説明

自動車のルーフ部構造

【課題】必ずしも吸音材を必要としない簡単な構造でありながら騒音を効果的に抑制することができるルーフ部構造を提供する。
【解決手段】両側面パネル30とルーフ8のアウターパネル10との各接続部に、それぞれ相対的に剛性の高い第1高剛性部16が設けられた自動車のルーフ部構造であって、アウターパネル10の、両第1高剛性部16の間に設けられ、相対的に剛性の高い複数の第2高剛性部17と、アウターパネル10内において、第1高剛性部16と第2高剛性部17との間および各第2高剛性部17間に介在し、第1高剛性部16および第2高剛性部17よりも剛性が低く、かつその総面積が第2高剛性部17の総面積より小さい低剛性部19とを備え、第2高剛性部17のうちの少なくとも2つが、60Hz乃至800Hzの間で互いに異なる固有振動数を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のルーフ部の構造に関し、特に車室内の騒音を抑制し得る自動車のルーフ部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車室内騒音(以下単に騒音ともいう)の抑制にはさまざまな方策が採られているが、その方策のひとつとして、ルーフ(屋根)部の構造を工夫することによって騒音の抑制を図るものが知られている。例えば特許文献1には、ルーフに吸音材と反射板とを交互に設置することにより、高周波域の吸音性能に優れた吸音材を用いながらも低周波域の吸音性能を向上し、250Hz付近のロードノイズを低減するルーフ構造が示されている。
【特許文献1】特開2005−247267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、近年の自動車における乗員の快適性向上要求は高く、一方ではコスト低減要求も高くなる一途である。上記特許文献1に示されるものは比較的簡単な構造ではあるが、少なくとも吸音材や反射板の設置が必要であり、必ずしも上記要求を充分満足するものではなかった。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑み、必ずしも吸音材を必要としない簡単な構造でありながら騒音を効果的に抑制することができるルーフ部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、両側面パネルとルーフのアウターパネルとの各接続部に、それぞれ相対的に剛性の高い第1高剛性部が設けられた自動車のルーフ部構造であって、上記アウターパネルの、上記両第1高剛性部の間に設けられ、相対的に剛性の高い複数の第2高剛性部と、上記アウターパネル内において、上記第1高剛性部と上記第2高剛性部との間および各上記第2高剛性部間に介在し、上記第1高剛性部および上記第2高剛性部よりも剛性が低く、かつその総面積が上記第2高剛性部の総面積より小さい低剛性部とを備え、上記第2高剛性部のうちの少なくとも2つが、60Hz乃至800Hzの間で互いに異なる固有振動数を有するように構成されていることを特徴とする。
【0006】
上記構成において、第2高剛性部が3つ以上あっても良い。その場合、固有振動数の重複があっても良い。すなわち、互いに異なる固有振動数を有する少なくとも2つの第2高剛性部があり、且つ互いに等しい固有振動数を有する少なくとも2つの第2高剛性部があるように構成しても良い。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の自動車のルーフ部構造において、上記第1高剛性部は、上記アウターパネルの車幅方向両縁部と、車両側面上部との接続部に設けられた、車両前後方向に延設されたレインフォースメントによって形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の自動車のルーフ部構造において、上記第1高剛性部は、上記アウターパネルの車幅方向両縁部に車両前後方向に延設された剛性の高い部位であり、弾性部材を介して車体本体部にマウントされていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記第2高剛性部の、互いに異なる固有振動数を有するものは互いに異なる面積であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の自動車のルーフ部構造において、上記第2高剛性部の、互いに異なる固有振動数を有するものは互いに非相似形であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記アウターパネルは、板厚の大なる部位に上記第2高剛性部が形成され、板厚の小なる部位に上記低剛性部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