説明

自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパ

【課題】 自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパを提供する。
【解決手段】 ブレーキキャリパの側壁には、上下に配置された弧状軌道に沿ってそれぞれ、ブレーキピストンを備えたブレーキシリンダが配置されている。外側の弧状軌道に沿ってブレーキピストンを備えた3個のブレーキシリンダが設けられ、これに対して離隔された内側の弧状軌道に沿ってブレーキピストンを備えた2個のブレーキシリンダが設けられている。ブレーキピストンを備えたこの2個のブレーキシリンダは上側にあるブレーキシリンダの隙間内に配置されている。ブレーキシリンダはブレーキキャリパの側壁の枠内の側壁の支持構造体内に保持され、この支持構造体がW字状に形成された連結ウェブを備え、ブレーキシステムをエア抜きするために個々のブレーキシリンダに通じる接続通路を、連結ウェブに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した、自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパが知られている。このブレーキキャリパは各側壁に、弧状の線に沿って並べて配置された楕円形横断面のブレーキシリンダと、この楕円形ブレーキシリンダの間の隙間内にそれぞれ4個の円形横断面のブレーキシリンダを備えている。ブレーキシリンダの間にはブレーキをエア抜きするための接続孔が設けられている。さらに、特許文献2から知られている自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパは、各側壁に、ブレーキディスクのほぼ半径方向に上下に延在する2列のブレーキピストンを備え、この各列はそれぞれ3個のブレーキピストンを有する。このブレーキピストンは通路を介してブレーキピストンの圧力側に対して油圧的に接続されている。さらに、ブレーキキャリパには、ブレーキシステムのエア抜きのための接続孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国実用新案第9420376U1号明細書
【特許文献2】独国特許第2147751号明細書
【特許文献3】独国特許第4301684A1号明細書
【特許文献4】独国特許第10212670A1号明細書
【特許文献5】米国特許第2006/0124404A1号明細書
【特許文献6】欧州特許第0710777A2号明細書
【特許文献7】国際公開第WO00/65247A1号明細書
【特許文献8】国際公開第WO2006/109710A1号明細書
【特許文献9】特開2009257578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ブレーキキャリパ内を案内される多数のブレーキピストンを介して、ブレーキパッドの全面に対して均一な押圧力を加えることができ、かつブレーキシステムのエア抜きが保証される、自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパを備えたブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は本発明に従い、請求項1記載の特徴によって解決される。従属請求項は他の有利な特徴を含んでいる。
【0006】
本発明によって達成される主たる効果は、ブレーキパッドの全面にわたって延在し、エッジ側と中央に同じ押圧力を発生する、複数の対向ブレーキピストン用の配置構造体を、ブレーキキャリパの各々の側に備えている、自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパを提供することにある。これは本発明に従い、ブレーキキャリパの各側壁においてブレーキシリンダ内を案内される各々5個の対向するブレーキピストンがブレーキキャリパの支持構造体内に配置され、各々3個のブレーキピストンが支持構造体の外側の弧状軌道に沿って配置され、他の2個のブレーキピストンが支持構造体の内側の弧状軌道に沿って、外側弧状軌道上にあるブレーキピストンの間の隙間内に配置され、ブレーキシリンダが支持構造体内の接続通路を介して互いに接続可能であることにより解決される。接続通路は例えば、製作プロセスの間または製作プロセス中に、特別な中子を配置または挿入することにより形成可能である。その際、ブレーキシリンダ間の接続通路のエア抜き状態に関して最適な延在または最適な配置を保証するために、右側と左側のブレーキピストンに好ましくは右側と左側の中子が付設される。
【0007】
本発明ではさらに、各側壁のブレーキシリンダが側壁の枠内に形成された支持構造体内に配置され、この支持構造体がW字状に延在する連結ウェブを備え、この連結ウェブ内にブレーキピストンを備えたブレーキシリンダが保持され、連結ウェブ内を接続通路が延在している。特に、支持構造体のW字状に延在する連結ウェブの角個所および端個所にそれぞれ、ブレーキピストンを備えたブレーキシリンダが配置されている。ブレーキピストンを備えたブレーキシリンダを上下に設けられたブレーキキャリパの2つの弧状軌道または円軌道上に配置し、内側の弧状軌道上のブレーキピストンを互い違いに配置したこの構造により、ブレーキパッドの全面に押圧力が均一に加えられる。それによって、大きな面積のブレーキパッドの全面をブレーキディスクに押し付けることができるので、最適なブレーキ作用が達成可能である。
