説明

自動車前照灯用メタルハライドランプ

【課題】
主としてナトリウム、タリウム、インジウムのハロゲン化物を含む自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、初期使用時に生じる発光色の変化を減少させるとともに、発光色維持率を改善する事
【解決手段】
石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管内に、水銀及びバッファーガスと共に金属ハロゲン化物を封入してなる自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、前記金属ハロゲン化物として、ナトリウム、タリウム及びインジウムのハロゲン化物を含み、ハロゲン化物総量に対してインジウムハロゲン化物を重量比にて10%以上55%以下含み、かつランタン、ネオジウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属のハロゲン化物を少なくとも1種以上含み、さらにセシウムのハロゲン化物を重量比にて前記金属ハロゲン化物の総量に対して5%以上含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車前照灯に用いられる高い色温度(例えば5000K以上)を得ることができ、その色温度を長期間にわたって維持することができるメタルハラドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車前照灯には、高効率などの理由からメタルハライドランプが採用されつつある。このメタルハライドランプは、一対の電極を具えた発光管中に水銀やバッファーガスと各波長の発光を有するハロゲン化金属が封入されている。このハロゲン化金属にはナトリウム、スカンジウム或いはタリウム、インジウム、ナトリウムなどがヨウ化物として封入される。このメタルハライドランプの発光色(色温度)はハロゲン化金属の種類及びこれらの混合比率によって決められる。
【0003】
近年、特に若年層ユーザを主に従来のメタルハライドランプ(色温度4000K前後)より、発光色が白い、これ以上の色温度(5000K以上)を有するメタルランプの要求が強まっている。
【0004】
従来の自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプは、図1に示すように石英ガラスにより発光管1が形成され、この発光管1内にはタングステンからなる電極2が対をなして配置してあり、電極2の発光管1と反対側の端部にはモリブデンからなる金属箔3が溶接され、この金属箔3が石英ガラスに溶着されることで発光管1内の気密が保たれている。また発光管1の外周にはシュラウドチューブ4が装着してある。
【0005】
ここで、従来の5000K以上の発光色を有するメタルハライドランプは、主なメタルハライドとして、ナトリウムヨウ化物、タリウムヨウ化物、インジウムヨウ化物の3種が封入される(以下三種封入ランプという)。各ヨウ化物はそれぞれが赤、緑、青の発光を担い、この配合比率を調整する事で様々な発光色(色温度)とすることができる(特開2003−16998号)。
【0006】
しかし、三種封入ランプは、従来からあるナトリウムヨウ化物、スカンジウムヨウ化物を封入したランプに比べて、発光管内の黒化が酷く、短時間の点灯で黒化により発光管内の温度変化が生じ、封入物の発光バランスが崩れ、その結果発光色が大きく変化するという問題がある。
【0007】
前記の三種封入ランプは、一般照明用のメタルハライドランプとして、自動車前照灯用の光源としてメタルハライドランプが導入される以前から存在する手法であるが、自動車前照灯用に適用するには、入力電力やランプ寸法などの制約からメタルハライドランプの特徴であるハロゲンサイクル機能が不十分であり、さらには、点灯・消灯を頻繁に繰り返す必要から電極消耗が激しいため、自動車用前照灯には適していないと考えられてきた。
【0008】
一般照明用途等で使用されるメタルハライドランプの発光色を維持する技術として、例えば特開2004−288627号公報に記載された技術があるが、これは発光管材料に透光性セラミックを用いたランプに関するもので、自動車前照灯用の石英ガラス製発光管に前記公報記載の封入物を当例記載の比率で封入して試験を行ったが、所望の発光色は得られず、発光管の腐食も著しく、実用的なランプは得られなかった。なお、自動車前照灯用ランプの発光管にセラミック材料を用いると、発光管が白濁しているため、見栄えが悪く商品価値が低下するだけでなく、コスト高にもなるため、発光管は石英ガラスで構成することが好ましい。
【0009】
【特許文献1】特開2003−16998号
【特許文献2】特開2004−288627号
【0010】
前記のような従来技術の問題点、特に三種封入ランプの問題点を解決するために鋭意研究した結果、メタルハライドとしてナトリウム、タリウム、インジウムのハロゲン化物を含む場合であっても、ハロゲン化物の総量に対してインジウムハロゲン化物を重量比において一定の範囲に設定し、かつ、ランタン、ネオジウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属ハロゲン化物を少なくとも1種封入し、さらに、セシウムハロゲン化物を重量比で前記ハロゲン化物総量に対して5%以上封入することで、前記問題を解決できる事を見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明が解決しようとする問題は、主としてナトリウム、タリウム、インジウムのハロゲン化物を含む自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、初期使用時に生じる発光色の変化を減少させるとともに、発光色維持率を改善する事である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明では、前記の問題を解決するために次のような手段を採用する。