記アウターパネルは、金属製で略同一板厚の展伸材からプレス成形されたものであり、プレスラインの設定により、上記第2高剛性部と上記低剛性部とが設定し分けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記アウターパネルは、略同一板厚のベース部材に、別部材を付設した部位を上記第2高剛性部となし、付設されない部位を上記低剛性部となすことを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は矩形であり、その短辺の長さが400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする。
【0015】
なお、矩形には正方形を含み、その場合の短辺とは正方形の一辺を指すものとする。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は矩形を除く四角形以上の多角形であり、その最短の対角線の長さが400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする。
【0017】
なお、請求項9または請求項10における多角形には、角の丸められたものも含み、その場合の短辺あるいは対角線は、角の丸められていない状態におけるものを指すものとする。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は円または楕円であり、その直径または短径が400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする。
【0019】
請求項12に係る発明は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は、四角形以上の多角形でも円でも楕円でもない任意形状であり、これに外接する最小の矩形の短辺の長さが400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によると、以下に述べるように、必ずしも吸音材を必要としない簡単な構造でありながら騒音を効果的に抑制することができる。
【0021】
本発明の構造によると、車幅方向両端に設けられた第1高剛性部の間で、複数の第2高剛性部が、低剛性部に囲まれて島状に点在する形となる。車室内で低周波域の騒音が発生すると、その音のエネルギーによってアウターパネルを振動させようとする。第2高剛性部は、それ自体の剛性が高いので膜振動を起こしにくいが、周囲を低剛性部で囲まれているので、位置拘束力が比較的弱く、低剛性部を節として全体的に上下振動を起こす。
【0022】
本発明の発明者は、鋭意研究によって、このようにアウターパネルの第2高剛性部を積極的に大きく振動させると、車室内の騒音低減に顕著な効果があることを見出した。これは、第2高剛性部が大きく振動することにより、車室内の騒音のエネルギーが効率良く車外に放出されたり、車室内の騒音が第2高剛性部自体を振動させるための運動エネルギーに効率良く変換されたりするためであると考えられる。
【0023】
第2高剛性部が大きく振動するのは、騒音の周波数が第2高剛性部の固有振動数付近にあるとき、つまり騒音に共振するときである。この共振点において、第2高剛性部の振動による騒音低減効果が極大(ピーク)となる。本発明の構成では、第2高剛性部のうちの少なくとも2つの固有振動数が異なっているので、騒音低減効果がピークとなる共振点が複数存在することになる。
【0024】
本発明は、第2高剛性部の固有振動数が60〜800Hzの間(より好ましくは60〜500Hzの間)にあるように構成されているので、この周波数域の騒音低減に好適である。例えば、上記範囲内の複数の周波数域の騒音を特に低減させたいという要求がある場合、複数の第2高剛性部の固有振動数を狙いの周波数とそれぞれ等しくするように構成すれば良い。また、ある程度幅のある周波数域での騒音を全体的に低減させたい場合には、その周波数域を細分化し、細分化した周波数域のそれぞれに共振点を有する複数の第2高剛性部を設けるようにすれば良い。
【0025】
一方、800Hzより高周波の車外騒音に対して、第2高剛性部は、その固有振動数から外れているので振動し難い。つまり車外騒音を車室内に伝達し難いので、遮音性が良好に維持される。第2高剛性部の周囲に設けられた低剛性部が振動し易いのではないかとの懸念があるが、本発明の構成によると、低剛性部の総面積を第2高剛性部の総面積よりも小さくしているので、その影響は小さい。しかも、低剛性部は第2高剛性部を取り囲むように設けられているので、その形状は必然的に面積の割に振動しにくい帯状となる。したがって、実際には低剛性部も高周波の車外騒音に対して振動し難く、良好な遮音性の維持を妨げるものとはならない。
【0026】