【0008】
ブレーキキャリパの側壁の周囲の枠内のW字状支持構造体は、システムから気泡を除去できるようにエア抜きするために、接続通路を個々のブレーキシリンダに配置することを可能にする。適当な出口がブレーキキャリパに設けられている。
【0009】
個々のブレーキシリンダの間のエア抜き用接続通路はそれぞれブレーキシリンダの側方上側に通じている。接続通路をブレーキシリンダの上面に接続配置することは必要である。というのは、出口を経て外部に排出される気泡がこの領域に集まるからである。
【0010】
支持構造体の連結ウェブは、ブレーキシリンダの側方上側および側方下側に通じる接続通路を並べて収容するための幅を有する。支持構造体の連結ウェブ内の接続通路がその都度1つだけ、ブレーキキャリパの組み込み位置に依存して使用される。それによって、自動車内でのブレーキキャリパの組み込み位置に応じて、必要な接続通路の一つを使用することができるので、両バリエーションのためにブレーキキャリパの鋳造ブランクを1つだけしか必要としない。
【0011】
個々のブレーキピストンを配置する際に本発明では、ブレーキピストンがブレーキキャリパの側壁内で、ブレーキパッドの面にわたって均一に分配された配置構造を有し、個々のブレーキピストンの有効押圧面がブレーキパッドの全面に割り当てられていることが重要である。この面割り当てにより、比較的に大きな面積のブレーキパッドの場合に、ディスクブレーキに対する押圧力がエッジまで加えられる。そのためにさらに、外側弧状軌道が内側弧状軌道に対して離隔され、両弧状軌道に沿って配置された、ブレーキピストンを有するブレーキシリンダがそれぞれ、互いにほぼ同じ高さ方向間隔および横方向間隔を有する。
【0012】
本発明の実施の形態が図に示してある。次に、この実施の形態について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ブレーキピストンを有するブレーキシリンダを支持構造体内に挿入した、ディスクブレーキのブレーキキャリパの側面図である。
【図2】個々のブレーキピストンの押圧面を示唆した、図1のブレーキキャリパ用のブレーキパッドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
自動車のディスクブレーキ用ブレーキキャリパ1は実質的に、キャリパ本体の2つの側壁2、3を備えている。このキャリパ本体はブレーキシリンダ4内に、油圧操作可能なブレーキピストン5、6、7および8、9を備えている。このブレーキピストンはそれぞれ、ブレーキパッド10を介してブレーキディスクに作用する。ブレーキピストン用の個々のブレーキシリンダはすべて位置4で示してある。
【0015】
各側壁2、3内において、ブレーキシリンダ4内を案内される対向する各々5個のブレーキピストン5、6、7および8、9が支持構造体12内に配置および保持されている。図1に詳しく示すように、3個のブレーキピストン5、6、7は支持構造体12の外側の弧状軌道または円軌道Kに沿って配置され、そして他の2個のブレーキピストン8、9はその下にある支持構造体12の弧状軌道または円軌道K1に沿って、外側の弧状軌道または円軌道Kに沿って配置されたブレーキピストン5、6、7の間の隙間内に配置されている。ブレーキピストン5、6、7および8、9用のブレーキシリンダ4は、ブレーキピストンの押圧側で、支持構造体12内の接続通路14または15を介してそれぞれ相互に接続されている。
【0016】
各側壁2、3のブレーキシリンダ4は、各側壁2、3の枠16に形成された支持構造体12内に保持されている。この支持構造体はW字状に延在する連結ウェブ17を備えている。この連結ウェブ内にはブレーキピストンを備えたブレーキシリンダ4が配置され、接続通路14または15が設けられている。
【0017】
ブレーキパッド10の面を横方向外側で並びに上側および下側でエッジ近くまで押圧力にさらすことができるようにするために、ブレーキシリンダ4はブレーキピストン5、6、7および8、9と共に、好ましくはW字状に延在する支持構造体12の連結ウェブ17の角個所および端個所に配置されている。これに加えて、ブレーキピストン5、6、7および8、9をブレーキパッド10のエッジの近くまで作用させることができるようにするために、外側の弧状軌道Kが内側の弧状軌道K1に対して適当に離隔して配置されている。さらに、ブレーキピストン5、6、7および8、9は、個々のブレーキピストンの押圧面がブレーキパッド10の全面に割り当てできるように位置決めされている。押圧面Dは図2に詳しく示すようにブレーキパッド10上に出現する。
【0018】
支持構造体12の連結ウェブ17内の接続通路14または15は個々のブレーキシリンダを互いに接続する。この場合、一方の接続通路15(実線)はブレーキシリンダ4の側方上側に通じ、接続通路14(破線)はブレーキシリンダ4の側方下側に通じている。ブレーキキャリパ1あたり、その都度接続通路14または15が1つだけ使用される。この接続通路は、ブレーキのエア抜き時に、補集された気泡を除去するために、ブレーキキャリパ1の組み込み位置に依存して選択される。
【0019】