【0013】
まず、石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管内に、水銀及びバッファーガスと共に金属ハロゲン化物を封入してなる自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、前記金属ハロゲン化物として、ナトリウム、タリウム及びインジウムのハロゲン化物を含み、ハロゲン化物総量に対してインジウムハロゲン化物を重量比にて10%以上55%以下含み、かつランタン、ネオジウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属のハロゲン化物を少なくとも1種以上含み、さらにセシウムのハロゲン化物を重量比にて前記金属ハロゲン化物の総量に対して5%以上含むことを特徴とする。
【0014】
また、前記発光管内に、水銀及びバッファーガスと共にナトリウム、タリウム、インジウム、ネオジウム、セシウムのハロゲン化物を、前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比にて20±5%、10±5%、35±5%、30±5%、5±5%封入したことを特徴とする。
【0015】
さらに、前記電極は酸化トリウムを0.5〜4wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25〜0.3mm、全長6〜7.5mmの電極であり、かかる電極を有するランプは、管電力35±3W、管電圧85±17Vで点灯することを特徴とする。
【0016】
さらに、前記発光管は、その外周にシュラウドチューブを具えていることを特徴とする。
【0017】
さらに、所望の発光色を得るためにランタン、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムのハロゲン化物の1種または複数種を発光管に封入したことを特徴とする。
【0018】
さらに、発光管内に実質的に水銀を含まないことを特徴とする
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、5000K以上の発光を有する自動車前照灯用メタルハライドランプであって、初期使用時に生じる発光色の変化が少なく、かつ長時間の点灯・点滅にわたって良好な発光色維持率を有するメタルハライドランプが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明の実施例には、管電力35±3W(管電圧85±17V)のメタルハライドランプを使用した。このランプは図1の従来の自動車前照灯用メタルハライドランプと同様に、石英ガラス製の発光管1を具えており、発光管1の内部の放電空間の容積は28μlであり、該発光管1は、酸化トリウムを1wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25、全長7mmの電極2を一対有し、それらの一端はモリブデンからなる金属箔3に接続されており電極2の他端は石英ガラスからなる発光管1内に突出している。発光管1の外周には石英ガラスからなるシュラウドチューブ4を有する。発光管1内には0.5mgの水銀、8気圧のキセノンガスからなるバッファーガスと共にナトリウム、タリウム、インジウム、ネオジウム、セシウムのヨウ化物が前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比において20%、10%、35%、30%、5%封入されている。
【0021】
また、前記実施例との比較品(従来品)として、発光管1の内部の放電空間の容積は28μl、発光管1内には0.5mgの水銀、8気圧のキセノンガスからなるバッファーガスと共に金属ハロゲン化物が、ナトリウム、タリウム、インジウムのヨウ化物からなり、それぞれ重量比にて35%、15%、50%封入したメタルハライドランプを作成し、特性の比較試験を行った。なお、寿命試験は日本電球工業会規格JEL215に記載されている試験方法を用い、1500時間まで評価をおこなって色温度変化を確認した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0022】
表1の特性から明らかなように、点灯初期(100hr)において、従来品が83%まで色温度変化するのに対して、本発明品の色温度変化は99%であり、本発明品では色温度変化が抑制されている。なお表1の色温度維持率は数値が低いと色温度が低下する事を意味している。
【0023】
従来品は、発光管内の黒化により発光管内温度が変化し、ナトリウム(赤色)の発光が初期に対して増大してくる傾向があり、これが発光色変化に寄与していると考えられる。
【0024】
一方、本発明品にも黒化が発生したが、ナトリウムの発光増大は見られなかった。これはセシウムを封入する事で該セシウムの発光がナトリウムの発光と競合し、ナトリウムの発光を阻害している為と考えられる。
【0025】
なお、本発明品においてセシウムハロゲン化物を5%以下にすると、封入量を少なくするにつれてナトリウム発光抑制効果がなくなり、しかも発光管の白濁を促進させるので、セシウムハロゲン化物は5%以上が好ましい。
【0026】
また、本発明において希土類金属ヨウ化物を封入しないと、ナトリウム以外のタリウム、インジウムの発光も阻害してしまい、その結果発光効率の低下を招くことになるので、希土類金属ハロゲン化物とセシウムハロゲン化物の組み合わせが好ましい。希土類金属ハロゲン化物による発光は可視域に幅広く分布するため、セシウム封入によるナトリウム以外のタリウム、インジウムの発光低下を補う効果がある。
【0027】
インジウムハロゲン化物を金属ハロゲン化物総量の10%以下にすると、青発光が少なすぎて発光色の観点から商品価値が低下し、また黒化そのものが減少するため、本発明を用いる必要がない。一方、インジウムハロゲン化物を55%以上にするとインジウムによるエネルギー消費が大きく、その結果、他の金属の発光を大幅に抑制してしまうため、青みが強い発光色となり、商品価値が低下する。したがって、インジウムハロゲン化物はハロゲン化物総量に対して重量比で10%以上55%以下とするのがよい。
