説明

自動車玩具用シャーシとそれを備えた無線操縦自動車玩具

【課題】コーナーリング時の旋廻性を向上させ、走行中に生じた変形の回復を容易にして走行特性を安定させることが可能なシャーシとそれを備えた無線操縦自動車玩具を提供することを目的とする。
【解決手段】シャーシ1は略左右対称の平板形状のメインシャーシ2と、前輪3を取り付け可能な前構造体4と、後輪5を取り付け可能な後構造体6と、メインシャーシ2の平板面に直交するとともにその対称軸上に配置された略平板状のフレーム7とを備え、メインシャーシ2は略水平に配されるとともに、その上面にはサーボモータ8と、受信装置9と、モータ10と、スピードコントローラ11と、バッテリ12が搭載され、その前端及び後端には前構造体4と後構造体6がそれぞれ配設され、フレーム7は前端が連結部13aを介して前構造体4に連結され、後端が連結部13bを介して後構造体6に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ、モータ、受信機などが搭載されたシャーシを備えた走行体と外形部分(ボディ)とで構成される競技用の無線操縦自動車玩具に係り、特に、コーナーリングにおける旋廻性を向上させるとともに、走行中に生じた変形の回復を容易にして安定した走行特性の維持を可能にする自動車玩具用シャーシとそれを備えた無線操縦自動車玩具に関する。
【背景技術】
【0002】
競技に用いられる無線操縦自動車玩具は、定速走行時だけでなく減速時あるいは加速時においても走行状態が安定していることが必要である。そのため、従来から、パワーソースの高出力化、制御装置の小型化、タイヤの高性能化といった周辺機器の開発に加えて、シャーシについてもさまざまな開発が行われてきている。例えば、非特許文献1にはメインシャーシとアッパーデッキとで構成されるダブルデッキ構造のシャーシを備えた無線操縦自動車玩具に関する発明が開示されている。
【0003】
以下、図7を参照しながら、非特許文献1に開示された発明について説明する。図7(a)及び(b)はそれぞれダブルデッキ構造のシャーシを備えた走行体の概略構造を示す平面図及び側面図である。
図7(a)及び(b)に示すように、ダブルデッキ構造のシャーシを備えた走行体は、地面とほぼ平行に配されたメインシャーシ101と、そのメインシャーシ101の上部にビス(図示せず)で固着されたアッパーデッキ102とで構成され、メインシャーシ101の上面には電源であるバッテリ103、前輪104及び後輪105を駆動する動力源となるモータ106、送信機(図示せず)からの信号を受ける受信機107、受信機107からの信号に従って前輪104に角度を与えるサーボ108、同じく受信機107からの信号に従ってモータ106への電力供給を調整するスピードコントローラ109が搭載されている。なお、メインシャーシ101及びアッパーデッキ102には、軽量で剛性の高い炭素繊維強化樹脂が一般に使用される。
【0004】
次に、ダブルデッキ構造と組み合わせて使用される駆動系について図8(アッパーデッキ無しの状態)を用いて説明する。図8(a)及び(b)はそれぞれシャフト駆動系及びベルト駆動系の概略構造を示す平面図である。なお、図7と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。また、ベルト駆動系には1ベルト、2ベルト、3ベルトの3種類があるが、ここではシャーシ設計の幅が広いことから、現在主流となっている2ベルト駆動系を例に挙げて説明する。
【0005】
まず、図8(a)に示すように、シャフト駆動系は、モータ106に取り付けられたピニオンギヤ110と、シャフト111の一端に配置されるとともにピニオンギヤ110と噛合するスパーギヤ112と、シャフト111の両端に配置されたベベルギヤ113と、メインシャーシ101の前後に配置されるとともにべベルギヤ113と噛合するリングギヤ114とを備え、モータ106の回転駆動力はピニオンギヤ110、スパーギヤ112を介してシャフト111に伝達され、さらにベベルギヤ113及びリングギヤ114を介して前輪104及び後輪105にそれぞれ伝達される構造となっている。
このように構成されたシャフト駆動系においては、駆動抵抗が少なく、モータ106の回転駆動力を前輪104及び後輪105に効率良く伝達することが可能である。しかし、その反面、過大な負担によりギヤが破損する可能性がある。また、シャフト111がメインシャーシ101の幅方向の中央部に配置されているため、設計自由度が小さい。さらに、シャフト111を保持するために必要とされる剛性、すなわち、シャーシの幅方向の中心軸に関して回転する方向(以下、ロール方向という)についての剛性及びその中心軸に対して直交する軸に関して回転する方向(以下、ピッチ方向という)についての剛性をともに高く設定する必要がある。
【0006】