ブレーキキャリパ1のいろいろな構造的変形を使用できるようにするために、ブレーキキャリパの鋳造ブランクは、支持構造体12の非常に幅広の連結ウェブ17を備え、この連結ウェブ内に両接続通路14または15が並べて形成される。ブレーキキャリパ1の組み込み位置に応じて、適当な接続通路14または15を開放することができるので、2つの組み込み変形のためにブレーキキャリパを1個しか必要としない。
【符号の説明】
【0020】
1 ブレーキキャリパ
2、3 側壁
4 ブレーキシリンダ
5、6、7、8、9 ブレーキピストン
12 支持構造体
14、15 接続通路
K 外側の弧状軌道
K1 内側の弧状軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの側壁によって形成されたキャリパ本体を備え、このキャリパ本体がブレーキシリンダ内に油圧操作可能なブレーキピストンを備え、このブレーキピストンがそれぞれブレーキパッドを介してブレーキディスクに作用するように配置されている、自動車のディスクブレーキ用のブレーキキャリパにおいて、
前記ブレーキキャリパ(1)の各側壁(2、3)において、前記ブレーキシリンダ(4)内を案内されるそれぞれ5個の対向するブレーキピストン(5、6、7および8、9)が支持構造体(12)内に配置され、それぞれ3個の前記ブレーキピストン(5、6、7)が前記支持構造体(12)の外側の弧状軌道(K)に沿って配置され、他の2個の前記ブレーキピストン(8、9)が前記支持構造体(12)の内側の弧状軌道(K1)に沿って、前記外側弧状軌道(K)上にある前記ブレーキピストン(5、6、7)の間の隙間内に配置され、前記ブレーキシリンダ(4)が接続通路(14または15)を介して互いに接続可能であることを特徴とするブレーキキャリパ。
【請求項2】
前記各側壁(2、3)の前記ブレーキシリンダ(4)が前記各側壁(2、3)の枠(18)内に形成された前記支持構造体(12)内に配置され、この支持構造体がW字状に延在する連結ウェブ(17)を備え、この連結ウェブ内に前記ブレーキピストンを備えた前記ブレーキシリンダ(4)が保持され、前記連結ウェブ内に前記接続通路(14または15)が延在していることを特徴とする請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項3】
前記支持構造体(12)のW字状に延在する前記連結ウェブ(17)の角個所および端個所にそれぞれ、前記ブレーキピストン(5、6、7および8、9)を備えた前記ブレーキシリンダ(4)が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキキャリパ。
【請求項4】
前記ブレーキシリンダ(4)の間の前記接続通路(14または15)がそれぞれ前記ブレーキシリンダ(4)の側方上側に通じていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のブレーキキャリパ。
【請求項5】
前記支持構造体(12)の前記連結ウェブ(17)が、前記ブレーキシリンダ(4)の側方上側および側方下側に通じるそれぞれの前記接続通路(14または15)を並べて収容するための幅を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のブレーキキャリパ。
【請求項6】
前記支持構造体(12)の前記連結ウェブ(17)内の前記接続通路(14または15)がその都度1つだけ、前記ブレーキキャリパ(1)の組み込み位置に依存して使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のブレーキキャリパ。
【請求項7】
前記ブレーキピストン(5、6、7および8、9)が前記ブレーキキャリパ(1)の前記側壁(2、3)内で、前記ブレーキパッド(10)の面にわたって均一に分配された配置構造を有し、個々の前記ブレーキピストン(5、6、7および8、9)の有効押圧面が前記ブレーキパッド(10)の全面(F)に割り当てられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のブレーキキャリパ。
【請求項8】
前記外側弧状軌道(K)が前記内側弧状軌道に対して離隔され、これらの弧状軌道(K、K1)が前記ブレーキディスク(11)の円形に追従し、前記両弧状軌道(K、K1)に沿って配置された、前記ブレーキピストン(5、6、7および8、9)を有する前記ブレーキシリンダ(4)が、互いにほぼ同じ高さ方向間隔および横方向間隔を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のブレーキキャリパ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−29197(P2013−29197A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160724(P2012−160724)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(510238096)ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (63)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】