説明

自動車のブレーキ用のマスターシリンダシール

【課題】静的シーリングリップ部による小さな固体粒子の捕捉を防止するようにした自動車用の液圧式制動回路用マスターシリンダを提供する。
【解決手段】 マスターシリンダ本体のハウジング(6)内に配置された環状シール(1)を備え、このシールは、ピストンを取り囲み、このピストンが後休止位置にある場合にピストンの環状溝(20)に嵌着する動的内側シーリングリップ部(14)と、ハウジングの壁に押し付けられた静的外側シーリングリップ部(10)と、このシールのハウジングの壁に押し付けられ、外側リップ部とともに液体の小さな閉鎖容積(V)を形成する追加の静的シーリングリップ部(16)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的には、特に自動車用のブレーキマスターシリンダ用のシールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキ制御装置は、一般的には、液体圧力を液圧回路を介してレシーバーに伝達するため、マスターシリンダに作用するブレーキペダルを含む。レシーバーが様々なホイールを制動する。
【0003】
ブレーキペダルはピストンに作用し、ピストンは、シールを含む本体内で軸線方向に摺動する。シールは、大気圧の液体のリザーバを含む後容積を、ピストンの変位によって加圧されるチャンバを含む前容積から分離するため、ピストンに押し付けられるリップ部を含む。
【0004】
この種のブレーキマスターシリンダは、米国特許第6,272,858号に記載されている。これは、二つのリップ部を持つ円形シールを有する。内側リップ部がピストンを取り囲み、動的シールを提供する。ピストンが休止時に後位置にある場合、内側リップ部は、深さが浅く且つ僅かに傾斜した側壁を持つピストン溝に入る。
【0005】
ピストンがこの休止位置にある場合、ピストンに形成されており且つ溝に開放した半径方向の穿孔(例えば、ドリル穴)が、リップシールの内側リップ部の後方に位置決めされ、圧力チャンバを液体リザーバと連通し、必要であれば液圧回路の容積を再調節する。
【0006】
リップシールは、ピストンを取り囲む本体の環状ハウジング内で軸線方向に楔をなし、この環状ハウジングの円筒形の底部に押し付けられて、圧力チャンバと後容積との間に静的シールを提供する外側リップ部を備えている。
【0007】
このマスターシリンダの一つの重要な欠点は、静的シーリングリップ部(静的な封止用のリップ部)のところに、小さな固体粒子が、圧力回路が一杯に充填された場合の液体の移動により、例えばこのリップ部の下に引っ掛かり、静的状態で外径方向に常に押し付けられるリップ部によって、捕捉されたままになってしまう可能性があるということである。かくして、リップ部の下に引っ掛かった粒子は、最終的には漏れを引き起こしてしまう可能性がある。というのは、リップ部が、もはや対向する表面に均等に圧接されないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,272,858号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の特定の目的は、このような従来技術の欠点をなくし、リップシール型のブレーキマスターシリンダの静的シールを形成するための簡単であり且つ効果的な解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明は、特に自動車用の液圧式制動回路用マスターシリンダであって、本体内で軸線方向に摺動するピストンを備え、このピストンは、本体のハウジングに配置された環状シールと協働し、
このシールは、
ピストンを取り囲み且つピストンが後休止位置にある場合にピストンの環状溝に嵌着する動的な内側シーリングリップ部(動的な封止用の内側リップ部)と、
ハウジングの壁に押し付けられる静的な外側シーリングリップ部(静的な封止用の外側リップ部)とを備え、
前記シールは、追加の静的なシーリングリップ部(追加の静的な封止用のリップ部)を備え、この静的なシーリングリップ部は、このシールのハウジングの半径方向壁に押し付けられ、前記外側リップ部が液体の小さな閉鎖容積を形成する、ことを特徴とするマスターシリンダを提案する。
【0011】
本発明によるマスターシリンダの一つの重要な利点は、簡単であり且つ経済的な方法で、二つの静的シーリングリップ部間に少量の液体を保持でき、作動中、リップ部に捕捉された粒子を押し出す流れを発生することによってこの容積を変化するということである。
【0012】
本発明によるマスターシリンダは、更に、以下に列挙する特徴のうちの一つ又はそれ以上を含んでいてもよく、これらの特徴を互いに組み合わされてもよい。
本発明の別の特徴によれば、ピストンがその後休止位置から離れるとき、内側リップ部は環状溝から離れ、環状シールは、小さな容積を圧縮して液体をこの容積の外に押し出すための手段を含む。
【0013】
有利には、外側リップ部は、僅かな傾斜によりハウジングの壁に押し付けられた状態で位置決めされ、また、小さな容積内の圧力が上昇した場合に開放する逆止弁を形成する。