次に、図8(b)に示すように、ベルト駆動系は、モータ106に取り付けられたピニオンギヤ110と、ピニオンギヤ110と噛合するスパーギヤ112と、スパーギヤ112の回転軸上に配置されるプーリ115aと、メインシャーシ101の前後に配置されたプーリ115b,115cと、プーリ115a及びプーリ115bにともに懸架されたベルト116aと, プーリ115a及びプーリ115cにともに懸架されたベルト116bとを備え、モータ106の回転駆動力はピニオンギヤ110、スパーギヤ112を介してプーリ115aに伝達され、さらにベルト116a,116b及びプーリ115b,115cを介して前輪104及び後輪105にそれぞれ伝達される構造となっている。
このように構成されたベルト駆動系においては、ベルトが柔軟性を持つため、ロール方向に対してシャーシのねじれ(以下、シャーシロールという)が発生した場合でも、駆動系に負荷がかかり難い。また、ベルト116a,116bの長さ及び張り具合を調整することにより駆動タイミングを変えることが可能である。しかし、その反面、ベルト116a,116bに張力がかかるまでにタイムラグがあることから、シャフト駆動系に比べて加速感が劣る。
【0007】
以上説明したように、従来技術であるダブルデッキ構造のシャーシにおいては、アッパーデッキを備えることによって、走行体に対してロール方向及びピッチ方向の剛性を高くすることができる。
【0008】
【非特許文献1】「ラジコンワールド」 えい出版社 pp.28−35,2004年2月1日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術である非特許文献1に開示された発明においては、アッパーデッキがメインシャーシにビスで固着されているため、ロール方向に外力を受けるとアッパーデッキとメインシャーシの位置関係にずれが生じ易く、一旦生じたずれは外力が無くなった後も解消され難い。すなわち、競技中の走行ミス等により他車に接触してシャーシに過大な衝撃が加わった場合、シャーシに回復不能な変形が生じ、走行状態が不安定になり易いという課題があった。
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、コーナーリングにおける旋廻性を向上させるとともに、走行中に生じた変形の回復を容易にして安定した走行特性の維持を可能にする自動車玩具用シャーシとそれを備えた無線操縦自動車玩具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である自動車玩具用シャーシは、略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付け可能な前構造体及び後構造体と、メインシャーシ上面に垂設される略平板状のフレームとを備え、メインシャーシの形状は略左右対称であり、フレームはメインシャーシの対称軸上に配置され、前構造体及び後構造体はメインシャーシ上面に搭載されるとともにフレームの両端に取り付けられることを特徴とするものである。
上記構成の自動車玩具用シャーシにおいては、フレームがメインシャーシのピッチ方向に対する剛性を高くするという作用を有する。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の自動車玩具用シャーシにおいて、フレームは両端部に前構造体及び後構造体をそれぞれ取り付けるための転がり軸受けを備え、この転がり軸受けのスラスト方向はメインシャーシの平板面に対して直交することを特徴とするものである。
上記構成の自動車玩具用シャーシにおいては、請求項1に記載の発明と同様の作用を有するとともに、前構造体又は後構造体によってフレームの面外方向への変形が拘束を受けないという作用を有する。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の自動車玩具用シャーシにおいて、メインシャーシ上面に搭載されるモータと、フレームの平板面に取り付けられてモータから回転駆動力を伝達される第1及び第2のプーリと、メインシャーシ上面の両端にそれぞれ配されて前輪及び後輪にそれぞれ回転駆動力を伝達する第3及び第4のプーリと、第1のプーリと第3のプーリに懸架される第1のベルトと、第2のプーリと第4のプーリに懸架される第2のベルトとを備え、モータ及び第1乃至第4のプーリはスラスト方向がフレームの平板面に対して直交するように配置され、モータの回転駆動力は第1のベルトにより第1のプーリから第3のプーリへ伝達され、第2のベルトにより第2のプーリから第4のプーリへ伝達されることを特徴とするものである。
上記構成の自動車玩具用シャーシにおいては、請求項1又は請求項2に記載の発明と同様の作用を有するとともに、前輪及び後輪に回転駆動力を伝達する手段が柔軟な構造であるため、シャーシロールが発生した場合でも駆動系に生ずる応力は緩和されるという作用を有する。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシにおいて、フレームは合成樹脂材料で構成され、面外方向に対して弾性を有することを特徴とするものである。
