説明

自動車用フロア構造

【課題】 機械的特性、耐熱性、耐薬品性、軽量化に優れたポリオレフィン系発泡成形体に、簡便で且つ経済的な製造方法にて発泡成形体に吸音性能を付与した自動車用フロア材を提供すること。
【解決手段】 厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体をフロア材3に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音性能を有した自動車用フロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界では、新車の開発期間を短縮し、開発費用の低減を図るため、異なった車種に対してフロアパネルを共有化することが図られており、この場合、座席面からフロア面までの距離が、車種毎に異なるため、フロアの高さレベルを調整することが要求され、そのために嵩上げ材が使用される。一般的に、嵩上げ材としては、軽量で比較的剛性のある発泡プラスチックが使用されている。発泡体を嵩上げ材として使用した例としては、特許文献1、2が挙げられる。
【0003】
一方、最近では、車内の静粛性が要求され、車内において多くの面積を占めるフロアにも吸音性を付与する、或いは、路面からのノイズを遮断することが求められている。
【0004】
発泡プラスチックを嵩上げ材に使用した例のうち、特許文献1には、耐熱性を付与した車両用フロアパッドが紹介されている。また、フロアパネルと発泡体との間に生ずるきしみ音の解消を図っているが、路面からの音を遮断する技術思想は開示されていない。また、特許文献2には、盲孔を形成し、吸音性能を付与した発泡プラスチックが使用されている。この事例では、金型の工夫或いは後加工により、発泡プラスチックに吸音性能付与のための盲孔を形成させる必要があり、金型が複雑になることでの費用増や後加工で吸音孔を設ける加工を施すなどの作業が必要となり、加工費増の課題があった。
【特許文献1】特開2000−225880号公報
【特許文献2】特開2004−338504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、ポリオレフィン系発泡成形体の機械的特性、耐熱性、軽量化を損なうことなく、簡便で経済的に製造可能なポリオレフィン系樹脂発泡粒子を用いて、吸音性能を付与した自動車用フロア構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン樹脂成形体を採用することで、強度と吸音性能を付与した自動車用フロア構造が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン樹脂成形体が、フロアパネル上に設置されることを特徴とする自動車用フロア構造に関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、
(1)フロアパネル上に吸音シート、厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン成形体、遮音カーペットが積層されてなることを特徴とする、
(2)フロアパネル上に吸音シート、厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン成形体、吸音カーペットが積層されてなることを特徴とする、
(3)厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン樹脂成形体が、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を金型に充填し、水蒸気により加熱して該発泡粒子を融着した後、冷却工程を経て得られる成形体であって、メルトインデックス(MI)が0.1g/10分以上7g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とし、L/Dが2以上3以下の柱状形状であり、セル径が30μm以上150μm以下、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下であるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用い、得られた成形体の空隙率が25%以上50%以下であることを特徴とする、
前記記載の自動車用フロア構造に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下のものを用いることで、ポリオレフィン系樹脂発泡成形体に吸音性能を付与することが可能となり、車外からの乗員室側に伝わる騒音を吸収することができるため、乗員室へノイズが伝わることを抑制できる。つまり、ノイズ・バイブレーション(以下、NVと称す場合がある)性能が高い自動車用フロア構造が得られる。さらに、NV性能を高めるために制振材との併用を行うことで、車外からのNVをより一層遮断し、且つ車輌構成部の隙間から車内に伝わってくる音を吸収することができ好適である。また、吸音カーペットとの併用の場合にも、より静粛性に寄与することができるため好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1、2に本発明の形態に係る自動車用フロア構造の例を示す。