説明

自動車の前部車体構造

【課題】重量,コストアップを抑制しつつアッパメンバを上方に嵩上げすることにより、入力荷重をフロントピラーの上部に分散させることができる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】アッパメンバ3は、ドアベルトラインリインホース4の上面4aより上方に位置するよう形成された嵩上げ部3aを有し、アッパメンバ3内には、少なくとも嵩上げ部3aの上壁部17aと車内側壁部17bとで車両前後方に延びる独立した第2の閉断面Bを形成するリインホース20が配設され、該リインホース20は、車両前後方向に見たとき、第2の閉断面Bがフロントピラー2に対向するように配置され、かつ上壁部17aに形成されたフードヒンジ取付け座17cに当接するリテーナ部20aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の入力をアッパメンバからフロントピラーを介してドアベルトラインリインホースに伝達するようにした自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、フロントピラーに前方に延びるアッパメンバの後端部を結合するとともに、前記フロントピラーの後方にアッパメンバと略同じ高さとなるようドアベルトラインリインホースを配置することにより、車両衝突の入力をアッパメンバからフロントピラーを介してドアベルトラインリインホースに伝達する構造を採用している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、前記構造の場合、入力荷重の大部分がドアベルトラインリインホースに集中して伝達されることから、該ドアベルトラインリインホースの板厚を大きくする等の強度アップを図るようにしている。しかしながら、このようにするとドア重量が必要以上に重くなるという問題が生じる。
【0004】
このようなドアベルトラインリインホースへの入力荷重の集中を低減するために、アッパメンバの上部をドアベルトラインリインホースより上方に位置するよう嵩上げし、これにより入力荷重の一部をフロントピラーの上部に分散させることが考えられる。この場合、別部品の嵩上げ部材をアッパメンバに追加すると部品点数が増えることから、アッパメンバを上方に拡大することで嵩上げ部を一体に形成することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−347654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記アッパメンバを単に上方に拡大して嵩上げする場合には、入力荷重によりアッパメンバに断面崩れが生じ易くなり、入力荷重を効率よく車体後部に伝達できなくなることが懸念される。このため、アッパメンバの板厚をさらに大きくする等の強度アップを図る必要があり、重量及びコストが増える。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、重量,コストアップを抑制しつつアッパメンバを上方に嵩上げすることにより、入力荷重をフロントピラーの上部に分散させることができる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両上下方向に延びるフロントピラーに車両前後方向に延びる略角筒状の閉断面を有するアッパメンバの後端部を結合するとともに、前記フロントピラーの後方にドアベルトラインリインホースを前記アッパメンバに対向するように配置し、車両衝突時の入力を前記アッパメンバからフロントピラーを介してドアベルトラインリインホースに伝達するようにした自動車の前部車体構造であって、前記アッパメンバは、前記ドアベルトラインリインホースの上面より上方に位置するよう形成された嵩上げ部を有し、前記アッパメンバ内には、少なくとも前記嵩上げ部の上壁部と車内側壁部とで車両前後方向に延びる独立した第2の閉断面を形成するリインホースが配設され、該リインホースは、車両前後方向に見たとき、前記第2の閉断面がフロントピラーに対向するように配置され、かつ前記上壁部に形成されたフードヒンジ取付け座に当接するリテーナ部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る前部車体構造によれば、アッパメンバにドアベルトラインリインホースの上面より上方に位置する嵩上げ部を形成し、アッパメンバ内に少なくとも嵩上げ部の上壁部と車内側壁部とで車両前後方向に延びる独立した第2の閉断面を形成するリインホースを配設し、該リインホースを第2の閉断面がフロントピラーに対向するように配置した。そのためアッパメンバ内に第2の閉断面を形成するためのリインホースを配設するだけの部分的な補強で嵩上げ部の強度を高めることができる。これにより、重量及びコストの上昇を抑制しつつ、入力荷重の一部をフロントピラーの上部に分散させることができ、よってドアベルトラインリインホースへの入力荷重の集中を軽減することができる。