上記構成の自動車玩具用シャーシにおいては、請求項1乃至請求項3に記載の発明の作用に加えて、フレームに生じた面外方向の変形が弾性的に回復されるという作用を有する。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシにおいて、第1及び第2のベルトの長さは略同一であることを特徴とするものである。
上記構成の自動車玩具用シャーシおいては、請求項1乃至請求項4に記載の発明の作用に加えて、前輪及び後輪の駆動のタイミングが一致するという作用を有する。
【0016】
請求項6記載の発明は、バッテリ、モータ、受信機などが搭載された走行体と外形部分(ボディ)とで構成される無線操縦自動車玩具において、走行体は請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシに前輪及び後輪を備えたことを特徴とするものである。
上記構成の無線操縦自動車玩具においては、走行体のピッチ方向に対する剛性及びロール方向の柔軟性がともに高まり、コーナーリング時の前輪及び後輪のグリップ力が増し、前輪及び後輪が時間差なく駆動されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の請求項1に記載の自動車玩具用シャーシにおいては、急激な速度変化によって生じるピッチ方向の加速度を受けた際にも変形し難いため、無線操縦自動車玩具に取り付けた場合に、減速に伴う荷重移動が短時間で行われる。従って、コーナーリング時における素早い旋廻が可能となる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の自動車玩具用シャーシにおいては、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏するとともに、無線操縦自動車玩具に取り付けた場合に、走行中にロール方向に対して一時的に加えられた外力によってシャーシが変形したとしても、その変形が残り難いため、安定した走行状態を維持することができる。
【0019】
本発明の請求項3に記載の自動車玩具用シャーシにおいては、特に、無線操縦自動車玩具に取り付けた場合に、走行中にロール方向の外力が一時的に発生した場合でも駆動系が故障し難い。
【0020】
本発明の請求項4に記載の自動車玩具用シャーシにおいては、請求項1乃至請求項3に記載の発明の効果に加えて、特に請求項2に記載の発明と同様の効果をさらに高めることができる。
【0021】
本発明の請求項5に記載の自動車玩具用シャーシにおいては、請求項1乃至請求項4に記載の発明の効果に加えて、無線操縦自動車玩具に取り付けた場合に、加速時の車体の挙動を安定させ、操縦者が受ける加速感を良好にすることができる。
【0022】
本発明の請求項6に記載の無線操縦自動車玩具においては、安定した走行状態を維持できるとともにコーナーリング時における素早い旋廻が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る自動車玩具用シャーシとそれを用いた無線操縦自動車玩具の実施例について図1乃至図4を用いて説明する。
【実施例】
【0024】
図1(a)乃至(c)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る無線操縦自動車玩具用シャーシの平面図、側面図及び概略構造を示す斜視図である。また、図2(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る無線操縦自動車玩具用シャーシの正面図及び背面図である。
図1(a)乃至(c)、図2(a)及び(b)に示すように、シャーシ1は略左右対称の平板形状のメインシャーシ2と、前輪3を取り付け可能な前構造体4と、後輪5を取り付け可能な後構造体6と、メインシャーシ2の平板面に直交するとともにその対称軸上に配置された略平板状のフレーム7とを備え、メインシャーシ2は略水平に配されるとともに、その上面には前輪3の角度を調整するサーボモータ8と、無線操縦信号を受信するための受信装置9と、前輪3及び後輪5を駆動するためのモータ10と、受信装置9からの信号によりモータ10の回転を制御するスピードコントローラ11と、バッテリ12が搭載されている。
【0025】
また、メインシャーシ2の前端及び後端には前構造体4及び後構造体6がそれぞれ配設され、フレーム7は前端が連結部13aを介して前構造体4に連結され、後端が連結部13bを介して後構造体6に連結されている。さらに、フレーム7の平板面に対して回転軸が直交するようにモータ10及びスパーギヤ14がそれぞれ取り付けられ、モータ10にはスパーギヤ14と噛合するピニオンギヤ15が装着され、スパーギヤ14の回転軸上にはプーリ16a,16bが配置され、フレーム7の平板面に対して回転軸が直交するようにメインシャーシ2の前後にプーリ17a,17bが配置されている。プーリ16aとプーリ17a及びプーリ16bとプーリ17bには略同一長さのベルト18a,18bがそれぞれ懸架されており、モータ10の回転駆動力はピニオンギヤ15、スパーギヤ14、プーリ16a,16b、さらにベルト18a,18b及びプーリ17a,17bを介して差動装置19a,19bに伝達され、差動装置19a,19bから回転伝達部材20を介して回転軸21a,21bに伝達され、前輪3及び後輪5を回転させる構造となっている。