本発明に係る自動車用フロア構造は、板状のフロアパネル1上に空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン樹脂成形体(以下、フロア材)3を設置してなる。好ましい態様のひとつとしては、フロアパネル上に吸音シート、前記発泡ポリオレフィン成形体、遮音カーペットが積層されてなり、更には、図1に示すように、フロアパネル1の上に吸音シート2を配し、該吸音シートの上に前記発泡ポリオレフィン成形体からなるフロア材3を配し、さらに該フロア材の上に遮音カーペット4を配する。別の好ましい態様としては、フロアパネル上に吸音シート、前記発泡ポリオレフィン成形体、吸音カーペットが積層されてなり、更には、図2に示すように、フロアパネル1の上に吸音シート2を配し、該吸音シートの上に上記発泡ポリオレフィン成形体からなるフロア材3を配し、さらに該フロア材の上に吸音カーペット5を配する。
【0011】
吸音シート2としては、布、不織布、レジンフェルト、熱可塑フェルト、ニードルフェルト、ポリウレタン等の各種樹脂フォーム材が例示される。また、吸音シート2は、フロアパネル1と発泡ポリオレフィン成形体3との擦れ音を防止する効果も期待できる。遮音カーペットとしては、塩化ビニル樹脂等を裏打ちしたカットパイルカーペット、ループパイルカーペット、タフテッドカーペット等が例示される。車外からの透過音を本願発明の吸音性能を有するフロア材3で吸収すると共に、フロア材3で吸収できなかった雑音は、遮音カーペットで遮音し、乗員室内に侵入することを防止できる。また、遮音カーペットの替わりに吸音カーペット6を積層する構成とする場合には、車外からの透過音を本願発明の吸音性能を有するフロア材3で吸収すると共に、乗員室側に入った雑音も、吸音カーペット6で吸音され、乗員室への入出する音を吸収できるためにNV性能の低下を防止できる。
【0012】
本発明においては、フロアパネル、吸音シート、フロア材、吸音カーペット、遮音カーペットの間に、効果を損なわない範囲において、他の構成、例えば、接着シート、接着剤含まれていてもなんら差し支えない。
【0013】
本発明においては、厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下となるようなポリオレフィン系樹脂発泡体を使用する。より好ましくは8000N・s/m以上30000N・s/m以下である。本発明における空気流れ抵抗(R)とは、ISO 9053に準拠し、試料厚みを0.02mとした際に、流速0.0005(m/s)を供給した時に、試料前後の圧力差△P(N/m)より、得られるものであり、次式のように表される。
R=ΔP/0.0005 (1)
【0014】
空気流れ抵抗が大き過ぎても、小さすぎても最適な吸音効果は得られない。空気流れ抵抗値が大きすぎると、音が成形体中に侵入することができず、吸音効果が得られない。逆に、空気流れ抵抗が小さすぎると、成形体中を音が通過する際の粘性抵抗による熱エネルギー変換、あるいはヘルムホルツ効果による空気の共振を発生させることができず、吸音性能を発現することができない。
【0015】
次に、前記範囲の空気流れ抵抗値を有する発泡ポリオレフィン樹脂成形体について詳述する。
【0016】
本発明における発泡ポリオレフィン樹脂成形体を構成するポリオレフィン樹脂は、その単位としてオレフィンが使用されているものであれば、特に限定はなく、中でもプロピレンモノマー単位が50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上からなるポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂はプロピレンモノマー単位が50重量%以上からなる重合体であり、チーグラー型塩化チタン系触媒またはメタロセン触媒で重合された、立体規則性の高いものが好ましい。具体例としては、例えば、プロピレン単独共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、無水マレイン酸―プロピレンランダム共重合体、無水マレイン酸―プロピレンブロック共重合体、プロピレン−g−無水マレイン酸グラフト共重合体等が挙げられ、それぞれ単独あるいは混合して用いられる。特に、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体が好適に使用し得る。また、これらのポリプロピレン系樹脂は無架橋のものが好ましいが、架橋したものも使用できる。
【0017】
本発明に使用するポリプロピレン系樹脂は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16Kgで測定したメルトインデックス(以下、MI)が0.1g/10分以上7g/10分以下であることが好ましく、更に好ましくは2g/10分以上6g/10分以下である。MIが0.1g/10分未満では、発泡粒子を製造する際の発泡力が低く、高発泡倍率の発泡粒子を得るのが難しくなる傾向がある。また、発泡成形体としたときの発泡粒子間の融着強度を確保することが難しくなる場合がある。MIが7g/10分を超えると、発泡成形体としたときの空隙率を安定した値で制御することが難しくなる傾向にある。