有利には、追加のリップ部は、僅かな傾斜によりハウジングの壁に押し付けられた状態で位置決めされており、小さな容積内の圧力が低下した場合に開放する逆止弁を形成する。
【0014】
本発明の特に好ましい実施例によれば、外側リップ部は実質的に軸線方向に延びており、ハウジングの円筒形の半径方向外面に押し付けられており、追加のリップ部は実質的に半径方向に延びており、このハウジングの平らな半径方向後面に押し付けられている。
【0015】
有利には、環状シールは、外側リップ部と内側リップ部との間の半径方向中間に軸線方向リップ部を含み、この軸線方向リップ部は、実質的に軸線方向に差し向けられており、その端部は、環状ハウジングの実質的に半径方向に延びる前面に押し付けられている。
【0016】
本発明は、例として説明した以下の説明を添付図面を参照して読むことによって、更によく理解されるであろうし、この他の特徴及び利点が更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ピストンが後休止位置にある、本発明によるマスターシリンダの環状シールの軸線方向に沿った片側断面図である。
【図2】図2は、ピストンが小さく移動した後の環状シールの軸線方向に沿った片側断面図である。
【図3】図3は、外側リップ部が持ち上がった環状リップシールの軸線方向に沿った片側断面図である。
【図4】図4は、外側シールが再び閉鎖した環状リップシールの軸線方向に沿った片側断面図である。
【図5】図5は、小さな閉鎖容積からの粒子の押出しを示す、環状リップシールの軸線方向に沿った片側断面図である。
【図6】図6は、小さな閉鎖容積からの粒子の押出しを示す、環状リップシールの軸線方向に沿った片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至図4は、ブレーキマスターシリンダの本体4内で軸線方向に摺動するピストン2を取り囲む環状シール1を示す。
環状シール1は、ブレーキマスターシリンダの本体4の環状ハウジング6に取り付けられており、外側リップ部10と、内側リップ部14とを備えている。外側リップ部10の端部は、静的シールを提供するため、このハウジングの円筒形の外壁に半径方向に、押し付けられている(すなわち、圧接されている)。内側リップ部14の端部は、ピストン2の外面に半径方向に押し付けられており、このピストンの摺動時に動的シールを提供する。
【0019】
環状シール1は、実質的に平らな後面を備えており、環状シール1の平らな後面は、環状ハウジング6の、半径方向に延びる平らな後面に押し付けられる。
環状シール1は、更に、外側リップ部10と内側リップ部14との間の半径方向中間に、軸線方向に延びるリップ部12を備えている。このリップ部12は、実質的に軸線方向に差し向けられており(すなわち、案内されており)、このリップ部12の端部は、ハウジングの前面及び後面の二つの面の間でこのシールが軸線方向で楔の作用をなすように、環状ハウジング6の実質的に半径方向に延びる前面に押し付けられている。
【0020】
環状シール1は、半径方向外方に延びる小さな半径方向リップ部16を更に備えている。このリップ部16は、環状シール1の後面を延長し、環状ハウジング6の後面に押し付けられる。かくして、ハウジング6の円筒形の外壁の下に、外側リップ部10と半径方向リップ部16との間に小さな容積Vが形成される。
【0021】
半径方向リップ部16は、外側リップ部10の作用を補助するように作用する。これは、半径方向リップ部16を第2シーリング障壁として直列に配置して、環状シール1と本体4との間の静的シールを強化するためである。
【0022】
ピストン2が後休止位置にあるとき、内側リップ部14はピストン2の溝20内に落ち込んでいる。この溝は浅く、その側壁が小さな角度で傾斜している。この溝20の後壁には、半径方向に延びる穿孔(例えば、ドリル穴)22が形成されている。この穿孔は、第1に、内側リップ部14の後側に対して開放しており、第2にマスターシリンダの圧力チャンバ24内に開放している。
【0023】
かくして、半径方向穿孔22は、運転者がブレーキペダルを離し、この図に示す休止位置にある場合、液圧回路内のレベルを調節するため、圧力チャンバ24を液体のリザーバと連通する。
【0024】
本発明による環状シール1の作動方法を図2、図3、及び図4に示す。制動時にピストン2が前方への移動を開始したとき、図2に示すように、環状シール1の内側リップ部14は、溝20の後方の傾斜に沿って摺動し、徐々に半径方向外方に持ち上がる。
【0025】
この持ち上がり移動により、環状シール1の弾性材料が半径方向外方に圧縮され、これにより、液体で充填された小さな容積Vが圧縮される。この容積V内の液体の圧縮により、第1に、半径方向リップ部16が環状ハウジング6の後壁に更にしっかりと押し付けられ、第2に、ほぼ所定の圧力で又はこの圧力を越えたとき、外側リップ部10が移動でき、かくして、図3に示すように、この容積が少なくとも部分的に空になる。
【0026】
ひとたびこの容積が少なくとも部分的に空になった後、その内部の圧力が低下し、
逆止弁と同様に作動する外側リップ部10が、図4に示すように、ハウジングの底部に再び押し付けられ、容積Vを再び閉鎖する。