【0026】
前構造体4には前輪3が軸着された支持部22aの回転軸を保持するサスペンションアーム23aが取り付けられ、支持部22aは伝達部材24aを介してステアリングアーム25,26に連結され、ステアリングアーム25,26は伝達部材24bによって同期し、ステアリングアーム25とサーボモータ8は伝達部材24cを介して連結されており、サーボモータ8と支持部22aの連動によって前輪3の角度が調整される。
一方、後構造体6には後輪5が軸着された支持部22bの回転軸を保持するサスペンションアーム23bが取り付けられ、支持部22bが伝達部材24dを介してメインシャーシ2に連結されることによって後輪5の角度が保持される。
【0027】
前構造体及び後構造体とフレームとの連結方法について図2(c)を用いて説明する。図2(c)は図1(a)中に示したA―A又はB−Bについての断面図である。なお、図1(a)乃至(c)で既に説明した構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
図2(c)に示すように、前構造体4及び後構造体6には転がり軸受け27a,27bがそれぞれ取り付けられており、連結部13a,13b(図1参照)においてスラスト方向がメインシャーシ2に対して垂直となるように転がり軸受け27a,27bがフレーム7に対してスペーサ28を介してネジ29によってそれぞれ螺着されている。
【0028】
このような構成のシャーシ1においては、メインシャーシ2に垂設されたフレーム7によって、ピッチ方向の剛性が高められる。また、ロール方向に外力が加わった場合でも、前輪3及び後輪5に回転駆動力を伝達するベルト18a,18bが柔軟性を有するため、駆動系に発生する応力は緩和される。さらに、ベルト18a,18bの長さが同じであるため、前輪3及び後輪5が同じタイミングで駆動される。加えて、前構造体4及び後構造体6は転がり軸受け27a,27bによってフレーム7の両端にそれぞれ連結されているため、フレーム7が面外方向に弾性変形し易い。
【0029】
図3を用いてシャーシの効果について説明する。図3(a)はフレームが変形した状態を表す概略構造図であり、(b)はフレームの変形が弾性回復した状態を表す概略構造図である。なお、図1(a)乃至(c)で既に説明した構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
図3(a)に示すように、一時的に何らかの外力を受けてシャーシ1が変形した場合でも、外力の作用が無くなれば、図3(b)に示すようにフレーム7の弾性力によってシャーシ1の変形は回復される。すなわち、本実施例のシャーシ1を搭載した無線操縦自動車玩具においては、走行中の操縦ミス等で障害物に接触してシャーシロールを受けた場合にも変形が残り難いため、安定した走行状態を維持することができる。なお、フレーム7は面内方向の剛性が高く、面外方向に対して弾性を有し、さらに、走行性を考慮すると軽量であることが必要である。従って、フレーム7の素材は炭素繊維やガラス繊維等で強化された合成樹脂製であることが望ましい。ただし、これに限定されるものではなく、例えば、アルミ等の軽金属を使用することもできる。
【0030】
次に、シャーシの荷重移動について図4を用いて説明する。図4(a)は無線操縦自動車玩具のコーナーリング時におけるシャーシの荷重バランスの一例を示す図であり、(b)及び(c)はそれぞれ従来技術及び本発明の実施の形態に係る無線操縦自動車玩具の静止時におけるシャーシの荷重バランスを示す図である。なお、図1(a)乃至(c)で既に説明した構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
一般に、走行中の自動車においては加速時には後輪側に荷重がかかり、減速時には前輪側に荷重がかかる、いわゆる荷重移動という現象が発生する。このとき、荷重がかかった側は地面に対してグリップ力が高まる。従って、コーナーを曲がる際には、予め減速して前輪側に荷重をかけてグリップ力を高めることによって、ハンドルの効きを良くする必要がある。しかし、前輪側に荷重がかかり過ぎると後輪側のグリップ力が不足してしまい、直進性が低下して安全な走行が困難となる。そのため、自動車の設計においては走行中の荷重移動を考慮して荷重バランスを決定する必要がある。同様に、無線操縦自動車玩具においても荷重バランスは走行性に大きな影響を与える。ただし、無線操縦自動車玩具においては、全重量に対するシャーシ重量の占める割合が大きいため、通常、シャーシの荷重バランスが重要となる。