【0018】
また、上記ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、融点は、好ましくは130〜168℃、更に好ましくは135〜160℃、特に好ましくは140〜155℃である。融点が140〜155℃の場合、成形性と機械的強度、耐熱性のバランスが取り易い傾向が強い。ここで、前記融点とは、示差走査熱量計によってポリプロピレン系樹脂1〜10mgを40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で冷却し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線における吸熱ピークのピーク温度をいう。
【0019】
本発明に用いる発泡粒子は、上記ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂として、L/Dが2以上3以下の柱状形状である。ここで、図4に示すように、Lは発泡粒子の最長部の長さ、L方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminであり、DはDmaxとDminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2 (2)
【0020】
L方向に垂直な断面形状は、円、楕円等の凹部のない閉じた曲線であり、DmaxおよびDminはL方向に沿って略一定の値をとる。柱状形状の発泡粒子の具体例としては、円柱形状、楕円柱形状が挙げられる。L/Dを2以上3以下とすることにより、成形のため金型に充填した際に、発泡粒子同士の適度な接触面積を保って、高い空隙を形成しやすい傾向にある。
【0021】
また、本発明に用いる発泡粒子は、セル径が30μm以上150μm以下であることが好ましく、更に好ましくは、50μm以上100μm以下である。セル径がこの範囲にあると、金型への充填の際に生じた空隙を保持して、発泡粒子間を強固に融着させ易い。
【0022】
更に、本発明に用いる発泡粒子は、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下、更に好ましくは0.4以上0.55以下である。β/(α+β)が0.35未満の場合、発泡成形体の空隙率を高くすることが困難となる傾向がある。これは、発泡粒子の二次発泡力が高くなるため、成形の際に空隙率が低下するためと思われる。β/(α+β)が0.75を超えると発泡粒子間の融着が困難となる傾向がある。
【0023】
ここで、発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線とは、発泡粒子1〜10mgを示差走査熱量計によって10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線のことである。図3に示す通り、得られたDSC曲線の極大点Aを通る直線とDSC曲線との低温側の接点をB、高温側の接点をCとする。線分ABとDSC曲線で囲まれた面積から低温側ピークの融解熱量α(J/g)、線分ACとDSC曲線で囲まれた面積から高温側ピークの融解熱量β(J/g)が算出される。
【0024】
上記要件を満たした発泡粒子を用いることにより空隙率25%以上50%以下の発泡成形体を容易に得ることができる。発泡成形体の空隙率は吸音特性と強く関係しており、空隙率は25%以上50%以下、更に好ましくは30%以上45%以下である。空隙率が25%未満となると、ピーク周波数における吸音率が低下し、十分な吸音特性が得られない場合がある。空隙率が50%を超えると、発泡粒子間の接触面積が低下して発泡成形体の割れが生じ易くなるばかりか、機械強度が低下して実用上の使用に耐えない場合がある。
【0025】
次に、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法について述べる。前記ポリプロピレン系樹脂は、既知の方法を用いて、例えば、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー(商標)、ロール等を用いて溶融して、柱状形状で、1粒の重量が0.2〜10mg、好ましくは0.5〜6mgの樹脂粒子に加工される。一般的には、押出機を用いて溶融し、ストランドカット法にて製造する。例えば、円形ダイスからストランド状に押出されたポリプロピレン系樹脂を水、空気等で冷却、固化させたものを切断して、所望の形状の樹脂粒子を得る。
【0026】
樹脂粒子から発泡粒子を製造する際の加熱処理により、樹脂粒子は残留歪の緩和を起こすため、延伸方向に収縮が発生する。従って、樹脂粒子製造に際しては、延伸方向の収縮を考慮に入れ、目的とするL/Dの発泡粒子が得られる樹脂粒子形状としておく必要がある。具体的には、目的とする発泡粒子のL/Dに対して、より大きなL/Dの樹脂粒子としておく必要がある。製造すべき樹脂粒子のL/Dは、使用するポリプロピレン系樹脂のMI、分子量分布、樹脂粒子製造の際の延伸度合い等によって異なり一概には規定できないが、概ね4〜9の範囲である。
【0027】
