圧することができる、支持ならびに油圧操作式運動の手段(5)と;を備える。前記ブレーキアセンブリ(1)は、パッド(4)と前記支持ならびに油圧操作式運動手段(5)との間に間挿される断熱プレート(6)も備える。断熱プレート(6)は、複合材料でできた2つの外層と、緻密なケイ酸塩、マイカペーパ、および金雲母マイカペーパの中から選択された材料の少なくともひとつの緻密な内層(6b)とを備えた多層構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車およびその類似物のためのブレーキアセンブリに関する。より詳細には、本発明は、高性能の自動車または自動二輪車のための油圧操作式または電気油圧操作式のブレーキアセンブリに関し、これについては、一般性を欠くことなく、以下の扱いの中で明確に言及する。
【発明の背景】
【0002】
周知のように、現在出回っている高性能の自動車および自動二輪車はいずれも、油圧操作式または電気油圧操作式ブレーキアセンブリを装備しており、これらのブレーキアセンブリは、基本的に、金属またはカーボン・セラミックのディスクと、剛性支持構造体と、一対のブレーキパッドと単動油圧ピストンのセットと、から構成される。
【0003】
前記金属またはカーボン・セラミックのディスクは、車両ホイールへ強固に固定され、車両ホイールの回転軸と同軸になされることで、同ホイールと一体に前記回転軸を中心に回転可能であって、適切な厚さを有する。前記剛性支持構造体は、金属またはカーボン・セラミックのディスクと直接には接触せずに、ディスクを跨いで位置決めされるようにして、車両のサスペンションへ強固に固定される。前記一対のブレーキパッドは、高い滑り摩擦係数を持つ材料でできていて、従来から「パッド」として知られる一対のブレーキパッドであって、ディスクの対向する両面上の対称位置に、各ブレーキパッドがディスクの外縁近傍の、ディスクの各表面と向き合うように剛性支持構造体上へ配置される。前記単動油圧ピストンのセットは、2つのパッドをディスク本体へ押圧するために剛性支持構造体と2つのブレーキパッドとの間に配置されて、車両の運動エネルギーを摩擦によって消失させることにより車両を停止させる。
【0004】
摩擦による車両の運動エネルギー消失によりディスクとブレーキパッドの温度が急上昇すること、そしてごく最近の高性能の自動車および自動二輪車のこれら構成部品の到達温度が700℃を優に超えることを考慮すると、パッドをディスクへ押圧する油圧ピストンが、内蔵するブレーキオイルを沸騰させてしまう温度になることを防止する必要がある。この現象は、ブレーキアセンブリの正しい動作に取り返しのつかない危険をもたらすことになる。
【0005】
このリスクを避けるために、最近になって現れてきたのが、複合材料でできた2枚の断熱プレートを装備し、その各プレートを、ブレーキアセンブリのパッドと、同パッドをディスクに押圧する油圧ピストンとの間に挿入した、油圧操作式ブレーキアセンブリである。
【0006】
より詳細には、複合材料でできた2枚の断熱プレートは2枚のブレーキパッドの背面に固定されることにより、同パッドと、同パッドをディスクへ押圧する油圧ピストンのシリンダーヘッドとの間に配置される。各断熱プレートは、ガラス繊維および/または炭素繊維および/またはアラミド繊維を金属線と適切に織り合わせた層を1層以上重ね、母材であるエポキシ樹脂中へ埋設することにより形成される。
【0007】
残念ながら、この新しいブレーキアセンブリに対して行った実験では、期待したような効果は得られていない。すなわち、複合材料でできた現行の断熱プレートは、現実には、ディスク表面とパッドとの摩擦によって発生した熱から油圧ピストンを完全に隔離するに至っておらず、油圧ピストン内の作動油が熱を帯びて沸点に達する速さを遅くしなければならないという制約がある。
【0008】
言い換えると、長い時間にわたってとりわけ強い制動をかける場合、複合材料の断熱プレートを用いたブレーキアセンブリであっても、油圧ピストン内の作動油は連続する制動作動中に充分には冷却されずに沸点に達してしまうので、短時間のうちに働かなくなってしまう。
【発明の開示】
【0009】
本発明の目的は、パッドをディスクへ押圧する油圧ピストン内の作動油が沸騰するリスクとは無縁な油圧操作式または電気油圧操作式の高性能自動車および自動二輪車を具体化することである。
【0010】
