説明

自動車の後部車体構造

【課題】サスペンションハウジングとリヤピラーとが前後方向に離間する自動車の後部車体構造において、部品点数を増加することなく、サイドパネルインナの内倒れを防止する自動車の後部車体構造を提供する。
【解決手段】ピラーインナ22と、ピラーレインフォースメント23と、サスペンションハウジングと、外側補強部材15とを備えた自動車の後部車体構造において、ピラーインナ22とピラーレインフォースメント23と外側補強部材15とによって上下方向に延びる閉断面部を形成し、ピラーインナ22の車幅方向内側部分にシートブラケット4を設け、シートブラケット4が、ピラーインナ22の延長部22bとピラーレインフォースメント23の延長部23bと外側補強部材15のフランジ部15bとが重合された第1連結部xと、この第1連結部xよりも車体前後方向後側の第2連結部yとに連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションハウジングとリヤピラーとが前後方向に離間した自動車の後部車体構造に関し、特にサイドパネルインナとサスペンションハウジングとを連結する外側補強部材と、この外側補強部材に連結されたシートブラケットとを備えた自動車の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のサスペンションには、乗員の操縦安定性を確保するため、走行中の振動や衝撃を減衰するためのダンパ装置が設けられている。このダンパ装置は、上方程車幅方向内側に傾斜するように配置され、その上端がホイールハウス上部に形成されたサスペンションハウジング(サスペンションタワー)に支持されている。それ故、サスペンションハウジングに対して上下方向に作用するダンパ荷重の車幅方向内側に向かう分力が車体に作用するため、この分力によりサスペンションハウジング近傍のサイドパネルインナが車幅方向内側に倒れる現象、所謂内倒れの問題があった。
【0003】
車体後部のリヤサスペンションハウジングは、車体構造上、サイドパネルインナに形成されたリヤピラー部に近接した車室側下側位置に設けられているため、リヤサスペンションハウジングに作用する上下方向のダンパ荷重を乗員乗降口の内壁を形成するリヤピラー部を介してルーフレール部材等の車体強度部材に分散し、サイドパネルインナ(リヤピラー部)に集中する荷重(車幅方向内側に向かう分力)を低減することにより、サイドパネルインナの内倒れ防止を図っていた。
【0004】
図10に示すように、特許文献1の自動車の下部車体構造は、リヤピラーインナーパネル50の車幅方向外側部分とサスペンションタワーとを連結するサスペンションハウジングレインフォースメント52と、リヤピラーインナーパネル50を補強するピラーレインフォースメント51と、サスペンションタワー上部のベルトライン部53を補強するためのベルトラインレインフォースメント54とを備え、リヤピラーインナーパネル50とサスペンションハウジングレインフォースメント52とベルトラインレインフォースメント54とにより形成された第1閉断面と、リヤピラーインナーパネル50とサスペンションハウジングレインフォースメント52とにより形成された第2閉断面と、リヤピラーインナーパネル50とベルトラインレインフォースメント54とサスペンションハウジングレインフォースメント52とにより形成された第3閉断面とを設け、第1〜第3閉断面を車体前後方向に連接して構成している。
【0005】
一方、車体後部の車室には、乗員が着座可能なリヤシートが設けられ、このリヤシートは、車体に支持されたシートクッションと、このシートクッションの後端部に回転自在に枢支され且つ倒伏可能なシートバックとを備えている。乗員の乗降口を形成するリヤピラーインナパネルには、シートバックを起立状態に回転させたとき、シートバックの起立姿勢を保持するためのシートストライカが設けられている。
【0006】
特許文献2の自動車の車体後側部構造は、リヤホイールハウスに連なるクォータインナロアパネル(ピラー延長部)と、クォータインナロアパネル上部からルーフに亙って設けられたルーフサイドインナパネル(ピラー傾斜部)と、ルーフサイドインナパネルとサイドパネルアウタとの間においてクォータインナロアパネル上部からルーフに亙って設けられたベルトアンカ補強パネルと、ベルトアンカ補強パネル下部からリヤホイールハウスに亙って設けられたリテーナパネルとを備え、クォータインナロアパネルとルーフサイドインナパネルとベルトアンカ補強パネルとリテーナパネルとが重合した部位にシートストライカの取付けブラケットが締結具を介して締結されている。これにより、シートストライカの取付強度を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平4−26305号公報