【0028】
本発明で封入する希土類金属は所望の発光色に応じたものを封入すればよいが、JIS規格で定められる自動車前照灯白色範囲に入り、且つこれらに含まれる黒体軌跡近傍に色度座標が分布して自然な発光色を得る観点から、ディスプロシウム、ネオジウム、ツリウム、ホルミウムがよい。
【0029】
また、本発明において最も大きな効果が得られるメタルハライドランプの実施例は、石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管を具えており、前記電極は酸化トリウムを1wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25mm、全長7mmの電極であり、管電力35w、管電圧85v、(管電流0.41A)で点灯するように設計された自動車前照灯用メタルハライドランプである。前記発光管の外周にシュラウドチューブを取り付けることにより、点灯時の特性をより安定させることができる。
【0030】
しかし、前記最適設計値に多少の許容範囲が存在することは当然であり、自動車前照灯用メタルハライドランプの場合、発光管1の内部の放電空間の容積は20μl〜35μlが望ましく、発光管1内には0.25mg〜0.7mgの水銀、公知技術に基づく任意の気圧のキセノンガスからなるバッファーガスと共に、ナトリウム、タリウム、インジウム、ネオジウム、セシウムのハロゲン化物を、前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比にて20±5%、10±5%、35±5%、30±5%、5±5%とし、前記電極は、酸化トリウムを0.5〜4wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25〜0.3mm、全長6〜7.5mmの電極を用い、管電力35±3W、管電圧85±17Vで点灯する事によっても本発明の効果を得る事が出来る。
【0031】
なお、本発明は、近年環境保全の点から注目されている水銀フリー(発光管内部に実質的に水銀を封入しない)型の自動車前照灯用メタルハライドランプに適用した場合においても良好な結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、初期使用時に生じる発光色の変化が少なく、かつ長時間の点灯・点滅にわたって良好な発光色維持率を有するメタルハライドランプが得られる。

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】自動車前照灯用メタルハライドランプの断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1:発光管
2:電極
3:金属箔
4:シュラウドチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管内に、水銀及びバッファーガスと共に金属ハロゲン化物を封入してなる自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、前記金属ハロゲン化物として、ナトリウム、タリウム及びインジウムのハロゲン化物を含み、ハロゲン化物総量に対してインジウムハロゲン化物を重量比にて10%以上55%以下含み、かつランタン、ネオジウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属のハロゲン化物を少なくとも1種以上含み、さらにセシウムのハロゲン化物を重量比にて前記金属ハロゲン化物の総量に対して5%以上含むことを特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項2】
前記発光管内に、水銀及びバッファーガスと共にナトリウム、タリウム、インジウム、ネオジウム、セシウムのハロゲン化物を、前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比にて20±5%、10±5%、35±5%、30±5%、5±5%封入したことを特徴とする請求項1記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項3】
前記電極は酸化トリウムを0.5〜4wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25〜0.3mm、全長6〜7.5mmの電極であり、かかる電極を有するランプは、管電力35±3W、管電圧85±17Vで点灯することを特徴とする請求項1〜請求項2の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項4】
前記発光管は、その外周にシュラウドチューブを具えていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項5】
所望の発光色を得るためにランタン、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムのハロゲン化物の1種または複数種を発光管に封入したことを特徴とする請求項2に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項6】
発光管内に実質的に水銀を含まない、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−272119(P2009−272119A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121195(P2008−121195)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(391021226)株式会社カーメイト (100)
【Fターム(参考)】