樹脂粒子製造の際、セル造核剤を添加することにより、発泡粒子のセル径を所望の値に調整する。セル造核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、硫酸バリウム等の無機系造核剤が一般に使用される。セル造核剤の添加量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、セル造核剤の種類により異なり一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、概ね0.001〜2重量部である。
【0028】
更に、樹脂粒子製造の際、必要により種々の添加剤を、ポリプロピレン系樹脂の特性を損なわない範囲内で添加することができる。添加剤としては、例えば、;カーボンブラック、有機顔料などの着色剤;アルキルジエタノールアミド、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルエタノールアミン、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライドなどのノニオン系界面活性剤からなる帯電防止剤;IRGANOX1010(商標)、IRGANOX1076(商標)、IRGANOX1330(商標)、IRGANOX1425WL(商標)、IRGANOX3114(商標)、ULTRANOX626(商標)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;IRGAFOS168(商標)、IRGAFOS P−EPQ(商標)、IRGAFOS126(商標)、WESTON619(商標)等のリン系加工安定剤;HP−136(商標)等のラクトン系加工安定剤;FS042(商標)等のヒドロキシルアミン系加工安定剤、IRGANOX MD1024(商標)等の金属不活性剤;TINUVIN326(商標)、TINUVIN327(商標)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;TINUVIN120(商標)等のベンゾエート系光安定剤;CHIMASSORB119(商標)、CHIMASSORB944(商標)、TINUVIN622(商標)、TINUVIN770(商標)等のヒンダードアミン系光安定剤;ハロゲン系難燃剤および三酸化アンチモン等の難燃助剤;FLAMESTAB NOR116(商標)、MELAPUR MC25(商標)等の非ハロゲン系難燃剤;ハイドロタルサイト、ステアリン酸カルシウム等の酸中和剤;IRGASTAB NA11(商標)等の結晶核剤;エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド等の滑剤などが例示される。
【0029】
本発明における発泡粒子の製造には、従来から知られている方法を利用できる。例えば、密閉容器内に、上記樹脂粒子、発泡剤、分散剤および分散助剤を含む水系分散媒を仕込み、攪拌しながら昇温して一定温度(以下、発泡温度という場合がある)として樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、必要に応じて発泡剤を追加添加して、密閉容器内を一定圧力(以下、発泡圧力という場合がある)に保持した後、密閉容器下部から内容物を密閉容器内圧より低圧雰囲気下に放出する方法により発泡粒子が製造される。使用する密閉容器には特に限定はなく、発泡粒子製造時における容器内圧力、容器内温度に耐えられるものであればよいが、例えばオートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0030】
前記発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン等の脂肪族炭化水素およびそれらの混合物;空気、窒素、二酸化炭素等の無機ガス;水などが挙げられる。より高発泡倍率の発泡粒子を得るためにはイソブタン、ノルマルブタンおよびそれらの混合物を発泡剤として用いるのが好ましい。低発泡倍率で、発泡倍率バラツキの小さい発泡粒子を得るためには水を発泡剤として用いるのが好ましい。
【0031】
水を発泡剤として用いる場合には、前記樹脂粒子を製造する際にナトリウムアイオノマー、カリウムアイオノマー、メラミン、イソシアヌル酸等の吸水剤を添加しておくことが好ましい。
【0032】
発泡剤の使用量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、目的とする発泡倍率等により異なり、一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、概ね2〜60重量部の範囲である。
【0033】
前記分散剤として、例えば、塩基性第三リン酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム等の難水溶性無機化合物、分散助剤としては例えばドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤が使用される。これらの中でも塩基性第三リン酸カルシウムと直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダの使用が良好な分散性を得る上で好ましい。これら分散剤及び分散助剤の使用量は、その種類や用いるポリプロピレン系樹脂の種類・量、発泡剤の種類などによって異なるが、通常、水100重量部に対して、分散剤0.1〜3重量部、分散助剤0.0001〜0.1重量部であることが好ましい。