【特許文献2】特許第3307849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、特許文献2の自動車の車体後側部構造のように、リヤピラーの基端部分に相当するピラー延長部はリヤホイールハウスの頂部に対応して設けられているため、リヤシートは車室内側へ膨出するホイールハウスを避けてリヤピラーよりも車体前側に配置されている。このような車体構造の場合、後側乗降口の後端部分がリヤシートよりも車体後側に形成され、乗員の乗降性に寄与しない後側開口部分が拡大され、車体剛性や車両のデザイン性等に影響を与える虞がある。
【0009】
乗員の乗降性を確保しつつ車体剛性を維持するためには、リヤシートのシートバックとリヤピラーとを側面視にて重なるように配置した上で、シートストライカをリヤピラーの基端部分に固定することが好ましい。そこで、リヤホイールハウスの大半をリヤピラーの基端部分よりも車体後側に配置し、リヤピラーのピラー傾斜部をリヤホイールハウスの前側上部から上方へ延びるように形成することにより、後側乗降口を広げることなく、乗員乗降性と車体剛性とを両立可能なリヤシート配置を実現することができる。
【0010】
しかし、前述した乗員乗降性と車体剛性とを両立するために、リヤピラーをリヤホイールハウスの前側上部から上方へ延びるように形成した場合、ダンパ荷重の伝達経路は、経路上流部分(リヤサスペンションハウジング)と経路下流部分(ピラー傾斜部)とが前後方向に離間したクランク形状に形成される。特許文献1の自動車の下部車体構造のように、ピラーレインフォースメント51の下側部分を車体後側へ延長してサスペンションハウジングレインフォースメント52に連結した場合であっても、リヤサスペンションハウジングに作用するダンパ荷重がピラー傾斜部へ伝達される途中でピラー延長部からサイドパネルインナに分散されるため、リヤピラー、特にサスペンションハウジングから離間したピラー傾斜部の前側部分へ伝達することが困難である。それ故、依然として、ダンパ荷重の車幅方向内側に向かう分力がサイドパネルインナに集中するため、内倒れを生じる虞がある。
【0011】
特許文献1のように、予めベルトラインレインフォースメントを有する車体構造の場合には、ベルトラインレインフォースメントの前端を前側に延長してピラー延長部を補強することができるため、リヤピラー前側部分から後側部分に亙ってリヤサスペンションハウジングからリヤピラーへ伝達されるダンパ荷重を増すことができる。しかし、クォータウインドウの下端とリヤホイールハウスの頂部との間に、ベルトラインレインフォースメントのような前後方向に延びる大型の補強部材の配置スペースが必要となり、部品点数の増加に伴う車体重量の増加や製造コストの増加を生じる虞がある。
【0012】
しかも、最近のダンパ装置は、バンプストラップラバーが一体化されてダンパ装置が長尺化する傾向があるため、ダンパ装置の上下長が増加し、このダンパ装置の上下長の増加に伴ってサスペンションハウジングの頂部が従来に比べて高い位置に形成されるケースが増えている。それ故、クォータウインドウの下端とリヤホイールハウスの頂部との間が狭く、レイアウト上、ベルトラインレインフォースメント等の補強部材を配置するためのスペースを確保できない虞もある。
【0013】
本発明の目的は、サスペンションハウジングとリヤピラー部とが前後方向に離間した車体構造において、部品点数を増加することなく、サイドパネルインナの内倒れを防止できる自動車の後部車体構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の自動車の後部車体構造は、車体後部のサイドパネルインナに形成され且つリヤホイールハウスの前側上部から上方へ延びるピラー部と、このピラー部の車幅方向外側部分に接合されたピラーレインフォースメントと、このピラーレインフォースメントの後側において前記リヤホイールハウスに連なり且つサスペンションのダンパ装置を支持するサスペンションハウジングと、前記サイドパネルインナの車幅方向外側部分とリヤホイールハウスとを連結する外側補強部材とを備えた自動車の後部車体構造において、前記ピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とによって上下方向に延びる閉断面部を形成し、前記ピラー部の車幅方向内側部分にリヤシートのシートバックを保持するシートブラケットを設け、前記シートブラケットが、前記ピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とが重合された第1連結部と、この第1連結部よりも車体前後方向後側の第2連結部とに連結されたことを特徴としている。