より充分な遮音性を確保するためには、低剛性部の幅(隣り合う第2高剛性部間の距離)が、第2高剛性部の振動を妨げない範囲で狭い方が望ましい。例えば100mm以下、望ましくは10mm程度が好適である。
【0027】
また本発明の構成によれば、両側面パネルとルーフのアウターパネルとの各接続部に、それぞれ相対的に剛性の高い第1高剛性部が設けられ、第2高剛性部や低剛性部が、両第1高剛性部の間に設けられている。このため、第2高剛性部が大きく振動しても、その振動が側面パネルに伝達され難い。したがって、アウターパネルの振動によって新たな騒音が発生することが効果的に抑制される。
【0028】
請求項2の発明によると、レインフォースメントを設けるという簡単な構成で、第1高剛性部を形成することができる。
【0029】
請求項3の発明によると、ルーフのアウターパネルから側面パネルへの振動伝達が、弾性部材によって効果的に抑制される。弾性部材としては、例えばラバーマウント等が好適である。
【0030】
請求項4の発明によると、互いに異なる固有振動数を有するものは互いに異なる面積であるように構成することにより、第2高剛性部の固有振動数を容易に変化させることができる。材質や板厚、あるいは取り囲む低剛性部の状態等が同じであれば、面積が大きいほど固有振動数が小さくなるからである。
【0031】
さらに形状を非相似形とする(請求項5)と、相似形で面積が異なる第2高剛性部を配置するよりも固有振動数に変化をつけ易くなる。また、第2高剛性部の配置自由度が高められるので、低剛性部の幅や総面積の調整を行い易くなる。
【0032】
請求項6の発明によると、板厚を変化させるという簡単な構造で第2高剛性部と低剛性部とを構成することができる。
【0033】
請求項7の発明によると、平板をプレス成形するだけで容易に第2高剛性部と低剛性部とを構成することができる。
【0034】
請求項8の発明によると、別部材の形状や付設位置を変えるだけで、容易に第2高剛性部の形状やその配置パターンを変更することができる。つまり第2高剛性部の設定自由度を高めることができる。また数種類のレインフォースメントを準備し、その組み合わせや配置パターンを変更するだけで多様な第2高剛性部の形態を容易に構成することができる。
【0035】
さらに、付設する別部材を制振材とした場合には、上記振動形態による騒音低減効果に加え、制振材(別部材)自体による制振作用によっても騒音低減効果を得ることができる。
【0036】
請求項9乃至12の発明によると、鉄鋼製の最小固有振動数を有する第2高剛性部を四角形以上の多角形(請求項9、10)、円または楕円(請求項11)、これら以外の任意形状(請求項12)とした場合に、それらの短辺、最短の対角線、直径、短径あるいは外接する最小の矩形の短辺を400〜600mmとすることにより、特に低周波のこもり音(例えば60〜100Hz付近)を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0038】
図1は本発明の第1実施形態に係るルーフ部構造を有する自動車の平面図である。また図2は図1のII−II線断面図である。自動車1のルーフ8は、主として車外側のアウターパネル10と車室内側のインナーパネル(図略)とで構成されている。
【0039】
アウターパネル10の車幅方向両縁付近には車両前後方向に延びる縁部14が形成されている。図2に示すように、縁部14の断面形状は、やや外側に凸なる湾曲形状である。一方、縁部14の内側には車両前後方向に延びるレインフォースメント15が設けられている。レインフォースメント15の断面形状は、やや内側に凸なる湾曲形状である。そして縁部14とレインフォースメント15とによって、剛性の高い閉断面形状を有する第1高剛性部16が形成されている。
【0040】
また図1に示すように、ルーフ8の前後両縁付近には、左右の第1高剛性部16の前端同士および後端同士をそれぞれ接続する剛性部材としてクロスメンバ21,22が設けられている。
【0041】
アウターパネル10は鋼板製であり、各第1高剛性部16およびクロスメンバ21,22に囲まれた領域は、板厚の比較的厚い第2高剛性部17と、比較的薄い低剛性部19とに設定し分けられている。第2高剛性部17は、詳しくは平面投影形状で5種類の矩形形状に分類される9個の第2高剛性部171,172,173,174,175,176,177,178,179からなる。そのうち、面積最大の第2高剛性部171は、その短辺長さL1=400〜600mm程度とされている。長辺長さL2は、例えば短辺長さL1=400mmのとき、600mm程度とされる。但し第2高剛性部17の数、大きさ、縦横比、配置形態等は、ルーフ8の面積や、狙いの騒音の周波数(詳細は後述する)に応じて適宜変更して良い。
【0042】