【0034】
また、上記樹脂粒子の水中での分散性を良好なものにするために、通常、水100重量部に対して樹脂粒子20〜100重量部使用するのが好ましい。
【0035】
この様にして密閉容器内に調整されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物は、攪拌下、所定の発泡温度まで昇温され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持されるとともに、密閉容器内の圧力は上昇し、発泡剤が樹脂粒子に含浸される。この後、所定の発泡圧力になるまで発泡剤が追加供給され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持される。かくして、発泡温度、発泡圧力で保持されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物を、密閉容器下部に設けられたバルブを開放して低圧雰囲気下(通常は大気圧下)に放出することによりポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造することができる。
【0036】
樹脂粒子の水系分散物を低圧雰囲気に放出する際、流量調整、倍率バラツキ低減などの目的で2〜10mmφの開口オリフィスを通して放出することもできる。また、発泡倍率を高くする目的で、上記低圧雰囲気を飽和水蒸気で満たす場合もある。
【0037】
発泡温度は、用いるポリプロピレン系樹脂の融点[Tm(℃)]、発泡剤の種類等により異なり、一概には規定できないが、概ねTm−30(℃)〜Tm+10(℃)の範囲から決定される。また、発泡圧力は、用いるポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、所望の発泡粒子の発泡倍率によって異なり、一概には規定できないが、概ね1〜8MPa(ゲージ圧)の範囲から決定される。
【0038】
前記DSC曲線から算出される発泡粒子のβ/(α+β)の値は、発泡温度の調整により、調整することができる。発泡温度を高くするとβ/(α+β)は低くなり、発泡温度を低くするとβ/(α+β)は高くなる関係にある。但し、脂肪族炭化水素を発泡剤として用いた場合、可塑化効果によりポリプロピレン系樹脂の融点降下が生じるため、β/(α+β)の値は、発泡剤含浸量つまり発泡圧力の影響を受ける。よって、β/(α+β)の値は、発泡温度および発泡圧力を調整することにより、調整される。発泡圧力を高くするとβ/(α+β)は低くなり、発泡圧力を低くするとβ/(α+β)は高くなる関係にある。
【0039】
上記のようにして得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、従来から知られている成形方法により、空隙率が25〜50%のポリプロピレン系樹脂発泡成形体にすることができる。例えば、イ)発泡粒子を無機ガスで加圧処理して発泡粒子内に無機ガスを含浸させ所定の発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、ロ)発泡粒子をガス圧力で圧縮して金型に充填し、発泡粒子の回復力を利用して、水蒸気で加熱融着させる方法、ハ)特に前処理することなく発泡粒子を金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、などの方法が利用し得る。
【0040】
上記の成形方法の中でも、発泡粒子を無機ガスで加圧処理して発泡粒子内に無機ガスを含浸させ所定の発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法がより好ましく、該発泡粒子内圧を0.2kgf/cm・G以上0.7kgf/cm・G以下とするのが更に好ましい。発泡粒子内圧を0.2kgf/cm・G以上0.7kgf/cm・G以下とすることにより、空隙率のコントロールがより容易となり、空隙率25%以上50%以下の発泡成形体をより安定的に製造することができる。
【0041】
上記無機ガスとしては、空気、窒素、酸素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどが使用できる。これらは単独で用いても、2種以上混合使用してもよい。これらの中でも、汎用性の高い空気、窒素が好ましい。
【0042】
本発明では、成形の際に発泡粒子を水蒸気により加熱、融着させる。この際の水蒸気温度が低すぎると融着が不十分となり、発泡成形体としての形状を保持できない。逆に、水蒸気温度が高すぎると発泡成形体の空隙率が低くなり、吸音性能が悪化する傾向にある。発泡粒子間の融着性と空隙率を両立させるには、基材樹脂として用いたポリプロピレン系樹脂の融点をTm(℃)としたとき、温度がTm−25(℃)〜Tm(℃)の水蒸気で成形することが好ましく、更には温度がTm−20(℃)〜Tm−5(℃)の水蒸気で成形することがより好ましい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例にて更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