従って、本発明によれば、自動車およびその類似物のためのブレーキアセンブリは、請求項1に記載するように、および必須ではないが好ましくはその従属項に記載するように具体化される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
ここで、限定的ではない実施形態を示す添付図面を参照して本発明を説明する。
【0012】
図1は、本発明の原理に従って具体化した、自動車およびその類似物のためのブレーキアセンブリの分解斜視図である。
【0013】
図2は、図1に示す自動車およびその類似物のためのブレーキアセンブリの構成要素を詳細に示す斜視図であり、明確に分かるように一部を除去して示す。
【0014】
図3は、先の図に示すブレーキアセンブリの具体化した変形を示す正面図であり、明確に分かるように一部を断面で、また一部を除去して示す。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0015】
図1において、符号1は、高性能の自動車および自動二輪車での使用に特に有利な、自動車およびその類似物のための油圧操作式ブレーキアセンブリ全体である。
【0016】
ブレーキアセンブリ1は、金属またはカーボン・セラミックのディスク2と剛性支持構造体3とを備える。金属またはカーボン・セラミックのディスク2は、ホイールの回転軸Aと同軸に配置されるように、そして同ホイールと一体に前記軸Aを中心に回転できるように、車両ホイール(図示せず)へ、または車両ホイールを支持するハブ(図示せず)へ強固に固定されるのに好適であって、適切な厚さをもつ。剛性支持構造体3は、ディスクと直接には接触せずにディスク2を跨いで位置決めされるように、車両のサスペンション(図示せず)へ強固に固定される。
【0017】
ブレーキアセンブリ1は、一対のブレーキパッド4を備えており、このブレーキパッド4は高い滑り摩擦係数を持つ材料でできており、従来から「パッド」として知られている。この一対のブレーキパッド4は、両パッド4が互いに整列するように、そして各パッド4が前記ディスク2の外縁近傍のディスク2の各面に面するように、ディスクの対向する両面上の互いに対称な位置で、剛性支持構造体3へ可動に取り付けられる。ブレーキアセンブリ1は一組の単動油圧ピストン5も備え、これらピストンは、両パッド4の背後で剛性支持構造体3に格納され、動作するときに両パッド4をディスク2の本体へ押圧して、両パッド4がディスク2の表面を擦るようにする。擦り動作の進行とともに、ディスク2と、ディスク2に一体の車両ホイールとの、軸Aを中心とする回転速度は次第に低下して、最後に、車両が完全に停止する。
【0018】
図1において、ブレーキアセンブリ1は複合材料でできた2つの断熱プレート6も備え、各プレートは、パッド4と、ディスク2にパッド4を押圧する油圧ピストン5との間にそれぞれ間挿されている。
【0019】
より詳細には、図示の実施例において、2枚の断熱プレート6の各々は、それぞれのパッド4の背面4aに固定されているので、パッド4の本体と、ディスク2へパッド4を押しつける油圧ピストン5のシリンダーヘッド5aとの間に位置をとることになる。
【0020】
ディスク2、剛性支持構造体3、パッド4、および油圧ピストン5は、当該分野では周知の構成部品であるので、これ以上の説明を加えない。代わって、断熱プレート6に関して図2を参照すると、各断熱プレートは、現在知られている解決策とは異なる多層構造を持つが、この多層構造は、複合材料の2つの外層6aと少なくとも1つの中間層6bとを備えた多層構造を有する。前記外層6aは、炭素繊維を適切に織り合わせて結合母材としてのポリマー樹脂に埋設することにより成形されている。前記中間層6bは、ケイ酸塩、より具体的にはアルミノケイ酸カリウム(化学式K2A16Si6O20(OH)4)でできていて、必須ではないが好ましくは、モル質量が796.63g/モルであり、また必須ではないが好ましくは、密度が2.5と2.7g/cm3の間である。
【0021】
さらに詳細には、断熱プレート6の2つの外層6aの厚さは、必須ではないが好ましくは、0.1と0.3mmの間であり、両方とも、表面密度が約150〜250g/m2の炭素繊維の網もしくは、必須ではないが好ましくは「綾織り」または「平織り」の織物で形成される一方、両外層6aの結合母材は、使用温度が800℃を超える高温フェノール・アクリル結合樹脂から成る。
【0022】
代わって、中央層6bの厚さは、必須ではないが好ましくは、0.1と1.5mmの間であり、両外層6aと一体化するように強固に固定される。
【0023】