【0015】
この自動車の後部車体構造では、シートブラケットが、ピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とが重合された第1連結部と、この第1連結部よりも車体前後方向後側の第2連結部とに連結されているため、シートブラケットによりピラー部の前後方向に亙ってピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材との連結剛性を高くすることができる。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記外側補強部材は前記サイドパネルインナに連結されたフランジ部を備え、このフランジ部が前記第1連結部まで延設されていることを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記第2連結部は前記ピラー部と前記フランジ部とを重合する連結部であることを特徴としている。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、前記サイドパネルインナの車幅方向内側部分とサスペンションハウジングとを連結する内側補強部材を設け、この内側補強部材が前記第1連結部よりも車体前後方向後側において前記シートブラケットに連結された第3連結部を有することを特徴としている。
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記第3連結部は前記第1連結部よりも下側且つ前記第2連結部よりも後側に設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、サスペンションハウジングとピラー部とを車体前後方向に離間して配置できるため、後側乗降口を広げることなく、乗員乗降性と車体剛性とを両立することができる。シートブラケットによりピラー部の前後方向に亙ってピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材との連結剛性を高くできるため、サスペンションハウジングに作用したダンパ荷重を、サイドパネルインナへの分散を抑制しつつ、サスペンションハウジングから離間したピラー部の前側部分へ効率良く伝達でき、サスペンションハウジングからの離隔距離に拘わらずピラー部全体を介してルーフレール等の車体強度部材へ荷重分散することができる。これにより、部品点数を増加することなく、ダンパ荷重に起因したサイドパネルインナの内倒れを防止することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、外側補強部材のフランジ部を利用して、シートブラケットとピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とを4重連結するため、第1連結部の連結剛性を高め、且つシートブラケットの支持剛性を高くすることができる。
請求項3の発明によれば、サスペンションハウジングに作用するダンパ荷重を、外側補強部材を介してピラー部前後方向に亙って確実に伝達することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、サスペンションハウジングに作用するダンパ荷重を、外側補強部材に加えて、内側補強部材を介してピラー部前後方向に亙って伝達することができる。
請求項5の発明によれば、第3連結部に作用するダンパ荷重を、シートブラケットを介してピラー部前後方向に亙って効果的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車の後部車体構造を車外側から視た斜視図である。
【図2】自動車の後部車体構造を車室側から視た斜視図である。
【図3】サイドパネルアウタを取外した後部車体構造の側面図である。
【図4】図2の要部拡大図である。
【図5】図1のV−V線断面図である。
【図6】図1のVI−VI線断面図である。
【図7】図4のVII−VII線断面図である。
【図8】図1のVIII−VIII線断面図である。
【図9】シートブラケットの斜視図である。
【図10】従来技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、本実施例では、車両の進行方向に対して前後方向を前後方向として説明する。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例1について図1〜図9に基づいて説明する。