【0031】
上述したように、コーナーリング時においては予め減速して前輪側に荷重を移動させ、前輪側のグリップ力を高めることが望ましい。図4(a)はこの一例として、前輪及び後輪についてそれぞれ60%及び40%の割合で荷重が配分された状態を示している。従来の無線操縦自動車玩具は、図4(b)に示すように、前輪と後輪に均等に荷重が配分されたシャーシ構造であることが多く、コーナーリング時の荷重移動が速やかに行われず、旋廻に時間を要していた。これに対し、本実施例の無線操縦自動車玩具においては、図4(c)に示すように、前輪及び後輪についてそれぞれ55%及び45%の割合で荷重が配分されたシャーシ構造であり、コーナーリング時に荷重移動が短時間で行われるため、素早い旋廻が可能である。
【0032】
以上説明したように、本実施例の自動車玩具用シャーシとそれを用いた無線操縦自動車玩具においては、コーナーリング時における旋廻性を向上させるとともに、走行中に生じた変形の回復を容易にすることにより安定した走行状態を維持することが可能である。
【0033】
本実施例の自動車玩具用シャーシについて、ピッチ方向の剛性とロール方向のねじり変形の回復し易さを測定した結果について図5及び図6を用いて説明する。図5(a)はシャーシのピッチ方向に対する剛性の測定方法を示す図であり、(b)はシャーシのロール方向に対するねじり変形の回復量の測定方法を示す図である。図6はシャーシのピッチ方向に対する剛性の測定結果である。なお、図1で既に説明した構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。また、比較のために、従来技術としてベルト駆動系及びシャフト駆動系のダブルデッキ構造のシャーシについて同様の測定を行った。
【0034】
図5(a)に示すように、シャーシ1のピッチ方向に対する剛性の評価は、メインシャーシ2の後端から80mmの範囲を固定した状態でメインシャーシ2の前端に荷重Pをかけ、基準面30からメインシャーシ2の前端までの距離aを測定することによって行い、さらに、距離aと初期状態との差を求めてたわみとした。なお、荷重Pは通常走行時にメインシャーシ2に加わる可能性のある0.5kg、1kg、1.5kg、2kgの4通りに設定した。
シャーシのロール方向に対するねじり変形の回復性の評価は、図5(b)に示すように、メインシャーシ2の前端を固定し、メインシャーシ2の後端に対してロール方向の強制的な5度のねじりを加えた後に、解放し、基準面30と回転軸21bとの距離bを測定することによって行い、さらに、距離bと初期状態との差を求めてねじり変形の回復量とした。
【0035】
図6に示すように、本実施例のシャーシのピッチ方向の剛性は従来技術のうち、シャフト駆動系のシャーシよりも高く、ベルト駆動系のシャーシと同等であることがわかる。さらに、シャーシのロール方向に対するねじり変形の回復量の測定結果を表1に示す。表1に示すように、従来技術のダブルデッキ構造のシャーシではベルト駆動系とシャフト駆動系のいずれにおいてもねじり変形が残っているのに対し、本実施例のシャーシではねじり変形が完全に回復されていることがわかる。すなわち、本実施例のシャーシにおいては、ピッチ方向に対しては高い剛性を有し、かつ、ロール方向の変形が残り難いと言える。
【0036】
【表1】

【0037】
さらに、本実施例の無線操縦自動車玩具について実走行テストによるラップタイムを測定した結果について説明する。テストコースは一周約190mのテクニカルコースであり、20周の平均ラップタイムとベストラップタイムを測定した。操縦はこのコースのレコード保持者が行った。表2にラップタイムの測定結果を示す。
表2に示すように、平均ラップタイムとベストラップタイムの差は、0.26秒であり、終始安定した走行状態を維持できていることがわかる。また、コースレコード(16.85秒)と本実施例の無線操縦自動車玩具のベストラップタイムとの差は0.12秒であった。このことは本実施例の無線操縦自動車玩具の走行性能が優れていることを示している。
【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る自動車玩具用シャーシとそれを備えた無線操縦自動車玩具は、無線による遠隔操縦を行わない自動車玩具に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)乃至(c)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る無線操縦自動車玩具用シャーシの平面図、側面図及び概略構造を示す斜視図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る無線操縦自動車玩具用シャーシの正面図及び背面図であり、(c)は図1(a)中に示したA―A又はB−Bについての断面図である。
【図3】(a)はフレームが変形した状態を表す概略構造図であり、(b)はフレームの変形が弾性回復した状態を表す概略構造図である。