低剛性部19は、第1高剛性部16やクロスメンバ21,22と各第2高剛性部17との間に設けられ、また各第2高剛性部17間にも設けられている。したがって、各第2高剛性部17は、低剛性部19に囲まれて島状に点在するように配置されている。低剛性部19の幅、すなわち第1高剛性部16やクロスメンバ21,22と第2高剛性部17との距離、および各第2高剛性部17間の距離は100mm以下、好ましくは10mm程度に設定されている。低剛性部19の総面積は第2高剛性部17の総面積よりも充分小さい。
【0043】
また各第2高剛性部17の配置は、低剛性部19の形状に長い直線部がなく、ジグザグ形状となるような配置、すなわちオフセット配置となっている。
【0044】
上記のような第2高剛性部17と低剛性部19とによって、各第2高剛性部17の固有振動数は、60〜800Hzの間に、5つ(固有振動数F1,F2,F3,F4,F5)存在するように構成されている。例えば固有振動数F1≒80Hz、固有振動数F2≒200Hz、固有振動数F3≒300Hz、固有振動数F4≒400Hz、固有振動数F5≒500Hzである。最小の固有振動数F1は、面積最大の第2高剛性部171によるものである。
【0045】
第2高剛性部17には、互いに非相似形のものが含まれている。そのため、単に相似形で面積のみ異なる場合よりも、より固有振動数に変化を付け易くなっている。また第2高剛性部17をオフセット配置しつつ、低剛性部19の面積や幅を容易に調整することができる。すなわち第2高剛性部17の配置自由度をより高めることができる。
【0046】
次に、当実施形態のルーフ部構造の作用について説明する。車室内で騒音が発生すると、その音のエネルギーによってアウターパネル10が振動する。図2に、その振動形態を模式的に波形40で示す。第2高剛性部17(図2に示す断面図では第2高剛性部177と第2高剛性部172の断面が示されている)は、それ自体の剛性が高いので膜振動を起こしにくい。しかし周囲を低剛性部19で囲まれているので、位置拘束力が比較的弱い。従って波形40に示すように、低剛性部19を節として全体的に上下振動を起こす。
【0047】
各第2高剛性部17が最も大きく振動するのは、騒音の周波数が各第2高剛性部17の各固有振動数F1,F2,F3,F4,F5とそれぞれ一致したとき、つまり騒音と共振したときである。以下、各固有振動数F1,F2,F3,F4,F5をそれぞれ共振点F1,F2,F3,F4,F5ともいうものとする。
【0048】
図3はアウターパネル10の振動特性T2を示す特性図である。横軸に騒音の周波数Fを、縦軸に振動レベルVを示す。この図に示すように、騒音の周波数Fが各共振点F1,F2,F3,F4,F5付近にあるとき、アウターパネル10の振動特性T2に振動レベルVのピークが見られる。これは、各共振点F1,F2,F3,F4,F5付近で、それぞれに対応する固有振動数F1,F2,F3,F4,F5を有する第2高剛性部17が大きく振動するからである。
【0049】
アウターパネル10がこのように振動することにより、車室内の騒音は低減する。特に各共振点F1,F2,F3,F4,F5付近の周波数域での騒音低減効果が高い。これは、各第2高剛性部17がそれぞれの共振点F1,F2,F3,F4,F5で大きく振動することにより、車室内の騒音のエネルギーが効率良く車外に放出されたり、車室内の騒音が第2高剛性部17自体を振動させるための運動エネルギーに効率良く変換されたりするためであると考えられる。
【0050】
当実施形態では、5つの共振点F1,F2,F3,F4,F5が80〜500Hzの範囲で略等間隔に分散しているので、当該周波数域内で、5つのピークを有しつつも全体的に高い振動レベルVを示している。この場合、80〜500Hzの周波数域全体において、平均的に高い騒音抑制効果を得ることができる。
【0051】
一方、800Hzより高周波の車外騒音に対して、各第2高剛性部17は、各固有振動数F1,F2,F3,F4,F5から外れているので振動し難い。つまり車外騒音を車室内に伝達し難いので、遮音性が良好に維持される。各第2高剛性部17の周囲に設けられた低剛性部19が振動し易いのではないかとの懸念があるが、低剛性部19の総面積が第2高剛性部17の総面積よりも小さいので、その影響は小さい。しかも、低剛性部19は各第2高剛性部17を取り囲むように帯状に設けられているので、面積の割に振動し難くなっている。さらに各第2高剛性部17がオフセット配置されていることも相俟って、実際には低剛性部も高周波の車外騒音に対して振動し難く、良好な遮音性の維持を妨げるものとはならない。
【0052】
さらに、アウターパネル10が第1高剛性部16やクロスメンバ21,22に囲まれて支持剛性が高められているので、アウターパネル10の振動が側面パネル30や前後のウインドゥ面に伝達され難い。したがって、アウターパネル10の振動によって新たな騒音が発生することが効果的に抑制されている。
【0053】