図1〜図5に示すように、本実施例の車両Vは、後側部分にリフトゲート(図示略)を備えた4ドアタイプのハッチバック車である。この車両Vは、フロアパネル1と、左右1対のサイドパネル2と、左右1対のリヤサスペンション3と、左右1対のリヤホイールハウス11と、左右1対の外側補強部材15と、左右1対の後側ピラー20と、左右1対のピラーレインフォースメント23と、左右1対のリヤシート用シートブラケット4等を備えている。
【0024】
図1,図2に示すように、フロアパネル1は、左右1対のリヤサイドフレーム6に亙ると共に車体前後方向に延びるように設けられ、車両Vの床を形成している。フロアパネル1は、前後方向途中部に形成された後方上がり傾斜状のキックアップ部1aと、このキックアップ部1aよりも後側に荷室を形成するためのリヤフロア1bとが設けられている。キックアップ部1aには、後席の乗員が着座可能な左右1対のリヤシート5が支持されている。これらのリヤシート5は、キックアップ部1aに固定されたシートクッション5aと、このシートクッション5aの後端部分に回動可能に枢支されたシートバック5bとにより夫々形成されている。
【0025】
左右1対のサイドパネル2について説明する。尚、左右1対のサイドパネル2は、左右対称の構造であるため、以下、主に右側のサイドパネル2について説明する。
図1〜図5に示すように、サイドパネル2は、車体外壁を形成するサイドパネルアウタ2aと、車室内壁を形成するサイドパネルインナ2bと、サイドパネル2の上端を形成するルーフレール部2cと、前席の乗員が乗降可能な前側乗降口(図示略)と、後席の乗員が乗降可能な後側乗降口7と、リヤクォータウインドウガラスが装着されるクォータウインドウ開口8と、前側乗降口の前縁部分を形成する前側ピラー(図示略)と、後側乗降口7の前縁部分を形成する中央ピラー10と、後側乗降口7とクォータウインドウ開口8との間を区画する後側ピラー20等を備えている。
【0026】
サイドパネルアウタ2aは、サイドパネルインナ2bとの間に空間部を形成するように構成され、この空間部内には複数の補強部材(レインフォースメント)が設けられている。
サイドパネルインナ2bは、所定厚さ、例えば、約0.65mmの鋼板により形成され、キックアップ部1aの頂部に対応する部分にリヤホイールハウス11が設けられている。
【0027】
次に、リヤホイールハウス11について説明する。
図2〜図6に示すように、リヤホイールハウス11は、サイドパネルインナ2bの下端から車幅方向外側へ膨出するホイールハウスアウタ12と、サイドパネルインナ2bの下端から車幅方向内側へ膨出するホイールハウスインナ13とにより形成されている。
【0028】
ホイールハウスアウタ12は、部分円環状に形成され、上縁部がサイドパネルインナ2bの円弧状下端部に連結され、下縁部がサイドパネルアウタ2aの下端部と連結されている。ホイールハウスインナ13は、部分椀状に形成され、ホイールハウスインナ13の上部に車室側へ膨出するサスペンションハウジング14が形成されている。
図5に示すように、ホイールハウスインナ13の上縁部は、サイドパネルインナ2bの円弧状下端部に連結され、サイドパネルインナ2bを介してホイールハウスアウタ12と3重連結されている。ホイールハウスインナ13の下端は、対応する右側のリヤサイドフレーム6に連結されている。
【0029】
サスペンションハウジング14は、正面視にて略L字状に形成され、リヤサスペンション3のダンパ装置30を収容可能な柱状空間を形成している。このサスペンションハウジング14は、ホイールハウスインナ13の前後方向略中央部分に設けられ、ダンパ装置30の上端を支持可能な支持部14aと縦壁部14bと補強部材14cとにより形成されている。支持部14aは、ホイールハウスインナ13の上側位置において略水平状に延びるように形成され、車幅方向外側端部が補強部材14cを介してサイドパネルインナ2bに連結されている。縦壁部14bは、支持部14aの車幅方向内側端部から下方に延び、サスペンションハウジング14の側壁を形成している。
【0030】
リヤホイールハウス11には、サイドパネルインナ2bを車幅方向内外から挟んだ状態で、外側補強部材15と、内側補強部材16とが連結されている。
図3,図5,図7に示すように、外側補強部材15は、断面略ハット状に形成され、上縁部がサイドパネルインナ2bの車幅方向外側部分に連結され、下縁部がホイールハウスアウタ12に連結されている。外側補強部材15は、例えば、約1.6mmの鋼板により一体形成され、略コ字状の本体部15aと、本体部15aの前端部から後側ピラー20と重合する位置まで前方へ延びる板状のフランジ部15bと、本体部15aの後端から後方へ延びる板状のフランジ部15c等を備えている。