【図4】図4(a)は無線操縦自動車玩具のコーナーリング時におけるシャーシの荷重バランスの一例を示す図であり、(b)及び(c)はそれぞれ従来技術及び本発明の実施の形態に係る無線操縦自動車玩具の静止時におけるシャーシの荷重バランスを示す図である。
【図5】(a)はシャーシのピッチ方向に対する剛性の測定方法を示す図であり、(b)はシャーシのロール方向に対するねじり変形の回復量の測定方法を示す図である。
【図6】はシャーシのピッチ方向に対する剛性の測定結果である。
【図7】(a)及び(b)はそれぞれダブルデッキ構造のシャーシを備えた走行体の概略構造を示す平面図及び側面図である。
【図8】(a)及び(b)はそれぞれシャフト駆動系及びベルト駆動系の概略構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…シャーシ 2…メインシャーシ 3…前輪 4…前構造体 5…後輪 6…後構造体 7…フレーム 8…サーボモータ 9…受信装置 10…モータ 11…スピードコントローラ 12…バッテリ 13a,13b…連結部 14…スパーギヤ 15…ピニオンギヤ 16a,16b,17a,17b…プーリ 18a,18b…ベルト 19a,19b…差動装置 20…回転伝達部材 21a,21b…回転軸 22a,22b…支持部 23a,23b…サスペンションアーム 24a〜24d…伝達部材 25,26…ステアリングアーム 27a,27b…転がり軸受け 28…スペーサ 29…ネジ 30…基準面 101…メインシャーシ 102…アッパーデッキ 103…バッテリ 104…前輪 105…後輪 106…モータ 107…受信機 108…サーボ 109…スピードコントローラ 110…ピニオンギヤ 111…シャフト 112…スパーギヤ 113…ベベルギヤ 114…リングギヤ 115a〜115c…プーリ 116a,116b…ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付け可能な前構造体及び後構造体と、前記メインシャーシ上面に垂設される略平板状のフレームとを備え、前記メインシャーシの形状は略左右対称であり、前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され、前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられることを特徴とする自動車玩具用シャーシ。
【請求項2】
前記フレームは両端部に前記前構造体及び前記後構造体をそれぞれ取り付けるための転がり軸受けを備え、この転がり軸受けのスラスト方向は前記メインシャーシの平板面に対して直交することを特徴とする請求項1記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項3】
前記メインシャーシ上面に搭載されるモータと、前記フレームの平板面に取り付けられて前記モータから回転駆動力を伝達される第1及び第2のプーリと、前記メインシャーシ上面の両端にそれぞれ配されて前記前輪及び前記後輪にそれぞれ回転駆動力を伝達する第3及び第4のプーリと、前記第1のプーリと前記第3のプーリに懸架される第1のベルトと、前記第2のプーリと前記第4のプーリに懸架される第2のベルトとを備え、前記モータ及び前記第1乃至第4のプーリはスラスト方向が前記フレームの平板面に対して直交するように配置され、前記モータの回転駆動力は前記第1のベルトにより前記第1のプーリから前記第3のプーリへ伝達され、前記第2のベルトにより前記第2のプーリから前記第4のプーリへ伝達されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項4】
前記フレームは合成樹脂材料で構成され、面外方向に対して弾性を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項5】
前記第1及び第2のベルトの長さは略同一であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項6】
バッテリ、モータ、受信機などが搭載された走行体と外形部分(ボディ)とで構成される無線操縦自動車玩具において、前記走行体は請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシに前輪及び後輪を備えたことを特徴とする無線操縦自動車玩具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−247211(P2006−247211A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69828(P2005−69828)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(503229535)
【Fターム(参考)】