図4は本発明の第2実施形態における、図1のII−II線に相当する位置での断面図である。なお、図4以下の図面において、図1〜図3に示す第1実施形態の構成と同一または同一機能の構成には同一の符号を付し、その重複説明を省略する。
【0054】
当実施形態のアウターパネル10aも第1実施形態と同様に鋼板製であり、アウターパネル10aの車幅方向両縁付近には車両前後方向に延びる縁部14aが形成されている。しかしレインフォースメント15(図2参照)は設けられておらず、縁部14a自体が第1高剛性部16aとなっている。
【0055】
一方、側面パネル30aの上端付近に、車両前後方向に延設されて閉断面形状を有する高剛性のフレーム31が設けられている。アウターパネル10aの縁部14aは、ラバーマウント等の弾性部材32によってフレーム31にマウントされている。
【0056】
このような構成なので、フレーム31によってアウターパネル10aの支持剛性が高められる一方、アウターパネル10aから側面パネル30aへの振動が弾性部材32によって効果的に遮断される。したがって、騒音を抑制するためのアウターパネル10aの振動が側面パネル30aに伝達され難く、新たな騒音が発生することが効果的に抑制される。
【0057】
図5は本発明の第3〜第6実施形態における、図1のII−II線に相当する位置での断面図(但し第1高剛性部16を除く)であって、(a)は第3実施形態、(b)は第4実施形態、(c)は第5実施形態、(d)は第6実施形態を示す。
【0058】
図5(a)に示す第3実施形態のアウターパネル10bは、同一板厚の鋼製展伸材をプレス成形したものである。アウターパネル10bにおいて、車幅方向に延びる凸部と凹部とが交互に縞状に配された第2高剛性部17bが形成される一方、平坦面によって低剛性部19bが形成されている。図5(a)では、第2高剛性部17bの断面として第2高剛性部177bおよび第2高剛性部172bが示されているが、その断面形状も含め、平面形状や平面投影面積を変化させることによって互いの固有振動数の相違を創出している。
【0059】
当実施形態に示すように、プレスラインの設定により第2高剛性部17bと低剛性部19bとを設定し分けるようにすれば、平板をプレス成形するだけでアウターパネル10bを製造することができるので、工程の簡略化や材料のコストダウンを図ることができる。
【0060】
図5(b)に示す第4実施形態も、第3実施形態と同様、プレスラインの設定により第2高剛性部17cと低剛性部19cとを設定し分けたものである。アウターパネル10cは、上に凸なる湾曲形状によって剛性の高められた第2高剛性部17cと、平坦な低剛性部19cとで構成されている。図5(b)では、第2高剛性部17cの断面として第2高剛性部177cおよび第2高剛性部172cが示されているが、その断面形状も含め、平面形状や平面投影面積を変化させることによって互いの固有振動数の相違を創出している。
【0061】
図5(c)に示す第5実施形態のアウターパネル10dは、同一板厚の鋼板製ベース部材11dに、別部材のレインフォースメント25を付設したものである。レインフォースメント25が付設された部位が第2高剛性部17dとなり、付設されない部位が低剛性部19dとなっている。レインフォースメント25は車幅方向に延びる折り曲げ板状部材であって、ベース部材11dの内側に付設されて閉断面構造を形成する。
【0062】
図5(c)では、第2高剛性部17dの断面として第2高剛性部177dおよび第2高剛性部172dが示されている。またレインフォースメント25として、第2高剛性部177dに設けられるレインフォースメント25aと、第2高剛性部172dに設けられるレインフォースメント25bの各断面が示されている。レインフォースメント25a,25bは、それぞれが設けられる第2高剛性部177d,172dの平面投影面積に対応した形状となっている。このように、レインフォースメント25の断面形状も含め、平面形状や平面投影面積を変化させることによって各第2高剛性部17cの固有振動数の相違を創出している。
【0063】
このレインフォースメント25のような別部材を付設するようにした場合、各第2高剛性部17dの設定自由度を容易に高めることができる。例えば、機種ごとにアウターパネル10dの面積や狙いの固有振動数が異なる場合、数種類のレインフォースメント25を機種に応じた数や配置パターンに調整して付設するようなことができる。つまり数種類のレインフォースメント25を準備し、その組み合わせや配置パターンを変更するだけで多様な第2高剛性部17dの形態を容易に構成することができる。
【0064】
図5(d)に示す第6実施形態のアウターパネル10eも、同一板厚の鋼板製ベース部材11eに、別部材の制振材26を付設したものである。制振材26が付設された部位が第2高剛性部17eとなり、付設されない部位が低剛性部19eとなっている。制振材26は例えばいわゆる拘束型や塗布型といった、振動抑制作用を有する公知の部材である。