代替として、複合材料は、ピッチベースの炭素繊維、PAN(ポリアクリルニトリル)ベースの炭素繊維、E−ガラス繊維、S−ガラス繊維、ホウ素繊維、セラミック繊維、石英繊維および珪素繊維の中から選択された繊維によって形成され、適切に織り合わされて、ポリマー樹脂結合母材に埋設される。有利なことに、前記繊維は織成または不織繊維である。
【0024】
あるいは、前記1つの緻密な中間層(6b)は、マイカペーパおよび金雲母マイカペーパの中から選択された材料で成形される。
【0025】
好ましい実施形態によれば、複合材料でできた2つの外層(6a)を形成する前記ポリマー結合樹脂は、フェノール・アクリル結合樹脂、フェノール樹脂ベースの化合物、ポリイミド樹脂および高温シリコン樹脂の中から選択された樹脂である。
【0026】
より具体的には、図示の実施例で示されるように、断熱プレート6の中間層6bは、厚さが約0.8mmで、アルミノケイ酸カリウムでできている一方、両外層6aはともに、厚さが約1.5mmで、表面密度が約200g/m2の炭素繊維の網もしくは、必須ではないが好ましくは「綾織り」または「平織り」の織物で形成される。両外層6aの結合母材は、代わりに、作用温度が1,000℃を超える高温フェノール・アクリル結合樹脂から成る。
【0027】
ブレーキアセンブリ1の機能は、上記より容易に推測されるので、断熱プレート6の特別な構成については、ディスク2とパッド4とが900℃を超える温度に達した場合であっても油圧ピストン5への熱伝達を防止するような高い断熱容量が得られる点を除けば、説明を加える必要はない。
【0028】
言い換えると、断熱プレート6は、ディスク2とパッド4が900℃に達した場合であっても、油圧ピストン5内の作動油を常に沸点未満に保つ。
【0029】
上記断熱プレート6によって得られる利点は明らかである。すなわち、このようにして製造されるブレーキアセンブリ1は、きわめて長い期間にわたって効率の低下を何ら招くことなく、特に厳しい使用条件に対応することができる。
【0030】
最後に、上記のブレーキアセンブリ1に対して、本発明の範囲から逸脱することなく、変更や変形を行えることは明らかである。
【0031】
例えば、断熱プレートはアルミノケイ酸カリウムでできた2つの中央層6bを備えてもよく、両層間に複合材料の中間層が間挿され、この中間層は、必須ではないが好ましくは、適切に一緒に織り合わされてエポキシ樹脂結合剤に埋設された炭素繊維により形成される。
【0032】
代替として、図3に示す変形例によると、ブレーキアセンブリ1は、ディスク2に代えてドラム2’としてもよい。ディスク2と同様に、ドラム2’は、車両ホイールを支持するハブに剛性的に固定され、それにより、ホイールの回転軸Aを中心に、ホイールと一体に回転できる。
【0033】
この場合、剛性支持構造体3は、ドラム2’内に張り出した中央部3aと、ドラム内で中央部3aにヒンジ結合されることにより剛性支持構造体3に担持された油圧ピストン5の圧力の下で離れるように動くことができる2つの円弧形ブレーキシュー3bとを備える。
【0034】
この変形の実施形態において、ライニング4は両方とも曲がっていて、ブレーキシュー3bが油圧ピストン5によって拡げられると、ドラム2’の内側円筒面に接触できるように、2つのブレーキシュー3bへ剛性的に固定されている一方、断熱プレート6は、ライニング4と、油圧ピストンが上で動作するブレーキシュー3bとの間に間挿されている。
【0035】
図示しない更なる変形の実施形態によれば、剛性支持構造体3は、車両のサスペンションに、すなわち車両のホイールを支持する構造体に、フローティング形式で固定されてもよい。この場合、両パッド4のうち一方が、剛性支持構造体3に直接固定され、油圧ピストン5は、剛性支持構造体3へ可動に搭載されたパッド4の背後で、剛性支持構造体3へ単に格納される。
【0036】
この変形の実施形態において、ブレーキアセンブリ1は、剛性支持構造体3と、この構造体間へ直接係止されたパッド4との間に間挿される断熱プレート6を持たなくてもよい。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車およびその類似物のためのブレーキアセンブリ(1)であって:
前記車両のホイールの回転軸(A)を中心に、前記ホイールと一緒に回転できるように、前記ホイールと一体である回転体(2および2')と;
前記回転体(2および2')近傍に位置するように、前記ホイールを支持する車両の構造体に強固に固定された支持構造体(3)と;