【0031】
本体部15aは、上端がクォータウインドウ開口8の下縁部に接合され、下端がホイールハウスアウタ12の上部に接合されている。この本体部15aの中央部分には、上下1対の溶接用開口15dが形成されている。外側補強部材15により覆われたサイドパネルインナ2bやホイールハウスアウタ12等を溶接するとき、溶接電極を溶接用開口15dに挿通させて溶接部分に配置している。フランジ部15bは、補強部材14cと延長部22b(ピラーインナ22)とに接合され、フランジ部15cは、サイドパネルインナ2bと補強部材14cとに接合されている。
【0032】
フランジ部15bには、第1連結部xに形成された締結用開口15xと、第2連結部yに形成された締結用開口15yとが設けられている。
締結用開口15xは、ピラーインナ22の前側部分に対応して形成されている。締結用開口15yは、ピラーインナ22の後側部分に対応して形成され、正面視にて締結用開口15xと同じ車幅方向位置に設けられている。この締結用開口15yは、締結用開口15xよりも後側且つ上側位置に形成されている。補強部材14cには、締結用開口15yに対応した位置に締結用開口14yが形成されている。
【0033】
図2,図4,図7に示すように、内側補強部材16は、断面略コ字状に一体形成され、上端がサイドパネルインナ2bの車幅方向内側部分に連結され、下端がホイールハウスインナ13とサスペンションハウジング14とに連結されている。この内側補強部材16は、例えば、約2.0mmの鋼板により一体形成され、上側補強部16aと、水平補強部16bと、下側補強部16cと、前後端に形成された前後フランジ部16e,16f等を備えている。
【0034】
上側補強部16aは、上端がクォータウインドウ開口8よりも下側のサイドパネルインナ2bの車幅方向内側部分に連結され、車幅方向内側程下方に移行するように湾曲形成されている。この上側補強部16aには、溶接用開口16dと、溶接用開口16dよりも前側の第3連結部zに形成された締結用開口16zとが形成されている。締結用開口16zは、第1,2連結部x,zよりも車幅方向内側に形成されると共に、第1連結部xよりも下側且つ第2連結部yよりも後側に設けられている。
【0035】
図7に示すように、上側補強部16aの前フランジ部16eは、フランジ部15bと延長部22bと補強部材14cとにより4重に重ねられ、上側補強部16aの後フランジ部16fも同様に、フランジ部15cとサイドパネルインナ2bと補強部材14cとにより4重に重ねられている。前フランジ部16eは第1連結部xよりも下側位置において延長部22bと補強部材14cとに3重連結(溶接)され、後フランジ部16fは第1連結部xよりも下側位置においてサイドパネルインナ2bと補強部材14cとに3重連結(溶接)されている。
【0036】
水平補強部16bは、上側補強部16aの車幅方向内側端部から車幅方向内側へ向けて略水平状に延びるように形成され、下側補強部16cは、水平補強部16bの車幅方向内側端部から下側へ略鉛直状に延びるように形成されている。各補強部16b,16cに夫々対応した前後フランジ部16e,16fは、ホイールハウスインナ13とサスペンションハウジング14とにより夫々3重連結されている。
【0037】
次に、後側ピラー20について説明する。
図1〜図4,図7,図8に示すように、後側ピラー20は、断面略ハット状のピラーアウタ21と、ピラーインナ22(ピラー部)と、ピラーアウタ21とピラーインナ22との間に設けられた補強部材としてのピラーレインフォースメント23とにより形成されている。図8に示すように、ピラーアウタ21とピラーインナ22とは、夫々サイドパネルアウタ2aとサイドパネルインナ2bとにより一体的に構成され、両者が協働してリヤホイールハウス11の前側上部からルーフレール部2cに亙って上下方向に延びる閉断面部を形成している。
【0038】
ピラーインナ22は、後側乗降口7とクォータウインドウ開口8との間を区画するストレート状の傾斜部22aと、この傾斜部22aの下端からホイールハウス11の頂部前側近傍位置まで後方に延長された延長部22bとにより形成されている。
図8に示すように、傾斜部22aは、前端と後端とに形成された前後フランジ部によりピラーアウタ21に形成された前後フランジ部と連結されている。図4に示すように、延長部22bは、クォータウインドウ開口8とホイールハウス11との間に形成され、傾斜部22aの下端からフランジ部15b(フランジ部16e)の後端に対応する位置に亙って形成されている。図7に示すように、この延長部22bには、第1,第2連結部x,yに対応する延長部22bの前側位置及び後側位置に締結用開口22x,22yが夫々形成されている。