【0065】
図5(d)では、第2高剛性部17eの断面として第2高剛性部177eおよび第2高剛性部172eが示されている。また制振材26として、第2高剛性部177eに設けられる制振材26aと、第2高剛性部172eに設けられる制振材26bの各断面が示されている。当実施形態では、各制振材26の形状や面積の相違によって各第2高剛性部17eの固有振動数の相違を創出しているが、さらに各制振材26の厚みを変化させるようにしても良い。
【0066】
制振材26は、その形状や厚みを容易に変更することができるので、第2高剛性部17eの形状や配置パターンの設定自由度を一層高めることができる。
【0067】
またアウターパネル10eは、その振動形態による騒音低減効果に加え、制振材26自体による制振作用によっても騒音低減効果を得ることができる。
【0068】
図6は本発明の第7〜第10実施形態における、第2高剛性部の配置パターンを示す図であって、(a)は第7実施形態、(b)は第8実施形態、(c)は第9実施形態、(d)は第10実施形態を示す。第7〜第10実施形態は、それぞれ上記第2〜第6実施形態の何れにも適用可能なものである。
【0069】
図6(a)に示す第7実施形態のアウターパネル10fは、角を丸めた矩形の第2高剛性部17fを11箇所に配置し、その間に低剛性部19fを設けたパターンを有する。各第2高剛性部17fは、それぞれ形状や面積に応じた固有の固有振動数を有する。縦横比の相違によっても影響を受けるが、他の条件が同じであれば、一般的に面積が大なるほど固有振動数が小さくなる。当実施形態では、第2高剛性部171fが最小固有振動数F1を有する。第2高剛性部171fは、その狙いの共振点F1が低いほど短辺長さL5を長くすれば良い。例えばアウターパネル10fが鋼板製で狙いの共振点F1=60〜100Hzの場合、L5=400〜600mm程度とするのが好適である。
【0070】
また、当実施形態でも第2高剛性部17がオフセット配置されている。すなわち低剛性部19fの形状には長い直線部がなく、ジグザグ形状となっている。これにより第1実施形態と同様、より騒音低減効果が高められている(以下の図6(b)、(c)、(d)も同様)。
【0071】
当実施形態において、配置パターンを適宜拡張或いは減縮して第2高剛性部17fの数を増減させても良い。またこの変形例として、矩形に代えて平行四辺形、台形、その他任意形状の四角形に変形させても良い。その場合は長さL5の対象を、最短の(長くない方の)対角線とすれば良い。
【0072】
図6(b)に示す第8実施形態のアウターパネル10gは、非相似形を含む大小の菱形を9箇所、任意の四角形を4箇所、合計13箇所に第2高剛性部17gをオフセット配置し、その間に低剛性部19gを設けたパターンを有する。各第2高剛性部17gは、それぞれ形状や面積に応じた固有の固有振動数を有する。形状によっても影響を受けるが、他の条件が同じであれば、一般的に面積が大なるほど固有振動数が小さくなる。当実施形態では、第2高剛性部171gが最小固有振動数F1を有する。第2高剛性部171gは、その狙いの共振点F1が低いほど最小対角線長さL6を長くすれば良い。例えばアウターパネル10gが鋼板製で狙いの共振点F1=60〜100Hzの場合、L6=400〜600mm程度とするのが好適である。
【0073】
当実施形態において、配置パターンを適宜拡張或いは減縮して第2高剛性部17gの数を増減させても良い。またこの変形例として、菱形の第2高剛性部17gを、短径長さL6の楕円や長円に変形させても良い。
【0074】
図6(c)に示すように、第9実施形態のアウターパネル10hは、非相似形を含む大小の六角形を11箇所、円形を8箇所、合計19箇所に第2高剛性部17hをオフセット配置し、その間に低剛性部19hを設けたパターンを有する。各第2高剛性部17hは、それぞれ形状や面積に応じた固有の固有振動数を有する。形状の相違によっても影響を受けるが、他の条件が同じであれば、一般的に面積が大なるほど固有振動数が小さくなる。当実施形態では、第2高剛性部171hが最小固有振動数F1を有する。第2高剛性部171hは、その狙いの共振点F1が低いほど短軸長さ(長くない方の対角線長さ)L7を長くすれば良い。例えばアウターパネル10hが鋼板製で狙いの共振点F1=60〜100Hzの場合、L7=400〜600mm程度とするのが好適である。
【0075】
当実施形態において、配置パターンを適宜拡張或いは減縮して第2高剛性部17hの数を増減させても良い。またこの変形例として、六角形や円以外の五角形や七角形以上の多角形としても良い。それらの場合、長さL7の対象を、多角形に対しては最短の対角線、円に対しては直径とすれば良い。
【0076】