前記回転体(2および2')の表面に接触できるように支持構造体(3)へ可動な方法で搭載された、高い摩擦係数の材料でできた少なくともひとつのブレーキパッド(4)と;
前記パッドを前記回転体(2および2')の表面へ選択的に押圧することができる、支持ならびに油圧操作式運動の手段 (5および3b)と;を備え、
前記ブレーキアセンブリ(1)は、前記パッド(4)と前記支持ならびに油圧操作式運動の手段(5および3b)との間に間挿される少なくとも1つの断熱プレート(6)も備え;
前記断熱プレート(6)が、複合材料でできた2つの外層(6a)と、緻密なケイ酸塩、マイカペーパ、および金雲母マイカペーパの中から選択された材料でできた少なくとも1つの緻密な内層(6b)とを備える多層構造を有することを特徴とするブレーキアセンブリ。
【請求項2】
前記緻密な内層(6b)が、アルミノケイ酸カリウムでできていることを特徴とする、
請求項1に記載のブレーキアセンブリ。
【請求項3】
アルミノケイ酸カリウムでできた前記緻密な内層(6b)の密度が、2.5g/cm3と2.7g/cm3の間であることを特徴とする、
請求項2に記載のブレーキアセンブリ。
【請求項4】
前記アルミノケイ酸カリウムのモル質量が実質的に796.63g/モルであることを特徴とする、
請求項2または3に記載のブレーキアセンブリ。
【請求項5】
複合材料でできた前記2つの外側層(6a)が、炭素繊維、ピッチベースの炭素繊維、PANベースの炭素繊維、E−ガラス繊維、S−ガラス繊維、ホウ素繊維、セラミック繊維、石英繊維および高珪素繊維(high silica fibres)の中から選択された繊維によって形成されることを特徴とする、
先の請求項のいずれかに記載のブレーキアセンブリ。
【請求項6】
前記繊維は織成繊維または不織繊維であることを特徴とする、
請求項5に記載のブレーキアセンブリ。
【請求項7】
複合材料でできた前記2つの外層(6a)を形成するポリマー結合樹脂が、フェノール・アクリル結合樹脂、フェノール樹脂、フェノール樹脂ベースの化合物、ポリイミド樹脂、および高温シリコン樹脂の中から選択された樹脂であることを特徴とする、
請求項5または6に記載のブレーキアセンブリ。
【請求項8】
複合材料でできた前記外層(6a)の各々は、表面密度が150〜250 g/m2の間である炭素繊維の網もしくは織物を備えることを特徴とする、
請求項5ないし7のいずれかに記載のブレーキアセンブリ。
【請求項9】
ケイ酸塩の前記緻密な内層(6b)の厚さが0.1と1.5mmの間であることを特徴とする、
上記請求項のいずれかに記載のブレーキアセンブリ。
【請求項10】
複合材料でできた各外層(6a)の厚さが0.1と3mmの間であることを特徴とする、
上記請求項のいずれかに記載のブレーキアセンブリ。
【請求項11】
前記回転体(2および2')がディスク(2)であり、
前記支持構造体(3)が前記ディスク(2)を跨ぐように位置決めされており、
前記ブレーキアセンブリ(1)はまた、前記ディスク(2)の対向両面上に互いに対称位置をとるように、前記剛性支持構造体(3)に配置された高い摩擦係数の材料でできた2つのパッド(4)を装備しており、
前記支持ならびに油圧操作式運動の手段(5および3b)は、前記パッド(4)の少なくともひとつの背後で前記支持構造体(3)に格納された一組の油圧ピストン(5)を備え、前記一組の油圧ピストンは操作されると、前記一つ以上のパッド(4)を前記ディスク(2)の本体に押圧することができることを特徴とする、
先の請求項のいずれかに記載のブレーキアセンブリ。

【公表番号】特表2011−504215(P2011−504215A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526389(P2010−526389)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002589
【国際公開番号】WO2009/040660
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(510084622)マトリックス テクノロジー エッセ.エッレ.エッレ. (1)
【氏名又は名称原語表記】MATRIX TECHNOLOGY S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Viale Ancona 17, I−30170 Mestre(VE), Italy
【Fターム(参考)】