【0039】
ピラーレインフォースメント23は、ピラーインナ22と同様に、後側乗降口7とクォータウインドウ開口8との間を区画するストレート状の傾斜部23aと、この傾斜部23aの下端から外側補強部材15まで後方に延長された延長部23bとにより形成されている。傾斜部23aは前後フランジ部23c,23dを備え、延長部23b前後フランジ部23e,23fを備えている。図8に示すように、傾斜部23aは、略ハット状に形成され、後側ピラー20の閉断面部を車幅方向内外に2分割する節部を形成している。
図3に示すように、延長部23bは、傾斜部23aの下端から本体部15aの前端部分に亙って形成され、後側部分において本体部15aの内側壁部と前側壁部とに連結されている。この延長部23bの前側フランジ23eには、第1連結部xに対応した位置に締結用開口23xが形成されている。本実施例では、第1連結部x(締結用開口23x,15x,22x)が、傾斜部23aの前側稜線の下側延長線上に位置するように形成されている。
【0040】
以上のように、第1連結部xには、締結用開口23x,15x,22xが形成され、第2連結部yには、締結用開口15y,22y,14yが形成され、第3連結部zには、締結用開口16zが形成されている。各締結用開口のうち、締結用開口23x,15y,16zの車幅方向外側には、夫々、ボルト18x,18y,18zに螺合可能なナット19x,19y,19zが固着されている。
【0041】
図1,図2,図5に基づき、左右1対のリヤサスペンション3について簡単に説明する。
左右1対のリヤサスペンション3は、左右対称の構造であるため、以下、主に右側のリヤサスペンション3について説明する。
リヤサスペンション3は、ダンパ装置30と、リヤサイドフレーム6に支持されたサブフレーム31と、このサブフレーム31に揺動自在に枢支された上下1対のアーム32と、これらアーム32に支持された車輪支持部33と、リヤサイドフレーム6に支持され且つ車輪の振動を減衰可能なコイルスプリング34と、車輪支持部33を上下揺動可能に支持するトレーリングアーム35等を備えている。このリヤサスペンション3は、微小な振動をダンパ装置30により減衰し、大きな振動をコイルスプリング34により減衰している。
【0042】
ダンパ装置30は、バンプストラップラバーがダンパ本体の頂部に一体化され、その上端部がサスペンションハウジング14の支持部14aと内側補強部材16の水平補強部16bとに保持されると共に、下端が車輪支持部33に連結されている。このダンパ装置30は、サスペンションハウジング14が形成する空間内において、車輪中心よりも後方位置に位置し、側面視にて前方上がり傾斜状且つ正面視にて車幅方向内側程上方位置になるように配置されている。トレーリングアーム35は、前端がリヤサイドフレーム6に揺動自在に枢支され、他端が車輪支持部33に連結されている。通常走行時、トレーリングアーム35の前端と後端とが、略水平位置になるよう各設計条件が設定されている。
【0043】
次に、左右1対のリヤシート用シートブラケット4について説明する。
左右1対のシートブラケット4は、左右対称の構造であるため、以下、主に右側のシートブラケット4について説明する。
図2,図4,図7,図9に示すように、シートブラケット4は、延長部22b(ピラーインナ22)の車幅方向内側部分に設けられ、略U字状のシートストライカ41が固定されている。シートバック5bは、車幅方向外側位置にシートストライカ41に係合可能なラッチ機構(図示略)が設けられ、シートバック5bが起立状態のとき、シートバック5bが側面視にてピラーインナ22と重合する位置に配置されている。それ故、シートバック5bが起立姿勢にされたとき、ラッチ機構がシートストライカ41に係合し、リヤシート5のシートバック5bは起立状態に保持される。
【0044】
図9に示すように、シートブラケット4は、例えば、約2.6mmの鋼板により一体形成され、シートストライカ41を支持する本体部4aと、この本体部4aから車幅方向外側に延びる3本の脚部4b,4c,4dとを備えている。本体部4aは、略楕円状に形成され、その中間部分にシートストライカ41の基端部が固着されている。尚、本体部4aの形状は、シートストライカ41の設置姿勢に応じて種々変更することができる。
【0045】
脚部4b,4c,4dは、本体部4aから車幅方向外側に屈曲されると共に車幅方向外側程夫々の脚部4b,4c,4dの離隔距離が大きくなるように傾斜状に形成されている。