図6(d)に示す第10実施形態のアウターパネル10iは、2つの円または楕円を円弧で繋いだような非相似形を含む大小の瓢箪形の第2高剛性部17iを8箇所にオフセット配置し、その間に低剛性部19iを設けたパターンを有する。各第2高剛性部17iは、それぞれ形状や面積に応じた固有の固有振動数を有する。形状の相違によっても影響を受けるが、他の条件が同じであれば、一般的に面積が大なるほど固有振動数が小さくなる。当実施形態では、第2高剛性部171iが最小固有振動数F1を有する。第2高剛性部171iは、その狙いの共振点F1が低いほど長さL8(第2高剛性部171iの瓢箪形に外接する最小の矩形の短辺長さに相当する)を長くすれば良い。例えばアウターパネル10iが鋼板製で狙いの共振点F1=60〜100Hzの場合、L8=400〜600mm程度とするのが好適である。
【0077】
当実施形態において、配置パターンを適宜拡張或いは減縮して第2高剛性部17iの数を増減させても良い。またこの変形例として、四角形以上の多角形でも円でも楕円でもない任意の形状(三角形を含む)に変形させても良い。その場合、長さL8の対象を特定し難いときは、当該形状に外接する最小の矩形(正方形を含む)の短辺を長さL8の対象とすれば良い。
【0078】
図7は本発明の第11実施形態における、図1のII−II線に相当する位置での断面図である。アウターパネル10jは、主に樹脂製で中空の薄板からなる外板部28と、その中空部に内蔵された吸音層29とで構成されている。吸音層29には公知の吸音材が用いられる。アウターパネル10jの上面は、板厚の厚い箇所と薄い箇所とに設定し分けられ、厚い箇所には第1高剛性部16jと第2高剛性部17j(当該断面においては第2高剛性部177jおよび172jが示されている)が、薄い箇所には低剛性部19jが形成されている。第1高剛性部16jは、図1に示す第1実施形態の第1高剛性部16と同様に、アウターパネル10jの車幅方向両縁付近において車両前後方向に延設されている。また第2高剛性部17jおよび低剛性部19jは、上記第1または第7乃至第10実施形態で示す配置パターンの何れかのパターンで両第1高剛性部16jの間に配置されている。
【0079】
このような構成とすることにより、樹脂製で軽量なアウターパネル10jとなすことができる。また、その振動形態による騒音低減効果に加え、吸音層29を内蔵することによって、吸音層29自体による騒音低減効果を得ることができる。
【0080】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、アウターパネル10は鉄鋼や樹脂以外の材質、例えばアルミニウム合金等であっても良い。
【0081】
上記第1実施形態では、80〜500Hzの間に、略均等に5つの共振点F1,F2,F3,F4,F5が存在するような第2高剛性部17としたが、この範囲は60〜800Hzの間で適宜拡縮して良い。
【0082】
また、特に低減要求のある固有の周波数を有する騒音に狙いを定めて第2高剛性部を設定しても良い。例えば60〜100Hz付近のこもり音と、160Hz付近および250Hz付近のロードノイズが問題であるとき、固有振動数F1=80Hz、F2=160Hz、F3=250Hzとなるように第2高剛性部の固有振動数を設定すると、これらの騒音を重点的かつ一挙に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態に係るルーフ部構造を有する自動車の平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】騒音の周波数とアウターパネルの振動レベルとの関係を示す特性図である。
【図4】本発明の第2実施形態における、図1のII−II線に相当する位置での断面図である。
【図5】本発明の第3〜第6実施形態における、図1のII−II線に相当する位置での断面図であって、(a)は第3実施形態、(b)は第4実施形態、(c)は第5実施形態、(d)は第6実施形態を示す。
【図6】本発明の第7〜第10実施形態における、第2高剛性部の配置パターンを示す図であって、(a)は第7実施形態、(b)は第8実施形態、(c)は第9実施形態、(d)は第10実施形態を示す。
【図7】本発明の第11実施形態における、図1のII−II線に相当する位置での断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 自動車
8 ルーフ
10,10a〜10j アウターパネル
11d,11e ベース部材
15 レインフォースメント
16,16a,16j 第1高剛性部
17,17b〜17j 第2高剛性部
19,19b〜19j 低剛性部
25 レインフォースメント(ベース部材に付設される別部材)
26 制振材(ベース部材に付設される別部材)
30,30a 側面パネル
32 弾性部材