先ず、本願発明のポリプロピレン製の予備発泡粒子を作製するために、基材樹脂として、MI:4.5g/10分、融点:144℃、エチレン含量:2.8%、ブテン含量:1.3%を用い、セル造核剤としてタルク300ppmを添加して押出機内で溶融混練した後、円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断し、一粒の重量が1.8mg/粒、該円柱形状で、L/Dが6.3である樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子100重量部(65kg)、水200重量部、塩基性第三リン酸カルシウム0.5重量部、アルキルスルフォン酸ソーダ0.01重量部を容量0.35mの耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤としてイソブタンを16部添加した後、オートクレーブ内容物を135℃の発泡温度まで加熱した。その後、イソブタンを追加圧入して2.2MPaの発泡圧力まで昇圧し、該発泡温度、発泡圧力で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.4mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。得られた発泡粒子は、L/D:2.2、セル径:103μm、β/(α+β):0.60、嵩密度:30kg/mであった。ここで得られたポリプロピレン系予備発泡粒子に空気加圧処理により空気を予備発泡粒子内に圧入し、最終的には予備発泡粒子内圧力は絶対圧力で0.14MPaであった。
【0045】
次に成形に関し説明する。金型は0.9×0.9×0.05mのブロック形状のものを用いた。まず、クラッキングを0.005mに設定し、金型を僅かに開いた状態で予備発泡粒子を金型内に充填した。加熱は排気工程5秒(固定、移動のドレン弁を開いた状態)で行い、一方加熱10秒、逆一方加熱5秒、両面加熱20秒(蒸気圧力0.18MPa)で加熱工程を完了し、予冷5秒(ドレン弁を閉じた状態で冷却)、水冷30秒を行った後、製品を離型した。続いて、大気放置での放冷を1時間行った後、75℃の乾燥室に24時間放置、乾燥室から取り出して常温化での3時間放冷を経て、以下の空隙率、空気流れ抵抗、吸音率、あるいは静的圧縮特性の性能評価を行った。乾燥後の発泡体密度は34kg/mであった。
【0046】
それぞれの測定方法について以下に記す。
【0047】
(空隙率)
得られた概寸法0.9×0.9×0.05mの発泡成形体から0.02×0.02×0.040mの直方体試料を、表面スキン層を含まないように切り出し、外形寸法より見掛け体積V(m)を求めた。更に、直方体試料を一定量のエタノールを入れたメスシリンダー中に浸漬し、その時の増加容積V(m)を測定し、次式により求めた。
空隙率(%)=(V−V)/V × 100 (3)
【0048】
(流れ抵抗)
ISO 9053に準拠し流れ抵抗の測定を行った。流速v(m/s)、0.0005m/sを供給した時に、試料前後の圧力差△P(N/m)より、試料の所定厚さにおける流れ抵抗R(N・s/m)は式1により算出される。特に、ここでの流れ抵抗の定義は、試料厚みが0.02mとした時のものとした。
【0049】
(垂直入射式吸音測定)
JIS A1405に準拠し、試料厚み0.03mで500〜6400Hzでの垂直入射吸音率を測定した。試料は得られた発泡体より、表面スキン層を有する面が音波入射面となるように、厚み0.03mで切り出した。測定は、音波を反射する剛体壁と試料が密着した状態、つまり背後空気が無い状態でおこなった。測定には小野測器社製の垂直入射吸音率測定装置SR−4100を用いた。
【0050】
(残響室による吸音測定)
残響室による測定は、JIS A1409に従い、9mの残響室(日東紡音響エンジニアリング製)にて行った。試料は発泡体0.9×0.9×0.05mを0.7×0.7×0.03mにスライス加工した。残響室内での試料の設置は、試料の側面からの音の侵入を防止するために金属製の治具を周囲に取り付け、スキン面を上側(吸音面)に、スライス面を下側(床面)となるように設置し、周波数500〜5000Hzの範囲で測定した。また、通気性を有する繊維質との組合せの吸音測定は、スキン面を上側にした試料の上側に通気性を有する繊維質を積層した状態での吸音測定を行った。
【0051】
(実施例2)
実施例1とまったく同様の操作にてポリプロピレン系樹脂発泡体を成形、吸音測定用の試料0.7×0.7×0.03mを作成した。この発泡成形品の上部に吸音特性を有する樹脂カーペットを積層し、残響室での吸音測定を行った。
【0052】
(比較例1)