【0027】
制動の終了時に、ペダルがその休止位置に戻るに従って、内側リップ部14が溝20に再び落ち込み、シールの材料内の圧力が減少し、容積Vが再び増大し、内部圧力が減少し、これにより、半径方向リップ部16が移動する。この半径方向リップ部の移動によって、液体が容積V内に吸い込まれ、容積Vが再び充填される。
【0028】
かくして各制動サイクルで、少量の流体の移動が発生し、この流体が容積Vから前方に連続的に押しやられ、後方から吸引される。
図5及び図6は、環状シール1の外側リップ部10の下に入り込んで引っ掛かった粒子30に流体のこの移動が及ぼす効果を示す。
【0029】
容積Vが空になるとき、液体が粒子30をその前方への移動に従って搬送する。各制動サイクル時に外側リップ部10とハウジングの底部との間の接触領域を系統的にクリーニングできる。このことは、半径方向リップ部16についてもいえることであり、流体が通過する効果によりクリーニングが行われる。
【0030】
動的シールを提供する内側リップ部14に関し、各制動サイクルでのピストン2の移動がこのリップ部上での摺動に影響を及ぼし、常に粒子の除去を行う。
かくして、ブレーキ流体に粒子が懸濁している場合でも、長期に亘り良好なシールが経済的に得られることが保証される。
【符号の説明】
【0031】
1 環状シール
2 ピストン
4 ブレーキマスターシリンダ本体
6 環状ハウジング
10 外側リップ部
12 軸線方向リップ部
14 内側リップ部
16 半径方向リップ部
20 溝
22 半径方向穿孔(半径方向ドリル穴)
24 圧力チャンバ
V 容積部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に自動車用の液圧式制動回路用のマスターシリンダであって、
本体(4)内で軸線方向に摺動するピストン(2)を備え、このピストンは、前記本体(4)のハウジング(6)に配置された環状シール(1)と協働しており、
前記環状シール(1)は、
前記ピストンを取り囲み、また、前記ピストンが後休止位置にある場合に前記ピストンの環状溝(20)に嵌着する動的な封止用の内側リップ部(14)と、
前記ハウジングの壁に押し付けられる静的な封止用の外側リップ部(10)とを備えた、マスターシリンダにおいて、
前記環状シール(1)は、追加の静的な封止用のリップ部(16)を備え、この静的な封止用のリップ部(16)は、当該環状シールの前記ハウジングの半径方向に沿った壁に押し付けられ、前記外側リップ部とともに液体の小さな閉鎖容積(V)を形成する、ことを特徴とするマスターシリンダ。
【請求項2】
請求項1に記載のマスターシリンダにおいて、
前記ピストン(2)がその後休止位置から離れるとき、前記内側リップ部(14)は前記環状溝(20)から離れ、
前記環状シール(1)は、前記小さな容積(V)を圧縮して前記液体をこの容積の外に押し出すための手段を備える、ことを特徴とするマスターシリンダ。
【請求項3】
請求項2に記載のマスターシリンダにおいて、
前記外側リップ部(10)は、前記小さな容積(V)内の圧力が上昇した場合に開放する逆止弁を形成するように、僅かな傾斜により前記ハウジングの前記壁に押し付けられた状態で位置決めされる、ことを特徴とするマスターシリンダ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のマスターシリンダにおいて、
前記追加のリップ部(16)は、僅かな傾斜により前記ハウジングの壁に押し付けられた状態で位置決めされており、前記小さな容積(V)内の圧力が低下した場合に開放する逆止弁を形成する、ことを特徴とするマスターシリンダ。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のマスターシリンダにおいて、
前記外側リップ部(10)は、実質的に軸線方向に延びており、前記ハウジング(6)の円筒形の半径方向外面に押し付けられており、
前記追加のリップ部(16)は、実質的に半径方向に延びており、このハウジングの、半径方向に延びる平らな後面に押し付けられている、ことを特徴とするマスターシリンダ。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載のマスターシリンダにおいて、
前記環状シール(1)は、前記外側リップ部(10)と前記内側リップ部(14)との間の半径方向中間に軸線方向リップ部(12)を備え、
この軸線方向リップ部(12)は、実質的に軸線方向に差し向けられており、その端部は、前記環状ハウジング(6)の実質的に半径方向に延びる前面に押し付けられている、ことを特徴とするマスターシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−143571(P2010−143571A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−286241(P2009−286241)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】