171,171f〜171i 最小固有振動数を有する第2高剛性部
F1〜F5 第2高剛性部の固有振動数
L1,L5 最小固有振動数を有する矩形状第2高剛性部の短辺長さ
L6 最小固有振動数を有する菱形状第2高剛性部の最短の対角線長さ
L7 最小固有振動数を有する六角形状第2高剛性部の最短の対角線長さ
L8 最小固有振動数を有する任意形状の第2高剛性部に外接する矩形の短辺長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側面パネルとルーフのアウターパネルとの各接続部に、それぞれ相対的に剛性の高い第1高剛性部が設けられた自動車のルーフ部構造であって、
上記アウターパネルの、上記両第1高剛性部の間に設けられ、相対的に剛性の高い複数の第2高剛性部と、
上記アウターパネル内において、上記第1高剛性部と上記第2高剛性部との間および各上記第2高剛性部間に介在し、上記第1高剛性部および上記第2高剛性部よりも剛性が低く、かつその総面積が上記第2高剛性部の総面積より小さい低剛性部とを備え、
上記第2高剛性部のうちの少なくとも2つが、60Hz乃至800Hzの間で互いに異なる固有振動数を有するように構成されていることを特徴とする自動車のルーフ部構造。
【請求項2】
上記第1高剛性部は、上記アウターパネルの車幅方向両縁部と、車両側面上部との接続部に設けられた、車両前後方向に延設されたレインフォースメントによって形成されていることを特徴とする請求項1記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項3】
上記第1高剛性部は、上記アウターパネルの車幅方向両縁部に車両前後方向に延設された剛性の高い部位であり、弾性部材を介して車体本体部にマウントされていることを特徴とする請求項1記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項4】
上記第2高剛性部の、互いに異なる固有振動数を有するものは互いに異なる面積であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項5】
上記第2高剛性部の、互いに異なる固有振動数を有するものは互いに非相似形であることを特徴とする請求項4記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項6】
上記アウターパネルは、板厚の大なる部位に上記第2高剛性部が形成され、板厚の小なる部位に上記低剛性部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項7】
上記アウターパネルは、金属製で略同一板厚の展伸材からプレス成形されたものであり、プレスラインの設定により、上記第2高剛性部と上記低剛性部とが設定し分けられていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項8】
上記アウターパネルは、略同一板厚のベース部材に、別部材を付設した部位を上記第2高剛性部となし、付設されない部位を上記低剛性部となすことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項9】
上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は矩形であり、その短辺の長さが400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項10】
上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は矩形を除く四角形以上の多角形であり、その最短の対角線の長さが400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項11】
上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は円または楕円であり、その直径または短径が400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項12】
上記第2高剛性部は鉄鋼製であり、その最小固有振動数を有するものの形状は、四角形以上の多角形でも円でも楕円でもない任意形状であり、これに外接する最小の矩形の短辺の長さが400mm乃至600mmであるような大きさであることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−186091(P2007−186091A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5878(P2006−5878)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】