脚部4b,4c,4dの先端部分には、ピラーインナ22等の夫々の支持部材に対して面接触可能な着座部4e,4f,4gが夫々形成され、これら着座部4e,4f,4gに締結用開口4x,4y,4zが夫々形成されている。脚部4dは、脚部4b,4cよりも脚部長さが短く形成されている。
【0046】
脚部4bは、第1連結部xにおいて締結用開口4xが締結用開口23x,15x,22xと重合するように配置され、ボルト18xにより締結される。それ故、第1連結部xでは、着座部4eと、前側フランジ23d(ピラーレインフォースメント23)と、フランジ部15b(外側補強部材15)と、延長部22b(ピラーインナ22)とにより4重連結されている。
【0047】
脚部4cは、第2連結部yにおいて締結用開口4yが締結用開口15y,22y,14yと重合するように配置され、ボルト18yにより締結される。それ故、第2連結部yでは、着座部4fと、フランジ部15b(外側補強部材15)と、延長部22b(ピラーインナ22)と、補強部材14cとにより4重連結されている。
脚部4dは、第3連結部zにおいて締結用開口4zが締結用開口16zと重合するように配置され、ボルト18zにより締結される。それ故、第3連結部zでは、着座部4gと、上側補強部16a(内側補強部材16)とにより2重連結されている。
【0048】
これにより、シートブラケット4が車体前後方向に離間した第1連結部xと第2連結部yとに連結されているため、第1連結部x周りと第2連結部y周りとの車体剛性を高くすることができ、サスペンションハウジング14に作用した上下方向のダンパ荷重を、サスペンションハウジング14から離間したピラーレインフォースメント23の前フランジ部23eを利用して後側ピラー20の前側部分に効率良く伝達できる。しかも、シートブラケット4が第3連結部zに連結されているため、内側補強部材16に作用したダンパ荷重を、シートブラケット4の剛性を利用して第1連結部xと第2連結部yとの双方へ直接的に伝達できると共にピラーレインフォースメント23の前フランジ部23eに伝達することができる。
【0049】
シートブラケット4が車幅方向に離間した第1,第2連結部x,yと第3連結部zに連結されているため、ピラーインナ22の車幅方向に対する車体剛性を高くすることができ、ルーフレール部2cを揺動中心としたピラーインナ22の車幅方向変位をシートブラケット4を介して抑制することができる。
【0050】
次に、実施例に係る自動車の後部車体構造の作用・効果について説明する。
この自動車の後部車体構造によれば、サスペンションハウジング14と傾斜部22a(ピラーインナ22)とを車体前後方向に離間して配置できるため、後側乗降口7を広げることなく、乗員乗降性と車体剛性とを両立することができる。シートブラケット4により延長部22b(ピラーインナ22)の前後方向に亙って延長部22bと延長部23b(ピラーレインフォースメント23)と外側補強部材15との連結剛性を高くできるため、サスペンションハウジング14に作用したダンパ荷重を、サイドパネルインナ2bへの分散を抑制しつつ、サスペンションハウジング14から離間したピラーインナ22の前側部分へ効率良く伝達でき、サスペンションハウジング14からの離隔距離に拘わらずピラーインナ22全体を介してルーフレール等の車体強度部材へ荷重分散することができる。これにより、部品点数を増加することなく、ダンパ荷重に起因したサイドパネルインナ2bの内倒れを防止することができる。
【0051】
外側補強部材15はサイドパネルインナ2bに連結されたフランジ部15bを備え、このフランジ部15bが第1連結部xまで延設されている。それ故、外側補強部材15のフランジ部15bを利用して、シートブラケット4の着座部4eと延長部22bと延長部23bとフランジ部15bとを4重連結するため、第1連結部の連結剛性を高め、且つシートブラケット4の支持剛性を高くすることができる。
【0052】
第2連結部yは延長部22bとフランジ部15bとを重合する連結部であるため、サスペンションハウジング14に作用するダンパ荷重を、外側補強部材15を介してピラーインナ22の前後方向に亙って確実に伝達することができる。
【0053】
サイドパネルインナ2bの車幅方向内側部分とサスペンションハウジング14とを連結する内側補強部材16を設け、この内側補強部材16が第1連結部xよりも車体前後方向後側においてシートブラケット4に連結された第3連結部zを設けているため、サスペンションハウジング14に作用するダンパ荷重を、外側補強部材15に加えて、内側補強部材16を介してピラーインナ22の前後方向に亙って伝達することができる。