【0010】
また前記リインホースに、アッパメンバに形成されたフードヒンジ取付け座に当接するリテーナ部を形成したので、アッパメンバのフードヒンジ取付け座の剛性,強度をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の側面図である。
【図2】前記前部車体の平面図である。
【図3】前記前部車体の断面図(図2のIII-III線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図3は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、車体に搭載されたシートに着座した状態で見た場合の前後,左右を意味する。
【0014】
図において、1は自動車の前部車体を示している。この前部車体1は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、該左,右のフロントピラー2から車両前方に延びるアッパメンバ3,3と、前記左,右のフロントピラー2の後方に、車両前後方向に見て、前記アッパメンバ3と対向するように配設されたドアベルトラインリインホース4,4とを備えている。
【0015】
前記フロントピラー2の上部にはルーフ部材5が結合され、下部にはフロア部材6が結合されている。このフロントピラー2,ルーフ部材5,フロア部材6及びセンターピラー7によりフロントドア開口1aが形成されている。
【0016】
前記フロントドア開口1aにはフロントドア10が配設され、該フロントドア10はドアヒンジ(不図示)を介して前記フロントピラー2により開閉可能に支持されている。
【0017】
前記フロントドア10は、外装部品のドアアウタ10aとドアインナ10bとを結合してなるドア本体10c内にベルトラインに沿うように前記ドアベルトラインリインホース4を配設した構造を有する。
【0018】
このドアベルトラインリインホース4は、車内側に開口する断面ハット形状のものであり、前記ドアインナ10bに結合され、該ドアインナ10bとで車両前後方向に延びる閉断面を形成している。
【0019】
前記フロントピラー2は、断面ハット形状のピラーアウタ2aとピラーインナ2bとの間に該ピラーアウタ2aに沿うように形成されたピラーリインホース2cを配置し、これらを角筒状の閉断面をなすように結合した構造を有する。
【0020】
前記フロントピラー2内には、バルクヘッド12が前記アッパメンバ3とドアベルトラインリインホース4との間に位置するように配設されている。
【0021】
これにより、車両衝突時の入力Fは、アッパメンバ3からフロントピラー2,バルクヘッド12を介してドアベルトラインリインホース4に伝達され、該ドアベルトラインリインホース4からセンターピラー7を介して車体後部に伝達される。
【0022】
前記左,右のアッパメンバ3の上方にはフード14が配設されている。このフード14は、前記左,右のアッパメンバ3の後端部に配設されたフードヒンジ15,15により開閉可能に支持されている。この左,右のフードヒンジ15は、前記アッパメンバ3に一対のボルト18,18により固定されたヒンジブラケット15aと、前記フード14の後端部にボルト19により固定されたヒンジアーム15bとをヒンジピン15cにより回動可能に連結した構造を有する。なお、図3は、フード14の全開状態を示している。
【0023】
前記左,右のアッパメンバ3は、サイドアウタパネル16とサイドインナパネル17とを結合することにより、前後方向に延びる角筒状の第1の閉断面Aを形成した構造を有する。
【0024】
前記サイドアウタパネル16は、上下方向に延びる車外側壁部16aと該外側壁部16aの下縁から車内側に屈曲して延びる底壁部16bとを有する。
【0025】
前記サイドインナパネル17は、前記車外側壁部16aの外端部に溶接により結合され、前記車内側に延びる上壁部17aと、該上壁部17aの内縁から下方に屈曲して延びる車内側壁部17bを有し、該内側壁部17bの下端部は前記底壁部16bの内端部に溶接により結合されている。
【0026】
前記サイドインナパネル17の上壁部17aには、フードヒンジ取付け座17cが形成され、該フードヒンジ取付け座17cに前記フードヒンジ15が取り付けられている。
【0027】
前記左,右のアッパメンバ3は、前記ドアベルトラインリインホース4の上面4aよりHだけ上方に位置するよう形成された嵩上げ部3aを有する。
【0028】
この嵩上げ部3aは、前記サイドアウタパネル16の車外側壁部16a及びサイドインナパネル17の車内側壁部17bを上方に延長させることにより一体に形成されている。また前記嵩上げ部3aは、アッパメンバ3の前端から後方にいくほど高くなるように後上がりに傾斜している。