セル造核剤としてタルク100ppmを添加した以外は実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。成形に用いた発泡粒子は、L/Dが1.0、セル径が220μm、β/(α+β)が0.26のポリプロピレン系予備発泡粒子であった。ここで得られたポリプロピレン系予備発泡粒子に空気加圧処理により空気を予備発泡粒子内に圧入し、絶対圧力で0.2MPaとした。実施例と同じ金型を用いて成形した結果、該発泡粒子は従来から一般的に用いられている発泡粒子の特性を有しており、発泡粒子間に空隙のない発泡成形体が得られた。成形条件は、クラッキングを5mmに設定し金型が僅かに開いた状態で原料を充填した。加熱は排気工程5秒(固定、移動のドレン弁を開いた状態)で行い、一方加熱10秒、逆一方加熱5秒、両面加熱20秒(蒸気圧力0.32MPa)で加熱工程を完了し、予冷10秒(ドレン弁を閉じた状態で冷却)、水冷180秒を行った後、製品を離型した。これ以降の乾燥工程は実施例1と同様の操作を行うとともに、同様の物性測定を行った。乾燥後の発泡体密度は30kg/mであった。
【0053】
本発明の実施例並びに比較例の性能について説明する。
【0054】
実施例1の試料の空隙率は28%、厚み0.02mの空気流れ抵抗値は12000N・s/mであった。比較例1の試料は空隙率0%で、通気性がないため空気流れ抵抗の測定は行えなかった。
先ず、吸音特性の比較を行った。実施例並びに比較例の垂直入射式測定による吸音曲線の比較(図5)では、実施例1は適切な空隙率及び空気流れ抵抗を有したため、最高吸音率0.97(周波数1650Hz)の良好な吸音曲線を示すのに対し、比較例1では連通した空隙がないため測定前周波数域で最高吸音率0.1以下であり、吸音性能を示さなかった。残響室測定方法による吸音測定結果からも、垂直入射式測定と同様傾向を示す結果が得られている(図6)。
【0055】
さらに、実車の状態に近づけるために、図の吸音性能を有する樹脂カーペットと本発明品を積層した状態での残響室吸音測定を行った。この結果(図7)、本願発明の吸音性能に樹脂カーペットを積層することで、単体での吸音性能の和の吸音性能が発現し、格段に吸音性能が向上した。特に、本発明に樹脂カーペットが有する高周波数域の吸音特性が加わり、幅広い周波数域での吸音性能が得られている。このように、本発明は単体であっても良好な吸音性能を示すことは勿論、フェルトと併用することで、より吸音性能を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る自動車用フロア構造を示した図である。
【図2】本発明の別の好ましい実施の形態に係る自動車用フロア構造を示した図である。
【図3】示差走査熱量計を用い、本発明記載の熱可塑性樹脂予備発泡粒子を測定した際に得られるDSC曲線の一例である。横軸は温度、縦軸は吸熱量である。低温側がα、高温側がβである。
【図4】本発明に使用する熱可塑性樹脂予備発泡粒子のL/Dの定義について示した図である。
【図5】垂直入射式測定による吸音データを示した図である。
【図6】残響室による吸音測定データを示した図である。
【図7】吸音カーペットと本発明を積層した場合の吸音データ(残響室測定)を示した図である。
【符号の説明】
【0057】
1 フロアパネル
2 吸音シート
3 フロア材本体(発泡ポリオレフィン成形体)
4 遮音カーペット
6 吸音カーペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン樹脂成形体が、フロアパネル上に設置されることを特徴とする自動車用フロア構造。
【請求項2】
フロアパネル上に吸音シート、厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン成形体、遮音カーペットが積層されてなることを特徴とする請求項1記載の自動車用フロア構造。
【請求項3】
フロアパネル上に吸音シート、厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン成形体、吸音カーペットが積層されてなることを特徴とする請求項1または2記載の自動車用フロア構造。
【請求項4】
厚み0.02mで測定したときの空気流れ抵抗値が3000N・s/mより大きく50000N・s/m以下である発泡ポリオレフィン樹脂成形体が、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を金型に充填し、水蒸気により加熱して該発泡粒子を融着した後、冷却工程を経て得られる成形体であって、メルトインデックス(MI)が0.1g/10分以上7g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とし、L/Dが2以上3以下の柱状形状であり、セル径が30μm以上150μm以下、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下であるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用い、得られた成形体の空隙率が25%以上50%以下であることを特徴とする請求項1〜3何れか一項に記載の自動車用フロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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