【0054】
第3連結部zは第1連結部xよりも下側且つ第2連結部yよりも後側に設けられたため、第3連結部zに作用するダンパ荷重を、シートブラケット4を介してピラーインナ22の前後方向に亙って効果的に伝達することができる。
【0055】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、シートブラケットを3箇所で固定した例を説明したが、少なくとも第1,第2連結部のみの2箇所で固定することも可能である。また、第1,第2連結部を含む4箇所以上で固定しても良い。
【0056】
2〕前記実施例においては、シートブラケットが脚部を有し、本体部とピラーインナとが離隔した例を説明したが、脚部を省略し、平板状のシートブラケットを採用して、シートブラケットをピラーインナに略密着状に設置しても良い。
【0057】
3〕前記実施例においては、ピラーレインフォースメントの延長部が外側補強部材の本体部に連結された例を説明したが、少なくとも延長部が外側補強部材に連結されれば良く、延長部の後端が外側補強部材のフランジ部に連結された構造であっても、本発明の効果を奏することができる。
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、サスペンションハウジングとリヤピラーとが前後方向に離間する自動車の後部車体構造において、シートブラケットが、ピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とが重合された第1連結部と、この第1連結部よりも車体前後方向後側の第2連結部とに連結されることで、部品点数を増加することなく、サイドパネルインナの内倒れを防止することができる。
【符号の説明】
【0059】
2b サイドパネルインナ
3 リヤサスペンション
4 シートブラケツト
5 リヤシート
11 リヤホイールハウス
14 サスペンションハウジング
15 外側補強部材
16 内側補強部材
20 後側ピラー
22 ピラーインナ
22b 延長部
23 ピラーレインフォースメント
23b 延長部
30 ダンパ装置
V 車両
x 第1連結部
y 第2連結部
z 第3連結部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後部のサイドパネルインナに形成され且つリヤホイールハウスの前側上部から上方へ延びるピラー部と、このピラー部の車幅方向外側部分に接合されたピラーレインフォースメントと、このピラーレインフォースメントの後側において前記リヤホイールハウスに連なり且つサスペンションのダンパ装置を支持するサスペンションハウジングと、前記サイドパネルインナの車幅方向外側部分とリヤホイールハウスとを連結する外側補強部材とを備えた自動車の後部車体構造において、
前記ピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とによって上下方向に延びる閉断面部を形成し、
前記ピラー部の車幅方向内側部分にリヤシートのシートバックを保持するシートブラケットを設け、
前記シートブラケットが、前記ピラー部とピラーレインフォースメントと外側補強部材とが重合された第1連結部と、この第1連結部よりも車体前後方向後側の第2連結部とに連結されたことを特徴とする自動車の後部車体構造。
【請求項2】
前記外側補強部材は前記サイドパネルインナに連結されたフランジ部を備え、このフランジ部が前記第1連結部まで延設されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の後部車体構造。
【請求項3】
前記第2連結部は前記ピラー部と前記フランジ部とを重合する連結部であることを特徴とする請求項2に記載の自動車の後部車体構造。
【請求項4】
前記サイドパネルインナの車幅方向内側部分とサスペンションハウジングとを連結する内側補強部材を設け、この内側補強部材が前記第1連結部よりも車体前後方向後側において前記シートブラケットに連結された第3連結部を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車の後部車体構造。
【請求項5】
前記第3連結部は前記第1連結部よりも下側且つ前記第2連結部よりも後側に設けられたことを特徴とする請求項4に記載の自動車の後部車体構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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