【0029】
これにより前記入力Fは、その一部F1が前述のようにドアベルトラインリインホース4に伝達され、残りF2が嵩上げ部3aからフロントピラー2の上部2′を通ってルーフ部材5に分散させて伝達される。
【0030】
前記左,右のアッパメンバ3内には、車両前後方向に延びる独立した第2の閉断面Bを形成するリインホース20が配設されている。このリインホース20は、車両前後方向に見たとき、第2の閉断面Bがフロントピラー2の車幅方向内側部分に対向するように配置されている。
【0031】
前記リインホース20は、前記嵩上げ部3aを構成する上壁部17aと車内側壁部17bとの間に配設され、該上壁部17a及び車内側壁部17bとで前記第1の閉断面A内に独立した第2閉断面Bを形成している。
【0032】
前記リインホース20は、車両側方から見ると、これの後端がフロントピラー2に近接し、前端がアッパメンバ3の前後方向中央部に位置するように形成され、かつ上端が上壁部17aに当接し、下端がアッパメンバ3の上下方向中央部に位置するように形成されている。
【0033】
前記リインホース20は、前記サイドインナパネル17のフードヒンジ取付け座17cに当接するリテーナ部20aと、該リテーナ部20aの内縁から下方に屈曲して延びる縦辺部20bと、該縦辺部20bの下縁から車内側に屈曲して延びる横辺部20cと、該横辺部20cの内縁から下方に屈曲するフランジ部20dとを有する。
【0034】
前記リテーナ部20aには、前述のヒンジブラケット15aが上壁部17aと共にボルト18により共締め固定されている。また前記フランジ部20dは、前記車内側壁部17bに溶接により結合されている。ここで、本実施例のリインホース20は、既存のフードヒンジリテーナに縦辺部20b,横辺部20cを及びフランジ部20dを一体に形成したものである。
【0035】
本実施例によれば、アッパメンバ3にドアベルトラインリインホース4の上面4aより上方に位置するよう延びる嵩上げ部3aを一体に形成し、アッパメンバ3内に上壁部17aと車内側壁部17bとで独立した第2の閉断面Bを形成するリインホース20を配設し、該リインホース20を第2の閉断面Bがフロントピラー2に対向するように配置したので、アッパメンバ3内に第2の閉断面Bを形成するためのリインホース20を配設するだけの部分的な補強で嵩上げ部3aの強度を高めることができる。これにより、重量及びコストの上昇を抑制しつつ、入力荷重Fの一部F2をフロントピラー2の上部2′からルーフ部材5に分散させて伝達することができる。その結果、ドアベルトラインリインホース4への入力荷重の集中を軽減することができ、それだけドアベルトラインリインホース4の強度,剛性を緩和できる。
【0036】
また本実施例では、前記リインホース20に、アッパメンバ3の上壁部17aに形成されたフードヒンジ取付け座17cに当接するリテーナ部20aを形成したので、アッパメンバ3のフードヒンジ取付け座17cの剛性,強度をより一層高めることができ、ひいてはフードヒンジ15の取付け強度を高めることができる。
【0037】
さらに前記リインホース20を、既存のフードヒンジリテーナに縦辺部20b,横辺部20cを及びフランジ部20dを一体に形成したものとしたので、コストアップを抑制できる。
【符号の説明】
【0038】
1 前部車体
2 フロントピラー
3 アッパメンバ
3a 嵩上げ部
4 ドアベルトラインリインホース
4a 上面
17a 上壁部
17b 車内側壁部
17c フードヒンジ取付け座
20 リインホース
20a リテーナ部
A 閉断面
B 第2の閉断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上下方向に延びるフロントピラーに車両前後方向に延びる略角筒状の閉断面を有するアッパメンバの後端部を結合するとともに、前記フロントピラーの後方にドアベルトラインリインホースを前記アッパメンバに対向するように配置し、車両衝突時の入力を前記アッパメンバからフロントピラーを介してドアベルトラインリインホースに伝達するようにした自動車の前部車体構造であって、
前記アッパメンバは、前記ドアベルトラインリインホースの上面より上方に位置するように形成された嵩上げ部を有し、
前記アッパメンバ内には、少なくとも前記嵩上げ部の上壁部と車内側壁部とで車両前後方向に延びる独立した第2の閉断面を形成するリインホースが配設され、
該リインホースは、車両前後方向に見たとき、前記第2の閉断面がフロントピラーに対向するように配置され、かつ前記上壁部に形成されたフードヒンジ取付け座に当接するリテーナ部を有する
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate